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  • 特許-繊維構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/14 20060101AFI20240614BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20240614BHJP
   D02G 3/36 20060101ALI20240614BHJP
   D03D 15/56 20210101ALI20240614BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20240614BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20240614BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20240614BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240614BHJP
【FI】
D04B1/14
D02G3/04
D02G3/36
D03D15/56
D03D15/47
A41D19/015 110Z
A41D19/00 M
A41D31/00 502C
A41D31/00 503F
A41D31/00 503L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020064774
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161566
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和義
(72)【発明者】
【氏名】巽 薫
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-009378(JP,A)
【文献】特開2012-207328(JP,A)
【文献】特開2019-143253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B、D02G、D03D、A41D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸に弾性糸を用い、鞘糸に高強力有機繊維の捲縮糸を用いてなる複合糸で構成される繊維構造物であって、
JIS T 8050に準じてブロックと刃物の質量1000gで測定した動的引裂き性能レベルが3以上であり、かつ目付が350g/m以下であり、
前記捲縮糸の繊度が440~880dtex、かつ、破断強力が4,300cN以上、10,000cN以下であることを特徴とする繊維構造物。
【請求項2】
JIS T 8052に準じて測定した切創力が10N以上である請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項3】
高強力有機繊維の捲縮糸が、破断伸度が5%以下である請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項4】
高強力有機繊維の捲縮糸が、破断強力が5,000cN~10,000cNである請求項に記載の繊維構造物。
【請求項5】
高強力有機繊維が、パラ系アラミド繊維である請求項1~のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項6】
繊維構造物の目付が200~340g/mである請求項1~のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項7】
繊維構造物が編地であり、該編地の密度が、ウェール方向で10~30/25.4mm、コース方向で15~35/25.4mmである請求項1~のいずれかに記載の繊維構造物。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の繊維構造物を少なくとも一部に用いてなる手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的引裂に対する抵抗性が高い繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
作業着やユニフォームは、炎や熱、刃物、釘など様々なリスクから作業者の身体を防護する役割を担っている。アラミド繊維などの高強力有機繊維を用いた手袋、腕カバー、前掛けなどの防護材は、当該繊維が刃物で切断されにくいので、木綿などを使用した従来の防護材に比べて耐切創性が画期的に高い。そのため、例えば自動車産業、家電製品産業などにおいてバリの出た板金加工品を扱う作業、割れ易いガラス製品を扱う作業、金属片やガラス片が混入している可能性のある一般塵芥を扱うゴミ収集作業など、切創事故を起こし易い作業において作業者の手や体を保護するために広く使用されてきた。
【0003】
さらに、例えばアラミド繊維の場合は、約250℃では溶融せず、その分解温度が400℃以上と高温である。また、限界酸素指数は約25以上であって、空気中では熱源である炎を近づけると燃焼するが、炎を遠ざけると燃焼が続かなくなる。このように耐熱性および難燃性に優れた素材であるが故に、炎や高熱に曝される危険の大きい場面での衣料製品、例えば消防服、自動車レース用のレーシングスーツ、製鉄用作業服または溶接用作業服、手袋などの防護衣料としても好んで用いられてきた。
【0004】
しかし、高強力有機繊維を用いて製造した作業用手袋は、着用感が悪く、作業効率を低下させる問題があった。そこで、特許文献1、2には、ストレッチ性のある弾性糸の周りに、高強力有機繊維に捲縮を付与した捲縮糸を巻回してなる複合糸を手袋に加工することにより、耐燃焼性、耐熱性、ストレッチ性に優れる防護用手袋が得られることが開示されている。
【0005】
特許文献3、4には、高強力繊維の捲縮加工の熱処理条件を変えることにより、嵩高度が高い捲縮糸が得られることや、嵩高度がより高い捲縮糸を弾性糸の周りに巻回してなる複合糸を用いて編成した手袋は、着用感が良好であることが開示されている。また、特許文献4では、手袋の切創力(耐切創性)を向上させるために、複合糸の編み込み密度を、指先部分など刃物が接触する可能性が高い部分を他の部分よりも高く形成することが有効であるとしているが、編み込み密度を高くすることにより、手袋の着用感や作業効率を悪化させるという新たな問題が発生する。
【0006】
そのため、作業者からは着用感や作業性に優れ、かつより一層安全な手袋、腕カバー、前掛けなどの防護材に対する要望が強い。かかる背景には、防護手袋を着用する場合、一般的には該手袋のみを装着して作業することが多いが、汚れなどによる手袋の交換が必要なことから、該手袋の上に革製の縫製手袋やゴム製手袋などを重ね履きすることも多い。また、該手袋の耐切創性が不足する作業(例えば鋭利な刃物の交換や鋭利な金属鋼板やガラス板の運搬など)においては、より高い耐切創性が求められるため、耐切創手袋を二重履きすることも多く、作業効率が低下してしまうことが挙げられる。その結果、厚みが薄く装着性が良好であり、切創力(刃物を用い材料をカットスルーするのに必要とされる力)が高い手袋に対する要望が多いのが実情である。
【0007】
しかしながら、釘などの突起物や障害物に引っ掛かった際に、手袋に穴が開いたり破れたりすることは、作業現場で通常起こり得ることであるが、こうした穴開きや破れが生じないこと(これを動的引裂き性能という)に関する文献の報告例は少ない。特許文献5には、芯糸にステンレス鋼繊維フィラメントを用い、鞘糸に有機繊維を用いた複合糸ならびにそれを用いて作製された織編物の例が開示されているが、柔らかい風合いのある装着性の優れた手袋を得るという点で課題が有る。この点、有機繊維のみで手袋を構成すれば装着性に関する課題を解決できる可能性があるが、動的鉤引裂き強さと切創力の双方を解決した手袋について報告された例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-193345号公報
【文献】特開2003-193314号公報
【文献】再公表2012-86584号公報
【文献】特開2013-163882号公報
【文献】特開2007-039839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、動的引裂き性能に優れ、手に良くフィットして装着感に優れ作業効率が良好であり、さらに、切創力(耐切創性)にも優れる繊維構造物、手袋を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0011】
(1)芯糸に弾性糸を用い、鞘糸に高強力有機繊維の捲縮糸を用いてなる複合糸で構成される繊維構造物であって、
JIS T 8050に準じてブロックと刃物の質量1000gで測定した動的引裂き性能レベルが3以上であり、かつ目付が350g/m以下であり、
前記捲縮糸の繊度が440~880dtex、かつ、破断強力が4,300cN以上、10,000cN以下であることを特徴とする繊維構造物。
(2)JIS T 8052に準じて測定した切創力が、10N以上である前記(1)に記載の繊維構造物。
)高強力有機繊維の捲縮糸が、破断伸度が5%以下である前記()に記載の繊維構造物。
)高強力有機繊維の捲縮糸が、破断強力が5,000cN~10,000cNである前記(1)に記載の繊維構造物。
)高強力有機繊維が、パラ系アラミド繊維である前記(1)~()のいずれかに記載の繊維構造物。
)繊維構造物の目付が200~340g/mである前記(1)~()のいずれかに記載の繊維構造物。
)繊維構造物が編地であり、該編地の密度が、ウェール方向で10~30/25.4mm、コース方向で15~35/25.4mmである前記(1)~()のいずれかに記載の繊維構造物。
)前記(1)~()のいずれかに記載の繊維構造物を少なくとも一部に用いてなる手袋。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性糸を芯糸に用い、高強力有機繊維を鞘糸に用いた複合糸で、繊維構造物を構成することにより、ステンレス鋼繊維フィラメントを芯糸に用いた複合糸よりも、動的引裂き性能に優れ(レベル3以上)、さらに、切創力にも優れる繊維構造物を提供できる。また、鞘糸に高強力有機繊維の捲縮糸を用いることにより、着用感や装着感の良い防護衣料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の繊維構造物で用いる複合糸の製造方法の一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の繊維構造物およびそれに用いる複合糸について詳細を説明する。
【0015】
[芯糸]
本発明の繊維構造物を構成する複合糸において、芯糸としては、複合糸に伸縮性が付与される点より、伸縮性のある弾性糸が用いられる。弾性糸としては、公知の有機系の弾性糸を用いることができ、高い伸縮性を持つ点より、ポリウレタン弾性糸が好ましく用いられる。ポリウレタン弾性糸は、その断面形状は特に限定されるものではなく、円形であっても扁平であってもよく、またその繊維は、モノフィラメントであっても溶着されたマルチフィラメントであっても良い。
【0016】
かかる弾性糸の繊度としては、11~940dtexの範囲が好ましく、22~350dtexの範囲がより好ましい。11dtex以上あれば、複合糸製造時および繊維構造物の製造工程において糸切れの原因となりにくく、また、手袋などの防護衣料着用時のフィット感に優れたものとなる。940dtex以下であれば、複合糸の伸び縮みのパワーが強すぎることがないため、防護衣料に編織した際に着用時のフィット感および柔軟性を著しく損なうことがない。また、手袋編機のゲージ数に合わなくなることもない。
【0017】
弾性糸の破断伸度は、繊維構造物に対する伸縮性付与の観点より、200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましい。200%未満であると手袋を形成した時に十分な伸縮性を得ることができなくなる恐れがある。
弾性糸は、動的引裂き性能を保持する観点より、伸縮復元率が10%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。伸縮復元率は、JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.12に従って測定した数値である。
【0018】
[鞘糸]
本発明の繊維構造物を構成する複合糸において、鞘糸としては、原糸の特性として、JISL 1013に基づいて測定される引張強さが、好ましくは17.5cN/dtex以上、より好ましくは20cN/dtex以上である高強力有機繊維が用いられる。かかる引張強さが17.5cN/dtex未満の場合は、複合糸に高度の耐屈曲性と耐摩耗性を付与することが難しく、動的引裂き性能に優れた繊維構造物が得られ難くなる。さらに好ましい引張強さは、17.5~35cN/dtexである。
【0019】
また、高強力有機繊維は、JIS L 1013に基づいて測定される引張り弾性率が、好ましくは400cN/dtex以上、より好ましくは440cN/dtex以上である、高弾性率繊維であることが好ましい。かかる高強力有機繊維を用いることにより、芯鞘型複合糸を構成した際に、該複合糸に、引張強さと高度の耐屈曲性および耐摩耗性を付与することができる。また、編み立て時の糸切れが無く、繊維構造物に対して動的引裂き性能および切創力を付与できるため、芯糸に沿わせたり巻き付けたりする糸(随伴糸)が不要になる。
【0020】
上記の鞘糸を構成する高強力有機繊維としては、引張強さおよび耐摩耗性に優れている点から、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリケトン繊維、ポリアミドイミド繊維、LCP(液晶ポリマー)繊維などの耐熱・高強力有機繊維から選択される1種、または任意の2種以上を用いることが好ましい。これらの高強力有機繊維のなかでは、耐熱性、難燃性とともに、高強度特性および耐切創性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましい。パラ系アラミド繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造でき、市販品を用いても良い。
【0021】
また、高強力有機繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維など他の公知の繊維との混繊、交撚などによる複合糸としても使用することもできる。
【0022】
パラ系アラミド繊維の市販品としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)、コポリパラフェニレン-3,4'-ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)などがある。この中でも、特に、高強度、高弾性率で、耐切創性および耐熱性に優れている点から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が好ましい。
【0023】
全芳香族ポリエステル繊維としては、クラレ株式会社製、商品名「ベクトラン」などがあり、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維としては、東洋紡株式会社製、商品名「ザイロンイザナス」などがある。ポリケトン繊維としては、旭化成せんい株式会社製、商品名「サイバロン」、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維などがある。ポリアミドイミド繊維としては、ローヌプーラン社製、商品名「ケルメル」などがある。
【0024】
複合糸の鞘糸としては、芯糸に対するカバーリング性や撚り性に優れるとともに、編織したときの風合いがソフトであり伸縮性に優れる繊維構造物が得られる観点より、高強力有機繊維の捲縮糸が好ましい。また同様の観点より、鞘糸は、高強力有機繊維の捲縮糸を50質量%以上含む糸で構成されることが、切創力が小さい弾性糸を芯糸に用いた場合であっても、釘などの突起物に対する追従性に優れているため、繊維構造物に動的引裂き性能を付与することができるだけでなく、切創力の高い繊維構造物が得られる点で好ましい。
【0025】
高強力有機繊維の捲縮糸は、高強力有機繊維フィラメントに仮撚り加工(加撚→熱セット→解撚)を施したものである。捲縮糸は、解撚まで加工していない加撚、熱セットのみのものや、仮撚り加工した糸を撚糸したもの、仮撚り加工した糸に熱セットをしたもの、或いは、撚糸した糸を仮撚り加工したものであっても良い。
【0026】
高強力有機繊維に捲縮を付与する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。好ましい方法としては、高強力有機繊維に撚りを加える加撚工程と、乾熱処理工程と、前記撚りを解く解撚工程とを実施することにより製造される。製造方法は、連続式仮撚加工法またはバッチ(非連続)式仮撚加工法のいずれでも良いが、嵩高い捲縮糸が得られる点、捲縮糸の繊維がバラケている点、すなわち解撚状態が良い点より、連続式仮撚加工法が好ましい。
【0027】
連続式仮撚加工法における仮撚りスピンドルによる仮撚り数は、糸を適度に捲縮させるとともに撚りをかけすぎることによる繊維の切断を防ぐため、下記式(1)で表わされる撚り係数(K)の値が約4,000~11,000程度、好ましくは約4,500~9,000程度であるのが好適である。仮撚りスピンドルで撚りを加える場合には、1本ピン、2本ピン、4本ピンのスピナーを用いることができる。
【0028】
=t×D1/2 (1)
〔但し、tは仮撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
【0029】
乾熱処理における熱セットの温度条件は、捲縮糸が所望の嵩高性と伸縮性を有するようにするためには、高温処理が好適であり、原料繊維の分解開始温度付近とすることが好ましい。好ましい温度条件は、原料繊維によって異なるが、パラ系アラミド繊維の場合は、糸が通過するヒーター内部の雰囲気温度、すなわちヒーター温度を約300~650℃にし、より好ましくは350~600℃にすることが好ましい。
【0030】
乾熱処理におけるヒーターは、接触ヒーターでも、非接触ヒーターでもよく、公知の手段によって行われて良い。加熱時間は、繊維の種類、糸条の太さまたは加熱温度などにより異なるが、通常、0.005~2秒程度が望ましい。好ましくは約0.01~1.5秒程度である。乾熱処理は、加圧下、減圧下、常圧下のいずれで行われても良いが、通常の連続式仮撚加工では常圧下で行われることが好ましい。
【0031】
上記の仮撚加工法による製造方法において、パラ系アラミド繊維の捲縮糸を製造する場合は、仮撚り加工前のパラ系アラミド繊維として、水分率が好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは1~10%のものを使用することが望ましい。この場合、上記式(1)において、Dは水分を含む繊度(tex)を表す。撚りを加える前の水分率が20%を超えると、乾熱処理において熱が糸へ効率よく伝わらなくなり熱セット効果が得られないために良好な捲縮糸になり難く、一方、撚りを加える前の水分率が1%未満であると、糸道ガイドなどの擦れにより糸がフィブリル化を起こす恐れがある。
【0032】
高強力有機繊維の捲縮糸の繊度(フィラメント数)は、用途目的に応じ、繊維構造物の動的引裂き性能、切創力、伸縮性、柔軟性、風合いなどを考慮して適宜選択すれば良い。繊度としては、440~880dtexの範囲が好ましい。より好ましくは500~800dtexの範囲である。繊度を440dtex以上とすることで、弾性糸を芯糸に使用した際でも繊維構造物に動的引裂き性能、さらには切創力を付与することができ、また繊度を880dtex以下とすることで、軽量繊維構造物が得られやすくなる。
【0033】
高強力有機繊維の捲縮糸の単糸繊度は、繊維構造物の動的引裂き強さを勘案して選択するのが良い。
【0034】
高強力有機繊維の捲縮糸は、破断強力が4,300cN以上であることが好ましい。破断強力が4,300cN以上あると、繊維構造物の動的引裂き性能レベル3以上を確保することが容易である。破断強力は、より好ましくは,4,500cN以上、さらに好ましくは5,000cN以上、特に好ましくは6,000~10,000cNである。破断強力が10,000cNを超える場合は、繊維構造物の柔軟性が損なわれる恐れがある。
また、高強力有機繊維の捲縮糸は、破断伸度が5%以下であることが好ましく、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下である。破断伸度が5%を超える場合は、繊維構造物に外力が加えられた時に捲縮糸が伸びてしまうために鞘糸と芯糸(弾性糸)との密着性が悪くなり、それによって繊維構造物の切創力が低下する恐れがある。高強力有機繊維の捲縮糸の中でも、破断強力が高く、強度と柔軟性とのバランスが良い点からは、パラ系アラミド繊維の捲縮糸が好ましい。
【0035】
[複合糸]
本発明で用いる複合糸は、良好な動的引裂き性能、さらには耐切創力を得る観点から、芯糸に、高強力有機繊維の捲縮糸を含む繊維束をらせん状に一重に巻き付けたもの(SCY:シングル・カバード・ヤーン)が好ましい。SCYは、複合糸の製造工程を簡素化する観点からも好ましい。より良好な被覆性などを得る観点からは、さらにその上に、高機能繊維、ナイロン繊維やポリエステル繊維などの合成繊維、綿などの天然繊維などの他の公知の繊維をらせん状に巻き付け、芯糸の周りを二重(DCY:ダブル・カバード・ヤーン)もしくは三重に被覆したものでも良い。耐熱性に優れる複合糸を得ることが目的の場合は、鞘糸全量に占めるアラミド繊維の比率が高い方が好ましく、鞘糸に占めるアラミド繊維の比率は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは100質量%であると良い。
【0036】
ここで、DCYにおいては、高強力有機繊維フィラメントの周りに配置する一重めの被覆糸を下撚り糸、二重めの被覆糸を上撚り糸という。二重に被覆する場合、トルクを打ち消すため、上撚り糸のカバーリングの撚り方向は、下撚り糸のカバーリングの撚り方向の逆方向にかけることが好ましい。
【0037】
次に、複合糸の製造方法について説明する。図1は本発明で用いる複合糸の製造方法の一例を示す概略模式図である。
【0038】
本発明においては、好ましくはポリウレタン弾性糸を芯糸として用い、その上から好ましくは高強力有機繊維の捲縮糸を鞘糸として被覆する。
【0039】
二重被覆は、上撚り糸、下撚り糸のいずれか、またはその両方に前記高強力有機繊維の捲縮糸を鞘糸として被覆するものである。上撚り糸、下撚り糸のいずれかに前記高強力有機繊維の捲縮糸を鞘糸として用いる場合、もう一方の鞘糸は、高強力有機繊維以外の公知繊維のフィラメント、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維などを使用することができる。
【0040】
被覆の際には市販のカバーリング機などが好ましく用いられる。
【0041】
図1は二重被覆の例であり、図1において、芯糸1として使用するポリウレタン弾性糸は転がし給糸ローラー3により積極送りされ、フィードローラー4との間でプレドラフトし、次いでフィードローラー4とデリベリローラー11の間でさらにドラフトする。この場合のドラフトの倍率は、全体すなわち給糸ローラー3からデリベリローラー11の間のドラフトを指す。鞘糸2は、市販の高速ワインダーにより、Hボビン9に巻き取られた後、図1のように下段スピンドル5および上段スピンドル7に設置され、スピンドルを回転させることによって芯糸に巻き付けられ、複合糸Aを形成する。
【0042】
得られた複合糸Aは、テイクアップローラー13によりチーズ14に巻き取られる。
【0043】
なお、一重被覆糸を製造する際には、上段スピンドル7または下段スピンドル5のいずれか一方にHボビン9を1本設置して、スピンドルを回転させることによって芯糸1に鞘糸2を巻き付ける。
【0044】
本発明の複合糸は、鞘糸の下撚り糸と上撚り糸の組合せを任意に選択することができ、例えば、下撚り糸が高強力有機繊維フィラメントの捲縮糸で、上撚り糸が他の公知の繊維である複合糸(CY-1)、下撚り糸が他の公知の繊維で、上撚り糸が高強力有機繊維の捲縮糸である複合糸(CY-2)、または、下撚り糸と上撚り糸がともに高強力有機繊維の捲縮糸である複合糸(すなわち、弾性糸に、高強力有機繊維フィラメントの捲縮糸が二重に巻き付けられた被覆糸)(CY-3)のいずれであっても良い。これらの複合糸のなかでも、繊維構造物厚さ、風合い、経済性の点で、CY-1またはCY-2が好ましい。
【0045】
上記のCY-1およびCY-2において、高強力有機繊維フィラメントの捲縮糸が鞘糸に占める比率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80~100質量%である。高強力有機繊維フィラメントの捲縮糸と他の公知の繊維を併用することにより、繊維構造物に対して耐切創性とともに、柔らかな感触と風合いを付与することができる。
【0046】
また、本発明で用いる複合糸は、必要に応じて染料や顔料で着色されていても良い。着色方法として、紡糸前に染料や顔料をポリマーと混合して紡糸した原着糸を使用してもよく、各種方法で着色した糸を用いても良い。編物を染料や顔料で着色しても良い。
【0047】
複合糸の総繊度は、繊維構造物の種類や用途、編機・織機の種類により異なるため、繊維構造物に対して、所定の動的引裂き性能を付与することができ、製編性や製織性が著しく悪化することなく軽量の繊維構造物を得ることができる範囲で設定するのが良い。手袋編成用の複合糸の場合、400~800dtexの範囲が好ましい。
【0048】
本発明の複合糸において、鞘糸を芯糸に被覆する際、鞘糸のカバーリングの撚り数は、鞘糸の繊度により適宜選択すれば良いが、下記式(2)で表わされる撚り係数(K)の値が約500~5,000程度、好ましくは約1,000~3,000程度であるのが好適である。撚り係数が500未満であると、複合糸において芯糸に対する鞘糸の密着性が悪くなり、手袋にした際、芯糸が剥き出しとなり手袋表面の品位が低下する。撚り係数が5,000を超えると、カバーリング工程において糸切れなどが発生しやすくなり、工程通過性が悪くなるとともに、鞘糸が締め付けられるため、鞘糸が本来有している特性が複合糸に反映されなくなる。
【0049】
=T×D1/2 (2)
〔但し、Tはカバーリングの撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
【0050】
手袋の場合は、その使用時にも表面のコーティング材を剥がす力が加わる。そのため芯糸に対する鞘糸の巻回数が多すぎると、鞘糸(特に捲縮糸)が有している嵩高性が複合糸に反映されず、鞘糸の隙間にコーティング材が侵入しにくくなることで、コーティング材が手袋に接着し難くなることがある。複合糸とコーティング材との接着性が低いと手袋の表面からコーティング材が剥離し、手袋が補強されずに破れることで耐久性が低下する恐れがある。
【0051】
[繊維構造物]
本発明の繊維構造物は、上記の複合糸を、公知の方法により織物または編物などに編織することにより製造される。繊維構造物においては、上記の複合糸の他に、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などの公知の繊維糸条を、本発明の効果(動的引裂き性能)を阻害しない範囲で添え糸などの形態で糸中に含むことができる。
【0052】
繊維構造物の目付は350g/m以下であることが重要である。目付が350g/mを超える場合は、手袋にした際、硬い手袋となり作業性を阻害する恐れがある。目付は、より好ましくは200~340g/m、さらに好ましくは250~340g/mである。目付が200g/m未満の場合は、繊維構造物がクギ、突起物と接触した時に編み地が拡がり易く、動的引裂き性能および切創力が低下する恐れがある。
【0053】
例えば、複合糸を編地に編成して編物(手袋)を作製する場合は、市販の編機を適宜採用することができる。プレーティング編みにおいては、本発明の複合糸を地糸として用い、地糸と添え糸のどちらか一方の糸を外面または内面に配置するように編む。地糸を外面/添え糸を内面に配置して編む場合は、そのままの状態を手袋とし、また、地糸を内面/添え糸を外面に配置して編む場合は、編み上がりの手袋を内/外面を逆にして、最終的に地糸を外面/添え糸を内面に配置した状態を手袋とする。こうすることで、手袋着用の際、複合糸と使用者の皮膚との接触を比較的抑えることができ、添え糸が皮膚と接触するので着用感、吸汗性が向上するとともに、外面の地糸(複合糸)が、作業における外部の鋭利物などによるダメージから内面の添え糸の損傷を防ぎ、手袋の耐久性を高めることができる。前記編み方については、編み立てのし易さなどにより、いずれの方法でも編むことができる。
【0054】
添え糸としては、手袋のフィット感(締め付け具合、伸び具合)、作業性が良好な点より、伸縮性のあるウーリーナイロン糸、ポリウレタン弾性糸、該弾性糸とそれ以外の繊維とを流体ジェットにより交絡処理して形成された伸縮性交絡糸などが好ましく用いられる。添え糸の繊度としては、30~190dtexが好ましく、より好ましくは50~190dtexである。30dtex以上であれば、手袋に風合いや伸縮性を付与することができ、190dtex以下であれば、手袋の編立て性が著しく悪化することがない。
【0055】
編地に編成された複合糸からなる繊維構造物の場合、密度がウェール方向で10~30/25.4mm、コース方向で15~35/25.4mmの編み物に編成されていることが好ましく、より好ましくは、ウェール15~30/25.4mm、コース20~35/25.4mmの範囲である。ウェール、コース方向の密度がこの範囲にあることにより、所望の目付を得られるため、動的引裂き性能が高く、しかも装着感の良い繊維構造物を構成することができる。
【0056】
シームレス編機およびコンピューター手袋編機を用いて編成する場合は、編成時の設定ゲージ数を、13ゲージ~15ゲージに設定することが好ましい。ゲージ数は1インチ間の針本数を表す指標で、数が大きくなるほど薄手手袋が得られる。ゲージ数が13ゲージ未満では目付が大きくなるために軽量性を損ない、15ゲージを超えると所望の動的引裂き性能を達成できなくなる恐れがある。
【0057】
編成用の糸条をパッケージから巻き出した後に、編機の糸道に存在する主な装置としては、ヤーンガイドプレート、1つめのテンション調整機、追油用フェルト、糸切れ検知バネ、2つめのテンション調整機があり、さらに天バネを経て、ヤーンフィーダーへ導かれ、最終的にニードル針により編成される。この2つのテンション調整機は、糸に安定的な張力を付与するための糸道ガイドであり、ワッシャーテンサーやスプリングテンサーなどがある。
【0058】
糸道ガイドの表面仕上げ方法としては、梨地仕上げの他、鏡面仕上げが一般的である。糸道ガイドの糸との接触面が梨地状であると、糸との摩擦が減少することにより、パッケージ近くの糸道ガイドでは、主に有機繊維のフィブリル化を抑制することができ、その後の糸道ガイドでは、有機繊維のフィブリルの断片化または繊維表面が削れる現象を抑制することができる。
【0059】
テンション調整機の糸との接触面の材質としては、例えば、梨地クロムメッキを施した金属;金属上にチタン、アルミナ、チタンカーバイドなどのセラミックスや、テフロン(登録商標)、シリコーンなどでコーティングを施したもの;チタン、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックスなどが挙げられる。
【0060】
糸に張力を付与するための糸道ガイドであるテンション調整機として、糸との接触面が梨地状のものを用いることが効果的である。該テンション調整機としては、梨地処理を施した構成部材、或いは、材質が梨地状の構成部材(例えば、テンションワッシャー表面が梨地処理品で、テンサーシャフトがアルミナセラミック製部品である)を組み合せたものなどが挙げられる。糸を安定供給するため糸に張力を付与した際に、糸が擦れて大量のフィブリルや削れ屑が発生するのを防止する効果がある。さらに、他の糸道ガイドにセラミックス製のものを用いることが好ましく、より優れた効果が発現する。
【0061】
本発明では、上記の複合糸を用い、さらには編み方を調整することにより、JIS T8050に規定される動的引裂き試験における性能がレベル3以上(即ち、レベル4またはレベル3)の手袋等の繊維構造物が得られる。
【0062】
レベル4(刃物保持ブロックと刃物の質量が2,000g、衝撃エネルギー14J、最大引裂き長さ40mm以下)の材料は、どのような事故の状況下でも伝播性引裂きを示す可能性は非常に低い。
【0063】
レベル3(刃物保持ブロックと刃物の質量が1,000g、衝撃エネルギー7J、最大引裂き長さ40mm以下)の材料は、”強じん“とみなせる。ほとんどの使用条件下で、突き出ている釘に引っ掛けても引き裂かれることはない。
【0064】
さらに、繊維構造物の切創力は、JIS T 8052 防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験で測定される切断荷重が10N以上であることが好ましい。より好ましくは11N以上、15N以下である。切断荷重が10N以上であると、作業用耐切創手袋として役割を十分果たすことができる。一方、15Nを超えると、耐切創性が高いので刃物やバリに対する抵抗力の面では良いが、手袋が硬くなり装着感が悪くなる傾向がある。
【0065】
本発明の繊維構造物(手袋)の表面(全部または一部分)には、ゴム、または、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂コーティング材を被着することができる。
【0066】
得られた繊維構造物は、例えば、作業衣、作業用手袋、作業用腕カバー、作業用指サックなどの防護用品の素材として、或いは、アウトドアスポーツ衣、一般スポーツ衣などのスポーツ衣の素材として、或いは、靴、バッグ、カバンなどの物品の素材、動的引裂き性能を必要とする産業用資材などとして、好適に用いることができる。
【実施例
【0067】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各物性値の測定方法は次の通りである。
【0068】
[繊度]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.3 B法(簡便法)により測定した。
【0069】
[破断強力、破断伸度]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.5に準じて、エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機を用い、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分、で捲縮糸の破断強力(cN)、破断伸度(%)を測定した。
【0070】
[伸縮復元率]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.12に準じて伸縮復元率を測定した。
【0071】
[繊維構造物の動的引裂き試験]
JIS T 8050:2005 防護服-機械的特性-材料の突刺および動的引裂に対する抵抗性試験方法に準拠し、表1性能水準レベル3および4に規定された条件で試験した。引裂き方向は、たて(ウェール)、よこ(コース)、45°とした。
【0072】
[手袋の切創抵抗(切れ難さCut resistance )]
JIS T 8052:2005「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に準拠し、手袋1枚における手の平部の切創力(N)を測定した。切創力(N)を織編物の目付で除した値を100倍して、耐切創性を求めた。切創力の値が大きいほど切れ難いと判定した。測定機は、RGI社製のTDM-100を用いた。
【0073】
(捲縮糸1)
単繊維繊度1.7dtex、総繊度440dtex、フィラメント本数267本、水分率7%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(以下PPTAと記す)のフィラメント糸条を用いて、連続仮撚り加工を行った。捲縮糸の特性を表1に示す。
【0074】
(捲縮糸2)
単繊維繊度2.5dtex、総繊度670dtex、フィラメント本数267本、水分率7%のPPTAのフィラメント糸条を用いて連続仮撚り加工を行った。捲縮糸の特性を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
(ポリウレタン弾性糸1)
東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」、繊度44dtex、破断伸度530%
(ポリウレタン弾性糸2)
日清紡株式会社製、商品名「モビロン」、繊度156dtex、破断伸度500%
【0077】
[実施例1]
図1に示されるカバーリング工程を使用して、ポリウレタン弾性糸1からなる芯糸に、鞘糸として捲縮糸1をらせん状に巻き付け、以下の加工条件にて複合糸を得た。
【0078】
スピンドル回転数:5,000rpm
芯糸のドラフト:3.0倍
鞘糸のカバーリング撚り数Tとその撚り方向:400回/m、Z方向、撚り係数(K)=2,653
【0079】
ここで、K=T×D1/2(Tは撚り数(回/m)、Dは繊度(tex))
【0080】
[実施例2]
ポリウレタン弾性糸2からなる芯糸に、鞘糸の下撚り糸として、156dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り)をらせん状に巻き付け、さらに鞘糸の上撚り糸として、捲縮糸1を、ナイロン繊維製ウーリー加工糸と反対方向にらせん状に巻き付け、以下の加工条件にて複合糸を得た。
【0081】
スピンドル回転数:5,000rpm
芯糸のドラフト:3.0倍
鞘糸下撚り糸のカバーリング撚り数Tとその撚り方向:700回/m、Z方向、撚り係数(K)=2,764
鞘糸上撚り糸のカバーリング撚り数Tとその撚り方向:300回/m、S方向、撚り係数(K)=1,990
【0082】
ここで、K=T×D1/2(Tは撚り数(回/m)、Dは繊度(tex))
【0083】
[実施例3]
ポリウレタン弾性糸1からなる芯糸に、鞘糸の上撚り糸として、捲縮糸2をらせん状に巻き付け、以下の加工条件にて複合糸を得た。
【0084】
スピンドル回転数:5,000rpm
芯糸のドラフト:2.5倍
鞘糸のカバーリング撚り数Tとその撚り方向:300回/m、Z方向、撚り係数(K)=2,456
【0085】
ここで、K=T×D1/2(Tは撚り数(回/m)、Dは繊度(tex))
【0086】
[実施例4]
ポリウレタン弾性糸2からなる芯糸に、鞘糸の上撚り糸として、捲縮糸2をらせん状に巻き付け、実施例3と同じ加工条件にて複合糸を得た。
【0087】
[比較例1]
ステンレス鋼繊維フィラメントの単糸1本(日本精線(株)製、直径52μm、比重7.98)からなる芯糸に、鞘糸の下撚り糸として、78dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り)をらせん状に巻き付け、さらに鞘糸の上撚り糸として、捲縮糸1を、ナイロン繊維製ウーリー加工糸と反対方向にらせん状に巻き付け、実施例1と同じ加工条件にて複合糸を得た。
【0088】
実施例1~4および比較例1で得られた複合糸を1本、14ゲージタイプ(編釜3インチ半)の試験筒編み機にて筒状の編地(ヨコ編地)を編成した。編成した編地の特性および動的引裂き試験による評価結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例1~4で得られた複合糸を1本、13ゲージまたは15ゲージタイプのシームレス手袋編機(株式会社島精機製作所)にて編地を編成した。編成した編地の特性および切創力試験による評価結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表2の結果より、動的引裂き試験をブロック質量1,000g、衝撃エネルギー7Jで実施した場合において、芯糸にステンレス鋼繊維フィラメントを用いた複合糸(比較例1)は、性能がレベル3(実用レベル)に到達しなかった(不合格)。これに対し、弾性糸を芯糸に用い、PPTA捲縮糸を鞘糸に用いた複合糸(実施例1~4)、ならびに、PPTA捲縮糸の引き揃え糸(参考例1)では、性能がレベル3に到達した。
【0093】
動的引裂き試験をブロック質量2,000g、衝撃エネルギー14Jで実施した場合において、単糸繊度が小さいPPTA捲縮糸1を用いた複合糸(実施例1、2)では、性能がレベル4(実用レベル)に到達しなかった(不合格)。これに対し、弾性糸を芯糸に用い、単糸繊度が大きいPPTA捲縮糸2を鞘糸に用いた複合糸(実施例3、4)、ならびに、PPTA捲縮糸の引き揃え糸(参考例1)では、性能レベルが4に到達した。
【0094】
しかし、アラミド捲縮糸の引揃え糸だけを用いた場合は、装着性良好(手にフィットする)な手袋が得られず、また、捲縮糸は残存トルクを打ち消すためにS撚りとZ撚りの捲縮糸が必要なため手袋編み立て時の生産性が劣っていた。
【0095】
表3の結果より、弾性糸を芯糸に用い、単糸繊度が大きいPPTA捲縮糸を鞘糸に用いた複合糸では、切創力が10N以上に到達した。
即ち、有機繊維のみを用いた複合糸で構成した繊維構造物において、切創力10N以上を達成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の繊維構造物および手袋は、動的引裂き強さが求められる各種産業、例えば、林業(枝伐採のため入山するため突起物との接触)、漁業(釣り針との接触)、食料品製造業(刃物との接触)、設備工事業、鉄鋼業、化学工業、窯業・土石製品製造業及び輸送用機械器具製造業(作業時のバリ等の突起物との接触)、電気機械器具製造業(電線先端との接触)における防護服、作業服、作業用手袋などとして、或いはスポーツ用手袋や二輪車用スーツ・手袋などとして特に有用である。
【符号の説明】
【0097】
A:複合糸
1:芯糸
2:鞘糸
3:転がし給糸ローラー
4:フィードローラー
5:下段スピンドル
6:下段ベルト
7:上段スピンドル
8:上段ベルト
9:Hボビン
10:スネルガイド
11:デリベリローラー
12:ガイドバー
13:テイクアップローラー
14:チーズ

図1