(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】生産管理システム及び生産管理方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20240614BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20240614BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2020148546
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】保川 拳人
(72)【発明者】
【氏名】本多 文博
(72)【発明者】
【氏名】厚坂 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 亨
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-135280(JP,A)
【文献】特開2000-218477(JP,A)
【文献】国際公開第2007/029824(WO,A1)
【文献】特開2004-310290(JP,A)
【文献】特開2009-245043(JP,A)
【文献】特開2011-257803(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0343711(US,A1)
【文献】特開2005-32094(JP,A)
【文献】特開平6-203037(JP,A)
【文献】特開平6-176030(JP,A)
【文献】特開平8-221479(JP,A)
【文献】特許第2781694(JP,B2)
【文献】特許第6355962(JP,B2)
【文献】特開平5-233639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場の生産管理システムであって、
それぞれの前記加工場の生産状況をシミュレーションするシミュレーション部と、
前記シミュレーション部のシミュレーション結果に基づいて、前記製造対象部品の素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する素材ワーク投入制御部と、
を備え
、
前記素材ワーク投入制御部は、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御し、
オーダーの前記製造対象部品がMTA品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、
(現在の完成品在庫数+現在の仕掛品の完成品換算評価数)/(目標完成品在庫数)
の値に基づいて決定され、
前記仕掛品の完成品換算評価数は、それぞれの仕掛品について、当該仕掛品が存在する工程が上流から下流に近づくにつれて0個から1個に近くなるように評価した数の総計であることを特徴とする生産管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の生産管理システムであって、
前記素材ワーク投入制御部は、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御し、
オーダーの前記製造対象部品がMTO品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、当該製造対象部品を製造するために必要な時間を作業所要時間としたときに、
((現在から納期までの時間)-(作業所要時間))/((計画リードタイム)-(作業所要時間))
の値に基づいて決定されることを特徴とする生産管理システム。
【請求項3】
請求項1に記載の生産管理システムであって、
前記シミュレーション部は、前記加工場のそれぞれについて定められた、当該加工場へワークが投入されてから通過するまでの時間を確率分布で表した確率モデルにより、シミュレーションを行い、
前記確率分布は、当該加工場の過去の実績データに基づいて定められることを特徴とする生産管理システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の生産管理システムであって、
それぞれの前記確率モデルが用いる確率分布は、加工場へワークが投入される時点での当該加工場の仕掛数に応じて切り換えられることを特徴とする生産管理システム。
【請求項5】
請求項
3又は
4に記載の生産管理システムであって、
前記素材ワーク投入制御部は、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御し、
オーダーの前記製造対象部品がMTO品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、当該製造対象部品を製造するために必要な時間を作業所要時間としたときに、
((現在から納期までの時間)-(作業所要時間))/((計画リードタイム)-(作業所要時間))
の値に基づいて決定され、
前記作業所要時間が、前記確率モデルに基づいて計算されることを特徴とする生産管理システム。
【請求項6】
複数の加工場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場の生産管理方法であって、
それぞれの前記加工場の生産状況をシミュレーションするシミュレーション工程と、
前記シミュレーション工程におけるシミュレーション結果に基づいて、前記製造対象部品の素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する素材ワーク投入制御工程と、
を含
み、
前記素材ワーク投入制御工程では、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御し、
オーダーの前記製造対象部品がMTA品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、
(現在の完成品在庫数+現在の仕掛品の完成品換算評価数)/(目標完成品在庫数)
の値に基づいて決定され、
前記仕掛品の完成品換算評価数は、それぞれの仕掛品について、当該仕掛品が存在する工程が上流から下流に近づくにつれて0個から1個に近くなるように評価した数の総計であることを特徴とする生産管理方法。
【請求項7】
複数の加工場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場の生産管理プログラムであって、
それぞれの前記加工場の生産状況をシミュレーションするシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにおけるシミュレーション結果に基づいて、前記製造対象部品の素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する素材ワーク投入制御ステップと、
を含
み、
前記素材ワーク投入制御ステップでは、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御し、
オーダーの前記製造対象部品がMTA品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、
(現在の完成品在庫数+現在の仕掛品の完成品換算評価数)/(目標完成品在庫数)
の値に基づいて決定され、
前記仕掛品の完成品換算評価数は、それぞれの仕掛品について、当該仕掛品が存在する工程が上流から下流に近づくにつれて0個から1個に近くなるように評価した数の総計であることを特徴とする生産管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョブショップ生産方式が採用され、複数の加工場から構成される工場における生産管理に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ジョブショップ生産方式では、納期から固定リードタイムだけ遡ってワークを投入することを基本としつつ、工場に投入するワークの量を制限して着手の優先度を指示する投入管理手法が有効と考えられている。
【0003】
特許文献1は、優先度決定装置を開示する。特許文献1の優先度決定装置は、複数の作業工程ごとに作業場所が分かれ、ワーク毎に予め決められた工程順で各工程の作業を行う処理ラインにおいて、各工程での作業を行う際のワークの優先度を決定する。
【0004】
特許文献1では、優先度を決定するにあたって、ある工程においてワークを処理するのに要する標準作業時間及び滞留時間として、実績あるいはシミュレーションによって得られる統計値が用いられる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、一般に、全加工場の製造能力を把握してワークの量を適正化することは困難である。また、多種多様な部品の需要及び供給の変動を把握して、適正な優先度を取得することも難しい。従って、工場に投入するワークの量を具体的にどれだけ制限すれば良いかについては、特許文献1においても有効な手法を提示できていない。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主たる目的は、工場へのワークの投入タイミングを適切に決定できる生産管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の生産管理システムが提供される。即ち、この生産管理システムは、複数の加工場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場を管理対象とする。この生産管理システムは、シミュレーション部と、素材ワーク投入制御部と、を備える。前記シミュレーション部は、それぞれの前記加工場の生産状況をシミュレーションする。前記素材ワーク投入制御部は、前記シミュレーション部のシミュレーション結果に基づいて、前記製造対象部品の素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する。前記素材ワーク投入制御部は、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御する。オーダーの前記製造対象部品がMTA品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、(現在の完成品在庫数+現在の仕掛品の完成品換算評価数)/(目標完成品在庫数)の値に基づいて決定される。前記仕掛品の完成品換算評価数は、それぞれの仕掛品について、当該仕掛品が存在する工程が上流から下流に近づくにつれて0個から1個に近くなるように評価した数の総計である。
【0010】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の生産管理システムが提供される。即ち、この生産管理方法は、複数の加工場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場を管理対象とする。この生産管理方法は、シミュレーション工程と、素材ワーク投入制御工程と、を含む。前記シミュレーション工程では、それぞれの前記加工場の生産状況をシミュレーションする。前記素材ワーク投入制御工程では、前記シミュレーション工程におけるシミュレーション結果に基づいて、前記製造対象部品の素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する。前記素材ワーク投入制御工程では、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御する。オーダーの前記製造対象部品がMTA品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、(現在の完成品在庫数+現在の仕掛品の完成品換算評価数)/(目標完成品在庫数)の値に基づいて決定される。前記仕掛品の完成品換算評価数は、それぞれの仕掛品について、当該仕掛品が存在する工程が上流から下流に近づくにつれて0個から1個に近くなるように評価した数の総計である。
【0011】
本発明の第3の観点によれば、以下の構成の生産管理プログラムが提供される。即ち、この生産管理プログラムは、複数の加工場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する製造工場を管理対象とする。この生産管理プログラムは、シミュレーションステップと、素材ワーク投入制御ステップと、を含む。前記シミュレーションステップでは、それぞれの前記加工場の生産状況をシミュレーションする。前記素材ワーク投入制御ステップでは、前記シミュレーションステップにおけるシミュレーション結果に基づいて、前記製造対象部品の素材ワークを前記製造工場に投入するタイミングを制御する。前記素材ワーク投入制御ステップでは、前記製造対象部品に関して複数のオーダーがあり、前記製造工場に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御する。オーダーの前記製造対象部品がMTA品である場合に、当該オーダーに関する前記優先度は、(現在の完成品在庫数+現在の仕掛品の完成品換算評価数)/(目標完成品在庫数)の値に基づいて決定される。前記仕掛品の完成品換算評価数は、それぞれの仕掛品について、当該仕掛品が存在する工程が上流から下流に近づくにつれて0個から1個に近くなるように評価した数の総計である。
【0012】
これにより、加工場の生産状況のシミュレーション結果を用いて、ワークを工場へ投入すべきタイミングを適切に定めることができる。MTA品に関して、製造工場へ投入すべき優先度を定量的に取り扱うことができる。従って、どのオーダーの素材ワークを優先して投入すべきか、的確に判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工場へのワークの投入タイミングを適切に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る生産管理システムが適用される工場の例を示す模式図及び機能ブロック図。
【
図2】生産管理システムが使用する工場シミュレーションモデルを説明する概念図。
【
図3】工場シミュレーションモデルを構成する加工場モデルについて、確率分布の取得方法を説明するグラフ。
【
図4】ある製造対象部品に係るフロータイムに関し、シミュレーションによる計算結果と実績とを比較したグラフ。
【
図5】フロータイム及びスループットの変化率と、総仕掛数の削減率と、の関係を示すグラフ。
【
図6】MTO品に関する優先度の計算を説明するグラフ。
【
図7】MTA品に関する優先度の計算を説明する概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る生産管理システム100が適用される工場の例を示す模式図及び機能ブロック図である。
【0016】
図1には、組立工場4が必要とする部品を供給するサプライチェーンが示されている。このサプライチェーンには、素材倉庫1と、製造工場2と、完成品倉庫3と、が含まれている。
【0017】
素材倉庫1は、素材ワークを保管することができる。素材ワークは、製造工場2で生産する製造対象部品の材料である。製造工場2に投入される前の素材ワークは、投入待ち保管部1aにて保管される。
【0018】
製造工場2は、素材ワークに対して特定の作業を行い、製造対象部品を完成させる。生産管理システム100は、この製造工場2の生産を管理する。
【0019】
完成品倉庫3には、製造工場2で生産した製造対象部品の完成品を保管することができる。
【0020】
組立工場4は、複数の製造対象部品を組み合わせて、完成品、又は、より大きな部品を組み立てる。
【0021】
以下では、製造対象部品の各状態を区別するために、完成した製造対象部品を完成品と呼び、製造工場2内で加工中の製造対象部品をワークと呼び、製造工場2に投入する前の製造対象部品の素材を素材ワークと呼ぶことがある。生産管理システム100は、製造工場2を流れるワークの数に着目して、生産管理を行う。
【0022】
製造工場2は、ジョブショップ生産方式を採用しており、複数の加工場から構成されている。加工場は、作業区と言い換えることもできる。各加工場には1以上の加工機械が配置されていることが通常であるが、加工機械が配置されない加工場があっても良い。加工場で行われる作業としては、例えば機械加工、溶接、表面処理、塗装、配線加工等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0023】
ジョブショップ生産方式は周知であるので簡単に説明するが、多品種少量生産において最も一般的とされる形態である。ジョブショップ生産方式では、加工場(加工機械)のレイアウトにおいて機能の観点が重視され、似た機能を有する加工場は近くに配置される。ジョブショップ生産方式では、異なる工程順を持つ製造対象部品が同一の加工場(加工機械)を共有する。
【0024】
以下の説明においては、
図1に示すそれぞれの加工場を特定するために、各加工場を、第1加工場21、第2加工場22、第3加工場23、第4加工場24、第5加工場25、第6加工場26、第7加工場27、第8加工場28、第9加工場29と呼ぶことがある。加工場の数は限定されず、例えば数百の加工場により構成される大規模な工場にも本発明を適用することができる。
【0025】
製造対象部品は、製造工場2において素材ワークから完成品になるまでの間に、少なくとも1つの加工場を通過する。この通過経路は、製造対象部品ごとに異なる。
図1では、5つの互いに異なる製造対象部品(品目A~E)が、
図1に示す第1経路51、第2経路52、第3経路53、第4経路54をそれぞれ通過する例が示されている。
【0026】
品目A及び品目Bは、何れも、第1経路51を通過する。第1経路51は、第6加工場26、第8加工場28、第9加工場29の順に通過する経路である。
【0027】
品目Cは、第2経路52を通過する。第2経路52は、第3加工場23、第4加工場24、第7加工場27の順に通過する経路である。
【0028】
品目Dは、第3経路53を通過する。第3経路53は、第3加工場23、第4加工場24、第5加工場25の順に通過する経路である。
【0029】
品目Eは、第4経路54を通過する。第4経路54は、第1加工場21、第2加工場22の順に通過する経路である。
【0030】
本実施形態の生産管理システム100は、製造工場2へのオーダーに基づいて、製造工場2に対して素材ワークの投入指示を適切なタイミングで出力することができる。
【0031】
図1に示すように、生産管理システム100は、主として、WIP上限数設定部(最大仕掛数設定部)11と、オーダー受付部13と、優先度決定部14と、素材ワーク投入制御部15と、を備える。WIPは、Work-In-Processの略称であり、完成品になる前の仕掛品を意味する。WIPは、上述の製造対象部品の各状態(完成品、ワーク、及び素材ワーク)のうち、ワークに相当する。
【0032】
本実施形態の生産管理システム100は、公知のコンピュータ(図略)から構成されている。このコンピュータは、例えば、製造工場2に設置されているサーバコンピュータとすることができる。コンピュータは、図略のCPU、ROM、RAM、HDD、入出力部等を備える。HDDには、各種プログラムやデータ等が記憶されている。HDDに記憶されるプログラムには、本発明の生産管理方法を実現するための生産管理プログラムが含まれる。CPUは、各種プログラム等をHDDから読み出して実行することができる。生産管理システム100においては、上記のハードウェアとソフトウェアの協働によって、上記のコンピュータを、WIP上限数設定部11、オーダー受付部13、優先度決定部14、素材ワーク投入制御部15として動作させることができる。
【0033】
WIP上限数設定部11、オーダー受付部13、優先度決定部14及び素材ワーク投入制御部15は、生産管理プログラムに含まれるWIP上限数設定ステップ、オーダー受付ステップ、優先度決定ステップ及び素材ワーク投入制御ステップにより実現することができる。また、これらのステップは、生産管理方法の各工程に対応する。
【0034】
WIP上限数設定部11は、品目ごとのWIP上限数を設定する。
【0035】
WIP上限数とは、公知の生産管理手法であるCONWIPに関するものである。CONWIPは、CONstant WIPの略称である。CONWIPでは、工場に存在しているワーク(WIP)の数に関して、品目ごとに上限が定められる。品目ごとにWIP上限数を超えないように監視しながら、製造工場2に素材ワークが投入される。このように工場への素材投入量が制限されることで、製造工場2内でのリードタイムを安定化させることができる。
【0036】
WIP上限数設定部11は、シミュレーション部12を備える。詳細は後述するが、シミュレーション部12は、製造工場2での実際の生産を模擬したシミュレーション計算を行う。WIP上限数設定部11は、このシミュレーション計算の結果に基づいて、WIP上限数を設定する。
【0037】
オーダー受付部13は、製造工場2に対するオーダーを受け付ける。オーダー受付部13が受け付けたオーダーは、オーダーリストに追加される。
【0038】
組立工場4において、所定の日(以下、組立必要日という。)に部品を組み立てる見込みとなり、当該部品を製造工場2で製造する必要が生じた場合を考える。この場合、製造工場2へ製造を依頼するオーダーが生成されて、このオーダーがオーダー受付部13によって受け付けられる。オーダーには、納期の情報として、上述の組立必要日の情報が含まれる。オーダーの生成は、完成品倉庫3における完成品の在庫数が不足したこと、あるいは近い将来に不足が予想されることを契機として行われても良い。
【0039】
優先度決定部14は、受け付けられたオーダーごとの優先度を計算により決定する。優先度決定部14は、例えば、あるオーダーについて納期遅れが生じる確率が高まっている状況では、当該オーダーの優先度を高くする。これにより、製造工場2のリソースを当該オーダーのために優先的に利用させることができるので、好ましくない結果を予防することができる。この優先度の計算の詳細については後述する。
【0040】
素材ワーク投入制御部15は、オーダー受付部13が受け付けたオーダーに基づいて、また、優先度決定部14が決定した優先度に従って、製造工場2に対する素材ワークの投入タイミングを制御する。
【0041】
具体的に説明すると、素材ワーク投入制御部15は、オーダー受付部13が受け付けたオーダーのそれぞれについて、投入予定日を定める。投入予定日とは、当該オーダーに係る素材ワークを製造工場2に投入する予定日を意味する。
【0042】
素材ワーク投入制御部15は、原則として、受け付けられたオーダーに関する素材ワークを、投入予定日に製造工場2に投入するように、指示を行う。この指示は、例えば、コンピュータが投入指示をディスプレイに表示したり、投入指示書をプリンタで出力したりすることにより実現される。
【0043】
ただし、上述したように、製造工場2に存在することが許容されるワークの数の上限が定められている。投入予定日が到来しても、投入しようとする品目と同一の品目のワークが製造工場2に既に存在し、その数がWIP上限数に達している場合には、素材ワークは投入されない。やがて、製造工場2内のワークが完成品となると、当該品目における製造工場2でのWIPの数が上限数を下回る。素材ワーク投入制御部15は、それまで待ってから、素材ワークを製造工場2に投入する指示を行う。
【0044】
製造工場2に存在するワーク数の上限数は、例えばカンバン5を用いて管理することができる。カンバン5は、カンバン保管部5aに、品目ごとにWIP上限数の数だけ予め用意されている。素材ワークは、必ず、1つにつき当該品目の1つのカンバン5が付けられた形で製造工場2に投入される。製造工場2での作業によってワークが完成品になると、完成品からカンバン5が外され、カンバン保管部5aに戻される。品目ごとのカンバン5の残り数は、当該品目を製造するために素材ワークを幾つ製造工場2に投入できるかを示している。
【0045】
同一の品目の製造に関する複数のオーダーがあり、何れのオーダーも投入予定日を迎えているが、WIP上限数の関係で、少数の素材ワークしか投入できない状況も考えられる。この場合、素材ワーク投入制御部15は、上述の優先度が高いオーダーに関する素材ワークを製造工場2に優先的に投入するように指示を行う。
【0046】
次に、WIP上限数設定部11が備えるシミュレーション部12について詳細に説明する。
【0047】
本実施形態において、WIP上限数設定部11は、工場内に投入する素材ワークの適正な上限数を、工場シミュレーションモデルを用いて求める。この工場シミュレーションモデルは、シミュレーション部12において構築される。
【0048】
図2に示すように、工場シミュレーションモデル2mは、製造工場2を模擬するように作成される。工場シミュレーションモデルは、複数の加工場モデルの集合である。
【0049】
説明の便宜のため、
図2には、工場全体のモデルのうち、品目Dが通過する第3経路53に関する加工場モデル23m,24m,25mに関する部分だけが示されている。しかし、実際は、加工場モデルは、製造工場2が実際に有する全ての加工場に対応して作成される。
【0050】
工場シミュレーションモデル2mにおいては、各品目A~Eに関するワークがどの加工場を通過するかのワーク経路情報が、現実と対応させるように予め定められている。
【0051】
それぞれの加工場モデルには、加工場にワークが入ってから出てくるまでの時間(以下、通過時間という)の確率分布が設定されている。従って、加工場モデルは、確率モデルの一種である。
【0052】
この確率分布は、通過時間の実績データを収集することで定められる。例えば、第3加工場23において、「過去の75%のオーダーに関しては、通過時間が5日以内だったが、残り25%のオーダーの通過時間は5日を上回っていた」という知見が、実績データの集計処理によって得られた場合を考える。このような通過時間の特性が、
図3に示すように確率分布の形で取り出され、第3加工場23の加工場モデル23mとしてモデル化される。確率分布の曲線を表すパラメータ(例えば、確率分布曲線を多項式曲線として表現した場合の各係数)が、第3加工場23の加工場モデル23mに関連付けられてシミュレーション部12に記憶される。各加工場が行う作業は原則として異なるため、それぞれの加工場モデルに設定される確率分布は様々である。
【0053】
以上により、製造工場2に素材ワークを投入してから完成品となるまでの時間を、各加工場で行われる工程を積み上げる形で、シミュレーションにより推定することができる。
【0054】
各加工場の作業時間は、当該加工場に既に滞留しているワークの数によって、小さくない影響を受ける傾向がある。例えば、ある加工場で、現状取り掛かっている作業がある場合(ワークの仕掛数≧1の場合)は、取り掛かっている作業が全くない場合(ワークの仕掛数=0の場合)よりも、当該加工場にワークを新しく投入した場合の通過時間が長くなる可能性が高い。
【0055】
これを考慮して、本実施形態では、それぞれの加工場(モデル)において、当該加工場で作業が行われているワークの数(加工場内仕掛数)ごとに、通過時間の確率分布が定められている。即ち、各加工場モデルは、ワークの仕掛数が0の場合、1の場合、2の場合、・・・のそれぞれについて、確率分布を保持している。
図2には、第3加工場23に対応する加工場モデル23mが有する、ワークの仕掛数ごとの確率分布の例が、小さなグラフで示されている。ワークの仕掛数が変化するにつれて、確率分布の平均通過時間が変わったり、曲線のピークに相当する通過時間(最頻値)が変わったり、曲線の形状が歪んだりする。上述のとおり、それぞれの場合での確率分布は、実績データに基づいて予め設定される。
【0056】
シミュレーションが行われるにあたって、各加工場モデル23m,24m,25mでは、ワークの仕掛数に応じて確率分布を切り替えつつ、新しくワークを投入した場合の通過時間が求められる。これにより、工場全体の、より正確な挙動を推定することができる。
【0057】
シミュレーション部12では、製造工場2に対する各品目A~Eの素材ワーク投入数を変化させながらシミュレーションを行う。これにより、素材ワーク投入数ごとに、スループット(単位時間当たりの完成数)、完成までに掛かる時間等を取得することができる。
【0058】
シミュレーションの手法としては、例えば、モンテカルロシミュレーションとすることが考えられる。モンテカルロシミュレーションでは、変数の値をランダムに決め、得られる結果を多数サンプリングすることで真の解が推定される。
【0059】
モンテカルロシミュレーションでは、それぞれの加工場モデル(例えば、加工場モデル23m,24m,25m)において、通過時間に関し、当該モデルの確率分布に従うように乱数を発生させる。ワークが前述のワーク経路情報に従って各加工場モデルを通過するのに伴い、加工場モデルの確率分布に従う乱数で決められた通過時間が加算される。素材ワークから完成品となるまでの時間は、これらの通過時間の総計となる。乱数による試行を多数回行うことで、完成までの時間の平均値は、真の解に収束していく。
【0060】
以上に説明したシミュレーションの有効性を確認するために、本願発明者は、実際の製造工場2を模擬した工場シミュレーションモデル2mを、コンピュータを用いて構築した。また、発明者は、ある品目に関するFTの分布を求め、実際の製造工場2で得られた実績と比較した。FTは、フロータイム(Flow Time)の略称であり、製造工場2への素材の投入から部品が完成するまでに必要な時間をいう。
【0061】
この結果、
図4に示すように互いに良く似た形状の分布が得られ、FTの平均値の誤差は4%程度だった。このことから、工場シミュレーションモデルが実際の製造工場2を良く近似できていることがわかる。
【0062】
本実施形態では、シミュレーション部12は、上記のシミュレーションを、製造工場2のスループットの増大、及び、フロータイムの減少を目的に行っている。スループットとは、単位時間あたりの完成数を意味し、工場の生産能力を表す。工場に一度に投入する素材ワークの数を様々に変更しながら上述のシミュレーションを行うことで、上記の目的に適合する最適な素材投入数を探索することができる。
【0063】
図5には、CONWIPによる投入管理を行い、WIP上限数を様々に変化させたシミュレーション結果が示されている。このグラフは、スループットの向上と、仕掛数の低減が、トレードオフの関係にあることを示している。ただし、このグラフのハッチングで示すように、スループットの減少は4%以下にとどめつつ、製造工場2の全体の仕掛数を20%以上削減可能なWIP上限数が存在することがわかる。即ち、このようなWIP上限数を採用すれば、仕掛数の大幅な削減を実現することができる。
【0064】
次に、優先度決定部14による優先度の計算について詳細に説明する。
【0065】
上述のとおり、仕掛数を低減していくと、スループットも徐々に低下する関係になる。本実施形態では、組立必要日の時点で部品が完成していない状況、あるいは完成品在庫不足の状況を回避するために、優先度による管理手法が導入されている。
【0066】
以下、具体的に説明する。オーダー受付部13によって受け付けられたオーダーには、優先度決定部14によって、それぞれ優先度の数値が設定される。優先度は、組立必要日までの時間的余裕が殆どなかったり、完成品倉庫3における在庫の余裕が殆どなかったりする場合に、高くなるように定められる。
【0067】
余裕については、製造工場2が製造対象部品を生産できる速度、部品自体の物理的な大きさ、在庫保管コスト、資産価値等を考慮して、大きく2つに分けて考えることができる。
【0068】
1つ目は、組立必要日までに完成させることが特に求められる部品の場合である。以下、このような品目の部品を、Make To Orderの頭文字をとって、MTO品と呼ぶことがある。MTO品については、余裕とは、時間的余裕を事実上意味する。
【0069】
2つ目は、所定数の在庫を常に維持しておくことが求められる部品の場合である。以下、このような品目の部品を、Make To Availabilityの頭文字をとって、MTA品と呼ぶことがある。MTA品については、余裕とは、数量的余裕を事実上意味する。
【0070】
本実施形態において、MTO品については、優先度を以下のようにして求める。
【0071】
MTO品のオーダーには、納期の情報として、上述の組立必要日の情報が含まれる。製造工場2に対してMTO品のオーダーがあった場合、
図6に示すように計画LTが設定される。LTは、リードタイム(Lead Time)の略称である。計画LTは、初期余裕時間と、製造工場2を通過して完成品となるのに必要な作業所要時間と、の合計時間である。初期余裕時間は、計画LTの設定時に、適宜の長さとなるように定められる。組立必要日から計画LTだけ遡った時点が、製造工場2へ素材ワークを投入すべきタイミングとなる。
【0072】
本来、
図6に示す投入予定日(投入予定タイミング)で製造工場2へ素材ワークを投入すべきであるが、何らかの理由により製造工場2へ素材ワークを投入できなかった場合を考える。この理由としては、例えば、当該品目に関して製造工場2内のワークの数がWIP上限数に達していること等が考えるが、これに限定されない。
【0073】
素材ワークの投入が遅れる分、余裕時間が、当初に設定した余裕時間(
図6の初期余裕日数)から減少していく。優先度は、現在残っている余裕時間(残余裕時間)を、初期余裕時間で除算した結果として定義される。
図6で初期余裕「日数」等と表記されているのは、製造工場2において、1日を単位として時間を管理しているためである。しかしながら、生産管理に関する時間の単位は任意であり、例えば1時間、1分等とすることもできる。
【0074】
現在残っている余裕時間(残余裕時間)は、現在から組立必要日(納期)までの時間から、作業所要時間を減算することで得ることができる。一方、初期余裕時間は、計画LTから作業所要時間を減算することで得ることができる。
【0075】
従って、MTO品の優先度は、以下の式で表すことができる。
優先度=((現在から納期までの時間)-(作業所要時間))/((計画LT)-(作業所要時間))
【0076】
現在がちょうど投入予定タイミングであれば、上の式で計算される優先度は1である。投入予定タイミングを過ぎると、優先度は1から減少していく。残余裕時間がゼロである場合、優先度は0である。優先度は、原則として0から1までの値をとり、0に近い程優先度が高くなる。
【0077】
作業所要時間は、当該製造対象部品を製造するために必要な時間であり、品目ごとに定められる。この作業所要時間に、いわゆる余裕時間は含まれない。作業所要時間を定める方法は任意である。
【0078】
前述の工場シミュレーションモデル2mを用いてFTを求め、このFTに基づいて作業所要時間を定めることもできる。この場合、妥当性の高い作業所要時間に基づいて、優先度を計算することができる。
【0079】
次に、MTA品に関する優先度の計算について説明する。
【0080】
MTA品に関しては、完成品倉庫3におけるFGIの目標値が品目ごとに適宜定められる。FGIとは、Finished Goods Inventoryの略称であり、完成品在庫の数を意味する。以下、FGIの目標値を目標FGIと呼ぶ。製造工場2において、実際のFGIが目標FGIを下回らないことが推奨される。
【0081】
図7に示すように、ある品目Cに関して、目標FGIが6であり、これに対して、4個の完成品が完成品倉庫3に存在する(即ち、現在のFGIが4である)場合を考える。また、製造工場2において、当該品目Cについて3つのワークが仕掛中であったとする。
【0082】
品目Cのワークは、素材ワークから完成品になるまでに、第6加工場26、第4加工場24、第7加工場27の順に通過する。上述の例で、現在、3つの仕掛中のワークのうち、1つは第6加工場26で作業中であり、残りの2つは第7加工場27で作業中であるとする。
【0083】
製造工場2で仕掛中のワークは、将来的に完成品になる。これを考慮して、優先度決定部14は、製造工場2内で仕掛中となっているワークのそれぞれを、完成品のα個分(ただし、0<α<1)として評価し、全ワークでの合計値を現在のFGIに加算することで引当可能在庫を計算する。この数αは、品目Dの場合、ワークが第6加工場26、第4加工場24、第7加工場27の順に移動するのに応じて(言い換えれば、上流工程から下流工程へワークが流れるのに応じて)、0から1へ増大するように変化する。これは、ワークが工程の下流へ流れるにつれて完成品に近づくことを反映している。
【0084】
MTA品の優先度は、以下の式で表すことができる。
優先度=((現在のFGI)+(仕掛中のワークのFGI換算値))/(目標FGI)
【0085】
仕掛中のワークのFGI換算値は、以下のようにして求められる。ここで、品目Cに関して、第6加工場26で行われる工程を第1工程、第4加工場24で行われる工程を第2工程、第7加工場27で行われる工程を第3工程と呼ぶ。第i工程で作業中の1個のワークを何個分の完成品として評価するかを示す評価値αiは、予め、上流から下流に近づくに従って大きくなるように適宜定められる(0<α1<α2<α3<1)。
【0086】
仕掛中のワークのFGI換算値は、第i工程にあるワークの数WIP
iに、当該工程における評価値α
iを乗じた値の総計として求められる。
【数1】
ただし、Nは工程の総数であり、
図7の例ではN=3である。
【0087】
従って、このFGI換算値は、仕掛中のワークの完成品換算評価数と考えることができる。
【0088】
FGIの数と、仕掛中のワークのFGI換算値と、を加算した値(以下、実質引当可能在庫数と呼ぶ。)が目標FGIと等しければ、優先度は1である。実質引当可能在庫数が目標FGIを下回ると、優先度は1より小さくなる。実質引当可能在庫数がゼロである場合、優先度は0である。優先度は、原則として0から1までの値をとり、0に近い程優先度が高くなる。
【0089】
このように、優先度決定部14によって優先度は、MTO品とMTA品とで範囲及び基準が一致するように計算される。具体的には、何れの場合も優先度の値の範囲は0から1までであり、0に近いほど優先度が高いことを示す。この結果、両者の優先度を統一的に取り扱うことが可能になる。
【0090】
素材ワークを投入する予定の全オーダーについて優先度が決定されると、優先度の値が小さい順(言い換えれば、優先度が高い順)に、オーダーリストのオーダーがソートされる。素材ワーク投入制御部15によって、素材ワークは、優先度が高いオーダーを優先するように、製造工場2に投入される。これにより、納期割れ及び在庫不足が生じにくいオペレーションを実現することができる。
【0091】
MTO品の場合、時間の経過に応じてオーダーの優先度が変化する。MTA品の場合、上流の加工場から下流の加工場へワークが移動したり、ワークが完成品になったりするのに応じて、オーダーの優先度が変化する。これを考慮して、優先度は、優先度決定部14によって、定期的に又は不定期的に再計算される。素材ワーク投入制御部15は、最新の優先度を用いて、各オーダーの素材ワークの投入タイミングを制御する。
【0092】
本実施形態の生産管理方法によれば、欠品している品目がある一方で在庫過剰な品目もあるというような生産のムラを、素材ワークの投入タイミングの制御によって効果的に低減することができる。しかも、従来は人間の経験と勘で決められていた素材ワークの投入数を、確率的なアプローチによって適切に決定することができる。
【0093】
本実施形態のシミュレーションは、詳細な標準作業時間等のモデリングが不要であり、各加工場の作業実績データだけに基づいて、工場内の挙動を大まかに把握できる。従って、シミュレーションを行うために必要な準備作業を少なくすることができる。この効果は、数百の加工場を有するような大規模な工場に対しても、シミュレーションを容易に行うことができ、工場へ投入すべき素材ワークのタイミングを正確に得ることができる点で、特に有利である。
【0094】
以上に説明したように、本実施形態の生産管理システムが管理対象とする製造工場2は、複数の加工場を有し、オーダーに応じて製造対象部品を製造する。生産管理システム100は、シミュレーション部12と、素材ワーク投入制御部15と、を備える。シミュレーション部12は、それぞれの加工場の生産状況をシミュレーションする。素材ワーク投入制御部15は、シミュレーション部12のシミュレーション結果に基づいて、製造対象部品の素材ワークを製造工場2に投入するタイミングを制御する。
【0095】
これにより、各加工場の生産状況を積み上げる形で、製造工場2における部品生産のシミュレーションを行い、この結果に基づいて、素材ワークの製造工場2への適切な投入タイミングを得ることができる。従って、特に加工場の数が多い場合でも、素材ワークの投入タイミングを正確に制御して、生産のムラ等を効果的に低減することができる。
【0096】
また、本実施形態の生産管理システム100において、素材ワーク投入制御部15は、製造対象部品(例えば、品目D)に関して複数のオーダーがあり、製造工場2に対して複数のうち一部のオーダーの素材ワークしか投入できない場合、優先度の高いオーダーの素材ワークが優先して投入されるように制御する。オーダーの製造対象部品がMTO品である場合に、当該オーダーに関する優先度は、製造対象部品を製造するために必要な時間を作業所要時間としたときに、
((現在から納期までの時間)-(作業所要時間))/((計画リードタイム)-(作業所要時間))
の値に基づいて決定される。
【0097】
これにより、MTO品に関して、製造工場2へ投入すべき優先度を定量的に取り扱うことができる。従って、どのオーダーの素材ワークを優先して投入すべきか、的確に判定することができる。
【0098】
また、本実施形態の生産管理システム100において、オーダーの製造対象部品がMTA品である場合に、当該オーダーに関する優先度は、
(現在の完成品在庫数+現在の仕掛品の完成品換算評価数)/(目標完成品在庫数)
の値に基づいて決定される。仕掛品の完成品換算評価数は、それぞれの仕掛品について、仕掛品が存在する工程が上流から下流に近づくにつれて0個から1個に近くなるように評価した数の総計である。
【0099】
これにより、MTA品に関して、製造工場2へ投入すべき優先度を定量的に取り扱うことができる。従って、どのオーダーの素材ワークを優先して投入すべきか、的確に判定することができる。
【0100】
また、本実施形態の生産管理システム100において、シミュレーション部12は、加工場のそれぞれについて定められた、加工場へワークが投入されてから通過するまでの時間を確率分布で表した加工場モデルにより、シミュレーションを行う。確率分布は、加工場の過去の実績データに基づいて定められる。
【0101】
この構成では、加工場毎の過去の実績データに基づいて、加工場モデルの確率分布を容易に表現することができる。従って、加工場が多数に上る大規模な製造工場2においても、シミュレーションを容易に行うことができる。
【0102】
また、本実施形態の生産管理システム100において、それぞれの加工場モデルが用いる確率分布は、加工場へワークが投入される時点での加工場の仕掛数に応じて切り換えられる。
【0103】
これにより、各加工場において、仕掛数に応じて加工時間が変化する傾向を適切に反映しつつ、シミュレーションを行うことができる。
【0104】
本実施形態の生産管理システム100において、前述のMTO品の優先度を計算する場合の作業所要時間は、前述のシミュレーション部12によって構築された工場シミュレーションモデル2mを用いて計算することができる。
【0105】
この場合、妥当性の高い作業所要時間を用いて、優先度を得ることができる。
【0106】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0107】
シミュレーション部12は、モンテカルロシミュレーション以外の方法でシミュレーションを行うこともできる。
【0108】
互いに類似する品目同士が同一のグループに属するように、品目のグループ分けを行っても良い。この場合、WIP上限数は、部品の品目ごとに求めることに代えて、グループ毎に求めることもできる。グループ分けは、例えば、ワークが加工場を通過する経路の類似性を観点として行うことができる。素材ワークは、同一のグループ内で優先度の高いものから順に、製造工場2に投入される。
【0109】
MTA品の優先度を求める場合の評価値αiは、工場シミュレーションモデル2mに基づいて定めることもできる。例えば、第i工程の平均通過時間を、全工程の平均通過時間の合計で除算し、この結果を評価値αiとすることが考えられる。
【0110】
加工場ごとの確率モデルの集合として構築された工場シミュレーションモデル2mは、工場全体におけるボトルネックの把握や改善検討のために利用することもできる。
【0111】
製造工場2を構成する全ての加工場が1つの経営主体によって運営されても良いし、加工場のうち一部が別の経営主体によって運営されても良い。
【符号の説明】
【0112】
2 製造工場
12 シミュレーション部
15 素材ワーク投入制御部
100 生産管理システム