(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240614BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
F16H57/04 B
F16H48/08
(21)【出願番号】P 2021211818
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】前田 英明
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152266(JP,A)
【文献】特開2009-97711(JP,A)
【文献】特開2009-127707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から伝達される動力により回転駆動するとともに、少なくとも一部が潤滑オイルに浸漬される差動装置において、
前記動力を出力軸に伝達する差動ギヤ機構と、
前記差動ギヤ機構を収容するギヤ収容部と、
前記
ギヤ収容部の外面から回転軸径方向の外方に向かって延びるように設けられたフランジ部とを備え、
前記ギヤ収容部には、前記ギヤ収容部の内部と外部とを連通するとともに、周方向に沿って配置された複数の開口部が設けられており、
前記フランジ部における前記開口部に隣接する部分に、回転軸径方向に沿って延びるとともに、回転軸線方向に沿って前記開口部側から前記開口部とは反対側に向かって凹むように形成された凹状のオイル溜部が設けられており、
前記ギヤ収容部の内面における前記開口部に隣接する部分に、回転軸線方向に沿って前記開口部側から前記開口部とは反対側に向かって凹むように形成された凹状の凹部、及び前記凹部における周方向の両側、及び回転軸径方向の外側に配置された壁部とを有する飛散防止壁が設けられており、
前記差動ギヤ機構は、前記ギヤ収容部に回転可能に収容されるとともに、前記ギヤ収容部の回転軸線と同軸上に設けられたサイドギヤを含み、
前記飛散防止壁は、前記サイドギヤに対して回転軸径方向外側の位置に配置されて
おり、
前記フランジ部における回転軸線方向の前記開口部側とは反対側の面に保持されるとともに、前記フランジ部と一体的に回転する円環状のリングギヤを備え、
前記フランジ部における回転軸線方向の前記開口部側の面には、周方向に沿って前記リングギヤを締結固定する複数の締結部が設けられており、
前記複数の締結部のうち少なくとも一つは、回転軸中心と前記開口部とを通る直線上に配置されており、
前記オイル溜部が、前記締結部を挟むようにして周方向に沿って1つずつ設けられていること、を特徴とする差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、差動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、自動車の左右の駆動輪間等に設けられる差動装置が開示されている。上記特許文献1に開示された差動装置は、外ケース内に回転ギヤケースが軸受により回転自在に支持され、回転ギヤケースには回転ギヤケースの回転を一対の出力軸に伝える差動ギヤ機構が収容されている。
【0004】
差動ギヤ機構は、回転ギヤケース内に回転軸線と直交するように設けられたピニオン軸と、ピニオン軸に回転自在に取り付けられた差動ピニオンと、出力軸に固定されて差動ピニオンと噛み合う差動サイドギヤとにより構成されている。また、回転ギヤケースの一部は、回転ギヤケース内の差動ギヤ機構を潤滑するためのオイルに漬かっている。
【0005】
回転ギヤケースの周面には複数のオイル導入孔が形成され、オイル導入孔にはオイルをさそい込むオイル掻込部材(ガイド)が設けられている。回転ギヤケースが回転した際に、回転ギヤケースに取り付けられたオイル掻込部材によりオイルが攪拌される。オイル掻込部材の掻込片が所定の方向に傾斜しているため、オイル掻込部材の回転に伴って掻込片の傾斜に沿って外周側からオイル導入孔内にオイルがさそい込まれる。その結果、オイルが回転ギヤケース内に供給されることにより、差動ピニオンや差動サイドギヤが潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示された差動装置では、回転ギヤケースに取り付けられたオイル掻込部材(ガイド)によって、回転ギヤケース内の潤滑不足を解消することが可能である。しかしながら、オイル掻込部材を設けることによって、部品点数の増加、コストアップ、重量の増大、及び組付性の悪化等が想定されるという問題点がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消すべくなされたものであって、潤滑性の向上及び軽量化を図ることが可能な差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、次のように構成されている。
【0010】
(1)本発明による差動装置は、駆動源から伝達される動力により回転駆動するとともに、少なくとも一部が潤滑オイルに浸漬される差動装置において、前記動力を出力軸に伝達する差動ギヤ機構と、前記差動ギヤ機構を収容するギヤ収容部と、前記ギア収容部の外面から回転軸径方向の外方に向かって延びるように設けられたフランジ部とを備え、前記ギヤ収容部には、前記ギヤ収容部の内部と外部とを連通するとともに、周方向に沿って配置された複数の開口部が設けられており、前記フランジ部における前記開口部に隣接する部分に、回転軸径方向に沿って延びるとともに、回転軸線方向に沿って前記開口部側から前記開口部とは反対側に向かって凹むように形成された凹状のオイル溜部が設けられており、前記ギヤ収容部の内面における前記開口部に隣接する部分に、回転軸径方向に沿って延びるとともに、回転軸線方向に沿って前記開口部側から前記開口部とは反対側に向かって凹むように形成された凹状の飛散防止壁が設けられていること、を特徴とする。
【0011】
上記本発明による差動装置によれば、差動装置(ギヤ収容部)が回転駆動する際に、フランジ部に設けられたオイル溜部により潤滑オイルが掬われるとともに、掬われた潤滑オイルを複数の開口部を介してギヤ収容部の内部に誘導(供給)することができる。さらに、ギヤ収容部の内面に設けられた飛散防止壁によりギヤ収容部の内部に供給された潤滑オイルを複数の開口部を介して外部へ逃がし辛くする(流出し難くする)ことが可能であるため、潤滑オイルをギヤ収容部の内部に留めることができる。これらの結果、ギヤ収容部に収容された差動ギヤ機構の潤滑性を向上することができる。
【0012】
また、上記本発明による差動装置によれば、フランジ部に凹状のオイル溜部を直接形成するとともにギヤ収容部に凹状の飛散防止壁を直接形成することによって、部品等を追加することなく潤滑性を向上することが可能であるため、ギヤ収容部及びフランジ部の軽量化を図る(重量を軽減する)ことができる。さらに、上記本発明による差動装置によれば、部品等を追加することなくギヤ収容部及びフランジ部の形状によって潤滑性の向上及び軽量化が実現されるため、コストの増加を抑制できるとともに、組付性を向上することができる。
【0013】
(2)本発明による差動装置において、好ましくは、前記フランジ部における回転軸線方向の前記開口部側の面に保持されるとともに、前記フランジ部と一体的に回転する円環状のリングギヤを備え、前記オイル溜部は、前記リングギヤにより閉塞されていること、を特徴とするとよい。このように構成すれば、オイル溜部とリングギヤとの間に多くの潤滑オイルを貯留することができる。このため、オイル溜部により多くの潤滑オイルを掬うことができる。これにより、多くの潤滑オイルが複数の開口部を介してギヤ収容部の内部に誘導(供給)されるため、ギヤ収容部に収容された差動ギヤ機構の潤滑性をより向上することができる。
【0014】
(3)上記リングギヤを備える差動装置において、好ましくは、前記フランジ部における回転軸線方向の前記開口部側の面には、周方向に沿って前記リングギヤを締結固定する複数の締結部が設けられており、前記複数の締結部のうち少なくとも一つは、回転軸中心と前記開口部とを通る直線上に配置されており、前記オイル溜部が、前記締結部を挟むようにして周方向に沿って一つずつ設けられていること、を特徴とするとよい。このように構成すれば、強度が低下し易い開口部の近傍を締結部において締結することによって、開口部近傍の剛性(強度)を向上することができる。このため、ギヤ収容部の開口部近傍の剛性を締結部により向上させながら、締結部を挟む二つのオイル溜部によってギヤ収容部の内部の潤滑性をより向上することができる。また、ギヤ収容部は内部(室内)の加工及び差動ギヤ機構等の構成部品の組み付けのために開口部(窓部)が必要になるが、一方で開口部は剛性が弱くなるため、二つのオイル溜部間にリングギヤとのボルト等による締結部を設定することにより、ギヤ収容部の剛性を確保する必要がある。また、オイル溜部を二つに分けることによって、差動ギヤ機構を構成するサイドギヤ側及びピニオンギヤ側の各々に貯留された潤滑オイルを供給することができる。このため、潤滑性が向上するため、焼付き対策として効果がある。
【0015】
(4)本発明による差動装置において、好ましくは、前記差動ギヤ機構は、前記ギヤ収容部に回転可能に収容されるとともに、前記ギヤ収容部の回転軸線と同軸上に設けられたサイドギヤを含み、前記サイドギヤ及び前記飛散防止壁は、回転軸径方向に沿って重なる位置に配置されていること、を特徴とするとよい。このように構成すれば、サイドギヤが回転駆動する際に、サイドギヤから回転径方向に向かって飛散する潤滑オイルを飛散防止壁によってギヤ収容部の外部へ流出することをより一層抑制できる。これにより、ギヤ収容部の内部に潤滑オイルをより一層留め易くなるため、ギヤ収容部の内部の潤滑性をより一層向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る態様によれば、潤滑性の向上及び軽量化を図ることが可能な差動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る差動装置の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る差動装置を回転軸線方向から見た図である。
【
図3】
図2におけるA-A線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る差動装置を説明する。これらの図は模式図であって、必ずしも大きさを正確な比率で記したものではない。また、図中、同様の構成部品は、同様の符号を付して示す。
【0019】
図1~
図3を参照して、本実施形態における差動装置100について説明する。
【0020】
差動装置100は、駆動源としてのエンジンから伝達される動力により回転駆動するとともに、エンジンから伝達される動力を変速してドライブシャフト(出力軸)を介して駆動輪に伝達する変速ユニット(トランスアクスル)を構成するものである。
【0021】
差動装置100は、トランスアクスルの外殻をなすユニットケース内に収容されている。差動装置100は、ベアリング(図示省略)を介してユニットケースに回転可能に保持されている。ユニットケース内には、差動装置100の他にトルクコンバータ(図示省略)、及びトランスミッション(図示省略)等が収容されている。また、差動装置100の少なくとも一部は、潤滑オイルに浸漬されている。
【0022】
図1及び
図3に示すように、差動装置100は、デフケース1を備えている。デフケース1は、ギヤ収容部11と、第一ドライブシャフト挿通部12と、第二ドライブシャフト挿通部13と、フランジ部14とを一体的に有している。
【0023】
ギヤ収容部11には、後述する差動ギヤ機構2が収容されている。
【0024】
第一ドライブシャフト挿通部12、及び第二ドライブシャフト挿通部13は、ギヤ収容部11からデフケース1の回転軸線方向の一方側及び他方側にそれぞれ突出する略円筒状に形成されている。第一ドライブシャフト挿通部12、及び第二ドライブシャフト挿通部13の各々には、ドライブシャフト(図示省略)が挿通されている。
【0025】
フランジ部14は、ギヤ収容部11の外面11b(
図3参照)から回転軸径方向の外方に向かって延びるように設けられている。具体的には、フランジ部14は、ギヤ収容部11の外面11bにおける回転軸線方向の他方側(第二ドライブシャフト挿通部13側)に片寄った部分から、デフケース1の回転軸径方向の外方に向かって張り出すように略円環板状に形成されている。
【0026】
図3に示すように、ギヤ収容部11は、内部にギヤ収容空間15を提供する中空状に形成されている。具体的には、ギヤ収容部11は、第一の壁16と、第二の壁17とを有している。
【0027】
第一の壁16は、フランジ部14に対して回転軸線方向の一方側(第一ドライブシャフト挿通部12側)に膨出する略半球状に形成されている。第二の壁17は、フランジ部14に対して回転軸線方向の他方側(第二ドライブシャフト挿通部13側)に膨出する略円錐台形状に形成されている。このように、第一の壁16及び第二の壁17に囲まれる部分には、ギヤ収容空間15が形成されている。ギヤ収容空間15には、差動ギヤ機構2が所定の方向に回転可能に収容されている。
【0028】
差動ギヤ機構2は、動力をドライブシャフト(出力軸)に伝達するものである。差動ギヤ機構2は、主に、ピニオンシャフト21と、二つのピニオンギヤ22と、二つのサイドギヤ23とを備えている。
【0029】
図2に示すように、第一の壁16における回転軸径方向に対向する位置には、それぞれ第一ピニオンシャフト挿通孔16a、及び第二ピニオンシャフト挿通孔16bが形成されている。第一ピニオンシャフト挿通孔16a、及び第二ピニオンシャフト挿通孔16bは、それぞれ第一の壁16を貫通する円形孔として形成されている。第一ピニオンシャフト挿通孔16a、及び第二ピニオンシャフト挿通孔16bには、
図1に示すように、ギヤ収容空間15を貫通するピニオンシャフト21の両端が挿通されて保持される。
【0030】
図3に示すように、ピニオンシャフト21には、二つのピニオンギヤ22が互いに間隔を開けて回転可能に保持されている。また、ギヤ収容空間15内には、二つのサイドギヤ23がピニオンシャフト21における軸径方向の一方側及び他方側に分かれて配置されている。各サイドギヤ23は、ギヤ収容部11の回転軸線と同軸上に設けられているとともに、ピニオンギヤ22と噛合している。
【0031】
ギヤ収容空間15内において、各サイドギヤ23に、各ドライブシャフトが連結されている。各サイドギヤ23とデフケース1(ギヤ収容部11)との間には、スラストワッシャ24が設けられている。スラストワッシャ24は、回転軸線方向に沿って、各サイドギヤ23及びデフケース1(ギヤ収容部11)と接触している。
【0032】
フランジ部14における回転軸線方向の開口部18側(第一ドライブシャフト挿通部12側)の表面14bには、周方向に沿って円環状のリングギヤ3を締結固定する複数の締結部14a(本実施形態では、10箇所)が設けられている。リングギヤ3は、フランジ部14の締結部14aにおいて、ボルト4により締結されている。これにより、リングギヤ3は、フランジ部14の表面14bに保持されるとともに、フランジ部14と一体的に回転する。また、リングギヤ3の外周面31には、ギヤ歯が形成されている。
【0033】
図2に示すように、複数の締結部14aのうち二つの締結部14aは、それぞれ、回転軸中心と開口部18とを通る直線上に配置されている。後述するオイル溜部141は、一つの締結部14aを挟むようにして周方向に沿って、一つずつ設けられている。
【0034】
リングギヤ3及びデフケース1は、トランスミッションから出力される動力がリングギヤ3に入力された際に一体的に回転する。デフケース1の回転は、ギヤ収容空間15に収容されているピニオンギヤ22を介して各サイドギヤ23の回転に変換される。これにより、各サイドギヤ23と一体にドライブシャフトが回転し、左右のドライブシャフトの回転が駆動輪に伝達される。
【0035】
図1に示すように、ギヤ収容部11における第一ピニオンシャフト挿通孔16a、及び第二ピニオンシャフト挿通孔16bの各間には、周方向に沿って開口部18が形成されている。開口部18は、ギヤ収容部11の内部(ギヤ収容空間15)と外部とを連通するように周方向に沿って二つ設けられている。二つの開口部18は、それぞれ、ピニオンシャフト21における軸線方向に対して線対称形状となる位置に配置されている。
【0036】
図1及び
図2に示すように、開口部18は、周縁部18aを有している。周縁部18aは、フランジ部14から離れる側(第一ドライブシャフト挿通部12側)に向かって略半円形状に膨出している。また、周縁部18aにおける一方側及び他方側の端部18bは、後述する第一オイル溜部141a及び第二オイル溜部141bの各々と周方向において接続されている。
【0037】
ここで、本実施形態では、
図1及び
図3に示すように、フランジ部14の表面14bに凹状のオイル溜部141(本実施形態では、四つのオイル溜部141)が設けられている。オイル溜部141は、フランジ部14の表面14bにおける開口部18の回転軸径方向の外側に隣接する部分に設けられている。四つのオイル溜部141のうち二つのオイル溜部141は、ピニオンシャフト21における軸径方向の一方側に配置されており、他の二つのオイル溜部141は、ピニオンシャフト21における軸径方向の他方側に配置されている。
【0038】
図3に示すように、オイル溜部141は、回転軸径方向に沿って延びるとともに、回転軸線方向に沿って開口部18側(第一ドライブシャフト挿通部12側)から開口部18とは反対側(第二ドライブシャフト挿通部13側)に向かって凹むように形成されている。また、オイル溜部141は、リングギヤ3により閉塞されている。
【0039】
オイル溜部141は、凹部142と、壁部143とを有している。凹部142は、回転軸線方向において、フランジ部14の表面14bから開口部18とは反対側(第二ドライブシャフト挿通部13側)に向かって表面の高さが周囲の面よりも低くなっている。壁部143は、凹部142における周方向の両側、及び回転軸径方向の外側に配置されている。
【0040】
図2に示すように、潤滑オイルの油面高さについて、停車時の油面高さをL1とし、走行時の油面高さをL2とした場合に、差動装置100が時計回り方向又は反時計回り方向に回転駆動した際に、リングギヤ3の攪拌により油面高さがL1からL2に下がる。油面高さが下がると、ギヤ収容部11内におけるピニオンギヤ22、サイドギヤ23、及びスラストワッシャ24等(
図3参照)に潤滑オイルが供給され難くなるため、焼き付きが発生する。しかしながら、油面高さが下がった場合でも、オイル溜部141によって潤滑オイルが貯留されるため、ギヤ収容部11が回転駆動した際に、ギヤ収容部11内におけるピニオンギヤ22、サイドギヤ23、及びスラストワッシャ24等に潤滑オイルを供給することが可能となる。その結果、焼き付きの発生を抑制することが可能となる。
【0041】
差動装置100が時計回り方向又は反時計回り方向に回転駆動した場合に、第一オイル溜部141aに溜められた潤滑オイル(図に示す斜線部)が、図中矢印Bで示される方向に流れることによりピニオンギヤ22へ供給される。また、第二オイル溜部141bに溜められた潤滑オイル(図に示す斜線部)が、図中矢印Cで示される方向に流れることによりサイドギヤ23へ供給される。
【0042】
また、本実施形態では、
図1及び
図3に示すように、ギヤ収容部11の内面11aには、凹状の飛散防止壁145(本実施形態では、二つの飛散防止壁145)が設けられている。飛散防止壁145は、ギヤ収容部11の内部から外部へ飛散する潤滑オイルを受け止めて、潤滑オイルをギヤ収容部11の内部へ戻す機能を有している。
【0043】
飛散防止壁145は、ギヤ収容部11の内面11aにおける開口部18の回転軸径方向の内側に隣接する部分に設けられている。飛散防止壁145は、回転軸径方向に沿って延びるとともに、回転軸線方向に沿って開口部18側(第一ドライブシャフト挿通部12側)から開口部18とは反対側(第二ドライブシャフト挿通部13側)に向かって凹むように形成されている。また、飛散防止壁145、及び第二ドライブシャフト挿通部13側に配置されるサイドギヤ23は、回転軸径方向に沿って重なる位置に配置されている。
【0044】
図3に示すように、飛散防止壁145は、凹部146と、壁部147とを有している、凹部146は、回転軸線方向において、ギヤ収容部11の内面11aから開口部18とは反対側(第二ドライブシャフト挿通部13側)に向かって表面の高さが周囲の面よりも低くなっている。壁部147は、それぞれ、凹部146における周方向の両側、及び回転軸径方向の外側に配置されている。
【0045】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果(1)~(4)を得ることができる。
【0046】
(1)上記実施形態による差動装置100では、フランジ部14における開口部18に隣接する部分に、回転軸径方向に沿って延びるとともに、回転軸線方向に沿って開口部18側から開口部18とは反対側に向かって凹むように形成された凹状のオイル溜部141を設けた。さらに、ギヤ収容部11の内面11aにおける開口部18に隣接する部分に、回転軸径方向に沿って延びるとともに、回転軸線方向に沿って開口部18側から開口部18とは反対側に向かって凹むように形成された凹状の飛散防止壁145を設けた。上記実施形態によれば、ギヤ収容部11が回転駆動する際に、フランジ部14に設けられたオイル溜部141により潤滑オイルが掬われるとともに、掬われた潤滑オイルを二つの開口部18を介してギヤ収容部11の内部に誘導(供給)することができる。さらに、ギヤ収容部11の内面11aに設けられた飛散防止壁145によりギヤ収容部11の内部に供給された潤滑オイルを二つの開口部18を介して外部へ逃がし辛くする(流出し難くする)ことが可能であるため、潤滑オイルをギヤ収容部11の内部に留めることができる。これらの結果、ギヤ収容部11に収容された差動ギヤ機構2の潤滑性を向上することができる。
【0047】
また、上記実施形態による差動装置100によれば、フランジ部14に凹状のオイル溜部141を直接形成するとともにギヤ収容部11に凹状の飛散防止壁145を直接形成することによって、部品等を追加することなく潤滑性を向上することができる。このため、ギヤ収容部11及びフランジ部14の軽量化を図る(重量を軽減する)ことができる。さらに、上記実施形態による差動装置100によれば、部品等を追加することなくギヤ収容部11及びフランジ部14の形状によって潤滑性の向上及び軽量化が実現されるため、コストの増加を抑制できるとともに、組付性を向上することができる。
【0048】
また、上記実施形態による差動装置100によれば、オイル溜部141を設けたことによって、潤滑オイルの供給が効率的に行われるため、全体的な潤滑オイルの量を減らすことができる。また、上記実施形態による差動装置100によれば、ギヤ収容部11に対して強制的に潤滑オイルを供給するための装置(強制潤滑)を廃止することができる。
【0049】
(2)上記実施形態による差動装置100では、オイル溜部141をリングギヤ3により閉塞するようにした。これにより、オイル溜部141とリングギヤ3との間に多くの潤滑オイルが貯留されるため、オイル溜部141により多くの潤滑オイルを掬うことができる。このため、より多くの潤滑オイルが二つの開口部18を介してギヤ収容部11の内部に誘導(供給)されるため、ギヤ収容部11に収容された差動ギヤ機構2の潤滑性をより向上することができる。
【0050】
(3)上記実施形態による差動装置100では、二つの第一オイル溜部141a及び第二オイル溜部141bによって一つの締結部14aを周方向に沿って挟むように配置した。これにより、強度が低下し易い開口部18の近傍を締結部14aにおいて締結することによって、開口部18近傍の剛性(強度)を向上することができる。このため、ギヤ収容部11の開口部18近傍の剛性を締結部14aにより向上させながら、締結部14aを挟む二つの第一オイル溜部141a及び第二オイル溜部141bによって、ギヤ収容部11の内部の潤滑性をより向上することができる。また、ギヤ収容部11は内部(室内)の加工及び差動ギヤ機構2等の構成部品の組み付けのために開口部18(窓部)が必要になるが、一方で開口部18は剛性が弱くなるため、二つのオイル溜部141間にリングギヤ3とのボルトによる締結部14aを設定することにより、ギヤ収容部11の剛性を確保する必要がある。また、オイル溜部141を二つに分けることによって、差動ギヤ機構2を構成するサイドギヤ23側及びピニオンギヤ22側の各々に貯留された潤滑オイルを供給することができる。このため、潤滑性が向上するため、焼付き対策として効果がある。
【0051】
(4)上記実施形態による差動装置100では、サイドギヤ23及び飛散防止壁145を回転軸径方向に沿って重なる位置に配置した。これにより、サイドギヤ23が回転駆動する際に、サイドギヤ23から回転径方向に向かって飛散する潤滑オイルを飛散防止壁145によってギヤ収容部11の外部へ流出することをより一層抑制できる。このため、ギヤ収容部11の内部に潤滑オイルをより一層留め易くなるため、ギヤ収容部11の内部の潤滑性をより一層向上することができる。
【0052】
(変形例)
上記実施形態は、以下のように変更した構成とすることもできる。
【0053】
上記実施形態では、締結部を挟むように二つのオイル溜部を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、フランジ部における開口部に隣接する領域全体にオイル溜部を設けるようにしてもよい。
【0054】
上記実施形態では、四つのオイル溜部を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、一つ以上三つ以下、又は五つ以上の数のオイル溜部を設けることも可能である。これによっても、差動装置の潤滑性を向上することが可能である。
【0055】
上記実施形態では、二つの飛散防止壁を設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、一つ又は三つ以上の数の飛散防止壁を設けることも可能である。これによっても、ギヤ収容部の内部から外部に流出する潤滑オイルをギヤ収容部の内部に戻すことが可能である。
【0056】
上記実施形態では、サイドギヤ及び飛散防止壁を回転軸径方向に沿って重なる位置に配置する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、サイドギヤ及び飛散防止壁を回転軸線方向に沿ってずれた位置に配置してもよい。これによっても、潤滑オイルの飛散を抑制することが可能である。
【0057】
上記実施形態は、いずれも本発明の適応の例示であり、特許請求の範囲に記載の範囲内におけるその他いかなる実施形態も、発明の技術的範囲に含まれることは当然のことである。
【符号の説明】
【0058】
2 :差動ギヤ機構
3 :リングギヤ
11 :ギヤ収容部
11a :内面
14 :フランジ部
14a :締結部
141 :オイル溜部
141a :第一オイル溜部
141b :第二オイル溜部
145 :飛散防止壁
18 :開口部
23 :サイドギヤ
100 :差動装置