(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】ウエハ支持体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240614BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20240614BHJP
C04B 35/583 20060101ALI20240614BHJP
H05B 3/74 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
C04B35/583
H05B3/74
(21)【出願番号】P 2020157051
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591034280
【氏名又は名称】株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】森 一政
(72)【発明者】
【氏名】宗田 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】河野 仁
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 俊一
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/008889(WO,A1)
【文献】特開2010-018853(JP,A)
【文献】国際公開第2019/088203(WO,A1)
【文献】特開2010-076995(JP,A)
【文献】国際公開第2012/039453(WO,A1)
【文献】特開2004-296254(JP,A)
【文献】特開昭61-265265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
C04B 35/583
H05B 3/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マシナブルセラミックスからなる基材と、前記基材に少なくとも一部が内包された導電部材と、を備え、
前記基材は、ウエハが搭載される搭載面を有する支持部と、前記支持部の前記搭載面と反対側に設けられている柱状部と、を有し、
前記導電部材は、前記支持部に内包されており、前記柱状部の上方に設けられている第1の加熱体と、前記第1の加熱体に隣接し、前記柱状部の上方から外れた位置に設けられている第2の加熱体と、を備え、
前記第1の加熱体および前記第2の加熱体は、それぞれ独立した通電制御が可能なように構成されて
おり、
前記マシナブルセラミックスは、
窒化硼素、酸化ジルコニウム、窒化珪素および炭化珪素のセラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、窒化硼素を10~80質量%含有し、窒化珪素を0~80質量%含有し、酸化ジルコニウムを0~80質量%含有し、炭化珪素を0~40質量%含有し、
前記セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、更に焼結助剤成分を3~25質量%含有することを特徴とするウエハ支持体。
【請求項2】
前記基材は、前記支持部と前記柱状部とがつなぎ目のない一部品で構成されており、
前記柱状部は、円筒状または円柱状であることを特徴とする請求項1に記載のウエハ支持体。
【請求項3】
マシナブルセラミックスからなる基材と、前記基材に少なくとも一部が内包された導電部材と、を備え、
前記基材は、ウエハが搭載される搭載面を有する支持部を有し、
前記支持部は、前記搭載面と反対側の面に、ウエハ支持体が用いられる装置本体から延びる柱状部が接する接触部を有し、
前記導電部材は、前記支持部に内包されており、前記接触部の上方に設けられている第1の加熱体と、前記第1の加熱体に隣接し、前記接触部の上方から外れた位置に設けられている第2の加熱体と、を備え、
前記第1の加熱体および前記第2の加熱体は、それぞれ独立した通電制御が可能なように構成されていることを特徴とするウエハ支持体。
【請求項4】
前記マシナブルセラミックスは、窒化硼素、酸化ジルコニウム、窒化珪素および炭化珪素からなる群より選択された窒化硼素を必須とする少なくとも二つ以上の材料からなる焼結体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のウエハ支持体。
【請求項5】
前記導電部材は、モリブデン、タングステン、タンタルおよびそれらを含む合金からなる群から選択される金属材料で構成されていることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のウエハ支持体。
【請求項6】
前記マシナブルセラミックスは、耐熱衝撃温度が600℃以上の材料であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載のウエハ支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ウエハを支持する支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造プロセスの様々な場面で、ウエハの搬送や加熱に静電チャックや加熱ヒータといったセラミックスからなる部品が用いられている。静電チャックやセラミックスヒータは、基材であるセラミックス材料の中に電極や抵抗加熱体といった異種材料が埋設されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2967024号公報
【文献】特許第6030045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のセラミックスヒータは、高温で使用される場合があり、高温に加熱されたウエハ支持体に室温や低温のウエハが載置されると、その温度差により熱衝撃が生じる。そして、熱衝撃が大きいとウエハ支持体が破損する可能性がある。また、ウエハ支持体の温度分布が不均一な場合もウエハ支持体が破損する可能性がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、熱による破損を抑えられる新たなウエハ支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のウエハ支持体は、マシナブルセラミックスからなる基材と、基材に少なくとも一部が内包された導電部材と、を備える。基材は、ウエハが搭載される搭載面を有する支持部と、支持部の搭載面と反対側に設けられている柱状部と、を有する。導電部材は、支持部に内包されており、柱状部の上方に設けられている第1の加熱体と、第1の加熱体に隣接し、柱状部の上方から外れた位置に設けられている第2の加熱体と、を備える。第1の加熱体および第2の加熱体は、それぞれ独立した通電制御が可能なように構成されている。
【0007】
この態様によると、例えば、柱状部を介した放熱により、支持部での熱の均一性が低下しても、第1の加熱体を第2の加熱体とは別に独立して通電制御することで、支持部での熱の均一性を高めることができる。その結果、支持部内での温度の偏りによる変形や残留応力が減少し、ウエハ支持体の破損が抑えられる。
【0008】
基材は、支持部と柱状部とがつなぎ目のない一部品で構成されており、柱状部は、円筒状または円柱状であってもよい。これにより、ウエハ支持体自体には接合部(つなぎ目)がないため、原理的にリークが生じない。
【0009】
本発明の別の態様もまた、ウエハ支持体である。このウエハ支持体は、マシナブルセラミックスからなる基材と、基材に少なくとも一部が内包された導電部材と、を備える。基材は、ウエハが搭載される搭載面を有する支持部を有する。支持部は、搭載面と反対側の面に、ウエハ支持体が用いられる装置本体から延びる柱状部が接する接触部を有する。導電部材は、支持部に内包されており、接触部の上方に設けられている第1の加熱体と、第1の加熱体に隣接し、接触部の上方から外れた位置に設けられている第2の加熱体と、を備える。第1の加熱体および第2の加熱体は、それぞれ独立した通電制御が可能なように構成されている。
【0010】
この態様によると、例えば、柱状部を介した放熱により、支持部での熱の均一性が低下しても、第1の加熱体を第2の加熱体とは別に独立して通電制御することで、支持部での熱の均一性を高めることができる。その結果、支持部内での温度の偏りによる変形や残留応力が減少し、ウエハ支持体の破損が抑えられる。
【0011】
マシナブルセラミックスは、窒化硼素、酸化ジルコニウム、窒化珪素および炭化珪素からなる群より選択された窒化硼素を必須とする少なくとも二つ以上の材料からなる焼結体であってもよい。窒化硼素は、被削性に優れており、窒化硼素を必須成分とするマシナブルセラミックスを用いることで加工レートを大きくできる。また、基材の内部に異種材料である導電部材が内包されたウエハ支持体の場合、基材と導電部材の物性の違いによっては温度変化に対して内部応力が生じる。または、ウエハ支持体の外周部と中心部の温度差によって熱応力が生じる。しかしながら、窒化硼素は、優れた耐熱衝撃性を有しているため、基材が割れにくくなる。
【0012】
マシナブルセラミックスは、窒化硼素、酸化ジルコニウム、窒化珪素および炭化珪素のセラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、窒化硼素を10~80質量%含有し、窒化珪素を0~80質量%含有し、酸化ジルコニウムを0~80質量%含有し、炭化珪素を0~40質量%含有してもよい。セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、更に焼結助剤成分を3~25質量%含有してもよい。
【0013】
導電部材は、モリブデン、タングステン、タンタルおよびそれらを含む合金からなる群から選択される金属材料で構成されていてもよい。
【0014】
マシナブルセラミックスは、耐熱衝撃温度が600℃以上の材料であってもよい。これにより、ウエハ支持体の破損が抑えられる。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。また、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱による破損を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施の形態に係るウエハ支持体の概略断面図である。
【
図2】本実施の形態に係るウエハ支持体の上面図である。
【
図3】所定形状(円柱状)の焼結体から、本実施の形態に係るウエハ支持体が削り出される様子を説明するための模式図である。
【
図4】
図1に示すウエハ支持体の変形例の概略構成を示す模式図である。
【
図5】残留応力のアンバランスが生じる抵抗加熱体の配置を説明する模式図である。
【
図6】
図4に示すウエハ支持体の支持部の変形例の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0019】
(ウエハ支持体)
ウエハ支持体は、シリコンウエハ等の半導体基板を支持できればよく、吸着機構や加熱機構を備えていてもよい。例えば、ウエハ支持体は、単にウエハを搭載するサセプタであってもよい。また、ウエハ支持体は、搭載されたウエハに対して吸着力を生じる静電チャックや、ウエハを加熱するヒータであってもよい。また、ウエハ支持体が支持する対象物は、主にウエハであるが、その他の部材や部品を支持するものであってもよい。
【0020】
本実施の形態では、ウエハ支持体がヒータ付きの静電チャックである場合を一例に説明する。
図1は、本実施の形態に係るウエハ支持体の概略断面図である。
図2は、本実施の形態に係るウエハ支持体の上面図である。
【0021】
本実施の形態に係るウエハ支持体10は、マシナブルセラミックスからなる基材12と、基材12に少なくとも一部が内包された導電部材14,16と、を有する。基材12は、ウエハWが搭載される搭載面18aを有する支持部18と、支持部18の搭載面18aと反対側に設けられている柱状部20と、を有している。本実施の形態に係る支持部18は円板状であり、柱状部20は円筒状であり、支持部18と柱状部20とがつなぎ目のない一部品で構成されている。柱状部20は、円柱状または角柱状であってもよい。
【0022】
導電部材14は、基材12の搭載面18aにウエハWを固定するための吸着力を発生させる電流が流れる静電チャック電極14a,14bとして機能する。また、導電部材16は、支持部18に内包されており、柱状部20の上方に設けられている第1の抵抗加熱体16aと、柱状部20の上方から外れた位置に設けられている第2の抵抗加熱体16bと、を備える。第1の抵抗加熱体16aおよび第2の抵抗加熱体16bは、それぞれ独立した通電制御が可能なように構成されており、受動素子や能動素子を含む制御回路(不図示)によって、ウエハ全体が均一な所望の温度になるように各加熱体に通電する電流が制御される。
【0023】
なお、本実施の形態に係るウエハ支持体10において、導電部材14,16は、焼結体である基材12の支持部18に埋設されている。そのため、導電部材14,16は、焼成の段階で原料粉末の内部に配置されている必要があり、焼成温度で溶けないような高融点金属であることが好ましい。例えば、導電部材の材料としては、モリブデン、タングステン、タンタル等の高融点金属や、それらを二種以上含む合金が好ましい。
【0024】
(マシナブルセラミックス)
本発明者は、ウエハ支持体に適した材料を見出すために鋭意検討した結果、加工性がよい(快削性を有する)いわゆるマシナブルセラミックスからなる焼結体が好ましいことを見出した。
【0025】
マシナブルセラミックスは、一般的なファインセラミックス、例えば酸化アルミニウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素等と比較して、機械加工が容易である。つまり、マシナブルセラミックスにおいては、セラミックスの加工で問題になるチッピングと呼ばれる欠けが発生しにくく、複雑な加工が可能となる。また、マシナブルセラミックスの加工時の研削量(加工レート)は、ファインセラミックスの加工時の研削量の数倍から数百倍であり、効率のよい加工が可能である。
【0026】
マシナブルセラミックスはセラミックス成分となる複数の原料化合物が混合されている複合材であり、例えば、炭化珪素(SiC)の配合割合によって、体積抵抗率を調整できる。その結果、クーロン型やジョンソンラーベック型といった静電チャックの吸着機構のどちらにも対応できる。また、ヒータの場合は炭化珪素を添加しないことで絶縁体として使用できる。なお、マシナブルセラミックスは全体が均一組成である必要はなく、ウエハWが搭載される搭載面18aに近い導電部材14を収容する部分、支持部18の中心部にある導電部材16を収容する部分、柱状部20に近い部分のそれぞれで、各部分の機能が最適になるように組成を異ならせてもよい。
【0027】
更に主成分の一つに窒化硼素(BN)が挙げられているが、一般的な酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化珪素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)に比べ優れた耐熱衝撃性を有しており、製品であるウエハ支持体になった際、割れによる破損を防止することができる。
【0028】
本実施の形態係るマシナブルセラミックスは、窒化硼素、酸化ジルコニウム、窒化珪素および炭化珪素からなる群より選択された窒化硼素を必須とする少なくとも二つ以上の材料からなる焼結体である。窒化硼素は、被削性にも優れており、窒化硼素を必須成分とするマシナブルセラミックスを用いることで加工レートを大きくできる。また、基材の内部に異種材料である導電部材が内包されたウエハ支持体の場合、基材と導電部材の物性の違いによっては温度変化に対して内部応力が生じる。または、ウエハ支持体の外周部と中心部の温度差によって熱応力が生じる。しかしながら、窒化硼素は、優れた耐熱衝撃性を有しているため、基材が割れにくくなる。
【0029】
本実施の形態に係るマシナブルセラミックスは、窒化硼素、酸化ジルコニウム、窒化珪素および炭化珪素のセラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、窒化硼素を10~80質量%含有し、窒化珪素を0~80質量%含有し、酸化ジルコニウムを0~80質量%含有し、炭化珪素を0~40質量%含有しているとよい。
【0030】
また、本実施の形態に係るマシナブルセラミックスは、焼結助剤成分を含有している。焼結助剤は、窒化珪素や窒化硼素の焼結に使用されているものから選択することができる。好ましい焼結助剤は酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化イットリウム(イットリア)、およびランタノイド金属の酸化物から得られた1種若しくは2種以上である。より好ましくはアルミナとイットリアの混合物、若しくはこれに更にマグネシアを添加した混合物、若しくはイットリアとマグネシアの混合物等である。
【0031】
焼結助剤成分の配合量は、セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、外掛けで1~25質量%、特に3~25質量%の範囲とすることが望ましい。焼結助剤成分の配合量が1質量%以上、好ましくは3質量%以上であれば、緻密化しやすくなり、焼結体の密度不足や機械的特性の低下を抑制できる。一方、焼結助剤成分の配合量が25質量%以下であれば、強度の低い粒界相が低減されることで、機械的強度の低下や粒界相の増加による加工性の低下が抑制できる。
【0032】
なお、窒化硼素は、被削性に優れるものの強度特性が悪い。したがって、焼結体中に粗大な窒化硼素が存在すると、それが破壊起点となって、加工時のカケ、割れ発生要因となる。このような粗大な窒化硼素粒子を形成しないためには、原料粉末を微粉にすることが有効である。主原料粉末、特に窒化硼素の原料粉末は平均粒径2μm未満のものを使用することが望ましい。窒化硼素は、六方晶系(h-BN)低圧相のものや立方晶系(c-BN)高圧相のものなどが存在するが、快削性の観点では六方晶系の窒化硼素が好ましい。また、加工性の観点では、窒化硼素が多いほど、また、窒化珪素(および酸化ジルコニウム)が少ないほど好ましい。また、機械的強度やヤング率は、窒化硼素が多いほど、また、窒化珪素(および酸化ジルコニウム)が少ないほど低くなる。
【0033】
マシナブルセラミックスとしては、例えば、BN含有窒化珪素系セラミックス(「ホトベールII」、「ホトベールII-k70」:株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ製)が挙げられる。なお、ホトベールII-k70の組成は、窒化硼素が38.5質量%、窒化珪素が54.1質量%、イットリアが5.5質量%、マグネシア1.9質量%である。このBN含有窒化珪素系セラミックスは、曲げ強度が600MPa以下、ヤング率が250GPa以下、ビッカース硬度が5GPa以下である。このような特性を有するマシナブルセラミックスは、加工時の単位時間当たりの研削量(加工レート)が大きく、複雑な形状のウエハ支持体であっても効率良く生産できる。また、基材を単純な形状のブロックとして作製してから、所望の形状に切削加工することで、一部品で複雑なウエハ支持体を製造できる。
【0034】
(焼結体の製造方法)
まず、後述する各実施例や各比較例の配合量に応じて、窒化硼素、酸化ジルコニウム、窒化珪素および炭化珪素等のセラミックス成分となる主原料粉末と、セラミックス成分の合計を100質量%とした場合に、3~25質量%の焼結助剤粉末と、を混合して原料粉末を調製する。この混合は、例えば、湿式ボールミル等により行うことができる。
【0035】
次に、原料粉末または成型体あるいはその両方を高温加圧下で成形し、焼成することで焼結体が作製される。なお、原料粉末または成型体の一部を焼結体に置き換えてもよい。また、ヒータのための抵抗加熱体や静電チャックの電極を焼結体の内部に設けるためには、ホットプレス装置に原料粉末、成型体または焼結体を充填する際に、焼成後に導電体となる部材や材料(例えば、金属板、金属箔、導電ペースト、コイル、メッシュ等)を所定位置に配置(埋設)すればよい。なお、導電体の形状は特に限定されない。この焼成は、例えば、ホットプレス装置を用いて行うことができる。ホットプレスは、非酸化性(不活性)雰囲気である例えば窒素やアルゴン雰囲気中で行うが、加圧窒素中で行ってもよい。ホットプレス温度は例えば、1300~1950℃の範囲である。温度が低すぎると焼結が不十分となり、高すぎると主原料の熱分解が起こるようになる。加圧力は20~50MPaの範囲内が適当である。ホットプレスの持続時間は温度や寸法にもよるが、通常は1~4時間程度である。高温加圧焼結は、HIP(ホットアイソスタティクプレス)により行うこともできる。この場合の焼結条件も、当業者であれば適宜設定できる。
【0036】
その後、焼結体を所望の形状に加工し、ウエハ支持体が製造される。本実施の形態に係るマシナブルセラミックスは、高強度で高マシナブル性(快削性)を有するので、複雑な微細加工が工業的に現実的な時間で可能である。
図3は、所定形状(円柱状)の焼結体22から、本実施の形態に係るウエハ支持体10が削り出される様子を説明するための模式図である。
【0037】
図3に示すように、本実施の形態に係る焼結体22は、直径Lが300~450mm、厚みdが100~300mm程度の円柱状の部材である。このように単純な形状であれば、ホットプレス装置において複雑な型を用いずに済み、均一で緻密な焼結体を作製できる。その後、切削機械を用いて領域R1~R3を順次切削することで、所望の形状のウエハ支持体が作製される。
【0038】
前述のように、本実施の形態に係るマシナブルセラミックスは加工レートが大きいため、非常に硬く加工レートが小さい一般的なファインセラミックスと比較して、短時間で多くの領域を削ることができる。つまり、ホットプレス装置における焼成によって基材12を作製する段階で複雑な形状を実現しなくても、基材12を作製してから加工ができるため、様々な形状のウエハ支持体の製造が可能となる。
【0039】
また、ウエハ支持体は、半導体プロセスのような高真空環境下で使用されることが多く、ウエハ支持体を介したリークを抑えることが重要である。特に、ウエハ支持体が、ウエハを搭載する支持部と、その他の部分(シャフト、管、フランジ等)とが別部品で構成されている場合、部品同士を接合処理や機械締結した箇所からのリークが問題となる。しかしながら、本実施の形態に係るウエハ支持体は全体が一部品であり、接合部(つなぎ目)がないため、原理的にリークが生じない。
【0040】
また、つなぎ目がなく全体が一部品であるウエハ支持体は、ヒートサイクルや熱衝撃に対する耐性が向上し、製品の信頼性向上につながる。更に、半導体プロセス中で腐食ガス等を用いる場合であっても、ウエハ支持体全体がセラミックス一体型であるため、耐腐食性も向上する。
【0041】
また従来のファインセラミックスの場合、搭載面の表面の算術平均粗さRaが大きいと静電チャックとウエハとの間からガスが漏れやすかった。一方、本実施の形態に係るウエハ支持体10の搭載面18aの表面の算術平均粗さRaは0.1~0.6μmの範囲であるが、ガスの漏れは検出されていない。
【0042】
[実施例]
次に、各実施例や各比較例に係るウエハ支持体の特性について説明する。各実施例および各比較例におけるセラミックス成分および焼結助剤成分の含有量は表1に示すとおりである。
【表1】
【0043】
(体積抵抗率の温度依存性)
ウエハ支持体を静電チャックとして用いる場合、適正な吸着力を発生させるために支持部18の体積抵抗率が所望の範囲である必要がある。例えば、クーロン型(高抵抗材)の静電チャックの場合、体積抵抗率は1014Ωcm前後が望ましい。一方、ジョンソンラーベック型(低抵抗材)の静電チャックの場合、体積抵抗率は109~1011Ωcmの範囲が望ましい。そこで、静電チャックとして機能する本実施の形態に係るウエハ支持体の体積抵抗率は、25~500℃の温度範囲において106~1016Ωcm程度の範囲となるように調整されている。これにより、ウエハ支持体を静電チャックとして用いることができる。
【0044】
また、ジョンソンラーベック型の静電チャックの場合、体積抵抗率が変化すると、静電吸着力が変化するとされている。そのため、体積抵抗率の温度依存性が少ないウエハ支持体であれば、様々な使用温度において共用できる。例えば、実施例1、2、4、6~8に係るウエハ支持体の25℃における体積抵抗率は1.5×108~7.0×1011Ωcmであり、ジョンソンラーベック型の静電チャックとして使用できる。加えて、実施例1、2、4、6、8に係るウエハ支持体は、25~500℃の温度範囲での体積抵抗率の変化が二桁程度であり、材料の異なるウエハ支持体を使い分けなくても様々なプロセス温度での使用が可能である。また、実施例3に係るウエハ支持体は、少なくとも25~200℃の温度範囲で、クーロン型の静電チャックとして使用できる。
【0045】
(吸着力)
次に、ウエハ支持体の吸着力について説明する。
図1に示すように、ウエハ支持体10は、チャンバ側に露出する搭載面18aから柱状部20の内部を通過して外部のガス供給源(不図示)まで繋がっているガス導入口18bが形成されている。ガス導入口18bは、搭載面18aに吸着されたウエハWを裏面側から冷却するガスを供給するためのものである。ガス導入口18bから搭載面18a側に流入したガスは、放射状の溝18c(
図2参照)によってウエハWの裏面側全体に供給される。したがって、搭載面18aとウエハWとの間で十分な吸着力が発生していないと、搭載面18aとウエハWとの隙間からガスがリークすることになる。そこで、実施例1に係るウエハ支持体を用いて静電チャック電極に所定の電圧(±350V)を印加してウエハWを吸着したところ、ガス供給源からのArガス圧が25Torrまでリークが発生しないことが確認された。
【0046】
このように、搭載面18aとウエハWとの間からリークしない程度の吸着力を発生させる電圧を印加し、ウエハ支持体の温度を上げると、体積抵抗率が低下することで、ウエハWに流れる電流が増大する。このような電流の増大は、ウエハに対するプロセス上好ましくない。そこで、搭載面18aとウエハWとの間で静電吸着が生じている状態で、25℃~500℃まで昇温し、室温で調整を行った電圧を一定に維持しながら、電流の変化を測定した。その結果、実施例1,2,6~8に係るウエハ支持体は、電流上昇量が許容内の上昇であった。
【0047】
(リークテスト)
本実施の形態に係るウエハ支持体のように、接合部がないシームレス品のシャフトや筒といった柱状部20の気密性評価を行った。ヘリウムリークディティクターに接続して、シャフトや筒と呼ばれる部分の内部を真空にし、外部からヘリウムを吹き付けた。ヘリウムリークディティクターとして、アルバック株式会社製HERIOT901D2を用いた。実施例1~3、6に係るウエハ支持体で評価をした結果、1×1012Pa・m3/sec以下のリーク量で装置の検出限界以下であった。
【0048】
(耐熱衝撃)
ウエハ支持体は、高温プロセスで使われる場合があり、急激な温度変化にどこまで耐えられるかという耐熱衝撃性が求められる。耐熱衝撃性ΔTは下記式で表される。
ΔT=σ/(E×α)(E:ヤング率、α:熱膨脹係数、σ:強度)
【0049】
窒化硼素は、熱膨張係数およびヤング率が小さく、高強度の他のセラミックスと複合することで、耐熱衝撃性が高く高強度の複合セラミックスが得られる。耐熱衝撃性については、JIS R1615に準拠し、ウエハ支持体と同じ組成で作製した試験片(40×4×3mm)を大気中で加熱し、所定の温度に保持してから、室温の水中に投下して急冷し、クラックや剥離が生じるかを観察した。また、50℃刻みで加熱温度を上げていき、その際に3点曲げ強度を測定し、加熱急冷前の試験片での強度の90%以上となる温度を耐熱衝撃温度ΔTとした。各実施例および各比較例に係るウエハ支持体と同じ組成の試験片の耐熱衝撃温度ΔTを表2に示す。
【表2】
【0050】
表2の耐熱衝撃性の欄において、耐熱衝撃温度が600℃以上であったものを「〇」、600℃未満であったものを「×」と判定した。表2に示すように、窒化硼素が多く含まれている実施例1~10に係るウエハ支持体は、耐熱衝撃温度が600℃以上の材料であり、良好な耐熱衝撃性が得られた。これにより、ウエハ支持体の破損が抑えられる。
【0051】
次に、高い耐熱衝撃温度が必要な半導体プロセスについて説明する。多くの半導体プロセスの中で、例えば成膜プロセスにおいて、膜の密着性や成膜速度を上げるためにウエハを500℃以上に加熱する場合がある。加熱されたウエハ支持体に、室温や低温のウエハが搬送されると、表面に熱衝撃が生じる。そのため、従来、ウエハ支持体に使用されている耐熱衝撃温度が400℃以下の窒化アルミやアルミナは、破損しやすかった。そこで、熱衝撃を和らげるために、ウエハを予め温める機構を設けると、プロセスにおけるスループットの低下や装置の大型化を招くといった問題がある。
【0052】
これに対して、各実施例に示すように、体熱衝撃温度が600℃以上のウエハ支持体であれば、100℃/min以上の急速昇温が生じるプロセスであっても破損を抑えられる。
【0053】
また、ウエハ支持体を高温で使用する場合、
図1に示すように、ウエハ支持体が設けられている装置本体への熱影響を抑えるために、支持部18の外周部や中心部を保持する柱状部20が設けられている。そのため、柱状部20から熱の伝導により冷却され、支持部18や搭載面18aでの均熱性が損なわれる。特に、柱状部20は装置保護のための冷却機構を持つことが多い。
【0054】
そこで、
図1に示すウエハ支持体10のように、柱状部20の上方に設けられている第1の抵抗加熱体16aと、柱状部20の上方から外れた位置に設けられている第2の抵抗加熱体16bと、を備えることで、熱が外部に伝熱しやすい柱状部20の上方に設けられている第1の抵抗加熱体16aへの通電量(電流)を、第2の抵抗加熱体16bへの通電量(電流)とは別に制御できる。これにより、ウエハ支持体10の支持部18や搭載面18aにおける温度分布の均一性を上げることができる。
【0055】
つまり、例えば、柱状部20を介した放熱により、支持部での熱の均一性が低下しても、第1の抵抗加熱体16aを第2の抵抗加熱体16bとは別に独立して通電制御することで、支持部18での熱の均一性を高めることができる。その結果、支持部18内での温度の偏りによる変形や残留応力が減少し、ウエハ支持体10の破損が抑えられる。
【0056】
図4は、
図1に示すウエハ支持体の変形例の概略構成を示す模式図である。
図4に示すウエハ支持体30は、円板状の支持部32と、支持部32の搭載面32aと反対側に設けられている円柱形状の柱状部34と、を備える。支持部32は、二層になっており、下層32bの内部に、第1の抵抗加熱体36aと第2の抵抗加熱体36bとが埋設されている。また、第1の抵抗加熱体36aは、柱状部34の上方に設けられており、第2の抵抗加熱体36bは、柱状部34の上方から外れた位置に設けられている。また、第1の抵抗加熱体36aおよび第2の抵抗加熱体36bは、それぞれ独立した通電制御が可能なように構成されており、受動素子や能動素子を含む制御回路によって、ウエハが均一な所望の温度になるように各加熱体に通電する電流が制御される。
【0057】
このように、それぞれ独立した通電制御が可能な複数の抵抗加熱体を設けることで、支持部や搭載面における温度分布の均一性を上げることができるが、複数の抵抗加熱体の配置によっては、ホットプレス炉にて加圧焼成を行うと、残留応力のアンバランスが生じる可能性がある。
【0058】
なお、柱状部34が支持部32と別部品であり、ウエハ支持体10が用いられる装置本体から柱状部34が延びている場合、支持部32は、搭載面32aと反対側の面に、柱状部34が接する接触面32dを有する。この場合、導電部材は、支持部32に内包されており、接触部32dの上方に設けられている第1の抵抗加熱体36aと、第1の抵抗加熱体36aに隣接し、接触面32dの上方から外れた位置に設けられている第2の抵抗加熱体36bと、を備えることになる
【0059】
図5は、残留応力のアンバランスが生じる抵抗加熱体の配置を説明する模式図である。
図5に示すように、第2の抵抗加熱体36bを支持部32の下層32bに、第1の抵抗加熱体36aを支持部32の上層32cに配置した場合、加圧焼成の際に生じるアンバランスな残留応力と、加熱時の熱応力が合わさり、支持部32が反るように変形し、割れるおそれがある。
【0060】
そこで、複数の抵抗加熱体を積層して配置する場合には以下のレイアウトが有効である。
図6は、
図4に示すウエハ支持体の支持部の変形例の概略構成を示す模式図である。
図6に示すように、下層32bや上層32cの両方の層に抵抗加熱体を配置する場合、各層で抵抗加熱体が均等に配置されているとよい。具体的には、上層32cの全体にわたって第3の抵抗加熱体36cが埋設されている場合は、下層32bにおいても、第1の抵抗加熱体36aおよび第2の抵抗加熱体36bが全体にわたって埋設されているとよい。これにより、ホットプレス焼成を行う場合に変形しにくい残留応力の分布となる。
【0061】
なお、ウエハ支持体を室温付近で使用する場合であっても、給電のための端子をウエハ支持体に溶接(金属ロウ付け)するといった処理(900℃)において、
図5に示す支持部32に破損が生じるおそれがある。これは、耐熱衝撃性の高い(熱膨張率の小さい)セラミックスからなる支持部32に対し、金属からなる抵抗加熱体の熱膨脹率が大きいために生じると考えられる。しかしながら、そのような場合であっても、
図6に示す支持部32の構成であれば破損が抑制される。
【0062】
(他の態様)
図1に示すウエハ支持体10は、接合や削り出しにより外見的につなぎ目がない一部品であるが、必ずしも一部品である必要はない。例えば、基材12における支持部18を構成する部分と、柱状部20とを別部品にし、ネジなどの接合部品で一体化したウエハ支持体であってもよい。この場合、柱状部20はセラミックス材料でも金属材料でもよい。
【0063】
このように、ウエハ支持体10が2部品以上であり、セラミックス材料からなる基材12に対して、金属材料からなる柱状部20を接合して一体化した場合、柱状部20を介した熱の流出(冷却)が大きくなる。しかしながら、このような構成であっても、柱状部20の上方にある第1の抵抗加熱体16aの通電量を増加させることで、支持部18の温度を均一にでき、ウエハ支持体10の破損が抑えられる。
【0064】
また、本実施の形態に係る窒化硼素は、熱伝導率の異方性を有するものであってもよく、ウィスカー(髭状結晶)であってもよい。また、
図1に示すように、ウエハWを加熱する際にウエハ全体の温度をより均一化するためのガスを、ウエハWと搭載面18aとの間に導入してもよい。その際、ガスが導入されるスペースがウエハWと搭載面18aとの間に必要なため、搭載面18aの表面に小さな凸形状を複数形成してもよい。凸形状は、例えば、エンボス、メサ、ドット等の形状であってよい。凸形状は、機械加工やブラスト加工で形成してもよいし、TiN膜やDLC膜等の凸部(縞状部分)を搭載面18aの表面にパターン状に形成してもよい。
【0065】
以上、本発明を上述の実施の形態や実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0066】
18…支持部、20…柱状部、16a…第1の抵抗加熱体、16b…第2の抵抗加熱体、10…ウエハ支持体、12…基材、18a…搭載面、30…ウエハ支持体、32…支持部、32a…搭載面、36a…第1の抵抗加熱体、36b…第2の抵抗加熱体、32b…下層、32c…上層、34…柱状部。