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特許7503969放射線撮像パネル、放射線撮像装置、放射線撮像システム、および、シンチレータプレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】放射線撮像パネル、放射線撮像装置、放射線撮像システム、および、シンチレータプレート
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20240614BHJP
   G21K 4/00 20060101ALI20240614BHJP
   G01T 1/202 20060101ALI20240614BHJP
   A61B 6/00 20240101ALI20240614BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20240614BHJP
   H04N 5/32 20230101ALI20240614BHJP
   H04N 25/70 20230101ALI20240614BHJP
   H01L 27/144 20060101ALI20240614BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G01T1/20 L
G21K4/00 A
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G01T1/20 D
G01T1/202
A61B6/00
G01N23/04
H04N5/32
H04N25/70
H01L27/144 K
H01L27/146 D
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020143836
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022039046
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿田 尚志郎
(72)【発明者】
【氏名】尾島 徹則
(72)【発明者】
【氏名】長野 和美
(72)【発明者】
【氏名】野村 慶一
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167404(JP,A)
【文献】特開2014-021003(JP,A)
【文献】特開2011-128085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子を含む複数の画素が配された基板と、前記基板の上に配された複数の柱状結晶を含むシンチレータと、保護層と、を含む放射線撮像パネルであって、
前記保護層は、前記シンチレータを覆うように配された第1樹脂層と、前記第1樹脂層の上に配された第2樹脂層と、を含み、
前記第1樹脂層は、金属化合物の粒子が添加された樹脂を含み、
前記第1樹脂層の光の反射率r1[%]が、47%<r1<75%を満たし、
前記第2樹脂層の光の反射率r2[%]と前記第2樹脂層の光の吸収率a2[%]とが、r2<a2を満たし、
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のうち少なくとも一方が、不揮発性の熱可塑性樹脂を含み、
前記第1樹脂層が前記シンチレータを覆う領域において、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とは前記熱可塑性樹脂によって密着していることを特徴とする放射線撮像パネル。
【請求項2】
前記反射率r1と前記反射率r2とが、r1>r2を満たすことを特徴とする請求項1に記載の放射線撮像パネル。
【請求項3】
前記第1樹脂層の屈折率n1と前記第2樹脂層の屈折率n2とが、n1≧n2を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の放射線撮像パネル。
【請求項4】
前記金属化合物が、金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項5】
前記金属化合物が、ルチル型二酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項6】
前記第2樹脂層が、カーボンブラックが添加された樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項7】
前記不揮発性の熱可塑性樹脂が、ホットメルト樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項8】
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のうち少なくとも一方が、分子間力による加圧性接着作用を有する樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項9】
前記分子間力による加圧性接着作用を有する樹脂が、ウレタン樹脂、および、アクリル樹脂のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項10】
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層が、同じ化学組成を有する樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項11】
前記吸収率a2[%]が、20%<a2<72%を満たすことを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項12】
前記吸収率a2[%]が、50%<a2<72%を満たすことを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項13】
前記粒子の平均粒度が、200nm以上、かつ、500nm以下であることを特徴とする請求項1乃至12の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項14】
前記シンチレータが、ヨウ化セシウムを含むことを特徴とする請求項1乃至13の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項15】
前記保護層が、前記第2樹脂層の上に配された基台と、前記第2樹脂層と前記基台との間に配された金属層と、をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至14の何れか1項に記載の放射線撮像パネル。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか1項に記載の放射線撮像パネルと、
前記放射線撮像パネルを制御するための制御部と、
を含むことを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項17】
請求項16に記載の放射線撮像装置と、
前記放射線撮像装置から出力される信号を処理する信号処理装置と、
を含むことを特徴とする放射線撮像システム。
【請求項18】
基板と、前記基板の上に配された複数の柱状結晶を含むシンチレータと、保護層と、を含むシンチレータプレートであって、
前記保護層は、前記シンチレータを覆うように配された第1樹脂層と、前記第1樹脂層の上に配された第2樹脂層と、を含み、
前記第1樹脂層は、金属化合物の粒子が添加された樹脂を含み、
前記第1樹脂層の光の反射率r1[%]が、47%<r1<75%を満たし、
前記第2樹脂層の光の反射率r2[%]と光の吸収率a2[%]とが、r2<a2を満たし、
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のうち少なくとも一方が、不揮発性の熱可塑性樹脂を含み、
前記第1樹脂層が前記シンチレータを覆う領域において、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とは前記熱可塑性樹脂によって密着していることを特徴とするシンチレータプレート。
【請求項19】
前記基板が、前記シンチレータが発する光を透過する透明基板であることを特徴とする請求項18に記載のシンチレータプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮像パネル、放射線撮像装置、放射線撮像システム、および、シンチレータプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
医療画像診断や非破壊検査などで放射線撮影に用いられるフラットパネルディテクタ(FPD)として、被写体を通過した放射線をシンチレータで光に変換し、シンチレータが発した光を光電変換素子で検出する間接変換方式のFPDがある。放射線を光に変換するシンチレータには、放射線から変換された光を光電変換素子に効率よく伝達するために、ヨウ化セシウムなどのハロゲン化アルカリ金属化合物の柱状結晶が広く用いられている。ハロゲン化アルカリ金属化合物は、吸湿によって劣化してしまうため、シンチレータの上には防湿機能を有する保護層が配されうる。また、シンチレータで放射線から変換された光が光電変換素子で効率よく検出されるように、シンチレータの光電変換素子とは反対の側に、光反射機能を有する反射層が配されうる。特許文献1には、蛍光体層に対する防湿機能と光反射機能とを備えた光反射性微粒子を含有した樹脂からなる蛍光体保護層を備える放射線検出装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-052980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される構成において、蛍光体保護層の界面や光反射性微粒子による光の反射率が高すぎる場合、柱状結晶から蛍光体保護層に入射した光の一部は、反射、散乱を繰り返して拡散し、出射した柱状結晶とは異なる柱状結晶に入射してしまう可能性がある。光がそれを出射した柱状結晶とは異なる柱状結晶に入射してしまった場合、MTF(Modulation Transfer Function)が低下しうる。一方、蛍光体保護層の光の反射率が低すぎる場合、柱状結晶から蛍光体保護層に出射した光は、一部が蛍光体保護層の上面に達し、蛍光体保護層の上面でシンチレータの側に反射することによって拡散し、MTFが低下してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、放射線撮像パネルにおいてMTFの向上に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みて、本発明の実施形態に係る放射線撮像パネルは、光電変換素子を含む複数の画素が配された基板と、前記基板の上に配された複数の柱状結晶を含むシンチレータと、保護層と、を含む放射線撮像パネルであって、前記保護層は、前記シンチレータを覆うように配された第1樹脂層と、前記第1樹脂層の上に配された第2樹脂層と、を含み、前記第1樹脂層は、金属化合物の粒子が添加された樹脂を含み、前記第1樹脂層の光の反射率r1[%]が、47%<r1<75%を満たし、前記第2樹脂層の光の反射率r2[%]と前記第2樹脂層の光の吸収率a2[%]とが、r2<a2を満たし、前記第1樹脂層および前記第2樹脂層のうち少なくとも一方が、不揮発性の熱可塑性樹脂を含み、前記第1樹脂層が前記シンチレータを覆う領域において、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とは前記熱可塑性樹脂によって密着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記手段によって、放射線撮像パネルにおいてMTFの向上に有利な技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る放射線撮像パネルの構成例を示す断面図。
図2図1の放射線撮像パネルの保護層の断面のSEM像。
図3図1の放射線撮像パネルの保護層の光の反射率および光の吸収率とMTFとの関係を示す図。
図4図1の放射線撮像パネルの保護層の光の反射率および光の吸収率とMTFとの関係を示す図。
図5図1の放射線撮像パネルの保護層の光の吸収率と感度との関係を示す図。
図6図1の放射線撮像パネルの特性を示す図。
図7図1の放射線撮像パネルを用いた放射線撮像装置および放射線撮像システムの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
また、本発明における放射線には、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども含みうる。
【0011】
図1~7を参照して、本実施形態による放射線撮像パネルの構成および製造方法について説明する。図1は、本実施形態における放射線撮像パネル100の断面構造を示す図である。放射線撮像パネル100は、それぞれ光電変換素子を含む複数の画素が配された画素領域105を備える基板101と、基板101の上に配された複数の柱状結晶を含むシンチレータ102と、保護層108と、を含む。保護層108は、シンチレータ102を覆うように配された第1樹脂層103と、第1樹脂層103の上に配された第2樹脂層106と、を含む。基板101とシンチレータ102との間には、画素領域105に配された画素を保護するための画素保護層107が配されていてもよい。
【0012】
画素領域105には、複数の画素が、2次元アレイ状に配されうる。例えば、550mm×445mmの基板101に対して、3300×2800の画素が配される。3300×2800の画素のうち外周に配された10画素は、ダミー画素領域とし、ダミー画素の内側に配される3280×2780の画素によって画素領域105のうち有効画素領域が構成されていてもよい。画素領域105に配される画素の数や、画素領域105のうち有効画素領域に配される画素の数は、基板101の大きさや撮像対象などに応じて適宜設定すればよい。
【0013】
画素領域105には、それぞれの画素で生成される信号を取り出すための列信号線や、画素領域105に配される画素を含むそれぞれの素子を駆動するための行信号線などが配されうる。列信号線や行信号線は、それぞれ読出回路基板や駆動回路基板とフレキシブル配線基板などを介して電気的に接続されうる。列信号線および行信号線と、読出回路基板および駆動回路基板と、の接続を行うために、基板101には、接続端子部(不図示)が設けられていてもよい。接続端子部を介して、画素領域105のそれぞれの画素で生成された信号が、放射線撮像パネル100から出力されうる。
【0014】
ここでは、読出回路および駆動回路が、放射線撮像パネル100の外部に配される例を示すが、読出回路および駆動回路が放射線撮像パネル100に配されていてもよい。この場合であっても、基板101には接続端子部(不図示)が配され、画素領域105のそれぞれの画素で生成された信号は、接続端子部(不図示)を介して放射線撮像パネル100から出力されうる。
【0015】
本実施形態において、保護層108は、第2樹脂層106の上に配された基台110と、第2樹脂層106と基台110との間に配された金属層109と、をさらに備える。しかしながら、保護層108の構成はこれに限られることはない。例えば、保護層108は、第1樹脂層103と第2樹脂層106との2層構造であってもよい。また、例えば、保護層108は、第2樹脂層106の上に基台110が配された3層構造であってもよい。さらに、例えば、保護層108は、5層以上の構成であってもよい。
【0016】
シンチレータ102は、シンチレータ102に入射した放射線を、基板101の画素領域105に設けられた光電変換素子が検出可能な光に変換する。例えば、シンチレータ102は、放射線を可視光に変換しうる。シンチレータ102には、柱状結晶が成長するヨウ化セシウム(CsI)などのハロゲン化アルカリ金属化合物が用いられうる。CsIをシンチレータ102として用いる場合、賦活剤としてヨウ化タリウム(TlI)が用いられうる。
【0017】
シンチレータ102は、例えば、蒸着法を用いて形成することができる。基板101の画素領域105が形成された側の面が蒸着面となるように基板101を蒸着装置に載置し、Tl濃度がCsIに対し1mol%となるようにCsIとTlIをそれぞれセル容器に充填し、加熱することによって共蒸着を行う。これによって、複数の柱状結晶を含むシンチレータ102が形成される。
【0018】
シンチレータ102の上には、保護層108が形成される。ハロゲン化アルカリ金属化合物を含む複数の柱状結晶よって構成されるシンチレータ102は、吸湿によって劣化してしまう。そこで、保護層108は、シンチレータ102の防湿層の機能を備える。シンチレータ102を被覆する保護層108が、防湿層の機能を備えることによって、シンチレータ102が吸湿によって劣化してしまうことを抑制することが可能となる。
【0019】
次に保護層108のうち第1樹脂層103について説明する。保護層108のうち第1樹脂層103は、金属化合物の粒子104が添加された樹脂を含む。第1樹脂層103に金属化合物の粒子104が配されることによって、シンチレータ102で生じた光のうち第1樹脂層103の側に入射した光は、短い光路長で反射し、光を発したシンチレータ102の柱状結晶に再入射させることが可能となる。これによって、第1樹脂層103の側に入射した光が拡散してしまうことを抑制できるため、MTF(Modulation Transfer Function)の低下が抑制された放射線撮像パネル100を得ることができる。
【0020】
保護層108のうち第2樹脂層106は、第1樹脂層103よりも光の反射率が低い層でありうる。つまり、第1樹脂層の光の反射率をr1[%]、第2樹脂層の光の反射率をr2[%]としたとき、r1>r2を満たしていてもよい。ここで、第1樹脂層103の光の反射率r1とは、シンチレータ102から第1樹脂層103に進む光のうち、第1樹脂層103の側からシンチレータ102の側に再入射する光の比率のことである。つまり、第1樹脂層103の光の反射率r1は、シンチレータ102から第1樹脂層103に進む光に対する第1樹脂層103の界面での反射や、第1樹脂層103に入射した光が第1樹脂層103の層内で金属化合物の粒子104などによって反射された成分も含むものである。同様に、第2樹脂層106の光の反射率r2とは、第1樹脂層103から第2樹脂層106に向かう光のうち、第2樹脂層106の側から第1樹脂層103の側に再入射する光の比率のことである。
【0021】
また、第2樹脂層106は、第2樹脂層106における光の反射率r2[%]よりも光の吸収率が高い層である。つまり、第2樹脂層106の光の吸収率をa2[%]としたとき、r2<a2を満たす。ここで、第2樹脂層106の光の吸収率a2について説明する。光の入射方向からの光の吸収率a[%]、光の反射率r[%]、および、光の透過率t[%]の間には、以下の式(1)の関係が成り立つ。
100[%]=a[%]+r[%]+t[%] ・・・ (1)
従って、例えば、第2樹脂層106の光の反射率r2に加え、第2樹脂層106の光の透過率t2を測定することによって、式(1)の関係から第2樹脂層106の光の吸収率a2を求めることができる。
【0022】
第1樹脂層103の上に配される第2樹脂層106が、光の反射率r2よりも光の吸収率a2が高い層である。この関係によって、シンチレータ102にて生じた光のうち第1樹脂層103に入射し、さらに第1樹脂層103を通過して第2樹脂層106に入射した光は、第2樹脂層106において、ある程度、吸収される。これによって、第2樹脂層106に入射した光が拡散してしまうことを抑制できる。結果として、放射線撮像パネル100のMTFが、さらに向上しうる。
【0023】
ここで、第1樹脂層103の光の反射率r1が高く、第1樹脂層103に侵入した光が、第1樹脂層103内で反射を繰り返し、第2樹脂層106に入射することがない場合、放射線撮像パネル100は、高いMTFを得ることができない可能性がある。これは、第1樹脂層103に入射した光が、第1樹脂層103内で反射、散乱を繰り返し、横方向に拡散してしまう成分が多くなりうるためである。横方向とは、第1樹脂層103のシンチレータ102と第2樹脂層106との間の厚さ方向と交差する方向のことである。また、第1樹脂層103の光の反射率が低い場合、上述した第1樹脂層103の側に入射した光を、光を発したシンチレータ102の柱状結晶に再入射させる確率が低くなる。つまり、第1樹脂層103の光の反射率は、適当な範囲にする必要がある。第1樹脂層103の光の反射率の範囲については、後述の実施例を用いて説明する。
【0024】
実施例
次いで、放射線撮像パネル100の製造方法およびMTFを向上させる効果について実施例を用いて説明する。まず、基板101として、550mm×445mm、厚さ500μmの無アルカリガラスを準備した。基板101には、ガラスに限られることはなく、例えば、樹脂基板や、シリコンなどの半導体基板が用いられてもよい。次に、ガラスの基板101に、シリコン(例えば、アモルファスシリコン。)などの半導体層や配線層を構成する金属(例えば、アルミニウム。)などを成膜する成膜工程、フォトリソグラフィ工程、エッチング工程などを繰り返し行うことによって、画素領域105を形成した。画素領域105には、シンチレータ102の発光に応じた電荷を生成する光変換素子と、生成された電荷に応じた信号を出力するスイッチング素子と、をそれぞれ含む複数の画素が配される。また、画素領域105には、画素を駆動し、得られた信号を外部回路に送り出すための接続端子部(不図示)などが形成される。
【0025】
画素領域105を形成した後、画素領域105に形成された画素の動作をチェックするためのアレイ検査を実施した。アレイ検査において、画素領域105に形成された光電変換素子やスイッチング素子などの動作が良好であり、欠損した画素が無い、または、僅かなことを確認した。アレイ検査を実施した後、接続端子部(不図示)を保護する目的で基板101の周辺部をマスキングフィルムによりマスキングし、画素保護層107を形成した。より具体的には、画素保護層107は、基板101をスプレイスピンコーターに設置し、ポリイミド溶液をスプレーしつつ、約100rpmの回転でスピンさせ、その後、220℃の温度で乾燥アニーリングさせることによって形成した。本実施例において、約2μmの厚さの画素保護層107が形成された。
【0026】
画素領域105が形成された基板101を準備した後、次いで、シンチレータ102を形成した。まず、画素保護層107が形成された基板101のうちシンチレータ102を形成しない領域に蒸着マスクをセットした後、基板101の画素保護層107が配された側が蒸着面となるように基板101を蒸着装置に載置した。その後、Tl濃度がCsIに対し1mol%となるようにCsIとTlIをそれぞれセル容器に充填し、セル容器を加熱することによって共蒸着を行う。シンチレータ102の蒸着を行う際に、蒸着装置を10-3Paまで排気した後、基板101の表面が175℃になるようにランプヒーターで加熱を行った。本実施例において、シンチレータ102は、380μmの厚さを有し、膜充填率は75%であった。このとき、シンチレータ102の外縁は、画素領域105の外縁よりも外側に配されていてもよい。
【0027】
次いで、保護層108のうちシンチレータ102を覆うように配される、金属化合物の粒子104が添加された第1樹脂層103の形成方法について説明する。本実施例において、第1樹脂層103を構成する樹脂として、ポリオレフィン樹脂を主成分とするホットメルト樹脂を用いた。ホットメルト樹脂とは、水や溶剤を含まず室温で固体であり、100%不揮発性の熱可塑性材料からなる接着性樹脂と定義されるものである(Thomas P. Flanagan,Adhesives Age,vol.9,No.3,pp.28(1966))。また、ホットメルト樹脂は、樹脂温度が上昇すると溶融し、樹脂温度が低下すると固化する性質を有しており、加熱溶融状態にて他の有機材料、および、無機材料に対する接着性を示し、反対に常温では固体状態になり接着性を示さない樹脂である。さらに、ホットメルト樹脂は、極性溶媒、溶剤、および、水を含まないため、ハロゲン化アルカリ金属化合物の柱状結晶を備えるシンチレータ102に接触した場合であっても、シンチレータ102を溶解してしまう可能性が低い。このため、ホットメルト樹脂を用いた第1樹脂層103は、シンチレータ102に対する防湿層(保護層)の機能を併せもつことも可能となる。
【0028】
ホットメルト樹脂は、主成分であるベースポリマー(ベース材料)の種類によって分類される。ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系などを、第1樹脂層103を構成するベースポリマーとして用いることができる。シンチレータ102の保護層108(第1樹脂層103)にホットメルト樹脂を用いる場合、防湿性が高く、また、シンチレータ102から発生する可視光線を透過する光透過性が高いことが重要である。
【0029】
第1樹脂層103を構成する材料は、ホットメルト樹脂に限られることはない。第1樹脂層103を構成する樹脂として、例えば、分子間力による加圧性接着作用を有する樹脂、いわゆる粘着材と呼ばれる樹脂が用いられてもよい。この場合、第1樹脂層103を構成する樹脂として、ウレタン樹脂やアクリル樹脂などが用いられてもよい。例えば、第1樹脂層103として、アクリル樹脂のうちポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が用いられてもよい。
【0030】
本実施例において、第1樹脂層103は、ポリオレフィン樹脂をトルエン、キシレンの混合溶媒に溶解させ、さらに粘度を10cps程度になるよう調整した。また、予めブタノール、プロパノールの混合液中に金属酸化物の粒子104を分散剤と共に分散させた。これに、トルエン、キシレンの混合溶液にポリオレフィン樹脂などの樹脂を溶解された材料を加え、ボールミルによって十分解砕させた。この分散液を、混合攪拌し、三本ロールミルを通すことにより凝集の無い金属化合物の粒子104が分散した樹脂溶液を得ることができた。
【0031】
次に、例えば、ロールコーター装置に厚さ30μmの離形作用を有するPETフィルムロールをセットし、このPETフィルム上に上述のように調製した第1樹脂層103となる樹脂溶液を塗工し、乾燥させることによって、第1樹脂層103を形成した。このようにして、適当な厚みを有する、金属化合物の粒子104が分散された第1樹脂層103となる熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0032】
金属化合物の粒子104は、金属酸化物の粒子であってもよい。金属化合物の粒子104には、シンチレータ102よりも大きい屈折率の材料が用いられうる。例えば、ハロゲン化アルカリ金属化合物のシンチレータ102として、上述のCsI(屈折率(n):1.78~1.84(賦活剤の種類などによる))が用いられる場合、CsIよりも屈折率が大きな材料が用いられてもよい。例えば、金属化合物の粒子104は、鉛白(2PbCo・Pb(OH))(n:1.94~2.09)、酸化亜鉛(n:2.0)、酸化イットリウム(n:1.91)、酸化ジルコニウム(n:2.20)、酸化チタン(n:2.50~2.72)などが用いられうる。例えば、金属化合物の粒子104の屈折率が、1.94以上、かつ、2.72以下であってもよい。本実施例において、金属化合物として、酸化チタンの中でも屈折率が高い、ルチル型二酸化チタン(n:2.72)の粒子を用いた。しかしながら、これに限られることはなく、金属化合物の粒子104として、反射性が高い各種の材料を用いることができる。例えば、硫酸バリウムや酸化マグネシウムなどの材料が、金属化合物の粒子104として用いられてもよい。
【0033】
金属化合物の粒子104は、第1樹脂層103を構成する樹脂よりも屈折率が高くてもよい。金属化合物の粒子104の屈折率と、第1樹脂層103の屈折率と、の差が大きくなることによって、第1樹脂層103において、金属化合物の粒子104の表面で光が反射しやすくなる。上述したホットメルト樹脂の屈折率は1.52程度、ウレタン樹脂の屈折率は1.49程度、アクリル樹脂の屈折率は1.49~1.53程度である。
【0034】
また、第1樹脂層103に添加される金属化合物の粒子104の平均粒度が、200nm以上、かつ、500nm以下であってもよい。一般的に、光電変換素子の感度特性は500nm~800nmにあるが、光の波長の1/2以下の大きさの粒子であればレイリー散乱の効果が現れる。このため、金属化合物の粒子104の平均粒度が200nm以上、かつ、500nm以下程度であれば、粒子104に入射した光が、光の入射方向側に反射する確率が高くなる。
【0035】
次いで、本実施例における第1樹脂層103の光の反射率r1の測定方法について説明する。第1樹脂層103の光の反射率r1は、日本分光株式会社製の紫外可視近赤外分光光度計V-750を用い、以下に示す方法にて測定した。
【0036】
まず、分光光度計の標準白板に第1樹脂層103を貼り付けた。このとき、第1樹脂層103を形成する際に使用した剥離作用を有するPETフィルムは剥離した。次いで、第1樹脂層103を一旦溶融温度まで加熱し、冷却した後に、分光光度計の反射率測定アダプターに第1樹脂層103をセットした。分光光度計の反射率測定アダプターに第1樹脂層103をセットした後、波長380nm~780nm間を波長分解能0.1nmでスキャンし、標準白板を同条件にて測定した値を用いて補正を行うことによって、第1樹脂層103の反射率スペクトルが得られた。この測定によって得られた反射率スペクトル値について、シンチレータ102の発光波長領域と画素領域105の光電変換素子との分光感度領域に鑑み、550nm~780nmの波長範囲で積分し平均化した。これによって、第1樹脂層103の光の反射率r1が、波長積分平均された反射率として得られた。
【0037】
ここで、上述のしたように、第1樹脂層103の光の反射率r1は、第1樹脂層103に入射しようとする光の界面反射や、第1樹脂層103に入射した光が第1樹脂層の層内で金属化合物の粒子104などによって反射された成分も含むものである。この第1樹脂層103の光の反射率r1は、第1樹脂層103の層内に分散する金属化合物の粒子104の濃度、および、第1樹脂層103の厚みによって、適当な値に変化させることが可能である。
【0038】
次に、第2樹脂層106の形成方法について説明する。本実施例において、第2樹脂層106は、金属層109として12μmのアルミニウムが成膜された30μmのPETフィルムの基台110の上に、第2樹脂層106となる樹脂層を形成することによって形成した。つまり、第2樹脂層106と基台110との間に、金属層109が配されている。第2樹脂層106を構成する樹脂として、上述のホットメルト樹脂やウレタン樹脂、アクリル樹脂など、第1樹脂層103と同様の材料を用いることができる。第1樹脂層103および第2樹脂層106が、同じ化学組成を有する樹脂を含んでいてもよい。換言すると、第1樹脂層103と第2樹脂層106とが、同じ樹脂によって形成されていてもよい。本実施例において、第1樹脂層103と同様に、第2樹脂層106を構成する樹脂として、ポリオレフィン樹脂を主成分とするホットメルト樹脂を用いた。
【0039】
一方、第1樹脂層103には、金属化合物の粒子104が添加されたが、第2樹脂層106には、本実施例において、カーボンブラックの粒子を添加した。第2樹脂層106の光の吸収率a2と光の反射率r2とは、第2樹脂層106中に分散させたカーボンブラックの濃度を変化させることによって、適当な値に変化させることが可能である。カーボンブラックは、代表的で安価な黒色材料であり、適当な分散材を用いて、適当な濃度で第2樹脂層106中に分散させることが可能である。しかしながら、第2樹脂層106に添加される材料は、カーボンブラックに限られることはない。第2樹脂層106の光の吸収率a2が、第2樹脂層106の光の反射率r2よりも大きくなる材料であればよい。例えば、鉄やチタンなどの金属酸化物系の黒色顔料が、第2樹脂層106に添加されていてもよい。
【0040】
第2樹脂層106の光の反射率r2、および、光の吸収率a2の測定方法について説明する。第2樹脂層106の光の反射率r2は、上述の第1樹脂層103の光の反射率r1と同様の方法を用いて測定した。
【0041】
第2樹脂層106の光の吸収率a2は、上述の式(1)の関係を用いて、光の反射率r2に加えて、光の透過率t2を測定することによって求めた。第2樹脂層106の光の透過率t2は、以下に示す方法にて測定可能である。まず、剥離作用を有するPETフィルムの上に第2樹脂層106を形成し、第2樹脂層106を枠状のセルに取り付けた。このとき、第2樹脂層106を形成する際に使用したPETフィルムを剥離した。次いで、第2樹脂層106を一旦溶融温度まで加熱し、冷却する。冷却後に、上述の分光光度計の光源からの光が、第2樹脂層106が取り付けられた枠状のセルの中空部を通過して、換言すると、セルに取り付けられた第2樹脂層106を通過して、分光光度計の光の透過側に入射するようにセットした。第2樹脂層106を分光光度計の適当な位置にセットした後、波長380nm~780nm間を波長分解能0.1nmでスキャンし、空気を用いたリファレンス測定値にて補正を行うことによって、第2樹脂層106の透過率スペクトルが得られた。第2樹脂層106の光の透過率t2は、この測定にて得られた透過率スペクトル値について、550nm~780nmの波長範囲で積分し平均化することによって、積分平均光透過率として得られた。このようにして得られた第2樹脂層106の光の反射率r2および光の透過率t2から、式(1)を用いることによって、第2樹脂層106の光の吸収率a2が得られた。
【0042】
本実施例において、第1樹脂層103と第2樹脂層106とは、以下に示す工程によって積層した。PETフィルムの基台110の上に形成された第2樹脂層106の上に、上述した方法で形成された第1樹脂層103を重ね、真空熱転写装置にセットした。第2樹脂層106は、上述のように、基台110の上に成膜されたアルミニウムの金属層109の上に形成した。次いで、ポリオレフィン樹脂を主成分とするホットメルト樹脂のガラス転移点付近の温度である約50℃に加温することによって、第1樹脂層103と第2樹脂層106とを密着、積層した。図2は、第2樹脂層106および第1樹脂層103を積層させた保護層108の断面SEM像の一例である。図2に示される断面SEM像から、第1樹脂層103と第2樹脂層106とが、十分な密着状態で積層されていることが確認できた。また、図2に示される断面SEM像から、第1樹脂層103に添加された金属化合物の粒子104も確認できた。
【0043】
第1樹脂層103および第2樹脂層106が積層された保護層108を形成した後、シンチレータ102が形成された基板101と保護層108とを真空熱転写装置などを用いて貼り合わせることによって、図1に示される放射線撮像パネル100を作製した。シンチレータ102が形成された基板101に、保護層108のうち第1樹脂層103がシンチレータ102に対向するように、基板101および保護層108を真空熱転写装置にセットした。基板101および保護層108をアライメントマークによる位置合わせを行った後、まず、30℃でシンチレータ102と第1樹脂層103とを接触させ、次いで、10-1Paまで真空熱転写装置の装置内を減圧し気泡を取り除いた。さらに、基板101と保護層108との間に圧力を印加するとともに70~100℃に加温し、適当な時間、圧力を印加した状態を保持することによって、シンチレータ102が形成された基板101と保護層108を構成する第1樹脂層103とが貼り合わされた。
【0044】
その後、第1樹脂層103および第2樹脂層106を含む保護層108が貼り合わされた基板101に、接続端子部(不図示)に異方性導電フィルムを介して駆動基板類を接続した。さらに、基板101のシンチレータ102とは反対の側に、放射線撮像パネル100の強度を補強するためのシートを貼り付けた。以上の工程によって、本実施例の放射線撮像パネル100が作製された。
【0045】
次いで、本実施形態におけるMTFの向上の効果について説明する。上述の製造方法を用いて放射線撮像パネル100を作製した。上述のように、第1樹脂層103には、ポリオレフィン系のホットメルト樹脂を用いた。第1樹脂層103に添加される金属化合物の粒子104として、平均粒度が250nm、粒度分布が10%径D10=195nm、50%径(メジアン径)D50=245nm、90%径D90=275nmのルチル型二酸化チタン粒子を用いた。第1樹脂層103に分散する金属化合物の粒子104の濃度、および、第1樹脂層103の厚さを適宜調整することによって、37.6%、48.9%、60.3%、74.6%、90.7%の5種類の光の反射率r1を有する第1樹脂層103が得られた。ここで、第1樹脂層103の光の反射率r1は、上述の方法を用いて測定した。例えば、第1樹脂層103の厚さは、30μm程度であってもよい。
【0046】
第2樹脂層106には、第1樹脂層103と同様に、ポリオレフィン系のホットメルト樹脂を用いた。第2樹脂層106に添加されるカーボンブラックの濃度を適宜調整することによって、14.6%、30.0%、50.0%、70.0%、94.6%、97.6%の6種類の光の吸収率a2を有する第2樹脂層106が得られた。例えば、第2樹脂層106の厚さは、30μm程度であってもよい。また、第2樹脂層106の光の反射率r2は、上述の光の吸収率a2の順番に、14.5%、12.7%、10.2%、7.7%、5.4%、2.4%であった。つまり、第2樹脂層106は、r2<a2を満たしている。ここで、第2樹脂層106の光の反射率r2および光の吸収率a2は、上述の方法を用いて測定した。
【0047】
5種類の第1樹脂層103および6種類の第2樹脂層106をそれぞれ組み合せた30種類の本実施例の放射線撮像パネル100を作製した。これら、30種類の放射線撮像パネル100において、第1樹脂層103の光の反射率r1と第2樹脂層の光の反射率r2とは、r1>r2を満たしている。
【0048】
比較例として、12μmのアルミニウムの金属層109が形成された30μmのPETの基台110の金属層109の上に、ポリオレフィン系のホットメルト樹脂を塗工して形成した保護層を備える放射線撮像パネルを作製した。比較例の保護層のホットメルト樹脂には、金属化合物の粒子104やカーボンブラックは添加されていない。実施例の第1樹脂層103に相当する比較例の放射線撮像パネルの保護層のホットメルト樹脂の光の反射率r1は、4.1%であった。また、実施例の第2樹脂層106に相当する比較例の放射線撮像パネルの保護層の金属層109が形成された基台110の光の吸収率a2は14.6%、光の反射率r2は85.4%であった。金属層109が形成された基台110は、表面が金属であるため、r2<a2を満たしていない。
【0049】
図3(a)は、第1樹脂層103の光の反射率r1および第2樹脂層106の光の吸収率a2と、放射線撮像パネル100のMTFと、の関係を示す図である。図3(a)には、第1樹脂層103の光の反射率r1を、それぞれ37.6%、48.9%、74.6%、90.7%とした場合の、放射線撮像パネル100のMTF値が示されている。図3(a)に示されるMTF値は、放射線撮像パネル100に国際規格の線質RQA5に準じたX線を照射し測定を行った2lp/mmでのMTF値である。また、図3(b)は、第1樹脂層103のそれぞれの反射率r1における図3(a)に示される各線の傾きをプロットした図である。
【0050】
図3(a)、3(b)から、第1樹脂層103の光の反射率r1が、75%以上(r1≧75%)の場合、MTFの値が、第2樹脂層106の光の吸収率a2によらず一定の値を示していることがわかる。これは、第1樹脂層103の反射率が75%以上になると、第1樹脂層103に入射した光の大部分が、第2樹脂層106には入射せず、第1樹脂層103内で反射、散乱を繰り返していることを示唆している。つまり、第1樹脂層103の光の反射率r1が高すぎるため、第1樹脂層103に入射した光が、第1樹脂層103内で反射、散乱を繰り返し、横方向に拡散してしまうため、MTFが向上しないと考えられる領域である。したがって、第1樹脂層103の光の反射率r1は、75%未満であることが必要であることを示している。
【0051】
図4には、第2樹脂層106の光の吸収率a2が14.6%の場合の、第1樹脂層103の光の反射率r1とMTF値との関係が示されている。また、図4には、比較例の放射線撮像パネルの実施例の第1樹脂層103に相当するホットメルト樹脂の光の反射率およびMTF値も示されている。図4から、第1樹脂層103の光の反射率r1が47%以上である場合、第1樹脂層103の光の反射率r1が75%の場合と同等以上の高いMTF値が得られることがわかる。したがって、第1樹脂層103の光の反射率r1[%]が、47%<r1<75%を満たしている場合、放射線撮像パネル100のMTFを向上させることが可能となる。
【0052】
また、第1樹脂層103の光の反射率r1[%]が47%<r1<75%の場合、図3(a)から、第2樹脂層106の光の吸収率a2が、20%以上であれば、MTF値が向上しうる。また、さらに、第2樹脂層106の光の吸収率a2が、50%以上であれば、さらにMTF値が向上しうる。このように、放射線撮像パネル100において、高いMTF値が得られることがわかる。
【0053】
図5は、第1樹脂層103の光の反射率r1が48.9%の場合の、第2樹脂層106の光の吸収率a2と感度Sとの関係を示す図である。図5の点線は、比較例の放射線撮像パネルの感度を示したものである。図5から、第2樹脂層106の光の吸収率a2が72%を超えると、放射線撮像パネル100の感度は、比較例の放射線撮像パネルよりも低くなってしまうことがわかる。これは、第1樹脂層103を通過し第2樹脂層106に入射した光が第2樹脂層106で減衰し、第1樹脂層103に再入射する光が減少したためであると考えられる。したがって、第2樹脂層106の光の吸収率a2は、72%未満であってもよい。つまり、上述の第2樹脂層106の光の吸収率a2の下限値を含めた場合、第2樹脂層106の光の吸収率a2[%]が、20%<a2<72%を満たしていてもよい。さらに、第2樹脂層106の光の吸収率a2[%]が、50%<a2<72%を満たしていてもよい。
【0054】
図6は、5種類の光の反射率r1を有する第1樹脂層103と6種類の光の吸収率a2を有する第2樹脂層106とを組み合わせて作製された放射線撮像パネル100の上述の各特性をまとめたものである。第1樹脂層103の光の反射率r1[%]が、47%<r1<75%を満たし、第2樹脂層106の光の反射率r2[%]と光の吸収率a2[%]とが、r2<a2を満たすことによって、上述のように、作製された放射線撮像パネル100のMTFが向上する。また、このとき、第1樹脂層103の光の反射率r1[%]と第2樹脂層106の光の反射率r2[%]とが、r1>r2の関係を満たしていてもよい。さらに、第2樹脂層106の光の吸収率a2[%]が、20%<a2<72%を満たしていてもよい。また、さらに、第2樹脂層106の光の吸収率a2[%]が、50%<a2<72%を満たしていてもよい。これによって、放射線撮像パネル100のMTFを向上させるとともに、感度の低下を抑制することができる。
【0055】
また、第1樹脂層103の光の屈折率n1と第2樹脂層106の屈折率n2が、n1≧n2を満たしていてもよい。第1樹脂層103の光の屈折率n1が第2樹脂層106の光の屈折率n2よりも大きい場合、第1樹脂層103を通過し第2樹脂層106に入射した光が、第1樹脂層103に再入射することが抑制される。これによって、第2樹脂層106の光の吸収率a2を高くする場合と同様に、MTFが向上しうる。上述の実施例において、第1樹脂層103および第2樹脂層106に同じホットメルト樹脂を用いたため、第1樹脂層103の光の屈折率n1と第2樹脂層106の光の屈折率n2とは、n1=n2の関係であった。
【0056】
また、例えば、第1樹脂層103の光の反射率r1[%]が、第1樹脂層103の光の吸収率a1[%]よりも大きくてもよい(r1>a1)。また、例えば、第1樹脂層103の光の吸収率a1が、第2樹脂層106の光の吸収率a2よりも小さくてもよい(a1<a2)。つまり、保護層108のうち第2樹脂層106よりもシンチレータ102に近い第1樹脂層103は、第2樹脂層106よりも光を反射し、かつ、第2樹脂層106よりも光を吸収しない層であってもよい。
【0057】
また、本実施形態、および、本実施例において、基板101が複数の画素が配された画素領域105を備えている場合について説明した。しかしながら、これに限られることはない。例えば、基板101が、画素領域105を備えていなくてもよい。この場合、符号『100』は、シンチレータプレートと呼ばれうる。例えば、複数の画素が配された画素領域を備えるセンサ基板の上に、このシンチレータプレートを搭載することによって、放射線撮像パネルとして機能しうる。このため、基板101が画素領域105を備えていない場合、基板101は、シンチレータ102が発する光を透過する透明基板であってもよい。この場合、基板101には、ガラスや樹脂など、シンチレータ102で入射した放射線から変換された光を透過する材料が用いられうる。
【0058】
以下、上述の放射線撮像パネル100が組み込まれた放射線撮像装置、および、放射線撮像パネル100が組み込まれた放射線撮像装置を用いた放射線撮像システム800について図7を用いて説明する。
【0059】
放射線撮像システム800は、放射線で形成される光学像を電気的に撮像し、電気的な放射線画像(すなわち、放射線画像データ)を得るように構成される。放射線撮像システム800は、例えば、放射線撮像装置801、曝射制御部802、放射線源803、コンピュータ804を含む。
【0060】
放射線撮像装置801に放射線を照射するための放射線源803は、曝射制御部802からの曝射指令に従って放射線の照射を開始する。放射線源803から放射された放射線は、不図示の被険体を通って放射線撮像装置801に照射される。放射線源803は、曝射制御部802からの停止指令に従って放射線の放射を停止する。
【0061】
放射線撮像装置801は、上述の放射線撮像パネル100と、放射線撮像パネル100を制御するための制御部805と、放射線撮像パネル100から出力される信号を処理するための信号処理部806と、を含む。信号処理部806は、例えば、放射線撮像パネル100から出力される信号のA/D変換し、コンピュータ804に放射線画像データとして出力してもよい。また、信号処理部806は、例えば、放射線撮像パネル100から出力される信号に基づいて、放射線源803からの放射線の照射を停止させるための停止信号を生成してもよい。停止信号は、コンピュータ804を介して曝射制御部802に供給され、曝射制御部802は、停止信号に応答して放射線源803に対して停止指令を送る。
【0062】
制御部805は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、または、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、または、プログラムが組み込まれた汎用コンピュータ、または、これらの全部または1部の組み合わせによって構成されうる。
【0063】
また、本実施形態において、信号処理部806は、制御部805の中に配される、または制御部805の一部の機能であるように示されているが、これに限られるものではない。制御部805と信号処理部806とは、それぞれ別の構成であってもよい。さらに、信号処理部806は、放射線撮像装置801とは別に配されていてもよい。例えば、コンピュータ804が、信号処理部806の機能を有していてもよい。このため、信号処理部806は、放射線撮像装置801から出力される信号を処理する信号処理装置として、放射線撮像システム800に含まれうる。
【0064】
コンピュータ804は、放射線撮像装置801および曝射制御部802の制御や、放射線撮像装置801から放射線画像データを受信し、放射線画像として表示するための処理を行いうる。また、コンピュータ804は、ユーザが放射線画像の撮像を行う条件を入力するための入力部として機能しうる。
【0065】
一例として、曝射制御部802は、曝射スイッチを有し、ユーザによって曝射スイッチがオンされると、曝射指令を放射線源803に送るほか、放射線の放射の開始を示す開始通知をコンピュータ804に送る。開始通知を受けたコンピュータ804は、開始通知に応答して、放射線の照射の開始を放射線撮像装置801の制御部805に通知する。これに応じて、制御部805は、放射線撮像パネル100において、入射する放射線に応じた信号を生成させる。
【0066】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0067】
100:放射線撮像パネル、101:基板、102:シンチレータ、103:第1樹脂層、104:粒子、106:第2樹脂層、108:保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7