(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240614BHJP
B29C 55/28 20060101ALI20240614BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20240614BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/28
B29C55/02
C08J5/18 CET
(21)【出願番号】P 2020149172
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英毅
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-248939(JP,A)
【文献】特開2009-186931(JP,A)
【文献】特開2009-186930(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061215(WO,A1)
【文献】特開2009-251017(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0006226(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂組成物を溶融押出した後、インフレーション法によって2軸延伸することを含む製造方法により製造される光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムであり、
前記インフレーション法におけるダイ出口での樹脂温度が前記スチレン系樹脂のTg+20℃以下であり、
トータル延伸倍率が15倍以上であり、
微小領域での面内レターデーションReの
標準偏差が1.2nm以下である
ことを特徴とする、光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム。
【請求項2】
スチレン系樹脂の含有量が50質量%以上である、請求項1に記載の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム。
【請求項3】
横方向(TD)の延伸倍率R
TDが5.0倍以上である、請求項1又は2に記載の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムの製造方法であって、
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂組成物を溶融押出した後、インフレーション法によって2軸延伸することを
含み、
前記インフレーション法におけるダイ出口での樹脂温度が前記スチレン系樹脂のTg+20℃以下であり、
トータル延伸倍率が15倍以上である
ことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は、高画質、薄型、軽量、低消費電力などの特徴をもち、テレビジョン、パーソナルコンピューター、カーナビゲーターなどに広く用いられている。LCDの基本構成は、液晶セルの上下に透過軸が直交するように2枚の偏光板を配置し、液晶セルに電圧を印加することにより液晶分子の配向を変化させて、画面に画像を表示させる。
上記の構成のみでは、液晶分子自体に光学異方性のある材料を用いているため、光学的な歪により着色や視角方向による表示の変化などが生じる。
【0003】
これらの問題を解消する目的で、液晶セルと偏光板との間に複屈折性フィルム(位相差フィルム)を介在させて、液晶による位相差を補償する方式が提案されている。
上記位相差フィルムには、高い複屈折、フィルム面内の複屈折の均一性、配向角ばらつきの均一性が求められている。
【0004】
位相差フィルムの一例として、特許文献1には、スチレン系樹脂を50重量%以上含み、レターデーション(複屈折率Δn×フィルムの厚み)が50~1000nm、レターデーションの変動率が10%以下、配向角(フィルム平面内での屈折率の最大方位)の変動幅が5°以下の異方性フィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、メタクリル樹脂1からなるB1層と、スチレン系樹脂からなるA層と、メタクリル樹脂2からなるB2層とが、この順に積層されるとともに、同時二軸延伸されてなる、幅が1000mmを超える長尺の延伸フィルムであり、幅方向に対する配向角θの平均値が0°±1°、配向角θのバラツキが0.5°以下、面内方向のレターデーションReのバラツキが3nm以下である延伸フィルムが開示されている。
【0006】
スチレン系樹脂は、高い透明性と負の固有屈折率を有することなどから、所望の光学特性を発現するために有効な材料と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-72201号公報
【文献】国際公開第2009/069469号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されているフィルムは、溶融キャストしたフィルムを同時二軸延伸後に熱固定することで光学均一性を得るためには、延伸条件、熱固定の条件設定に困難さが残る。
【0009】
特許文献2に記載されているフィルムは、屈折率の異なるフィルムを積層しているため、フィルムの透明性を高める(ヘイズを小さくする)ために各層に使用する樹脂組成を厳密に調整する必要があり、光学均一性を得るための延伸条件に更に困難さが残る。
【0010】
また、スチレン系樹脂フィルムを製造する上で溶融キャストしたフィルムをテンター設備で同時2軸延伸する際には、ボーイング現象(フィルムの中央部と端部とにおける配向角のずれ)を抑制する観点からTD(横方向)の延伸倍率を大きくできない問題がある。ボーイング現象対策として、スチレン系樹脂フィルムを製造する際、インフレーション法を用いると、配向角のばらつきを小さく保ったままTDの延伸倍率を大きくすることが可能になる。しかしながら、その一方で、フィルムの厚み精度がテンター法で製造したフィルムより劣ることにより、フィルム厚み起因の複屈折のばらつきが大きくなるため、光学フィルム用途で使用するには、厚み精度の更なる向上が必要となる。
また、スチレン系樹脂は耐衝撃性に劣る特徴があり、スチレン系樹脂を用いたフィルムは非常に脆く、所望の光学特性を発現させるために延伸する際の連続搬送中に破断やしわが生じる傾向があるため、光学均一性と加工性とを両立したフィルムを製造することが難しいという問題がある。対策として、特許文献2のようにスチレン系樹脂の片面あるいは両面に、他の熱可塑性樹脂を積層して多層フィルムとし、この多層フィルムを延伸する方法の他、スチレン系樹脂にスチレン-ブタジエン-スチレンブロックポリマー(SBS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレンブロックポリマー(MBS)、メチルメタクリレート-スチレン(MS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)等を混合して延伸フィルムを製造する方法等も知られている。しかしながら、樹脂の分散状態によっては、フィルムの不透明化や複屈折のばらつきが大きくなる。
【0011】
更に、近年のLCDは大型化、高精細化、高画質化が進み、1画素の大きさが100μmを下回るように小さくなり、LCDに用いられる位相差フィルムも100μm以下の微小領域でフィルム内の複屈折が均一であることが求められるようになってきた。異なる屈折率の樹脂を混合して分散させる際、可視光の波長(360~870nm)以下のサイズに微分散が出来れば透明性が維持され、微小領域での複屈折の均一性を保つことが可能になるが、高度な加工設備が必要となる。
【0012】
そこで、本発明は、トータル延伸倍率が高く、微小領域での複屈折の均一性を備える光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、スチレン系樹脂組成物をインフレーション法により高延伸倍率で製膜することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂組成物を溶融押出した後、インフレーション法によって2軸延伸することを含む製造方法により製造される光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムであり、
前記インフレーション法におけるダイ出口での樹脂温度が前記スチレン系樹脂のTg+20℃以下であり、
トータル延伸倍率が15倍以上であり、
微小領域での面内レターデーションReの標準偏差が1.2nm以下である
ことを特徴とする、光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム。
(2)
スチレン系樹脂の含有量が50質量%以上である、(1)に記載の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム。
(3)
横方向(TD)の延伸倍率RTDが5.0倍以上である、(1)又は(2)に記載の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム。
(4)
(1)~(3)のいずれかに記載の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムの製造方法であって、
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂組成物を溶融押出した後、インフレーション法によって2軸延伸することを含み、
前記インフレーション法におけるダイ出口での樹脂温度が前記スチレン系樹脂のTg+20℃以下であり、
トータル延伸倍率が15倍以上である
ことを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トータル延伸倍率が高く、微小領域での複屈折の均一性を備える光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明するが、本発明は以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
<光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム>
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルム(以下、単に「スチレン系樹脂延伸フィルム」ともいう。)は、トータル延伸倍率が15倍以上であり、微小領域での面内レターデーションReのばらつきが1.2nm以下であることを特徴とする。
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムは、スチレン系樹脂組成物を用いて製造される。
【0018】
〈〈スチレン系樹脂組成物〉〉
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムを構成するスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂を含み、必要に応じて後述の各種添加剤を含んでいてもよい。
本実施形態のスチレン系樹脂組成物におけるスチレン系樹脂の含有量は、50~100質量%であることが好ましく、より好ましくは90~100質量%、更に好ましくは99~100質量%である。
【0019】
-スチレン系樹脂-
本実施形態において好適に用いられるスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体またはスチレン系単量体と他の単量体との共重合体よりなる線状ポリスチレン、多分岐状ポリスチレン、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0020】
スチレン系単量体の単独重合体としては、例えば、汎用ポリスチレン(GPPS)又はその誘導体を用いることができる。スチレン誘導体としては、例えば、メチルスチレン、α-メチルスチレン等のアルキル置換スチレン、ブロモスチレン、α-ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン等が挙げられる。
【0021】
また、スチレン系単量体と他の単量体との共重合体としては、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-酸無水物共重合体、及び、これら3種の共重合体のいずれか1種を構成する2種のモノマー成分に更なるモノマー成分であるエステル成分を含む三元共重合樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種、スチレン-ブタジエン共重合体(SB樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、及びスチレン-ブタジエン-スチレン系樹脂(SBS樹脂)からなる群より選ばれる少なくとも1種の耐衝撃性ポリスチレン、スチレン-α-メチルスチレン共重合体等の公知の共重合体樹脂が挙げられる。また、ポリスチレンとポリフェニレンエーテル樹脂とのポリマーアロイ(m-PPE)も挙げられる。
【0022】
上記のスチレン系単量体と他の単量体との共重合体におけるスチレン系単量体に由来する構成単位の含有量は、共重合体100質量%に対して、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60~90質量%、更に好ましくは70~90質量%である。
【0023】
スチレン系単量体の単独重合体またはスチレン系単量体と他の単量体との共重合体は、1種であることが好ましい。2種以上の重合体を組み合わせて用いる場合は、それぞれのスチレン系樹脂の屈折率の差が好ましくは0.02以下、より好ましくは0.01以下となるように、各スチレン系樹脂を構成する単量体の比率調整を行うことが好ましい。
共重合体の屈折率の調整方法としては、各構成単位の比率を調整することが挙げられ、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の場合はスチレンに由来する構成単位の比率を大きくすることで屈折率を大きくすることができる。
【0024】
本実施形態のスチレン系樹脂は、多分岐構造を有している多分岐状ポリスチレンであると好ましい。分岐の構造として、一般的には、ランダム分岐型構造、星形構造、又はポンポン型構造がある。
スチレン系樹脂に分岐を導入する方法としては、有機過酸化物を用いる方法、多官能モノマーを用いる方法、イオン架橋による方法、又は多分岐状マクロモノマーを用いる方法がある。これらの方法のうち、多分岐状マクロモノマーを用いることにより星形構造とポンポン型とが共存する分子構造を有するスチレン系樹脂を得る方法は、ゲル化抑制、フィルムの押出し性、製膜安定性の観点から好ましい。
【0025】
多分岐状マクロモノマーを用いて多分岐状ポリスチレンを製造する方法には、スチレン系単量体、多分岐状マクロモノマー、スチレン系単量体と共重合可能な脂肪族不飽和結合を有するモノマー(例えば脂肪族不飽和カルボン酸エステル)を用いることができる。
多分岐状マクロモノマーとしては、複数の分岐を有し、かつ、スチレン系単量体と共重合可能な脂肪族不飽和結合を有するモノマーを用いることができる。多分岐状マクロモノマーは、例えば、特開2011-202064号公報に示される方法により得ることができる。
多分岐状マクロモノマーとして、例えば、デンドリマー、ハイパーブランチポリマー、多分岐ポリエーテルポリオールに(メタ)アクリル基を導入したマクロモノマー、1分子中に活性メチレン基と、臭素、塩素、メチルスルホニルオキシ基又はトシルオキシ基等とを有するAB2型モノマーを求核置換反応させて得られる、多分岐状の自己縮合型重縮合体を前駆体として、該重縮合体中に残存する未反応の活性メチレン基又はメチン基を、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン等と求核置換反応させることによって重合性二重結合を導入して得られる、多分岐状マクロモノマー等を好適に用いることができる。
多分岐状マクロモノマーの重量平均分子量は、特に限定されず、1000~15000程度が好ましい。
【0026】
スチレン系単量体と共重合可能な脂肪族不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体が挙げられ、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸と炭素数1~12のアルキルアルコールとのエステル類、(メタ)アクリル酸とアルキレンオキサイドとのエステル類、(メタ)アクリル酸と脂環式アルコールとのエステル類等が挙げられる。これらの内から少なくとも1種が選択されることが好ましい。
なお、(メタ)アクリルとは、アクリル又はこれに対応するメタクリルを意味する。この中でも、(メタ)アクリル酸ブチル又は(メタ)アクリル酸エチルが屈折率を調整する上で好ましい。
多分岐状ポリスチレン中の脂肪族不飽和カルボン酸エステル単位の含有量は、全スチレン系樹脂100質量%に対して、0.5~3.5質量%であることが好ましく、0.6~3.3質量%であることがより好ましく、0.9~2.5質量%であることが更に好ましい。0.5質量%以上であることで製膜安定性が向上するが、3.5質量%より大きいと、屈折率の違いに起因したフィルムの微小領域での複屈折のばらつきの発生原因となる場合がある。
【0027】
本実施形態におけるスチレン系樹脂は、製膜時の安定性が向上する観点より、線状ポリスチレンと多分岐状ポリスチレンとを含有する混合系のスチレン系樹脂としてもかまわない。
この混合系のスチレン系樹脂である場合、線状ポリスチレンと多分岐ポリスチレンとの屈折率の差は、0.01~0.02の範囲であることが好ましい。
また、混合系のスチレン系樹脂中の線状ポリスチレンと多分岐状ポリスチレンとの質量比(線状ポリスチレン:多分岐状ポリスチレン)は、99.5:0.5~70:30の範囲が好ましく、95:5~75:25の範囲が更に好ましい。多分岐状ポリスチレンの質量比が0.5未満であると、フィルム製造工程でフィルムが切れ易くなる。また、多分岐状ポリスチレンの質量比が30を超えると、フィルムに製膜する工程でフィルムの厚み斑が大きくなったりする。
【0028】
本実施形態におけるスチレン系樹脂は、製膜時の安定性が向上する観点より、スチレン系単量体の単独重合物及び/又はスチレン系単量体と他の単量体との共重合体(耐衝撃ポリスチレンを除く)と、耐衝撃性ポリスチレンとの混合物としてもかまわない。
この混合物である場合、スチレン系単量体の単独重合物及び/又はスチレン系単量体と他の単量体との共重合体(耐衝撃ポリスチレンを除く)と、耐衝撃性ポリスチレンとの屈折率の差は、0.01~0.02の範囲であることが好ましい。
また、耐衝撃性ポリスチレンの合計含有量は、上記のスチレン系樹脂混合物100質量%に対して、0.1~3質量%が好ましく、0.5~2質量%がより好ましく、0.5~1質量%が更に好ましい。0.1質量%以上であると、フィルムの製膜安定性や滑り性が改善され、3質量%以下であると、フィルムの透明性、光沢、フィルムの腰(スティフネス)が保たれる。
【0029】
-各種添加剤-
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、必要に応じて、顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、スリップ剤、無機フィラー等、透明性と光沢性を阻害しない範囲で各種添加剤の添加が可能である。
本実施形態における各種添加剤の含有量としては、スチレン系樹脂組成物(100質量%)に対して10質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以下である。
【0030】
<光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムの製造方法>
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムの製造方法は、スチレン系樹脂組成物を溶融押出した後、インフレーション法によって2軸延伸することを特徴とする。
【0031】
スチレン系樹脂組成物を溶融押出する方法は、特に限定されず、公知の溶融押出機を用いてスチレン系樹脂組成物を溶融・混練して円筒状ダイから筒状に押出する。
【0032】
溶融押出したスチレン系樹脂組成物を延伸する方法としては、インフレーション(バブル延伸)法を採用することで、テンター法(スチレン系樹脂組成物を溶融・混練した後、Tダイからキャストロールに押出して冷却・固化し、テンター設備で2軸延伸する製造方法)で問題となるボーイング現象(フィルムの中央部と端部とでの配向角のずれ)を解消することを可能とする。また、テンター法に比べて、TDの延伸倍率を大きくしても配向角のばらつきを小さくすることが可能となる。さらには製造コストが低減される。
【0033】
インフレーション法での延伸は、縦方向(MD)、横方向(TD)同時に2軸延伸することが望ましい。
縦方向の延伸倍率(RMD)と横方向の延伸倍率(RTD)は、RMD1.1~6.0倍、RTD1.1~10.0倍が好ましく、より好ましくは、RMD1.1~5.0倍、RTD2.0~10.0倍であり、更に好ましくは、RMD1.1~5.0倍、RTD3.0~10.0倍であり、特に好ましくはRMD1.1~5.0倍、RTD5.0~10.0倍である。
テンター法では、TDの延伸倍率が高くなるほど、ボーイング現象による配向角の均一性が悪くなる傾向があるため、TDの延伸倍率が高いほど、配向角均一性に関してインフレーション法の優位性が高くなる。
【0034】
縦方向の延伸倍率(RMD)の横方向の延伸倍率(RTD)に対する比率(RMD/RTD)は、求める複屈折に応じて調整される。スチレン系樹脂延伸フィルムでは、RTDを大きくすると複屈折を大きくすることが出来る。RMD/RTDとしては、0.05~1.5が好ましく、より好ましくは0.1~0.9、更に好ましくは0.1~0.6である。
【0035】
また、スチレン系樹脂延伸フィルムのトータル延伸倍率(縦方向の延伸倍率(RMD)と横方向の延伸倍率(RTD)との積)は、15倍以上であり、好ましくは17倍以上であり、より好ましくは20倍以上である。トータル延伸倍率が上記範囲であるとスチレン系樹脂延伸フィルムの脆さが改善され、製膜時の安定性が向上する。
【0036】
なお、上記の縦方向の延伸倍率(RMD)および横方向の延伸倍率(RTD)は、MD10cm×TD10cmの大きさのスチレン系樹脂延伸フィルムを120℃のオイルバスに1分間浸漬した後のMD、TDそれぞれのフィルム寸法(cm)の変化率であり、下記式により求めることができる。
縦方向の延伸倍率(RMD)=(10-オイルバス浸漬後のMD寸法)/10×100
横方向の延伸倍率(RTD)=(10-オイルバス浸漬後のTD寸法)/10×100
【0037】
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムをインフレーション法で製造する上でフィルムの厚み精度の向上が重要となる。厚み精度を向上する手段としては、使用するスチレン系樹脂の選定、延伸時の樹脂温度の均一性等が挙げられる。
スチレン系樹脂の選定としては、前述の多分岐ポリスチレンを含むスチレン系樹脂を使用すると延伸時の厚み均一性が向上する。
延伸時の樹脂温度の均一化は、押出機及び押出機からダイまでの間における樹脂温度調節機構(ヒーター、冷却器)と樹脂との熱交換を容易な機構とすることで達成できる。例えば、押出機、ポリマーパイプ、ダイにおける温度調節機構と樹脂との接触面積を大きくする等で熱交換が容易となる。
インフレーションの際のダイ出口での樹脂温度は、スチレン系樹脂のTg~Tg+20℃が好ましく、より好ましくはTg~Tg+10℃である。樹脂温度がTgに近いほどフィルムの厚み均一性が向上するので好ましい。
【0038】
-配向角のばらつき-
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムは、配向角のばらつきが3°以下であることが好ましく、より好ましくは2°以下、更に好ましくは1°以下である。配向角のばらつきが上記範囲であると、ディスプレイ用光学フィルムに好適に用いることができる。
なお、本開示で、配向角は、TDに対する遅相軸方向(フィルム面内の屈折率が最大となる軸方向)の角度であり、配向角のばらつきは、配向角の全測定値の標準偏差であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
-複屈折-
本開示では、複屈折の指標として、面内レターデーションReを用いる。Reは、「(遅相軸方向(フィルム面内の屈折率が最大となる軸方向)の屈折率-進相軸方向(フィルム面内の屈折率が最小となる軸方向)の屈折率)×フィルム厚み」で表される。
【0040】
--広域でのReの平均値およびばらつき--
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムの広域でのReの平均値は、使用用途であるディスプレイ等の位相差フィルムの要求値により適宜調整される。広域でのReの平均値は、10~3000nmであることが好ましく、より好ましくは20~1000nm、更に好ましくは50~1000nmである。広域でのReの平均値が上記範囲であると、ディスプレイの位相差フィルムとしたときにコントラストや色再現性が優れる。
また、本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムは、広域でのReのばらつき(標準偏差)が1.2nm以下であることが好ましく、より好ましくは1.1nm以下、更に好ましくは1.0nm以下である。
なお、本開示で、広域でのReの平均値およびばらつきは、スチレン系樹脂延伸フィルムの幅方向全体にわたって20mm間隔で自動複屈折計により5.8cm×5.8cmの視野サイズにて2箇所以上のReを測定して得られる値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
広域でのReのばらつきは、延伸フィルムの場合において、延伸のばらつきが主な原因となる。例えば、ボーイング現象が大きくなると、Reのばらつきが大きい傾向となる。TD延伸倍率RTDを小さくすることでReのばらつきを小さくすることが可能であるが、広幅のフィルムを得たり、Reの大きいフィルムを得たりするのが困難になる場合がある。Reのばらつきが1.2nm以下であると、位相差フィルムとする際のフィルムロスを少なくすることが出来る。
【0041】
--微小領域でのReの平均値およびばらつき--
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムはの微小領域でのReの平均値は、使用用途であるディスプレイ等の位相差フィルムの要求値により適宜調整される。微小領域でのReの平均値は、10~3000nmであることが好ましく、より好ましくは20~1000nm、更に好ましくは50~1000nmである。微小領域でのReの平均値が上記範囲であると、ディスプレイの位相差フィルムとしたときにコントラストや色再現性が優れる。
また、本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムは、微小領域でのReのばらつき(標準偏差)が1.2nm以下であり、好ましくは1.1nm以下、より好ましくは1.0nm以下である。微小領域でのReのばらつきは、使用するスチレン系樹脂の組成(屈折率)のばらつきに起因する。スチレン系樹脂を複数使用する場合には、屈折率の差を小さくすることで、微小領域でのReのばらつきを小さくすることが可能となる。微小領域でのReのばらつきが1.2nm以下であると、1画素の大きさが100μm以下のディスプレイにおいても、表示異常を起こすことなく、好適に用いることが出来る。
なお、本開示で、微小領域でのReの平均値およびばらつきは、自動複屈折計により24mm×32mmの視野サイズでのエリア解析によりのReを測定して得られる値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。測定視野が上記視野サイズよりも大きいと、平均化が起こることで実際のReのばらつきを正確に検出できない場合がある。
【0042】
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムは、その透明性の観点から、25μm厚みに換算された換算ヘイズ値(H25)が5%以下であることが好ましく、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。H25の下限は、特に限定されないが、0%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01%以上である。
ここで、換算ヘイズ値(H25)とは、あらかじめ厚みを測定したシート状成形体(フィルム)の試験片サンプルのヘイズ値(H)を厚み25μmの樹脂フィルムとした場合の換算値のことであり、下記式により求めることができる。
H25(%)=H(%)×25(μm)/d(μm)
ここで、
H25:25μm厚み換算した換算ヘイズ値(%)
H:ヘイズの実測値(%)
d:ヘイズ測定部のシート状成形体(フィルム)の厚み(μm)
である。
なお、本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムで測定されるヘイズ値は、JIS-K-7136法に準拠して測定される値である。
【0043】
本実施形態の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムの厚みは、10~200μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。フィルムの厚みが、10~200μmであると、ループステフネス(東洋精機製作所製ループステフネステスタ測定値)の値が、位相差フィルムとして取り扱う上で好適な腰の強さ(曲げ弾性)に相当する1~50gfを示す。フィルム厚みが200μmを超えるとフィルムの剛性が強いために取り扱い上の問題が発生する場合がある。
また、フィルム厚みが10~100μmであると、透明性(ヘイズ)に優れるためより好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
<材料>
実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
【0046】
[スチレン系樹脂]
ポリスチレン1(PS1):PSジャパン社製、グレード名685、MFR=1.5g/10分、屈折率1.59、Tg101℃(GPPS、線状PS)
ポリスチレン2(PS2):DIC社製、グレード名HP-100、MFR=3.3g/10分、屈折率1.59、Tg103℃(線状PS84質量%と多分岐PS16質量%との混合物、アクリル酸ブチル単量体単位の含有量2質量%)、
スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体(SMAA):PSジャパン社製、グレード名MM290、MFR=1.0g/10分、屈折率1.57、Tg123℃(スチレン単量体単位の含有量84.0質量%、メタクリル酸単量体単位の含有量11.4質量%、メタクリル酸メチル単量体単位の含有量4.6質量%)
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS):PSジャパン社製、グレード名H8672、MFR=4.0g/10分、屈折率1.54、Tg98℃
【0047】
《測定及び評価方法》
実施例及び比較例において使用した測定及び評価方法は、以下のとおりである。
【0048】
(1)スチレン系樹脂延伸フィルムの厚み
JIS-B-7503に準拠したダイヤルゲージにより、スチレン系樹脂延伸フィルムの厚みを測定した(単位:μm)。
【0049】
(2)スチレン系樹脂延伸フィルムの透明性(ヘイズ値:H)及び換算ヘイズ値(H25)
JIS-K-7136に準拠し、ヘイズメーター(日本電色工業製、NDH5000)を用いてスチレン系樹脂延伸フィルムのヘイズ値(H)を測定し、整数値に四捨五入して求めた(単位:%)。
引き続き、あらかじめ測定したスチレン系樹脂延伸フィルムの厚み測定値(d)を用いて、下記式に従い、厚み25μmの樹脂フィルムとした場合の換算ヘイズ値(H25)を求めた。
H25(%)=H(%)×25(μm)/d(μm)
H25:厚み25μm換算した換算ヘイズ値(%)
H:ヘイズの実測値(%)
d:ヘイズ測定部のフィルムの厚み(μm)
【0050】
(3)スチレン系樹脂延伸フィルムの光沢性(グロス値)
JIS-Z8741法に準拠し、光沢計(日本電色工業製、VG7000)を用いて、スチレン系樹脂延伸フィルムの光沢度(グロス値)を以下のとおり測定した(単位:%)。
光沢計の測定角度を45度とし、標準板を試料台にのせて標準校正を行った。次に、測定サンプルを試料台にのせて、45度でのフィルムの光沢度を測定した。
【0051】
(4)スチレン系樹脂延伸フィルムの縦方向の延伸倍率(RMD)、横方向の延伸倍率(RTD)、およびトータル延伸倍率
スチレン系樹脂延伸フィルムからMD10cm×TD10cmの大きさのフィルムを切り出し、120℃のオイルバスに1分間浸漬した後のMD、TDそれぞれのフィルム寸法(cm)の変化率をMD、TDそれぞれの延伸倍率(RMD、RTD)、MD、TDそれぞれの延伸倍率の積をトータル延伸倍率として、下記式により求めた。
MD延伸倍率RMD=(10-オイルバス浸漬後のMD寸法)/10×100
TD延伸倍率RTD=(10-オイルバス浸漬後のTD寸法)/10×100
トータル延伸倍率=MD延伸倍率RMD×TD延伸倍率RTD
【0052】
(5)スチレン系樹脂延伸フィルムの広域でのReの平均値およびばらつき
スチレン系樹脂延伸フィルムから、幅方向全体にわたり20mm間隔で自動複屈折計(王子計測機器社製、商品名「KOBRA-21ADH」)により視野サイズ5.8cm×5.8cmにてRe(単位;nm)を測定し、小数点以下一桁の値に四捨五入して求めた。前記の全てのRe測定値より、Reの平均値とばらつきを下記式により求めた。
Re=(面内の屈折率の最大値-面内の屈折率の最小値)×フィルム厚み
Re平均値=全Re測定値の総和/Re測定数
Reばらつき=全Re測定値の標準偏差
【0053】
(6)スチレン系樹脂延伸フィルムの微小領域でのReの平均値およびばらつき
スチレン系樹脂延伸フィルムの幅方向中央部より測定用サンプル(10cm×10cm)を1枚切り出し、PA-300(フォトニックラティス製)を用いて、視野サイズをフィルム中心部の24mm×32mmとし、エリア解析により24mm×32mm範囲のRe(単位;nm)およびReばらつき(σ)を測定し、小数点以下一桁の値に四捨五入して求めた。測定値のデータ処理は、3×3ピクセル範囲をガウシアン法により平均化処理を行った。
【0054】
(7)スチレン系樹脂延伸フィルムの配向角の平均値およびばらつき
上記(5)の測定において、フィルムのTDを0°として、得られた遅相軸方向(フィルム面内の屈折率が最大となる軸方向)のTDに対する角度を配向角(単位;°)として測定し、小数点以下一桁の値に四捨五入して求めた。全ての測定値より、フィルム面内の配向角の平均値とばらつきを下記式により求めた。
配向角の平均値=配向角の全測定値の総和/測定数
配向角のばらつき=配向角の全測定値の標準偏差
【0055】
(8)スチレン系樹脂延伸フィルムの耐衝撃性
スチレン系樹脂延伸フィルムの耐衝撃性(単位;mJ)をASTM D3420に準拠し、衝撃試験機(テスター産業製、商品名「フィルムインパクトテスター」)を用いて評価した。試験片として、スチレン系樹脂延伸フィルムから10cm×10cmのフィルムを10枚切り出し、それらの測定値の平均値を求めた。
【0056】
(9)総合評価
スチレン系樹脂延伸フィルムの配向角のばらつき、広域でのReのばらつき、および微小領域でのReのばらつきについて以下の評価基準で点数をつけ、合計点を基に総合評価を行った。
配向角のばらつきが3°以下である:1点
配向角のばらつきが3°超である:0点
広域でのReのばらつきが1.2nm以下である:1点
広域でのReのばらつきが1.2nm超である:0点
微小領域でのReのばらつきが1.2nm以下である:1点
微小領域でのReのばらつきが1.2nm超である:0点
[評価基準]
◎(優良):合計点が3点
○(良好):合計点が2点
△(実用可):合計点が1点
×(不良):合計点が0点
【0057】
[実施例1~5]
スチレン系樹脂を表1で示した割合で配合し、インフレーション法によって表1の条件で延伸して、幅60cm、25μm厚みのフィルムを作製し、測定用サンプルとした。
【0058】
[比較例1]
スチレン系樹脂を表1で示した割合で配合し、インフレーション法によって表1の条件で延伸して、幅60cm、25μm厚みのフィルムを作製し、測定用サンプルとした。
【0059】
[比較例2]
スチレン系樹脂を表1で示した割合で配合し、インフレーション法によって比較例1と同じ条件で延伸しようと試みたが、パンク、フィルム切れのトラブルが多発してフィルムを得ることが出来なかった。
【0060】
[比較例3~5]
スチレン系樹脂を表1で示した割合で配合し、テンター法によって表1の条件で延伸して、幅60cm、25μm厚みのフィルムを作製し、測定用サンプルとした。
【0061】
実施例1~5及び比較例1~5で得られたスチレン系樹脂延伸フィルムの各物性、評価結果をまとめて表1に示す。
【0062】
【0063】
実施例1~5は、総合評価が◎(合計点3点)であり、広域でのReのばらつき、微小領域でのReのばらつきがいずれも小さいので、高画素ディスプレイ(HD、3K)の位相差フィルムに好適に用いられる。また、配向角のばらつきが小さいので、大画面ディスプレイ用位相差フィルムに必要な大面積のフィルムを効率よく生産することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムの製造方法により製造された光学異方性スチレン系樹脂延伸フィルムは、均一な複屈折と配向角のばらつきの小ささを備えるため、液晶ディスプレイの着色防止やコントラスト向上等に優れる液晶ディスプレイの位相差フィルムとして好適に使用することができる。更には、微小領域での複屈折均一性も備えるため、0.1mm以下の画素サイズである高精細液晶ディスプレイの位相差フィルムとしても好適に使用することができる。