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特許7504087樹脂組成物、その製造方法、及び、多液型硬化性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物、その製造方法、及び、多液型硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20240614BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20240614BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240614BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20240614BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240614BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C08L83/06
C08K5/04
B32B27/00 101
B05D3/12 Z
B05D7/24 303E
B05D3/02 Z
B05D7/24 302U
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021520782
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019631
(87)【国際公開番号】W WO2020235524
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019096036
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深海 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽一
(72)【発明者】
【氏名】鍵谷 信二
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-306477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン100重量部、
(B)縮合触媒である中性塩0.001重量部以上1重量部以下、
(C)β-ジカルボニル化合物0.5重量部以上10重量部以下、及び、
(D)溶剤20重量部以上300重量部以下
を含み、
前記オルガノポリシロキサン(A)が、[T3/(Q1+Q2+Q3+Q4+T1+T2+T3+D1+D2+M1)]×100が50%以上75%以下であることを満たす(但し、前記オルガノポリシロキサン(A)を構成する構成単位であって、テトラアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個、2個、3個、又は4個形成している構成単位をそれぞれ、Q1、Q2、Q3、又はQ4とし、モノオルガノトリアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個、2個、又は3個形成している構成単位をそれぞれ、T1、T2、又はT3とし、ジオルガノジアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個、又は2個形成している構成単位をそれぞれ、D1、又はD2とし、トリオルガノモノアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個形成している構成単位をM1とする。)、樹脂組成物。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサン(A)が、さらにエポキシシクロヘキシル基を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(A)グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン100重量部、
(B)縮合触媒である中性塩0.001重量部以上1重量部以下、
(C)β-ジカルボニル化合物0.5重量部以上10重量部以下、及び、
(D)溶剤20重量部以上300重量部以下
を含み、
前記オルガノポリシロキサン(A)が、さらにエポキシシクロヘキシル基を有する、樹脂組成物。
【請求項4】
(A)グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン100重量部、
(B)縮合触媒である中性塩0.001重量部以上1重量部以下、
(C)β-ジカルボニル化合物0.5重量部以上10重量部以下、及び、
(D)溶剤20重量部以上300重量部以下
を含む樹脂組成物を製造する方法であって、
グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物を含有するアルコキシシラン成分を、中性塩(B)及び水の存在下で、加水分解・脱水縮合反応をさせて、グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)を得る工程、及び、
該オルガノポリシロキサン(A)を、β-ジカルボニル化合物(C)、及び溶剤(D)と混合する工程、を含む、樹脂組成物を製造する方法。
【請求項5】
前記アルコキシシラン成分の合計に対して、前記グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物が占める割合が50モル%以上100モル%以下である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルコキシシラン成分の合計のうち70モル%以上100モル%以下が、モノオルガノトリアルコキシシランである、請求項又はに記載の方法。
【請求項7】
前記中性塩(B)の添加量が、前記アルコキシシラン成分の合計重量に対して10ppm以上10000ppm以下である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記水の添加量が、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数に対して、30モル%以上80モル%以下である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコキシシラン成分が、エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物をさらに含有する、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
第一液と第二液を有する多液型硬化性樹脂組成物であって、
前記第一液が、
(A)グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン100重量部、
(B)縮合触媒である中性塩0.001重量部以上1重量部以下、
(C)β-ジカルボニル化合物0.5重量部以上10重量部以下、及び、
(D)溶剤20重量部以上300重量部以下
を含む樹脂組成物であり、
前記第二液が、(E)有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物を含む、多液型硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、(E)有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物と混合して硬化させてなる硬化物。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物を、(E)有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物と混合して混合物を得る工程、
該混合物を基材に塗布し、加熱して硬化させることにより硬化塗膜を形成する工程を含む、基材と硬化塗膜を含む積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサンを含む樹脂組成物、その製造方法、及び、該樹脂組成物を含む多液型硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内装用基材などの基材の表面に、オルガノポリシロキサンを主成分とする硬化性組成物を塗布し硬化させてハードコート層を形成することで、基材に耐傷性や耐水性を付与することが検討されている。
【0003】
前記オルガノポリシロキサンは、従来、酸触媒または塩基触媒の存在下で、オルガノ基を有するアルコキシシランを加水分解・脱水縮合することにより製造されてきた。しかし、アルコキシシランが熱硬化性の官能基としてエポキシ基を有する場合、酸触媒や塩基触媒によってエポキシ基が失活したり、加水分解・脱水縮合時にゲル化したりする問題があった。
【0004】
上記問題を解決するために、縮合触媒として酸触媒または塩基触媒の代わりに、中性塩を使用することが報告されている。特許文献1では、エポキシ基を有するアルコキシシラン化合物を中性塩触媒の存在下で加水分解・脱水縮合させて得られるオルガノポリシロキサンと、エポキシ基を硬化させる硬化剤(例えば、アミン系硬化剤)を含有する硬化性組成物が記載されている。これによって、基材に対する密着性や耐摩耗性、耐アルカリ性に優れた硬化物を形成している。当該文献の硬化性組成物は、加熱により硬化する組成物、又は、UV照射により硬化する組成物として記載されている。
【0005】
UV照射により硬化する組成物は、硬化のためにUV照射設備が必要となるためコストが上昇する傾向があり、また、複雑な形状を有する基材の表面に組成物を塗布してUV照射により硬化させようとすると、未露光によって硬化不良が生じる懸念もある。以上の観点から、UV照射によって硬化する組成物よりも、加熱によって硬化する組成物のほうが望まれることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/098596号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが検討したところ、特許文献1に開示されているエポキシ基含有オルガノポリシロキサンを含む硬化性組成物から形成する硬化物は、基材に対する密着性は良好であるものの、耐傷性が十分なレベルに達しておらず、この点で改善の必要性があることが判明した。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、エポキシ基含有オルガノポリシロキサンを含む樹脂組成物であって、硬化剤と混合した後に加熱されることによって硬化し、耐傷性に優れると共に、基材に対する密着性も良好な硬化物を形成可能な樹脂組成物及びその製造方法、並びに、前記樹脂組成物と硬化剤を含む多液型硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、エポキシ基としてグリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン、中性塩、β-ジカルボニル化合物、及び、溶剤を含む樹脂組成物によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、(A)グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン100重量部、(B)中性塩0.001重量部以上1重量部以下、(C)β-ジカルボニル化合物0.5重量部以上10重量部以下、及び、(D)溶剤20重量部以上300重量部以下を含む、樹脂組成物に関する。
好ましくは、前記オルガノポリシロキサン(A)が、さらにエポキシシクロヘキシル基を有する。
好ましくは、前記オルガノポリシロキサン(A)が、[T3/(Q1+Q2+Q3+Q4+T1+T2+T3+D1+D2+M1)]×100が50%以上75%以下であることを満たす(但し、前記オルガノポリシロキサン(A)を構成する構成単位であって、テトラアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個、2個、3個、又は4個形成している構成単位をそれぞれ、Q1、Q2、Q3、又はQ4とし、モノオルガノトリアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個、2個、又は3個形成している構成単位をそれぞれ、T1、T2、又はT3とし、ジオルガノジアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個、又は2個形成している構成単位をそれぞれ、D1、又はD2とし、トリオルガノモノアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個形成している構成単位をM1とする。)。
好ましくは、前記樹脂組成物が、分子量1000以下の酸性化合物と、分子量1000以下の塩基性化合物をいずれも含有しない。
また本発明は、グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物を含有するアルコキシシラン成分を、中性塩(B)及び水の存在下で、加水分解・脱水縮合反応をさせて、グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)を得る工程、及び、
該オルガノポリシロキサン(A)を、β-ジカルボニル化合物(C)、及び溶剤(D)と混合する工程、を含む、前記樹脂組成物を製造する方法にも関する。
好ましくは、前記アルコキシシラン成分の合計に対して、前記グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物が占める割合が50モル%以上100モル%以下である。
好ましくは、前記アルコキシシラン成分の合計のうち70モル%以上100モル%以下が、モノオルガノトリアルコキシシランである。
好ましくは、前記中性塩(B)の添加量が、前記アルコキシシラン成分の合計重量に対して10ppm以上10000ppm以下である。
好ましくは、前記水の添加量が、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数に対して、30モル%以上80モル%以下である。
好ましくは、前記アルコキシシラン成分が、エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物をさらに含有する。
さらに本発明は、第一液と第二液を有する多液型硬化性樹脂組成物であって、前記第一液が、前記樹脂組成物であり、前記第二液が、(E)有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物を含む、多液型硬化性樹脂組成物にも関する。
さらに本発明は、前記樹脂組成物を、(E)有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物と混合して硬化させてなる硬化物にも関する。
さらに本発明は、前記樹脂組成物を、(E)有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物と混合して混合物を得る工程、該混合物を基材に塗布し、加熱して硬化させることにより硬化塗膜を形成する工程を含む、基材と硬化塗膜を含む積層体の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エポキシ基含有オルガノポリシロキサンを含む樹脂組成物であって、硬化剤と混合した後に加熱されることによって硬化し、耐傷性に優れると共に、基材に対する密着性も良好な硬化物を形成可能な樹脂組成物及びその製造方法、並びに、前記樹脂組成物と硬化剤を含む多液型硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物は、少なくとも、グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)、中性塩(B)、β-ジカルボニル化合物(C)、及び、溶剤(D)を含有する。
【0014】
(グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A))
グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)とは、グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物を含有するアルコキシシラン成分を、水の存在下で、加水分解・脱水縮合反応をさせて形成したオルガノポリシロキサンである。本実施形態におけるオルガノポリシロキサン(A)は、例えば国際公開第2017/169459号に開示されているようなオルガノポリシロキサンとアクリルシリコンを複合化した複合樹脂を指すものではなく、有機樹脂と結合していないオルガノポリシロキサンを指すものである。
【0015】
(A)成分の前駆体である前記アルコキシシラン成分は、ケイ素原子上の置換基としてアルコキシ基を有するシラン化合物(以下、アルコキシシラン化合物ともいう)の1種又は2種以上から構成される。アルコキシシラン化合物の具体例としては、テトラアルコキシシラン、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、トリオルガノモノアルコキシシランが挙げられる。前記アルコキシシラン成分は、少なくともモノオルガノトリアルコキシシランを有することが好ましい。前記アルコキシシラン成分は、モノオルガノトリアルコキシシランのみから構成されるものであってよいし、モノオルガノトリアルコキシシランとジオルガノジアルコキシシランのみから構成されるものであってもよい。モノオルガノトリアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、1個の有機基と、3個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指し、ジオルガノジアルコキシシランとは、ケイ素原子上の置換基として、2個の有機基と、2個のアルコキシ基を有するシラン化合物を指す。
【0016】
好適な一実施形態によると、前記アルコキシシラン成分は、モノオルガノトリアルコキシシラン70モル%以上100モル%以下及びジオルガノジアルコキシシラン30モル%以下0モル%以上を含有する。但し、モノオルガノトリアルコキシシランとジオルガノジアルコキシシランの合計が100モル%である。前記モノオルガノトリアルコキシシランの割合は80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、99モル%以上が特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0017】
前記アルコキシシラン成分は、モノオルガノトリアルコキシシランに加えて、又は、モノオルガノトリアルコキシシラン及びジオルガノジアルコキシシランに加えて、トリオルガノモノアルコキシシラン、及び/又は、テトラアルコキシシランを含有してもよい。トリオルガノモノアルコキシシラン及び/又はテトラアルコキシシランを使用する場合、その使用量は発明の効果を阻害しない範囲で決定すればよく、例えば、アルコキシシラン成分の全体に対する割合として10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
前記アルコキシシラン化合物がケイ素原子上の置換基として有する有機基とは、アルコキシ基以外の有機基を指す。その具体例は特に限定されないが、例えば、炭素数1以上8以下のアルキル基や、炭素数2以上8以下のアルケニル基、炭素数6以上12以下のアリール基等が挙げられる。前記アルキル基、アルケニル基、及びアリール基は、無置換の基であってもよいし、置換基を有するものであっても良い。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1以上6以下であり、より好ましくは1以上4以下であり、さらに好ましくは1以上3以下であり、より更に好ましくは1以上2以下である。前記アルケニル基の炭素数は、好ましくは2以上6以下であり、より好ましくは2以上4以下であり、さらに好ましくは2以上3以下である。前記有機基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0019】
前記アルコキシシラン化合物がケイ素原子上の置換基として有するアルコキシ基としては、例えば、炭素数1以上3以下のアルコキシ基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基であり、メトキシ基、エトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。前記アルコキシ基としては1種類のみであってもよいし、2種以上が混在していてもよい。
【0020】
前記アルコキシシラン成分は、少なくとも、グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物を含有する。当該化合物を使用することによって、オルガノポリシロキサン(A)にグリシジルオキシ基を導入することができる。当該グリシジルオキシ基によって、硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物の架橋密度が向上し、耐傷性が向上し得る。前記グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物は、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、トリオルガノモノアルコキシシランのいずれでもあってもよいが、モノオルガノトリアルコキシシランが好ましい。
【0021】
前記グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、グリシジルオキシアルキル基を有するトリアルコキシシラン化合物、グリシジルオキシアルキル基と前記有機基を有するジアルコキシシラン化合物等が挙げられる。具体的には、1-グリシジルオキシメチルトリメトキシシラン、1-グリシジルオキシメチルメチルジメトキシシラン、1-グリシジルオキシメチルトリエトキシシラン、1-グリシジルオキシメチルメチルジエトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルメチルジメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルメチルジエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、4-グリシジルオキシブチルトリメトキシシラン、4-グリシジルオキシブチルメチルジメトキシシラン、4-グリシジルオキシブチルトリエトキシシラン、4-グリシジルオキシブチルメチルジエトキシシラン、6-グリシジルオキシヘキシルトリメトキシシラン、6-グリシジルオキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-グリシジルオキシヘキシルトリエトキシシラン、6-グリシジルオキシヘキシルメチルジエトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルトリエトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。なかでも、3-グリシジルオキシプロピル基を有するトリアルコキシシラン化合物又はジアルコキシシラン化合物が好ましく、3-グリシジルオキシプロピル基を有するトリアルコキシシラン化合物が特に好ましい。
【0022】
前記アルコキシシラン成分は、グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物の1種又は2種以上のみから構成されるものであってもよいし、グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物の1種又は2種以上と、グリシジルオキシ基を有しないアルコキシシラン化合物の1種又は2種以上から構成されるものであってもよい。
【0023】
前記アルコキシシラン成分の合計に対して、前記グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物が占める割合は50モル%以上100モル%以下であることが好ましい。このような割合で前記グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物を使用することで、架橋点となるグリシジルオキシ基の密度が高くなり、得られる硬化物の架橋密度が向上し、耐傷性を向上させることができる。前記割合は、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0024】
グリシジルオキシ基を有しないアルコキシシラン化合物は、エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物、他のエポキシ基含有シラン化合物、及び、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物に分類される。これらは任意成分であり、使用しなくともよい。
【0025】
好適な一実施形態によると、前記アルコキシシラン成分は、前記エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物をさらに含有する、即ち、グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物と、エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物を共に含有する。これによって、オルガノポリシロキサン(A)にグリシジルオキシ基とエポキシシクロへキシル基の双方を導入することができる。エポキシシクロへキシル基が併存することで、硬化物が優れた耐傷性を有することに加えて、基材に対する硬化物の密着性と、硬化物の耐水性を向上させることができる。但し、グリシジルオキシ基を導入せずにエポキシシクロへキシル基を導入しても、優れた耐傷性を達成することはできない。
【0026】
前記エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物は、モノオルガノトリアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、トリオルガノモノアルコキシシランのいずれでもあってもよいが、モノオルガノトリアルコキシシランであることが好ましい。
【0027】
前記エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、エポキシシクロへキシルアルキル基を有するトリアルコキシシラン、エポキシシクロへキシルアルキル基と前記有機基を有するジアルコキシシラン等が挙げられる。具体的には、1-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、1-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルメチルジメトキシシラン、1-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、1-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルメチルジメトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルメチルジエトキシシラン、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルメチルジメトキシシラン、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチルメチルジエトキシシラン、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシルトリメトキシシラン、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシルメチルジメトキシシラン、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシルトリエトキシシラン、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシルメチルジエトキシシラン、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチルトリメトキシシラン、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチルメチルジメトキシシラン、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチルトリエトキシシラン、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。なかでも、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基を有するトリアルコキシシラン化合物又はジアルコキシシラン化合物が好ましく、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基を有するトリアルコキシシラン化合物が特に好ましい。
【0028】
グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物とエポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物を併用する実施形態において、両化合物の使用比率は、グリシジルオキシ基1モルに対するエポキシシクロへキシル基の量が0.1モル以上1.0モル以下であることが好ましい。このような割合で前記エポキシシクロへキシル基を有するアルコキシシラン化合物を使用することで、硬化物の優れた耐傷性を保持しながら、基材に対する硬化物の密着性と、硬化物の耐水性を向上させることができる。前記比率は0.1モル以上0.6モル以下がより好ましい。
【0029】
前記他のエポキシ基含有シラン化合物としては、例えば、エポキシトリメトキシシラン、エポキシメチルジメトキシシラン、エポキシトリエトキシシラン、エポキシメチルジエトキシシラン、1-エポキシメチルトリメトキシシラン、1-エポキシメチルメチルジメトキシシラン、1-エポキシメチルトリエトキシシラン、1-エポキシメチルメチルジエトキシシラン、2-エポキシエチルトリメトキシシラン、2-エポキシエチルメチルジメトキシシラン、2-エポキシエチルトリエトキシシラン、2-エポキシエチルメチルジエトキシシラン、3-エポキシプロピルトリメトキシシラン、3-エポキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-エポキシプロピルトリエトキシシラン、3-エポキシプロピルメチルジエトキシシラン、4-エポキシブチルトリメトキシシラン、4-エポキシブチルメチルジメトキシシラン、4-エポキシブチルトリエトキシシラン、4-エポキシブチルメチルジエトキシシラン、6-エポキシヘキシルトリメトキシシラン、6-エポキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン、6-エポキシヘキシルメチルジエトキシシラン、8-エポキシオクチルトリメトキシシラン、8-エポキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-エポキシオクチルトリエトキシシラン、8-エポキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
前記エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては特に限定されない。アルコキシシラン化合物がケイ素原子上の置換基として有する有機基が、無置換のアルキル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルメチルジメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルメチルジエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルメチルジメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルメチルジエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルメチルジメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルメチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
アルコキシシラン化合物がケイ素原子上の置換基として有する有機基が、置換基を有する有機基である場合、該置換基としては特に限定されないが、入手容易性から、チオール基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基、フェニル基、シクロヘキシル基、及び、クロロ基が好ましい。
【0032】
前記有機基がチオール基を有するアルキル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、例えば、1-メルカプトメチルトリメトキシシラン、1-メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、1-メルカプトメチルトリエトキシシラン、1-メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルメチルジエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、4-メルカプトブチルトリメトキシシラン、4-メルカプトブチルメチルジメトキシシラン、4-メルカプトブチルトリエトキシシラン、4-メルカプトブチルメチルジエトキシシラン、6-メルカプトヘキシルトリメトキシシラン、6-メルカプトヘキシルメチルジメトキシシラン、6-メルカプトヘキシルトリエトキシシラン、6-メルカプトヘキシルメチルジエトキシシラン、8-メルカプトオクチルトリメトキシシラン、8-メルカプトオクチルメチルジメトキシシラン、8-メルカプトオクチルトリエトキシシラン、8-メルカプトオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
前記有機基がイソシアネート基を有するアルキル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、例えば、1-イソシアネートメチルトリメトキシシラン、1-イソシアネートメチルメチルジメトキシシラン、1-イソシアネートメチルトリエトキシシラン、1-イソシアネートメチルメチルジエトキシシラン、2-イソシアネートエチルトリメトキシシラン、2-イソシアネートエチルメチルジメトキシシラン、2-イソシアネートエチルトリエトキシシラン、2-イソシアネートエチルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、4-イソシアネートブチルトリメトキシシラン、4-イソシアネートブチルメチルジメトキシシラン、4-イソシアネートブチルトリエトキシシラン、4-イソシアネートブチルメチルジエトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルトリメトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルメチルジメトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルトリエトキシシラン、6-イソシアネートヘキシルメチルジエトキシシラン、8-イソシアネートオクチルトリメトキシシラン、8-イソシアネートオクチルメチルジメトキシシラン、8-イソシアネートオクチルトリエトキシシラン、8-イソシアネートオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
前記有機基が(メタ)アクリロイル基を有するアルキル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、例えば、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルメチルジメトキシシラン、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、1-(メタ)アクリロイルオキシメチルメチルジエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルメチルジメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリエトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルメチルジエトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリエトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジエトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
前記有機基がフェニル基を有するアルキル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、例えば、ベンジルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、2-フェニルエチルトリメトキシシラン、2-フェニルエチルトリエトキシシラン、3-フェニルプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルプロピルトリエトキシシラン、4-フェニルブチルトリメトキシシラン、4-フェニルブチルトリエトキシシラン、5-フェニルペンチルトリメトキシシラン、5-フェニルペンチルトリエトキシシラン、6-フェニルヘキシルトリメトキシシラン、6-フェニルヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
前記有機基がシクロへキシル基を有するアルキル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、例えば、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、2-シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、2-シクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、3-シクロヘキシルプロピルトリメトキシシラン、3-シクロヘキシルプロピルトリエトキシシラン、4-シクロヘキシルブチルトリメトキシシラン、4-シクロヘキシルブチルトリエトキシシラン、5-シクロヘキシルペンチルトリメトキシシラン、5-シクロヘキシルペンチルトリエトキシシラン、6-シクロヘキシルヘキシルトリメトキシシラン、6-シクロヘキシルヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
前記有機基がクロロ基を有するアルキル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、例えば、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、4-クロロブチルトリメトキシシラン、4-クロロブチルトリエトキシシラン、5-クロロペンチルトリメトキシシラン、5-クロロペンチルトリエトキシシラン、6-クロロヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
前記有機基がアルケニル基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
前記有機基がアリール基である場合の、エポキシ基を有しないアルコキシシラン化合物としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、等が挙げられる。
【0040】
前記グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)は、グリシジルオキシ基に加えて、反応性ケイ素基を有することが好ましい。ここで、反応性ケイ素基とは、アルコキシシリル基とシラノール基の双方を含む概念である。オルガノポリシロキサン(A)が有し得る反応性ケイ素基は、アルコキシシラン成分に含まれていた一部のアルコキシ基が未反応で残留するか、または、該アルコキシ基が加水分解反応を受けた後、脱水縮合反応は進行せずにシラノール基として残留したものである。
【0041】
オルガノポリシロキサン(A)は、これを構成する全構成単位(Q1、Q2、Q3、Q4、T1、T2、T3、D1、D2、及びM1)のうち、モノオルガノトリアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3の割合:[T3/(Q1+Q2+Q3+Q4+T1+T2+T3+D1+D2+M1)]×100が比較的高いものが好ましい。前記T3の割合が高い値であることは、多くのアルコキシ基がシロキサン結合に変換されており、シルセスキオキサン構造を有する部位T3がオルガノポリシロキサン(A)中に多いことを意味する。シルセスキオキサン構造はち密な架橋構造と柔軟性を併せ有する構造であり、硬化物の耐傷性、及び耐水性の発現に寄与する構造である。逆に前記T3の割合が0%であると、シルセスキオキサン構造が存在せず、オルガノポリシロキサンによる所望の物性を発現しにくくなる。
【0042】
ここで、オルガノポリシロキサン(A)を構成する構成単位のうち、テトラアルコキシシランに由来する構成単位であって、シロキサン結合を1個形成している構成単位をQ1、シロキサン結合を2個形成している構成単位をQ2、シロキサン結合を3個形成している構成単位をQ3、シロキサン結合を4個形成している構成単位をQ4と定義し、
モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位であって、シロキサン結合を1個形成している構成単位をT1、シロキサン結合を2個形成している構成単位をT2、シロキサン結合を3個形成している構成単位をT3と定義し、
ジオルガノジアルコキシシランに由来する構成単位であって、シロキサン結合を1個形成している構成単位をD1、シロキサン結合を2個形成している構成単位をD2と定義し、
トリオルガノモノアルコキシシランに由来し、シロキサン結合を1個形成している構成単位を、M1と定義する。
【0043】
前記T3の割合は、29Si-NMRによって測定された、Q1、Q2、Q3、Q4、T1、T2、T3、D1、D2、及びM1それぞれに由来するピークのピーク面積に基づき、これらの合計ピーク面積に対するT3に由来するピーク面積の割合(%)として算出される。
【0044】
本実施形態では、(A)成分として、T3の割合が比較的高いオルガノポリシロキサンを使用することが好ましい。T3の割合が比較的高いオルガノポリシロキサンとは、具体的には、[T3/(Q1+Q2+Q3+Q4+T1+T2+T3+D1+D2+M1)]×100が40%以上75%以下であることが好ましく、50%以上75%以下であることがより好ましく、50%以上73%以下であることがさらに好ましく、60%以上71%以下であることがより更に好ましい。T3の割合が40%以上であると、硬化収縮によるクラックの発生を効果的に抑制することができる。また、T3の割合が75%以下であると、加熱硬化時にエポキシ基のカチオン重合が十分に進行し、得られる硬化物の耐傷性を良好なものとすることができる。
【0045】
中性塩触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサンは、塩基触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサンと比較して、T1、T2の合計モル数の割合が大きく、酸触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサンと比較すると、前記T1、T2の合計モル数の割合は小さい。中性塩触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサン(A)は、[(T1+T2)/(Q1+Q2+Q3+Q4+T1+T2+T3+D1+D2+M1)]×100が25%以上60%以下であることが好ましく、25%以上50%以下であることがより好ましく、27%以上50%以下がさらに好ましく、29%以上40%以下がより更に好ましい。
【0046】
同様の観点から、中性塩触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサン(A)は、塩基触媒又は酸触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサンと比較して、T1のモル数の割合が特定範囲に収まることができ、[T1/(Q1+Q2+Q3+Q4+T1+T2+T3+D1+D2+M1)]×100が2%以上20%以下であることが好ましく、3%以上15%以下がより好ましく、4%以上12%以下がさらに好ましい。
【0047】
前記T3の割合などは、オルガノポリシロキサンを形成するための加水分解・脱水縮合反応時に使用する水の使用量や触媒の種類・量、反応温度、加水分解反応で発生したアルコールの除去量などを調節することで制御することができる。
【0048】
オルガノポリシロキサン(A)の重量平均分子量(MW)は、特に限定されないが、基材に対する硬化物の密着性や、耐傷性、耐水性の他、硬化物の外観、貯蔵安定性等の観点から、500以上30000以下であることが好ましく、より好ましくは1000以上20000以下であり、さらに好ましくは2500以上10000以下である。なお、オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は、実施例の項に記載した方法によって決定できる。
【0049】
(オルガノポリシロキサン(A)の製造方法)
次に、グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)の製造方法について説明する。該オルガノポリシロキサン(A)は、グリシジルオキシ基を有するアルコキシシラン化合物を含有するアルコキシシラン成分を、水の存在下で、加水分解・脱水縮合反応をさせて得ることができる。前記加水分解・脱水縮合反応では、アルコキシシラン成分に含まれていた一部のアルコキシ基が未反応で残留するか、または、該アルコキシ基が加水分解反応を受けた後、脱水縮合反応は進行せずにシラノール基として残留し得る。この場合、製造されたオルガノポリシロキサンは、グリシジルオキシ基に加えて、アルコキシシリル基及び/又はシラノール基を有することになる。
【0050】
(中性塩(B))
前記アルコキシシラン成分の加水分解・脱水縮合反応は、縮合触媒として塩基触媒、酸触媒、又は中性塩、及び、水の存在下で実施することができるが、本実施形態では、縮合触媒として中性塩(B)、及び、水の存在下で実施することが好ましい。加水分解・脱水縮合反応を中性塩触媒の存在下で実施することにより、グリシジルオキシ基の失活を抑制しつつ、グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)を得ることができると共に、得られた中性塩(B)を含むオルガノポリシロキサン(A)を、後述する(C)成分と配合し、(E)成分の存在下で硬化させることによって、耐傷性に優れ、基材に対する密着性も良好な硬化物を形成することが可能になる。前記加水分解・脱水縮合反応を中性塩の存在下で実施する場合には、塩基触媒と酸触媒いずれも不在下で実施することが好ましい。
【0051】
中性塩触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサンは、塩基触媒を用いて製造した場合と比較して、該オルガノポリシロキサン中のT1及び/又はT2の割合が増加し、該オルガノポリシロキサンが有する反応性ケイ素基の数が増加する。反応性ケイ素基が架橋反応に関与することにより、硬化物の架橋密度が増加し、硬化物の耐傷性が向上するものと考えられる。
【0052】
一方、酸触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサンは、T1及び/又はT2の割合が高すぎ、該オルガノポリシロキサンが有する反応性ケイ素基の数が多すぎることになり、基材に対する硬化物の密着性が大幅に低下してしまう。これに対し、中性塩触媒を用いて製造したオルガノポリシロキサンでは、基材に対する密着性を低下させることなく、耐傷性を向上させることができる。
【0053】
本願において、(B)成分の中性塩とは、強酸と強塩基とからなる正塩のことをいう。具体的には、第一族元素イオン、第二族元素イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、及びグアニジウムイオンよりなる群から選ばれるいずれかのカチオンと、フッ化物イオンを除く第十七族元素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、及び過塩素酸イオンよりなる群から選ばれるいずれかのアニオンとの組合せからなる塩である。
【0054】
中性塩(B)の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる:塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化フランシウム、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化ラジウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラペンチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム、塩化グアニジウム;
臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、臭化フランシウム、臭化ベリリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム、臭化ラジウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラペンチルアンモニウム、臭化テトラヘキシルアンモニウム、臭化グアニジウム;
ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化フランシウム、ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化ラジウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラペンチルアンモニウム、ヨウ化テトラヘキシルアンモニウム、ヨウ化グアニジウム;
硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウム、硫酸フランシウム、硫酸ベリリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム、硫酸ラジウム、硫酸テトラメチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラプロピルアンモニウム、硫酸テトラブチルアンモニウム、硫酸テトラペンチルアンモニウム、硫酸テトラヘキシルアンモニウム、硫酸グアニジウム;
硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウム、硝酸フランシウム、硝酸ベリリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸ラジウム、硝酸テトラメチルアンモニウム、硝酸テトラエチルアンモニウム、硝酸テトラプロピルアンモニウム、硝酸テトラブチルアンモニウム、硝酸テトラペンチルアンモニウム、硝酸テトラヘキシルアンモニウム、硝酸グアニジウム;
過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ルビジウム、過塩素酸セシウム、過塩素酸フランシウム、過塩素酸ベリリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸ストロンチウム、過塩素酸バリウム、過塩素酸ラジウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラプロピルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラペンチルアンモニウム、過塩素酸テトラヘキシルアンモニウム、過塩素酸グアニジウム。中性塩としては、単独の化合物を使用してもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
中性塩(B)を構成するアニオンとしては、求核性が高いため、第十七族元素イオンが好ましい。また、カチオンとしては、求核作用を阻害しないように嵩高くないものが好ましく、具体的には、第一族元素イオン又は第二族元素イオンが好ましい。更に、入手性、取扱い時の安全性を考慮すると、中性塩(B)としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウムが特に好ましい。
【0056】
加水分解・脱水縮合反応に際して添加する中性塩(B)の量は、加水分解・脱水縮合反応の所望の進行度に応じて適宜決定することができるが、通常、前記アルコキシシラン成分の合計重量に対して1ppm以上100000ppm以下であり、10ppm以上10000ppm以下が好ましく、20ppm以上5000ppm以下がより好ましく、50ppm以上1000ppm以下がさらに好ましい。
【0057】
前記加水分解・脱水縮合反応では水を添加して該反応を進行させる。この時、水の使用量を制御することによって、加水分解・脱水縮合反応の進行度、ひいては、オルガノポリシロキサン中のT3の割合や、オルガノポリシロキサンの分子量を制御することができる。この観点から、水の使用量は、前記アルコキシシラン成分に含まれる、ケイ素原子に直結したアルコキシ基の合計モル数に対して、20モル%以上100モル%以下であることが好ましい。20モル%以上であると、加水分解・脱水縮合反応が十分に進行し、100モル%以下であると、硬化物の基材に対する密着性や耐水性が更に向上し得る。前記水の使用量は、20モル%以上90モル%以下がより好ましく、25モル%以上80モル%以下がさらに好ましく、30モル%以上80モル%以下がより更に好ましく、30モル%以上60モル%以下が特に好ましい。
【0058】
前記加水分解・脱水縮合反応では、水に加えて、水以外の有機溶剤を使用してもよい。このような有機溶剤としては、水と併用するため、水への溶解度の高い有機溶剤が好ましい。また、アルコキシシラン成分の溶解性を確保するため、炭素数が4以上の有機溶剤が好ましい。以上の観点から、好ましい有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
前記加水分解・脱水縮合反応を実施する際の反応温度は当業者が適宜設定できるが、例えば反応液を50℃以上110℃以下の範囲に加熱することが好ましい。加水分解・脱水縮合反応を110℃以下の温度で行うと、オルガノポリシロキサン(A)を製造することが容易になる。また、前記加水分解・脱水縮合反応を実施する際の反応時間は、当業者が適宜設定できるが、例えば10分間以上12時間以下程度であってよい。
【0060】
前記加水分解・脱水縮合反応の後、前記加水分解反応で発生したアルコールを反応液から除去する工程を実施することが好ましい。アルコールを除去することによって、アルコールを副生するアルコキシシリル基の加水分解反応をさらに進行させることができる。当該アルコールの除去工程は、加水分解・脱水縮合反応後の反応液を減圧蒸留に付してアルコールを留去することで実施できる。減圧蒸留の条件は当業者が適宜設定することが可能であるが、この時の温度は、上述と同じ理由により、50℃以上110℃以下であることが好ましい。この工程においては、加水分解反応により発生したアルコールのうち、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上のアルコールを除去することが好ましい。
【0061】
以上のようにアルコールを除去した後、反応系を例えば30℃以下にまで冷却して、グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)を得ることができる。
【0062】
オルガノポリシロキサン(A)を製造する際に縮合触媒として中性塩(B)を使用すると、得られるオルガノポリシロキサン(A)は中性塩(B)を含有し得る。結果、本実施形態の樹脂組成物も、中性塩(B)を含有し得る。前記樹脂組成物に含まれる中性塩(B)の量は、オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対して、通常、0.001重量部以上1重量部以下であり、好ましくは0.005重量部以上0.1重量部以下、より好ましくは0.01重量部以上0.05重量部以下である。
【0063】
また、オルガノポリシロキサン(A)が縮合触媒として中性塩を用いて製造されたものである場合、本実施形態の樹脂組成物には、塩基触媒及び酸触媒は通常含まれない。このため、本実施形態の樹脂組成物は、分子量1000以下の酸性化合物と、分子量1000以下の塩基性化合物をいずれも含有しないことが好ましい。ここで、分子量1000以下の酸性化合物又は塩基性化合物は、アルコキシシラン成分の加水分解・脱水縮合反応において一般的に使用されている酸触媒、塩基触媒を含むものである。
【0064】
(β-ジカルボニル化合物(C))
前記樹脂組成物にβ-ジカルボニル化合物(C)を配合することで、硬化物の耐傷性を向上させることができる。β-ジカルボニル化合物(C)は、オルガノポリシロキサン(A)を安定化させて、(A)成分が有し得る反応性ケイ素基と有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物(E)間の反応と、エポキシ基間の架橋反応が並行して進行することを実現することで、硬化物の耐傷性を向上させるものと推測される。
【0065】
β-ジカルボニル化合物とは、2個のカルボニル基が1個の炭素原子を挟んで結合している構造を有する化合物のことをいう。β-ジカルボニル化合物としては、例えば、β-ジケトン、β-ジエステル、β-ケトエステル等が挙げられ、特に限定されないが、例えば、アセチルアセトン、ジメドン、シクロヘキサン-1,3-ジオン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、メルドラム酸等が挙げられる。コストや入手性の観点から、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、又はアセト酢酸エチルが好ましい。アセチルアセトンは、沸点が140℃付近であるため、熱硬化時に揮発しやすく、好ましい。アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルは、沸点がそれぞれ170℃、180℃付近であり、アセチルアセトンよりも揮発し難いが、ポットライフの延長効果がより顕著であり、少量の使用でもポットライフの延長効果を発現し得るため好ましい。
【0066】
β-ジカルボニル化合物(C)の配合量は、硬化物の物性に応じて適宜決定することができるが、前記オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下であることが好ましい。(C)成分の添加量が0.5重量部以上であると、耐傷性の向上効果を得ることができる。また、10重量部以下であると、硬化物の耐傷性を向上させ、硬化収縮によるクラックの発生を抑制することができる。より好ましくは0.7重量部以上4重量部以下であり、さらに好ましくは1重量部以上3重量部以下である。
【0067】
(溶剤(D))
溶剤(D)としては特に制限はないが、多液型硬化性樹脂組成物を適用する基材がプラスチック製の場合には、基材の耐溶剤性が低いことが多いため、メチルイソブチルケトンやジイソブチルケトンなどのケトン類、ブタノールやイソプロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、ジエチレングリコールメチルエーテルやプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのエーテル類が好ましい。特に、エーテル系溶剤を全溶剤の30重量%以上使用することが、基材を傷めない点で好ましい。溶剤の配合量は適宜設定できるが、オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対して、20重量部以上300重量部以下が好ましく、30重量部以上150重量部以下がより好ましい。
【0068】
(他の添加剤)
本実施形態の樹脂組成物を製造するにあたっては、上述した成分に加えて、他の添加剤を適宜配合してもよい。そのような添加剤としては、例えば、無機フィラー、無機顔料、有機顔料、可塑剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤等が挙げられる。また、本実施形態の樹脂組成物は、加水分解性シリル基を有するアクリル樹脂又はビニル樹脂等の反応性樹脂を含有するものであってもよいが、含有しなくともよい。
【0069】
無機フィラーとしては特に限定されないが、例えば、石英、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、溶融シリカ、結晶性シリカ、超微粉無定型シリカ等のシリカ系無機フィラー、アルミナ、ジルコン、酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミ、炭化ケイ素、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、マイカ、黒鉛、カーボンブラック、グラファイト、ケイソウ土、白土、クレー、タルク、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、無機バルーン、銀粉等が挙げられる。
【0070】
前記無機フィラーは、適宜、表面処理されていてもよい。表面処理方法としては、アルキル化処理、トリメチルシリル化処理、シリコーン処理、カップリング剤による処理等が挙げられる。
【0071】
前記カップリング剤の例としては、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、有機基と反応性のある官能基と加水分解性のケイ素基を各々少なくとも1個有する化合物であれば、特に限定されない。有機基と反応性のある官能基としては、取扱い性の点から、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ビニル基、及びカルバメート基から選ばれる少なくとも1種が好ましく、硬化性及び接着性の点から、エポキシ基、メタクリル基、又はアクリル基が特に好ましい。加水分解性のケイ素基としては、取扱い性の点からアルコキシシリル基が好ましく、反応性の点からメトキシシリル基、又はエトキシシリル基が特に好ましい。
【0072】
好ましいシランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等の、エポキシ基を有するアルコキシシラン類;3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン等の、メタクリル基又はアクリル基を有するアルコキシシラン類等が挙げられる。
【0073】
各成分を混合する方法としては、特に限定はなく、公知の方法を適宜使用することができる。例えば、各成分を配合してハンドミキサーやスタティックミキサーで混合する方法、プラネタリーミキサーやディスパー、ロール、ニーダーなどを用いて、常温又は加熱下で混練する方法、適した溶剤を少量使用して成分を溶解させ、混合する方法等が挙げられる。
【0074】
(多液型硬化性樹脂組成物)
本実施形態の多液型硬化性組成物は、少なくとも第一液と第二液から構成される二液型の形態を有することが好ましい。主剤と硬化剤から構成される二液型の形態においては、主剤が上記樹脂組成物であり、即ち、グリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)、中性塩(B)、β-ジカルボニル化合物(C)、及び溶剤(D)を含む樹脂組成物であり、一方、硬化剤は、有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物(E)を含むことが好ましい。しかし、β-ジカルボニル化合物(C)は、硬化剤に含まれてもよい。
【0075】
(有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物(E))
前記樹脂組成物を、有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物(E)の存在下で硬化させることで、硬化物の耐傷性を向上させることができる。(E)成分はエポキシ基間の架橋反応を促進し、また、反応性ケイ素基間の縮合反応も促進するが、これに加えて、(E)成分が、オルガノポリシロキサンが有し得る反応性ケイ素基と反応し、Si-O-Al結合又はSi-O-Ti結合を形成することで、ち密な架橋構造が形成され、その結果、硬化物の耐傷性が向上するものと推測される。有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物としては、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアルコキシド化合物、アルミニウムアセトアセテート化合物、アルミニウムエチルアセトアセテート化合物、アルミニウムアセチルアセトネート化合物等が挙げられる。より具体的には、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリセカンダリーブトキシド、ジイソプロポキシモノセカンダリーブトキシアルミニウム、ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム、ジイソプロポキシアセチルアセトナートアルミニウム、イソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、イソプロポキシビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等が挙げられる。
【0077】
有機チタン化合物としては、例えば、チタンアルコキシド化合物、チタンアセトアセテート化合物、チタンエチルアセトアセテート化合物、チタンアセチルアセトネート化合物等が挙げられる。より具体的には、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラ-t-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン等が挙げられる。
【0078】
有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物(E)の添加量は、硬化物の物性に応じて適宜決定することができるが、前記オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下であることが好ましい。(E)成分の添加量が0.5重量部以上であると、耐傷性の向上効果を得ることができる。また、10重量部以下であると、基材との密着性が良好であり、得られる硬化物の黄変を抑制することもできる。より好ましくは0.5重量部以上5重量部以下であり、さらに好ましくは2重量部以上5重量部以下である。
【0079】
(硬化物)
本実施形態の硬化物は、前記樹脂組成物を、有機アルミニウム化合物及び/又は有機チタン化合物(E)と混合して硬化させて形成されたものである。好適には、前記硬化物は、前記多液型硬化性樹脂組成物を構成する第一液(主剤)と第二液(硬化剤)を混合し、得た混合物を加熱して硬化させることによって形成されたものである。
該混合物を硬化させる時の加熱温度は特に限定されないが、通常、50℃以上200℃以下であるが、60℃以上120℃以下が好ましく、70℃以上110℃以下が好ましく、80℃以上100℃以下がより好ましい。本実施形態に係る多液型硬化性樹脂組成物は、60℃以上120℃以下といった比較的低温で硬化させても、優れた耐傷性を有する硬化物を形成することができる。
前記混合物を硬化させる時の加熱時間は特に限定されないが、コスト及び硬化反応の進行度を両立する観点から、10~120分が好ましく、15~100分がより好ましく、30~60分がさらに好ましい。
【0080】
(用途)
本実施形態の多液型硬化性樹脂組成物又は硬化物は、種々の用途に用いることができる。例えば、透明材料、光学材料、光学レンズ、光学フィルム、光学シート、光学部品用接着剤、光導波路結合用光学接着剤、光導波路周辺部材固定用接着剤、DVD貼り合せ用接着剤、粘着剤、ダイシングテープ、電子材料、絶縁材料(プリント基板、電線被覆等を含む)、高電圧絶縁材料、層間絶縁膜、絶縁用パッキング、絶縁被覆材、接着剤、高耐熱性接着剤、高放熱性接着剤、光学接着剤、LED素子の接着剤、各種基板の接着剤、ヒートシンクの接着剤、塗料、インク、着色インク、コーティング材料(ハードコート、シート、フィルム、光ディスク用コート、光ファイバ用コート等を含む)、成形材料(シート、フィルム、FRP等を含む)、シーリング材料、ポッティング材料、封止材料、発光ダイオード用封止材料、発光ダイオード用のリフレクター・反射板、光半導体封止材料、液晶シール剤、表示デバイス用シール剤、電気材料用封止材料、太陽電池の封止材料、高耐熱シール材、レジスト材料、液状レジスト材料、着色レジスト、ドライフィルムレジスト材料、ソルダーレジスト材料、カラーフィルター用材料、光造形、電子ペーパー用材料、ホログラム用材料、太陽電池用材料、燃料電池用材料、表示材料、記録材料、防振材料、防水材料、防湿材料、熱収縮ゴムチューブ、オーリング、複写機用感光ドラム、電池用固体電解質、ガス分離膜に応用できる。また、コンクリート保護材、ライニング、土壌注入剤、蓄冷熱材、滅菌処理装置用シール材、コンタクトレンズ、酸素富化膜の他、他樹脂等への添加剤等が挙げられる。
【0081】
また、前記多液型硬化性樹脂組成物の第一液と第二液を混合し、得た混合物を基材に塗布し、熱源を用いて当該混合物を硬化させ、硬化塗膜を形成することにより、本実施形態の硬化物を含む積層体を得ることができる。当該積層体は、パソコンやスマートフォン、タブレット等の前面板、自動車等の窓ガラス、自動車等のランプの保護具材、フィルム等に好適に使用できる。
【0082】
前記基材は特に限定されず、例えば、金属(例えば、アルミニウム、SUS、銅、鉄等)、セラミックス、ガラス、セメント、窯業系基材、石材、プラスチック(例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ABS、PC-ABSアロイ、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、木材、紙、繊維等であってよい。前記基材はフィルムやシートであってもよい。本実施形態の多液型硬化性樹脂組成物は、自動車、建築物、家電用品、産業機器等の塗装に好適に使用することができる。本実施形態の多液型硬化性樹脂組成物は加熱により硬化するものであるため、特に、複雑な形状を有する基材の表面に塗膜を形成する場合に好適である。また、前記多液型硬化性樹脂組成物は、上述した通り、60℃以上120℃以下といった比較的低温で硬化させても優れた耐傷性を達成できる。そのため、基材が有機基材であっても、硬化時の加熱による基材へのダメージを抑制できるので、有機基材に対しても好適に使用できる利点がある。
【0083】
本実施形態の多液型硬化性樹脂組成物から形成される硬化塗膜の厚みとしては、1μm以上100μm以下であることが好ましい。硬化塗膜の厚みが1μm以上であると、硬化塗膜の耐傷性や耐水性が良好なものとなる。硬化塗膜の厚みが100μm以下であると、硬化収縮によるクラックを生じにくい。より好ましくは5μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上40μm以下である。
【実施例
【0084】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた物質は、以下のとおりである。
【0085】
アルコキシシラン化合物
Me(OFS-6070:ダウ・東レ株式会社製、メチルトリメトキシシラン、分子量136.2)
Ge(OFS-6040:ダウ・東レ株式会社製、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、分子量236.3)。
EC(KBM-303:信越化学株式会社製、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、分子量246.3)
Ph(Z-6124:ダウ・東レ株式会社製、フェニルトリメキシシラン、分子量198.3)
【0086】
縮合触媒
DBP(城北化学工業株式会社製、ジブチルホスフェート、分子量210.2):酸触媒
MgCl(東京化成株式会社製、塩化マグネシウム・6水和物、分子量203.3):中性塩(B)
LiCl(東京化成株式会社製、塩化リチウム、分子量42.4):中性塩(B)
TEA(東京化成株式会社製、トリエチルアミン、分子量101.2):塩基触媒
【0087】
β-ジカルボニル化合物(C)
AcAc(東京化成株式会社製、アセチルアセトン、分子量100.1)
ジメドン(東京化成株式会社製、5,5-ジメチル-1,3-シクロヘキサンジオン、分子量140.2)
メルドラム酸(東京化成株式会社製、2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオン、分子量144.1)
【0088】
有機アルミニウム化合物(E)
ALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、分子量414.4)
有機チタン化合物(E)
TA-8(マツモトファインケミカル株式会社、チタンテトライソプロポキシド、分子量284.2)
ポリアミン化合物
DPTA(東京化成株式会社製、ジプロピレントリアミン、分子量131.2)
溶剤
PMA(東京化成株式会社製、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、分子量132.2)
【0089】
(オルガノポリシロキサン反応時間)
室温下においてアルコキシシラン化合物、縮合触媒、及び、水を混合した後、該混合物を、90℃に昇温したオイルバスで加熱し、内温が70℃に達した時を開始点とし、その後90℃オイルバスにて加熱した時間を反応時間とし、4時間反応させた。
【0090】
(オルガノポリシロキサン合成における脱アルコール)
上記の通り4時間反応させて得られた樹脂溶液は、オルガノポリシロキサン、反応の過程で発生したアルコール、及び、僅かに残った水から構成されている。オルガノポリシロキサン以外の揮発成分をエバポレーターとアスピレーターを用いた減圧脱揮により除去するため、105℃に加熱したオイルバスで前記樹脂溶液を加熱しながら、約450Torrにて脱揮を行って、各表に記載の量のメタノール及び水を除去して、オルガノポリシロキサンを得た。
【0091】
脱揮により除去する必要があるアルコール量を、下記式に従い算出した。
(縮合触媒がDBP又はMgClの場合) 添加した水の量×32/18×2×85%
(縮合触媒がLiCl又はTEAの場合) 添加した水の量×32/18×2×100%
【0092】
発生可能な全アルコール重量は、反応に用いたオルガノアルコキシシランが有するアルコキシシリル基1モルに対して1モルのアルコールが発生するものとして算出した。例えば、トリメトキシシシリル基1モルはメトキシシリル基を3モル有し、メタノールを3モル発生させ、メチルジメトキシシリル基1モルはメトキシシリル基を2モル有し、メタノールを2モル発生させるものとする。また、水1モルによってアルコキシシリル基1モルから1モルのシラノール基と1モルのアルコールが発生する。更に発生した1モルのシラノール基が1モルのアルコキシシリル基と反応して1モルのアルコールを発生する。すなわち、水1モルからアルコールが2モル発生することになる。縮合触媒によってはこの反応の進行具合に違いがあり、DBPでは85%程度しか進行しないため、この点を考慮して、上記のとおり計算式に補正をかけた。
【0093】
(合成例1)オルガノポリシロキサンの合成
300ml4口フラスコにMe2.0g、Ge104.5g、EC34.7g、MgCl 0.020g、純水19.4g(アルコキシシリル基に対して60モル%)を入れ、90℃に設定したオイルバスで加熱し、4時間反応させた。その後、エバポレーター、及び105℃に設定したオイルバスを用いて減圧脱揮を行い、発生したメタノール、及び残存水を合計で52.0g除去し、約108.6gのオルガノポリシロキサンを得た。得られたオルガノポリシロキサンのSC(固形分)を測定すると、92%であり、重量平均分子量は3200、29Si-NMRの測定結果よりT1/T2/T3は4/25/71の比率で、T3の割合:[T3/(Q1+Q2+Q3+Q4+T1+T2+T3+D1+D2+M1)]×100は71%であり、縮合率は89%だった。なお、SCは、得られたオルガノポリシロキサンを105℃に加熱して揮発しなかった成分が、オルガノポリシロキサンに対して占める重量割合を示すものである。
得られたオルガノポリシロキサンに、β-ジカルボニル化合物(C)としてAcAcを3g添加し、更に溶剤(D)としてPMAを加えてSC70.0%となるように調整したオルガノポリシロキサン溶液を、クリア塗液の作製に使用した。
【0094】
(合成例2~19)
各原料の種類及び使用量、並びに、メタノール及び水の除去量を表1及び2の記載に従って変更した以外は合成例1と同様にしてオルガノポリシロキサンを得た。得られたオルガノポリシロキサンのSC、重量平均分子量、T1、T2、又はT3の割合、及び縮合率を表1及び2に示した。得られたオルガノポリシロキサンに、表1及び2の記載に従ってβ-ジカルボニル化合物(C)を添加し又は添加せず、更に溶剤(D)としてPMAを加えてSC70.0%となるように調整したオルガノポリシロキサン溶液を、クリア塗液の作製に使用した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
(重量平均分子量)
オルガノポリシロキサンの重量平均分子量をGPCで測定した。GPCは、送液システムとして東ソー(株)製HLC-8320GPCを用い、カラムとして東ソー(株)製TSK-GEL Hタイプを用い、溶媒としてTHFを用いて行い、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で算出した。
【0098】
29Si-NMR)
モノオルガノトリアルコキシシランに由来する構成単位は、シロキサン結合を形成していない構成単位T0、シロキサン結合を1個形成している構成単位T1、シロキサン結合を2個形成している構成単位T2、及び、シロキサン結合を3個形成している構成単位T3に分類される。BRUKER社製AVANCEIIIHD500を用い、重水素化クロロホルムを溶媒として、オルガノポリシロキサンの29Si-NMRを測定し、T1、T2、及びT3構造に由来するピーク面積の合計に対する各ピーク面積の割合を、それぞれ、オルガノポリシロキサンに含まれるT1、T2、又はT3の割合とした。なお、各合成例では、Q1~4、D1~D2、M1構造は含まれておらず、それらの割合は0である。
【0099】
(縮合率)
T1、T2、又はT3の割合(%)をそれぞれ、X、Y、又はZとした時、
式:(1×X+2×Y+3×Z)/3
によって算出された値を、縮合率(シロキサン結合形成率)とした。
【0100】
(クリア塗液の作製)
表3~5に記載の配合に沿って、合成例1~19で得たオルガノポリシロキサン溶液、有機アルミニウム化合物(E)であるALCH又は有機チタン化合物(E)であるTA-8、及び、希釈溶剤としてPMAを混合してクリア塗液を作製した。
【0101】
(硬化塗膜の作成)
作製したクリア塗液を50×150×2mmのABS板上に40番バーコーターで塗装し、80℃に設定した熱風乾燥機内に30分間入れることで溶剤の除去、及び塗膜の硬化を実施し、ドライで約0.030mm厚の硬化塗膜を得た。得られた硬化塗膜について密着性、耐傷性、及び耐水性を評価した。具体的には以下に述べる。
【0102】
(実施例1)
合成例1で得たオルガノポリシロキサン溶液を28.6g、ALCH 1.0g、PMA 12.4gを混合してクリア塗液を得た。得られたクリア塗液を40番バーコーターで、50×150×2mmのABS板上に塗装し、80℃に設定した熱風乾燥機内に30分間入れることで溶剤の除去、及び塗膜の硬化を実施して硬化塗膜積層体を得た。
【0103】
(実施例2~13、比較例1~7、及び参考例1~2)
表3~5に記載の配合に変更した以外は、実施例1と同様にしてクリア塗液を得、さらに硬化塗膜積層体を得た。
【0104】
(密着性)
硬化塗膜上に1mm間隔のクロスカット10×10の100マスとなるようにカッターで切り込みを入れ、切り込み上にニチバン製セロハンテープ(登録商標)を貼り付け、90゜上方に勢い良く剥離させ、基材から硬化塗膜が剥がれないかを目視にて観察した。完全に密着している場合を100点、完全に剥離した場合を0点とし、1マス当り1点で点数評価した。結果を表3~5に示した。
C:硬化直後の硬化塗膜積層体について行った密着性試験で100点未満
B:硬化直後の硬化塗膜積層体について行った密着性試験で100点、しかし、硬化塗膜積層体を60℃温水に24時間浸漬し、取り出してすぐ軽く水分を拭き取って行った密着性試験では100点未満
A:硬化塗膜積層体を60℃温水に24時間浸漬し、取り出してすぐ軽く水分を拭き取って行った密着性試験で100点
【0105】
(耐傷性)
消しゴム磨耗試験機[(株)光本製作所製]を用い、スチールウール#0000に500g/cmの荷重をかけて、硬化塗膜の表面をストローク長10cmで往復させ、目視評価で塗膜に傷が入る往復回数を計測した。結果を表3~5に示した。
D:往復回数10回で傷あり
C:往復回数10回で傷なし、往復回数50回で傷あり
B:往復回数50回で傷なし、往復回数100回で傷あり
A:往復回数100回で傷なし
【0106】
(耐水性)
硬化塗膜積層体を60℃温水に24時間浸漬し、取り出した後、積層体表面の水滴を拭き取り、室温にて2時間乾燥させた後に、目視にて硬化塗膜の外観変化を確認した。結果を表3~5に示した。
C:剥離、シワなどの平滑性変化あり
B:平滑性には変化なし、白化などの色調変化あり
A:外観変化なし
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
表3及び4より、実施例1~13はいずれも、中性塩(B)を用いて製造したグリシジルオキシ基を有するオルガノポリシロキサン(A)にβ-ジカルボニル化合物(C)及び溶剤(D)を配合して得たオルガノポリシロキサン溶液を、有機アルミニウム化合物又は有機チタン化合物(E)の存在下で硬化させたものであり、その硬化塗膜は、基材に対する密着性、耐傷性、耐水性いずれも良好であった。
【0111】
表5より、比較例1、2、及び4は、中性塩(B)ではなく塩基触媒であるTEAを用いて製造したオルガノポリシロキサンを使用したものであり、結果、β-ジカルボニル化合物(C)の有無に関わらず、硬化塗膜の耐傷性が十分ではなかった。比較例3は、中性塩(B)を用いて製造したオルガノポリシロキサン(A)にβ-ジカルボニル化合物(C)を配合していないオルガノポリシロキサン溶液を使用したものであり、硬化塗膜の耐傷性が十分ではなかった。比較例5は、中性塩(B)ではなく酸触媒であるDBPを用いて製造したオルガノポリシロキサンにβ-ジカルボニル化合物(C)を配合していないオルガノポリシロキサン溶液を使用したものであり、耐傷性は良好であったが、基材に対する密着性が十分ではなかった。比較例6は、中性塩(B)ではなく酸触媒であるDBPを用いて製造すると共に、グリシジルオキシ基を有さず、エポキシシクロへキシル基を有するオルガノポリシロキサンを使用したものであり、耐傷性が十分ではなかった。比較例7は、中性塩(B)を用いて製造し、グリシジルオキシ基を有さず、エポキシシクロへキシル基を有するオルガノポリシロキサンを使用したものであり、耐傷性が十分ではなかった。
【0112】
参考例1は、有機アルミニウム化合物又は有機チタン化合物(E)を配合せずに硬化させたものであり、基材に対する密着性、耐傷性、耐水性いずれも十分ではなかった。参考例2は、有機アルミニウム化合物又は有機チタン化合物(E)の代わりに、アミン系硬化剤であるポリアミン化合物の存在下で硬化させたものであり、基材に対する密着性と、耐傷性が十分ではなかった。以上より、オルガノポリシロキサン(A)を含む樹脂組成物を硬化させて基材に対する密着性、耐傷性、及び耐水性が良好な硬化物を得るには、有機アルミニウム化合物又は有機チタン化合物(E)の存在下で硬化させることが好適であることが分かる。