(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】推力変換機構
(51)【国際特許分類】
F16H 37/12 20060101AFI20240614BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20240614BHJP
H04M 1/02 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
F16H37/12 Z
F16C11/04 F
H04M1/02 B
(21)【出願番号】P 2020155171
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2020121160
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】ニデックプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 大祐
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】実開平5-19711(JP,U)
【文献】特開2021-148192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 37/12
F16C 11/04
H04M 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回方向が互いに逆向きの一対の螺旋状係合部を備えるシャフトと、
一方の前記螺旋状係合部と係合する第1直動部材及び他方の前記螺旋状係合部と係合する第2直動部材と、
前記シャフトに対して回転可能であると共に、前記第1直動部材及び前記第2直動部材を前記シャフトに沿って移動可能に支持する筐体と、
前記第1直動部材によって回転可能に支持されると共に、前記第2直動部材と係合し、前記第1直動部材及び前記第2直動部材の移動に伴って回転する回転部材と、
前記回転部材と係合すると共に移動対象物に当接し、前記回転部材の回転に伴って
前記シャフトに沿う方向に移動しつつ前記シャフトと交差する方向に移動する駆動部材と、
前記移動対象物
に当接する緩衝部材と、を備え、
前記駆動部材は、前記シャフトと交差する方向の一方側から前記移動対象物に当接し、緩衝部材は、前記シャフトと交差する方向の他方側から前記移動対象物に当接し、
前記駆動部材の移動に伴って、当該駆動部材及び前記緩衝部材が移動する第1状態と、
前記移動対象物の移動に伴って、前記緩衝部材は移動する一方、前記駆動部材は移動しない第2状態と、を有する、推力変換機構。
【請求項2】
前記駆動部材及び前記緩衝部材は、前記移動対象物に設けられている連結部に当接する当接部を備え、
前記駆動部材が備える前記当接部と前記緩衝部材が備える前記当接部とは、前記連結部を挟んで対向している、請求項1に記載の推力変換機構。
【請求項3】
前記第2状態において、前記緩衝部材の移動に伴って弾性変形する弾性体を有する、請求項1又は2に記載の推力変換機構。
【請求項4】
前記駆動部材及び前記緩衝部材を連結する連結ピンを有し、
前記駆動部材は、前記連結ピンに、当該連結ピンの軸方向に相対移動不能に連結され、
前記緩衝部材は、前記連結ピンに、当該連結ピンの軸方向一方に相対移動可能に連結され、
前記第1状態では、前記駆動部材,緩衝部材,連結ピン及び弾性体が一体的に移動し、
前記第2状態では、前記駆動部材及び前記連結ピンは移動せず、前記緩衝部材が前記弾性体を弾性変形させながら前記連結ピンの軸方向一方に移動する、請求項3に記載の推力変換機構。
【請求項5】
前記駆動部材は、前記連結ピンの軸方向において対向する一対の第1連結部及び第2連結部を備え、
前記緩衝部材は、前記連結ピンの軸方向において対向する一対の第3連結部及び第4連結部を備え、
前記第1連結部,第3連結部,第2連結部及び第4連結部は、この順で前記連結ピンの軸方向に並んでおり、
前記連結ピンは、前記第1連結部,第3連結部,第2連結部及び第4連結部をこの順で貫通しており、
前記弾性体は、前記連結ピンの周囲に設けられ、一端が前記緩衝部材の前記第3連結部に当接し、他端が前記駆動部材の前記第2連結部に当接するコイルばねである、請求項4に記載の推力変換機構。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の推力変換機構を備えるヒンジ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のヒンジ装置を備える携帯情報端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推力変換機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直線運動に変換したり、直線運動を回転運動に変換したりする変換機構が知られている。例えば、外周部にねじが形成されたねじ軸と、このねじ軸に螺合されたナットと、からなる送りねじ機構(特許文献1参照)は、上記変換機構の一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
送りねじ機構では、ねじ軸の回転角度が制限されている状況下でナットの移動量を増加させるためには、ねじのリードを大きくする必要がある。しかしながら、ねじのリードを大きくすると、ナットを移動させる際の負荷が増大することになるので、ねじ軸の回転に大きな駆動力が必要になる。また、ナットの移動方向は、ねじ軸に沿った直線方向に限られるので、機構の用途が限定されてしまう。
【0005】
ここで、部材同士や部品同士を回転可能に支持する軸支機構が、2つの筐体等を回転可能に連結するヒンジ装置に利用されている。かかるヒンジ装置は、ノート型のPC(Personal Computer)や折り畳み型のタブレット等の携帯情報端末に多く採用されている。例えば、ディスプレイが設けられた筐体と、操作部が設けられた筐体とが、ヒンジ装置によって回転可能に連結された携帯情報端末が知られている。また、それぞれにディスプレイが設けられた2つの筐体がヒンジ装置によって回転可能に連結された携帯情報端末が知られている。
【0006】
上記のような携帯情報端末では、一方の筐体に対して他方の筐体を180°或いは360°回転させようとすると、筐体の端部同士が干渉し、回転角度が180°未満或いは360°未満に制限されてしまう問題が生じる。かかる問題を避けるために、筐体とヒンジ装置との連結部(軸支部)を当該筐体の端部から離れた位置に配置すると、2つの筐体を平面状に開いたときに、筐体の端部間に隙間が生じてしまうという新たな問題が生じる。それぞれにディスプレイが設けられた2つの筐体の端部間に隙間が生じると、2つのディスプレイの端部間にも隙間が生じ、画面の連続性が損なわれる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。本発明は、回転運動を直線運動に変換したり、直線運動を回転運動に変換したりし得る推力変換機構における変換効率の向上を図ること、変換効率の向上が図られた推力変換機構を用いたヒンジ装置や、そのヒンジ装置を用いた携帯情報端末を実現すること、などを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
推力変換機構は、旋回方向が互いに逆向きの一対の螺旋状係合部を備えるシャフトと、一方の前記螺旋状係合部と係合する第1直動部材及び他方の前記螺旋状係合部と係合する第2直動部材と、前記シャフトに対して回転可能であると共に、前記第1直動部材及び前記第2直動部材を前記シャフトに沿って移動可能に支持する筐体と、前記第1直動部材によって回転可能に支持されると共に、前記第2直動部材と係合し、前記第1直動部材及び前記第2直動部材の移動に伴って回転する回転部材と、前記回転部材と係合すると共に移動対象物に当接し、前記回転部材の回転に伴って前記シャフトと交差する方向に移動する駆動部材と、前記移動対象物に、前記駆動部材と反対側から当接する緩衝部材と、を備える。さらに、推力変換機構は、前記駆動部材の移動に伴って、当該駆動部材及び前記緩衝部材が移動する第1状態と、前記移動対象物の移動に伴って、前記緩衝部材は移動する一方、前記駆動部材は移動しない第2状態と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】推力変換機構の構造を示す他の説明図である。
【
図5】推力変換機構の構造を示す他の説明図である。
【
図6】推力変換機構の構造を示す他の説明図である。
【
図7】(A)は、直動部材が近接位置にあるとき駆動部材の位置を示す説明図であり、(B)は、直動部材が離間位置にあるとき駆動部材の位置を示す説明図である。
【
図9】ヒンジ装置の内側折り畳み状態を示す斜視図である。
【
図10】ヒンジ装置の外側折り畳み状態を示す斜視図である。
【
図11】ヒンジ装置が展開状態にされたときの携帯情報端末を示す説明図である。
【
図12】ヒンジ装置が内側折り畳み状態にされたときの携帯情報端末を示す説明図である。
【
図13】ヒンジ装置が外側折り畳み状態にされたときの携帯情報端末を示す説明図である。
【
図14】(A),(B),(C)は、ディスプレイ端部の変位を模式的に示す説明図である。
【
図15】ヒンジ装置の他の一例を示す斜視図である。
【
図16】
図15に示されているヒンジ装置の動作を示す説明図である。
【
図17】
図15に示されているヒンジ装置の動作を示す他の説明図である。
【
図18】
図15に示されているヒンジ装置の動作を示す他の説明図である。
【
図19】
図15に示されているヒンジ装置の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明が適用された推力変換機構の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明では、同一又は実質的に同一の構成や要素等については、同一の符号を用いると共に、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
図1に示されるように、本実施形態に係る推力変換機構1Aは、シャフト10,筐体20,第1直動部材30,第2直動部材40,回転部材50,駆動部材60及び緩衝部材70などを備えており、これらの構成要素が
図2~
図6に示されるように組み合わされている。尚、
図2は、推力変換機構1Aの正面図である。また、
図3~
図6の各図では、推力変換機構1Aの内部構造を示すべく、一部の構成要素が省略されている。例えば、
図3では、
図1,
図2に示されているカバープレート2が省略されている。また、第1直動部材30や第2直動部材40等の直動部材は“スライダ”と呼ばれることもある。
【0012】
図3に示されている筐体20は、シャフト10に対して回転可能である。筐体20がシャフト10に対して回転すると、第1直動部材30及び第2直動部材40がシャフト10に沿って移動する。さらに、第1直動部材30及び第2直動部材40がシャフト10に沿う方向に移動すると、駆動部材60がシャフト10に沿う方向及びシャフト10と交差する方向に移動する。この結果、駆動部材60が当接している不図示の移動対象物Xがシャフト10と交差する方向に移動される。言い換えれば、筐体20がシャフト10に対して回転すると、第1直動部材30及び第2直動部材40がシャフト10の軸線方向に移動する。さらに、第1直動部材30及び第2直動部材40がシャフト10の軸線方向に移動すると、駆動部材60がシャフト10の軸線方向及び軸線方向と交差する方向に移動する。この結果、駆動部材60が当接している移動対象物Xがシャフト10の軸線方向と交差する方向に移動される。
【0013】
つまり、筐体20の回転に伴って生じ、第1直動部材30及び第2直動部材40をシャフト10に沿って移動させる推力は、駆動部材60をシャフト10と交差する方向に移動させる推力に変換され、移動対象物Xを同方向に駆動する。尚、
図3等では、移動対象物Xに設けられている連結部X1のみが図示され、移動対象物Xの本体の図示は省略されている。駆動部材60は、移動対象物Xの一部である連結部X1に当接した状態で移動することにより、連結部X1を含む移動対象物Xの全体を移動させる。
【0014】
以下の説明では、シャフト10の軸線方向を“水平方向”又は“左右方向”と呼び、シャフト10の軸線方向と交差する方向を“垂直方向”又は“上下方向”と呼ぶ場合がある。また、水平方向(左右方向)及び垂直方向(上下方向)の双方と直交する方向を“前後方向”と呼ぶ場合がある。
【0015】
図1に示されるように、シャフト10は、左側シャフト部材11と右側シャフト部材12とから構成される分割シャフトである。具体的には、左側シャフト部材11の一端には凹凸が形成されており、右側シャフト部材12の一端にも凹凸が形成されている。左側シャフト部材11と右側シャフト部材12とは、左側シャフト部材11の一端に設けられている凹凸と右側シャフト部材12の一端に設けられている凹凸とが互いに嵌合することによって相対回転不能に連結され、1本のシャフト10を形成している。尚、シャフト10の両端は、保持部材13によって保持される。具体的には、凹凸が形成されている左側シャフト部材11の端部と反対側の端部が保持部材13によって保持される。同時に、凹凸が形成されている右側シャフト部材12の端部と反対側の端部が保持部材13によって保持される。
【0016】
左側シャフト部材11及び右側シャフト部材12のそれぞれには、旋回方向が互いに逆向きの螺旋状係合部14が形成されている。本実施形態における螺旋状係合部14は、左側シャフト部材11及び右側シャフト部材12の外周面に形成された螺旋状の溝である。もっとも、螺旋状係合部14は、螺旋状の突起やねじ等に置換することもできる。また、分割されていない1本のシャフト10の外周面に、旋回方向が互いに逆向きの螺旋状係合部14を形成してもよい。
【0017】
図1,
図4及び
図5に示されるように、第1直動部材30は、左側シャフト部材11が挿通された第1ブロック31と、第1ブロック31に連結された第1プレート32と、を含んでいる。同じく、第2直動部材40は、右側シャフト部材12が挿通された第2ブロック41と、第2ブロック41に連結された第2プレート42と、を含んでいる。
【0018】
図1に示されるように、第1直動部材30の第1ブロック31には、左側シャフト部材11が挿通される挿通孔31aが設けられている。さらに、挿通孔31aの内側には、左側シャフト部材11に形成されている螺旋状係合部14と係合する係合部が設けられている。第2直動部材40の第2ブロック41には、右側シャフト部材12が挿通される挿通孔41aが設けられている。さらに、挿通孔41aの内側には、右側シャフト部材12に形成されている螺旋状係合部14と係合する係合部が設けられている。したがって、
図4,
図5に示されている第1直動部材30及び第2直動部材40は、シャフト10との相対回転により当該シャフト10に沿って移動する。言い換えれば、第1直動部材30及び第2直動部材40は、シャフト10との相対回転によって水平方向に移動する。より具体的には、第1直動部材30及び第2直動部材40は、シャフト10との相対回転に伴って互いに近接又は離間する方向に直線的に移動する。本実施形態における第1直動部材30及び第2直動部材40のそれぞれは、互いに近接する方向に最大で約2mm移動する。また、本実施形態における第1直動部材30及び第2直動部材40のそれぞれは、互いに離間する方向に最大で約2mm移動する。
【0019】
図4,
図5に示されるように、第1直動部材30の第1プレート32には、水平方向に伸びる一対の長孔32aが設けられており、それぞれの長孔32aには、筐体20(
図3)に固定された支持部材21が挿通されている。第2直動部材40の第2プレート42にも、水平方向に伸びる一対の長孔42aが設けられており、それぞれの長孔42aには、筐体20(
図3)に固定された支持部材22が挿通されている。この結果、第1直動部材30は、支持部材21によって筐体20に懸架され、かつ、水平方向に移動可能に保持されている。また、第2直動部材40は、支持部材22によって筐体20に懸架され、かつ、水平方向の移動可能に保持されている。つまり、
図3に示されている筐体20は、シャフト10に対して回転可能であると共に、第1直動部材30及び第2直動部材40をシャフト10に沿って移動可能に支持している。
【0020】
図6に示されるように、回転部材50の中央又は略中央は、第1直動部材30に回転自在に連結されている。具体的には、回転部材50の中央又は略中央を貫く支持軸51が第1プレート32に固定されている。つまり、回転部材50は、第1直動部材30によって回転可能に支持されている。この結果、回転部材50は、第1直動部材30が水平方向に移動すると、当該第1直動部材30と一緒に水平方向に移動する。
【0021】
さらに、回転部材50の一端側(上部)には垂直方向に伸びる係合孔52が設けられており、回転部材50の他端側(下部)には前方に向かって突出する係合突起53が設けられている。
図5を参照すると、第2直動部材40(第2プレート42)の背面に突設されている操作突起43が回転部材50の係合孔52に嵌合している。この結果、
図4,
図5に示されている第2直動部材40が水平方向に移動すると、回転部材50は、支持軸51を回転軸として回転し、係合突起53は揺動する。
【0022】
つまり、
図4に示されている回転部材50は、同図に示されている第1直動部材30及び第2直動部材40が水平方向に移動すると、同方向に移動しながら回転する。本実施形態では、
図4に示されている第1直動部材30及び第2直動部材40が互いに近接する方向に移動すると、回転部材50は右側に移動しながら反時計回りに回転する。一方、
図4に示されている第1直動部材30及び第2直動部材40が互いに離間する方向に移動すると、回転部材50は左側に移動しながら時計回りに回転する。これらを言い換えると、第1直動部材30が右側に移動し、かつ、第2直動部材40が左側に移動すると、回転部材50は右側に移動しながら反時計回りに回転する。一方、第1直動部材30が左側に移動し、かつ、第2直動部材40が右側に移動すると、回転部材50は左側に移動しながら時計回りに回転する。
【0023】
図3,
図5に示されるように、駆動部材60は、第1直動部材30及び第2直動部材40の大部分を覆う大きさの板状部材である。
図3に示されるように、駆動部材60には、開口部61と、2つのガイド孔62と、カム孔63と、が設けられている。開口部61は、水平方向において駆動部材60の概ね中央に配置されており、水平方向の寸法が垂直方向の寸法よりも大きい略長方形の形状を呈している。それぞれのガイド孔62は、垂直方向に伸びる長孔であって、水平方向において互いに同位置に配置されている。
【0024】
図3に示されるように、カム孔63は、全体として水平方向の伸びる長孔である。もっとも、カム孔63は、長手方向中央又は略中央においてシャフト10に対する傾斜が逆転するように屈曲している。以下の説明では、シャフト10に対する傾斜が逆転するカム孔63の屈曲点を“頂点P”と呼ぶ場合がある。
【0025】
図3に示されるように、頂点Pの両側の領域は、頂点Pから端部に向かうに連れて次第にシャフト10に近接するように傾斜している。言い換えれば、頂点Pの両側の領域は、端部から頂点Pに向かうに連れて次第にシャフト10から離間するように傾斜している。但し、
図3において頂点Pよりも右側に位置しているカム孔63の一部の傾斜は、同図において頂点Pよりも左側に位置しているカム孔63の他の一部の傾斜よりも急である。以下の説明では、
図3において頂点Pよりも右側に位置しているカム孔63の一部“右側領域”と呼び、頂点Pよりも左側に位置しているカム孔63の他の一部“左側領域”と呼んで区別する場合がある。もっとも、かかる区別は説明の便宜上の区別に過ぎず、カム孔63が一連の長孔であることは明らかである。
【0026】
図4に示されるように、第2直動部材40の第2プレート42の前面には、2つのガイド突起42bが設けられている。
図3に示されるように、第2直動部材40に設けられている2つのガイド突起42bは、駆動部材60に設けられている2つの2つのガイド孔62にそれぞれ嵌合している。また、回転部材50の下部に設けられている係合突起53は、駆動部材60のカム孔63に嵌合している。
【0027】
図3に示されている筐体20は、シャフト10を回転軸として前方(手前)に90°(+90°)回転可能であり、また、シャフト10を回転軸として後方(奥)に90°(-90°)回転可能である。
図7(A)に、
図3に示されている筐体20がシャフト10を基準として+90°相対回転した状態を示す。また、
図7(B)に、
図3に示されている筐体20がシャフト10を基準として-90°相対回転した状態を示す。
【0028】
ここで、
図3に示されている筐体20の回転角度を0°と定義する。また、筐体20の回転角度が0°のときの第1直動部材30及び第2直動部材40の位置を“中立位置”と定義する。さらに、第1直動部材30及び第2直動部材40が中立位置にあるときの回転部材50の位置を“基準位置”と定義する。つまり、筐体20の回転角度が0°であるとき、第1直動部材30及び第2直動部材40は中立位置にあり、回転部材50は基準位置にある。そして、回転部材50が基準位置にあるとき、係合突起53はカム孔63の頂点Pにある。
【0029】
図3に示されている筐体20の回転角度が0°から+90°に変化する過程で、中立位置にあった第1直動部材30と第2直動部材40とが次第に近接する。そして、筐体20の回転角度が+90°に達すると、第1直動部材30及び第2直動部材40は、互いの間隔(D)が最小となる“近接位置”に至る(
図7(A))。同時に、第1直動部材30及び第2直動部材40の移動に伴って回転部材50が反時計回りに回転する。そして、筐体20の回転角度が+90°に達し、第1直動部材30及び第2直動部材40が近接位置に達すると、係合突起53はカム孔63の右側領域の端部に至る(
図7(A))。
【0030】
一方、
図3に示されている筐体20の回転角度が0°から-90°に変化する過程で、中立位置にあった第1直動部材30と第2直動部材40とが次第に離間する。そして、筐体20の回転角度が-90°に達すると、第1直動部材30及び第2直動部材40は、互いの間隔(D)が最大となる“離間位置”に至る(
図7(B))。同時に、第1直動部材30及び第2直動部材40の移動に伴って回転部材50が時計回りに回転する。そして、筐体20の回転角度が-90°に達し、第1直動部材30及び第2直動部材40が離間位置に達すると、係合突起53はカム孔63の左側領域の端部に至る(
図7(B))。
【0031】
上記のように、
図3に示されている筐体20の回転に伴って第1直動部材30及び第2直動部材40が直動すると、駆動部材60に係合している回転部材50(係合突起53)が回動(揺動)する。この結果、駆動部材60が垂直方向(上方)に移動される。つまり、駆動部材60が押し上げられる。同時に、駆動部材60は、ガイド孔62に嵌合されているガイド突起42bの移動に伴って水平方向(左側又は右側)に移動される。総じて、駆動部材60は、水平方向(左側又は右側)に移動しつつ垂直方向(上方)に移動する。
【0032】
もっとも、カム孔63の左側領域と右側領域とは傾斜角度が異なる。よって、回転部材50の回転角度が同一であったとしても、回転部材50の回転方向によって駆動部材60の垂直方向の移動量が異なる。具体的には、駆動部材60の垂直方向の移動量は、
図3に示されている回転部材50が反時計回りに回転するときの方が、時計回りに回転するときよりも大きい。言い換えれば、駆動部材60の垂直方向の移動量は、第1直動部材30及び第2直動部材40が中立位置から近接位置に移動するときの方が、第1直動部材30及び第2直動部材40が中立位置から離間位置に移動するときよりも大きい。
【0033】
図3に示されるように、駆動部材60には、開口部61の一辺から後方に向かって突出する板状の当接部64が設けられている。当接部64は、移動対象物Xに設けられている連結部X1に当接する。連結部X1は、駆動部材60の前面と対向する移動対象物Xの背面に突設された円柱状の突起である。当接部64は、開口部61に挿入された連結部X1に、当該連結部X1の径方向下側から当接する。そこで、以下の説明では、当接部64を“下側当接部64”と呼ぶ場合がある。尚、本実施形態における下側当接部64は、駆動部材60の一部を後方に向けて折り曲げることによって形成されている。これにより、下側当接部64と連結部X1との接触面積が大きくなり、連結部X1が破断する等の不具合の発生が防止される。下側当接部64と連結部X1との接触面積が小さい場合(例えば、駆動部材60の端面を連結部X1に当接する当接部とした場合、)、何度も移動が繰り返されると、摩擦によって連結部X1が破断したり、駆動部材60の端面が変形したりする虞がある。本実施形態では、このような不具合の発生を防止するために、駆動部材60の一部を折り曲げることによって下側当接部64を形成している。
【0034】
連結部X1に当接する下側当接部64を含む駆動部材60が上記のように移動することにより、移動対象物Xが駆動される。つまり、駆動部材60が水平方向に移動しつつ垂直方向に移動することにより、駆動部材60が当接している移動対象物Xが垂直方向に移動する。ここで、駆動部材60の水平方向への移動は、開口部61と連結部X1との間の水平方向におけるクリアランスによって吸収される。よって、駆動部材60は水平方向及び垂直方向に移動するが、移動対象物Xは垂直方向にのみ移動する。言い換えれば、開口部61は、上記クリアランスを確保すべく、水平方向を長手方向とする長方形に形成されている。
【0035】
既述のとおり、駆動部材60の垂直方向の移動量は、回転部材50の回転方向によって異なる。具体的には、第1直動部材30及び第2直動部材40が中立位置から近接位置に移動したときの駆動部材60の移動量は、第1直動部材30及び第2直動部材40が中立位置から離間位置に移動したときの駆動部材60の移動量よりも大きい。この結果、
図7(A)に示されている連結部X1の移動量(α)は、
図7(B)に示されている連結部X1の移動量(β)よりも大きい(α>β)。本実施形態における移動量(α)は約6mmであり、移動量(β)は約3mmである。尚、
図7(A),(B)に示されている鎖線は、
図3に示されている連結部X1の位置を示している。
【0036】
図1に示されるように、緩衝部材70は、駆動部材60の背後に配置されている。緩衝部材70には、駆動部材60の下側当接部64(
図3)と対向する板状の当接部71が設けられている。
図3に示されるように、当接部71は、開口部61に挿入された連結部X1に、当該連結部X1の径方向上側から当接する。言い換えれば、緩衝部材70の一部である当接部71は、駆動部材60の一部である下側当接部64が当接する連結部X1に、下側当接部64とは反対側から当接する。そこで、以下の説明では、緩衝部材70の当接部71を“上側当接部71”と呼ぶ場合がある。要するに、駆動部材60の下側当接部64と緩衝部材70の上側当接部71とは、連結部X1を挟んで対向する。尚、上側当接部71は、下側当接部64と同様の理由に基づいて、緩衝部材70の一部を折り曲げることによって形成されている。つまり、上側当接部71は、連結部X1との接触面積を拡大するために、緩衝部材70の一部を折り曲げることによって形成されている。
【0037】
図5に示されるように、駆動部材60と緩衝部材70とは、連結ピン80によって連結され、一体化されている。もっとも、駆動部材60は、連結ピン80に、当該連結ピン80の軸方向に相対移動不能に連結されている。一方、緩衝部材70は、連結ピン80に、当該連結ピン80の軸方向一方に相対移動可能に連結されている。
【0038】
駆動部材60の水平方向一端側には、一対の第1連結部65及び第2連結部66が設けられている。また、緩衝部材70の水平方向一端側には、一対の第3連結部72及び第4連結部73が設けられている。駆動部材60の第1連結部65及び第2連結部66は、連結ピン80の軸方向(垂直方向)において対向している。また、緩衝部材70の第3連結部72及び第4連結部73は、連結ピン80の軸方向(垂直方向)において対向している。
【0039】
第1連結部65,第3連結部72,第2連結部66及び第4連結部73は、この順で連結ピン80の軸方向に沿って並んでおり、連結ピン80は、これら連結部を貫通している。つまり、連結ピン80は、第1連結部65,第3連結部72,第2連結部66及び第4連結部73をこの順で串刺しにしている。
【0040】
連結ピン80には、駆動部材60の連結ピン80に対する移動を規制する一対のストッパが設けられている。具体的には、第1連結部65から突出している連結ピン80の下端に下側ワッシャ81が装着されている。また、第2連結部66から突出している連結ピン80の上端に上側ワッシャ82が装着されている。つまり、駆動部材60の第1連結部65及び第2連結部66は、連結ピン80に固定されている一対の下側ワッシャ81と上側ワッシャ82とに挟まれている。
【0041】
一方、緩衝部材70の第3連結部72は、下側ワッシャ81に重なっている駆動部材60の第1連結部65の上に配置されている。また、緩衝部材70の第4連結部73は、駆動部材60の第2連結部66に重なっている上側ワッシャ82の上に配置されている。よって、緩衝部材70は、連結ピン80の軸方向一方(上方)には移動可能であるが、軸方向他方(下方)には移動不能である。
【0042】
さらに、連結ピン80の周囲には、一端(下端)が緩衝部材70の第3連結部72に当接し、他端(上端)が駆動部材60の第2連結部66に当接する弾性体としてのコイルばね83が設けられている。つまり、コイルばね83は、緩衝部材70の第3連結部72と駆動部材60の第2連結部66との間に配置されている。
【0043】
上記連結構造により、駆動部材60が上方に移動すると、当該駆動部材60に加えて,緩衝部材70,連結ピン80及びコイルばね83が一体的に移動する第1状態が実現される。そして、駆動部材60(下側当接部64)が上方に移動すると、連結部X1が押し上げられる。尚、緩衝部材70は、コイルばね83により、上側当接部71が連結部X1に圧接される方向(下方)に付勢されている。しかし、緩衝部材70の第3連結部72は、ストッパ(下側ワッシャ81)によって支持されている駆動部材60の第1連結部65の上に重ねられている。よって、第1状態では、緩衝部材70の上側当接部71は、連結部X1に圧接されない。つまり、緩衝部材70が駆動部材60の上方への移動や、これに伴う連結部X1の上昇を阻害することはない。
【0044】
また、上記連結構造により、何らかの外力によって連結部X1が上方に移動すると、駆動部材60及び連結ピン80は移動せず、緩衝部材70のみがコイルばね83を弾性変形させながら上方に移動する第2状態が実現される。かかる第2状態では、連結部X1に作用する外力が緩衝部材70の移動(コイルばね83の収縮)によって吸収され、機構の破損や変形等が防止される。尚、連結部X1に作用する外力は、例えば、移動対象物Xが何らかの原因によって周囲の部材と一時的に干渉した場合等に発生し得る。
【0045】
本実施形態に係る推力変換機構1Aは、シャフト10に対する筐体20の相対的回転によって当該シャフト10に沿って直線的に移動する一対の直動部材(第1直動部材30及び第2直動部材40)を備えている。さらに、一対の直動部材は、シャフト10に沿って互いに近接又は離間する方向に移動する。つまり、シャフト10に対する筐体20の相対的回転によって得られる直動部材の移動量は、直動部材が1つである場合や2つの直動部材の移動方向が同一である場合の2倍である。そして、一対の直動部材の移動が回転部材50の回転に変換され、回転部材50の回転が駆動部材60のシャフト10に交差する方向の移動に変換される。よって、筐体20のシャフト10に対する回転量に対して、駆動部材60をより大きく移動させることができる。さらに、外力を吸収する緩衝部材70を備えている推力変換機構1Aは、外力によって機構が破損したり、変形したりすることがなく、耐久性に優れる。
【0046】
図8~
図10に、本実施形態に係る推力変換機構1Aを備えるヒンジ装置の一例を示す。図示されているヒンジ装置90は、一対の推力変換機構1Aを備えている。それぞれの推力変換機構1Aのシャフト10は、共通の保持部材13によって互いに平行に保持されている。
【0047】
ヒンジ装置90の状態は、それぞれの推力変換機構1Aの筐体20が成す角度が180°又は略180°となる展開状態(
図8)と、展開状態からそれぞれの推力変換機構1Aの筐体20が+90°回転した内側折り畳み状態(
図9)と、展開状態からそれぞれの推力変換機構1Aの筐体20が-90°回転した外側折り畳み状態(
図10)と、に変化し得る。
【0048】
ヒンジ装置90では、それぞれの推力変換機構1Aが備える一対の直動部材(第1直動部材30及び第2直動部材40)をシャフト10に沿って移動させる推力は、保持部材13によって保持されているそれぞれのシャフト10に対するそれぞれの筐体20の回転によって生じる。すなわち、それぞれの推力変換機構1Aにおける筐体20の回転力が、それぞれの推力変換機構1Aにおける一対の直動部材を直線的に移動させる推力に変換される。
【0049】
これまでの説明から明らかなように、
図8に示されている展開状態では、それぞれの推力変換機構1Aが備える一対の直動部材は中立位置にある。一方、
図9に示されている内側折り畳み状態では、それぞれの推力変換機構1Aが備える一対の直動部材は近接位置にある。また、
図10に示されている外側折り畳み状態では、それぞれの推力変換機構1Aが備える一対の直動部材は離間位置にある。そして、それぞれの推力変換機構1Aが備える一対の直動部材の移動に伴って、それぞれの推力変換機構1Aが備える回転部材50が回転し、駆動部材60が移動する。
【0050】
図11~
図13に、
図8~
図10に示されているヒンジ装置90を備える携帯情報端末の一例を示す。図示されている携帯情報端末100は、2つのフラットパネルディスプレイFP1及びフラットパネルディスプレイFP2を備えている。以下の説明では、フラットパネルディスプレイFP1,フラットパネルディスプレイFP2を“ディスプレイFP1”,“ディスプレイFP2”と、それぞれ略称する。
【0051】
ヒンジ装置90は、ディスプレイFP1とディスプレイFP2とを回転可能(開閉可能)に連結している。具体的には、ヒンジ装置90が備える一方の推力変換機構1AはディスプレイFP1を移動可能に支持しており、ヒンジ装置90が備える他方の推力変換機構1AはディスプレイFP2を移動可能に支持している。
【0052】
図11~
図13に示されている携帯情報端末100に用いられているヒンジ装置90の状態は、ディスプレイFP1,FP2の開閉動作に伴って、展開状態(
図8),内側折り畳み状態(
図9)又は外側折り畳み状態(
図10)に変化する。そして、ヒンジ装置90の状態変化に伴って、ディスプレイFP1,FP2がシャフト10と交差する方向に駆動される。つまり、ディスプレイFP1,FP2は、既述の移動対象物Xに相当する。
【0053】
図11を参照する。2つのディスプレイFP1,FP2が成す角度が180°又は略180°となるように、それらディスプレイFP1,FP2が開かれると、ヒンジ装置90は展開状態になる。このとき、ヒンジ装置90のそれぞれの推力変換機構1Aが備える第1直動部材30及び第2直動部材40は中立位置にあり、回転部材50は基準位置にある。また、
図14(A)に示されるように、ディスプレイFP1,FP2の隣接する端部同士は、ほぼ隙間なく突き合わされる。
【0054】
図12を参照する。2つのディスプレイFP1,FP2が向かい合わせとなるように、それらディスプレイFP1,FP2が閉じられると、ヒンジ装置90は内側折り畳み状態になる。このとき、ヒンジ装置90のそれぞれの推力変換機構1Aが備える第1直動部材30及び第2直動部材40は、中立位置から近接位置に移動する。同時に、それぞれの推力変換機構1Aが備える回転部材50が回転し、駆動部材60が移動する。すると、連結部X1を介して駆動部材60と係合しているディスプレイFP1,FP2は、隣接する端部同士が互いに離間するように駆動される。この結果、
図14(B)に示されるように、向かい合わせになったディスプレイFP1,FP2の端部は、互いに干渉することなく、ヒンジ装置90の保持部材13の内側に収納される。
【0055】
図13を参照する。2つのディスプレイFP1,FP2が背中合わせにされると、ヒンジ装置90は外側折り畳み状態になる。このとき、ヒンジ装置90のそれぞれの推力変換機構1Aが備える第1直動部材30及び第2直動部材40は、中立位置から離間位置に移動する。同時に、それぞれの推力変換機構1Aが備える回転部材50が回転し、駆動部材60が移動する。すると、すると、連結部X1を介して駆動部材60と係合しているディスプレイFP1,FP2は、隣接する端部同士が互いに離間するように駆動される。
【0056】
もっとも、ディスプレイFP1,FP2が背中合わせにされる場合(ヒンジ装置90が展開状態から外側折り畳み状態に変化する場合)におけるディスプレイFP1,FP2の端部の移動量は、ディスプレイFP1,FP2が向かい合わせにされる場合(ヒンジ装置90が展開状態から内側折り畳み状態に変化する場合)に比べて小さい。この結果、
図14(C)に示されるように、背中合わせになったディスプレイFP1,FP2の端部は、保持部材13から突出することなく、保持部材13を覆う。
【0057】
次に、
図15~
図19を参照しつつ、ヒンジ装置の他の一例について説明する。
図15に示されているヒンジ装置91は、携帯情報端末の第1筐体101と第2筐体102とを回転可能(開閉可能)に連結している。尚、
図15には1つのヒンジ装置91のみが図示されているが、実際には2つのヒンジ装置91によって第1筐体101と第2筐体102とが連結されている。また、図示は省略されているが、第1筐体101及び第2筐体102には、フラットパネルディスプレイがそれぞれ搭載される。
【0058】
ヒンジ装置91によって連結されている第1筐体101と第2筐体102とは、それぞれに搭載されているフラットパネルディスプレイが成す角度が実質的に0°になるように閉じることができる。また、ヒンジ装置91によって連結されている第1筐体101と第2筐体102とは、それぞれに搭載されているフラットパネルディスプレイが成す角度が実質的に180°になるように開くことができる。以下の説明では、2つのフラットパネルディスプレイが成す角度が実質的に0°になるまで第1筐体101及び第2筐体102が閉じられた状態を「閉状態」と呼び、2つのフラットパネルディスプレイが成す角度が実質的に180°になるまで第1筐体101及び第2筐体102が開かれた状態を「開状態」と呼ぶ場合がある。
【0059】
図15に示されるように、ヒンジ装置91は、推力変換機構1Bを備えている。推力変換機構1Bは、第1筐体101に固定される第1固定プレート23と、第2筐体102に固定される第2固定プレート24と、第1固定プレート23に保持され、垂直方向に移動可能なベース部材25と、ベース部材25に保持され、水平方向に移動可能な横移動部材33と、第1固定プレート23に保持され、垂直方向に移動可能な縦移動部材44と、を有する。
【0060】
推力変換機構1Bは、第1固定プレート23と第2固定プレート24との間に介在する保持部材13をさらに有する。ベース部材25は、保持部材13に保持されている第1シャフト15(
図16)に連結されている。すなわち、第1固定プレート23は、ベース部材25などを介して第1シャフト15に連結されている。第2固定プレート24は、保持部材13に保持されている第2シャフト16(
図16)に連結されている。
【0061】
図15に示されるように、第1固定プレート23と第2固定プレート24との間に介在している保持部材13は、同時に、第1筐体101と第2筐体102との間に介在している。本実施形態では、第1筐体101及び第2筐体102が開状態となったときに、保持部材13を第1筐体101内に収納可能としてある。保持部材13が第1筐体101内に収納されることにより、第1筐体101に設けられているフラットパネルディスプレイと第2筐体102に設けられているフラットパネルディスプレイとが極めて近接し、両者の連続性(一体感)が高まる。
【0062】
図15に示されるように、第1固定プレート23上には、一対のガイド部材26が設けられている。一対のガイド部材26は、水平方向においてベース部材25の両側に配置されており、ベース部材25の垂直方向の移動(上下動)を案内する。具体的には、それぞれのガイド部材26の内側面にはガイド溝が形成されており、ベース部材25の外側面には、ガイド部材26のガイド溝に嵌合するガイド突起が形成されている。
【0063】
図16を参照する。第1固定プレート23上に上下動可能に設けられているベース部材25は、保持部材13によって保持されている第1シャフト15に連結されている。よって、ベース部材25が下方(第1筐体101の内側)に移動すると、保持部材13も同方向に移動して第1筐体101内に収納される。言い換えれば、
図16に示されている第2筐体102を第1筐体101に近づけると、ベース部材25は第1筐体101内において下方に移動し、保持部材13は第1筐体101内に押し込まれる(
図17参照)。この結果、第1筐体101の端部と第2筐体102の端部とが互いに当接する。一方、
図17に示されている第2筐体102を第1筐体101から引き離すと、ベース部材25は第1筐体101内において上方に移動し、保持部材13は第1筐体101から引き出される(
図16参照)。この結果、第1筐体101の端部と第2筐体102の端部との間に隙間が生じる。
【0064】
ここで、第1筐体101及び第2筐体102が開状態でないときには、第1筐体101に対して保持部材13が角度を持っている(
図15参照)。したがって、第1筐体101及び第2筐体102が開状態でないときに保持部材13を第1筐体101内に無理に収納しようとすると、第1筐体101や保持部材13等が破損したり、変形したりする虞がある。また、保持部材13が第1筐体101内に収納されている状態で第1筐体101と第2筐体102とを閉じると、保持部材13が第1筐体101内で回転しようとするので、第1筐体101や保持部材13等が破損したり、変形したりする虞がある。
【0065】
そこで、本実施形態では、上記のような破損や変形を防止するためのロック機構が設けられている。ロック機構は、第1筐体101及び第2筐体102が開状態のときに限って、保持部材13の第1筐体101内への収納を許す。また、ロック機構は、保持部材13が第1筐体101内に収納されているときには、第1筐体101及び第2筐体102の開閉を許さない。以下、ロック機構の構造や動作等について具体的に説明する。
【0066】
図19を参照する。ベース部材25に保持され、水平方向に移動可能な横移動部材33は、ロック機構の構成要素の1つである。横移動部材33は、ピン34及びストッパプレート35を備えている。横移動部材33に設けられているピン34は、第1シャフト15に形成されている螺旋状係合部14に係合している。よって、横移動部材33は、第1筐体101及び第2筐体102の開閉と連動して水平方向に移動する。言い換えれば、第1筐体101及び第2筐体102を開閉させる力は、横移動部材33を第1シャフト15と平行に移動させる力に変換される。
【0067】
横移動部材33は、第1筐体101及び第2筐体102が開状態になると、ストッパプレート35が図示されている縦溝23aの真上に来る位置に移動する。尚、図示されている縦溝23aは、第1固定プレート23に形成されている。
【0068】
上記のようにしてストッパプレート35の位置と、縦溝23aの位置とが一致すると、横移動部材33,横移動部材33を保持しているベース部材25,ベース部材25が連結されている保持部材13等が下方に移動可能となる。つまり、第1筐体101及び第2筐体102が開状態のときには、保持部材13を第1筐体101内へ収納することができる。尚、横移動部材33等が下方に移動する際、ストッパプレート35は、縦溝23a内を通過する。
【0069】
一方、第1筐体101及び第2筐体102が開状態以外の状態のときには、横移動部材33のストッパプレート35の位置と、第1固定プレート23の縦溝23aの位置とが一致しない。よって、横移動部材33は下方に移動することができず、横移動部材33を保持しているベース部材25やベース部材25が連結されている保持部材13等も下方に移動することができない。つまり、第1筐体101及び第2筐体102が開状態以外の状態のときには、保持部材13を第1筐体101内へ収納することはできない。
【0070】
第1固定プレート23に保持され、垂直方向に移動可能な縦移動部材44は、ロック機構の構成要素の1つである。縦移動部材44は、ベース部材25の上下動と連動して、ベース部材25と逆向きに上下動する。具体的には、ベース部材25にはラック25aが設けられ、縦移動部材44にもラック44aが設けられている。そして、ベース部材25のラック25aと縦移動部材44のラック44aとの間に、それらラック25a,44aと噛み合うピニオン45が設けられている。よって、ベース部材25及び縦移動部材44は、ラック・アンド・ピニオンの原理により、互いに逆向きに上下動する。つまり、ベース部材25が上方に移動するとき、縦移動部材44は下方に移動し、ベース部材25が下方に移動するとき、縦移動部材44は上方に移動する。言い換えれば、ベース部材25を上方に移動させる推力は、縦移動部材44を下方に移動させる推力に変換され、ベース部材25を下方に移動させる推力は、縦移動部材44は上方に移動させる推力に変換される。
【0071】
図18を参照する。第1筐体101及び第2筐体102を開状態とした上で、第2筐体102を第1筐体101に近づけていくと、ベース部材25の降下に伴って縦移動部材44が上昇し、縦移動部材44の上部が第1筐体101から突出する。さらに、
図17に示されるように、保持部材13が第1筐体101内に収納されると、第1筐体101から突出している縦移動部材44の上部が第2筐体102内に差し込まれる。この結果、第1筐体101と第2筐体102とに縦移動部材44が跨り、第1筐体101及び第2筐体102の開閉が規制される。
【0072】
一方、
図17に示されている第2筐体102を第1筐体101から引き離していくと、ベース部材25の上昇に伴って縦移動部材44が降下し、縦移動部材44の上部が第2筐体102から引き抜かれる。よって、第1筐体101及び第2筐体102の開閉規制が解除される。
【0073】
尚、
図19に示されるように、ベース部材25には、一対の可動ローラ27a,27bが設けられており、第1固定プレート23には、1つの固定ローラ28が設けられている。可動ローラ27a,27bは、付勢部材によって互いに近接する方向に付勢されている。可動ローラ27a,27bは、ベース部材25が上下動する際、付勢部材の付勢に抗して互いに離間しながら固定ローラ28を乗り越える。これにより、使用者は、第1筐体101及び第2筐体102の開閉時にクリック感を得ることができる。
【0074】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、弾性体としてのコイルばね83は、一端が第3連結部72に当接し、他端が第2連結部66に当接する捩じりばねに置換することができる。また、緩衝部材70は、一端が筐体20に固定され、他端が連結部X1に当接する板ばねに置換することもできる。さらに、弾性体の弾性率(例えば、コイルばね83のばね定数)は、想定される外力に応じて変更することができる。
【0075】
駆動部材60の移動方向は、垂直方向に限られず、例えば斜め方向としてもよい。駆動部材60の移動方向を斜め方向とする場合、ガイド孔62は、垂直方向に伸びる長孔ではなく、斜め方向に伸びる長孔に変更される。
【0076】
駆動部材60に設けられる2つのガイド孔62は、直列ではなく、並列に配置してもよい。また、カム孔63は、頂点Pを中心として左右対称の形状としてもよい。この場合、回転部材50の回転方向によらず駆動部材60の垂直方向の移動量は同じになる。
【0077】
下側当接部64及び上側当接部71の連結部X1に対する当接位置を反転させることにより、上記実施形態における外力とは逆方向の外力を吸収可能に構成することもできる。また、緩衝部材70を増設することにより、上記実施形態における外力と同方向及び逆方向の外力を吸収可能に構成することもできる。
【0078】
本発明に係る推力変換機構の用途はヒンジ装置に限られない。また、本発明に係るヒンジ装置の用途は携帯情報端末に限られない。
【符号の説明】
【0079】
1A,1B:推力変換機構、2:カバープレート、10:シャフト、11:左側シャフト部材、12:右側シャフト部材、13:保持部材、14:螺旋状係合部、15:第1シャフト、16:第2シャフト、20:筐体、21,22:支持部材、23:第1固定プレート、24:第2固定プレート、25:ベース部材、25a:ラック、26:ガイド部材、27a,27b:可動ローラ、28:固定ローラ、30:第1直動部材、31:第1ブロック、31a:挿通孔、32:第1プレート、32a:長孔、33:横移動部材、34:ピン、35:ストッパプレート、40:第2直動部材、41:第2ブロック、41a:挿通孔、42:第2プレート、42a:長孔、42b:ガイド突起、43:操作突起、44:縦移動部材、44a:ラック、45:ピニオン、50:回転部材、51:支持軸、52:係合孔、53:係合突起、60:駆動部材、61:開口部、62:ガイド孔、63:カム孔、64:当接部(下側当接部)、65:第1連結部、66:第2連結部、70:緩衝部材、71:当接部(上側当接部)、72:第3連結部、73:第4連結部、80:連結ピン、81:下側ワッシャ、82:上側ワッシャ、83:コイルばね、90,91:ヒンジ装置、100:携帯情報端末、101:第1筐体、102:第2筐体、FP1,FP2:フラットパネルディスプレイ、P:頂点、X:移動対象物、X1:連結部