(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の活性金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240614BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240614BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240614BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20240614BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240614BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240614BHJP
C22B 5/14 20060101ALI20240614BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B23/02
C22B23/00 102
C22B47/00
C22B5/14
C22B1/00 101
(21)【出願番号】P 2020555018
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(86)【国際出願番号】 KR2019004189
(87)【国際公開番号】W WO2019199014
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0040933
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0017945
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ラ ヨン ファ
(72)【発明者】
【氏名】チョ クァン クク
(72)【発明者】
【氏名】コ ミン ス
(72)【発明者】
【氏名】リュ ジャ ユン
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン レル
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-094228(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0094412(KR,A)
【文献】特開2012-229481(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106834703(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の廃正極から取得された正極活物質混合物を用意するステップと、
前記正極活物質混合物を流動層反応器内で反応させて予備前駆体混合物を形成するステップと、
前記予備前駆体混合物から選択的にリチウム前駆体を回収するステップとを含み、
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、還元性反応ガスを前記流動層反応器内に注入するステップを含み、
前記流動層反応器は、反応器本体と、前記反応器本体よりも大きな断面積または幅を有する反応器上部とを含み、
前記反応器上部に上昇した前記正極活物質混合物または前記予備前駆体混合物は、流速が減少して前記反応器本体に下降する、リチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項2】
前記予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および遷移金属含有粒子を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項3】
前記予備リチウム前駆体粒子は、リチウム水酸化物、リチウム酸化物又はリチウム炭酸化物のうちの少なくとも一つを含む、請求項2に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項4】
前記遷移金属含有粒子は、ニッケル、コバルト、マンガン又はこれらの酸化物を含む、請求項2に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項5】
前記還元性反応ガスは、水素を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項6】
前記還元性反応ガスの注入流速は10cm/s以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項7】
前記還元性反応ガスの注入流速は、前記正極活物質混合物の終端速度以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項8】
前記予備リチウム前駆体粒子および前記遷移金属含有粒子を、前記流動層反応器の反応器本体から共に収集するステップをさらに含む、請求項
2に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項9】
前記予備前駆体混合物を形成するステップは、キャリアガスを前記流動層反応器の下部から前記還元性反応ガスと混合注入するステップをさらに含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項10】
前記リチウム前駆体を回収するステップは、前記予備リチウム前駆体粒子を水洗処理するステップを含む、請求項
2に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項11】
前記水洗処理によって、リチウム水酸化物の形態のリチウム前駆体が得られる、請求項10に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項12】
前記リチウム前駆体を回収するステップは、前記予備リチウム前駆体粒子を選択的に炭素含有ガスと反応させるステップを含む、請求項
2に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項13】
前記炭素含有ガスは、COまたはCO
2の少なくとも一つを含み、前記リチウム前駆体は、リチウムカーボネートを含む、請求項12に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【請求項14】
前記遷移金属含有粒子を選択的に酸溶液で処理して酸塩の形態の遷移金属前駆体を回収するステップをさらに含む、請求項2に記載のリチウム二次電池の活性金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の活性金属の回収方法に関する。より詳細には、リチウム二次電池の廃正極から活性金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電と放電の繰り返しが可能な電池であり、情報通信及びディスプレイ産業の発展につれてカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器に広く適用されてきた。二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などが挙げられるが、中でもリチウム二次電池は、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、正極、負極及び分離膜(セパレーター)を含む電極組立体と、前記電極組立体を含浸させる電解質とを含むことができる。前記リチウム二次電池は、前記電極組立体および電解質を収容する、例えば、パウチ状の外装材をさらに含むことができる。
【0004】
前記リチウム二次電池の正極用活物質としては、リチウム金属酸化物を用いることができる。前記リチウム金属酸化物は、さらに、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を共に含有することができる。
【0005】
前記正極用活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に製造コストの20%以上がかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極用活物質のリサイクル方法の研究が進められている。
【0006】
例えば、硫酸のような強酸に廃正極活物質を浸出させて有価金属を順次回収する方法が研究されている。しかし、前記湿式工程の場合は、水洗工程が必要となり、再生選択性、再生時間などの面で不利になることがある。
【0007】
例えば、韓国特許第10-0709268号公報では、廃マンガン電池及びアルカリ電池のリサイクル装置及び方法が開示されているが、高選択性、低コストで有価金属を再生する十分な方法は提示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高効率及び高純度でリチウム二次電池の活性金属を回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係るリチウム二次電池の活性金属の回収方法では、リチウム二次電池の廃正極から取得された正極活物質混合物を用意する。前記正極活物質混合物を流動層反応器内で反応し、予備前駆体混合物を形成する。前記予備前駆体混合物から選択的にリチウム前駆体を回収する。
【0010】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物は、予備リチウム前駆体粒子および遷移金属含有粒子を含むことができる。
【0011】
例示的な実施形態では、前記予備リチウム前駆体粒子は、リチウム水酸化物、リチウム酸化物又はリチウム炭酸化物のうちの少なくとも一つを含むことができる。
【0012】
例示的な実施形態では、前記遷移金属含有粒子は、ニッケル、コバルト、マンガン、又はこれらの酸化物を含むことができる。
【0013】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するにあたり、還元性反応ガスを前記流動層反応器内に注入することができる。
【0014】
例示的な実施形態では、前記還元性反応ガスは、水素を含むことができる。
【0015】
例示的な実施形態では、前記還元性反応ガスの注入流速は、気泡形成流動化速度以上であってもよい。
【0016】
例示的な実施形態では、前記還元性反応ガスの注入流速は10cm/s以上であってもよい。
【0017】
例示的な実施形態では、前記還元性反応ガスの注入流速は、前記正極活物質混合物の終端速度以下であってもよい。
【0018】
例示的な実施形態では、前記流動層反応器は、反応器本体と、前記反応器本体よりも大きな断面積または幅を有する反応器上部とを含み、前記反応器上部に上昇した前記正極活物質混合物または前記予備前駆体混合物は、流速が減少して前記反応器本体に下降することができる。
【0019】
例示的な実施形態では、前記予備リチウム前駆体粒子および前記遷移金属含有粒子を、前記流動層反応器の反応器本体から共に収集することができる。
【0020】
例示的な実施形態では、前記予備前駆体混合物を形成するにあたり、キャリアガスを前記流動層反応器の下部から前記還元性反応ガスと混合注入することができる。
【0021】
例示的な実施形態では、前記リチウム前駆体を回収するにあたり、前記予備リチウム前駆体粒子を水洗処理することができる。
【0022】
例示的な実施形態では、前記水洗処理によって、リチウム水酸化物の形態のリチウム前駆体を得ることができる。
【0023】
例示的な実施形態では、前記リチウム前駆体を回収するにあたり、前記予備リチウム前駆体粒子を選択的に炭素含有ガスと反応させることができる。
【0024】
例示的な実施形態では、前記炭素含有ガスは、CO及び/又はCO2を含み、前記リチウム前駆体は、リチウムカーボネートを含むことができる。
【0025】
例示的な実施形態では、前記遷移金属含有粒子を選択的に酸溶液で処理し、酸塩の形態の遷移金属前駆体を回収することができる。
【発明の効果】
【0026】
前述した例示的な実施形態によると、廃正極活物質から、流動層反応器を活用した乾式ベースの工程によってリチウム前駆体を回収することができる。これにより、湿式ベースの工程から引き起こされる付加工程なしに、高純度でリチウム前駆体を得ることができる。
【0027】
また、流動層反応器により他の遷移金属よりもリチウム前駆体を先に回収できるので、回収工程の選択性、効率性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態に係るリチウム二次電池の活性金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【
図2】
図2は、流動層反応器内での流動特性を説明するための概略図である。
【
図3】
図3は、実験例により収集された予備前駆体混合物のXRD分析グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態は、リチウム二次電池から、流動層反応器を活用した乾式ベースの工程によって高純度、高収率で活性金属を回収する方法を提供するものである。
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。ただし、本明細書に添付される図面は、本発明の好適な実施形態を例示するものであって、本発明は図面に記載された事項のみに限定されて解釈されるものではない。
【0031】
本明細書で使用される用語「前駆体」は、電極活物質に含まれる特定の金属を提供するために、前記特定の金属を含む化合物を包括的に指すものとして使用される。
【0032】
図1は、例示的な実施形態に係るリチウム二次電池の活性金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
図1では、説明を容易にするために、工程の流れと流動層反応器の模式図を併せて示している。
【0033】
図1を参照すると、リチウム二次電池の廃正極から正極活物質混合物を用意することができる(例えば、工程S10)。
【0034】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記正極および負極は、それぞれ正極集電体および負極集電体上にコートされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0035】
例えば、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウム及び遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0037】
【0038】
化学式1中、M1、M2及びM3は、Ni、Co、Mn、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaまたはBから選択される遷移金属であってもよい。化学式1中、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0<a<1、0<b<1、0<c<1、0<a+b+c≦1であってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。
【0040】
前記廃リチウム二次電池から前記正極を分離し、廃正極を回収することができる。前記廃正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al)及び正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述した正極活物質に加えて、導電材及び結合剤を共に含むことができる。
【0041】
前記導電材は、例えば、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記結合剤は、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0042】
例示的な実施形態によると、回収された前記廃正極を粉砕して正極活物質混合物を生成することができる。これにより、前記正極活物質混合物は、粉末状で製造することができる。前記廃正極活物質混合物は、前述のようにリチウム-遷移金属酸化物の粉末を含み、例えば、NCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O2)を含むことができる。
【0043】
本出願で使用される用語「正極活物質混合物」は、前記廃正極から正極集電体が実質的に除去された後、後述する流動層反応処理に投入される原料物質を指すことができる。一実施形態では、前記正極活物質混合物は、前記NCM系リチウム酸化物のような正極活物質粒子を含むことができる。一実施形態では、前記正極活物質混合物は、前記結合剤又は前記導電材に由来する成分の一部を含むこともできる。一実施形態では、前記正極活物質混合物は、前記正極活物質粒子で実質的に構成されていてもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物の平均粒径(D50)は、5~100μmであってもよい。前記範囲内では、前記正極活物質混合物に含まれる正極集電体、導電材及び結合剤から、回収対象としてのLi(NCM)O2のようなリチウム-遷移金属酸化物を容易に分離することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物を、後述する流動層反応器に投入する前に熱処理することができる。前記熱処理により、前記正極活物質混合物に含まれている前記導電材及び結合剤のような不純物を除去又は低減して、前記リチウム-遷移金属酸化物を高純度で前記流動層反応器内に投入することができる。
【0046】
前記熱処理の温度は、例えば約100~500℃、好ましくは約350~450℃であってもよい。前記範囲内では、実質的に前記不純物が除去され、リチウム-遷移金属酸化物の分解、損傷を防止することができる。
【0047】
例えば、工程S20では、前記正極活物質混合物を流動層反応器100内で反応させ、予備前駆体混合物80を形成することができる。
【0048】
図1に示すように、流動層反応器100は、反応器本体130と、反応器下部110と、反応器上部150とに区分できる。反応器本体130は、ヒータなどの加熱手段を含んでいてもよく、加熱手段と一体化されていてもよい。
【0049】
前記正極活物質混合物は、供給流路106a,106bを介して反応器本体130内に供給することができる。前記正極活物質混合物は、反応器上部150に接続された第1の供給流路106aを介して滴下するか、又は反応器本体130の底部に接続された第2の供給流路106bを介して投入することができる。一実施形態では、第1及び第2の供給流路106a,106bを共に用いて、前記正極活物質混合物を供給することもできる。
【0050】
例えば、反応器本体130と反応器下部110との間には支持部120を配置し、前記正極活物質混合物の粉末を安着することができる。支持部120は、後述する反応ガス及びキャリアガスを通過させる気孔を含むことができる。
【0051】
反応器下部110と接続されている反応ガス流路102を介して、反応器本体130内に前記正極活物質混合物を予備前駆体に変換させるための反応ガスを供給することができる。例示的な実施形態によれば、前記反応ガスは還元性ガスを含み、例えば水素(H2)を供給することができる。
【0052】
前記反応ガスが流動層反応器100の下部から供給されて前記正極活物質混合物と接触するので、前記正極活物質混合物が反応器上部150に移動しながら前記反応ガスと反応し、前記予備前駆体に変換できる。
【0053】
いくつかの実施形態では、前記リチウム-遷移金属酸化物が前記水素ガスによって還元され、例えば、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(例えば、LiO2)を含む予備リチウム前駆体、及び遷移金属又は遷移金属酸化物が生成できる。例えば、還元性反応によって、前記リチウム酸化物と共にNi、Co、NiO、CoO及びMnOが生成できる。
【0054】
反応器本体130における前記還元反応は、約400~700℃、好ましくは450~550℃で行うことができる。前記反応温度の範囲内では、予備リチウム前駆体及び前記遷移金属/遷移金属酸化物の再凝集、再結合を引き起こすことなく、還元反応を促進することができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、反応器下部110からキャリアガス104の流路を介してキャリアガスを前記反応ガスと共に供給してもよい。例えば、前記キャリアガスは、窒素(N2)、アルゴン(Ar)などの不活性気体を含むことができる。
【0056】
前記キャリアガスが反応器下部110から反応器本体130に供給されることにより、前記リチウム-遷移金属酸化物または予備前駆体の反応器上部150への移動を促進することができる。
【0057】
反応器本体130内では、予備リチウム前駆体粒子60及び遷移金属含有粒子70(例えば、前記遷移金属または遷移金属酸化物)を含む予備前駆体混合物80が形成され得る。予備リチウム前駆体粒子60は、例えば、リチウム水酸化物、リチウム酸化物、及び/又はリチウム炭酸化物(リチウムカーボネート)を含むことができる。
【0058】
一実施形態では、反応器上部150に接続されている第1の排出口160aを介して、予備リチウム前駆体粒子60および遷移金属含有粒子70を含む予備前駆体混合物80を収集することができる。後述するように、反応器上部150は膨張部で提供され、予備前駆体混合物80の流動速度が減少されながら、効率よく予備前駆体混合物80を収集することができる。
【0059】
一実施形態では、反応器本体130に接続されている第2の排出口160bを介して、予備リチウム前駆体粒子60および遷移金属含有粒子70を含む予備前駆体混合物80を収集することができる。この場合には、流動層形成領域で予備前駆体混合物80が直接回収され、収率を増加させることができる。
【0060】
一実施形態では、第1及び第2の排出口160a,160bを介して共に予備前駆体混合物80を収集することができる。
【0061】
排出口160を介して収集された予備リチウム前駆体粒子60は、リチウム前駆体として回収することができる(例えば、工程S30)。
【0062】
いくつかの実施形態では、予備リチウム前駆体粒子60を水洗処理することができる。前記水洗処理により、リチウム水酸化物(LiOH)の形態の予備リチウム前駆体粒子は、実質的に水に溶解して遷移金属前駆体から分離され、優先して回収することができる。水に溶解したリチウム水酸化物を、結晶化工程などにより、リチウム水酸化物で実質的に構成されたリチウム前駆体を得ることができる。
【0063】
一実施形態では、リチウム酸化物及びリチウムカーボネートの形態の予備リチウム前駆体粒子は、実質的に前記水洗処理によって除去することができる。一実施形態では、リチウム酸化物及びリチウムカーボネートの形態の予備リチウム前駆体粒子は、前記水洗処理により、少なくとも部分的にリチウム水酸化物に変換することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、予備リチウム前駆体粒子60を一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)などの炭素含有ガスと反応させ、リチウム前駆体としてのリチウムカーボネート(例えば、Li2CO3)を得ることができる。前記炭素含有ガスとの反応により、結晶化されたリチウム前駆体を得ることができる。例えば、前記水洗処理中、炭素含有ガスを共に注入してリチウムカーボネートを収集することができる。
【0065】
前記炭素含有ガスによる結晶化反応の温度は、例えば、約60~150℃の範囲であってもよい。前記温度の範囲では、結晶構造の損傷なしに高信頼性のリチウムカーボネートを生成することができる。
【0066】
前述のように、例示的な実施形態によると、廃正極からリチウム前駆体を連続した乾式工程により回収することができる。
【0067】
比較例では、廃二次電池からリチウムまたは遷移金属を回収するために、強酸による浸出工程などの湿式工程が採用される。しかし、前記湿式工程の場合には、リチウムの選択的分離に限界がある。また、溶液の残留物を除去するための水洗工程が必要となり、溶液の接触によって水和物などの副産物の生成が増加することがある。
【0068】
これに対して、本発明の実施形態によれば、溶液の使用が排除された乾式連続工程によりリチウム前駆体が収集されるので、副産物が低減して収率が増加し、廃水処理の必要がなくなるため、環境にやさしい工程の設計が可能である。
【0069】
また、流動層反応器100により、予備リチウム前駆体粒子60を遷移金属含有粒子70よりも先に選択的に回収できるので、リチウム前駆体の選択比、収率および純度をより向上することができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、収集された遷移金属含有粒子70から遷移金属前駆体を得ることができる(例えば、工程S40)。
【0071】
例えば、リチウム酸化物粒子60を排出口160a,160bを介して収集した後、遷移金属含有粒子70を回収することができる。その後、遷移金属含有粒子70を酸溶液で処理し、各遷移金属の酸塩の形態の前駆体を形成することができる。
【0072】
一実施形態では、前記酸溶液として硫酸を使用することができる。この場合には、前記遷移金属前駆体としてNiSO4、MnSO4及びCoSO4をそれぞれ回収することができる。
【0073】
前述のように、リチウム前駆体は、乾式工程により収集した後、遷移金属前駆体は、酸溶液を活用して選択的に抽出するので、各金属前駆体の純度及び選択比が向上し、湿式工程の負荷が低減し、廃水及び副産物の増加を低減することができる。
【0074】
図2は、流動層反応器内での流動特性を説明するための概略図である。
【0075】
図2を参照すると、流動層反応器内で矢印で示すように反応ガスを導入することができる。反応ガスが導入されると、少なくとも流動反応層形成ステップ(F10)を経て、反応ガスの流速が増加しながら、中間スムース(smooth)流動化ステップ(F20)の後、気泡形成流動反応層ステップ(F30)が進められ得る。
【0076】
気泡形成流動反応層ステップ(F30)では、反応粒子(例えば、正極活物質混合物)が流動反応層内で滞留し、前記流動反応層の外に飛散しなくなり得る。
【0077】
例示的な実施形態によれば、前記反応ガスの流速は、気泡形成流動化速度以上であってもよい。これにより、粒径の小さい正極活物質混合物の十分な分散により、前記反応ガスとの流動反応層の形成を促進することができる。
【0078】
前記反応ガスの流速がさらに増加する場合には、渦(turbulence)流動化ステップ(F40)が進められ得る。この場合には、反応粒子のうち個別に挙動する微細粒子が流動反応層の外に飛散し得る。例えば、前記反応ガスの流速が前記反応粒子の終端速度(Ut:terminal velocity)以上に増加した場合には、前記反応ガス及び前記反応粒子がより激しく混合されながら流動層反応器の上部に上昇し、反応の制御が実質的に困難になることがある。
【0079】
例示的な実施形態によれば、前記反応ガスの流速は、前記気泡形成流動化速度よりも大きく、前記反応粒子の終端速度以下であってもよい。これにより、十分な反応粒子の反応滞留時間を確保するとともに、前記正極活物質混合物中の粒径の小さい微細粒子の飛散現象を抑制することができる。また、前記反応ガス及び前記反応粒子の十分な長さの流動反応層の形成を促進することができる。
【0080】
前述のように、反応器上部150は、反応器本体130に対して直径または幅が拡張された膨張部で提供できる。この場合には、反応ガスの流速が前記終端速度を超える場合であっても、前記反応粒子および前記反応ガスの前記膨張部での流速が再び終端速度以下に減少して下降することができる。
【0081】
一実施形態では、前記反応ガスの流速は、約10cm/s以上であってもよい。この場合には、前記正極活物質混合物の気泡形成流動化速度以上の条件を容易に得ることができる。
【0082】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実験例を提示するが、これらの実験例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0083】
実験例
廃リチウム二次電池から分離された正極材1kgを450℃で1時間熱処理した。熱処理した前記正極材を小さな単位に切断し、ミーリングにより粉砕処理して、Li-Ni-Co-Mn酸化物正極活物質の試料を採取した。
【0084】
流動層反応器内に前記正極活物質試料10gをロードし、反応器下部から水素(反応ガス)20wt%及び窒素(キャリアガス)80wt%の混合ガスを10ml/minの流量で注入した。反応器の内部温度は450℃に維持された。反応器の排出口から収集された予備前駆体混合物に対してXRD分析を行い、その結果を
図2にXRD分析グラフで示す。
【0085】
図3を参照すると、Li-Ni-Co-Mn酸化物が流動層反応器内での還元性反応によって分解され、Ni、Coなどの金属、マンガン酸化物、リチウム水酸化物(LiOH)などの予備前駆体が生成されたことが確認できる。