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  • 特許-段付きドリル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】段付きドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20240614BHJP
【FI】
B23B51/00 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020217180
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102447
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】502316304
【氏名又は名称】株式会社イシイコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横村 寛
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-072622(JP,A)
【文献】特開2005-313287(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090372(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 77/00-77/14;
B23B 51/00-51/14;
B23B 27/22;
B23C 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに下穴を形成する先端のドリル部と、
中間の段付き部に設けられ、前記ドリル部により形成された前記下穴の外周部をさらに切削する段付きドリル肩部と、
を備える段付きドリルにおいて
前記段付きドリル肩部の切れ刃は、前記段付きドリルの最外径部に第1掬い面を備え、且つ、前記第1掬い面に連続した面で形成されると共に、前記第1掬い面より内径側に、前記段付きドリルの中心軸と平行に延設される第2掬い面を備え、
前記第2掬い面は、前記第1掬い面より表面粗さが大きく形成されると共に、前記段付きドリル肩部の前記切れ刃の最外径から該段付きドリル肩部の前記切れ刃のドリル内外方向の寸法の50%地点よりドリル内外方向内側に形成されていること
を特徴とする段付きドリル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段付きドリルに関し、より詳細には、ワークに形成される下穴の外周部をさらに切削する切れ刃を備える段付きドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やオートバイ用のキャリパボディ等に例示される機械装置部品は、一般に鋳鉄やアルミニウムあるいはアルミニウム合金を基材として鋳造工程によって鋳造された後、切削加工工程において部品取付用等の所定の孔が形成される。
【0003】
上記の孔の形成に際し、ドリルのみの切削では必要とする精度が得られない場合等においては、下穴を形成したうえでさらにその外周部を切削する加工工程が行われる。そのような切削加工を行う工具として、リーマや段付きドリルが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平04-217404号公報
【文献】米国特許出願公開第2010/0278603号明細書
【文献】特許第5953173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的な切削加工工程においては、切削工具を用いてワーク(切削対象物)を切削する際に、切屑が長く伸びた状態となると、ワークと切削工具との間に入り込んでしまい、当該ワークや切削工具を傷付けてしまうおそれがある。特に、ワークがアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いて形成されている場合に、切屑が長く伸びる問題が生じ易いという傾向がある。一例として、図5に、従来の切削工具を用いて切削した場合の長く伸びた切屑の写真を示す。
【0006】
そのような課題に対して、例えば、特許文献1に開示されるスローアウェイチップを備える切削工具のように、表面粗さを異ならせる構成によって切屑をカールさせ易くして切屑の排出性向上を図る技術が知られている。しかし、スローアウェイチップは、摩耗した際には交換することを前提とする技術であるため、替刃にコストが掛かり、切削工具のコストが増加する要因ともなる。
【0007】
一方、切刃部の摩耗自体を抑えることを課題として、特許文献2に開示される切削工具のように、第1切刃部と第2切刃部とを異なる材料で形成して摩擦係数を異ならせる構成によって、切刃部の耐摩耗性向上を図る技術が知られている。
【0008】
その他にも、特許文献3に開示される切削工具のように、第1切刃部と第2切刃部との摩擦係数を異ならせ、且つ、それぞれのすくい面のすくい角度を異ならせる構成によって、切屑の離間性(離間のし易さ)向上を図る技術が知られている。
【0009】
これらの切削工具は、下穴無しのドリル切削に使用されることを前提に開発されているため、そもそも切削加工工程において切屑が長く伸びてしまう不具合が生じ難い。その理由として、ドリルは、径方向位置によって切削速度(周方向の速度)が異なるため、先端から発生する切屑は当該速度差によってカールし、折損し易い形状となる。したがって、通常は、切屑が長く伸びることは無い。しかしながら、下穴を有してその外径部のドリル切削にこれらの切削工具を使用する場合には、切刃部における外径寄りの狭い領域がワークに接することとなるため、切削対象部位において上記の速度差(径方向位置による切削速度の差)があまり生じない状態となる。したがって、切屑が長く伸びてしまうリスクが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、ワークに形成される下穴の外周部をさらに切削する加工に用いられ、発生する切屑を細かく分断することによって、切屑の排出性向上を図ることができると共に切屑が長く伸びてワーク等を傷付けてしまうことを防止でき、再利用性にも優れた段付きドリルを提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0012】
本発明に係る段付きドリルは、ワークに下穴を形成する先端のドリル部と、中間の段付き部に設けられ、前記ドリル部により形成された前記下穴の外周部をさらに切削する段付きドリル肩部と、を備える段付きドリルにおいて、前記段付きドリル肩部の切れ刃は、前記段付きドリルの最外径部に第1掬い面を備え、且つ、前記第1掬い面に連続した面で形成されると共に、前記第1掬い面より内径側に、前記段付きドリルの中心軸と平行に延設される第2掬い面を備え、前記第2掬い面は、前記第1掬い面より表面粗さが大きく形成されると共に、前記段付きドリル肩部の前記切れ刃の最外径から該段付きドリル肩部の前記切れ刃のドリル内外方向の寸法の50%地点よりドリル内外方向内側に形成されていることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、ワークに形成される下穴の外周部をさらに切削する加工において、発生する切屑を細かく分断することができる。したがって、切屑の排出性向上を図ることができると共に切屑が長く伸びてワーク等を傷付けてしまうことを防止できる。また、再研磨がきわめて容易となるため、再利用性に優れている。
【0014】
また、上記の構成は、前記切れ刃が段付きドリル肩部に形成された段付きドリルに対して、好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る段付きドリルによれば、ワークに形成される下穴の外周部をさらに切削する加工おいて、発生する切屑を細かく分断することができる。したがって、切屑の排出性向上を図ることができると共に切屑が長く伸びてワーク等を傷付けてしまうことを防止できる。さらに、切れ刃の第1掬い面と第2掬い面とが連続した面で形成される構成によって、当該掬い面の再研磨が容易となる。したがって、当該段付きドリルの再利用が促進でき、コストの削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の参考例に係る切削工具の例を示す概略図である。
図2図1に示す切削工具を用いた切削加工の状態を示す模式図である。
図3】本発明の第の実施形態に係る段付きドリルの例を示す概略図である。
図4】本実施形態に係る切削工具を使用した場合の切屑の例を示す写真である。
図5】従来の実施形態に係る切削工具を使用した場合の切屑の例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1(a)は、本実施形態に係る基本的構成を示す参考例の切削工具1(1A)正面図(概略図)であり、図1(b)は、その底面図(概略図)であり、図1(c)は、図1(a)におけるA部拡大図である。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0018】
参考例に係る切削工具1は、リーマや段付きドリルのように、ワークに形成される下穴の外周部をさらに切削する切れ刃を備える切削工具である。ここで、ワークは特に限定されるものではないが、一例として、自動車やオートバイに取付けられるキャリパボディのような機械装置部品が挙げられる。
【0019】
参考例
先ず、本発明の参考例について説明する。図1図2に示すように、切削工具1がリーマ1Aとして構成される例である。すなわち、ワークWに設けられた下穴Hに対して、その外周部の所定領域(削り代E)をさらに切削する加工に用いられる。
【0020】
参考例に係る切削工具1(1A)は、本体10の先端部10aに、切れ刃の掬い面12を備えている。この切れ刃は、本体10の最外径部に第1掬い面12Aを有すると共に、第1掬い面12Aに対して内径側に第2掬い面12Bを有している。
【0021】
ここで、第2掬い面12Bは、第1掬い面12Aに連続した面(同一面内)であって、且つ、本体10の中心軸(回転される際の軸心)Cと平行な面として設けられている。
【0022】
このとき、第1掬い面12Aの表面粗さが相対的に小さく、第2掬い面12Bの表面粗さが相対的に大きく形成されることによって、それぞれの表面の摩擦係数を異ならせた構成となっている。それぞれの表面の摩擦係数を異ならせる方法(面粗度を設定する方法)は特に限定されるものではないが、例えば、第1掬い面12Aと第2掬い面12Bとを異素材で構成しても良い。また、第2掬い面12Bに対して、加工により表面の面粗度を異ならせる方法等を用いることができる。
【0023】
上記の構成によれば、図2(切削加工の状態、特に切屑の発生状態を説明するための模式図)に示すように、表面の摩擦係数を異ならせた構成、すなわち、第1掬い面12Aの表面粗さが小さく、第2掬い面12Bの表面粗さが大きく形成されている構成によって、掬い面12から切屑Dをカールした状態で発生させることが可能となる。これは、第1掬い面12Aと第2掬い面12Bとの摩擦係数の違いによってそれぞれの領域から排出される切屑部分に排出速度の差が生じるためである。より詳しくは、摩擦係数の小さい第1掬い面12Aの領域から排出される切屑部分の排出速度が速くなり、摩擦係数の大きい第2掬い面12Bの領域から排出される切屑部分の排出速度が遅くなることによって、摩擦係数の大きい側(第2掬い面12B側)に切屑Dをカールした状態にさせる作用が得られる。
【0024】
上記のカールした状態の切屑Dは折損し易くなるため、図4(本実施形態に係る切削工具を用いて切削した場合の切屑の写真)に示すように、切屑Dが細かく分断(この例では、扇形状に分断)される作用を得ることができる。したがって、切屑Dの排出性向上を図ることができると共に切屑Dが長く伸びてしまう状態の発生を防止することができる。したがって、長く伸びた切屑DがワークWや切削工具1を傷付けてしまうという前述の課題の解決を図ることが可能となる。
【0025】
上記の作用効果の応用として、ワークWを構成する材料に応じて、第1掬い面12Aと第2掬い面12Bとにおける摩擦係数の設定を適宜行うことにより、それぞれの領域から排出される切屑部分の排出速度の制御を行うことが可能となる。すなわち、カールの状態(すなわち、曲率等)を制御して、分断片の形状や長さについて最適化を行うことが可能となる。
【0026】
次に、第2掬い面12Bの摩擦係数が大きく設定される構成によって、第2掬い面12Bに、切屑Dの金属粉がより多く付着する作用が生じる。従来の工具では、掬い面ではない外周面とワークとの間に切屑の金属粉の付着が生じて、仕上がり状態の悪化を招く場合が多かった。しかし、本参考例においては、掬い面12(ここでは、第2掬い面12B)に、切屑Dの金属粉がより多く付着するが、最外径より内側に配置されているため、仕上がり状態には影響は小さい。
【0027】
また、従来の工具のように、すくい角を設ける切刃部の構成と比較して、本参考例に係る切れ刃は、第1掬い面12Aと第2掬い面12Bとが連続した同一面で、且つ、本体10の中心軸Cと平行な面として形成される構成であることによって、掬い面12の再研磨がきわめて容易となる。したがって、使用によって掬い面12が摩耗した場合にも、再研磨による切削工具1の再利用を促進できるため、従来のような切れ刃の貼替・取換工程が不要で、コストの削減も可能となる。なお、本参考例の構成においては、通常工具と同様に、バックテーパによる径縮小が許容する限り、再研磨することができる。
【0028】
また、本参考例においては、一例として、第2掬い面12Bが矩形状に構成、すなわち、掬い面12における第2掬い面12Bとして構成される領域が矩形状に加工が施された構成となっている。特に、矩形状の構成によれば、摩耗時に再研磨しても元の形状と同じ形状に形成することがきわめて容易となる。したがって、再研磨の前後において切削の加工性に微妙な変化が生じることなく、安定した切削加工を継続して行うことができる。ただし、矩形状の構成に限定されるものではなく、三角形状、円形状、あるいはそれらの組合せ形状等、様々な形状とする構成が考えられる(不図示)。
【0029】
第2掬い面12Bは、下穴Hの外周部の削り代Eの最外径側から50%地点より中心軸方向内側となる領域に配設されている構成が好適である。これによれば、削り代Eにおける第2掬い面12Bが占める領域を減らすことができるため、以下の課題解決に効果を発揮する。すなわち、第2掬い面12Bは表面粗さが相対的に大きく、摩擦係数が大きいため、切削加工時にワークWから受ける抵抗力が大きくなり、摩耗が促進されてメンテナンスサイクルが短くなってしまうと共にリーマがワークに接触する瞬間(食い付き時、進入時)に抵抗で振られて品質不良となるという課題が生じる。また、掬い面12に摩耗が生じた状態では、切削加工の仕上がり状態も悪くなってしまうという課題が生じる。これらの課題に対しても、上記の構成とすることによって、その解決を図ることができる。
【0030】
(第の実施形態)
続いて、本発明の第の実施形態について説明する。図3に示すように、切削工具1が段付きドリル1Bとして構成される例である。すなわち、先端のドリル部11AでワークWに下穴を形成しつつ、中間の段付きドリル肩部11Bで当該下穴の外周部の所定領域(削り代)をさらに切削する加工に用いられる。なお、図3(a)は、本実施形態に係る切削工具1(1B)の例を示す正面図(概略図)であり、図3(b)は、その底面図(概略図)であり、図3(c)は、図3(a)におけるB部拡大図である。
【0031】
本実施形態に係る切削工具1は、前述の参考例と基本的な構成は同様であるが、切れ刃の配設位置等において相違点を有する。以下、当該相違点を中心に本実施形態について説明する。
【0032】
本実施形態に係る切削工具1(1B)は、本体10の先端部10aに、ドリル部11Aを備えている。また、軸方向における中間位置の段付き部10bに、段付きドリル肩部11Bを備えている。
【0033】
ここで、本実施形態の場合には、段付きドリル肩部11Bに切れ刃が設けられる構成となっている。なお、切れ刃の基本的な構成は、前述の参考例と同様である。具体的には、本実施形態では、ワークWに下穴Hを形成する先端のドリル部11Aと、中間の段付き部10bに設けられ、ドリル部11Aにより形成された下穴Hの外周部をさらに切削する段付きドリル肩部11Bと、を備える段付きドリル1Bにおいて、段付きドリル肩部11Bの切れ刃は、段付きドリル1Bの最外径部に第1掬い面12Aを備え、且つ、第1掬い面12Aに連続した面で形成されると共に、第1掬い面12Aより内径側に、段付きドリル1Bの中心軸Cと平行に延設される第2掬い面12Bを備え、第2掬い面12Bは、第1掬い面12Aより表面粗さが大きく形成されると共に、段付きドリル肩部11Bの切れ刃の最外径部から該段付きドリル肩部11Bの切れ刃のドリル内外方向の寸法の50%地点よりドリル内外方向内側に形成されている。
【0034】
上記の構成を備える切削工具1(1B)によって得られる作用効果に関しても、前述の参考例と同様であるため、繰り返しの説明を省略する。
【0035】
以上説明した通り、本発明に係る切削工具1によれば、ワークWに形成される下穴Hの外周部(削り代E)をさらに切削する加工おいて、発生する切屑Dをカールさせ、細かく分断することができる。したがって、切屑Dの排出性向上を図ることができると共に切屑Dが長く伸びてワークWや切削工具1を傷付けてしまうことを防止できる。さらに、掬い面12すなわち第1掬い面12Aと第2掬い面12Bとが連続した面で形成される構成によって、当該掬い面12の再研磨がきわめて容易となる。したがって、当該切削工具1の再利用が促進でき、コストの削減が可能となる。特に、切屑Dの細分化と、掬い面12の再研磨の容易化とを、高度に両立できる点において、これまでの切削工具と比べて高い優位性を持つ技術であるといえる。
【0036】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0037】
段付きドリル
10 本体
10b 段付き部
11A ドリル部
11B 段付きドリル肩部
12 掬い面
12A 第1掬い面
12B 第2掬い面
C 中心軸
H 下穴
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5