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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23P 23/04 20060101AFI20240614BHJP
   B23B 5/12 20060101ALI20240614BHJP
   B23Q 1/76 20060101ALI20240614BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20240614BHJP
   C21D 9/28 20060101ALI20240614BHJP
   C21D 9/32 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B23P23/04
B23B5/12
B23Q1/76 R
C21D1/10 A
C21D9/28 B
C21D9/32 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021160772
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023050590
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】須永 頼匡
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大樹
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-017735(JP,A)
【文献】特表2014-502926(JP,A)
【文献】特開2010-013710(JP,A)
【文献】特開昭61-004637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 23/04
B23B 1/00、5/12
B23Q 1/76
C21D 1/10、9/28、9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状であるワークを支持する支持機構と、
前記支持機構に支持されたワークを切削する切削機構と、
前記支持機構に支持されたワークを熱処理する熱処理機構と、を備え、
前記熱処理機構は、前記ワークを誘導加熱するコイル部を有し、
前記支持機構に支持されたワークと前記コイル部とが、相対移動可能であり、
前記支持機構は、前記ワークの軸方向における第1の端部を支持する第1支持部と、前記ワークの軸方向における第2の端部を支持する第2支持部とを有し、
前記コイル部は、前記ワークの側面を囲むように環状に形成されており、
切削時の前記ワークの軸ぶれを抑制する振れ止め機構をさらに備え、
前記振れ止め機構が、前記ワークを支持した状態で、前記第1の端部と前記第1支持部とを離間させるか、または、前記第2の端部と前記第2支持部とを離間させるように移動可能である、加工装置。
【請求項2】
切削時に前記ワークに供給された切削液を回収する切削液回収機構と、
熱処理時に前記ワークに供給された冷却液を回収する冷却液回収機構と、をさらに備える、請求項1に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、切削処理に加えてレーザー焼入れも可能な加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-238253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ワークの切削処理および焼入れ等の熱処理を効率的に実施することができる加工装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る加工装置は、
ワークを支持する支持機構と、
前記支持機構に支持されたワークを切削する切削機構と、
前記支持機構に支持されたワークを熱処理する熱処理機構と、を備え、
前記熱処理機構は、前記ワークを誘導加熱するコイル部を有し、
前記支持機構に支持されたワークと前記コイル部とが、相対移動可能である。
【0006】
本発明では、熱処理機構がコイル部による誘導加熱を採用する。誘導加熱は、所望の温度まで正確に急速加熱することができるため、効率的である。また、本発明では、切削処理と、誘導加熱による熱処理とを連続的に行うことができるため、効率的である。更に、コイル部とワークとが相対移動可能であることによって、ワークの所望の箇所に誘導加熱による熱処理を実施することができるため、効率的である。
【0007】
また、本発明に係る加工装置は、好ましくは、
切削時に前記ワークに供給された切削液を回収する切削液回収機構と、
熱処理時に前記ワークに供給された冷却液を回収する冷却液回収機構と、をさらに備える。
【0008】
斯かる構成によれば、切削液回収機構および冷却液回収機構を備えることによって、切削液および冷却液の再利用が可能になる。
【0009】
また、本発明に係る加工装置は、好ましくは、
前記ワークは、棒状であり、
前記支持機構は、前記ワークの軸方向における第1の端部を支持する第1支持部と、前記ワークの軸方向における第2の端部を支持する第2支持部とを有し、
前記コイル部は、前記ワークの側面を囲むように環状に形成されており、
切削時の前記ワークの軸ぶれを抑制する振れ止め機構をさらに備え、
前記振れ止め機構が、前記ワークを支持した状態で、前記第1の端部と前記第1支持部とを離間させるか、または、前記第2の端部と前記第2支持部とを離間させるように移動可能である。
【0010】
斯かる構成によれば、振れ止め機構が、ワークの第1の端部と第1支持部とを離間させるかまたはワークの第2の端部と第2の支持部とを離間させるように移動可能であるため、環状に形成されたコイル部に対するワークの抜き差しを容易に行うことができる。
【0011】
また、本発明に係る加工装置は、好ましくは、
前記ワークは、棒状であり、
前記支持機構は、前記ワークの軸方向における第1の端部を支持する第1支持部と、前記ワークの軸方向における第2の端部を支持する第2支持部とを有し、
前記コイル部が、前記ワークの側面に対向し得る湾曲面部を有し、
前記コイル部と前記支持機構に支持されたワークとが、前記湾曲面部と前記ワークとの距離を任意に調節するように、相対移動可能である。
【0012】
斯かる構成によれば、上記のような湾曲面部を有するコイル部と支持機構に支持されたワークとが、前記湾曲面部と前記ワークとの互いの距離を任意に調節するように相対移動可能であるため、環状のコイル部と比較して、誘導加熱すべきワークの任意の箇所にコイル部を容易に配置することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明によれば、ワークの切削処理および焼入れ等の熱処理を効率的に実施することができる加工装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る加工装置の模式図であり、ワークと切削機構および振れ止め装置とが接触した状態を示す。
図2図1において、切削機構および振れ止め装置がワークから離れた状態を示す。
図3図1の加工装置で加工されるワークの一例であるシャフトの形状を示す概念図であり、(a)は側面図、(b)および(c)は斜視図である。
図4】冷却液回収機構の変形例を示す模式図である。
図5】熱処理機構におけるコイル部の変形例を示す模式図である。
図6】コイル部の移動例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、本発明を次のように考え、創作するに至った。
まず、誘導加熱は、所望の温度までワークを正確に急速加熱することができるため効率的である。このことから、本発明者らは、特許文献1のレーザー焼入れに換えて、誘導加熱を採用することを着想した。しかしながら、加熱方式の異なる熱処理機構は、それぞれに特有の仕様が必要となる。例えば、誘導加熱では、ワークに対するコイルの配置が重要となる。よって、このような要求を満たしつつ、加工装置の効率化を図る必要がある。
【0016】
以下では、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る加工装置について説明する。図1および図2は、本発明の一実施形態に係る加工装置の模式図である。図1および図2に示されるように、本実施形態の加工装置1は、棒状のワークWを支持する支持機構10と、切削時のワークWの軸ぶれを抑制する振れ止め機構20と、支持機構10に支持されたワークWを切削する切削機構30と、切削時にワークWに供給された切削液を回収する切削液回収機構40と、支持機構10に支持されたワークWを熱処理する熱処理機構50と、熱処理時にワークWに供給された冷却液を回収する冷却液回収機構60とを備えている。また、加工装置1は、各機構の動作を制御する制御部80を備えている。なお、加工装置1は、各機構を収容する加工室70を備えてもよい。
【0017】
図3は、加工装置1で加工されるワークの一例を示す概念図である。図3(a)は側面図であり、図3(b)および図3(c)は斜視図である。図3(a)~(c)に示されるように、本実施形態のワークWは、中空に形成された円筒状のシャフトであり、第1の端部Waと、ワークWの軸方向における第1の端部Waとは反対側の第2の端部Wbと、第1の端部Waに形成された開口W1と、第2の端部Wbに形成された開口W2とを有する。 また、ワークWは、炭素を含む鋼材から作製されたものである。かかるワークWとしては、例えば、自動車などのステアリング装置に用いられる中空ラックバーが挙げられる。ラックバーは、ピンオンギアの歯部と噛み合う図示しない歯部を有する。
なお、ワークWは、中実に作製されていてもよい。また、本実施形態では、シャフトとしてのワークWを例示するが、ワークWの形状や用途は特に限定されない。
【0018】
本実施形態の加工装置1は、図1および図2に示すように、ワークWの軸が水平方向に沿うようにワークWを支持し、該ワークWに切削処理および熱処理の両方を実施可能な複合化された装置である。
なお、以下では、支持された状態のワークWの軸方向をZ方向と、水平方向においてZ方向に直交する方向をY方向と称する。また、垂直方向においてZ方向およびY方向に直交する方向をX方向と称する。
【0019】
本実施形態の支持機構10は、図1および図2に示すように、ワークWの第1の端部Waを支持する第1支持部11と、ワークWの第2の端部Wbを支持する第2支持部12とを有する。第1支持部11および第2支持部12は、Z方向において対向するように配置されている。
【0020】
第1支持部11は、ワークWの側面を把持する複数の爪部111を有する。各爪部111は、同心円上に等間隔を空けて配置されている。また、各爪部111は、ワークWの側面に対して進退可能である。さらに、第1支持部11は、当該支持した状態のワークWを軸周りに回転させるように自転可能である。かかる第1支持部11としては、例えば、インディペンデントチャック、油圧パワーチャック、またはコレットチャックを採用することができる。
【0021】
第2支持部12は、先端部をワークWの端面部に接触させることにより押し付ける回転センタ121と、回転センタ121をワークWの端面部に対して進退させる心押し台122とを有する。回転センタ121と心押し台122とは、同一軸線上に配置されている。回転センタ121は、先端に向かって先細りとなるテーパー面を有する。回転センタ121は、ワークWの第2の端部Wb内へ進行してワークWにおける開口W2の内周縁部に前記テーパー面を当接させるようにして、ワークWを支持する。なお、中実のワークWの場合、ワークWの第2の端部Wbには、回転センタ121の先端部を挿入可能な図示しないセンタ穴が形成され、第2支持部12は、回転センタ121の先端部を当該センタ穴の内周縁部に当接させるようにしてワークWを支持する。また、回転センタ121に支持されたワークWは、心押し台122によりZ方向に対して進退可能である。さらに、第2支持部12は、支持した状態のワークWを軸周りに回転させるように自転可能である。
【0022】
以上から、ワークWは、第1支持部11および第2支持部12に支持された状態で、軸周りに回転可能となる。
【0023】
第1支持部11および第2支持部12は、例えば、所定の硬さの有る材質によって形成されている。
【0024】
本実施形態の振れ止め機構20は、ワークWの側面を下方から受けることによって、切削時および熱処理時のワークWの軸ぶれを抑制するものである。より具体的には、加工装置1がワークWを軸周りに回転させながら切削処理または熱処理する場合に、振れ止め機構20は、軸周りに回転するワークWの軸ぶれを抑制するものとなる。
【0025】
振れ止め機構20は、基礎をなす本体21と、本体21の上端部から上方に延びるクランプ部22とを有する。
【0026】
本実施形態では、振れ止め機構20が、支持機構10に支持されたワークWに対して移動する。なお、ワークWが、振れ止め機構20に対して移動してもよい。図1および図2に示されるように、振れ止め機構20は、本体21が、支持機構10により支持されたワークWに接触する接触位置P1(図1の位置)と、ワークWと相対移動する熱処理機構50の少なくともコイル部51(好ましくは、熱処理機構50に加えて、熱処理機構50と追従移動する冷却液回収機構60(後述))が通過可能なようにワークWとの間に空間(隙間)を形成する非接触位置P2(図2の位置)との間を移動する。
これにより、加工装置1は、必要に応じて振れ止め機構20をワークWとの接触位置P1と非接触位置P2との間を相対移動させることにより、コイル部51のワークWに対する移動が振れ止め機構20に妨害されずに、ワークWの誘導加熱を継続的に行うことができるため、効率的である。また、コイル部51の移動が振れ止め機構20に妨害されることがないため、コイル部51のワークに対する移動に係る速度等を均一に制御することができる。従って、加工装置1は、熱処理機構50による誘導加熱を均一化させやすいため、熱処理を品質良く行うことができる。
【0027】
本体21は、すなわちZ方向に移動可能である。具体的には、振れ止め機構20は、本体21のZ方向における移動を駆動する駆動部(不図示)と、本体21のZ方向における移動を案内するレールなどの第1ガイド部(不図示)とを有し、これによって、本体21がZ方向に移動可能とされている。
本体21のZ方向の移動によって、ワークWの軸ぶれを抑制するための好ましい位置に振れ止め機構20を配置することができる。従って、振れ止め機構20による、他の機構(具体的には後述の熱処理機構50や冷却液回収機構60)のZ方向における移動の妨害が防止される。
【0028】
クランプ部22は、ワークWの下面および側面を把持してワークWを落下させないようにする把持部としての機能を有している。
また、クランプ部22は、支持機構10に支持されたワークWに対して進退可能である。具体的には、クランプ部22は、支持機構10に支持されたワークWに接触可能な接触位置P1と、支持状態のワークWとの間に後述のコイル部51(より具体的には、ワークWを内側に配した状態のコイル部51)がZ方向に通過可能な空間を形成する非接触位置P2(ワークWの下方)と、の間を進退(移動)可能である。例えば、クランプ部22は、接触位置P1と非接触位置P2との間で進退(移動)させるシリンダに接続されていてもよい。これによって、クランプ部22による、コイル部51(より具体的には、ワークWを内側に配した状態のコイル部51)のZ方向における移動の妨害が防止される。
【0029】
また、クランプ部22は、把持したワークWを支持機構10の支持位置から任意の位置に移動させることが可能である。具体的には、クランプ部22は、支持機構10がワークWを支持する位置である支持位置と、支持機構10から解放されたワークWの第1の端部Waと第1支持部11との間または第2の端部Wbと第2支持部12との間に隙間を形成する非支持位置との間で、ワークWを移動させることが可能である。
また、前記隙間は、ワークWの第1の端部Waまたは第2の端部Wbからの環状のコイル部51に対する抜き差しを可能にする大きさを有する。加工装置1は、振れ止め機構20が上記のようなクランプ部22を有することによって、環状のコイル部51を抜き差しする作業を効率的に行うことができる。
【0030】
本実施形態の切削機構30は、支持機構10よりも下方に配置された第1切削機構30aと、支持機構10よりも上方に配置された第2切削機構30bとを有する。第1切削機構30aは、ワークWを切削する切削工具311aを支持する刃物台31aを有する。同様に、第2切削機構30bは、ワークWを切削する切削工具311bを支持する刃物台31bを有する。刃物台31a、31bは、ワークWに切削液を供給する切削液供給部(不図示)と、切削液を貯留する切削液タンク(不図示)とを有する。
【0031】
本実施形態では、切削機構30が、支持機構10に支持されたワークWに対して移動する。図1および図2に示されるように、切削機構30は、刃物台31が、支持機構10により支持されたワークWに切削工具311を接触させる接触位置P3(図1の位置)と、ワークWと相対移動する熱処理機構50の少なくともコイル部51(好ましくは、熱処理機構50に加えて、熱処理機構50と追従移動する冷却液回収機構60(後述))が通過可能なようにワークWと切削機構30との間に空間(隙間)を形成する非接触位置P4(図2の位置)との間を移動する。
これにより、加工装置1は、振れ止め機構20に加え、切削機構30もワークWとの接触位置P3と非接触位置P4との間を相対移動させることにより、コイル部51のワークWに対する移動が切削機構30にも妨害されることがないため、切削機構30による切削処理と熱処理機構50による熱処理との間の移行がスムーズになるため、効率的である。また、切削機構30による妨害がないため、コイル部51のワークWに対する移動に係る速度等を均一に制御することができる。従って、加工装置1は、熱処理機構50による誘導加熱を均一化させやすいため、より品質良く熱処理を行うことができる。
【0032】
刃物台31aは、X方向およびZ方向に移動可能である。具体的には、第1切削機構30aは、刃物台31aのX方向およびZ方向における移動を駆動する駆動部(不図示)と、刃物台31aのX方向およびZ方向における移動を案内するレールなどの第2ガイド部(不図示)とを有し、これによって、刃物台31aがX方向およびZ方向に移動可能とされている。同様に、第2切削機構30bは、刃物台31bのX方向およびZ方向における移動を駆動する駆動部(不図示)と、刃物台31bのX方向およびZ方向における移動を案内する第3ガイド部(不図示)とを有し、これによって、刃物台31bがX方向およびZ方向に移動可能とされている。
なお、ワークWの下方に配置される刃物台31aは、前記第2ガイド部に代えて、振れ止め機構20の前記第1ガイド部により案内されてもよい。すなわち、刃物台31aと振れ止め機構20とは、一つのガイド部を共有してもよい。
刃物台31a、31bのZ方向の移動にともない切削工具311a、311bもZ方向に移動し、それによって、ワークWのZ方向の所定位置での切削処理が可能となる。
【0033】
刃物台31a、31bは、切削工具311a、311bの軸周りに(X方向を軸として)切削工具311a、311bを回転させることが可能である。また、刃物台31a、31bは、切削工具311a、311bの回転軸が一方向に沿う第1の状態と、該第1の状態に対して回転軸を任意の方向に傾斜させる第2の状態とをとるように、切削工具311a、311bを回動させてもよい。
【0034】
切削工具311a、311bとしては、切削工具311a、311bを回転させる場合は、例えば、フライスおよびエンドミル、切削工具311a、311bを回転させない場合は、例えば、超鋼のスローアウェイチップを用いることができる。
【0035】
前記切削液供給部は、刃物台31a、31bの移動にともなって、切削工具311a、311bとともに移動し、ワークWの切削面に切削液を供給可能な構成を有する。
【0036】
本実施形態の切削液回収機構40は、ワークWに供給された切削液をろ過処理し、切屑を除去した切削液を前記切削液供給部に供給する循環型である。具体的には、切削液回収機構40は、例えば加工室70の底部に埋設され切屑を含む切削液を受ける受部(不図示)と、前記受部に切削液を誘導する誘導部(不図示)と、切削液の流れ方向に交差するように設けられ該切削液から切屑を分離するフィルタ部(不図示)と、前記フィルタ部を通過した切削液を前記切削液供給部に供給するポンプ(不図示)とを備えている。前記誘導部は、前記受部に向かって下方傾斜する傾斜面や、前記受部に向かって下方傾斜する傾斜溝であってもよい。前記フィルタ部は、前記誘導部の途中に設けられてもよく、前記誘導部と前記受部との間に設けられてもよい。また、前記受部が筒状に形成され、かつ、前記フィルタ部が、前記受部内の切削液の流れ方向に交差するように設けられてもよい。
なお、前記切削液回収機構40は、加工室70を有しない場合は、切削機構30のX方向における下方に配置されている。
【0037】
本実施形態の熱処理機構50は、ワークWの表面を硬化させるための焼き入れを行うものである。熱処理機構50は、支持機構10よりも上方に配されている。
【0038】
熱処理機構50は、ワークWを誘導加熱するコイル部51と、コイル部51に印加される電圧の周波数を調節する高周波電源52と、ワークWに冷却液を供給する冷却液供給部53と、冷却液を貯留する冷却液タンク(不図示)とを有する。本実施形態では、コイル部51および冷却液供給部53が高周波電源52に搭載されている。また、高周波電源52が、ワークWに対して移動可能である。これにより、高周波電源52のワークWに対する移動にともなって、コイル部51および冷却液供給部53がワークWに対して移動可能となっている。
【0039】
コイル部51は、ワークWの表面温度が100℃~1200℃となるように、ワークWを誘導加熱する。
【0040】
コイル部51は、ワークWの側面を囲い得るように形成された環状部511を有する。環状部511は、所定の径を有する円に沿ってらせん状に進行する銅管によって形成されている。言い換えれば、コイル部51は、所定の径を有する環状のターンコイルによって構成されている。これにより、加工装置1は、コイル部51によるワークWの誘導加熱を、ワークWの側面の周縁方向にわって均一化させることができるため、より品質良く熱処理を行うことができる。
【0041】
また、環状部511の内径は、第2支持部12よりも大きく構成されており、コイル部51をZ方向に移動させた際に、環状部511が第2支持部12の側面を囲い得るように構成されている。
【0042】
コイル部51は、ワークWを内側に配した状態でZ方向に移動可能である。すなわち、支持機構10に支持されたワークWとコイル部51とが、相対移動可能である。また、コイル部51は、ワークWが振れ止め機構20のクランプ部22によって前記支持位置と前記非支持位置との間を移動する際には、ワークWを内側に配した状態で、クランプ部22の移動に合わせて移動可能である。言い換えれば、高周波電源52が、クランプ部22の移動に合わせて移動可能である。
【0043】
本実施形態では、上記のように、コイル部51が、高周波電源52に搭載されている。また、コイル部51と高周波電源52とは、コイルリード(不図示)により接続されている。高周波電源52は、例えば、マッチングトランスやカレントトランスである。
また、コイル部51と前記コイルリードとは、切屑による短絡を防止するためのカバー部材(不図示)により覆われていてもよい。
ただし、コイル部51と高周波電源52とを接続するコイルリードが短い方が電力の損失が少ないため、コイル部51は高周波電源52に搭載されることが好ましい。また、切削処理時のコイル部51への切屑や切削液の付着を防止する上でも、コイル部51は高周波電源52に搭載されることが好ましい。
【0044】
また、コイル部51は、ワークWに印加する電圧の周波数を、例えば、0.3kHz~400kHzの範囲とする。これによって、ワークWに高周波誘導加熱を生じさせることができる。周波数は、高周波電源の機種、仕様により設定することができる。
【0045】
高周波電源52は、内部に循環させる冷水を供給するための冷水ケーブル521を有する。
【0046】
高周波電源52は、X方向およびZ方向に移動可能である。具体的には、熱処理機構50は、高周波電源52のX方向およびZ方向における移動を駆動する駆動部(不図示)と、高周波電源52のX方向およびZ方向における移動を案内するレールなどの第4ガイド部(不図示)とを有し、これによって、高周波電源52がX方向およびZ方向に移動可能とされている。また、前記第4ガイド部は、Z方向の一方側から見たときに、熱処理機構50がワークWと重ならない位置にまで熱処理機構50を案内可能に延びている。
なお、ワークWの上方に配置される高周波電源52は、前記第4ガイド部に代えて、第2切削機構30bの前記第3ガイド部により案内されてもよい。すなわち、熱処理機構50と第2切削機構30bとは、一つのガイド部を共有してもよい。
高周波電源52のZ方向の移動にともないコイル部51および冷却液供給部53もZ方向に移動し、それによって、ワークWの長さ方向の所定位置での熱処理が可能となる。また、高周波電源52のX方向の移動にともないコイル部51および冷却液供給部53もX方向に移動し、それによって、Z方向の一方側から見たときに、熱処理機構50をワークWのより上方に退避させることができる。そのため、熱処理機構50による、第2切削機構30bのZ方向における移動の妨害が防止される。
【0047】
冷却液供給部53は、ワークWの誘導加熱後、3.0秒以内に冷却液をワークWに供給可能である。冷却液供給部53は、ワークWに対して冷却液を噴射するノズル531と、ノズル531から分岐した長尺状の分岐配管部532とを有する。
【0048】
ノズル531は、ワークWの所定箇所に対して冷却液を噴射する。例えば、ノズル531は、ノズル531を傾斜させることでX方向に対して所定角度傾斜した方向に冷却液を噴出可能であってもよい。
【0049】
分岐配管部532の末端部(ノズル531の接続端部とは反対側の端部)は、前記冷却液タンクにポンプを介して接続されている。
【0050】
本実施形態の熱処理機構50は、非作動時には、加工室70における隔離室(不図示)に格納されている。具体的には、ワークWが切削処理される熱処理機構50の非作動時には、切削液や切屑の付着の防止のために、熱処理機構50は、前記隔離室に格納される。なお、熱処理機構50は、切削液や切屑の付着を防止する隔離壁によって保護されてもよい。
【0051】
本実施形態の冷却液回収機構60は、支持機構10よりも下方に配置されている。冷却液回収機構60は、ワークWに供給された冷却液を受ける受部61と、受部61の冷却液を回収する回収配管部62とを有する。
【0052】
受部61は、支持機構10に支持されたワークWの下方に配されている。受部61は、上方が開口した容器によって構成されている。
【0053】
受部61は、X方向およびZ方向に移動可能である。具体的には、冷却液回収機構60は、受部61のX方向およびZ方向における移動を駆動する駆動部(不図示)と、受部61のX方向およびZ方向における移動を案内するレールなどの第5ガイド部(不図示)とを有し、これによって、受部61がX方向およびZ方向に移動可能とされている。
なお、受部61は、前記第5ガイド部に代えて、振れ止め機構20の前記第1ガイド部または第1切削機構30aの前記第2ガイド部により案内されてもよい。すなわち、受部61と振れ止め機構20と第1切削機構30aとは、一つのガイド部を共有してもよい。
受部61のZ方向の移動によって、ワークWの長さ方向にわたる冷却液回収機構60の位置合わせが可能となる。
【0054】
また、受部61は、ノズル531(高周波電源52)の移動に合わせて、Z方向に沿って移動可能である。言い換えれば、受部61は、Z方向においてノズル531と並行移動可能である。
【0055】
回収配管部62は、吸引によって冷却液を回収する。回収配管部62は、前記冷却液タンクに接続されている。これによって、冷却液の循環使用が可能となる。
【0056】
ここで、誘導加熱を採用する熱処理機構50は、ワークWの種類に応じた冷却液の組成の変更が要求され得る。冷却液としては、例えば、ポリマー単独、水単独、またはポリマーと水との混合物が挙げられる。特にポリマーを含む冷却液は、再利用の観点や環境面から回収されることが好ましい。これに対して、本実施形態の冷却液回収機構60によれば、冷却液への切削液の混入が抑制されるため、冷却液を再利用し易くなる。また、環境面にも配慮することができる。
【0057】
本実施形態の制御部80は、上記の各機構の移動量、支持機構10および切削工具311の回転数、および切削液や冷却液の供給のタイミングや供給量などを制御する。
【0058】
次に、本実施形態の加工装置1の動作について、ワークWを切削処理した後に熱処理する場合を例示する。なお、加工装置1は、ワークWを熱処理した後に切削処理してもよい。また、加工装置1は、切削処理と熱処理とを同時に行うように構成されてもよい。更に、切削処理および熱処理の回数は適宜変更・設定することができる。
【0059】
(準備段階)
まず、加工装置1は、支持機構10によってワークWを支持する。このとき、振れ止め機構20のクランプ部22もワークWを支持するようにしてもよい。
次に、第1支持部11と第2支持部12とによって、軸周りに回転させた状態のワークWの心出しを行う。
次に、振れ止め機構20のクランプ部22がワークWを支持していない場合は、ワークWの側面を受けるように、振れ止め機構20のクランプ部22をワークWに進行させ、ワークWを支持する。
【0060】
(切削処理段階)
加工装置1は、刃物台31a、31bをワークWの軸方向の所定位置に移動させる。このとき、必要に応じてワークWを軸周りに回転させてもよい。次に、切削工具311をワークWに接触するように進行させるとともに、切削液供給部によりワークWに切削液を供給することによって、ワークWを切削処理する。このとき、必要に応じて切削工具311a、311bを軸周りに回転させてもよい。また、切削液回収機構40と切削液供給部との間で切削液を循環させる。
【0061】
(熱処理への移行段階)
切削処理後、第2支持部12を後退させ、ワークWの第2の端部Wbを解放する。次に、心押し台122をワークWから解放するようにZ方向に移動させることによって、ワークWの第2の端部Wbと第2支持部12との間にコイル部51が通過可能な隙間を形成する。そして、該隙間に誘導するようにコイル部51を移動させ、コイル部51の内側にワークWを配した状態とする。コイル部51の移動後、第2支持部12によりワークWを支持する。また、熱処理機構50および冷却液回収機構60の移動の妨害しない位置に、切削機構30を退避させる。
【0062】
(熱処理段階)
加工装置1は、ワークWの所定位置にコイル部51およびノズル531を移動させ、コイル部51によりワークWを誘導加熱後、所定時間内(例えば3.0秒以内)に、ノズル531によりワークWへ冷却液を供給する。このとき、必要に応じてワークWを軸周りに回転させてもよい。これによって、ワークWの表面を硬化させる。ワークWへの冷却液供給時には、ノズル531と冷却液回収機構60とをZ方向に並行移動させ、受部61によりワークWに供給された冷却液を受ける。また、冷却液回収機構60と冷却液供給部53との間で冷却液を循環させる。なお、熱処理時には、ワークWを軸周りに回転させてもよく、回転させなくてもよい。
【0063】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る加工装置は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る加工装置は、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る加工装置は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、第2支持部12が回転センタ121と心押し台122とを有する態様を示したが、これに限らず、第2支持部12は、第1支持部11と同様、複数の爪部を有するものであってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、熱処理機構50は、熱処理として焼入れを行うものであるが、これに限らず、熱処理機構は、焼きならし、高周波焼き戻し、高周波加熱、高周波焼鈍などを行うものであってもよい。
【0066】
また、冷却液回収機構は、図4に示す態様のものであってもよい。すなわち、図4の冷却液回収機構60は、加工室70の底部に配されかつ上方に開口した受部61と、受部61内の冷却液を回収する回収配管部62と、受部61の上方に設けられ、回収配管部62に接続され、かつ受部61内の冷却液を回収配管部62に誘導する誘導部63を有する。図4の態様では、誘導部63は、回収配管部62が接続された下端部と、ワークWの下方に配される上端部とを有し、前記上端部から前記下端部に向かって傾斜した状態をとるように構成されている。かかる傾斜により、誘導部63は、冷却液が前記上端部から前記下端部に誘導する。
【0067】
また、コイル部51は、図5に示す態様のものであってもよい。すなわち、図5のコイル部51は、ワークWの側面に対向し得る湾曲面部512を有する。言い換えれば、コイル部51は、鞍型コイルによって構成されている。
また、コイル部51は、湾曲面部512とワークWとの距離を任意に調節するようにワークWの周りを移動可能に構成されている。
これにより、環状形状のコイル部と比較して、支持機構10に支持されたワークWに誘導加熱を生じさせる位置にまでコイル部51をワークWに近接させ易くなるため、効率的である。
そして、湾曲面部512を有するコイル部51の場合、支持機構10が支持したワークWを軸周りに回転させるように自転可能であることが好ましい。ワークWが軸周りに自転可能であることによって、湾曲形状のコイル部51であっても、ワークWの側面の周縁方向にわたって誘導加熱を均一化させることができる。
【0068】
また、図5のコイル部51は、湾曲面部512とワークWとの距離を任意に調節するようにワークWの周りを移動可能であってもよい。例えば、図5のごとくZ方向の一方側から見たときに、湾曲面部512は、円弧状に形成されている。また、コイル部51は、上方からワークWへ接近したときに、少なくとも、湾曲面部512における円弧の中心がワークWの中心と重なる位置にまで、移動可能に構成されていてもよい。
【0069】
コイル部は、図6に示す態様のものであってもよい。すなわち、図6のコイル部51は、ワークWの全ての箇所との距離が所定値以下となるようにワークWに接近可能に構成された矩形状の対向面部513を有する。対向面部513は、一平面に沿うように形成されている。かかる対向面部513は、環状部511や湾曲面部512を有するコイル部と比較して、ワークWの角部や凹部等の表面の起伏が大きい箇所に接近し易いため、ワークWの熱処理領域Aをより柔軟に設定することが可能となる。例えば、図6に示されるように、ワークWを軸周りに回転させつつ、コイル部51をX方向に移動させることによって、ワークWの側面にらせん状の熱処理領域Aを形成することができる。
【0070】
さらに、熱処理機構50は、形状の異なるコイル部51を複数有していてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1: 加工装置、10:支持機構、11:第1支持部、111:爪部、12:第2支持部、121:回転センタ、122:心押し台、20:振れ止め機構、21:本体、22:クランプ部、30:切削機構、31:刃物台、311:切削工具、40:切削液回収機構、50:熱処理機構、51:コイル部、511:環状部、512:湾曲面部、513:対向面部、52:高周波電源、521:冷水ケーブル、53:冷却液供給部、531:ノズル、532:分岐配管部、60:冷却液回収機構、61:受部、62:回収配管部、63:誘導部、70:加工室、80:制御部、W:ワーク、Wa:第1の端部、Wb:第2の端部、W1:第1の端部の開口、W2:第2の端部の開口、A:熱処理領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6