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特許7504100シェルモールド製造用の改良された鋳造用スラリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】シェルモールド製造用の改良された鋳造用スラリー
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/04 20060101AFI20240614BHJP
   B22C 1/18 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B22C9/04 E
B22C1/18 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021533241
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 FR2019052940
(87)【国際公開番号】W WO2020120882
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】1872711
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502255911
【氏名又は名称】サフラン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】ウェン チャン
(72)【発明者】
【氏名】ユリオ-アレヤンドロ アグイラー オルティツ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール ジャン サロ
(72)【発明者】
【氏名】ジュヒ シャーマ
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-143864(JP,A)
【文献】特開平04-070306(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146266(WO,A1)
【文献】特開2014-133240(JP,A)
【文献】特開平05-208241(JP,A)
【文献】特開平06-015404(JP,A)
【文献】国際公開第2007/029785(WO,A1)
【文献】特開2015-171724(JP,A)
【文献】米国特許第04740246(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/04
B22C 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属合金を含む部品を鋳造するためのシェルモールドを製造するための鋳造用スラリーであって、粉末粒子とバインダーとを含み、前記バインダーは、コロイド状酸化イットリウムを含み、前記粉末粒子は、カルシア安定化ジルコニアを含み、スラリー中のカルシア安定化ジルコニアの質量比は、68%~72%で構成され、スラリー中のバインダーの質量比は、25%~35%で構成され、スラリーの粘度が0.1~2Pa・sであることを特徴とするスラリー。
【請求項2】
成形される部品の金属と接触するように構成された接触スラリーである、請求項1に記載のスラリー。
【請求項3】
カルシア安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの質量含有率が1%~20%である、請求項1又は2に記載のスラリー。
【請求項4】
チタンアルミナイドベースの金属合金を含む部品を鋳造するためのシェルモールドを製造するための、請求項1~3のいずれか一項に記載のスラリー。
【請求項5】
シェルモールドの製造のための、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋳造スラリーの使用。
【請求項6】
部品を鋳造するためのシェルモールドを製造する方法であって、以下の工程を含む方法:
製造されるべき部品のモデルを提供することと
請求項1~4のいずれか一項に記載の接触スラリーにモデルを浸漬することと
浸漬したモデルを、酸化イットリウムを含む接触砂でサンドブラストすることと
前記工程で得られた層を乾燥させることと
モデルを補強用スラリーに浸漬し、浸漬したモデルを補強用砂でサンドブラストし、得られた層を所望のシェルモールドの厚さが得られるまで乾燥することと
部品モデルを取り出すこと。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳造の分野、特にインベストメント(又はロストワックス)鋳造プロセスに関し、より詳細には、特に鋳造シェルモールドの製造のために、そのようなプロセスで使用されるスラリーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インベストメント(又はロストワックス、もしくはロストモールド)鋳造プロセスは、それ自体は古代から知られていた。そのようなプロセスは、例えばFR3031921に記載されている。そのようなプロセスは、複雑な形状の金属部品の製造に特に適している。インベストメント鋳造は、例えば、ターボマシンのブレードやインペラーセクターなどの製造に用いられる。インベストメント鋳造では、まず最初にワックスや樹脂などの比較的低融点の材料でモデルを作り、その周りに耐火物のシェルを作ることからなるシェルモールドの製造が一般的である。モデルを破壊した後、最も一般的な方法は、名前の由来となったシェルモールド中からモデルの材料を排出し、排出後にモールドの中にできたモデルの空洞を埋めるために、このモールドに溶かした金属を流し込む。金属が冷えて固まると、モールドを開いたり破壊したりして、モデルの形状に適合した金属部品を回収することができる。
【0003】
甲羅のモールドを作るには、一般的にワックスモデルを鋳造用スラリーに浸した後、砂を塗って乾燥させる。これらの作業を繰り返すことで、複数の層を形成し、所望の厚さと機械的強度のシェルモールドを得ることができる。しかし、鋳造された金属部品の品質を左右するのは、接触スラリーと呼ばれる最初に使用されるスラリーの層である。実際、この接触スラリーによって、成形される金属部品の金属と直接接触するシェルモールドの内面が形成される。
【0004】
航空分野では、タービンブレードなどの部品を製造する際に、このインベストメント鋳造法が用いられている。特に、チタンアルミナイド(TiAl)をベースにした金属間化合物は、密度が低いため、これらのブレードの製造に頻繁に使用されている。このタイプの合金は、シェルモールドの成分と反応しやすく、シェルモールドが部品の金属と接触すると、部品の表面仕上げが損なわれるという特徴がある。この影響を抑えるために、酸化イットリウム粉末とコロイド状の酸化イットリウムを含むバインダーを含む接触スラリーを使用することが知られている。しかしながら、このスラリーは不安定であるという欠点がある。実際、この組成の接触スラリーは、数時間後、例えば3~4時間後にはすぐにゲル化する傾向がある。この欠点のため、このタイプのスラリーの産業用途は限られている。さらに、このタイプのスラリーは高価である。
【0005】
代わりに、ある種の添加剤を使用することができたが、スラリーのあるパラメータの改善が、別のパラメータの許容できない回帰によって補償されない限り、これらの添加剤のいずれも満足できるものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、経時的な安定性が向上した新しいタイプの接触スラリーが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、金属合金を含む部品を鋳造するためのシェルモールドを製造するための鋳造用スラリーに関し、このスラリーは、粉末粒子とバインダーとを含み、このバインダーは、コロイド状酸化イットリウムを含み、この粉末粒子は、カルシア安定化ジルコニアを含む。
【0008】
鋳造用スラリーは、溶融金属が注がれるシェルモールドの形成に使用するのに適したスラリーである。特に、任意の懸濁液とは異なり、このようなスラリーは、バインダー、すなわち、粉末粒子間の凝集力を確保し、焼結中及び焼結後のシェルモールドに機械的強度を付与する化合物を含む。このバインダーは無機物であってもよい。従来、この粉末粒子は、砂粒子(「フラワー」としても知られている)、特に耐火性粒子であり、一般に、1マイクロメートルから100マイクロメートルの間の直径を有する。
【0009】
本開示で用いる鋳造用スラリーは、コロイド状の酸化イットリウムを含むバインダーと、ジルコニアを含む粉末粒子とを含む。驚くべきことに、粉末粒子中にカルシア安定化ジルコニア(CSZ)が存在することで、酸化イットリウムを含むスラリーが有意に安定化し、十分な流動性、すなわち低粘度が維持されることが本発明者らによって確認された。逆に、本開示の組成、すなわち、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)を含む粉末粒子とコロイド状の酸化イットリウムを含むバインダー、を有さない先行技術のスラリー(例えば、酸化イットリウムを含む粉末粒子とコロイド状の酸化イットリウムを含むバインダー)は、経時的に粘度が上昇し、スラリーがゲル化する傾向があることがわかった。
【0010】
本開示のスラリーでは、カルシア安定化ジルコニアを用いることで、バインダーと粉末粒子との間の相互作用を修正してスラリーを安定化させつつ、チタンアルミナイド(TiAl)合金などの成形される金属との反応性を低く保ち、酸化イットリウム粉末とコロイド状酸化イットリウムを含むバインダーとを含むスラリーよりもさらに反応性を低く保つことができる。このようにして得られたスラリーは、寿命が長く、再利用することができる。また、使用する浴は、ロスにつながることなく大きくすることができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、スラリーは、成形される部品の金属と接触するように構成された接触スラリーである。
【0012】
成形時に部品の金属と直接接触する、最初に使用されるスラリーは接触スラリーと呼ばれ、これに対して後続のスラリーは補強スラリーと呼ばれ、成形されるシェルモールドの前の層を覆うものである。接触スラリーは、成形品の形状に適合し、変化しないように構成されている。接触スラリーは、より早く消費される補強スラリーよりも長い期間保持されることが多く、それゆえ、接触スラリーの安定性の必要性が高まる。したがって、本開示によるスラリーは、その経時的な安定性及びTiAlなどの特定の金属との非反応性のため、接触スラリーとして使用するのに特に適している。
【0013】
特定の実施形態では、カルシア安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの質量含有率は、1%~30%、好ましくは3%~20%、より好ましくは5%~10%で構成される。
【0014】
特定の実施形態では、スラリー中のカルシア安定化ジルコニアの質量比は、65%~75%、好ましくは68%~72%、より好ましくは70%に等しい値で構成される。
【0015】
特定の実施形態では、スラリー中のバインダーの質量比は、20%~40%、好ましくは25%~35%、より好ましくは29.8%に等しい値で構成される。
【0016】
特定の実施形態では、スラリー中の添加剤の質量比は10%未満、好ましくは0.1%~5%、より好ましくは0.5%~2%である。
【0017】
特定の実施形態では、スラリーの粘度は0.1~2Pa・sで構成される。
【0018】
より正確には、スラリーの粘度は、少なくとも24時間の間、0.1~2Pa・sの間で構成される値に維持される。特に、これらの値は、モデルの特定の狭いゾーンへのスラリーのアクセスを容易にする。
【0019】
特定の実施形態では、鋳造スラリーは、チタンアルミナイドベースの金属合金を含む部品を鋳造するためのシェルモールドの製造のために構成される。
【0020】
開示によるスラリーは、経時的な安定性と、チタンアルミナイド(TiAl)ベースの金属合金との非反応性のため、接触スラリーとして使用するのに特に適している。
【0021】
本開示はまた、シェルモールドの製造のための、先行する実施形態のいずれか1つに従った鋳造スラリーの使用に関するものである。
【0022】
本開示は、部品を鋳造するためのシェルモールドを製造する方法にも関しており、この方法は、以下の工程を含む。
製造されるべき部品のモデルを提供することと
前述の実施形態のいずれかに従った接触スラリーにモデルを浸漬することと
浸漬したモデルを、酸化イットリウムを含む接触砂でサンドブラストすることと
前記工程で得られた層を乾燥させることと
モデルを補強用スラリーに浸漬し、浸漬したモデルを補強用砂でサンドブラストし、得られた層を所望のシェルモールドの厚さが得られるまで乾燥することと
部品モデルを取り出すこと。
【0023】
特定の実施形態では、補強用スラリーは、バインダーと粉末粒子とを含み、バインダーは、エチルシリケート、シリケートナトリウム、又は、特にコロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイダル酸化イットリウム、もしくはコロイダルジルコニアを含むコロイドより選ばれる。
【0024】
特定の実施形態では、粉末粒子は、アルミナ、ムライト、ジルコニア、ムライト-ジルコニア複合体のうちの少なくとも1つの化合物を含む。
【0025】
本開示はまた、先の実施形態のいずれか1つに従った方法によって得られたシェルモールドに関するものである。
【0026】
本開示による方法によって得られたシェルモールドは、このシェルモールドで鋳造された航空エンジンブレードなどの金属部品の表面に形成される酸素リッチな反応層を制限する。ここで、反応層とは、酸素濃度がベース合金で測定された濃度の少なくとも2倍以上になる厚さと定義される。特に、1600℃で5分間の等温接触を行った場合、このようにして得られた部品では、この反応層が15μm未満に留まっている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明とその利点は、非限定的な例として与えられた本発明の様々な実施形態の以下の詳細な説明を読むことで、よりよく理解されるであろう。この説明は、添付された図のページを参照している。
【0028】
図1図1は、鋳造プロセス用のシェルモールドの製造方法の工程を模式的に表す。
【0029】
図2図2は、制御用スラリー及び本開示のスラリーの粘度の変化を、せん断応力の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
航空部品、特にタービンブレード又はタービンブレードクラスタを製造するための方法は、鋳造プロセスである。このプロセスの様々な工程は、例えば、文献FR3031921に記載されている。
【0031】
このプロセスの最初の工程では、「非永久的クラスター」とも呼ばれるワックス・クラスター・モデルを作成する。第2の工程では、ワックス・クラスターからシェルモールドを作る。この作業の最後に、クラスターモデルを構成するワックスをモールドから除去する。このワックスの除去は、オートクレーブなどでシェルモールドをワックスの溶融温度よりも高い温度で加熱することによって行われる。第3の工程では、シェルモールドに溶かした金属を流し込むことで、シェルモールド内に金属ブレードクラスターを形成する。第4の工程では、金属がシェルモールド内で冷えて固まった後、クラスターをシェルモールドから取り出す。最後に、第5工程において、各ブレードをクラスターの他の部分から分離し、機械加工などの仕上げ処理を行う。
【0032】
本発明は、特に、金属鋳造が行われるシェルモールドの製造に関するものであり、より具体的には、このモールドの製造に使用される接触スラリーに関するものである。このプロセスの様々な工程は、図1に示されている。
【0033】
第1の工程(工程S1)は、部品の、ワックス又は後で容易に排出できる他の同等の材料で作られたモデルを提供することを含む。第2の工程では、ワックスモデルを、粉末粒子とバインダーとを含む第1のスラリーである接触スラリーに浸す(工程S2)。その後、サンドブラスト、すなわちコンタクトスタッコと呼ばれる砂粒子の堆積が行われ、その後、得られた層の乾燥が行われる(工程S3)。このサンドブラスト工程により、層が補強され、次の層の接着が容易になる。
【0034】
このようにして得られた層を、次に、補強スラリーと呼ばれる第2のスラリーに浸す(工程S4)。続いて、補強スタッコと呼ばれる砂粒子の堆積が行われ、その後、得られた層の乾燥が行われる(工程S5)。決められた厚さのシェルモールドが得られるまで、工程S4とS5をN回繰り返す。最後に、所望の厚さに達すると、ワックスモデルをモデルから除去した後、熱処理を行うことからなる脱脂工程が行われる(工程S6)。ワックスモデルを除去した後、キャビティが成形される部品のすべての細部をネガティブに再現したセラミックシェルモールドが得られる。熱処理は、得られた鋳型の焼成を含み、焼成温度は好ましくは1000~1200℃で構成される。
【0035】
使用されるスラリーは、セラミック材料、特にアルミナ、ムライト、ジルコニアなどの粒子を、ミネラルコロイドのバインダーと、必要に応じて湿潤剤や消泡剤などのアジュバントで構成されている。
【0036】
チタンアルミナイド(TiAl)ベースの航空部品の製造においては、工程S2で使用される接触スラリーは、酸化イットリウムを含んでいる。また、工程S3で使用される接触スタッコは、酸化イットリウムを含んでいてもよい。工程S4及び工程S5で使用される補強スラリー及び補強スタッコは、例えば、ムライト、アルミナ、シリコアルミナ、シリカ、ジルコン、ジルコニア又は酸化イットリウムを含んでいてもよい。
【0037】
本発明は、より詳細には、工程S2で使用される接触スラリーに関し、特に、その中の粉末粒子にコロイド状の酸化イットリウム及びカルシア安定化ジルコニア(CSZ)が存在することに関するものである。
【0038】
接触スラリー中のCSZの存在の影響を理解するために、本発明者らは、まず、シェルモールドの製造のための接触スラリーとして使用することを意図した、スラリーAと称される対照スラリーを研究した。スラリーAは、質量%で表して以下の組成を有することができる。
- バインダー(コロイド状酸化イットリウム):24.5%;
- 粉末粒子(酸化イットリウム粉末):75%;
- 湿潤剤、消泡剤及びその他の添加剤:0.5%。
この質量分布は例として挙げられているが、最大10%の質量分布の変動が可能であることが理解される。スラリーAはCSZを含まない。
【0039】
さらに、本発明者らは、本発明者らがスラリーAと同様のTiAlとの反応性を示すと判断したスラリーBについて検討したところ、その粉末粒子は、CaOが安定化剤として作用するカルシア安定化ジルコニア(CSZ)を含むものであった。CSZは、例えば、反応焼結によって得られる。粉末中の質量%でのCaO含有量は、1重量%~20重量%で構成される。このようにして得られたスラリーBは、以下の質量%を有している。
- バインダー(コロイド状酸化イットリウム):29.8;
- 粉末粒子(CSZ):70%、うち5%がCaO;
- 湿潤剤、消泡剤、その他の添加剤:0.2%。
【0040】
同様に、この質量分布はここでは例として示されているが、先に述べた範囲で質量分布の変化が可能であることは理解される。
【0041】
スラリーBはまた、不可避の不純物を含む。不可避の不純物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化チタン(TiO)、酸化鉄(Fe)又はアルミナ(Alを挙げることができる。不可避の不純物とは、組成物に意図的に添加されておらず、他の元素と一緒に持ち込まれる元素と定義される。
【0042】
図2に示す曲線は、本開示による接触スラリーに使用される組成物がその安定性に与える影響を示している。この図は、スラリーの動的粘度η(Pa・s)の変化を、このスラリーに適用されるせん断の関数として示している。これらの測定は、同軸の円筒形状を持つ回転式レオメーターを使用して、0.1~100s-1で構成されるせん断をスラリーに加えることで行われている。より正確には、動的粘度ηは、せん断応力τとせん断速度γから、η=τ/γの関係に従って、非正規化された方法で計算することができる。曲線(a)は0.5時間後のスラリーAの粘度、曲線(b)は2時間後のスラリーAの粘度、曲線(c)は3.5時間後のスラリーAの粘度、曲線(d)は24時間後の本発明のスラリーBの粘度を表しており、上記の時間はスラリーの製造終了に対応する時間t0から求めたものである。
【0043】
0.5時間後と2時間後のスラリーAの粘度を示す曲線(a)と(b)は、実質的に一致している。0.1s-1オーダーの低せん断では、スラリーAの粘度は2時間後に4Pa・sとほぼ等しい。この粘度はその後、時間とともに非常に急速に増加し、3.5時間後には25Pa・sを超える値に達する。
【0044】
逆に、本発明のスラリーBの粘度を示す曲線(d)を見ると、スラリーBの粘度は、せん断を加えても24時間後に1Pa・s以下を維持している。このように、スラリーBは、スラリーAに比べて安定性が向上しており、調製後24時間経過しても低粘度を維持して流動性が保たれている。さらに、スラリーBの組成は、TiAl合金との反応性が低く、スラリーAと同等以上の反応性を維持している。
【0045】
本発明を特定の例示的な実施形態を参照して説明してきたが、特許請求の範囲によって定義される本発明の一般的な範囲から逸脱することなく、これらの例に修正及び変更を加えることができることは明らかである。特に、様々な図示/言及された実施形態の個々の特徴は、追加の実施形態において組み合わせてもよい。したがって、説明及び図面は、制限的な意味ではなく、例示的な意味で考慮されるべきである。
【0046】
また、プロセスを参照して説明したすべての特徴は、単独で、又は組み合わせて、装置に移植可能であり、逆に、装置を参照して説明したすべての特徴は、単独で、又は組み合わせて、プロセスに移植可能であることも明らかである。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]-[8]に記載する。

[1]
金属合金を含む部品を鋳造するためのシェルモールドを製造するための鋳造用スラリーであって、粉末粒子とバインダーとを含み、前記バインダーは、コロイド状酸化イットリウムを含み、前記粉末粒子は、カルシア安定化ジルコニアを含み、スラリー中のカルシア安定化ジルコニアの質量比は、65%~75%、好ましくは68%~72%、より好ましくは70%に等しい値で構成されることを特徴とするスラリー。
[2]
成形される部品の金属と接触するように構成された接触スラリーである、項目1に記載のスラリー。
[3]
カルシア安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの質量含有率が1%~20%である、項目1又は2に記載のスラリー。
[4]
スラリーの粘度が0.1~2Pa・sである、項目1~3のいずれか一項に記載のスラリー。
[5]
チタンアルミナイドベースの金属合金を含む部品を鋳造するためのシェルモールドを製造するための、項目1~4のいずれか一項に記載のスラリー。
[6]
シェルモールドの製造のための、項目1~5のいずれか一項に記載の鋳造スラリーの使用。
[7]
部品を鋳造するためのシェルモールドを製造する方法であって、以下の工程を含む方法:
製造されるべき部品のモデルを提供することと
項目1~5のいずれか一項に記載の接触スラリーにモデルを浸漬することと
浸漬したモデルを、酸化イットリウムを含む接触砂でサンドブラストすることと
前記工程で得られた層を乾燥させることと
モデルを補強用スラリーに浸漬し、浸漬したモデルを補強用砂でサンドブラストし、得られた層を所望のシェルモールドの厚さが得られるまで乾燥することと
部品モデルを取り出すこと。
[8]
項目7記載の方法により得られるシェルモールド。
図1
図2