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特許7504062電波減衰モデル生成装置、電波減衰モデル生成方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】電波減衰モデル生成装置、電波減衰モデル生成方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/391 20150101AFI20240614BHJP
   H04B 17/309 20150101ALI20240614BHJP
【FI】
H04B17/391
H04B17/309
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021107601
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005589
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-07-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省「第5世代移動通信システムの更なる高度化に向けた研究開発技術課題ア 多様なサービス要求に応じた高信頼な高度5Gネットワーク制御技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】栗田 雄太朗
(72)【発明者】
【氏名】新保 宏之
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-150291(JP,A)
【文献】特開2020-031366(JP,A)
【文献】国際公開第2021/005646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/391
H04B 17/309
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波減衰モデルの生成に使用されるパラメータの候補データを記憶するパラメータ候補データ記憶部と、
電波減衰モデル生成条件の指定を受付ける入力部と、
車両の形状の特徴に基づいて分類された車種グループの中から、減衰量の時間波形を生成する対象車種を決定する車種決定部と、
対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する遮蔽パラメータ決定部と、
減衰量の時間波形の発生間隔を決定する発生間隔決定部と、
前記発生間隔に基いて減衰量の時間波形の発生時刻を算出する遮蔽発生時刻算出部と、
前記発生時刻と前記遮蔽パラメータとに基づいて対象車種に対応する減衰量の時間波形を生成する波形生成部と、
電波減衰モデル生成条件で指定された車両台数分の個数の減衰量の時間波形から構成される電波減衰モデルデータを生成するモデルデータ生成部と、
を備える電波減衰モデル生成装置。
【請求項2】
前記車種グループ内の車種毎に、前記発生間隔及び前記遮蔽パラメータの各候補に対する累積確率分布データを記憶する累積確率分布データ記憶部をさらに備え、
前記発生間隔決定部は、前記発生間隔の候補の累積確率分布データに基づいて前記発生間隔を決定し、
前記遮蔽パラメータ決定部は、前記遮蔽パラメータの候補の累積確率分布データに基づいて前記遮蔽パラメータを決定する、
請求項1に記載の電波減衰モデル生成装置。
【請求項3】
前記波形生成部は、時間的に連続する複数の減衰量の時間波形が時間的に重なる期間において、当該複数の減衰量の時間波形の波形値の中から最大減衰量の波形値を選択する、
請求項1又は2のいずれか1項に記載の電波減衰モデル生成装置。
【請求項4】
電波減衰モデル生成装置が、電波減衰モデルの生成に使用されるパラメータの候補データを記憶するパラメータ候補データ記憶ステップと、
前記電波減衰モデル生成装置が、電波減衰モデル生成条件の指定を受付ける入力ステップと、
前記電波減衰モデル生成装置が、車両の形状の特徴に基づいて分類された車種グループの中から、減衰量の時間波形を生成する対象車種を決定する車種決定ステップと、
前記電波減衰モデル生成装置が、対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する遮蔽パラメータ決定ステップと、
前記電波減衰モデル生成装置が、減衰量の時間波形の発生間隔を決定する発生間隔決定ステップと、
前記電波減衰モデル生成装置が、前記発生間隔に基いて減衰量の時間波形の発生時刻を算出する遮蔽発生時刻算出ステップと、
前記電波減衰モデル生成装置が、前記発生時刻と前記遮蔽パラメータとに基づいて対象車種に対応する減衰量の時間波形を生成する波形生成ステップと、
前記電波減衰モデル生成装置が、電波減衰モデル生成条件で指定された車両台数分の個数の減衰量の時間波形から構成される電波減衰モデルデータを生成するモデルデータ生成ステップと、
を含む電波減衰モデル生成方法。
【請求項5】
コンピュータに、
電波減衰モデルの生成に使用されるパラメータの候補データを記憶するパラメータ候補データ記憶ステップと、
電波減衰モデル生成条件の指定を受付ける入力ステップと、
車両の形状の特徴に基づいて分類された車種グループの中から、減衰量の時間波形を生成する対象車種を決定する車種決定ステップと、
対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する遮蔽パラメータ決定ステップと、
減衰量の時間波形の発生間隔を決定する発生間隔決定ステップと、
前記発生間隔に基いて減衰量の時間波形の発生時刻を算出する遮蔽発生時刻算出ステップと、
前記発生時刻と前記遮蔽パラメータとに基づいて対象車種に対応する減衰量の時間波形を生成する波形生成ステップと、
電波減衰モデル生成条件で指定された車両台数分の個数の減衰量の時間波形から構成される電波減衰モデルデータを生成するモデルデータ生成ステップと、
を実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波減衰モデル生成装置、電波減衰モデル生成方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムの無線環境として、自動車等の車両や人物が混在する複雑な無線環境において、例えば、歩行者以外に車道を走行する車両によって電波の遮蔽が発生し得る。特にミリ波帯周波数を利用する移動通信システムでは、ミリ波帯周波数の電波の直進性のために電波の遮蔽による影響が大きい。このため、事前に電波の遮蔽による影響を把握しておくことが、その対処のために重要である。電波の遮蔽による影響の時間変化を把握することによって、電波の遮蔽による影響を考慮したビームフォーミングや基地局制御等による対処方法を事前に検討することが可能になる。
【0003】
非特許文献1,2には、電波の遮蔽による影響の時間変化を表すモデルが記載されている。非特許文献1は、電波の遮蔽による減衰量の時間変化を表すモデルとして、人物単体による電波の遮蔽を遮蔽の継続時間や信号減衰量や遮蔽の立ち上がり及び立ち下がり時間などをパラメータとして定量的に表現している。非特許文献2は、自動車単体による電波の遮蔽の発生確率をポアソン過程により表現し、電波の遮蔽がレイテンシに及ぼす影響を表すモデルとして、複数の基地局やユーザ端末が存在する無線環境を考慮した空間的統計モデルを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】G. R. MacCartney, T. S. Rappaport, and S. Rangan, “Rapid Fading Due to Human Blockage in Pedestrian Crowds at 5G Millimeter-Wave Frequencies,” 2017 IEEE Global Communications Conference, Dec. 2017, pp. 1-7.
【文献】A. Gunturu, A. K. R. Chavva, and V. Kumar, “Effects of Vehicular Blockage on Latency in 5G mmWave Systems with Dynamic Point Selection,” 2020 IEEE 17th Annual Consumer Communications Networking Conference (CCNC), 2020, pp. 1-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電波の遮蔽による減衰量の時間変化を表すモデル(電波減衰モデル)は、例えば、電波の遮蔽による影響を予測する方法を評価するために使用される。ここで、移動通信システムの無線環境として、自動車等の車両が複数存在する無線環境においては、車両の形状(例えば、車両の高さや長さ等)がそれぞれに異なる複数の車両が存在し得るので、それぞれの車両の形状の特徴を電波減衰モデルに反映することが望ましい。しかしながら、上述した非特許文献1,2に記載されたモデルでは、自動車等の車両が複数存在する無線環境におけるそれぞれの車両の形状の特徴が反映されない。また、複数の車線が存在する場合などでは、各車線を走行している車両同士がすれ違う時やある車両が別の車両を追い越す時などに重なる状況が発生し得るので、そのような状況を考慮することができる電波減衰モデルも望まれる。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、自動車等の車両が複数存在する無線環境における電波減衰モデルの性能向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、電波減衰モデルの生成に使用されるパラメータの候補データを記憶するパラメータ候補データ記憶部と、電波減衰モデル生成条件の指定を受付ける入力部と、車両の形状の特徴に基づいて分類された車種グループの中から、減衰量の時間波形を生成する対象車種を決定する車種決定部と、対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する遮蔽パラメータ決定部と、減衰量の時間波形の発生間隔を決定する発生間隔決定部と、前記発生間隔に基いて減衰量の時間波形の発生時刻を算出する遮蔽発生時刻算出部と、前記発生時刻と前記遮蔽パラメータとに基づいて対象車種に対応する減衰量の時間波形を生成する波形生成部と、電波減衰モデル生成条件で指定された車両台数分の個数の減衰量の時間波形から構成される電波減衰モデルデータを生成するモデルデータ生成部と、を備える電波減衰モデル生成装置である。
(2)本発明の一態様は、前記車種グループ内の車種毎に、前記発生間隔及び前記遮蔽パラメータの各候補に対する累積確率分布データを記憶する累積確率分布データ記憶部をさらに備え、前記発生間隔決定部は、前記発生間隔の候補の累積確率分布データに基づいて前記発生間隔を決定し、前記遮蔽パラメータ決定部は、前記遮蔽パラメータの候補の累積確率分布データに基づいて前記遮蔽パラメータを決定する、上記(1)の電波減衰モデル生成装置である。
(3)本発明の一態様は、前記波形生成部は、時間的に連続する複数の減衰量の時間波形が時間的に重なる期間において、当該複数の減衰量の時間波形の波形値の中から最大減衰量の波形値を選択する、上記(1)又は(2)のいずれかの電波減衰モデル生成装置である。
【0008】
(4)本発明の一態様は、電波減衰モデル生成装置が、電波減衰モデルの生成に使用されるパラメータの候補データを記憶するパラメータ候補データ記憶ステップと、前記電波減衰モデル生成装置が、電波減衰モデル生成条件の指定を受付ける入力ステップと、前記電波減衰モデル生成装置が、車両の形状の特徴に基づいて分類された車種グループの中から、減衰量の時間波形を生成する対象車種を決定する車種決定ステップと、前記電波減衰モデル生成装置が、対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する遮蔽パラメータ決定ステップと、前記電波減衰モデル生成装置が、減衰量の時間波形の発生間隔を決定する発生間隔決定ステップと、前記電波減衰モデル生成装置が、前記発生間隔に基いて減衰量の時間波形の発生時刻を算出する遮蔽発生時刻算出ステップと、前記電波減衰モデル生成装置が、前記発生時刻と前記遮蔽パラメータとに基づいて対象車種に対応する減衰量の時間波形を生成する波形生成ステップと、前記電波減衰モデル生成装置が、電波減衰モデル生成条件で指定された車両台数分の個数の減衰量の時間波形から構成される電波減衰モデルデータを生成するモデルデータ生成ステップと、を含む電波減衰モデル生成方法である。
【0009】
(5)本発明の一態様は、コンピュータに、電波減衰モデルの生成に使用されるパラメータの候補データを記憶するパラメータ候補データ記憶ステップと、電波減衰モデル生成条件の指定を受付ける入力ステップと、車両の形状の特徴に基づいて分類された車種グループの中から、減衰量の時間波形を生成する対象車種を決定する車種決定ステップと、対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する遮蔽パラメータ決定ステップと、減衰量の時間波形の発生間隔を決定する発生間隔決定ステップと、前記発生間隔に基いて減衰量の時間波形の発生時刻を算出する遮蔽発生時刻算出ステップと、前記発生時刻と前記遮蔽パラメータとに基づいて対象車種に対応する減衰量の時間波形を生成する波形生成ステップと、電波減衰モデル生成条件で指定された車両台数分の個数の減衰量の時間波形から構成される電波減衰モデルデータを生成するモデルデータ生成ステップと、を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動車等の車両が複数存在する無線環境における電波減衰モデルの性能向上を図ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る電波減衰モデル生成装置の構成例を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る電波減衰モデルのパラメータの一覧である。
図3】一実施形態に係る電波減衰モデルにおける減衰量の時間波形の説明図である。
図4】一実施形態に係る電波減衰モデル生成方法の手順の例を示すフローチャートである。
図5】一実施形態に係る車種グループの一例を示す図である。
図6】一実施形態に係る遮蔽継続時間の候補及び累積確率の一例を示す図である。
図7】一実施形態に係る平均減衰量の候補及び累積確率の一例を示す図である。
図8】一実施形態に係る遮蔽発生間隔の候補及び累積確率の一例を示す図である。
図9】一実施形態に係る時間的に連続する2つの減衰量時間波形が重なる場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係る電波減衰モデル生成装置の構成例を示すブロック図である。図1に示す電波減衰モデル生成装置1は、電波の遮蔽による減衰量の時間変化を表すモデル(電波減衰モデル)を生成する。電波減衰モデル生成装置1が生成する電波減衰モデルは、自動車等の車両が複数存在する無線環境における電波減衰モデルである。対象の電波は、例えば移動通信システム等の無線通信システムが利用する周波数帯の電波である。例えば、第5世代移動通信システム(5G)が利用する周波数帯の電波が対象の電波であってもよい。例えば、ミリ波帯周波数の電波が対象の電波であってもよい。
【0013】
図1において、電波減衰モデル生成装置1は、記憶部10と、入力部11と、車種決定部12と、遮蔽パラメータ決定部13と、発生間隔決定部14と、遮蔽発生時刻算出部15と、波形生成部16と、モデルデータ生成部17とを備える。
【0014】
電波減衰モデル生成装置1の各機能は、電波減衰モデル生成装置1がCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)及びメモリ等のコンピュータハードウェアを備え、CPUがメモリに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。なお、電波減衰モデル生成装置1として、汎用のコンピュータ装置を使用して構成してもよく、又は、専用のハードウェア装置として構成してもよい。例えば、電波減衰モデル生成装置1は、インターネット等の通信ネットワークに接続されるサーバコンピュータを使用して構成されてもよい。また、電波減衰モデル生成装置1の各機能はクラウドコンピューティングにより実現されてもよい。また、電波減衰モデル生成装置1は、単独のコンピュータにより実現するものであってもよく、又は電波減衰モデル生成装置1の機能を複数のコンピュータに分散させて実現するものであってもよい。
【0015】
記憶部10は、各種のデータを記憶する。記憶部10は、パラメータ候補データと累積確率分布データとを記憶する。パラメータ候補データは、電波減衰モデルの生成に使用されるパラメータの候補データである。累積確率分布データは、パラメータ候補データに含まれる特定パラメータの候補に対する累積確率分布のデータである。記憶部10は、パラメータ候補データ記憶部及び累積確率分布データ記憶部に対応する。
【0016】
入力部11は、電波減衰モデル生成条件110の指定を受付ける。電波減衰モデル生成条件110は、電波減衰モデル生成装置1が電波減衰モデルを生成する際の条件である。電波減衰モデル生成条件110は、車両台数や、車両同士が重なる状況を許容するか否か等の条件である。電波減衰モデル生成装置1は、電波減衰モデル生成条件110に従って、電波減衰モデルを生成する。
【0017】
車種決定部12は、自動車等の車両の形状(例えば、車両の高さや長さ等)の特徴に基づいて分類された車種グループの中から、減衰量の時間波形を生成する対象車種を決定する。車種グループは、例えば、乗用車や貨物車(トラック)や乗合車(バス)等の各種の自動車を対象にして自動車の形状の特徴に基づいて分類された結果の車種の集合である。車種グループのデータは、パラメータ候補データに含まれる。
【0018】
遮蔽パラメータ決定部13は、対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する。遮蔽パラメータ決定部13は、パラメータ候補データに含まれる遮蔽パラメータの候補の中から、対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータを決定する。
【0019】
発生間隔決定部14は、減衰量の時間波形の発生間隔を決定する。発生間隔決定部14は、パラメータ候補データに含まれる発生間隔の候補の中から、減衰量の時間波形の発生間隔を決定する。
【0020】
遮蔽発生時刻算出部15は、発生間隔決定部14が決定した発生間隔に基いて減衰量の時間波形の発生時刻を算出する。
【0021】
波形生成部16は、遮蔽発生時刻算出部15が算出した発生時刻と遮蔽パラメータ決定部13が決定した遮蔽パラメータとに基づいて、対象車種に対応する減衰量の時間波形を生成する。
【0022】
モデルデータ生成部17は、電波減衰モデル生成条件で指定された車両台数分の個数の減衰量の時間波形から構成される電波減衰モデルデータ120を生成する。
【0023】
図2図3は、本実施形態に係る電波減衰モデルの説明図である。図2は、本実施形態に係る電波減衰モデルのパラメータの一覧である。図3は、本実施形態に係る電波減衰モデルにおける減衰量の時間波形の説明図である。なお、下付き文字の例えば「a」を「_a」と表記する場合がある。
【0024】
図3において、電波減衰モデルを構成する減衰量の時間波形(減衰量時間波形)W(n),W(n+1)は、電波の遮蔽による減衰量の時間変化を示す波形であって、時刻tにおける減衰量SE(t)を示す波形である。減衰量時間波形W(n)は、n番目の車両による電波の遮蔽による減衰量の時間変化を示す波形である。減衰量時間波形W(n+1)は、「n+1」番目の車両による電波の遮蔽による減衰量の時間変化を示す波形である。減衰量時間波形W(n)と減衰量時間波形W(n+1)とは、時間的に連続する2つの減衰量時間波形である。
【0025】
図2及び図3に示されるように、減衰量時間波形W(n)は、遮蔽発生時刻t_shd(n)、遮蔽発生間隔t_intv(n)、減衰量落ち込み時間t_decay(n)、減衰量立ち上がり時間t_rise(n)、遮蔽継続時間t_D(n)、及び平均減衰量SE_mean(n)によって表される。減衰量時間波形W(n+1)も同様である。また、減衰量候補SE_cand(t)がパラメータとして定義される。
【0026】
次に図4を参照して本実施形態に係る電波減衰モデル生成方法を説明する。図4は、本実施形態に係る電波減衰モデル生成方法の手順の例を示すフローチャートである。
【0027】
電波減衰モデル生成装置1に対して、電波減衰モデル生成条件110が指定され、電波減衰モデルの生成が指示されると、電波減衰モデル生成装置1は図4の処理を開始する。ここでは、電波減衰モデル生成条件110において、「車両台数=N」が指定されている。電波減衰モデル生成装置1は、車両台数N分のループ処理(ステップS1からステップS9までの処理の繰り返し)を実行する。したがって、「n=1」から「n=N」までのN回だけ、ステップS1からステップS9までの処理が繰り返し実行される。車両台数は、電波の遮蔽数に対応する。これにより、N台の車両のそれぞれの対象車種に対応する合計N個の減衰量時間波形が生成される。以下、n番目の車両について、ステップS1からステップS9までの処理を説明する。
【0028】
(ステップS1) 車種決定部12は、n番目の車両の車種(以下、対象車種と称する)を決定する。図5は、パラメータ候補データに含まれる車種グループのデータの一例を示す図である。図5の車種グループのデータは、車種グループに含まれる車種A,B,Cと、各車種A,B,Cの確率Pa,Pb,Pcとを含む。なお、車種数に制限はない。K種類の車種が存在するとき、各車種の確率Pk(kは1からKまでの整数)は、「0<Pk≦1、且つ、Σ_K(Pk)=1」を満たす値である。
【0029】
車種決定部12は、図5に示される車種グループに含まれる車種A,B,Cの中から、各車種A,B,Cの確率Pa,Pb,Pcに基づいて対象車種を決定する。
【0030】
(ステップS2) 遮蔽パラメータ決定部13は、対象車種に対応する減衰量の時間波形を形成する遮蔽パラメータとして、減衰量落ち込み時間t_decay(n)、減衰量立ち上がり時間t_rise(n)、遮蔽継続時間t_D(n)、及び平均減衰量SE_mean(n)を決定する。
【0031】
減衰量落ち込み時間t_decay(n)及び減衰量立ち上がり時間t_rise(n)は、車種毎に一定値が予め決定されてパラメータ候補データに含まれている。遮蔽パラメータ決定部13は、パラメータ候補データの中から、対象車種の減衰量落ち込み時間t_decay(n)及び減衰量立ち上がり時間t_rise(n)の値を決定する。
【0032】
図6は、パラメータ候補データに含まれる遮蔽継続時間t_D(n)の候補の一例と、累積確率分布データに含まれる各遮蔽継続時間t_D(n)の候補の累積確率の一例とを示す図である。遮蔽継続時間t_D(n)の候補及び累積確率は、車種毎に予め決定される。遮蔽継続時間t_D(n)の候補及び累積確率は、実測データから求められてもよく、又は車両の速度や全長や交通量などの情報から求められてもよい。図6(1)には車種Aの一例が示される。図6(2)には車種Bの一例が示される。遮蔽パラメータ決定部13は、対象車種の遮蔽継続時間t_D(n)の候補の中から、対象車種の各遮蔽継続時間t_D(n)の候補の累積確率に基づいて対象車種の遮蔽継続時間t_D(n)を決定する。
【0033】
図7は、パラメータ候補データに含まれる平均減衰量SE_mean(n)の候補の一例と、累積確率分布データに含まれる各平均減衰量SE_mean(n)の候補の累積確率の一例とを示す図である。平均減衰量SE_mean(n)の候補及び累積確率は、車種毎に予め決定される。平均減衰量SE_mean(n)の候補及び累積確率は、実測データから求められてもよく、又は基地局とユーザ端末と車両との位置関係の情報から求められてもよい。図7(1)には車種Aの一例が示される。図7(2)には車種Bの一例が示される。遮蔽パラメータ決定部13は、対象車種の平均減衰量SE_mean(n)の候補の中から、対象車種の各平均減衰量SE_mean(n)の候補の累積確率に基づいて対象車種の平均減衰量SE_mean(n)を決定する。
【0034】
(ステップS3) 発生間隔決定部14は、減衰量の時間波形の発生間隔(遮蔽発生間隔)t_intv(n)を決定する。図8は、パラメータ候補データに含まれる遮蔽発生間隔t_intv(n)の候補の一例と、累積確率分布データに含まれる各遮蔽発生間隔t_intv(n)の候補の累積確率の一例とを示す図である。遮蔽発生間隔t_intv(n)の候補及び累積確率は、車種にかかわらず共通に予め決定される。遮蔽パラメータ決定部13は、遮蔽発生間隔t_intv(n)の候補の中から、各遮蔽発生間隔t_intv(n)の候補の累積確率に基づいて対象車種の遮蔽発生間隔t_intv(n)を決定する。
【0035】
(ステップS4) 電波減衰モデル生成条件110において、車両同士が重なる状況を許容するが指定されている場合に(ステップS4、YES)、ステップS6に進む。一方、車両同士が重なる状況を許容しないが指定されている場合に(ステップS4、NO)、ステップS5に進む。
【0036】
(ステップS5) 発生間隔決定部14は、対象車種の遮蔽発生間隔t_intv(n)が直前の「n-1」番目の遮蔽継続時間t_D(n-1)よりも大きくなるように、対象車種の遮蔽発生間隔t_intv(n)を調整する。これにより、対象車種の減衰量時間波形(n番目の減衰量時間波形)が直前の「n-1」番目の減衰量時間波形と重ならないようになる。この後、ステップS6に進む。
【0037】
(ステップS6) 遮蔽発生時刻算出部15は、発生間隔決定部14が決定した対象車種の遮蔽発生間隔t_intv(n)に基いて減衰量の時間波形の発生時刻(遮蔽発生時刻)t_shd(n)を算出する。対象車種の遮蔽発生時刻t_shd(n)は、次式により算出される。遮蔽発生時刻t_shd(n-1)は、直前の「n-1」番目の遮蔽発生時刻である。
t_shd(n)=t_shd(n-1)+t_intv(n)
【0038】
(ステップS7) 波形生成部16は、遮蔽発生時刻算出部15が算出した対象車種の遮蔽発生時刻t_shd(n)と、遮蔽パラメータ決定部13が決定した対象車種の遮蔽パラメータ「減衰量落ち込み時間t_decay(n)、減衰量立ち上がり時間t_rise(n)、遮蔽継続時間t_D(n)、及び平均減衰量SE_mean(n)」とに基づいて、対象車種に対応する減衰量時間波形の「減衰量候補SE_cand(t)、t_shd(n-1)≦t≦「t_shd(n)+t_D(n)」」を生成する。
【0039】
(ステップS8) 波形生成部16は、「t_intv(n)>t_D(n-1)」であるか否かを判断する。「t_intv(n)>t_D(n-1)」である場合には(ステップS8、YES)、ステップS9に進む。一方、「t_intv(n)>t_D(n-1)」ではない場合には(ステップS8、NO)、ステップS10に進む。
【0040】
(ステップS9) 「t_intv(n)>t_D(n-1)」である場合には(ステップS8、YES)、対象車種の減衰量時間波形(n番目の減衰量時間波形)が直前の「n-1」番目の減衰量時間波形と重ならない。このため、波形生成部16は、ステップS7で生成した対象車種の減衰量候補SE_cand(t)、t_shd(n-1)≦t≦「t_shd(n)+t_D(n)」」をそのまま、対象車種に対応する減衰量時間波形の「減衰量SE(t)、t_shd(n-1)≦t≦「t_shd(n)+t_D(n)」」に決定する。
【0041】
(ステップS10) 「t_intv(n)>t_D(n-1)」ではない場合には(ステップS8、NO)、対象車種の減衰量時間波形(n番目の減衰量時間波形)が直前の「n-1」番目の減衰量時間波形と重なる。このため、波形生成部16は、次式により、対象車種に対応する減衰量時間波形の「減衰量SE(t)、t_shd(n-1)≦t≦「t_shd(n)+t_D(n)」」を決定する。
SE(t)=min(SE(t),SE_cand(t))、0≦t≦「t_shd(n)+t_D(n)
【0042】
これにより、波形生成部16は、時間的に連続する複数の減衰量の時間波形が時間的に重なる期間において、当該複数の減衰量の時間波形の波形値の中から最大減衰量の波形値を選択する。この説明図が図9に示される。図9には、時間的に連続する2つの減衰量時間波形W(n),W(n+1)が示される。減衰量時間波形W(n)とW(n+1)は、期間Taにおいて重なっている。波形生成部16は、当該期間Taにおいて、減衰量時間波形W(n),W(n+1)の波形値の中から、最大減衰量の波形値を選択する。具体的には、期間Taのうち、期間T1では、減衰量時間波形W(n)の方が減衰量SE(t)が大きいので減衰量時間波形W(n)の波形値が選択される。一方、期間Taのうち、期間T2では、減衰量時間波形W(n+1)の方が減衰量SE(t)が大きいので減衰量時間波形W(n+1)の波形値が選択される。このステップS10の処理によって、複数の車線が存在する場合などにおいて、各車線を走行している車両同士がすれ違う時やある車両が別の車両を追い越す時などに重なる状況が表現される。
【0043】
上述した車両台数N分のループ処理(ステップS1からステップS9までの処理の繰り返し)が終了すると、N台の車両のそれぞれの対象車種に対応する合計N個の減衰量時間波形W(n)が生成される(nは1からNまでの整数)。モデルデータ生成部17は、当該生成されたN個の減衰量時間波形W(n)から構成される電波減衰モデルデータ120を生成する。電波減衰モデル生成装置1は、電波減衰モデルデータ120を出力する。なお、電波減衰モデルデータ120は、図3に示される減衰量時間波形W(n)を表すパラメータ群であってもよい。
【0044】
電波減衰モデルデータ120は、例えばミリ波帯周波数を利用する移動通信システム(例えば、第5世代移動通信システム(5G)など)において、電波の遮蔽による影響の時間変化を把握するために利用可能である。電波減衰モデルデータ120によって電波の遮蔽による影響の時間変化が把握されることにより、電波の遮蔽による影響を考慮したビームフォーミングや基地局制御等による対処方法を事前に検討することが可能になる。また、電波減衰モデルデータ120は、電波の遮蔽による影響を予測する方法を評価するために利用可能である。
【0045】
上述した実施形態によれば、自動車等の車両が複数存在する無線環境におけるそれぞれの車両の形状の特徴が反映された電波減衰モデルを生成することができる。これにより、自動車等の車両が複数存在する無線環境における電波減衰モデルの性能向上を図ることができるという効果が得られる。
【0046】
また本実施形態によれば、複数の車線が存在する場合などにおいて、各車線を走行している車両同士がすれ違う時やある車両が別の車両を追い越す時などに重なる状況が表現された電波減衰モデルを生成することができる。これにより、自動車等の車両が複数存在する無線環境における電波減衰モデルの性能向上を図ることができるという効果が得られる。
【0047】
本実施形態によれば、自動車等の車両が複数存在する無線環境における電波減衰モデルの性能向上を図ることができるので、上述した、電波の遮蔽による影響を考慮したビームフォーミングや基地局制御等による対処方法の事前検討や、電波の遮蔽による影響を予測する方法の評価などの精度向上に寄与することができる。
【0048】
なお、これにより、例えば第5世代移動通信システム(5G)における総合的なサービス品質の向上を実現することができることから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0050】
また、上述した各装置の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0051】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…電波減衰モデル生成装置、10…記憶部、11…入力部、12…車種決定部、13…遮蔽パラメータ決定部、14…発生間隔決定部、15…遮蔽発生時刻算出部、16…波形生成部、17…モデルデータ生成部
図1
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図9