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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】分析デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240614BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240614BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/531 B
G01N33/543 545A
G01N33/545 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019134763
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021018177
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-07-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月30日に、化学とマイクロ・ナノシステム学会 第38回研究会の講演要旨集にて発表。 〔刊行物等〕平成30年10月31日に、化学とマイクロ・ナノシステム学会 第38回研究会にて発表。 〔刊行物等〕令和元年6月19日に「The Royal Society of Chemistry 2019,DOI:10.1039/c9an00480g」にて発表。
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】小野島 大介
(72)【発明者】
【氏名】笠間 敏博
(72)【発明者】
【氏名】湯川 博
(72)【発明者】
【氏名】馬場 嘉信
(72)【発明者】
【氏名】石川 広弥
(72)【発明者】
【氏名】與語 直之
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-506530(JP,A)
【文献】特開2019-100714(JP,A)
【文献】特許第4717081(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/152702(WO,A1)
【文献】特開2004-333255(JP,A)
【文献】IKAMI M et al.,IMMUNO-PILLAR CHIP: A NEW PLATFORM FOR RAPID AND EASY-TO-USE IMMUNOASSAY,Lab on a Chip,2010年,Vol.10,Page.3335-3340
【文献】寺澤薫,ゲノム創薬・疾患診断を実現する新世代マイクロアレイ 新世代のフォーカストアレイ「GENOPAL(ジェノパール)」,バイオテクノロジージャーナル,2007年,Vol.7 No.3,Page.326-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロデバイスと洗浄液と検出用試薬とを含むマイクロデバイスキットであって、
前記マイクロデバイスは、基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられ、
個々の流路内に光硬化した親水性樹脂に架橋により保持された特異的結合試薬又は検体を含む微小構造物が設けられ、
前記洗浄液は、使用時界面活性剤濃度が1%(v/v)以上20%(v/v)以下であることを特徴とするマイクロデバイスキット。
【請求項2】
前記微小構造物の幅が1μm以上40μm未満である請求項1記載のマイクロデバイスキット。
【請求項3】
前記界面活性剤が、
TritonX-100、Tween20、Briji 35、Nonidet P-40、SDS、又はCHAPSであることを特徴とする請求項1、又は2記載のマイクロデバイスキット。
【請求項4】
前記特異的結合試薬が、抗体、抗原、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチンのいずれか1つ以上である請求項1~3いずれか1項記載のマイクロデバイスキット。
【請求項5】
前記特異的結合試薬はストレプトアビジン、又はアビジンであることを特徴とする請求項4記載のマイクロデバイスキット。
【請求項6】
前記検出用試薬が
蛍光標識抗体、又は酵素標識抗体であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載のマイクロデバイスキット。
【請求項7】
前記検出用試薬が酵素標識抗体であって、
さらに酵素基質を含むことを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載のマイクロデバイスキット。
【請求項8】
基板と光硬化性親水性樹脂と洗浄液と検出用試薬を含むマイクロデバイスキットであって、
基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられ
前記洗浄液は、使用時界面活性剤濃度が1%(v/v)以上20%(v/v)以下であることを特徴とするマイクロデバイスキット。
【請求項9】
前記界面活性剤が、
TritonX-100、Tween20、Briji 35、Nonidet P-40、SDS、又はCHAPSであることを特徴とする請求項8記載のマイクロデバイスキット。
【請求項10】
前記検出用試薬が
蛍光標識抗体、又は酵素標識抗体であることを特徴とする請求項8又は9記載のマイクロデバイスキット。
【請求項11】
前記検出用試薬が酵素標識抗体であって、
さらに酵素基質を含むことを特徴とする請求項8~10いずれか1項記載のマイクロデバイスキット。
【請求項12】
マイクロデバイスの洗浄液であって、
界面活性剤と緩衝液を含み、
前記界面活性剤はTween20、又はCHAPSであり、
前記界面活性剤としてTween20を使用するときは使用時の濃度が1%以上20%以下で使用し、
CHAPSを使用するときは使用時の濃度が5%以上12.5%以下で使用することを特徴とするマイクロデバイス洗浄液。
【請求項13】
イクロデバイスを用いた検査方法であって、
前記マイクロデバイスは基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられたマイクロデバイスであって、
個々の流路内には、
光硬化した親水性樹脂中に混合された特異的結合試薬又は検体が架橋により保持された微小構造物が設けられ、
前記微小構造物の幅が1μm以上40μm未満であるマイクロデバイスであり、
前記マイクロデバイスの流路に検体を満たし、
マイクロデバイス洗浄液を用いて洗浄し、
前記マイクロデバイス洗浄液は界面活性剤と緩衝液を含み、前記界面活性剤は1%以上20%以下の濃度で使用するものであり、
酵素標識抗体を含む検出用試薬と反応させ、
前記マイクロデバイス洗浄液を用いて洗浄し、
酵素基質を含む試薬を流路に満たし発色させることによって検出を行う工程を含む検査方法。
【請求項14】
マイクロデバイスを用いた検査方法であって、
基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられたマイクロデバイスを用意し、
個々の流路内に検出対象捕捉物質と光硬化性親水性樹脂を混合し、
光架橋により前記検出対象捕捉物質が保持された幅が1μm以上40μm未満である微小構造物を作製し、
未硬化樹脂を洗浄し、
検体を前記流路に満たし前記検出対象補足物質と反応させ、
面活性剤と緩衝液を含み、前記界面活性剤が1%以上20%以下の濃度で使用するマイクロデバイス洗浄液で洗浄し、
検出用試薬と反応させ、
前記マイクロデバイス洗浄液で洗浄し、
酵素基質を含む試薬を流路に満たし発色させることによって検出を行う工程を含む検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異的結合を利用した高感度な検査デバイス、及び検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
日本では二人に一人ががんに罹患すると言われている。がんは遺伝子の変異によって生じる疾患であることから、変異した分子を標的とした分子標的薬の開発がさかんに行われ、実用化されている。分子標的薬は、がん細胞の増殖や転移の原因となる変異が生じたタンパク質を狙い撃ちすることから、がん細胞に特異的に作用する。分子標的薬は、増殖の盛んな細胞に作用する従来の抗がん剤に比べて、副作用が少なく、患者の負担が小さいという利点がある。
【0003】
しかし、分子標的薬がターゲットとする特定の遺伝子変異がない場合には効果を奏しないので、治療の前に遺伝子変異の有無を確認することが必須となる。例えば、肺がんの場合、日本人では45%程度の割合でEGFR(epidermal growth factor receptor:上皮成長因子レセプター)に変異があると言われている。EGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害剤)であるゲフェチニブ、エルロチニブは、EGFR変異に起因する肺がんには著効を奏するが、他の遺伝子変異に起因する肺がんには効果がない。そのため、化学療法を始める前には、EGFR変異を有するか否かを解析することが望ましい。
【0004】
また、化学療法を続けていると、EGFR変異体にT790Mなどの二次的な変異が生じることが知られている。T790M変異には、第3世代のEGFR-TKIであるオシメルチニブが効果を奏することが知られている。したがって、オシメルチニブによる治療を行う前に、薬剤抵抗性がT790M変異に起因するものであるか解析する必要がある。このように、分子標的薬を使用する場合には、標的とする分子が疾患の原因となっているかを確認する必要がある。
【0005】
肺がんに限らず、分子標的薬が適用できるかを判断するためには、標的となる分子に遺伝子変異が生じているか検査する必要がある。遺伝子変異を調べる方法としては、抗体などを用いて変異を有するタンパク質を検出する方法やDNA配列を解析する方法がある。
【0006】
抗原抗体反応を利用した免疫アッセイは従来から臨床検査で用いられてきた方法であり、病院で行うことができる検査キットも数多く販売されている。免疫アッセイには種々の方法があるが、用いる検体量や試薬の量が少なくてもすむことや、アッセイに要する時間を短縮することができることから、いわゆる96穴プレートのようなプレートアッセイに代えて、反応系の容量が少ないマイクロデバイスを用いたアッセイが開発されてきた。
【0007】
特に、分子標的薬などの化学療法を行うのは、一般に外科手術が適用にならないケースであり、手術検体を用いることができない場合が多い。その場合、検査に用いる細胞は、血液循環腫瘍細胞(Circulating tumor cells:CTC)や、腹水、胸水、気管支肺洗浄液などに存在する細胞であることから、ごくわずかしか集めることができない。そのため、検体量が少なくてもアッセイを行うことができるマイクロデバイスを使用することが好ましい。
【0008】
また、流路を用いたマイクロデバイスは、アッセイに要する時間が短縮されることから、病院において短時間で結果を出す必要がある検査に有用である。本発明者らのグループも、光硬化した親水性樹脂中に抗体を固相化したビーズを均質に分散保持させたピラー状の構造物を流路に配置した免疫分析用マイクロ流体デバイスを開示している(特許文献1、2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4717081号公報
【文献】国際公開第2016/152702号
【文献】特公昭55-40号公報
【文献】特公昭55-20676号公報
【文献】特公昭62-19837号公報
【文献】特開2009-48833号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Ikami M., et al., Lab on a Chip, 2010, Vol.10, pp.3335-3340
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述のように少ない細胞を用いてアッセイを行うことから、従来の方法では感度が低く、結果を得られないことがあった。そのため、より高感度に検出することができるアッセイ系が求められていた。
【0012】
例えば、EGFRの二次的な変異を検査する場合は、胸水を用いることが多い。しかし、胸水を用いて検査が可能な患者は全体の2割以下だと言われている。そのため、胸水を用いた遺伝子変異の検査ができない患者が多かった。一方、気管支洗浄液であれば、全ての患者においてEGFR変異の検査を行うことが可能となる。しかしながら、気管支洗浄液に含まれるタンパク質は非常に少なく、総タンパク質濃度で胸水の1/1000以下と言われている。したがって、胸水を用いた検査と同程度の感度を得るためには、1000倍以上の感度が求められる。本発明は、臨床における種々の場面に対応可能な感度の高いアッセイ系を構築することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下のマイクロデバイス、マイクロデバイス洗浄液、キット、及び検査方法に関する。
(1)基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられたマイクロデバイスにおいて、個々の流路内に光硬化した親水性樹脂に架橋により保持された特異的結合試薬又は検体を含む微小構造物と、使用時界面活性剤濃度が1%(v/v)以上20%(v/v)以下である洗浄液と検出用試薬を含むマイクロデバイスキット。
(2)前記微小構造物の幅が1μm以上40μm未満である(1)記載のマイクロデバイスキット。
(3)前記界面活性剤が、TritonX-100、Tween20、Briji 35、Nonidet P-40、SDS、又はCHAPSであることを特徴とする(1)、又は(2)記載のマイクロデバイスキット。
(4)前記特異的結合試薬が、抗体、抗原、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチンのいずれか1つ以上である(1)~(3)いずれか1つ記載のマイクロデバイスキット。
(5)前記特異的結合試薬はストレプトアビジン、又はアビジンであることを特徴とする(4)記載のマイクロデバイスキット。
(6)前記検出用試薬が蛍光標識抗体、又は酵素標識抗体であることを特徴とする(1)~(5)いずれか1つ記載のマイクロデバイスキット。
(7)前記検出用試薬が酵素標識抗体であって、さらに酵素基質を含むことを特徴とする(1)~(6)いずれか1つ記載のマイクロデバイスキット。
(8)基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられたマイクロデバイスにおいて、光硬化性親水性樹脂と、使用時界面活性剤濃度が1%(v/v)以上20%(v/v)以下である洗浄液と検出用試薬を含むマイクロデバイスキット。
(9)前記界面活性剤が、TritonX-100、Tween20、Briji 35、Nonidet P-40、SDS、又はCHAPSであることを特徴とする(8)記載のマイクロデバイスキット。
(10)前記検出用試薬が蛍光標識抗体、又は酵素標識抗体であることを特徴とする(8)又は(9)記載のマイクロデバイスキット。
(11)前記検出用試薬が酵素標識抗体であって、さらに酵素基質を含むことを特徴とする(8)~(10)いずれか1つ記載のマイクロデバイスキット。
(12)マイクロデバイスの洗浄液であって、界面活性剤と緩衝液を含み、前記界面活性剤の使用時の濃度が1%以上20%以下であることを特徴とするマイクロデバイス洗浄液。
(13)前記界面活性剤が、TritonX-100、Tween20、Briji 35、Nonidet P-40、SDS、又はCHAPSであることを特徴とする(12)記載のマイクロデバイス洗浄液。
(14)基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられたマイクロデバイスにおいて、個々の流路内には、光硬化した親水性樹脂中に混合された特異的結合試薬又は検体が架橋により保持された微小構造物が設けられ、前記微小構造物の幅が1μm以上40μm未満であるマイクロデバイス。
(15)前記基板の流路内に支持体を備え、前記微小構造物が支持体の側面に1μm以上40μm未満の幅で設けられている(14)記載のマイクロデバイス。
(16)各流路内の前記微小構造物に固定された前記特異的結合試薬が、抗体、抗原、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチンのいずれか1つである(14)、又は(15)記載のマイクロデバイス。
(17)前記特異的結合試薬はストレプトアビジン、又はアビジンであることを特徴とする(16)記載のマイクロデバイス。
(18)(14)~(17)のいずれか1つ記載のマイクロデバイスを用いた検査方法であって、前記マイクロデバイスの流路に検体を満たし、(12)、又は(13)記載のマイクロデバイス洗浄液を用いて洗浄し、酵素標識抗体を含む検出用試薬と反応させ、(12)、又は(13)記載のマイクロデバイス洗浄液を用いて洗浄し、酵素基質を含む試薬を流路に満たし発色させることによって検出を行う工程を含む検査方法。
(19)マイクロデバイスを用いた検査方法であって、基板に少なくとも1つ以上の流路が設けられたマイクロデバイスを用意し、個々の流路内に検出対象捕捉物質と光硬化性親水性樹脂を混合し、光架橋により前記検出対象捕捉物質が保持された幅が1μm以上40μm未満である微小構造物を作製し、未硬化樹脂を洗浄し、検体を前記流路に満たし前記検出対象補足物質と反応させ、マイクロデバイス洗浄液で洗浄し、検出用試薬と反応させ、マイクロデバイス洗浄液で洗浄し、酵素基質を含む試薬を流路に満たし発色させることによって検出を行う工程を含む検査方法。
(20)前記マイクロデバイス洗浄液が(12)、又は(13)に記載のマイクロデバイス洗浄液であることを特徴とする(19)記載の検査方法。
【0014】
本発明のマイクロデバイスは、少ない検体、試薬を用いて短時間でアッセイができるというマイクロデバイスの長所を活かし、かつより高感度に検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】マイクロデバイスの実施態様を示す図。
図2】(A)蛍光標識抗体を用いて検出限界を検討した図。(B)酵素標識を用いて、蛍光標識抗体の検出限界と同濃度の抗原の検出を検討した図。
図3】マイクロデバイスの微小構造物の形状を検討した結果を示す図。(A)は幅20μmの微小構造物、(B)は幅40μmの微小構造物を用いて検出感度を検討した結果を示す図。
図4】マイクロデバイスの別の実施態様を示す図。(A)はマイクロデバイス流路部分の斜視図、(B)、及び(C)は支持体を備えたマイクロデバイスの上面図、及び側面図。
図5】高濃度の界面活性剤を含有する洗浄液を用いて検出感度を検討した結果を示す図。
図6】異なる界面活性剤を用いて洗浄効果を検討した結果を示す図。(A)はTritonX-100、(B)はCHAPSの濃度を変えて検出感度を検討した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、免疫アッセイ系において高感度に対象を検出できる系として知られているビオチンアビジン系、酵素標識法を組合せ、高感度の検出系の構築を目指していた。しかしながら、感度を増幅した際に生じる非特異的な反応によりバックグラウンドが高く、感度、特異度良く検出することができなかった。高いバックグラウンドが生じる原因を検討した結果、洗浄工程に問題があることが明らかとなったため、洗浄液、洗浄工程を工夫した。また、マイクロデバイスに配置する微小構造物の形状自体を工夫することによって、より高感度に検出できることを見出した。これらの工夫の結果、従来の蛍光標識の検出限界から100万倍の感度向上を達成することができた。
【0017】
実施例では、抗体を用いた免疫アッセイのデバイスを中心に説明するが、特異的に結合する分子であればどのようなものを用いてもよい。例えば、本発明のマイクロデバイスは、抗体、抗原、アプタマー、DNA、RNA、細胞溶解液など、検出目的の物質に特異的に結合するものであればどのようなものを検出対象捕捉物質として固相化してもよい。抗体は、抗体分子そのものを用いてもよいし、Fab、Fabのように、抗原と特異的に結合する領域のみを用いてもよい。抗原は、抗原分子全体として用いてもよいし、エピトープ領域のみを含む構成としてもよい。
【0018】
また、抗体をデバイスに結合させるために、プロテインA、プロテインG等、抗体と特異的に結合する試薬を特異的結合試薬として固相化してもよい。さらに、アビジンやストレプトアビジンをデバイスに固相化し、検出対象に特異的に結合する抗体等の分子をビオチン化してデバイスに固相化することも可能である。
【0019】
特に、ビオチンアビジン結合を用いた系は、マイクロデバイスにアビジン、あるいはストレプトアビジンを固相化すれば、直接抗体を樹脂に結合させた場合に比べて、より高感度な検出を行うことができることから好ましい。また、ビオチン化した一次抗体を使用すればよいことから、対象毎に抗体を樹脂に結合させる必要がなく、簡便に測定を行うことが可能となる。例えば、ストレプトアビジンを固相化した場合には、ビオチン化された検出対象に対する抗体等がストレプトアビジンと結合し、検出対象を補足する物質として機能する。
【0020】
本発明のデバイスを用いて分析することのできる検体としては、被験物質を含む可能性のあるものであればどのようなものを用いてもよい。例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液のような体液や、胸水、腹水など疾患に伴う体液、気管支洗浄液、肺胞洗浄液などの器官洗浄液、細胞、組織や擦過検体を生理的食塩水や緩衝液のような溶媒によって抽出した抽出液を用いることができる。全血、唾液、組織の抽出物のように血球や固形物を含むサンプルの場合には、流路の入り口にプレフィルターを設けて濾過できる構成としてもよい。また、微細な細胞片、細胞膜であれば、濾過せずそのまま用いて結合を確認することも可能である。
【0021】
また、検体をデバイスに固相化して用いることも可能である。固相化する検体としては、どのようなものを用いてもよいが、感度の点から濃縮することができるものを選択することが好ましい。例えば、細胞、細胞塊、細胞膜、オルガネラ、エクソソームなどを挙げることができる。検体を直接固相化することによって、検体中の複数の検出対象を解析する場合などに非常に有用である。例えば、細胞を樹脂と混ぜて硬化し、樹脂の中に閉じ込め、抗体と反応させることにより、細胞にどのような膜タンパク質が存在するか複数の抗体を用いて解析することができる。例えば、化学療法後のEGFR変異の検出など、膜タンパク質に複数の変異が生じている可能性がある場合、あるいは、研究目的で種々の膜タンパク質の発現を解析する場合などに非常に有効なツールとなり得る。また、同一の抗原を認識する複数の抗体を固相化したデバイスを作製して検出感度の良い抗体を選択したり、サンドイッチアッセイに用いる抗体の組合せを得るなど、デバイス作製に有用な情報を得ることができる。
【0022】
検出は感度が高いことから、蛍光標識、あるいは蛍光を生じる酵素基質を用いて、蛍光検出器により検出することが好ましい。検出する蛍光はどのような波長でもよいが、基板や樹脂の自家蛍光と波長が重ならないことが望ましい。有機化合物タイプの蛍光標識としては、Dylight650(商標)等の励起波長が600nm付近のものが、基板の自家蛍光と波長が重ならないため、バックグラウンドを低く抑えることができる。また、無機化合物タイプの蛍光標識も利用することができ、例えば量子ドットは蛍光寿命が非常に長いため、観察に便利である。さらに、タンパク質などの生体分子タイプの蛍光標識も利用できる。
【0023】
本発明で用いる光硬化性樹脂としては、親水性光硬化性樹脂であればどのようなものを用いてもよい。例えば、アジド系感光基を有するものや、1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有するものなどを用いることができる。1分子中に少なくとも2個のエチレン性不飽和結合を有する水溶性光硬化性樹脂は、一般に、300~30000、好ましくは500~20000の範囲内の数平均分子量を有し、水性媒体中に均一に分散する十分なイオン性または非イオン性の親水性基、例えば水酸基、アミノ基、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、エーテル結合などを含み、かつ波長が約250~約600nmの範囲内の光を照射したとき、硬化して水に不溶性の樹脂に変わるものが好適に使用される(特許文献2~6参照)。
【0024】
また、親水性光硬化性樹脂には必要に応じて、光重合開始剤を含ませる。この光重合開始剤は、重合開始種となって重合性不飽和基を有する樹脂間に架橋反応を起こさせるものであり、例えば、ベンゾインなどのα-カルボニル類、ベンゾインエチルエーテルなどのアシロインエーテル類、ナフトールなどの多環芳香族化合物類、メチルベンゾインなどのα-置換アシロイン類、2-シアノ-2-ブチルアゾホルムアミドなどのアゾアミド化合物などを挙げることができる。この場合、親水性光硬化性樹脂と光重合開始剤との使用割合は厳密に制限されるものではなく、各成分の種類などに応じて広範囲にわたって変えることができる。一般的には、親水性光硬化性樹脂100質量部に対し、光重合開始剤は0.1~5質量部、好ましくは0.3~3質量部の割合で使用するのが適当である。
【0025】
本発明では、光硬化性樹脂としてAWP(Azide-unit Pendant Water-soluble Photopolymer)を用いているが、アミノ基を架橋することができる樹脂であれば好適に用いることができる。以下、光硬化性樹脂としてAWPを用いる場合について詳述するが、AWPを用いる場合は、特異的結合試薬又は検体との体積比33~100%で用いることができる。樹脂濃度が高い方が洗浄時に流失しにくい構造物を作ることができるが、デバイスの感度が低下する。特異的結合試薬の対象に対する親和性によって、最適なAWP濃度を選択すればよい。また、特異的結合試薬として抗体やストレプトアビジンを用いる場合には、濃度1μg/mL~10mg/mLで樹脂と混合すればよい。抗体やストレプトアビジンの濃度が高いほど、検出感度の高いデバイスを作成できる。抗体濃度は抗体の親和性や、検出感度によって適宜選択すればよい。また、通常、抗体やストレプトアビジンとAWPは、体積比2:1で混合すればよいが、混合割合も用いる抗体や検出対象に対する感度に応じて適宜選択することができる。
【0026】
光硬化は波長310nm付近において照射強度が20mW/cm程度の紫外線照射装置であればどのようなものを用いても良く、1秒~3分で硬化を行う。硬化の時間はAWP、特異的結合試薬や検体の濃度に依存する。AWP濃度が高いほど短時間で硬化する。また、樹脂の硬化は、位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡を用いて確認することができる。特異的結合試薬や検体を混合した光硬化性樹脂の構造物の形状は、円柱状のピラー状、直方体のウォール状など、フォトマスクの形状によってどのような形にしてもよい。
【0027】
基板は、どのようなものを用いてもよいが、光硬化性樹脂を用いることから、光透過率が高いものが好ましい。また、蛍光標識などを光学的測定により検出する場合には、透明度の高い材質や、検出波長付近に自家蛍光を発することのない材質が適している。中でも、環状オレフィンポリマー基板や環状オレフィンコポリマー基板が、射出成型による加工精度が高く、微細加工によりマイクロ流路を作製するのに適している。また、基板には少なくとも一つ以上のマイクロ流路が設けられていればよい。
【0028】
一般的に、マイクロデバイス、プレートアッセイを問わず、免疫アッセイに用いる洗浄液は、中性付近にpHを合わせた緩衝液に、界面活性剤、場合によっては、非特異的吸着を防止するためのタンパク質を混合して用いることが多い。
【0029】
緩衝液としては、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液、PBS(Phosphate buffered saline)、TBS(Tris buffered saline)などの緩衝液を用いることができる。界面活性剤としては、TritonX-100、Tween20、Briji 35、Nonidet P-40、SDS、CHAPSなどを用いることができる。
【0030】
また、抗体などのタンパク質をデバイスに固定する場合には、非特異吸着を防止するために、BSA(ウシ血清アルブミン)、スキムミルク、ウシ血清、アルブミンなどをブロッキング剤として低濃度で加え、非特異吸着を防止してもよい。
【0031】
本発明者らは、界面活性剤の種類にかかわらず、その濃度が感度増強に重要であることを明らかにしたが、緩衝液等については一般的に用いられている上述の緩衝液を適宜用いることができる。また、BSAなど非特異吸着を防止するためのタンパク質も必要に応じて適宜洗浄液に加えてもよい。
【0032】
以下、実施例を示しながら詳細に説明する。
[実施例1] マイクロデバイスの作製
マイクロデバイスは以下のようにして作製する。基板1には、流路2とインレット、及びアウトレットが形成されている。ここでは、環状オレフィンポリマー製基板(住友ベークライト株式会社製)を用いてデバイスを作製した。流路の長さ、幅、深さはそれぞれ7mm、1mm、40μmである。光硬化性樹脂と特異的結合試薬又は検体を混合し、デバイスの流路に満たし、所望の箇所のみ光が透過するようにデザインされたフォトマスクでデバイスを覆い、紫外線を照射し特異的結合試薬が混合されている樹脂を光硬化させ、微小構造物3を形成する。ここでは、長方形の開口部のあるフォトマスクを用いて、直方体の微小構造物を形成させている。光硬化の後、未硬化樹脂を吸い出し、洗浄液によって洗浄する。
【0033】
具体的には、感光性樹脂Biosurfine-AWP-MRH(6%aq)(東洋合成工業株式会社)と、ストレプトアビジン(組み換えストレプトアビジン、ProSpec)を10mg/mLの濃度で溶解したPBS溶液を体積比1:1で混合した。混合溶液を各流路に1μLずつ導入し、デバイスにフォトマスクをかぶせ露光強度100%で5秒間の露光を行った。ここでは長方形の開口部を有するフォトマスクを用いているので直方体の微小構造物が形成されている。フォトマスクにより光が当たらず未硬化の混合溶液はアスピレーターにより除去し、洗浄液により流路をそれぞれ5回洗浄した。洗浄液は、0.5%(v/v) Tween 20(SIGMA)、0.5% BSAを含有したPBS(以下、0.5%(v/v)Tween 20洗浄液という。)を用いた。なお、以下で使用する界面活性剤濃度はすべてv/vで示している。洗浄後、洗浄液を再び注入し、蒸発を防ぐためにインレットとアウトレットをふさぐようにシールをして4℃で保存した。なお、デバイスは、洗浄液で流路を満たし、乾燥しないように湿潤下、4℃で保存すれば、1年程度は安定である。なお、洗浄液の代わりにBSAやスキムミルクなどのタンパク質を含むブロッキング溶液で流路を満たして保存してもよい。
【0034】
[実施例2] 標識の検討
従来は蛍光標識された抗体を用いて検出を行っていた。一般に、酵素標識抗体を用いることにより、シグナルを増幅することができることから、高感度で検出を行うことができる。そこで酵素標識抗体を用いて検討を行った。
【0035】
最初に蛍光標識抗体を用いた場合の検出限界の検討を行った(図2(A))。実施例1で作製したストレプトアビジンを固相化した基板に、一次抗体としてビオチン標識抗EGFRウサギ抗体(abcam)と、0から200ng/mLまで濃度を変えた抗原(組み換えヒトEGFR(R&D Systems)をデバイスに固定した。デバイスの流路は作製時に洗浄液で満たされているからこれを除去し、一次抗体と抗原を流路に入れて室温でインキュベートした。なお、抗体等の希釈溶液は、BlockerTMBSA in PBS(×10)(Pierce)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)(Gibco)で10倍希釈した溶液(BSAの濃度1%、以下、BSA-PBSと記載する。)を用いた。一次抗体と抗原を含む溶液で、15分インキュベートし、0.5%Tween 20洗浄液で洗浄を行った。洗浄は、一次抗体と抗原を吸い出し、洗浄液を入れ、1分程度静置し、洗浄液を入れ替えて、同じ操作を繰り返して洗浄を行った。通常洗浄操作を5回繰り返し洗浄を行った。
【0036】
次に、二次抗体として、ヒトEGFRアフィニティ精製ポリクローナル抗体、Goat IgG (R&D Systems)、三次抗体として蛍光標識抗体、ウサギAnti-Goat IgG H&L(DyLight(登録商標) 650、abcam)をそれぞれBSA-PBSで50μg/mLとして使用した。二次抗体、三次抗体は夫々30秒間インキュベートし、0.5%Tween 20洗浄液で洗浄し、蛍光観察を行った(図2(A))。
【0037】
実施例2では、抗体とのインキュベーションは上記時間条件で行っているが、検出対象、使用する抗体の抗原との親和性によって、反応させる時間等の条件は適宜最適化すればよい。また、通常室温で各反応を行っているが、37℃に設定してあるインキュベーターを用いることにより、より短時間で検出対象と特異的結合試薬との結合を行うことができる。
【0038】
図2(A)に示すように、EGFR濃度が2ng/mLを超えるとバックグラウンドよりも蛍光強度が高くなることから、蛍光標識アッセイの検出限界は2ng/mLであると結論付けた。そこで、酵素標識アッセイを用い、酵素でシグナルを増幅した場合に、2ng/mLの抗原を感度良く検出可能か解析を行った(図2(B))。
【0039】
2ng/mLの抗原を用い、二次抗体までは上記と同様の条件で反応させた。三次抗体として、ロバAnti-Goat IgG H&L(Alkaline Phosphatase)(abcam)をBSA-PBSで50μg/mLに希釈して使用した。三次抗体を30秒間インキュベートし、0.5%(v/v)Tween 20洗浄液で洗浄し、基質と反応させた。基質は、DDAO Phosphate(Thermo Fisher Scientific Inc.)を1.25μg/mLの濃度にTris-HClバッファー、pH8.0(UltraPure(登録商標) 1M Tris-HCI、Thermo Fisher Scientific Inc.)で希釈して用いた。
【0040】
蛍光顕微鏡とCCDカメラを用いて、経時的に蛍光強度を記録した。図2(B)に示すのは、3回の実験結果の平均である。0ng/mL、2ng/mLの抗原を固相化した場合、蛍光強度に有意な差は見られなかった。酵素標識抗体でシグナルを増幅したにもかかわらず、蛍光標識抗体を三次抗体として用いた場合と同等の結果しか得られなかった。その理由として、抗原を固相化していない(0ng/mL)場合であっても、経時的に蛍光強度が上昇していることから、洗浄不足であることが示唆された。
【0041】
[実施例3] 微小構造物の検討
微小構造物を用いたアッセイは、微小構造物表面で主な反応が起こることが観察結果から分かっている。酵素標識抗体を用いたにもかかわらず、検出感度が上がらない原因は、構造体内部に抗体が残存し、バックグラウンドが高いことに起因すると考えられた。洗浄回数や、洗浄液に浸漬する時間を増加させるなど、洗浄工程の改良を試みたが、著しい改善は見られなかった。そこで、内部に残存する抗体の量を減らすために、構造体の不要な部分を削減し、感度が増加するか検討した。
【0042】
微小構造物では、表面上で主な反応が生じると考えられる。ここで用いているのは直方体形状(ウォール形状)の微小構造物であるが、直方体の幅(流路において試薬や検体の流れ方向に対し直行する長さ)を狭くし、構造体の表面積は維持しつつ、体積を削減することによって、検出感度が改善するか検討を行った。
【0043】
実施例2では、40μmのフォトマスクを使用していることから、それより細い幅である10μm、20μm、30μmのフォトマスクを用い、それぞれの幅の微小構造物を作製した。微小構造物の幅を10μmまで狭くすると、洗浄の際に構造体が壊れ、アッセイに用いることができなかった。20μm幅の微小構造物は作製することができたことから、20μmの微小構造物を用い、検出感度を検証した(図3)。
【0044】
幅20μm、又は40μmのストレプトアビジンが固相化されている微小構造物を構築し、実施例2と同様にして、一次抗体、抗原、二次抗体、三次抗体を結合させた後に基質と反応させ、経時的に蛍光強度を計測した。
【0045】
幅20μmの微小構造物を用いた場合では、抗原濃度0ng/mL、2ng/mLの蛍光強度を見分けることができる(図3(A))。一方、幅40μmの微小構造物を用いた場合には抗原濃度0ng/mL、2ng/mLともに蛍光強度の伸びが同じで、見分けることができない(図3(B))。これは、酵素標識抗体が微小構造物内部に残存していることを示唆している。なお、幅20μmの微小構造物(図3(A))では、5分以降に2ng/mLの蛍光強度の伸びが小さくなっているが、これは解析ソフトに起因するもので、蛍光強度の最大値になっているためである。
【0046】
以上の結果から、微小構造物の幅を狭くすることによって、感度が増強することが明らかとなった。微小構造物は内部に支持体を備えた流路を用いれば、より幅の細い構造とすることができる(図4)。マイクロデバイスの流路(図4(A))部分に、予め支持体4、4’を備えた基板を用意すれば、より幅の狭い微小構造物を作製することができる。
【0047】
支持体は、直方体状支持体4(図4(B))、あるいは円柱状支持体4’(図4(C))に例示する任意の形状として、基板の流路内に予め立設した構造として作製することができる。支持体の幅は流路の幅に応じて設けることができる。支持体よりも一回り大きいフォトマスクを用いて親水性樹脂を硬化させ、微小構造物を作製すれば、微小構造物が洗浄時に洗浄液の流入、流出によって、壊れるのを防ぐことができる。
【0048】
支持体を用いて微小構造物を作製する場合、微小構造物の両側に試薬や洗浄液を満たす空間があればよく、支持体は任意の幅とすることができる。上記で示したように、幅20μmの微小構造物であれば、微小構造物の両側から洗浄液が浸透し、十分な洗浄効果が得られた。したがって、支持体の周囲に10μm以下の幅(微小構造物の外側面から支持体までの距離、すなわち微小構造物の厚さ)で微小構造物を設ければ、高感度の検出結果を得ることができる。
【0049】
支持体の周囲に1μm以上の幅で微小構造物を設けるのであれば、フォトマスクのスリットと支持体の位置とを容易に合わせることができる。支持体を設けることにより、微小構造物の幅は1μm程度まで薄くすることが可能となる。ここでは、直方体のウォール形状の微小構造物を用いているが、他の形状の構造体でも同様に微小構造物の幅を狭くし、検出感度の向上を図ることができる。例えば、円柱状の支持体の場合、ここでは直方体形状の微小構造物を例示しているが、円柱状支持体の周囲に円柱状の微小構造物を同心円上に作製してもよい。支持体を設けない場合には10μmの幅の微小構造物を流路内に設置することはできないが、支持体を設けることによって1μm程度まで幅を薄くすることが可能となる。
【0050】
[実施例4] 界面活性剤濃度の検討
残存抗体がバックグラウンドの増加を招き、高い検出感度が得られない原因であると考えられることから、洗浄液の組成を検討した。具体的には洗浄液中の界面活性剤濃度を検討した。
【0051】
通常、ELISAでは、0.05%(v/v)程度の界面活性剤を含有した洗浄液を用いることが多い。界面活性剤濃度を上げると非特異的吸着を低下することができることから、反応の特異度を上げることができる一方で、抗原抗体反応などの特異的結合も抑えることになる。反対に界面活性剤濃度を下げると特異的結合を妨げることはないものの、非特異的な吸着も防ぐことができず、バックグラウンドが上がることから、高感度な検出を行うことができない。そのため、検出するタンパク質の検体中の濃度にもよるが、0.01%~0.5%(v/v)の範囲の界面活性剤を洗浄液に添加して用いている。しかしながら、実験結果から、洗浄が不十分であることが示唆されたので、高濃度の界面活性剤を含有する洗浄液で検討を行った。
【0052】
洗浄液のTween 20を0.5、2.5、5、10%とし、検出感度の解析を行った。10%(v/v) Tween 20を含む洗浄液(10% Tween 20、0.5% BSAを含有したPBS)用いた場合に、最もバックグラウンドが低いという結果が得られたことから、幅20μmの微小構造物を用いて検出感度の解析を行った(図5)。
【0053】
その結果、抗原濃度2fg/mLでも検出することができた。これは蛍光標識を用い、幅40μmの微小構造物による検出結果の100万倍の感度に相当する。胸水に含まれるEGFRは、20fg/mL程度の濃度であると考えられる。実施例4の条件により、2fg/mLの抗原を検出できたことから、臨床サンプルを用いた場合であってもEGFR発現や変異を十分に検出することができると考えられる。
【0054】
[実施例5] 界面活性剤の種類の検討
Tween 20だけではなく、免疫アッセイに使用される他の界面活性剤についても効果の解析を行った。洗浄液に含まれるTween 20の代わりに、TritonX-100(SIGMA)(図6(A))、CHAPS(SIGMA)(図6(B))を界面活性剤として使用した以外は全て同じ条件で解析を行っている。
【0055】
TritonX-100を使用した場合は、1%以上の濃度であれば、2fg/mLの抗原を検出することができた。1% CHAPSを用いた場合は、2fg/mLの抗原を検出することはできないものの、10% CHAPSでは2fg/mLの抗原を検出することができた。したがって、界面活性剤の種類にかかわらず、界面活性剤濃度が高い方が、より感度良く抗原を検出することができると考えられる。しかし、界面活性剤は濃度が高くなると粘度が高く扱いにくくなることから、扱いやすさの観点から界面活性剤濃度の上限は20%、さらに15%以下であることが好ましい。
【0056】
使用時の界面活性剤の濃度は、使用する界面活性剤の種類にもよるが、扱いやすさ、検出感度の観点から1%以上20%以下、好ましくは2.5%以上15%以下、より好ましくは5%以上12.5%以下、さらに7%以上10%以下の濃度とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のマイクロデバイスは、従来のデバイスと比べて非常に高感度に検出が可能である。気管支洗浄液中の変異タンパク質の検出だけではなく、微量の検体しか得られず、高感度の検出が必要な検アッセイでも行うことが可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6