(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】コンポーネントを穿孔する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/388 20140101AFI20240614BHJP
【FI】
B23K26/388
(21)【出願番号】P 2021575207
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019000186
(87)【国際公開番号】W WO2020253930
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】500341779
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デル・アンゲヴァンテン・フォルシュング・アインゲトラーゲネル・フェライン
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ハーマンス,トーステン
(72)【発明者】
【氏名】ヤンセン,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜
(72)【発明者】
【氏名】森合 秀樹
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-019585(JP,A)
【文献】特開2007-038287(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0020291(US,A1)
【文献】特表2002-509033(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10054853(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルパルスドリリング又はパーカッションドリリングによって、及びトレパニングドリリングによって、金属性の材料からなるコンポーネント(1)を、及び積層された金属性と誘電性の材料からなるコンポーネント(1)を穿孔する方法において、ビーム軸(B
A)及びビーム直径(D
S)を有するレーザ放射(LS)と、主要な溶融物排出とが行われ、シングルパルス/パーカッションドリリングとトレパニングドリリングが同時に実行され、
それは、レーザ放射に割り当てられた、放射伝搬の方向を示していて値がレーザ放射(LS)のエネルギー束密度であるベクトルとして定義されるポインティングベクトル(<S>)の空間分布が、穴軸(H
a)と、穴壁(H
w)と、進捗していく穴深さに伴って進捗していき、形成されていく穴(H)の穿孔時に進捗していく端部が穴底面(H
b)と呼ばれる穴底面(H
b)とが割り当てられる生成されるべき穴(H)のオーバーラップ領域(O)で、及び生成されるべき穴(H)の縁領域(R)で、それぞれ別様に調整されることによってであり、前記オーバーラップ領域(O)はシングルパルスドリリングの場合にはレーザ放射の高いエネルギー束密度で照射される領域として定義され、前記縁領域(R)は、前記オーバーラップ領域(O)の外部に位置し、穿孔時に前記オーバーラップ領域(O)でのエネルギー束密度よりも低い、レーザ放射(LS)の低いエネルギー束密度で照射される領域として定義され、アスペクト比Aの最大値A
maxはA=d/(2
rB,top)をもって10よりも低い、又はこれに等しい値を有し、ここでdは、材料の上面(2)に対して相対的に垂直な穴(H)の場合には貫通穿孔されるべき材料の材料厚みであり、又は材料の上面(2)に対して相対的に傾いた穴軸(H
a)の場合には穴長さであり、rB,topは、穴軸(H
a)に対して垂直の方向で測定した半径として定義される、穴入口における穴(H)の穴半径であり、
穴の最終形状は縁領域(R)に対するレーザ放射(LS)の調整によって規定され、穴(H)の最終形状への到達について、1ナノ秒よりも長いパルス時間についてW・cm
-2の、又は10ピコ秒よりも短いパルス時間についてJ・cm
-2(10
-4W・m
-2又はJ・m
-2に相当)の規模を有する数として定義される閾値が規定され、この閾値が、穿孔されるべき材料を特徴づけるために知られるその他すべての穴に関連するパラメータの代替となり、金属材料については10
4~10
5W・cm
-2又は1~10J・cm
-2の典型的な値をとることを特徴とする、方法。
【請求項2】
穿孔中のレーザ放射(LS)は、少なくとも1回通過されるべき閉じた軌道曲線(C)に沿ってビーム軸(B
A)が移動するように行われ、ビーム直径(D
S)は前記軌道曲線(C)の直径(D
C)と少なくとも同じ大きさであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
達成されるべき穴(H)のオーバーラップ領域と縁領域(O,R)での放射(LS)の分布が時間的な平均値でそれぞれ別様に調整されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
穴(H)の縁領域(R)におけるポインティングベクトル(<S>)は、達成されるべき穴(H)の穴壁(H
W)の方を向く、穴深さに伴って変化する方向成分を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
穴(H)の幾何学形状の漸近性への到達は、穿孔時間であってそれ以降は穴(H)がその直径(D
H)に関してそれ以上進捗せずにそのまま最終形状に達するような穿孔時間が決定されることによって保証されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
複数のパルスを用いる穿孔の場合に前記オーバーラップ領域(O)でのレーザ放射のエネルギー束密度は、前記オーバーラップ領域(O)で材料が貫通穿孔される前に溶融物がレーザ放射(LS)の伝搬方向と反対向きに穴(H)から排出され、穴底面(H
b)が材料厚みに到達し、前記コンポーネント(1)の下面(3)で穴底面(H
b)に穴(H)が開口することとして定義される貫通穿孔がまだ生じないように調整されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ガスノズルの利用なしで蒸発圧力のみに基づいて溶融物の排出が行われ、前記オーバーラップ領域(O)でのエネルギー束密度は、穴底面(H
b)が前記オーバーラップ領域(O)で1つのパルス終了時に前記コンポーネント(1)の下面(3)に到達し、穴壁(H
w)の漸近的な形状がまだ達成されないように調整されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
エネルギー束密度についての最小値を下回ることがなく、かつエネルギー束密度についての最大値を上回ることがなく、前記最小値は、前記コンポーネント(1)の下面(3)で穴底面(H
b)に穴(H)が開口することとして定義される貫通穿孔が行われないことによって決定され、前記最大値は、貫通穿孔に到達するための穿孔時間がエネルギー束密度に伴って飛躍的に増大することによって決定されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
穴の最終形状は前記縁領域(R)でのレーザ放射(LS)のエネルギー束密度の測定によって決定され、穴の最終形状は、測定値が閾値に等しくなる穴壁(H
W)の位置によって事前決定されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
パルス時間と、連続する2つのパルスの間のパルス休止との合計として定義される周期時間の軌道曲線(C)に沿ってビーム軸(B
A)の送りが調整されることで、及び、レーザ放射(LS)のビーム軸(BA)が軌道曲線(C)の上で周期時間中に穴軸(H
a)を中心として回転する角度として定義される増分角(Alpha)が調整されることで、断面で見て円形の穴、8の字型の穴、長孔、又は3穴の穴若しくは星形の穴(H)が生成されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
金属性の材料からなるコンポーネント
(1)を、及び積層された金属性と誘電性の材料からなるコンポーネント
(1)を穿孔する装置において、ビーム軸(B
A)とビーム直径(D
S)とを有するレーザ放射(LS)を前記コンポーネント(1)に向ける少なくとも1つのビームユニット(
10)を含むレーザ加工装置を有し、並びに、レーザ放射(LS)により上面(2)で照射される放射直径D
Sを有する前記コンポーネント(1)の領域として定義されるスポット面(S)の位置及び断面積をビーム軸(B
A)とビーム直径(D
S)が特徴づけるように前記
ビームユニット(
10)を制御する制御ユニット(12)を有し、ビーム軸(B
A)が閉じた軌道曲線(C)に沿って移動し、前記スポット面(S)の一部が前記軌道曲線(C)の内部でオーバーラップ領域(O)を生成し、
前記制御ユニット(12)は、穴の最終形状は縁領域(R)に対するレーザ放射(LS)の調整によって規定し、穴(H)の最終形状への到達について、1ナノ秒よりも長いパルス時間についてW・cm
-2の、又は10ピコ秒よりも短いパルス時間についてJ・cm
-2(10
-4W・m
-2又はJ・m
-2に相当)の規模を有する数として定義される閾値が規定され、この閾値が、穿孔されるべき材料を特徴づけるために知られるその他すべての穴に関連するパラメータの代替となり、金属材料については10
4~10
5W・cm
-2又は1~10J・cm
-2の典型的な値をとることを特徴とする装置。
【請求項12】
前記オーバーラップ領域(O)の面積は穴(H)の直径(D
H)を有する断面積よりも小さいことを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記レーザ加工装置は、前記スポット面(S)のビーム直径(D
S)が穴(H)の直径(D
H)の長さの半分よりも大きく、かつ穴(H)の直径(D
H)よりも小さくなるようにレーザ放射(LS)を放出することを特徴とする、請求項11又は12に記載の装置。
【請求項14】
前記制御ユニット(
12)は、レーザ放射(LS)が前記コンポーネント(1)の穴の領域を、穴軸(H
a)に対して径方向で見たときに前記オーバーラップ領域(O)から外方に向かって拡張していくように前
記ビームユニットを制御することを特徴とする、請求項11から13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記コンポーネント(1)の上面(2)に、及び前記コンポーネント(1)で形成されていく穴(H)の中に、流体を供給する補助流体供給ユニット(18)が設けられることを特徴とする、請求項11から14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記レーザ加工装置は、パルス化されたレーザ放射(LS)を生成するビームユニット(10)と、レーザ放射(LS)の反射によってビーム軸(B
A)すなわちスポット面(S)の中心を移動させ、それと同時に前記ビームユニット(10)により発振されるレーザ放射(LS)の光路を変化させるガルバノスキャナユニット(13,14)とを利用することを特徴とする、請求項11から15のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属性の材料からなるコンポーネントを、及び積層された金属性と誘電性の材料からなるコンポーネントを、レーザ放射によって穿孔する方法に関する。さらに本発明は、相応の方法を実施することができる装置に関する。
【0002】
レーザ放射は、溶融穿孔と呼ばれる、特に金属性の材料や誘電性の(たとえばセラミックの)層と金属性の層とからなる複合材料の除去及び穿孔に利用される。特に自動車工学、航空工学、医療工学(薄手シート又は厚手シートの加工)、及びエネルギー工学(いわゆる厚手シートの加工)での用途では、穴を作成するために高い除去率が望まれ、したがって高い生産性と高い品質、特に良好な円錐度K=rB,top/rB,botとリキャストの回避が望まれる。穴の円錐度K=rB,top/rB,botは、穴入口における穴半径rB,topと、穴出口における穴半径rB,botとの比率として定義される。穴の幾何学形状(たとえば円筒状、円錐状)、及び穴壁のモルフォロジー(たとえば固化した溶融物/リキャスト)は、回避されることが必要である主要な指標となる。
【0003】
溶融穿孔では、さまざまな要求が満たされなければならない。それに含まれるのは、穴の再現可能な直径、穴の定義された円錐度、多層システムを穿孔するときの定義された円錐度、コーティングの付着強度やせん断強度の低下がないこと、固化した溶融物の穴壁での堆積(リキャスト)がないこと、穴出口でのばり形成がないこと、溶融物の定義された排出、穴開口部の領域での出口エッジの大きな湾曲などである。
【背景技術】
【0004】
レーザ放射を用いて穿孔をする周知の技術は、形成されていく穴から材料を除去するための主要なメカニズムに基づいて区別される。除去は主として溶融物排出によって、又は主として蒸発した材料の排出によって、行うことができる。溶融物排出が主として行われる穿孔技術のグループに属するのは、シングルパルスドリリング(単一のパルスによる穿孔)、パーカッションドリリング(被削材に対して相対的に放射のビーム軸の位置を固定したうえでのマルチパルス)、及びトレパニングドリリング(被削材に対して相対的に放射のビーム軸の位置を移動させながらのマルチパルス)である。個々の穿孔技術には利点と欠点の両方がある。
【0005】
パーカッションドリリングは、レーザ光が照射され、その際に照射位置を変更せず、それによってこの照射位置に穴又は穿孔を作成する技術である。パーカッションドリリングは、レーザ光の照射位置を移動させないので、短い加工時間しか必要としない。
【0006】
シングルパルスドリリングとパーカッションドリリングは、高い除去率(高い生産性)という利点を有する欠点となるのは、レーザ放射のビーム直径によって制限される最大限実現可能な穴直径が小さすぎることと、不完全な溶融物排出や穴壁並びに/又は穴入口及び穴出口における固化した溶融物からなる堆積物のために穴の品質が不足することと、穴直径に関する低い精度である。
【0007】
いわゆるトレパニングドリリングでは、まずコンポーネントの材料にパーカッション穴が穿設され、次いで、定義された半径の穴がくり抜かれる。トレパニングによる穿孔は、形成されるべき穴の円周に沿ってレーザ光を移動させる技術であり、レーザ光は、作成されるべき穴又は作成されるべき穿孔よりも小さいスポット直径又はビーム直径を有し、それによって当該円周に沿って開口部を形成し、そのようにして穴又は穿孔を作成する。トレパニング加工では、作成されるべき穴の円周に沿ってレーザ光の照射が行われるので、穴の形状精度が高くなる。
【0008】
トレパニングドリリングは、シングルパルスドリリングとの比較で、及びパーカッションドリリングとの比較で穴壁の品質も改善しながら、適用される放射のビーム直径よりも大きい穴直径(穴直径=1.2×スポット直径)を実現することができるという利点を有する。しかしながらトレパニングドリリングは、適用される放射の大部分が既存の穴を通って利用されないままコンポーネントを透過するので、長いドリリング時間が必要になるという欠点を有する。
【0009】
シングルパルスドリリング及びパーカッションドリリングについては、穴の定義された多くの場合に円筒の形状を実現するために、穴から溶融物を可能な限り完全に排出することを目的とする方策が知られている。このような方策に数えられるのは、穴の深さが増すにつれて適用するレーザビームの強度又はエネルギー束密度の空間平均値又は最大値を増強すること(面積あたりの出力W[/m2]を単位として、又は体積あたりのエネルギーに速度を乗算したもの[(J/m3)(m/s)]を単位として)、及び全体の穿孔時間中に多数のシングルパルスによって強度を時間的に変調すること(パーカッション)である。
【0010】
独国特許発明第102004014820号明細書(米国特許出願公開第2007/193986号明細書に対応)は、金属材料並びに積層された金属材料及び少なくとも1つのセラミック層を有する積層された金属材料に、アスペクト比の大きい穴を製作する方法を記載している。この文献から明らかとなるのは、パーカッションドリリングについては穴を生成する放射は、放射の方向に関して放射の伝搬と反対方向すなわち穿孔進捗の方向と反対方向の向きで、固化した溶融物の穴壁への少ない堆積をもって、穴の最大深さに至るまで穴からの溶融物の完全な排出を実現できるように設計することができるということである。
【0011】
パーカッションドリリングが工業的に適用されるのは、技術水準の如何に関わりなく、付着する固化した溶融物の典型的には100μmを超える層厚を有する、及びそれによって穴形状の低い精度を有する、依然として生じる穴の品質不足が、すなわち不完全な溶融物排出が、製品の機能を制約しない場合に限られる。
【0012】
パーカッションドリリング及びトレパニングドリリングに加えて、螺旋ドリリング及びレーザ侵食も、主として蒸発を伴う穿孔技術に含まれる。
【0013】
螺旋ドリリングでは、トレパニングドリリングに追加して放射がビーム軸を中心として回転し、それにより、レーザ放射の空間分布が時間的な平均で円対称から逸脱した場合にこれを補正する。要求される幾何学形状への近似、及び要求される穴の品質は、現在、螺旋ドリリングによってのみ、又はパーカッションドリリングと螺旋ドリリングのシーケンシャルな組合せによってのみ、達成可能である。
【0014】
独国特許出願公開第10144008号明細書は、レーザビームを用いて被削材に穴を生成する方法を記載している。第1のステップで、最終的に達成されるべき直径よりも小さい第1の直径で穴が穿設され、第2のステップで、又はさらに別のステップで、達成される直径まで穴が拡張される。したがって、主に溶融物排出によって作成されるパーカッション穴が、第2の方法ステップで材料が蒸気として除去されることで所望の直径まで拡張され、その結果、固化した溶融物の残留物が穴壁にほぼ残らない。このような穿孔技術は穿孔時間が長すぎ、又は、その帰結として生産性が低すぎるという欠点を有する。
【0015】
さらに、公知の方法では溶融物排出が材料の蒸発によって生成され、したがってレーザ放射の強度を通じてのみ制御されるが、このことは、穴直径の的確な制御や、リキャストとも呼ばれる溶融物堆積の回避を可能にしない。そしてこのような方法では、上記の独国特許出願公開第10144008号明細書に示されているように、材料の蒸発除去によって穴壁を平滑化するための第2の方法ステップが必要とされる。
【0016】
独国特許出願公開第10144008号明細書にも記載されているように、主として溶融物排出を伴う穿孔に関わる先行技術は、再び固化した溶融物からなる粗くて亀裂を生じやすい層(リキャスト)が穴壁に生じることがあり、穴の所望の幾何学形状からの誤差につながることを教示している。したがって独国特許出願公開第10144008号明細書によれば、リキャストや、要求される穴直径からの誤差が後加工によって取り除かれ、蒸発除去による除去によって穴壁が平滑化される。
【0017】
米国特許第5837964号明細書は、パーカッションドリリングとトレパニングが時間的に連続して適用されるレーザ加工方法を記載している。この文献には、10よりも大きいアスペクト比や、最初にパーカッションドリリング、その次にトレパニングの時間的に連続するシーケンシャルな加工が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】独国特許発明第102004014820号明細書
【文献】独国特許出願公開第10144008号明細書
【文献】米国特許第5837964号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上に説明した先行技術を前提としたうえで、本発明の課題は、先行技術を参照して上に説明した欠点の少なくとも一部が回避され、特に必要な加工時間が短縮され、そのために加工精度が低下することがない、金属性の材料を、及び金属性と誘電性の材料から積層された材料を、穿孔する方法を提供することにある。さらに別の課題によれば、この方法を実施することができる装置を提供することも意図される。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この課題は、方法に関しては独立請求項1の構成要件を有する方法によって解決され、装置に関しては独立請求項12の構成要件を有する装置によって解決される。方法及び装置の有利な実施形態は、従属請求項から明らかとなる。
【0021】
本発明の方法により、金属性の材料からなるコンポーネントが、及び積層された金属性と誘電性の材料からなるコンポーネントが、シングルパルス/パーカッションドリリングによって、及びトレパニングドリリングによって、レーザ放射によって主として溶融物排出により穿孔される。シングルパルスドリリングは非パルス化方法であるとみなされる。穿孔が完了するまで、又は貫通穿孔が行われるまで、レーザ放射のエネルギー束密度が時間的に中断されないからである。トレパニングドリリングも、パルス化して実行するだけでなく、時間的な中断(パルス休止)なしに非パルス化して実行することができる。シングルパルスドリリング/パーカッションドリリングとトレパニングドリリングが、本発明では時間的に見て同時に実行される。
【0022】
ビーム軸(BA)(beam axis)とビーム直径(DS)とを有し、方向がビーム軸の横の位置でビーム軸(BA)の方向と相違していて局所的な放射伝搬の方向を示すとともに容積あたりのエネルギーに光速を乗算したものとして値が定義される放射のエネルギー束密度であるベクトルとして定義される、レーザ放射(LS)に割り当てられたポインティングベクトル(<S>)の空間分布は、穴軸(Ha)と、穴壁(Hw)と、穴深さの進捗に伴って進捗していく穴底面(Hb)とが割り当てられる生成されるべき穴(H)のオーバーラップ領域(O)(overlap area)で、及び生成されるべき穴の縁領域Rで、それぞれ別様に調整される。単位[Jms-1 m-3](エネルギー・速度/体積、Jms-1 m-3=Wm-2)を有するエネルギー束密度は、レーザ放射の強度とも呼ばれる。
【0023】
本発明の方法により、オーバーラップ領域(O)では放射の高いエネルギー束密度が調整され、縁領域では低いエネルギー束密度が調整される。放射のエネルギー束密度のこのような空間的分割は、時間的に見て、オーバーラップ領域(O)での高速の貫通穿孔と、縁領域での穴壁の品質的に高価値な除去との並行する適用を惹起する。本発明の方法によって周知の穿孔方法の利点が組み合わされ、すなわち、シングルパルスドリリング又はパーカッションドリリングの高い生産性と、トレパニングドリリングの高い品質とが組み合わされる。
【0024】
両方の方法の利点が達成されるような周知の穿孔方法の組合せは、レーザ放射の強度について最大値と最小値を含むインターバルを遵守することを必要とし、遵守されるべき最大値と最小値は、オーバーラップ領域(O)でも縁領域Rでもさまざまに異なる大きさである。本発明によれば、レーザ放射の強度についての2つの異なるインターバルの調整は、移動するレーザビーム軸を有するパルス化レーザ放射の適用によって達成され、レーザビーム軸の移動は、レーザ放射の各々のパルスにより照射されるオーバーラップ領域(O)と、各々のパルスにより照射されるのではない外側の縁領域Rとが生じるように行われなければならない。ただし、レーザ放射の強度についての2つの異なるインターバルの本発明に基づく調整は、レーザビーム軸の移動をせずに適切なビームフォーミングをすることでも達成される。
【0025】
オーバーラップ領域は、レーザ放射の各々のパルスで照射される領域として定義される。縁領域は、オーバーラップ領域の外側かつレーザビーム半径の内側に位置する領域として定義される。
【0026】
方法に関しては、穴長さと穴直径との比率として定義されるアスペクト比Aの最大値AmaxはA=d/(2rB,top)をもって値Amax=10を有し、ここでdは、材料の表面若しくは上面に対して相対的に垂直方向の穴(H)の場合には貫通穿孔されるべき材料の材料厚みであり、又は材料の上面に対して相対的に傾いた穴軸の場合には穴長さであり、rB,topは、穴軸(Ha)に対して垂直の方向で測定した半径として定義される、穴入口における穴(H)の穴半径である。
【0027】
アスペクト比についてのこのような制限A<Amaxが重要であるのは、10よりも大きい比較的大きなアスペクト比Aについては、穴壁(HW)が個所Aで直接照射される、本発明に基づいて調整される放射に追加して、別の個所Bで穴壁(HW)によって反射される放射も個所Aでの除去に寄与するからである。穴壁(Hw)の反射と複数回の照射とによって、穴壁(Hw)でのレーザ放射(LS)の本発明に基づく調整が反射される放射のために変化し、本方法を実施可能ではなくなる。
【0028】
先行技術では必要とされる、たとえばシングルパルスドリリング又はパーカッションドリリングに関わる独国特許発明第102004014820号明細書に記載されているような、入射するレーザ放射と反対向きに溶融物を生じた穴から完全に排出し、穴壁への固化した溶融物の堆積をなくすように、穴を形成する放射を生成するための方策は必要ない。
【0029】
本発明による方法の別の利点は、たとえば穴壁(Hw)への固化した溶融物の堆積の事後的な除去のための後続するトレパニングドリリングが必要ないという点に見出すことができる。
【0030】
本発明による方法の1つの主要な方策は、作成される穴(H)が中央領域又はオーバーラップ領域(O)と縁領域(R)とに分割されることにも見出すことができる。実現されるべき穴(H)の穴軸(Ha)に対して垂直の放射(LS)の空間分布が、オーバーラップ領域(O)と縁領域(R)とでそれぞれ別様に調整される。
【0031】
実現されるべき穴(H)の縁領域(R)でレーザ放射(LS)に割り当てられるポインティングベクトル<S>の方向の調整は、レーザ放射(LS)の焦点位置とレイリー長の調整によって行うことができる。
【0032】
本発明による方法のためには、作成される穴の縁領域での放射のエネルギー束密度を非常に正確に測定して調整しなければならない。エネルギー束密度についての非常に小さい値のとき、すでに除去が行われるからである。除去のために最低限必要なエネルギー束密度について、本発明によると、1ナノ秒よりも長いパルス時間についてWcm-2の、又は10ピコ秒よりも短いパルス時間についてJcm-2(10-4Wm-2又はJm-2に相当)の規模を有する数として定義される閾値が規定され、この閾値が、穿孔されるべき材料を特徴づけるために知られるその他すべての穴に関連するパラメータ(溶融温度、熱容量、熱伝導率など)の代替となり、金属材料については104~105W・cm-2又は1~10J・cm-2の典型的な値をとる。
【0033】
測定されるべきエネルギー束密度について限定された領域を有し、エネルギー束密度の任意の大きさの差異を同時に検出することができない市販の器具を用いた測定を行うことができるのは、たとえばレーザビームの強度の高い領域がフェードアウトされ、そのようにしてレーザビームの外側領域を高い解像度で測定することができる場合に限られ、測定によって調整が管理されなければならない。
【0034】
穿孔中にレーザ放射(LS)は、少なくとも1回通過されるべき閉じた軌道曲線(C)に沿ってそのビーム軸(BA)が移動を行うように案内されるのが好ましい。このときビーム直径(DS)の半分は、軌道曲線(C)の直径(DC)の半分と少なくとも同じ大きさに選択される。穿孔中のレーザ放射(LS)の移動は、たとえばスキャナを用いて行われる。
【0035】
さらに別の方策では、作成されるべき穴(H)のオーバーラップ領域(O)と縁領域(R)における放射(LS)のエネルギー束密度を、時間的な平均値でそれぞれ別様に調整することができる。それが意味するのは、レーザ放射がパルス化され、その間にビーム軸(BA)が閉じた軌道曲線(C)を通過し、2つの連続するパルス間の時間(パルス休止)が変更され、軌道速度vCが時間的な平均値で変更されることである。
【0036】
穴(H)の内部でのレーザ放射(LS)の望ましくない反射が十分に小さい値を有することによって、すなわち、反射されるエネルギー束密度が除去についての閾値よりも低い値をとることによって、アスペクト比についての本発明に基づく最大値Amaxが拡大されることを惹起するために、穴(H)の縁領域(R)におけるポインティングベクトル(<S>)が、作成されるべき穴(R)の穴壁(HW)の方を向く方向成分をもって調整される。このような方策によって入射する放射(LS)の吸収が増加し、形成される穴(H)の穴壁(HW)の比較的深い位置にある領域への放射(LS)の反射が回避され、又は、除去についての閾値を上回ることがなく、管理不能な除去が行われない程度まで少なくとも減少する。
【0037】
限界フルエンスFthは、すなわち10ピコ秒より短いパルス時間についての閾値は、穴の形成中又は通過の有限数の周期後に到達され、又はさらにこれを下回る。穴壁が各々のパルスによって次第に急傾斜になっていき、したがって穴壁に入射する放射のフルエンスが、穴壁の次第に広くなる面又は面積に当たるようになるからである。限界フルエンスFthに到達すると、又はこれを下回ると、除去は可能でなくなり、穴の漸近的な幾何学形状が達成される。このことは、シミュレーションと実験との比較から判定される、限界フルエンスFthの値についての定義及び測定規則である。穴の幾何学形状は最終的又は漸近的な形状(最終形状とも呼ぶ)に近似していき、それ以上は除去をすることができなくなる。漸近性への近似は、常に、漸近性に達したときの穿孔の結果が照射時間に依存しなくなるか、又は近似の場合には弱く依存するだけになることを意味し、したがって再現可能であると想定される。
【0038】
穴(H)の幾何学形状の高い再現性を保証するために、穴壁(Hw)の漸近性への到達を保証するのが好ましい。そのために、たとえば複数の穴(テスト穴)がパルスの数を増やしながら(パルス化レーザ放射)又は照射時間を増やしながら(cwレーザ放射)作成され、その際に不必要に長くレーザ放射(LS)に暴露されて、穴(H)がそれ以上進捗しないことが観察される。達成された穴直径は、断面研磨の作成によって実験的に決定される。断面研磨から実験的に決定された穴形状又は穴直径が変化しなくなったときに、漸近性が達成される。穴壁(HW)の漸近性への到達が保証されていれば、他の穴も特別に高い再現性で、又は技術的に無視できるわずかな相互の誤差(数マイクロメートル未満)で製作することができる。
【0039】
穴の漸近形状又は漸近性とは、レーザ放射の特定数のパルスの後(パルス化レーザ放射)に、又は特定の照射時間の後(cwレーザ放射)に生じ、以後のすべてのパルス又は以後の照射によってもはや変化しない穴形状を意味し、これは除去ストップとも呼ばれる。このときに漸近性が成立する、又は漸近性が近似される、レーザ放射のパルスの数は、材料パラメータ、ビームパラメータ、及び方法パラメータの値に依存する。したがって漸近性への近似が意味するのは、達成された穴形状が照射時間の進捗に伴って変化しなくなり、又は穴形状の結果が照射時間の進捗に伴ってごくわずかしか変化しなくなり、それにより、生じている穴形状が再現可能であると想定され、そのようにして最終形状に達することである。
【0040】
方法に関わる1つの方策によると、穴の最終形状への到達は縁領域(R)に対するレーザ放射(LS)の調整によって規定され、穴(H)の最終形状への到達について、1ナノ秒よりも長いパルス時間についてW・cm-2の、又は10ピコ秒よりも短いパルス時間についてJ・cm-2(10-4W・m-2又はJ・m-2に相当)の規模を有する数として定義される閾値が規定され、この閾値が、穿孔されるべき材料を特徴づけるために知られるその他すべての穴に関連するパラメータの代替となり、金属材料については104~105W・cm-2又は1~10J・cm-2の典型的な値をとる。
【0041】
穿孔時間の進捗に伴って穴壁が次第に急傾斜になっていくので、穴壁(HW)の次第に広くなっていく部分面に対して次第に増えていく放射割合が当たるようになり、そのようにして、穴壁(HW)に入射する放射のフルエンス(F)が低くなっていく。このようにして穴形状が再現可能に、かつ高い精度をもって、それ以上除去することができない最終形状に近似していく。
【0042】
10ピコ秒よりも短いパルス時間、又は材料とレーザ放射との相互作用の時間については、レーザ放射は吸収されたエネルギーを材料の自由電子に蓄えるだけであり、照射される材料の原子の顕著な加熱はない。エネルギー束密度[J・m-2s-1]に代えて、フルエンス(F)[J・m-2]が時間を通じてのエネルギー束密度の積分として定義され、フルエンスは材料を面積あたりで照射するレーザ放射のエネルギー(放射エネルギー)の割合として定義され、SI単位J・m-2を有する。
【0043】
コンポーネントの材料が照射される面積あたりの放射エネルギーはF=I・Δtをもってフルエンス(F)と呼ぶこともでき、このときエネルギー束密度は強度Iとも呼ばれ、Δtはコンポーネントが照射される時間を表す。
【0044】
フルエンス(F)についての閾値(限界フルエンスFth)を下回ると、除去がもはや不可能になり、穴の漸近的な幾何学形状が達成される。すなわち、穴の幾何学形状が最終的又は漸近的な形状に近似していき、それ以上は除去することができなくなる。したがって穴の幾何学形状の高い再現性のためには、すでに上で説明したように、漸近性への到達が保証されなければならない。
【0045】
材料が貫通穿孔されると穴の穴底面が開き、レーザ放射の一部が穴を通過して照射されて、穿孔されるべき材料によっては吸収されない。このとき穴底面(Hb)は、形成されていく穴(H)の、穿孔時に進捗していく端部として定義される。穴底面のところで開いている穴(H)の中では、溶融物が開口部の周囲からさほど強力には加速されず、穴から完全に排出されなくなり、穴壁で固化する。穿孔中に排出されるべき溶融物が穴壁で固化するのを回避するために、パルス化レーザ放射を用いる穿孔について好ましい1つの方策は、複数のパルス(最後のパルスまで)を用いた穿孔時に、オーバーラップ領域(O)の貫通穿孔前に溶融物がレーザ放射(LS)の伝搬方向と反対向きに穴(H)から排出される方策である。このことは、穴底面が材料厚みに達して貫通穿孔が生じることがないように、オーバーラップ領域(O)でのレーザ放射のエネルギー束密度が調整されることによって実現される。このようにして、穴の最終形状に到達するためになおも排出されるべきである、少なくとも部分的に望ましくないリキャストとして穴の中に残る残留容積が、可能な限り少なくなる。
【0046】
本方法により、ガスノズルを使用することなく蒸発圧力のみに基づいて、形成されている穴から溶融物の排出を行うことができる。オーバーラップ領域での、すなわちレーザ放射の各々のパルスで照射される領域でのエネルギー束密度とパルス時間は、上で述べた漸近性に到達することなしに、穴底面がパルス終了時にコンポーネントの下面に到達するように調整される。穴壁で固化して排出することができず、回転しないコンポーネントについて典型的には100μmよりも小さいのがよく、回転して加速されるコンポーネントについて典型的には50μmより小さいのがよいリキャスト厚みすなわち溶融物堆積の厚みを測定することで、小さいリキャスト厚みの成果を確認することができる。適用される放射の強度とパルス時間は、コンポーネントがその下面で(穴底面(Hb)で)貫通穿孔される時点で、最終的に穴の漸近性へと到達するために、溶融物の最小限の残留容積を排出するだけでよいように適合化される。この時点で、なおも排出されるべきごく少量の材料の残留容積が溶融され、蒸発圧力によって部分的に下方に向かって、及び部分的に穴壁に沿って上方に向かって穴から排出され、そこでさらに部分的に固化してリキャストを形成する。
【0047】
エネルギー束密度の最小値を下回らないのがよく、エネルギー束密度の最大値を上回らないのがよい。最小値は、コンポーネントの下面で穴底面がまだ開いていないこととして定義される、貫通穿孔が行われないことによって決定され、最大値は、貫通穿孔に到達するための穿孔時間が飛躍的に増大することによって決定される。飛躍的な増大が意味するのは、最大値よりもわずかに低いエネルギー束密度については材料を貫通穿孔するために短い穿孔時間で足り、このとき穿孔速度vPが大きい値をとり、典型的には1ms-1よりも大きい値をとり、かつ、最大値よりもわずかに高いエネルギー束密度については貫通穿孔までに長い穿孔時間が必要であり、穿孔速度vPが小さい値をとり、典型的には10-2ms-1よりも小さい値をとるということである。
【0048】
付言しておくと、レーザ放射の低すぎるエネルギー束密度は溶融物を穴からその深さ全体を通じて排出するのに十分ではなく、レーザ放射の高すぎる強度は稠密すぎる金属蒸気を引き起こし、それがレーザ放射を相当に吸収し、そのために穿孔速度vPを引き下げてしまう。
【0049】
方法に関して、レーザ放射のビーム軸(BA)が穴軸(Ha)を中心として回転する角度として定義される増分角(Alpha)を調整することで、断面で見て円形の穴、8の字形の穴、長孔、又は3穴の穴、若しくは星形の穴を生成することができる。先行技術では、円形でない穴断面の製作のために穴の最小断面よりも小さいレーザ放射のビーム直径が必要であり、生成されるべき穴輪郭が軌道曲線に沿って追従されなければならない。先行技術に基づく方法の適用によって実現可能な最小の断面形状は、たとえば8の字型の輪郭の中心にあるx字型の区域は、輪郭が追従されるときに少なくともビーム直径と同じ大きさであり、すなわち、本発明による方法の適用によるよりも大きい。本発明の方法により8の字型の輪郭のx字型の区域が、レーザビーム直径のオーバーラップ領域によってのみ照射されるからである。
【0050】
本発明の方法によって8の字型の穴は、2つの連続するパルスの間で増分角が180度になり、レーザ放射がパルス化され、このとき8の字型の穴形状が実現されるまで0度と180度への到達時にパルスが反復して行われるように、増分角とパルス時間とが調整されることによって生成される。長孔の形成のためには、連続する2つのパルスの間で増分角が180度になり、0度と180度に達したときにパルスが反復して行われるように、同じく180度の増分角とパルス時間とが調整され、このときオーバーラップ領域は長孔が生じるような大きさに調整される。3穴の穴は、たとえば120度の角度間隔をおく3つの穴を有する穴であり、増分角を120度に合わせて調整することで生成され、3穴の穴が形成されるまで、0度、120度、及び240度に達したときにパルスが反復して行われる。星形の穴が本発明の方法に基づいて生じるのは、0度、360*1/n度、360*2/n度、...360*(n-1)/(n)度に達したときパルスが反復して行われる場合であり、ここでnは自然数であり、360/nは星形の穴が達成されるまでの自然数である。
【0051】
本発明の方法によって製作可能な穴の主要な利点と特殊性、並びにこれから生じる特別な用途や利用分野は、以下のように要約することができる。本発明による方法で作成されるべき穴の直径は照射時間に伴って増加し、漸近値に到達しようとする。穴直径についての漸近値に近似していくとき、1つのパルスあたりの除去又は穿孔速度vPはゼロに近づこうとし、穴の直径を再現可能である。
【0052】
これに関して付言しておくと、溶融物を排出するためにガスジェットを用いる穿孔の場合には、穴深さに対して生じる穴の最小直径が穴の幾何学形状の指標となり、これが装入ガスの容積流量を制限する。
【0053】
燃料フィルタなどの全体の貫流容積は、個々の穴の貫流容積を加算したものとなる。タービンの冷却は穴によって実現され、その直径と拡張(円錐度)が冷却作用を決定づける。したがって燃料フィルタやタービン部品の穴の製作は、本発明による方法の特別に重要な適用分野である。
【0054】
気体や液体が穴から排出されるときの流動挙動は、特に、材料表面に対する穴壁の角度と、穴の拡張すなわち穴の円錐度とによって決定される。事前定義された円錐度の遵守は、たとえばタービンコンポーネントを保護するための材料表面への冷却ガスの分配にとって特に重要である。本発明の方法により、そのような円錐度を非常に定義どおりに調整することができ、それは、穴(H)の縁領域(R)におけるポインティングベクトル(<S>)が、達成されるべき穴(H)の穴壁(HW)の方を向く、穴深さに伴って単調に変化する方向成分を有することによってである。放射の吸収、及びこれに伴って穿孔速度vpは、穴壁(HW)の方を向く方向成分が増すにつれて大きくなるので、穴直径もこの方向成分に比例して大きくなる。
【0055】
円筒や円錐の穴の形状は、穴を通る液体や気体の層流のための前提条件である。特にタービンコンポーネントで該当するような、ベース材料と、付着媒介層と、断熱層とからなる多層システムにおける穴の直径は、穿孔中に貫通穿孔されるべきそれぞれの材料層に関わりなく調整可能でなければならず、それにより、貫通穿孔されるべき材料層に左右されることなく、平滑な穴壁と、増していく穴深さに伴って均等に拡張していく、又は縮小していく穴直径とが生じる。このことは本発明の方法によると、貫通穿孔のために比較的高いエネルギー束密度を必要とする、又は閾値フルエンスについて比較的高い値を有する、断熱層がまず貫通穿孔されることによって可能となり、穿孔時間は、断熱層の穴がその漸近形状に到達し、さらに深くに位置する材料層での後続する穿孔時に、これよりも低いエネルギー束密度又はこれよりも低い閾値フルエンスの値によってそれ以上除去されないように選択される。
【0056】
本発明による方法のさらに別の驚くべき特性は、レーザ放射の吸収や熱伝導についてそれぞれ非常に異なる特性をもつ多層システム(断熱層のセラミックとベース層の金属)を穿孔する場合に、穴深さ全体を通じて定義された円錐度を実現可能であるという点に見ることができる。驚くべきことに、最初に穿孔されるべき層が、穿孔プロセス及びこれに伴って穴形状に無視できるほどの影響しか及ぼさない。このことは、最初に穿孔されるセラミック層を介して流れてこれを覆う溶融物流の帰結として理解され、それにより、レーザ放射の吸収と熱伝導が断熱層と金属のベース層とについて同じ大きさとなり、そのようにして平滑な穴壁が生じる。このように重要なのは、本発明による方法が穿孔の開始時から通過貫通の時点まで、ビーム方向と反対向きに溶融物排出を行うことである。穴は中央領域に生じるので、品質の不足(ここでは相違する材料特性に基づく形状誤差)などが生じている穴の領域が穿孔の以後の過程で除去され、したがって穴の品質には寄与しない。さらに深くに位置する金属層の溶融物は、その上に位置するたとえばセラミック層の方向に追いやられてこれを覆い、このことは、深くに位置する層に由来する溶融液状の材料で放射が吸収されて、覆っている溶融物による熱が支配的となることにつながる。
【0057】
コーティングの付着強度とせん断強度の低下は観察されない。多層システムを穿孔する場合、穴の領域で各層の間の付着性が低下してはならない。たとえばタービンコンポーネントの断熱層が損傷していると、作動時に熱的及び機械的に高い負荷を受けるコンポーネントの層がベース材料から剥離する可能性があり、断熱層による防護が保証されなくなる。各層の間の付着部は、穿孔中に穴壁に沿ってビーム方向と反対向きに流出する溶融物によって熱的に負荷を受け、このとき各層が各々のパルス中にそばを流れる溶融物の溶融物温度まであらためて加熱され、それぞれ異なる層におけるそれぞれ異なる熱膨張のために各層をそれぞれ相違する強さでせん断する熱力学的作用が生じるので、連続する2つのパルスの間のパルス休止は、熱拡散によって加熱を再び低下させることができる、せん断をするように負荷する作用を高める熱の蓄積が起こらないような長さに選択されなければならない。その際に留意すべきは、断熱層の中への(断熱層の厚みでスケーリングされる)熱の浸透深さが1よりも小さく保たれなくてはならないことであり、そうでない場合には、図面の
図4のグラフに示すようにせん断作用が強くなりすぎる。この図では、断熱層への熱の浸透深さと、加熱後の断熱層の穴壁における温度とが、時間tpとパルス休止tpauseとで示されている。このことは本発明の方法によると、パルス休止tpauseがパルス時間tpの倍数として選択されことによって可能であり、このとき温度Tは、関係T=Ta+(Tm-Ta)Tsに基づきスケーリングされた温度Tsから算出される。Taは周囲温度を表し、それに対してTmは溶融温度を表す。
図4のグラフを参照すると、スケーリングされた温度Tsがパルス休止tpauseの間にどのように低下していくかを読み取ることができる。溶融温度Ts=1から、溶融温度Tmの10番目の部分-
図4の一定の曲線-までの冷却を達成するには、パルス休止tpauseがパルス時間tpの40倍でなければならない。
【0058】
本発明の方法によれば、固化した溶融物の穴壁への堆積(リキャスト)が回避される。定義された穴直径を実現できるのは、穴壁で固化した溶融物の不規則な堆積物によって穴の幾何学形状が変化しない場合に限られ、こうした堆積物は、穿孔の進捗や穴の幾何学形状にも非体系的に影響することになる。さらに、固化した溶融物に亀裂や応力が発生する可能性があり、コンポーネントの作動時に損傷につながりかねない。タービンブレードや燃料フィルタなどの高い負荷を受けるコンポーネントでは、固化した溶融物からなる堆積物の回避がその耐用寿命を伸ばす。
【0059】
穴出口での固化した溶融物によるばり形成が回避される。本方法により、穴の漸近形状に到達した後に、縁領域の穴直径よりも小さい穴直径を有する貫通穿孔がオーバーラップ領域で生成されるからである。たとえば穿孔の開始時にオーバーラップ領域で穴出口に生じるばりが、穿孔をする本方法によって縁領域でさらに除去され、時間的に互いに密接に引き続いて両方の領域が除去されるので、短い穿孔時間が実現される。ばり形成の回避は後加工を節減させるとともに、たとえばタービンコンポーネントや燃料フィルタの生産時間を短縮し、冷却の効率を向上させる。普通ならば穴出口でのばり形成が、冷却流体の流動抵抗及びこれに伴って冷却の効率を低下させるからである。
【0060】
溶融物の排出は、入射するレーザ放射と反対向きの方向に、穴底面でのコンポーネントの材料の蒸発に基づく圧力勾配によって実現することができ、このことは小さい穴直径については、駆動される外部のガスジェットに基づく圧力勾配よりも穿孔の開始段階ではるかに効率的である。先行技術では、溶融物を排出するために外部のガスジェットが必要である。本発明の方法による経験は、蒸発に基づく圧力勾配によるオーバーラップ領域での溶融物排出が十分なものであり、外部のガスジェットは必要ないことを示している。オーバーラップ領域に由来する溶融物の大部分の割合が、入射するレーザ放射と反対向きに穴から外へ流出することは、穴壁でのリキャストを低減する。ステント、燃料フィルタ、タービンブレードの製造では、穿孔中に材料残留物(リキャスト)が穴の中に堆積したとき、クリーニングとも呼ばれる後加工が普通ならば必要になる。
【0061】
穴の出口縁で非常に小さい曲率半径を実現することができる。このような小さい曲率半径は、すなわち理想的には90度又は直角のエッジに相当する鋭利なエッジは、入口エッジの近傍で穴壁へのレーザ放射の吸収が増大することによって実現され、それは、穴(H)の縁領域(R)におけるポインティングベクトル(<S>)が、達成されるべき穴(H)の穴壁(Hw)の方を向く、穴深さに伴って変化する方向成分を有することによる。
【0062】
穴が生成されている間には、発生する溶融物が入口エッジから剥離するのがよく(すなわちばりが生じないのがよく)、たとえばノズル穴としての穴の使用中には、たとえば出口エッジから燃料が剥離するのがよい。すなわち、穴開口部で(すなわち穴が生成される入口エッジでも、穴底面が最初に開くコンポーネントの下面でも)液体流が剥離することは、出口エッジの湾曲によって決定される。噴射ノズルにおいて出口エッジの湾曲は、燃焼室での燃料の剥離と完全燃焼にとって決定的である。穴の中への周囲ガスの引込みや、タービンブレードにある冷却穴の出口からの冷却ガス流の剥離も望ましくない流れの特性であり、その発生は出口エッジの幾何学形状に依存し、これは好ましくは直角であるか、少なくとも近似的に直角であるのがよい。
【0063】
金属性の材料からなるコンポーネントを、及び積層された金属性と誘電性の材料からなるコンポーネントを穿孔する本発明の装置は、レーザ放射をコンポーネントに向ける少なくとも1つのビームユニットを含むレーザ加工装置を有し、及び、レーザ放射により上面で照射されるコンポーネントの領域として定義されるスポット面が、作成されるべき穴の内側円周に相当する位置である内側の円周区域に沿って移動するように放射ユニットを制御する、さらにはスポット面の一部が穴の内側円周区域の内部でどの時点でもオーバーラップ領域を生成するように制御する、制御ユニットを有する。
【0064】
このようなレーザ加工装置によって非常に良好な穴の形状精度が実現され、穴を形成するために必要な時間が従来の方法に比べて短縮される。
【0065】
この装置は、作成されるべき穴の断面よりも小さい、コンポーネントに当たるレーザ放射のスポット面の照射面又は断面を利用する。
【0066】
スポット面の直径である点直径が、作成されるべき穴の直径の長さの半分よりも大きく、かつ穴の直径の長さよりも小さくなるように、レーザ加工装置がレーザ放射を放出するのも好ましい。それにより、貫通穿孔のために必要でありオーバーラップ領域の迅速な貫通穿孔のためには望ましいレーザ光の高すぎるエネルギー束密度が、開口部の縁部で、すなわち縁領域で低減されるという利点があり、エネルギー束密度の低減はパルスあたりのいっそう小さい除去容積につながり、そのようにして穴の形状精度を改善する。
【0067】
制御ユニットは、ビーム軸に対して径方向で見たとき、レーザ放射がコンポーネントの開口部の領域をオーバーラップ領域から外方に向かって拡張するように、レーザビームユニットを制御する。
【0068】
穴底面が開いた後の溶融物の排出を改善するために、コンポーネントの上面に、及びコンポーネントに形成されている穴の中に、流体を供給する補助流体供給ユニットが意図される。
【0069】
レーザ加工装置は、ビーム軸に関してレーザ放射を径方向に発振させるレーザ発振ユニットと、レーザ放射の反射によってスポット面の位置を変化させ、それと同時にレーザ発振ユニットにより発振されるレーザ放射の光路を変化させるガルバノスキャナユニットとを利用することができる。
【0070】
本発明のその他の詳細と構成要件は、図面を参照した実施例についての以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】
図1は、本発明による方法を適用したコンポーネントの穴の生成を、それぞれ穴軸を含む平面において、時間的な順序で示す模式的な断面図において、穴底面が貫通穿孔される時点の前の穴壁及び穴底面の幾何学形状を示す。
【
図2】
図2は、本発明による方法を適用したコンポーネントの穴の生成を、それぞれ穴軸を含む平面において、時間的な順序で示す模式的な断面図において、貫通穿孔された時点での穴壁の幾何学形状を示す。
【
図3】
図3は、本発明による方法を適用したコンポーネントの穴の生成を、それぞれ穴軸を含む平面において、時間的な順序で示す模式的な断面図において、穴壁がその事前定義された達成されるべき幾何学形状になったときの穴壁の幾何学形状を示す。
【
図4】
図4は、そばを通過する溶融物による加熱後の断熱層の穴壁における、時間tp及びパルス休止tpauseでの温度を表すグラフを示す。
【
図5】
図5は、作成されるべき穴の幾何学状況を穴軸に対して垂直な断面で示す。
【
図6A】
図6Aは、縁領域とオーバーラップ領域の放射割合を重ね合わせることによって穴を作成する穿孔プロセスの
図5に対応する断面図の時間的なシーケンスを示す図である。
【
図6B】
図6Bは、縁領域とオーバーラップ領域の放射割合を重ね合わせることによって穴を作成する穿孔プロセスの
図5に対応する断面図の時間的なシーケンスを示す図である。
【
図6C】
図6Cは、縁領域とオーバーラップ領域の放射割合を重ね合わせることによって穴を作成する穿孔プロセスの
図5に対応する断面図の時間的なシーケンスを示す図である。
【
図6D】
図6Dは、縁領域とオーバーラップ領域の放射割合を重ね合わせることによって穴を作成する穿孔プロセスの
図5に対応する断面図の時間的なシーケンスを示す図である。
【
図6E】
図6Eは、縁領域とオーバーラップ領域の放射割合を重ね合わせることによって穴を作成する穿孔プロセスの
図5に対応する断面図の時間的なシーケンスを示す図である。
【
図7】
図7は、コンポーネントの貫通穿孔の進捗を図像(1)~(4)のシーケンスで示す。
【
図8】
図8は、穴を生成するために先行技術に基づいて適用されているトレパニング加工を図像(1)~(4)のシーケンスで示す。
【
図9】
図9は、本発明による方法を実施可能である第1の実施形態に基づく装置の模式的な構造を示す。
【
図11】
図11は、
図9及び
図10の装置で適用可能であり、穿孔をする装置に割り当てられた補助ガス供給源を備える、穿孔をする装置の模式図を部分的に切断された図面で示す。
【発明を実施するための形態】
【0072】
次に
図5及び
図6A~
図6Eを参照しながら、金属性の材料からなるコンポーネントを、及び積層された金属性と誘電性の材料からなるコンポーネントを、シングルパルス/パーカッションドリリングによって、及びパルス化レーザ放射又は連続レーザ放射を用いるトレパニングドリリングによって穿孔する本発明の方法について説明する。
【0073】
幾何学状況を説明するために、まず
図1~
図3を援用する。
【0074】
図1は、穴底面H
bが貫通穿孔される時点の前における、上面2に対して垂直に厚みdを有するコンポーネント1の断面図を示している。コンポーネント1は金属性の材料からなり、又は積層された金属性と誘電性の材料からなる。このコンポーネント1では、横断面の平面に延びる穴軸H
aを有する穴Hがすでに形成されており、その穴壁がH
wで示されている。
【0075】
穿孔速度がvpで示されており、穴軸Haの方向への穴底面Hbの運動を表す。中央領域又はオーバーラップ領域Oの外部に位置し、穿孔時にレーザ放射LSの比較的低いエネルギー束密度で照射される領域として定義される縁領域がRで表されている。
【0076】
レーザ放射のビーム方向を有するビーム軸B
Aは、方向R
Cを有する軌道曲線Cの上で移動し、
図3に略示されている穿孔結果が達成されるまで、この軌道曲線Cを反復して通過する。軌道曲線Cは、ビーム軸B
A(beam axis)に対して垂直な平面に位置する。
【0077】
図1の穴Hはコンポーネント1の下面3をまだ貫通しておらず、円錐形の断面形状を示している。このことは、オーバーラップ領域O(overlap area)の直径D
Oが割り当てられた穴底面H
bによって、穴Hが依然として区切られていることを意味する。オーバーラップ領域Oは、
図1~
図3に破線で示されている。したがってこの穿孔段階まで、溶融物は使用されるレーザ放射LSのビーム軸B
Aのビーム方向に対して反対向きに穴底面H
bから出るように加速され、穴壁H
wに沿ってコンポーネント1の上面2で穴Hから排出される。加速作用は、穴底面H
bでの材料の蒸発と、その際に材料の溶融物に作用する蒸発圧力又はアブレーション圧力とによって引き起こされる。
【0078】
図2は、コンポーネント1が下面3で貫通穿孔された時点における、オーバーラップ領域Oの断面形状及び穴Hの穴壁H
wの幾何学形状を破線で示している。コンポーネント1が貫通穿孔される時点は、オーバーラップ領域Oの全幅D
Oが材料の下面3に到達し、溶融物排出の向きが変わることよって定義され、このことは、主としてコンポーネント1の下面2でも溶融物を排出できるようになったことを意味する。
【0079】
図3は、
図2に示されるような穴Hの形状から開始して穴壁H
wがその事前定義された幾何学形状に達したときの、穴Hの穴壁H
wの幾何学形状を示しており、この幾何学形状は、コンポーネント1の上面2における半径r
B,topと、コンポーネント1の下面3における半径r
B,botとによって事前定義される。円錐形の穴についてはr
B,top=r
B,botであり、穴の直径D
Hは穴深さに関して一定である。
【0080】
図3には、オーバーラップ領域の穴直径D
Oが、縁領域Rの外側の縁部すなわち穴壁H
w(破線)にも追加的に達する作成されるべき穴全体の穴直径D
Hよりも小さいことが示されている。
【0081】
レーザ放射LSによってコンポーネント1に穴を製作するために、本発明によれば、シングルパルス/パーカッションドリリングとトレパニングドリリングの両方が時間的に見て同時に実行され、すなわち、これら両方の方法が、パルス化レーザ放射LSの場合にはオーバーラップ領域でのオーバーラップによって重ね合わされ、又は連続レーザ放射若しくは非パルス化レーザ放射では、エネルギー束密度の高い内側の中央領域若しくはオーバーラップ領域Oとエネルギー束密度が低い外側領域若しくは縁領域との調整によって重ね合わされる。
【0082】
比較的高いエネルギー束密度とは最大値を上回らないことを意味し、これを超過すると、除去された材料に由来する金属蒸気の中でレーザ放射LSの強い吸収が起こり、低下していくエネルギー束密度に伴って穿孔時間が劇的に飛躍的に長くなる。比較的低いエネルギー束密度とは最小値又は閾値を下回らないことを意味し、これを下回ると除去が行われなくなり、又はアブレーション停止が生じる。
【0083】
次に、連続レーザ放射又は非パルス化レーザ放射で行われる、適用されるレーザ放射LSのビームガイドについて
図5及び
図6A~
図6Eを参照して説明する。
【0084】
図6A~
図6Eは、縁領域Rとオーバーラップ領域Oの放射割合を重ね合わせることによって穴を作成するための、
図5に対応する穿孔プロセスの穴軸H
aに対して垂直の断面図(スナップ図像)の時間的なシーケンスを示している。ビーム軸B
Aは閉じた軌道曲線Cを通過し、連続する2つのパルスの間の時間(パルス休止)と軌道速度v
cを変えることで、縁領域におけるエネルギー束密度の時間的な平均値が変更される。
【0085】
連続レーザ放射又は非パルス化レーザ放射で行われるビームフォーミングは、レーザビーム軸BAが移動せず、中央領域O(パルス化レーザ放射の場合には、時間的に連続する個々のパルスのオーバーラップ領域Oと呼ぶ)のレーザ放射LSが最大値よりも低い比較的高いエネルギー束密度を有し、縁領域ではアブレーション停止の閾値よりも高い比較的低いエネルギー束密度を有するように実行される。
【0086】
図5に断面の平面図で示されている穴Hは、
図1~
図3に示されているコンポーネント1の厚みd全体にわたり、穴軸H
aを起点として半径D
H/2の直径D
Hを与えられるものとし、それにより、コンポーネント1を通る円筒形の穴壁H
Wがもたらされる。
【0087】
図5では、直径D
Oが割り当てられる中央領域O(以下においてはオーバーラップ領域Oとも呼ぶ)がハッチングで示されている。縁領域Rは径方向で中央領域Oに後続して、穴壁H
wまで延びている。
【0088】
この縁領域Rの面積FRについては次式:FR=FH-FO=π・DH/2-π・DO/2が成り立ち、ここでFHは穴Hの断面積を表し、FOは中央/オーバーラップ領域Oの面積を表す。
【0089】
図5を参照すると、同じく
図1~
図3を参照してもわかるとおり、
図1に示されている穴Hの穿孔の開始時にはオーバーラップ領域Oで大きな穿孔進捗が実現され、縁領域Rでは比較的小さい穿孔進捗が生じる。
【0090】
そして
図5及び
図6A~
図6Eが示すように、コンポーネントの上面(
図1~
図3も参照)がレーザ放射LSで照射され、そのビーム軸はB
Aで示されており、ビーム軸B
Aに対して垂直に見たときにビーム直径D
Sを有している。コンポーネントの上面の照射される面積はレーザ放射LSの断面積Sであり、スポット面Sとも呼ばれる。
【0091】
そしてスポット面Sでコンポーネントに当たるレーザ放射LSは、本発明によると、そのビーム軸B
Aが軌道曲線Cの上で、図示した例では円軌道Cの上で、穴軸H
aを中心として案内されるように案内され、このことは
図6Aが明示している。円軌道C(輪郭C)に沿ったビーム軸案内の方向R
Cは、
図6A~
図6Eに示す例では反時計回りに行われるが、このことが絶対に必要なわけではない。このようなビームガイドを時計回りに行うこともできる。
【0092】
ビーム直径DSについては次式が成り立つ。
DS=DC+DO及びDS=DH/2+DO/2
DS=レーザ放射のビーム直径
DO=中央領域Oの直径
DH=穴Hの直径
DC=軌道曲線Cとも呼ぶ円軌道Cの直径
【0093】
そして
図6Aは、
図5と比較したとき、レーザ放射LSの2つのパルス後におけるコンポーネントの照明又は照射を示し、それに対して
図6Bはレーザ放射LSの3つのパルス後におけるコンポーネントの照明又は照射を示し、
図6Cはレーザ放射の4つのパルス後におけるコンポーネントの照射を示し、
図6Dは完全な1周期後の放射のパルスを示す。それぞれ最後のパルスのスポット領域Sの縁部が太い線で図示されている。
【0094】
図6A~
図6Eのシーケンスから明らかなように、中央領域Oは、断面積又はスポット領域がSで表されるレーザ放射の各々のパルスで照射され、したがってオーバーラップ領域Oとも呼ばれ、それに対して縁領域Rは、オーバーラップ領域Oの外部に位置し、輪郭Cに沿ってのレーザビーム軸B
Aの移動に基づいて各々のパルスで照射されるのではない領域として定義される。
【0095】
図7の図像(1)~(4)は、穴底面H
bで穴(穿孔)がどのように開かれるかの例を示す概略図である。レーザ放射LSが照射されることで、コンポーネント1の開口部H(穿孔)が、穴軸H
aの場所を起点として、広がっていく黒い面によってわかるように径方向外方に向かって段階的に拡大されていく。黒で示している円形面の縁部は、コンポーネント1の穴Hのそれぞれの穴壁H
Wを表している。
【0096】
その結果、達成されるべき穴Hの漸近的な形状に到達し、エネルギー束密度のさらなる照射によってそれ以上の除去が行われなくなるまで、コンポーネント1の下面にある穴Hの直径DH=2・rB,botが広がっていく。
【0097】
図7-(1)が示すように、レーザ光LSでの照射の開始時には穴Hの開口が達成されておらず、又は貫通穿孔が達成されていない。それが意味するのは、開口を達成するために、適用されるレーザビームユニットがレーザ放射LSによる照射を続行し、その間に、
図6A~6Eを参照して前に説明したように、方向R
Cに沿ってスポット面Sを複数回移動させることである。
【0098】
レーザビームユニットは、スポット面Sを移動させている間に、オーバーラップ領域Oをレーザ放射LSで常時照射する。したがって、オーバーラップ領域Oでの時間的に平均したレーザ放射LSのエネルギー束密度は、縁領域Rにおけるよりも高い。
【0099】
したがって、
図7-(2)が示すように、穴底面の開口部又は穴Hは、まずオーバーラップ領域Oで開く。さらなる照射に伴って開口部が広がっていき(
図7-(3))、最終的に開口部Hがその全直径をとる(
図7-(4))。
【0100】
付言しておくと、レーザ光LSが放出されるタイムスパンは、穴軸H
aからオーバーラップ領域Oの縁部を介して径方向外方に向かって傾向的に短くなっていく。それに応じて、開口部の直径が事前定義された穴壁H
wまで達して事前定義された穴Hが生成されるまで、形成される開口部が径方向でオーバーラップ領域Oから外方に向かって拡張されていく(これに関しては
図6Eも参照)。
【0101】
図7も図像シーケンス(1)~(4)を通して、シングルパルス/パーカッションドリリングとトレパニングドリリングが同時に実行されることを明示している。それと同時に、中央領域Oがレーザ放射LSの各々のパルスで完全に照射されるようにレーザビームが案内されることが意味されており、ビーム軸B
Aは前のパルスのビーム軸B
Aに対してオフセットされており、そのようにして、縁領域の一部だけが1つのパルスの間に照射される。
【0102】
レーザビームLSのビーム直径D
Sは、達成されるべき穴の直径D
Hの半分よりも小さく調整されないのがよい(D
S>D
H/2)(
図5を参照)。このような方策により、比較的高いエネルギー束密度で照射され、cw放射については全穿孔時間の間放射で照射される、又はパルス化された放射については各々のパルスで照射される、中央領域Oが形成されることが保証される。
【0103】
また、中央領域O全体が全穿孔時間の間時間的に欠けた隙間なく放射で負荷されることを実現するために、軌道曲線Cの直径D
Cはビーム直径D
Sより大きく調整されないのがよく、したがってD
S<D
Cが成り立つ(
図5を参照)。このような方策によっても、中央領域Oが形成されることが保証される。
【0104】
上に説明した図面を用いて記述されている方法では、レーザ放射の多重反射が穴形状を変化させないように留意しなければならない。本発明によると最終の漸近的な穴形状は、レーザ放射のエネルギー束密度の空間分布とビーム軸の移動とによって一義的に規定され、多重の反射、及びそれによって反復される照射は、望ましくない。このような多重の反射は、たとえばスポット直径DS及び軌道直径DCが、10よりも小さいアスペクト比A=d/(2 rB,top)が遵守される程度の大きさに調整されることによって回避される。穴直径が小さく、穴深さが大きいときに多重の反射が発生し、このことは、アスペクト比が典型的には10よりも大きいことを意味する。
【0105】
本発明による方法を実施するために、放射LSのビーム軸BAの移動を穿孔中にスキャナを用いて実行することができ、ビーム軸BAの移動は、周期的に少なくとも1回だけ通過されるべき、直径DCを有する閉じた軌道曲線Cに沿って行われる。
【0106】
すでに述べたとおり、スポット面Sは、すなわちビーム軸B
Aに対して垂直なレーザ放射LSの断面積は、開口部の面積よりも小さく、すなわち、穴Hが段階的に開けられる面積よりも小さい。使用されるレーザ加工装置は、本発明による方法が適用されることによって、開口部の縁部でレーザ放射LSのエネルギー束密度が集中するのを防ぐことができ、穴の内側の円周区域I(
図7参照)に沿ってスポット面Sを移動させれば、開口部の形状精度の低下が防止されることも帰結される。
【0107】
図8の図像シーケンス(1)~(4)には、穴を製作するために先行技術に基づいて適用されるトレパニング加工が示されている。トレパニング加工では、生成されるべき穴輪郭の内側の円周区域Iに沿ってスポット領域SXが移動するが、時間的に見て照射のどの時点でもスポット領域に重ね合わされるオーバーラップ領域は存在しない。先行技術に基づいてこのようなトレパニング加工を行うレーザ加工装置は、まず、スポット領域SX1(図像(1)参照)によって示されているレーザ光を放出し、それにより、たとえば生成されるべき穿孔の中心に穴が開けられる。このことは、そのような穴が溶融した材料の排出のために生成されて、コンポーネントの厚み全体を通って延びることを意味する。次いで、レーザ光の照射位置が径方向でスポット位置SX2へと移動する(図像(2)参照)。これに続いて、レーザ光の照射位置が内側の円周区域Iに沿って移動し、それによりスポット領域が位置SX3へと変更される(図像(3)参照)。そして、スポット領域のこのような運動が図像(4)に準じて反復される。
【0108】
図9は、上に説明した方法を実施することができる、本発明による第1の実施形態を模式図で示している。
【0109】
本装置のさまざまな実施形態と構成についての以下の説明との関連で、レーザ放射LSの放射ガイドを取り上げるときには、符号も
図1~
図3及び
図5~
図7に関わるものを使用し、これらの符号に対応する記載や部品について
図9~
図11であらためて説明することはしない。さらに明文もって指摘しておくと、図面に示されているさまざまな実施例の説明において、1つの実施形態に関わるコンポーネントや方法ステップは、それが別の実施形態を参照してすでに説明又は記述されている場合には、あらためて全部を説明するわけではない。それに応じて、1つの実施形態に関わるさまざまなコンポーネントの説明を、他の実施形態のそれぞれのコンポーネントに転用することができ、そのことについて明文で言及することはしない。
【0110】
図9の装置は、ビーム軸B
A及びビーム直径D
Sを有するレーザ放射LSを第1のガルバノスキャナユニット13の光ファイバ11及び出力デバイス12を介してそこから第2のガルバノスキャナユニット14に供給し、これがレーザ放射LSを光学系15を介してコンポーネント1へと向ける、少なくとも1つのレーザビームユニット10を有している。ビームユニット10と、第1及び第2のガルバノスキャナユニット13,14はいずれも制御ユニット16を通じて制御される。この制御は、レーザ放射LSによりコンポーネント1の上面2の面に対して照射される領域(
図6A~
図6Eの横断面Sを参照)として定義されるスポット面が、作成されるべき穴Hの内側円周すなわち直径D
Hに相当する位置である内側の円周区域に沿って移動するように行われ、かつ、スポット面Sの一部が穴Hの内側の円周区域の内部にオーバーラップ領域Oを生成するように行われる。
【0111】
レーザ放射LSはパルス化されている。しかしながら、連続波レーザ又はcw放射を利用することもできる。これに加えてレーザ光LSは、たとえばYAGレーザ、CO2レーザ、又はディスクレーザなどの任意のレーザ源によって提供することができる。レーザ放射のビーム形状についても、すなわちそのビーム軸BAに対して垂直のエネルギー束密度の分布又は強度分布の分布についても、たとえばガウシアン型、トップハット型、又はスーパーガウシアン型などを適用可能である。
【0112】
ガラスファイバ11は、ファイバの内部でレーザ放射LSを反射することでレーザ光LSを増幅する。ガラスファイバ11から出てくるレーザ放射LSの直径は、ガラスファイバ11の直径に依存する。したがって、コンポーネント1の加工に必要な放射直径を、ガラスファイバの交換によって容易な方式で調整することができる。しかしながら、コンポーネント1の上面2に当たるレーザ放射LSの放射直径を、たとえば相応の光学システムを介して、又はファイバレーザを利用することで行うこともできる。ファイバレーザを利用する場合、ガラスファイバ11及び制御ユニット16は不要である。
【0113】
図9に示すような装置により、
図5及び
図6A~
図6Eを参照して上に説明した方法を適用したうえで、穴直径D
Hが1mmよりも小さい穴Hを製作することができる。
図10は、本発明による方法を実施することができる別の装置を模式的に示している。この装置は
図9の装置に匹敵する。これが
図9の装置と区別されるのは、補助ガス供給ユニット18が設けられていることによる。このような補助ガス供給ユニット18を介して、貫通穿孔の後にオーバーラップ領域で補助ガスの質量流が穴を貫流するように、コンポーネント1に補助ガスが供給される。この補助ガスは、レーザ放射LSによって溶融した材料を、流れていく補助ガスの方向に穴から取り出すための役目を果たす。それにより、導出された溶融物が穴壁で固化し得なくなるので、穴Hの加工精度を向上させることができる。補助ガスとして、たとえば酸素、空気、窒素ガス、アルゴンガス、あるいは混合ガスを利用することができる。補助ガスに代えて液体が、たとえば水が、相応のウォータージェットによって穴Hに供給されることも意図される。
【0114】
図10に見て取れるように、ノズル出口19とコンポーネント1の上面2との間の間隔D
Gは、レーザ放射LSのビーム方向で見た光学系15の出口側と、コンポーネント1の上面2との間の間隔D
Lより、それぞれZ方向で見て大きく調整される。このような調整は、穴を貫流する補助ガスの質量流量の最小値を調整し、穴入口のところですでにコンポーネントの上面へと流出させないための役目を果たす。ただし、たとえば
図1~
図3に示すようにコンポーネント1に傾斜穴又は傾いた穴が穿設されるべき場合には、間隔D
Lが間隔D
Gより広く選択される。
【0115】
補助ガス供給ユニット18は、液体状の溶融物に対する排出作用を実現するために、少なくとも400kPa又はそれ以上の圧力のもとで、すなわち400kPa~1000kPaの範囲内の圧力のもとで、補助ガスを供給する。シングルパルス/パーカッションドリリングとトレパニングドリリングが同時に実行される本発明の方法により、従来の方法に比べて非常に低い補助ガスの圧力で作業をすることができる。本発明に基づく方法では、溶融物は実質的に蒸発に基づく圧力により、レーザビーム方向と反対向きに穴Hからコンポーネント1の上面2を介して運び出されるからである。穿孔中、補助ガスは一時的にのみ供給することができ、しかも、それはオーバーラップ領域で貫通穿孔が行われている場合に限られる。
【0116】
補助ガス供給ユニット18がノズル出口19を介してコンポーネント1に補助ガスを横から供給することによって、穴Hからの溶融物の押し出し又は運び出しを行うことができる。
【0117】
ガルバノスキャナユニット13及び14は、レーザ光の反射によってスポット面Sの位置を移動させ、それと同時にレーザ放射LSの光路を変える。このレーザ加工装置は、レーザ放射LSの横断面又はスポット面によって部分的に重なり合うオーバーラップ領域Oを常時提供し、その間に作成されるべき穴Hの内側の円周区域Iに沿ってスポット領域Sを移動させるようにレーザ加工を行うので、ガルバノスキャナユニットを利用するこのようなレーザ加工装置によって穴を加工することができる。
【0118】
たとえば1つの穴の加工が完了したとき、ガルバノスキャナユニットのミラー体の回転角を調整するだけで次の穴の加工が開始され、それによって次の穴の方向にレーザ放射が向けられるようにすれば、ガルバノスキャナユニットの利用によって材料加工を迅速化させることができる。レーザ放射を案内するためのビームスプリッタを利用し、そのようにして複数の光学システムを同時に制御することも意図される。スキャナに代えて光学系をビームフォーミングのために利用し、そのようにして中断のないcw加工のために、及びパルス化された加工のために、作成されるべき穴Hの中央領域Oと縁領域Rへの放射の分布を時間的な平均値でそれぞれ別様に調整することも意図される。
【0119】
本装置のさらに別の実施形態が
図11に模式的に示されている。
図10の装置とは対照的に、ガルバノスキャナユニットは設けられていない。
【0120】
この実施形態では、レーザ放射LSはガラスファイバ11を介してノズル切断ヘッド20に入力結合される。
【0121】
このノズル切断ヘッド20は、光学システム21と、レンズシリンダ22と、補助ガスノズル23とを含んでいる。
【0122】
ノズル切断ヘッド20は、作成されるべき穴Hの内側円周に沿った軌道上でレーザ放射LSを移動させるために(これに関しては
図5、
図6A~
図6Eを参照)、コンポーネント1の上面又は上面3と平行の方向に沿って、すなわち二次元の座標平面X-Yの任意の軌道に沿って、移動することができる。ノズル切断ヘッド20の移動に代えて、コンポーネント1を担持する載置台(図示せず)を動かすこともでき、それにより、ノズル切断ヘッド20と載置台との間の相対運動を実現する。ただし、移動するべき質量を小さく抑えておくと好ましい。