IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社不二工機の特許一覧

特許7503866電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置
<>
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図1
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図2
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図3
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図4
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図5
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図6
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図7
  • 特許-電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20240614BHJP
   F16K 37/00 20060101ALI20240614BHJP
   F25B 41/35 20210101ALN20240614BHJP
【FI】
F16K31/04 K
F16K37/00 D
F25B41/35
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023018833
(22)【出願日】2023-02-10
(62)【分割の表示】P 2021145850の分割
【原出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2023053137
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017222746
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 勇介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潔治
(72)【発明者】
【氏名】小川 善朗
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特許第6764316(JP,B2)
【文献】特許第6664730(JP,B2)
【文献】特開2007-298158(JP,A)
【文献】特開平8-145439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00-31/05
F16K 37/00
F16K 51/00
F25B 41/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動弁の弁開度制御のためのプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶するRAMと、
電動弁の電源切断時又はスリープモードへの移行時に、前記RAMに記憶したデータのうち、少なくとも電動弁の弁開度情報および駆動方向を記憶する不揮発性の記憶部と、を有することを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項2】
前記電動弁の電源投入時又はスリープモードからの復帰時に、前記記憶部から前記電動弁の弁開度情報および駆動方向を読み出し、前記電動弁の駆動時に、駆動する方向が読み出した駆動方向と異なる場合は、弁開度変更分に所定値を加算することを特徴とする請求項1に記載の電動弁制御装置。
【請求項3】
前記電動弁の弁開度情報および駆動方向を前記記憶部に記憶した後に、外部に対して電源切断が可能となったこと又はスリープモードへの移行が可能となったことを知らせる信号を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動弁制御装置。
【請求項4】
前記電動弁の弁開度制御のための通信に、LIN通信又はCAN通信が用いられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電動弁制御装置。
【請求項5】
外部との信号の送受信を行う送受信部、前記送受信部で外部から受信した信号に応じて前記電動弁の弁開度の制御信号を算出する演算部、および、前記演算部からの前記電動弁の弁開度の制御信号に応じて前記電動弁のモータを動作させるモータ駆動部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電動弁制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の電動弁制御装置と前記電動弁とが一体として組み立てられたことを特徴とする電動弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁の弁開度を制御する電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調機や冷蔵・冷凍ショーケース等に使用される冷凍サイクルシステムにおいては、冷房能力を安定させ、過熱度を一定にして効率良く運転するなどの目的から循環冷媒の流量調整を行っているが、その際の調整を高精度に行うため、流量制御用の膨張弁として、ステッピングモータにより弁体を動作させる電動式膨張弁や流量制御弁としての電動弁が広く活用されている。また、ステッピングモータを使用し、冷媒の流路を開閉して冷媒を流したり遮断したりするシャット弁や、冷媒の流れる方向を切り換える三方弁(流路切換弁)などの電動弁もある。
【0003】
しかし、前記のステッピングモータを使用した電動弁などにおいては、絶対開度(実際の開度)をフィードバックしない開ループ制御を用いて開度の制御を行うのが一般的であり、また、弁内の弁体は、電源供給が停止された際に、初期位置に戻ることなく、電源遮断時の位置で停止してしまう。そのため、次に電源を投入したときに、弁体が停止している位置(絶対開度)を正確に把握できないという問題がある。
【0004】
そこで、前記のステッピングモータを使用した電動弁などの制御にあたっては、通常、電源を投入したときなどにイニシャライズ処理(原点位置出し、基点位置出し、又は初期化などともいう)を実行し、弁体の位置出しを行ってから開度の制御を開始するようにしている(例えば、特許文献1参照)。ここで、イニシャライズ処理とは、全開位置から全閉位置又は全閉位置から全開位置に至るまでの全ストロークを超えるパルス数だけ、詳しくは、例えばステッピングモータのロータが確実にストッパと呼ばれる回り止めに衝突して回転を停止するパルス数だけ、ステッピングモータを閉弁方向又は開弁方向に十分に回転させる処理であり、これにより電動弁の0パルス又は最大パルスの初期位置を確定する。
【0005】
ところで、前記のように電源を再投入する時、又はスリープモードから復帰する時にイニシャライズを実施して基準位置を知る場合、通常動作へ復帰するまでに時間がかかり、エアコン機器などの動作開始が遅れるという問題があった。また、イニシャライズ動作により、余分なエネルギーを消費してしまうという問題があった。また、イニシャライズ毎に閉弁動作又は/および開弁動作や増し締めも発生するが、電動弁は機械部品であり、機械的な動作寿命が決まっているため、イニシャライズ(回数)が多くなると、電動弁の寿命も短くなってしまうという問題もあった。
【0006】
このような問題に対し、例えば下記特許文献2には、電源切断時やスリープモードへの移行時に、弁開度情報であるステッピングモータの回転位置データを不揮発性の記憶手段であるEEPROMに記憶することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4032993号公報
【文献】特開平8-145439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えばギア式の電動弁などでは、開弁から閉弁に、又は閉弁から開弁に回転方向が逆転する場合に、ギアのクリアランスによりヒステリシスが生じてしまう問題があった。このような開弁、閉弁による機械的なヒステリシスがある電動弁において、昇降機構のギア等には、例えば粘度の高いグリスが塗布されており、電源切断中やスリープ中のギア間の隙間が外部の振動等によって変化しないように配慮されている。そのため、上記特許文献2に所載の従来技術のように、電源切断時やスリープモードへの移行時に、そのときの弁開度情報をEEPROMに記憶するのみでは、次回立ち上げ時(電源を再投入する時、又はスリープモードから復帰する時)に、モータの回転方向によっては、昇降機構のギア等のヒステリシスの角度分の誤差が生じるおそれがあった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ヒステリシス分の誤差をなくして、電動弁の弁開度を精緻に制御することのできる電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決すべく、本発明に係る電動弁制御装置は、電動弁の弁開度制御のためのプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶するRAMと、電動弁の電源切断時又はスリープモードへの移行時に、前記RAMに記憶したデータのうち、少なくとも電動弁の弁開度情報および駆動方向を記憶する不揮発性の記憶部と、を有することを特徴としている。
【0011】
好ましい態様では、前記電動弁の電源投入時又はスリープモードからの復帰時に、前記記憶部から前記電動弁の弁開度情報および駆動方向を読み出し、前記電動弁の駆動時に、駆動する方向が読み出した駆動方向と異なる場合は、弁開度変更分に所定値を加算する。
【0012】
他の好ましい態様では、前記電動弁の弁開度情報および駆動方向を前記記憶部に記憶した後に、外部に対して電源切断が可能となったこと又はスリープモードへの移行が可能となったことを知らせる信号を出力する。
【0013】
別の好ましい態様では、前記電動弁の弁開度制御のための通信に、LIN通信又はCAN通信が用いられる。
【0014】
別の好ましい態様では、外部との信号の送受信を行う送受信部、前記送受信部で外部から受信した信号に応じて前記電動弁の弁開度の制御信号を算出する演算部、および、前記演算部からの前記電動弁の弁開度の制御信号に応じて前記電動弁のモータを動作させるモータ駆動部を有する。
【0015】
また、本発明に係る電動弁装置は、前記電動弁制御装置と前記電動弁とが一体として組み立てられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電動弁の電源切断時又はスリープモードへの移行時に、電動弁の弁開度情報とともに電動弁の駆動方向を不揮発性の記憶部に記憶するので、次回立ち上げ時にモータの回転方向を考慮して電動弁の弁開度を制御できるため、ヒステリシス分の誤差をなくして、電動弁の弁開度を精緻に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置のシステムブロック図。
図2図1に示される電動弁制御装置による電動弁の制御の処理フロー全体を示すフローチャート。
図3図1に示される電動弁制御装置による電源投入時又はスリープモード復帰時の制御の処理フローを示すフローチャート。
図4図3に示される異常時の制御の処理フローを示すフローチャート。
図5図1に示される電動弁制御装置による電動弁駆動時の制御の処理フローを示すフローチャート。
図6図5に示される電動弁駆動制御時の処理フローを示すフローチャート。
図7図5に示される電動弁駆動制御時の処理フローを示すフローチャート。
図8図1に示される電動弁制御装置による電源切断時又はスリープモード移行時の制御の処理フローを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置の構成]
図1は、本発明に係る電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置のシステムブロック図である。なお、以下の説明においては、カーエアコンに使用される冷凍サイクルシステムの膨張弁に本発明に係る電動弁制御装置を適用した場合を例にとって説明する。
【0019】
図示実施形態の電動弁装置12は、電動弁9と電動弁制御装置11とがリード線などで接続され、離れた場所にあるのではなく、一体に組み立てられたもので、電動弁9は、流体(冷媒)の流量を制御する弁体(不図示)を備える膨張弁5と、膨張弁5の弁体を駆動するステッピングモータ8とで構成され、ステッピングモータ8が回転することにより膨張弁5(電動弁9)の弁開度が調整されるようになっている。なお、膨張弁5に替えて、冷媒の流路を開閉して冷媒を流したり遮断したりするシャット弁や冷媒の流れる方向を切り換える三方弁(流路切換弁)、もしくは膨張弁としての用途以外の流量調整弁などでもよい。
【0020】
図示は省略するが、例えばカーエアコンに使用される冷凍サイクルシステムにおいては、圧縮機、凝縮器、前記電動弁9(の膨張弁5)、および蒸発器が配管を介して順次に接続されており、電動弁9(の膨張弁5)の弁開度を調整することなどにより、その配管を流れる冷媒の流量が制御される。
【0021】
電動弁制御装置11には車両のバッテリー電源(+Vb、GND)が接続されるとともに、車両内での通信に使用される車載LANである、例えばLINバス(又はCANバスもしくはFlexRayバス)14が接続されている。電動弁制御装置11は、スレーブノードとして動作し、同じLINバス14に接続されているシステムの制御装置であるマスターノードのエアコンECU16から送信されるLIN通信信号(CANバスの場合はCAN通信信号、FlexRayバスの場合はFlexRay通信信号)で、ステッピングモータ8のパルス数やイニシャライズ動作指示の信号等の命令を受信し、電動弁9(膨張弁5)の開度(弁開度)を制御する。
【0022】
なお、エアコンECU16と電動弁制御装置11との間の通信方式としては、前記のようなシリアルインターフェイスへの入出力(LIN通信、CAN通信又はFlexRay通信など:「以下、LIN通信等」とする)、デジタル信号によるI/Oポートへの入出力(ON-OFF信号など)、無線(Wi-Fi(登録商標)、ブルートゥース(登録商標)など)などによる入出力などがあり、どの方式を採用してもよく、前記したLIN通信等に限定されない。図1では、カーエアコンなどで通常用いる車載LANであるLIN通信を適用している。そのため、電動弁制御装置11の制御に用いられる、後述の電源切断信号の受信、スリープモード移行信号の受信、電源切断可能信号の送信、およびスリープモード移行許可信号の送信等は、LIN通信で行われる。このように既存の車載LANであるLIN通信等を用いることで、新たな送受信の信号線の取付けが不要となる。
【0023】
電動弁制御装置11は、主に、バッテリー電源+Vb(例えば+12Vdc)から電動弁制御装置11の内部の回路で使用する電源+Vc(例えば+5Vdc)を発生させるレギュレータ11aと、LINバス14を通してエアコンECU16から送信されるLIN通信信号に基づいて、ステッピングモータ8の回転を制御するプログラム等を格納するROM、ROMに格納したプログラムの実行や演算処理を行うCPU、イニシャライズ動作の状況や通信データ等のプログラムの実行に必要なデータを一時的に記憶するRAM、周辺回路との入出力を行うI/O回路、割り込み処理等の時間を計測するタイマ、アナログ信号をデジタル値に変換するA/D変換器等を備えた演算部としてのマイコン11bと、LINバス14に接続され、LINバス14の電圧レベルを電動弁制御装置11内部の回路電圧レベルに変換し、マイコン11bとのLIN通信を可能にする送受信部としてのLINトランシーバ11cと、マイコン11bからの制御信号に基づいて電動弁9のステッピングモータ8の回転を制御するモータ駆動部としてのステッピングモータドライバ11dと、マイコン11bに接続され、マイコン11bのRAMデータのうち、バッテリー電源が切断されても保持する必要があるデータ(例えば、電動弁9の現在の弁開度に関する弁開度情報やその回転方向、後述する異常終了フラグなど)を記憶する記憶部としての不揮発性メモリであるEEPROM11eとが、不図示の基板上に搭載されて構成される。なお、レギュレータ11a、LINトランシーバ11c、ステッピングモータドライバ11d、EEPROM11e、マイコン11bの2つ以上を一体的に構成したICを用いてもよく、その場合は、さらなる装置の小型化が可能になる。
【0024】
なお、電動弁制御装置11の具体的構成は、上記構成に限定されるものではなく、本発明を実施可能(つまり、電動弁9の弁開度制御およびイニシャライズ制御等を実施可能)であれば、如何なる構成でも良い。
【0025】
エアコンECU16は、電動弁制御装置11にバッテリー電源を投入した場合などに電動弁9の初期位置として例えば0パルスを決める必要があるため、ステッピングモータ8を例えば最大パルス数以上閉弁方向に回転させるイニシャライズ動作を実行する命令(イニシャライズ指示信号)を、LINバス14を介してLIN通信信号で電動弁制御装置11に送信する。また、LINバス14を介して電動弁制御装置11から電動弁9の弁開度(つまり、ステッピングモータ8の現在位置(パルス数))やステッピングモータ8の回転方向が送信されていれば、その弁開度や回転方向をLINバス14を介して電動弁制御装置11に送信する(知らせる)(後で詳述)。
【0026】
前記LIN通信信号を受信した電動弁制御装置11は、バッテリー電源投入時などにおいてステッピングモータ8の現在位置(パルス数)が判らない場合、電動弁9が制御可能な最大パルス数(例えば500パルス)に、ロータが確実にストッパ(回り止め)に衝突するために十分なパルス数を加えたパルス数(例えば700パルス以上)だけステッピングモータ8を閉弁方向に回転させるイニシャライズ処理(電動弁9のイニシャライズ動作)(0パルスの初期位置出し)を行う。なお、ステッピングモータ8を閉弁方向に回転させるイニシャライズ処理に替えて開弁方向に回転させるイニシャライズ処理を行ってもよい。また、ステッピングモータ8の現在位置(パルス数)等がEEPROM11eに記憶されている場合、その情報をEEPROM11eから読み出して使用する(後で詳述)。
【0027】
前記電動弁制御装置11のマイコン11bは、通常時は、信号の送受信ラインであるLINバス14を介してエアコンECU16から送信される制御信号に基づいて、電動弁9(膨張弁5)の弁開度を制御するが、エアコンECU16から電源切断信号又はスリープモード移行信号を受信した場合には、例えば動作中である電動弁9(膨張弁5)の動作を停止して、その時の(現在の)電動弁9の弁開度情報およびその(ステッピングモータ8の)回転方向のEEPROM11eへの記憶を実行する。また、マイコン11bには、例えばリード線の短絡や切断等による突然の電源切断などといった電動弁装置12(の電動弁制御装置11)の終了状態を知らせるための異常終了フラグが予め用意されており、マイコン11bは、その異常終了フラグの状態も当該EEPROM11eに記憶させておく(後で詳述)。
【0028】
ここで、弁開度情報とは、電動弁9の弁開度に関連する情報であり、例えば、ステッピングモータ8の回転位置、パルス数、膨張弁5(電動弁9)の弁体位置などの情報が含まれる。また、最大パルス数とは、弁体の下限位置(弁体が下方向に移動できる限界位置)から上限位置(弁体が上方向に移動できる限界位置)まで移動する間にステッピングモータ8に印加されるパルスの数、もしくは弁体の上限位置から下限位置まで移動する間にステッピングモータ8に印加されるパルスの数であり、例えば、弁体の下限位置は全閉位置、上限位置は全開位置である。弁体の現在位置とは、弁体の下限位置を0パルスとして、全閉位置から全開位置の間で弁体を移動させるために開弁又は閉弁方向に印加(増減)したパルス数である。もちろん、弁体の上限位置を0パルスとして印加したパルス数をカウントしてもよい。
【0029】
また、ここでのスリープモードとは、電源は投入されているが、マイコン11bの機能を制限又は一部停止することで省電力とするモードである。このとき、弁開度情報を一時的に記憶するRAMの記憶が保持されない状態に移行する。例えば、データの送受信が行われない期間はスリープモードへ移行し、データ送信が検知されるとスリープモードから復帰させることにより、省電力化を図ることができる。
【0030】
電動弁9の弁開度が変更される毎にEEPROM11eにその弁開度を記憶する方法も考えられるが、EEPROM11eには一般的に記憶回数の制限があるため、本実施形態では、記憶する機会を、外部からの電源切断信号又はスリープモード移行信号を受信した場合のみに限定し、不揮発性の記憶部であるEEPROM11eへの記憶回数を制限している。すなわち、外部からの電源切断信号又はスリープモード移行信号を受信するまでは、EEPROM11eにその弁開度や回転方向を記憶する動作は行わない。
【0031】
前記までの電源切断又はスリープモードへの移行の準備が整い次第、すなわち、前記弁開度情報、回転方向および異常終了フラグをEEPROM11eに記憶したことを確認すると、前記電動弁制御装置11のマイコン11bは、電源切断が可能な状態となったことを知らせる電源切断可能信号又はスリープモードへの移行が可能な状態となったことを知らせるスリープモード移行許可信号を外部(エアコンECU16)へ送信する。
【0032】
エアコンECU16は、LINバス14を介して電動弁制御装置11から前記電源切断可能信号又はスリープモード移行許可信号を受信した後に、電動弁制御装置11の電源を切断するか、又はスリープモードへ移行させる。
【0033】
マイコン11bは、エアコンECU16を介して電源が再投入される又はスリープモードから復帰すると、通常は(具体的には、前回の制御が正常終了している場合は)、EEPROM11eから電源切断前又はスリープモード移行前(言い換えれば、前回の電源切断時又はスリープモード移行時)に記憶してある電動弁9の弁開度情報およびその回転方向を読み出し、その弁開度および回転方向を用いて、電動弁9の制御(弁開度制御)を再開する。
【0034】
[電動弁制御装置による電動弁の制御]
以下、図1に示される電動弁制御装置11(のマイコン11b)による電動弁9の制御の処理フローを、図2図8を参照しながら具体的に説明する。
【0035】
図2は、図1に示される電動弁制御装置11(のマイコン11b)による電動弁9の制御の処理フロー全体を示すフローチャートである。
【0036】
この電動弁制御装置11(のマイコン11b)による電動弁9の制御は、基本的に、電源投入時又はスリープモード復帰時の制御(S10)、電動弁駆動時の制御(S20)、電源切断時又はスリープモード移行時の制御(S30)で構成される。
【0037】
<電源投入時又はスリープモード復帰時の制御(S10)>
図3は、図1に示される電動弁制御装置11(のマイコン11b)による電源投入時又はスリープモード復帰時の制御の処理フローを示すフローチャートである。なお、この制御では、異常終了フラグをセットするEEPROM11eの記憶領域において、異常終了フラグがセットされている状態を1、クリアされている状態を0として識別している。
【0038】
マイコン11bは、エアコンECU16を介して電源が投入される又はスリープモードから復帰されると、EEPROM11eに記憶された異常終了フラグが0であるか否か(言い換えれば、クリアされているか否か)を判断する(ステップS11)。異常終了フラグが0である場合は(ステップS11:Yes)、前回の制御は正常終了しており、EEPROM11eに記憶されている弁開度等が有効であると判断し、EEPROM11eから前回の電源切断時又はスリープモード移行時に当該EEPROM11eに記憶した電動弁9の弁開度情報およびその(ステッピングモータ8の)回転方向を読み出し(ステップS12)、その弁開度情報および回転方向を電動弁9の制御に用いる。
【0039】
一方、異常終了フラグが0でない(1である、もしくは、セットされている)場合は(ステップS11:No)、前回の制御は異常終了しており、EEPROM11eに記憶されている弁開度等が無効であると判断し、異常時の制御を実施する(ステップS13)。EEPROM11eに記憶された異常終了フラグがクリアされているか否かを判断する具体的なタイミングは、電動弁制御装置11に電源供給された後、又はスリープモードから復帰した後、エアコンECU16からの指示を読み込む前である。
【0040】
図4は、前述の、図3に示される異常時の制御(ステップS13)の処理フローをより具体的に示すフローチャートである。
【0041】
この場合、マイコン11bは、LINバス14を介してエアコンECU16に異常終了フラグが1であったことを知らせる報知信号を送信する(ステップS61)。これにより、エアコンECU16に対して、現在の弁開度等が不明であることを報知する。
【0042】
次いで、マイコン11bは、LINバス14を介してエアコンECU16から、イニシャライズ処理の実行を指示するイニシャライズ指示信号が有ったか否かを判断し(ステップS62)、イニシャライズ指示信号が有った場合は(ステップS62:Yes)、ステッピングモータ8を閉弁方向に最大パルス数以上(例えば700パルス以上)回転させる(ステップS63)。マイコン11bは、ステッピングモータ8が最大パルス数以上(例えば700パルス以上)閉弁方向へ回転したか否かを定時間毎に確認し(ステップS64)、ステッピングモータ8が最大パルス数以上閉弁方向へ回転したことを確認すると(つまり、イニシャライズ動作を実行処理し終えると)(ステップS64:Yes)、処理を終了する。
【0043】
一方、イニシャライズ指示信号が無かった場合は(ステップS62:No)、エアコンECU16から、現在の弁開度情報および回転方向を受信したか否か(つまり、エアコンECU16が知っている現在の弁開度情報および回転方向が知らせられたか否か)を確認する(ステップS65)。現在の弁開度情報および回転方向を受信した場合は(ステップS65:Yes)、その弁開度情報および回転方向を電動弁9の制御に用いるために、当該マイコン11b内にあるRAMの弁開度および回転方向を更新して(ステップS66)、処理を終了する。なお、現在の弁開度情報および回転方向を受信していない場合は(ステップS65:No)、再度、イニシャライズ指示信号が有ったか否かを判断する(ステップS62)。
【0044】
<電動弁駆動時の制御(S20)>
図5は、図1に示される電動弁制御装置11(のマイコン11b)による電動弁駆動時の制御の処理フローを示すフローチャートである。
【0045】
マイコン11bは、前述の電動弁9の弁開度情報およびその回転方向、もしくは、イニシャライズ動作による電動弁9の初期位置を使用し、LINバス14を介してエアコンECU16から送信される制御信号に基づいて、電動弁9(膨張弁5)の弁開度の制御信号を算出して当該電動弁9(膨張弁5)の駆動状態を制御する(ステップS21)。このときに、前記した異常終了フラグを1にセットしてEEPROM11eに記憶する(ステップS22)。
【0046】
図6、7は、前述の、図5に示される電動弁駆動制御時(ステップS21)の処理フローをより具体的に示すフローチャートである。
【0047】
図6に示されるように、マイコン11bは、エアコンECU16から送信される制御信号に応じて、電動弁9(膨張弁5)の弁開度を変更するか否か(言い換えれば、エアコンECU16から送信される目標の弁開度と現在の弁開度とが異なるか否か)を判断し(ステップS71)、電動弁9(膨張弁5)の弁開度を変更する場合は(ステップS71:Yes)、その電動弁9(膨張弁5)の回転方向が、前回駆動時の回転方向と同じか否か(言い換えれば、駆動する方向が読み出した回転方向もしくはイニシャライズ動作による回転方向と同じか否か)を判断する(ステップS72)。回転方向が前回駆動時の回転方向と同じである場合は(ステップS72:Yes)、ヒステリシス分を無視できるので、弁開度変更分を開閉して、当該電動弁9の弁開度を調整する(ステップS73)。一方、回転方向が前回駆動時の回転方向と同じでない(つまり、駆動する方向が読み出した回転方向もしくはイニシャライズ動作による回転方向と異なる)場合は(ステップS72:No)、ヒステリシス分を考慮する必要があるので、弁開度変更分に所定値(ヒステリシス分のモータの回転角度に相当するパルス数)を加算して開閉して、当該電動弁9の弁開度を調整する(ステップS74)。
【0048】
なお、前記したマイコン11bによる異常終了フラグのセット(ステップS22)は、電動弁9(膨張弁5)の弁開度を変更(駆動)することを確認したとき(ステップS71)に行ってもよいし、実際に電動弁9(膨張弁5)の弁開度を変更(駆動)したとき(ステップS73、又は、ステップS74)に行ってもよい。
【0049】
また、図7に示されるように、マイコン11bは、この電動弁9の駆動制御時において定時間毎に、エアコンECU16に電動弁9の弁開度情報と回転方向を送信する(ステップS81)。
【0050】
<電源切断時又はスリープモード移行時の制御(S30)>
図8は、図1に示される電動弁制御装置11(のマイコン11b)による電源切断時又はスリープモード移行時の制御の処理フローを示すフローチャートである。
【0051】
マイコン11bは、前記のように電動弁9(膨張弁5)の駆動状態を制御しつつ、エアコンECU16から電源切断信号又はスリープモード移行信号を受信すると、EEPROM11eへの電動弁9の現在の弁開度情報とその回転方向の記憶を実施(書き込み)し(ステップS31)、その後、異常終了フラグをクリア(つまり、0に)してその情報をEEPROM11eに記憶する(ステップS32)。また、マイコン11bは、上記のような電源切断の準備が整い次第、電源切断が可能な状態となったことを知らせる(言い換えれば、電源切断を許可する)電源切断可能信号、又は、スリープモードへの移行が可能な状態となったことを知らせる(言い換えれば、スリープモード移行を許可する)スリープモード移行許可信号を外部へ送信する(ステップS33)。
【0052】
そして、マイコン11bから前記電源切断可能信号又はスリープモード移行許可信号を受けたエアコンECU16により、電動弁制御装置11の電源が切断される、又は、スリープモードへ移行される(ステップS34)。
【0053】
なお、上記の制御では、異常終了フラグをセットするEEPROM11eの記憶領域において、異常終了フラグがセットされている状態を1、クリアされている状態を0としているが、異常終了フラグがセットされているか否かを識別できるのであれば、EEPROM11eの記憶領域における具体的な信号の状態は任意であることはもちろんである。
【0054】
[電動弁制御装置およびそれを備えた電動弁装置の作用効果]
このように、本実施形態の電動弁制御装置11では、電動弁9の電源切断時又はスリープモードへの移行時に、電動弁9の弁開度とともに電動弁9のステッピングモータ8の回転方向を不揮発性の記憶部であるEEPROM11eに記憶するので、次回立ち上げ時(電源投入時またはスリープモードからの復帰時)にステッピングモータ8の回転方向を考慮して、前回駆動時の回転方向と今回駆動時の回転方向が異なる場合には、弁開度変更分に所定値(ヒステリシス分のモータの回転角度に相当するパルス数)を加算して電動弁9の弁開度を制御できるため、機械的なヒステリシスがあるギア式の電動弁であっても、ヒステリシス分の誤差をなくして、電動弁9の弁開度を精緻に制御することができる。
【0055】
また、本実施形態の電動弁制御装置11では、不揮発性の記憶部であるEEPROM11eに異常終了フラグをセットし、電動弁9の電源切断時又はスリープモードへの移行時に、EEPROM11eの前記異常終了フラグをクリアする。これにより、前回の制御が異常終了したとき(例えば、リード線の短絡や切断等によって、電源が突然遮断されたとき)は、次回立ち上げ時(電源投入時またはスリープモードからの復帰時)にEEPROM11eの異常終了フラグがセットされているので、電動弁制御装置11の電源投入時ないし制御開始時(スリープモードからの復帰時)にEEPROM11eに記憶されている弁開度を異常と判断できる。また、電動弁9の次回立ち上げ時(電源投入時またはスリープモードからの復帰時)にEEPROM11eの異常終了フラグがクリアされていれば、前回の制御は正常終了していると判断して、EEPROM11eに記憶されている弁開度情報を使用して電動弁9を駆動することができる。そのため、EEPROM11eに記憶されている弁開度情報の正否を確実に判断でき、信頼性を高めることができる。
【0056】
なお、上記実施形態においては、電動弁制御装置11および電動弁装置12をカーエアコンに使用される冷凍サイクルシステムの膨張弁5(電動弁9)に適用した場合を例示したが、膨張弁5に限らず、流体の流入口および流出口、該流出口より流出する流体の流量を制御する弁体、および該弁体を駆動するモータを備えた電動弁であれば、本発明に係る電動弁制御装置11および電動弁装置12を適用できることは勿論である。また、例えば、冷媒の流路を開閉して冷媒を流したり遮断したりするモータ式シャット弁や冷媒の流れる方向を切り換える三方弁や四方弁などの流路切換弁などに適用してもよいことは当然である。
【0057】
また、上記実施形態においては、モータの回転方向をEEPROM11eに記憶しているが、モータの回転方向に替えて、弁体やギアの回転方向、閉弁/開弁の移動/駆動方向、弁体の移動方向(上下)などでもよい。そのため、モータの回転方向、弁体やギアの回転方向、閉弁/開弁の移動/駆動方向、弁体の移動方向等を含めた用語として「電動弁の駆動方向」と記載する。
【符号の説明】
【0058】
5 膨張弁
8 ステッピングモータ
9 電動弁
11 電動弁制御装置
11a レギュレータ
11b マイコン(演算部)
11c LINトランシーバ(送受信部)
11d ステッピングモータドライバ(モータ駆動部)
11e EEPROM(不揮発性の記憶部)
12 電動弁装置
14 LINバス
16 エアコンECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8