IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-試料採取装置および方法 図1
  • 特許-試料採取装置および方法 図2
  • 特許-試料採取装置および方法 図3
  • 特許-試料採取装置および方法 図4
  • 特許-試料採取装置および方法 図5
  • 特許-試料採取装置および方法 図6
  • 特許-試料採取装置および方法 図7
  • 特許-試料採取装置および方法 図8
  • 特許-試料採取装置および方法 図9
  • 特許-試料採取装置および方法 図10
  • 特許-試料採取装置および方法 図11
  • 特許-試料採取装置および方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】試料採取装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20240614BHJP
   B23H 1/00 20060101ALI20240614BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G01N1/04 X
B23H1/00 B
G21C17/00 400
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021041467
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022141248
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 玲於奈
(72)【発明者】
【氏名】橋本 達矢
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-159295(JP,A)
【文献】特開2004-309363(JP,A)
【文献】特開平01-267433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G21C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物を吸着可能な吸着部と、
前記吸着部を前記加工対象物に対して接近離反可能とする吸着部駆動装置と、
前記加工対象物における前記吸着部による吸着位置の周囲を切断加工する放電加工装置と、
を備え、
前記放電加工装置は、装置本体の中心部に配置され、前記吸着部は、前記装置本体の中心部から一方側にずれて前記放電加工装置に隣接して配置され、
前記装置本体の中心部から他方側にずれて配置されて前記加工対象物から切り離される試料を支持する試料保持部材が設けられる、
試料採取装置。
【請求項2】
前記放電加工装置は、U字形状をなす電極と、前記吸着部の接近離反方向に交差する方向に沿って配置されて前記電極の各端部が連結される回転軸と、前記回転軸を駆動回転させる電極駆動装置とを有する、
請求項1に記載の試料採取装置。
【請求項3】
前記電極は、2本有し、前記回転軸に直交する方向の一方側と他方側にそれぞれ配置される、
請求項2に記載の試料採取装置。
【請求項4】
2本の前記電極は、前記回転軸から前記加工対象物側に向けて延出され、前記加工対象物側に対して傾斜角度をもって配置される、
請求項3に記載の試料採取装置。
【請求項5】
前記吸着部駆動装置は、流体圧シリンダ機構を有する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の試料採取装置。
【請求項6】
加工対象物から試料として切り離される部分を吸着部により吸着する工程と、
前記吸着部が前記加工対象物から離間する方向に動力を作用させる工程と、
前記加工対象物における前記吸着部による吸着位置の周囲を放電切断加工する工程と、
を有し、
U字形状をなす電極により前記加工対象物における前記吸着位置側を放電切断加工した後、前記電極により前記加工対象物における前記吸着位置の反対側を放電切断加工し、
このとき、前記電極の移動に伴って試料保持部材が放電切断加工により形成された中空部に入り込んで前記加工対象物から切り離される試料における前記吸着位置の反対側を支持する、
試料採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物からその一部を切り離して試料として採取する試料採取装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントでは、例えば、原子炉容器などの構造物の一部を試料として切り離して採取し、採取した試料を分析する。そして、試料の分析結果に基づいて、放射性物質の種類、数量、分布などの情報を取得したり、被ばくを考慮した解体や処理処分などの情報を取得したりする。試料採取装置および方法としては、例えば、下記特許文献に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3152607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
構造物から一部を切り離していくと、切り離される試料は不安定な状態になる。試料として切り離される部分は、吸着部材により支持されているものの、構造物から切り離されていくと、吸着部材に対して重量が作用して支持が不安定になりやすい。このとき、試料が変動すると、放電加工用の電極に接触する可能性があり、放電加工による切断が困難になるという課題がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、切断加工中の試料を安定して支持することで、切断加工作業を安定して行うと共に、適切に試料を採取可能とする試料採取装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の試料採取装置は、加工対象物を吸着可能な吸着部と、前記吸着部を前記加工対象物に対して接近離反可能とする吸着部駆動装置と、前記加工対象物における前記吸着部による吸着位置の周囲を切断加工する放電加工装置と、を備える。
【0007】
また、本開示の試料採取方法は、加工対象物から試料として切り離される部分を吸着部により吸着する工程と、前記吸着部が前記加工対象物から離間する方向に動力を作用させる工程と、前記加工対象物における前記吸着部による吸着位置の周囲を放電切断加工する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の試料採取装置および方法によれば、切断加工中の試料を安定して支持することで、切断加工作業を安定して行うことができると共に、適切に試料を採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の試料採取装置を表す正面概略図である。
図2図2は、試料採取装置を表す要部下面図である。
図3図3は、試料採取装置における吸着部および吸着部駆動装置の空気供給経路を表す概略図である。
図4図4は、試料採取方法を表すフローチャートである。
図5図5は、試料採取装置の設置状態を表す概略図である。
図6図6は、吸着部による試料の吸着状態を表す概略図である。
図7図7は、第1放電切断加工状態を表す概略図である。
図8図8は、第1放電切断加工の終了時の状態を表す概略図である。
図9図9は、第2放電切断加工状態を表す概略図である。
図10図10は、第2放電切断加工の終了時の状態を表す概略図である。
図11図11は、第2実施形態の試料採取装置を表す正面概略図である。
図12図12は、第2放電切断加工状態を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
[第1実施形態]
<試料採取装置>
図1は、本実施形態の試料採取装置を表す正面概略図、図2は、試料採取装置を表す要部下面図である。
【0012】
第1実施形態の試料採取装置は、例えば、原子力発電プラントの原子炉容器などの構造物の一部を切り離して試料として採取するものである。第1実施形態の試料採取装置は、水中に吊り下げられた状態で移動自在に支持される。第1実施形態の試料採取装置は、水中を移動して所定の採取位置の設置面に設置され、加工対象物の一部を切り離して採取する。以下の説明で、試料採取装置の設置面は、加工対象物の鉛直方向に沿った面であるが、水平方向に沿った面や傾斜した面であってもよい。
【0013】
第1実施形態において、図1および図2に示すように、試料採取装置10は、装置本体11と、吸着部12と、吸着部駆動装置13と、放電加工装置14とを備える。
【0014】
装置本体11は、一対の枠部材21と、連結部材22と、支持脚23とを有する。一対の枠部材21は、所定間隔を空けて配置され、連結部材22により一体に連結される。一対の枠部材21が連結部材22により連結されることで、装置本体11は、例えば、立方体形状をなす。装置本体11は、4隅に支持脚23がそれぞれ固定される。支持脚23は、ほぼ同様の構成をなし、先端部に設置部24を有する。設置部24は、加工対象物100の表面101に設置可能である。支持脚23は、設置部24に図示しない吸着機構が設けられる。そのため、装置本体11は、支持脚23の設置部24が加工対象物100の鉛直方向に沿う表面101に設置されたとき、吸着機構を作動させることで、加工対象物100の所定の位置に保持可能である。
【0015】
装置本体11は、一対の枠部材21の間に支持部材25が固定される。支持部材25は、吸着部12および吸着部駆動装置13と放電加工装置14とが支持される。吸着部12は、加工対象物100の表面101を吸着可能である。具体的に、吸着部12は、加工対象物100から試料として切り離す部分の表面101を吸着可能である。吸着部駆動装置13は、装置本体11に設けられ、吸着部12を加工対象物100の表面101に対して接近離反可能である。放電加工装置14は、加工対象物100における吸着部12が吸着した吸着位置の周囲を切断加工可能である。
【0016】
放電加工装置14は、装置本体11の中心部に配置される。すなわち、放電加工装置14は、加工対象物100の表面101に平行な面内で、装置本体11の中心部に配置される。放電加工装置14は、2本の電極31,32と、回転軸33と、電極駆動装置34とを有する。
【0017】
支持部材25は、一対の支持板35,36の上部が固定される。一対の支持板35,36は、所定間隔を空けて配置される。回転軸33は、吸着部12の接近離反方向に交差する方向に沿って配置される。回転軸33は、軸方向の各端部が支持板35,36に軸受(図示略)により回転自在に支持される。電極31,32は、U字形状をなす。回転軸33は、軸方向の各端部の支持板35,36より内側の位置に連結部37a,37b,38a,38bがそれぞれ固定される。第1電極31は、各端部が連結部37a,37bにそれぞれ連結される。第2電極32は、各端部が連結部38a,38bに連結される。第1電極31および第2電極32は、ほぼ同様の形状をなし、回転軸33に直交する方向の両側にそれぞれ線対称をなして配置される。電極31,32は、回転軸33から加工対象物100の表面101側に向けて傾斜角度をもってそれぞれ配置される。つまり、電極31,32は、それぞれの先端部が加工対象物100の表面101側に向けて延出される。電極31,32の角度は、180度より小さい。電極駆動装置34は、支持板35に設けられる。電極駆動装置34は、電動モータを有し、出力軸が回転軸33に連結される。電極駆動装置34は、回転軸33を一方方向および他方方向に駆動回転可能である。
【0018】
吸着部駆動装置13は、流体圧シリンダ機構であり、例えば、エアシリンダ機構である。なお、エアシリンダ機構は、単動式と複動式のいずれであってもよい。吸着部駆動装置13は、支持部材25に固定される。吸着部駆動装置13は、吸着部12を加工対象物100の表面101に対して進退可能である。つまり、吸着部駆動装置13は、吸着部12を加工対象物100の表面101に押付可能であると共に、引張可能である。吸着部12および吸着部駆動装置13は、装置本体11の中心部から一方側(図1および図2にて、左側)にずれて配置され、放電加工装置14に隣接して配置される。
【0019】
図3は、試料採取装置における吸着部および吸着部駆動装置の空気供給経路を表す概略図である。
【0020】
図3に示すように、吸着部駆動装置13は、シリンダ41と、ピストン42と、駆動ロッド43とを有する。シリンダ41は、内部にピストン42が移動自在に支持され、第1室41aと第2室41bとが区画される。第1室41aは、第1ポート44が設けられ、第2室41bは、第2ポート45が設けられる。駆動ロッド43は、シリンダ41を貫通し、一端部がピストン42に連結され、他端部が吸着部12に連結される。吸着部12は、ヘッダ46が装着され、吸着面12aとヘッダ46との間に連通路12bが形成される。連通路12bは、吸着面12aに開放している。
【0021】
空気供給装置(例えば、コンプレッサ)47は、第1空気給排通路48により第1ポート44に連結されると共に、第2空気給排通路49により第2ポート45に連結される。第1空気給排通路48および第2空気給排通路49は、電磁式切替弁50が設けられる。電磁式切替弁50は、第1連通部50aと第2連通部50bとを有する。電磁式切替弁50は、非通電時は、第1空気給排通路48および第2空気給排通路49が第1連通部50aに連通し、通電時は、第1空気給排通路48および第2空気給排通路49が第2連通部50bに連通する。また、ヘッダ46は、吸引通路51の一端部が連結される。吸引通路51は、他端部に真空ポンプ52が装着されると共に、外部に開放される。また、吸引通路51は、開閉弁53が装着されると共に、ヘッダ46と開閉弁53との間に圧力計54が装着される。圧力計54は、吸引通路51を通して吸着部12の吸着力(吸着面12aの圧力)を検出可能である。
【0022】
制御装置55は、空気供給装置47と電磁式切替弁50と真空ポンプ52と開閉弁53を制御可能である。制御装置55は、圧力計54からの検出結果が入力される。
【0023】
制御装置55は、空気供給装置47を作動し、空気給排通路48,49と電磁式切替弁50の第1連通部50aとを連通する。すると、空気供給装置47の空気が空気給排通路48および第1連通部50aを通してシリンダ41の第1室41aに供給される。そして、シリンダ41の第2室41bの空気が第1連通部50aを通して排気される。このとき、吸着部駆動装置13は、ピストン42を介して駆動ロッド43が前進させ、吸着部12を前進させることができる。
【0024】
一方、空気給排通路48,49と電磁式切替弁50の第2連通部50bとを連通する。すると、空気供給装置47の空気が電磁式切替弁50の第2連通部50bを通してシリンダ41の第2室41bに供給される。そして、シリンダ41の第1室41aの空気が第2連通部50bを通して排気される。このとき、吸着部駆動装置13は、ピストン42を介して駆動ロッド43が後退させ、吸着部12を後退させることができる。
【0025】
また、制御装置55は、真空ポンプ52を作動し、開閉弁53を開放する。すると、真空ポンプ52の吸引力が吸引通路51を介してヘッダ46に作用し、連通路12bを介して吸着部12の吸着面12aに作用する。そのため、吸着部12は、吸引力を確保することができる。このとき、制御装置55は、圧力計54から吸着部12の吸着力が入力され、入力された吸着量が予め設定された圧力領域に入るように真空ポンプ52の吸引力を調整する。
【0026】
<試料採取方法>
図4は、試料採取方法を表すフローチャート、図5は、試料採取装置の設置状態を表す概略図、図6は、吸着部による試料の吸着状態を表す概略図、図7は、第1放電切断加工状態を表す概略図、図8は、第1放電切断加工の終了時の状態を表す概略図、図9は、第2放電切断加工状態を表す概略図、図10は、第2放電切断加工の終了時の状態を表す概略図である。
【0027】
第1実施形態の試料採取方法は、加工対象物100から試料として切り離される部分を吸着部12により吸着する工程と、吸着部12が加工対象物100から離間する方向に動力を作用させる工程と、加工対象物100における吸着部12による吸着位置の周囲を放電切断加工する工程とを有する。
【0028】
図1および図4に示すように、ステップS11にて、試料採取装置10を試料採取位置である加工対象物100の近傍まで移動する。図4および図5に示すように、ステップS12にて、試料採取装置10を試料採取位置である加工対象物100の表面101に設置する。このとき、装置本体11は、各支持脚23の設置部24が加工対象物100の表面101に設置し、吸着機構を作動させることで、加工対象物100の所定の位置に保持される。
【0029】
図4および図6に示すように、ステップS13にて、吸着部駆動装置13の空気供給装置47(図3参照)を作動させることで、吸着部12を前進させて吸着面12aを加工対象物100の表面101に押し付ける。ステップS14にて、真空ポンプ52を作動させることで、吸着部12の吸着面12aに吸引力を作用させ、吸着部12を加工対象物100の表面101に吸着させる。すなわち、吸着部12により試料120として切り離される加工対象物100の一部を吸着する。ステップS15にて、吸着部駆動装置13の空気供給装置47(図3参照)を作動させることで、吸着部12を後退させ、吸着部12により加工対象物100を装置本体11(図1参照)側に引き付ける保持力を作用させる。
【0030】
図4および図7に示すように、ステップS16にて、放電加工装置14の第1電極31による第1放電切断処理を開始する。すなわち、第1電極31に電流を流すと共に、電極駆動装置34により回転軸33を介して電極31,32を図7の反時計回り方向に回動させる。すると、第1電極31は、加工対象物100との間に数十ミクロンの一定の距離を保ちながら移動し、先端部から発生するアーク放電により加工対象物100を溶解させながら移動し、加工対象物100と試料120との間に第1中空部111を形成する。このとき、第1電極31の先端部が第1中空部111の内壁面に接触しないようにすることが好ましい。ステップS17にて、第1電極31が、図7に二点鎖線で示すように、第1中空部111が中心部を超えて形成されると、放電加工装置14の第1電極31による第1放電切断処理を終了する。
【0031】
図4および図8に示すように、第1放電切断処理が終了すると、電極駆動装置34により回転軸33を介して電極31,32を図8の時計回り方向に回動させる。そして、第1電極31を加工対象物100の第1中空部111から取り出す。そして、図4および図9に示すように、ステップS18にて、放電加工装置14の第2電極32による第2放電切断処理を開始する。すなわち、第2電極32に電流を流すと共に、電極駆動装置34により回転軸33を介して電極31,32を図9の時計回り方向に回動させる。すると、第2電極32は、加工対象物100との間に数十ミクロンの一定の距離を保ちながら移動し、先端部から発生するアーク放電により加工対象物100を溶解させながら移動し、加工対象物100と試料120との間に第2中空部112を形成する。このとき、第2電極32の先端部が第2中空部112の内壁面に接触しないようにすることが好ましい。ステップS19にて、第2電極32が、図9に二点鎖線で示すように、第1中空部111に到達して連通すると、放電加工装置14の第2電極32による第2放電切断処理を終了する。
【0032】
図4および図10に示すように、第2放電切断処理が終了すると、電極駆動装置34により回転軸33を介して電極31,32を図10の反時計回り方向に回動させる。そして、第2電極32を加工対象物100の第2中空部112から取り出す。このとき、加工対象物100と試料120との間に第1中空部111と第2中空部112により中空部113が形成されることから、試料120は、加工対象物100から切り離されている。ステップS20にて、吸着部12が試料120を保持する。すなわち、加工対象物100に中空部113が形成されることで、試料120が加工対象物100から切り離されたとき、吸着部駆動装置13は、吸着部12に後退させる保持力を作用させている。そのため、吸着部12に試料120の重量が作用しても、吸着部駆動装置13は、吸着部12を介して試料120を落下させずに安定して保持することができる。
【0033】
加工対象物100から試料120が切り離されると、ステップS21にて、吸着部12が試料120を保持したままで、試料採取装置10を加工対象物100から元の位置まで移動する。試料120は、半球形状またはボート形状をなす。ここで、試料採取装置10による作業が終了する。
【0034】
[第2実施形態]
図11は、第2実施形態の試料採取装置を表す正面概略図、図12は、第2放電切断加工状態を表す概略図である。なお、上述した第1施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0035】
第2実施形態において、図11に示すように、試料採取装置10Aは、装置本体11と、吸着部12と、吸着部駆動装置13と、放電加工装置14とを備える。装置本体11と吸着部12と吸着部駆動装置13は、第1実施形態と同様である。
【0036】
放電加工装置14は、2本の電極31,32と、回転軸33と、電極駆動装置34とを有する。電極31,32と回転軸33と電極駆動装置34は、第1実施形態と同様である。また、放電加工装置14は、試料保持部材が設けられる。試料保持部材は、加工対象物100から切り離される試料120を支持するものである。試料保持部材は、支持ロッド61と、保持部62とを有する。支持ロッド61は、基端部が回転軸33に連結され、先端部に保持部62が設けられる。保持部62は、くさび形状をなし、第2中空部112の入口部に係止可能である。支持ロッド61および保持部62は、回転軸33における第2電極32より反時計回り方向側に配置される。そして、保持部62は、装置本体11の中心部から他方側にずれて配置される。すなわち、装置本体11は、中心部に放電加工装置14の回転軸33が配置され、回転軸33の径方向の一方側(第1電極31側)に吸着部12が配置され、回転軸33の径方向の他方側(第2電極32側)に保持部62が配置される。
【0037】
そのため、図12に示すように、第1電極31による第1放電切断処理が終了すると、放電加工装置14の第2電極32による第2放電切断処理を開始する。電極32に電流を流すと共に、電極駆動装置34により回転軸33を介して電極32を図12の時計回り方向に回動させる。すると、第2電極32は、加工対象物100との間に数十ミクロンの一定の距離を保ちながら移動し、先端部から発生するアーク放電により加工対象物100を溶解させながら移動し、加工対象物100と試料120との間に第2中空部112を形成する。このとき、支持ロッド61は、第2電極32の移動に伴って移動し、保持部62が第2中空部112に入り込んでいく。
【0038】
第2電極32が、第1中空部111に到達すると、第2中空部112が第1中空部111に連通して中空部113が形成され、放電加工装置14の第2電極32による第2放電切断処理を終了する。このとき、支持ロッド61は、先端部の保持部62が第2中空部112の入口部に係止している。そのため、加工対象物100から切り離された試料120が自重により下方移動することがない。すなわち、試料120が加工対象物100から切り離されたとき、試料120は、一方側が吸着部12により保持され、他方側が保持部62により保持されることで、試料120を落下させずに安定した保持が可能となる。
【0039】
なお、第2実施形態にて、支持ロッド61および保持部62を回転軸33に支持するように構成したが、装置本体11に装着し、回転軸との別の駆動装置で作動するように構成してもよい。また、試料保持部材として、支持ロッド61および保持部62に代えて、吸着部および吸着部駆動装置を設けてもよい。
【0040】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る試料採取装置は、加工対象物100を吸着可能な吸着部12と、吸着部12を加工対象物100に対して接近離反可能とする吸着部駆動装置13と、加工対象物100における吸着部12による吸着位置の周囲を切断加工する放電加工装置14とを備える。
【0041】
第1の態様に係る試料採取装置によれば、放電加工装置14により加工対象物100を切断加工するとき、加工対象物100から切り離される試料120は、吸着部駆動装置13および吸着部12により装置本体11に支持されることとなる。その結果、切断加工中および切断加工後の試料120を安定して支持することで、切断加工作業を安定して行うことができると共に、適切に試料120を採取することができる。この場合、作業環境が水中で、且つ、高放射線量環境であっても、遠隔操作により試料を適切に採取することができる。
【0042】
第2の態様に係る試料採取装置は、放電加工装置14は、U字形状をなす電極31,32と、吸着部12の接近離反方向に交差する方向に沿って配置されて電極31,32の各端部が連結される回転軸33と、回転軸33を駆動回転させる電極駆動装置34とを有する。これにより、電極31,32がU字形状をなすことから、容易に加工対象物100を切断することができると共に、切断加工中の切子を容易に排出することができ、試料120の採取時間を短縮することができる。
【0043】
第3の態様に係る試料採取装置は、2本の電極31,32を有し、回転軸33に直交する両側にそれぞれ配置される。これにより、第1電極31が加工対象物100における吸着部12による吸着位置の一方側から放電加工を行い、第2電極32が加工対象物100における吸着部12による吸着位置の他方側から放電加工を行うこととなり、効果的に試料120を採取することができる。
【0044】
第4の態様に係る試料採取装置は、2本の電極31,32は、回転軸33に対して加工対象物100側に向けて傾斜角度をもって配置される。これにより、電極31,32の一方により放電加工を行うとき、他方が邪魔になることがなく、加工対象物100の放電加工を安定して行うことができる。
【0045】
第5の態様に係る試料採取装置は、吸着部駆動装置13は、流体圧シリンダ機構を有する。これにより、構造の簡素化を図ることができる。
【0046】
第6の態様に係る試料採取装置は、放電加工装置14は、装置本体11の中心部に配置され、吸着部12は、装置本体11の中心部から一方側にずれて放電加工装置14に隣接して配置される。これにより、効果的に試料120を採取することができる。
【0047】
第7の態様に係る試料採取装置は、装置本体11の中心部から他方側にずれて配置されて加工対象物100から切り離される試料120を支持する試料保持部材としての保持部62が設けられる。これにより、加工対象物100から切り離された試料120を保持部62により保持することで、試料120の落下を防止することができる。
【0048】
第8の態様に係る試料採取方法は、加工対象物100から試料120として切り離される部分を吸着部12により吸着する工程と、吸着部12が加工対象物100から離間する方向に動力を作用させる工程と、加工対象物100における吸着部12による吸着位置の周囲を放電切断加工する工程とを有する。これにより、切断加工中および切断加工後の試料120を安定して支持することで、切断加工作業を安定して行うことができると共に、適切に試料120を採取することができる。
【0049】
第9の態様に係る試料採取方法は、U字形状をなす第1電極31により加工対象物100における吸着位置側を放電切断加工した後、第2電極32により加工対象物100における吸着位置の反対側を放電切断加工する。これにより、吸着部12と吸着部駆動装置13と放電加工装置14を効率良く配置することができると共に、加工対象物100から切り離される試料120を安定して保持することができる。
【0050】
第10の態様に係る試料採取方法は、電極31,32により加工対象物100における吸着位置の反対側を放電切断加工するとき、加工対象物100から切り離される試料120を支持する。これにより、加工対象物100から切り離された試料120を保持部62により保持することで、試料120の落下を防止することができる。
【0051】
なお、上述した実施形態では、試料採取装置が原子力発電プラントの原子炉容器などの構造物の一部を試料として切り離して採取するものとして説明したが、この構成に限定されるものではない。試料採取装置は、他の構造物の一部を試料として切り離して採取するものに適用することができる。また、上述した実施形態では、試料採取装置が水中を移動して水中構造物の一部を試料として切り離して採取するものとして説明したが、気中構造物に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10,10A 試料採取装置
11 装置本体
12 吸着部
13 吸着部駆動装置
14 放電加工装置
21 枠部材
22 連結部材
23 支持脚
24 設置部
25 支持部材
31 第1電極
32 第2電極
33 回転軸
34 電極駆動装置
35,36 支持板
41 シリンダ
41a 第1室
41b 第2室
42 ピストン
43 駆動ロッド
44 第1ポート
45 第2ポート
46 ヘッダ
47 空気供給装置
48 第1空気給排通路
49 第2空気給排通路
50 電磁式切替弁
50a 第1連通部
50b 第2連通部
51 吸引通路
52 真空ポンプ
53 開閉弁
54 圧力計
61 支持ロッド
62 保持部(試料保持部材)
100 加工対象物
101 表面
111 第1中空部
112 第2中空部
113 中空部
120 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12