(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】形状測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
G01B11/24 D
(21)【出願番号】P 2020148470
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019181921
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】田辺 綾乃
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-148471(JP,A)
【文献】特開2007-71593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01B 9/00-9/10
G03H 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の着目点からの物体光と所定の参照光点光源位置から発する参照光とを受光する検出器の撮像面における、前記物体光と前記参照光間の干渉縞を表す少なくとも一つの干渉画像から、前記撮像面における前記物体光と前記参照光間の干渉成分の複素振幅を再生する干渉成分再生部と、
前記撮像面における前記干渉成分の複素振幅を空間領域から周波数領域へ変換することで、前記撮像面に対して垂直な光軸方向に沿って前記撮像面と前記参照光点光源位置間の距離だけ前記撮像面から離れた参照位置における前記物体光の複素振幅を再生する物体光再生部と、
前記参照位置における前記物体光の複素振幅を前記撮像面に対して平行な方向における空間周波数で1階偏微分することで前記参照位置における前記物体光の複素振幅の1階偏微分値を算出するとともに、前記参照位置における前記物体光の複素振幅を前記空間周波数で2階偏微分することで前記参照位置における前記物体光の複素振幅の2階偏微分値を算出する微分部と、
前記参照位置における前記物体光の複素振幅、前記1階偏微分値及び前記2階偏微分値に基づいて、前記光軸方向に沿って前記撮像面から前記着目点までの距離を測定する測定部と、
を有する形状測定装置。
【請求項2】
前記測定部は、前記参照位置における前記物体光の複素振幅と前記2階偏微分値の積と、前記1階偏微分値の2乗との差に対する、前記参照位置における前記物体光の複素振幅の2乗の比に応じて、前記距離を測定する、請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記所定の参照光点光源位置は、前記撮像面からの距離が互いに異なる第1の位置と第2の位置とを含み、
前記干渉成分再生部は、前記第1の位置からの前記参照光と前記物体光との干渉縞及び前記第2の位置からの前記参照光と前記物体光との干渉縞を表す前記少なくとも一つの干渉画像から、前記撮像面における、前記物体光と前記第1の位置からの前記参照光間の干渉成分と前記物体光と前記第2の位置からの前記参照光間の干渉成分の和の前記複素振幅を再生し、
前記物体光再生部は、前記和の前記複素振幅を空間領域から周波数領域へ変換することで、前記光軸方向に沿って前記撮像面と前記第1の位置間の距離だけ前記撮像面から離れた第1の参照位置における前記物体光の前記複素振幅
の成分と前記光軸方向に沿って前記撮像面と前記第2の位置間の距離だけ前記撮像面から離れた第2の参照位置における前記物体光の前記複素振幅
の成分とを含む前記物体光の前記複素振幅を再生する、請求項1または2に記載の形状測定装置。
【請求項4】
撮像部の撮像面から、当該撮像面に垂直な光軸方向に沿って所定の距離の位置に配置された同心円状の所定のピッチを持つパターンを表す現像用パターンを記憶する記憶部と、
前記撮像部により得られた画像に表された、対象物の着目点からの物体光が前記
同心円状の所定の
ピッチを持つパターンで輝度変調された観測パターンと前記現像用パターンとの相関演算により得られ、かつ、前記現像用パターンのピッチと前記観測パターンのピッチに応じた信号成分を空間領域から周波数領域へ変換することで、前記物体光の再生像を算出する再生像算出部と、
前記再生像を前記撮像面に対して平行な方向における空間周波数で1階偏微分することで前記再生像の1階偏微分値を算出するとともに、前記再生像を前記空間周波数で2階偏微分することで前記再生像の2階偏微分値を算出する微分部と、
前記再生像、前記1階偏微分値及び前記2階偏微分値に基づいて、前記光軸方向に沿って前記撮像面から前記着目点までの距離を測定する測定部と、
を有する形状測定装置。
【請求項5】
前記現像用パターンは、前記所定のピッチとして第1のピッチを持つ同心円状の第1のパターンと前記第1のピッチと異なる第2のピッチを持つ同心円状の第2のパターンの和を表す、請求項4に記載の形状測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いて対象物の形状を測定する形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光を対象物に照射することで、対象物の3次元形状を測定する技術が研究されている。そのような測定技術の一つとして、位相シフトデジタルホログラフィ法が知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。位相シフトデジタルホログラフィ法は、例えば、参照光の光路長を変化させることで、対象物からの物体光と参照光間で位相シフト量の異なる複数の干渉縞の画像を生成し、それら複数の干渉縞の画像を利用して、対象物の3次元形状を測定し、あるいは、対象物の3次元形状を表す物体光の波面を再生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-205430号公報
【文献】特開2013-148471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術では、対象物の3次元形状を求めるための演算量が非常に大きい。特に、複数の干渉縞の画像から再生される波面における、位相分布の範囲が-π~πの範囲を超える場合、その位相分布に折り返しが生じる。そのため、正確な位相分布を再現するためには、2πの位相範囲ごとに接続するアンラッピング処理が必要となり、必要な演算量がさらに大きくなる。また、アンラッピング処理が失敗すると、再生される波面の位相分布の誤差が大きくなり、その結果として、対象物の3次元形状に対する測定誤差も大きくなる。また、対象物に位相差が2πを超えるようなエッジが含まれる場合、そのようなエッジの形状を正確に測定することは困難である。
【0005】
そこで、本発明は、対象物の3次元形状の測定における演算量を削減可能な形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの側面によれば、形状測定装置が提供される。この形状測定装置は、対象物の着目点からの物体光と所定の参照光点光源位置から発する参照光とを受光する検出器の撮像面における、物体光と参照光間の干渉縞を表す少なくとも一つの干渉画像から、撮像面における物体光と参照光間の干渉成分の複素振幅を再生する干渉成分再生部と、撮像面における干渉成分の複素振幅を空間領域から周波数領域へ変換することで、撮像面に垂直な光軸方向に沿って撮像面と参照光点光源位置間の距離だけ撮像面から離れた参照位置における物体光の複素振幅を再生する物体光再生部と、参照位置における物体光の複素振幅を撮像面に対して平行な方向における空間周波数で1階偏微分することで参照位置における物体光の複素振幅の1階偏微分値を算出するとともに、参照位置における物体光の複素振幅をその空間周波数で2階偏微分することで参照位置における物体光の複素振幅の2階偏微分値を算出する微分部と、参照位置における物体光の複素振幅、その1階偏微分値及びその2階偏微分値に基づいて、光軸方向に沿った撮像面から着目点までの距離を測定する測定部とを有する。
【0007】
この形状測定装置において、測定部は、参照位置における物体光の複素振幅とその2階偏微分値の積と、参照位置における物体光の複素振幅の1階偏微分値の2乗との差に対する、参照位置における物体光の複素振幅の2乗の比に応じて、光軸方向に沿った撮像面から着目点までの距離を測定することが好ましい。
【0008】
また、この形状測定装置において、所定の参照光点光源位置は、撮像面からの距離が互いに異なる第1の位置と第2の位置とを含み、干渉成分再生部は、第1の位置からの参照光と物体光との干渉縞及び第2の位置からの参照光と物体光との干渉縞を表す少なくとも一つの干渉画像から、撮像面における、物体光と第1の位置からの参照光間の干渉成分と物体光と第2の位置からの参照光間の干渉成分の和の複素振幅を再生し、物体光再生部は、各干渉成分の和の複素振幅を空間領域から周波数領域へ変換することで、光軸方向に沿って撮像面と第1の位置間の距離だけ撮像面から離れた第1の参照位置における物体光の複素振幅成分と光軸方向に沿って撮像面と第2の位置間の距離だけ撮像面から離れた第2の参照位置における物体光の複素振幅成分とを含む物体光の複素振幅を再生することが好ましい。
【0009】
本発明の他の側面によれば、形状測定装置が提供される。この形状測定装置は、撮像部の撮像面から撮像面と垂直な光軸方向に沿って所定の距離の位置に配置された同心円状の所定のピッチを持つ所定のパターンを表す現像用パターンを記憶する記憶部と、撮像部により得られた画像に表された、対象物の着目点からの物体光が所定のパターンで輝度変調された観測パターンと現像用パターンとの相関演算により得られ、かつ、現像用パターンのピッチと観測パターンのピッチに応じた信号成分を空間領域から周波数領域へ変換することで、物体光の再生像を算出する再生像算出部と、再生像を撮像面に対して平行な方向における空間周波数で1階偏微分することで再生像の1階偏微分値を算出するとともに、再生像をその空間周波数で2階偏微分することで再生像の2階偏微分値を算出する微分部と、再生像、その1階偏微分値及びその2階偏微分値に基づいて、光軸方向に沿って撮像面から着目点までの距離を測定する測定部とを有する。
【0010】
この形状測定装置において、現像用パターンは、所定のピッチとして第1のピッチを持つ同心円状の第1のパターンと第1のピッチと異なる第2のピッチを持つ同心円状の第2のパターンの和を表すことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る形状測定装置は、対象物の3次元形状の測定における演算量を削減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態による形状測定装置を含む測定光学系の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態による形状測定装置の概略構成図である。
【
図3】第1の実施形態による、形状測定処理に関するプロセッサの機能ブロック図である。
【
図4】第1の実施形態による、形状測定処理の動作フローチャートである。
【
図5】第2の実施形態による形状測定装置に用いられる撮像光学系の概略構成図である。
【
図6】第2の実施形態による形状測定装置の概略構成図である。
【
図7】第2の実施形態による、形状測定処理に関するプロセッサの機能ブロック図である。
【
図8】第2の実施形態による、形状測定処理の動作フローチャートである。
【
図9】第1の実施形態の変形例による、測定光学系の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しつつ、形状測定装置について説明する。本発明の第1の実施形態に係る形状測定装置は、位相シフトデジタルホログラフィ法に従って対象物の3次元形状を測定する。その際、この形状測定装置は、対象物上の着目する点からの物体光と参照光間の位相差が互いに異なる、物体光と参照光間の干渉縞の複数の画像から再生される、物体光の複素振幅についての空間周波数での1階偏微分及び2階偏微分を利用して、その着目する点の位置を求めることで、演算量の削減を図る。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る形状測定装置を含む測定光学系の概略構成図である。
図1に示されるように、測定光学系100は、コヒーレント光源1と、二つのビームスプリッタ2、3と、三つのミラー4~6と、可変波長板7と、集光光学系8と、検出器9と、形状測定装置10とを有する。
【0015】
コヒーレント光源1から発したコヒーレント光は、ビームスプリッタ2により、照明光と参照光とに分割される。照明光は、ミラー4により反射された後、対象物110を照明する。そして対象物110が照明光を反射または散乱することで得られた、対象物110からの物体光は、ビームスプリッタ3へ入射する。一方、参照光は、二つのミラー5及び6にてそれぞれ反射された後、可変波長板7及び集光光学系8を経て、参照光点光源位置rにて一旦集光された後、ビームスプリッタ3へ入射する。これにより、参照光は、参照光点光源位置rに配置された仮想的な点光源から発するものとみなせる。ビームスプリッタ3へ入射した参照光と物体光とは、ビームスプリッタ3により合わされて、検出器9に入射し、検出器9の撮像面にて、参照光と物体光との干渉縞を形成する。検出器9により得られた干渉縞の画像は、形状測定装置10へ出力される。そして、形状測定装置10は、可変波長板7を制御することで参照光の位相をシフトすることで得られる、複数の干渉縞の画像から、対象物110からの物体光の複素振幅を計算し、その複素振幅から、対象物110の3次元形状を測定する。
【0016】
この測定光学系100において、コヒーレント光源1は、例えば、ガスレーザ、固体レーザまたは半導体レーザとすることができる。また、ミラー4は、照明光が照射される対象物110上の位置(すなわち、着目する点の位置)を変えることができるように、例えば、ガルバノミラーとしてもよい。また、測定光学系100は、ミラー4の代わりに、あるいは、ミラー4とともに、照明光が照射される位置を変更可能な他の走査光学系を有してもよい。
【0017】
可変波長板7は、可変位相差板とも呼ばれ、例えば、透過型の液晶素子として構成される。例えば、可変波長板7は、ホモジニアス配向された液晶分子を含む液晶層と、液晶層を挟んで対向するように配置される二つの透明電極とを有する。形状測定装置10が、二つの透明電極間に印加する電圧を制御することで、可変波長板7は、その二つの透明電極間に配置された液晶層を透過する参照光の位相をシフトさせることができる。
【0018】
検出器9は、例えば、C-MOSあるいはCCDといった固体撮像素子がアレイ状に配置されたイメージセンサとすることができる。そして検出器9は、その撮像面上に形成された物体光と参照光間の干渉縞の画像を生成し、生成した画像を形状測定装置10へ出力する。
【0019】
なお、物体光と参照光間の干渉縞の画像を得るための測定光学系は、
図1に示される測定光学系100に限られず、他のタイプの干渉計を利用した測定光学系であってもよい。
【0020】
図2は、第1の実施形態による形状測定装置10の概略構成図である。形状測定装置10は、通信インターフェース21と、駆動回路22と、メモリ23と、プロセッサ24とを有する。通信インターフェース21、駆動回路22及びメモリ23は、信号線を介してプロセッサ24と接続される。なお、形状測定装置10は、キーボードといった入力装置と、液晶ディスプレイといった表示装置とをさらに有していてもよい。
【0021】
通信インターフェース21は、Universal Serial Bus(USB)といった通信規格に準拠し、検出器9と接続するための通信インターフェース及び関連する回路を有する。そして通信インターフェース21は、検出器9から受信した、干渉縞の画像をプロセッサ24へわたす。
【0022】
駆動回路22は、可変波長板7を駆動するための回路を有する。そして駆動回路22は、プロセッサ24からの制御信号に従って、可変波長板7を透過する参照光に所定の位相シフト量を与える駆動電圧(例えば、二つの透明電極間に印加する電圧)を可変波長板7へ出力する。また、ミラー4がガルバノミラーである場合、駆動回路22は、ミラー4を駆動するための回路をさらに有していてもよい。この場合、駆動回路22は、プロセッサ24からの制御信号に従って、照明光が対象物110上の着目する点へ向かうようにミラー4を駆動するための駆動信号をミラー4へ出力する。
【0023】
メモリ23は、例えば、揮発性の半導体メモリを有する。メモリ23は、さらに、不揮発性の半導体メモリ、ハードディスク装置及び光記録装置の何れかを有していてもよい。そしてメモリ23は、プロセッサ24上で動作する、対象物110の3次元形状の測定処理のコンピュータプログラム、干渉縞の画像、対象物110の3次元形状の測定処理中に求められた各種の計算データ、及び、対象物110の3次元形状の測定結果などを記憶する。
【0024】
プロセッサ24は、一つまたは複数のCPU及びその周辺回路を有する。プロセッサ24は、さらに、数値演算回路といった各種の演算回路を有していてもよい。そしてプロセッサ24は、可変波長板7を透過する参照光に所定の位相シフト量を与えるように駆動回路22を制御する。また、ミラー4がガルバノミラーである場合、プロセッサ24は、照明光が対象物110上の着目する点へ向かうよう、駆動回路22を制御する。さらに、プロセッサ24は、位相シフト量の異なる複数の干渉縞の画像に基づいて、対象物110の3次元形状を測定するための形状測定処理を実行する。
【0025】
図3は、第1の実施形態による、形状測定処理に関するプロセッサ24の機能ブロック図である。プロセッサ24は、干渉成分再生部31と、物体光再生部32と、微分部33と、測定部34とを有する。プロセッサ24が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ24上で動作するコンピュータプログラムにより実現されるプログラムモジュールとすることができる。しかし、プロセッサ24が有するこれらの各部は、それらの機能を実現する専用の演算回路として、プロセッサ24に実装されてもよい。
【0026】
干渉成分再生部31、物体光再生部32、微分部33及び測定部34は、照明光により照明される対象物110上の着目する点ごとに、以下に説明するような形状測定処理を実行することで、検出器9から対象物110上のその着目する点までの距離を求めることで、対象物110の3次元形状を測定する。
【0027】
干渉成分再生部31は、物体光と参照光間の位相差が異なる複数の干渉縞の画像を用いて、照明光により照明される対象物110上の着目する点(以下、物点と呼ぶことがある)からの物体光と参照光間の干渉成分についての、検出器9の撮像面(以下、単に撮像面と呼ぶことがある)における複素振幅を再生する。
【0028】
本実施形態では、干渉成分再生部31は、位相シフトデジタルホログラフィ法に従って、撮像面における、物体光と参照光間の干渉成分の複素振幅を再生する。着目する物点ごとに、同じ処理が行われればよいので、以下では、一つの物点について各部の処理を説明する。また、簡単化のために、検出器9の撮像面の法線方向、すなわち、光軸OAと平行なz軸方向(以下、単に光軸方向と呼ぶ)と、光軸方向と直交し、かつ、
図1の紙面に平行な方向(以下、x軸方向と呼ぶ)の2次元の座標系で物点の位置、物体光及び参照光が表されるものとして、形状測定処理を説明する。また、検出器9の撮像面と光軸OAとが直交する点を原点とする。
撮像面上の点x(ただし、光軸OA上のとき、x=0)における、対象物110上の物点(d
i,z
i)からの物体光の複素振幅(以下、単に物体光と呼ぶことがある)O
i(x,d
i,z
i)は、次式で表される。
【数1】
ここで、d
iは、x軸方向における物点の位置座標であり、z
iは、光軸方向に沿った、原点から物点までの距離である。また、撮像面上の点xにおける参照光R(x,z
r,Φ
r)の複素振幅は、次式で表される。
【数2】
ここで、z
rは、参照光点光源位置rからビームスプリッタ3を経由して検出器9の撮像面までの距離である。また、Φ
rは、可変波長板7により参照光に与えられる、物体光と参照光間の位相差である。さらに、Φ
orは、物体光の光路長と参照光の光路長との差に起因する、物体光と参照光間の位相差である。なお、Φ
orは、可変波長板7による位相差が変化しても一定であり、Φ
orに関する項は定数として扱えるので、物体光の複素振幅の再生において無視できる。そこで、参照光R(x,z
r,Φ
r)は、以下のように再定義される。
【数3】
【0029】
(1)式~(3)式より、物体光と参照光との干渉により得られる、検出器9の撮像面上での強度分布IH(x,d
i,z
i,Φ
r)は、次式で表される。
【数4】
ここで、|x|>>|d
i|であれば、(x-d
i)
2≒x
2-2xd
iとの近似が成立する。したがって、(4)式は、次式のように近似される。
【数5】
【0030】
このことから、可変波長板7により参照光に与えられる、物体光と参照光間の位相差Φ
rを、0,π/2,π,3π/2としたときのそれぞれの強度分布IH(x,d
i,z
i,0)、IH(x,d
i,z
i,π/2)、IH(x,d
i,z
i,π)、IH(x,d
i,z
i,3π/2)を用いて、撮像面における、干渉成分S
i(x,d
i,z
i)は、次式で表される。
【数6】
【0031】
したがって、干渉成分再生部31は、位相差Φrが、それぞれ、0,π/2,π,3π/2のときの4枚の干渉縞の画像(すなわち、強度分布IH(x,di,zi,0)を表す画像、強度分布IH(x,di,zi,π/2)を表す画像、強度分布IH(x,di,zi,π)を表す画像、及び強度分布IH(x,di,zi,3π/2)を表す画像)を用いて、(6)式に従って、撮像面における干渉成分Si(x,di,zi)を算出することができる。
干渉成分再生部31は、撮像面における干渉成分Si(x,di,zi)を物体光再生部32へわたす。
【0032】
物体光再生部32は、干渉成分再生部31により算出された、検出器9の撮像面における干渉成分S
i(x,d
i,z
i)に対してフーリエ変換を実行して空間領域から周波数領域へ変換することで、撮像面と参照光点光源位置までの距離z
rだけ、光軸方向に沿って撮像面から離れた位置(以下、参照位置と呼ぶ)における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を再生する。このとき、再生された物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)は次式で表される。
【数7】
ここで、ξは、x軸方向についての空間周波数である。λは、物体光及び参照光の波長である。また、関数Fourier[]は、フーリエ変換を実行する関数を表す。関数W(x)は、x軸方向について規定される窓関数であり、例えば、検出器9がC-MOSまたはCCDにより構成されるイメージセンサである場合、x軸方向における、その撮像面のサイズ及び画素数に応じた矩形窓として規定される。なお、窓関数W(x)として、例えば、矩形窓関数、ハミング窓関数またはガウス窓関数等が設定されてもよい。さらに、関数δ()はデルタ関数であり、関数PSF()は、窓関数W(x)に対してフーリエ変換を実行することで得られる関数である。物体光再生部32は、公知の高速フーリエ変換法といった、フーリエ変換の演算を実行する手法に従って、(7)式の演算を実行すればよい。
【0033】
物体光再生部32は、参照位置における物体光の複素振幅Pi(ξ,ξi,zi,zr)を、微分部33及び測定部34へわたす。
【0034】
微分部33は、参照位置における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を空間周波数ξで1階偏微分して得られる1階偏微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r)及び2階偏微分して得られる2階偏微分値P
i″(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を算出する。本実施形態では、微分部33は、以下に示す演算を実行することで、1階偏微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r)及び2階偏微分値P
i″(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を算出する。
【数8】
ここで、複素振幅P
i(ξ-δξ,ξ
i,z
i,z
r)は、物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)をξ方向に微小距離δξだけ平行移動させたものである。検出器9がC-MOSまたはCCDにより構成されるイメージセンサである場合、例えば、微小距離δξをイメージセンサの1画素の大きさとすれば、複素振幅P
i(ξ-δξ,ξ
i,z
i,z
r)は、複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を1画素分、x軸方向に平行移動させたものである。同様に、P
i′(ξ-δξ,ξ
i,z
i,z
r)は1階微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r)をξ方向に微小距離δξだけ平行移動させたものである。このとき算出される1階偏微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r)及び2階偏微分値P
i″(ξ,ξ
i,z
i,z
r)は、(7)式より、次式で表される。
【数9】
微分部33は、算出した1階偏微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r)及び2階偏微分値P
i″(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を測定部34へわたす。
【0035】
測定部34は、参照位置における物体光の複素振幅Pi(ξ,ξi,zi,zr)と、その1階偏微分値Pi′(ξ,ξi,zi,zr)及び2階偏微分値Pi″(ξ,ξi,zi,zr)から、光軸方向に沿った、検出器9の撮像面から物点までの距離ziを算出する。
【0036】
(7)式及び(9)式から、距離z
iは、次式のように表すことができる。
【数10】
このように、距離z
iは、参照位置における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)とその2階偏微分値P
i″(ξ,ξ
i,z
i,z
r)の積と、1階偏微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r)の2乗の差に対する、その複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)の2乗の比に応じた値となる。
【0037】
したがって、測定部34は、(10)式に、参照位置における物体光の複素振幅Pi(ξ,ξi,zi,zr)と、その1階偏微分値Pi′(ξ,ξi,zi,zr)及び2階偏微分値Pi″(ξ,ξi,zi,zr)を代入することで、距離ziを算出できる。
したがって、プロセッサ24は、上記のように、対象物110上の照明光にて照射される物点の位置を変えながら、物点ごとに、距離ziを算出することで、対象物110の3次元形状を測定することができる。
【0038】
以上、簡単化のために、2次元座標系を用いて形状測定処理を説明してきたが、対象物110の上の物点の位置diが、x軸方向の座標dix及びx軸方向と光軸方向のそれぞれと直交するy軸方向の座標diyの組み合わせで表される場合も、プロセッサ24は、上記と同様の処理を実行することで、距離ziを算出できる。この場合には、(6)式で用いられる、撮像面における、干渉成分の算出に利用される、物体光と参照光の干渉縞を表す強度分布IHも、x軸方向及びy軸方向の2次元の分布で表される。また、物体光再生部32は、x軸方向だけでなく、y軸方向に関しても、撮像面における干渉成分の複素振幅を空間領域から周波数領域へ変換することで、参照位置における物体光の複素振幅Pi(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)を算出できる。なお、νは、y軸方向についての空間周波数を表す。また、この場合、ξi=dix/(λzi)、νi=diy/(λzi)である。
【0039】
微分部33は、参照位置における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,ν,ν
i,z
i,z
r)を、ξについて1階偏微分及び2階偏微分することで、ξについての1階偏微分値P
iξ′(ξ,ξ
i,ν,ν
i,z
i,z
r)及び2階偏微分値P
iξ″(ξ,ξ
i,ν,ν
i,z
i,z
r)を算出する。また、微分部33は、参照位置における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,ν,ν
i,z
i,z
r)を、νについて1階偏微分及び2階偏微分することで、νについての1階偏微分値P
iν′(ξ,ξ
i,ν,ν
i,z
i,z
r)及び2階偏微分値P
iν″(ξ,ξ
i,ν,ν
i,z
i,z
r)を算出する。そして測定部34は、次式に従って、x軸方向(すなわち、空間周波数ξ)に着目したときの検出器9の撮像面からの物点までの距離の測定値z
iξ及びy軸方向(すなわち、空間周波数ν)に着目したときの検出器9の撮像面からの物点までの距離の測定値z
iνを算出する。
【数11】
【0040】
測定部34は、測定値ziξと測定値ziνの何れか一方または両方に基づいて、検出器9の撮像面から物点までの距離ziを求めればよい。例えば、x軸方向についての1階偏微分値Piξ′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)及びy軸方向についての1階偏微分値Piν′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)の何れも、距離ziの算出において十分に誤差を抑制できるほど大きな値となる場合、測定部34は、測定値ziξと測定値ziνの平均値または何れか一方の値を、距離ziとすることができる。例えば、複素振幅Pi(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)に対するx軸方向についての1階偏微分値Piξ′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)の比r1ξが0.3以上であれば、その1階偏微分値Piξ′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)は十分に大きな値を有するとみなされる。同様に、複素振幅Pi(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)に対するy軸方向についての1階偏微分値Piν′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)の比r1νが0.3以上であれば、その1階偏微分値Piν′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)は十分に大きな値を有するとみなされる。
【0041】
また、測定部34は、測定値ziξを比r1ξ/(riξ+r1ν)で重み付けし、かつ、測定値ziνを比r1ν/(r1ξ+r1ν)で重み付けして得られる、測定値ziξと測定値ziνの加重平均値を、距離ziとしてもよい。あるいはまた、x軸方向についての1階偏微分値Piξ′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)が上記のような十分に大きな値であり(例えば、比r1ξ≧0.3)、一方、y軸方向についての1階偏微分値Piν′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)が十分に大きな値でない場合(例えば、比r1ν<0.3)、測定部34は、測定値ziξを距離ziとすることが好ましい。逆に、y軸方向についての1階偏微分値Piν′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)が上記のような十分に大きな値であり、一方、x軸方向についての1階偏微分値Piξ′(ξ,ξi,ν,νi,zi,zr)が十分に大きな値でない場合、測定部34は、測定値ziνを距離ziとすることが好ましい。これにより、測定部34は、距離ziを正確に求めることができる。
【0042】
図4は、第1の実施形態による形状測定処理の動作フローチャートである。プロセッサ24は、対象物110上の着目する物点d
i(=(d
ix,d
iy))についての参照光と物体光間の位相差が異なる複数の干渉縞の画像が得られる度に、以下のフローチャートに従って形状測定処理を実行すればよい。
【0043】
プロセッサ24の干渉成分再生部31は、物体光と参照光の位相差Φrが、それぞれ、0,π/2,π,3π/2のときの4枚の干渉縞の画像を用いて、検出器9の撮像面における物体光と参照光間の干渉成分の複素振幅を再生する(ステップS101)。
【0044】
プロセッサ24の物体光再生部32は、撮像面における物体光の複素振幅を空間領域から周波数領域へ変換することで、参照位置におけるその物体光の複素振幅を再生する(ステップS102)。
【0045】
プロセッサ24の微分部33は、参照位置における物体光の複素振幅を、光軸方向と直交する方向の空間周波数に関して1階偏微分及び2階偏微分することで、参照位置における物体光の複素振幅の1階偏微分値及び2階偏微分値を算出する(ステップS103)。
【0046】
そしてプロセッサ24の測定部34は、(9)式または(10)式に従って、参照位置における物体光の複素振幅とその2階偏微分値の積と、1階偏微分値の2乗との差に対する、参照位置における物体光の複素振幅の2乗の比に応じた値として、検出器9の撮像面から物点までの距離を算出する(ステップS104)。そしてプロセッサ24は、形状測定処理を終了する。
【0047】
以上に説明してきたように、この形状測定装置は、対象物の着目する物点について、その物点からの物体光についての、参照位置における複素振幅、及び、光軸と直交する方向における空間周波数についてのその複素振幅の1階偏微分値及び2階偏微分値を用いることで、検出器の撮像面から物点までの距離を算出する。したがって、この形状測定装置は、アンラッピング処理を行わなくても、対象物上の各点における、検出器の撮像面から物点までの距離を求めることができる。そのため、この形状測定装置は、対象物の形状の算出における演算量を削減できる。さらに、この形状測定装置は、アンラッピング処理を利用せず、参照位置における複素振幅の1階偏微分値及び2階偏微分値を利用しているので、エッジの両側からの光の位相差が2πを超えるような対象物上のエッジにおいても、検出器の撮像面からの距離を正確に求めることができる。
【0048】
なお、変形例によれば、対象物110の複数の箇所が照明光により同時に照明されてもよい。この場合には、
図1に示される測定光学系100のミラー4は、固定のミラーであってもよい。さらに、コヒーレント光源1から対象物110までの光路の何れかに、照明光の高速を拡げるためのビームエキスパンダが配置されてもよい。
【0049】
この場合、照明光により照明される物点の集合Σd
iに含まれる物点d
iのそれぞれから物体光O
i(x,d
i,z
i)が発するとすると、撮像面において観察される強度分布IH(x,Σd
i,z
i,Φ
r)は、(4)式の代わりに次式で表されることになる。
【数12】
この場合も、干渉成分再生部31は、一つの物点からのみ物体光が発する場合と同様に、物体光と参照光間の位相差が互いに異なる4個の強度分布IH(x,Σd
i,z
i,0)、IH(x,Σd
i,z
i,π/2)、IH(x,Σd
i,z
i,π) 、IH(x,Σd
i,z
i,3π/2)から、(6)式に従って撮像面における干渉成分を再生すればよい。そして物体光再生部32は、再生された干渉成分をフーリエ変換することで、次式で表される、参照位置における、各物点からの物体光の複素振幅T(ξ,z
r)を再生できる。
【数13】
【0050】
再生される個々の物点からの物体光はデルタ関数δ(ξ-ξi)及びPSF(ξ)との畳み込み積分で表されるため、個々の物点からの物体光は、窓関数W(x)で規定される平面分解能で各物点の位置(ξ=ξi)において互いに独立に再生されることになる。したがって、微分部33及び測定部34は、物点ごとに、再生された物体光について上記の実施形態と同様の処理を実行することで、撮像面から各物点までの距離を求めることができる。
【0051】
この変形例によれば、対象物110の複数個所が同時に照明され、かつ走査光学系が不要となるので、測定光学系100の構成が簡単化されるとともに、対象物110の形状の測定に要する時間が短縮される。
【0052】
また他の変形例によれば、物体光再生部32は、位相シフトデジタルホログラフィ法以外の手法に従って、一つまたは複数の干渉縞の画像から、(7)式で表される、参照位置における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を再生してもよい。例えば、物体光再生部32は、武田他、「pattern analysis for computer-based topography and interferometry」、Journal of the Optical Society of America Vol. 72、Issue 1、pp. 156-160、1982年、に記載されている、トポグラフィ及びインターフェロメトリの高速フーリエ変換手法に従って得られた一つの干渉縞の画像から、参照位置における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)を再生してもよい。この場合、上記文献に記載された(3)式が、上記の(4)式に対応するので、上記文献に記載された(3)式をフーリエ変換することで、上記の(5)式が得られる。そして上記文献の
図1に示されるように、フーリエ変換の結果として得られたものから切り出された着目する成分に対して上記の(7)式と同様にフーリエ変換することで、参照位置における物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r)が再生される。
【0053】
さらに他の実施形態によれば、形状測定装置は、例えば、特開2018-61109号公報(以下、特許文献3と呼ぶ)に開示されているようなレンズレスイメージング手法に従って、対象物の形状を測定することもできる。
【0054】
図5は、第2の実施形態による形状測定装置に用いられる撮像光学系の概略構成図である。撮像光学系200は、変調器41と、イメージセンサ42と、本実施形態による形状測定装置43とを有する。なお、撮像光学系200は、対象物210を照明する照明光学系をさらに有していてもよい。また、照明光学系は、照明光が照射される対象物210上の位置を変更可能な走査機構を有していてもよい。
【0055】
変調器41は、ガラスまたは透明樹脂といった、透明な材質により平行平板状に形成され、イメージセンサ42の撮像面よりも物体側において、対象物210側の変調器41の面(以下、表面と呼ぶ)が撮像面と平行となるように配置され、かつ、イメージセンサ42と密着するように固定される。そして変調器41の表面には、撮像面の法線方向と平行、かつ、撮像面の中心を通る光軸を中心とする同心円状に配置された、濃淡のパターン41aが形成される。なおこのパターン41aは、例えば、金属蒸着または印刷により形成される。あるいは、変調器41の表面に透過型液晶表示素子が配置され、その透過型液晶表示素子が濃淡のパターン41aを表示してもよい。この場合には、形状測定装置43は、透過型液晶表示素子を制御して、表示される濃淡のパターン41aの位置及びサイズなどを変更してもよい。また、このパターン41aは、特許文献3に記載のように、中心からの距離に応じてピッチが狭くなり、かつ、濃淡が2諧調で変化するように、すなわち、フレネルゾーンプレートとして形成される。したがって、対象物210からの光は、変調器41を透過することで、パターン41aにより輝度変調される。なお、パターン41aのピッチp(r)は、次式で表される。
【数14】
ここで、rは、光軸からの距離を表し、βは、パターン41aのピッチを規定する定数である。
【0056】
イメージセンサ42は、撮像部の一例であり、例えば、2次元アレイ状に配列された、CCDまたはC-MOSといった固体撮像素子を有する。そしてイメージセンサ42は、変調器41を介して受光した、輝度変調された対象物210からの光を電気信号に変換することで、対象物210の着目する物点からの光による、パターン41aの影を表す画像(以下、影画像と呼ぶ)を得る。そしてイメージセンサ42は、影画像を形状測定装置43へ出力する。
【0057】
形状測定装置43は、影画像に基づいて、対象物210の着目する物点からの光の再生像を求め、かつ、その再生像に基づいて、イメージセンサ42の撮像面からその物点までの距離を測定する。
【0058】
図6は、第2の実施形態による、形状測定装置43の概略構成図である。形状測定装置43は、通信インターフェース51と、メモリ52と、プロセッサ53とを有する。通信インターフェース51及びメモリ52は、信号線を介してプロセッサ53と接続される。
【0059】
通信インターフェース51は、イメージセンサ42と接続するための通信インターフェース及び関連する回路を有する。そして通信インターフェース51は、イメージセンサ42から受信した影画像をプロセッサ53へわたす。また、通信インターフェース51は、形状測定装置43を他の機器に接続するための通信インターフェース及び関連する回路を有していてもよい。そして通信インターフェース51は、プロセッサ53から受け取った、再生像を表す画像及び対象物上の各点までの距離を表示装置といった他の機器へ出力してもよい。
【0060】
メモリ52は、記憶部の一例であり、例えば、揮発性の半導体メモリを有する。メモリ52は、さらに、不揮発性の半導体メモリ、ハードディスク装置及び光記録装置の何れかを有していてもよい。そしてメモリ52は、プロセッサ53上で動作する、形状測定処理のコンピュータプログラム、形状測定処理で用いられる、現像用パターンが表された画像、形状測定処理中に求められた各種の計算データ、対象物の再生像が表された画像、及び、対象物上の各点までの距離の測定値などを記憶する。なお、現像用パターンは、例えば、パターン41aと同様に、(14)式で表されるピッチを持つ、同心円状のパターンとすることができる。
【0061】
プロセッサ53は、一つまたは複数のCPU及びその周辺回路を有する。プロセッサ53は、さらに、数値演算回路といった各種の演算回路を有していてもよい。そしてプロセッサ53は、形状測定処理を実行する。
【0062】
図7は、第2の実施形態による、形状測定処理に関するプロセッサ53の機能ブロック図である。プロセッサ53は、再生像算出部61と、微分部62と、測定部63とを有する。プロセッサ53が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ53上で動作するコンピュータプログラムにより実現されるプログラムモジュールとすることができる。しかし、プロセッサ53が有するこれらの各部は、それらの機能を実現する専用の演算回路として、プロセッサ53に実装されてもよい。
【0063】
なお、第1の実施形態と同様に、着目する物点ごとに、同じ処理が行われればよいので、以下では、一つの物点について各部の処理を説明する。また、簡単化のために、イメージセンサ42の撮像面の法線方向と平行な光軸方向及び光軸方向と直交する面における一つの軸方向(x軸方向)との2次元の座標系で、形状測定処理で行われる演算を説明する。しかし、第1の実施形態と同様に、本実施形態による形状測定処理は、x軸方向及び光軸方向と直交する方向(y軸方向)についてもx軸方向と同様に扱うことで、3次元に拡張することができる。
【0064】
再生像算出部61は、対象物210上の着目する物点からの光の再生像を算出する。
特許文献3に記載されているように、対象物上の着目する物点からの光が、角度θにて変調器41に入射する場合について説明する。影画像に表されたパターン41aの影(観測パターンに相当)は次式で表される。
【数15】
ここで、k=dtanθであり、dは、変調器41の透明基板の光軸方向の厚さ(すなわち、パターン41aとイメージセンサ42の撮像面間の距離)である。またβ
Fは、上記の(14)式における、パターン41aのピッチを定める定数βに相当する。さらに、Φ
Fは、影画像における、パターン41aの位相を表す。さらに、xは、光軸と直交する面に設定されるx軸方向の座標であり、光軸上においてx=0となる。
【0065】
したがって、対象物210上の着目する物点について、影画像と、メモリ52に記憶される現像用パターンとの相関演算は次式で表される。
【数16】
ここで、IB(x,Φ
B)は、現像用パターンを表す。また、β
Bは、現像用パターンについての、上記の(14)式における、ピッチを定める定数βに相当する。さらに、Φ
Bは、現像用パターンの位相を表す。
【0066】
位相ΦFと位相ΦBの組合せにおける総和を計算することで、(6)式と同様の信号成分cos[(βF-βB)x2-2βFkx]、sin[(βF-βB)x2-2βFkx]が得られる。位相ΦF及び位相ΦBは、0~2π間の角度を等分するように設定されればよい。例えば、位相ΦF及び位相ΦBは、{0,π/2,π,3π/2}のように、0~2π間の角度を4等分するように設定されてもよく、あるいは、{0,π/3,2π/3}のように、0~2π間の角度を3等分するように設定されてもよい。この場合、パターン41aとして、初期位相の異なる複数のパターンが使用される。例えば、初期位相ΦFがそれぞれ{0,π/2,π,3π/2}である複数のパターンが2次元的に配置されればよい。その他の手法として、例えば、透過型液晶表示素子を用いてパターン41aが表示される場合、影画像におけるパターン41aの位相ΦFを変調することが可能であり、透過型液晶表示素子を制御する制御装置(例えば、形状測定装置43)は、初期位相ΦFを{0,π/2,π,3π/2}と時間的に変化させればよい。
【0067】
したがって、これら信号成分に対してフーリエ変換を実行することで、対象物210上の着目する物点からの光の再生像E(ξ,ξ0,β
F)が得られる。
【数17】
ここで、ξは、x軸方向における空間周波数である。また、関数W(x)は、窓関数であり、例えば、x軸方向における、イメージセンサ42の撮像面のサイズ及び画素数に応じた矩形関数として規定される。なお、窓関数W(x)として、(7)式と同様に、例えば、ハミング窓関数またはガウス窓関数が設定されてもよい。さらに、関数δ()はデルタ関数であり、関数PSF()は、窓関数W(x)に対してフーリエ変換を実行することで得られる関数である。
【0068】
そこで、例えば、再生像算出部61は、メモリ52から読み出した現像用パターンを変調し、その変調した現像用パターンを用いて信号成分cos[(βF-βB)x2-2βFkx]、sin[(βF-βB)x2-2βFkx]を求める。そして再生像算出部61は、それら信号成分に対して(17)式で表されるフーリエ変換を実行することで、対象物210上の着目する物点からの光の再生像を得る。
【0069】
なお、(17)式において、π/(λz0)=βF、かつ、π/(λzr)=βBとすれば、(17)式は、上記の実施形態における、(7)式と同様の式となることが分かる。なお、z0は、光軸方向に沿った、イメージセンサ42の撮像面から着目する物点までの距離を表す。
【0070】
微分部62は、再生像E(ξ,ξ0,βF)を空間周波数ξで1階偏微分して得られる1階偏微分値E′(ξ,ξ0,βF)及び2階偏微分して得られる2階偏微分値E″(ξ,ξ0,βF)を算出する。上記のように、π/(λz0)=βF、かつ、π/(λzr)=βBとすることで、(17)式は、(7)式と同様の式となる。そこで、微分部62は、(8)式で表される演算と同様の演算を実行して、1階偏微分値E′(ξ,ξ0,βF)及び2階偏微分値E″(ξ,ξ0,βF)を算出すればよい。
【0071】
測定部63は、再生像E(ξ,ξ0,βF)と、その1階偏微分値E′(ξ,ξ0,βF)及び2階偏微分値E″(ξ,ξ0,βF)から、光軸方向に沿った、イメージセンサ42の撮像面から対象物210上の着目する物点までの距離を算出する。
【0072】
(10)式と同様に、再生像E(ξ,ξ
0,β
F)と、その1階偏微分値E′(ξ,ξ
0,β
F)及び2階偏微分値E″(ξ,ξ
0,β
F)から、定数β
Fは、次式のように表すことができる。
【数18】
このように、定数β
Fは、再生像E(ξ,ξ
0,β
F)とその2階偏微分値E″(ξ,ξ
0,β
F)の積と、1階偏微分値E′(ξ,ξ
0,β
F)の2乗の差に対する、再生像E(ξ,ξ
0,β
F)の2乗の比に応じた値となる。
【0073】
したがって、測定部63は、(18)式に、再生像E(ξ,ξ0,βF)と、その1階偏微分値E′(ξ,ξ0,βF)及び2階偏微分値E″(ξ,ξ0,βF)を代入することで、βFを算出できる。そして、βF/βは、光軸方向に沿った変調器41の透明基板の厚さdと、対象物の着目する物点から変調器41の表面(すなわち、パターン41aが設けられた面)までの距離zの和(d+z)に対する、その距離zの比(z/(d+z))の2乗に比例する。したがって、測定部63は、βFから、距離zまたは(d+z)を算出できる。
【0074】
プロセッサ53は、対象物210上の着目する物点の位置を変えながら上記の処理を繰り返すことで、対象物の3次元形状を測定できる。
【0075】
図8は、第2の実施形態による形状測定処理の動作フローチャートである。プロセッサ24は、対象物210上の着目する物点ごとに、以下のフローチャートに従って形状測定処理を実行すればよい。
【0076】
プロセッサ53の再生像算出部61は、メモリ52から読み出した現像用パターンを変調し、その変調した現像用パターンを用いて、影画像に表されたパターンと現像用パターンの相関値における、対象物210上の着目する物点に関する信号成分cos[(βF-βB)x2-2βFkx]、sin[(βF-βB)x2-2βFkx]に対するフーリエ変換を実行することで、対象物210上の着目する物点からの光の再生像を算出する(ステップS201)。
【0077】
プロセッサ53の微分部62は、再生像を空間周波数ξで1階偏微分して得られる1階偏微分値及び2階偏微分して得られる2階偏微分値を算出する(ステップS202)。
【0078】
そしてプロセッサ53の測定部63は、(18)式に従って、再生像とその2階偏微分値の積と、1階偏微分値の2乗との差に対する、再生像の2乗の比に応じた値として、光軸方向に沿った、イメージセンサ42の撮像面から対象物210上の着目する物点までの距離を算出する(ステップS203)。そしてプロセッサ53は、形状測定処理を終了する。
【0079】
このように、この実施形態による形状測定装置も、上記の実施形態による形状測定装置と同様の処理を実行することで、対象物の形状の測定に要する演算量を削減できる。すなわち、この実施形態による形状測定装置は、再生像の最適な合焦位置を求める必要が無いので、その最適な合焦位置を求めるために必要となる、光軸方向の複数の位置において物体光の複素振幅を求める処理が不要となる。その結果として、この実施形態による形状測定装置は、演算量を削減することができる。
【0080】
なお、第2の実施形態による形状測定装置においても、対象物210の複数の箇所が同時に照明されてもよい。この場合も、第1の実施形態による形状測定装置において対象物の複数の箇所が同時に照明される場合と同様に、フーリエ変換の結果として、対象物210上の複数の物点のそれぞれからの光の再生像が得られる。そのため、微分部62及び測定部63は、物点ごとに、上記と同様の処理を実行することで、物点ごとに撮像面からその物点までの距離を算出できる。
【0081】
また、上記の第1の実施形態またはその変形例による形状測定装置において、物点から検出器9の撮像面までの距離と、参照光点光源位置からビームスプリッタ3を経由した検出器9の撮像面までの距離との差が大きいと、物点の再生像がボケてしまい、その結果として、検出器9の撮像面から物点までの距離ziの測定精度が低下することがある。
【0082】
そこで変形例によれば、形状測定装置は、参照光点光源の位置を移動させ、異なる二つの参照点光源の位置のそれぞれからの参照光と物体光との干渉成分の和に基づいて、上記の第1の実施形態と同様に検出器9の撮像面から物点までの距離ziを測定することで、物点の位置による距離ziの測定精度のバラツキを抑制する。
【0083】
図9は、第1の実施形態の変形例による、測定光学系の概略構成図である。
図9では、測定装置の図示は省略される。また、
図9に示される各構成要素には、
図1に示される対応する構成要素と同じ参照符号を付した。
図9に示される測定光学系300は、
図1に示される測定光学系100と比較して、集光光学系8が、x軸方向に沿って、すなわち、ミラー6とビームスプリッタ3との間における光軸に沿って移動可能なように、集光光学系8が1軸ステージなどで支持される点で相違する。したがって、集光光学系8を移動させることで、参照光が集光光学系8により集光される参照点光源位置と検出器9の撮像面間の距離も変化する。
【0084】
この変形例では、参照点光源位置r1にて参照光が集光される場合の参照光と物体光との干渉成分と、参照点光源位置r1と異なる参照点光源位置r2にて参照光が集光される場合の参照光と物体光との干渉成分とに基づいて、検出器9の撮像面から物点までの距離ziが測定される。また、この変形例による形状測定装置は、第1の実施形態による形状測定装置と比較して、プロセッサの処理の一部が相違する。そこで以下では、第1の実施形態との相違点及び関連部分について説明する。なお、以下の説明において、各物理量のうち、上記の実施形態における物理量と同じものには、上記の実施形態で用いたパラメータと同じものを使用する。
【0085】
形状測定装置10のプロセッサ24の干渉成分再生部31は、参照光と物体光との干渉成分を算出する。
【0086】
この変形例において、参照点光源位置r1からの参照光R
1(x,z
r1,Φ
r)、及び、参照点光源位置r2からの参照光R
2(x,z
r2,Φ
r)は、(3)式と同様に次式で表される。
【数19】
したがって、参照点光源位置r1からの参照光R
1(x,z
r1,Φ
r)と物体光との干渉により得られる、検出器9の撮像面での強度分布I
H1、及び、参照点光源位置r2からの参照光R
2(x,z
r2,Φ
r)と物体光との干渉により得られる、検出器9の撮像面での強度分布I
H2は、(4)式と同様に、次式で表される。
【数20】
【0087】
また、|x|>>|d
i|であれば、(x-d
i)
2≒x
2-2xd
iとの近似が成立することから、強度分布I
H1と強度分布I
H2の和を改めて強度分布I
Hとすると、その強度分布I
Hは、(5)式と同様に、次式のように近似される。
【数21】
【0088】
したがって、可変波長板7により参照光に与えられる、物体光と参照光間の位相差Φ
rを、0,π/2,π,3π/2としたときのそれぞれの強度分布I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,0)、I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,π/2)、I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,π)、I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,3π/2)を用いて、撮像面における、干渉成分S
i(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2)は、(6)式と同様に、次式で表される。
【数22】
【0089】
(22)式から明らかなように、干渉成分Si(x,di,zi,zr1,zr2)は、参照点光源位置r1からの参照光R1(x,zr1,Φr1)と物体光との干渉成分と、参照点光源位置r2からの参照光R2(x,zr2,Φr1)と物体光との干渉成分の和で表される。
【0090】
したがって、干渉成分再生部31は、参照光の集光位置が参照点光源位置r1となるように集光光学系8が移動され、かつ、可変波長板7により参照光に与えられる、物体光と参照光間の位相差Φrが、0,π/2,π,3π/2のそれぞれに設定されたときの強度分布IH1を検出器9から取得する。同様に、干渉成分再生部31は、参照光の集光位置が参照点光源位置r2となるように集光光学系8が移動され、かつ、可変波長板7により参照光に与えられる、物体光と参照光間の位相差Φrが、0,π/2,π,3π/2のそれぞれに設定されたときの強度分布IH2を検出器9から取得する。そして干渉成分再生部31は、強度分布IH1及び強度分布IH2に基づいて、(22)式に従って干渉成分Si(x,di,zi,zr1,zr2)を算出すればよい。干渉成分再生部31は、算出した干渉成分Si(x,di,zi,zr1,zr2)を物体光再生部32へわたす。
【0091】
プロセッサ24の物体光再生部32は、第1の実施形態と同様に、参照位置における物体光の複素振幅を再生する。そのために、物体光再生部32は、干渉成分S
i(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2)に対してフーリエ変換を実行することで、検出器9の撮像面から光軸方向に沿ってそれぞれ距離z
r1、z
r2だけ離れた各参照位置(z
rm1,z
rm2)における物体光の複素振幅成分を含む物体光の複素振幅を再生する。再生された物体光の複素振幅P
i(ξ,ξ
i,z
i,z
r1,z
r2)は次式で表される。
【数23】
(23)式の第1項は、参照点光源位置r1と撮像面間の距離z
r1と、物点の位置と撮像面間の距離z
iとの差が小さいほど、δ関数に近くなる。そのため、その差が小さいほど、この第1項から求められる距離z
iの測定精度も高くなる。逆に、その差が大きいほど、第1項に基づく物点の再生像がボケたものとなるため、距離z
iの測定精度が低下する。同様に、(23)式の第2項は、参照点光源位置r2と撮像面間の距離z
r2と、物点の位置と撮像面間の距離z
iとの差が小さいほど、δ関数に近くなる。そのため、その差が小さいほど、この第2項から求められる距離z
iの測定精度も高くなる。逆に、その差が大きいほど、第2項に基づく物点の再生像がボケたものとなるため、距離z
iの測定精度が低下する。
【0092】
物体光再生部32は、再生した物体光の複素振幅Pi(ξ,ξi,zi,zr1,zr2)を微分部33及び測定部34へわたす。
【0093】
プロセッサ24の微分部33は、物体光の複素振幅Pi(ξ,ξi,zi,zr1,zr2)の1階偏微分値及び2階偏微分値を算出する。
【0094】
微分部33は、第1の実施形態と同様に、(8)式の演算を実行することで、1階偏微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r1,z
r2)及び2階偏微分値P
i″(ξ,ξ
i,z
i,z
r1,z
r2)を算出すればよい。この変形例では、1階偏微分値P
i′(ξ,ξ
i,z
i,z
r1,z
r2)は次式で表される。
【数24】
ここで、z
r1がz
r2と略等しいとする。さらに、z
r1及びz
r2は、その平均値z
rave(=(z
r1+z
r2)/2)と略等しいとする。この場合、次の近似が成立する。
【数25】
したがって、2階偏微分値P
i″(ξ,ξ
i,z
i,z
r1,z
r2)は次式で表される。
【数26】
【0095】
微分部33は、算出した1階偏微分値Pi′(ξ,ξi,zi,zr1,zr2)及び2階偏微分値Pi″(ξ,ξi,zi,zr1,zr2)を測定部34へわたす。
【0096】
プロセッサ24の測定部34は、光軸方向に沿った、検出器9の撮像面から物点までの距離ziを算出する。
【0097】
(24)式及び(26)式から、距離z
iは、次式のように表すことができる。
【数27】
【0098】
(27)式から明らかなように、距離ziは、第1の実施形態と同様に、物体光の複素振幅とその2階偏微分値の積と1階偏微分値の2乗の差に対する、その複素振幅の2乗の比に応じた値となる。したがって、この変形例においても、測定部34は、第1の実施形態と同様に、(27)式に従って距離ziを測定することができる。
【0099】
またこの変形例では、物体光の複素振幅が、複数の参照位置(zrm1,zrm2)のそれぞれにおける物体光の振幅成分の和で表される。そのため、(27)式に従って測定される距離は、検出器9の撮像面までの距離の差が相対的に大きい参照位置からの参照光に基づいて算出される、測定誤差が相対的に大きい距離値と、検出器9の撮像面までの距離の差が相対的に小さい参照位置からの参照光に基づいて算出される、測定誤差が相対的に小さい距離値との平均値となる。したがって、この変形例によれば、形状測定装置は、物点の位置による、距離の測定精度のバラツキを抑制することができる。
【0100】
なお、この変形例でも、第1の実施形態と同様の演算により距離ziが測定されるので、対象物110の複数の箇所が照明光により同時に照明されてもよい。
【0101】
さらに、集光光学系8を多焦点光学系とすることで、一度の撮影で得られる、複数の参照点光源位置からの参照光と物体光による、検出器9の撮像面における強度分布から、干渉成分が得られるようにしてもよい。例えば、集光光学系8に含まれる少なくとも一つのレンズを、屈折レンズの何れか一方の表面に回折レンズを設けた多焦点レンズとすることで、集光光学系8を多焦点光学系とすることができる。
【0102】
【0103】
したがって、検出器9の撮像面における強度分布I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,Φ
r)は、次式で表される。
【数29】
(29)式に対して、第1の実施形態と同様に(x-d
i)
2≒x
2-2xd
iとの近似を適用することで、強度分布I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,Φ
r)は、次式のようになる。
【数30】
【0104】
このことから、可変波長板7により参照光に与えられる、物体光と参照光間の位相差Φ
rを、0,π/2,π,3π/2としたときのそれぞれの強度分布I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,0)、I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,π/2)、I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,π)、I
H(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2,3π/2)を用いて算出される、撮像面における、干渉成分S
i(x,d
i,z
i,z
r1,z
r2)は、(22)式と同様に、次式で表される。
【数31】
このように、干渉成分再生部31は、一度の撮影で得られる、複数の参照点光源位置からの参照光と物体光による、検出器9の撮像面における強度分布から干渉成分を算出することができる。
【0105】
さらに、第2の実施形態のように、レンズレスイメージング手法に従って、対象物の形状を測定する形状測定装置についても、上記の変形例と同様に、現像用パターンを、ピッチが互いに異なる余弦関数の和で表されるものとすることで、対象物の形状の測定精度のバラツキを抑制できる。以下、第2の実施形態の変形例について説明する。この変形例では、
図5に示される撮像光学系及び形状測定装置と同じものが使用されればよい。この変形例では、第2の実施形態と比較して、形状測定装置のメモリに記憶される現像用パターン及び形状測定装置のプロセッサの処理の一部が相違する。そこで以下では、第2の実施形態との相違点及び関連部分について説明する。
【0106】
この変形例では、現像用パターンは、次式で表されるように、互いにピッチが異なる二つのフレネルゾーンプレートの和として構成される。
【数32】
ただし、定数β
B1及び定数β
B2は、それぞれ、現像用パターンについてのピッチを定める定数であり、互いに異なる値に設定される。
【0107】
したがって、プロセッサ53の再生像算出部61は、対象物上の着目する物点について、影画像と現像用パターンとの相関演算を次式に従って実行すればよい。
【数33】
【0108】
再生像算出部61は、相関演算の結果から、上記の第2の実施形態と同様に、位相ΦFと位相ΦBの組み合わせにおける総和を計算することで、信号成分{cos[(βF-βB1)x2-2βFkx]+cos[(βF-βB2)x2-2βFkx]}及び信号成分{sin[(βF-βB1)x2-2βFkx]+sin[(βF-βB2)x2-2βFkx]}を得る。この変形例でも、位相ΦF及び位相ΦBは、0~2π間の角度を等分するように設定されればよい。
【0109】
再生像算出部61は、第2の実施形態と同様に、上記の信号成分に対してフーリエ変換を実行することで、対象物上の着目する物点からの光の再生像を算出する。再生像は、次式で表される。
【数34】
【0110】
(34)式の第1項は、現像用パターンが有する二つのフレネルゾーンプレートの一方のピッチβB1と、物点からの光による影画像のピッチβFとの差が小さいほど、δ関数に近くなる。そのため、その差が小さいほど、この第1項から求められる、物点までの距離zの測定精度も高くなる。逆に、その差が大きいほど、第1項に基づく物点の再生像がボケたものとなるため、距離zの測定精度が低下する。同様に、(34)式の第2項は、現像用パターンが有する二つのフレネルゾーンプレートの他方のピッチβB2と、物点からの光による影画像のピッチβFとの差が小さいほど、δ関数に近くなる。そのため、その差が小さいほど、この第2項から求められる距離zの測定精度も高くなる。逆に、その差が大きいほど、第2項に基づく物点の再生像がボケたものとなるため、距離zの測定精度が低下する。
【0111】
プロセッサ53の微分部62は、第2の実施形態と同様に、再生像E(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)を空間周波数ξで1階偏微分して得られる1階偏微分値E′(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)及び2階偏微分して得られる2階偏微分値E″(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)を算出する。この変形例においても、微分部62は、π/(λz0)=βF、π/(λZr1)=βB1、かつ、π/(λZr2)=βB2として、(8)式で表される演算と同様の演算を実行することで、1階偏微分値E′(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)及び2階偏微分して得られる2階偏微分値E″(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)を算出すればよい。
【0112】
第2の実施形態における(18)式と同様に、再生像E(ξ,ξ
0,β
F,β
B1,β
B2)と、その1階偏微分値E′(ξ,ξ
0,β
F,β
B1,β
B2)及び2階偏微分値E″(ξ,ξ
0,β
F,β
B1,β
B2)から、定数β
Fは以下のように表される。
【数35】
ここでβ
Baveは、例えば、再生像E(ξ,ξ
0,β
F,β
B1,β
B2)の算出に利用される、現像用パターンが有する二つのフレネルゾーンプレートのピッチβ
B1とβ
B2の平均値とすることができる。
【0113】
プロセッサ53の測定部63は、第2の実施形態と同様に、(35)式に、再生像E(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)と、その1階偏微分値E′(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)及び2階偏微分値E″(ξ,ξ0,βF,βB1,βB2)を代入することで、βFを算出する。そして測定部63は、第2の実施形態と同様に、算出したβFに基づいて、着目する物点までの距離zを算出すればよい。
【0114】
この変形例によれば、(35)式に従って測定される距離は、物点からイメージセンサ42の撮像面までの距離に依存する影パターンのピッチとの差が相対的に大きいピッチを持つフレネルゾーンプレートに基づいて算出される、測定誤差が相対的に大きい距離値と、影パターンのピッチとの差が相対的に小さいピッチを持つフレネルゾーンプレートに基づいて算出される、測定誤差が相対的に小さい距離値との平均値となる。したがって、この変形例によれば、形状測定装置は、距離の測定精度のバラツキを抑制することができる。
【0115】
なお、この変形例でも、第2の実施形態と同様の演算により距離zが測定されるので、対象物210の複数の箇所が照明光により同時に照明されてもよい。
【0116】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0117】
100、300 測定光学系
110 対象物
1 コヒーレント光源
2、3 ビームスプリッタ
4-6 ミラー
7 可変波長板
8 集光光学系
9 検出器
10 形状測定装置
21 通信インターフェース
22 駆動回路
23 メモリ
24 プロセッサ
31 干渉成分再生部
32 物体光再生部
33 微分部
34 測定部
200 撮像光学系
41 変調器
41a パターン
42 イメージセンサ
43 形状測定装置
51 通信インターフェース
52 メモリ
53 プロセッサ
61 再生像算出部
62 微分部
63 測定部