(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 305
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/01 127
(21)【出願番号】P 2020159016
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】谷 和真
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196787(JP,A)
【文献】特開2015-058616(JP,A)
【文献】特開2005-199696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷装置であって、
長尺帯状の基材を搬送方向に搬送する搬送機構であって、
前記基材を搬送するための第1
駆動ローラと、
前記第1
駆動ローラよりも搬送方向の下流側に位置し、前記基材を搬送するための第2
駆動ローラと、
を有する搬送機構と、
前記基材の張力を検出する張力検出器と、
前記張力検出器によって検出される値に基づいて、前記第1駆動ローラの回転速度と前記第2駆動ローラの回転速度を制御する速度制御部と、
搬送方向において前記第1
駆動ローラと前記第2
駆動ローラの間に位置し、インクを吐出する第1吐出部および第2吐出部と、
前記第1
駆動ローラと前記第2
駆動ローラの回転速度の差に基づいて、前記基材の伸縮量を取得する伸縮量取得部と、
前記伸縮量に応じて、前記第1吐出部および前記第2吐出部からのインクの吐出を制御する吐出制御部と、
を備える、インクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記第2吐出部は、前記第1吐出部よりも搬送方向の下流側に位置し、
前記吐出制御部は、前記第1吐出部がインクを吐出するタイミングと、前記伸縮量とに基づいて、前記第2吐出部がインクを吐出するタイミングを決定する、インクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット印刷装置であって、
搬送方向において、前記第1吐出部と前記第2吐出部との間に位置し、前記第1吐出部が前記基材に吐出したインクを硬化させるエネルギー線を照射する照射部、
をさらに備える、インクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置であって、
搬送方向と直交する幅方向において、前記第2吐出部が前記第1吐出部とは異なる位置にある、インクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記伸縮量に応じて、幅方向に関して画像データを伸縮させる画像処理部、
をさらに備え、
前記吐出制御部は、前記画像処理部によって補正された前記画像データに基づいて、前記第1吐出部および前記第2吐出部からの前記インクの吐出を制御する、インクジェット印刷装置。
【請求項6】
請求項
2または請求項
3に記載のインクジェット印刷装置であって、
前記吐出制御部は、前記第1吐出部がインクを吐出するタイミングと、前記伸縮量としての前記回転速度の差をP項に含むPID制御に基づいて算出される補正値とを用いて、前記第2吐出部がインクを吐出するタイミングを決定する、インクジェット印刷装置。
【請求項7】
インクジェット印刷方法であって、
(a) 長尺帯状の基材を、前記基材を搬送するための第1
駆動ローラと、前記第1
駆動ローラよりも搬送方向の下流側に位置し、前記基材を搬送するための第2
駆動ローラと、を有する搬送機構により搬送する工程と、
(b) 基材の張力を検出する工程と、
(c) 前記工程(b)によって検出された値に基づいて、前記第1駆動ローラと前記第2駆動ローラの回転速度を制御する工程と、
(d) 前記第1駆動ローラと前記第2駆動ローラの回転速度の差に基づいて、前記基材の伸縮量を算出する工程と、
(e) 前記工程(d)によって取得される前記伸縮量に応じて、搬送方向において前記第1駆動ローラと前記第2駆動ローラの間に位置する第1吐出部および第2吐出部から、前記工程(a)によって搬送される前記基材に対してインクを吐出させる工程と、
を含む、インクジェット印刷方法。
【請求項8】
請求項7に記載のインクジェット印刷方法であって、
前記第2吐出部が、前記第1吐出部よりも搬送方向の下流側に位置し、
前記工程(
e)が、前記伸縮量と、前記第1吐出部からインクを吐出するタイミングとに基づいて、前記第2吐出部からインクを吐出するタイミングを決定する工程、
を含む、インクジェット印刷方法。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット印刷方法であって、
前記工程(e)が、前記第1吐出部からインクを吐出するタイミングと、前記伸縮量としての前記回転速度の差をP項に含むPID制御に基づいて算出される補正値とを用いて、前記第2吐出部がインクを吐出するタイミングを決定する工程、を含む、インクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置およびインクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、インクジェットプリンタにおける画像形成処理を開示している。このインクジェットプリンタは、ヘッドに対して基材を走査方向に移動させつつ、走査方向に配列された複数のヘッドから、異なる色のインクを吐出することによって、画像を形成している。ホワイト(W)のインクを吐出するヘッドアッセンブリにより基材上にWの画像が形成される。基材上のWのインクは、紫外線により仮硬化される。続いて、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各インクを吐出する4個のヘッドアッセンブリによって、基材にK,C,M,Yのカラー画像が形成される。その後、基材上のK,C,M,Yのインクは、紫外線によって本硬化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、基材に対して印刷を行っている間に、基材が伸縮する場合があった。例えば、特許文献1のように、Wのインクを仮硬化させる場合、Wのインクの仮硬化によって基材が縮む可能性があった。基材に縮みが生じた場合には、Wの画像と、CMYKの各画像とを精確に位置合わせ(見当合わせ)することが困難となる可能性がある。従来技術は、このような基材の伸縮に対応することは何ら試みていない。
【0005】
本発明の目的は、基材が伸縮した場合であっても、複数のインク吐出部が形成する各画像の位置ずれを軽減させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1態様は、インクジェット印刷装置であって、長尺帯状の基材を搬送方向に搬送する搬送機構であって、前記基材を搬送するための第1駆動ローラと、前記第1駆動ローラよりも搬送方向の下流側に位置し、前記基材を搬送するための第2駆動ローラと、を有する搬送機構と、前記基材の張力を検出する張力検出器と、前記張力検出器によって検出される値に基づいて、前記第1駆動ローラの回転速度と前記第2駆動ローラの回転速度を制御する速度制御部と、搬送方向において前記第1駆動ローラと前記第2ローラの間に位置し、インクを吐出する第1吐出部および第2吐出部と、前記第1駆動ローラと前記第2駆動ローラの回転速度の差に基づいて、前記基材の伸縮量を取得する伸縮量取得部と、前記伸縮量に応じて、前記第1吐出部および前記第2吐出部からのインクの吐出を制御する吐出制御部とを備える。
【0007】
第2態様は、第1態様のインクジェット印刷装置であって、前記第2吐出部は、前記第1吐出部よりも搬送方向の下流側に位置し、前記吐出制御部は、前記第1吐出部がインクを吐出するタイミングと、前記伸縮量とに基づいて、前記第2吐出部がインクを吐出するタイミングを決定する。
【0008】
第3態様は、第2態様のインクジェット印刷装置であって、搬送方向において、前記第1吐出部と前記第2吐出部との間に位置し、前記第1吐出部が前記基材に吐出したインクを硬化させるエネルギー線を照射する照射部をさらに備える。
【0009】
第4態様は、第1態様のインクジェット印刷装置であって、搬送方向と直交する幅方向において、前記第2吐出部が前記第1吐出部とは異なる位置にある。
【0010】
第5態様は、第4態様のインクジェット印刷装置であって、前記伸縮量に応じて、幅方向に関して画像データを伸縮させる画像処理部、をさらに備え、前記吐出制御部は、前記画像処理部によって補正された前記画像データに基づいて、前記第1吐出部および前記第2吐出部からの前記インクの吐出を制御する。
【0011】
第6態様は、第2態様または第3態様のインクジェット印刷装置であって、前記吐出制御部は、前記第1吐出部がインクを吐出するタイミングと、前記伸縮量としての前記回転速度の差をP項に含むPID制御に基づいて算出される補正値とを用いて、前記第2吐出部がインクを吐出するタイミングを決定する。
【0012】
第7態様は、インクジェット印刷方法であって、(a)長尺帯状の基材を、前記基材を搬送するための第1駆動ローラと、前記第1駆動ローラよりも搬送方向の下流側に位置し、前記基材を搬送するための第2駆動ローラと、を有する搬送機構により搬送する工程と、(b)基材の張力を検出する工程と、(c)前記工程(b)によって検出された値に基づいて、前記第1駆動ローラと前記第2駆動ローラの回転速度を制御する工程と、(d)前記第1駆動ローラと前記第2駆動ローラの回転速度の差に基づいて、前記基材の伸縮量を算出する工程と、(e)前記工程(d)によって取得される前記伸縮量に応じて、搬送方向において前記第1駆動ローラと前記第2駆動ローラの間に位置する第1吐出部および第2吐出部から、前記工程(a)によって搬送される前記基材に対してインクを吐出させる工程とを含む。
【0013】
第8態様は、第7態様のインクジェット印刷方法であって、前記第2吐出部が、前記第1吐出部よりも搬送方向の下流側に位置し、前記工程(e)が、前記伸縮量と、前記第1吐出部からインクを吐出するタイミングとに基づいて、前記第2吐出部からインクを吐出するタイミングを決定する工程を含む。
第9態様は、第8態様のインクジェット印刷方法であって、前記工程(e)が、前記第1吐出部からインクを吐出するタイミングと、前記伸縮量としての前記回転速度の差をP項に含むPID制御に基づいて算出される補正値とを用いて、前記第2吐出部がインクを吐出するタイミングを決定する工程、を含む。
【発明の効果】
【0014】
第1態様のインクジェット印刷装置によると、第1駆動ローラと第2駆動ローラの回転速度の差に基づいて、第1駆動ローラと第2駆動ローラとの間における基材の伸縮量を適切に取得できる。また、基材の伸縮量に応じて、第1吐出部および第2吐出部のインクの吐出を制御することによって、第1吐出部が形成する画像と、第2吐出部が形成する画像とが、基材の伸縮によって位置ずれすることを軽減できる。
【0015】
第2態様のインクジェット印刷装置によると、搬送方向の上流側にある第1吐出部が形成する画像と、搬送方向の下流側にある第2吐出部が形成する画像とが、基材の伸縮によって位置ずれことを軽減できる。
【0016】
第4態様のインクジェット印刷装置によると、基材の幅方向の伸縮に応じて、幅方向の位置が異なる第1吐出部および第2吐出部からのインクの吐出を制御できる。
【0017】
第5態様のインクジェット印刷装置によると、基材の幅方向の伸縮量に合わせて、第1吐出部および第2吐出部が形成する画像を幅方向に伸縮させることができる。
【0019】
第7態様のインクジェット印刷方法によると、第1駆動ローラと第2駆動ローラの回転速度の差に基づいて、第1駆動ローラと第2駆動ローラの間における基材の伸縮量を適切に取得できる。また、基材の伸縮量に応じて、第1吐出部および第2吐出部のインクの吐出を制御することによって、第1吐出部が形成する画像と、第2吐出部が形成する画像との間における、基材の伸縮による位置ずれを軽減できる。
【0020】
第8態様のインクジェット印刷方法によると、搬送方向の上流側にある第1吐出部が形成する画像と、搬送方向の下流側にある第2吐出部が形成する画像が、基材の伸縮によって位置ずれすることを軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示す図である。
【
図5】画像処理部が画像データを伸縮させる処理を概念的に示す図である。
【
図6】制御部による印刷制御を説明するフローチャートである。
【
図7】第2実施形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0023】
<1. 第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るインクジェット印刷装置1の構成を示す図である。
図2は、記録ヘッド51の吐出面56の一部を示す図である。
図3は、制御部7の構成を示すブロック図である。
図4は、制御部7の機能を示すブロック図である。
【0024】
インクジェット印刷装置1は、搬送機構3により連続搬送される基材9に対して、印刷部5が画像を形成する装置である。基材9は、長尺帯状を有する。基材9は、例えば、印刷用紙、フィルムである。基材9がフィルムである場合、基材9の素材は、たとえば、塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはポリオレフィン(PO)である。
【0025】
搬送機構3は、基材9を、例えば、ロールtoロール方式で連続搬送する。印刷部5は、搬送機構3が搬送する基材9の主面(最も大きい面)に各色のインクを吐出することによって、基材9に画像を形成する。インクジェット印刷装置1は、搬送機構3および印刷部5を制御する制御部7を備える。
【0026】
以下の説明では、搬送機構3によって搬送される基材9の進行方向を、「搬送方向」と称する。基材9の主面に垂直な方向を、「高さ方向」と称する。搬送方向および高さ方向に垂直な方向を、「幅方向」と称する。また、搬送方向の上流側を、単に「上流側」と称する場合がある。搬送方向の下流側を、単に「下流側」と称する場合がある。
【0027】
<搬送機構>
図1に示すように、搬送機構3は、幅方向に延びる回転軸を中心に回転可能とされた複数のローラを備える。複数のローラは、搬送方向の上流側から順に、第1駆動ローラ31、張力測定ローラ32、押圧ローラ33、第1支持ローラ34、第2支持ローラ35、第2駆動ローラ36を含む。
【0028】
第1駆動ローラ31および第2駆動ローラ36は、基材9を搬送方向に送るための搬送ローラである。第1駆動ローラ31および第2駆動ローラ36の各回転軸は、搬送モータ37に接続されている。第1駆動ローラ31および第2駆動ローラ36は、各搬送モータ37の駆動によって、能動的に回転可能である。各搬送モータ37は、制御部7からの制御信号に基づいて動作する。第1駆動ローラ31および第2駆動ローラ36は、それぞれ従動ローラ38を有する。各従動ローラ38は、第1駆動ローラ31および第2駆動ローラ36の外周面に基材9を押し当てることが可能である。
【0029】
張力測定ローラ32は、搬送方向において、第1駆動ローラ31と押圧ローラ33との間に位置する。張力測定ローラ32は、張力測定器39に接続されている。張力測定器39は、張力測定ローラ32を用いて、基材9にかかる張力を測定する。張力測定器39は、制御部7に接続されている。張力測定器39は、基材9にかかる張力を示す検出信号を、制御部7に出力する。
【0030】
第1支持ローラ34は、第1エンコーダ40を有する。第1エンコーダ40は、制御部7に接続されている。第1エンコーダ40は、第1支持ローラ34の回転量に応じてパルス信号を制御部7に出力する。たとえば、第1エンコーダ40は、第1支持ローラ34が所定の角度回転するごとに、パルス信号を出力する。
【0031】
<印刷部>
印刷部5は、搬送方向の上流側から下流側に向かって順に、記録ヘッド51と、記録ヘッド52と、記録ヘッド53と、記録ヘッド54と、記録ヘッド55とを有する。記録ヘッド51~55は、搬送方向において、第1支持ローラ34と第2支持ローラ35との間に位置する。記録ヘッド51~55は、例えば、互いに異なる色のインクを吐出する。例えば、記録ヘッド51はホワイト(W)インクを、記録ヘッド52はシアン(C)インクを、記録ヘッド53はマゼンタ(M)インクを、記録ヘッド54はイエロー(Y)インクを、記録ヘッド55はブラック(K)インクを、それぞれ吐出する。なお、色の種類はWCMYKに限定されるものではない。
【0032】
記録ヘッド51~55は、同じ構造を有する。
図2に示すように、記録ヘッド51は、基材9の主面に対して、高さ方向に対向する吐出面56を有する。吐出面56には、複数のノズル57が設けられている。複数のノズル57は、幅方向において一定間隔で配置されている。また、
図2に示すように、搬送方向に複数の列(ここでは、2列)に配列されている。各ノズル57は、インクジェット素子に接続されている。各インクジェット素子は、制御部7に接続されており、制御部7からの制御信号に基づいて、各ノズル57からインクを吐出する。
【0033】
印刷部5は、第1硬化部58と、第2硬化部59とを有する。第1硬化部58は、搬送方向において、記録ヘッド51と記録ヘッド52との間に位置する。第2硬化部59は、第5ヘッドよりも下流側に位置する。第1硬化部58は、記録ヘッド51から基材9に吐出されたインク(例えば、Wインク)を硬化させる。第2硬化部59は、記録ヘッド52~55から基材9に吐出されたインク(例えば、CMYKインク)を硬化させる。例えば、記録ヘッド51~55がエネルギー線硬化型のインク(例えば、紫外線硬化型インク)を吐出する場合、第1硬化部58および第2硬化部59は、基材9に向けて、エネルギー線(例えば、紫外線)を照射する。第1硬化部58は、照射部の例である。
【0034】
<制御部>
制御部7は、プロセッサ71と、RAM72と、記憶部73と、機器インターフェース74と、通信インターフェース75と、バス76とを備える。
【0035】
プロセッサ71は、例えばCPUまたはGPU等で構成される。プロセッサ71は、バス76を介して、RAM72、記憶部73、機器インターフェース74、通信インターフェース75と電気的に接続されている。RAM72は、各種情報を記憶する揮発性メモリである。記憶部73は、プログラムPを記憶する非一過性の記憶媒体である。
【0036】
制御部7は、機器インターフェース74を介して、入力デバイス77と、ディスプレイ78とに接続される。入力デバイス77は、例えば、キーボード、マウス、またはタッチパネルである。ディスプレイ78は、画像情報や文字情報を表示する。制御部7は、機器インターフェース74を介して、印刷部5の記録ヘッド51~55と、搬送機構3の各搬送モータ37と、張力測定器39と、第1エンコーダ40とに接続される。
【0037】
制御部7は、通信インターフェース75を介して、LANやインターネットなどのネットワークに接続される。
【0038】
図4に示すように、制御部7は、伸縮量取得部81、画像処理部82、および吐出制御部83として機能する。
図4に示す各機能は、プロセッサ71がプログラムPを実行することによって実現される。なお、
図4に示す各機能は、専用回路(ASIC等)によって、ハードウェア的に実現されてもよい。
【0039】
制御部7は、基材9にかかる張力が予め設定された目標張力値に一致するように、張力測定器39の出力に基づいて、第1駆動ローラ31の第1回転速度V1(t)と第2駆動ローラ36の第2回転速度V2(t)とを制御する。本実施形態では、制御部7は、第2駆動ローラ36の第2回転速度V2(t)を一定に保った状態で、張力測定器39に基づいて、基材9にかかる張力が予め設定された目標張力値に一致するように、第1駆動ローラ31の第1回転速度V1(t)を制御する。制御部7は、第1駆動ローラ31の回転速度V1(t)を一定に保った状態で、第2駆動ローラ36の第2回転速度V2(t)を制御してもよい。
【0040】
<伸縮量取得部>
伸縮量取得部81は、第1駆動ローラ31における基材9の第1回転速度と、第2駆動ローラ36における基材9の第2回転速度との速度差を、基材9の伸縮量として取得する。基材9に伸縮が生じた場合、張力測定器39が検出する張力が変化し得る。例えば、基材9が収縮した場合には、張力測定器39が検出する張力が一時的に増加する。このとき、張力測定器39が出力する張力と目標張力値との間に差分が生じる。制御部7はこの差分を解消するために、第1回転速度V1(t)を増加させる。これにより、第1回転速度V1(t)と第2回転速度V2(t)との速度差が基材9の収縮前よりも拡大する。このように、第1回転速度V1(t)と第2回転速度V2(t)との速度差は、基材9の伸縮量に応じて増減する値である。
【0041】
<画像処理部>
画像処理部82は、伸縮量取得部81が取得した伸縮量に応じて、記録ヘッド52~55が記録する画像を表す画像データを、幅方向に伸縮させる補正処理を行う。画像データは、記録ヘッド51~55が形成する画像を表すデータである。画像処理部82は、伸縮量取得部81が取得する伸縮量に応じて、画像データを幅方向に伸縮させる。たとえば、基材9が収縮した場合、画像処理部82は、画像データを幅方向において収縮させる。画像処理部82が実行する補正処理については、後に詳述する。
【0042】
<吐出制御部>
吐出制御部83は、記録ヘッド51~55の各ノズル57からのインクの吐出を制御する。具体的には、吐出制御部83は、記録ヘッド51~55の各ノズル57からインクを吐出する吐出タイミングを決定する。吐出制御部83は、後述するように、伸縮量取得部81が算出した基材9の伸縮量に応じて吐出タイミングを決定する。また、吐出制御部83は、画像処理部82が補正した画像データに基づいて、記録ヘッド51~55の各ノズル57からのインクの吐出を制御する。
【0043】
<吐出タイミング決定処理>
インクジェット印刷装置1では、第1硬化部58が基材9に付着した第1インクを硬化させると、基材9に収縮が生じる可能性がある。基材9に収縮が生じた場合、記録ヘッド52~55が形成する画像と、記録ヘッド51が形成した画像との間に位置ずれが生じる。より具体的には、基材9が第1硬化部58からの紫外線照射により搬送方向に伸縮すると、第1硬化部58よりも下流側の基材9が基材9の伸縮量に応じた量だけ搬送方向上流側にシフトする。この場合に、記録ヘッド51から記録ヘッド52~54までの各距離および基材9の搬送速度のみを参照して生成された記録開始タイミングに基づいて記録ヘッド52~54の画像記録を開始すると、記録ヘッド51が形成する画像(第1画像)と記録ヘッド52~55が形成する画像(第2画像)の位置がずれる可能性がある。
【0044】
これに対して、インクジェット印刷装置1では、伸縮量取得部81が基材9の伸縮量を取得する。そして、吐出制御部83が、取得された伸縮量に応じて、記録ヘッド52~55の各ノズル57からインクを吐出するタイミングを決定する。これにより、基材9に伸縮が生じた場合であっても、記録ヘッド51が形成する画像(第1画像)と記録ヘッド52~55が形成する各画像(第2画像)の位置がずれることを軽減できる。
【0045】
吐出制御部83は、たとえば、記録ヘッド52~55の吐出タイミングt2,t3,t4,t5を、記録ヘッド51の吐出タイミングt1に基づいて相対的に決定する。具体的には、吐出制御部83は、吐出タイミングt2~t5を、記録ヘッド51が吐出した吐出タイミングt1からカウントするパルス数(第1エンコーダ40が出力するパルス数)で管理する。吐出制御部83は、記録ヘッド52~55に対して、それぞれ目標のパルス数を設定する。そして、吐出制御部83は、記録ヘッド51がインクを吐出する吐出タイミングt1から、目標のパルス数をカウントした時点を、各記録ヘッド52~55の吐出タイミングt2~t5とする。
【0046】
たとえば、記録ヘッド51にインクを吐出させてから、記録ヘッド55がインクを吐出させるまでの目標のパルス数をe5とする。パルス数e5は以下の式で表される。
【0047】
e5=A5+u5(t)・・・(1)
【0048】
上記式において、A5は、定数であり、搬送方向における記録ヘッド51から記録ヘッド55までの距離を示す情報である。より具体的には、A5は、記録ヘッド51から第5記録ヘッドまでの距離を、第1エンコーダ40のパルス数に変換した値である。u5(t)は、時間tにおいて適用される補正値である。
【0049】
伸縮量取得部81は、第1回転速度V1(t)と第2回転速度V2(t)との速度差e(t)(=V2(t)-V1(t)))を、基材9の伸縮量として取得する。
【0050】
吐出制御部83は、基材9の伸縮量を示す速度差e(t)に基づき、補正値u5(t)を算出する。具体的には、吐出制御部83は、PID制御(Proportional-Integral-Derivative control)に基づいて、補正値u5(t)を算出してもよい。この場合、補正値u5(t)は、PID制御におけるP項と、I項と、D項とによって、以下の式で表される。
【0051】
u5(t)=[P項]+[I項]+[D項]・・・(2)
【0052】
上記式において、P項は、以下の式で表される。
【0053】
[P項]=Kp×e(t)・・・(3)
【0054】
上記式において、Kpは、e(t)をP項に変換するために適宜決定される比例ゲインである。
【0055】
吐出制御部83は、記録ヘッド55の吐出タイミングt5を、補正値u5(t)に基づいて、決定する。
【0056】
このように、吐出制御部83は、速度差e(t)(第1駆動ローラ31と第2駆動ローラ36の回転速度の差)を基材9の伸縮量とみなし、記録ヘッド51が吐出するタイミングから記録ヘッド55が吐出するタイミングまでの時間に相当するパルス数e5を、速度差e(t)に応じて逐次的に設定する。
【0057】
吐出制御部83は、速度差e(t)に基づいて、記録ヘッド52,53,54の吐出イミングも決定してもよい。具体的には、吐出制御部83は、記録ヘッド55の吐出タイミングt5を最適化するために算出した補正値u5(t)に基づいて、記録ヘッド52,53,54の各吐出タイミングt2,t3,t4に相当するパルス数を決定してもよい。
【0058】
より具体的には、記録ヘッド51の吐出タイミングt1を基準として、記録ヘッド52の吐出タイミングt2に相当するパルス数をe2とし、記録ヘッド53の吐出タイミングt3に相当するパルス数をe3とし、記録ヘッド54の吐出タイミングt4に相当するパルス数をe4とする。パルス数e2,e3,e4は、以下の各式で表される。
【0059】
e4=A4+F4×u5(t)・・・(4)
e3=A3+F3×u5(t)・・・(5)
e2=A2+F2×u5(t)・・・(6)
【0060】
上記各式において、A2,A3,A4,F2,F3,F4は定数である。A2,A3,A4は、搬送方向における記録ヘッド51から記録ヘッド52,53,54までの各距離を、第1エンコーダ40のパルス数に変換した値である。また、F2,F3,F4は、それぞれ記録ヘッド52,53,54の各吐出タイミングt2,t3,t4に対して、補正値u5(t)を適用する割合(重み)を示すパラメータである。
【0061】
具体例として、A5が1000パルス、A4が800パルス、A3が600パルス、A2が400パルスとする。また、F4が0.8、F3が0.6、F2が0.2であるとする。この場合、記録ヘッド51の吐出タイミングt1を基準とした場合の、記録ヘッド52~55の吐出タイミングt2,t3,t4,t5に相当するパルス数e2、e3,e4,e5は、以下の各式で表される。
【0062】
e2= 400+0.2×u5(t)・・・(7)
e3= 600+0.6×u5(t)・・・(8)
e4= 800+0.8×u5(t)・・・(9)
e5=1000+1.0×u5(t)・・・(10)
【0063】
以上のように、伸縮量取得部81が取得する基材9の伸縮量に応じて、吐出制御部83が記録ヘッド51~55がインクを吐出するタイミングを決定する。これにより、基材9に伸縮が生じた場合であっても、記録ヘッド51~55が基材9に形成する各画像が搬送方向に位置ずれすることを軽減できる。
ここで、パラメータF2,F3,F4は以下のような考え方で設定してもよい。すなわち、最上流側記録ヘッド(記録ヘッド51)と最下流側記録ヘッド(記録ヘッド55)との搬送方向距離に対する、記録ヘッド51からの対象記録ヘッド(記録ヘッド52、53、および54)までの距離の割合を百分率で表した数を、各記録ヘッド52、53および54のパラメータF2,F3,F4に設定する。また、記録ヘッド51と対象記録ヘッド(記録ヘッド52、53、および54)との間に紫外線照射部が存在する場合、当該紫外線照射部の影響を加味してパラメータF2,F3,F4の値を適宜補正してもよい。
【0064】
<画像処理>
図5は、画像処理部82が画像データD1を伸縮させる処理を概念的に示す図である。
図5は、基材9が収縮した場合の例である。基材9が収縮した場合、画像処理部82は、
図5に示すように、基材9の収縮量に応じて画像データD1を幅方向に収縮させる。これにより、画像データD1から補正画像データD2が生成される。補正画像データD2を生成する際、画像処理部82は、基準線SL1を設定してもよい。また、画像処理部82は、設定した基準線SL1を中心にして、画像データD1を幅方向に伸縮させてもよい。基準線SL1は、たとえば、基材9における幅方向の中心に対応していてもよいし、基材9における幅方向のどちらか一方に偏った位置に対応していてもよい。
【0065】
基材9が幅方向に伸縮した場合、基材9の各部分の幅方向の変位量は、幅方向の端部に近づくほど大きくなる。そこで、画像処理部82は、基準線SL1から幅方向に離れるに連れて、画像データD1の伸縮率(
図5の例では収縮率)を大きくしてもよい。これにより、基材9の伸縮に合わせて、画像データD1を形成できる。
【0066】
たとえば、記録ヘッド51から記録ヘッド55までの間で、基材9に伸縮が生じた場合、記録ヘッド51が形成する画像が、記録ヘッド55に到達するまでに、幅方向に伸縮することとなる。このため、画像処理部82が、記録ヘッド55の画像データを、幅方向に伸縮させることによって、吐出制御部83が、第5記録ヘッドに対して、幅方向に伸縮させた画像を形成させることができる。これにより、記録ヘッド51によって形成される画像と、記録ヘッド55が形成する画像とが、幅方向に位置ずれすることを軽減できる。
【0067】
画像処理部82が、記録ヘッド55に対する画像データD1を補正したとする。記録ヘッド55における、幅方向の位置が異なる2つのノズル57(第1吐出部および第2吐出部)に着目すると、吐出制御部83は、補正された補正画像データD2に基づいて、2つのノズル57からのインクの吐出を制御する。すなわち、吐出制御部83は、各吐出タイミングにおいて、各ノズル57のインクの吐出のオン・オフ制御を、補正された画像データに基づいて実行する。
【0068】
記録ヘッド51と記録ヘッド55との間で、基材9に伸縮が生じた場合、下流側に進むにつれて、基材9の伸縮量が大きくなる場合がある。このため、画像処理部82は、記録ヘッド52~55に対する各画像データを補正する場合、記録ヘッド51からの距離に応じて伸縮率を設定してもよい。この場合、記録ヘッド52に対する画像データ、記録ヘッド53に対する画像データ、記録ヘッド54に対する画像データ、記録ヘッド55に対する画像データの順に、適用される伸縮率を大きくしてもよい。これにより、記録ヘッド52~55が基材9に形成する画像を、搬送方向の各位置における基材9の伸縮量に合わせることができる。したがって、記録ヘッド51~55が形成する各画像の幅方向における位置ずれを軽減できる。
【0069】
<印刷制御のフロー>
図6は、制御部7による印刷制御を説明するフローチャートである。基材9は記録ヘッド51~55による印刷が可能な速度で搬送されているものとする。また、第1エンコーダ40の出力は、常時、制御部7に入力されているものとする。
【0070】
制御部7は、テンション制御を実行する(ステップS1)。すなわち、制御部7は張力検出器39が検出する基材9の張力が目標張力値に一致するように、常時、搬送モータ37の回転速度を制御する。
【0071】
制御部7は、ステップS1のテンション制御を行いつつ、記録ヘッド51が新しい画像を印刷するタイミングに達したかを監視する(ステップS2)。
【0072】
制御部7は、ステップS2において、記録ヘッド51が新しい画像を印刷するタイミングに達したと判断した場合(YESの場合)、制御部7は前述の速度差e(t)を取得する(ステップS3)。制御部7は、速度差e(t)に基づいて各記録ヘッド51~55による印刷を開始するタイミングを設定する(ステップS4)。また、各記録ヘッド51~55により印刷されるべき画像のサイズを補正する(ステップS5)。
【0073】
基材9が各記録ヘッド51~55の印刷開始位置に到達すると、各記録ヘッド51~55は順次、対応する画像の印刷を開始する(ステップS6)。そして、制御部7は、次に印刷すべき画像の有無を確認する(ステップS7)。制御部7は、ステップS7において、次に印刷すべき画像がないと判断した場合(YESの場合)、印刷制御を終了する。一方、制御部7は、ステップS7において、次に印刷すべき画像があると判断した場合(Noの場合)、ステップS1のテンション制御に復帰する。
【0074】
上述のように、本実施形態では、最上流側の記録ヘッド51のさらに上流側の第1支持ローラ34の回転速度と、最下流側の記録ヘッド55のさらに下流側に位置する第2駆動ローラ36の回転速度との差分に基づいて、記録ヘッド51と記録ヘッド55との間の基材9の伸縮量を推測する。このため、記録ヘッド51と記録ヘッド55との間に、基材9の伸縮量を直接検出するための光学センサ等を配置する必要がない。したがって、記録ヘッド51と記録ヘッド55との搬送方向間隔を大きくする必要がなく、インクジェット印刷装置1をコンパクトに設計できる。
【0075】
テンション制御が行われていない状態では基材9に伸縮が生じても第1駆動ローラ31の回転速度が補正されず、基材9の伸縮が第1回転速度V1(t)と第2回転速度V2(t)との速度差に反映しないおそれがある。この場合、前記速度差から基材9の伸縮量を正しく取得することが困難である。これに対して、本実施形態では、テンション制御を実施した状態で第1回転速度V1(t)と第2回転速度V2(t)との速度差を取得し、当該速度差から基材9の伸縮量を推測する。このため、基材9の伸縮量を正確に推測できる。
【0076】
なお、本実施形態では画像データを幅方向に伸縮したが、搬送方向に伸縮してもよい。
<2. 第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、以降の説明において、既に説明した要素と同様の機能を有する要素については、同じ符号又はアルファベット文字を追加した符号を付して、詳細な説明を省略する場合がある。
【0077】
図7は、第2実施形態に係るインクジェット印刷装置1Aの構成を示す図である。インクジェット印刷装置1Aは、第2エンコーダ41を備える。第2エンコーダ41は、第2支持ローラ35に設けられている。第2エンコーダ41は、第2支持ローラ35の回転量に応じてパルス信号を制御部7に出力する。たとえば、第2エンコーダ41は、第2支持ローラ35が所定の角度回転するごとに、パルス信号を出力する。
【0078】
制御部7の伸縮量取得部81は、第1支持ローラ34と第2支持ローラ35の回転速度の差を、伸縮量として取得してもよい。伸縮量取得部81は、単位時間当たりに第1エンコーダ40が出力するパルス数に基づいて、第1支持ローラ34の回転速度を算出する。また、伸縮量取得部81は、第2エンコーダ41が出力するパルス数に基づいて、第2支持ローラ35の回転速度を算出してもよい。
【0079】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0080】
1,1A インクジェット印刷装置
3 搬送機構
5 印刷部
7 制御部
9 基材
31 第1駆動ローラ
34 第1支持ローラ
35 第2支持ローラ
36 第2駆動ローラ
40 第1エンコーダ
41 第2エンコーダ
51,55 記録ヘッド
57 ノズル
58 第1硬化部
81 伸縮量取得部
82 画像処理部
83 吐出制御部
D1 画像データ
D2 補正画像データ