(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】遮音引き戸構造
(51)【国際特許分類】
E06B 5/20 20060101AFI20240614BHJP
E06B 7/22 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
E06B5/20
E06B7/22 B
(21)【出願番号】P 2022143594
(22)【出願日】2022-09-09
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504374849
【氏名又は名称】株式会社泉陽商会
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100217881
【氏名又は名称】中谷 由美
(72)【発明者】
【氏名】田井 博康
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-052291(JP,A)
【文献】特開2019-152021(JP,A)
【文献】特開2011-047230(JP,A)
【文献】特開平08-004443(JP,A)
【文献】特開2019-143322(JP,A)
【文献】特開2018-204255(JP,A)
【文献】特開2012-149486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 15/00-15/58
E06B 5/00- 5/20
E06B 7/00- 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き戸(10)の上端縁(10A)・下端縁(10B)・前方側端縁(10C)・後方側端縁(10D)と、出入口(P)を形成している上枠(2)・下枠(3)・前方縦枠(4A)・後方縦枠(4B)とが、引き戸閉鎖状態下で、各々が対応する上辺部位(21)・下辺部位(22)・前側辺部位(23)・後側辺部位(24)には、
遮音シール材(S)を配設し、
該遮音シール材(S)は、
取付片部(30)と、該取付片部(30)から片持梁状に突設された横断
面薄肉円弧状の弾性変形自在リップ(20)を、備え
、
上記遮音シール材(S)の上記弾性変形自在リップ(20)の先端と基端を除いた中間部位が、相手部材に接触して遮音性を発揮するよう構成されたことを、
特徴とする遮音引き戸構造。
【請求項2】
上記引き戸(10)の上端縁(10A)には吊車(7)(7)が付設され、かつ、上記上枠(2)には、上記吊車(7)(7)が懸架されて転動案内されるレール部材(8)が配設され、
上記引き戸(10)が、出入口開放状態から出入口閉鎖状態まで走行するに従って、上記引き戸(10)はしだいに下降するように、上記レール部材(8)は正面視傾斜状として配設されている請求項1記載の遮音引き戸構造。
【請求項3】
上記引き戸(10)の上端縁(10A)において、上記遮音シール材(S)を、弾性変形自在リップ(20)が下方向を向いた下向き姿勢にて固設され、
上記引き戸(10)の下端縁(10B)において、上記遮音シール材(S)を、弾性変形自在リップ(20)が下方向を向いた下向き姿勢にて固設し、
上記引き戸(10)が、出入口開放状態から出入口閉鎖状態まで走行する際に、上記下向き姿勢の上記両リップ(20)(20)は、各々、上枠(2)・下枠(3)のリップ接触部位(Y)に対して、しだいに接近しつつ弾性的に圧縮変形してゆき、出入口閉鎖状態下では、最大圧縮変形状態として遮音性を発揮するよう構成した請求項2記載の遮音引き戸構造。
【請求項4】
正面視下傾状のレール部材(8)の勾配は、レール全長寸法を(L)mmとすると共に上下落差を(ΔH)mmとすれば、次の数式(1)のように、設定した請求項2又は3記載の遮音引き戸構造。
2.5 /1000≦ΔH/L≦10/1000・・・数式(1)
【請求項5】
引き戸(10)の上端縁(10A)を、上枠(2)の内部へ、下方から侵入させ、
上記レール部材(8)が固着された上記上枠(2)の鉛直壁部(18)に、ゴム又はプラスチック製スポンジ帯状体(29)を固着し、しかも、該スポンジ帯状体(29)の横断面矩形の長辺(29A)を鉛直方向として、かつ、上記侵入させた引き戸(10)の上端縁(10A)に近接状態として、配設し、
引き戸閉鎖状態下での上記上辺部位(21)の遮音性を向上させるように構成した請求項2記載の遮音引き戸構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院,クリニック,音楽教室,学校の教室等に好適な遮音引き戸構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遮音性を備えた引き戸は、以下のような欠点があって、普及が遅れている。即ち、 (i) 引き戸の開閉の際、遮音パッキンが走行抵抗となって大きな力を必要とする点、 (ii) (扉に比較して、)左右方向に大きく引き戸が走行するために遮音パッキンが早期に摩耗損傷を受けて寿命が短い点、(iii) 引き戸の全閉状態において、前後方向のガタツキが、扉(ドア)に比べて、大きく、従来の遮音パッキンでは、開口部の周囲枠と、引き戸の4辺との間を、十分に密閉(遮音)することが至難である点。
そこで、従来、特許文献1に示すような遮音機構を備えた遮音引き戸構造が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1にて提案された従来の遮音引き戸構造は、引き戸本体を、上枠のレールから吊下げて開閉走行させる構成であって、このレールの上縁に弧状凹部を2個形成すると共に、引き戸が(開状態から)全閉状態にまで走行してくると、2個の吊車(コロ)が上記凹所に落ち込んで、引き戸が下方へ落下する。
開口部の下枠には、上方開口溝付パッキンが固着されており、引き戸が下方へ落下することで、引き戸の下端縁の一部(接触板)が上記パッキンの内部へ侵入して、遮音させる構成である。
【0005】
このような特許文献1の発明では、以下のような欠点(問題)がある。
即ち、 (i) 引き戸の開閉の際の走行抵抗は小さく、スムーズな開閉走行が可能であるが、レールの弧状凹部へ吊車(コロ)が落ち込む際に比較的大きな衝撃音が発生する欠点。 (ii) 全閉状態から引き戸を開き始める際に(レールの弧状凹部から吊車(コロ)を引き出すために)大きな力を必要とする欠点。(iii) 開口部の下辺(靴ずり)に付設の上方開口状パッキンに土・砂・塵等が侵入し易く清掃が面倒であり、かつ、パッキンの寿命が短いという欠点。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、引き戸の上端縁・下端縁・前方側端縁・後方側端縁と、出入口を形成している上枠・下枠・前方縦枠・後方縦枠とが、引き戸閉鎖状態下で、各々が対応する上辺部位・下辺部位・前側辺部位・後側辺部位には;遮音シール材を配設し;該遮音シール材は、取付片部と、該取付片部から片持梁状に突設された横断面薄肉円弧状の弾性変形自在リップを、備え;上記遮音シール材の上記弾性変形自在リップの先端と基端を除いた中間部位が、相手部材に接触して遮音性を発揮するよう構成されている。
また、上記引き戸の上端縁には吊車が付設され、かつ、上記上枠には、上記吊車が懸架されて転動案内されるレール部材が配設され;上記引き戸が、出入口開放状態から出入口閉鎖状態まで走行するに従って、上記引き戸はしだいに下降するように、上記レール部材は正面視傾斜状として配設されている。
また、上記引き戸の上端縁において、上記遮音シール材を、弾性変形自在リップが下方向を向いた下向き姿勢にて固設され;上記引き戸の下端縁において、上記遮音シール材を、弾性変形自在リップが下方向を向いた下向き姿勢にて固設し;上記引き戸が、出入口開放状態から出入口閉鎖状態まで走行する際に、上記下向き姿勢の上記両リップは、各々、上枠・下枠のリップ接触部位に対して、しだいに接近しつつ弾性的に圧縮変形してゆき、出入口閉鎖状態下では、最大圧縮変形状態として遮音性を発揮するよう構成した。
【0007】
また、正面視下傾状のレール部材の勾配は、レール全長寸法をLmmとすると共に上下落差をΔHmmとすれば、次の数式(1)のように、設定した。
2.5 /1000≦ΔH/L≦10/1000・・・数式(1)
また、引き戸の上端縁を、上枠の内部へ、下方から侵入させ;上記レール部材が固着された上記上枠の鉛直壁部に、ゴム又はプラスチック製スポンジ帯状体を固着し、しかも、該スポンジ帯状体の横断面矩形の長辺を鉛直方向として、かつ、上記侵入させた引き戸の上端縁に近接状態として、配設し;引き戸閉鎖状態下での上記上辺部位の遮音性を向上させるように構成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、引き戸構造の遮音性が、簡易な構成にて十分に高く維持できる。かつ、横断面が薄肉円弧状の弾性変形自在リップを備えた遮音シール材は、耐久性に優れると共に、引き戸の開閉時の走行(摩擦)抵抗が小さく、スムーズかつ快適な引き戸開閉作動を実現できた。
特に、遮音シール材の弾性変形自在リップ(の中間部位)は、薄肉円弧状であるので、引き戸の開閉時の走行(摩擦)抵抗は、長期使用期間にわたって小さく、スムーズかつ快適に引き戸を開閉できる。かつ、リップの寿命も長い(耐久性に優れる)。
さらに、下辺部位に土・砂・塵等が溜らず、下枠(靴ずり)の清掃も容易であり、遮音シール材の寿命も長く、全体の耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の一形態を示す正面図であって、(A)は全体の正面図、(B)は要部拡大正面図である。
【
図2】
図1(A)の(II-II)断面拡大図である。
【
図8】遮音シール材の各種の横断面形状説明図である。
【
図9】遮音シール材の各種の横断面形状説明図である。
【
図10】遮音シール材の各種の横断面形状説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1~
図7に示した本発明の実施の一形態に於て、10は引き戸であって、外面板11と内面板12の間に空隙室13を形成して、ロックウール等の断熱(遮音)材14が充填されている。ロックウールとした場合には、高周波の騒音等に対して高い遮音性能を発揮する。
【0011】
1は取付枠(建具枠)であって、上枠2と下枠3と縦枠4,4と中間縦枠5等から構成される。
図1に於て、Pは出入口を示す。引き戸10は、上端縁10A・下端縁10B・前方側端縁10C・後方側端縁10Dをもって、正面視形状は矩形である。
出入口Pは、上枠2・下枠3・前方縦枠4A・後方縦枠4Bをもって、形成されている。なお、出入口Pの後方縦枠4Bは、(
図1にあっては)中間縦枠5をもって構成している場合を例示する。
【0012】
図8又は
図9、或いは
図10に示すように、横断面が(曲率半径Rの)薄肉円弧状の弾性変形自在リップ20を有する遮音シール材Sが、
図1に示した引き戸閉鎖状態下における出入口Pの上辺部位21・下辺部位22・前(側)辺部位23・後(側)辺部位24の各々に、配設されている。
【0013】
上辺部位21は、引き戸10の上端縁10Aと、出入口Pを形成する上枠2とが、対応する部位である(
図5,
図6参照)。
下辺部位22は、引き戸10の下端縁10Bと、出入口Pを形成する下枠3とが、対応する部位である(
図5,
図7参照)。
【0014】
また、前側辺部位23は、引き戸10の前方側端縁10Cと、出入口Pを形成する前方縦枠4Aとが、対応する部位である(
図2,
図3参照)。
また、後側辺部位24は、引き戸10の後方側端縁10Dと、出入口Pを形成する後方縦枠4Bとが、対応する部位である(
図2,
図4参照)。
【0015】
上述の上辺部位21・下辺部位22・前側辺部位23・後側辺部位24には、薄肉円弧状の(ゴム又はプラスチック製の)弾性変形自在リップ20を有する遮音シール材Sが、付設されている。
ここで、遮音シール材Sについて説明する。
図8では、横断面一文字型の(他部材への)取付片部30を有すると共に、取付片部30の一端から、薄肉円弧状のリップ20が突設されている。
【0016】
図8(a)では、薄肉円弧状のリップ20が4半円の短いものである。
図8(b)では、取付片部30の一端から直角状に起立部31を立ち上げて、その先に小曲率半径Rの円弧部を連設した形状である。
図8(C)では、(
図8(a)に比べて)取付片部30の肉厚を大きくすると共にリップ20の肉厚を小さく設定している。また、
図8(d)では、
図8(b)よりも断面積・外形が大きく、かつ、取付片部30の肉厚と長さを大に設定している。
図8に示した取付片部30の下面32に、接着剤等を塗布して、相手取付面に固着することができる。又は、取付片部30を取付金属板片等で押圧(挟圧)固定するも好ましい(
図3参照)。
【0017】
図9(a)(b)(c)(d)は、各々、
図8(a)(b)(c)(d)と略同一断面形状の弾性変形自在リップ20を有しているが、相違点は、取付片部30が断面L字型である点である。
L字型断面の取付片部30は、
図9に示す如く、直角状隅部33を形成する二面P
1 ,P
2 に、接着剤等で、強固に固着できる利点がある。
【0018】
また、
図10(a)(b)(c)(d)は、各々、
図8(a)(b)(c)(d)と略同一断面形状の弾性変形自在リップ20を有しているが、相違点は、取付片部30が(
図9とは逆方向に折曲った)断面L字型とした点にある。
この断面L字型の取付片部30は、
図10に示す如く、直角状角部34を形成する二面P
1 ,P
2 に、接着剤等で、強固に固着できる利点がある。
【0019】
次に、引き戸10の上端縁10Aには吊車7,7が付設されている。さらに上枠2には、吊車7,7が懸架されて転動案内されるレール部材8が配設(固着)されている。つまり、ボルト28には、レール部材8が固着されている。
しかも、引き戸10が、出入口開放状態から、出入口閉鎖状態まで、
図1の矢印N
10の方向に、走行すると、この走行に従って、引き戸10がしだいに下降するように、レール部材8は、(
図1に示す如く、)正面視傾斜状として配設されている。
即ち、
図1(B)に於て、レール部材8の吊車転動部8A(
図6参照)を一点鎖線をもって図示したが、小角度βだけ傾斜状であることを示している。
【0020】
正面視下傾状のレール部材8の上記小角度(勾配)βを、レール全長寸法をLmmとすると共に上下落差をΔHmmとして、このLとΔHを用いて表示すれば、次の数式(1)のように、表現できる(設定する)。
即ち、 2.5 /1000≦ΔH/L≦10/1000・・・数式(1)
【0021】
次に、
図5と
図6に示すように、上辺部位21に於て、引き戸10の上端縁10Aを、上枠2の内部へ、下方から侵入させた状態としている。上枠2は、レール部材8が固着された鉛直壁部18と、該鉛直壁部18の上端の帯状水平片部19に固着具17にて固着された横断面略コの字状のカバー(化粧)部材16等から、構成されている。
このような上枠2の内部へ、下方から、引き戸10の上端縁10Aを侵入させ、さらに、上端縁10Aの水平状上端面壁部26の上面に、吊車取付片7Bを当てて、ボルト27等にて固着する。
【0022】
そして、
図5と
図6に於て、29はゴム又はプラスチック製のスポンジ帯状体であって、上記レール部材8が固着された上枠2の鉛直壁部18に、固着する。
このスポンジ帯状体29は横断面矩形であって、矩形横断面における長辺29Aを上下方向として、鉛直壁部18に固着する。
図6と
図7に於て明らかな如く、矩形横断面の長辺29A,29Aの一方が鉛直壁部18に固着され、他方は、引き戸10上端縁10Aの外面板11に対して、小ギャップG
11をもって―――近接状態で―――対向することとなり、上方外部からの騒音等の侵入を遮断する。
【0023】
繰返して言えば、
図6のように、引き戸10が上枠2の内部へ下方から深く侵入状態となり、かつ、スポンジ帯状体29の横断面矩形の長辺29Aが小ギャップG
11をもって、侵入状態の上端縁10Aに接近する―――近接状態となる―――ことで、上辺部位21の遮音性は著しく向上できる。
【0024】
次に、
図5と
図6に示すように、引き戸10の上端縁10Aに於て、
図8に例示した(いずれかの)断面形状の遮音シール材Sを、弾性変形自在リップ20が下方向を向いた下向き姿勢にて、固設されている。
しかも、
図5,
図6では、前述のスポンジ帯状体29の上方の短辺29Bに対して、出入口(引き戸)閉鎖状態下で、下向き姿勢のリップ20は、最大圧縮変形状態として遮音性を発揮する。
言い換えると、
図5,
図6では、上枠2のリップ接触部位Yは、スポンジ帯状体29の上方の短辺29Bが該当する。
【0025】
さらに、
図5と
図7に示すように、引き戸10の下端縁10Bにおいて、
図8に例示した(いずれかの)断面形状の遮音シール材Sを、弾性変形自在リップ20が下方向を向いた下向き姿勢にて、固設されている。
しかも、
図5,
図7では、下枠3が靴ずりの場合を例示し、さらに、引き戸10の下端縁10Bの振れ止め用のローラ36を靴ずりに取着した場合を例示する。なお、
図7では振れ止め用のローラ36を左寄りに一個図示しているが、紙面の後方(又は前方)には、図示省略の別の振れ止め用のローラ36を、右寄りに、配置している。そして、下枠(靴ずり)3の上面に対して、下向き姿勢のリップ20は、最大圧縮変形姿勢として下辺部位22における遮音性を発揮する。
【0026】
ここで、
図5~
図7に示した状態となる前の状況から説明すれば、以下の通りである。
即ち、引き戸10が、
図1(A)の正面図の左半分の位置に在る出入口開放状態から、人の手でハンドル38等を握って、矢印N
10方向に移動(走行)させて、出入口閉鎖状態(
図1(A)(B)の状態)まで走行させる際に、下向き姿勢の上記両リップ20,20は、各々、上枠2・下枠3のリップ接触部位Yに対して、しだいに接近しつつ弾性的に圧縮変形してゆき、出入口閉鎖状態下では、最大圧縮変形状態として遮音性を発揮するよう構成した。
【0027】
なお、
図6に於て、遮音シール材Sは、
図8に例示のものが使用できるが、さらには、
図9に例示した二面P
1 ,P
2 に接着等で固着できるものも強度上から好適である。また、
図7に於て、遮音シール材Sとしては、
図8が使用できるが、
図10に示したような角を有する二面P
1 ,P
2 に接着等で固着できるものも強度上から好適である。
【0028】
次に、
図2と
図3に示したように、引き戸10の前方側端縁10Cには、ゴム又はプラスチック製のクッション材39が取着されている。
具体的には、外面板11と内面板12の前端を折曲げて、係止小片11A,12Aを形成して、上記クッション材39の小凹溝39A,39Aに差込んで、係止している。さらに、コの字型板片40を内外面板12,11の間に固着して、クッション材39の内部底壁を受持させている。
しかも、クッション材39は円弧状膨出膜部39Bを一体に有し、かつ、中空室39Cを有する。
【0029】
また、前方縦枠4Aには、浅い台形状の凹溝41が形成されると共に、薄いスペーサ42を介して、薄い金属板から成る、断面形状が台形の受持板43が固着されている。
この受持板43は、クッション材39の円弧状膨出膜部39Bが弾発的に圧接して、引き戸10が前方縦枠4Aに当接する際の衝撃を緩和し、さらには、遮音性を高める。
そして、遮音シール材S,Sの各々は、受持板43の左右傾斜片部と、前方縦枠4Aの凹溝41の左右傾斜内面との間に、挟圧状態で取着されている。
【0030】
図8の(a)又は(c)に例示の遮音シール材Sの取付片部30を前述の
挟圧状態で取着して、その弾性変形自在リップ20は、クッション材39の円弧状膨出膜部39Bに弾発的に圧接して、遮音性を発揮する。なお、内外面板12,11の前端角部12C,11Cに対して、リップ20を弾発的に圧接させるのも好ましい。
【0031】
次に、
図2と
図4に示したように、引き戸10の後方側端縁10Dには、
図8(b)に例示の2個の遮音シール材S,Sを、背中合せで配設している。
具体的に説明すると、引き戸10の後方側端縁10Dに於て、外面板11の後端に係止小片11Dを形成し、内面板12の後端に係止小片12Dを形成する。チャンネル型断面の薄い金属板の端部封止材44をもって、内鍔状の両小片11D,12Dの間を閉鎖する。
そして、スペーサ材45を介して、L字状板片46を固着するが、このL字状板片46は内面板12に溶接等で固着され、自由端46Fは外面板11よりも屋外方向に少しだけ延伸状として、これに2個の遮音シール材S,Sを固着する。
【0032】
屋内側の遮音シール材Sは、係止小片11Dに常時接触しており、スペーサ材45を介して室内側へ騒音が侵入することを防止する。
これに対し、屋外側の遮音シール材Sは、中間縦枠5(後方縦枠4B)に対して、引き戸全閉状態で接触し、点線矢印線Xのように騒音が侵入するのを防止している。
2個の遮音シール材S,Sとしては、
図8(b)又は(d)に示したように起立部31を有する形状のものが好ましい。つまり、背中合せで、
図4の如く、相互に補強しつつ正規姿勢を常に維持し易いからである。
【0033】
本発明は、以上詳述したように、引き戸10の上端縁10A・下端縁10B・前方側端縁10C・後方側端縁10Dと、出入口Pを形成している上枠2・下枠3・前方縦枠4A・後方縦枠4Bとが、引き戸閉鎖状態下で、各々が対応する上辺部位21・下辺部位22・前側辺部位23・後側辺部位24には;遮音シール材Sを配設し;該遮音シール材Sは、
取付片部30と、該取付片部30から片持梁状に突設された横断
面薄肉円弧状の弾性変形自在リップ20を、備え
;上記遮音シール材Sの上記弾性変形自在リップ20の先端と基端を除いた中間部位が、相手部材に接触して遮音性を発揮するよう構成されているので、引き戸10を開閉作動させる際に小さな外力を(人の手で)加えれば、軽快かつスムーズに引き戸10を走らせることが可能となる。即ち、薄肉円弧状の弾性変形自在リップ20は、
図8~
図10に示したような薄肉円弧状で、弾性変形し易いので、上辺部位21と下辺部位22の走行時の摩擦抵抗が小さい。また、前辺部位23と後辺部位24と共に、引き戸10の四辺は確実に高い遮音性能を発揮でき、病院,クリニック,音楽教室,学校の教室等に好適である。さらに、薄肉円弧状の弾性変形自在リップ20を有する遮音シール材Sは、横断面が小型であるので、
図2~
図6に示したように、上辺部位21と下辺部位22と前側辺部位23と後側辺部位24の各々において、コンパクトに付設できて、人の目にも、ほとんど目立たずに済み、外観意匠も優れている。
しかも、遮音シール材Sの弾性変形自在リップ20(の中間部位)は、薄肉円弧状であるので、引き戸の開閉時の走行(摩擦)抵抗は、長期使用期間にわたって小さく、スムーズかつ快適に引き戸を開閉できる。かつ、リップ20の寿命も長い(耐久性に優れる)。
【0034】
また、本発明は、上記引き戸10の上端縁10Aには吊車7,7が付設され、かつ、上記上枠2には、上記吊車7,7が懸架されて転動案内されるレール部材8が配設され;上記引き戸10が、出入口開放状態から出入口閉鎖状態まで走行するに従って、上記引き戸10はしだいに下降するように、上記レール部材8は正面視傾斜状として配設されているので、引き戸10は、全開放状態から出入口閉鎖状態まで極めて静かに軽快に走行さえ得る。
また、遮音シール材Sの摩耗も小さくて済み、寿命が長い。
【0035】
また、本発明は、上記引き戸10の上端縁10Aにおいて、上記遮音シール材Sを、弾性変形自在リップ20が下方向を向いた下向き姿勢にて固設され;上記引き戸10の下端縁10Bにおいて、上記遮音シール材Sを、弾性変形自在リップ20が下方向を向いた下向き姿勢にて固設し;上記引き戸10が、出入口開放状態から出入口閉鎖状態まで走行する際に、上記下向き姿勢の上記両リップ20,20は、各々、上枠2・下枠3のリップ接触部位Yに対して、しだいに接近しつつ弾性的に圧縮変形してゆき、出入口閉鎖状態下では、最大圧縮変形状態として遮音性を発揮するよう構成したので、上端縁10A及び下端縁10Bに付設の遮音シール材S,Sの弾性変形自在リップ20,20は、常に同一圧縮量をもって(同調しつつ)圧縮変形するので、人の手で軽く引き戸10を閉鎖方向に移動できる。そして、出入口閉鎖状態下では、最も確実に高い遮音性を発揮することが可能である。
【0036】
また、正面視下傾状のレール部材8の勾配は、レール全長寸法をLmmとすると共に上下落差をΔHmmとすれば、次の数式(1)のように、設定した。
2.5 /1000≦ΔH/L≦10/1000・・・数式(1)
このように勾配を設定したことによって、人の手で引き戸10を開放してゆく際は(無理なく)小さな力で走行させ得る。また、引き戸10を閉鎖する際も、(勝手に引き戸10が自走せずに)適度の小さな力で走行させつつ、遮音シール材Sのリップ20が、上枠2・下枠3・前後縦枠4A,4Bの各々に対して、スムーズかつ静粛に、遮音状態となって、停止する。また、遮音シール材Sの寿命も長く保たれる。特に、特許文献1の前記欠点 (i)(ii)(iii)を、見事に解消できる。
【0037】
また、引き戸10の上端縁10Aを、上枠2の内部へ、下方から侵入させ;上記レール部材8が固着された上記上枠2の鉛直壁部18に、ゴム又はプラスチック製スポンジ帯状体29を固着し、しかも、該スポンジ帯状体29の横断面矩形の長辺29Aを鉛直方向として、かつ、上記侵入させた引き戸10の上端縁10Aに近接状態として、配設し;引き戸閉鎖状態下での上記上辺部位21の遮音性を向上させるように構成したので、スポンジ帯状体29自体の吸音性、及び、スポンジ帯状体29と上端縁10Aとが近接状態で、狭くなっていること、さらに、音伝播距離が長くなることによって、上辺部位21の遮音性が十分高くなる。
【符号の説明】
【0038】
2 上枠
3 下枠
4A 前方縦枠
4B 後方縦枠
7 吊車
8 レール部材
10 引き戸
10A 上端縁
10B 下端縁
10C 前方側端縁
10D 後方側端縁
18 鉛直壁部
20 弾性変形自在リップ
21 上辺部位
22 下辺部位
23 前(側)辺部位
24 後(側)辺部位
29 スポンジ帯状体
29A 長辺
30 取付片部
L レール全長寸法
P 出入口
S 遮音シール材
Y リップ接触部位
ΔH 落差