(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】導電性高分子液体組成物及びその製造方法、導電性積層体及びその製造方法、導電性フィルムの製造方法、並びに導電性成形体
(51)【国際特許分類】
H01B 1/12 20060101AFI20240614BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240614BHJP
C08F 283/00 20060101ALI20240614BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240614BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240614BHJP
C08J 7/044 20200101ALI20240614BHJP
【FI】
H01B1/12 G
C08L101/12
C08F283/00
C08F2/44 C
H01B1/12 F
H01B13/00 Z
C08J7/044
(21)【出願番号】P 2021001648
(22)【出願日】2021-01-07
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-097680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/12
C08L 101/12
C08F 283/00
C08F 2/44
H01B 13/00
C08J 7/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、(メタ)アクリル基を有する重合性アクリル化合物とを含有
する導電性高分子液体組成物であり、
前記ポリアニオンの一部のアニオン基が、エポキシ化合物、及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物との反応によって修飾されて
おり、
前記導電性高分子液体組成物は、任意成分として分散媒を含有してもよく、
前記分散媒の含有量は、前記導電性高分子液体組成物の総質量に対して、0質量%以上20質量%以下である、導電性高分子液体組成物。
【請求項2】
前記導電性高分子液体組成物の総質量の95質量%以上が前記重合性アクリル化合物である、請求項1に記載の導電性高分子液体組成物。
【請求項3】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む、又は、前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸を含む、請求項1又は2に記載の導電性高分子液体組成物。
【請求項4】
前記重合性アクリル化合物が紫外線硬化型シリコーンである、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物。
【請求項5】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体の水系分散液に、エポキシ化合物、及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を添加した後、析出した反応生成物を回収する析出回収工程と、
前記反応生成物に(メタ)アクリル基を有する重合性アクリル化合物を添加して導電性高分子液体組成物を得る添加工程と、を有する導電性高分子液体組成物の製造方法。
【請求項6】
前記反応生成物を回収する方法がろ過である、請求項5に記載の導電性高分子液体組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物に重合開始剤を添加した塗料を、基材の少なくとも一方の面に塗布した後、塗膜に含まれる前記重合性アクリル化合物を重合させる工程を有する、導電性積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物に熱重合開始剤を添加した塗料を、非晶性フィルム基材の少なくとも一方の面に塗布して塗工フィルムを得る塗工工程と、
前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得る延伸工程と、を有する、導電性フィルムの製造方法。
【請求項9】
基材と、前記基材の少なくとも一つの面に形成された請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
【請求項10】
請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物の硬化物が成形されてなる、導電性成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子液体組成物及びその製造方法、導電性積層体及びその製造方法、導電性フィルムの製造方法、並びに導電性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸又はそのエステル化合物が重合してなるアクリル樹脂は耐久性、透明性に優れ、成形加工が容易であるため多様な製品に使用されている。例えば、基材表面にアクリル樹脂を含むハードコート層を形成することにより、基材表面を保護する用途がある。このようなハードコート層にさらに導電性高分子を含有させることにより帯電防止性が付与された導電性フィルムが開示されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に例示されている通り、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を有機溶剤に分散させるためには、予めポリアニオンが有する余剰なアニオン基を修飾して疎水化する処理が必要である。しかし、後述する比較例で示すように、疎水化した導電性複合体であっても、アクリルモノマーの液中に分散させることは困難であり、高圧ホモジナイザーで処理しても数分で沈殿してしまう。このため、有機溶剤を多量に添加する必要があり、無溶剤型のアクリル溶液に導電性複合体を分散させることは現実的ではなかった。また、同様に、非極性のシリコーン溶液に対する導電性複合体の分散も不充分であった。
【0005】
本発明は、無溶剤型のアクリル溶液に対する分散性が向上した導電性複合体を含む、導電性高分子液体組成物及びその製造方法、前記液体組成物を用いた導電性フィルムの製造方法、導電性積層体及びその製造方法、並びに導電性成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、(メタ)アクリル基を有する重合性アクリル化合物とを含有し、前記ポリアニオンの一部のアニオン基が、エポキシ化合物、及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物との反応によって修飾されている、導電性高分子液体組成物。
[2] 前記導電性高分子液体組成物の総質量の95質量%以上が前記重合性アクリル化合物である、[1]に記載の導電性高分子液体組成物。
[3] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む、又は、前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸を含む、[1]又は[2]に記載の導電性高分子液体組成物。
[4] 前記重合性アクリル化合物が紫外線硬化型シリコーンである、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物。
[5] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体の水系分散液に、エポキシ化合物、及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を添加した後、析出した反応生成物を回収する析出回収工程と、前記反応生成物に(メタ)アクリル基を有する重合性アクリル化合物を添加して導電性高分子液体組成物を得る添加工程と、を有する導電性高分子液体組成物の製造方法。
[6] 前記反応生成物を回収する方法がろ過である、[5]に記載の導電性高分子液体組成物の製造方法。
[7] [1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物に重合開始剤を添加した塗料を、基材の少なくとも一方の面に塗布した後、塗膜に含まれる前記重合性アクリル化合物を重合させる工程を有する、導電性積層体の製造方法。
[8] [1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物に熱重合開始剤を添加した塗料を、非晶性フィルム基材の少なくとも一方の面に塗布して塗工フィルムを得る塗工工程と、前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得る延伸工程と、を有する、導電性フィルムの製造方法。
[9] 基材と、前記基材の少なくとも一つの面に形成された[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体。
[10] [1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子液体組成物の硬化物が成形されてなる、導電性成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子液体組成物にあっては、有機溶剤を含まずとも、重合性アクリル化合物と導電性複合体とが安定に分散している。これにより、導電性複合体を含む無溶剤型の液状アクリル組成物とすることができる。本態様の導電性高分子液体組成物は、塗料としての用途だけでなく、従来のアクリルモノマーを利用したアクリル樹脂成形のあらゆる用途に使用できる。
本発明の導電性高分子液体組成物の製造方法によれば、本発明の導電性高分子液体組成物を容易に製造できる。
本発明の導電性積層体及び導電性フィルムの製造方法によれば、従来は必要であった塗膜の乾燥工程(塗膜に含まれる有機溶剤を乾燥させる工程)を省いてもよいので、導電性積層体及び導電性フィルムを容易に形成することができる。
本発明の導電性成形体は、表面近傍だけでなく内部にも導電性複合体を含むので、多様な製品に導電性を付与することができる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪導電性高分子液体組成物≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、(メタ)アクリル基を有する重合性アクリル化合物とを含有し、前記ポリアニオンの一部のアニオン基が、エポキシ化合物、及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物との反応によって修飾されている、導電性高分子液体組成物である。
本態様の導電性高分子液体組成物において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。本明細書において、特に明記しない限り、分散状態と溶解状態とを区別せず、単に分散状態という。
【0011】
[導電性複合体]
本態様の導電性高分子液体組成物に含まれる導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、この余剰のアニオン基が修飾されていない導電性複合体は水分散性を有する。
【0012】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下が好ましく、10万以上50万以下がより好ましい。質量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0016】
本態様にあっては、ポリアニオンが有するドープに関与しない余剰のアニオン基(以下、「一部のアニオン基」ともいう)は、エポキシ化合物、及び第四級アンモニウム化合物若しくはアミン化合物との反応によって修飾されている。すなわち、本発明のポリアニオンは、エポキシ化合物と一部のアニオン基の反応によって形成された置換基(A)と、アミン化合物と一部のアニオン基との反応によって形成された置換基(B)、若しくは、第四級アンモニウム化合物と一部のアニオン基との反応によって形成された置換基(C)とを有する。
【0017】
(置換基A)
置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0018】
【0019】
[式(A1)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0020】
【0021】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR5、複数のR6、複数のR7、及び複数のR8はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のR5は同一でも異なっていてもよく、複数のR6は同一でも異なっていてもよく、複数のR7は同一でも異なっていてもよく、複数のR8は同一でも異なっていてもよい。]
【0022】
式(A1)及び(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SO3H」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0023】
式(A1)において、R1、R2、R3、及びR4の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R1とR3とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、R1とR3とが前記炭化水素基であり、R1の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、R3の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
式(A2)において、R5、R6、R7、及びR8の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R5とR7とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。
mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0024】
エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物(エポキシ基含有化合物)である。凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
前記導電性複合体と反応するエポキシ化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0025】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0026】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましい。
【0027】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0028】
エポキシ化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2000以下であることが好ましい。また、低極性の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ化合物は、炭素数が4以上120以下のものが好ましく、7以上100以下のものがより好ましく、10以上80以下のものがさらに好ましく、15以上50以下のものが特に好ましい。
【0029】
(置換基B)
前記置換基(B)は、下記式(B)で表される基であると推測される。
【0030】
-HN+R11R12R13 ・・・(B)
[式(B)中、R11~R13はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R11~R13のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0031】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0032】
化学式(B)におけるR11~R13は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。化学式(B)におけるR11~R13は後述するアミン化合物に由来する置換基である。
化学式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0033】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。前記導電性複合体と反応するアミン化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性複合体の導電性を高められることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0034】
有機溶剤への分散性、特に、低極性の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、6以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがさらに好ましい。この窒素原子上の置換基の炭素数の上限値は特に制限されず、溶剤への溶解性や反応性を考慮して、例えば、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。
また、アミン化合物が有する前記R11~R13の合計の炭素数は、6~33が好ましく、9~30がより好ましく、12~27がさらに好ましい。
前記窒素原子上の各置換基の炭素数の数は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
前記導電性複合体が、置換基(A)及び置換基(B)を有する場合、[置換基(A)]:[置換基(B)]で表される質量比(以下、A/B比ともいう)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。A/B比が上記範囲内であると、分散性、導電性のバランスを取りやすくなる。なお、[置換基(A)]の質量は、[(エポキシ化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)-(エポキシ化合物と反応させる前の導電性複合体の質量)]で算出することができる。また、[置換基(B)]の質量は、[(前記反応物Aとアミン化合物とを反応させて得られる反応物Bの質量)-(前記反応物Aの質量)]から算出することができる。
【0036】
(置換基C)
置換基(C)は下記式(C)で表される基であると推測される。
【0037】
-N+R11R12R13R14 ・・・(C)
[式(C)中、R11~R14はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0038】
置換基(C)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、第四級アンモニウムカチオンの正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0039】
化学式(C)におけるR11~R14は置換基を有していてもよい炭化水素基である。化学式(C)におけるR11~R14は第四級アンモニウム化合物に由来する置換基である。
化学式(C)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0040】
有機溶剤への分散性が高くなり、導電性が向上することから、第四級アンモニウム化合物は、窒素原子上に炭素数が3以上の置換基を有することが好ましく、5以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が7以上の置換基を有することがさらに好ましい。この窒素原子上の各置換基の炭素数の上限値は特に制限されず、溶剤への溶解性や反応性を考慮して、例えば、40以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。
また、第四級アンモニウム化合物が有する前記R11~R14の合計の炭素数は、8~44が好ましく、12~40がより好ましく、16~36がさらに好ましい。
前記窒素原子上の各置換基の炭素数の数は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
第四級アンモニウム化合物の具体例としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラ-n-オクチルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
アンモニウムカチオンのカウンターアニオンとしては、例えば、臭素イオン、塩素イオン等のハロゲンイオンやヒドロキシイオンが挙げられる。
【0042】
ポリアニオンにおいて、[置換基(A)]:[置換基(C)]で表される質量比(以下、A/C比ともいう)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。A/C比が上記範囲内であると、分散性、導電性のバランスを取りやすくなる。なお、[置換基(A)]の質量は、[(エポキシ化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)-(エポキシ化合物と反応させる前の導電性複合体の質量)]で算出することができる。また、[置換基(C)が結合したアニオン基]の質量は、[(前記反応物Aと第四級アンモニウム化合物とを反応させて得られる反応物Cの質量)-(前記反応物Aの質量)]から算出することができる。
【0043】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられ、アニオン基にエポキシ化合物、及び第四級アンモニウム化合物若しくはアミン化合物を反応させる際に疎水性に容易に変換できる。
【0044】
本態様の導電性高分子液体組成物の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
[分散媒]
本態様の導電性高分子液体組成物には、分散媒が含まれても構わない。分散媒としては、有機溶剤、又は水と有機溶剤との混合液が挙げられる。上述の通り、導電性複合体のポリアニオンは疎水的に修飾されているので、有機溶剤を含む分散媒が好ましい。
前記分散媒の総質量に対する有機溶剤の含有量は、50質量%以上100質量%以下が好ましく、90質量%以上100質量%以下がより好ましく、95質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
<有機溶剤>
前記有機溶剤は、エステル基(-C(=O)-O-)を有するエステル基含有化合物(エステル系溶剤)が好ましい。エステル系溶剤は本態様の修飾された導電性複合体を容易に分散させることができる。
【0047】
本態様の導電性複合体の分散性を高める観点から、下記式1で表される1種類以上のエステル系溶剤を含むことが好ましい。
式1:R21-C(=O)-O-R22
[式中、R21は水素原子、メチル基又はエチル基を表し、R22は炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0048】
本態様の導電性複合体の分散性を高める観点から、R21はメチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、R22の炭素数は2~5が好ましく、2~4がより好ましい。
【0049】
前記エステル系溶剤の好ましい具体例としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等が挙げられる。
【0050】
前記有機溶剤に含まれるエステル系溶剤の含有量は、前記有機溶剤の総質量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がより一層好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。エステル系溶剤の含有量が上記範囲内であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0051】
本態様の導電性高分子液体組成物にはエステル系溶剤以外の有機溶剤がさらに1種類以上含まれていても構わない。
エステル系有機溶剤以外の有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。
炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0052】
本態様の導電性高分子液体組成物に炭化水素系溶剤が含まれると、プラスチックフィルム基材に対する濡れ性が高くなり、低極性のバインダ成分を容易に添加できるので好ましい。
【0053】
炭化水素系溶剤のなかでも、汎用的であることから、トルエンが好ましい。また、バインダ成分としてシリコーン化合物を添加した場合には、シリコーン化合物の溶解性に優れることから、ヘプタン及びトルエンの少なくとも一方が好ましい。
【0054】
炭化水素系溶剤に加えてさらにメチルエチルケトンを含有すると、導電性複合体の分散性がより高くなるので好ましい。例えば、炭化水素系溶剤100質量部に対して、メチルエチルケトンの含有量は20質量部以上120質量部以下が好ましく、30質量部以上100質量量部以下がより好ましく、40質量部以上80質量部以下がさらに好ましい。
【0055】
炭化水素系溶剤の含有量は、本態様の導電性高分子液体組成物に含まれる有機溶剤の総質量に対し、10質量%以上80質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下がより好ましく、30質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。炭化水素系溶剤の含有量が上記範囲内であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0056】
本態様の導電性高分子液体組成物は、無溶剤型の液状組成物となり得る。このため、導電性高分子液体組成物の総質量に対する前記分散媒の含有量は、例えば、0質量%以上20質量%以下とすることができ、0質量%以上10質量%以下とすることもでき、0質量%以上5質量%以下とすることもでき、0.1質量%以上3質量%以下とすることもできる。
【0057】
[重合性アクリル化合物]
本態様の導電性高分子液体組成物に含まれる重合性アクリル化合物は、(メタ)アクリル基(別称:(メタ)アクリロイル基)を有する公知の重合性化合物である。ここで、「(メタ)アクリル」の表記は「アクリル又はメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリロイル」の表記は「アクリロイル又はメタクリロイル」を意味する。なお、重合性アクリル化合物は前記導電性複合体とは異なる別の化合物である。
【0058】
重合性アクリル化合物として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート(別称:(メタ)アクリル酸エステル)、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
重合性アクリル化合物が有する(メタ)アクリル基は1つでもよいし、2つ以上でもよい。(メタ)アクリル基は、(メタ)アクリルオキシ基であることが好ましい。
(メタ)アクリレートとして、例えば、炭素数1~12の直鎖、分岐鎖又は環状の、アルキル基或いは1価の炭化水素基をエステル基の末端に有する(メタ)アクリレートが挙げられる。ここで、アルキル基又は1価の炭化水素基に結合する1つ以上の水素原子を、別の(メタ)アクリル基が置換していてもよい。(メタ)アクリレートが2つ以上の(メタ)アクリル基を有している場合、任意に1つの(メタ)アクリル基を選択し、残りの(メタ)アクリル基が水素原子であると仮定して、選択した(メタ)アクリル基にエステル結合するアルキル基又は1価の炭化水素基の炭素数を数える。
前記(メタ)アクリレートのアルキル基又は1価の炭化水素基を構成する1つ以上の水素原子(-H)は、水酸基に置換されていてもよい。
前記(メタ)アクリレートのアルキル基又は1価の炭化水素基を構成する1つ以上のメチレン基(-CH2-)は、酸素原子同士が結合しない限り、酸素原子に置換されていてもよい。
【0059】
アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート等が挙げられる。
メタクリレートとしては、例えば、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、アクリロイルモルホリン、アクリロイルピペリジン等が挙げられる。
【0060】
重合性アクリル化合物は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリアクリルアクリレート等の、アクリルモノマーと他の化合物とを反応させて得たアクリレートであってもよい。
【0061】
重合性アクリル化合物は、紫外線硬化型シリコーンであってもよい。
紫外線硬化型シリコーンとしては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端に(メタ)アクリル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。このような紫外線硬化型シリコーンは、ラジカル重合反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。重合を開始させるための光重合開始剤を添加することが好ましい。
紫外線硬化型シリコーンの具体例としては、KF-2005、X-62-7205(信越化学工業社製)等が挙げられる。
紫外線硬化型シリコーンは有機溶剤に溶解又は分散していてもよい。
紫外線硬化型シリコーンは、別の重合性アクリル化合物とともに含まれることが好ましい。(別の重合性アクリル化合物の含有量M2)/(紫外線硬化型シリコーンの含有量M1)で表される質量基準の含有比(M2/M1)は、2以上100以下が好ましく、4以上50以下がより好ましく、6以上30以下がさらに好ましく、8以上20以下が特に好ましい。
【0062】
本態様の導電性高分子液体組成物に含まれる重合性アクリル化合物は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
本態様の導電性高分子液体組成物の総質量に対する重合性アクリル化合物の合計の含有量は、例えば、50質量%以上が挙げられ、70質量%以上でもよいし、80質量%以上でもよいし、90質量%以上でもよいし、95質量%以上でもよいし、99質量%以上とすることもできる。つまり、実質的に無溶剤型の液体組成物とすることができる。前記含有量の上限値は、導電性複合体の含有量に応じて調整すればよく、100質量%未満である。
【0063】
重合性アクリル化合物は、ラジカル重合可能なものが好ましい。この場合、ラジカル重合性のアクリル化合物とともに、ラジカルを発生するラジカル重合開始剤を含むことが好ましい。ラジカル重合開始剤として、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤が挙げられる。以下、具体的に例示する。
【0064】
(光重合開始剤)
紫外線等の活性エネルギー線(放射線)により重合性アクリル化合物を重合する場合には、重合性アクリル化合物とともに光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等の公知のものが挙げられる。
具体的なベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン[商品名:イルガキュア651、BASF社製]、アニソールメチルエーテル等が挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[商品名:イルガキュア184、BASF社製]、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン[商品名:イルガキュア2959、BASF社製]、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン[商品名:ダロキュア1173、BASF社製]、メトキシアセトフェノン等が挙げられる。
【0065】
(熱重合開始剤)
加熱により重合性アクリル化合物を重合する場合には、重合性アクリル化合物とともに熱重合開始剤を含有することが好ましい。熱重合開始剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
熱重合開始剤としては、例えば、公知のアゾ系開始剤、過硫酸塩、過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0066】
(共重合可能な重合性化合物)
本態様の導電性高分子液体組成物には、重合性アクリル化合物と共重合可能な別の重合性化合物が含まれていてもよい。別の重合性化合物として、アクリルモノマーと共重合可能なことが知られている公知のものを適用することができる。
具体的には、例えば、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその誘導体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物及びその誘導体、酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びそれらの誘導体、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。
【0067】
<バインダ成分>
本態様の導電性高分子液体組成物は、前述した重合性アクリル化合物以外のバインダ成分を含有してもよい。バインダ成分を含有する導電性高分子液体組成物を用いることにより、形成する導電層や導電性成形体の強度を向上させたり、粘着性や離型性を付与したりすることができる。
バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、任意に硬化させることができる硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
本態様の導電性高分子液体組成物に含まれるバインダ成分は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0068】
(シリコーン化合物)
本態様の導電性高分子液体組成物にあっては、バインダ成分として、低極性であるシリコーン化合物を添加して、充分に分散させることができる。
シリコーン化合物としては、硬化型シリコーンが挙げられる。バインダ成分が硬化型シリコーンである場合、硬化型シリコーンを硬化させることにより、導電層や導電性成形体に離型性を付与することができる。ここで、前記重合性アクリル化合物に該当する紫外線硬化型シリコーンは、バインダ成分には分類しない。
【0069】
硬化型シリコーンは、付加硬化型シリコーン、縮合硬化型シリコーンのいずれであってもよい。本態様では、付加硬化型シリコーンを使用しても硬化阻害が生じにくい。
【0070】
付加硬化型シリコーンとしては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。このような付加硬化型シリコーンは、付加反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。硬化を促進させるために白金系硬化触媒を用いてもよい。
付加硬化型シリコーンの具体例としては、KS-3703T、KS-847T、KM-3951、X-52-151、X-52-6068、X-52-6069(信越化学工業社製)等が挙げられる。
付加硬化型シリコーンは有機溶剤に溶解又は分散しているものが好適に使用される。
【0071】
本態様の導電性高分子液体組成物の総質量に対する前記シリコーン化合物の含有割合は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が挙げられる。
上記範囲の下限値以上であると、本態様の導電性高分子液体組成物によって形成される導電層や導電性成形体に充分な離型性を付与できる。
上記範囲の上限値以下であると、前記導電層や導電性成形体に充分な導電性を付与できる。
【0072】
(その他の添加剤)
本態様の導電性高分子液体組成物には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本態様の導電性高分子液体組成物が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、導電性高分子液体組成物の総質量に対して、例えば、0.01質量%以上5質量%以下の範囲とすることができる。
【0073】
≪導電性高分子液体組成物の製造方法≫
本発明の第二態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体の水系分散液(以下、導電性高分子水系分散液ということがある。)に、エポキシ化合物、及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を添加した後、析出した反応生成物を回収する析出回収工程と、前記析出物に(メタ)アクリル基を有する重合性アクリル化合物を添加して導電性高分子液体組成物を得る添加工程と、を有する導電性高分子液体組成物の製造方法である。
本態様の製造方法により、第一態様の導電性高分子液体組成物を製造することができる。
【0074】
本態様の製造方法は、析出回収工程と添加工程との間に洗浄工程をさらに有してもよい。また、添加工程において、さらにバインダ成分等を添加してもよい。
【0075】
[析出回収工程]
析出回収工程は、導電性高分子水系分散液にエポキシ化合物、及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を添加することにより、前記導電性複合体と、前記エポキシ化合物、及び前記アミン化合物若しくは前記第四級アンモニウム化合物との反応生成物を析出させた後、前記反応生成物を析出物として回収する工程である。
回収方法は特に制限されず、例えば、ろ過処理、デカンテーション(溶媒置換法)によって回収することができる。
【0076】
導電性高分子水系分散液にエポキシ化合物の1種以上を添加すると、エポキシ化合物のエポキシ基が、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(A)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
エポキシ化合物の添加の際には反応促進のために加熱してよい。加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。
エポキシ化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、500質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のエポキシ化合物による導電性低下を防止できる。
【0077】
導電性高分子水系分散液にエポキシ化合物、アミン化合物及び第四級アンモニウム化合物から選択される1種以上を添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性有機溶剤とは、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。添加する有機溶剤は、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0078】
導電性高分子水系分散液にアミン化合物の1種以上を添加すると、アミン化合物が前記ポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(B)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
アミン化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、80質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のアミン化合物による導電性低下を防止できる。
【0079】
導電性高分子水系分散液に第四級アンモニウム化合物の1種以上を添加すると、第四級アンモニウム化合物がポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(C)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
第四級アンモニウム化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、50質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。
上記範囲の上限値以下であると、未反応の第四級アンモニウム化合物による導電性低下を防止できる。
第四級アンモニウム化合物は、アミン化合物と類似した反応機構で、アミン化合物よりも少ない添加量で、導電性複合体に対して良好な反応性を示す。第四級アンモニウム化合物によって修飾された導電性複合体を含む導電層や導電性成形体の導電性は、アミン化合物によって修飾された場合よりも優れる傾向がある。
【0080】
析出回収工程において、エポキシ化合物と、アミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物との添加順序は特に限定されない。合成中間体(反応中間体)の取り扱いが容易であることから、導電性高分子水系分散液にエポキシ化合物を添加して、ポリアニオンの余剰のアニオン基の一部と反応させた後、アミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を添加してポリアニオンの余剰のアニオン基の残部と反応させることが好ましい。
【0081】
導電性高分子水系分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる分散液である。
ここで、水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水系分散媒に含まれる水溶性有機溶剤は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0082】
導電性高分子水系分散液は、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、導電性高分子水系分散液は市販のものを使用してもよい。導電性高分子水系分散液の総質量に対する導電性複合体の含有量は、例えば0.1質量%以上2質量%以下が挙げられる。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0083】
析出回収工程によって回収した反応生成物(析出物)の水分量はできるだけ少ないことが好ましく、水分を全く含まないことが最も好ましいが、実用の観点からは、水分を10質量%以下の範囲で含んでもよい。
水分量を少なくする方法としては、例えば、有機溶剤で析出物を洗い流す方法、析出物を乾燥する方法等が挙げられる。
【0084】
[洗浄工程]
析出回収工程と添加工程との間の洗浄工程は、洗浄用有機溶剤で前記析出物を洗浄する工程である。この洗浄工程によって、残留する水、未反応のエポキシ化合物、未反応のアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物、及びエポキシ化合物の加水分解物等を除去する。
洗浄用有機溶剤は、析出物の溶解を最低限に抑えつつ洗浄可能なものが好ましい。このため、洗浄用有機溶剤としては、アルコール系溶剤が好ましい。洗浄用有機溶剤に含まれる有機溶剤は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、析出物の上から洗浄用有機溶剤をかけ流して析出物を洗浄してもよいし、洗浄用有機溶剤中で析出物を攪拌して析出物を洗浄してもよい。
【0085】
[添加工程]
添加工程は、前記析出物に前記重合性アクリル化合物を添加して、導電性高分子液体組成物を得る工程である。
【0086】
本工程の重合性アクリル化合物は、第一態様の導電性高分子液体組成物に含まれる重合性アクリル化合物を適用することができる。導電性複合体がエポキシ化合物及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物によって修飾されているので、導電性複合体と重合性アクリル化合物とを安定に分散させることができる。この際、有機溶剤を添加しても構わないが、互いの分散性は高いので有機溶剤を添加しなくてもよい。
任意に添加してもよい有機溶剤としては、第一態様で例示した有機溶剤が挙げられる。
【0087】
析出物に重合性アクリル化合物を添加して得た導電性高分子液体組成物を、攪拌して分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)を用いて攪拌してもよい。
【0088】
高圧ホモジナイザーで分散する導電性高分子液体組成物の総質量に対する、導電性複合体の含有量は、例えば、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の濃度であると、導電性複合体の分散性を充分に高めることができる。
【0089】
[溶媒置換法]
本態様の析出回収工程及び添加工程において、下記の溶媒置換法を適用してもよい。
前記アミン化合物若しくは前記第四級アンモニウム化合物を添加した反応液中に析出した前記反応生成物は、前記反応液中の下層に自然に沈降する傾向がある。沈降が生じるメカニズムの詳細は未解明であるが、反応生成物の比重と反応液の比重との関係性が影響していると考えられる。
【0090】
前記反応液の下層に前記反応生成物が沈降すると、その反応液の上層には前記反応生成物が殆ど含まれない。この上層を吸引やデカンテーション等で除去することにより、析出した反応生成物の濃度が高まり、体積が減少した残留液が得られる。この操作は、反応生成物を回収する工程に該当する。
得られた残留液には、導電性高分子水系分散液に由来する水系分散媒が含まれている。次いで、前記残留液に重合性アクリル化合物を添加することにより、目的の導電性高分子液体組成物が得られる。この操作は、添加工程に該当する。
ここで、前記残留液中の水系分散媒の量が多い場合や、除去した上層の液量が少ない場合は、前記重合性アクリル化合物を添加した後の混合液において、反応生成物(導電性複合体)を分散させず、再び下層に沈降させることができる。この場合、再び上層を除去することにより、反応生成物の濃度が高まり、水系分散媒の量が低減し、体積が減少した残留液が得られる。再び、残留液に前記重合性アクリル化合物を添加することにより、1回目の溶媒置換よりも重合性アクリル化合物の濃度が高められた(水系分散媒の含有量が低減した)、導電性高分子液体組成物が得られる。
この「溶媒置換法」は1回に限られず、2回以上繰り返してもよい。
【0091】
以上で説明した溶媒置換方法により、水系分散媒の含有量が目的の導電性高分子液体組成物の総質量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下となった、導電性高分子液体組成物を得ることができる。
得られた導電性高分子液体組成物における導電性複合体の分散性を高める目的で、高圧ホモジナイザー等の分散機を使用して分散処理を行うことが好ましい。
【0092】
(任意成分の添加)
前記導電性高分子液体組成物に、前記重合開始剤、前記バインダ成分、前記触媒、前記有機溶剤、その他の添加剤等の任意成分を添加してもよい。
任意成分の添加後に攪拌して、各成分の分散性を高めることが好ましい。
【0093】
≪導電性積層体≫
本発明の第三態様は、基材と、前記基材の少なくとも一つの面に形成された、第一態様の導電性高分子液体組成物の硬化層からなる導電層とを備えた、導電性積層体である。
【0094】
[導電層]
基材の少なくとも一つの面に備えられた前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下であることが好ましく、20nm以上50μm以下であることがより好ましく、30nm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
【0095】
本態様の導電性積層体が備える導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する。さらに、重合性アクリル化合物が重合した硬化物を含有する。
基材に塗布した導電性高分子液体組成物が、バインダ成分を含む場合には、導電層にバインダ成分若しくはバインダ成分が硬化した硬化物が含まれる。
【0096】
[基材]
本態様の導電性積層体を構成する基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0097】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はバインダ樹脂と同種の樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が好ましい。
【0098】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、導電性高分子液体組成物から形成される導電層の接着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0099】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0100】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0101】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下であることが好ましく、100μm以上1000μm以下であることがより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0102】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第四態様は、基材の少なくとも一つの面に、第一態様の導電性高分子液体組成物を塗工することを含む、導電性積層体の製造方法である。本態様の製造方法により、第三態様の導電性積層体を製造することができる。
【0103】
第一態様の導電性高分子液体組成物を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0104】
導電性高分子液体組成物の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0105】
導電性高分子液体組成物が分散媒を含む場合、基材上に塗工した導電性高分子液体組成物からなる塗膜を乾燥させて、分散媒を除去することが好ましい。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上150℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、1分以上30分以下が好ましく、5分以上15分以下がより好ましい。
塗布した導電性高分子液体組成物が無溶剤型である場合には、乾燥処理は不要である。
【0106】
前記塗膜を必要に応じて乾燥させた後、前記塗膜に含まれる重合性アクリル化合物同士を重合させ、前記塗膜が硬化してなる導電層(導電膜)が形成された導電性積層体を得ることができる。
前記塗膜に含まれる重合性アクリル化合物を重合させる方法としては、ラジカル重合が容易かつ確実であるため好ましい。ラジカル重合を適用する場合には、予め重合開始剤を導電性高分子液体組成物に添加しておくことが好ましい。重合開始剤の種類に応じて、加熱や光(活性エネルギー線)を照射することにより重合させることができる。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm2以上が好ましい。積算光量は50mJ/cm2以上が好ましい。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0107】
≪導電性フィルムの製造方法≫
本発明の第五態様は、第一態様の導電性高分子液体組成物に熱重合開始剤を添加した塗料を、非晶性フィルム基材の少なくとも一方の面に塗布して塗工フィルムを得る塗工工程と、前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得る延伸工程と、を有する、導電性フィルムの製造方法である。
【0108】
[塗工工程]
本工程で使用するフィルム基材は、非晶性であれば特に制限されず、前述した導電性積層体の材料として例示したフィルム基材から任意に選択して使用することができる。
本工程で非晶性フィルム基材に塗料を塗工して塗工フィルムを得る方法は特に制限されず、前述した導電性積層体の製造方法で例示した塗工方法を適用することができる。
【0109】
[延伸工程]
延伸工程は、前記塗工フィルムを加熱するとともに延伸させて延伸フィルムを得る工程である。前記塗料に分散媒が含まれる場合には、本工程における加熱で乾燥させてもよいし、本工程に供する前に別途乾燥工程を設けて乾燥させてもよい。
塗工フィルムを加熱して延伸させることにより、塗工面積を小さくしても大面積の導電性フィルムを得ることができ、導電性フィルムの生産性が向上する。
延伸は一軸延伸でもよいし、二軸延伸でもよいが、非晶性フィルム基材として一軸延伸フィルムを用いた場合には、延伸されている方向とは垂直な方向に延伸することが好ましい。例えば、長手方向に沿って延伸された一軸延伸フィルムを非晶性フィルム基材として用いた場合には、幅方向に沿って延伸することが好ましい。
塗工フィルムの延伸倍率は2倍以上20倍以下にすることが好ましく、3倍以上15倍以下にすることがより好ましく、4倍以上10倍以下にすることがさらに好ましい。
【0110】
加熱法としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
延伸工程における加熱温度は、非晶性フィルム基材の結晶化温度未満にし、50℃以上120℃以下の範囲内であることが好ましい。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。延伸工程における加熱温度を、非晶性フィルム基材の結晶化温度より高くすると、フィルムが軟化しすぎて延伸が困難になることがある。
【0111】
前記塗工フィルムの塗膜に含まれる重合性アクリル化合物の重合は、熱重合開始剤が加熱されることによって促進される。延伸工程の完了時に、前記塗膜に含まれる重合性アクリル化合物の重合硬化が完了してもよいし、次に説明する結晶化工程において前記塗膜に含まれる重合性アクリル化合物の重合硬化が完了してもよい。
【0112】
[結晶化工程]
本態様の製造方法は、さらに結晶化工程を有していてもよい。
結晶化工程は、前記延伸フィルムを加熱した後に冷却して非晶性フィルム基材を結晶化させる工程である。
結晶化工程における延伸フィルムの加熱温度は、非晶性フィルム基材の結晶化温度以上であり、200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることがさらに好ましい。延伸フィルムの加熱温度が前記下限値以上であれば、非晶性フィルム基材を充分に結晶化できる。一方、フィルム基材の溶融を防ぐ観点から、延伸フィルムの加熱温度は300℃以下であることが好ましい。
【0113】
200℃以上の加熱で結晶化しやすいことから、非晶性フィルム基材は非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
200℃以上に加熱すると、フィルム基材を構成する非晶性ポリエチレンテレフタレートの少なくとも一部が融解し始める。その融解後、ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度未満の温度まで冷却した際には、融解した一部の非晶性ポリエチレンテレフタレートが結晶化すると共に固化する。これにより、フィルム基材を結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムにすることができる。結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムからなるフィルム基材は、引張強度等の機械的物性に優れる。
【0114】
加熱後の冷却方法としては特に制限はなく、室温の空気を送風してもよいし、放冷でもよい。非晶性フィルム基材が結晶化しやすいことから、冷却の際の降温速度は遅い方が好ましく、具体的には、200℃/分以下であることが好ましい。
【0115】
≪導電性成形体≫
本発明の第六態様は、第一態様の導電性高分子液体組成物の硬化物が成形されてなる、導電性成形体である。
前記硬化物において前記重合性アクリル化合物は互いに重合してアクリル樹脂を形成している。従って、前記導電性成形体は導電性のアクリル樹脂成形体であり得る。
導電性成形体の形状は特に制限されず、一実施形態として、板状の樹脂板とすることができる。樹脂板の厚みは、特に制限されず、例えば1mm以上30mm以下とすることができる。導電性成形体は、前記樹脂板が熱プレス成型等によって二次加工されたものであってもよい。
【0116】
本態様の導電性成形体の製造方法は特に制限されず、アクリルモノマーを重合硬化させて樹脂成形体を製造する公知方法が適用できる。例えば注型重合法、射出成形法、3Dプリンター成形法等が挙げられる。
注型重合法によれば、鋳型に導電性高分子液体組成物を注入して重合させることにより、導電性成形体を形成し、鋳型から導電性成形体を剥離して得ることができる。
注型重合用の鋳型は特に制限されず、公知の鋳型を用いることができる。板状の導電性成形体を得るための鋳型としては、例えば、セルキャスト用の鋳型と連続キャスト用の鋳型が挙げられる。
セルキャスト用の鋳型としては、例えば、2枚の板状体(ガラス板、金属板等)を所定間隔で対向配置し、その縁部(周囲)にガスケットを配置して、板状体とガスケットにより密封空間を形成させたものが挙げられる。
連続キャスト用の鋳型としては、例えば、同一方向へ同一速度で走行する一対のエンドレスベルトの対向する面と、エンドレスベルトの両側辺部においてエンドレスベルトと同一速度で走行するガスケットとにより密封空間を形成させたものが挙げられる。
鋳型の空隙の間隔は所望の厚さの樹脂板が得られるように適宜調整されるが、一般的には1~30mmである。
【実施例】
【0117】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0118】
(製造例2)π共役系導電性高分子とポリアニオンを含む導電性高分子水系分散液の合成
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次いで、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)の水系分散液を得た。
【0119】
(実施例1)
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200g及びエポキシ化合物(共栄社化学株式会社製エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にエポキシ化合物が反応して結合した。次に、イソプロパノール100gとトリオクチルアミン1.0gを添加した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にアミン化合物が結合した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、エポキシ化合物及びアミン化合物が反応して修飾したPEDOT-PSSを含む導電性複合体が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.8gの導電性複合体を得た。
次に、798.2gのペンタエリスリトールトリアクリレートに上記の導電性複合体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、上記導電性複合体を含む導電性高分子液体組成物(塗料)を得た。
得られた塗料にイルガキュア184(BASF社製光重合開始剤)3.2gを加え、#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製 ルミラーT60)上に塗布し、400mJの紫外線を照射した。得られたフィルムの表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0120】
(実施例2)
実施例1においてペンタエリスリトールトリアクリレートを同量のヒドロキシエチルアクリルアミドに代えたこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(実施例3)
実施例1においてペンタエリスリトールトリアクリレートを同量のヒドロキシエチルアクリレートに代えたこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例4)
実施例1においてペンタエリスリトールトリアクリレートを同量のブチルアクリレートに代えたこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0123】
(実施例5)
実施例1においてペンタエリスリトールトリアクリレートを同量の4-アクロイルモルホリンに代えたこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0124】
(実施例6)
実施例1においてペンタエリスリトールトリアクリレートを同量のトリメチロールプロパントリアクリレートに代えたこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例7)
実施例1においてペンタエリスリトールトリアクリレートを同量のメチルメタクリレート(メタクリル酸メチル)に代えたこと以外は実施例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(実施例8)
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200g及びブチルグリシジルエーテル25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にエポキシ化合物が反応して結合した。次に、イソプロパノール100gとトリオクチルアミン1.0gを添加した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にアミン化合物が結合した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、エポキシ化合物及びアミン化合物が反応して修飾したPEDOT-PSSを含む導電性複合体が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.7gの導電性複合体を得た。
次に、798.3gのペンタエリスリトールトリアクリレートに上記の導電性複合体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、上記導電性複合体を含む導電性高分子液体組成物(塗料)を得た。
得られた塗料にイルガキュア184(BASF社製光重合開始剤)3.2gを加え、#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製 ルミラーT60)上に塗布し、400mJの紫外線を照射した。得られたフィルムの表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0127】
(実施例9)
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200g及びエポキシ化合物(共栄社化学株式会社製エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にエポキシ化合物が反応して結合した。次に、イソプロパノール100gとトリブチルアミン1.0gを添加した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にアミン化合物が結合した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、エポキシ化合物及びアミン化合物が反応して修飾したPEDOT-PSSを含む導電性複合体が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.7gの導電性複合体を得た。
次に、798.3gのペンタエリスリトールトリアクリレートに上記の導電性複合体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、上記導電性複合体を含む導電性高分子液体組成物(塗料)を得た。
得られた塗料にイルガキュア184(BASF社製光重合開始剤)3.2gを加え、#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製 ルミラーT60)上に塗布し、400mJの紫外線を照射した。得られたフィルムの表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0128】
(実施例10)
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200g及びエポキシ化合物(共栄社化学株式会社製エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にエポキシ化合物が反応して結合した。次に、トリオクチルアミン1.0gを添加した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にアミン化合物が結合した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、エポキシ化合物及びアミン化合物が反応して修飾したPEDOT-PSSを含む導電性複合体が析出し沈降した。
この溶液の上層150gを除去し、メチルメタクリレートを300g加えて静かに混合した。この混合液を静置して前記導電性複合体を再び沈降させた後、前記導電性複合体を含まない上層300gを除去し、さらにメチルメタクリレートを700g添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、上記導電性複合体を含む導電性高分子液体組成物(塗料)を得た。
得られた塗料にイルガキュア184(BASF社製光重合開始剤)3.2gを加え、#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製 ルミラーT60)上に塗布し、400mJの紫外線を照射した。得られたフィルムの表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。
【0129】
(比較例1)
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200g及びエポキシ化合物(共栄社化学株式会社製エポライトM-1230、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基にエポキシ化合物が反応して結合した。次に、イソプロパノール100gを添加した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、PEDOT-PSSとこれに結合したエポキシ化合物を含む導電性複合体が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.5gの導電性複合体を得た。
次に、798.5gのペンタエリスリトールトリアクリレートに上記の導電性複合体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、上記導電性複合体を含む混合液を得たが、数分ですべての導電性複合体が沈降して分離したため、検討を中止した。
【0130】
(比較例2)
製造例2で得たPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200g、イソプロパノール100g、トリオクチルアミン1gを添加した。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、PEDOT-PSSとこれに結合したアミン化合物を含む導電性複合体が析出した。この析出物を濾過により回収し、1.6gの導電性複合体を得た。
次に、798.4gのペンタエリスリトールトリアクリレートに上記の導電性複合体を添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して、上記導電性複合体を含む混合液を得たが、数分ですべての導電性複合体が沈降して分離したため、検討を中止した。
【0131】
[表面抵抗値の測定]
各例で作製した導電性フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表中、「1.0E+10」は「1.0×1010」を意味し、他も同様である。
【0132】
【0133】
(実施例11)
実施例1で得られた導電性高分子液体組成物90gに、KF-2005(信越化学工業社製、無溶剤紫外線硬化型シリコーン)10gとイルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)4.0gを加え、#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、400mJの紫外線を照射した。得られたフィルムの表面抵抗値と剥離力を測定した結果を表2に示す。
【0134】
[剥離力の測定]
実施例11で作製した導電性フィルムについて、下記の方法により剥離力を測定して離型性を評価した。
JIS Z0237に従い、引張試験機を用いて、導電層の表面に圧着したPETフィルム(幅10mm)を180°の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)して、剥離力(単位:N)を測定した。剥離力が小さいほど、塗膜の離型性が高いことを意味する。
【0135】
【0136】
(実施例12)
実施例1で得られた導電性高分子液体組成物100gに、水溶性アゾ系重合開始剤(和光純薬工業株式会社製、V-501)4.0gを加え、#12のバーコーターを用いて、非結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工し、塗工フィルムを得た。
得られた塗工フィルムを、二軸延伸装置(株式会社井元製作所製、11A9)を用いて、100℃で4倍に延伸して延伸フィルムを得た。この延伸の際に、塗膜中の水溶性アゾ系重合開始剤が塗膜中の重合性アクリル化合物の重合を促進させた。続いて、前記延伸フィルムを240℃で30秒間加熱し、塗膜中の重合性アクリル化合物を完全に重合させた後、降温速度が100℃/分以下になるようにゆっくりと冷却した。これにより、非結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを結晶化して、結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に導電層を有する導電性フィルムを得た。得られたフィルムの表面抵抗値を測定した結果を表3に示す。
【0137】