(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】リチウム遷移金属酸化物及び前駆体粒状物質並びに方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240614BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240614BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240614BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2022509191
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 US2020047597
(87)【国際公開番号】W WO2021041296
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-08-04
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】PCT/US2020/043599
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521218504
【氏名又は名称】ノボニクス バッテリー テクノロジー ソリューションズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】チェン,リーツオ
(72)【発明者】
【氏名】オブロヴァツ,マーク
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533166(JP,A)
【文献】特開2016-026981(JP,A)
【文献】特開2008-137837(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117281(WO,A1)
【文献】特開2001-163700(JP,A)
【文献】特開2005-025975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G
H01M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式
(Ni
n
Mn
m
Co
c
)
1-a
A
a
Li
b
O
1+b
(ここで:
Aは金属ドーパントであり;
n、m、c、及びaは正の数であり:
n+m+c=1;
n≧0.05;
m>0.05;
c≧0;
0≦a≦0.05;
0≦b≦0.05;及び
m+c+a≧0.05である)
で表される単一岩塩相から本質的になる
、リチウム遷移金属酸化物粒状物質の前駆体粒状物質であって;
前記前駆体粒状物質の平均結晶粒度が50nm未満であり;
前記前駆体粒状物質の平均粒度が100nmを超える、
前駆体粒状物質。
【請求項2】
AがMg、Al、Ti、Zr、W、Zn、Mo、K、Na、Si、若しくはTa、又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の前駆体粒状物質。
【請求項3】
c>0.05である、請求項1に記載の前駆体粒状物質。
【請求項4】
m+c>0.05である、請求項1に記載の前駆体粒状物質。
【請求項5】
4.18Åを超える格子定数を有する、請求項1に記載の前駆体粒状物質。
【請求項6】
前記前駆体粒状物質中のすべての前駆体金属の少なくとも95原子%が安定な2+酸化状態を有する、請求項1に記載の前駆体粒状物質。
【請求項7】
前記前駆体粒状物質中の本質的にすべての前駆体金属がそれらの2+酸化状態で存在する、請求項6に記載の前駆体粒状物質。
【請求項8】
前記前駆体粒状物質の平均粒度が1μm以上である、請求項1に記載の前駆体粒状物質。
【請求項9】
前記前駆体粒状物質の二次粒子を含む、請求項1に記載の前駆体粒状物質。
【請求項10】
請求項1に記載の前駆体粒状物質の製造方法であって:
ある量のNiの化合物を得ることと;
前記量の前記Niの化合物を含む出発混合物を調製することと;
50nm未満の平均結晶粒度及び100nmを超える平均粒度を有する前記単一岩塩相前駆体粒状物質を製造するために、前記出発混合物を十分に乾式インパクトミル粉砕することと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記出発混合物が、酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物から本質的になる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記出発混合物中のすべての前駆体金属の50原子%超が2+酸化状態である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記出発混合物中のすべての前駆体金属が2+酸化状態である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態が+1.5~+2.5の範囲内である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態が2+である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
出発混合物が金属一酸化物からなる、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
Coの酸化物、Coの水酸化物、Coの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のCo源を得ることと;
前記量の前記Niの化合物及び前記Coの化合物をともに含む出発混合物を調製することと、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
Mnの酸化物、Mnの水酸化物、Mnの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のMn源を得ることと;
前記量の前記Niの化合物及び前記Mnの化合物をともに含む出発混合物を調製することと、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
Mnの酸化物、Mnの水酸化物、Mnの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のMn源を得ることと;
Coの酸化物、Coの水酸化物、Coの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のCo源を得ることと;
前記量の前記Niの化合物、前記Coの化合物、及び前記Mnの化合物をともに含む出発混合物を調製することと、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記Niの化合物がNiOであり、前記Mnの化合物がMnOであり、及び前記Coの化合物がCoOである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記出発混合物中のNiの総モル数対前記出発混合物中のMnの総モル数対前記出発混合物中の任意選択のCoの総モル数対任意選択のAの総モル数対前記出発混合物中の任意選択のLiの総モル数の比がn:m:c:a:bに等しい、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記乾式インパクトミル粉砕が非鉄粉砕装置を用いて行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
前記乾式インパクトミル粉砕がボールミル粉砕を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項24】
前記ボールミル粉砕が非鉄ミル及び非鉄粉砕媒体を用いて行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
O3結晶構造を有し、式
Li
1+x
[(Ni
n
Mn
m
Co
c
)
1-a
A
a
]
1-x
O
2
(ここで:
Aは金属ドーパントであり;
x、n、m、c、及びaは数であり:
-0.03≦x≦0.06;
n+m+c=1;
n≧0.05;
m>0.05;
c≧0;
0≦a≦0.05;及び
m+c+a≧0.05である)
で表されるリチウム遷移金属酸化物粒状物質の製造方法であって;
ある量の請求項1に記載の前駆体粒状物質を得ることと;
前記量の前記前駆体粒状物質と、Li酸化物、Li水酸化物、Li炭酸塩及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のLi化合物とを含む最終混合物を調製することと;
前記最終混合物を加熱して、前記Li化合物と前記前駆体粒状物質とを反応させ、それによって前記O3結晶構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物粒状物質を製造することと、
を含む方法。
【請求項26】
前記Li化合物が
Li
2
CO
3
である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記最終混合物を加熱するステップが、空気中での加熱を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記最終混合物を加熱するステップが、空気中での加熱の後に酸素中での加熱を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記最終混合物を加熱するステップが、600℃よりも高温で6時間を超えて行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
過剰のLi化合物が前記最終混合物中に使用され、前記方法が、前記製造されたリチウム遷移金属酸化物粒状物質から過剰の未反応Li化合物を洗い落とすことをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
製造された前記リチウム遷移金属酸化物粒状物質の平均粒度が1μmを超える、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
製造された前記リチウム遷移金属酸化物粒状物質の平均ファセットサイズが1μmを超える、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
製造された前記リチウム遷移金属酸化物粒状物質の平均ファセットサイズが、前記平均粒度の20%を超える、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記O3結晶構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物粒状物質が4.95を超えるc/a比を有する請求項25に記載の方法。
【請求項35】
O3結晶構造を有し、式
Li
1+x
[(Ni
n
Mn
m
Co
c
)
1-a
A
a
]
1-x
O
2
(ここで、
Aは金属ドーパントであり;
x、n、m、c、及びaは数であり:
-0.03≦x≦0.06;
n+m+c=1;
n≧0.05;
m>0.05;
c≧0;
0≦a≦0.05;及び
m+c+a≧0.05である)
で表されるリチウム遷移金属酸化物粒状物質の製造方法であって;
請求項10に記載の方法により前駆体粒状物質を調製することと;
ある量の前記前駆体粒状物質と、Li酸化物、Li水酸化物、Li炭酸塩及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のLi化合物とを含む最終混合物を調製することと;
前記最終混合物を加熱して、前記Li化合物と前記前駆体粒状物質とを反応させて、それによって前記O3結晶構造を有する前記リチウム遷移金属酸化物粒状物質を製造することと、
を含む、方法。
【請求項36】
リチウム遷移金属酸化物粒状物質を含む電極を含む蓄電池の製造方法であって、請求項25に記載の方法により前記リチウム遷移金属酸化物粒状物質を調製することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、新規な前駆体粒状物質、及びそれよりリチウム遷移金属酸化物粒状物質を調製するための改善された方法に関する。リチウム遷移金属酸化物粒状物質は、リチウム電池中の電極材料、及びその他の用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
背景
Liイオン電池などの充電式高エネルギー密度電池の開発は、技術的に非常に重要である。典型的には、市販の充電式Liイオン電池には、リチウム遷移金属酸化物カソード及びグラファイトアノードが使用される。このような材料をベースとする電池は、それらの理論的エネルギー密度の限界に近づいているが、サイクル寿命、効率、及びコストなどの別の重要な特性を改善するために、著しく研究開発が続けられている。さらに、製造方法を簡略化し、複雑性、材料の量、及び関連する損失を減少させるために、著しく研究開発が続けられている。
【0003】
リチウム蓄電池中に使用するための挿入化合物の遷移金属酸化物カソード材料は、典型的にはリチウムと、1つ以上の第1遷移金属元素と、酸素と、任意選択の金属ドーパント(例えばMg、Al、Ti、Zr、W、Zn、Mo、K、Na、Si、Ta)とを含み、このような材料は別の材料(例えばAl2O3、ZrO2、TiO2)でさらにコーティングすることができる。製造を容易にするため、空気中で安定性の種類の遷移金属酸化物が通常は使用される。これらの電池の実質的な要求の場合、そのような材料が大量に経済的に供給できることが非常に重要である。現在のところ、商業的には「NMC」として知られるリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物粒状物質(LiNMC)は、商業用Liイオン電池に好ましいカソード材料である。
【0004】
Liイオン電池中のカソードとして使用するための「NMC」型材料は、一般に、O3層状構造を有し、実際の一般式Li1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2(ここで、-0.03≦x≦0.06;n+m+c=1;n≧0.05;m≧0;c≧0であり;Aは金属ドーパントであり;0≦a≦0.05;及びm+c+a≧0.05である)で表される。幾つかの用途では、SC-LiNMCと略記されモノリス「NMC」としても知られる単結晶LiNMCリチウム遷移金属酸化物粒状物質材料が特に望ましい。幾つかの実施形態では、SC-LiNMC粒子は、1つの「NMC」結晶粒からなることができる。幾つかの実施形態では、SC-LiNMC粒子は、複数の「NMC」結晶粒からなることができ、平均の「NMC」結晶粒のファセットサイズは平均粒度の20%を超える。SC-LiNMCの幾つかの実施形態では、平均粒度(D50)は1μm~30μmの間である。
【0005】
LiNMC(SC-LiNMCを含む)の一般的な調製方法の1つは、それぞれLi1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2の所望の最終組成による比率で、Ni、Mn、Co、及び任意選択の金属ドーパントAの混合金属水酸化物(MMH)前駆体粒状物質又は混合金属炭酸塩(MMC)前駆体粒状物質を最初に製造することである。MMH又はMMC前駆体粒状物質は、水溶液中の金属塩を共沈させ、続いて濾過、乾燥、及び粉砕のステップを行うことによって製造される。結果として得られるMMH又はMMC前駆体粒状物質を、次に、典型的には所望のLi1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2組成物の過剰量のリチウム源(例えばLiOH、LiOH・H2O、又はLi2CO3)とともに粉砕して、混合物が形成される。次にこの混合物を空気中、600~1000℃の範囲の温度で焼結させる。この方法によるLiNMCの合成の説明は、Journal of The Electrochemical Society, 165 (5) A1038-A1045 (2018)に見ることができる。国際公開第2019/185349号に記載されるような2段階加熱方法を使用することもできる。100nmを超える粒度を有するMMH又はMMC前駆体粒状物質が生成されるので、共沈方法が一般に使用される。より小さい粒度では、ダスト及び粒子の取り扱いに関連する問題が生じ、処理により多くのコストがかかる。さらに、MMH又はMMC中の遷移金属の原子規模での混合が実現されるので、共沈方法が使用される。これが望ましいが、その理由は、焼結中に遷移金属はゆっくり拡散することがあり、結果として、焼結後に形成されるLiNMC中に望ましくない不純物相が形成されるからである。したがって、原子混合がMMH又はMMCの中で実現されない場合は、MMH又はMMC前駆体粒状物質を所望の単層LiNMCに変換するために、長い焼結時間が必要となる場合があり、それによってコストが増加することがある。焼結ステップ中に蒸発によるリチウムの減少も一般に生じるので、長い焼結時間は望ましくない。共沈方法も多くのステップが必要であり、多量の廃水が生じることがある。さらに、共沈方法では、遷移金属源が可溶性金属塩である必要があり、それらは、金属酸化物、水酸化物、及び炭酸塩化合物などのこれらの金属の不溶性供給源よりも高価となり得る。
【0006】
「NMC」の改善された製造方法が米国特許第7,211,237号に記載されており、これによると、コバルト、マンガン、ニッケル、及びリチウムを含有する酸化物又は酸化物前駆体を一緒に湿式粉砕して、前駆体を形成する。次にこの前駆体を加熱し「NMC」を生成する。この方法も水を使用する欠点を有し、これは加熱ステップの前又は最中に乾燥させて除去する必要がある。
【0007】
Journal of The Electrochemical Society, 159 (9) A1543-A1550 (2012)には、Ni(NO3)2・6H2O、Mn(NO3)2・4H2O、及びCo(NO3)2・6H2Oをともにボールミル粉砕し、LiNO3及びLiClを加え、次に加熱することによって、SC-Li1+0.14(Ni0.33Mn0.33Co0.33)0.86O2が製造される方法が記載される。この方法では、溶融塩を形成するためにLiCl及びKCl成分が存在し、SC LiNMC粒子を得るために加熱ステップ後に洗浄することによって除去する必要がある。この方法は多くのステップが必要であり、大量の廃水が発生しうる。
【0008】
Linden’s Handbook of Batteries, 4th Edition, McGraw-Hill Education (2010)に記載されるように:「NMC及びNCA材料は、構造の遷移金属層中のカチオンの均一で均質な分布に依拠している。これを確実にするための最も一般的な方法は、原子規模でカチオンが完全に混合されている混合遷移金属水酸化物又は炭酸塩前駆体を使用することである」。このような前駆体を合成するための最も一般的な方法は共沈によるものである。「NMC」リチウム遷移金属酸化物粒状物質材料を製造するための経済的な方法として固相反応も提案されており、共沈ステップを用いずに前駆体の粉砕及び焼結が行われる。しかし、固相反応は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物粒状物質不均質な元素分布及び低い粒度が生じ、どちらも電気化学的性能に対して有害である。したがって、固相合成方法は、「NMC」の実用的な合成方法としては不適切であると一般に考えられる。例えば、「NMC」の固相合性に関しては、以下の通りである。
【0009】
Nano Energy, 31 247-257 (2017):「共沈プロセスと比較して、固相合成はコストが減少し、合成時間が短くなると予想される。しかし、固相合成の大きな短所は、一次粒子レベルでの遷移金属元素の分離の制御が困難なことであり、このことが最終カソード材料の電気化学的性質に大きな影響を与える」。
【0010】
Chemistry of Materials, 29 9923-9936 (2017):「異なる形態を有しLiに富む層状化合物は、固相、溶融塩、水熱、及びゾル-ゲルなどの多種多様な合成経路、並びに水性媒体中の共沈後の高温合成によって調製することができる。種々の可能な技術の中で、溶液をベースとする共沈(又は水性ゾル-ゲル)は、遷移金属イオンの原子レベルの混合が行われ、したがって最終酸化物中で均質となりうるのでより実行可能性が高い」。
【0011】
どちらも同じ出願人であり、どちらも“Improved Microgranulation Methods And Product Particles Therefrom”と題される、それぞれ2019年8月29日及び2019年12月11日に出願された米国仮特許出願第62/893787号及び米国仮特許出願第62/946938号では、全固相方法を用いて調製されるある種のNMC前駆体粒子が実施例に開示されている。これら2つの米国仮特許出願の内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0012】
Journal of The Electrochemical Society, (167) 050501 (2020)には、コロイド合成方法によってNi0.25Mn0.25Co0.5O前駆体粒状物質を調製するためにアセテート遷移金属塩を使用する方法が記載されている。結果として得られるNi0.25Mn0.25Co0.5O前駆体粒状物質は、ナノ結晶性であり単相岩塩構造を有した。単相岩塩構造を有する前駆体粒状物質は、これらが原子的に混合された固溶体中に遷移金属を含むので、LiNMCの合成に望ましい。しかし、この参考文献に記載の合成は、溶媒の使用を含み、この方法によって形成されて得られる前駆体粒状物質は、わずか70nmの粒度を有する一時粒子のみからなり、これは前述のようなLiNMCの製造には望ましくない。
【0013】
米国特許第10,651,467 B2号には、スピネル相Li-Ni-Mn-Oを調製するための前駆体を合成する方法が記載されている。この前駆体の調製は、出発物質をボールミル粉砕し、次に還元雰囲気下で加熱することを含む。結果として得られる前駆体は岩塩相を含むことができる。出発物質は、金属の酸化物、硝酸塩、硫酸塩、及び水酸化物を含み、これらの金属は種々の酸化状態を有し、酸化状態又は酸化状態の組み合わせが前駆体の調製に使用されることに関する制限及び誘導は存在しない。記載の前駆体は、原子的に混合されない多相前駆体を含み、このことは、前述のように、単相カソード材料の形成には有害となる。さらに、最終前駆体に関して:「還元雰囲気中の熱処理中に金属Niが存在しうる」と記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような材料の改善された製造方法の開発を対象とするこの継続する相当な世界的取り組みにもかかわらず、依然としてさらなる改善が必要である。以下に開示されるように、本発明は、これらの要求に対処し、さらなる利益を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
概要
本発明の第1の態様では、リチウム遷移金属酸化物粒状物質の合成の成分として、及びその他の用途に有用な前駆体粒状物質が記載される。特に、このような前駆体粒状物質は、式(NinMnmCoc)1-aAaLibO1+bで表され、50nm未満の平均結晶粒度を有し、100nmを超える平均粒度を有する単相岩塩酸化物であり、ここでn、m、c、a、bは正の数であり、Aは金属ドーパントであり、n+m+c=1;n≧0.05;m≧0;c≧0;0≦a≦0.05;0≦b≦0.05;及びm+c+a≧0.05である。適切な金属ドーパントAとしては、Mg、Al、Ti、Zr、W、Zn、Mo、K、Na、Si、Ta、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0016】
幾つかの実施形態では、Mnが前駆体粒状物質の組成中に含まれる。幾つかの実施形態ではmは0.05を超え、別の態様では0.1を超え、別の態様では0.15を超える。
【0017】
幾つかの実施形態では、Coが前駆体粒状物質の組成中に含まれる。幾つかの実施形態ではcは0.05を超え、別の態様では0.1を超え、別の態様では0.15を超える。
【0018】
幾つかの実施形態では、Co及びMnの両方が前駆体粒状物質の組成中に含まれる。幾つかの実施形態では、m+cは0.05を超え、別の態様では0.1を超え、別の態様では0.15を超え、別の態様では0.3を超える。
【0019】
本発明の幾つかの実施形態では、岩塩前駆体粒状物質結晶粒の格子定数は4.18Åを超えることができる
【0020】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質組成物は、Niと、Mn、Co、A、又はLiの中の少なくとも1つを含む。本明細書ではNi、Mn、Co、A、及びLiを一括して前駆体金属と呼ぶ。本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質組成物中に含まれる前駆体金属は、全体的に2+の平均酸化状態を有する。本発明の幾つかの実施形態では、2+の安定な酸化状態を有しないいずれかの前駆体金属は、前駆体粒状物質中の全陽イオンの5原子%未満の量で含まれる。本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質中に含まれるすべての前駆体金属が、安定な2+酸化状態を有する。本発明の幾つかの実施形態では、すべての構成前駆体金属が、形成された前駆体粒状物質中で2+酸化状態にある。
【0021】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質は、50nm未満の結晶粒度を有する。
【0022】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質は1μm以上の平均粒度を有する。幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質粒子は、より小さな一次粒子で構成される二次粒子である。
【0023】
幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質は、金属格子中又は酸素格子中に生じる空格子点を含むことがあり、その結果、岩塩相の少量の非化学量論が生じる。このような場合、前駆体粒状物質は、式(NinMnmCoc)1-aAaLibO1+b+δ(ここでここでn、m、c、a、bは正の数であり、Aは金属ドーパントであり、n+m+c=1;n≧0.05;m≧0;c≧0;0≦a≦0.05;0≦b≦0.05;m+c+a≧0.05;及び-0.02≦δ≦0.02である)で表される単相岩塩酸化物である。
【0024】
本発明の第2の態様では、式(NinMnmCoc)1-aAaLibO1+bで表され、50nm未満の平均結晶粒度を有し、100nmを超える平均粒度を有し、ここでn、m、c、a、bは正の数であり、Aは金属ドーパントであり、n+m+c=1;n≧0.05;m≧0;c≧0;0≦a≦0.05;0≦b≦0.05;及びm+c+a≧0.05である単相岩塩前駆体粒状物質の製造方法であって;ある量のNiの化合物を得ることと、その量のNiの化合物を含む出発混合物を調製することと、50nm未満の平均結晶粒度を有する単相岩塩酸化物前駆体粒状物質を製造するために出発混合物を十分に乾式インパクトミル粉砕することを含む、方法が記載される。
【0025】
本発明の幾つかの実施形態では、出発混合物は、Mnの化合物、Coの化合物、Aの化合物、又はLiの化合物を含むことができる。本明細書ではNi、Mn、Co、A、及びLiの化合物を一括して金属化合物と呼ぶ。上記方法において、出発混合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される金属化合物から本質的になることができる。好ましい実施形態では、出発混合物中の50原子%を超え、80原子%を超え、又はさらにより好ましくは90原子%を超える前駆体金属が2+酸化状態である。より好ましい実施形態では、金属化合物中のすべての前駆体金属がそれらの2+酸化状態である。好ましい実施形態では、出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態は、0.5以下(すなわち+1.5~+2.5の範囲内)、0.2以下、又は以下0.1以下の量だけ2から異なる。出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態が2+である実施例がさらに好ましい。最も好ましい実施形態では、出発混合物は金属一酸化物のみからなる。出発混合物の成分としての使用に適切な代表的な金属一酸化物の例としては、NiO、MnO、CoO、MgO、TiO、ZnO、又はそれらの固溶体が挙げられる。出発混合物の成分としての使用に適切な代表的な金属一酸化物の別の例としては、CaO、NbO、VO、CrO、及びCuOが挙げられる。
【0026】
本発明の幾つかの実施形態では、出発混合物中のNiの総モル数対出発混合物中のMnの総モル数対出発混合物中のCoの総モル数対Aの総モル数対出発混合物中のLiの総モル数の比率は、所望の前駆体粒状物質の(NinMnmCoc)1-aAaLibO1+bの化学式によるn:m:c:a:bに等しい。
【0027】
鉄汚染を回避するため、乾式インパクトミル粉砕は、非鉄粉砕装置を用いて行うことが好ましい場合がある。例えば、非鉄ミル及び非鉄粉砕媒体を用いたボールミル粉砕が好ましい場合がある。
【0028】
前述のように、O3結晶構造を有し、式Li1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2で表され、A、x、m、n、m、c、及びaに対して前述の制限を有する望ましいリチウム遷移金属酸化物粒状物質は、この新規前駆体粒状物質を用いて調製することができる。したがって本発明の一態様は、リチウム電池及びその他の用途に使用するためのリチウムニッケル金属酸化コバルト(「NMC」)などのリチウム遷移金属酸化物粒状物質を調製するための改善された方法の発見を含む。この方法は、例えば平均粒度が>1μmである、このような用途に適切なより大きなリチウム遷移金属酸化物粒状物質の調製に特に使用することができる。リチウム遷移金属酸化物粒状物質は、乾式インパクトミル粉砕及び加熱を含む乾式固相プロセスを用いて、適切な酸素含有遷移金属化合物、並びにリチウム及び酸素を含有する化合物の粉末のみから調製することができる。
【0029】
幾つかの実施形態では、新規前駆体粒状物質は、SC-LiNMCの製造に特に適切である。例えば、一実施形態では、最初に、あらゆる適切な方法によって調製された新規前駆体粒状物質が得られる。次に、ある量の前駆体粒状物質と、Li酸化物、Li水酸化物、Li炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のLi化合物とを含む最終混合物が調製され、次に加熱してLi化合物と前駆体粒状物質とを反応させ、それによってO3結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物粒状物質が生成される。
【0030】
一般的な別の一実施形態では、最初に新規前駆体粒状物質を前述の方法により調製することができる。より詳細には、このような方法は、O3結晶構造を有し、式Li1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2(ここで、Aが金属ドーパント(例えばMg、Al、Ti、Zr、W、Zn、Mo、K、Na、Si、Ta、又はそれらの組み合わせ)であり、x、n、m、c、及びaが:
-0.03≦x≦0.06;
n+m+c=1;
n≧0.05;
m≧0;
c≧0;
0≦a≦0.05;及び
m+c+a≧0.05となる数である)
で表されるリチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成するための方法である;
【0031】
その最も基本的なことにおいて、この方法は:
本発明の前述の方法により前駆体粒状物質を調製することと;
ある量の前駆体粒状物質と、Li酸化物、Li水酸化物、Li炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のLi化合物とを含む最終混合物を調製することと;
最終混合物を加熱して、Li化合物と前駆体粒状物質とを反応させ、それによってO3結晶構造を有する結晶リチウム遷移金属酸化物粒状物質を製造することと、
の単純な乾燥プロセスステップを含む。
【0032】
しかし、場合により、液体を伴う追加のステップを用いることができる。例えば、過剰のLi化合物が最終混合物中に使用される場合、この方法は、過剰の未反応Li化合物を、製造したリチウム遷移金属酸化物粒状物質から洗い落とすことをさらに含むことができる。さらに、性能を改善するための粒子コーティング(例えばAl2O3、ZrO2、TiO2)を取り付けるために、液体に基づくコーティング方法を用いることができる。
【0033】
ある実施形態では、出発混合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びそれらの混合物のみからなることができる。すなわち、出発混合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物から本質的になることができる。
【0034】
この方法では、出発混合物中のNiの総モル数対出発混合物中のMnの総モル数対出発混合物中のCoの総モル数対出発混合物中のAの総モル数の比率は、前駆体粒状物質を用いて合成される所望のLiNMCのLi1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2の化学式によるn:m:c:aに等しくてよい。当業者であれば認識するように、前述の数n、m、c、a、及びbは、前駆体粒状物質又はリチウム遷移金属酸化物中の金属の可変量を表すために使用される。しかし、前駆体粒状物質に関して使用される値の組(n、m、c、a、及びb)は、リチウム遷移金属酸化物に関して使用される値の組(n、m、c、及びa)と必ずしも同じではない。
【0035】
「NMC」材料が製造される代表的な実施形態では、上記方法は、Mnの酸化物、Mnの水酸化物、Mnの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のMn源を得るステップと、上記量のNiの化合物及びMnの化合物をともに含む出発混合物を調製するステップとをさらに含む。特に、Niの化合物はNiOであってよく、Mnの化合物はMnOであってよい。
【0036】
「NMC」材料が製造される代表的な実施形態では、上記方法は、Coの酸化物、Coの水酸化物、Coの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のCo源を得るステップと、上記量のNiの化合物及びCoの化合物をともに含む出発混合物を調製するステップとをさらに含む。特に、Niの化合物はNiOであってよく、Coの化合物はCoOであってよい。
【0037】
「NMC」材料が製造される代表的な実施形態では、上記方法は、Mnの酸化物、Mnの水酸化物、Mnの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のMn源を得るステップと、Coの酸化物、Coの水酸化物、Coの炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のCo源を得るステップと、上記量のNiの化合物、Mnの化合物、及びCoの化合物をともに含む出発混合物を調製するステップとをさらに含む。特に、Niの化合物はNiOであってよく、Mnの化合物はMnOであってよく、Coの化合物はCoOであってよい。
【0038】
リチウム遷移金属酸化物粒状物質の調製において、使用されるLi化合物は、Li2CO3、Li2O、Li2O2、LiOH又はそれらの組み合わせであってよい。さらに、最終混合物を加熱するステップは、空気中で加熱することを含むことができる。しかし、空気中で加熱した後、酸素中で酸素混合物を加熱することが、リチウム遷移金属酸化物粒状物質において特定の特性を得るために特に有利となる場合がある。代表的な実施形態では、加熱ステップは、600℃を超え、700℃を超え、800℃を超え、又は900℃を超える温度において、1時間を超え、4時間を超え、6時間を超え、8時間を超え、又は約12時間以上の焼結時間で行うことができる。さらなるLi化合物を用いてさらなる焼結ステップを用いることもできる。
【0039】
本発明の方法は、例えば1μmを超える平均粒度を有するより大きなリチウム遷移金属酸化物粒状物質の製造に特に適切である。さらに、製造されるリチウム遷移金属酸化物粒状物質は、1μmを超える平均ファセットサイズを特徴とすることができる。さらに、製造される単結晶リチウム遷移金属酸化物粒状物質の平均ファセットサイズは、平均粒度の20%を超えることができる。さらに、製造されたリチウム遷移金属酸化物粒状物質のO3結晶構造は、4.95を超えるc/a比を有することができる。
【0040】
本発明の方法により製造されたリチウム遷移金属酸化物粒状物質は、蓄電池電極成分としてなどの多数の商業用途における使用を考慮することができる。これは、充電式リチウム電池、例えばリチウムイオン電池におけるカソード電極中での使用に特に適切となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図面の簡単な説明
【
図1】本発明の実施例1のPM1と呼ばれるNMC622前駆体粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図2a】本発明の実施例1のPM1と呼ばれるNMC622前駆体粒状物質のSEM画像を示している。
【
図2b】本発明の実施例1のPM1と呼ばれるNMC622前駆体粒状物質のSEM画像を示している。
【
図3】本発明の実施例2のPM2と呼ばれるNMC111前駆体粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図4a】本発明の実施例2のPM2と呼ばれるNMC111前駆体粒状物質のSEM画像を示している。
【
図4b】本発明の実施例2のPM2と呼ばれるNMC111前駆体粒状物質のSEM画像を示している。
【
図5】比較例3のPM3と呼ばれるNMC622前駆体粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図6】比較例4のPM4と呼ばれるNMC111前駆体粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図7a】本発明の実施例5のSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図7b】本発明の実施例5のSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図7c】本発明の実施例5のSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図7d】
図7c中の本発明の実施例5のSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質の20°~30°の間の拡大XRDパターンを示している。
【
図7e】本発明の実施例のSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂を示している。
【
図7f】本発明の実施例5のSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(003)ピークを示している。
【
図7g】本発明の実施例5のSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。
【
図8a】本発明の実施例6のSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している
【
図8b】本発明の実施例6のSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図8c】本発明の実施例6のSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図8d】本発明の実施例6のSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質の20°~30°の間の拡大XRDパターンを示している。
【
図8e】本発明の実施例6のSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂を示している。
【
図8f】本発明の実施例6のSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(003)ピークを示している。
【
図8g】本発明の実施例6のSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。
【
図9a】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図9b】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図9c】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図9d】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質の20°~30°の間の拡大XRDパターンを示している。
【
図9e】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂を示している。
【
図9f】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(003)ピークを示している。
【
図9g】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質のEDSマッピングを示している。
【
図9h】本発明の実施例7のSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。
【
図10a】本発明の実施例8のSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図10b】本発明の実施例8のSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図10c】本発明の実施例8のSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図10d】本発明の実施例8のSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質の20°~30°の間の拡大XRDパターンを示している。
【
図10e】本発明の実施例8のSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂を示している。
【
図10f】本発明の実施例8のSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(003)ピークを示している。
【
図10g】本発明の実施例8のSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。
【
図11a】本発明の実施例9のSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図11b】本発明の実施例9のSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質の異なる倍率におけるSEM画像を示している。
【
図11c】本発明の実施例9のSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図11d】本発明の実施例9のSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質の20°~30°の間の拡大XRDパターンを示している。
【
図11e】本発明の実施例9のSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂を示している。
【
図11f】本発明の実施例9のSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(003)ピークを示している。
【
図11g】本発明の実施例9のSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。
【
図12a】比較例10のCE-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質のXRDパターンを示している。
【
図12b】比較例10のCE-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質の20°~30°の間の拡大XRDパターンを示している。
【
図12c】比較例10のCE-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質の(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂を示している。
【
図12d】比較例10のCE-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質のEDSマッピングを示している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
詳細な説明
文脈が別のことを必要とするのでなければ、本明細書及び請求項全体にわたって、「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」などの単語は、制限のない包括的な意味で構成されるべきである。「a」、「an」などの単語は、少なくとも1つを意味し、1つだけに限定されるものではないと見なされるべきである。
【0043】
「から本質的になること(consisting essentially of)」又は「から本質的になる(consists essentially of)」という語句は、関与する特定の材料又はステップ(文脈によって決定される)に限定されるが、任意の材料又はステップ関与する材料又はステップの基本的で新規な特性に実質的に影響しない任意の材料又はステップも含み、それらが排除されないと解釈されるべきである。
【0044】
定量的な状況において、「約」という用語は、+10%から-10%の範囲内であると解釈すべきである。
【0045】
さらに、本明細書全体にわたって以下の定義が適用される。
【0046】
「粒状物質」は、複数の「粒子」を意味し、「粒子」は1つ以上の「結晶粒」(当技術分野では微結晶としても知られる)で構成される。
【0047】
「平均粒度」という用語は、SEMによって直接観察したときの、少なくとも20の無作為の粒子の最大寸法の平均を意味する。
【0048】
「平均結晶粒度」という用語は、Scherrer結晶粒度測定方法によって求められる相の平均結晶粒度を意味する。
【0049】
「ファセット」は、明確なミラー指数を有する結晶面の表面への出現に対応する結晶粒の平面断面である。本明細書において「平均ファセットサイズ」という用語は、SEMによって直接観察したときの少なくとも20の無作為の結晶粒ファセットの平均を意味する。
【0050】
「単結晶リチウム遷移金属酸化物粒状物質」という用語は、その構成粒子が、平均粒度の20%を超える平均ファセットサイズを有する結晶粒で構成されるリチウム遷移金属酸化物粒状物質材料を意味する。
【0051】
「O3」という用語は、C. Delmas, C. Fouassier, and P. Hagenmuller, Physica, 99B (1980) 81-85に記載されるようなα-NaFeO2型構造を有する相を意味する。
【0052】
「相」という用語は、その従来の一般的な意味を有し、すなわち、その表面において物質の別の形態から分離される物質の別個の均質な形態である。
【0053】
「岩塩相」という用語は、カチオンの層状秩序が存在しない立方晶岩塩結晶構造を有する酸化物相を意味する。このような岩塩相は「無秩序岩塩」としても知られている。
【0054】
「単相岩塩」又は「単一岩塩相」という用語は、相純粋な材料を意味し、すなわち、材料全体にわたって同じ岩塩相中に配列される同じ平均組成の物質のみから実質的になる。
【0055】
「金属ドーパント」は、リチウム遷移金属酸化物中でドーパントとして機能できる金属の群を意味し、これには金属のMg、Al、Ti、Zr、W、Zn、Mo、K、Na、Si、及びTaが含まれるが、金属のNi、Mn、Co、及びLiは除外される。
【0056】
「乾式インパクトミル粉砕」という用語は、試料中の結晶粒度の減少及び/又は化学的変化を生じさせるために、主として試料に対して繰り返し衝撃を使用する乾式粉砕プロセスを意味する。適切な乾式インパクトミル粉砕方法としては、ボールミル粉砕、SPEXミル粉砕、ペブルミル粉砕、ロッドミル粉砕、高エネルギーボールミル粉砕、磨砕機粉砕、Swecoミル粉砕、振動ミル粉砕、遊星ミル粉砕、及び米国特許第8,287,772号(Leら)に記載されるような低エネルギーボールミル粉砕が挙げられる。
【0057】
「金属イオンセル」又は「金属イオン電池」という用語は、例えばリチウムイオンセルなどのアルカリ金属イオンセルを意味する。
【0058】
「カソード」という用語は、金属イオンが放電するときに還元が生じる電極を意味する。リチウムイオンセル中、カソードは、放電中にリチウム化し、充電中に脱リチウム化する電極である。
【0059】
「アノード」という用語は、金属イオンセルが放電刷るときに酸化が生じる電極を意味する。リチウムイオンセル中、アノードは、放電中に脱リチウム化し、充電中にリチウム化する電極である。
【0060】
「半電池」という用語は、作用電極及び金属対/基準電極を有するセルを意味する。リチウム半電池は、作用電極及びリチウム金属対/基準電極を有する。
【0061】
「前駆体金属」という用語は、前駆体粒状物質組成物中に含まれる酸素以外の元素を意味し、Ni、Mn、Co、A、及びLiから選択される元素を含み、ここでAは金属ドーパントを含む。
【0062】
「一次粒子」という用語は、1つの領域又は互いに強く結合した複数の領域で構成される粒子を意味する。一次粒子は、乾式粉砕によってより小さな構成要素に容易に破壊することはできない。
【0063】
「二次粒子」という用語は、弱く結合した一次粒子の凝集体を意味する。
【0064】
本発明の一態様では、前述のリチウム遷移金属酸化物粒状物質を合成するための成分として、及びその他の潜在的用途に有用な新規前駆体粒状物質を開発した。
【0065】
前駆体粒状物質は、2つ以上の前駆体金属を含む単相岩塩酸化物である。このような岩塩相は、構成金属元素が原子的に混合される固溶体の形態であることが知られている。このことは、単相岩塩酸化物中に組み込まれた前駆体金属を有することで、前駆体金属の原子的混合が得られるので非常に望ましい。さらに、前駆体粒状物質の相純度のために、最終混合物の加熱中に単相LiNMCを形成するための前駆体金属の拡散の必要性が減少する。加熱時間を短縮でき、加熱温度を低くすることができ、コストを低下させることができる。
【0066】
本発明の幾つかの実施形態では、岩塩前駆体粒状物質結晶粒の格子定数は、純粋な岩塩NiOの格子定数の4.18Åを超えることがある。理論によって束縛されるものではないが、4.18Åを超える格子定数を有する単相岩塩(NinMnmCoc)1-aAaLibO1+b相は、固溶体の形成を示しており、したがって格子中の陽イオンの原子規模の混合を示している。このことは、前駆体粒状物質から単相LiNMCをより容易に形成できるので望ましい。
【0067】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質は(NinMnmCoc)1-aAaLibO1+b(ここで、n、m、c、a、bは正の数であり、Aは金属ドーパントであり、n+m+c=1;n≧0.05;m≧0;c≧0;0≦a≦0.05;0≦b≦0.05;及びm+c+a≧0.05である)の組成を有する。適切な金属ドーパントAとしては、Mg、Al、Ti、Zr、W、Zn、Mo、K、Na、Si、Ta、又はそれらの組み合わせが挙げられる。この組成物を有する前駆体は、O3結晶構造を有し、式Li1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2(ここで-0.03≦x≦0.06である)で表されるリチウム遷移金属酸化物粒状物質の調製に特に適切である。
【0068】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質組成物中へのMnの混入が望ましいが、その理由は、そのような前駆体粒状物質から製造された結果得られるLiNMC中の熱安定性が増加することが知られているからである。幾つかの実施形態では、0.05を超え、0.1を超え、0.15を超え、又は0.3を超えるmの値が好ましい。
【0069】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質組成物中へのCoの混入が望ましいが、その理由は、そのような前駆体粒状物質から製造された結果得られるLiNMC中のリチウム拡散が増加することが知られているからである。幾つかの実施形態では、0.05を超え、0.1を超え、又は0.15を超えるcの値が好ましい。
【0070】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質組成物中へのMn及びCoの両方の混入が望ましいが、その理由は、そのような前駆体粒状物質から製造された結果得られるLiNMC中の熱安定性が増加し、リチウム拡散が改善することが知られているからである。幾つかの実施形態では、0.05を超え、0.1を超え、0.15を超え、又は0.3を超えるm+cの値が好ましい。
【0071】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質組成物は金属ドーパントAを含む。安定な2+酸化状態を有する金属ドーパントAが特に望ましいが、その理由は、これらは、二次相を形成することなく、単相岩塩前駆体粒状物質中により容易に混入できるからである。このような金属ドーパントとしては、Mg、Ti、及びZnが挙げられる。
【0072】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質組成物は前駆体金属を含む。本発明者らは、ボールミル粉砕方法による前駆体粒状物質の製造において、2+以外の酸化状態を有する多量の遷移金属又は遷移金属化合物が出発物質中に含まれると、単相岩塩前駆体粒状物質の製造のための粉砕時間が長くなる、又は単相岩塩前駆体粒状物質を全く製造できなくなることを発見した。したがって、前駆体粒状物質組成物中に含まれる前駆体金属が、全体的に2+の平均酸化状態を有することが本発明の一態様であり、これによって単相岩塩前駆体粒状物質を製造することができる。2+の安定な酸化状態を有しない前駆体金属は、前駆体粒状物質中の全陽イオンの10原子%未満の量で含まれることがさらに望ましい。すなわち、前駆体粒状物質組成物中に含まれる90原子%以上の前駆体金属が安定な2+酸化状態を有することが望ましい。別の実施形態では、前駆体粒状物質組成物中に含まれるすべての前駆体金属の95原子%以上が安定な2+酸化状態を有することが望ましい。安定な2+酸化sateを有することが知られている前駆体金属としては、Ni、Mn、Co、Mg、Ti、及びZnが挙げられる。安定な2+酸化状態を有しないことが知られている前駆体金属としては、Li、Al、Zr、K、Na、及びSiが挙げられる。前駆体粒状物質中に含まれるすべての前駆体金属が安定な2+酸化状態を有することがさらに望ましい。すべての構成前駆体金属が、形成された前駆体粒状物質中で2+酸化状態となることがさらに望ましい。X線光電子分光法及び紫外光電子分光法などの金属の酸化状態の測定に一般に使用される方法を用いて、前駆体金属酸化状態を測定することができる。酸化雰囲気又は還元雰囲気中の熱重量分析などの別の周知の方法を用いることもできる。
【0073】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質は、50nm未満の結晶粒度を有する。理論によって束縛されるものではないが、前駆体粒状物質の小さな結晶粒度によって、LiNMCの製造に使用される焼結ステップ中に加えられるリチウムの迅速な拡散が可能となり、したがって焼結時間が最小限になると考えられる。
【0074】
本発明の幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質は、100nmを超える平均粒度を有する。このことが望ましいが、その理由は、これによってダストが減少し、粒状物質の圧密化が向上し、製造中の粒子の取り扱い特性が向上するからである。幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質粒子は、より小さな一次粒子で構成される二次粒子である。幾つかの実施形態では、一次粒子は、100nm以上の平均サイズを有する。幾つかの実施形態では、前駆体粒状物質粒子は、1μm、5μm、10μm、又はさらには20μmの平均サイズを有する。理論によって束縛されるものではないが、一次粒子の凝集体でできた二次粒子を含む前駆体粒状物質は、一次粒子が凝集していない場合と比較して、粒子の流動が改善され、粒子のタップ密度が増加し、ダストの発生が減少することによって、粉末の取り扱い特性が改善されると考えられる。一次粒子の凝集体でできた二次粒子を含む前駆体粒状物質では、一次粒子が凝集していない場合と比較して、SC-LiNMCの形成のための加熱時間が短縮されるとさらに考えられる。
【0075】
本発明の第2の態様では、式(NinMnmCoc)1-aAaLibO1+bで表され、50nm未満の平均結晶粒度を有し、100nmを超える平均粒度を有し、ここでn、m、c、a、bが正の数であり、Aが金属ドーパントであり、及びn+m+c=1;n≧0.05;m≧0;c≧0;0≦a≦0.05;0≦b≦0.05;及びm+c+a≧0.05である単相岩塩前駆体粒状物質の製造方法であって;ある量のNiの化合物を得ることと、その量のNiの化合物を含む出発混合物を調製することと、50nm未満の平均結晶粒度を有する単相岩塩酸化物前駆体粒状物質を製造するために出発混合物を十分に乾式インパクトミル粉砕することを含む、方法が記載される。この方法では、出発混合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物から本質的になることができる。さらに、この方法では、出発混合物中のNiの総モル数対出発混合物中のMnの総モル数対出発混合物中のCoの総モル数対Aの総モル数対出発混合物中のLiの総モル数の比率は、n:m:c:a:bに等しい。単相岩塩前駆体粒状物質を調製するための開示される方法に使用される乾式固相プロセスは、より複雑な液体処理ステップ(例えば大量の水を必要とするステップ)を必要とするリチウム遷移金属水酸化物又は炭酸塩の形態のある種の前駆体粒状物質と比較して有利となる。
【0076】
本発明の幾つかの実施形態では、出発混合物は、Mnの化合物、Coの化合物、Aの化合物、又はLiの化合物を含むことができる。本明細書ではNi、Mn、Co、A、及びLiの化合物を一括して金属化合物と呼ぶ。上記方法では、出発混合物は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択される金属化合物から本質的になることができる。好ましい実施形態では、出発混合物中の前駆体金属の50原子%以下、20原子%以下、又はさらにより好ましくは10原子パーセント以下が2+以外の酸化状態である。より好ましい実施形態では、金属化合物中のすべての前駆体金属がそれらの2+酸化状態である。好ましい実施形態では、出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態は、2から0.5以下、0.2以下、又は0.1以下の量だけ異なる。出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態が2である実施形態がさらに好ましい。最も好ましい実施形態では、出発混合物は金属一酸化物のみからなる。出発混合物の成分としての使用に適切な代表的な金属一酸化物の例としては、NiO、MnO、CoO、MgO、TiO、ZnO、又はそれらの固溶体が挙げられる。金属一酸化物のみからなる出発混合物は、ボールミル粉砕中に単相岩塩酸化物を容易に形成することができるが、特に2+酸化状態ではない前駆体金属を有する金属酸化物又は別の金属化合物が混入されると、単相岩塩酸化物前駆体粒状物質を形成するための粉砕時間がはるかに長くなるか、複数の相が形成されることが多いかのいずれかであることが、本発明者らによって分かった。金属化合物は、粉砕プロセス中にその場で所望の+2酸化状態の前駆体金属を用いて形成することができると考えられる。例えば、Mn金属及びCo3O4を適切な組み合わせで含む混合物の粉砕によって、出発混合物成分のMnO及びCoO又はこれらの酸化物の固溶体を形成することができた。別の場合では、MnO2と適切な量の炭素粉末とを含む混合物の粉砕によって、出発混合物成分のMnOを形成することができた。
【0077】
ボールミル粉砕又はジャーミル粉砕(以下の実施例のような)、SPEXミル粉砕、ハンマーミル粉砕、遊星ミル粉砕、振動ミル粉砕などの種々の周知の乾式衝撃機械的粉砕技術のいずれかを、新規単相岩塩前駆体粒状物質の調製に用いることができる。重要なことには、乾式インパクトミル粉砕は、平均結晶粒度が50nm未満である結晶粒を含む単相岩塩前駆体粒状物質を本質的に生成するのに十分な程度で行われる。本発明者らは、手作業による粉砕、又は粒度を減少させるが結晶粒度は減少させないことが知られる別の技術などの非衝撃式粉砕技術は、原子規模での混合が生じず、多相混合物が形成されることが多いので、この方法には適切でないことを見出した。
【0078】
前述の開示のように、O3結晶構造を有し、前述の式Li1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2で表される望ましいリチウム遷移金属酸化物粒状物質は、この新規前駆体粒状物質を用いて調製することができる。例えば、一実施形態では、最初に新規前駆体粒状物質を前述の方法により調製することができる。次に、ある量の前駆体粒状物質と、Li酸化物、Li水酸化物、Li炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のLi化合物とを含む最終混合物が調製され、次に加熱してLi化合物と前駆体粒状物質とを反応させ、それによってO3結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物粒状物質が生成される。別の一般的な一実施形態では、あらゆる適切な方法によって調製された新規前駆体粒状物質が最初に得られる。次に、ある量の前駆体粒状物質と、Li酸化物、Li水酸化物、Li炭酸塩、及びそれらの混合物から本質的になる群から選択されるある量のLi化合物とを含む最終混合物が調製される。幾つかの実施形態では、それぞれの量は、リチウム遷移金属酸化物粒状物質の最終の所望の化学量論に基づいて選択することができる。別の実施形態では、過剰のLi化合物を使用することが好ましい場合がある。次に最終混合物を加熱してLi化合物と前駆体粒状物質とを反応させ、それによってO3結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物粒状物質が生成される。過剰の未反応Li化合物を所望のリチウム遷移金属酸化物粒状物質から除去するために、追加のステップ(例えば水洗ステップ)を利用することができる。リチウム遷移金属酸化物粒状物質粒子の表面に表面コーティング(例えばAl2O3又はTiO2)を取り付けるために、さらなる追加の処理ステップを用いることができる。
【0079】
関連のリチウム遷移金属酸化物粒状物質は、O3結晶構造を有する単相リチウム遷移金属酸化物粒状物質を含む。このような材料は、低カチオン混合(すなわちリチウム層中に遷移金属がない)を特徴とし、充電式リチウム電池中に使用するための良好な動力学及び低不可逆容量のため望ましい。
【0080】
O3構造を有する関連のリチウム遷移金属酸化物粒状物質は、化学式Li1+x[(NinMnmCoc)1-aAa]1-xO2(ここで、Aは金属ドーパントであり、x、n、m、c、及びaは数であり、
-0.03≦x≦0.06;
n+m+c=1;
n≧0.05;
m≧0;
c≧0;
0≦a≦0.05;及び
m+c+a≧0.05である)
によって特徴付けられる。
【0081】
したがって、関連のリチウム遷移金属酸化物粒状物質は遷移金属Niを含み、遷移金属Mn及びCoをさらに含むことができる。さらに、任意選択の金属ドーパントAは、限定するものではないが、Mg、Al、Ti、Zr、W、Zn、Mo、K、Na、Si、Ta、又はそれらの組み合わせなどの、このような材料との使用が一般に考慮されるあらゆるものであってよい。
【0082】
特に、上記方法を用いて、リチウム蓄電池及びその他の用途への使用に好ましい電極材料である単結晶リチウムニッケル金属コバルト酸化物リチウム遷移金属酸化物粒状物質又はSC-LiNMCを調製することができる。SC-LiNMCは、部分的にはその優れたリチウム化/脱リチウム化の動力学のため、このような用途に望ましい。
【0083】
従来技術では、共沈が従来用いられて、最初に水酸化物又は炭酸塩前駆体が調製され、続いて加熱してSC-LiNMCが生成された。これは、遷移金属の拡散が遅く、それらを密接混合する必要があり、それによって加熱するとそれらが単相材料を形成できるからである。前駆体のサイズによってSC-LiNMCのサイズが決定されるとも考えられた。
【0084】
本発明者らは、Li化合物との加熱中にSC-LiNMCを形成するのに単相岩塩前駆体粒状物質が適切であることを見出した。さらに、このように形成されたSC-LiNMCのサイズは、前駆体粒状物質のサイズに関係しない。その代わり、理論によって束縛されるものではないが、SC-LiNMCの粒度は、最終混合物の空気中での加熱時間によって決定されると考えられる。例えば、空気中での加熱によって、結晶粒の成長が促進され、酸素中での加熱によって、リチウム遷移金属酸化物のO3構造中のより完全なイオンの秩序が促進されることが分かった。しかし、酸素中での加熱のみでは、より小さな結晶粒が得られる。したがって、幾つかの実施形態では、所望の結晶粒度を得るために、最初に最終混合物を空気中で必要な時間加熱し、次に、より完全なイオン秩序を得るために、得られた材料を酸素中で加熱することが望ましい場合がある。このような2段階加熱方法の結果として、大きなファセットと良好なO3秩序とを有するSC-LiNMCを得ることができる。にもかかわらず、前駆体粒状物質の粒度が100nm未満である場合、不十分な前駆体粒状物質粒子の流動、低い前駆体粒状物質粒子のタップ密度、及びダストが発生しやすいことのために、その加工は困難となる。さらに、理論によって束縛されるものではないが、前駆体粒状物質の粒度が小さくなると、実用的なサイズのSC-LiNMC粒子の形成に必要な加熱時間が長くなり、加工コストが増加する。したがって、前駆体粒状物質の粒度は100nmを超えることが望ましい。
【0085】
十分な乾式インパクトミル粉砕によって、50nm未満の結晶粒度を有する単一岩塩相から本質的になる前駆体粒状物質を形成する粉砕前駆体を得ることができることも分かった。理論によって束縛されるものではないが、単一岩塩相の形成は原子規模の混合を示しており、このような前駆体粒状物質は、拡散距離が短くなるために、加熱中に優れたリチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成する能力を有することができると考えられる。このようにして製造された岩塩相結晶粒の格子定数は4.18Åを超えることができる。
【0086】
本発明の方法を用いて、1μmを超え40μm未満の平均粒度を有し、平均ファセットサイズが>1μm、より好ましくは>4μm、さらにより好ましくは>8μmであるファセットを含むリチウム遷移金属酸化物粒状物質を製造することができる。リチウム遷移金属酸化物粒状物質の平均ファセットサイズは、リチウム遷移金属酸化物粒状物質の平均粒度の20%を超え、30%を超え、50%を超え、60%を超え、又はさらには70%を超えることができる。リチウム遷移金属酸化物粒状物質の平均粒度は、1μmを超え、5μmを超え、7μmを超え、又はさらには9μmを超えることができる。O3秩序を示す結晶構造のc/a比(XRDによって得られる)は、好ましくは4.95を超え、より好ましくは4.96を超えることができる。さらに(104)ピークの顕著なCu Kα1/Kα2の分裂を得ることができ、これもO3構造の良好な秩序を示している。
【0087】
前駆体粒状物質の調製において、非鉄のミル及び粉砕媒体を用いた乾式インパクトミル粉砕によって、前駆体粒状物質から調製されたリチウム遷移金属酸化物粒状物質中の鉄汚染を回避することができ、これによって、この方法で電池用途のために製造されたリチウム遷移金属酸化物粒状物質の品質を改善できることがさらに分かった。これは、電池のサイクル中にLi層中にFeが拡散することが知られており、その結果、そのような電池において分極が増加し容量が低下するからである。したがって、幾つかの実施形態では、粉砕装置中に鉄を含まない材料を用いることが望ましい。
【0088】
当業者は認識するであろうが、良好なリチウム遷移金属酸化物粒状物質を得るために必要な乾式インパクトミル粉砕及び加熱プロセスの適切な操作パラメーターは、使用される前駆体の種類及びサイズ、使用される粉砕技術及び装置などにより変動すると予想できる。当業者であれば、以下の実施例に示される案内に基づいて所与の状況での適切な操作パラメーターを容易に決定できると予想される。
【0089】
上記方法のように調製した後、リチウム遷移金属酸化物粒状物質は、一般に、その意図される用途における従来の使用が可能な状態にある。電池用途では、リチウム遷移金属酸化物粒状物質を使用する電極及び電気化学的装置は、当業者に周知の多数の方法で製造することができる。例えば、充電式リチウムイオン電池のカソード電極の製造のため、及び電池自体の製造のための多数の任意選択の設計及び方法が存在し、それらは当技術分野において広範に文書化されている。
【0090】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明するためのものであるが、本発明を限定するものと解釈すべきでは決してない。本明細書において使用される方法及び製造される材料に関する別の変形形態が可能であることを、当業者は容易に認識するであろう。
【実施例】
【0091】
実施例
本発明による乾式処理方法を用いて、代表的なリチウム遷移金属酸化物及び前駆体粒状物質を調製した。比較の目的で別のリチウム遷移金属酸化物及び前駆体粒状物質も調製した。これらの粒状物質の種々の特性を測定し、以下に示した。さらに、これらのリチウム遷移金属酸化物粒状物質の一部を用いて、電極及び電気化学セルを作製した。電気化学セルから得られたセル性能の結果も以下に示す。
【0092】
材料の特性決定
Micromeritics Flowsorb II2300表面積分析装置を用いて、1点Brunauer-Emmett-Teller(BET)法によって比表面積を求めた。
【0093】
Cu Kα X線源、回折ビームグラファイトモノクロメーター、及びシンチレーション検出器を備えたRigaku Ultima IV回折計を用いてX線回折(XRD)パターンを収集した。Scherrer結晶粒度測定方法を用いてXRDパターンから平均結晶粒度を求めた。
【0094】
JEOL 840-SEMを用いて、走査型電子顕微鏡(SEM)画像を得た。MIRA-3 TESCAN可変圧力ショットキー電界放出走査型電子顕微鏡又はFESEMを用いてエネルギー分散型X線分光法(EDS)マッピング画像を得た。
【0095】
SEMによって直接観察した場合の少なくとも20の無作為の結晶粒ファセットの平均として平均ファセットサイズを求めた。
【0096】
SEMによって直接観察した場合の少なくとも20の無作為の粒子の最大寸法の平均として平均粒度を求めた。
【0097】
電極の作製
調製したリチウム遷移金属酸化物粒状物質、カーボンブラック(Super C65、Imerys Graphite and Carbon)、及びポリフッ化ビニリデンバインダー(PVDF、Kynar HSV 900))を92/4/4の活性粒子/カーボンブラック/PVDFの質量比で、適切な量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP、Sigma Aldrich、無水99.5%)と混合することによって調製したスラリーから、実験室試験用の試料電極を作製した。高剪断ミキサーを用いてスラリーを10分間混合し、次に0.006インチの間隙のコーティングバーを用いてアルミニウム箔上に広げた。次にこのコーティングを空気中120℃で90分間乾燥させ、1.3cmのディスクに切断し、次に減圧下120℃で少なくとも12時間加熱し、セルを組み立てるまでさらに空気に曝露することはなかった。
【0098】
セルの作製
Liイオンセル中の電極材料として種々の材料を評価するため、実験室試験用リチウム半電池を作製し、試験を行った。リチウム箔(99.9%、Sigma Aldrich)対/基準電極を用いて2325型コインリチウム半電池中に電極を組み立てた(注記:当業者には周知のように、これらの試験用リチウム半電池からの結果から、リチウムイオン電池中の電極材料の性能の信頼性の高い予測が可能である)。2層のCelgard 2300セパレーター及び1層のブローンマイクロファイバー(3M company)をそれぞれのコインリチウム半電池中に使用した。エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、及びモノフルオロエチレンカーボネート(体積比3:6:1、すべてBASF製)の溶液中の1MのLiPF6(BASF)を電解質として使用した。セルの組み立ては、Arを充填したグローブボックス中で行った。30.0±0.1℃において定電流条件でセルのサイクルを行った。
【0099】
実施例1(本発明):
鋼製容器中で鋼製粉砕媒体を用いたジャーミル粉砕によって作製したNMC622前駆体粒状物質
この方法では、41.61gのNiO粉末(Sigma-Aldrich、-325メッシュ、99%)、13.18gのMnO粉末(Aldrich、-60メッシュ、99%)、及び14.90gのCo
3O
4粉末(Alfa Aesar、99.7%)で構成される出発混合物を、10kgの0.5インチステンレス鋼球とともに5Lのステンレス鋼製粉砕ジャー(US Stoneware)中に空気中で密閉し、85rpmで1週間ジャーを回転させて粉砕することによって、60%のNi、20%のMn、及び20%のCo(「NMC622」)の化学量論の金属比を有する「NMC」前駆体粒状物質を調製した。この出発混合物中の前駆体金属の87原子%が2+の酸化状態であった。この出発混合物中の前駆体金属の13原子%が2+以外の酸化状態であった(Co
3+からなる)。この出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態は2.2であった。次に、ふるい振盪機上に積み重ねた金属製篩の上に粉砕後のステンレス鋼球を配置し、ふるい振盪機を作動させることによって、結果として得られた前駆体粒状物質(以降、PM1と呼ぶ)を収集した。PM1のXRDパターンを
図1中に示す。PM1は無秩序の岩塩構造を有し、不純物ピークはなく、遷移金属が原子規模で混合されることを裏付けている。出発混合物の組成とPM1の岩塩構造とに基づくと、PM1は化学式Ni
0.6Mn
0.2Co
0.2Oを有する。岩塩相の平均結晶粒度をScherrer方法によってXRDパターンから計算すると約11nmであった。11nmを超える結晶粒度を有する相は試料中に存在しなかった。前駆体粒状物質岩塩格子の格子定数は4.187Åであった。PM1のSEM画像を
図2a及び2b中に示す。これは約1μmの平均サイズを有する二次粒子で構成され、これらの二次粒子は一次粒子の凝集体で構成され、一次粒子は約100nmの平均サイズを有する。
【0100】
実施例2(本発明):
鋼製容器中及び鋼製粉砕媒体を用いた高エネルギーボールミル粉砕によって作製した「NMC622」前駆体粒状物質
この方法では、0.83gのNiO粉末(Sigma-Aldrich、-325メッシュ、99%)、0.79gのMnO粉末(Aldrich、-60メッシュ、99%)、及び0.83gのCoO粉末(Alfa Aesar、99.7%)からなる出発混合物を、180gの1/8インチステンレス鋼球とともに65mlの硬化鋼製粉砕バイアル(Spex CertiPrep, Metuchen, NJ)中に空気中で密閉し、高エネルギーボールミル(SPEX Model 8000-D、Spex CertiPrep, Metuchen, NJ)を用いて2時間粉砕することによって、33%のNi、33%のMn、及び33%のCo(「NMC111」)の化学量論の金属比を有する「NMC」前駆体粒状物質を調製した。この出発混合物は、それらの2+酸化状態の前駆体金属のみを含み、金属一酸化物のみからなる。この出発混合物中の前駆体金属の100原子%が2+の酸化状態であった。この出発混合物中の前駆体金属の0原子%が2+以外の酸化状態を有した(Co
3+からなる)。この出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態は2であった。得られた前駆体粒状物質(以降、PM2と呼ぶ)は、次に、混合物を約10mlのエタノールとともにさらに5分間さらに粉砕し、スラリーを回収し、空気中120℃で乾燥させることによって収集した。PM2のXRDパターンを
図3中に示す。これは単相岩塩構造を有し、不純物ピークはなく、遷移金属が原子規模で混合されることを裏付けている。出発混合物の組成とPM2の岩塩構造とに基づくと、PM2は化学式Ni
0.33Mn
0.33Co
0.33Oを有する。岩塩相の平均結晶粒度をScherrer方法によってXRDパターンから計算すると約4nmであった。4nmを超える結晶粒度を有する相は試料中に存在しなかった。前駆体粒状物質岩塩格子の格子定数は4.248Åであった。PM2のSEM画像を
図4a及び4b中に示す。これは約1μmの平均サイズを有する二次粒子で構成され、これらの二次粒子は一次粒子の凝集体で構成され、一次粒子は約100nmの平均サイズを有する。
【0101】
実施例3(比較用):
手作業の粉砕によって作製した「NMC622」前駆体粒状物質
この方法では、2.50gのNiO粉末(Sigma-Aldrich、-325メッシュ、99%)、0.79gのMnO粉末(Aldrich、-60メッシュ、99%)、及び0.89gのCo
3O
4粉末(Alfa Aesar、99.7%)の出発混合物を、乳鉢及び乳棒を用いて10分間空気中で混合することによって、「NMC622」前駆体粒状物質を調製した。この出発混合物中の前駆体金属の87原子%が2+の酸化状態であった。この出発混合物中の前駆体金属の13原子%が2+以外の酸化状態であった(Co
3+からなる)。この出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態は2.2であった。次に、得られた前駆体粒状物質(以降、PM3と呼ぶ)をさらなる研究のために収集した。PM3のXRDパターンを
図5中に示す。これは多相結晶構造であり、すべてのピークをNiO、MnO、及びCo
3O
4に帰属させることができる。岩塩相の平均結晶粒度はXRDから計算するには大きすぎた(すなわち80nmを超えた)。
【0102】
実施例4(比較用):
金属の酸化状態が2+ではない50%を超える金属化合物を含有する出発混合物から作製したNMC前駆体粒状物質
この方法では、0.83のgNiO粉末(Sigma-Aldrich、-325メッシュ、99%)、0.97gのMnO
2粉末(Aldrich、-60メッシュ、99%)、及び0.89gのCo
3O
4粉末(Alfa Aesar、99.7%)からなる出発混合物を、180gの1/8インチステンレス鋼球とともに65mlの硬化鋼製粉砕バイアル(Spex CertiPrep, Metuchen, NJ)中に空気中で密閉し、高エネルギーボールミル(SPEX Model 8000-D、Spex CertiPrep, Metuchen, NJ)を用いて2時間粉砕することによって、33%のNi、33%のMn、及び33%のCo(「NMC111」)の化学量論の金属比を有する「NMC」前駆体粒状物質を調製した。この出発混合物中の前駆体金属の44%が2+の酸化状態であった。この出発混合物中の前駆体金属の56%が2+以外の酸化状態であった(Co
3+及びMn
4+からなる)。この出発混合物中の前駆体金属の平均酸化状態は2.9であった。得られた前駆体粒状物質(以降、PM4と呼ぶ)は、次に、混合物を約10mlのエタノールとともにさらに5分間さらに粉砕し、スラリーを回収し、空気中120℃で乾燥させることによって収集した。PM4のXRDパターンを
図6中に示す。これは、NiO、MnO
2、及びCo
3O
4を含む複数の相を含む。MnO
2相の平均結晶粒度をScherrer方法によってXRDパターンから計算すると58nmであった。
【0103】
実施例5(本発明)
SC-LiNMCリチウム遷移金属酸化物粒状物質の試料(以降、SC-LiNMC-1と呼ぶ)を以下のように調製した。3gのPM1前駆体を、式LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2によって得られるLi:Ni:Mn:Co比により10%過剰のリチウム含有量に相当する1.64gのLi2CO3(Alfa Aesar、99%)とともに、乳鉢及び乳棒によって均質混合物が得られるまで(約10分)粉砕した。得られた最終混合物をアルミナるつぼ中に入れ、管状炉中、空気中で940℃において12時間加熱した。最後に、生成物を乳鉢及び乳棒で手作業で微粉末に粉砕し、38μmのふるいに通して、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2の組成を有するSC-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成した。
【0104】
図7a及び7bは、異なる倍率におけるSC-LiNMC-1のSEM画像である。SC-LiNMC-1は、4μmの平均粒度を有し、平均粒度の75%の平均ファセットサイズに相当する3μmの平均ファセットサイズを有する粒子で構成される。この単結晶粒子は、明確なファセットを有する。
図7cはSC-LiNMC-1のXRDパターンを示している。
図7d中に示される20°~30°の間の拡大XRDパターン中に見ることができるように、SC-LiNMC-1は、相純粋なO3相であり、不純物を有しない。
図7e中に示されるように、(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂(約44.5°)が明確であり、これは非常に高度の結晶性を示している。
図7f中に示される(003)ピークの測定ピーク幅は0.11°であり、これは機器の広がり誤差である。したがって、微結晶サイズが大きすぎるのでこの機器では測定できない(すなわち約0.05μmを超える)003/104強度比は1.308であり、c/a比は4.957である。
【0105】
図7gは、SC-LiNMC-1を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。2.5V~4.3Vの間でC/20(10mA/g)においてサイクルを行うと、約150mAh/gの可逆容量を得ることができる。
【0106】
実施例6(本発明)
SC-LiNMCリチウム遷移金属酸化物粒状物質の試料(以降、SC-LiNMC-2と呼ぶ)を以下のように調製した。3gのPM1前駆体を、式LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2によって得られるLi:Ni:Mn:Co比により15%過剰のリチウム含有量に相当する1.71gのLi2CO3(Alfa Aesar、99%)とともに、乳鉢及び乳棒によって均質混合物が得られるまで(約10分)粉砕した。得られた最終混合物をアルミナるつぼ中に入れ、管状炉中、空気中で940℃において12時間加熱した。最後に、生成物を乳鉢及び乳棒で手作業で微粉末に粉砕し、38μmのふるいに通して、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2の組成を有するSC-LiNMC-2リチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成した。
【0107】
図8a及び8bは、異なる倍率におけるSC-LiNMC-2のSEM画像である。SC-LiNMC-2は、4μmの平均粒度を有し、平均粒度の75%の平均ファセットサイズに相当する3μmの平均ファセットサイズを有する粒子で構成される。この単結晶粒子は、明確なファセットを有する。
図8cは、SC-LiNMC-2のXRDパターンを示している。
図8d中に示される20°~30°の間の拡大XRDパターン中に見ることができるように、SC-LiNMC-2は、相純粋なO3相であり、不純物を有しない。
図8e中に示されるように、(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂(約44.5°)が明確であり、これは非常に高度の結晶性を示している。
図8f中に示される(003)ピークの測定ピーク幅は0.11°であり、これは機器の広がり誤差である。したがって、微結晶サイズが大きすぎるのでこの機器では測定できない(すなわち約0.05μmを超える)。003/104強度比は1.229であり、c/a比は4.956である。
【0108】
図8gは、SC-LiNMC-2を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。2.5V~4.3Vの間でC/20(10mA/g)においてサイクルを行うと、約160mAh/gの可逆容量を得ることができる。
【0109】
実施例7(本発明)
SC-LiNMCリチウム遷移金属酸化物粒状物質の試料(以降、SC-LiNMC-3と呼ぶ)を以下のように調製した。3gのPM1前駆体を、式LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2によって得られるLi:Ni:Mn:Co比により20%過剰のリチウム含有量に相当する1.79gのLi2CO3(Alfa Aesar、99%)とともに、乳鉢及び乳棒によって均質混合物が得られるまで(約10分)粉砕した。得られた最終混合物をアルミナるつぼ中に入れ、管状炉中、空気中で940℃において12時間加熱した。最後に、生成物を乳鉢及び乳棒で手作業で微粉末に粉砕し、38μmのふるいに通して、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2の組成を有するSC-LiNMC-3リチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成した。
【0110】
図9a及び9bは、異なる倍率におけるSC-LiNMC-3のSEM画像である。SC-LiNMC-3は、3μmの平均粒度を有し、平均粒度の67%の平均ファセットサイズに相当する2μmの平均ファセットサイズを有する粒子で構成される。この単結晶粒子は、明確なファセットを有する。
図9cは、SC-LiNMC-3のXRDパターンを示している。
図9d中に示される20°~30°の間の拡大XRDパターン中に見ることができるように、SC-LiNMC-3は、相純粋なO3相であり、不純物を有しない。
図9e中に示されるように、(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂(約44.5°)が明確であり、これは非常に高度の結晶性を示している。
図9f中に示される(003)ピークの測定ピーク幅は0.11°であり、これは機器の広がり誤差である。したがって、微結晶サイズが大きすぎるのでこの機器では測定できない(すなわち約0.05μmを超える)。003/104強度比は1.355であり、c/a比は4.956である。
図9gは、SC-LiNMC-3のEDSマッピングを示している。Ni、Mn、及びCoの元素分布は試料全体にわたって均一である。
【0111】
図9hは、SC-LiNMC-3を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。2.5V~4.3Vの間でC/20(10mA/g)においてサイクルを行うと、約160mAh/gの可逆容量を得ることができる。
【0112】
実施例8(本発明)
SC-LiNMCリチウム遷移金属酸化物粒状物質の試料(以降、SC-LiNMC-4と呼ぶ)を以下のように調製した。3gのPM1前駆体を、式LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2によって得られるLi:Ni:Mn:Co比により20%過剰のリチウム含有量に相当する1.79gのLi2CO3(Alfa Aesar、99%)とともに、乳鉢及び乳棒によって均質混合物が得られるまで(約10分)粉砕した。得られた最終混合物をアルミナるつぼ中に入れ、管状炉中、酸素流中で940℃において12時間加熱した。最後に、生成物を乳鉢及び乳棒で手作業で微粉末に粉砕し、38μmのふるいに通して、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2の組成を有するSC-LiNMC-4リチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成した。
【0113】
図10a及び10bは、異なる倍率におけるSC-LiNMC-4のSEM画像である。SC-LiNMC-4は、2μmの平均粒度を有し、平均粒度の50%の平均ファセットサイズに相当する1μmの平均ファセットサイズを有する粒子で構成される。この粒度はSC-LiNMC-1、SC-LiNMC-2、及びSC-LiNMC-3よりもはるかに小さい。これは、空気中の加熱と比較すると、酸素中の加熱は結晶成長を促進しないことを示している。
図10cは、SC-LiNMC-4のXRDパターンを示している。
図10d中に示される20°~30°の間の拡大XRDパターン中に見ることができるように、SC-LiNMC-4は、相純粋なO3相であり、不純物を有しない。
図10e中に示されるように、(104)ピーク(約44.5°)の右側にショルダーを観察することができ、Cu K
α1/K
α2のピークの分裂は観察できず、これは結晶化度がSC-LiNMC-1、SC-LiNMC-2、及びSC-LiNMC-3ほど高くないことを示している。
図10f中に示される(003)ピークの測定ピーク幅は0.11°であり、これは機器の広がり誤差である。したがって、微結晶サイズが大きすぎるのでこの機器では測定できない(すなわち約0.05μmを超える)。003/104強度比は1.162であり、c/a比は4.964である。
【0114】
図10gは、SC-LiNMC-4を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。2.5V~4.3Vの間でC/20(10mA/g)においてサイクルを行うと、約170mAh/gの可逆容量を得ることができる。
【0115】
実施例9(本発明)
SC-LiNMCリチウム遷移金属酸化物粒状物質の試料(以降、と呼ぶSC-LiNMC-5)を以下のように調製した。3gのPM1前駆体を、式LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2Li:Ni:Mn:Co比により20%過剰のリチウム含有量に相当する1.79gのLi2CO3(Alfa Aesar、99%)とともに、乳鉢及び乳棒によって均質混合物が得られるまで(約10分)粉砕した。得られた最終混合物をアルミナるつぼ中に入れ、管状炉中、空気中で940℃において12時間加熱した。加熱した粉末を乳鉢及び乳棒で粉砕し、再び管状炉中のアルミナるつぼ中、酸素流中で940℃において12時間加熱した。最後に、生成物を乳鉢及び乳棒で手作業で微粉末に粉砕し、38μmのふるいに通して、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2の組成を有するSC-LiNMC-5リチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成した。
【0116】
図11a及び11bは、異なる倍率におけるSC-LiNMC-5のSEM画像である。SC-LiNMC-5は、10μmの平均粒度を有し、平均粒度の70%の平均ファセットサイズに相当する7μmの平均ファセットサイズを有する粒子で構成される。この単結晶粒子は、明確なファセットを有する。
図11cは、SC-LiNMC-5のXRDパターンを示している。
図11d中に示される20°~30°の間の拡大XRDパターン中に見ることができるように、SC-LiNMC-5は、相純粋なO3相であり、不純物を有しない。
図11e中に示されるように、(104)ピークのCu K
α1/K
α2の分裂(約44.5°)が明確であり、これは非常に高度の結晶性を示している。
図11fに示されるように、(003)ピークの測定ピーク幅は0.11°であり、これは機器の広がり誤差である。したがって、微結晶サイズが大きすぎるのでこの機器では測定できない(すなわち約0.05μmを超える)。003/104強度比は1.108であり、c/a比は4.959である。
【0117】
図11gは、SC-LiNMC-5を用いて作製した実験用試験セルの第1サイクル電位プロファイルを示している。2.5V~4.3Vの間でC/20(10mA/g)においてサイクルを行うと、約160mAh/gの可逆容量を得ることができる。
【0118】
表1は、前述の本発明の実施例5~9に記載されるように調製した試料SC-LiNMC-1~SC-LiNMC-6の調製条件、結晶パラメーター、平均ファセットサイズ、及び平均結晶粒度をまとめている。この表中、AFS=平均ファセットサイズ、APS=平均粒度、及びPFP=最終リチウム遷移金属酸化物粒状物質試料SC-LiNMC-1~SC-LiNMC-6の平均粒度のパーセントとしてのファセットサイズである。
【0119】
【0120】
表2は、前述の本発明の実施例1~6に記載されるように調製した試料SC-LiNMC-1~SC-LiNMC-6の電気化学的性能パラメーターをまとめている。この表中、RC=可逆容量、IC=不可逆容量、及びAP=第2サイクル平均分極(半電池中の1サイクル中の平均の充電電圧及び放電電圧の間の差として測定される)である。
【0121】
【0122】
高いc/a比は、O3構造中の秩序積層を示すことが知られており、これは材料が速いリチウム拡散を有するためにNMCに望ましい。このパラメーターは、試料が酸素中で加熱されるステップを含む実施例の場合に最も高い。低い平均分極(AP)及び低い不可逆容量(IC)は、Liイオンセル中の「NMC」の望ましい性質である。AP及びICの低い値は、O3構造中の良好なイオン秩序にも特徴的である。AP及びICは、試料が酸素中で加熱され、前駆体の製造にセラミックミルが使用されるステップを含む実施例の場合に最も低い。しかし、加熱中に酸素のみが使用される場合、ファセットサイズ及びPFPは減少するようになる。したがって、幾つかの実施形態では、結晶粒成長を促進するために最初に空気中で加熱し、次に、より秩序のある結晶構造を促進するために酸素中で加熱することが好ましいと思われる。
【0123】
理論によって束縛しようとするものではないが、IE6試料中の分極の減少は、非鉄のミル及び粉砕用ボールでボールミル粉砕を用いることで得られると考えられる。これによって試料中の鉄汚染が回避される。鉄の存在はカチオン混合を誘発することが知られており(Korean J. Chem. Eng., 24(5), 888-891 (2007))、分極を増加させ、セルを劣化させることが知られている。さらに、鉄汚染によってリチウム:遷移金属の比が意図する値から変化し、これは商業的製造プロセスにおいて望ましくない。
【0124】
実施例10(比較用)
LiNMCリチウム遷移金属酸化物粒状物質の試料(以降、CE-LiNMC-1と呼ぶ)を以下のように調製した:3gの比較用PM3前駆体を、式LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2によって得られるLi:Ni:Mn:Co比により20%過剰のリチウム含有量に相当する1.79gのLi2CO3(Alfa Aesar、99%)とともに、乳鉢及び乳棒によって均質混合物が得られるまで(約10分)粉砕した。その混合物をアルミナるつぼ中に入れ、管状炉中、空気中で940℃において12時間加熱した。最後に、生成物を乳鉢及び乳棒で手作業で微粉末に粉砕し、38μmのふるいに通して、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2の組成を有するCE-LiNMC-1リチウム遷移金属酸化物粒状物質を形成した。
【0125】
図12aは、CE-LiNMC-1のXRDパターンを示している。CE-LiNMC-1は相純粋ではなく、その理由は、
図12b及び
図12c中に示される拡大XRDパターン中に複数のピークを見ることができるからである。この試料では相分離が起こる。
図12dは、CE-LiNMC-1のEDSマッピングを示している。Ni及びCoは試料全体に均一に分布するが、Mnは均一に分布しないことが分かる。これらの性質は商業用の「NMC」には望ましくない。
【0126】
以上の実施例は、リチウム電池中の電極材料のための高品質で高性能の単結晶「NMC」リチウム遷移金属酸化物粒状物質を本発明の方法によって調製できることを示している。このようなリチウム遷移金属酸化物粒状物質は、適切な遷移金属粉末を含む出発混合物を乾式インパクトミル粉砕し、次に、この前駆体粒状物質と適切なLi化合物とを含む最終混合物を加熱することによって簡単に調製された。しかし同様の出発混合物を手作業で粉砕しても、許容できる「NMC」リチウム遷移金属酸化物粒状物質は得られなかった。
【0127】
本明細書に引用される上記のすべての米国特許、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び非特許刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0128】
本発明の特定の要素、実施形態、及び用途を示し説明してきたが、当然ながら、特に以上の教示を考慮すると、本開示の意図及び範囲から逸脱することなく、当業者によって修正が可能であるので、本発明がそれらに限定されるものではないことは理解されよう。これらの修正は、本明細書に添付の請求項の限界及び範囲の中となると見なすべきである。