(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】SIMS質量スペクトルデータを分析するための方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240614BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240614BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20240614BHJP
H01J 49/30 20060101ALI20240614BHJP
H01J 49/14 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
G01N27/62 G
G01N27/62 D
H01J49/00 360
H01J49/00 310
H01J49/02 500
H01J49/30
H01J49/14 500
(21)【出願番号】P 2021535706
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2019086920
(87)【国際公開番号】W WO2020128092
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-11
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】518008275
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティトゥート オブ サイエンス アンド テクノロジー(リスト)
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ビルツ,トム
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028921(JP,A)
【文献】特開2015-028919(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0356425(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0170892(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62 - G01N 27/70
G01N 23/00 - G01N 23/2276
H01J 40/00 - H01J 49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある範囲の質量についての、所与の質量分解能での、それぞれの2次イオンカウントを表す、2次イオン質量スペクトルデータを分析するための方法であって、前記質量スペクトルデータは、サンプルの少なくとも1つのボクセルの2次イオン質量分析、SIMS、によって得られたものであり、方法は、
a)データ処理手段を使用して、前記質量スペクトルデータにおけるピークを検出し、検出されたピークごとに対応する質量を第1のメモリ要素に記憶するステップ、
b)データ処理手段を使用して、
第2のメモリ要素に事前記録された質量とイオン種/クラスタイオンとの間の対応に基づいて、検出された各ピークを、対応する質量を有するイオン種及び/又はクラスタイオンと関連づけ、
関連づけられた結果を第3のメモリ要素に記憶するステップ
を含み、
各ピークの関連づけステップが、増加する質量の順に行われ、前記関連づけステップが、複数のクラスタイオンに対応する所与の質量でのピークについて、前記ピークを
複数のクラスタイオンの
部分集合と関連づけるステップを含み、
部分集合がより小さい質量でのピークと関連づけられている構成イオンを含むクラスタイオン
を含む、方法。
【請求項2】
- 2つ以上のイオン及び/又はクラスタイオンと関連づけられているピークを決定するステップ、
- 決定されるピークごとに、前記ピークにおける前記イオン及び/又はクラスタイオンの寄与を識別するために、対応する質量スペクトルデータをデコンボリューションするステップ、
および、
デコンボリューションされた質量スペクトルデータを前記第3のメモリ要素に記憶するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
- 少なくとも第1の質量での第1のピーク及び第2の質量での第2のピークを含む、質量スペクトルデータの少なくとも一部を決定するステップであって、第2の質量と第1の質量との差が、質量スペクトルデータの分解能で分解され得る最小の質量差よりも小さい、ステップ、
- 前記質量スペクトルデータ中の、前記第1及び第2のピークと関連づけられるイオン及び/又はクラスタイオンの寄与を識別するために、対応する質量スペクトルデータをデコンボリューションするステップ
をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記デコンボリューションするステップが、ガウス関数のセットを検出されたピークの形にフィットさせる最適化問題を解くステップを含み、各ガウス関数は、ピークが検出された質量の中心に合わせられ、各ガウス関数が、前記ピークと関連づけられているイオン種/クラスタイオンを表している、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記データ処理手段を使用して、前記質量スペクトルデータにおける検出されたピークと関連づけられている、単原子及び/又はクラスタイオンとして検出されたそれぞれの種iの濃度c
iを、相対的定量化する後続のステップをさらに含み、
【数1】
であり、
ここで、p
i,jは、単原子又はクラスタイオンjのイオン化確率であり、
n
i,jは、2次単原子又はクラスタイオンjの種iの原子数であり、
s
i,jは、jの単原子又はクラスタイオンの強度であり、
jについての総和が、化学種iを含む単原子イオン又はクラスタイオンだけを含み、
kについての総和が、質量スペクトルに存在するすべての化学元素にわたり、lについての総和が、元素kを含むすべての単原子又はクラスタイオンを含み、
q
kは、元素kを含む単原子又はクラスタイオンの数であり、
- イオン化確率p
i,jが、負の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって、
【数2】
を使用して計算され、
ここで、p
iは、単原子又はクラスタイオンiのイオン化確率であり、p
0は、9.5×10
-7に等しい定数であり、
χ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陰性度であり、
EA
i,SIMSは、実験的に得られた電子親和力であり、
χ
CSは、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電子親和力であり、
- イオン化確率p
i,jが、正の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって、
【数3】
を使用して計算され、
ここで、p
0は、9.5×10
-7に等しい定数であり、ε
Ψ,Iは、特性エネルギーであり、
Ψ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陽性度であり、
I
i,SIMSは、イオン化エネルギーであり、Ψ
0は、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電気陽性度である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記データ処理手段を使用して、前記質量スペクトルデータにおける検出されたピークと関連づけられている、単原子イオン及び/又はクラスタイオンとして検出されたそれぞれの種iの濃度c
iを、絶対的定量化する後続のステップをさらに含み、
【数4】
であり、
ここで、Vは、単原子又はクラスタイオンiの検出中にスパッタされた材料の体積であり、
p
i,jは、単原子又はクラスタイオンjのイオン化確率であり、
n
i,jは、2次単原子又はクラスタイオンjの種iの原子数であり、
s
i,jは、jの単原子又はクラスタイオンの強度であり、
jについての総和が、化学種iを含む単原子又はクラスタイオンだけを含み
、
- イオン化確率p
i,jが、負の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって、
【数5】
を使用して計算され、
ここで、p
iは、単原子又はクラスタイオンiのイオン化確率であり、p
0は、9.5×10
-7に等しい定数であり、
χ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陰性度であり、
EA
i,SIMSは、実験的に得られた電子親和力であり、
χ
CSは、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電子親和力であり、
- イオン化確率p
i,jが、正の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって、
【数6】
を使用して計算され、
ここで、p
0は、9.5×10
-7に等しい定数であり、ε
Ψ,Iは、特性エネルギーであり、
Ψ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陽性度であり、
I
i,SIMSは、イオン化エネルギーであり、Ψ
0は、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電気陽性度である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)の前に、平滑化フィルタが前記スペクトルデータに適用され、ステップa)-b)が
、平滑化されたスペクトルデータに対して適用される、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記平滑化フィルタが、平滑化されたスペクトルデータの1次及び2次導関数が存在することを保証しながら、元のスペクトルデータにおけるピークを維持する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記平滑化フィルタが、Savitzky-Golayフィルタである、請求項
7又は8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記平滑化されたスペクトルデータにおけるピークの識別が、前記平滑化されたスペクトルデータの2次導関数が極小値を与える質量の識別を含む、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記質量スペクトルデータが、前記サンプルの複数のボクセルについて得られた集計データである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記質量スペクトルデータが、磁気セクタ分析器を備えるSIMS機器を使用して得られたものである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記質量スペクトルデータが、ある範囲の電荷/質量比内のイオンを検出可能な、検出器組立体を使用して得られたものである、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
2次イオン質量スペクトルデータ分析デバイスであって、質量スペクトルデータが、サンプルの少なくとも1つのボクセルの2次イオン質量分析、SIMS、によって得られたものであり、所与の質量分解能での、ある範囲の質量についての、それぞれの2次イオンカウントを表し、デバイスが、データ処理手段及び少なくとも1つのメモリ要素を備え、データ処理手段は、
- 前記メモリ要素に予め提供された前記質量スペクトルデータにおけるピークを検出し、検出されたピークごとに対応する質量をメモリ要素に記憶し、
-
メモリ要素に事前記録された質量とイオン種/クラスタイオンとの間の対応に基づいて、検出された各ピークを、対応する質量を有するイオン種及び/又はクラスタイオンと関連づけ、
関連づけられた結果をメモリ要素に記憶する
ように構成されており、
各ピークの関連づけステップが、増加する質量の順に行われ、前記関連づけステップでは、複数のクラスタイオンに対応する所与の質量でのピークが、
複数のクラスタイオンの
部分集合と関連づけられ、
部分集合が、より小さい質量でのピークの、
複数のクラスタイオンの構成イオンの少なくとも一部との以前の関連づけに依存する、デバイス。
【請求項15】
データ処理手段が、請求項2から13のいずれか一項に記載の方法ステップのいずれかを実行するようにさらに構成される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
コンピュータ上で走らされると、コンピュータに請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実行させる、コンピュータ可読コード手段を含む、コンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項16に記載のコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次イオン質量分析、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)、の分野にある。詳細には、本発明は、SIMS質量スペクトルデータを分析する方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
材料及び生命科学の様々な分野における将来のニーズに牽引された小型化の進展につれて、デバイス及び材料構造の3D分析はますます難しくなっている。その結果、過去10年間で、2峰性のナノ分析さらには多峰性のナノ分析を行うことへの関心が高まってきている。具体的には、優れた空間分解能と高感度の化学情報との両方を提供するナノ分析技法及び機器が、ナノスケールでの調査にとって最も重要である。
【0003】
分析及び画像化する目的で、2次イオン質量分析、SIMS、デバイスを使用することが知られている。知られているSIMSデバイスでは、収束された1次イオンビームが使用され、サンプルの表面を照らす。それにより、材料がサンプルからスパッタされ、サンプルから出てくる局所的な2次イオンの放出を作る。これらの2次イオンは、様々な種類の分光計で分析され得る。一般に、2次イオンは最初に、2次イオンの質量電荷比に応じてフィルタリングされ、次いで、それに応じて検出、分類、又は画像化される。他のモードでは、サンプルの質量スペクトル又は深さプロファイルの記録を含む。
【0004】
具体的には、SIMSの優れた感度、SIMSの広いダイナミックレンジ、SIMSの優れた深度分解能、及びSIMSの同位体間を区別する能力により、SIMSは、サンプル表面及び薄膜を分析する強力な技法を構成する。SIMSの基本的な横方向の情報の限度は、2次イオンが放出される表面のエリアによって決定される。これは、1次ビームのパラメータ(イオン種、エネルギー)とサンプルの組成との両方に依存する。エネルギーが数keVから数十keVの範囲で、質量が4から133amuの1次イオンビームの場合、このエリアは2と10nmの間である。現在、市販のSIMS機器の画像化分解能は、かかる基本的な考慮すべき点ではなく、1次ビームのプローブのサイズによって制限されている。実際には、現在、Cameca NanoSIMS50(TM)機器で50nmの範囲の分解能が可能であり、この機器は、約50nmの横方向の分解能での2D元素マッピング(elemental mapping)ならびに、分析された体積の3D元素復元を作り出すことができる。その結果、たとえば生命科学、ナノテクノロジ、及び天文学において、SIMS用途の新しい分野が出現している。加えて、同位体を検出する可能性は、主として同位体標識が重要な調査技法である生命科学において、さらに他の展望を開く。
【0005】
SIMSでは、サンプルと抽出電極との間に電圧差を印加することにより、サンプルから2次イオンが抽出される。用途に依存して、SIMSでは、相異なる3タイプの質量分析計が使用される。四重極型質量分析計は、質量分解能及び透過性が最も低く、したがって本発明ではあまり利益がない。飛行時間、ToF(Time-of-flight)、質量分析計は、この技法は無制限の質量範囲につながるため、主として分子フラグメント又はさらに分子全体の検出に使用される。質量測定は、所与の起点、たとえばサンプルと検出器との間の、2次イオンの飛行時間の測定を通して行われる。飛行時間は、1次又は2次イオンビームのパルスによって開始される。同じ質量で相異なるエネルギーを有するイオンの飛行時間差(スパッタされたイオンのエネルギー分布により生じる)の補正のための、静電ミラーを装備する最新のToF質量分析計では、10000の質量分解能M/ΔMが簡単に得られる。
【0006】
ToF質量分析計と比較して、磁気セクタ型質量分析計は、ビームパルシングによって引き起こされるデューティサイクルを除去する連続分析の利点を与え、これは、1次イオンビームがDCモードで動作される場合、より良好な、全体的な感度につながるか、又は1次イオンビームがパルス化されている場合、同様の分析時間でより良好な、全体的な感度につながる。ただし、磁気セクタ型質量分析計は通常、低減した質量範囲を与え、単原子及び小さなクラスタイオンの分析への磁気セクタ型質量分析計の応用が制限される。2重収束型磁気セクタ機器では、静電分析器と磁気フィルタとを組み合わせることによって、アクロマティック質量フィルタリング(すなわち、2次イオンの初期エネルギー分布に依存しないフィルタリング)が実現される。ほとんどの知られている磁気質量分析計では、選択された質量が検出器に到達するように、磁場が調整される必要がある。したがって磁場は、分析中に、関心がある様々な質量にわたって走査される。Mattauch-Hezog設計を使用すると、並列質量検出が可能となり、すべての質量が、いくつかの検出器を含む焦点面に収束される。
【0007】
ナノメトロロジ及びナノアナリシスの技法は、材料から生命科学までの学問の分野におけるナノテクノロジ製品及びプロセスの、現在進行中の開発に不可欠である。ヘリウムイオン顕微鏡、HIM(Helium Ion Microscope)、は、画像化及びナノパターン化の理想的なツールとして登場した。2次電子、SE(secondary electron)、ベースの画像化では、ヘリウムイオン及びネオンイオンでそれぞれ0.5nm及び2nmの分解能が一般的である。20nm未満の形状の構造は、ネオンを使用して迅速にパターン化され得るのに対して、さらに小さな構造は、ヘリウムを使用してパターン化され得る。HIMは、電界電離ガスイオン源、GFIS(gas field ion source)、に基づいている。源は、極低温に冷却された、原子的に尖った先端からなる。電気バイアスが先端に印加されると、局所的な電界が、電界イオン化の閾値を超えることができる。ヘリウム又はネオンガスの原子が存在する場合、イオン化は先端の頂点で生じ、知られている最も明るいイオンビームの1つを作り出す(B>4×109A/cm2sr)。次いで、イオンビームは数十キロボルトに加速され、静電カラムによってサンプル上に収束される。イオンビームのサンプルとの相互作用が、いくつかの可能な画像化モードを生じさせる。2次電子、SE、2次イオン、SI(secondary ion)、後方散乱イオン、BSI(backscattered ion)、及びイオノルミネセンスは、すべて調査されている。
【0008】
HIMを使用した基本的なSE画像化モードは、低電圧SEMと比較していくつかの利点がある。電子と比較してイオンのより短い波長が、回折によるプローブサイズの制限をなくする。イオンビームのより小さい収束角も、一層深い被写界深度を生じさせる。電子と比較して、イオンのより高い阻止能が、一層大きいSEの発生量を生じさせ、低電流での信号対雑音比を向上させる。BSIから生じる2次電子のより低い寄与が、この技法を、より表面の影響を受けやすくする。イオンビームは、サンプルに正電荷を導入するので、電子フラッド銃を使用して、広範囲の1次ビームエネルギーにわたって、電荷補正が簡単に得られ得る。導電性コーティングを塗布する必要なしに帯電サンプルを画像化する能力は、生体試料の画像化に広く使用されている。ヘリウムの高分解能ミリング機能は、生体分子識別のためのナノポア、グラフェンナノデバイス、ナノ構造窒化ケイ素膜、並びにより小さな形状及び向上した光学的性質を有するナノフォトニック構造を含む、広範囲のナノスケール構造/デバイスを製造するために使用されている。ネオンの追加が、増加したミリング速度、およびより少ない注入及び表面下の損傷を提供することによって、ツールのミリング/機械加工機能を拡張してきた。
【0009】
こうした利点にもかかわらず、HIM機器は現在、最先端の分析機能を欠いている。この状況は、HIM機器の応用分野を制限している。
【0010】
表面の(ナノ)特性評価には、一般的に、以下のいくつかの技法が使用されている:X線光電子分光法、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)、オージェ電子分光法、AES(Auger electron spectroscopy)、走査型電子顕微鏡法、SEM(scanning electron microscopy)、エネルギー分散型X線分光法、EDS(energy dispersive X-ray microscopy)、検出器の使用、透過型電子顕微鏡法、TEM(transmission electron microscopy)、EDS若しくは電子エネルギー損失分光法、EELS(electron energy loss spectroscopy)、の使用、又は2次イオン質量分析、SIMS。これらの技法のそれぞれに、長所及び短所がある。SIMS技法の主な欠点は、従来技術で提供されているように、直接的に定量的データを提供せず、かなり複雑な定量化手順が必要とされることである。サンプルの組成の定量化は、スパッタされる物質のイオン化プロセスの、局所的なサンプルの組成への依存性により、複雑である。したがって、通常、知られているどんなソリューションでも、基準サンプルの使用が必要となる。加えて、分析の初めの時におけるSIMSの定量化は、スパッタされる物質のイオン化プロセスの変化によって複雑になる。1次イオンの注入が、通常最大1017イオン/cm2のフルエンスでサンプル表面濃度を変化させ、これは、過渡又は前平衡レジームとして定義され、2次イオンのイオン化確率の変動につながることが多い。同じ範囲の1次イオンのフルエンスでは、1つのサンプル種の優先スパッタリングも、サンプル表面濃度の変化に寄与し、ひいてはイオン化確率を変化させる。したがって、相異なるメカニズムの組合せが、カウントが実際のサンプル組成を反映しないような2次イオン強度につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Taglauer、「Surface modifications due to preferential sputtering」、1982年、Vol.13、80-93頁
【文献】Holloway等、Journal of Vacuum Science & Technology、1982年、444-448頁
【文献】Malherbe等、「Preferential sputtering of oxides:A comparison of model predictions with experimental data」、North-Holland、1986年、Vol.27、355-365頁
【文献】Wittmaack、Surf.Sci.Rep、2013年
【文献】Wittmaack、「Novel Model of Negative Secondary Ion Formation and Its Use To Refine the Electronegativity of Almost Fifty Elements」、American Chemical Society、2014年、Vol.86、5962-5968頁
【文献】Surface Science、161-186頁
【文献】Physica Scripta、1983年
【文献】Hofmeister等、Materials Science and Engineering:A、412-417頁
【文献】Zalm,P.C.、Reports on Progress in Physics、1995年、1321-1374頁
【文献】Balamurugan等、Int.J.Mass Spectrom.、2015年、386、56-60頁
【文献】Franquet等、Applied Surface Science、143-152頁
【文献】Dowsett等、Analytica Chimica Acta.、1994年、253-275頁
【文献】Hofmann等、Progress in Surface Science、1991年、35-87頁
【文献】Liu等、「Quantitative reconstruction of Ta/Si multilayer depth profiles obtained by Time-of-Flight-Secondary-Ion-Mass-Spectrometry(ToF-SIMS) using Cs+ ion sputtering」、2015年、Vol.591、Part、60-65頁
【文献】Franzreb等、Surface Science、291-309頁
【文献】Wirtzz等、Applied Surface Science、2004年、Vol.557、57-72頁
【文献】Philipp等、Int.J.Mass Spectrom.、2006年、253(1-2)、71-78頁
【文献】Donald W. Marquardt著、「An Algorithm for Least-Squares Estimation of Nonlinear Parameters」、Journal of the Society for Industrial and Applied Mathematics、Vol.11、No.2(1963年6月)、431-441頁
【文献】「Numerical Recipes」、Cambridge University Press,3edition(2007年9月10日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくともいくつかを克服する方法を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、2次イオン質量スペクトルデータを分析するための方法が提案されている。質量スペクトルデータは、ある範囲の質量についての、所与の質量分解能での、それぞれの2次イオンカウントを表し、前記質量スペクトルデータは、サンプルの少なくとも1つのボクセルの2次イオン質量分析、SIMS、によって得られたものであり、方法は:
a)データ処理手段を使用して、前記質量スペクトルデータにおけるピークを検出し、検出されたピークごとに対応する質量を第1のメモリ要素に記憶するステップ;
b)データ処理手段を使用して、検出された各ピークを、対応する質量を有するイオン種及び/又はクラスタイオンと関連づけ、質量とイオン種/クラスタイオンとの間の対応は、第2のメモリ要素に事前記録されており、結果を第3のメモリ要素に記憶するステップ
を含む。
各ピークの関連づけステップが、増加する質量の順に行われ、前記関連づけステップが、複数のクラスタイオンに対応する所与の質量でのピークについて、前記ピークをそれらクラスタイオンのうちの選択と関連づけるステップを含み、より小さい質量でのピークと関連づけられている構成イオンを含むクラスタイオンが選択される。
【0014】
好ましくは、前記選択するステップ中に、より小さい質量でのピークと関連づけられている構成イオンを含むクラスタイオンだけが、複数のクラスタイオンに対応する前記ピークと関連づけられるように選択され得る。
【0015】
前記関連づけステップにおいて、所与の質量に対応し、N、He、Ne、Ar、Kr、Xeを含むがこれらに限定されるものではない貴ガスなどの、イオン化確率の非常に低い種を含むクラスタイオンは、それらの種がより小さい質量でのピークと関連づけられていなくても、その質量でのピークと関連づけられ得る。
【0016】
好ましくは、方法は:
- 2つ以上のイオン及び/又はクラスタイオンと関連づけられているピークを決定するステップ;
- 決定されるピークごとに、前記ピークにおける前記イオン及び/又はクラスタイオンの寄与を識別するために、対応する質量スペクトルデータをデコンボリューションするステップ、
および、結果を前記第3のメモリ要素に記憶するステップ、
をさらに含み得る。
【0017】
前記第1、第2、及び/又は第3のメモリ要素は、好ましくは、同じ物理メモリ要素の論理的にアドレス可能な部分であり得る。
【0018】
データ処理手段は、好ましくは、データ処理ユニットを備えることができ、データ処理ユニットは、好ましくは、説明された方法ステップを実行するようプログラムされ得る。別法として、データ処理ユニットは、説明された方法ステップで実行する電子回路を備えてもよい。データ処理ユニットはまた、これらの選択肢の組合せを備えてもよい。
【0019】
方法は、好ましくは:
- 少なくとも第1の質量での第1のピーク及び第2の質量での第2のピークを含む、質量スペクトルデータの少なくとも一部を決定するステップであって、第2の質量と第1の質量との差が、質量スペクトルデータの分解能で分解され得る最小の質量差よりも小さい、ステップ;
- 前記質量スペクトルデータ中の、前記第1及び第2のピークと関連づけられるイオン及び/又はクラスタイオンの寄与を識別するために、対応する質量スペクトルデータをデコンボリューションするステップ
を含み得る。
【0020】
デコンボリューションするステップは、好ましくは、ガウス関数のセットを検出されたピークの形にフィットさせる最適化問題を解くステップを含むことができ、各ガウス関数は、ピークが検出された質量の中心に合わせられ、各ガウス関数は、前記ピークと関連づけられているイオン種/クラスタイオンを表している。
【0021】
方法は、さらに好ましくは、前記データ処理手段を使用して、前記質量スペクトルデータにおける検出されたピークと関連づけられている、単原子イオン及び/又はクラスタイオンとして検出されたそれぞれの種iの濃度c
iを、相対的定量化する後続のステップを含み得、
【数1】
であり、
ここで、p
i,jは、単原子又はクラスタイオンjのイオン化確率であり、
n
i,jは、2次単原子又はクラスタイオンjの種iの原子数であり、
s
i,jは、jの単原子又はクラスタイオンの強度であり、
jについての総和は、化学種iを含む単原子又はクラスタイオンだけを含み、
kについての総和は、質量スペクトルに存在するすべての化学元素にわたり、lについての総和は、元素kを含むすべての単原子又はクラスタイオンを含み、
q
kは、元素kを含む単原子又はクラスタイオンの数であり;
- イオン化確率p
i,jは、負の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって:
【数2】
を使用して計算され、
ここで、p
iは、単原子又はクラスタイオンiのイオン化確率であり、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、
χ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陰性度であり、
EA
i,SIMSは、実験的に得られた電子親和力であり、χ
CSは、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電子親和力であり、
- イオン化確率p
i,jは、正の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって:
【数3】
によって計算され、
ここで、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、ε
Ψ,Iは特性エネルギーであり、
Ψ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陽性度であり、
I
i,SIMSは、イオン化エネルギーであり、Ψ
0は、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電気陽性度である。
【0022】
方法は、さらに好ましくは、前記データ処理手段を使用して、前記質量スペクトルデータにおける検出されたピークと関連づけられている、単原子イオン及び/又はクラスタイオンとして検出されたそれぞれの種iの濃度c
iを、絶対的定量化する後続のステップを含み得ることが好ましく、
【数4】
であり、
ここで、Vは、単原子又はクラスタイオンiの検出中にスパッタされた材料の体積であり、
p
i,jは、単原子又はクラスタイオンjのイオン化確率であり、
n
i,jは、2次単原子又はクラスタイオンjの種iの原子数であり、
s
i,jは、jの単原子又はクラスタイオンの強度であり、
jについての総和は、化学種iを含む単原子又はクラスタイオンだけを含み、
kについての総和は、質量スペクトルに存在するすべての化学元素にわたり、lについての総和は、元素kを含むすべての単原子又はクラスタイオンを含み、
q
kは、元素kを含む単原子又はクラスタイオンの数であり、
- イオン化確率p
i,jは、負の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって:
【数5】
によって計算され、
ここで、p
iは、単原子又はクラスタイオンiのイオン化確率であり、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、
χ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陰性度であり、
EA
i,SIMSは、実験的に得られた電子親和力であり、χ
CSは、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電子親和力であり、
- イオン化確率p
i,jは、正の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって:
【数6】
によって計算され、
ここで、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、ε
Ψ,Iは特性エネルギーであり、
Ψ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陽性度であり、
I
i,SIMSは、イオン化エネルギーであり、Ψ
0は、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電気陽性度である。
【0023】
好ましくは、ステップa)の前に、平滑化フィルタが前記スペクトルデータに適用され得、ステップa)-b)は、前記結果としてもたらされた、平滑化されたスペクトルデータに対して適用され得る。
【0024】
前記平滑化フィルタは、好ましくは、平滑化されたスペクトルデータの1次及び2次導関数が存在することを保証しながら、元のスペクトルデータにおけるピークを維持できる。
【0025】
平滑化フィルタは、好ましくは、Savitzky-Golayフィルタであり得る。
【0026】
好ましくは、前記平滑化されたスペクトルデータにおけるピークの識別は、前記平滑化されたスペクトルデータの2次導関数が極小値を与える質量の識別を含み得る。
【0027】
質量スペクトルデータは、好ましくは、前記サンプルの複数のボクセルについて得られた、集計データであり得る。
【0028】
好ましくは、前記質量スペクトルデータは、磁気セクタ分析器を備えるSIMS機器を使用して得られ得る。
【0029】
質量スペクトルデータは、好ましくは、ある範囲の電荷/質量比内のイオンを検出可能な、検出器組立体を使用して得られ得る。
【0030】
本発明の別の態様によれば、2次イオン質量スペクトルデータ分析デバイスが提案され、質量スペクトルデータは、サンプルの少なくとも1つのボクセルの2次イオン質量分析、SIMS、によって得られたものであり、ある範囲の質量についての、所与の質量分解能での、それぞれの2次イオンカウントを表す。分析デバイスは、データ処理手段及び少なくとも1つのメモリ要素を備え、データ処理手段は:
- 前記メモリ要素に予め提供された前記質量スペクトルデータにおけるピークを検出し、検出されたピークごとに対応する質量をメモリ要素に記憶し;
- 検出された各ピークを、対応する質量を有するイオン種及び/又はクラスタイオンと関連づけ、質量とイオン種/クラスタイオンとの間の対応は、メモリ要素に事前記録されており、結果をメモリ要素に記憶する;
ように構成されており、
各ピークの関連づけステップは、増加する質量の順に行われ、前記関連づけステップでは、複数のクラスタイオンに対応する所与の質量でのピークが、それらクラスタイオンのうちの選択と関連づけられ、選択は、より小さい質量でのピークの、それらクラスタイオンの構成イオンの少なくとも一部との以前の関連づけに依存する。
【0031】
データ処理手段は、さらに好ましくは、本発明の前の態様による方法ステップのいずれかを実行するように構成され得る。
【0032】
本発明のさらに別の態様によれば、コンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラムが提案され、コンピュータプログラムは、コンピュータ上で走らされると、コンピュータに本発明の態様による方法を実行させる。
【0033】
本発明の最終的な態様によれば、本発明の前の態様によるコンピュータプログラムが記憶されるコンピュータ可読媒体を含む、コンピュータプログラム製品が提案される。
【0034】
本発明の態様による方法は、サンプルのSIMSによって得られた質量スペクトルを記述するデータの、自動ピーク検出を可能にする。さらに、完全に分解されたピークの場合、対応するイオン種又はクラスタイオンがピークに割り当てられる。本発明のさらに好ましい実施形態によれば、完全に分解されていない、すなわち、提供された質量スペクトルデータの分解能で分解され得る最小質量差よりも互いに近接しているピークを含む部分のスペクトルデータは、寄与しているイオン種及び/又はクラスタイオンを識別するために、デコンボリューションされる。より小さい質量で分解されたイオン種を考慮に入れることにより、そのように検出されてデコンボリューションされたピークは、前記の既に検出されたイオン種を意味するクラスタイオンに割り当てられ得る。方法は、対応する基準サンプルの以前の特性評価に依存することなく、分析されるサンプルで検出されるイオン種及び/又はクラスタイオンの定量化をさらに提案した。本発明によって提案される態様は、広い質量範囲をカバーする単一の検出器を使用して得られ得る、又はそれぞれがより小さな質量範囲をカバーする多数の検出器を使用して得られ得る、SIMSスペクトルデータの複雑でない分析を可能にする。
【0035】
飛行時間型質量分析計を備えたSIMS機器は、単一のステップで全質量スペクトルの記録を可能にするが、感度が比較的低く、デューティサイクルが低いという欠点がある。磁気セクタ機器を装備したSIMS機器は、高感度及び高デューティサイクルの利点を有しているが、これまで、機器に依存して、検出が並列で、1から7質量に制限されるという欠点を有していた。HIMによる質量分析計用の焦点面検出器の開発により、全質量スペクトルの並列検出が、高いデューティサイクルと併せて可能になる。連続的な1次イオンビームに関係する高いデューティサイクルにより、大量のデータが短時間で記録される。本発明による態様は、単一の焦点面検出器と組み合わせる可能性がある、HIMによるSIMSを使用して得られる、SIMS質量スペクトルデータの自動分析に特に有用である。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態は、本発明の範囲を限定するものではない図によって示されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施形態による方法で分析される、人工のSIMS質量スペクトルデータを示す図である。
【
図2】(a)21から30amuの質量範囲、及び(b)200から215amuの、Savitzky-Golayアルゴリズムを使用した平滑化前後の質量スペクトルの一部を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態による、202から212amuの質量範囲についての、生の質量スペクトルを、平滑化された曲線、平滑化された曲線の2次導関数、及び2次導関数から推測されるピークの位置と共に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による、Levenberg-Marquardtアルゴリズムを使用した、202から212amuの質量範囲のデコンボリューションされた質量スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
このセクションは、本発明を、説明されている実施形態に限定することなく、好ましい実施形態及び図に基づいて、本発明の特徴をさらに詳細に説明する。特に明記しない限り、特定の実施形態のコンテキストにおいて説明されている特徴は、説明されている他の実施形態の追加される特徴と組み合わされ得る。説明全体を通して、本発明の様々な実施形態にわたる同様の又は同じ概念については、同様の参照番号が使用されることになる。
【0039】
本発明の好ましい実施形態による方法を説明することを目的に、
図1は、人工の2次イオン質量スペクトルデータの説明図を提供する。データは、所与の質量分解能での、ある範囲の質量のイオンカウントを提供している。かかるデータは、サンプルのボクセルから、任意の種類のSIMS機器を使って得られ得る。サンプルが、類似の組成を有することが先験的に知られている複数のエリアを含む場合、ボクセルごとに結果としてもたらされたそれぞれのイオンカウントは、
図1に示されるデータなどの質量スペクトルの集計データに積算され得る。質量スペクトルデータを得るために任意のSIMS機器が使用され得るが、好ましくは、データは、磁気セクタ機器を使用して、広範囲の質量にわたるイオンカウントを検出できる単一の焦点面検出器を使用して得られ得る。検出器は、したがって当技術で知られており、検出器の機能は、本発明のコンテキストでは説明されない。使用されるどの機器も、取得されたデータに反映される、制限された質量分解能しか提供しない:機器は、分解され得る最小質量差を定義している。方法は、質量スペクトルデータ中に存在するピークに、イオン種及び/又はクラスタイオンを帰することを目的としている。
【0040】
したがって、第1のステップでは、データ処理手段を使用してピークが検出される。データ自体は、メモリ要素に予め提供される一方で、データ処理手段は、好ましくは、少なくとも読取りアクセスできるメモリ要素を有するデータプロセッサを備え、データプロセッサは、たとえば、適切にコード化されたソフトウェアを通して、前記質量スペクトルデータにおける信号ピークを検出するように構成される。ピークを検出するための任意の知られている方法が使用され得、ピーク検出がどのように実現され得るかの具体例が、後で提供される。
図1の例では、m
1、m
2、m
4、m
5、及びm
7とラベル付けされた質量に対して、ピークが検出されることになる。より大きい質量インデックスラベルが、より大きい質量を示していることに留意されたい。
【0041】
データ処理手段は、質量とイオン種/クラスタイオンとの間の対応が予め提供されている、たとえばデータベース化されたさらなるメモリ要素にアクセスできる。表Iは、かかるメモリ要素の内容の例を提供しており、
図1の例で使用される人工のデータを使用している。各質量ラベルは、それぞれs
i又はs
is
jとラベル付けされたイオン種又はクラスタイオンに対応する。イオン種とクラスタイオンとの両方が、所与の質量に対応する場合があることに留意されたい。
【0042】
【0043】
データ処理手段は、検出されたピークの、対応する質量を有する対応するイオン種及び/又はクラスタイオンとの関連づけを進める。これは、増加する質量の順で進めることによって実現される。たとえば、質量m1及びm2でのピークは、それぞれイオン種s1及びs2と関連づけられる。質量m4でのピークは、クラスタイオンs1s10、s1s11、又はs3s12のいずれかに対応し得る。ただし、種s3は、質量m3で検出されていないので、質量m4に帰することの候補として選択されない。より小さい質量でのスペクトルデータの分析によって提供されるコンテキストは、データ処理手段が、この分析ステップ中に現実的な候補だけを自動的に選択することを可能にする。同じ推論が、質量m5でのピークにも適用され;そのため、候補のクラスタイオンs4s11が、対応するピークと関連づけられることはない。
【0044】
好ましい実施形態では、上記の手法の例外は、非常に低いイオン化確率を有するイオン種に対して作られ得、それらは、別個のイオン種としてよりもクラスタイオンとして検出することがより容易である。その場合、前記種(たとえば貴ガス)を含むクラスタイオンは、対応する種がより小さい質量で分離して検出されなかったとしても、対応する質量で検出されたピークと関連づけられることになる。
【0045】
表IIは、
図1で示されたデータにおける検出されたピークとイオン種/クラスタイオンとの間の、結果としてもたらされた関連づけを提供している。この結果は、データ処理手段が少なくとも書込みアクセスする、構造化されたメモリ要素に記憶される。結果は、分析されたサンプルの組成を理解するのに役立ち、データ処理手段によって自動的に提供される。
【0046】
【0047】
本発明の別の実施形態によれば、表IIの例で示されるように、結果としてもたらされたデータは、さらに生じるどんな対立をも解決するために、さらに処理される。質量m4でのピークの例で示されているように、いくつかのクラスタイオンが単一のピークと関連づけられた状態で残る場合がある。それらがすべて、様々な濃度でサンプル中に存在する場合があり、又は、ピークは、関係づけられるクラスタイオンのどれか一方に排他的に帰される場合がある。
【0048】
質量でのピークが検出される場合、質量の差が、元の質量スペクトルデータが得られた質量分解能よりも小さいという、別の対立が生じる。他の例では、スペクトルデータは、ピークが検出されなかった質量にわたっているが、質量が、データで分解される最小の差よりも検出されたピークに近接している場合がある。
図1では、この状況は、ラベルm
6の質量とラベルm
7での質量との間で生じている。
【0049】
こうした対立は、データ処理手段で、質量スペクトルデータの対応する部分のデコンボリューションに進むことによって解決される。いくつかのデコンボリューションアルゴリズムが従来技術で知られており、例は後で提供される。デコンボリューションは、合計で全体的な質量スペクトルデータとなる構成信号を提供する。対応する部分は、関連づけ表(たとえば、表II)、及び質量スペクトルデータが取得された、知られている分解能に基づいて、データ処理手段で検出される。これは、データ処理手段が、たとえば、質量m5からm7を含むデータ部分が質量m6での隠れたピークをマスクする可能性があるのを、検出することを可能にする。関心がある部分は、たとえば、開始質量から終了質量に及ぶ質量スペクトルデータだけを考慮することによって識別され得る。開始質量は、質量m5の左側の、所定の閾値(たとえば、0)よりも大きいイオンカウントを提供する質量として識別され得、一方、終了質量は、質量m7の右側の、所定の閾値(たとえば、0)以下のイオンカウントを提供する質量として識別され得る。デコンボリューションのステップは、処理手段が、さらなるピークを識別することを可能にし、それらピークが、イオン種/クラスタイオンが既と関連づけられている、より小さい質量での既に検出されているピークと共に、表IIのコンテキストにおいて説明されている同じ除外手法にしたがって、イオン種/クラスタイオンと関連づけられることになる。
【0050】
本発明のさらなる実施形態によれば、すべてのピークがイオン種又はクラスタイオンと関連づけられると、検出された種/クラスタイオンの定量化が、データ処理手段で行われる。
【0051】
定量化
SIMSでの定量化の難しさは、主に2つのプロセスに起源がある:サンプルからの優先スパッタリング、及び2次イオンのイオン化確率の変化。2次イオンのイオン化確率の変化は、サンプル組成のばらつき又は優先スパッタリングによって引き起こされる表面組成の変動によって引き起こされ得る。優先スパッタリングは、様々なサンプル種の質量及び1次イオンの質量の違いに依存する。「Surface modifications due to preferential sputtering;1982年;Vol.13、80-93頁」において、Taglauerは、いくつかの酸素と炭素を含むサンプルの表面組成の変化について研究した。優先スパッタリングは、Ar
+よりも軽いHe
+の場合、及び化学元素が原子の質量に大きな差を有する標的の場合に、より顕著になる。Ar
+及びXe
+イオンを含むいくつかの合金の照射に関して、同様の傾向が観察される、Holloway等、「Journal of Vacuum Science & Technology、1982年、444-448頁」を参照されたい。効果はやはり、より大きい衝撃エネルギーよりもより小さい衝撃エネルギーで、一層顕著である。より大きい衝撃エネルギーの場合、表面偏析が重要な役割を果たすことも期待される。ただし、これらだけがパラメータではない。表面結合エネルギーは、サンプル種が同様の質量を有し、衝撃エネルギーがより大きい場合により重要となり、Sigmundのスパッタリング理論との定性的な一致につながる、「Malherbe等、Preferential sputtering of oxides:A comparison of model predictions with experimental data;North-Holland、1986年;Vol.27、355-365頁」を参照されたい。この状況では、定常状態条件での表面組成は:
【数7】
により与えられ、
ここで、
【数8】
は表面濃度、
【数9】
はバルク密度、M
iは原子の質量、U
iは種iの表面結合エネルギーである。さらに、混合することが、サンプル原子がサンプル内へのより深くまで浸透し、サンプルの表面組成を改変することにつながり得る。これは主に、より軽い元素で観察される。一般に、表面組成に関する情報は定常状態条件で利用できるが、定常状態条件に向かう優先スパッタリングの進展を記述するモデルがない。
【0052】
物質のスパッタリングは、質量スペクトルの形成にとって重要な、1つの態様にすぎない。もう1つの重要な点は、スパッタ物質のイオン化であり、これらの両方が相互に関連している。金属又は半導体のサンプルからスパッタされた物質については、Surf.Sci.Rep、2013年においてWittmaackによって公開されているように、電子トンネリングモデルが一般的に使用される。陽イオンの場合、イオン化確率は一般に:
【数10】
により与えられる。
【0053】
ここで、Iはスパッタされた原子のイオン化エネルギー、φはサンプルの電子仕事関数、ε
pは原子が表面を離れる速度に依存するパラメータである。負イオンの場合、プロセスは、スパッタされた原子のイオン化エネルギーが、スパッタされた原子の電子親和力Aに置き換えられた、同様の式で記述される:
【数11】
【0054】
モデルによれば、イオン化確率は、スパッタされた原子の速度に依存するはずである。最近の成果は、この依存性は、相異なる電子仕事関数について記録された、スパッタされたイオンのエネルギー依存性では観察され得ないことを示した。したがって、イオン化はサンプルの局所的性質に依存するはずであり、仕事関数は、電気陰性度に置き換えられる必要があることが示唆された。データは、Mullikenによって定義された電気陰性度を考慮すると、最良にフィットされ得る、Wittmaack、「Novel Model of Negative Secondary Ion Formation and Its Use To Refine the Electronegativity of Almost Fifty Elements;American Chemical Society、2014年;Vol.86、5962-5968頁」を参照されたい。
【0055】
酸化物からスパッタされた物質のイオン化については、Surface Science、161-186頁及びPhysica Scripta、1983年にある、Slodzianによって開発されたモデルが、一般的に使用されている。スパッタリングプロセス中に、イオンM+は、サンプルを離れ、電子親和力Aを有する空の陽イオンを残す。この部位は、スパッタリングプロセスの継続時間(~10-3秒)に、電子を保持するはずである。サンプルとスパッタされたイオンとの間の電荷移動は、イオンのポテンシャルエネルギーの曲線と共有結合ポテンシャルエネルギーの曲線とが互いに交差している、表面からの距離RCで可能である。電荷移動の確率は、イオン化エネルギーの増加に伴ってイオン化確率が急速に低下するはずであると予測する、Landau-Zener公式で定義される。
【0056】
局所的なサンプルの組成への依存性に起因して、SIMSの知られている定量化方法は、知られている組成を有する基準サンプルの使用に依存している。ほとんどの場合、所与のマトリックス内の所与の化学元素について、相対感度係数、RSF(relative sensitivity factor)、が定量化に使用される。関心がある元素の濃度c
iは:
【数12】
により与えられる。
ここで、I
iは、iの2次イオン強度であり、I
mは、マトリックス元素mの強度である。RSF係数は、知られている濃度、及び関心があるサンプルの1つに類似した元素iの濃度のサンプルを測定することによって決定され得る。所与のサンプルについて、この方法は、iの濃度があまり変化せず、したがってRSF係数が一定であるときに成功する。用途の例は、アルミニウム中の窒素の定量化(Hofmeister等、Materials Science and Engineering:A、412-417頁)又は半導体のサンプル(Zalm,P.C.、Reports on Progress in Physics、1995年、1321-1374頁)である。この方法が高い精度を提供する場合でも、分析されるべきサンプルと同様の組成の基準サンプルを有している必要があることが、特に未知の組成のサンプルが分析される必要がある場合、苦痛になる。加えて、同じ日に分析される必要のある基準サンプルの使用が、方法を、時間のかかるものにしている。
【0057】
Int.J.Mass Spectrom.、2015年、386、56-60頁にある、代替の標準でない方法が、Balamurugan等によって開発された。この方法は、MCs
X
+クラスタの使用、ひいては総2次イオン電流のごく少量に頼っている。種iの濃度c
iは、機器に由来する原子(O、Cなど)を含むものを除くすべてのCsクラスタを考慮して算出される:
【数13】
ここで、mはi番目の元素を含むクラスタの数、n
ijはj番目のクラスタ内のi番目の種の原子の数、s
jはj番目のクラスタの強度、nはクラスタの総数、e
kはk番目のクラスタで考慮される元素の総数、s
kはk番目のクラスタの強度である。全体として、この方法は、相異なるクラスタ間のイオン化確率の違いを考慮しておらず、この方法で得られた濃度は、ほぼ2倍オフセットしている。この方法のもう1つの欠点は、サンプルに存在する化学種の初期推定、及びプロセスが適切に収束するまでの種の除去及び/又は追加である。この手法は、数学的に安定した解が、実際のサンプルの組成にも対応することを確実とするものではない。
【0058】
別の手法は、現在のデバイスの特性評価が、現在の市販のSIMS機器の機能を上回る、10-20nm未満の横方向の分解能を必要としている半導体サンプル用に開発されている(Franquet等、Applied Surface Science、143-152頁)。目的は、高い横方向の分解能を得て、さらに技法の高い感度を保持することであった。新しい方法は、自己収束SIMSと名付けられており、所与のエリアの種を含むクラスタイオンを検出するという概念に基づいている。クラスタの原子が同じ衝突カスケード中にスパッタされると、原子はサンプルの小さなエリア(<0.5nm)から放出され、情報が制限されるようになり、これが「自己収束」という用語につながっている。本文書で使用されている他の技法(AES、TEM/EDS、及び原子プローブ断層撮影、APT(Atom Probe Tomography))と比較すると、新しい方法の感度及び統計値は、いくつかの特徴にわたって平均した場合により優れている。調査された最小の特徴は、20nmであった。
【0059】
やはり定量化に関連しているのは、スパッタによって引き起こされるアーティファクトに関連するイオン強度の変化及びピークのずれについて、SIMSの深度プロファイルを補正することを可能にする方法の開発である。元の深さ分布を復元するために、Dowsett等は、Analytica Chimica Acta.、1994年、253-275頁にある、深度応答関数を、Hofmann等は、混合-粗さ-情報の深さ、MRI(mixing-roughness-information depth)、モデル(Progress in Surface Science、1991年、35-87頁)を開発した。非常に有用であるが、分析深度応答関数及びMRIモデルは、深さプロファイリング中に変化する濃度、優先スパッタリング、及び原子混合を扱うことができない。したがって、分析深度応答関数及びMRIモデルに対する数値解法が開発されており、MRIモデルは、Ta/Si多層深度プロファイルの復元に首尾良く適用された、Liu等、「Quantitative reconstruction of Ta/Si multilayer depth profiles obtained by Time-of-Flight-Secondary-Ion-Mass-Spectrometry(ToF-SIMS) using Cs+ ion sputtering;2015年;Vol.591、Part、60-65頁」を参照されたい。スパッタ深さによるスパッタ速度の変動、組成による感度の変動、深さによる粗さの変動、及び組成による元素のスパッタ速度の変動が考慮された。多くのアーティファクトを補正するが、これらの知られている方法は、モデルの様々なパラメータをフィットさせるために基準サンプルに頼っており、同一の条件下で多数の同様のサンプルを分析するときにのみ関心がある。
【0060】
照射によって引き起こされる材料及び物質のスパッタリングの変化は、SIMSの重要な態様の1つである。我々のグループの最近の研究では、ポリマーのHe+、Ne+、及びAr+照射が、ポリマーの表面構造を変化させることが示されているが、無機サンプルに関して、同様の実験条件で観察されるサンプルの膨張及び粗さの形成は観察されていない。さらなる調査は、ポリマー中の希ガス元素の拡散係数が、サンプル中のこうした種のいかなる蓄積も防ぎ、どんな膨張及び気泡の形成も回避するのに十分な大きさであることを示した。
【0061】
優先スパッタリングのメカニズムを制御することに加えて、イオン化プロセスを制御することは、第2の重要な態様である。SIMSの初期の頃から、反応性1次イオン種の注入が、2次イオン(たとえば、正の2次イオンの場合は酸素、負の2次イオンの場合はセシウム)の発生量を増加させることがわかってていた。注入する代わりに、サンプルにガスによる圧力を大量に送り込むこと(flooding)により、酸素がサンプルの表面にも吸着され得る(Franzreb等、Surface Science、291-309頁)。セシウムについては、SIMS分析中のサンプル表面への、真空下での金属の蒸着及び吸着は成功した。サンプル表面へ吸着する方法が、MCsX
+2次イオンクラスタを使用した分析のために、Wirtzz等によって(Applied Surface Science;2004年;Vol.557、57-72頁)、また負の2次M-イオン検出のために、Philipp等によって(Int.J.Mass Spectrom.、2006年、253(1-2)、71-78頁)、さらに開発された。大量の送り込み及び蒸着の実験は、SIMSで通常使用される1次イオン種(たとえばAr+、Ga+、Cs+)を使用して実行された。つい最近、この成果は同じ著者達によって、軽い希ガスによる1次イオンの照射まで拡張され、分析条件を最適化した後の感度が、1次イオン種の選択に依存しないことを示している。これは、高分解能、高感度のイオン顕微鏡を実現させる、ヘリウムイオン顕微鏡及びDualBeam機器のアドオンツールとして、質量分析計の開発にとって重要である。
【0062】
本発明の好ましい実施形態によれば、データ処理手段で分析されるSIMSスペクトルデータは、ヘリウムイオン顕微鏡上でサンプルのSIMSを使用して得られる。ヘリウムビームとネオンビームとの両方がサンプルから局所的に材料をスパッタすると、スパッタされた材料は、分析信号のベースとして使用され得る。スパッタされた材料の一部がイオン化されるので、それは2次イオン質量分析を使用して分析され得る。HIMのプローブのサイズ(ヘリウムとネオンとの両方について)は、SI放出エリアよりも大幅に小さいので、横方向の分解能は原則として、プローブのサイズではなく、基本的な考慮事項によってのみ制限される。SIMSをHIMに追加することへの展望は、強力な分析機能をもたらすだけでなく、超高分解能のSE画像を、SIMSによる元素マップと組み合わせた、その場で(in situ)の相関画像化への道を開く。我々は、SIMSの、他の高分解能顕微鏡とのその場での組合せが、スタンドアロンの技法では不可能な洞察を得て、特定のアーティファクトを補正するために使用され得ることを、以前に示した。HIMによる2次電子画像化は、ナノメートル、さらにはナノメートル未満のスケールのトポログラフィカルな情報をもたらすが、SE画像化だけでは、サンプルの深い理解を得るには不十分であることが多い。
【0063】
SIMS画像化は、数十nmスケールの元素/質量のフィルタリングされた画像化を提供する;ただし、SIMS画像の信号レベルは、通常対応するSE画像の信号レベルよりも10-100倍低いので、より低い信号対雑音比、およびより低い横方向の分解能が、SIMS画像の解釈を一層難しくする可能性がある。SIMS画像は、SIMSの低いバックグラウンド(≪1cps)のため、統計的に有意なサイズの、いくつかのピクセルのホットスポットを作り出すことが多いが、信号を発生させる基礎となる構造のサイズ及びモルフォロジに関する情報はほとんどもたらさない。両方のタイプの情報を組み合わせることで、SIMSで適切に分解されるには小さすぎる特徴が、SE画像化によって調査され得る。別々の機器で測定を実行することは可能であるが、両方のタイプの特性評価をその場で実行する能力が、多数の機器で取得されたデータを組み合わせて重ねようとしたときに生じる位置の不確実性及び画像のアーティファクトを最小限に抑えることにより、取得されたデータのより良好なコレジストレーション(coregistration)を可能にする。さらに、これら2つの技法をその場で組み合わせることにより、機器間での移送中の、汚染又はサンプルの改変に起因するアーティファクトが回避され得る。我々の機器は、わずか数秒で2つの画像化モード間の切替えを可能にする。
【0064】
本発明の態様によれば、分析された質量スペクトルデータにおける対応するピークと関連づけられたイオン種/クラスタイオンの、相対的又は絶対的な基準なしでの定量化は、データ処理手段によって、以下の追加の方法ステップを使用して行われ得る。
【0065】
相対的定量化のために、前記質量スペクトルデータにおける検出されたピークと関連づけられた、単原子イオン及び/又はクラスタイオンとして検出されたそれぞれの種iの濃度c
iは、:
【数14】
ように計算され、
ここで、p
i,jは、単原子又はクラスタイオンjのイオン化確率であり、
n
i,jは、2次単原子又はクラスタイオンjの種iの原子数であり、
s
i,jは、jの単原子又はクラスタイオンの強度であり、
jについての総和は、化学種iを含む単原子又はクラスタイオンだけを含み、
kについての総和は、質量スペクトルに存在するすべての化学元素にわたり、lについての総和は、元素kを含むすべての単原子又はクラスタイオンを含み、
q
kは、元素kを含む単原子又はクラスタイオンの数であり;
- イオン化確率p
i,jは、負の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって:
【数15】
を使用して計算され、
ここで、
【数16】
は、単原子又はクラスタイオンiのイオン化確率であり、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、
χ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陰性度であり、
EA
i,SIMSは、実験的に得られた電子親和力であり、χ
CSは、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電子親和力であり、
- イオン化確率p
i,jは、正の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって計算され:
【数17】
ここで、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、ε
Ψ,Iは特性エネルギーであり、
Ψ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陽性度であり、
I
i,SIMSは、イオン化エネルギーであり、Ψ
0は、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電気陽性度である。
【0066】
絶対的定量化をするために、前記質量スペクトルデータにおける検出されたピークと関連づけられた、単原子イオン及び/又はクラスタイオンとして検出されたそれぞれの種iの濃度c
iは:
【数18】
により与えられ、
ここで、Vは、単原子又はクラスタイオンiの検出中にスパッタされた材料の体積であり、
p
i,jは、単原子又はクラスタイオンjのイオン化確率であり、
n
i,jは、2次単原子又はクラスタイオンjの種iの原子数であり、
s
i,jは、jの単原子又はクラスタイオンの強度であり、
jについての総和は、化学種iを含む単原子又はクラスタイオンだけを含み、
kについての総和は、質量スペクトルに存在するすべての化学元素にわたり、lについての総和は、元素kを含むすべての単原子又はクラスタイオンを含み
q
kは、元素kを含む単原子又はクラスタイオンの数であり;
- イオン化確率p
i,jは、負の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって:
【数19】
によって計算され、
ここで、
【数20】
は、単原子イオンiのイオン化確率であり、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、
χ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陰性度であり、
EA
i,SIMSは、実験的に得られた電子親和力であり、χ
CSは、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電子親和力であり、
- イオン化確率p
i,jは、正の単原子又はクラスタイオンについては、データ処理手段によって:
【数21】
によって計算され、
ここで、p
0は9.5×10
-7に等しい定数であり、ε
Ψ,Iは特性エネルギーであり、
Ψ
i,SIMSは、SIMSに対して補正される電気陽性度であり、
I
i,SIMSは、イオン化エネルギーであり、Ψ
0は、質量スペクトルデータを得るために使用されるSIMS機器で1次ビームとして使用されるイオン種の電気陽性度である。
【0067】
本発明の現在の実施形態にしたがって提案される方法は、周期表のほとんどの化学元素のEAi,SIMSに対する値χi,SIMSを含む。実際、EAiについての文献での値は、様々な方法を使用して決定されており、常に一貫しているとは限らない。現在の定量化方法では、EAi,SIMSを実験的なイオン化確率にフィットさせることにより、一貫したデータのセットが決定されている。加えて、方法は、2次クラスタイオンを含むように拡張されている。Wittmaackによるモデルは、負の2次イオン用に開発されている。正の2次イオンの場合、モデルは、SIMSによって補正された電気陰性度を、SIMSに対して補正された電気陽性度に置き換え、電子親和力を第1イオン化エネルギーに置き換えることによって適応されている。定量化に必要なすべての値が、ルックアップテーブルに格納されている。
【0068】
提供された例に加えて、本発明のさらに好ましい実施形態が本明細書に開示されている。可能な限り最も高い横方向分解能で最大の感度を保証するために、本発明の態様を使用して分析される質量スペクトルデータの取得用に、Mattauch-Herzog設計の質量分析計が考慮される。焦点面検出器が使用され、すべての質量を並列に検出することを可能にする。
【0069】
法線入射でのHe+及びNe+照射は、ZEISS NanoFab(TM)機器で実行されている。電界電離ガスイオン源、GIFS、源に加えて、ZEISS NanoFab機器は、小型の2重収束型磁気セクタ質量分析計が装備されており、焦点面検出器、及び総2次イオン電流を測定する、総イオンカウント、TIC(total ion counts)、検出器を使用して、すべての質量を並列に検出することを可能にする。質量分析計は、セシウムを大量に送り込む蒸着システム及び酸素を大量に送り込むリーク弁を統合している。He+及びNe+の衝撃エネルギーは、10から35keVの範囲で変更され得る。
【0070】
特に焦点となるのは、ボクセルあたりの物質量が制限され、最適化されていないイオン化プロセスで感度が劣化する高分解能の画像化用途であり、画像は主に1018イオン/cm2未満のフルエンスで記録されるので、前平衡の状態が最も重要である。
【0071】
本実施形態による予備ステップとして、焦点面検出器に記録された生データの平滑化が行われる。これは、質量スペクトルにおけるピークの微細な形を維持する平滑化アルゴリズムを使用して行われている。質量スペクトルの処理では、左右に4ポイントの窓を持つSavitzky-Golayアルゴリズム。窓のポイント数は、質量分解能、すなわち質量単位あたりのポイント数によって変わる。Savitzky-Golayアルゴリズムと同じ基準を満たす、すなわちピーク幅を大幅に広げることなくデータを平滑化する、他のアルゴリズムが使用されてもよい。
図2は、(a)21から30amuの質量範囲、及び(b)200から215amuの、Savitzky-Golayアルゴリズムを使用した平滑化前後の質量スペクトルの一部を示している。
【0072】
次いで、前述のように、質量スペクトルのピークの自動的識別のステップが行われる。平滑化された質量スペクトルの1次及び2次導関数は、Savitzky-Golayアルゴリズムを使用して、関心がある1つ又はいくつかの質量範囲に対してとられる。平滑化されたデータを入力として使用する代わりに、前のステップで説明された手順を使用して、導関数を平滑化することも可能である。ピーク位置は、2次導関数の最小値に対応する。最小値は、最小値の初期の一括化(bracketing)後、Brentアルゴリズムを使用して識別される。このプロセスは、全質量スペクトルに対しても実行され得る。このステップは、データの解釈を加速させ、容易にするであろう。Savitzky-Golayアルゴリズムの窓のサイズは、ポイント1と同じであり、すなわち、左に4ポイント、右に4ポイントであり、質量単位あたりのポイント数によって変化する。
図3は、202から212amuの質量範囲についての、生の質量スペクトルを、平滑化された曲線、平滑化された曲線の2次導関数、及び2次導関数から推測されるピークの位置と共に示している。
【0073】
次のステップでは、本発明の以前に開示された実施形態のコンテキストにおいて説明されたように、ピーク位置をすべての安定同位体の正確な質量と比較することによって、特定の同位体が様々なピーク位置に割り当てられることになる。すべての安定同位体の質量は、ルックアップテーブルに保存されている。このプロセスは、最も小さい質量をともなうピーク、すなわちクラスタイオンによるどんな質量の干渉も排除され得るピークから始まることになる。最も小さい質量ピークから始めて、すべてのより大きい質量ピークが、後で識別されることになる。この順序で進めることにより、起こり得る質量干渉が識別され得る。すなわち、化学元素がより小さい質量で識別された場合、それは、より大きい質量でも存在する可能性があり、クラスタイオンは、起こり得る質量干渉がない状態で、確実に識別され得る。すべてのピークが、リストに保存されることになる。このプロセスは、十分に分離されたピークに対して働く。イオンビームによる連続的な照射が、サンプル材料の重要なフラグメンテーションにつながり、原子数の少ないクラスタイオンの形成だけを可能にするので、このプロセスは可能である。分子情報が最大限に維持される必要があり、より大きい質量の範囲で起こり得る多数の質量干渉が、すべての質量干渉の明確な識別を可能にするわけではない、ToF質量分析計に基づくSIMSとは、この点が異なる。
【0074】
データ処理では、ピークエリアがわかる必要がある。十分に分離されたピークの場合、情報は簡単に得られる。質量干渉があり、完全に分離されていないピークの場合、ピーク又はピーク群に寄与する様々な原子及びクラスタイオンによるエリアは、デコンボリューションプロセスによって決定されることになる。ピークの形としてガウス関数を使用したLevenberg-Marquardtアルゴリズムを使用しているが、他のアルゴリズムも使用され得る。このフィッティングアルゴリズムの詳細は、Donald W. Marquardt著、「An Algorithm for Least-Squares Estimation of Nonlinear Parameters」、Journal of the Society for Industrial and Applied Mathematics、Vol.11、No.2(1963年6月)、431-441頁、及び「Numerical Recipes」、Cambridge University Press;3edition(2007年9月10日)に見出され得、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。パラメータの初期推定では、ピークの中心が同位体の質量に基づいて定義され、ピーク位置での2次イオンカウントは振幅に使用され、幅wは、識別された質量干渉の数n、及び質量単位未満に等しいときの次のピークまでの距離dから導出される:w=d/n。デコンボリューションプロセスでは、一方のピーク位置に対する他方のピーク位置が固定され、原子の質量の差に等しくなる。質量の較正において、どんなドリフトも補正するために、ピーク位置の全体的なシフトが可能である。コンボリューションプロセスの結果は、同位体比のどんな対立に対しても確認され、適切な収束が実現されるまで、デコンボリューションプロセスの結果が使用される。
図4は、Levenberg-Marquardtアルゴリズムを使用した、202から212amuの質量範囲のデコンボリューションされた質量スペクトルを示す。
【0075】
結果としてもたらされた分析データは、次いで、前述の相対的又は絶対的定量化ステップを行うために使用され得る。
【0076】
上記で概説された方法は、好ましくは、適切にプログラムされたデータプロセッサなどの処理手段を使用して、又は当技術分野で知られているような特定の電子回路によって実施される。当業者は、与えられた説明に基づいて、図面に基づいて、そして過度のさらなる負担なしに、必要な機能性を提供する、かかるプログラミングコード手段又は回路を提供できる。
【0077】
本発明の範囲内の様々な変更及び修正が、当業者に明らかであるので、特定の好ましい実施形態の詳細な説明は、例示のためにだけ与えられていることを理解されたい。保護の範囲は、以下の一連の特許請求の範囲によって定義される。