(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】発電菌並びにそれを用いた微生物燃料電池及び発電方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
(21)【出願番号】P 2023000406
(22)【出願日】2023-01-05
(62)【分割の表示】P 2018128206の分割
【原出願日】2018-07-05
【審査請求日】2023-01-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第24回日本生物工学会九州支部沖縄大会、2017年12月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 宮崎大学農学部応用生物科学科 修士論文発表会、2018年1月31日
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02709
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙吾
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093839(JP,A)
【文献】特開2011-036194(JP,A)
【文献】特開2004-261125(JP,A)
【文献】特開2013-121327(JP,A)
【文献】ZHAO, X et al.,Clostridium guangxiense sp. nov. and Clostridium neuense sp. nov., two phylogenetically closely related hydrogen-producing species isolated from lake sediment,INTERNATIONAL JOURNAL OF SYSTEMATIC AND EVOLUTIONARY MICROBIOLOGY,2017年,Vol. 67,pp. 710-715
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE P-02709であ
るクロストリジウム・ニューエンス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電菌並びにそれを用いた微生物燃料電池及び発電方法に関する。本発明によれば、優れた微生物燃料電池を作製することが可能であり、効率よく発電することができる。
【背景技術】
【0002】
微生物燃料電池(Microbial fuel cell, MFC)とは、微生物の代謝能力を利用して、有機物などの化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であり、廃棄物バイオマスなどからエネルギー回収を可能にする新技術として期待されている。
図1に示したように、MFCはアノード(マイナス極)とカソード(プラス極)から成り、アノードでは、有機物が微生物により分解されて発生する電子を電極で回収する。回収された電子は外部回路を経てカソードにわたり、カソードではO
2と電子、H
+(アノードで有機物の分解の際に発生した)が反応してH
2Oになる。MFCではこのアノード反応とカソード反応の電位差により電流が生じて電気エネルギーを得ることができる(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-69019号公報
【文献】特開2017-188196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、畜産廃棄物又は焼酎粕を燃料として用いる微生物燃料電池を開発してきた(特許文献1及び2)。これらの微生物燃料電池は、バイオマス廃棄物を用いて発電可能であり、再生可能エネルギーの利用として有用であるが、これらのバイオマス廃棄物を利用した高い出力を有し、そして効率的な発電方法の開発が期待されている。
本発明の目的は、高い出力を有し、そして効率的な微生物燃料電池及び発電方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、高い出力を有し、そして効率的な微生物燃料電池及び発電方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、発電菌として、クロストリジウム・ニューエンス(Clostridium neuense)用いることにより、高い出力を有する微生物燃料電池を作製することが可能であり、効率的な発電が可能であることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]微生物燃料電池による発電方法であって、発電開始時における、微生物燃料電池に含まれる細菌に対するクロストリジウム・ニューエンス(Clostridium neuense)の含有率が2%以上である、前記発電方法、
[2]クロストリジウム・ニューエンスを、有機物を含む電解液に添加する工程を含む、[1]に記載の発電方法、
[3]前記微生物燃料電池における有機物を含む電解液のpHが3.9~9.0である、[1]又は[2]に記載の発電方法、
[4]前記有機物が焼酎粕である、[1]~[3]のいずれかに記載の発電方法、
[5]前記クロストリジウム・ニューエンスが、配列番号1又は2で表される塩基配列を有する16SrDNAを含むクロストリジウム・ニューエンスである、[1]~[4]のいずれかに記載の発電方法、
[6]前記クロストリジウム・ニューエンスが、受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスである、[1]~[5]のいずれかに記載の発電方法、
[7]配列番号1又は2で表される塩基配列を有する16SrDNAを含むクロストリジウム・ニューエンス、
[8]受託番号NITE P-02709である[7]に記載のクロストリジウム・ニューエンス、
[9]有機物及びクロストリジウム・ニューエンスを含む微生物燃料組成物であって、燃料組成物に含まれる細菌数に対して、クロストリジウム・ニューエンスの含有量が2%以上である、微生物燃料組成物、
[10]前記有機物が焼酎粕である、[9]に記載の微生物燃料組成物、
[11]前記クロストリジウム・ニューエンスが、配列番号1又は2で表される塩基配列を有する16SrDNAを含むクロストリジウム・ニューエンスである、[9]又は[10]に記載の微生物燃料組成物、
[12]前記クロストリジウム・ニューエンスが、受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスである、[9]又は[10]に記載の微生物燃料組成物、
[13]有機物を燃料として、発電菌により発電する微生物燃料電池であって、発電開始前に、微生物燃料電池に含まれる細菌数に対して、クロストリジウム・ニューエンスの含有量が2%以上である、微生物燃料電池、
[14]前記有機物が焼酎粕である、[13]に記載の微生物燃料電池、
[15]前記クロストリジウム・ニューエンスが、配列番号1又は2で表される塩基配列を有する16SrDNAを含むクロストリジウム・ニューエンスである、[13]又は[14]に記載の微生物燃料電池、
[16]前記クロストリジウム・ニューエンスが、受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスである、[13]~[15]のいずれかに記載の微生物燃料電池、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の発電方法によれば、高出力で発電することができる。また、クロストリジウム・ニューエンスを用いることにより、高い出力を有する微生物燃料電池を作製することが可能であり、効率的に微生物を用いて発電することができる。本発明の微生物燃料組成物は、クロストリジウム・ニューエンスを含むことにより、微生物燃料電池の燃料として、効率的な発電を行うことができる。更に、本発明のクロストリジウム・ニューエンスは、優れた高い出力の微生物発電を行うことができる。また、クロストリジウム・ニューエンスを用いることにより、焼酎粕などの酸性の酸秒廃棄物を効率よく処理(分解)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】カセット電極の構造(A)並びにカセット電極MFCの概略図及び写真(B)を示した図である。
【
図5】焼酎粕を用いた微生物燃料電池の約90日間の電力密度の変化を示したグラフである。
【
図6】焼酎粕を用いた微生物燃料電池の0~20日目までのpH変化を示したグラフである。
【
図7】グルコースを電子供与体として用いたNBGF培地におけるSDL48株の生育を示した写真(B)である。(A)は、SDL48株が植菌されていない陰性コントロールを示す。
【
図8】SDL48株を用いた微生物燃料電池を示した写真(A)及びそれを用いた発電における電圧変化を示したグラフ(B)である。
【
図9】焼酎粕原液のペレット(1)、焼酎粕原液(COD
cr濃度73g/L)MFCのアノードバイオフィルム(2)、焼酎粕原液の電解液(3)、COD
cr濃度10g/Lのアノードバイオフィルム(4)、COD
cr濃度10g/Lの電解液(5)の微生物叢の解析の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]発電方法
本発明の微生物燃料電池による発電方法は、発電開始時における、微生物燃料電池に含まれる細菌に対するクロストリジウム・ニューエンス(Clostridium neuense)の含有率が2%以上である。
【0009】
《微生物燃料電池》
本発明における微生物燃料電池(Microbial fuel cell;以下、MFCと称することがある)とは、微生物の代謝能力を利用して、有機物などの化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置(微生物燃料発電装置)である。本発明の発電方法で用いられる微生物燃料電池は、発電菌としてクロストリジウム・ニューエンスを含む限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば2槽型MFC又は1槽型MFCが挙げられる。
代表的な2槽型MFCの一例を、
図2を用いて説明する。2槽型MFCにおいて、2槽の内の1槽(アノード槽)は嫌気的で、電気化学的に活性な細菌が生育し、電極にバイオフィルムが形成される。具体的には、有機物を含む電解液と発電菌を含み、発電菌が有機物を分解することによって、電子が生成されている。他方の1槽(カソード槽)には、カソードが入っており、電解液が空気(酸素)によって曝気されている。アノード槽とカソード槽の2槽はプロトン交換膜によって仕切られている。
1槽型MFCの一例を
図3を用いて説明する。1槽型MFCは、エアカソードと呼ばれる膜タイプのカソードが使用される。エアカソードは空気中の酸素と直接反応するため、2槽型MFCと違い、曝気の必要がない。また、1槽型MFCは、プロトン交換膜を用いずに作製することも可能であり、プロトン交換膜を使用しない1槽型MFCは内部抵抗を低くすることができる。そのため、2層型MFCにと比較すると、高い出力を得ることができる。例えば、
図3に示すように、カセット電極を、平たんなカソードボックス(エアカソードが両側に設置されている)の両極にプロトン交換膜とグラファイトフェルト(アノード)が順に取り付けてある構造とし、1層型MFCが2つ(アノードとカソードが2対)合わさった形状としてもよい。アノードに有機物を含む電解液が接触し、発電菌が有機物を分解する過程で生じた電子を電極に伝達することにより、発電が起こる。カセット電極はリアクターに差し込むだけで発電ができ、大きさ、形状、及び数を、適宜、変更することができる。本発明の発電方法に用いる微生物燃料電池には、小型の微生物燃料電池から、大規模な微生物燃料発電装置が含まれる。
【0010】
《クロストリジウム・ニューエンス》
本発明の発電方法に用いられるクロストリジウム・ニューエンスは、有機物を分解して電子を発生できる限りにおいて、特に限定されるものではない。しかしながら、配列番号1~4のいずれかで表される塩基配列と、99%以上の相同性の塩基配列を有する16SrDNAを含むクロストリジウム属の菌が好ましい。通常、99%以上の相同性の16SrDNAを有する細菌は、同じ種の細菌と見做される。例えば、Clostridium neuense G1(Zhao et al., 2017)、又はClostridium sp. JCM8022は、後述のSDL48株の16SrDNAの塩基配列に対して99%以上の相同性を有しており、本発明の発電方法において用いることができる。Clostridium neuense G1の16SrDNAの塩基配列を配列番号3に、Clostridium sp. JCM8022の16SrDNAの塩基配列を配列番号4に示す。本明細書において、相同性とは、2つのヌクレオチドの間の同一性の程度を指す。また、本発明の発電方法に用いられるクロストリジウム・ニューエンスは、好ましくは受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスである。
【0011】
《クロストリジウム・ニューエンスの含有率》
本発明の発電方法におけるクロストリジウム・ニューエンスの含有率は、発電開始時において2%以上であり、好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上であり、更に好ましくは10%以上である。さらに、ある態様においては、クロストリジウム・ニューエンスの含有率は、20%以上であり、30%以上であり、40%以上であり、50%以上であり、60%以上であり、70%以上であり、80%以上であり、又は90%以上である。本発明の発電方法においては、発電菌であるクロストリジウム・ニューエンスの発電開始時における含有率を増加させることにより、高出力で、且つ効率よく発電することができる。
クロストリジウム・ニューエンスの含有率を増加させる方法は、特に限定されないが、例えば微生物燃料電池に培養したクロストリジウム・ニューエンスを添加すればよい。発電に用いる燃料の有機物としては、後述のように焼酎粕、ワイン粕、ウイスキー粕、又は畜産廃棄物などを用いることができる。これらの焼酎粕、ワイン粕、ウイスキー粕、又は畜産廃棄物などの燃料は、発電菌以外の細菌も含んでいるが、発電開始時において、発電菌であるクロストリジウム・ニューエンスの含有量を増加させることによって、効率的に発電することができる。また、燃料として細菌を含まない有機物(滅菌された有機物、又は精製若しくは合成された有機物)を用いることもできるが、このような有機物に、クロストリジウム・ニューエンスを添加することによって発電を行うことができる。なお、焼酎粕におけるクロストリジウム属の細菌の優占率は、1.1%である。
【0012】
クロストリジウム・ニューエンスの含有率の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば微生物叢解析方法によって、クロストリジウム・ニューエンスの含有率を測定することができる。具体的には、微生物燃料電池に含まれる発電菌を含む燃料(有機物)をサンプリングし、16SrRNA遺伝子(16SrDNA)の、例えばV4-V5領域(420bp)をPCRにより増幅し、そして塩基配列をシークエンス解析により決定する。得られた16SrDNAの塩基配列を、クラスタリング解析により分類することによって、含まれる細菌の種類の同定、及び含有率を決定することができる。含有率の精度を向上させるために、サンプリングしたいくつかの試料を混合して、解析を行うか、又はいくつかの試料を別々に解析したデータを平均することが好ましい。
【0013】
《有機物》
本発明の発電方法で使用する有機物は、クロストリジウム・ニューエンスによって分解できる限り化合物を含む限りにおいて特に限定されるものではなく、焼酎粕、ワイン粕、ウイスキー粕、又は畜産廃棄物が挙げられる。
前記有機物は、限定されるものではないが、有機酸を含む有機物が好ましい。有機酸としては、限定されるものではないが、カルボン酸を挙げることができ、例えば飽和脂肪酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、又は酪酸)、不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、リノール酸、又はリノレン酸)、ジカルボン酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、又はコハク酸)、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸又はフタル酸)、トリカルボン酸(例えば、アニコット酸)、ヒドロキシ酸(例えば、乳酸、クエン酸、又はリンゴ酸)、オキソカルボン酸(例えば、ピルビン酸)が挙げられる。
【0014】
前記焼酎粕は、例えば、芋、麦、米又は蕎麦の焼酎を製造する過程で発生した焼酎粕である。焼酎粕の種類としては、特に制限されるものではないが、例えば、仕込み粕(生粕、糖化粕)、余剰酵母などを挙げることができる。これらの中でも、生粕が好ましい。また、焼酎粕は、乾燥されていてもよい。
前記ビール粕は、大麦の麦芽を用いてビールを製造する過程で発生したビール粕である。ビール粕の種類としては、特に制限されるものではないが、例えば、仕込み粕(生粕、糖化粕)、余剰酵母などを挙げることができる。これらの中でも、生粕が好ましい。また、ビール粕は、乾燥されていてもよい。
【0015】
有機物を含む電解液のpHは、クロストリジウム・ニューエンスが有機物を分解できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、酸性から中性が好ましい。例えば、有機物を含む電解液のpHの下限は、好ましくはpH3.9であり、より好ましくはpH4.0である。また、電解液のpHの上限は、特に限定されるものではないが、例えばpH9.0であり、好ましくはpH8.5であり、より好ましくはpH8.0であり、更に好ましくはpH7.5であり、最も好ましくはpH7.0である。前記のpHの範囲であることにより、クロストリジウム・ニューエンスは効率的に、有機物を分解し、そして電子を発生させることができる。
【0016】
《添加工程》
本発明の発電方法においては、微生物燃料電池(有機物)にクロストリジウム・ニューエンスに添加する工程を含んでもよい。すなわち、この添加工程によって、微生物燃料電池における細菌中のクロストリジウム・ニューエンスの含有量を2%以上としてもよい。
クロストリジウム・ニューエンスは、アノードが含まれる電解槽に添加すればよい。また、例えばアノードに接触する有機物を含む電解液に添加することもできる。また、有機物に添加し、有機物を含む電解液とすることもできる。
添加するクロストリジウム・ニューエンスは、予め培地で培養し、そして増殖したものを用いることができる。クロストリジウム・ニューエンスの培養に用いる培地としては、2xYTG培地、又はNBAF培地が挙げられる。
【0017】
《化学的酸素要求量》
本発明の発電方法においては、CODCr(化学的酸素要求量)を一定の範囲に維持することが好ましい。CODCrは、試料中の被酸化性物質量を一定の条件下で酸化剤により酸化し、その際使用した酸化剤の量から酸化に必要な酸素量を求めて換算したものである(単位:mg/L)。
例えばCODCrが5,000~20,000mg/Lである電解液を用いることにより、高い出力を得ることができる。また、COD(化学的酸素要求量)除去率も比較的高く維持することができ、適度な範囲とすることができる。CODCrは、好ましくは5,000~20,000mg/Lであり、より好ましくは、7,000~12,000mg/Lである。
発電開始前の電解液のCODCrを5,000~20,000mg/Lとするためには、前記有機物を含む液を、希釈又は濃縮してCODCrが5,000~20,000mg/Lの範囲の電解液を調製すればよい。希釈液としては、限定されるものではないが、水、又は有機溶媒(例えば、アルコール)を挙げることができる。電解液は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、微生物の生育に有利に働く栄養剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0018】
本発明の発電方法においては、発電中においてCODCrを5,000~20,000mg/Lに維持することが好ましいが、この範囲以外で発電を行っても、本発明の発電方法に含まれる。
CODCrを5,000~20,000mg/Lに維持するために、有機物を電解液に加える、又は有機物を含む電解液を交換することができる。微生物燃料電池においては、発電菌が有機物を分解することによって、CODCrが低下する。有機物を電解液に添加すること、又は交換することによって、CODCrを上昇させることができる。場合によっては、微生物燃料電池の所定量(例えば容器内に入っている燃料の半量)の電解液を取り出してから、所定量(例えば取り除いた燃料に相当する量)の有機物を含む電解液を微生物燃料電池に加えてもよい。本明細書においては、発電の途中で電解液の半分程度を新たな有機物を含む電解液で置換する操作を「セミバッチ(semi-batch)処理」と称することがある。
また、添加する電解液は、微生物燃料電池から取り出した電解液を用いて調製してもよく、例えば、取り出した電解液に有機物を添加して、添加する電解液を調製することができる。添加する電解液として有機物自体を用いてもよく、前記のように有機物を含む電解液を用いてもよい。このセミバッチは、1回であってもよく、複数回であってもよく、その回数は特に制限されるものではない。
このセミバッチの他の形態としては、例えば、微生物燃料電池を運転しながら、微生物燃料電池の電解液のCODCrが5,000~20,000mg/Lの範囲内に実質的に保たれるように、所定の流量で電解液を微生物燃料電池から排出しつつ、所定の流量で添加する電解液を微生物燃料電池に流入させることもできる。
【0019】
本明細書において「運転中、CODCrが所定の範囲内に実質的に保たれる」とは、運転開始から運転停止までの運転期間のすべてにおいて、CODCrが必ず所定の範囲内に入っていることを要求するものではなく、本発明の効果である高い効率性が得られるようになる期間においてCODCrが所定の範囲内に保たれることを意味する。具体的には、運転期間の8割以上の期間においてCODCrが所定の範囲内に保たれることが好ましく、運転期間の9割以上の期間においてCODCrが所定の範囲内に保たれることがより好ましく、運転期間中の10割の期間においてCODCrが所定の範囲内に保たれることがさらに好ましい。なお、CODCrは、例えば市販のキット(COD kit(TNT822およびDR2800、Hach社製))により測定することができる。
【0020】
[2]クロストリジウム・ニューエンス
本発明のクロストリジウム・ニューエンスは、配列番号1又は2で表される塩基配列を有する16SrDNAを含み、好ましくは受託番号NITE P-02709のクロストリジウム・ニューエンスである。本発明のクロストリジウム・ニューエンスは、有機物を分解して、電子を発生するため、発電菌として用いることができる。また、配列番号2で表される塩基配列を有する16SrDNAを含むクロストリジウム・ニューエンスは、焼酎粕を燃料として発電することによって、微生物燃料電池内で優位に増殖する。従って、SDL48株と同じように、本明細書の実施例に従って、菌を分離することができる。
本発明のクロストリジウム・ニューエンスは、Clostridium neuense G1(Zhao et al., 2017)、及びClostridium sp. JCM8022株の16SrDNAの塩基配列に対して99%以上の相同性を有しており、同じ種に分類される。
本発明のクロストリジウム・ニューエンスは、本発明の「発電方法」、「微生物燃料組成物」及び「微生物燃料電池」の発電菌として用いることができる。
【0021】
[3]微生物燃料組成物
本発明の微生物燃料組成物は、有機物及び発電菌を含む微生物燃料組成物であって、燃料組成物に含まれる細菌数に対して、クロストリジウム・ニューエンスの含有量が2%以上である。本発明の微生物燃料組成物は、微生物燃料電池の燃料として用いることができる。
本発明の微生物燃料組成物におけるクロストリジウム・ニューエンスの含有率は、2%以上であり、好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上であり、更に好ましくは10%以上である。さらに、ある態様においては、クロストリジウム・ニューエンスの含有率は、20%以上であり、30%以上であり、40%以上であり、50%以上であり、60%以上であり、70%以上であり、80%以上であり、又は90%以上である。本発明の微生物燃料組成物は、発電菌であるクロストリジウム・ニューエンスの含有率が高い。従って、本発明の微生物燃料組成物を用いた微生物燃料電池は高出力で、且つ効率よく発電することができる。また、本発明の微生物燃料組成物を用いた発電方法においても、高出力で、且つ効率的な発電ができる。
【0022】
また、本発明の微生物燃料組成物に含まれる「発電菌」としては、クロストリジウム・ニューエンスが挙げられるが、クロストリジウム・ニューエンス以外の発電菌を含んでもよい。クロストリジウム・ニューエンス以外の発電菌としては、硫酸還元菌、硝酸還元菌、硫黄還元菌、鉄還元菌、二酸化マンガン還元菌、又は脱塩素菌が挙げられ、具体的には、Geobacter属、又はShewanella属の発電菌が挙げられる。
【0023】
本発明の微生物燃料組成物における「クロストリジウム・ニューエンス」は、前記「[1]発電方法」の項に記載のクロストリジウム・ニューエンスである。
本発明の微生物燃料組成物における「有機物」は、前記「[1]発電方法」の項に記載の有機物を用いることができる。
本発明の微生物燃料組成物における「クロストリジウム・ニューエンスの含有率」を増加させる方法、又は「クロストリジウム・ニューエンスの含有率の測定方法」などは、前記「[1]発電方法」の項に記載に準じて実施することができる。
【0024】
[4]微生物燃料電池
本発明の微生物燃料電池は、発電菌により発電する微生物燃料電池であって、発電開始前において、微生物燃料電池に含まれる細菌数に対して、クロストリジウム・ニューエンスの含有量が2%以上である。本発明の微生物燃料電池は、前記「[1]発電方法」の項に記載の微生物燃料電池である。
【0025】
本発明の微生物燃料電池におけるクロストリジウム・ニューエンスの含有率は、2%以上であり、好ましくは3%以上であり、より好ましくは5%以上であり、更に好ましくは10%以上である。さらに、ある態様においては、クロストリジウム・ニューエンスの含有率は、20%以上であり、30%以上であり、40%以上であり、50%以上であり、60%以上であり、70%以上であり、80%以上であり、又は90%以上である。本発明の微生物燃料電池は、発電菌であるクロストリジウム・ニューエンスの含有率が高い。従って、本発明の微生物燃料電池は高出力で、且つ効率よく発電することができる。
【0026】
本発明の微生物燃料電池における「クロストリジウム・ニューエンス」は、前記「[1]発電方法」の項に記載のクロストリジウム・ニューエンスである。
本発明の微生物燃料電池における「有機物」は、前記「[1]発電方法」の項に記載の有機物を用いることができる。
本発明の微生物燃料電池における「クロストリジウム・ニューエンスの含有率」を増加させる方法、又は「クロストリジウム・ニューエンスの含有率の測定方法」などは、前記「[1]発電方法」の項に記載に準じて実施することができる。
本発明の微生物燃料電池においては、クロストリジウム・ニューエンスを微生物燃料電池に添加して、クロストリジウム・ニューエンスの含有率を2%以上とすることができるが、添加の方法は前記「[1]発電方法」の項の「添加工程」に準じて実施することができる。
本発明の微生物燃料電池を用いて発電を行う場合、化学的酸素要求量を一定の範囲に維持することが好ましいが、この操作は前記「[1]発電方法」の項の「化学的酸素要求量」に準じて実施することができる。
【0027】
《作用》
本発明のクロストリジウム・ニューエンス及び本発明の発電方法等に用いるクロストリジウム・ニューエンスは、例えば焼酎粕を燃料として用いる微生物燃料電池において、発電菌として働き、他の細菌に対して優位に増殖する。クロストリジウム・ニューエンスが、他の細菌に対して優位に増殖するメカニズムは、詳細に調べられているわけではないが、以下のように推定される。しかしながら、本発明は、以下の推定によって限定されるものではない。焼酎粕を燃料として用いる微生物燃料電池においては、クエン酸などの有機酸濃度が高いため、pHが低くなる。そのため、低pH環境下で増殖することのできるクロストリジウム・ニューエンスが優位に増殖できると考えられる。更に、微生物燃料電池においては、クロストリジウム・ニューエンスがクエン酸などを分解して産生した電子をアノードが回収し、カソードに移動させる。クロストリジウム・ニューエンスは、このようなアノードに自身の産生した電子が回収される微生物電池の環境下で、優位に増殖できると考えられる。従って、pHの低い焼酎粕などを用いた微生物燃料電池においては、クロストリジウム・ニューエンスが優位に増殖するものと推定される。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
《参考例1》
本参考例では、焼酎粕を用いた微生物燃料電池を用いて、約3カ月発電を行った。
微生物燃料電池は、Simoyamaらの方法に従って作製した(Simoyama et al., 2008; Inoue et al., 2013)。
図5にカセット電極の構造(
図5A)及びカセット電極MFCの概略図及び写真(
図5B)を示す。
焼酎粕は、有限会社渡邊酒造(宮崎、日本)で芋焼酎製造において蒸留後に排出された焼酎粕を使用した。芋焼酎粕は、実験に使用するまで、-20℃で冷凍保存した。焼酎粕原液のCOD
cr濃度は73g/L、pHは4.1であった。
【0030】
焼酎粕原液を超純水で希釈し、それぞれCODcr濃度0.5、1、5、10g/Lになるように調整して、各MFCに用いた。原液(CODcr濃度73g/L)は希釈をせず、芋焼酎粕をそのまま用いた。CODcr濃度0.5、1、5、1、73g/Lの焼酎粕を300mLずつ、カセット電極MFCに入れ、運転を開始した。具体的には、嫌気チャンバー内で350mLのメスシリンダーに、それぞれの300mLの焼酎粕を入れ、電極を挿入した。ヘッドスペースは、N2とCO2との混合ガス(80:20)で置換してから密栓した。稙種源として、直前まで運転していた焼酎粕MFC(5倍希釈した焼酎粕を用いた)のアノードフェルトをPBSで懸濁し、遠心分離したペレットをさらにPBSで懸濁したものを1.0mLずつ添加した。電解液は600rpmで常時攪拌し、温度は30℃として約3か月間運転した。外部抵抗は初め、470Ωに設定し、電圧の変化に伴って330、又は200Ωなどに低下させた。35日目までは、電圧が上昇後、低下し始めたところでsemi-batch(電解液の体積の2分の1を新しい焼酎粕溶液と交換)を行った。35日目以降は約10日に1回のペースでsemi-batchを行った。
0.5g/Lについては出力が著しく低かったため、24日目に20g/Lの焼酎粕にすべて入れ替えた。
【0031】
図6に各COD
cr濃度における電力密度の経日変化のグラフを示す。↓はsemi-batchを行った地点を示す。COD
cr濃度0.5g/Lと1g/Lの焼酎粕を用いたMFCでは、運転中に電力密度が0.001W/m
3を超えることはなく、著しく出力が低かった。COD
cr濃度0.5g/Lについては、24日目にCOD
cr濃度20g/Lの焼酎粕に全てMFCの電解液を入れ替えるbatch処理を行ったところ、高い発電がみられるようになった。運転開始から30日間の平均電力密度は、COD
cr濃度1、5、10、20、73g/Lで、それぞれ0.0002、0.19、0.30、0.22、0.08W/m
3であり、COD
cr濃度10g/Lのときに最も高い値を示した。COD
cr濃度20g/Lは、24日目から54日目の平均電力密度を算出した。
また、
図7に各COD
cr濃度における、0~20日目までのpH変化を示す。COD
cr濃度20g/Lに関しては示していない。全COD
cr濃度における運転開始時のpHは4.3±0.14であった。
【0032】
《実施例1》
本実施例では、前記参考例1で発電を行った微生物燃料電池から、発電菌を分離した。
2×YTG寒天プレートに参考例1のCODcr濃度73g/Lで運転後のアノードバイオフィルムを1×PBSで100倍希釈したものを塗布した。生育したコロニーを別の2×YTG寒天プレートにストリークし、それを3回繰り返すことで、菌の単離を行った。
単離した菌を2×YTG液体培地に植菌した。単離した菌は、2×YTG培地において、旺盛に生育した。生育すると培地は黄白色に濁り、ガスを発生するためか、気泡が培地の上部に観察された。
2×YTG液体培地に生育した菌の菌液をテンプレートとして、プライマー27F(AGAGTTTGATCMTGGCTCAG;配列番号5)、1492R(TACGGYTACCTTGTTACGACTT;配列番号6)を用いて16SrDNA遺伝子を増幅し、それをアガロース電気泳動した。1,500bp付近にバンドがみられたことから、16SrRNAのほぼ全長が増幅できたことが確認できた。この単離株の16SrDNA遺伝子のシーケンス解析を行い、1,465bpの16SrDNA遺伝子配列を決した。単離株をSDL48株と命名した。
【0033】
BLASTにて、SDL48株の16SrDNA遺伝子の相同性検索を行ったところ、Clostridium neuense G1と99.86%の相同性を示した。この結果から、SDL48株は、C. neuenseと同種であるとした。
SDL48株は、2018年5月14日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号NITE P-02709として寄託されている。
【0034】
《実施例2》
本実施例では、グルコースを電子供与体とした培地を用いてSDL48株の生育試験を実施した。
唯一の電子供与体をグルコース、唯一の電子受容体をフマル酸とするNBGF培地にシステインを2.5%(vol/vol)、2×YTG液体培地に成育したSDL48株を3%(vol/vol)加え、37℃で2日間静置培養した。2×YTG液体培地の成分のキャリーオーバーを考慮して、同操作を3回繰り返し、NBGF培地の成分のみで生育可能であるかを試験した。その結果、3日間の培養でOD600が0.88に達したことからSDL48株は、NBGF培地で生育が可能で、グルコースを電子供与体として用いることができることが確認された(
図8)。NBGF培地の組成を表1に示す。
【表1】
【0035】
《実施例3》
本実施例では、SDL48株を用いて微生物燃料電池を作製し、発電を行った。
シングルチャンバーMFC(エアカソードを搭載:
図9A)は、FWG培地(電子供与体としてグルコースを含み、電子受容体を含まない)を400mL、NBGF培地に生育したSDL48株を40mL入れ、外部抵抗は1,000Ωにつなぎ、温度30℃で運転を行った。MFCの構築は嫌気チャンバー内で行った。ネガティブコントロールには、NBGF培地に生育したSDL48株を121℃で30分間オートクレーブ滅菌後、55℃で1時間保温し、再度121℃で30分間オートクレーブ滅菌したものを同様に40mL用いた。FWG培地の組成及びDL Mineral Mixの組成を以下に示す。FWG培地は、Lovleyらの論文(Lovely and Phillips,1988)のFreshwater培地にグルコース(終濃度10mM)を添加したものである。FWG培地はオートクレーブ前にN
2・CO
2の混合ガス(80:20=N
2:CO
2)により置換することで、培地が嫌気的条件になるように処理した。
【0036】
【0037】
図9Bに示したように、SDL48株の生菌を入れたMFC(青線)では、データロガーにつないだ直後は、0.15V程度の電圧を示したが、徐々に0.10V程度に低下した。その後、SDL48株の生育が旺盛になるにつれて、0.25Vまで電圧が上昇し、その後は基質であるグルコースが枯渇したためか、電圧が低下した。運転50時間目でMFCの電解液を全て新しい培地に入れ替えた後、再び電圧が上昇し始め、最大0.30V(外部抵抗1,000Ω)の発電を記録した。SDL48株の死菌を入れたネガティブコントロールでは、終始、電圧は0.05V以下であった。この結果から、SDL48株は、唯一の電子供与体をグルコース、唯一の電子受容体を電極とするシングルチャンバーMFCで発電可能であることが示された。
【0038】
《実施例4》
本実施例では、前記参考例1で発電を行った微生物燃料電池から菌を回収し、その菌の16SrDNAを含むプラスミドを調製した。
前記参考例1における、焼酎粕原液で92日間運転後のグラファイトフェルトアノード(8.98g)を切り取り、1×PBS(Phosphate buffered saline)溶液25mLに懸濁した。1×PBSは以下に組成表を添付した10×PBSを希釈して作成した。その後、VORTEX-GENIE2 Mixer(Scientific Industrial)を使用して、3,000rpmで30sec×2回の攪拌を行った。懸濁後、4,000rpm、25℃で10min遠心分離を行い、上清を捨てることでペレットを回収した。ペレットは-20℃で実験に用いるまで、冷凍保存した。
前記ペレットからDNAを抽出し、PCRで16SrDNA遺伝子を増幅した。アガロース電気泳動により、1,500bpのところにバンドが得られたため、16SrDNA遺伝子を増幅できたと考えられる。得られたPCR産物をプラスミドに導入し、大腸菌を形質転換した。得られた大腸菌をLB培地に植菌し、プラスミド抽出し、プライマーM13F、M13R、518F、800R、800Fを用いてシーケンス解析を行った。得られたプラスミドをSDL33と命名した。SDL33をBLAST検索したところ、Clostridium neuense G1と99.86%の相同性を示した。この結果から、SDL33の16S rDNAを有する菌は、C. neuenseと同種であるとした。
【0039】
《解析例1》
本解析例では、微生物叢の解析を行った。
焼酎粕原液のペレット(1)、前記参考例1の、焼酎粕原液(CODcr濃度73g/L)で92日間運転後のMFCのアノードバイオフィルムをPBSに懸濁して遠心分離したペレット(2)、原液で92日間運転後の電解液(3)、CODcr濃度10g/Lに希釈した焼酎粕で92日間運転後のMFCのアノードバイオフィルムをPBSに懸濁して遠心分離したペレット(4)、CODcr濃度10g/Lで92日間運転後の電解液(5)をサンプルとし、次世代シーケンスにより微生物叢を解析した。
まず、Extrap Soil DNA Kit Plus ver.2(日鉄住金環境)を用い、DNAを抽出した。その後、16SrRNA遺伝子のV4-V5領域をプライマーU515F(5’-GTGYCAGCMGCCGCGGTA-3’)と926R(5’-CCGYCAATTCMTTTRAGTT-3’)(Yu et al., 2018)を用いてPCR増幅した。PCRには、TaKaRa Ex Taq polymerase(Takara Bio, Inc., Shiga, Japan)を用い、95℃で9分間の初期変性、続いて95℃、15秒、55℃10秒、72℃30秒のサイクルを15-35サイクル、最後に72℃で2分間の伸長反応の条件で行った。シークエンス解析はMiSeq(Illumina)にて行い、PCR増幅産物の両側から約250塩基ずつ解析(ペアエンド解析)を行った。得られた配列データは、解析に最適な配列を調べるために、リードのクオリティーフィルタリングを行い、使用可能であった配列に対して、ペアエンドマージスクリプトFLASH(Magoc and Salzberg, 2011)を用いて、結合させた。得られた配列データについてQIIME(Quantitative Insights Into Microbial Ecology)パイプラインを用いて、塩基配列のチェックを行った。また、配列の相同性のクラスタリング解析を行い、OTU(Operational Taxonomic Unit:操作的分類単位)に分類した。各代表のOTU配列についてGreengene(DeSantis et al., 2006)の16SrRNA遺伝子データベースに対する相同性検索を行い、系統分類を推定した。
【0040】
次世代シーケンス解析により、焼酎粕では101,619リード、COD
cr濃度73g/L(原液)で運転後のアノードバイオフィルムでは、106,451リード、COD
cr濃度73g/Lで運転後の電解液では152,907リード、COD
cr濃度10g/Lで運転後のアノードバイオフィルムでは、50,043リード、COD
cr濃度10g/Lで運転後の電解液では、53,433リードのデータを得た。
図10に各サンプルでの属レベルでの微生物叢解析の結果を示す。
焼酎粕原液ではBacillus属が優占しており(40.9%)、図には記載されていないがClostridium属は1.1%であった。
COD
cr濃度73g/Lの焼酎粕で運転後のアノードバイオフィルムと電解液では、Clostridium属(それぞれ75.4%、65.7%)がそれぞれ優占しており、Rummeliibacillus属(それぞれ11.4%、20.4%)がそれに続いた。Clostridium属は、焼酎粕原液では、1.1%しか検出されず、COD
cr濃度73g/Lの焼酎粕で運転中にClostridium属が増殖したことが示唆された。
COD
cr濃度10g/Lの焼酎粕で運転後のMFCのアノードバイオフィルムではBacteroides属(65.3%)、Clostridium属(12.1%)、Ruminococcus属(4.1%)の順で優占しており、電解液ではBacteroides属(67.9%)、Ruminococcus(8.6%)、Clostridium属(7.8%)の順で優占していた。
本解析例の微生物叢の解析により、微生物燃料電池に含まれる微生物の含有量を測定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のクロストリジウム・ニューエンスは、微生物燃料電池の発電菌として用いることが可能である。本発明の微生物燃料電池及び発電方法により、効率的な発電を行うことができる。
【受託番号】
【0042】
NITE P-02709
【配列表】