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特許7503873フィブロネクチン由来ペプチドを標的とするインヒビターペプチド化合物及びびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】フィブロネクチン由来ペプチドを標的とするインヒビターペプチド化合物及びびその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20240614BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20240614BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240614BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240614BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20240614BHJP
【FI】
C07K7/08
A61K38/10
A61K38/12
A61P11/00
A61P1/16
C07K14/78 ZNA
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023516640
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2021094680
(87)【国際公開番号】W WO2021249143
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】202010515052.8
(32)【優先日】2020-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522467600
【氏名又は名称】シェンチェン チュリエ バイオテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】蒋先興
(72)【発明者】
【氏名】王鋭
(72)【発明者】
【氏名】宋娜資
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-520421(JP,A)
【文献】特表2014-508147(JP,A)
【文献】国際公開第2012/156641(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/141970(WO,A1)
【文献】FASEB J.,2007年07月,Vol.21, No.9,pp.1968-1978
【文献】Proteins,2009年08月01日,Vol.76, No.2,pp.461-476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00-7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブロネクチン由来ペプチドを標的とするインヒビターペプチド化合物であって、下記アミノ酸配列で表される親ペプチドを含み、
-Val-Xa2-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Xa9-Xa10-Ala-Ser-Pro-Xa14
そのうち、Rは、親油基又は非存在であり、
Xa2=Val又はIva、
Xa9=Asp又はGlu、
Xa10=Glu又はAsp、
Xa14=Alaであることを特徴とする、ペプチド化合物。
【請求項2】
前記Rが親油基である場合、前記親ペプチドのアミノ酸配列において第1位Valのアミノ基が架橋単位を介して親油基に結合し、
前記架橋単位は、(PEG)m、又は(PEG)mとγGlu、又は(PEG)mとAspを含み、結合方式としては前記第1位Valのアミノ基が前記架橋単位における(PEG)mのポリエチレングリコール修飾を介して親油基に連結され、
前記親油基は、CH(CHC(O)-又はHOOC(CHC(O)-であり、かつCH(CHC(O)-又はHOOC(CHC(O)-におけるアシル基と前記架橋単位におけるアミノ基とがアミド結合を形成し、
そのうちmが2~10の整数であり、nが14~20の整数であり、前記アミノ酸配列のカルボキシル基末端におけるカルボキシル基が遊離するか、又はアミノ基と結合して-CONH基を形成する、請求項1に記載のペプチド化合物。
【請求項3】
前記Rが非存在である場合、前記親ペプチドのアミノ酸配列において第1位Valのアミノ基と第14位アミノ酸残基のカルボキシル基とがアミド結合を形成することにより、下記構造を有する環状ペプチド化合物を形成し、
そのうち、Xa2=Val又はIva、
Xa9=Asp又はGlu、
Xa10=Glu又はAsp、
Xa14=Alaである、請求項1に記載のペプチド化合物。
【請求項4】
前記親ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号18、配列番号21、配列番号22、配列番号24及び配列番号25で表されるアミノ酸配列から選ばれる任意の1つである、請求項1に記載のペプチド化合物。
【請求項5】
前記親ペプチドのアミノ酸配列における第1位Valのアミノ基は、下記構造を有する官能基に連結される、請求項2に記載のペプチド化合物。
【請求項6】
前記ペプチド化合物は、下記化合物1~化合物25から選ばれる任意の1つである、請求項1に記載のペプチド化合物。
化合物2(配列番号2):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Val-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物5(配列番号5):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物6(配列番号6):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala
化合物7(配列番号7):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物8(配列番号8):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala
化合物9(配列番号9):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Asp-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物10(配列番号10):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Val-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Asp-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物13(配列番号13):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18CH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物14(配列番号14):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH16COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物15(配列番号15):(PEG-PEG-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物16(配列番号16):(PEG-PEG-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物18(配列番号18):
化合物21(配列番号21):
化合物22(配列番号22):
化合物24(配列番号24):
化合物25(配列番号25):
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のペプチド化合物を含んでなることを特徴とする、組成物。
【請求項8】
前記組成物は、薬物組成物であり、薬学的に許容可能な担体及び/又は添加剤を更に含んでなる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~6の何れか1項に記載のペプチド化合物の、特発性肺線維化及び肺臓疾患に伴う繊維症、あるいは肝繊維化及び肝臓疾患に伴う繊維症を予防又は治療するための薬物の製造における使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学の技術分野し、具体的には、フィブロネクチン由来ペプチド(以下、「EDPs」とも略称する)を標的とするインヒビターペプチド化合物に関し、該ペプチド化合物は、臓器繊維化及び臓器疾患に伴う繊維症を治療又は予防するための薬物用途に適用可能であり、特に肝繊維化及び肝臓疾患に伴う繊維症や、特発性肺線維化及び肺臓疾患に伴う繊維症を治療又は予防するための薬物用途に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
臓器繊維化は、多くの慢性疾患にとって末期臓器不全が現れるときの特徴的な指標であり、体の健康状態を大きく損害し、患者の死亡を惹起する重要な原因である。繊維化は、体が侵襲性刺激に対応するために保護目的で修復機能を起動することがその主な発症機構として考えられ、異常な癒合や修復を繰り返すことにより組織恒常性の障害、細胞外基質(以下、「ECM」とも称する)の過剰蓄積及び組織構造の破壊をもたらし、結果的に繊維化病変をきたす(D.C.Rockey,P.D.Bell,J.A.Hill,The New England journal of medicine 2015,372,1138-1149)。
【0003】
多くの慢性疾患は、末期において臓器繊維化の症状が頻繁に現れ、例えば、肝繊維化は肝臓に持続的に肝損傷を惹起し、組織が修復反応を行う際にECMを持続的に合成して分解することにより基質沈着のバランスが崩れることに起因する病理学的プロセスであり、複雑な細胞及び分子機序を抱える動的プロセスである。肝繊維化は、慢性肝疾患の重要な病理学的特徴であり、かつ肝硬変に繋がる主な中間寛解でもある。損傷後の修復反応は、ECM微小環境に様々な変化をもたらし、こうした過程において静止状態にある肝星細胞が活性化され、肝星細胞の形態や機能に異常が起こり、具体的な表現としてはECMの異常合成と分解である(L.Petitclerc,G.Sebastiani,G.Gilbert,G.Cloutier,A.Tang,Journal of magnetic resonance imaging:JMRI2017,45,1276-1295)。ECMの合成と分解のバランスが崩れると、ECMが大量に蓄積されて繊維化を形成し、繊維化の発生が肝星細胞の更なる活性化を促し、結果として繊維化がどんどん進展する。肝繊維化と肝硬変を惹き起す原因は様々であるが、例えば、西側諸国では過度の飲酒、肝炎ウィルスの感染及び脂肪肝の発生が最も頻繁に見られる誘因である。それ以外、例えば原発性硬化性胆管炎(PSC)、原発性胆汁性胆管炎(PBC)及び自己免疫性肝炎(AIH)など、慢性免疫が仲介する損傷も肝繊維化と肝硬変を誘発する可能性がある(K.Bottcher,M.Pinzani,Advanced drug delivery reviews 2017,121,3-8)。
【0004】
肝繊維化に対して適時な制御と治療をせずにほったらかすと、肝硬変へ進展する恐れがあり、最終的には肝機能に損傷をもたらして肝壊死が発生する。肝硬変へ進展した患者は、極危険な肝細胞癌を罹るリスクに晒され(A.H.Ali,K.D.Lindor,Expert opinionon pharmacotherapy 2016,17,1809-1815)、患者に莫大な苦痛を与え、引いては命の危険に脅され、肝臓移植による治療を受けざる得ない場合がある。肝繊維化が我が国と世界各国の人々の健康状態を大きく脅かすことから、有効な治療薬物が期待されている。
【0005】
現在、繊維化の治療に用いる薬物としてアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けているのはオベチコール酸(以下、「OCA」とも略称する)が唯一である。ところが、OCAを用いる薬物治療ではそう痒症が目立ち、高密度リポタンパク質コレステロールが低下するなど、不良反応が一定の頻度で発生し、一部の患者が厳重なそう痒症のため薬物治療を中断せざるを得なくなり、さらに、一部の患者においては重篤な心血管イベントが現れる場合がある。また、OCAが高価であるため、薬剤経済学からして費用対効果が理想的であるとは言い難く、更なる改善が求められる。こうしたことから、繊維化症の治療に当たって副作用が少なく、より特異的であり且つ経済的である薬物が特に注目を浴びている。
【0006】
一方、肺繊維化についても人々が関心を持っており、そのうち特発性肺線維化(以下、「IPF」とも略称する)は、病因や発症機構が不明である慢性、進行性、繊維化性の間質性肺炎であり、ECMの異常沈着に起因して普遍的な肺リモデリングが発生することを特徴とする(L.Richeldi,H.R.Collard,M.G.Jones,The Lancet 2017,389,1941-1952)。特発性肺線維化は、高齢者で多く見られ、生存期間中央値が2~3年の程度であり、発症機構及び危険因子としては遺伝要因、環境暴露、喫煙、慢性ウィルス感染及び一部の合併症が挙げられる。病理組織検査では、通常、普遍的な肺瘢痕形成が観察され、正常な肺胞が筋線維芽細胞を含む線維性瘢痕によって置き換えられることが発症原因であると考えられる。特発性肺線維化は、治癒不能な病気であり、臨床ではニンテダニブ、ピルフェニドンなどの抗線維化剤を投与し、若しくは肺繊維化に対する非薬物治療を行うなど、症状進行を遅延させ、生活品質を高め、かつ生存期間を延長させることを治療目的とするのが一般である(D.J.Lederer,F.J.Martinez,The New England journal of medicine 2018,378,1811-1823.)。特発性肺線維化の病理学的機構について新しい識見が集まる中、特発性肺線維化に有効な治療手段が乏しく、抗繊維化のための治療に使用可能な手段が病状進展を遅延させることに止まり、完治には甚だ遠き道がある。
【0007】
慢性閉塞性肺疾患(以下、「COPD」とも略称する)も肺繊維化を伴随することがあり、全世界に渡り発症率、死亡率が高い一般病であり、その特徴としては末梢気道閉塞(例えば、慢性閉塞性細気管支炎)及び肺気腫が挙げられる。慢性閉塞性肺疾患は、気道検査で気道閉塞の可逆性が悪いことが実証され、気道閉塞に起因して肺部内に空気が溜まり、体力活動で息切れを感じる場合がある。慢性閉塞性肺疾患を誘発する最も危険な要因は、喫煙である。慢性閉塞性肺疾患の発症機序に対して現在でも不明な部分が多いが、通常、副腎皮質ステロイドに抵抗性を示す慢性炎症が連関していると考えられる。なお、慢性閉塞性肺疾患は、肺部の老化を加速化させると同時に酸化ストレスによる異常な修復機構にも関与することが報告されている(K.F.Rabe,H.Watz,The Lancet 2017,389,1931-1940)。そのため、禁煙努力に加え、有効であり且つ持効性のある気管支拡張剤、在宅酸素療法を利用することで病状を抑えて安定化させることができるが、これらの薬物は疾患の潜在的な進行を遅延することができず、病状の進展又は死亡率を完全に抑えることができないため、より活発な研究で疾患の発症機構を深く把握し、疾患の活動や進展を低減しうる新しい療法への期待が高まりつつある。
【0008】
フィブロネクチン(Elastin)は、ECMにおいて最も安定なタンパク質であり、弾性線維を構成する主成分である。フィブロネクチンは、動脈壁、靭帯、肺臓、膀胱および皮膚などの多種の弾性軟部組織に存在する(ROBERTM.SENIOR,J.Clin.Invest.1982,70,614-618)。弾性タンパク質は、胎児時から合成し始め、出生時にピークに達し、青春期後に合成が次第に少なくなり、やがて合成を中止する。弾性線維の半減期が長引く70年にも達し、新規合成率が低いことが知られている。弾性線維は、正常な健康状態で組織結合の主成分であり、組織弾性を維持する役割を果たすが、疾患状態では異常な合成と分解を繰り返す。弾性線維の分解によって一連のペプチド産物(すなわち、フィブロネクチン由来ペプチド)が派生し、このような弾性線維の分解によって派生したペプチド産物はそれぞれ異なるアミノ酸配列を備え、下流の受容体を活性化させて一連の細胞シグナルを調節し、例えばRas-Raf-1-MEK1/2-ERK1/2、Gi-p110γ-Raf-1-MEK1/2-ERK1/2、cAMP-PKA-B-Raf-MEK1/2-ERK1/2、NO-cGMP-PKG-Raf-1-MEK1/2-ERK1/2又はGi-p110γ-Akt-caspase9-Bad-Foxo3Aなどのシグナル経路を調節することができる(L.Duca,C.Blanchevoye,B.Cantarelli,C.Ghoneim,S.Dedieu,F.Delacoux,W.Hornebeck,A.Hinek,L.Martiny,L.Debelle,The Journal of biological chemistry 2007,282,12484-12491)。また、フィブロネクチン由来ペプチドは、様々な疾患の進行を緊密に関連し、過剰に生成した場合に肝臓の代謝異常をきたし、並びに炎症を積み重ねて肝臓疾患の進行を促す場合がある。したがって、フィブロネクチン由来ペプチドの活性を阻害することは、肝繊維化に対しても一定の改善効果が見込められる(C.Ntayi,A.L.Labrousse,R.Debret,P.Birembaut,G.Bellon,F.Antonicelli,W.Hornebeck,P.Bernard,TheJournalofinvestigativedermatology2004,122,256-265)。特発性肺線維化の発症機構は未だに不明であるが、ECMのリモデリング異常が肺瘢痕組織におけるコラーゲンの持続的な沈着を促し、疾患の進行及び/又は進展において重要な役割を果たすと推定される。
【0009】
繊維化疾患を治療するに当たって、現在臨床で研究されている薬物が不足や安全リスクを抱えるため、抗繊維化薬物の分野にとってより安全で且つ有効な新規標的薬を開発することが急務になっており、それに相応した薬物分子の設計及び合成が期待されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に鑑み、本発明は、フィブロネクチン由来ペプチドを標的とする新規なインヒビターペプチド化合物を提供することを目的とする。本発明者が鋭意研究を重ねた結果、本発明に係るインヒビターペプチド化合物は不良反応の発生を避け、臓器繊維化及び臓器疾患に伴う繊維症の治療に適用可能であることを見出し、好ましくは、前記臓器繊維化及び臓器疾患に伴う繊維症は、肝繊維化及び肝臓疾患に伴う繊維症、並びに特発性肺線維化及び肺臓疾患に伴う繊維症である。
【0011】
本発明は、さらに、上述の新規なインヒビターペプチド化合物の、治療又は予防前記臓器繊維化及び臓器疾患に伴う繊維症を治療又は予防するための応用を提供することを目的し、本発明に係るインヒビターペプチド化合物は、特に肝繊維化及び肝臓疾患に伴う繊維症、並びに特発性肺線維化及び肺臓疾患に伴う繊維症を治療するための次世代の新薬として有望である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の技術案を提供する。
【0013】
本発明の1つの側面において、フィブロネクチン由来ペプチドを標的とするインヒビターペプチド化合物を提供し、該インヒビターペプチド化合物は、下記のアミノ酸配列で表される親ペプチドを含み、
-Val-Xa2-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Xa9-Xa10-Ala-Ser-Pro-Xa14
そのうち、Rは、親油基又は非存在であり、
Xa2=Val又はIva、
Xa9=Asp又はGlu、
Xa10=Glu又はAsp、
Xa14=Leu又はAlaであり、
が非存在であり、かつXa2=Val、Xa14=Leuである場合、前記親ペプチドは、非直鎖状ペプチドである。
【0014】
そのうち、Rが親油基である場合、前記親ペプチドのアミノ酸配列において第1位Valのアミノ基が架橋単位を介して親油基に結合し、前記架橋単位は、(PEG)m、又は(PEG)mとγGlu、又は(PEG)mとAspを含み、結合方式としては前記第1位Valのアミノ基が前記架橋単位における(PEG)mのポリエチレングリコール修飾を介して親油基に連結され、前記親油基は、CH(CHC(O)-又はHOOC(CHC(O)-であり、かつCH(CHC(O)-又はHOOC(CHC(O)-におけるアシル基と前記架橋単位におけるアミノ基とがアミド結合を形成し、そのうちmが2~10の整数であり、nが14~20の整数であり、前記アミノ酸配列のカルボキシル基末端におけるカルボキシル基が遊離するか、又はアミノ基と結合して-CONH基を形成する。前記結合方式として、具体的には図7を参酌することができる。
【0015】
そのうち、Rが非存在である場合、前記親ペプチドのアミノ酸配列において第1位Valのアミノ基と第14位アミノ酸残基のカルボキシル基とがアミド結合を形成することにより、下記構造を有する環状ペプチド化合物を形成し、

そのうち、Xa2=Val又はIva、
Xa9=Asp又はGlu、
Xa10=Glu又はAsp、
Xa14=Leu又はAlaである。
【0016】
本発明の1つの実施形態によれば、前記親ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24及び配列番号25で表されるアミノ酸配列から選ばれる任意の1つである。
【0017】
本発明の1つの実施形態によれば、前記親ペプチドのアミノ酸配列における第1位Valのアミノ基は、下記構造を有する官能基に連結される。

【0018】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明に係るペプチド化合物は、下記化合物1~化合物25から選ばれる任意の1つである。
化合物1(配列番号1):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Val-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Leu-NH
化合物2(配列番号2):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Val-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物3(配列番号3):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Leu-NH
化合物4(配列番号4):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Val-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Leu-NH
化合物5(配列番号5):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物6(配列番号6):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala
化合物7(配列番号7):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物8(配列番号8):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala
化合物9(配列番号9):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Asp-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物10(配列番号10):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Val-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Asp-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物11(配列番号11):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Leu-NH
化合物12(配列番号12):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Val-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Asp-Ala-Ser-Pro-Leu-NH
化合物13(配列番号13):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18CH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物14(配列番号14):(PEG-PEG-γGlu-CO(CH16COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物15(配列番号15):(PEG-PEG-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物16(配列番号16):(PEG-PEG-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Asp-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NH
化合物17(配列番号17):
化合物18(配列番号18):
化合物19(配列番号19):
化合物20(配列番号20):
化合物21(配列番号21):
化合物22(配列番号22):
化合物23(配列番号23):
化合物24(配列番号24):
化合物25(配列番号25):
【0019】
本発明のもう1つの側面において、本発明に係る新型なインヒビターペプチド化合物を含む薬物組成物を提供し、前記薬物組成物は、本発明に係る新規なインヒビターペプチド化合物を活性成分とし、さらに、薬学的に許容可能な担体及び/又は添加剤を含んでなる。
【0020】
本発明の他の側面において、本発明に係る新規なインヒビターペプチド化合物の薬物用途を提供する。細胞及び動物レベルの評価試験において、本発明に係る新規なインヒビターペプチド化合物が不良反応を起こさず、臓器繊維化及び臓器疾患に伴う繊維症の治療に適用可能であることが実証され、前記臓器繊維化及び臓器疾患に伴う繊維症としては、好ましくは、肝繊維化及び肝臓疾患に伴う繊維症、並びに特発性肺線維化及び肺臓疾患に伴う繊維症である。
【0021】
本発明で言う新規なインヒビターペプチド化合物の親ペプチドは、相同性ポリペプチドである。本発明において相同性ポリペプチドとは、ポリペプチドが天然親ペプチド固有のアミノ酸配列を有するが、そのうち1個又は数個のアミノ酸残基が異なるアミノ酸残基によって置換されたものを指し、これらのアミノ酸残基同士は互いに保存性を保ち、このようにして得られたポリペプチドは本発明を実施するために利用することができる。また、細胞及び動物レベルの評価試験から、質量数が同じである場合、天然親ペプチドに比べて本発明のインヒビターペプチド化合物の親ペプチドがより優れた生物活性及び薬理活性を備え、その治療効果も天然親ペプチドを上回ることが実証された。
【0022】
当業者からすれば、本発明に係る薬物組成物の投与形態について特に制限がないのがよく理解でき、投与形態として、例えば経口投与、経皮投与、静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、鼻腔内投与などを適宜選択することができる。また、投与ルートにもよるが、本発明に係るペプチド薬物組成物を適切な製剤形態に調製し、得られた製剤には治療及び/又は予防効果を示す有効量で少なくとも1つの本発明のペプチド化合物と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体とを含むことができる。また、適切な製剤形態として錠剤、カプセル、糖衣錠剤、粒剤、経口液剤又はシロップ剤が挙げられ、経皮投与の場合には油脂性軟膏や貼付剤を利用することができ、さらに、投与ルートに合わせてエアゾール剤、鼻腔用スプレー、又は注射用の無菌液剤にすることができる。
【0023】
なお、非経口ルートで投与する場合、本発明のペプチド化合物を含む薬物組成物を溶液又は凍結乾燥粉末に調製した後、使用に先立って適切な溶媒又はその他の薬用担体を加えて更に調製を行うことで緩衝液、等浸透液又は水溶液などの液体製剤にすることもできる。本発明の薬物組成物の用量は、当業者が疾患の種類、病状の深刻さ、患者体重、製剤形態、投与ルートなどの客観的要素を考慮した上で、比較的大きな範囲内において適宜調整することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、フィブロネクチン由来ペプチドを標的とする新規なインヒビターペプチド化合物を提供し、本発明のペプチド化合物は、体内で循環するEDPsに結合してその生体活性を阻害することができる。本発明では、さらに、細胞モデルを用いる体外活性試験や動物モデルを用いる体内活性試験を実施することにより、異なる活性を示す一連のポリペプチドに対して薬効評価を行い、本発明者の知る限り本発明のようなペプチド化合物と繊維化の連関性を検討する研究は前例がない。本発明は、EDPsの空間構造及び結合サイトの特性に基づき、生物活性を示し且つEDPsに結合しうるペプチド阻害剤を設計し、臓器繊維化を対象とする治療薬の開発に新しいアイデア及び検討方向を提供することができる。
【0025】
具体的には、本発明のペプチド化合物は、質量数が同じである天然親ペプチドに比べてより優れた生物活性を示し、肝繊維化及び肝臓疾患に伴う繊維症、並びに特発性肺線維化及び肺臓疾患に伴う繊維症に対してより優れた薬效作用があり、薬物動態試験においてもより優れた薬物活性、安全性及び安定性を示す。また、本発明のペプチド化合物は、高収率で合成することができ、安定性が高く、安価で大量製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例2において、LX2細胞モデルを利用して化合物1~25の活性を測定して統計学的に解析する棒状グラフであり、そのうち**とは、信頼度>99%であり、比較対象に顕著な有意差があり(P<0.01)、***とは、信頼度>99.9%であり、比較対象に特に顕著な有意差がある(P<0.001)ことを意味する。
図2】実施例3において、マウス肝臓の組織切片を作製し、HE染色を行うことにより得られたHE染色図である。
図3】実施例3において、マウス肝臓のI型コラーゲンに対して免疫組織化学染色を行って得られた染色図、及び統計学的に解析する棒状グラフであり、そのうち**とは、信頼度>99%であり、比較対象に顕著な有意差があり(P<0.01)、***とは、信頼度>99.9%であり、比較対象に特に顕著な有意差がある(P<0.001)ことを意味する。
図4】実施例3中において、マウス肝臓の組織切片を作製し、シリウスレッド染色を行って得られた染色図、及び統計学的に解析する棒状グラフであり、そのうち*とは、信頼度>95%であり、比較対象に有意差があり(P<0.05)、**とは、信頼度>99%であり、比較対象に顕著な有意差があり(P<0.01)、***とは、信頼度>99.9%であり、比較対象に特に顕著な有意差がある(P<0.001)ことを意味する。
図5】実施例4において、マウス肺臓の組織切片を作製した後、それぞれHE染色、マッソン染色を行い、並びにα-SMA及びI型コラーゲンに対して免疫組織化学染色を行うことにより得られた染色図、及び統計学的に解析する棒状グラフであり、そのうち**とは、信頼度>99%であり、比較対象に顕著な有意差があり(P<0.01)、***とは、信頼度>99.9%であり、比較対象に特に顕著な有意差があり(P<0.001)、****とは、信頼度>99.99%であり、比較対象に特に顕著な有意差がある(p<0.0001)ことを意味する。
図6】実施例4において、ELISA法を利用し、各組のマウス血清におけるTGF-β及びMMP-9サイトカインの発現状況を調べて統計学的に解析する棒状グラフであり、そのうち**とは、信頼度>99%であり、比較対象に顕著な有意差があり(P<0.01)、***とは、信頼度>99.9%であり、比較対象に特に顕著な有意差があり(P<0.001)、****とは、信頼度>99.99%であり、比較対象に特に顕著な有意差がある(p<0.0001)ことを意味する。
図7】本発明のペプチド化合物における架橋単位とペプチド鎖の結合方式を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の技術案および効果をより深く理解できるよう、具体的な実施形態及びび図面を参照しながら本発明を詳しく説明する。当業者であれば、以下の実施形態が本発明を例示したに過ぎず、本発明の範囲を制限するものでなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能であると理解できる。以下において、試験や測定の具体的な条件について明記がない場合、かかる試験や測定は通常の条件下又はメーカー推奨の条件下で行われ、試験や測定で使われる試薬又は測定装置も製造元について明記がない場合、市販ルートで容易に入手できる一般製品と解すべきである。
【0028】
本明細書で使われる略語は、以下のものを指し、つまり、
Boc:t-ブトキシカルボニル基、
Fmoc:フルオレニルメトキシカルボニル基、
t-Bu:t-ブチル基、
resin:樹脂、
TFA:トリフルオロ酢酸、
EDT:1,2-エタンジチオール、
FBS:ウシ胎児血清、
BSA:ウシ血清アルブミン、
HPLC:高速液体クロマトグラフィー、
mPEG:モノメトキシポリエチレングリコール、
Ser:セリン、
D-Ser:D-型セリン、
Gln:グルタミン、
Gly:グリシン、
Glu:グルタミン酸、
Ala:アラニン、
Asp:アスパラギン酸、
Leu:ロイシン、
Pro:プロリン、
Val:バリン、及び
Iva:イソバリンである。
【0029】
実施例1:ペプチド化合物の合成
ペプチド化合物の合成は、ペプチド化合物7及び22を例として以下の通りに行われた。合成に用いる材料として、アミノ酸は上海GL Biochem社より購入し、樹脂はRink Amide MBHA(loading=0.36mmol/g)を用い、西安Sunresin社より購入した。合成に用いる有機試薬について特に説明がない場合、何れも上海Titan Sci社製の分析用クラスの試薬を使用した。ポリペプチドの精製には、Thermofisher社製であり、型番がUltimate 3000である高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムとしてPhenomenex Luna C18大量分取用カラム(規格:20mm×250mm)を用いた。マススペクトル解析は、Agilent社製であり、型番が1260-6120である質量分析計を用いて行った。
【0030】
1)ペプチド化合物7の合成
ペプチド化合物7の配列構造は、(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NHであった。
【0031】
1-1)ペプチド樹脂の結合
ペプチド合成装置を用い、Fmoc固相合成法に従って0.72mmolのスケールで(PEG-PEG-γGlu(OtBu)-CO(CH18CO(OtBu))-Val-Iva-Gly-Ser(tBu)-Pro-Ser(tBu)-Ala-Gln(Trt)-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Ala-Ser(tBu)-Pro-Ala-Rink Amide MBHAペプチド樹脂を合成した。
【0032】
ステップ1:ステップ1では樹脂を膨張させ、具体的には、Rink amide MBHA樹脂2gを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)において膨張させ、そして膨張した樹脂をN,N-ジメチルホルムアミドで1回当たり15分間の程度で2回洗い流した。
【0033】
ステップ2:ステップ2では、樹脂へのアミノ酸縮合反応が行われ、具体的には、Rink Amide MBHA樹脂を担体とし、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(3×)及びN,N-ジイソプロピルカルボジイミド(3×)をカップリング剤とし、N,N-ジメチルホルムアミドを溶媒とし、そして設定プログラムに従って順にFmoc保護基によって保護されたアミノ酸を縮合することにより、(PEG-PEG-γGlu(OtBu)-CO(CH18CO(OtBu))-Val-Iva-Gly-Ser(tBu)-Pro-Ser(tBu)-Ala-Gln(Trt)-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Ala-Ser(tBu)-Pro-Ala-Rink Amide MBHAペプチド樹脂を得た。縮合反応1回に当たり、Fmoc保護アミノ酸の導入量と樹脂使用量との質量比が3:1の範囲であり、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール及びN,N-ジイソプロピルカルボジイミドとFmoc保護アミノ酸の導入量との質量比が1:1の範囲であり、脱保護溶液として20%のピペリジンを含むDMF溶液を用いた。縮合反応が終わると、純メタノールで1回当たり15分間の程度で2回洗い流し、溶媒を真空条件下で除去してペプチド樹脂4.2gを得た。
【0034】
ステップ3:ステップ3では、ペプチドの切断と脱保護処理を行い、具体的には、ステップ2で得られた(PEG-PEG2-γGlu(OtBu)-CO(CH18CO(OtBu))-Val-Iva-Gly-Ser(tBu)-Pro-Ser(tBu)-Ala-Gln(Trt)-Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Ala-Ser(tBu)-Pro-Ala-Rink Amide MBHAペプチド樹脂4.2gを丸底フラスコに入れ、氷浴の条件下でTFA:TIS:HOが体積比で95:2.5:2.5である分解液45mLを加え、分解液の温度を25℃に保ちつつ120分間撹拌して反応させた。ろ過を行い、ろ液を撹拌しながらゆっくりと冷たいエテールに注ぎ、1.0時間以上静置した。沈降が十分行われると、遠心して上澄液を捨て、沈降物に窒素ガスを噴き当てて乾燥させ、そして真空状態に減圧しながら一晩乾燥することによりペプチド化合物(PEG-PEG-γGlu-CO(CH18COH)-Val-Iva-Gly-Ser-Pro-Ser-Ala-Gln-Glu-Glu-Ala-Ser-Pro-Ala-NHの粗品1.2gを得た。
【0035】
1-2)精製と塩変換
ステップ3で得られた粗品1.2gをアセトニトリルとHOが体積比で1:1であり且つ5.0%の酢酸を含む溶液20mLに加え、超音波をかけて振とうして完全に溶解させ、溶液が清らなになるまで溶解した後、0.45μmのポリテトラフルオロエチレン膜でろ過してC5ろ液を得た。得られたろ液については、半分取HPLCを用い、20mmの逆相C18が充填されているカラム(規格:20mm×250mm)で2回精製した。具体的には、アセトニトリルの濃度勾配が40~60%の範囲である0.1%のトリフルオロ酢酸水溶液を移動相とし、流速19mL/分間で60分間かけてカラムを洗い流し、C5を含む画分を回収した後、濃縮を行ってアセトニトリルを除去することで塩変換を行い、凍結乾燥してHPLC純度が98.83%の純品145mgを得た。液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)を利用して精製産物を分析したところ、プロトン化分子イオンピークのm/2z値が1050.4であり、理論値は2099.4であった。
【0036】
2)ペプチド化合物22の合成
ペプチド化合物22の配列構造は、下記の通りであった。
【0037】
2-1)直鎖ペプチドの主鎖の結合
ペプチド合成装置を用い、Fmoc固相合成法に従って0.72mmolのスケールで以下に示す直鎖状ペプチド樹脂を合成した。
Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Ala-Ser(tBu)-Pro-Ala-Val-Iva-Gly-Ser(tBu)-Pro-Ser(tBu)-Ala-γGlu(OAll)-Rink Amide MBHAペプチド樹脂
【0038】
ステップ1:ステップ1では樹脂を膨張させ、具体的には、Rink amide MBHA樹脂2gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)において膨張させ、そして膨張した樹脂をN,N-ジメチルホルムアミドで1回当たり15分間の程度で2回洗い流した。
【0039】
ステップ2:ステップ2では、樹脂へのアミノ酸縮合反応が行われ、具体的には、Rink Amide MBHA樹脂を担体とし、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(3×)及びO-アザベンゾトリアゾール-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(3×)をカップリング剤とし、N,N-ジメチルホルムアミドを溶媒とし、そして設定プログラムに従って順にFmoc保護基によって保護されたアミノ酸を縮合することにより、Glu(OtBu)-Glu(OtBu)-Ala-Ser(tBu)-Pro-Ala-Val-Iva-Gly-Ser(tBu)-Pro-Ser(tBu)-Ala-γGlu(OAll)-Rink Amide MBHA直鎖状ペプチド樹脂を得た。縮合反応1回に当たり、N-Fmoc保護アミノ酸の導入量と樹脂使用量との質量比が3:1の範囲であり、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール及びO-アザベンゾトリアゾール-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩とN-Fmoc保護アミノ酸の導入量との質量比が3:1の範囲であり、脱保護溶液として20%のピペリジンを含むDMF溶液を用いた。
【0040】
ステップ3:ステップ3では、OAll保護基を除去する処理が行なわれ、具体的には、以上で得られたGlu(OtBu)-Glu(OtBu)-Ala-Ser(tBu)-Pro-Ala-Val-Iva-Gly-Ser(tBu)-Pro-Ser(tBu)-Ala-γGlu(OAll)-Rink Amide MBHAペプチド樹脂をDMF溶液に分散させ、0.15当量のテトラキス (トリフェニルホスフィン)パラジウム、10当量のモルホリンを加えて窒素ガス雰囲気で12時間反応させた後、順にDCM(10mL×3回)、DMF(10mL×3回)を用いて洗い流し、真空蒸留して洗浄液を除去した。
【0041】
ステップ4:ステップ4では、アミド化反応により前記直鎖状ペプチドの首尾両端をつないで環状ペプチドを作製した。具体的には、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(3×)及びO-アザベンゾトリアゾール-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(3×)をカップリング剤とし、N,N-ジメチルホルムアミドを溶媒として4時間反応させた。カップリング反応が終わると、純メタノールを用いて1回当たり15分間の程度で2回洗浄し、溶媒を真空蒸留して除去し、秤量してペプチド樹脂3.8gを得た。
【0042】
ステップ5:ステップ5では、ペプチドの切断と脱保護処理を行い、具体的には、ステップ4で得られた樹脂3.8gを丸底フラスコに入れ、氷浴の条件下でTFA:TIS:HOが体積比で95:2.5:2.5である分解液40mLを加え、分解液の温度を25℃に保ちつつ120分間反応させた。反応が終わると、ろ過を行い、ろ過ケーキを少量のトリフルオロ酢酸で3回洗浄し、ろ液を集めて回収した。ろ液を撹拌しながらゆっくりと冷たいエテールに注ぎ、1.0時間以上静置して完全に沈降させ、遠心して沈降物を回収し、冷たいエテールで3回洗浄して沈降物を得た。沈降物に窒素ガスを噴き当てて乾燥させ、そして真空状態に減圧しながら一晩乾燥することによりペプチド化合物22の粗品1.0gを得た。
【0043】
2-2)精製と塩変換
ステップ5で得られた粗品1.0gを、純水30mLに超音波をかけて振とうして溶解させ、完全に溶解した溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン膜でろ過することにより、ペプチド化合物22を含むろ液を得た。得られたろ液については、半分取HPLCを用い、20mmの逆相C18が充填されているカラム(規格:20mm×250mm)で2回精製した。具体的には、アセトニトリルの濃度勾配が15~35%である0.1%のトリフルオロ酢酸水溶液を移動相とし、流速19mL/分間で60分間かけてカラムを洗い流し、ペプチド化合物22を含む画分を回収した後、濃縮を行ってアセトニトリルを除去することで塩変換を行い、凍結乾燥してHPLC純度が99.92%の純品90mgを得た。液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)を利用して精製産物を分析したところ、プロトン化分子イオンピークのm/z+1値が1311.25であり、理論値は1309.62であった。
【0044】
上述の通りに合成した一連のペプチド化合物を、下記表1に纏めて示す。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例2:化合物1~25の活性評価
LX2細胞は、活性化されたヒト肝星細胞株であり、体外で肝繊維化を検討するための細胞評価モデルとして直接使用可能である。本実施例で使われるLX2細胞は、中国科学院典型培養物保存センター(中国上海)から入手し、LX2細胞を用いて以下の通りにしてペプチド化合物1~25の抗繊維化活性を評価した。つまり、LX2細胞モデルを用いてペプチド化合物1~25の抗繊維化活性に対して一次選別を行い、具体的には、ペプチド化合物1~25を1.0μM及び10.0μMの2つの濃度に調製して細胞と48時間インキュベートすることにより、活性化された筋線維芽細胞のマーカーであるα-SMAタンパク質の発現状況を調べた。対照組には、同じ体積のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地、米国Gibco社製)を加え、この試験ではGAPDH(北京TranGen Biotech社製)を内部標準物とした。ここで、α-アクチン(α-SMA)は、筋芽細胞と筋線維芽細胞を区分する1つの指標である。
【0047】
図1に、実験結果を示す。図1に示すように、統計学方法を用いて実験結果を解析したところ、内部標準物GAPDHに比べ、本発明のペプチド化合物は何れもα-SMAに対して阻害改善活性を示すことが確認できた。そのうち、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22は、α-SMAに対してより優れた阻害改善活性を示した。さらに、本発明のインヒビターペプチド化合物が細胞レベルで繊維化の形成を抑制することのできることが確認され、本発明の新規なインヒビターペプチド化合物が臓器繊維化及び臓器疾患に伴う繊維症の治療薬として有望であると認められる。
【0048】
実施例3:四塩化炭素(CCl )で誘導されるマウス肝繊維化モデルに対するペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22の薬効評価
マウス肝繊維化モデルの作製及び薬効評価で使われるCCl及びコーン油は、何れも上海Aladdin Biochemical社製であり、ペプチド化合物は、試験に備えて-20℃の条件において保存した。
【0049】
本実施例では、マウス肝繊維化モデルを作製して薬物投与を行い、薬効評価を行った。具体的には、中山大学実験動物センターにより入手した体重が18~22gの範囲であり、週齢が8週であるオスのC57BL/6Jマウス72匹をランダムで12組に分け、各組のマウスに対して以下のような処理を行った。対照組(Oil)にマウス6匹を分配し、腹腔内経由で生理食塩水を注射し、モデル対照組(CCl)には、マウス6匹を分配し、腹腔内経由で生理食塩水を注射し、かつ三日1回の頻度でCClを投与し、合わせて6週間かけてCCl投与を行った。モデル投与組(CCl)は、10組で構成され、各組ごとにマウス6匹を分配した。モデル投与組(CCl)には20%のCClを投与し、かつ腹腔内経由でペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22をそれぞれ投与し、このときマウス体重に合わせて100.0μg/kg、5.0μL/gの量で投与を行った。また、モデル対照組のマウスには、ペプチド化合物に替わって同じ頻度で同じ体積のコーン油を投与した。投与方式としては、マウスにCClを三日1回の頻度で投与し、合わせて6週間かけて投与を行い、モデル投与組にCClを投与してから3週間経った後、4週目からペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22をそれぞれ投与し、合わせて3週間かけてペプチド化合物を投与し続けた。
【0050】
薬效評価は、以下のように行われた。つまり、CClで誘導される肝繊維化モデルは、その特徴として中心静脈領域の付近に炎症性の細胞浸潤が発生し、それに随伴して肝細胞に水腫性変性が見られ、かつ門脈域と肝小葉の間隔エリアにコラーゲン線維が大量に沈着するなどが挙げられる。投与開始から3週間経った時点でマウスの眼窩静脈叢から採血して血清の各指標を測定し、さらに、肝組織を採取して病理解析を行った。
【0051】
本実施例で用いるHE染色液及びシリウスレッド染色液は、何れも上海Sangon Biotech社製であり、I型コラーゲン抗体は、CST社製であった。
【0052】
ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)は、以下の通りに行われた。パラフィン包埋の組織切片を60℃で1時間加温した後、順にキシレン20分間→キシレン20分間→無水アルコール15分間→無水アルコール15分間→95%のアルコール10分間→90%のアルコール5分間→80%のアルコール5分間漬けて脱パラフィンと再水化処理を行った。そして、順にヘマトキシリン7分間→水道水で洗浄→1%の塩酸・エタノールで1秒間分別→水道水で洗浄→エオジンで15~20秒間染色→水道水で洗浄することで染色を行い、順に75%のアルコール1秒間→85%のアルコール1秒間→95%のアルコール1秒間→100%のアルコール1秒間→キシレン1秒間→キシレン1秒間漬けることで脱水、透徹処理を行った。以上の処理が終わると、カバーガラスを付け、30分間乾燥してからガムで組織切片を封入した。
【0053】
シリウスレッド染色は、以下の通りに行われた。組織切片を加温してから脱パラフィン処理を行い、再蒸留水に浸漬した状態で5.0分間静置した後、暗室においてシリウスレッドを用いて60~80分間かけて染色を行った。染色が終わると、0.5%の氷醋酸を用いて切片を5秒間洗い流し、脱水、透徹及び封入処理を行い、病理解析に備えて写真を取った。
【0054】
免疫組織化学染色は、以下の通りに行われた。組織切片を加温してから脱パラフィン処理を行い、再蒸留水に5分間浸漬した。抗原復活のため、組織切片が置かれた枠をクエン酸緩衝液(pH6.0)が入ったフラスコに入れ、高温、高圧の条件下で15分間処理した。その後、フラスコを室温環境に静置して温度が室温になるまで待ってから切片を取り出し、3.0%の過酸化水素水に10分間漬けて内因性ペルオキシダーゼの活性をブロックした後、PBSを用いて1回当たり5分間の程度で3回洗浄した。1.0%のBSAを用いて組織切片を1時間かけてブロッキングし、PBSで軽く洗い流すことにより1.0%のBSAを除去し、メーカー推奨の割合でI型コラーゲン抗体を希釈して切片に滴下し、4℃で一晩静置した。翌日に抗体溶液を洗い流し、室温に戻してからHRP標識の二次抗体を加えて37℃、60分間インキュベートした。DAB(ジアミノベンジジン、米国Thermo Scientific社製)を用いて発色させ、ヘマトキシリン染色液を用いて染色した後、水道水で5分間洗い流し、1%の塩酸・エタノールで分別してから水道水で5分間洗い流し、そして脱水乾燥を行い、切片を封入して写真を取った。
【0055】
以上で説明した通り、モデル対照組(CCl)には生理食塩水を投与し、かつ腹腔内経由で三日1回の頻度で6週間かけてCClを注射した。図2図4に、モデル対照組(CCl)に対してHE染色、シリウスレッド染色及びI型コラーゲン免疫組織化学染色を行った結果を示す。図2図4に示すように、マウスをCClで処理すると、肝臓組織に炎症性の細胞浸潤が発生し、肝繊維化の徴候が顕著であることが確認できた。
【0056】
一方で、図2に示すように、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22それぞれを100.0μg/kgの量でモデル投与組(CCl)に投与した場合、マウス肝臓において炎症細胞が集積する現象が顕著に改善され、各モデル投与組のマウス肝繊維化がペプチド列化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22投与後に顕著に改善されることが確認でき、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22が何れもECMの蓄積を効果的に抑制し、肝繊維化の治療及び改善に有効であると認められる。
【0057】
また、図3図4に示すように、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22それぞれを100.0μg/kgの量でモデル投与組(CCl)に投与した場合、各モデル投与組においてマウス肝臓におけるI型コラーゲンの発現量が何れも顕著に改善され、かつマウス肝臓におけるコラーゲンの沈着も顕著に改善されることが確認できた。
【0058】
実施例4:ブレオマイシンで誘導されるマウス肺繊維化モデルに対するペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22の薬効評価
肺繊維化モデルの作製で使われるブレオマイシン(BLM)は、上海TCI Chemicals社製であり、ペプチド化合物は、試験に備えて-20℃の条件において保存した。
【0059】
本実施例では、マウス肺繊維化モデルを作製して薬物投与を行い、薬効評価を行った。具体的には、中山大学実験動物センターにより入手した体重が18~22gの範囲であり、週齢が6~8週の範囲であるオスのC57BL/6Jマウス78匹をランダムで13組に分け、正常対照組(normal)、生理食塩水対照組(Saline)、ブレオマイシンモデル組(BLM)を設けて各組にそれぞれマウス6匹を分配した。モデル投与組は、10組で構成され、各組にマウス6匹を分配し、150μg/kgの量でペプチド化合物を投与した。ブレオマイシン誘導によるマウス肺繊維化が確認できてから7日目に、モデル投与組のマウスに腹腔内経由で1日当たり150μg/kgの量でペプチド化合物を投与し、投与開始から14日後に組織を採取し、切片作り、染色を行って病理解析を行った。
【0060】
薬效評価は、以下のように行われた。つまり、ブレオマイシンで誘導される肺繊維化モデルは、その特徴として気管支拡張、気管支壁上皮細胞に水腫性変性が見られ、肺胞間質に水腫変化を起こって間隔が大きくなり、かつ大量の線維芽細胞とコラーゲン組織が沈着し、肺胞構造が殆ど消え、代わりに線維性結締組織によって埋められ、同時に炎症細胞の浸潤を随伴する。モデル投与組は、投与開始から14日経った時点でマウスの眼窩静脈叢から採血して血清の各指標を測定し、さらに、肺組織を採取して病理解析を行った。
【0061】
本実施例で用いるHE染色液及びシリウスレッド染色液は、何れも上海Sangon Biotech社製であり、I型コラーゲン抗体は、CST社製であった。
【0062】
HE染色は、以下の通りに行われた。具体的には、パラフィン包埋の組織切片を60℃で1時間加温した後、順にキシレン20分間→キシレン20分間→無水アルコール15分間→無水アルコール15分間→95%のアルコール10分間→90%のアルコール5分間→80%のアルコール5分間漬けて脱パラフィンと再水化処理を行った。そして、順にヘマトキシリン7分間→水道水で洗浄→1%の塩酸・エタノールで1秒間分別→水道水で洗浄→エオジンで15~20秒間染色→水道水で洗浄することで染色を行い、順に75%のアルコール1秒間→85%のアルコール1秒間→95%のアルコール1秒間→100%のアルコール1秒間→キシレン1秒間→キシレン1秒間漬けることで脱水、透徹処理を行った。以上の処理が終わると、カバーガラスを付け、30分間乾燥してからガムで組織切片を封入した。
【0063】
マッソン染色は、以下の通りに行われた。組織切片を加温してから脱パラフィン処理を行い、そして順に媒染、セレスチンブルー染色液を滴下して2~3分間染め、水洗い、マイヤーヘマトキシリン染色液を滴下して染色、水洗い、酸性・エタノールで数秒間分別してから水道水で洗い流し、ポンソー・マゼンタ染色液を滴下して染色し、蒸留水で洗い流し、リンモリブデン酸溶液による処理を行い、アニリン青染色液を滴下して5分間染め、弱酸溶液で2分間処理を行った後、脱水、透徹及び乾燥処理を行い、ガムで切片を封入した。
【0064】
免疫組織化学染色は、以下の通りに行われた。組織切片を加温してから脱パラフィン処理を行い、再蒸留水に5分間浸漬した。抗原復活のため、組織切片が置かれた枠をクエン酸緩衝液(pH6.0)が入ったフラスコに入れ、高温、高圧の条件下で15分間処理した。そして、フラスコを室温環境に静置して温度が室温になるまで待ってから切片を取り出し、3.0%の過酸化水素水に10分間漬けて内因性ペルオキシダーゼの活性をブロックし、PBSを用いて1回当たり5分間の程度で3回洗浄した。1.0%のBSAを用いて組織切片を1時間かけてブロッキングし、PBSで軽く洗い流すことにより1.0%のBSAを除去し、メーカー推奨の割合でI型コラーゲン抗体を希釈して切片に滴下し、4℃で一晩静置した。翌日に抗体溶液を洗い流し、室温に戻してからHRP標識の二次抗体を加えて37℃、60分間インキュベートした。DAB(ジアミノベンジジン、米国Thermo Scientific社製)を用いて発色させ、ヘマトキシリン染色液を用いて染色した後、水道水で5分間洗い流し、1%の塩酸・エタノールで分別してから水道水で5分間洗い流し、脱水及び乾燥処理を行い、切片を封入して写真を取った。
【0065】
試験結果を図5に示す。図5に示すように、正常対照組及び生理食塩水対照組は、HE染色において正常な肺組織構造が保たされ、肺胞壁の厚さに異変がなく、肺胞上皮構造も完全であり、炎症細胞の浸潤が見られなかった。一方、正常対照組及び生理食塩水対照組は、マッソン染色において極少量でコラーゲン線維が青色に染められた。モデル投与組は、マウスにペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22を150.0μg/kgの量でそれぞれ投与を行った結果、ブレオマイシンモデル組に比べてマウスの肺繊維化が顕著に改善されることが確認できた。投与開始から14日経った時点でHE染色、マッソン染色を行ったところ、ブレオマイシンモデル組では肺胞間隔が顕著に大きくなり、間隔エリアが大量の線維芽細胞や基質によって埋められ、一方でモデル投与組は、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22を投与することでブレオマイシンモデル組に比べて肺臓の繊維化度が著しく低下する傾向を示した。
【0066】
α-SMA及びI型コラーゲンの免疫組織化学染色結果から、ブレオマイシンモデル組において肺胞間隔が顕著に大きくなり、肺実質が大量の黄色に染められたフィブロネクチンによって埋められていることが確認できた。一方、モデル投与組は、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22を投与することで肺実質内のフィブロネクチンがブレオマイシンモデル組の場合に比べて顕著に少なくなっている傾向が見られた。これらの結果から、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22を投与することで肺組織におけるα-SMA、I型コラーゲンの発現を顕著に抑制し、肺繊維化を顕著に阻害して改善できることが実証された。
【0067】
TGF-β及びMMP-9によって誘発されるEMTプロセスは、繊維化疾患の発生や進展に緊密に連関していると考えられる。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)は、基質を分解するタンパク質酵素であり、細胞外基質を構成する全部成分を分解することができる。マトリックスメタロプロテアーゼは、肺繊維化の病理・生理過程に関与し、細胞外基質のリモデリング異常及び基底膜の破壊において重要な役割を果たし、炎症細胞及び線維芽細胞の集積を促すことができる。肺繊維化の動物モデル及び患者において、MMP-9の発現が増加し、MMP-9発現量が正常レベルを超えると、組織構造に異常をもたらし、病変部位への炎症細胞の遊走を促すことができる。これらの識見に基づき、ブレオマイシンで誘導される肺繊維化に対するペプチド薬物の阻害機構を検討するため、ELISA法を利用して各組のマウス血清におけるTGF-β、MMP-9サイトカインの発現状況を調べた。図6Aに示すように、正常対照組及び生理食塩水対照組に比べ、ブレオマイシンモデル組では肺部のMMP-9発現量が顕著に増加することが確認でき、一方でペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22を投与した場合、マウス血清中におけるMMP-9の濃度を著しく抑制することができ、このような抑制作用が肺繊維化度の軽減に繋がっていると考えられる。さらに、本発明のペプチド化合物は、TGF-βシグナル経路にも影響を与え、図6Bに示すELISA検査の結果から、ペプチド化合物1、5、7、11、12、13、17、18、21及び22を投与することでマウス血清におけるTGF-βの濃度が顕著に低下することが確認できた。
【0068】
以上の評価試験結果から、本発明のペプチド化合物がECMの集積及び肺組織におけるα-SMA、I型コラーゲンの発現を抑制することができ、肝繊維化及び肝臓疾患に伴う繊維症、並びに特発性肺線維化及び肺臓疾患に伴う繊維症の治療に有用であることが実証された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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