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特許7503871コンクリート構造物の解体方法及び割裂具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の解体方法及び割裂具
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
E04G23/08 B
E04G23/08 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023196154
(22)【出願日】2023-11-17
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510118101
【氏名又は名称】株式会社丸高工業
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】高木 一昌
(72)【発明者】
【氏名】高木 栄造
(72)【発明者】
【氏名】古谷 則之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 紀貴
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 一弥
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-073665(JP,A)
【文献】特開2009-249867(JP,A)
【文献】特開昭47-036640(JP,A)
【文献】実開昭48-010221(JP,U)
【文献】特開昭59-213456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物を削孔することによりコア穴を形成する工程と、
第1圧力を押板の押圧力に変える割裂具を前記コア穴に挿入し該割裂具に前記第1圧力を供給することにより、前記コア穴の周辺にクラックを生じさせる工程と、
第2圧力を一対の拡開刃の拡開力に変える拡開具を前記クラック又は前記コア穴に挿入し該拡開具に前記第2圧力を供給することにより、前記クラックを拡開する工程と、
を有するコンクリート構造物の解体方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造物に線材が埋め込まれている場合、拡開した前記クラックの隙間に前記線材の切断具を挿入するとともに切断後の前記コンクリート構造物から分離した部を回収可能にする工程と、
をさらに有する請求項1に記載の解体方法。
【請求項3】
前記コア穴が、φ50以上φ100以下の内径で前記割裂具の押圧力が作用する深さである、請求項1又は2に記載の解体方法。
【請求項4】
前記コア穴の深さに応じて前記割裂具の前記押板の設置位置又は前記押板の設置数を変更させる、請求項1又は2に記載の解体方法。
【請求項5】
1つ以上の油圧ラムと、前記油圧ラムを所定方向の任意の位置で離脱自在に固定するフレームと、を有し、
前記油圧ラムは、作動油の貯留空間を有するシリンダ本体と、該シリンダ本体の内部からその露出端部が所定方向に出没するピストンロッドと、前記ピストンロッドの露出端部に離脱自在に固定される凸円弧状の第1押板と、を備えており、
前記シリンダ本体から前記第1押板が突出した状態でφ50以上φ100以下の内径の窪みに収容されるサイズに成形されている、割裂具。
【請求項6】
前記油圧ラムが前記フレーム内で変位自在である、請求項5に記載の割裂具。
【請求項7】
前記油圧ラムは、前記第1押板が突出する方向と逆の方向に凸となる凸円弧状の第2押板が固定されている、請求項5に記載の割裂具。
【請求項8】
前記油圧ラムのピストンロッドは、作動油導入時に付勢され前記作動油導入停止後に消勢する弾性部材で前記シリンダ本体の内部に支持されている、請求項5、6又は7に記載の割裂具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の解体方法及び割裂具に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化したコンクリート構造物を修復する場合、必要以上に既設構造物を破壊することのないように、慎重に修復対象部位の解体を行う必要がある。コンクリート構造物の解体には、破砕片の飛散や破砕時の騒音も発生する。これらは特に住宅地や商業施設の部分修復では大きな問題となる。特許文献1に開示された解体方法では、コンクリートに複数の円状に開口する穴を間隔をあけて形成し、各穴にそれぞれ油圧式破砕装置を挿入して圧力を作用させて穴間にスリットを直線状に形成することにより、少ない作動圧力で目的方向のクラック(亀裂)を生じやすくして集中応力の発生等による爆発的な破砕音の発生を抑制している。
【0003】
油圧式破砕装置に代えて左右拡開刃を有する拡開具を用いてコンクリート構造物を解体する技術も提案されている。例えば特許文献2には、この種の拡開具の一例となる破砕機とその使用方法が開示されている。この技術によれば、例えば油圧により拡開する左右拡開刃の間に挟持され同拡開刃の軸方向長さと同程度の長さを有する芯棒により、被破砕物からの反力による左右拡開刃の変形損傷を防止することができ、比較的厚みのある被破砕物であっても対応できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-138598号公報
【文献】特開2020-197036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、コンクリートに含まれる骨材の種類が多様化しており、コンクリートの使用態様も様々である。例えば解体対象がシンダーコンクリートの場合、施工後の強度を増すためにワイヤーメッシュ(溶接金網)が埋め込まれていることがある。ワイヤーメッシュは、鉄線を直交して配列し、その交点を溶接した網目状の金網である。この場合、特許文献1に例示される油圧式破砕装置を用いてクラックを生じさせてもワイヤーメッシュをカットしない限り、次の作業工程に移ることができない。
【0006】
しかし、油圧式破砕装置は、クラックを生じさせる力は大きいがストローク(押圧による変位量)は小さいとされる。カッターの操作を可能にする十分なストロークを確保するためには、大型で重い油圧シリンダーを使用するか、内壁と油圧シリンダーの間の押板を何度も入れ直すしかなく、作業がきわめて煩雑なものになる。
また、特許文献2に例示されるような、供給された圧力を拡開力に変える拡開具は、拡開量(拡開による開口幅)は油圧式破砕装置よりも大きいものの内壁に及ぼす力は小さいとされ、それ故に特許文献2に開示されたような工夫(芯棒使用)が必要とされるなど、使用態様が制限される。
【0007】
本発明は、対象となるコンクリートの種類及び部位を問わず、また、狭い作業空間においても、簡易な作業で静音下でのコンクリート解体を可能にする方法及びこの方法の実施に適した工具の提供を主たる課題とする。
本発明の他の課題は、本明細書の開示から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題解決に向けた態様の一つは、コンクリート構造物の所定部位を削孔することによりコア穴を形成する工程と、第1圧力を押板の押圧力に変える割裂具を前記コア穴に挿入し該割裂具に前記第1圧力を供給することにより前記コア穴の周辺にクラックを生じさせる工程と、第2圧力を一対の拡開刃の拡開力に変える拡開具を前記クラック又は前記コア穴に挿入し該拡開具に前記第2圧力を供給することにより、前記クラックを拡開する工程と、を有するコンクリート構造物の解体方法である。
【0009】
課題解決に向けた他の態様は、1つ以上の油圧ラムと、前記油圧ラムを所定方向の任意の位置で離脱自在に固定するフレームと、を有し、前記油圧ラムは、作動油の貯留空間を有するシリンダ本体と、該シリンダ本体の内部からその露出端部が所定方向に出没するピストンロッドと、前記ピストンロッドの露出端部に離脱自在に固定される凸円弧状の第1押板と、を備えており、前記シリンダ本体から前記第1押板が突出した状態で取り付けられ、前記ピストンロッドが埋没した状態でφ50以上φ100以下の内径の窪みに収容される割裂具割裂具である。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、対象となるコンクリートの種類及び部位を問わず、また、狭い作業空間においても、簡易な作業で静音下でのコンクリート解体を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】コンクリート構造物の一例となるシンダーコンクリートの説明図である。
図2】(a)はシンダーコンクリートを割裂した状態を示す図、(b)は割裂したシンダーコンクリートを回収可能な状態にした図である。
図3】(a)は本実施形態における油圧シリンダーの前方外観斜視図、同(b)は油圧シリンダーの後方外観斜視図である。
図4】油圧シリンダーの第1態様における内部構造説明図であり、(a)は正面図、同(b)は右側面図、同(c)は側板を1枚はずした状態の右側面図、同(d)は底面図である。
図5】(a)は油圧ラムの正面図、(b)、(c)は油圧ラムの構造説明図である。
図6】油圧シリンダーの第2態様における内部構造説明図であり、図6(a)は正面図、同(b)は右側面図、同(c)は側板を1枚はずした状態の右側面図である。
図7】油圧シリンダーの他の態様を示す説明図であり、(a)は作動油を供給する前の外観斜視図、同(b)は作動油を供給しピストンロッドが突出した状態の外観斜視図、同(c)は分解図である。
図8】油圧シリンダーの他の態様を示す説明図であり、(a)は作動油を供給する前の外観斜視図、同(b)は作動油を供給しピストンロッドが突出した状態の外観斜視図、同(c)は分解図である。
図9】(a),(b)は油圧スプレッダーの構造を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、コンクリート構造物の一例となるシンダーコンクリートの解体方法の実施形態例を説明する。解体対象となるシンダーコンクリートは、図1に示すように、ワイヤーメッシュWMが埋め込まれているものとする。このようなシンダーコンクリートCCでは、コア穴をあけ、割裂や拡開しただけで直ちに破砕することはなく、埋め込まれたワイヤーメッシュWMを切断しない限り、次の作業工程に移行することができない。本実施形態では、少なくともワイヤーメッシュWMを切断するためのカッター等が挿入してカット操作できる空間を静音下で簡易に形成し、迅速に次の作業工程に移行させることができる新規な解体方法の例について説明する。
【0013】
[コア穴形成工程]
本実施形態の解体方法は、シンダーコンクリートCCの所定部位を削孔することにより1つ又は複数のコア穴をシンダーコンクリートCCに形成する。この工程を便宜上「コア穴形成工程」と称する。コア穴の数とコア穴間の距離は、シンダーコンクリートCCのサイズに応じて任意に決めることができる。各コア穴は、この種の工事ではきわめて小径となる小径のφ50(50mm径)以上φ100(100mm径)以下のコアビットを装着したコアドリルを用いて形成することができる。このような小径のコアドリルは小型軽量かつ安価であり、バッテリーで駆動可能であるため、作業性に優れる。コア穴の深さは、所定圧力(第1圧力)を押板の押圧力に変える割裂具による押圧力が作用する深さであればよい。
【0014】
[クラック形成工程]
本実施形態の解体方法は、コア穴の形成後、上記の割裂具を該コア穴に挿入し、該割裂具に第1圧力を供給することにより、該コア穴の周辺にクラック(crack)を生じさせる。この工程を便宜上「クラック形成工程」と称する。クラックの幅及び長さは、所定圧力(第2圧力)を一対の拡開刃の拡開力に変える拡開具が閉じた状態で該拡開刃が入り込む幅及び長さであればよい。なお、第1圧力と第2圧力は同じ圧力値であってもよい。本実施形態で用いる割裂具及び拡開具については後述する。
【0015】
[拡開工程]
本実施形態の解体方法は、拡開具をクラック又はコア穴に挿入し、該拡開具に第2圧力を供給することにより、クラックを拡開する。この工程を便宜上「拡開工程」と称する。クラックの拡開量は、カッターが挿入してカット操作が可能になる空間を確保できる量であればよい。あるいは、線材が存在しない部位のクラックの拡開により生じたガラ(シンダーコンクリートCCから分離した部分)を回収する回収具の操作が可能になる空間を確保できる量であればよい。本例では、約50mmの幅で100mmの長さのクラックが確保されるようにするが、これらの数値はシンダーコンクリートCCの全体サイズや組立構造に応じて変更してもよい。
【0016】
[切断工程]
本実施形態の解体方法は、拡開したクラック又はコア穴にワイヤーメッシュ等の線材の切断具(例えばカッター等)を挿入するとともに線材を切断し、これにより生じたガラを回収可能にする。この工程を便宜上「切断工程」と称する。この切断工程により、シンダーコンクリートCCから小片が分離され、回収が容易になる。これにより迅速に次の部位の解体へ移行することができ、例えば大型の割裂具等を用いたバースター工法による破壊法などの場合に比べて破壊音が小さくなるだけでなく、割裂具等を移動して設置し直したり解体に要する時間を格段に短縮することができる。
【0017】
図2(a)は、コア穴形成工程後のクラック形成工程および拡開工程により、シンダーコンクリートCCに生じたクラックが拡開され、2つの小片CC1,CC2が割裂されている状態を示す図である。図中、H11,H12,H21,H22,H23,H31,H32,H33,H34は、クラックで割裂されたコア穴の残部である。図示のようにシンダーコンクリートCCと小片CC1,CC2との間のクラックが拡開されているので、カッター等の挿入が容易になり、露出している線材を容易に切断することができる。また、予期しない自然破砕が抑制されるので、破砕音がなくなり、静音工事が可能になる。さらに、粉塵の量も抑制されるので、作業性に優れたものとなる。
【0018】
図2(b)は、切断工程を経て分離されたシンダーコンクリートCCの小片CC1,CC2の状態を示す。図2(b)に示すように、ガラの形状やサイズを拡開するクラックの数や位置によって調整することができ、回収具による回収を容易にすることができる。
【0019】
次に、図3図9を参照して、本実施形態の解体方法の実施に適した工具について説明する。説明の便宜上、図面上にXYZの三次元軸を設定し、X方向を前方向、-X方向を後方向、+Z方向を高さ方向又は上方向、-Z方向を下方向、+Y方向を右方向、-Y方向左方向を視ることを側面視、上から下を視ることを上面視、前方から視ることを正面視、後方から視ることを背面視と呼ぶ場合がある。
【0020】
[割裂具]
まず、割裂具の一例となる油圧シリンダーについて説明する。図3(a)は本実施形態における油圧シリンダーの前方外観斜視図、同(b)は油圧シリンダーの後方外観斜視図である。図4は油圧シリンダーの第1態様における内部構造説明図であり、図4(a)は正面図、同(b)は右側面図、同(c)は側板を1枚はずした状態の右側面図、同(d)は底面図である。図5(a)は油圧ラムの正面図、同(b)、(c)は油圧ラムの構造説明図である。図6は油圧シリンダーの第2態様における内部構造説明図であり、図6(a)は正面図、同(b)は右側面図、同(c)は側板を1枚はずした状態の右側面図である。
左側面図である。
【0021】
油圧シリンダー10は、それぞれその設置位置を変えることができる油圧ラム11、12、各油圧ラム11、12に作動油(圧油)を導入する作動油導入機構、各油圧ラム11、12を変位自在に固定可能なフレーム(筐体)100を有する。フレーム100は、底部と下底部とを連結させる側板141,142のほか、油圧ラム11,12の押板(第1押板)111,121が存在する部分を前方とすると前方の反対方向である後方側に突出する凸円弧状(バレル形状)の固定押板(第2押板)113を有する。固定押板113は、ネジ孔1131を通じてフレーム100の後方部全域にわたってネジ孔1131を通じてネジ止め固定されている。
【0022】
油圧ラム11,12は、それぞれベース部110、120を介して固定押板113にネジ止め固定されている。油圧ラム11,12の前方には、それぞれ後述するピストンロッドの露出端部に凸円弧状の押板111、121がネジ孔1111,1211を通じてネジ止め固定されている。押板111,121の曲率半径は固定押板113の曲率半径と同じ又はそれ以下であってよい。フレーム100の幅は、油圧ラム11,12よりも側部141,142の分だけ大きく、高さは3~4つ程度の油圧ラム11,12を高さ方向に縦続配置可能なサイズである。
【0023】
作動油導入機構は、以下のように構成される。すなわち、油圧ラム11には、油圧ラム11に隣接して配置される中継ブロック131と中継パイプ132とを介して作動油が供給される。中継パイプ132はベース部120を貫通して中継ブロック131に接続されている。油圧ラム12には、可撓性ホース133を介して作動油が供給される。油圧ラム11と中継ブロック131とは異径ソケット1311により接合され、油圧ラム12と可撓性ホース133とは異径ソケット1331により接合されている。
中継パイプ132と可撓性ホース133は、分岐カプラ15の出力口にそれぞれ接続されている。分岐カプラ15は、異径ソケット16を介して油圧カプラ17に接続されている。油圧カプラ17は、フレーム100の上底部から露出しており、図示しない油圧ユニットに接続される。
【0024】
フレーム100の一対の側板141、142には、油圧ラム11,12を固定するためのネジ孔140が形成されている。フレーム100前方のうち油圧ラム11,12以外の部分は開口しているが、カバーで封止した構造であってもよい。
【0025】
ここで、油圧ラム11,12について、詳しく説明する。図5(a)は油圧ラム11の正面図であり、押板111を外した状態が示されている。油圧ラム11はシリンダ本体1101を有する。シリンダ本体1101には、作動油の供給口1105、貯留空間1110及び開口端部が形成されている。作動油の供給口と貯留空間1110は、フレーム100の上底部と平行の軸線に沿って形成されている。開口端部は、この軸線に対して直交する方向に形成されている。
【0026】
貯留空間1110には、フランジ付のピストンロッド1102が配置されている。ピストンロッド1102は、その内部に上記軸線と直交する方向に延びる空洞を有し、この空洞内に弾性部材の一例となるバネ1103が配設されている。つまり、ピストンロッド1102が、バネ1103で弾性支持されている。シリンダ本体1101の開口端部にはピストンロッド1102のフランジを係止するためのストッパ1104が設けられており、これにより過度の摺動が抑制されるようになっている。ピストンロッド1102には、上述した押板111を離脱自在に固定するためのネジ孔11021が形成されている。つまり、押板111は、シリンダ本体1101の露出端部付近のピストンロッド1102に離脱自在に固定されている。
【0027】
貯留空間1110に作動油が供給されない場合、油圧ラム11は、図5のA-A断面図である図5(b)に示す通り、ピストンロッド1102がシリンダ本体1101にすべて収容され、バネ1103が縮んだ状態(初期状態)となっている。他方、供給口1105から貯留空間1110に作動油が導入(貯留)されると、ピストンロッド1102の背面が作動油により押圧され、図5(c)のようにピストンロッド1102が摺動してその先端部がシリンダ本体1101の開口端部から外方へ突出し、図5(c)の状態となる。図5(c)もまた図5のA-A断面図である。図5(c)の状態では、バネ1103が付勢されており、貯留空間1110の作動油が排出されると、図5(b)の状態に自律的に戻る。つまり、貯留空間1110への作動油の導入又は排出によりピストンロッド1102に固定された押板111がシリンダ本体1102の開口端部から押圧方向に出没する。このような構造の油圧ラム11は、作動油の押圧方向と同一方向に摺動するため、比較的大きい押圧力を実現することができる。
【0028】
油圧ラム11は、シリンダ本体1101から押板111が突出した状態でφ50以上φ100以下の内径の窪みに収容されるサイズに成形されている。つまり、油圧シリンダー10もまた、同様のサイズであり、小径のコア穴(例えばコア穴H11)であっても容易に収容が可能である。
【0029】
油圧ラム12についても、油圧ラム11と同様の説明が成立する。油圧ラム12は、その位置を図6(a),(b),(c)のように変えることができる。変位は、ネジ止めの位置を変えるだけでもよいが(図3図6では、そのために予備用のネジ孔が多数螺刻されている)、油圧ラム11,12とフレーム100の双方に、互いに任意の位置で係合する係合機構を設けるようにしてもよい。そのため、さまざまな深さのコア穴に対応することができる。
【0030】
本実施形態では、2つの油圧ラム11,12を有する油圧シリンダー10の例を説明したが、油圧ラムは1つだけであってもよく、また3つ以上にしてもよい。1つの場合、中継ブロック131や中継ホース132は不要であり、3つ以上の場合、中継ブロック131や中継ブロック132を併せて付加する構成にすればよい。
【0031】
また、図7図8に示すように、複数の油圧ラムを側板又はフレーム100と一体化した構造にしてもよい。図7は、2つの油圧ラム11,12をフレーム100と一体化した態様の油圧シリンダー10’を示す説明図であり、(a)は作動油を供給する前の外観斜視図、同(b)は作動油を供給しピストンロッドが突出した状態の外観斜視図、同(c)は分解図である。図示の油圧シリンダー10’は、また、2つの油圧ラム11,12の押板111,121の形状は、対応する油圧ラム11,12のピストンロッドの径とほぼ同じに成形してある。ただし、この形状は他の形状であってもよい。
【0032】
また、図8は、3つの油圧ラム11,12,18をフレーム100と一体化した態様の油圧シリンダー10’’を示す説明図であり、(a)は作動油を供給する前の外観斜視図、同(b)は作動油を供給しピストンロッドが突出した状態の外観斜視図、同(c)は分解図である。図示の油圧シリンダー10’’においても、3つの油圧ラム11,12,18の押板111,121,181の形状は、対応する油圧ラム11,12,18のピストンロッドの径とほぼ同じに成形してある。ただし、この形状も他の形状であってよい。また、図8に示すように、固定押板113は、2つに分割した構成であってもよい。もちろん3つ以上に分割した構成であってもよい。これにより、用途に応じた構成のフレキシブル性を確保することができる。
【0033】
なお、固定押板113は、一枚板で構成してもよいが、複数の分割板の組み合わせにより構成してもよい。後者の場合、分割板間に空隙があってもよい。
【0034】
上記のように構成される油圧シリンダー10は、例えばバースター工法等に用いられる油圧バースターヘッドよりも小型・軽量であり、一人の作業員が容易に持ち運ぶことができる。そのため、浴室等の狭い室内空間でも解体作業が可能になる。
【0035】
また、φ50の小径のコア穴にも収容することができるだけでなく、押板11,12の交換が可能なので、例えばバースター工法のように、コア穴をさらに押し広げるために押板とコンクリート内壁との間に当て板等を入れ替える必要がないため、解体に要する時間の短縮が可能になる。
【0036】
ピストンロッド1102の先端部の径(ラム径)と押板11,12の面積とをほぼ同じにしてもよく、この場合は、押板11,12が変形しにくくなり、押板11,12の寿命を長くすることができる。
【0037】
油圧シリンダー10は、いわゆる単動シリンダーなので、作動油の引き回しが容易であり、油圧操作も簡単で動作を比較的速くすることができる。
また、油圧ラム12の位置を変えることができるので、1つの油圧シリンダー10で様々な厚みのシンダーコンクリートの解体に適応することができる。
【0038】
[拡開具]
本実施形態の拡開具の一例について説明する。図9(a)、(b)は、拡開具の一例となる油圧スプレッダー20の構造説明図である。この油圧スプレッダー20もまた、油圧シリンダー10と同様、油圧ユニットにより制御される。油圧スプレッダー20は、図9に示すように、シリンダー21とスプレッダー22とを有する。シリンダー21は一対の端部を有する中空筐体を有し、一方の端部には油圧ユニットから供給される作動油を導入する導入口と貯留空間200が形成され、他方の端部はスプレッダー22の基端部221に接合されている。
【0039】
貯留空間200には、導入口を指向する第1フランジ231とスプレッダー22の基端部221を指向する第2フランジ232を有するピストンロッド23が貯留空間200内を摺動自在に設けられており、このピストンロッド23の第1フランジ231の背面に作動油が導入されることにより押圧力が生じ、作動油が導入口から排出されることにより該押圧力が解消される。これにより、ピストンロッド23の第2フランジ232が作動油の導入方向又は該作動油の回収方向と同一方向にそれぞれ摺動する。
【0040】
スプレッダー22は、図9正面から見て二等辺三角形の中心を2分割した略直角三角形状の一対のブレード25a,25bを備える。各ブレード25a,25bは、図9正面から図9背面に向けて一定の厚みを有しており、それぞれ斜辺と対辺とを結ぶ斜辺角部251a、251bは、基端部221の周縁付近に回動自在に軸支されている。また、それぞれ隣辺と対辺とを結ぶ隣辺角部252a、252bは、作動部材26a、26bを介してピストンロッド23の第2フランジ232と基端部221の中央付近に回動自在に軸支されている。
【0041】
図9(a)は、一対のブレード25a,25bが閉じた状態が示されているが、ピストンロッド23に作動部材26a、26bが押動されると、作動部材26a,26bは互いに離間する方向に回動し、これにより、各ブレード25a,25bは、互いに離間する方向に回動し、図9(b)のように、拡開する。貯留空間200から作動油が排出されると、スプレッダー22は、図9(b)から図9(a)の状態に戻る。なお、上述した油圧シリンダー10と同様、ピストンロッド23の内部に空洞を形成し、この空洞内に上記バネ1103と同様の作用効果を奏する弾性部材を配置してもよい。
【0042】
このように構成される油圧スプレッダー20は、作動油により生じる押圧力の方向とこれにより生じるブレード25a,25bによる拡開力が生じる方向とが異なるため、拡開力が分散されるが、拡開量は大きいものとなる。
【0043】
本実施形態では、押板111、121、181に与える押圧力が大きいものの十分なストローク量を確保することが困難な油圧シリンダー10を補完する工具として、十分な拡開量を確保できる油圧スプレッダー20を用いることにより、上述したコンクリート解体方法を効率的に実施することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、解体対象としてシンダーコンクリートを例に挙げて説明したが、無筋コンクリート体にも適用が可能である。
【0045】
「本開示による態様」
本明細書による開示は、以下の態様を含む。
<第1態様>
第1態様は、コンクリート構造物の所定部位を削孔することによりコア穴を形成する工程と、第1圧力を押板の押圧力に変える割裂具を前記コア穴に挿入し該割裂具に前記第1圧力を供給することにより前記コア穴の周辺にクラックを生じさせる工程と、第2圧力を一対の拡開刃の拡開力に変える拡開具を前記クラック又は前記コア穴に挿入し該拡開具に前記第2圧力を供給することにより、前記クラックを拡開する工程と、を有するコンクリート構造物の解体方法である。
割裂具と拡開具は、共に圧力供給手段、例えば油圧ユニットからの作動油の圧力を利用するアクチュエータであるが、割裂具は圧力により外部に作用する力が大きい利点はあるが十分な変位量を得にくいという課題がある。他方、拡開具は、変位量は大きい利点はあるが作用する力を得にくいという課題がある。コンクリート構造物の解体で最も大きい力を作用させる必要があるのは、コア穴を割裂させる工程なので、第1態様では、割裂具と拡開具の利点同士を活用することで、効率的かつ騒音の少ないコンクリート構造物の解体が可能となる。
【0046】
第2態様は、第1態様において、前記コンクリート構造物にワイヤーメッシュ等の線材が埋め込まれている場合、拡開した前記クラックの隙間に前記線材の切断具を挿入するとともに切断後の前記コンクリート構造物の一部を回収可能にする工程と、をさらに有する解体方法である。
この工程により、例えば次の部位の解体に移行するのが容易になり、例えばバースター工法のような既存の解体方法に比べて解体に要する時間を格段に短縮することができる。
【0047】
第3態様は、第1態様又は第2態様において、前記穴が、φ50以上φ100以下の内径で前記割裂具の押圧力が作用する深さとする解体方法である。
穴を上記内径とすることで、必要以上に既設構造物を破壊することがなく、狭い作業空間での解体が可能になる。従前、このような小径の穴を起点として割裂する割裂具は存在しない。この解体方法は、例えば後述する本発明の割裂具を用いることでより顕著な効果を発揮する。
【0048】
第4態様は、第1態様又は第2態様において、前記コア穴の深さに応じて前記割裂具の前記押板の設置位置又は前記押板の設置数を変更させる解体方法である。
さまざまな押板数の割裂具を用いたり、作業中に当て板で補完し、この当て板を入れ直す必要がないため、作業が簡略化される。
【0049】
第5態様は、1つ以上の油圧ラムと、前記油圧ラムを所定方向の任意の位置で離脱自在に固定するフレームと、を有し、前記油圧ラムは、作動油の貯留空間を有するシリンダ本体と、該シリンダの内部からその露出端部が所定方向に出没するピストンロッドと、前記ピストンロッドの露出端部に離脱自在に固定される凸円弧状の第1押板と、を備えており、前記シリンダ本体から前記第1押板が突出した状態で取り付けられ、前記ピストンロッドが埋没した状態でφ50以上φ100以下の内径の窪みに収容される割裂具である。
φ50以上φ100以下の内径の窪み(例えばコア穴)に収容可能なサイズなので作業者が一人で持ち運ぶことができ、また、油圧ラムの数を変えることにより、窪みの深さに制限されずに使用可能な割裂具を実現することができる。
【0050】
第6態様は、第5態様において、前記油圧ラムが前記フレーム内で変位自在である割裂具である。第6態様によれば、収容する窪みの深さや形状に合わせた位置で油圧ラムを作用させることができる。
【0051】
第7態様は、第5態様において、前記油圧ラムに、前記第1押板が突出する方向と逆の方向に凸となる凸円弧状の第2押板が固定されている割裂具である。
第1押板と第2押板が互いに反対方向に突出しているので、作動油によって円形の穴の内壁に作用する力をバランス良く伝えることができる。
【0052】
第8態様は、第5、6又は7態様において、前記油圧ラムのピストンロッドは、作動油導入時に付勢され前記油導入停止後に消勢する弾性部材で前記シリンダ本体の内部に支持されている割裂具である。
いわゆる単動性を実現することができるので、作動油の導入機構が複動性のものよりも簡略化され、割裂具の小型・軽量化が容易になる。
【符号の説明】
【0053】
10 油圧シリンダー
11,12 油圧ラム
100 フレーム
141,142 側板
111,121 押板(第1押板)
113 固定押板(第2押板)
131 中継ブロック
132 中継パイプ
133 可撓性ホース
15 分岐カプラ
17 油圧カプラ
1101 シリンダ本体
1110 貯留空間
1102 ピストンロッド
1103 バネ
1104 ストッパ
20 油圧スプレッダー
21 シリンダー
22 スプレッダー
23 ピストンロッド
25a,25b ブレード
200 貯留空間
【要約】
【課題】例えばシンダーコンクリートの解体に適した解体方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物CCの所定部位にコア穴H11を形成した後、油圧シリンダーをコア穴に挿入して作動させることにより、コア穴H11の周辺にクラックを生じさせる。このクラック又はコア穴に油圧スプレッダーを挿入して作動させることによりクラックを拡開する。コンクリート構造物にワイヤーメッシュWMが存在する場合、そのワイヤーメッシュWMをカッター等で切断してコンクリート小片CC1,CC2を分離させ、回収可能にする。
【選択図】図2
図1
図2
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図9