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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】人造構造タンパク質繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 4/00 20060101AFI20240614BHJP
   D01F 4/02 20060101ALI20240614BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
D01F4/00 Z
D01F4/02
D01D5/06 105Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020571315
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004966
(87)【国際公開番号】W WO2020162627
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019021015
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】安藤 広忠
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀人
(72)【発明者】
【氏名】小鷹 浩一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 僚子
(72)【発明者】
【氏名】狩野 博司
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 皓斗
(72)【発明者】
【氏名】安部 佑之介
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/034111(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/164234(WO,A1)
【文献】特表2005-515309(JP,A)
【文献】特表2018-512407(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0193524(US,A1)
【文献】国際公開第2011/149113(WO,A1)
【文献】特開昭48-072353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 4/00
D01D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式紡糸法によって人造構造タンパク質繊維を製造する方法であって、人造構造タンパク質及び有機溶媒を含有する紡糸原液を紡糸口金から凝固液中に吐出し、前記人造構造タンパク質を凝固させる工程を含み、前記紡糸口金の孔径が0.04mm~0.1mmであり、前記凝固工程におけるバスドラフトが0.4超20以下である、人造構造タンパク質繊維の製造方法。
【請求項2】
前記凝固液が水又はpH0.25以上pH10.00以下の水溶液を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記凝固液中の水又はpH0.25以上pH10.00以下の水溶液の含有量が、前記凝固液の全量を100質量%として70質量%以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液が、硫酸塩水溶液、塩化物水溶液、カルボン酸塩水溶液、リン酸水素塩水溶液、炭酸水素塩水溶液、汽水、及び海水からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記水溶液が、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液及びクエン酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記紡糸原液における前記人造構造タンパク質の含有量が、前記紡糸原液全量を100質量%として10質量%超50質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記人造構造タンパク質の平均疎水性指標が-0.8超である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記人造構造タンパク質が、クモ糸フィブロイン、絹フィブロイン及びケラチンタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記人造構造タンパク質が、クモ糸フィブロインである、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記人造構造タンパク質が、改変クモ糸フィブロインである、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記紡糸原液中の有機溶媒が、ギ酸及びヘキサフルオロイソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記凝固液が前記有機溶媒を含有し、前記凝固液中の前記有機溶媒の含有量が、前記凝固液の全量を100質量%として、10質量%以上30質量%以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記紡糸口金の孔径が0.06mm~0.1mmであり、前記凝固工程におけるバスドラフトが1.4~20である、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記人造構造タンパク質繊維が、人造構造タンパク質のみを原料とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人造構造タンパク質繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、構造タンパク質繊維として、再生絹繊維である絹フィブロイン繊維、クモ糸フィブロイン繊維等が知られており、これらの製造方法も多数報告されている。
【0003】
例えば、天然型クモ糸フィブロイン構造由来の人造ポリペプチド繊維を湿熱における1段目延伸と乾熱における2段目延伸で延伸することにより、350MPa以上の応力を有するクモ糸フィブロイン繊維を製造する方法(特許文献1)や、構造タンパク質を含有する成形体前駆体を、相対湿度が80%以上である環境に曝露することで、構造タンパク質成形体のタフネスを向上させる方法等が提案されている(特許文献2)。しかしながら、細径を有する繊維は得られていない。
【0004】
また、例えば、電圧をかけた口金から絹フィブロインとPEOの混合水溶液を吐出して電界紡糸させることで、平均繊維径が800nm未満の絹フィブロインとPEOのブレンド繊維を得る方法(特許文献3)が提案されている。しかしながら、電界紡糸は特殊な設備が必要とされるのに加えて、十分な応力を有する細径繊維を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5540166号
【文献】国際公開第2017/131196号
【文献】特開2014-138877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多様な用途への展開のため、従来と同等以上の応力を有する細径の構造タンパク質繊維が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
湿式紡糸法によって人造構造タンパク質繊維を製造する方法であって、人造構造タンパク質及び有機溶媒を含有する紡糸原液を紡糸口金から凝固液中に吐出し、上記人造構造タンパク質を凝固させる工程を含み、上記凝固工程におけるバスドラフトが0.4超20以下である、人造構造タンパク質繊維の製造方法。
[2]
上記凝固液が水又はpH0.25以上pH10.00以下の水溶液を含有する、[1]に記載の製造方法。
[3]
上記凝固液中の水又はpH0.25以上pH10.00以下の水溶液の含有量が、上記凝固液の全量を100質量%として70質量%以上である、[2]に記載の方法。
[4]
上記水溶液が塩水溶液である、[2]又は[3]に記載の製造方法。
[5]
上記水溶液が、硫酸塩水溶液、塩化物水溶液、カルボン酸塩水溶液、汽水、及び海水からなる群から選択される少なくとも1種である、[2]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
上記水溶液が、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液及びクエン酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種である、[2]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
上記紡糸原液における上記人造構造タンパク質の含有量が、上記紡糸原液全量を100質量%として10質量%超50質量%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
上記人造構造タンパク質の平均疎水性指標が-0.8超である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
上記人造構造タンパク質が、下記(1)又は(2)を満たす、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
(1)アミノ酸残基数150以上であり、アラニン残基含有量が12~40%であり、かつグリシン残基含有量が11~55%である
(2)セリン、スレオニン及びチロシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基含有量、アラニン残基含有量及びグリシン残基含有量の合計が56%以上である
[10]
上記人造構造タンパク質が、上記(1)及び(2)の両方を満たす、[9]に記載の製造方法。
[11]
上記人造構造タンパク質は、複数の反復配列単位を有しており、
上記反復配列単位のアミノ酸残基数が6~200である、[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]
上記人造構造タンパク質が、クモ糸フィブロイン、絹フィブロイン及びケラチンタンパク質からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]
上記人造構造タンパク質は、(A)モチーフを含む、[1]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]
上記人造構造タンパク質が、クモ糸フィブロインである、[1]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]
上記人造構造タンパク質が、改変クモ糸フィブロインである、[1]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]
上記紡糸原液中の有機溶媒が、ギ酸及びヘキサフルオロイソプロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
[17]
上記凝固液が上記有機溶媒を含有し、上記凝固液中の上記有機溶媒の含有量が、上記凝固液の全量を100質量%として、10質量%以上30質量%以下である、[1]~[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18]
上記水溶液が、硫酸塩水溶液、塩化物水溶液及びカルボン酸塩水溶液からなる群から選択される少なくとも1種である、[2]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[19]
上記硫酸塩が、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[5]に記載の製造方法。
[20]
上記塩化物が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化リチウム、及び塩化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[5]に記載の製造方法。
[21]
上記バスドラフトが0.8超20以下である、[1]~[20]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特殊な設備を必要としない簡便な方法で、従来と同等以上の応力を有する、細径の人造構造タンパク質繊維の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】クモ類フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図2】クモ類フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図3】クモ類フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図4】タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
〔人造構造タンパク質繊維の製造方法〕
本発明の人造構造タンパク質繊維の製造方法は、湿式紡糸法によって人造構造タンパク質繊維を製造する方法であって、人造構造タンパク質及び有機溶媒を含有する紡糸原液を紡糸口金から凝固液中に吐出し、上記人造構造タンパク質を凝固させる工程を含み、上記凝固工程における紡糸ドラフト(バスドラフト)が0.4超20以下であることを特徴とする。
【0012】
<紡糸原液>
本実施形態に係る紡糸原液(「ドープ液」ともいう)は、人造構造タンパク質及び有機溶媒を含有する。
【0013】
(人造構造タンパク質)
本実施形態の人造構造タンパク質は、人工的に製造された構造タンパク質であり、天然のタンパク質又はそれを精製したものではない。構造タンパク質とは、生体内で構造、形態等を形成又は保持するタンパク質を意味する。人工的に構造タンパク質を製造する方法については、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したものであってもよく、合成により製造されたものであってもよい。
【0014】
本実施形態に係る人造構造タンパク質は、下記(1)又は(2)のいずれかを満たすものであってよい。
(1)アミノ酸残基数150以上であり、アラニン残基含有量が12~40%であり、かつグリシン残基含有量が11~55%である
(2)セリン、スレオニン及びチロシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基含有量、アラニン残基含有量及びグリシン残基含有量の合計が56%以上である
【0015】
なお、本明細書において、「アラニン残基含有量」とは、下記式で表される値である。
アラニン残基含有量=(人造構造タンパク質に含まれるアラニン残基の数/人造構造タンパク質の全アミノ酸残基の数)×100(%)
また、グリシン残基含有量、セリン残基含有量、スレオニン残基含有量及びチロシン残基含有量は、上記式において、アラニン残基をそれぞれグリシン残基、セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基と読み替えたものと同義である。
【0016】
(1)を満たす人造構造タンパク質は、アミノ酸残基数が150以上であればよい。当該アミノ酸残基数は、例えば、200以上又は250以上であってよく、好ましくは300以上、350以上、400以上、450以上又は500以上である。
【0017】
(1)を満たす人造構造タンパク質は、アラニン残基含有量が12~40%であればよい。当該アラニン残基含有量は、例えば、15~40%であってよく、18~40%であってよく、20~40%であってよく、22~40%であってよい。
【0018】
(1)を満たす人造構造タンパク質は、グリシン残基含有量が11~55%であればよい。当該グリシン残基含有量は、例えば、11%~55%であってよく、13%~55%であってよく、15%~55%であってよく、18%~55%であってよく、20%~55%であってよく、22%~55%であってよく、25%~55%であってよい。
【0019】
(2)を満たす人造構造タンパク質は、セリン、スレオニン及びチロシンからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基含有量(すなわち、セリン残基含有量、スレオニン残基含有量、チロシン残基含有量、セリン残基含有量及びスレオニン残基含有量の合計、セリン残基含有量及びチロシン残基含有量の合計、スレオニン残基含有量及びチロシン残基含有量の合計、セリン残基含有量、スレオニン残基含有量及びチロシン残基含有量の合計のいずれか)と、アラニン残基含有量と、グリシン残基含有量とを合計した含有量(合計含有量)が56%以上であればよい。当該合計含有量は、例えば、57%以上であってよく、58%以上であってよく、59%以上であってよく、60%以上であってよい。当該合計含有量の上限は特に制限はないが、例えば、90%以下であってよく、85%以下であってよく、80%以下であってよい。
【0020】
一実施形態において、(2)を満たす人造構造タンパク質は、セリン残基含有量、スレオニン残基含有量及びチロシン残基含有量の合計が、4%以上であってよく、4.5%以上であってよく、5%以上であってよく、5.5%以上であってよく、6%以上であってよく、6.5%以上であってよく、7%以上であってよい。セリン残基含有量、スレオニン残基含有量及びチロシン残基含有量の合計は、例えば、35%以下であってよく、33%以下であってよく、30%以下であってよく、25%以下であってよく、20%以下であってよい。
【0021】
本実施形態に係る人造構造タンパク質は、上記(1)及び(2)の両方を満たすものであることが好ましい。これにより、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0022】
本実施形態に係る人造構造タンパク質は、セリン残基、スレオニン残基又はチロシン残基の分布が平均的であり、任意の連続した20アミノ酸残基の中、セリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基の合計含有量が、5%以上、10%以上、又は15%以上であってよく、50%以下、40%以下、30%以下、又は20%以下であってよい。
【0023】
一実施形態に係る人造構造タンパク質は、反復配列を有するものであってよい。すなわち、本実施形態に係る人造構造タンパク質は、人造構造タンパク質内に配列同一性が高いアミノ酸配列(反復配列単位)が複数存在するものであってよい。反復配列単位のアミノ酸配列に特に制限はなく、人造構造タンパク質全体として上述した(1)又は(2)を満たすものであればよい。反復配列単位のアミノ酸残基数は6~200であることが好ましい。また、反復配列単位間の配列同一性は、例えば、85%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、96%以上であってよく、97%以上であってよく、98%以上であってよく、99%以上であってよい。
【0024】
一実施形態に係る人造構造タンパク質は、(A)モチーフを含むものであってよい。本明細書において、(A)モチーフとは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を意味する。(A)モチーフのアミノ酸残基数は2~27であってよく、2~20、2~16、又は2~12の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。
【0025】
一実施形態において、(A)モチーフは反復配列単位に含まれていてもよい。(A)モチーフは、アラニン残基を主として含むため、αヘリックス構造又はβシート構造を取りやすい。(A)モチーフが反復配列単位に含まれることにより、本実施形態に係る人造構造タンパク質が、反復してこれら二次構造を有することになるため、当該人造構造タンパク質を繊維の形態とすると、これらの二次構造により高い応力を発揮することが期待される。
【0026】
構造タンパク質としては、例えば、クモ糸タンパク質(クモ糸フィブロイン等)、シルクタンパク質(絹フィブロイン)、コラーゲンタンパク質、レシリンタンパク質、エラスチンタンパク質、ケラチンタンパク質等を挙げることができる。
【0027】
クモ糸タンパク質は、天然由来のクモ糸タンパク質と改変クモ糸タンパク質(以下、「改変クモ糸フィブロイン」又は単に「改変フィブロイン」ともいう。)とを含む。本明細書において「天然由来のクモ糸タンパク質」とは、天然由来のクモ糸タンパク質(クモ糸フィブロイン等)と同一のアミノ酸配列を有するクモ糸タンパク質を意味し、「改変クモ糸タンパク質」又は「改変クモ糸フィブロイン」とは、天然由来のクモ糸タンパク質とは異なるアミノ酸配列を有するクモ糸タンパク質を意味する。
【0028】
天然由来のクモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質等のクモ類が産生するクモ類フィブロインが挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
【0029】
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。クモ糸タンパク質は、これらのしおり糸タンパク質に由来するクモ糸タンパク質であってもよい。ADF3に由来するクモ糸タンパク質は、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0030】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
【0031】
クモ類が産生するクモ類フィブロインの更なる例として、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
【0032】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0033】
クモ糸タンパク質は、例えば、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。クモ糸タンパク質は、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0034】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16であってもよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0035】
フィブロインとしては、上記(1)又は(2)を満たすものであれば特に制限されない。フィブロインの具体例としては、例えば、下記表1に示すフィブロイン(改変フィブロイン)が一例として挙げられる。
【0036】
【表1】
【0037】
改変クモ糸フィブロイン(改変フィブロイン)は、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のクモ類フィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0038】
改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0039】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、及びグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0040】
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)としては、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインは、式1中、nは3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0041】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、タンパク質であってもよい。
【0042】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0043】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0044】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0045】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0046】
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0047】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0048】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0049】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってもよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0050】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0051】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のクモ類フィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)モチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0052】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0053】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0054】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0055】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0056】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ類フィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0057】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のクモ類フィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.3%である。
【0058】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0059】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0060】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0061】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0062】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0063】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0064】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0065】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0066】
タグ配列を含む第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号13、配列番号11、配列番号14若しく配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0067】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0068】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0069】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0070】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0071】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0072】
(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0073】
第3の改変フィブロインは、天然由来のクモ類フィブロインから(A)モチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0074】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)モチーフ毎に1つの(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0075】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)モチーフの欠失、及び1つの(A)モチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0076】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0077】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってもよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0078】
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、クモ類フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)モチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)モチーフという配列を有する。
【0079】
隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)モチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0080】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0081】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0082】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)モチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0083】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0084】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってもよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0085】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0086】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)モチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から(A)モチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0087】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号18、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0088】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号18で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ類フィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号18で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにN末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
【0089】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のクモ類フィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号18で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.3%である。配列番号10、配列番号18、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0090】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0091】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0092】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0093】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0094】
タグ配列を含む第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号17、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0095】
配列番号16、配列番号17、配列番号13、配列番号11、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号18、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0096】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0097】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0098】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0099】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0100】
グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述したグリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)と、(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)の特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0101】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列、(4-ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0102】
局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0103】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0104】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0105】
第5の改変フィブロインは、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0106】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0107】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0108】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表2に示すとおりである。
【0109】
【表2】
【0110】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0111】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)モチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図2の場合28/170=16.47%となる。
【0112】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0113】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0114】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0115】
第5の改変フィブロインの具体的な例として、(5-i)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0116】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号22で示されるアミノ酸配列は、天然由来のクモ類フィブロインの(A)モチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つになるよう欠失したものである。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号23で示されるアミノ酸配列は、配列番号22で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつ配列番号22で示されるアミノ酸配列の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0117】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0118】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0119】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0120】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0121】
タグ配列を含む第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0122】
配列番号24、配列番号25及び配列番号26で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0123】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0124】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0125】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号24、配列番号25若しくは配列番号26で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0126】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0127】
グルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)は、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0128】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0129】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってもよく、30%以下であってもよい。
【0130】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
【0131】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0132】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、クモ類フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0133】
図3は、クモ類フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図3に示したクモ類フィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図3のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0134】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0135】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
【0136】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0137】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0138】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表2に示すとおりである。
【0139】
表2に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0140】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPのーの上限に特に制限はなく、1.0以下であってもよく、0.7以下であってもよい。
【0141】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
【0142】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0143】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0144】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0145】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33若しくは配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0146】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。
【0147】
配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)モチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、Met-PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
【0148】
配列番号27で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0149】
配列番号28で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
【0150】
配列番号29で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0151】
配列番号30で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
【0152】
配列番号31で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、Met-PRT410(配列番号7)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0153】
配列番号34で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、Met-PRT410(配列番号7)に対し、アラニン残基が連続する領域(A)に2つのアラニン残基を挿入し、Met-PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
【0154】
配列番号32で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換したものである。
【0155】
配列番号33で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号34)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0156】
配列番号43で示されるアミノ酸配列(Met-PRT966)は、配列番号9で示されるアミノ酸配列(C末端に配列番号42で示されるアミノ酸配列が付加される前のアミノ酸配列)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0157】
配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号43で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表3)。
【0158】
【表3】
【0159】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0160】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0161】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0162】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0163】
タグ配列を含む第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0164】
配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33及び配列番号43で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表4)。
【0165】
【表4】
【0166】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0167】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0168】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0169】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0170】
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0171】
クモ糸タンパク質は、親水性クモ糸タンパク質であってもよく、疎水性クモ糸タンパク質であってもよい。疎水性クモ糸タンパク質とは、クモ糸タンパク質を構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が-0.8超であるクモ糸タンパク質であることが好ましく、平均HIが-0.6以上であるタンパク質であることがより好ましく、平均HIが-0.4以上であるタンパク質であることがより好ましく、平均HIが-0.2以上であるタンパク質であることがさらに好ましく、平均HIが0以上であるクモ糸タンパク質であることが特に好ましい。疎水性指標は表2に示したとおりである。また、親水性クモ糸タンパク質とは、上記の平均HIが-0.8以下であるクモ糸タンパク質である。本実施形態に係るタンパク質の平均疎水性指標は-0.8超であることが好ましく、-0.7以上であることが好ましく、-0.6以上であることが好ましく、-0.5以上であることがより好ましく、-0.4以上であることが好ましく、-0.3以上であることが好ましく、-0.2以上であることが好ましく、-0.1以上であることが好ましく、0以上であることがより好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.3以上であることがさらに好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。
【0172】
配列番号11、配列番号15、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40及び配列番号41で示されるアミノ酸配列のHIは、表5に示すとおりである。各アミノ酸配列のHIを算出するにあたり、改変フィブロインと無関係な配列(すなわち、配列番号12で示されるアミノ酸配列に相当する配列)を除いて算出した。
【0173】
【表5】
【0174】
疎水性クモ糸タンパク質としては、例えば、上述した第1の改変フィブロインの配列、第2の改変フィブロインの配列、第3の改変フィブロインの配列、第5の改変フィブロインの配列及び第6の改変フィブロインの配列を挙げることができる。疎水性クモ糸タンパク質のより具体的な例としては、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含むクモ糸タンパク質が挙げられる。
【0175】
親水性クモ糸タンパク質としては、例えば、上述した、第4の改変フィブロインの配列を挙げることができる。親水性クモ糸タンパク質のより具体的な例としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20、配列番号21又は配列番号47で示されるアミノ酸配列を含むクモ糸タンパク質が挙げられる。
【0176】
上述したクモ糸タンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0177】
クモ糸タンパク質は、例えば、当該クモ糸タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0178】
クモ糸タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のクモ糸タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したクモ糸タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)等で自動合成したオリゴヌクレオチドをPCR等で連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、クモ糸タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、N末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるクモ糸タンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0179】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするクモ糸タンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0180】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、クモ糸タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0181】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0182】
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合は、発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、クモ糸タンパク質をコードする核酸、及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0183】
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0184】
原核生物を宿主とする場合、クモ糸タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0185】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0186】
真核生物を宿主とする場合、クモ糸タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0187】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0188】
クモ糸タンパク質は、例えば、形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中にクモ糸タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。形質転換された宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0189】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0190】
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
【0191】
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
【0192】
無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0193】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0194】
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0195】
形質転換された宿主により生産されたクモ糸タンパク質は、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、クモ糸タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0196】
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル-トヨパール(東ソー)、DEAE-トヨパール(東ソー)、セファデックスG-150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
【0197】
また、クモ糸タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてクモ糸タンパク質の不溶体を回収する。回収したクモ糸タンパク質の不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりクモ糸タンパク質の精製標品を得ることができる。
【0198】
クモ糸タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清からクモ糸タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0199】
コラーゲン由来の構造タンパク質(コラーゲンタンパク質)として、例えば、式3:[REP3]で表されるドメイン配列を含む構造タンパク質(ここで、式3中、pは5~300の整数を示す。REP3は、Gly-X-Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP3は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号45で示されるアミノ酸配列を含む構造タンパク質を挙げることができる。配列番号45で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号46で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0200】
レシリン由来の構造タンパク質(レシリンタンパク質)として、例えば、式4:[REP4]で表されるドメイン配列を含む構造タンパク質(ここで、式4中、qは4~300の整数を示す。REP4はSer-J-J-Tyr-Gly-U-Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意のアミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号47で示されるアミノ酸配列を含む構造タンパク質を挙げることができる。配列番号47で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号46で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0201】
エラスチン由来の構造タンパク質(エラスチンタンパク質)として、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有する構造タンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号48で示されるアミノ酸配列を含む構造タンパク質を挙げることができる。配列番号48で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号46で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0202】
ケラチン由来の構造タンパク質(ケラチンタンパク質)として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号49で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含む構造タンパク質を挙げることができる。配列番号49で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列のN末端に、配列番号46で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
【0203】
絹フィブロインとしては、例えば、上記式1で表されるドメイン配列を含む構造タンパク質を挙げることができる。
【0204】
コラーゲンタンパク質、レシリンタンパク質、エラスチンタンパク質、ケラチンタンパク質及び絹フィブロインは、親水性タンパク質であってもよく、疎水性タンパク質であってもよい。疎水性タンパク質とは、上記タンパク質を構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が-0.8超であるタンパク質であり、平均HIが-0.6以上であるタンパク質であることがより好ましく、平均HIが-0.4以上であるタンパク質であることがより好ましく、平均HIが-0.2以上であるタンパク質であることがさらに好ましく、平均HIが0以上であるタンパク質であることが特に好ましい。疎水性指標は表2に示したとおりである。また、親水性タンパク質とは、上記の平均HIが-0.8以下であるタンパク質である。
【0205】
疎水性コラーゲンタンパク質、疎水性レシリンタンパク質、疎水性エラスチンタンパク質、及び疎水性ケラチンタンパク質としては、例えば、上述した配列番号45、配列番号48又は配列番号49で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。
【0206】
親水性コラーゲンタンパク質、親水性レシリンタンパク質、親水性エラスチンタンパク質、及び親水性ケラチンタンパク質としては、例えば、上述した配列番号47で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。
【0207】
配列番号45、配列番号47、配列番号48及び配列番号49で示されるアミノ酸配列のHIは、表5に示すとおりである。各アミノ酸配列のHIを算出するにあたり、コラーゲンタンパク質、レシリンタンパク質、エラスチンタンパク質、及びケラチンタンパク質と無関係な配列(すなわち、配列番号12で示されるアミノ酸配列に相当する配列)を除いて算出した。
【0208】
また、構造タンパク質は、疎水性タンパク質及び極性溶媒中で自己凝集を起こしやすい傾向にあるポリペプチドを含み、構造タンパク質は疎水性タンパク質であることが好ましい。構造タンパク質又はそれに由来する構造タンパク質は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。構造タンパク質を2種以上組み合わせることで、全体としての疎水性度を所望の値に調節してもよい。疎水性度は、上述した方法により算出することができる。
【0209】
(有機溶媒)
本実施形態に係る紡糸原液の有機溶媒は、人造構造タンパク質を溶解し得るものであればいずれも使用することができる。有機溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン(DMI)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトニトリル、N-メチルモルホリンN-オキシド(NMO)及びギ酸等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。例えば、有機溶媒は、ギ酸及びHFIPからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、ギ酸であってもよい。これらの有機溶媒は、水を含んでいてもよい。
【0210】
本実施形態に係る紡糸原液における人造構造タンパク質の濃度は、紡糸原液全量を100質量%としたとき、10質量%超~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがより好ましく、20~45質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがより好ましく、20~35質量%であることがさらに好ましく、25~35質量%であることがさらに好ましく、28~34質量%であることが特に好ましい。人造構造タンパク質が10質量%超であると、紡糸原液の曳糸性が向上し、紡糸口金から紡糸原液をより安定的に吐出させることができる。人造構造タンパク質の濃度が50質量%以下であると、紡糸口金から紡糸原液を吐出する際に紡糸口金の孔が閉塞するのを避けることができ、生産性がより向上する。
【0211】
(溶解促進剤)
本実施形態に係る紡糸原液は、溶解促進剤を更に含有するものであってもよい。溶解促進剤を含むことにより、紡糸原液の調製が容易になる。
【0212】
溶解促進剤は、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩であってもよい。ルイス塩基としては、例えば、ハロゲン化物イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、ハロゲン化物アルカリ土類金属イオン等の金属イオン等が挙げられる。無機塩としては、例えば、アルカリ金属ハロゲン化物、及びアルカリ土類金属ハロゲン化物等が挙げられる。アルカリ金属ハロゲン化物の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム等が挙げられる。アルカリ土類ハロゲン化物の具体例としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。溶解促進剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0213】
これらの無機塩は、ギ酸又はDMSOに対する構造タンパク質の溶解促進剤として用いられ得、塩化リチウム及び塩化カルシウムが特に好ましい。紡糸原液が溶解促進剤(上記の無機塩)を含有することにより、構造タンパク質が紡糸原液中に高い濃度で溶解可能となる。これにより、タンパク質繊維の生産効率がより一層向上し、かつタンパク質繊維の高品質化と応力等の物性の向上等が期待される。
【0214】
溶解促進剤の含有量は、紡糸原液全量を100質量%として、0.1質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってもよく、20質量%以下、16質量%以下、12質量%以下、又は9質量%以下であってもよい。
【0215】
(各種添加剤)
紡糸原液は、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有していてよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、及び合成樹脂が挙げられる。添加剤の含有量は、紡糸原液中のタンパク質全量100質量部に対して、50質量部以下であってもよい。
【0216】
本実施形態に係る紡糸原液の粘度は、繊維の用途や紡糸方法に応じて等に応じて適宜設定してよい。例えば、20℃において、60,000~130,000mPa・secであってもよく、65,000~125,000mPa・secであってもよい。また、例えば、35℃において、500~35,000mPa・sec、1,000~35,000mPa・sec、3,000~30,000mPa・sec、500~20,000mPa・sec、500~15,000mPa・secであってもよく、1,000~15,000mPa・sec、1,000~12,000mPa・sec、1,500~12,000mPa・sec、1,500~10,000mPa・sec又は1,500~8,000mPa・sec等であってもよい。また、例えば、40℃において、500~35,000mPa・sec、1,000~35,000mPa・sec、5,000~35,000mPa・sec、10,000~30,000mPa・sec又は5,000~20,000mPa・secであってもよく、8,000~20,000mPa・secであってもよく、9,000~18,000mPa・secであってもよく、9,000~16,000mPa・secであってもよく、10,000~15,000mPa・secであってもよく、12,000~30,000mPa・secであってもよく、12,000~28,000mPa・secであってもよく、12,000~18,000mPa・secであってもよく、12,000~16,000mPa・sec等であってもよい。また、例えば、70℃において、1,000~6,000mPa・sec、1,500~5,000mPa・sec等であってもよい。紡糸原液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
【0217】
紡糸原液は、溶解を促進するために、ある程度の時間撹拌又は振とうしてもよい。その際、紡糸原液は必要により、使用する構造タンパク質及び溶媒に応じて溶解可能な温度に加熱してもよい。紡糸原液は、例えば、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、又は、90℃以上に加熱してもよい。改変フィブロインの分解をより防ぐという観点からは、40℃であることが好ましい。加熱温度の上限は、例えば、溶媒の沸点以下である。
【0218】
<凝固液>
本実施形態に係る凝固液は特に限定されないが、水又はPH0.25以上PH10.00以下の水溶液を含有することが好ましい。水又はPH0.25以上PH10.00以下の水溶液を含有することにより、爆発・火災等の危険性、製造コスト、及び環境負荷が低減されたタンパク質繊維の製造方法の提供が可能となる。水溶液は、塩水溶液、酸水溶液、又は塩水溶液と酸水溶液の混合溶液であってもよく、塩水溶液又は塩水溶液と酸水溶液の混合溶液であってもよく、塩水溶液であってもよい。ここで、塩水溶液と酸水溶液の混合溶液は、塩水溶液と酸水溶液を混合した溶液に限定されず、塩水溶液に酸を混合した溶液、酸水溶液に塩を混合した溶液、及び水に塩と酸を溶解した溶液も含む。
【0219】
(酸水溶液)
酸水溶液としては、カルボン酸等の水溶液が挙げられ、カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、及びシュウ酸等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して水溶液として使用してもよい。例えば、酸水溶液は、クエン酸水溶液又はギ酸水溶液であってもよい。
【0220】
(塩水溶液)
塩水溶液としては、有機塩、又は無機塩の塩水溶液、並びに有機塩及び無機塩の混合水溶液等が挙げられる。
【0221】
有機塩としては、例えば、カルボン酸塩等が挙げられ、カルボン酸塩の具体例としては、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、及びシュウ酸塩等が挙げられる。例えば、有機塩は、ギ酸塩、酢酸塩及びクエン酸塩であってもよい。
【0222】
ギ酸塩の具体例としては、例えば、ギ酸アンモニウム、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸リチウム、ギ酸マグネシウム、及びギ酸カルシウム等が挙げられる。
【0223】
酢酸塩の具体例としては、例えば、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、酢酸マグネシウム、及び酢酸カルシウム等が挙げられる。
【0224】
プロピオン酸塩の具体例としては、例えば、プロピオン酸アンモニウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸リチウム、プロピオン酸マグネシウム、及びプロピオン酸カルシウム等が挙げられる。
【0225】
クエン酸塩の具体例としては、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸リチウム、クエン酸マグネシウム、及びクエン酸カルシウム等が挙げられる。例えば、クエン酸塩は、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸マグネシウム、及びクエン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、クエン酸アンモニウム、クエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、クエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、クエン酸ナトリウムであってもよい。
【0226】
シュウ酸塩の具体例としては、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸マグネシウム、及びシュウ酸カルシウム等が挙げられる。カルボン酸塩としては、カルボン酸ナトリウムがより好ましく、カルボン酸ナトリウムの具体例としては、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、及びシュウ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0227】
無機塩の具体例としては、正塩、酸性塩、及び塩基性塩が挙げられる。
【0228】
正塩の具体例としては、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、ヨウ化物塩、チオシアン酸塩、及び炭酸塩等が挙げられる。
【0229】
硫酸塩の具体例としては、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸カルシウム等が挙げられる。例えば、硫酸塩は、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、硫酸アンモニウム及び硫酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、硫酸ナトリウムであってもよい。
【0230】
塩化物の具体例としては、例えば、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウム等が挙げられる。例えば、塩化物は、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、塩化物は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、及び塩化カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、塩化ナトリウム及び塩化カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであってもよく、塩化ナトリウムであってもよい。
【0231】
硝酸塩の具体例としては、例えば、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、及び硝酸カルシウム等が挙げられる。
【0232】
ヨウ化物塩の具体例としては、例えば、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化マグネシウム、及びヨウ化カルシウム等が挙げられる。
【0233】
チオシアン酸塩の具体例としては、例えば、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸マグネシウム、及びチオシアン酸カルシウム、チオシアン酸グアニジン等が挙げられる。
【0234】
炭酸塩の具体例としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0235】
酸性塩の具体例としては、硫酸水素塩、リン酸水素塩、及び炭酸水素塩等が挙げられる。
【0236】
硫酸水素塩の具体例としては、例えば、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素マグネシウム、硫酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0237】
リン酸水素塩の具体例としては、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸水素二マグネシウム、リン酸二水素カルシウム、及びリン酸水素二カルシウム等が挙げられる。
【0238】
炭酸水素塩の具体例としては、例えば、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素マグネシウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0239】
塩基性塩の具体例としては、塩化水酸化カルシウム、塩化水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0240】
上記の酸、酸水溶液、塩、及び塩水溶液は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0241】
2種以上の塩又は塩水溶液を混合した塩混合水溶液としては、上記有機塩の混合水溶液、上記無機塩の混合水溶液、上記有機塩及び無機塩の混合水溶液等が挙げられ、製造コスト低減の観点から汽水及び海水が特に好ましい。汽水及び海水は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸カルシウムを主として含むことで知られている。
【0242】
凝固液は、塩水溶液を含有することが好ましく、塩水溶液であることがより好ましい。塩を含むことで脱溶媒速度をより向上させることができる。塩は、カルボン酸塩、硫酸塩、塩化物、リン酸水素塩、及び炭酸水素塩からなる群の少なくとも1種を含むことがより好ましく、カルボン酸塩、硫酸塩及び塩化物からなる群の少なくとも1種を含むことが更に好ましく、硫酸塩及び塩化物からなる群の少なくとも1種を含むことが更に好ましく、硫酸塩を含むことが特に好ましい。これらの塩を含むことで、繊維形成能をより向上させることができ、得られる繊維の伸度をより向上させ得る。
【0243】
カルボン酸塩としては、カルボン酸ナトリウムがより好ましく、硫酸塩としては、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸カルシウムがより好ましく、塩化物としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウムがより好ましく、炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウムがより好ましく、混合水溶液としては、汽水及び海水が特に好ましい。これらの塩及び混合水溶液を使用することで、繊維形成能の向上効果に加えて、製造コストをさらに低減することができる。
【0244】
塩の含有量は、凝固液全量に対して、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、1質量%以上、1.3質量%以上、1.5質量%以上、1.7質量%以上、2質量%以上、2.3質量%以上、2.5質量%以上、2.7質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、又は20質量%以上であってもよく、上限値としては、30質量%以下、25質量%以下、又は溶解度以下の含有量であってもよい。塩の含有量は、凝固液全量に対して、例えば、0.1質量%以上30質量%以下、0.3質量%以上25質量%以下、1質量%以上25質量%以下、3質量%以上25質量%以下、5質量%以上25質量%以下、8質量%以上25質量%以下、10質量%以上25質量%以下、12質量%以上25質量%以下、1質量%以上20質量%以下、3質量%以上20質量%以下、5質量%以上20質量%以下、8質量%以上20質量%以下、10質量%以上20質量%以下、10質量%以上15質量%以下、12質量%以上20質量%以下、12質量%以上18質量%以下、12質量%以上17質量%以下、12質量%以上16質量%以下、15質量%以上20質量%以下又は16質量%以上20質量%以下であってもよい。塩の含有量は、例えば、凝固液全量に対して、0.05mol/L以上であることが好ましく、0.05mol/L以上5.5mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上5.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上4.5mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上4.0mol/L以下であってもよい。
【0245】
塩化ナトリウムを用いる場合の塩の含有量は、例えば、凝固液全量に対して、0.1mol/L以上5.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上4.5mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上4.0mol/L以下であってもよい。
【0246】
塩化カリウムを用いる場合を用いる場合の塩の含有量は、例えば、凝固液全量に対して、0.1mol/L以上3.9mol/L以下であってもよい。
【0247】
塩化カルシウムを用いる場合を用いる場合の塩の含有量は、例えば、凝固液全量に対して、0.1mol/L以上14.3mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上13.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上12.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上11.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上10.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上9.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上8.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上7.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上6.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上5.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上4.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上3.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であってもよい。
【0248】
硫酸ナトリウムを用いる場合を用いる場合の塩の含有量は、例えば、凝固液全量に対して、0.1mol/L以上3.4mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上3.0mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上2.5mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であってもよい。また、例えば、凝固液全量に対して、3質量%以上28質量%以下、3質量%以上25質量%以下、3質量%以上20質量%以下、5質量%以上20質量%以下、8質量%以上20質量%以下、10質量%以上20質量%以下、10質量%以上18質量%以下、12質量%以上20質量%以下、12質量%以上18質量%以下、12質量%以上16質量%以下又は13質量%以上16質量%以下であってもよい。
【0249】
また、凝固液全量に対する硫酸ナトリウムの含有量は、10質量%以上20質量%以下であることが好ましく、11質量%以上19質量%以下であることが好ましく、11質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、12質量%以上18質量%以下であることがさらに好ましく、12質量%以上17質量%以下であることがさらに好ましく、13質量%以上17質量%以下であることがさらに好ましく、13質量%以上16質量%以下であることが特に好ましい。凝固液全量に対する硫酸ナトリウムの含有量が10質量%以上であると、凝固速度がより大きくなり、設備投資による費用増大をより低減することができる。凝固液全量に対する硫酸ナトリウムの含有量が20質量%以下であると、ドープ液の急速な凝固によるドープ液と凝固糸(糸条)間の界面で発生する糸切れをより低減することができる。
【0250】
また、上記の場合の凝固液全量に対する水の含有量は、ドープ溶媒の回収効率を向上させる観点から、50質量%以上80質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
また、硫酸ナトリウムを用いる場合の硫酸ナトリウム水溶液の濃度は、10質量%以上22質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが好ましく、12質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、14質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましく、16質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。硫酸ナトリウム水溶液の濃度が10質量%以上であると、十分な凝固速度が得られ、設備投資による費用増大をより低減することができる。硫酸ナトリウム水溶液の濃度が22質量%以下であると、ドープ液の急速な凝固によるドープ液と凝固糸(糸条)間の界面で発生する糸切れをより低減することができる。
【0251】
クエン酸ナトリウムを用いる場合を用いる場合の塩の含有量は、例えば、凝固液全量に対して、0.1mol/L以上1.6mol/L以下であってもよく、0.1mol/L以上1.3mol/L以下であってもよい。
【0252】
本実施形態の凝固液に含有される水溶液は、例えば、カルボン酸水溶液、炭酸水素塩水溶液、ギ酸塩水溶液、酢酸塩水溶液、塩化物水溶液、硫酸塩水溶液、リン酸水素塩水溶液、クエン酸塩水溶液、汽水、海水及びこれらの混合溶液からなる群から選択されてよい。また、本実施形態の凝固液に含有される水溶液は、例えば、クエン酸水溶液、ギ酸水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、ギ酸ナトリウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、リン酸水素カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液、汽水、海水及びこれらの混合溶液からなる群から選択されてよく、塩化ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、汽水、海水及びこれらの混合溶液からなる群から選択される少なくとも1種であってよく、塩化ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液及びこれらの混合溶液からなる群から選択される少なくとも1種であってよく、塩化ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液及び硫酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0253】
さらに、繊維形成能の観点から、本実施形態の凝固液に含有される水溶液が塩水溶液であることが好ましい(表8)。塩水溶液が、硫酸塩水溶液、塩化物水溶液、カルボン酸塩水溶液、リン酸水素塩水溶液、炭酸水素塩水溶液、汽水、及び海水からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。硫酸塩としては、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、塩化物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化リチウム、及び塩化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。さらに、塩水溶液としては、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液及びクエン酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0254】
紡糸原液を接触させる前の凝固液には有機溶媒が含まれてもよく、含まれなくてもよい。凝固液が有機溶媒を含む場合、該有機溶媒は紡糸原液中の有機溶媒と同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。また、紡糸原液を接触させる前の凝固液に有機溶媒が含まれない場合であっても、紡糸原液を凝固液に接触させる過程において、接触した紡糸原液から凝固液に有機溶媒が溶解する場合がある。凝固液に含まれる有機溶媒(凝固液に接触した紡糸原液から凝固液に溶解した場合も含む)の含有量は、凝固液の全量(有機溶媒が紡糸原液から凝固液に溶解した場合には、紡糸原液を接触させる前の凝固液と紡糸原液から凝固液に溶解した有機溶媒の合計含有量)を100質量%として、0質量%以上30質量%以下、5質量%以上30質量%以下、5質量%以上25質量%以下、0質量%以上20質量%以下、5質量%以上20質量%以下、5質量%以上15質量%以下、10質量%以上30質量%以下、10質量%以上20質量%以下、0質量%以上10質量%以下、0質量%以上5質量%以下、0質量%以上2質量%以下であってもよく、10質量%以上30質量%以下が好ましく、12質量%以上28質量%以下がより好ましく、14質量%以上26質量%以下がより好ましく、15質量%以上25質量%以下がより好ましく、18質量%以上24質量%以下がさらに好ましく、18質量%以上22質量%以下が特に好ましい。有機溶媒の含有量が、上述の範囲内である場合、より一層構造タンパク質の繊維形成能が向上する。有機溶媒としては、ギ酸、DMSO、又はHFIPが好ましく、ギ酸又はHFIPがより好ましく、ギ酸がさらに好ましい。
【0255】
凝固液が含有する水溶液のpHは、0.25~10.00であってもよく、0.25~9.50であってもよい。
【0256】
凝固液における酸水溶液のpHは、例えば、0.25~7.00未満であってもよく、0.50~7.00未満であってもよく、1.00~7.00未満であってもよく、1.50~7.00未満であってもよく、2.00~7.00未満であってもよく、3.00~7.00未満であってもよい。
【0257】
凝固液における塩水溶液のpHは、例えば、0.50~10.00であってもよく、1.00~10.00であってもよく、2.00~10.00であってもよく、3.00~10.00であってもよく、3.50~10.00であってもよく、4.00~10.00であってもよく、4.50~10.00であってもよく、5.00~10.00であってもよく、5.50~10.00であってもよく、6.00~10.00であってもよく、6.50~10.00であってもよく、6.50~9.50であってもよい。
【0258】
凝固液における上記水又は水溶液の含有量は、凝固液全量を100質量%として、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、68質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、71質量%以上がより好ましく、72質量%以上がより好ましく、73質量%以上がより好ましく、74質量%以上がより好ましく、75質量%以上がより好ましく、76質量%以上がより好ましく、77質量%以上がより好ましく、78質量%以上がより好ましく、79質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、85質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%であってもよい。上記水又は水溶液の含有量が上述の範囲内である場合、より一層構造タンパク質の繊維形成能が向上する。凝固液における上記水又は水溶液の含有量は、凝固液全量に対して、例えば、60質量%以上100質量%以下であってもよく、70質量%以上100質量%以下であってもよく、75質量%以上100質量%以下であってもよく、80質量%以上100質量%以下であってもよく、85質量%以上100質量%以下であってもよく、90質量%以上100質量%以下であってもよく、95質量%以上100質量%以下であってもよく、70質量%以上90質量%以下であってもよく、75質量%以上85質量%以下であってもよく、78質量%以上82質量%以下であってもよい。
【0259】
凝固液の温度は、室温であってもよく、0℃~90℃であってもよく、0℃~80℃であってもよく、5℃~80℃であってもよく、10℃~80℃であってもよく、15℃~80℃であってもよく、20℃~80℃であってもよく、25℃~80℃であってもよく、30℃~80℃であってもよく、40℃~80℃であってもよく、50℃~80℃であってもよく、60℃~80℃であってもよく、70℃~80℃であってもよく、20℃~70℃であってもよく、30℃~70℃であってもよく、40℃~70℃であってもよく、50℃~70℃であってもよく、20℃~60℃であってもよく、30℃~60℃であってもよく、40℃~60℃であってもよく、50℃~60℃であってもよい。凝固液の温度は、紡糸安定性により優れる観点から、30℃~50℃が好ましく、32℃~48℃がより好ましく、33℃~47℃がより好ましく、34℃~46℃がより好ましく、35℃~45℃がさらに好ましい。凝固液の温度の下限値は、紡糸原液に含有される有機溶媒の融点以上であればよく、温度の上限値は、紡糸原液に含有される有機溶媒の沸点以下であればよい。凝固液の温度をより高くすることで、紡糸原液の脱溶媒速度をより速くすることができる。
【0260】
凝固液はドープ溶媒(例:ギ酸)をさらに含んでいてもよい。凝固液全量に対するドープ溶媒の含有量は、溶媒回収効率向上の観点から、15~25質量%であることが好ましく、16~25質量%であることがより好ましく、16~24質量%であることがさらに好ましく、18~24質量%であることが特に好ましい。
【0261】
凝固液は、紡糸原液に添加し得る上述の溶解促進剤をさらに含んでいてよい。
【0262】
〔紡糸工程〕
本実施形態に係る人造構造タンパク質繊維は、公知の湿式紡糸法によって製造することができる。例えば、人造構造タンパク質及び有機溶媒を含有する紡糸原液を紡糸口金から凝固液中に吐出し、人造構造タンパク質を凝固させる工程(凝固工程)を含む方法が挙げられる。ここで、上記凝固工程において紡糸ドラフト(バスドラフト)を0.4超20以下とすることが好ましい。紡糸ドラフト(バスドラフト)を0.4超とすることで、繊維の直径をより細径化させることができる。本実施形態のタンパク質繊維の製造方法は、例えば、図4に示す紡糸装置を使用して実施することができる。
【0263】
図4は、タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図4に示す紡糸装置10は、湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、凝固浴槽20と、洗浄浴槽(延伸浴槽)21と、乾燥装置4とを上流側から順に有している。
【0264】
押出し装置1は貯槽7を有しており、ここに紡糸原液(ドープ液)6が貯留される。凝固浴槽20に凝固液11が貯留される。紡糸原液6は、貯槽7の下端部に取り付けられたギアポンプ8により、凝固液11中に設けられたノズル9から押し出される。押し出された紡糸原液6は、凝固浴槽20の凝固液11内に供給(導入)される。凝固液11内で紡糸原液から溶媒が除去されてクモ糸タンパク質が凝固する。凝固したクモ糸タンパク質は、洗浄浴槽21に導かれ、洗浄浴槽21内の洗浄液12により洗浄された後、洗浄浴槽21内に設置された第一ニップローラ13と第二ニップローラ14により、乾燥装置4へと送られる。このとき、例えば、第二ニップローラ14の回転速度を第一ニップローラ13の回転速度よりも速く設定すると、回転速度比に応じた倍率で延伸されたタンパク質繊維36が得られる。洗浄液12中で延伸されたタンパク質繊維は、洗浄浴槽21内を離脱してから、乾燥装置4内を通過する際に乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られる。このようにして、タンパク質繊維が、紡糸装置10により、最終的にワインダーに巻き取られた巻回物5として得られる。なお、18a~18gは糸ガイドである。
【0265】
凝固液11の温度は、特に限定されないが、55℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下、30℃以下、25℃以下、20℃以下、10℃以下、又は5℃以下であってもよい。作業性、冷却コスト等の観点から、0℃以上であることが好ましい。なお、凝固液11の温度は、例えば、熱交換器を内部に備える凝固浴槽20と、冷却循環装置と、を有する紡糸装置10を用いることにより調整することができる。例えば、凝固浴槽内に設置した熱交換器に冷却循環装置で所定の温度まで冷却した媒体を流すことにより、凝固液11と熱交換器間での熱交換により温度を上記範囲内に調整することができる。この場合、媒体として凝固液11に用いる溶媒を循環することでより効率的な冷却が可能となる。
【0266】
凝固液が貯留される凝固浴槽は複数設けられていてもよい。
【0267】
凝固した人造構造タンパク質は、凝固浴槽又は洗浄浴槽を離脱してから、そのままワインダーにて巻き取られてもよいし、乾燥装置を通過し、乾燥され、その後、ワインダーにて巻き取られてもよい。
【0268】
凝固した人造構造タンパク質が凝固液中を通過する距離は、脱溶媒が効率的に行えればよく、ノズルからの紡糸原液の押出速度(吐出速度)等に応じて決定されるものであってもよい。凝固した人造構造タンパク質(又は紡糸原液)の凝固液中での滞留時間は、凝固した人造構造タンパク質が凝固液中を通過する距離、ノズルからの紡糸原液の押出速度等に応じて決定されるものであってもよい。
【0269】
「紡糸ドラフト(バスドラフト)」とは、凝固糸を引き取りローラ(ゴデットローラ)18bで引き取る速度(引き取り速度)を、紡糸口金から紡糸原液を吐出する線速度(吐出線速度)で割った値を意味する。吐出線速度と引き取り速度は、所望する繊維の繊維径等の物性や、製造量等にあわせて、それぞれ適宜調節してよい。
【0270】
紡糸ドラフト(バスドラフト)の値は、用いる紡糸口金の孔径に応じて適宜調節することができるが、例えば、孔径0.04mm~0.1mmの紡糸口金を用いる場合は、0.4超~20倍であることが好ましく、0.8超~20倍であることがより好ましく、0.8~15倍であることがより好ましく、0.8~10倍であることがより好ましく、1~7倍であることがより好ましく、2~7倍であることがより好ましく、2~6.5倍であることがより好ましく、3~6.5倍であることがさらに好ましく、3~6倍であることが特に好ましい。また、0.4超~16倍であってもよく、0.4超~15倍、0.4超~14倍で、0.4超~12倍、0.5~12倍、0.6~12倍、0.7~12倍、0.7~10倍又は0.5~10倍であってもよく、0.6~10倍、0.7~10倍、0.6~9倍、0.6~8倍、0.6~7倍、0.6~6倍又は0.6~5倍であってもよく、0.7~5倍、0.7~4.5倍、0.8~10倍、0.8超~10倍、0.8~9倍、0.8超~9倍、0.8~8倍、0.8超~8倍、0.8~7倍、0.8超~7倍、0.8~6.5倍、0.8超~6.5倍又は0.8超~6倍であってもよく、1~10倍、1~9倍、1~8倍、1~7倍、1~6.5倍、1~6倍又は1~5倍であってもよく、1.2~10倍、1.2~9倍、1.2~8倍、1.2~7倍、1.2~6.5倍、1.2~6倍又は1.2~5倍であってもよく、1.5~10倍、1.5~9倍、1.5~8倍、1.5~7倍、1.5~6.5倍、1.5~6倍、1.5~5.5倍又は1.5~5倍であってもよく、1.8~10倍、1.8~9倍、1.8~8倍、1.8~7倍、1.8~6.5倍、1.8~6倍、1.8~5.5倍又は1.8~5倍であってもよく、2~10倍、2~9倍、2~8倍、2~6倍、2~5.5倍又は2~5倍であってもよく、2.5~10倍、2.5~9倍、2.5~8倍、2.5~7倍、2.5~6.5倍、2.5~6倍、2.5~5.5倍又は2.5~5倍であってもよく、3~10倍、3~9倍、3~8倍、3~7倍、3~5.5倍又は3~5倍であってもよく、3.5~10倍、3.5~9倍、3.5~8倍、3.5~7倍、3.5~6倍、3.5~5.5倍又は3.5~5倍であってもよい。紡糸ドラフト(バスドラフト)の値が0.4超であると、より紡糸安定性が向上し、生産性を向上させることができる。紡糸ドラフト(バスドラフト)の値が20倍以下であれば、設備費用をより低減でき、繊維の細径化効果と応力向上効果を十分に得ることができる。
【0271】
〔延伸工程〕
本実施形態の人造構造タンパク質繊維の製造方法は、凝固させた人造構造タンパク質を延伸する工程(延伸工程)を更に含むものであってもよい。延伸方法としては、湿熱延伸、乾熱延伸等をあげることができる。延伸工程は、例えば、凝固浴槽20内で実施してもよく、洗浄浴槽21内で実施してもよい。延伸工程はまた、空気中で実施することもできる。
【0272】
洗浄浴槽21内で実施される延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中等で行う、いわゆる湿熱延伸であってもよい。湿熱延伸の温度は50~90℃であることが好ましい。該温度が50℃以上であると、糸の細孔径を安定的に小さくすることができる。また、温度が90℃以下であると、温度設定が容易であり紡糸安定性が向上する。温度は75~85℃がより好ましい。
【0273】
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、40~200℃であってもよく、50~180℃であってもよく、50~150℃であってもよく、75~90℃であってもよい。湿熱延伸における延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1~30倍であってもよく、2~25倍であってもよく、2~20倍であってもよく、2~15倍であってもよく、2~10倍であってもよく、2~8倍であってもよく、2~6倍であってもよく、2~4倍であってもよい。ただし、延伸倍率は、所望する繊維の太さ、機械物性などの特性が得られる範囲であれば限定されるものではない。
【0274】
乾熱延伸は、接触型の熱板、及び非接触型の炉などの装置を用いて行うことができるが、特に限定されるものではなく、繊維を所定の温度まで昇温させ、かつ所定の倍率で延伸が可能な装置であればよい。温度としては、例えば、100℃~270℃であってもよく、140℃~230℃であってもよく、140℃~200℃であってもよく、160℃~200℃であってもよく、160℃~180℃であってもよい。
【0275】
乾熱延伸工程における延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、1~30倍であってもよく、2~30倍であってもよく、2~20倍であってもよく、3~15倍であってもよく、3~10倍であることが好ましく、3~8倍であることがより好ましく、4~8倍であることがさらに好ましい。ただし、延伸倍率は、所望する繊維の太さ、機械物性などの特性が得られる範囲であれば限定されるものではない。
【0276】
延伸工程は、湿熱延伸及び乾熱延伸を、それぞれ単独で行うものであってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行うものであってもよい。すなわち、延伸工程として、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
【0277】
延伸工程を経た人造構造タンパク質繊維の最終的な延伸倍率の下限値は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、又は9倍のうちの何れかであってもよい。延伸工程を経た改変フィブロイン繊維の最終的な延伸倍率の上限値は、好ましくは40倍、30倍、20倍、15倍、14倍、13倍、12倍、11倍、又は10倍のうちの何れかであってもよい。また、例えば、最終的な延伸倍率は3~40倍であてよく、3~30倍であってもよく、5~30倍であってもよく、5~20倍であってもよく、5~15倍であってもよく、5~13倍であってもよい。ただし、延伸倍率は、所望する繊維の太さ、機械物性などの特性が得られる範囲であれば限定されるものではない。
【0278】
紡糸工程において、紡糸口金の口金形状、ホール形状、ホール数などは特に限定されるものではなく、所望の繊維径及び単糸本数等に応じて適宜選択できる。
【0279】
乾燥の前又は後に、必要に応じて、未延伸糸(若しくは前延伸糸)又は延伸糸に対して、帯電抑制性、収束性及び潤滑性等を付与する目的で油剤を付与してもよい。付与する油剤の種類及び付与する量等は、特に限定されるものではなく、繊維を使用する用途、繊維の取扱い性等を考慮し適宜調整することができる。
【0280】
紡糸口金のホール形状が円形である場合は、紡糸口金の孔径として0.01mm以上0.6mm以下を例示できる。孔径が0.01mm以上であると、圧力損失を低減することができ設備費用を抑えることができる。孔径が0.6mm以下であると、繊維径を細くするための延伸操作の必要性を低減することができ、吐出から巻き取りまでの間で延伸切れを起こす可能性を低減することができる。
【0281】
紡糸口金を通過する際の紡糸原液の温度、及び紡糸口金の温度は、特に限定されるものではなく、用いる紡糸原液の濃度及び粘度、有機溶媒の種類等により適宜調整すればよい。当該温度は、構造タンパク質の劣化等を防止するという観点から、30℃~100℃が好ましい。また、当該温度は、溶媒の揮発による圧力上昇、紡糸原液の固形化による配管内の閉塞が発生する可能性を低減するという観点から、用いる溶媒の沸点に満たない温度を上限とすることが好ましい。これにより工程安定性が向上する。
【0282】
本実施形態に係る製造方法は、紡糸原液の吐出前に紡糸原液を濾過する工程(濾過工程)、及び/又は吐出前に紡糸原液を脱泡する工程(脱泡工程)を更に備えるものであってもよい。
【0283】
(人造構造タンパク質繊維の繊維径評価)
繊維径の算出は、断面形状が円であると仮定して、下記式により算出できる。
繊維径[μm]={平均繊度[m/g]/(人造構造タンパク質の密度[g/cm]×π)}1/2
なお、繊維の平均繊度は、以下の手順で測定できる。
繊維束をランダムにサンプリングし、長さ90cmにカットして、温度20℃、相対湿度65%の環境下で12時間以上コンディショニングする。コンディショニング後、繊維束の質量を測定して平均繊度を算出し、単繊維あたりの平均繊度に換算する(サンプル数=5)。繊維束中の繊維の構成本数は、製造条件によって適宜選択すればよく、例えば1,000本(単糸1000本で構成されるマルチフィラメント)としてよい。
【0284】
(人造構造タンパク質繊維の機械物性評価)
JIS L1013に基づき、インストロン社製3345シリーズの引張試験機を用いて、人造構造タンパク質繊維の伸度と応力を測定する。試験条件は、温度20℃、相対湿度65%の環境下、試験長300mm、試験速度300mm/分として行えばよく、ロードセル容量は繊維の繊度に応じて適宜選択すればよい。測定値は、例えば、サンプル数n=5の平均値として算出してもよい。
【0285】
(人造構造タンパク質繊維の収縮性評価)
人造構造タンパク質繊維は、沸点未満の水に接触(湿潤)させることにより収縮する特性を有する。人造構造タンパク質繊維において、このような収縮が少ない程好ましい。収縮性は、以下の方法で求められる収縮率を指標として評価することができる。
【0286】
長さ約30cmの複数本の人造構造タンパク質繊維を束ね、繊度150デニールの繊維束とする。この繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で繊維束を40℃の水に90秒浸漬し収縮させる。その後、各繊維束を水中から取り出し、0.8gの鉛錘を取り付けたまま乾燥させ、乾燥後の各繊維束の長さを測定する。収縮率は下記式に従って算出される。なお、Lは水と接触させる前(紡糸後)の繊維の長さ(ここでは30cm)を示し、Lは収縮後(水への含浸処理後乾燥させた繊維)の繊維の長さを示す。
収縮率[%]={1-(L/L)}×100
【0287】
〔製品〕
本実施形態に係るタンパク質繊維は、繊維(長繊維、短繊維、モノフィラメント、又はマルチフィラメント等)又は糸(紡績糸、撚糸、仮撚糸、加工糸、混繊糸、又は混紡糸等)として、織物、編物、組み物、若しくは不織布等の布帛、紙及び綿等に応用できる。また、ロープ、手術用縫合糸、止血剤、電気部品用の可撓性止め具、さらには移植用生理活性材料(例えば、人工靭帯及び大動脈バンド)等の高強度用途にも応用できる。これらは、公知の方法により製造することができる。
【実施例
【0288】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0289】
〔人造構造タンパク質の製造〕
(1)発現ベクターの作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号44を有する人造構造タンパク質(改変フィブロインPRT966)を設計した。なお、配列番号44で示されるアミノ酸配列は、疎水度の向上を目的として、配列番号9で示されるアミノ酸配列(C末端に配列番号42で示されるアミノ酸配列が付加される前のアミノ酸配列)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列が付加されている。
【0290】
次に、設計した配列番号44でアミノ酸配列を有する人造構造タンパク質PRT966をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、それぞれタンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0291】
(2)人造構造タンパク質の発現
(1)で得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表6)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表6】
【0292】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表7)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【表7】
【0293】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、人造構造タンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする人造構造タンパク質サイズのバンドの出現により、目的とする人造構造タンパク質の発現を確認した。
【0294】
(3)人造構造タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、人造構造タンパク質(フィブロインPRT966)を得た。
【0295】
〔繊維形成能の評価〕
(1)ドープ液の調製
上記人造構造タンパク質の製造工程で得られた改変フィブロイン(PRT966)26質量%と、溶解用溶媒としてのギ酸(株式会社朝日化学社製、純度98%)74質量%とを混合し、攪拌しながら70℃のアルミブロックヒーターで1時間加温し、溶解させた。目開き1μmの金属フィルターで濾過し、脱泡してドープ液を得た。
【0296】
(2)ドープ液の吐出試験
(1)で得られたドープ液を10mlのシリンジに充填し、ノズル径0.2μmのノズルから凝固液中に吐出して、室温で改変フィブロインを凝固させた。凝固させた原繊維は、線速度2.39m/minで巻き取った。得られた原繊維を観察し、繊維形成能を目視で判定した。ドープ液の押出速度は0.075ml/分であった。使用した凝固液の種類は表8に示すとおりである。なお、汽水は山形県酒田市の河口部で採取した汽水であり、海水は山形県加茂市の海洋から採取した海水である。汽水及び海水の濃度[wt%]は、全溶質の濃度の概算値を示す。試験例26~28の混合溶液は、塩化ナトリウム水溶液に、接触した紡糸原液中のギ酸が溶解することを想定したものであり、凝固液の全質量(混合溶液)の割合を、塩化ナトリウム水溶液60質量%~80質量%及びギ酸20質量%~40質量%としたものである。試験例29のギ酸水溶液は、凝固液の全質量(混合溶液)の割合を、水80質量%及びギ酸20質量%としたものである。
【0297】
繊維形成能の評価結果を表8に示した。繊維形成能の評価基準は以下に示すとおりである。
◎:繊維が形成される。得られた繊維は可撓性があり、かつ均質である。
○:繊維が形成される。得られた繊維は可撓性がある。
△:繊維が形成される。
×:繊維が形成されない。
【0298】
【表8】
【0299】
表8に示すとおり、水、酸水溶液、塩水溶液及び混合溶液のいずれを使用した場合にも、可撓性がある繊維を形成することができた(試験例1~試験例26)。凝固液を塩水溶液とした場合には、可撓性があり、かつ均質な繊維を形成することができ、極めて良好な繊維形成能が示された(試験例4~試験例26)。特に、凝固液に資源が豊富で安価な水、硫酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、汽水、及び海水を用いることで、甚大な製造コスト削減が可能となる。また、凝固液に有機溶媒と凝固液の混合水溶液を用いた場合であっても、可撓性がある繊維を形成することができることが示された(試験例27~試験例30)。特に、ギ酸が溶解した凝固液が塩化ナトリウム水溶液である場合には、可撓性があり、かつ均質な繊維を形成することができた(試験例28~試験例30)。
【0300】
〔人造構造タンパク質繊維の製造及び評価〕
<実施例1~24>
(1)紡糸原液(ドープ液)の調製
上記人造構造タンパク質の製造工程で得られた人造構造タンパク質(フィブロインPRT966)30質量%と、溶解用溶媒としてのギ酸(株式会社朝日化学社製、純度98%)70質量%とを混合し、攪拌しながら40℃のアルミブロックヒーターで1時間加温し、溶解させた。目開き1μmの金属フィルターで濾過し、脱泡してドープ液を得た。
【0301】
(2)湿式紡糸
調製したドープ液をリザーブタンクに充填し、孔数200ホールの紡糸ノズル(紡糸口金)からギアポンプを用いて凝固浴槽中で吐出させ、糸条(原糸)を形成させた。糸条の引き取り速度は一定値とした。次いで、凝固させた原糸を水洗浄浴中で延伸した。水洗浄浴中における洗浄及び延伸後、乾熱板を用いて乾燥させ、得られた人造構造タンパク質繊維(改変フィブロイン繊維)をワインダーで巻き取った。湿式紡糸の条件は以下のとおりであった。表9に用いた凝固液とバスドラフトの値をそれぞれ示した。
紡糸口金の孔径:0.05mm
凝固液の温度:50℃
水洗浄浴の温度:40℃
延伸浴の温度:60℃
総延伸倍率:4.8倍
乾燥温度:60℃
【0302】
(3)吐出安定性評価
各凝固液の吐出安定性の評価結果を表9に示した。吐出安定性の評価は、引き取り速度を一定とし、吐出線速度の値を変えて行なった。塩化物水溶液として塩化ナトリウム水溶液、硫酸塩として硫酸ナトリウム水溶液、カルボン酸塩としてクエン酸ナトリウム水溶液を用いた。吐出安定性の評価基準は以下に示す通りである。
◎:吐出直後の糸条にたるみがなく、通繊可能
○:吐出直後の糸条にわずかなたるみがあるが、通繊可能
△:吐出直後の糸条のたるみが大きいが、通繊可能
×:吐出直後の糸条のたるみが大きく、通繊不可能
【0303】
【表9】
【0304】
表9に示した通り、凝固液に水を用いた場合にも、バスドラフトが1.0~2.7の範囲において繊維の通繊が可能であったが(実施例1~6)、凝固液を塩水溶液(実施例7~24)とした場合には、より吐出安定性が向上した。特に凝固液に硫酸塩水溶液(硫酸ナトリウム水溶液、実施例13~18)とカルボン酸水溶液(クエン酸ナトリウム水溶液、実施例19~24)を用いた場合、より吐出安定性に優れており、吐出線速度をさらに高めることができ、生産性を向上させることが可能であった。
【0305】
<実施例25~46>
(4)紡糸安定性評価
孔数1,000ホールの紡糸口金(紡糸ノズル)を用い、湿式紡糸の条件を表10に示す紡糸口金の孔径とバスドラフトの値とした他は、実施例1~24と同様の手順で湿式紡糸を行い、人造構造タンパク質繊維を製造した。得られた人造構造タンパク質繊維の紡糸安定性を糸条のたるみ及び糸切れによって評価し、その結果表10に示す。
凝固液:硫酸ナトリウム14.4質量%及び水65.6質量%(18質量%硫酸ナトリウム水溶液が80質量%)、並びにギ酸20質量%の混合溶液
凝固液の温度:40℃
総延伸倍率:5倍
【0306】
【表10】
【0307】
表10に示したとおり、孔径0.04mm(実施例25~30)と0.06mm(実施例31~35)の紡糸口金を用いた湿式紡糸では、ドープ液を吐出して糸条を形成させた際、それぞれバスドラフトが0.5~10倍(実施例25~30)と0.7~10倍(実施例31~35)の広範囲にわたって、糸条にたるみと糸切れを発生させることなく、安定して繊維を製造することができた。
【0308】
なお、バスドラフト0.5未満と10倍超(孔径0.04mm)並びにバスドラフト0.7未満と10倍超(孔径0.06mm)の範囲に関しては、吐出速度と引き取り速度に関する設備上の下限値により、試験することができなかったが、同様に繊維製造が可能であると考えられる。
【0309】
表10に示したとおり、孔径0.08mm(実施例36~40)と0.1mm(実施例41~46)の紡糸口金を用いた湿式紡糸では、ドープ液を吐出して糸条を形成させた際、それぞれバスドラフトが1.4~20倍(実施例36~40)と1.8~16倍(実施例41~46)の広範囲にわたって、糸条にたるみと糸切れを発生させることなく、安定して繊維を製造することができた。なお、バスドラフト1.4未満と20倍超(孔径0.08mm)、並びにバスドラフト1.8未満と16倍超(孔径0.08mm)の範囲に関しては、吐出速度と引き取り速度に関する設備上の下限値により、試験することができなかったが、同様に繊維製造が可能であると考えられる。
【0310】
以上のとおり、広範囲のバスドラフト(0.5~20)において、紡糸安定性が得られた。バスドラフトの値を広範囲に調節可能なことにより、所望する繊維の繊維径に合わせて、より孔径が大きな紡糸口金を用いた湿式紡糸が可能である。本製造方法により、生産性をより向上させられることが示された。
【0311】
<実施例47~56>
(5)湿式紡糸
(実施例47~48)
紡糸口金(紡糸ノズル)の孔径とバスドラフトを表11の値とし、凝固液に11.9質量%硫酸ナトリウム水溶液を用いた他は、実施例25~30と同様にして湿式紡糸を行い、人造構造タンパク質繊維(改変フィブロイン繊維)を製造した。
(実施例49~56)
紡糸口金の孔径とバスドラフトを表11の値とした他は、実施例25~30と同様にして湿式紡糸を行い、人造構造タンパク質繊維(改変フィブロイン繊維)を製造した。
【0312】
(6)物性評価
(5)で得られた人造構造タンパク質繊維の物性評価は以下の繊維径評価、機械物性評価及び繊維の収縮性評価によって行い、その結果を表11及び表12に示した。
【0313】
(繊維径評価)
繊維径の算出は、断面形状が円であると仮定して、下記式により算出した。
繊維径[μm]={平均繊度[m/g]/(人造構造タンパク質の密度[g/cm]×π)}1/2
なお、繊維の平均繊度は、以下の手順で測定した。繊維束をランダムにサンプリングし、長さ90cmにカットして、温度20℃、相対湿度65%の環境下で12時間以上コンディショニングした。コンディショニング後、繊維束の質量を測定して平均繊度を算出し、単繊維あたりの平均繊度に換算した。サンプル数はn=5とした。人造構造タンパク質(改変フィブロインPRT966)の密度は1.34[g/cm]であった。
【0314】
(機械物性評価)
JIS L1013に基づき、インストロン社製3345シリーズの引張試験機を用いて、造構造タンパク質繊維の伸度と応力を測定した。試験条件は、温度20℃、相対湿度65%の環境下、ロードセル容量50N、試験長300mm、試験速度300mm/分として行った。測定値は、サンプル数n=5の平均値として算出した。
【0315】
(繊維の収縮性評価)
収縮性は、以下の方法で求められる収縮率を指標として評価した。長さ約30cmの複数本の人造構造タンパク質繊維を束ね、繊度150デニールの繊維束とする。この繊維束に0.8gの鉛錘を取り付け、その状態で繊維束を40℃の水に90秒浸漬し収縮させた。その後、各繊維束を水中から取り出し、0.8gの鉛錘を取り付けたまま乾燥させ、乾燥後の各繊維束の長さを測定した。収縮率は、サンプル数をn=2とし、下記式に従って算出した。
収縮率[%]={1-(L/L)}×100
なお、Lは水と接触させる前(紡糸後)の繊維の長さ(ここでは30cm)を示し、Lは収縮後(水への含浸処理後乾燥させた繊維)の繊維の長さを示す。
【0316】
<比較例>
バスドラフトの値を0.4倍とした他は、実施例25~30と同様にして孔径0.04mmの紡糸口金を用いて湿式紡糸を行い、人造構造タンパク質繊維(改変フィブロイン繊維)を製造した。得られた繊維の物性評価の結果は表11及び表12に示す。
【0317】
【表11】
【表12】
【0318】
表11に示したとおり、バスドラフトを0.8~6.4倍と大きくした人造構造タンパク質繊維(実施例47~56)では、バスドラフトを0.4倍と小さくした人造構造タンパク質繊維(比較例)と比較して、繊維径が細径化したことに加えて、さらに同等以上の応力を有する繊維が得られ、予想されない秀逸な結果が得られた。特に、バスドラフトを2.0倍とした場合、比較例と比較すると、8μmの細径繊維が得られたことに加えて、応力が向上した。さらに、表12に示したとおり、水に対する収縮率が低減するという効果が得られ、極めて秀逸な効果が得られた(実施例48)。また、バスドラフトを6.4倍とした場合、比較例に比べて繊維径が細径化し、応力の値が184%と最も向上した(実施例56)。以上のとおり、バスドラフトを0.4超とすることで、繊維径が細径化した同等以上の応力値を有する繊維が得られることが示された。また、バスドラフトを0.8超とすることで、さらに応力が向上するという効果が奏されることも示された。なお、表11及び表12の応力、伸度、及び収縮率の相対値は、比較例の人造構造タンパク質繊維の応力、伸度、及び収縮率の値をそれぞれ100[%]としたときの相対値である。
【符号の説明】
【0319】
1…押出し装置、2…未延伸糸製造装置、3…湿熱延伸装置、4…乾燥装置、6…紡糸原液、10…紡糸装置、20…凝固浴槽、21…洗浄浴槽、36…タンパク質繊維。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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