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特許7504085質量分析計及び質量分析法によってガスを分析する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】質量分析計及び質量分析法によってガスを分析する方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20240614BHJP
   H01J 49/14 20060101ALI20240614BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20240614BHJP
   H01J 49/24 20060101ALI20240614BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20240614BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240614BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20240614BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20240614BHJP
   H01J 49/38 20060101ALI20240614BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240614BHJP
【FI】
H01J49/04 220
H01J49/04 860
H01J49/04 950
H01J49/14 700
H01J49/10
H01J49/24
H01J49/06 700
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/40 100
H01J49/42 150
H01J49/42 250
H01J49/38
G01N27/62 F
G01N27/62 G
G01N27/62 E
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021517800
(86)(22)【出願日】2019-08-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2019071577
(87)【国際公開番号】W WO2020064201
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】102018216623.4
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507102296
【氏名又は名称】ライボルト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leybold GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Str. 498, D-50968 Koeln, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】チャン アンソニー ヒン ユー
(72)【発明者】
【氏名】ベンター トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】アリマン ミヒェル
(72)【発明者】
【氏名】ロイター リュディガー
(72)【発明者】
【氏名】ブラハトホイザー イェシカ
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098113(JP,A)
【文献】特開2000-137025(JP,A)
【文献】特表2002-541629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0108346(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00474741(EP,A1)
【文献】特表平04-506115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
G01N 23/00-23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析法によってガス(2)を分析するための質量分析計(1)であって、
分析されることになる前記ガス(2)を質量分析計(1)の外側の処理区域(4)からイオン化区域(11)の中にパルス式に給送するための制御可能な入口システム(6)と、
分析されることになる前記ガス(2)を前記イオン化区域(11)でイオン化するためのイオン化デバイス(14)と、
イオン化ガス(2a)を前記イオン化区域(11)からイオン移送区域(20)を通じて分析区域(25)の中に移送するためのイオン移送デバイス(21)と、
前記イオン化ガス(2a)を前記分析区域(25)で検出するための分析器(26)と、備え、
前記入口システム(6)は、分析されることになる前記ガス(2)に含有された少なくとも1つの腐食性ガス成分をフィルタリングするためのステンレス鋼で作られた波形ホース形態の管状構成要素(9)を有する、
ことを特徴とする質量分析計(1)。
【請求項2】
前記入口システム(6)は、分析されることになる前記ガス(2)を前記イオン化区域(11)の中に給送するための管状の温度制御可能で交換可能な及び/又は被覆された構成要素(9)を有する、
請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記入口システム(6)は、分析されることになる前記ガス(2)を前記イオン化区域(11)の中にパルス式に給送するための第1のスイッチング状態と搬送ガス(3c)を該イオン化区域(11)の中にパルス式に給送するための第2のスイッチング状態との間で切り換えることができる制御可能なバルブ(7)を有する、
請求項1または2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記イオン化デバイスは、分析されることになる前記ガス(2)を前記イオン化区域(11)でイオン化するためのパルス方式で作動させることができる電子源(14)を有する、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記電子源(14)は、電子ビーム(14a)の出現のための開口部(17)を有するヒートシンク(16)によって取り囲まれる、
請求項4に記載の質量分析計。
【請求項6】
質量分析計(1)が、前記電子源(14)が作動されている時に前記イオン化デバイスの温度制御可能なイオン化空間(13)内で100℃未満の温度を維持するように設計されている、
請求項4又は5に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記電子源(14)は、該電子源(14)のフィラメント(15)の自動式交換のための交換デバイス(18)を有し、又は
前記電子源(14)は、質量分析計(1)に切り離し可能に装着される、
請求項4ないし6のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記イオン化デバイスは、イオン化ガス(33)のイオン(32a)及び/又は準安定粒子(32b)を生成するためのプラズマイオン化デバイス(31)を有する、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記イオン化デバイス(14)は、該イオン化デバイス(14)の前記イオン化区域(11)の中へのCIガス(32)のパルス式又は連続的追加のためのガス給送器(31)を有する、
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記イオン移送デバイス(21)は、前記イオン移送区域(20)が形成されたイオン移送チャンバ(22)を有し、該イオン移送チャンバ(22)は、ダイヤフラム開口(24)を通じて前記イオン化区域(11)に、別のダイヤフラム開口(28)を通じて前記分析区域(25)に接続されている、
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記分析区域(25)に圧力(pA)を生成するための及び前記イオン化区域(11)に圧力(pI)を生成するためのポンプデバイス(30a,b,c)を更に含み、
前記ポンプデバイス(30a,b)は、前記イオン化区域(11)内の前記圧力(pI)を前記分析区域(25)内の前記圧力(pA)とは独立に設定するように設計される、
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記イオン化区域(11)での圧力(pI)が、前記分析区域(25)での圧力(pA)よりも103と106の間の倍率で高い、
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記イオン移送デバイス(21)の前記イオン移送区域(20)では、前記イオン化区域(11)での前記圧力(pI)と前記分析区域(25)での前記圧力(pA)の間にある圧力(pT)が支配的であり、前記ポンプデバイス(30a,b,c)は、該イオン移送区域(20)での該圧力(pT)を該イオン化区域(11)での該圧力(pI)及び該分析区域(25)での該圧力(pA)とは独立に設定するように設計されている、
請求項11に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記イオン化区域(11)から前記イオン移送区域(20)の中への前記イオン化ガス(2a)のパルス式抽出のための制御可能な抽出デバイス(19)を更に備えている、
請求項1ないし13のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項15】
前記制御可能な入口システムと前記抽出デバイス(19)とを該入口システム(6)が閉じている時に該抽出デバイス(19)が前記イオン化区域(11)からいずれのイオン化ガス(2a)も抽出しないように同期して作動させるためのコントローラ(8)を更に備えている、
請求項14に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記ガス(2)の質量分析計分析に関して、前記分析器(26)は、開いた入口システム(6)を用いて少なくとも1つの測定時間間隔(M1)内で記録された質量スペクトル(MS1)を閉じた入口システム(6)を用いて少なくとも1つの測定時間間隔(M2)内で記録された質量スペクトル(MS2)と比較するように設計されている、
請求項15に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記分析器(26)は、前記イオン化ガス(2a)の連続的分析に関して設計され、
前記コントローラ(8)は、前記イオン化区域(11)からの前記イオン化ガス(2a)の前記抽出のために、開いた入口システム(6)を用いるそれぞれの測定時間間隔(M1)の持続時間(ΔtM1)全体を通して前記抽出デバイス(19)を作動させる、
請求項15又は16に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記分析器(26)は、信号チャネル(K1)と背景チャネル(K2)の間で切換可能であるように設計され、前記ガス(2)の前記分析に関して、該信号チャネル(K1)のいくつかの測定時間間隔(M1)から得られる質量スペクトル(MS1)を形成して該背景チャネル(K2)のいくつかの測定時間間隔(M2)から得られる質量スペクトル(MS2)を形成するように、かつ該信号チャネル(K1)及び該背景チャネル(K2)の該2つの質量スペクトル(MS1,MS2)を質量分光分析に関して互いに比較するように設計されている、
請求項17に記載の質量分析計。
【請求項19】
前記分析器(26)は、前記イオン化ガス(2a)のパルス式分析に関して設計され、
前記コントローラ(8)は、前記イオン化区域(11)からの前記イオン化ガス(2a)の前記抽出のために、開いた入口システム(6)を用いる測定時間間隔(M1)中に複数の部分間隔(T1)内で前記抽出デバイス(19)を作動させるように設計される、
請求項15又は16に記載の質量分析計。
【請求項20】
前記分析器(26)は、開いた入口システム(6)を用いる測定時間間隔(M1)内の複数の部分間隔(T1,T2)から得られる質量スペクトル(MS1)と該測定時間間隔(M1)に先行する又はそれに続く閉じた入口システムを用いる測定時間間隔(M2)の複数の部分間隔(T)から得られる質量スペクトル(MS2)とを形成し、かつ該2つの得られる質量スペクトル(MS1,MS2)を質量分析計分析に関して互いに比較するように設計されている、
請求項19に記載の質量分析計。
【請求項21】
前記イオン化区域(11)から前記イオン移送区域(20)の中への前記イオン化ガス(2a)のパルス式抽出のための制御可能な抽出デバイス(19)を更に備え、
前記抽出デバイス(19)は、前記ダイヤフラム開口(24)に向う方向に前記イオン化ガス(2a)を加速かつ集束させるための電極配置(23a-c)を有している、
請求項10に記載の質量分析計。
【請求項22】
前記分析器(26)は、四重極分析器、三連四重極分析器、直交加速型TOF分析器、走査型四重極イオントラップ分析器、及びフーリエ変換イオントラップ分析器を含む群から選択され、
請求項1ないし21のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項23】
質量分析計(1)、請求項1ないし22のいずれか1項に記載の質量分析計(1)を用いる分析されることになるガス(2)の質量分光分析のための方法であって、
分析されることになる前記ガス(2)を前記質量分析計(1)の外側の処理区域(4)から入口システム(6)を通じてイオン化区域(11)の中にパルス式に給送する段階と
分析されることになる前記ガス(2)を前記イオン化区域(11)内でイオン化する段階と、
抽出デバイス(19)を用いる前記イオン化区域(11)からイオン移送区域(20)の中への前記イオン化ガス(2a)のパルス式の抽出と、
前記イオン移送区域(20)から分析区域(25)の中への前記イオン化ガス(2a)の移送と、
前記分析区域(25)内での前記イオン化ガス(2a)の質量分析法によるその分析のための検出と、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項24】
前記入口システム(6)が閉じている時に前記抽出デバイス(19)が前記イオン化区域(11)からいずれのイオン化ガス(2a)も抽出しないような該入口システム(6)のかつ該抽出デバイス(19)の作動、を更に含む、
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
分析されることになる前記ガス(2)の前記質量分光分析に関して、開いた入口システム(6)を用いて少なくとも1つの測定時間間隔(M1)内で記録された少なくとも1つの質量スペクトル(MS1)が、閉じた入口システム(6)を用いて少なくとも1つの測定時間間隔(M2)内で記録された少なくとも1つの質量スペクトル(MS2)と比較される、
請求項23又は24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願への参照〕
この出願は、引用を通してこの出願の内容にその開示全体がなっている日付27.09.2018の独国特許出願DE 10 2018 216 623.4の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、質量分析法によってガスを分析するための質量分析計に関する。本発明はまた、質量分析計を用いた特に上述の質量分析計を用いたガスの質量分光分析のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体のエッチング(ドライエッチ)は、重度に腐食性のガスが使用される化学的に複雑な手順である。これらの処理を最適化することができるように、エッチング処理を観察するための及び従って起こっている反応に関する結論を引き出すことができる分析の方法、特にリアルタイム方法が求められている。更に、それぞれ進行中の処理を標準処理からのドリフト又は偏差に関して検査することが有利である。エッチング処理の終点に到達した時をエッチングされた材料の変化及び従って反応生成物の変化を通して識別することも非常に有益である。同様の疑問は、コーティング処理の場合にも生じる。
【0004】
WO 2013/104583 A2から基板の表面処理(コーティング又はエッチング処理)のための置が公知になってきており、この装置は、イオントラップと、並びに基板の表面処理のためのチャンバに配置された残留ガス雰囲気のガス成分をイオン化するためのイオン化デバイスとを備えた処理ガス分析器を有する。処理ガス分析器は、検出されることになるガス成分をパルス式に給送するための制御可能入口を有することができる。イオン化デバイスは、制御可能入口の上流に位置している。イオン化されたガス成分は、例えばイオンレンズの形態での潜在的に真空管との組合せでの給送デバイスを通じて処理ガス分析器又はイオントラップまで給送することができる。
【0005】
処理化学では、製品の製造で又は品質管理の行程で測定しなければならない苛性の高腐食性ガスが同じく使用される又は生成されることが多い。WO 2013/104583 A2に説明されているようなパルス式入口を有する質量分析計は、長い使用寿命と高感度が同時に要求されるそのような腐食性ガス混合物の分析に有利である。パルス式ガス入口は、パルス方式及び連続的の両方で作動される異なるタイプの分析器/検出器又は質量分析計、例えば、四重極質量分析計、三連四重極質量分析計、飛行時間形(TOF)質量分析計、走査型イオントラップ質量分析計、並びにFT(フーリエ変換)質量分析計、特に、線形イオントラップ(線形イオントラップ、LIT)、3D四重極イオントラップ(四重極イオントラップ、QIT)、及びOrbitrap等々のようなFT-IT(イオントラップ)質量分析計と組み合わせることができる。
【0006】
腐食性ガスの分析では、処理から分析器へのガス流れは、イオン化されたガスが検出される分析器への損傷を最小にするために可能な限り低くしなければならない。
【0007】
これに反することに、分析器の検出限界を超えるためには最小数の検体イオンが必要であり、これは逆に中性ガス成分から生成されるので、良好な感度を達成するために可能な限り多くのガスを分析器の中にもたらしたいという要件である。
【0008】
分析器の腐食を回避するために、分析器の区域での又は分析区域での圧力を可能な限り低く保つ試みが為される。これは、少量のガスが許容期間内に分析器のいずれの有意な劣化も引き起こすことができないほど大幅に質量分析計の中へのガス流れを低減することによって通例は達成される。この目的のために、イオン化区域でのイオン化と分析区域での検出は、空間的に分離することができ、イオン化は、より高い圧力でイオン化区域で行われ、検出のためのイオンは、より低い圧力が支配する分析区域の中に移送される。
【0009】
分析されることになるガスが分析器内で又は分析区域で直接にイオン化されるのでイオン化区域と分析区域の間に空間的な分離がない場合でも、処理圧力と比べて圧力を下げることは、特に処理圧力が比較的高い場合に意味がある。ここでの処理圧力は、分析されることになるガスを閉じ込めてかつ質量分析計の外側に位置付けられた受け入れ容器内又は処理区域内の圧力を意味する。
【0010】
WO 2014/118122 A2からは、調査されることになるガス混合物を検出器内で、例えば、ガス混合物とイオン化デバイス、例えばプラズマイオン化デバイスによって生成されたイオン化ガスのイオン及び/又は準安定粒子とがそこに給送されるイオントラップ内で直接にイオン化するという慣例が公知である。
【0011】
WO 2015/003819 A1は、ガス混合物の質量分析調査のためのイオントラップとイオントラップ内で調査されることになるガスをイオン化するように設計されたイオン化デバイスとを有する質量分析計を同じく説明している。質量分析計は、調査されることになるガス混合物をイオントラップにパルス式に給送するための制御可能入口を有することができる。質量分析計はまた、調査されることになるガス混合物のガス圧力をそれがイオントラップまで給送される前に低減するために直列に接続することができる少なくとも1つの例えば2、3、又は4以上のモジュール式圧力段を有する圧力低減ユニットを有することができる。
【0012】
調査されることになるガスを処理圧力で吸入するための入口開口部を有する真空ハウジングと作動圧力での質量分析法によるガスの分析のための分析チャンバとを有する圧力低減デバイスは、DE 10 2014 226 038 A1から公知になっている。真空ハウジングは、モジュール方式で互いに接続することができる圧力低減空間を有する複数の真空構成要素を有する。調査されることになるガスを分析チャンバの中にパルス式に給送するための変調器は、入口開口部の区域に配置することができる。調査されることになるガスのイオン化のために、イオン化デバイスは、分析チャンバに配置することができ、及び/又は分析チャンバに配置された分析器に接続することができる。
【0013】
調査されることになるガスのイオン化が分析器内で行われる上記で更に説明した質量分析計の場合に、イオン化中に短時間だけ圧力が高くなるように圧力の急激な変化が起こると有利であり、これは、例えば、調査されることになるガスが分析器の中にそれを通じて給送される高速スイッチング制御可能バルブの使用によって達成することができる。
【0014】
この場合に、ガスは、バルブを開閉することによって制御方式で吸気することができる。
【0015】
例えば、四重極質量分析計、三連四重極質量分析計、及び飛行時間(TOF)質量分析計、例えば、直交加速(oa)TOF質量分析計等々のような高速測定時間を有する多くの他の超高感度質量分析計は、ガスの連続吸入を用いて作動する時にのみ最大効率で機能する。勿論、最近の質量分析計を腐食性ガス環境下でも利用する試みが行われてきたが、それらのイオン源は、腐食性ガスによって非常に急速に損傷して使用不能にされることが示されている。
【0016】
WO 2016/096457 A1は、イオン化されることになるガスの処理のためのチャンバがイオン化されることになるガスのための1次入口と2次入口の間に配置されるイオン化デバイスを有する質量分析計を説明している。イオン化されることになるガスの圧力低減は、このチャンバ内で行うことができる。この目的のために、チャンバは、差動的に又はバルブを通じて(パルス方式で)ポンピングすることができる。イオン化されることになるガスをイオン化デバイスへの供給に適する組成に変換するために、異種ガス抑制、粒子濾過、及び/又は粒子処理をチャンバ内で実施することもできる。チャンバから続く2次入口で環境から入るガスの温度が最大作動温度を超えないように、熱分離をチャンバ内で行うこともできる。熱分離は、断熱、受動冷却、能動冷却などを用いて達成することができる。
【0017】
要約すると、ガスのパルス式吸入を有する従来の質量分析計は、腐食性ガスに対する長い使用寿命を示すが、単に中程度の速度(約10Hzの反復速度)及び感度(ppbV(体積比10億分の1)の程度の)を有する。ガスの連続吸気を有する従来の質量分析計は、一般的に高い速度(10kHzまでの反復速度)及び感度(<pptVの程度の)を有するが、腐食性環境での使用寿命が短い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】WO 2013/104583 A2
【文献】WO 2014/118122 A2
【文献】WO 2015/003819 A1
【文献】DE 10 2014 226 038 A1
【文献】WO 2016/096457 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明のタスクは、一方で高い感度を可能にし、他方で腐食性環境での長い使用寿命を可能にする質量分析計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この問題は、分析されることになるガスを質量分析計の外側の処理区域からイオン化区域の中にパルス式に給送するための制御可能入口システムと、分析されることになるガスをイオン化区域内でイオン化するためのイオン化デバイスと、イオン化されたガスをイオン化区域からイオン移送区域を通じて分析区域の中に移送するためのイオン移送デバイスと、イオン化されたガスを分析区域内で検出するための(並びにイオン化されたガスを質量分析法によって分析するための)分析器とを含む質量分析計によって解決される。
【0021】
本発明による質量分析計の場合に、パルス式サンプリングが実施され、すなわち、分析されることになるガスは、質量分析計の外側の処理区域からパルス方式で抽出される。
【0022】
処理区域は、例えば、エッチング処理、コーティング処理、処理チャンバの清浄化などが実施される処理チャンバの内部空間に位置付けることができる。
【0023】
分析されることになるガスのための制御可能入口システム、それに続くイオン移送、及び分析器でのガスの検出又は分析は、典型的に同期してかつ周期的に実施される。制御可能入口システム、分析器、及び抽出デバイス(下記参照)の同期に関して、質量分析計は、質量分析計の周期的作動を可能にするコントローラを一般的に有する。入口システムは、それぞれのイオン化及び分析方法に適応される。入口システム、イオン化方法、及び分析方法は、すなわち、全体的な質量分析計システムになる。
【0024】
制御可能入口システムは、入口システムを少なくとも2つの状態(開/閉)の間で切り換えることができることを意味するように取られる。この目的のために、入口システムは、例えば、高速スイッチング制御可能バルブを有することができる。特に、バルブは、例えば、約10μsから>1sの持続時間にわたって開又は閉状態を取るように設計することができる。特に、バルブの開放の持続時間を設定する可能性は、処理に関連するデータ又は測定値が予想されることになる時にガスが質量分析計の中に入ることを許す機会を提供する。例えばエッチング処理の終了が識別されることになる場合に、どの時点でエッチング処理の終点が到達されることになるかは、既に事前にほぼ既知である。この理由のために、終点の識別のためのエッチング処理を観察は、制御可能バルブが開いている僅かな時間窓でのみ必要である。
【0025】
このようにして、質量分析計の中に吸気される腐食性ガスの量は、大幅に低減することができ、分析区域内の中への腐食性ガスのガス流れは、最小まで低減することができる。
【0026】
使用される分析器に依存して、このようにして、イオンタイプの信号、又はいくつかのイオンタイプの信号を有する全体スペクトルは記録することができる。サンプリング速度又は周期持続時間は既知であるので、有用な信号は、ガスの高感度検出又は分析を達成することができるように、例えばロック-イン又は多チャネル単一-イオン計数のような技術によって顕著に増幅することができる。イオン化区域の中へのパルス式給送を通して、質量分析計は、以下でより詳細に説明するように、特に腐食性ガス成分を有するガスの分析にも有利に使用することができる。
【0027】
一実施形態の場合に、制御可能入口システムは、分析されることになるガスをイオン化区域の中に給送するための管状で好ましくは温度制御可能で交換可能な及び/又は被覆された構成要素を有する。分析されることになるガスが管状で特にホース形状の構成要素を通じてイオン化区域の中に給送される場合に有益であることが判明している。質量分析計の他の構成要素とは対照的に、そのような構成要素は、通例は迅速かつ経済的に取り替えることができる。この目的のために、管状構成要素は、典型的に質量分析計のイオン化デバイスに切り離し可能方式で接続される。必要に応じて、管状構成要素と共に、管状構成要素に装着された制御可能バルブも交換することができる。例えば、例えばペルチェ素子の形態の加熱及び/又は冷却デバイスを用いて、管状構成要素を能動的に温度制御することができる場合に有益であることが同じく判明している。このようにして、モニタされることになる処理に又はモニタされる処理に又は検体に依存して、入口システム内で分析されることになるガスの又は分析されるガス成分の凝縮又は分解を低減する又は誘導するために処理区域に適切な温度を確立することができる。
【0028】
同じことは、管状構成要素の内面上のコーティングの具備に適用され、コーティングは、各場合にモニタされる処理に又は分析されることになるガス又はガス成分に依存する材料で形成される。ここで、コーティングの材料は、分析されることになるガス又は対応するガス成分の中性分子又は原子が管状構成要素の内側の面との化学反応に入ることなく可能な限り妨げられずにイオン化区域に入ることができるように選択される。しかし、これに代えて、管状構成要素の内側の面又はコーティングを反応が意図的に誘導されるように設計することも同じく可能である。
【0029】
更に別の実施形態の場合に、制御可能入口システムは、分析されることになるガスに含有される少なくとも1つの腐食性ガス成分をフィルタリングするために、特に(少なくとも)1つの腐食性ガスをフィルタリングするためにフィルタデバイス、好ましくは、特にステンレス鋼波形ホースの形態の管状構成要素を有する。エッチング処理の形態のモニタされることになる処理の場合に、実際の腐食性ガスの量を決定することは、通例はこれが既知の濃度にあるエッチング処理に意図的に供給されるので絶対に必要という訳ではない。従って、実際の腐食性ガスの質量分析計の中への侵入を防止する又は低減することが望ましい。この目的のために、例えば、適切なフィルタ材料(吸収体)の形態の(受動)フィルタを使用することができ、その上に腐食性ガスが吸収され、及び/又はそれが腐食性ガスと反応し、そのためにそれは変換されてその腐食効果を失う。分析されることになるガスが液体の流れとの接触にもたらされる洗浄器の形態の能動フィルタを使用することも可能である。
【0030】
腐食性ガスは、基板などをエッチングするためのエッチング処理に使用されるだけでなく、別の目的に対しても、例えば、処理区域が形成される処理チャンバの清浄化に対しても使用することもできる。
【0031】
フィルタ作用は、制御可能入口の供給導管がステンレス鋼波形ホースで形成される場合に事前に達成することができる。典型的に質量分析計内の多くの構成要素がステンレス鋼から構成されるので、供給導管内の又はステンレス鋼製波形ホース上のステンレス鋼は、腐食性ガスが質量分析計の他の構成要素と接触する前に腐食性ガスと反応する犠牲材料として機能することができる。質量分析計内の他の構成要素とは対照的に、ステンレス鋼波形ホースは、迅速かつ経済的とすることができる。ステンレス鋼波形ホースはまた、少しのガスがより広い面と反応することができるように大きい表面対体積比を有する。
【0032】
一実施形態の場合に、入口システムは、制御可能構成要素、特に制御可能バルブを有し、これは、好ましくは、分析されることになるガスをイオン化区域の中にパルス式に給送するための第1のスイッチング状態と、搬送ガスをイオン化区域の中にパルス式に給送するための第2のスイッチング状態との間で切り換えることができる。入口システムは、原理的にあらゆる数の構成要素から構成することができる。例えばバルブとして設計することができる切換可能構成要素の他に、入口システムは、典型的には、受け入れ容器から切換可能構成要素までの給送導管、並びに切換可能構成要素からイオン化区域まで分析されることになるガスを給送するための更に別の給送導管を有する。切換可能構成要素はまた、バルブに代えて、連続分子ビームからの分子パケットの形態のガスパルスを生成する例えばチョッパーの形態の変調器とすることができる。
【0033】
好ましくは、制御可能バルブは、分析されることになるガスをイオン化区域の中にパルス式に給送するための第1のスイッチング状態と、搬送ガスをイオン化区域の中にパルス式に給送するための第2のスイッチング状態との間で切り換えることができる三方バルブとして設計される。この場合には、(迅速に)切換可能なバルブは三方バルブである。この場合には、入口システムは、第2のスイッチング状態にある切換可能なバルブに搬送ガスを供給するための追加の供給導管を有する。搬送ガスは、典型的には、分析されることになるガスのパルス休止時に、すなわち、分析されることになるガスがイオン化区域に供給されない時はいつでもイオン化区域に供給される。このようにして、使用されるイオン化デバイスの作動点を一定に保つことができる。更に、搬送ガスは、イオン化区域又はイオン化チャンバ内に正の洗浄効果を生成する。搬送ガスとして、例えば、不活性ガスを使用することができる。
【0034】
イオン化デバイスは、検体、すなわち、イオン化されることになるガスをイオン化するためのイオン化チャンバと、1次電荷発生器とを基本的に含む。1次電荷発生器は、例えば、電子を生成する電子源又はフィラメント、VUV放射線源、イオン並びに電気的に励起された準安定粒子を生成するためのUVレーザ源又はプラズマ発生器とすることができる。1次電荷発生器は、イオン化チャンバに直接に結合され、すなわち、検体に直接に作用することができ、又は例えば少なくとも1つの圧力段を通じてイオン化チャンバに間接的に接続することができる。圧力段が存在する場合に、1次電荷発生器が発生させるもの(UVA/UV放射線、電子、イオン、電気的に励起された粒子又は準安定粒子)を反応イオン(例えば、H3 +)に変換するために、反応ガス(例えば、H2)を追加することができる。
【0035】
これらの反応イオンは、化学イオン化を通じて検体イオン(例えば、[M+H]+)をそこで生成するためにイオン化チャンバに給送される。
【0036】
一実施形態の場合に、イオン化デバイスは、イオン化区域で分析されることになるガスをイオン化するための電子源、特に、パルス方式で作動させることができるものを有する。電子源は、典型的には、リチャードソン効果によって電子又は電子ビームを生成するために、例えば2000℃までの高温まで加熱されるフィラメント(グローワイヤ)を有する。電子源は、例えば、それぞれのガスパルスを最適にサンプリングし、すなわち、入口システム及び抽出デバイス(下記参照)と同期して電子ビームを生成し、かつ電子ビームによるイオン化区域又は質量分析計への不要な負荷を最小にするために偏向ユニットの支援によってパルス方式で作動させることができる。
【0037】
更に別の改良の場合では、電子源は、電子ビーム又は電子の出現のための開口部を有するヒートシンクによって取り囲まれる。フィラメントの高温は、イオン化されることになるガスの成分の不要な熱分解に至る可能性があり、これは、ヒートシンクによって低減することができる。ヒートシンクは、フィラメントの近傍から熱を除去するために高い熱伝導係数を有する材料、例えば、銅、真鍮、アルミニウム、又はステンレス鋼のような金属又は金属合金によって形成することができる。理想的には、ヒートシンクは、高エネルギ電子が開口部を通ってのみイオン化区域に到達することができるように、イオン化区域に対するシールドの方式でフィラメントを取り囲む。ヒートシンクは、例えば、例えば金属、金属酸化物、金属窒化物などの追加層の適用を通して、耐腐食性を高めるために表面処理することができる。
【0038】
別の更なる改良では、質量分析計は、電子源が作動している時に、イオン化デバイスの温度制御可能なイオン化空間の温度を100℃未満に維持するように設計される。フィラメントの温度が高いために、電子源は電子だけでなく熱放射も生成し、上述の熱分解の問題をもたらす可能性がある。従って、熱放射をイオン化チャンバから遠ざけて、可能な限り、電子源の作動に影響されることのない定められた温度又は定められた温度範囲を設定することができるようにしなければならない。これは、例えば、上述のシールドによって達成することができる。これに加えて又はこれに代えて、電子源又はフィラメントは、イオン化チャンバから、より正確には温度制御可能なイオン化空間から可能な限り離れて位置付けることができる。加熱作用を低減するために、電子源の放出電流を比較的小さく設定することができ、例えば、約1mAよりも大きくない。温度制御可能イオン化空間は、イオン化チャンバ又はイオン化区域内に配置された容器とすることができる。これに代えて、必要に応じて、イオン化チャンバ全体で温度制御可能イオン化空間を形成することができる。イオン化空間の温度制御に関して、質量分析計は、例えば、イオン化空間での所与の温度又は所与の温度範囲を維持するために複合型の加熱/冷却デバイスを有することができる。
【0039】
別の更なる改良の場合では、電子源は、特に電子源のフィラメントを自動交換するために交換デバイスを有するか、又は電子源が質量分析計に切り離し可能方式で取り付けられる。作動圧力が高い場合に、フィラメントは、一般的に焼損しやすい。その理由から、交換デバイスを利用してフィラメントを交換することができれば有利である。
【0040】
この目的のために、交換デバイスは、フィラメントを交換する時にイオン化区域内の圧力が上昇することを防ぐためにロックシステムを有することができる。例えば、この目的のために、フィラメントの交換時に、ヒートシンク又はシールド内の開口部を閉じることができる。このようにして、分析区域内の圧力を維持することができ、すなわち、フィラメントを交換する時に分析区域の真空が破られることはない。これに代えて、フィラメントが焼損した場合に、電子源全体を交換することができる。
【0041】
更に別の実施形態の場合に、イオン化デバイスは、イオン及び/又はイオン化ガスの準安定粒子を生成するためのプラズマ発生器を有する。プラズマ発生器は、冒頭で引用し、かつ引用によりその全体がこの出願の内容にされるWO 2014/118122 A2に説明されているように設計することができる。更に、グロー放電(DCプラズマ)の生成のために、電界発生器をイオン化区域内に配置することができるので、イオン化区域は、冒頭で引用し、かつ同じく引用によりその全体がこの出願の内容にされるWO 2016/096457 A1に説明されているように2次プラズマ区域を形成する。イオン化ガスのイオン及び/又は準安定粒子を通して、分析されることになるガスの化学イオン化は、例えば、衝撃イオン化及び/又は電荷交換によるイオン化によって行うことができる。プラズマ発生器は、イオン化ガスをプラズマイオン化デバイスに及び従ってイオン化ガスのイオン及び/又は準安定粒子をイオン化区域に給送するように機能する制御可能なガス入口を有することができる。制御可能なガス入口は、電子源の場合と同じくコントローラの支援によってパルス式入口システム及び抽出デバイス(下記参照)と同期させることができる。
【0042】
プラズマ発生器は、分析されることになるガスを導入してイオン化するイオン化チャンバに直接に結合することができる。上述のように、イオン及び/又はイオン化ガスの準安定粒子を反応イオンに変換し、この反応イオンをイオン化チャンバに移送し、化学イオン化によって検体イオンを生成するために、反応ガスがそこに追加される反応空間(圧力段)をプラズマ発生器とイオン化チャンバの間に形成することができる。
【0043】
更に別の実施形態の場合に、イオン化デバイスは、イオン化デバイスのイオン化区域内にCIガス(CI=化学イオン化)を連続的に又はパルス式に供給するためのガス入口を有する。この供給は、独立に又は入口システムと同期してコントローラによって制御されて行うことができる。CIガスは、ターゲット式化学イオン化に使用することができる。この場合に、検体イオン化は、電子ビームを通して直接に実施されるのではなく、最初にCIガスが電子ビームによってイオン化され、次にCIガスから検体に電荷が移される。従って、CIガスを巧みに選択することにより、反応断面積が小さいか又は存在しない母体成分又は検体分子のイオン化をターゲット方式で抑制又は排除すること(閾値分光法)が可能であり、この場合の閾値は選択したCIガスに依存する。例えば、アルゴン又は窒素のような高いイオン化エネルギを有する母体ガスが使用される場合に、電荷移動に適する適切なCIガスを選択することにより、大量の母体イオンの形成を抑制し、及び従って特にFTイオントラップを使用する場合にトラップの過充填を防ぐことができる。プロトン化のための反応イオンを生成する反応ガスを使用する場合も状況は類似し、ここでは母体分子と検体分子とのプロトン親和力が決定的になる。
【0044】
CIガスとして、例えば、アルゴン、メタン、イソブタン、又はアンモニアを使用することができる。
【0045】
更に別の実施形態の場合に、イオン移送デバイスは、イオン移送区域が形成されたイオン移送チャンバを有し、イオン移送チャンバは、ダイヤフラム開口を通じてイオン化区域に及び好ましくは更に別のダイヤフラム開口を通じて分析区域に接続される。最も簡単な場合では(例えば、残留ガス分析器の場合)、イオン移送デバイスはダイヤフラムである。より複雑な実施形態では、イオン移送デバイスは、例えば、イオンファネル、ダイヤフラム、イオン冷却のための第1の多重極、別のダイヤフラム、濾過機能を含む冷却のためのかつ搬送のための第2の多重極、更に別のダイヤフラム、イオンを誘導するための第2の多重極、並びに分析器の中に結合するためのイオンレンズを有することができるイオン移送チャンバを有する。これらの圧力段は、全てが各場合にダイヤフラムによって分離され、イオンの割合に比べて中性ガスの割合を低減するために差動的にポンピングすることができる。このようにして、すなわち、イオン移送チャンバの差動的ポンピングにより、分析区域の圧力とイオン化区域の圧力の間に圧力差を生成することができ、この差は106を超える程度である。個々の圧力段を互いに分離するダイヤフラム開口は、任意に小さくすることができず、それは、そうでなければ十分な量のイオンがダイヤフラム開口を通過することができず、又はそうでなければイオンを非常に強く集束させる必要が生じてイオンがイオン移送チャンバから出てきた後に欠点が判明することになると考えられるからである。
【0046】
更に別の実施形態の場合に、質量分析計は、分析区域内に圧力を生成するための及びイオン化区域内に圧力を生成するためのポンプデバイスを有し、ポンプデバイスは、分析区域の圧力とは独立にイオン化区域の圧力を設定するように設計されることが好ましい。
【0047】
イオン化は、高い測定感度を得るために可能な限り高い圧力で実施されるべきであるのに対して、分析区域では低い圧力が好ましい。イオン化区域での最適なガス圧力は、モニタされることになる処理、例えば、検体の濃度、並びにそれぞれの検体イオン化効率に依存するので、イオン化区域の圧力を(独立に)設定することが有利である。
【0048】
ポンプデバイスは、分析区域をポンピングするための第1の(真空)ポンプと、イオン化区域をポンピングするための第2の(真空)ポンプとを有し、イオン化区域の圧力を分析区域の圧力とは独立に設定することができるようになっている。これに代えて、ポンプデバイスは、いわゆる分流ポンプ、すなわち、分析区域とイオン化区域に2つの異なるガス圧力を生成するために2又は3以上の出口を有するポンプを有することができる。2つの区域での有効なポンプ出力又は圧力は、例えば、ポンプ(ポンプ出力)の選択を通して又は形状の調節を通して設定することができる。静的な観点では、これは、ポンプ断面(真空チャンバとポンプの接続部の直径)を調節することによって達成することができる。動的調節は、例えば、制御バルブの使用又は異なるコンダクタンスのバルブの並列スイッチングを通して可能である。
【0049】
更に別の実施形態の場合に、イオン化区域の圧力は、分析区域の圧力よりも高い。好ましくは、イオン化区域の圧力は、分析区域の圧力よりも103~106の倍率で高い。上述のように、高い測定感度を得るために、可能な限り高い圧力でイオン化を行うことが有利である。イオン化区域の圧力は、例えば、1mbarの程度又はそれを超えることができるのに対して、分析区域の圧力は、例えば、約10-6mbarの程度又はそれ未満とすることができる。
【0050】
更に別の実施形態の場合に、イオン移送デバイスのイオン移送区域では、イオン化区域の圧力と分析区域の圧力との間にある圧力が支配的であり、ポンプデバイスは、イオン移送区域の圧力をイオン化区域の圧力及び分析区域の圧力とは独立に設定するように設計されることが好ましい。イオン移送デバイス又はイオン移送段は、イオンレンズ機能の他に、分析区域のイオン化区域からの真空関連分離という追加の機能を有する。イオン移送区域は、例えば、イオン化区域の圧力と分析区域の圧力との平均(圧力指数に関連する)にほぼ対応する圧力を有することができる。例えば、イオン化区域と分析区域の圧力が上述の大きさである場合に、イオン移送区域の圧力は、約10-2mbar~10-4mbarとすることができる。原則として、イオン移送区域は、これに加えて(差動的に)ポンピングする必要があり、ここでもまた、好ましくは、イオン化区域に適応された入口開口部、イオン移送区域に適応された入口開口部、及び分析区域に適応された入口開口部を次に有する多段式分流ポンプが使用される。ここでもまた、圧力は、上述のように設定することができる。
【0051】
更に別の実施形態の場合に、質量分析計は、イオン化区域からイオン移送区域内にイオン化ガスをパルス式に抽出するための制御可能抽出デバイスを有する。上述のように、質量分析計は、一般的に、質量分析計の周期的な作動を可能にするために抽出デバイスを制御可能入口システム及び分析器と同期させるためのコントローラを有する。
【0052】
更に別の改良の場合では、抽出デバイスは、(パルス式)加速のためのかつ好ましくはイオン移送区域に向う方向、特にダイヤフラム開口に向う方向にイオン化ガスを集束(又は脱集束)させるための電極配置を有する。電極配置は、一般的に、イオン化されることになるガスをそれぞれ2つの電極間の加速セクションに沿って加速し、かつ適用可能な場合は集束又は脱集束させるために少なくとも2つの電極、潜在的に3又は4以上の電極を有し、これらの電極間に電圧を印加することができる。電極は、各場合に、イオン化ガスが通過することができる開口部を有する。電極内の開口部の直径は、イオン移送区域に向う方向に又はイオン化区域とイオン移送区域の間にあるダイヤフラム開口に向う方向に減少することができる。ダイヤフラム開口と電極の開口部は、典型的に、共通の見通し線(直線)に沿って配置され、その線上に分析器及びイオン化デバイスの追加のダイヤフラム開口も配置される。
【0053】
イオン化ガスのパルス式加速を通して、特に制御可能入口システムが開いているそれぞれの測定時間間隔の部分間隔内で、イオン化ガスは、イオン化区域からイオン移送区域の中にターゲット方式で抽出することができる。この目的のために、一般的に無線周波数範囲(RF)にある追加の交流電圧を電極に印加することができる。この目的のために、電極は、ファネル形配置で直列に接続することもできる。用途次第では、共通の見通し線に沿う電極の配置は、中性粒子及び放射線、例えば光の透過が妨げられないので不利になる可能性もある。
【0054】
これが問題に至る場合に、見通し線に沿った配置は避けるべきである。
【0055】
一実施形態の場合に、質量分析計は、制御可能入口システムが閉じている時に抽出デバイスがイオン化区域からイオン化ガスを抽出しないように制御可能入口システムと抽出デバイスを同期して作動させるためのコントローラを有する。閉じた入口システムを用いても、分析器は、質量分析計の背景信号(ノイズ信号)に対応する1又は複数の質量スペクトルを記録することができる。ここで、コントローラは、制御可能入口システム、例えば、入口システムの制御可能バルブを同期式抽出デバイスと同期させる。これは、特に、イオン化区域でのガスのイオン化が閉じた入口システムでも生じる場合に、すなわち、イオン化デバイスが連続的に作動し、同期した制御可能入口システムと同期しない場合に有利である。後述するように、イオン化デバイスをパルス方式で作動させ、制御可能入口システムが開いている時だけ作動するようにすることも同じく可能である。
【0056】
一実施形態の場合に、ガスの質量分光分析に関して、分析器は、開いた入口システムを用いて少なくとも1つの測定時間間隔内で記録された質量スペクトルを閉じた入口システムを用いて少なくとも1つの測定時間間隔内で記録された質量スペクトルと比較するように設計される。上述のように、閉じた入口システムに対する分析器の背景スペクトルは記録され、かつ背景スペクトルと分析されることになるガスの信号スペクトルとの両方を含有する開いた入口システムに対する質量スペクトルと比較することができる。
【0057】
この比較を通して、SN比を改善することができる。この比較は、例えば、開いた入口システムの質量スペクトルから閉じた入口システムの質量スペクトルを差し引くことにある(又はその逆)。質量スペクトルを比較するための他のより複雑な可能性が減算以外にも存在することは理解される。
【0058】
一実施形態の場合に、分析器は、イオン化ガスの連続分析に関して設計され、コントローラは、イオン化区域からガスを抽出するために、開いた入口システムを用いてそれぞれの測定時間間隔の持続時間全体を通して抽出デバイスを作動させる。連続作動式分析器の場合に、質量スペクトルの記録は、それぞれの測定時間間隔の持続時間全体を通して連続的に行うことができる。従って、分析の感度を最大に高めるために、測定時間間隔の持続時間全体を通してイオン化区域から分析区域内にイオン化ガスを移送することは意味がある。
【0059】
更に別の改良の場合では、分析器は、開いた入口システムとの信号チャネルと閉じた入口システムとの背景チャネルとの間で切り換えることができ、ガスの分析のために信号チャネルのいくつかの測定時間間隔から得られる質量スペクトルを形成し、背景チャネルのいくつかの測定時間間隔から得られる質量スペクトルを形成し、かつガスの質量分光分析のために信号チャネル及び背景チャネルの得られる質量スペクトルを互いに比較するように設計される。連続作動式分析器は、連続的に質量スペクトルを記録し、又は検出されたイオン化ガスの記録された測定値又は強度値を蓄積する。信号チャネルと背景チャネルのスイッチングにより、開いた又は閉じた入口システムを用いてそれぞれ記録された質量スペクトル又は強度値は、加算又は累積することができる。
【0060】
それぞれの得られる質量スペクトルを形成するために、例えば、信号チャネル又は背景チャネルのそれぞれの測定時間間隔に関する質量スペクトル又は累積された強度値の(潜在的に重み付きの)平均又は総和を形成することができる。得られた質量スペクトルを合計して比較することにより、SN比を改善することができる。得られる質量スペクトルが形成される測定時間間隔の数は、事前に確立することができる。この数は、例えば、得られる質量スペクトルが形成される時間間隔全体中に分析されることになるガスの組成の変化を予期することができないように、すなわち、分析されることになる処理の進行する時間スケールが得られる質量スペクトルの形成される時間スケールよりも大きくなるように選択することができる。所与の数の測定時間間隔の得られる質量スペクトルの形成を通して、分析において移動平均を達成することができる。これに代えて、測定時間間隔の数は指定されない場合があり、すなわち、測定開始以降の全て測定時間間隔の強度値が合計される。
【0061】
更に別の実施形態の場合に、分析器は、イオン化ガスのパルス式分析に関して設計され、コントローラは、イオン化区域からガスを抽出するために、開いた入口システムを用いて測定時間間隔のいくつかの部分間隔内で抽出デバイスを作動させるように設計される。分析器がパルス方式で作動する場合に、1つのかつ同じ測定時間間隔内でイオン化ガスをイオン化区域から複数回抽出して分析器に供給することができる。この場合に、分析器は、それぞれの部分間隔内で又は適用可能な場合に抽出が再度実施される前のイオン化区域からイオン化ガスが抽出されないその後の(追加の)部分間隔内で「生じる」強度値だけを通じて積分又は合計する。
【0062】
これは、例えば、分析されることになるイオン化ガスの非破壊検出が分析器により可能になる場合に意味がある可能性があり、その理由は、この場合に、それぞれの部分間隔内で分析区域に供給される量のガスを必要に応じて数回分析することができるからである。
【0063】
更に別の改良の場合では、分析器は、開いた入口システムを用いて測定時間間隔のいくつかの部分間隔から得られる質量スペクトルを形成するように、その測定時間間隔内で先行するか又は後に続く閉じた入口システムを用いて測定時間間隔のいくつかの部分間隔から得られる質量スペクトルを形成するように、並びに質量分光分析のために2つの得られる質量スペクトルを互いに比較するように設計される。
【0064】
分析器のパルス式作動に起因して、背景チャネルの測定時間間隔もいくつかの部分間隔に細分化することができ、各場合に背景チャネルの質量スペクトルが記録される。背景チャネルの測定時間間隔のそれぞれの部分間隔内で記録された質量スペクトルから、部分間隔内で記録された質量スペクトルの合計又は平均に対応する得られる質量スペクトルを形成することができる。同じことは、開いた入口システムを用いて測定時間間隔のそれぞれの部分間隔内で(かつ潜在的にこれに加えてその後で)記録された質量スペクトルにも適用される。パルス方式で作動する分析器の場合に、この例では、従って、得られる各質量スペクトルを形成するために、いくつかの測定時間間隔の質量スペクトルを通じてではなく1つのかつ同じ測定時間間隔のいくつかの部分間隔を通じて合計される又は平均値が形成される。このようにして、SN比を同じく改善することができる。
【0065】
分析器でのガスの質量分光分析は、上記に提案したものとは異なる方式で行うことができると理解される。質量スペクトルの記録速度が測定時間間隔内で質量スペクトルを複数回記録するのに十分でない場合に、パルス方式で作動する分析器も、連続作動式分析器に関連して上述した方式で作動させることができる。いずれにせよ、パルス方式で作動する入口システムを通して又はパルス式抽出を通して、それぞれのタイプの分析器に最適化された信号対背景差別化を行うことができる。
【0066】
更に別の実施形態の場合に、分析器は、四重極分析器、三連四重極分析器、飛行時間(TOF)分析器、特に、直交加速型TOF分析器、走査型四重極イオントラップ分析器、フーリエ変換イオントラップ分析器、すなわち、FT-IT(イオントラップ)分析器を含む群から選択される。原理的には、従来タイプの全ての質量分析器は、制御可能入口システムに又は制御可能なイオン化デバイス/抽出デバイスに結合させることができる。それぞれのタイプの分析器は、例えば、RF多重極、RFイオンファネル、静電レンズシステム、又はこれらのデバイスの組合せのようなそれぞれに適するイオン移送デバイスを通じてイオン化デバイスに結合させることができる。ここで説明した質量分析計は、モジュール式構成とすることができ、すなわち、分析器、イオン移送デバイス、及びイオン化デバイスは、互いに切り離し可能方式で接続することができる。
【0067】
四重極分析器の場合に、典型的に4つの円筒形ロッドを使用して四重極電界内で質量濾過が行なわれ、すなわち、ある一定の質量対電荷比を有するイオンだけが、四重極を通されて下流の検出器に到達する。
【0068】
いわゆる三連四重極分析器の場合に、3つの四重極が連続して配置される。第1の四重極は、特定タイプのイオンを選択するための質量フィルタとして機能する。第2の四重極は、イオンを断片化するための衝突チャンバとして機能し、第3の四重極は、特定のイオン断片を選択するための追加の質量フィルタとして機能する。三連四重極質量分析計の更に別の実施形態では、第1の四重極は、非常に大きいイオン信号をフィルタリングするように機能し、第2の四重極は、質量フィルタとして機能し、第3の四重極は、イオンを可能な限り損失及び収差のない方式でイオンを検出器内に移送するように機能する。
【0069】
飛行時間分析器の場合に、イオンの質量対電荷比は、衝突のない空間での飛行時間の測定に基づいて決定される。この目的のために、イオンは、典型的に電界内で加速され、飛行経路の最後に検出器で検出される。「直交加速型」TOF分析器の場合に、イオンの加速は、分析器の中に進入した際のイオンの元の伝播方向に対して垂直に実施される。
【0070】
古典的な四重極イオントラップ(ポールトラップ、QIT)の場合に、分析されることになるガスのイオンは、典型的に2つのキャップ電極と環状電極の間に形成された四重極電界に格納される。イオントラップに格納されたイオンは、ターゲット方式でイオントラップから取り出して分析区域に配置された検出器に給送することができる。この目的のために、電極間のRF又はDC電位は、例えば、ランプ関数又は線形関数方式で適切に変化させることができる(スキャニング)。ここで、イオントラップから軸線方向にイオンを取り出して検出器に給送することができる。
【0071】
FTイオントラップ分析器の場合に、トラップされたイオンを通して測定電極上に発生する誘導電流は、時間依存方式で検出されて増幅される。
【0072】
続いて、この時間依存性は、例えば、(高速)フーリエ変換のような周波数変換によって周波数空間に移され、周波数スペクトルを質量スペクトルに変換するために、イオンの共振周波数の質量依存性が使用される。原理的に異なるタイプのイオントラップを使用してより高速の測定を実行するためにフーリエ変換による質量分析法を実施することができるが、いわゆるOrbitrapとの組合せが最も多い。Orbitrapは、Kingdonが導入したイオントラップに基づいている。これまで説明してきた全てのタイプの分析器は、原則としてパルス式及び連続的イオン流れを処理することができる;ここで注意しなければならないのは、各場合に、入口システム、イオン化デバイス、イオン移送デバイス、及び分析器から構成される質量分析計全体の最大効率は、連続作動式分析器(四重極、三連四重極分析器)が連続的に作動する入口段、イオン化段、及び移送段を伴って作動し、パルス方式で作動する分析器(飛行時間分析器及びイオントラップ)がパルス式入口段、イオン化段、及び移送段を伴って作動する場合だけに達成されるということである。原理的には全ての組合せが可能であるが、システム全体に関する性能の急激な低下をある程度伴うだけのことである。
【0073】
本発明はまた、分析されることになるガスを質量分析計の外側の処理区域からイオン化区域の中にパルス式に給送する段階と、分析されることになるガスをイオン化区域内でイオン化する段階と、イオン化されたガスをイオン化区域からイオン移送区域の中に好ましくはパルス式に抽出する段階と、イオン化されたガスをイオン移送区域から分析区域の中に移送する段階と、ガスの質量分光分析のためにイオン化されたガスを分析区域内で検出する段階又は検出されたガスの質量分光分析を実行する段階とを含む質量分析計による特に上述のような質量分光分析によるガスの質量分析の方法に関する。
【0074】
質量分析計に関連して上述したように、処理区域からのパルス式ガスサンプリングを通して、質量分析計の構成要素と接触する腐食性ガス、例えば、エッチングガスの量を低減することができる。
【0075】
一変形の場合に、本方法は以下を有する:制御可能入口システムが閉じている時に抽出デバイスがイオン化区域からイオン化ガスを抽出しないように、制御可能入口と抽出デバイスとを作動させる段階。上述のように、このようにして、閉じた入口システムを用いて、質量分析計の背景信号(ノイズ信号)に対応する質量スペクトル又はいくつかの質量スペクトルを記録することができる。
【0076】
別の変形の場合に、ガスの質量分光分析に関して、開いた入口システムを用いて少なくとも1つの測定時間間隔内で記録された少なくとも1つの質量スペクトルは、閉じた入口システムを用いて少なくとも1つの測定時間間隔内で記録された少なくとも1つの質量スペクトルと比較される。質量分析計に関連して上述したように、このようにしてSN比を改善することができる。分析器の連続作動又はパルス式作動に依存して、制御又は質量分光分析は、質量分析計に関連して上述した方式で行うことができる。
【0077】
連続作動式分析器の場合に、例えば、開いた入口システムを用いてそれぞれの測定時間間隔の持続時間全体を通してイオン化区域からガスを抽出することができる。
【0078】
分析器は、信号チャネルと背景チャネルの間で切り換えることができ、分析器は、ガスの分析に関して、信号チャネルのそれぞれの測定時間間隔内で記録された複数の質量スペクトルから、それは、得られる質量スペクトルを形成することができ、背景チャネルのそれぞれの測定時間間隔内で記録された複数の質量スペクトルから、それは、得られる質量スペクトルを形成し、かつ質量分光分析に関して信号チャネル及び背景チャネルに関する2つの得られる質量スペクトルを互いに比較することができる。
【0079】
分析器がイオン化ガスのパルス式分析に関して設計される場合に、イオン化区域からガスを抽出するために、開いた入口システムを用いて測定時間間隔内で複数の部分間隔内で抽出デバイスを作動させることができる。開いた入口システムを用いて測定時間間隔内の複数の部分間隔から、得られる質量スペクトルを形成することができる。測定時間間隔内で先行する又は後に続く閉じた入口システムを用いて測定時間間隔の複数の部分間隔からも、同じく得られる質量スペクトルを形成することができる。質量分光分析に関して、2つの得られる質量スペクトルを互いに比較することができる。
【0080】
本発明の更に別の特徴及び利点は、本発明に対して重要な詳細を示す図面内の図に基づく本発明の設計例に関する以下の説明から及び特許請求の範囲から得られる。個々の特徴の各々は、個々に又は本発明の変形の場合にそれらのいくつかのいずれかの組合せに実現することができる。
【0081】
設計例を概略図に示し、かつ以下の説明で解説する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】切換可能なバルブを有する制御可能入口システムと、電子源及び温度制御することができるイオン化空間を有するイオン化デバイスと、制御可能抽出デバイスと、分析器とを含む質量分析計の概略図である。
図2】プラズマイオン化デバイスを有するイオン化デバイスを備えた図1に類似の概略図である。
図3】パルス式入口、抽出デバイス、及び連続作動式分析器の作動の時間進行を示す概略図である。
図4】パルス方式で作動される分析器の場合の図3に類似の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下の図面の説明では、同一の参照番号は、同じであるか又は同じ機能を有する構成要素に対して使用される。
【0084】
図1に模式的に示されているのは、ガス2を質量分析法によって分析するための質量分析計1である。ガス2は、反応性腐食性ガスの形態の腐食性ガス成分3aと、基板がエッチングされる時に形成されるエッチング生成物3bとを含む。ガス2は、質量分析計1の外側の処理区域4に位置付けられ、処理区域4は、図1ではその一部のみが示されている処理チャンバ5の内部を形成する。質量分析計1は、入口システム6を通して処理チャンバ5に接続される。この接続は、例えば、フランジによって形成することができる。
【0085】
エッチング処理で生成されるガス2に代えて、コーティング処理、処理チャンバ5の清浄化などによって形成されるガス2を質量分析計1で分析することができる。
【0086】
入口システム6は制御可能であり、すなわち、入口システム6は高速スイッチングバルブ7を有し、それによって入口システム6を開閉させることができる。バルブ7は、コントローラ8の支援によって作動させることができる。コントローラ8は、例えば、入口システム6の制御、並びに質量分析計1の他の機能の制御を可能にするように適切にプログラムされたデータ処理システム(ハードウエア、ソフトウエアなど)とすることができる(以下参照)。
【0087】
質量分析法によるガス2の分析では、腐食性ガス成分3a、すなわち、エッチングガスは、既知の濃度でエッチング処理に供給されるので通例では検出する必要はない。腐食性ガス成分3aは、更に、その腐食作用によって質量分析計1の構成要素を損傷する可能性がある。これを防止するために、制御可能入口システム6は、腐食性ガス成分3aをフィルタリングするためのフィルタデバイスを有し、図示の例の場合に管状構成要素、例えば、ステンレス鋼波形ホース9の形態に設計される。波形ホース9は、体積に対して比較的広い面を有するので、ガス2は、広い面に沿って波形ホース9の材料と反応させることができる。
【0088】
波形ホース9は、質量分析計1に対して切り離し可能方式で、例えばねじ接続で接続されるので、それは、容易かつ経済的に取り替えることができる。腐食性ガス成分3aの波形ホース材9との反応を通して、波形ホース9ほど容易に交換することができない質量分析計1の後続構成要素は、腐食性ガス成分3aの作用から保護される。
【0089】
従って、波形ホース9の材料は、犠牲材料として機能する。
【0090】
腐食性ガス成分3aは、例えば、以下のガスとすることができる:
主要族VII:ハロゲン(例えば、F2,Cl2,Br2)、ハロゲン間化合物(例えば、FCl,ClF3)、ハロアルカン(例えば、CF4)、ハロゲン化水素(例えば、HF,HCl,HBr)。
主要族VI:ハロゲンオキソ酸(例:HOCl、HClOx)、カルコハライド(例:SF6)。
主要族V:オキシハロゲン化物(例えば、POCl3)、水素化物(PH3,AsH3)、ハロゲン化物(例えば、NF3,PCl3)。
主要族IV:水素化物(例えば、シラン,Sinm)、ハロゲン化物(例えば、SiF4,SiCl4)。
主要族III:水素化物(例えば、ボランBnm)、ハロゲン化物(例えば、BCl3)。
【0091】
波形ホース9の形態の管状構成要素は、腐食性ガス成分3aに対するフィルタ作用に向けての他に、実際に関連するここではエッチング生成物の形態であるガス成分3bの分解又は凝縮を低減するように設計することができる。この目的のために、波形ホース9は、その内面上にコーティング9aを有する。コーティング9aの材料は、分析されることになるガス成分3bに依存する。異なるタイプのエッチング生成物又は異なるタイプのエッチング処理に対して、異なるタイプの材料をコーティング9aに使用することができる。それぞれに適応されたコーティング9aを有する異なるタイプの波形9を蓄えておくことができ、分析されることになるそれぞれのガス成分3bに依存してそれぞれに適応された波形ホース9が質量分析計1に導入される。波形ホース9に割り当てられるのは、分析されることになるガス2又はガス成分3bの通過に適する温度まで波形ホース9を加熱する加熱素子の形態の温度制御デバイス10である。
【0092】
温度制御デバイス10は、分析されることになるガス成分3bのタイプに適合するように波形ホース9の温度を選択するためにコントローラ8に接続される。
【0093】
図1に示す実施例の場合に、切換可能バルブ7は、三方バルブとして設計され、すなわち、追加の入口を通じて搬送ガス3cをそれに供給することができる。コントローラ8は、三方バルブ7を第1のスイッチング状態と第2のスイッチング状態の間で切り換えるように構成される。第1のスイッチング状態では、分析されることになるガス2がイオン化区域11に給送されるのに対して、第2のスイッチング状態では、搬送ガス3cがイオン化区域11に給送される。この目的のために、搬送ガス3cは、追加の供給導管を通じて、かつ実際に、分析されることになるガス2がイオン化区域11に給送されないパルス休止時に切換可能バルブ7に給送される。従って、イオン化区域11には、分析されることになるガス2と搬送ガス3cとが交互に供給される。このようにして、使用されるイオン化デバイスの作動点(下記参照)を一定に保つことができる。更に、搬送ガス3cは、イオン化区域11内で正の洗浄作用を生成することができる。搬送ガス3cとして、例えば、不活性ガスを使用することができる。
【0094】
波形ホースの形態の管状構成要素9を有する制御可能入口システム6を通じて、ガス2、理想的には分析されることになるガス成分3bだけが質量分析計1のイオン化チャンバ12の内部を形成するイオン化区域11に入る。波形ホース9は、模式的に示す温度制御可能イオン化空間13(容器)で終わり、この空間は、2つの側面で開いており、かつイオン化区域11内のガス2をイオン化するように機能するイオン化デバイス14の一部である。図1に示す例では、イオン化デバイス14は、フィラメント(グローワイヤ)15を有する電子源14を有する。
【0095】
イオン化デバイス14は、フィラメント15から現れる電子ビーム14aを断続的に偏向させ、そのためにそれがガス2をイオン化するためにフィラメント15を取り囲むシールド16の開口部17を通過して容器13内に入ることができないように、この図に示していない偏向器デバイス、例えば、電界を生成する電極配置を作動させるようにコントローラ8と信号接続している。従って、電子源14は、パルス方式で作動させることができ、すなわち、以下でより詳細に説明するように、ガス2の質量分光分析に適切な場合にのみ電子ビーム14aがイオン化区域11に照射される。
【0096】
図示の例では、フィラメント15のシールド16は、ヒートシンクとして設計され、かつフィラメント15の近傍から熱を奪うために熱伝導係数の高い材料、例えば、銅、真鍮、アルミニウム、又はステンレス鋼(適用可能な場合に、各場合にコーティングを有する)で製造される。ヒートシンク16又はシールドはまた、フィラメント15の近傍をイオン化区域11から分離することを可能にし、すなわち、フィラメント15の近傍は、開口部17を通してのみイオン化区域11に接続される。ヒートシンク16を通じて、電子源14をオンに切り換えた状態でも温度制御可能イオン化空間13又はイオン化容器が望ましい温度T又は望ましい温度間隔に保たれることが可能にされる。温度制御可能イオン化空間13の温度T又は温度範囲は、例えば、約100℃未満とすることができるが、より高い温度も可能である。温度制御に関して、イオン化デバイス14は、典型的には、図示していない加熱及び/又は冷却デバイスを有する。
【0097】
ヒートシンク又はシールド16は、フィラメント15が双方向矢印に示す交換デバイス18の支援によって理想的には自動化方式で交換されることになる場合に有利である。
【0098】
フィラメント15の交換に関して、交換デバイス18は、フィラメント15を自動化方式で又は手動で交換することができる交換位置までフィラメント15を搬送する搬送デバイスを有することができる。交換デバイス18は、フィラメント15が交換されている時に質量分析計1内の真空又は低圧を破らないようにロックを有することができる。必要に応じて、ヒートシンク16の内部がそれ以上イオン化区域11に接続されないようにヒートシンク16の開口部17を密封するダイヤフラムは、ロックとして機能することができる。これに代えて、必要に応じて、ヒートシンク16を含む電子源14全体は、それが質量分析計1の切り離し可能構成要素である場合は交換することができる。
【0099】
同じく図1に見ることができるように、質量分析計1はまた、イオン化ガス2aをイオン化区域11からイオン移送デバイス21のイオン移送区域20の中にパルス式に抽出するための制御可能抽出デバイス19を有し、この移送区域は、イオン移送チャンバ22内に形成される。図示の例では、抽出デバイス19は、イオン化ガス2aをイオン移送区域20に向う方向にパルス式に加速し、適用可能な場合は集束させるための3つの電極23a~cを有する電極配置を有する。抽出デバイス19又は3つの電極23a~cは、イオン化ガス2aを適切な加速度(質量対電荷比に依存する)でイオン化区域11からイオン移送区域20の中に抽出するために(パルス方式で)電極23a~cに望ましい電位を印加し、こうして隣接する電極23a~c間に望ましい加速電圧を生成するようにコントローラ8と信号接続している。
【0100】
イオン化ガス2aの通過に関して、電極23a~cの各々は、中心ダイヤフラム開口を有する。電極23a~c内のそれぞれの開口部の直径は、イオン移送チャンバ22とイオン化チャンバ12の間に形成されたチャンバ壁内のダイヤフラム開口24上にイオン化ガス2aを集中させるためにイオン移送区域20に向う方向に減少している。
【0101】
イオン移送デバイス21は、イオン化ガス2aを可能な限り非接触で分析器26の分析区域25の中に移送するための図示していないイオンレンズを有する。イオン移送区域20は、更に別のダイヤフラム開口28を通じて分析区域25に、より正確には分析チャンバ27の壁に接続される。ダイヤフラム開口24、更に別のダイヤフラム開口28、及び電極23a~c内の開口部、より正確にはそれらの各中心点は、見通し線29上に(すなわち、一直線に)位置する。
【0102】
質量分析計1は、コントローラ8によって互いに独立に作動させることができる実施例に示すような少なくとも2つ又は3つの真空ポンプ30a、b、cの形態のポンプデバイスを含む。これに代えて、ポンプデバイスは、多段式分流ポンプとして設計することができる。このようにして、イオン化区域11の圧力pIを分析区域25の圧力pAとは独立に設定することができる。これは、特にイオン化区域11の圧力pIを分析されることになるガス2に応じて及び従って質量分析計1を使用してモニタされることになる処理に応じて設定することができるので有利である。図示の例では、イオン移送デバイス21は、真空ポンプ30cによって同じく差動的にポンピングされる。このようにして、静圧pTがイオン移送区域20に形成され、それは、分析区域25の圧力pAとイオン化区域11の圧力pIの間にある。従って、イオン移送区域20内の中性粒子は、可能な限り効率的にポンピングされて出され、イオン化ガス2aは、可能な限り少ない損失で分析区域25に移送される。
【0103】
分析区域25の圧力pAとイオン化区域11の圧力pIとが大きい圧力差を有する場合に有利であることが判明している。イオン化区域11の圧力pIは、例えば、選択したイオン化方法に応じて、分析区域25の圧力pAよりも103~106の倍率で大きいとすることができる。
【0104】
イオン化区域11内の圧力pIは、処理チャンバ5内の処理区域4の圧力pUよりも102、潜在的には103の倍率で小さいとすることができる。例えば、処理区域4の圧力pUは、約1000mbarとすることができ、イオン化区域11の圧力pIは、約1mbarとすることができ、イオン移送区域20の圧力pTは、約10-3mbarとすることができ、分析区域25の圧力pAは、約10-6mbar又はそれ未満とすることができる。これらの圧力差を維持することができるように、かつ圧力段間のダイヤフラム開口、例えば、イオン化区域11とイオン移送チャンバ22の間のダイヤフラム開口24又はイオン移送チャンバ22と分析区域25の間の追加のダイヤフラム開口24を可能な限り大きくし、及び従ってそれをイオンに対して可能な限り透明にすることができるように、イオン移送デバイス21、より正確にはイオン移送チャンバ22は、ほとんどの場合にポンピングされる。特に、電界発生器、例えば、多重極形態の電界発生器は、イオンを可能な限り少ない損失で分析区域25の中に搬送し、かつ中性粒子が分析区域25に入り込まないようにそれらを可能な限り効率的にポンピングして出すようにイオン移送チャンバ22に配置することができる。
【0105】
図1に示す質量分析計1は、CIガス32をガスリザーバ33からイオン化区域11の中へ、より正確には温度制御可能イオン化空間13の中への連続的又はパルス式供給のための追加のガス給送器31を有する。ガスリザーバ33は、CIガス32を提供するためのデバイスの例であり、例えば、導管を通じた供給も同じく可能である。追加のガス給送器31は、CIガス32の流入を制御するための更に別のバルブ34を含み、かつコントローラ8を通じて制御される。CIガス32は、温度制御可能イオン化空間13内のターゲット式化学イオン化に対して機能する。この場合に、イオン化は、電子ビーム14aを通じて直接に行われるのではなく、最初にCIガス32が電子ビーム14aによってイオン化され、次に、潜在的には時間オフセットを用いて、CIガス32から分析されることになるガス成分3bに電荷が移される。
【0106】
図2は、図1に示す質量分析計1と同様に設計され、イオン化デバイス14のタイプだけが異なる質量分析計1を示している:イオン化デバイス14は、イオン化ガス37のイオン36a及び/又は準安定粒子36bを生成するためにプラズマイオン化デバイス35を有する。イオン化ガス37は、例えば、ヘリウムのような希ガスとすることができ、ガスリザーバ38に貯蔵され、制御可能なガス入口39を通じてプラズマイオン化デバイス35に供給することができる。イオン化ガス37のイオン36a及び準安定粒子36bは、衝撃イオン化及び/又は電荷交換イオン化を通して分析されることになるガス2をイオン化するためにプラズマイオン化デバイス35から出てイオン化区域11に入る。図2に示すイオン化デバイス14は、コントローラ8の支援によって制御可能ガス入口39が開閉されるという点でパルス方式で作動させることもでき、制御可能ガス入口39は、典型的には、イオン化されることになるガス2をイオン化区域11の中に給送するための入口システム6が同じく開いている時にのみ開かれる。
【0107】
図2に示すイオン化デバイス14の場合に、イオン化ガス37のイオン36a及び準安定粒子36bは、プラズマイオン化デバイス31内の圧力とイオン化空間13内の圧力の間にある圧力が支配的である反応空間40の中に移送される。反応空間40には、反応ガス、例えば、水素が供給される。反応空間40の中へのガス流れと入口ダイヤフラム及び出口ダイヤフラムのそれぞれの直径とは、反応空間40内の圧力を確立する。
【0108】
反応ガスは、イオン化ガス37により、衝撃イオン化及び/又は電荷交換を通じて反応イオン、例えば、H3 +に変換される。反応空間40の出口ダイヤフラムを通じて、これらのイオンは、イオン化区域11内のイオン化空間13の中に入り、ここで、化学イオン化によって検体Mの検体イオン、例えば、[M+H]+が生成される。
【0109】
イオン化ガス2a又はイオン化ガス2aの成分を検出するように機能する分析器26は、様々な方法で設計することができ、例えば、これは、四重極分析器、三連四重極分析器、飛行時間(TOF)分析器、例えば、直交加速型TOF分析器、走査型四重極イオントラップ分析器、フーリエ変換イオントラップ分析器、例えば、FT-IT(イオントラップ)分析器、又は別のタイプの従来型分析器26とすることができる。
【0110】
図3は、パルス式入口6(図3の「A」、上段)、抽出デバイス19(図3の「B」、中段)、及び連続作動式分析器26(図3の「C」、下段)の作動に関する時間進行の例を示している。ここで、分析器26は、コントローラ8により、パルス式入口システム6及び抽出デバイス19と同期する。図3で見ることができるように、上段では、制御可能入口システム6は、第1の測定時間間隔M1(継続時間ΔtM1)中の開いたスイッチング状態(図3の上側信号レベル、上段)と、第2の測定時間間隔M2(継続時間ΔtM2)中の閉じたスイッチング状態(図3の下側信号レベル、上段)との間で周期的に切り換えられる。第1及び第2の測定時間間隔M1、M2の持続時間は、同じか又は異なるように選択することができ、測定時間間隔M1、M2の持続時間ΔtM1、ΔtM2は、典型的には数マイクロ秒から数秒の程度である。
【0111】
抽出デバイス19は、制御可能入口システム6と同期して作動し、すなわち、それは、それぞれの第1の測定時間間隔M1の持続時間ΔtM1図3の上側信号レベル、中段)中は同様に作動し、それぞれの第2の測定時間間隔M2の持続時間ΔtM2図3の下側信号レベル、中段)中はオフに切り換えられる。従って、制御可能入口システム6が閉じている場合に、分析区域25にはイオン化区域11からイオン化ガス2aが供給されない。対照的に、入口システム6が開いている場合に、それぞれの第1の測定時間間隔M1の持続時間ΔtM1全体を通してイオン化ガス2aがイオン化区域11から取り出され又は抽出されて分析区域25に供給される。
【0112】
図3で見ることができるように、下段では、分析器26は、第1の測定時間間隔M1を有する第1の測定チャネルK1(信号チャネル)と、第2の測定時間間隔M2を有する第2の測定チャネルK2(背景チャネル)との間で周期的に切り換えられ、実際に制御可能入口6及び抽出デバイス19のスイッチングと同時に切り換えられる。連続作動式分析デバイス26の場合に、得られる質量スペクトルMS1は、測定信号から形成され、又は質量スペクトルは、所与の数の第1の測定時間間隔M1から形成される。従って、得られる質量スペクトルMS2は、測定信号から形成され、又は質量スペクトルは、所与の数の第2の測定時間間隔M2から形成される。得られる質量スペクトルMS1、MS2は、それぞれの測定時間間隔M1、M2で連続的に記録された測定信号の総和を表している。図示の例では、得られる質量スペクトルMS1、MS2は、各場合に信号チャネルK1及び背景チャネルK2の2つの測定時間間隔M1、M2から形成されるが、加算に使用される測定時間間隔M1、M2の数は一般的により大きく、処理チャンバ5内で実行される処理の速度に応じて設定されることは理解される。適用可能な場合に、加算は、測定の開始から全ての測定時間間隔M1、M2にわたって行うこともできる。
【0113】
得られる質量スペクトルMS1、MS2を形成するために、加算に代えて、それぞれの測定時間間隔M1、M2に記録された測定値から潜在的に重み付きの平均を形成することができる。
【0114】
ガス2の質量分光分析に関して、信号チャネルK1に記録された得られる質量スペクトルMS1は、背景チャネルK2に記録された得られる質量スペクトルMS2と比較され、より正確は、信号チャネルK1に記録された得られる質量スペクトルMS1から背景ノイズに帰すことができる背景チャネルK2に記録された得られる質量スペクトルMS2が差し引かれる。信号チャネルK1に記録された質量スペクトルMS1は、分析されることになるガス2に含有されたイオン化ガス成分の質量対電荷比に対応する信号部分、並びに簡単のために図3に示していないノイズ部分を有する。最も簡単な場合では、質量対電荷比を改善するために、比較する時に信号チャネルK1の質量スペクトルMS1から背景チャネルK2の質量スペクトルMS2が差し引かれる。2つの質量スペクトルMS1、MS2の間の比較は、単なる減算に限定する必要はなく、適用可能な場合に、SN比を改善するために2つの質量スペクトルMS1、MS2の間でより複雑なリンクを行うことができることは理解される。
【0115】
図3と同じく、図4は、パルス式入口6(図4の「A」、上段)、抽出デバイス19(図4の「B」、中段)、及びパルス方式で作動する分析器26(図4の「C」、下段)の作動に関する時間進行を示している。ここで、分析器26は、コントローラ8により、同じくパルス式入口システム6及び抽出デバイス19と同期する。図4で見ることができるように、上段では、制御可能入口システム6は、第1の測定時間間隔M1(継続時間ΔtM1)中の開いたスイッチング状態(図4の上側信号レベル、上段)と、第2の測定時間間隔M2(継続時間ΔtM2)中の閉じたスイッチング状態(図4の下側信号レベル上段)との間で周期的に切り換えられる。
【0116】
抽出デバイス19は、制御可能入口システム6と同期して作動し、すなわち、第1の測定時間間隔M1のそれぞれの第1の部分間隔T1の持続時間ΔtT1中だけ起動され(図4の上側信号レベル、中段)、一方、それぞれの第1の測定時間間隔M1のそれぞれの第2の部分間隔T2の持続時間ΔtT2中は非作動であり、そのためにイオン化ガス2aは、イオン化区域11から分析区域25内に入ることができない。それぞれの第1の測定時間間隔M1の第1/第2の部分間隔T1、T2の数は、分析器26の速度に応じて変わり、例えば、10又は11以上とすることができる。図3と同じく図4でも、対応する第2の測定時間間隔M2中に制御可能入口システム6が閉じている時は、イオン化ガス2aは、分析区域25に供給されない。
【0117】
パルス式作動では、分析器26は、各場合に、イオン化ガス2が分析区域25内に移送されるそれぞれの第1の部分間隔T1の持続時間ΔtT1中に、並びにそれに続く第2の部分間隔T2の持続時間ΔtT2中に質量スペクトルを記録する。図4の左下に示すような加算又は平均化によって得られる質量スペクトルMS1は、それぞれの部分間隔T1、T2に記録された第1の測定時間間隔M1の質量スペクトルから形成される。第1のものに続く第2の測定時間間隔M2の対応する部分間隔Tの持続時間ΔtT中に、同じくいくつかの質量スペクトル又は信号強度は、得られる質量スペクトルMS2を形成するために記録され、かつ第2の測定時間間隔M2のいくつかの部分間隔Tを通じて合計又は平均化される。
【0118】
すなわち、第1の測定時間間隔M1は、信号チャネルK1を形成し、第2の測定時間間隔M2は、分析器26の背景チャネルK2を形成する。
【0119】
図3に関連して更に上述したように、第1の測定時間間隔M1の得られる質量スペクトルMS1と第2の測定時間間隔M2の得られる質量スペクトルMS2とは、例えば、2つの得られる質量スペクトルMS1、MS2を互いに減算することによって互いに比較することができる。このようにして、図4に示す分析器26のパルス式作動の場合でも、質量対電荷比を改善することができる。通例では、隣接する第1及び第2の測定時間間隔M1、M2の質量スペクトルMS1、MS2を互いに比較することが単に好都合であるだけである。従って、後続の第2の測定時間間隔M2に代えて、その比較を実施するためにそれぞれの第1の測定時間間隔M1に先行する第2の測定時間間隔M2を使用することも可能であると考えられる。
図1
図2
図3
図4