(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
(21)【出願番号】P 2020204232
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2020-12-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】吉野 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】飯田 学
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】菊地 牧子
【審判官】渋谷 善弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193034(JP,A)
【文献】特開2018-126831(JP,A)
【文献】特開平7-328982(JP,A)
【文献】特開平4-261796(JP,A)
【文献】特開2013-6235(JP,A)
【文献】特開平3-66577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブースと、
被塗装物であるワークに対して塗装前処理を行う
複数の前処理用ロボットと、
前記塗装前処理として除塵処理および除電処理を行うエンドエフェクタに接続される除塵処理用のホースと
を備え、
前記
複数の前処理用ロボットは、
それぞれ前記エンドエフェクタを有する防爆ロボットであり、
前記複数の前処理用ロボットのそれぞれの前記除塵処理用のホースは、前記前処理用ロボットの各アームの外部に配置され、
前記塗装ブース内には、前記複数の前処理用ロボットのうち、第1の前処理用ロボットと、第2の前処理用ロボットとが、
前記ワークを挟むように
、かつ、前記ワークの搬送向きについて互いにシフトした位置にそれぞれ配置され、
前記第1の前処理用ロボットの教示データを反転した教示データを前記第2の前処理用ロボットの教示データとして利用可能となるように、前記搬送向きについて同じ位置に配置された場合には前記搬送向きに沿う搬送中心面に対してお互いに鏡像の関係と
して、対称な軸構成を有し、
前記ワークの位置情報に応じて、互いにシフトした位置に配置された各前処理用ロボットの各教示データに基づく動作タイミングで動作すること
を特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記前処理用ロボットは、
第1軸まわりに回転する第1アームと、
前記第1軸と垂直な第2軸まわりに旋回する第2アームと
を備え、
前記第1アームの基準姿勢において前記第2アームが前記第1軸よりも前記ワークに近い位置となるようにそれぞれ配置されること
を特徴とする請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記塗装ブースは、
前記搬送向きについて前記ワークを挟むようにそれぞれ配置される側壁
を備え、
前記前処理用ロボットは、
前記側壁にそれぞれ壁掛けされること
を特徴とする請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記前処理用ロボットは、
前記第1軸が前記搬送向きに沿う向きとなるようにそれぞれ配置されること
を特徴とする請求項2または3に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の関節部をそれぞれ駆動して動作するロボットが知られている。かかるロボットの先端には、溶接や把持といった用途にあわせたエンドエフェクタが取り付けられ、ワークの加工や移動といった様々な作業が行われる。
【0003】
また、除塵用のエンドエフェクタが取り付けられた除塵ロボットを用いることで、ワークの除塵を行う除塵システムも提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の除塵ロボットは、爆発性雰囲気や危険雰囲気に対応していないので塗装ブースなどの爆発性雰囲気とは独立した非爆発性雰囲気のブースに配置する必要がある。このため、全体としての設備規模が大きくなりやすい。
【0006】
実施形態の一態様は設備規模を縮小することができるロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係るロボットシステムは、塗装ブースと、複数の前処理用ロボットと、除塵処理用のホースとを備える。前記複数の前処理用ロボットは、被塗装物であるワークに対して塗装前処理を行う。除塵処理用のホースは、前記塗装前処理として除塵処理および除電処理を行うエンドエフェクタに接続される。前記複数の前処理用ロボットは、それぞれ前記エンドエフェクタを有する防爆ロボットであり、前記複数の前処理用ロボットのそれぞれの前記除塵処理用のホースは、前記前処理用ロボットの各アームの外部に配置される。塗装ブース内には、前記複数の前処理用ロボットのうち、第1の前処理用ロボットと、第2の前処理用ロボットとが、前記ワークを挟むように、かつ、前記ワークの搬送向きについて互いにシフトした位置にそれぞれ配置され、前記第1の前処理用ロボットの教示データを反転した教示データを前記第2の前処理用ロボットの教示データとして利用可能となるように、前記搬送向きについて同じ位置に配置された場合には前記搬送向きに沿う搬送中心面に対してお互いに鏡像の関係として、対称な軸構成を有し、前記ワークの位置情報に応じて、互いにシフトした位置に配置された各ロボットの各教示データに基づく動作タイミングで動作する。
【発明の効果】
【0008】
実施形態の一態様によれば、設備規模を縮小することができるロボットシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るロボットシステムの上面模式図である。
【
図2】
図2は、前処理用ロボットの斜視模式図である。
【
図3】
図3は、下流側からみた塗装ブースの側面模式図である。
【
図4】
図4は、軸構成の対称性を示す説明図である。
【
図5】
図5は、エンドエフェクタおよびホースの配置例を示す斜視模式図である。
【
図6】
図6は、ロボットシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するロボットシステムの実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下では、自動車などの車両が被塗装物である場合について説明するが、被塗装物は車両には限られない。
【0011】
また、以下に示す実施形態では、「対称」、「水平」、「垂直」、「鉛直」、「同一」あるいは「中心」といった表現を用いるが、厳密にこれらの状態を満たすことを要しない。すなわち、上記した各表現は、製造精度、設置精度などのずれを許容するものとする。
【0012】
まず、実施形態に係るロボットシステム1について
図1を用いて説明する。
図1は、実施形態に係るロボットシステム1の上面模式図である。なお、
図1には、説明をわかりやすくするために、塗装ブース100の長手向き(長さ向き)に沿うX軸、塗装ブース100の短手向き(幅向き)に沿うY軸および鉛直上向きが正方向であるZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、以下の説明で用いる他の図面においても示す場合がある。
【0013】
また、以下では、搬送装置110の搬送向き(X軸負方向)を「下流側」、逆向きを「上流側」、搬送向きに沿って右(Y軸正方向側)を「右側」、左(Y軸負方向側)を「左側」と記載する。また、上面視で搬送向きに沿って搬送装置110の中央(ワークWの中央)を通る面を「搬送中心面P」とする。なお、搬送中心面Pは、XZ平面と平行である。また、参考のため、
図1には搬送向きをあらわす白抜き矢印(X軸正方向から負方向へ向く矢印)を示している。
【0014】
図1に示すように、ロボットシステム1は、塗装ブース100と、被塗装物であるワークWに対して塗装前処理を行う前処理用ロボット10とを含む。塗装ブース100は、外部と隔離された空間を有する塗装用の部屋であり搬送向きに沿って延伸している。
【0015】
塗装ブース100の床面には、コンベアなどの搬送装置110が設置される。そして、搬送装置110は、被塗装物であるワークWを所定の搬送向き(
図1に示した場合ではX軸負方向)へ所定の速度で搬送する。なお、ワークWは、図示しない治具などによって搬送装置110の可動部分に固定された状態で搬送される。
【0016】
なお、
図1に示したエリアは、塗装前のワークWに塗装前処理を施す「前処理エリア」に相当し、前処理エリアの下流側には塗装ロボット(図示せず)等によって塗装処理が行われる「塗装エリア」が連続している。つまり、上流側の前処理エリアで塗装前処理が完了したワークWは、搬送装置110によって下流側の塗装エリアへそのまま搬送され、塗装処理が施される。
【0017】
ここで、「塗装前処理」としては、塗装前のワークWに付着した塵などの異物を取り除く除塵処理、異物の再付着防止のために静電気を取り除く除電処理が含まれる。
図1に示したエンドエフェクタEEは、1台で除塵処理および除電処理の双方を行う。なお、エンドエフェクタEEの詳細については
図5を用いて後述する。
【0018】
図1に示したように、前処理用ロボット10は、塗装ブース100内に配置される、いわゆる防爆ロボットである。また、前処理用ロボット10は塗装前処理用のエンドエフェクタEEを有している。ここで、「防爆ロボット」とは、たとえば窒素などの不燃性の気体を内部へ供給することで内圧を高め、内部を非爆発性雰囲気としたロボットのことを指す。
【0019】
このように、前処理用ロボット10を防爆ロボットとすることで、内部が爆発性雰囲気や危険雰囲気となる塗装ブース100内に前処理用ロボット10を配置することができる。したがって、塗装前処理を含む塗装処理全体としての設備規模を縮小することができる。また、塗装前処理および塗装処理を同一の塗装ブース100内で行うことができるのでブースからの出入に伴う塵の再付着を防止することができ、ひいてはワークWの不良率を低減することが可能となる。
【0020】
図1に示したように、塗装ブース100内には、前処理用ロボット10が2台配置される。このため、それぞれの前処理用ロボット10には、符号の末尾に識別用の文字を付加することとする。
【0021】
具体的には、搬送装置110の右側に配置される前処理用ロボット10には「R」を、左側に配置される前処理用ロボット10には「L」を、それぞれ付加している。なお、本実施形態では、前処理用ロボット10の台数を2台としたが、1台としてもよく、3台以上としてもよい。
【0022】
ここで、ワークWは、搬送中心面Pについて、たとえば、対称な形状である。ただし、ワークWは厳密に対称な形状である必要はなく、ワークWの左側のロボットおよび右側のロボットが同じ動作で塗装前処理を行うことが可能な程度の対称性を有していれば足りる。なお、ワークWの右側については前処理用ロボット10Rが作業を行い、左側については前処理用ロボット10Lが作業を行う。
【0023】
このように、ワークWは、搬送中心面Pについて対称な形状であるので、搬送装置110を挟んで配置される前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lは、お互いに左右対称な動作を行いつつワークWに対する塗装前処理を行うことができる。
【0024】
各前処理用ロボット10は、垂直多関節ロボットである。なお、前処理用ロボット10は、塗装ブース100の側面や天面、床面に設置可能であるが、
図1では、側面にあたる側壁101に設置された場合を示している。
【0025】
具体的には、前処理用ロボット10は、塗装ブース100を囲うように配設された支柱や梁などに固定され、塗装ブース100における固定箇所の内側には側壁101などの壁面が取り付けられる。なお、前処理用ロボット10の場合と同様に、搬送装置110の右側の側壁101を側壁101R、左側の側壁101を側壁101Lのように記載する。
【0026】
図1に示したように、前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lは、ワークWの搬送向きについてワークWを挟むようにそれぞれ配置されており、搬送向きに沿う搬送中心面Pに対してお互いに軸構成が対称である。ここで、「軸構成」とは、各アームを旋回または回転させる各軸の配置を指す。
【0027】
また、各軸の配置には、隣り合う各軸のなす角、隣り合う各軸の軸間距離が含まれる。つまり、アームの外形や、形状の差異は問わない。そして、アームの外形や、形状が異なっていても、対称面(
図1の場合は搬送中心面P)に対して各軸の配置が対称であれば、「軸構成が対称」であるという。
【0028】
このように、前処理用ロボット10をお互いに軸構成が対称のロボットとすることで、ワークWの両側から効率的に作業を行うことができるとともに、教示データの流用や転用が可能となり、ティーチング(教示作業)の作業負荷を抑制することができ、ひいてはロボットシステム1全体としてのコストを抑制することができる。なお、搬送中心面Pに対してお互いに軸構成が対称な前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lの場合には、教示データのY軸を反転することで、教示データの流用が可能である。
【0029】
前処理用ロボット10の説明をつづける。
図1に示したように、前処理用ロボット10は、第1軸A1まわりに回転する第1アーム11と、第1軸A1と垂直な第2軸A2まわりに旋回する第2アーム12とを備える。そして、各前処理用ロボット10は、第1アーム11の基準姿勢において第2アーム12が第1軸A1よりもワークWに近い位置となるようにそれぞれ配置される。なお、第2アーム12よりも先端側の構成については
図2を用いて後述することとする。
【0030】
ここで、第1アーム11の「基準姿勢」とは、第1アーム11の回転角を0度とした姿勢のことを指す。なお、その他のアームの基準姿勢についても同様である。
図1に示した各前処理用ロボット10の姿勢は基準姿勢に相当する。
【0031】
具体的には、前処理用ロボット10Rのベース部10Bは、側壁101Rに固定される。ベース部10Bの下流側で支持されて下流側へ延伸する第1アーム11は、搬送向きと平行な第1軸A1まわりに回転する。また、第1アーム11に支持される第2アーム12は、第1軸A1と垂直な第2軸A2まわりに旋回する。そして、第2アーム12は、
図1に示した基準姿勢において第1軸A1よりもワークWに近い位置にある。
【0032】
ここで、「旋回」とは、隣り合うアームのなす角度を変化させる動作を指し、「回転」とは、隣り合うアームのなす角度を変化させずに相対的に回転させる動作を指す。なお、「旋回」とは、回転軸まわりにアームを振り回す動作を指し、「回転」とは、アームの延伸向きが回転軸に沿うようにアームを回す動作を指すともいえる。
【0033】
一方、前処理用ロボット10Lのベース部10Bは、側壁101Lに固定される。ベース部10Bの下流側で支持されて下流側へ延伸する第1アーム11は、搬送向きと平行な第1軸A1まわりに回転する。また、第1アーム11に支持される第2アーム12は、第1軸A1と垂直な第2軸A2まわりに旋回する。そして、第2アーム12は、
図1に示した基準姿勢において第1軸A1よりもワークWに近い位置にある。
【0034】
このように、第2アーム12がそれぞれワークW側となるように各前処理用ロボット10をそれぞれ配置することで、第2アーム12が塗装ブース100の側壁101と干渉しにくい。したがって、前処理用ロボット10と塗装ブース100との干渉を抑制することができる。なお、
図1では、第1アーム11が下流側でベース部10Bに支持されて下流側へ延伸する場合を示したが、上流側で支持されて上流側へ延伸することとしてもよい。
【0035】
このように、塗装ブース100は、搬送向きについてワークWを挟むようにそれぞれ配置される側壁101を備えており、前処理用ロボット10は、側壁101にそれぞれ壁掛けされる。前処理用ロボット10を壁掛けすることで、塗装ブース100の小型化に寄与することができる。
【0036】
ここで、塗装ブース100のランニングコストは、空調などの塗装環境維持のためのコストが大きく、室内の体積に比例する。したがって、塗装ブース100を小型化することによってランニングコストの抑制が可能となる。なお、本実施形態では、前処理用ロボット10を壁掛けする場合について説明するが、床置きとしたり、天吊りとしたりすることとしてもよい。
【0037】
ところで、前処理用ロボット10は、
図1に示したように、第1軸A1が搬送向きに沿う向きとなるようにそれぞれ配置されるので、前処理用ロボット10と塗装ブース100との干渉を抑制しつつ、ワークWに対する作業範囲を広く確保することができる。
【0038】
なお、
図1に示したように、各前処理用ロボット10は、搬送向きについてシフトした位置にそれぞれ配置される。
図1に示した場合では、前処理用ロボット10Rは、前処理用ロボット10Lよりも「SA」だけ上流側にずらして配置されている。
【0039】
このように、各前処理用ロボット10を搬送向きにずらして配置することで、塗装前処理におけるエンドエフェクタEE同士の干渉を抑制することができる。なお、前処理用ロボット10Rを前処理用ロボット10Lよりも下流側にずらして配置することとしてもよい。また、各前処理用ロボット10を搬送向きにずらさなくてもよいが、ずらさない場合については
図4を用いて後述する。
【0040】
次に、前処理用ロボット10の構成について
図2を用いて説明する。
図2は、
図1に示した前処理用ロボット10Rの斜視模式図である。
図2は、前処理用ロボット10Rを下流側の上方から見下ろした斜視図に相当する。
【0041】
なお、破線で示したエンドエフェクタEEの詳細については
図5を用いて後述する。また、上述したように、
図1に示した前処理用ロボット10Lは、
図2に示した前処理用ロボット10Rと軸構成が対称であるが、その他の構成については前処理用ロボット10Rと同様である。
【0042】
図2に示すように、前処理用ロボット10は、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3、第4軸A4、第5軸A5および第6軸A6の6つの回転軸を有する6軸の垂直多関節ロボットである。
【0043】
前処理用ロボット10は、各軸に対応する関節部を有しており、各関節部を駆動するアクチュエータ(図示せず)によって各アームを旋回または回転させることで姿勢を変更する。また、
図2に示した6軸のロボットは、前処理用ロボット10の一例であり、軸数が6軸以外のロボットを用いることとしてもよい。
【0044】
前処理用ロボット10は、基端側から先端側へ向けて、ベース部10B、第1アーム11、第2アーム12、第3アーム13、第4アーム14、第5アーム15および第6アーム16を備える。
【0045】
ベース部10Bは、塗装ブース100(
図1参照)などの取付対象に固定可能である。ここで、
図2に示すように、ベース部10Bは直方体状の形状をしており、6つの面のうち第1アーム11が設けられる面以外の5つの面のいずれかを、取付対象の取付面へ固定することが可能である。すなわち、かかるベース部10Bによれば前処理用ロボット10を塗装ブース100の床面や側面あるいは天面に自在に配置することができる。
【0046】
第1アーム11は、X軸に沿う向きの第1軸A1まわりに回転可能にベース部10Bに基端側が支持される。第2アーム12は、第1軸A1と垂直な第2軸A2まわりに旋回可能に第1アーム11の先端側に基端側が支持される。第3アーム13は、第2軸A2と平行な第3軸A3まわりに旋回可能に第2アーム12の先端側に基端側が支持される。
【0047】
第4アーム14は、第3軸A3と垂直な第4軸A4まわりに回転可能に第3アーム13の先端側に基端側が支持される。第5アーム15は、第4軸A4と直交する第5軸A5まわりに旋回可能に第4アーム14の先端側に基端側が支持される。第6アーム16は、第5軸A5と直交する第6軸A6まわりに回転可能に第5アーム15の先端側に基端側が支持される。そして、エンドエフェクタEEは、第6アーム16の先端側に着脱可能に取り付けられる。
【0048】
図2に示したように、第4アーム14は、第2アーム12よりも外形が細身であるので、ワークW(
図1参照)との接触を回避しつつ、エンドエフェクタEEによる塗装前処理をワークWに対して行うことができる。
【0049】
ここで、各アームに内蔵されるアクチュエータは、エンドエフェクタEEの位置や姿勢を目的の位置や姿勢へ移動させるために十分なトルクを有している。また、各アームは、エンドエフェクタEEを所定の位置や姿勢に移動させるのに十分な強度を有している。したがって、前処理用ロボット10は、
図1に示したワークWに対して塗装前処理を確実に行うことができる。
【0050】
なお、
図5を用いて後述するように、エンドエフェクタEEへ接続されるホース504(
図5参照)は、前処理用ロボット10における各アームの内部ではなく外部に配置される。これにより、各アームの外形を細くすることができる。
【0051】
次に、
図1に示した塗装ブース100を下流側からみた側面図について
図3を用いて説明する。
図3は、下流側からみた塗装ブース100の側面模式図である。ここで、
図3は、
図1に示したロボットシステム1を搬送向きの下流側からみた側面図に対応する。なお、
図1に示した第1アーム11は、第2アーム12および第3アーム13の後方に隠れているため図示していない。また、
図3に示した各前処理用ロボット10の姿勢は上記した基準姿勢に相当する。
【0052】
図3に示すように、塗装ブース100は、一対の側壁101と、床壁102と、天壁103とで囲まれており、搬送向き(X軸に沿う向き)に沿って延伸する。床壁102には搬送装置110が配置されており、ワークWは、搬送装置110によって搬送される。また、一対の側壁101には、一対の前処理用ロボット10がそれぞれ壁掛けされる。
【0053】
具体的には、ワークWに対して右側(Y軸正方向側)から塗装前処理を行う前処理用ロボット10Rは、側壁101Rに固定される。また、ワークWに対して左側(Y軸負方向側)から塗装前処理を行う前処理用ロボット10Lは、側壁101Lに固定される。
【0054】
なお、
図3に示したように、前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lは、ベース部10BがワークWの上面よりも高い位置で、それぞれ同じ高さとなるように配置される。つまり、各前処理用ロボット10は、斜め上方からワークWに対してアクセス可能な動作範囲を有している。
【0055】
前処理用ロボット10Rの第2アーム12は、各アームの中で最も側壁101Rから遠い位置、すなわち、ワークW寄りの位置に配置されており、第3アーム13~第6アーム16は、第2アーム12よりも側壁101R寄りに配置されている。
【0056】
また、前処理用ロボット10Lの第2アーム12は、各アームの中で最も側壁101Lから遠い位置、すなわち、ワークW寄りの位置に配置されており、第3アーム13~第6アーム16は、第2アーム12よりも側壁101L寄りに配置されている。
【0057】
このように、前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lは、搬送中心面Pについてお互いに鏡像の関係となる。つまり、前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lは、搬送中心面Pについて対称な軸構成を有している。
【0058】
次に、前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lの軸構成の対称性についてさらに
図4を用いて説明する。
図4は、軸構成の対称性を示す説明図である。ここで、
図4は、
図1に対応する上面模式図であるが、対称性を説明しやすくするために、搬送向きについて同じ位置に各前処理用ロボット10を配置している点で
図1とは異なる。また、
図4では、
図1に示したワークWの記載を省略している。なお、各前処理用ロボット10の姿勢は上記した基準姿勢に相当する。
【0059】
図4に示すように、前処理用ロボット10Rのベース部10Bと、前処理用ロボット10Lのベース部10Bとは、搬送中心面Pについて対称である。また、前処理用ロボット10Rの第1アーム11および第2アーム12と、前処理用ロボット10Lの第1アーム11および第2アーム12とについても、搬送中心面Pについて対称である。さらに、各前処理用ロボット10は、
図3に示した第3アーム13~第6アーム16についても、搬送中心面Pについて対称である。
【0060】
このように、前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lは、搬送中心面Pについてお互いに鏡像の関係となる。つまり、前処理用ロボット10Rおよび前処理用ロボット10Lは、搬送中心面Pについて対称な軸構成を有している。
【0061】
なお、
図4では、各前処理用ロボット10の第1アーム11がベース部10Bよりも下流側にあって下流側に延伸する場合について示したが、上流側にあって上流側に延伸するようにしてもよい。
【0062】
次に、
図1等に示したエンドエフェクタEEについて
図5を用いて説明する。
図5は、エンドエフェクタEEおよびホース504の配置例を示す斜視模式図である。なお、
図5は、
図2と同様に、エンドエフェクタEEが取り付けられた前処理用ロボット10Rを上流側の上方から見下ろした斜視図に相当する。
【0063】
図5に示すように、エンドエフェクタEEは、回転ブラシ501と、接続部502と、除電部503とを備える。また、接続部502には、除塵処理用のホース504が接続される。回転ブラシ501は、ローラの外周に設けられたブラシをアクチュエータによる回転力によって回転させて塵などの異物をワークW(
図1参照)から取り除くとともに、吸引によってホース504経由で排出することで除塵処理を行う。
【0064】
除電部503はエンドエフェクタEEの内部に設けられるイオナイザであり、生成したイオンを回転ブラシ501に供給することで除電処理を行う。つまり、エンドエフェクタEEは、塗装前処理として除塵処理および除電処理を行う装置である。
【0065】
このように、前処理用ロボット10は、除塵処理および除電処理の双方を1台で行うエンドエフェクタEEをハンドリング可能な強度およびトルクを有しているので、前処理ごとにロボットを設ける必要がなく、ひいては塗装ブース100(
図1参照)の小型化に寄与することが可能となる。
【0066】
また、
図5に示したように、ホース504は、第2アーム12の外部におけるワークW(
図1参照)側に配索される。具体的には、ホース504は、第2アーム12のワークW側、第3アーム13を経由してエンドエフェクタEEの接続部502に接続される。なお、ホース504は、結束バンド等の取付具によって第2アーム12や第3アーム13の表面に配索される。
【0067】
このように、ホース504を第2アーム12におけるワークW側に配索することで、ホース504と側壁101Rとの干渉を抑制することができる。すなわち、ホース504と、塗装ブース100(
図1参照)との干渉を抑制することができる。
【0068】
次に、実施形態に係るロボットシステム1の構成について
図6を用いて説明する。
図6は、ロボットシステム1の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、ロボットシステム1は、塗装ブース100内に、搬送装置110と、前処理用ロボット10とを備える。
【0069】
また、ロボットシステム1は、コントローラ20を備える。なお、搬送装置110および前処理用ロボット10は、コントローラ20に接続されている。
【0070】
搬送装置110は、既に説明したように、ワークWを所定の搬送向きに搬送するコンベアなどの装置である。なお、搬送装置110は、ワークWの位置を検出するセンサなどの検出装置(図示せず)を有しており、ワークWが通過したタイミングなどをコントローラ20へ通知する。また、搬送装置110は一定速度でワークWを搬送するものとする。
【0071】
前処理用ロボット10は、塗装前のワークWに対して塗装前処理を行うロボットである。
図1に示した場合では、前処理用ロボット10は、塗装ブース100内に2台設置される。なお、前処理用ロボット10の構成については
図2を用いて既に説明したので、ここでの説明を省略する。
【0072】
コントローラ20は、制御部21と、記憶部22とを備える。制御部21は、タイミング取得部21aと、動作制御部21bとを備える。記憶部22は、教示情報22aを記憶する。なお、
図6には、説明を簡略化するために、1台のコントローラ20を示したが、たとえば、前処理用ロボット10ごとに複数台のコントローラ20を用いることとしてもよい。この場合、各コントローラ20を束ねる上位コントローラを設けることとしてもよい。
【0073】
ここで、コントローラ20は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力ポートなどを有するコンピュータや各種の回路を含む。
【0074】
コンピュータのCPUは、たとえば、ROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、制御部21のタイミング取得部21aおよび動作制御部21bとして機能する。
【0075】
また、タイミング取得部21aおよび動作制御部21bの少なくともいずれか一つまたは全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
【0076】
また、記憶部22は、たとえば、RAMやHDDに対応する。RAMやHDDは、教示情報22aを記憶することができる。なお、コントローラ20は、有線や無線のネットワークで接続された他のコンピュータや可搬型記録媒体を介して上記したプログラムや各種情報を取得することとしてもよい。さらに、上記したように、コントローラ20を複数台の相互に通信可能な装置として構成してもよく、上位または下位の装置と通信可能な階層式の装置として構成してもよい。
【0077】
制御部21は、搬送装置110から、ワークW(
図1参照)を搬送装置110の可動部分に固定する台座などの治具の位置情報(パルス信号)や、各装置を排他的に動作させるためのインターロック信号を取得しつつ、各ロボットの動作制御を行う。なお、コントローラ20が複数台で構成される場合には、制御部21は、コントローラ20間の同期をとる処理を併せて行う。
【0078】
タイミング取得部21aは、上記した位置情報やインターロック信号を搬送装置110から取得する。そして、タイミング取得部21aは、取得した位置情報やインターロック信号に応じて各ロボットの動作タイミングを決定し、決定した動作タイミングを動作制御部21bへ通知する。たとえば、タイミング取得部21aは、ワークW(
図1参照)が塗装ブース100内の所定位置に達したタイミングを取得し、取得したタイミングに基づいて各ロボットを動作させるよう動作制御部21bへ指示する。
【0079】
動作制御部21bは、タイミング取得部21aからの指示および教示情報22aに基づいて各ロボットを動作させる。動作制御部21bは、各ロボットのアクチュエータ(図示せず)におけるエンコーダ値を用いつつフィードバック制御を行うなどして各ロボットの動作精度を向上させる。
【0080】
教示情報22aは、各ロボットへ動作を教示するティーチング段階で作成され、各ロボットの動作経路を規定するプログラムである「ジョブ」を含んだ情報である。なお、ロボットシステム1では、上記したように、アーム構成が対称なロボットを用いることとしているので、各ロボット用の教示データを反転させて利用することが可能となる。したがって、ロボットシステム1によれば、かかる教示データを含んだ教示情報22aの生成の手間とコストとを抑制することができる。
【0081】
上述してきたように、実施形態に係るロボットシステム1は、塗装ブース100と、前処理用ロボット10とを備える。前処理用ロボット10は、被塗装物であるワークWに対して塗装前処理を行う。また、前処理用ロボット10は、塗装ブース100内に配置され、塗装前処理用のエンドエフェクタEEを有する防爆ロボットである。
【0082】
このように、実施形態に係るロボットシステム1によれば、ワークWに対して塗装前処理を行う前処理用ロボット10が防爆ロボットであるので、爆発性雰囲気である塗装ブース100内に前処理用ロボット10を配置することができる。したがって、塗装ブース100とは別の非爆発性雰囲気のブースが不要となり、塗装処理全体としての設備規模を縮小することができる。
【0083】
なお、上述した実施形態では、搬送装置によってワークが搬送される場合を例示したが、ワークを固定するとともに、前処理用ロボットや塗装ロボット(図示せず)を搬送向きに沿ってスライドさせることとしてもよい。また、上述した実施形態では、壁掛けされる前処理用ロボットの第1軸の向きが搬送向きに沿う場合について説明したが、前処理用ロボットを床置きや天吊りにする場合には、第1軸の向きを鉛直向きとすることとしてもよい。
【0084】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施例に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 ロボットシステム
10 前処理用ロボット
10B ベース部
11 第1アーム
12 第2アーム
13 第3アーム
14 第4アーム
15 第5アーム
16 第6アーム
20 コントローラ
21 制御部
21a タイミング取得部
21b 動作制御部
22 記憶部
22a 教示情報
100 塗装ブース
101 側壁
102 床壁
103 天壁
110 搬送装置
501 回転ブラシ
502 接続部
503 除電部
504 ホース
A1 第1軸
A2 第2軸
A3 第3軸
A4 第4軸
A5 第5軸
A6 第6軸
EE エンドエフェクタ
P 搬送中心面(対称面)
W ワーク