(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】半透膜支持体用湿式不織布及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/48 20060101AFI20240614BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240614BHJP
D21H 13/24 20060101ALI20240614BHJP
D21H 25/04 20060101ALI20240614BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20240614BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20240614BHJP
【FI】
B01D71/48
B01D69/10
D21H13/24
D21H25/04
D04H1/435
D04H1/541
(21)【出願番号】P 2020215562
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】田中 光次
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】楚山 智彦
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-140785(JP,A)
【文献】特開2014-151238(JP,A)
【文献】国際公開第2011/049231(WO,A1)
【文献】特開2006-089872(JP,A)
【文献】特開2020-157213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22
B01D61/00-71/82
C02F1/44
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成分としてポリエステル繊維
のみを含む半透膜支持体用湿式不織布であって、
該湿式不織布の表面及び裏面は加熱加圧処理面であり、
該湿式不織布の表面及び裏面には結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%以上80質量%以下の範囲で存在することを特徴とする半透膜支持体用湿式不織布。
【請求項2】
前記ポリエステル繊維はポリエステル主体繊維及びポリエステルバインダー繊維を含み、少なくとも前記湿式不織布の表面及び裏面において前記ポリエステルバインダー繊維が前記ポリエステル主体繊維に溶融接着し、かつ、前記ポリエステル主体繊維
同士が溶融接着していることを特徴とする請求項1に記載の半透膜支持体用湿式不織布。
【請求項3】
前記ポリエステル主体繊維及び前記ポリエステルバインダー繊維の合計質量に対する前記ポリエステルバインダー繊維の質量が20質量%以上38質量%以下であることを特徴とする請求項
2に記載の半透膜支持体用湿式不織布。
【請求項4】
前記湿式不織布は、繊維成分としてポリエチレンテレフタレート繊維のみを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の半透膜支持体用湿式不織布。
【請求項5】
前記湿式不織布のシート密度が0.5g/cm
3以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の半透膜支持体用湿式不織布。
【請求項6】
繊維成分としてポリエステル繊維のみを含む半透膜支持体用湿式不織布であって、
該湿式不織布の表面及び裏面は加熱加圧処理面であり、
該湿式不織布の表面及び裏面には結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%以上80質量%以下の範囲で存在する、半透膜支持体用湿式不織布の製造方法であって、
繊維成分としてポリエステル繊維
のみを含む繊維原料スラリーを調製する工程と、
前記繊維原料スラリーを抄紙し、脱水して湿潤シートを得る工程と、
前記湿潤シートを乾燥させて乾燥シートを得る
乾燥工程と、
前記乾燥シートを200℃以上260℃以下の加熱条件に設定した熱カレンダー装置で加熱しながら表裏面を
線圧100~250kN/mで加圧して、加熱加圧処理が施されたシートを得る
1回目加熱加圧工程と、
前記加熱加圧処理が施されたシートの温度を下げる降温工程と、
前記降温工程を経たシートの温度が130℃以上
156℃以下であるときに、200℃以上260℃以下の加熱条件に設定した熱カレンダー装置で該シートを再度加熱しながら表裏面を
線圧100~250kN/mで加圧して、2回目の加熱加圧処理が施されたシートを得る
2回目加熱加圧工程と、を有
することを特徴とする半透膜支持体用湿式不織布の製造方法。
【請求項7】
前記2回目の加熱加圧処理が施されたシートを得る
2回目加熱加圧工程において、130℃以上
156℃以下である前記降温工程を経たシートは、前記降温工程において130℃未満まで降温する手前のシートであるか、または、前記降温工程において一旦130℃未満まで降温して再度130℃以上に加熱されたシートであることを特徴とする請求項6に記載の半透膜支持体用湿式不織布の製造方法。
【請求項8】
前記ポリエステル繊維が、一次結晶化温度が115℃以上のポリエステル繊維を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の半透膜支持体用湿式不織布の製造方法。
【請求項9】
前記1回目加熱加圧工程を経て得られた1回目の加熱加圧処理が施されたシートは、表面及び裏面に結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%未満で存在する湿式不織布であり、
前記2回目の加熱加圧処理を施すときに前記ポリエステル繊維の結晶化度を向上させて、
前記2回目加熱加圧工程を経て得られた2回目の加熱加圧処理が施されたシートは、表面及び裏面に結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%以上80質量%以下の範囲で存在する湿式不織布
であることを特徴とする請求項6~8のいずれか一つに記載の半透膜支持体用湿式不織布の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥工程におけるシートテンションよりも前記1回目加熱加圧工程及び前記2回目加熱加圧工程におけるシートテンションを高くすることを特徴とする請求項6~9のいずれか一つに記載の半透膜支持体用湿式不織布の製造方法。
【請求項11】
前記1回目加熱加圧工程の熱カレンダー装置は、金属ロール/金属ロールのハードニップカレンダーであり、
前記2回目加熱加圧工程の熱カレンダー装置は、金属ロール/金属ロールのハードニップカレンダーであることを特徴とする請求項6~10のいずれか一つに記載の半透膜支持体用湿式不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、湿式不織布に関し、詳しくは、限外濾過膜、精密濾過膜、逆浸透(RO)膜等の分離機能を有する半透膜に使用する半透膜支持体用の湿式不織布とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料/工業用水中の不純物の除去、海水の淡水化、食品中の雑菌の除去、排水処理、あるいは生化学分野などで、半透膜が応用される用途は増加を続けている。現在は欧米や中国、韓国等が主要な市場だが、今後は中東での水不足の解消や衛生面の向上などを目的とする水処理に対しての普及も期待されており、国内外における生産量及び使用量も増え続けている。
【0003】
一般に、半透膜は、不織布や織布等の支持体上に、半透膜の原料となる高分子の溶液を塗工して固着させる方法により製造される。また、予め、該支持体上に高分子の溶液を塗工し支持層を形成させてから半透膜を形成させる方法等もある。
【0004】
したがって、支持体となる不織布等は、高分子の溶液を塗工した際に、非塗工面に裏抜けや支持体の毛羽立ち等により膜の欠損やピンホール等の欠点が生じないことが要求される。
【0005】
半透膜の材質としては、再生セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリスルフォン、ポリアミドなど様々な高分子が用途に合わせて選択される。しかし、その膜自体は強度が弱く、単独では限外濾過や逆浸透などに使用される際の1~10MPaという高圧には耐えられない。そこで、強度が強く通液性の高い不織布等の支持体上に膜を生成する必要がある。
【0006】
その支持体には必要とされる通液性、引張強度、湿潤強度、耐久性を得るために、ポリエステルやポリオレフィン等の合成繊維を湿式あるいは乾式でシート状に成形し、加熱加圧処理して合成繊維同士を溶融接着させた不織布が一般的に用いられる。
【0007】
半透膜の支持体としての不織布及びその製造方法については公知となっている。例えば、ポリエステル繊維からなる主体繊維とバインダー繊維とからなり、抄紙後に加熱加圧処理して製造される不織布であって、抄紙流れ方向と幅方向の引張強度比を2:1~1:1とし、支持体表裏面の表面粗さを裏面粗さに対し15%以上大きくすることで、半透膜液を塗布しても、その支持体を幅方向に湾曲させずロール搬送して、支障なく凝固洗浄槽で処理することができる半透膜支持体が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0008】
また、平滑度に表裏差を付けることにより、高温条件下において反りが小さく、寸法安定性に優れた不織布が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0009】
また、分離膜本体と流路材とを備える分離膜であって、該流路材はポリオレフィン系樹脂50~97重量%と熱可塑性エラストマー系樹脂3~50重量%と少なくとも含むものでポリオレフィン系樹脂の結晶化度が20~50%であるものが提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-095937号公報
【文献】特許4668210号公報
【文献】特開2015-27666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1~3の不織布は、半透膜を設ける工程でカールが生じる問題がある。具体的には、高分子の溶液を塗工した面(製膜面)を乾燥させる際に、テンションのかかった不織布にカールが生じ、半透膜が変形するなどの不具合が生じる問題がある。
【0012】
本開示の目的は、このような問題を鑑み、半透膜を設ける工程でカールが発生し難い半透膜支持体用湿式不織布及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布は、繊維成分としてポリエステル繊維のみを含む半透膜支持体用湿式不織布であって、該湿式不織布の表面及び裏面は加熱加圧処理面であり、該湿式不織布の表面及び裏面には結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%以上80質量%以下の範囲で存在することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布では、前記ポリエステル繊維はポリエステル主体繊維及びポリエステルバインダー繊維を含み、少なくとも前記湿式不織布の表面及び裏面において前記ポリエステルバインダー繊維が前記ポリエステル主体繊維に溶融接着し、かつ、前記ポリエステル主体繊維同士が溶融接着していることが好ましい。抄紙後、乾燥工程を経ることで、ポリエステルバインダー繊維がポリエステル主体繊維に溶融接着し、さらに加熱加圧工程を経ることで、ポリエステル主体繊維同士が溶融接着して、湿式不織布の強度が高められている。
【0015】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布では、前記ポリエステル主体繊維及び前記ポリエステルバインダー繊維の合計質量に対する前記ポリエステルバインダー繊維の質量が20質量%以上38質量%以下であることが好ましい。このような配合比率とすることで、湿式不織布を好適に加熱加圧処理することができ、且つ湿式不織布中に適度に繊維分を残すことができるため、湿潤状態で湿式不織布の品質を安定させることができる。
【0016】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布では、前記湿式不織布は、繊維成分としてポリエチレンテレフタレート繊維のみを含むことが好ましい。耐熱性、耐薬品性、経済性、種類の豊富さに優れている。
【0017】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布では、前記湿式不織布のシート密度が0.5g/cm3以上であることが好ましい。湿式不織布への半透膜塗工液の塗工適性を良好にすることができる。
【0018】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布の製造方法は、繊維成分としてポリエステル繊維のみを含む半透膜支持体用湿式不織布であって、該湿式不織布の表面及び裏面は加熱加圧処理面であり、該湿式不織布の表面及び裏面には結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%以上80質量%以下の範囲で存在する、半透膜支持体用湿式不織布の製造方法であって、繊維成分としてポリエステル繊維のみを含む繊維原料スラリーを調製する工程と、前記繊維原料スラリーを抄紙し、脱水して湿潤シートを得る工程と、前記湿潤シートを乾燥させて乾燥シートを得る乾燥工程と、前記乾燥シートを200℃以上260℃以下の加熱条件に設定した熱カレンダー装置で加熱しながら表裏面を線圧100~250kN/mで加圧して、加熱加圧処理が施されたシートを得る1回目加熱加圧工程と、前記加熱加圧処理が施されたシートの温度を下げる降温工程と、前記降温工程を経たシートの温度が130℃以上156℃以下であるときに、200℃以上260℃以下の加熱条件に設定した熱カレンダー装置で該シートを再度加熱しながら表裏面を線圧100~250kN/mで加圧して、2回目の加熱加圧処理が施されたシートを得る2回目加熱加圧工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布の製造方法では、前記2回目の加熱加圧処理が施されたシートを得る2回目加熱加圧工程において、130℃以上156℃以下である前記降温工程を経たシートは、前記降温工程において130℃未満まで降温する手前のシートであるか、または、前記降温工程において一旦130℃未満まで降温して再度130℃以上に加熱されたシートであることが好ましい。ポリエステル繊維の結晶化度を高めた湿式不織布を製造することができる。
【0020】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布の製造方法では、前記ポリエステル繊維が、一次結晶化温度が115℃以上のポリエステル繊維を含むことが好ましい。ポリエステル繊維の結晶化度をさらに高めた湿式不織布を製造することができる。
【0021】
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布の製造方法では、前記1回目加熱加圧工程を経て得られた1回目の加熱加圧処理が施されたシートは、表面及び裏面に結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%未満で存在する湿式不織布であり、前記2回目の加熱加圧処理を施すときに前記ポリエステル繊維の結晶化度を向上させて、前記2回目加熱加圧工程を経て得られた2回目の加熱加圧処理が施されたシートは、表面及び裏面に結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%以上80質量%以下の範囲で存在する湿式不織布であることが好ましい。
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布の製造方法では、前記乾燥工程におけるシートテンションよりも前記1回目の加熱加圧工程及び前記2回目の加熱加圧工程におけるシートテンションを高くすることが好ましい。
本発明に係る半透膜支持体用湿式不織布の製造方法では、前記1回目加熱加圧工程の熱カレンダー装置は、金属ロール/金属ロールのハードニップカレンダーであり、前記2回目加熱加圧工程の熱カレンダー装置は、金属ロール/金属ロールのハードニップカレンダーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本開示の半透膜支持体用湿式不織布を使用することにより、半透膜を設ける工程でのカールの発生が抑制され、半透膜が変形するなどの不具合が生じ難くなる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0024】
本実施形態に係る半透膜支持体用不織布はポリエステル繊維が主体で構成される。ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリトリブチレンテレフタレート繊維などを用いることが可能である。また、ポリエステル繊維以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化エチレン、ポリアラミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ナイロン等の合成樹脂から紡糸された繊維を用いることができる。更には、レーヨン等の再生セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース等のセルロース誘導体、また近年生化学用途として活発に研究されているポリ乳酸、ポリ酪酸、ポリ琥珀酸等の天然物を原料ソースとした繊維も使用することが可能である。本実施形態に係る半透膜支持体用湿式不織布は、繊維成分としてポリエステル繊維を90質量%以上100質量%以下の範囲で含む。品質の安定性の高める観点から、ポリエステル繊維の配合率が高い方が好ましい。95質量%以上であることがより好ましい。本実施形態においては、耐熱性、耐薬品性、価格の安さ、繊維径や性状の種類の豊富さなどから、ポリエステル繊維のみを使用することが好ましく、更にはポリエチレンテレフタレート繊維のみを使用することが好ましい。
【0025】
本実施形態においては、半透膜支持体用不織布の主な構成要素であるポリエステル繊維は、主体繊維とバインダー繊維とに分けられる。低温での溶融接着を目的としないポリエステル繊維を主体繊維と呼ぶ。主体繊維の形状は、繊維径が細いものを用いれば、完成したシートの孔径はより小さくなり、繊維径が太いものを用いれば、シートの強度が増す。繊維が短いものを用いれば湿式抄紙工程での水中での分散性が向上し、繊維が長いものを用いればシートの強度が増す。本実施形態においては主体繊維の太さが0.05~5.0デシテックス、好ましくは0.1~2.0デシテックス、長さが1~8mm、好ましくは3~6mmの範囲のものが好適に用いられる。また、主体繊維の断面の形状は、必要時応じて適宜選択することが可能で、本実施形態においては限定されない。ポリエステル繊維主体繊維は、融点が220~260℃程度、好ましくは230~255℃のものが用いられる。
【0026】
また必要に応じて主体繊維としてパルプ状原料、例えば抄紙用木材パルプ、あるいはポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、アラミドなどの合成樹脂パルプ、あるいはガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維などの無機繊維を配合することも可能である。これらの主体繊維を配合する場合においても、湿式不織布は、繊維成分としてポリエステル繊維を90質量%以上100質量%以下の範囲で含むことを満たすことが必要である。
【0027】
本実施形態に係る半透膜支持体用湿式不織布は、必要に応じて炭酸カルシウム、タルク、カオリンなどの無機充填材などを配合することも可能である。
【0028】
本実施形態においては、シート化工程、巻き取り工程の間に十分なシート強度を得るために、バインダー繊維を使用することが可能である。バインダー繊維とは、一般的には主体繊維よりも20℃程度あるいは20℃以上融点が低い、好ましくは25℃以上融点が低い合成繊維のことを指し、抄紙後の乾燥工程における加熱で表面が溶融接着し、操業を可能とする引張強度をシートに付与する効果を持つ。ただし、繊維自体の引張強度は主体繊維より劣るため、操業のしやすさと完成製品の強度のバランスが取れる配合率にする必要がある。本実施形態において、ポリエステルバインダー繊維の配合量は、全ポリエステル繊維(ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維との合計量)に対して20~38質量%とすることが好ましく、25~35質量%とすることがより好ましい。この範囲であれば、好適に加熱加圧処理することができ、且つ適度に繊維分を残すことができるため、湿潤状態で品質を安定させることができる。バインダー繊維が20質量%未満となると湿式不織布の抄造段階で強度が弱く安定した原紙を得ることができない場合がある。一方、バインダー繊維が38質量%を超えると加熱加圧工程で好適に融着させることができるが、非晶質の繊維が多く存在するため、湿潤状態で強度を維持することが難しい場合がある。
【0029】
バインダー繊維は、その構成樹脂全てを溶融させて用いるものや、内側と外側の二重構造いわゆる芯鞘構造と呼ばれる構造を持ち表面だけを溶融させるタイプなどがあり、いずれも本実施形態において使用可能である。好適には融点200~260℃程度、好ましくは融点210~250℃のポリエステル未延伸繊維が用いられる。また、太さ、長さ、断面の形状等は、主体繊維と同様に目的に応じて選択が可能である。バインダー繊維は主体繊維と同じかあるいはこれに近い樹脂組成であることが好ましいが、要求特性に応じ異種の樹脂組成でも可能である。また、湿熱条件で溶解する特性を持つビニロンバインダー繊維も好適に用いられる。さらに水素結合により自己接着性を有する抄紙用木材パルプをバインダーとして用いることもできる。ポリエステルバインダー繊維以外のバインダー繊維を配合する場合においても、湿式不織布は、繊維成分としてポリエステル繊維を90質量%以上100質量%以下の範囲で含むことを満たすことが必要である。
【0030】
本実施形態においては、シート密度を0.5g/cm3以上とすることが好ましい。湿式不織布への半透膜塗工液の塗工適性を良好にするためには、不織布基材のシート密度を高めることと、透気性を低減することが必要である。シート密度は0.6g/cm3以上がより好ましく、更に好ましくは0.7g/cm3以上である。0.5g/cm3未満であると該塗工液が不織布基材のシートに浸透しすぎてしまい塗工層及び表面が不均一になってしまう。また、該塗工液がZ軸方向に貫通することで膜の欠損やピンホールが発生し易くなる。シート密度の上限値は、例えば1.2g/cm3以である。
【0031】
本実施形態に係る湿式不織布の通気性は、該湿式不織布の面風速5.3cm/秒時の圧力損失として50Pa以上3000Pa以下が好ましく、さらに好ましくは80Pa以上1500Pa以下である。ここで、圧力損失とは湿式不織布の通気性を示すひとつの指標であり、圧力損失が高いほど通気性が低くなっていることを示す。50Pa未満であると前述と同様に、半透膜の塗工液が不織布基材のシートに浸透しすぎてしまい塗工層及び表面が不均一になってしまい、また、裏抜けが生じることもある。一方で、圧力損失が3000Paより大きくなると該塗工液が不織布基材シート内部に浸透しづらくなるため塗工層の不織布基材シート表面への食い付きが悪くなり、基材シートから塗工層が剥がれやすくなることがある。
【0032】
半透膜支持体用湿式不織布の製造方法としては、繊維を水中に分散したのち、抄紙ワイヤ上に繊維を積層し、ワイヤ下方から脱水してシートを形成する、いわゆる湿式抄紙法が用いられる。このとき用いる抄紙機の種類は、本実施形態では限定されず、例えば枚葉式抄紙装置、又は連続抄紙機であれば長網式抄紙機、短網式抄紙機、円網式抄紙機、傾斜ワイヤ式抄紙機、ギャップフォーマー、デルタフォーマーなどを用いることができる。このとき、欠点の少ない半透膜支持体用湿式合繊不織布を得るためには、できるだけ均一に、地合良くシート化することが望ましい。
【0033】
抄紙されたシートは多量の水分を含有しているので、乾燥ゾーンで乾燥される。このときの乾燥方法は、特に限定されないが、熱風乾燥、赤外線乾燥、ドラム乾燥、ヤンキードライヤーによる乾燥などが好適に用いられる。乾燥温度としては100~160℃が望ましい。
【0034】
抄紙工程及び乾燥工程を経た後の湿式不織布は、バインダー繊維の一部の軟化による接着が生じているものの、そのままでは半透膜支持体としては強度が不足し、半透膜の塗工適性に乏しいものである。そこで、半透膜支持体として十分な強度を得るために、主体繊維の融点付近の温度、例えば主体繊維の融点に対して-55℃~+5℃の温度で加熱加圧処理することにより、主体繊維を溶融接着して強度を高めることが行われる。この処理は各種の熱圧加工装置が用いられるが、一般的には熱カレンダー装置が有効である。例えば、200℃以上の温度で処理可能な金属ロールニップカレンダーを用いる方法や、高い耐熱性をもつ樹脂ロールであれば金属ロール/樹脂ロールのソフトニップカレンダーを用いることも可能である。温度条件は、200℃~260℃の範囲が好ましく、特に205℃~240℃が更に好ましい。該加熱加圧工程で十分に熱量を加え、ポリエステル主体繊維の融解を適度に進めることで繊維の結晶化度が高くなり、非晶質の箇所が少なくなるため、湿潤状態での繊維の緩和を抑制することができる。その結果、半透膜を設ける際の不織布のカールを抑制することができる。熱カレンダー装置での加熱加圧処理における温度が200℃未満となると、熱量が乏しくなり、ポリエステル繊維の結晶化度は高くなり難くなるため、カールの抑制効果に乏しくなる。一方、温度条件が260℃を超える場合、主体繊維の融解は進むが、加熱加圧工程でロールへ接着し易くなり、該不織布の表面が荒れるだけでなく、ロール汚れも酷くなり安定した加熱加圧ができなくなる。また、ポリエステル繊維の結晶化度は、加熱加圧処理時の温度以外に、加圧条件やシートテンションにも影響を受ける。加熱温度にもよるが、加圧条件としては線圧が高い方がポリエステル繊維の結晶化度は高くなりやすく、温度が200~260℃の場合、線圧は、50~250kN/m範囲が好ましく、更に好ましくは100~230kN/mである。また、シートテンションも高いほどポリエステル繊維の結晶化度は高くなりやすい傾向にある。乾燥工程におけるシートテンションよりも加熱加圧工程におけるシートテンションを高くすることが好ましい。不織布全体で均一な性能を発現させるためには、できるだけ均一な温度プロファイル、線圧プロファイルで処理することが望ましい。熱カレンダー装置のロール径は、熱圧処理される基材、ニップ圧、速度等のパラメータにより、適宜選定される。
【0035】
ここで半透膜を設ける際の不織布のカールの発生について述べる。一般的にポリエチレンテレフタレートやメタクリル樹脂など樹脂は多少なりとも吸水性を有している。結晶性樹脂では結晶化度も吸水性に関係があり、一般的に結晶化度の高いものほど吸水し難い傾向にある。これは高分子鎖がきちんと配列されているため、結晶構造の中に水分子が侵入しにくいためとされている。一方、非晶質性樹脂は、比較的吸水し易く、この水分が高分子間の水素結合を弱めるため、分子間に緩みが発生する。この非晶質部の分子間の緩みは、結果として繊維の歪みとなり、湿潤と乾燥の課程でその歪みが大きくなることで不織布がカールを起こすものと考えられる。このようなカールが少ない不織布とするために、予め結晶化度が高い合成繊維を用いた不織布は、加熱加圧処理による繊維同士の融着が進みにくいことから強度が不足しやすく、また、密度が低くなって半透膜の欠損やピンホールが発生し易くなる。従って、本実施形態においては、結晶化度が30%未満のポリエステル繊維を用いて湿式不織布を形成した後、加熱加圧処理によりポリエステル繊維の結晶化度を向上させることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、前述する加熱加圧処理を施すことで、不織布の表裏面に、結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維を、40~80質量%の範囲で存在させる。好ましくは50~70質量%の範囲である。このような構成とすることで半透膜塗工後の乾燥工程での不織布のカールの発生が抑制される。結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維の存在量が40質量%未満である場合は、非晶質の繊維が多く存在することとなり、結果として半透膜塗工後の乾燥工程でのカールの発生が生じやすくなる。一方、80%を超えると、密度が高くなりすぎて、結果として通液性に乏しくなるおそれがある。
【0037】
上述に記載の通り、加熱加圧処理は半透膜支持体を製造するうえでは大変有効性が高いものである。熱圧加工装置による加熱加圧処理は、1回のみの処理であっても複数回の処理であってもよいが、前述の結晶化度を効率よく高めることと生産性の観点から、2回処理を行うことが好ましい。前述の通り、加熱加圧処理は200℃以上の温度で処理するのが好ましいが、このような高温で不織布を処理すると、ポリエステル繊維の熱変形温度を超えるためか、不織布が軟らかくなり、歪みや皺が生じやすくなる。そのため、加熱加圧処理を2回行う場合は、1回目の加熱加圧処理を終えた後、2回目の加熱加圧処理を行う前に、冷却ロール等で不織布自体の温度を下げて不織布が柔らかくなりすぎるのを抑制しながら加工するのが一般的である。具体的には、2回目の加熱加圧処理を行う前に、不織布の温度を100℃以下とすることが一般的である。しかし、冷却ロール等で不織布の温度を下げると、2回目の加熱加圧処理時に比較的大きな熱量を加えても、ポリエスエル繊維の結晶化度が高くなりにくいことがわかった。このようなことから、本実施形態に係る半透膜支持体用湿式不織布の製造方法では、1回目の加熱加圧処理が施されたシートは、表面及び裏面に結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%未満で存在する湿式不織布であり、2回目の加熱加圧処理を施すときにポリエステル繊維の結晶化度を向上させて、表面及び裏面に結晶化度が30%以上であるポリエステル繊維が40質量%以上80質量%以下の範囲で存在する湿式不織布を得ることことが好ましい。本実施形態では、加熱加圧処理を2回行う場合に、ポリエステル繊維の結晶化度を向上させるために、2回目の加熱加圧処理を行う直前の不織布の表面温度を130℃以上であることが好ましい。より好ましくは135℃以上である。不織布の表面温度が130℃未満となるとポリエステル繊維の結晶化が進みにくく、目的とする結晶化度が得にくくなる。配合するポリエステル繊維が、一次結晶化温度が115℃以上のポリエステル繊維を含むことが好ましく、一次結晶化温度が115℃以上130℃未満のポリエステル繊維を含むことがより好ましい。ポリエステル繊維の結晶化度をさらに高めた湿式不織布を製造することができる。2回目の加熱加圧処理を行う直前の不織布の表面温度を130℃以上とする方法は、特に限定するものではないが、例えば1回目の加熱加圧処理を200℃以上で行い、不織布の表面温度を130℃以上に上げた後、直ちに、すなわち不織布の表面温度が130℃未満まで下がらないうちに、2回目の加熱加圧処理を行うことが好ましい。また、例えば1回目の加熱加圧処理を200℃以上で行い、不織布の表面温度を130℃以上に上げた後、130℃未満に温度が下がってしまった場合には、130℃以上に加熱してから、2回目の加熱加圧処理を行ってもよい。
【0038】
尚、加熱加圧処理の際の熱量が不足すると、不織布のZ軸方向への熱量が足りなくなるため、不織布の表面に近い部分の繊維のみが融着し、中層の繊維はそのまま、又は、半融解の状態で存在するものが多くなる。この場合、半透膜を加工する工程で湿潤状態となった際に強度の低下を招くおそれがある。
【0039】
加熱加圧処理を複数回行う場合は、1回目の処理と2回目以降の処理とで同じ加熱加圧処理装置を繰り返し使用しても良く、また複数台の加熱加圧処理装置を配して連続的に処理する方法や、熱カレンダーロールを高さ方向に多段に配したカレンダー装置も可能である。1回目の処理と2回目以降の処理の処理温度は、特に限定するものではないが、支持体の繊維融解と結晶化をより進めるため、2回目以降が1回目と同じ温度かそれ以上の温度とすることが好ましい。
【0040】
前述の加熱加圧処理装置を複数台配置して連続的に処理する方法において、金属ロール/金属ロールのハードニップカレンダーを少なくとも1台配することが好ましい。さらに好ましくは2台以上である。金属ロール/樹脂ロールのソフトニップカレンダーのみでは繊維の再融解効果が弱くなり、結晶化度の向上に乏しくなりやすい。少なくともハードニップカレンダーによる加熱加圧処理を1回行うことで、ある程度の繊維融解化と結晶化が進み、ソフトニップカレンダーとの組み合わせでも十分に熱量を加えることができる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ固形分換算での「質量部」、「質量%」を示す。
【0042】
<実施例1>
(繊維原料スラリーの調製)
ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維の質量配合比率が70:30となるように、太さ1.45デシテックス、カット長さ5mmのポリエステル主体繊維(商品名:EP133、(株)クラレ製、延伸繊維、結晶化温度230~260℃、融点255℃)70kgと、太さ1.2デシテックス、カット長さ5mmのポリエステルバインダー繊維(商品名:TR07N、帝人ファイバー(株)製、無延伸繊維、一次結晶化温度115~130℃、二次結晶化温度220~260℃、融点255℃)30kgとを水中に投入し、分散機で5分間分散した後、更に水を加えて繊維分濃度0.03%の繊維スラリーを得た。
【0043】
(シートの作製)
得られた繊維スラリーを用いて、短網式抄紙機にて抄紙し、表面温度120℃のシリンダードライヤで乾燥して米坪量55g/m2を目標に不織布シートを得た。
【0044】
(加熱加圧処理)
面長1170mm、ロール径450mm(周長1413mm)の金属ロールを供えた金属ロール/金属ロールのハードニップ熱カレンダー装置を用い、前記不織布シートをロール表面温度235℃、ロール間クリアランス80μm、線圧150kN/m、処理速度5m/分、通紙回数2回の条件で加熱加圧処理し、坪量55.0g/m2、厚み0.071mm、シート密度0.77g/cm3の半透膜支持体用湿式不織布を得た。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は130℃まで下がることなく141℃であった。
【0045】
<実施例2>
ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維の質量配合比率を62:38とし、加熱加圧処理のロール表面温度を205℃に変更した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。得られた半透膜支持体用湿式不織布は、坪量56.0g/m2、厚み0.061mm、シート密度0.92g/cm3であった。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は130℃まで下がることなく132℃であった。
【0046】
<実施例3>
ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維の質量配合比率を65:35とし、加熱加圧処理のロール表面温度を210℃に変更した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。得られた半透膜支持体用湿式不織布は、坪量54.0g/m2、厚み0.059mm、シート密度0.92g/cm3であった。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は130℃まで下がることなく155℃であった。
【0047】
<実施例4>
ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維の質量配合比率を80:20とし、加熱加圧処理のロール表面温度を235℃に変更した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。得られた半透膜支持体用湿式不織布は、坪量57.0g/m2、厚み0.056mm、シート密度1.02g/cm3であった。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は130℃まで下がることなく156℃であった。
【0048】
<実施例5>
ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維と未叩解LBKPとを質量配合比率が62:30:8となるように繊維の配合を変更した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。坪量56.0g/m2、厚み0.065mm、シート密度0.86g/cm3であった。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は130℃まで下がることなく143℃であった。
【0049】
<比較例1>
ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維の質量配合比率を60:40とし、加熱加圧処理のロール表面温度を195℃に変更した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。得られた半透膜支持体用湿式不織布は、坪量53.0g/m2、厚み0.057mm、シート密度0.93g/cm3であった。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は126℃であった。
【0050】
<比較例2>
ポリエステル主体繊維とポリエステルバインダー繊維の質量配合比率を50:50とし、加熱加圧処理のロール表面温度を200℃に変更した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。得られた半透膜支持体用湿式不織布は、坪量52.0g/m2、厚み0.057mm、シート密度0.91g/cm3であった。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は120℃であった。
【0051】
<比較例3>
加熱加圧処理の通紙回数を1回に変更した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。得られた半透膜支持体用湿式不織布は、坪量56.0g/m2、厚み0.062mm、シート密度0.90g/cm3の半透膜支持体用不織布を得た。
【0052】
<比較例4>
加熱加圧処理のロール表面温度を210℃に変更し、2回目の加熱加圧処理前に冷却ロールを用いて不織布を冷却した以外は、実施例1と同様にして半透膜支持体用湿式不織布を得た。得られた半透膜支持体用湿式不織布は、坪量54.0g/m2、厚み0.051mm、シート密度1.06g/cm3であった。2回目の加熱加圧処理前の不織布表面温度は100℃であった。
【0053】
実施例及び比較例について下記の評価を実施し、結果を不織布の製法の概要とともに表1に示した。
【0054】
(結晶化度の評価)
各実施例及び比較例で得られた半透膜支持体用不織布について、ラマン顕微鏡(XploRA PLUS、HORIBA社製)を用い、視野倍率100倍、測定面積75μm×75μm、測定ピッチ5μmにて散乱強度のピークを検出した。ピーク検出関数には「GAUSS(面積パラメータ)」を用いた。検出したピークについて、次に示す結晶化比率(It/Ig)が1.5以上であり、且つ、半値幅が23未満である検出ピークの全検出ピークに対する割合を求め、その割合を半透膜支持体用不織布における結晶化度が30%以上の繊維の量とした。尚、不織布における繊維の結晶化度を評価するにあたっては、以下に示す半値幅が一般的な指標として用いられるが、半値幅は不織布における繊維の配向性の影響を受けやすいことから、本発明では半値幅と結晶化比率の両方の指標を用いて不織布における繊維の結晶化度を評価する。
【0055】
原料の繊維の結晶化度は、繊維を一方向に揃えて測定する。ラマン顕微鏡(XploRA PLUS、HORIBA社製)を用い、視野倍率100倍、測定面積75μm×75μm、測定ピッチ5μmにて散乱強度のピークを検出した。ピーク検出関数には「GAUSS(面積パラメータ)」を用いた。検出したピークについて、次に示す結晶化比率(It/Ig)が1.5以上であり、且つ、半値幅が23未満である検出ピークの全検出ピークに対する割合を求め、その割合をポリエステル繊維における結晶化度が30%以上の部分の量とした。
【0056】
(結晶化比率)
ラマン顕微鏡にて検出した散乱強度のピークについて、1096cm-1のラマンバンドをItとし、1120cm-1のラマンバンドをIgとしIt/Igを結晶化比率とした。1080~1130cm-1のピーク高さ(強度)においては、PETのトランス型のグリコールユニットに由来する1096cm-1付近のラマンバンド(It)は結晶構造を反映している。一方で、1120cm-1付近のラマンバンド(Ig)は、ゴーシュ型のグリコールユニットであり、非晶性分を示している。このため、It(結晶化したピーク)/Ig(非晶質のピーク)で示される比率を結晶化の度合いを示す一つの指標とでき、本発明ではこの指標を結晶化比率とした。結晶化比率は数値が大きいほど結晶化度が高いことを示す。
【0057】
(半値幅)
ラマン顕微鏡にて検出した散乱強度のピークについて、1720~1740cm-1におけるピークの半値全幅を半値幅とした。1720~1740cm-1のC=O基バンド半値幅は、PETのベンゼン環とC=Oの平面性に影響され、半値幅(単位:cm-1)と密度(単位:g/cm3)との間には、(数1)で示される線形的な相関関数が示されている。
(数1)Δv1/2=305-209×p
ただし、Δv1/2はバンド半値幅を意味し、pは換算密度を意味する。
(数1)により、密度と相関関係にある結晶化度を評価することが可能である。半値幅が小さいほど密度が高くなり、すなわち結晶化度が高いことを示す。
【0058】
(カール評価)
各実施例及び比較例で得た半透膜支持体用湿式不織布を幅300mm、長さ300mmの大きさにカットし、ポリスルフォン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)20%溶液をメイヤーバー#12を用いて塗工層厚みが0.05mmになるように半透膜支持体用湿式不織布上に塗工したのち、水に浸漬して塗工層を固化し、溶剤を水置換させた。その後、湿潤状態の該塗工面に多官能アミン水溶液をスプレー噴霧した後、多官能酸ハロゲンを噴霧し、界面重合させ、厚み20nmになるように膜を形成させ、150℃×5分間の条件で熱風乾燥して半透膜を形成した。乾燥後、直ちに半透膜を上側にして平坦な箇所に置き静置させた時の4角のカール高さを測定し、4点の平均値で評価した。最もカールの大きいものを4、最もカールの小さいものを1として4段階評価を行い、1と2を合格とした。
評価基準
1:0~30mm未満。カールが小さく、良好である。
2:30mm以上50mm未満。カールは見られるが、実用上問題なし。
3:50mm以上。ロール状で巻き取る際にエッジ部が折り曲がり皺となる。
4:筒状となる。ロール状で巻き取れない。
【0059】
【0060】
表1に示された結果から明らかなように、実施例1~5で半透膜支持体用湿式不織布は、カール評価に優れるものであった。また、実施例1と比較例3を比べると、実施例1では通紙回数が2回であり、結晶化度30%以上の繊維量が63質量%であるのに対し、比較例3では通紙回数が1回であり、結晶化度30%以上の繊維量が33質量%である。このことから、2回目の通紙による加熱加圧処理によって、ポリエステル繊維の結晶化度が向上したことが分かった。なお、比較例3において通紙回数が1回で結晶化度30%以上の繊維量が33質量%であったことから、実施例1及び比較例3において、加熱加圧処理前(通紙回数0回)の乾燥シートの結晶化度30%以上の繊維量は、33%を超えることはない。