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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】産業用ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20240614BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B25J19/00 H
H01L21/68 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020194497
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022083198
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 陽介
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-205878(JP,A)
【文献】国際公開第2006/006554(WO,A1)
【文献】特開2001-269890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0232506(US,A1)
【文献】実開平5-52345(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
H01L 21/67-21/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で使用される産業用ロボットにおいて、
前記産業用ロボットの内部の真空になっている領域である真空領域と前記産業用ロボットの内部の大気圧になっている領域である大気領域とを隔てる隔壁部材と、筒状に形成されるとともに前記隔壁部材が内周側に配置されて固定される隔壁保持部材と、前記隔壁部材と前記隔壁保持部材との間に配置されるOリングとを備え、
前記隔壁部材および前記隔壁保持部材のいずれか一方には、前記Oリングが配置される環状のシール配置溝が形成され、
前記シール配置溝は、前記隔壁部材および前記隔壁保持部材の径方向に窪んでおり、
前記シール配置溝と前記Oリングとの間に形成される空間であって、前記シール配置溝の前記真空領域側の側面である第1側面と前記Oリングとの接触部分よりも前記シール配置溝の底面側かつ前記シール配置溝の底面と前記Oリングとの接触部分よりも前記第1側面側に形成される空間を真空側空間とすると、
前記第1側面には、前記真空側空間から空気を抜くための空気抜き溝が形成されていることを特徴とする産業用ロボット。
【請求項2】
前記空気抜き溝は、前記隔壁部材の周方向において所定の間隔をあけた状態で複数箇所に形成されていることを特徴とする請求項1記載の産業用ロボット。
【請求項3】
前記シール配置溝は、前記隔壁部材に形成されるとともに前記隔壁部材の外周面から前記径方向の内側に向かって窪んでおり、
前記空気抜き溝は、前記隔壁部材の外周面に通じていることを特徴とする請求項1または2記載の産業用ロボット。
【請求項4】
前記隔壁部材と前記隔壁保持部材との間に配置されるとともに前記Oリングよりも前記大気領域側に配置される第2のOリングを備え、
前記隔壁部材には、前記第2のOリングが配置される環状の第2シール配置溝が形成され、
前記第2シール配置溝は、前記隔壁部材の外周面から前記径方向の内側に向かって窪んでおり、
前記シール配置溝と前記Oリングとの間に形成される空間であって、前記シール配置溝の前記大気領域側の側面である第2側面と前記Oリングとの接触部分よりも前記シール配置溝の底面側かつ前記シール配置溝の底面と前記Oリングとの接触部分よりも前記第2側面側に形成される空間を大気側空間とし、前記第2シール配置溝と前記第2のOリングとの間に形成される空間であって、前記第2シール配置溝の前記真空領域側の側面である第3側面と前記第2のOリングとの接触部分よりも前記第2シール配置溝の底面側かつ前記第2シール配置溝の底面と前記第2のOリングとの接触部分よりも前記第3側面側に形成される空間を第2真空側空間とすると、
前記第2側面には、前記大気側空間から空気を抜くための第2空気抜き溝が形成され、
前記第3側面には、前記第2真空側空間から空気を抜くための第3空気抜き溝が形成されていることを特徴とする請求項3記載の産業用ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中で使用される産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空中でガラス基板を搬送する産業用ロボットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の産業用ロボットは、真空チャンバーに取り付けられて使用される。この産業用ロボットは、ガラス基板が搭載される2個のハンドと、2個のハンドのそれぞれが先端側に回動可能に連結される2個のアームと、2個のアームの基端側が回動可能に連結される共通アームと、共通アームが回動可能に連結される本体部とを備えている。
【0003】
特許文献1に記載の産業用ロボットでは、アームと共通アームとの連結部分である関節部に減速機が配置されている。減速機は、中空波動歯車装置であり、略円筒状に形成される出力軸を備えている。出力軸の上端部には、アームの基端側の下端部が固定されている。ハンド、アームおよび共通アームは、真空チャンバーの中に配置されている。中空状に形成されるアームの内部は真空となっており、中空状に形成される共通アームの内部は大気圧となっている。
【0004】
また、特許文献1に記載の産業用ロボットでは、真空になっているアームの内部領域と、大気圧になっている共通アームの内部領域とを隔てるための円板状の隔壁板(蓋)102が、出力軸101の内周側に配置されて固定されている(図6(A)参照)。隔壁板102の上側は、真空の領域である真空領域VRとなっており、隔壁板102の下側は、大気圧の領域である大気領域ARとなっている。出力軸101と隔壁板102との間には、Oリング103が配置されている。
【0005】
隔壁板102には、Oリング103が配置されるシール配置溝102aが形成されている。シール配置溝102aは、隔壁板102の外周面から隔壁板102の径方向の内側に向かって窪む円環状に形成されている。また、シール配置溝102aは、図6(B)に示すように、隔壁板102の径方向に直交する円柱面状の底面102bと、上下方向に直交する円環状の平面である上側面(真空領域VR側の側面)102cおよび下側面(大気領域AR側の側面)102dとを有する四角溝状に形成されている。
【0006】
図6(B)に示すように、Oリング103は、隔壁板102の径方向において押し潰されており、シール配置溝102aの底面102bおよび出力軸101の内周面に所定の接触圧で接触している。そのため、大気領域ARから真空領域VRへの空気の流入が防止されている。また、Oリング103は、シール配置溝102aの上側面102cに所定の接触圧で接触していることもある。なお、図6(B)は、図6(A)のK部の拡大図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-15839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の産業用ロボットは、内部が大気圧となっている状態の真空チャンバーに取り付けられる。また、この産業用ロボットが真空チャンバーに取り付けられると、真空チャンバーの内部が真空になるように真空引きが行われ、その後、真空チャンバーの内部が真空になっている状態で産業用ロボットによるガラス基板の搬送が行われる。ここで、特許文献1に記載の産業用ロボットを使用しているときに、真空チャンバーの内部の真空度が低下するといった現象が生じることが判明した。
【0009】
本願発明者の検討によると、産業用ロボットの使用中に、産業用ロボットの内部の真空領域VRに空気が流入するために、真空チャンバーの内部の真空度が低下するといった現象が生じる可能があることが明らかになった。また、本願発明者の検討によると、出力軸101と隔壁板102との間に配置されるOリング103がシール部材としての機能を果たしていたにもかかわらず、産業用ロボットの内部の真空領域VRに空気が流入する可能性があることが明らかになった。
【0010】
そこで、本発明の課題は、真空中で使用される産業用ロボットにおいて、産業用ロボットの使用中に、産業用ロボットの内部の真空領域に空気が流入するのを防止することが可能な産業用ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本願発明者は種々の検討を行った。その結果、本願発明者は、Oリング103がシール配置溝102aの上側面102cに所定の接触圧で接触している場合に、上側面102cとOリング103との接触部分よりもシール配置溝102aの底面102b側であって、かつ、底面102bとOリング103との接触部分よりも上側に空間S10(図6(B)参照)が形成されるが、真空引きを行った際に、空間S10に溜まっている空気を抜くことができずに、空間S10に空気が残るおそれがあることを知見するに至った。
【0012】
すなわち、真空引きを行うと、出力軸101の内周面と隔壁板102の外周面との間で、図6(B)の矢印の方向に空気が流れるが、本願発明者は、空間S10が形成されていると、真空引きを行っても、空間S10に溜まっている空気を抜くことができずに、空間S10に空気が残るおそれがあることを知見するに至った。また、本願発明者は、産業用ロボットの使用中に、空間S10に残っている空気が断続的に漏れ出して真空領域VRに流入するおそれがあることを知見するに至った。
【0013】
本発明の産業用ロボットは、かかる新たな知見に基づくものであり、真空中で使用される産業用ロボットにおいて、産業用ロボットの内部の真空になっている領域である真空領域と産業用ロボットの内部の大気圧になっている領域である大気領域とを隔てる隔壁部材と、筒状に形成されるとともに隔壁部材が内周側に配置されて固定される隔壁保持部材と、隔壁部材と隔壁保持部材との間に配置されるOリングとを備え、隔壁部材および隔壁保持部材のいずれか一方には、Oリングが配置される環状のシール配置溝が形成され、シール配置溝は、隔壁部材および隔壁保持部材の径方向に窪んでおり、シール配置溝とOリングとの間に形成される空間であって、シール配置溝の真空領域側の側面である第1側面とOリングとの接触部分よりもシール配置溝の底面側かつシール配置溝の底面とOリングとの接触部分よりも第1側面側に形成される空間を真空側空間とすると、第1側面には、真空側空間から空気を抜くための空気抜き溝が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の産業用ロボットでは、シール配置溝の真空領域側の側面である第1側面に、真空側空間から空気を抜くための空気抜き溝が形成されている。そのため、本発明では、真空側空間が形成されていても、産業用ロボットの使用前に真空引きを行った際に、真空側空間に溜まっている空気を、空気抜き溝を介して抜ききることが可能になる。したがって、本発明では、産業用ロボットの使用中に、真空側空間から空気が漏れ出すのを防止することが可能になり、その結果、産業用ロボットの内部の真空領域に空気が流入するのを防止することが可能になる。
【0015】
本発明において、たとえば、空気抜き溝は、隔壁部材の周方向において所定の間隔をあけた状態で複数箇所に形成されている。また、本発明において、たとえば、シール配置溝は、隔壁部材に形成されるとともに隔壁部材の外周面から径方向の内側に向かって窪んでおり、空気抜き溝は、隔壁部材の外周面に通じている。
【0016】
本発明において、産業用ロボットは、隔壁部材と隔壁保持部材との間に配置されるとともにOリングよりも大気領域側に配置される第2のOリングを備え、隔壁部材には、第2のOリングが配置される環状の第2シール配置溝が形成され、第2シール配置溝は、隔壁部材の外周面から径方向の内側に向かって窪んでおり、シール配置溝とOリングとの間に形成される空間であって、シール配置溝の大気領域側の側面である第2側面とOリングとの接触部分よりもシール配置溝の底面側かつシール配置溝の底面とOリングとの接触部分よりも第2側面側に形成される空間を大気側空間とし、第2シール配置溝と第2のOリングとの間に形成される空間であって、第2シール配置溝の真空領域側の側面である第3側面と第2のOリングとの接触部分よりも第2シール配置溝の底面側かつ第2シール配置溝の底面と第2のOリングとの接触部分よりも第3側面側に形成される空間を第2真空側空間とすると、第2側面には、大気側空間から空気を抜くための第2空気抜き溝が形成され、第3側面には、第2真空側空間から空気を抜くための第3空気抜き溝が形成されていることが好ましい。
【0017】
このように構成すると、隔壁部材と隔壁保持部材との間に第2のOリングが配置されているため、万が一、Oリングがシール部材としての機能を果たしていない場合であっても、第2のOリングによって、産業用ロボットの内部において大気領域から真空領域へ空気が流入するのを防止することが可能になる。
【0018】
また、このように構成すると、シール配置溝の大気領域側の側面である第2側面に、大気側空間から空気を抜くための第2空気抜き溝が形成され、第2シール配置溝の真空領域側の側面である第3側面に、第2真空側空間から空気を抜くための第3空気抜き溝が形成されているため、万が一、Oリングがシール部材としての機能を果たしていない場合であって、かつ、大気側空間や第2真空側空間が形成されている場合であっても、産業用ロボットの使用前に真空引きを行った際に、大気側空間に溜まっている空気を、第2空気抜き溝を介して抜ききることが可能になるとともに、第2真空側空間に溜まっている空気を、第3空気抜き溝を介して抜ききることが可能になる。したがって、万が一、Oリングがシール部材としての機能を果たしていない場合であっても、産業用ロボットの使用中に、大気側空間や第2真空側空間から空気が漏れ出すのを防止することが可能になり、その結果、産業用ロボットの内部の真空領域に空気が流入するのを防止することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明では、真空中で使用される産業用ロボットにおいて、産業用ロボットの使用中に、産業用ロボットの内部の真空領域に空気が流入するのを防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態にかかる産業用ロボットの平面図である。
図2図1に示す産業用ロボットの側面図である。
図3図2のE部の構成を説明するための断面図である。
図4】(A)は図3のF部の拡大図であり、(B)は(A)のG部の拡大図である。
図5】(A)は図3に示す隔壁部材の正面図であり、(B)は(A)のH部の拡大図である。
図6】(A)は従来技術の構成を説明するための断面図であり、(B)は(A)のK部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
(産業用ロボットの全体構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる産業用ロボット1の平面図である。図2は、図1に示す産業用ロボット1の側面図である。図3は、図2のE部の構成を説明するための断面図である。
【0023】
本形態の産業用ロボット1(以下、「ロボット1」とする。)は、真空中で使用されるロボットである。具体的には、ロボット1は、搬送対象物である液晶ディスプレイ用のガラス基板2(以下、「基板2」とする。)を真空中で搬送する水平多関節型のロボットである。ロボット1は、基板2が搭載される2個のハンド4、5と、2個のハンド4、5のそれぞれが先端側に回動可能に連結される2個のアーム6、7と、2個のアーム6、7の基端側が回動可能に連結される共通アーム8と、共通アーム8が回動可能に連結される本体部9とを備えている。
【0024】
ハンド4は、アーム6の先端側に回動可能に連結され、ハンド5は、アーム7の先端側に回動可能に連結されている。ハンド4は、ハンド5よりも下側に配置されている。アーム6は、ハンド4よりも下側に配置されている。アーム7は、ハンド5よりも上側に配置されている。共通アーム8は、アーム6よりも下側に配置されている。本体部9は、共通アーム8よりも下側に配置されている。
【0025】
本体部9は、共通アーム8の基端部が固定される回動軸と、上下方向を回動の軸方向として回動軸を回動させる回動機構と、回動軸および回動機構と一緒に共通アーム8を昇降させる昇降機構と、回動機構や昇降機構が収容される有底円筒状のケース体11とを備えている。ケース体11の上端の開口は、蓋体12によって覆われている。蓋体12には、ケース体11の径方向の外側に広がる鍔部12aが形成されている。
【0026】
上述のように、ロボット1は、真空中で基板2を搬送する。ロボット1は、真空チャンバー13に取り付けられて使用される。図2に示すように、ロボット1の、鍔部12aの下面よりも上側の部分は、真空チャンバー13の中に配置されている。すなわち、ロボット1の、鍔部12aの下面よりも上側の部分は、真空中に配置されている。一方、ロボット1の、鍔部12aの下面よりも下側の部分は、大気中に配置されている。
【0027】
アーム6、7は、上下方向から見たときの形状が細長い長円形状となるとともに上下方向の厚さが薄いブロック状に形成されている。アーム6の長さとアーム7の長さとは等しくなっている。また、アーム6、7は、中空状に形成されている。中空状に形成されるアーム6、7の内部は真空となっている。すなわち、アーム6、7の内部領域(内部空間)は、ロボット1の内部の真空となっている領域である真空領域VR(図3参照)となっている。
【0028】
共通アーム8は、略V形状に形成されている。略V形状に形成される共通アーム8の中心部分(基端部)は、本体部9に回動可能に連結されている。また、略V形状に形成される共通アーム8の一方の先端側にアーム6の基端側が回動可能に連結され、共通アーム8の他方の先端側にアーム7の基端側が回動可能に連結されている。アーム6と共通アーム8との連結部分は、関節部16となっている。アーム7と共通アーム8との連結部分は、関節部17となっている。
【0029】
共通アーム8は、中空状に形成されている。中空状に形成される共通アーム8の内部は大気圧となっている。すなわち、共通アーム8の内部領域(内部空間)は、ロボット1の内部の大気圧になっている領域である大気領域AR(図3参照)となっている。なお、本体部9の内部(すなわち、ケース体11の内部)も大気圧となっている。すなわち、本体部9の内部領域(内部空間)も大気領域ARとなっている。
【0030】
(駆動機構の構成)
ロボット1は、アーム6に対してハンド4を回動させるとともに共通アーム8に対してアーム6を回動させる駆動機構18を備えている(図3参照)。駆動機構18は、モータ20と、モータ20に連結される減速機21とを備えている。減速機21は、中空波動歯車装置であり、関節部16に配置されている。減速機21は、減速機21の出力軸となる回動軸22と、回動軸22を回動可能に支持する軸受23と、回動軸22の外周側に配置される磁性流体シール24とを備えている。
【0031】
また、減速機21は、剛性内歯歯車25と、可撓性外歯歯車26と、減速機21の入力軸27の外周側に取り付けられるウエーブベアリング28と、軸受23および磁性流体シール24を保持するケース体29とを備えている。ケース体29は、共通アーム8の先端部の上面部分に固定されている。減速機21の、ケース体29の上端側部分と回動軸22の上端側部分とを除いた部分は、共通アーム8の先端部の内部に配置されている。軸受23は、クロスローラベアリングである。軸受23の外輪は、ケース体29の上端側部分に固定されている。軸受23の内輪は、回動軸22に固定されている。
【0032】
回動軸22は、筒状に形成された中空軸である。回動軸22は、略円筒状に形成されている。回動軸22の上端部は、アーム6の基端側に固定されている。回動軸22の上端面は、アーム6の基端側の下面に接触している。入力軸27は、円筒状に形成された中空軸である。入力軸27は、軸受を介してケース体29の下端側部分に回転可能に支持されている。入力軸27には、上下方向から見たときの外周面の形状が楕円形状となる楕円部が形成されている。なお、入力軸27は、円柱状に形成された中実軸であっても良い。
【0033】
剛性内歯歯車25は、ケース体29に固定されている。可撓性外歯歯車26の上端側部分は、回動軸22の下端に固定されている。可撓性外歯歯車26の下端側部分の外周面に形成される外歯は、剛性内歯歯車25の内歯と噛み合っている。ウエーブベアリング28は、入力軸27の楕円部の外周面に沿って配置されている。可撓性外歯歯車26の下端側部分は、ウエーブベアリング28の外周側に配置されている。可撓性外歯歯車26の外歯は、楕円状に撓む可撓性外歯歯車26の下端側部分の長軸方向の2か所で、剛性内歯歯車25の内歯と噛み合っている。
【0034】
入力軸27の下端部には、プーリ32が固定されている。モータ20の出力軸に固定されるプーリ33とプーリ32とにはベルト34が架け渡されている。アーム6の基端側の内部には、プーリ35と、プーリ35を回動可能に支持する支持軸36が配置されている。支持軸36は、支持軸36の軸心と回動軸22の軸心とが一致するように、アーム6の基端側に固定されている。プーリ35は、固定部材38を介して共通アーム8の一方の先端側に固定されている。固定部材38は、アーム6および共通アーム8の外部に配置されている。アーム6の先端側の内部には、ハンド4の基端側が固定されるプーリ(図示省略)が配置されている。このプーリとプーリ35とにはベルト39が架け渡されている。
【0035】
上述のように、アーム6の内部領域は真空領域VRとなっており、共通アーム8の内部領域は大気領域ARとなっている。回動軸22の上端部の内周側には、真空領域VRと大気領域ARとを隔てる隔壁部材42が固定されている。すなわち、駆動機構18は、真空領域VRと大気領域ARとを隔てる隔壁部材42を備えており、隔壁部材42は、筒状に形成される回動軸22の内周側に配置されて固定されている。本形態の回動軸22は、隔壁部材42を保持する隔壁保持部材である。隔壁部材42は、円板状に形成されている。隔壁部材42と回動軸22との間には、2個のOリング43、44が配置されている(図4参照)。隔壁部材42の詳細な構成については後述する。
【0036】
また、ロボット1は、アーム7に対してハンド5を回動させるとともに共通アーム8に対してアーム7を回動させる駆動機構(図示省略)を備えている。この駆動機構は、駆動機構18とほぼ同様に構成されているため、この駆動機構の説明は省略する。なお、この駆動機構では、回動軸22は、円筒状に形成される回動軸47を介してアーム7の基端側に固定されている(図2参照)。回動軸22の軸心と回動軸47の軸心とは一致している。また、この駆動機構では、アーム7の基端側の内部に配置されるプーリ35は、固定部材48を介して共通アーム8の他方の先端側に固定されている。固定部材48の上下方向の長さは、固定部材38の上下方向の長さよりも長くなっている。
【0037】
(隔壁部材および隔壁部材の周辺部の構成)
図4(A)は、図3のF部の拡大図であり、図4(B)は、図4(A)のG部の拡大図である。図5(A)は、図3に示す隔壁部材42の正面図であり、図5(B)は、図5(A)のH部の拡大図である。
【0038】
上述のように、回動軸22の上端部の内周側には、真空領域VRと大気領域ARとを隔てる隔壁部材42が固定されている。隔壁部材42の上側は、真空領域VRとなっており、隔壁部材42の下側は、大気領域ARとなっている。また、上述のように、隔壁部材42と回動軸22との間には、2個のOリング43、44が配置されている。Oリング43は、Oリング44の上側に配置されている。すなわち、Oリング43は、Oリング44よりも真空領域VR側に配置され、Oリング44は、Oリング43よりも大気領域AR側に配置されている。Oリング43の形状とOリング44の形状とは同じ形状となっている。本形態のOリング44は、第2のOリングである。
【0039】
隔壁部材42には、Oリング43が配置される環状のシール配置溝42aと、Oリング44が配置される環状のシール配置溝42bとが形成されている。シール配置溝42a、42bは、円板状に形成される隔壁部材42の外周面から、隔壁部材42の径方向の内側に向かって窪む円環状に形成されている。すなわち、シール配置溝42a、42bは、隔壁部材42の径方向に窪んでいる。本形態のシール配置溝42bは、第2のOリングであるOリング44が配置される第2シール配置溝となっている。
【0040】
シール配置溝42aは、隔壁部材42の径方向に直交する円柱面状の底面42cと、上下方向に直交する円環状の平面である上側面42dおよび下側面42eとを有する四角溝状に形成されている。シール配置溝42bは、シール配置溝42aと同形状に形成されており、隔壁部材42の径方向に直交する円柱面状の底面42fと、上下方向に直交する円環状の平面である上側面42gおよび下側面42hとを有する四角溝状に形成されている。本形態の上側面42dは、シール配置溝42aの真空領域VR側の側面である第1側面となっており、下側面42eは、シール配置溝42aの大気領域AR側の側面である第2側面となっている。また、上側面42gは、第2シール配置溝であるシール配置溝42bの真空領域VR側の側面である第3側面となっている。
【0041】
Oリング43は、隔壁部材42の径方向において押し潰されており、回動軸22の内周面および底面42cに所定の接触圧で接触している。また、Oリング43は、上側面42dおよび下側面42eの少なくともいずれか一方にも所定の接触圧で接触していることがある。同様に、Oリング44は、隔壁部材42の径方向において押し潰されており、回動軸22の内周面および底面42fに所定の接触圧で接触している。また、Oリング44は、上側面42gおよび下側面42hの少なくともいずれか一方にも所定の接触圧で接触していることがある。
【0042】
Oリング43が上側面42dに接触している場合に、シール配置溝42aとOリング43との間に形成される空間であって、上側面42dとOリング43との接触部分よりも底面42c側(すなわち、上側面42dとOリング43との接触部分よりも隔壁部材42の径方向の内側)かつ底面42cとOリング43との接触部分よりも上側面42d側(すなわち、底面42cとOリング43との接触部分よりも上側)に形成される空間を真空側空間S1とすると、上側面42dには、真空側空間S1から空気を抜くための空気抜き溝42pが形成されている。
【0043】
また、Oリング43が下側面42eに接触している場合に、シール配置溝42aとOリング43との間に形成される空間であって、下側面42eとOリング43との接触部分よりも底面42c側かつ底面42cとOリング43との接触部分よりも下側面42e側(すなわち、底面42cとOリング43との接触部分よりも下側)に形成される空間を大気側空間S2とすると、下側面42eには、大気側空間S2から空気を抜くための空気抜き溝42qが形成されている。本形態の空気抜き溝42qは、第2空気抜き溝である。
【0044】
さらに、Oリング44が上側面42gに接触している場合に、シール配置溝42bとOリング44との間に形成される空間であって、上側面42gとOリング44との接触部分よりも底面42f側かつ底面42fとOリング44との接触部分よりも上側面42g側に形成される空間を第2真空側空間S3とすると、上側面42gには、第2真空側空間S3から空気を抜くための空気抜き溝42rが形成されている。本形態の空気抜き溝42rは、第3空気抜き溝である。
【0045】
空気抜き溝42p~42rは、隔壁部材42の外周面から隔壁部材42の径方向の内側に向かって伸びる直線状に形成されており、隔壁部材42の外周面に通じている。空気抜き溝42pは、上側面42dから上側に向かって窪み、空気抜き溝42qは、下側面42eから下側に向かって窪み、空気抜き溝42rは、上側面42gから上側に向かって窪んでいる。隔壁部材42の径方向から見たときの空気抜き溝42p~42rは、略半円状になっている。空気抜き溝42pは、真空側空間S1が形成されているときに、真空側空間S1に通じている。空気抜き溝42qは、大気側空間S2が形成されているときに、大気側空間S2に通じている。空気抜き溝42rは、第2真空側空間S3が形成されているときに、第2真空側空間S3に通じている。
【0046】
空気抜き溝42pは、隔壁部材42の周方向において所定の間隔をあけた状態で複数箇所に形成されている。本形態では、空気抜き溝42pは、隔壁部材42の中心を中心とする180°ピッチで2箇所に形成されている。同様に、空気抜き溝42q、42rは、隔壁部材42の中心を中心とする180°ピッチで2箇所に形成されている。空気抜き溝42pと空気抜き溝42qと空気抜き溝42rとは、隔壁部材42の周方向において同じ位置に形成されている。隔壁部材42の径方向における空気抜き溝42p~42rの長さは、隔壁部材42の径方向におけるシール配置溝42a、42bの深さよりも短くなっている。
【0047】
なお、Oリング44が下側面42hに接触している場合に、シール配置溝42bとOリング44との間に形成される空間であって、下側面42hとOリング44との接触部分よりも底面42f側かつ底面42fとOリング44との接触部分よりも下側面42h側に形成される空間を第2大気側空間S4とすると、下側面42hには、第2大気側空間S4に通じる空気抜き溝42sが形成されている。空気抜き溝42sは、空気抜き溝42qと同様に形成されている。
【0048】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、シール配置溝42aの真空領域VR側の側面である上側面42dに、真空側空間S1から空気を抜くための空気抜き溝42pが形成されている。そのため、本形態では、真空側空間S1が形成されていても、ロボット1の使用前に真空チャンバー13の真空引きを行った際に、真空側空間S1に溜まっている空気を、空気抜き溝42pを介して抜ききることが可能になる。したがって、本形態では、真空側空間S1が形成されていても、ロボット1の使用中に、真空側空間S1から空気が漏れ出すのを防止することが可能になり、その結果、ロボット1の内部の真空領域VRに空気が流入するのを防止することが可能になる。
【0049】
本形態では、Oリング43よりも大気領域AR側にOリング44が配置されている。そのため、本形態では、万が一、Oリング43がシール部材としての機能を果たしていない場合であっても、Oリング44によって、大気領域ARから真空領域VRへ空気が流入するのを防止することが可能になる。
【0050】
また、本形態では、シール配置溝42aの大気領域AR側の側面である下側面42eに大気側空間S2から空気を抜くための空気抜き溝42qが形成され、シール配置溝42bの真空領域VR側の側面である上側面42gに、第2真空側空間S3から空気を抜くための空気抜き溝42rが形成されているため、万が一、Oリング43がシール部材としての機能を果たしていない場合であって、かつ、大気側空間S2や第2真空側空間S3が形成されている場合であっても、ロボット1の使用前に真空引きを行った際に、大気側空間S2に溜まっている空気を、空気抜き溝42qを介して抜ききることが可能になるとともに、第2真空側空間S3に溜まっている空気を、空気抜き溝42rを介して抜ききることが可能になる。したがって、本形態では、万が一、Oリング43がシール部材としての機能を果たしていない場合であって、かつ、大気側空間S2や第2真空側空間S3が形成されている場合であっても、ロボット1の使用中に、大気側空間S2および第2真空側空間S3から空気が漏れ出すのを防止することが可能になり、その結果、真空領域VRに空気が流入するのを防止することが可能になる。
【0051】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0052】
上述した形態において、シール配置溝42bの下側面42hに空気抜き溝42sが形成されていなくても良い。また、上述した形態において、隔壁部材42と回動軸22との間にOリング43のみが配置されていても良い。この場合には、隔壁部材42にシール配置溝42bが形成されていない。また、この場合には、シール配置溝42aの下側面42eに空気抜き溝42qが形成されていなくても良い。
【0053】
上述した形態において、Oリング43、44が配置される環状のシール配置溝が回動軸22に形成されていても良い。この場合には、シール配置溝は、回動軸22の内周面から回動軸22の径方向の外側に向かって窪む円環状に形成されている。また、シール配置溝は、回動軸22の径方向に直交する円柱面状の底面を有する四角溝状に形成されている。また、この場合には、隔壁部材42の外周面にシール配置溝42a、42bは形成されていない。
【0054】
上述した形態において、空気抜き溝42p~42rは、1箇所のみに形成されていても良いし、3箇所以上に形成されていても良い。また、空気抜き溝42p~42rは、上下方向から見たときの空気抜き溝42p~42rの形状が円弧状となるように、隔壁部材42の周方向における一定の範囲に形成されていても良い。
【0055】
上述した形態において、共通アーム8の内部は真空になっていても良い。この場合には、共通アーム8の基端部が固定される回動軸が円筒状に形成されており、この回動軸の内周側に真空領域VRと大気領域ARとを隔てる隔壁部材42が配置されて固定されている。また、この場合には、回動軸と隔壁部材42との間にOリング43が配置されている。また、この場合には、回動軸22に隔壁部材42が固定されていない。この場合には、共通アーム8の基端部が固定される回動軸が隔壁保持部材となっている。
【0056】
上述した形態において、ロボット1は、共通アーム8に代えて、アーム6が連結されるアームとアーム7が連結されるアームとを個別に備えていても良い。また、ロボット1が備えるハンドの数は、1個であっても良い。この場合には、ロボット1は、たとえば、ハンド4と、アーム6と、アーム6が連結されるアームとを備えている。また、上述した形態において、ロボット1によって搬送される搬送対象物は、半導体ウエハ等のガラス基板以外のものであっても良い。また、本発明の構成が適用される産業用ロボットは、搬送対象物を搬送する搬送用ロボット以外のロボットであっても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 ロボット(産業用ロボット)
22 回動軸(隔壁保持部材)
42 隔壁部材
42a シール配置溝
42b シール配置溝(第2シール配置溝)
42c 底面(シール配置溝の底面)
42d 上側面(第1側面)
42e 下側面(第2側面)
42f 底面(第2シール配置溝の底面)
42g 上側面(第3側面)
42p 空気抜き溝
42q 空気抜き溝(第2空気抜き溝)
42r 空気抜き溝(第3空気抜き溝)
43 Oリング
44 Oリング(第2のOリング)
AR 大気領域
S1 真空側空間
S2 大気側空間
S3 第2真空側空間
VR 真空領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6