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特許7504224グラファイトフィルムの製造方法、グラファイトフィルムおよびグラファイトフィルム製造用複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】グラファイトフィルムの製造方法、グラファイトフィルムおよびグラファイトフィルム製造用複合体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20240614BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240614BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
C01B32/205
C08K3/04
C08L1/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022565448
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043381
(87)【国際公開番号】W WO2022114123
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2020197426
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】城所 学
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-513914(JP,A)
【文献】特開2014-156387(JP,A)
【文献】石黒 稚可子ほか,[10p-PA8-19]セルロースナノファイバー添加によるグラフェン積層構造への影響と熱伝導解析 [10p-PA8-19]Fabrication and thermal property analysis of graphene film functionalized by cellulose nanofiber,第66回応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集] ,2019年,17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体を2400℃以上の温度で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法であって、
前記グラファイトフィルムの熱拡散率が3.5cm /s以上である、グラファイトフィルムの製造方法
【請求項2】
前記複合体の厚さが1μm~50mmである、請求項1に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーを単独でフィルムにした時の表面粗さが、0.1μm~3.0μmである、請求項1または2に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが、機械解繊セルロースナノファイバー、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー、亜リン酸エステル化セルロースナノファイバー、結晶性セルロース、カルボキシメチル化セルロースまたはカルボキシメチル化セルロースナトリウム塩から選ばれた少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーは、結晶化度が50%以上である、請求項1~4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーが、下記構造式で表される構造を有する、請求項1~5のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【化1】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、-OH、-COOH、-HPO、-HPO、-NaPO、-CHOCHCOOHまたは-CHOCHCOONaのいずれかであり、nは1以上の整数である。また、R、RおよびRは前記構造式で表される繰り返し単位を結合してもよく、分岐構造をとってもよい。)
【請求項7】
前記酸化黒鉛のC/O比が、0.75~5.0である、請求項1~6のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記酸化黒鉛の平均粒子径が、30nm~3mmである、請求項1~7のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記複合体は、セルロースナノファイバーの割合が5~95重量%である、請求項1~8のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項10】
熱拡散率が3.5cm /s以上であるグラファイトフィルムの原料である、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含むグラファイトフィルム製造用複合体。
【請求項11】
表面粗さが0.3μm以上である、請求項10に記載のグラファイトフィルム製造用複合体。
【請求項12】
熱拡散率が3.5cm/s以上であり、
加圧後の表面粗さが1.0μm以上であり、かつ、
加圧後の厚み保持率が70%以上である、グラファイトフィルム。
【請求項13】
繊維状炭素と、層状炭素と、を含む、請求項12に記載のグラファイトフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトフィルムの製造方法、グラファイトフィルムおよびグラファイトフィルム製造用複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトとは、優れた耐熱性、耐薬品性、高熱伝導性、高電気伝導性を有する材料である。特に、結晶性のグラファイト(黒鉛)から構成されるグラファイトフィルムは、近年、コンピュータやスマートフォンなどの各種電子・電気機器に搭載されている半導体素子や他の発熱部品などの放熱材として使用されている。
【0003】
グラファイトフィルムの製造方法としては、エキスパンドグラファイト法と呼ばれる方法が知られている。この方法では、まず、天然グラファイトを濃硫酸と濃硝酸の混合液に浸漬し、急激に加熱することにより膨張黒鉛とした後、洗浄によって酸を除去し、高圧プレスによってフィルム状に加工することでグラファイトフィルムを製造する。しかし、この方法によって製造されたグラファイトフィルムは強度が弱く、得られる物性値も十分なものでなく、さらに残留酸の影響などの問題もあった。
【0004】
このような問題を解決するために、特殊な樹脂フィルムを高温で焼成してグラファイト化する方法が開発されている(例えば特許文献1を参照)。この方法で使用される樹脂フィルムとしては、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、ポリアミドを含むフィルムなどが挙げられる。さらに近年、酸化グラフェンを溶液成膜、化学還元、高温還元及び高圧プレスする方法が開発されている(例えば特許文献2を参照)。これらの方法はエキスパンドグラファイト化法に比べると遥かに簡易な方法であり、得られるグラファイトフィルムは、本質的に酸などの不純物を含まず、さらには、単結晶グラファイトに近い優れた熱伝導性や電気伝導特性を有するという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-123506号公報
【文献】特表2018-524257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温での熱処理による樹脂(樹脂フィルム)のグラファイト化を利用した従来の結晶性の高いグラファイトフィルムの製造方法においては、使用可能な原料が限定されていた。
【0007】
本発明の一実施形態は、上記現状に鑑み、高温での熱処理を利用したグラファイトフィルムの製造方法であって、原料として特殊な樹脂フィルムを用いることなく、熱拡散率が高いグラファイトフィルムの製造を実現できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛を含む複合体を高温で熱処理することで、熱拡散率が高いグラファイトフィルムを製造できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち本発明の一態様は、以下を包含する。
【0010】
セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体を2400℃以上の温度で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法。
【0011】
セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含むグラファイトフィルム製造用複合体。
【0012】
熱拡散率が3.5cm/s以上であり、加圧後の表面粗さが1.0μm以上であり、かつ、加圧後の厚み保持率が70%以上である、グラファイトフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によると、高温での熱処理を利用したグラファイトフィルムの製造方法であって、熱拡散率が高いグラファイトフィルムの製造を実現できる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例14で使用したセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体の表面のSEM観察結果を示す図である。
図2図2は、実施例14で得られたグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図である。
図3図3は、実施例17で使用したセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体の表面のSEM観察結果を示す図である。
図4図4は、実施例17で得られたグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図である。
図5図5は、実施例19で使用したセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体の表面のSEM観察結果を示す図である。
図6図6は、実施例19で得られたグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図である。
図7図7は、実施例19で得られたグラファイトフィルムの断面のSEM観察結果を示す図である。
図8図8は、参考例1で得られたグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図である。
図9図9は、実施例で使用したセルロースナノファイバーA、B、C、および紙のIRスペクトルを示す図である。
図10図10は、実施例で使用したセルロースナノファイバーA、B、C、および紙のXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の具体的な実施形態を詳細に説明する。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0016】
<グラファイトフィルム>
まず、本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムの製造方法により製造されるグラファイトフィルムについて説明する。本明細書において、「本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムの製造方法」を、「本製造方法」と称する場合がある。
【0017】
本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムは、本製造方法で作製(製造)されるグラファイトフィルムであり、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛の複合体を熱処理して作製される。本明細書において、「本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルム」を、「本グラファイトフィルム」と称する場合がある。
【0018】
本グラファイトフィルムは、上記構成を有するために、ポリイミドフィルムのような特殊な樹脂フィルムを使用することなく、熱拡散率に優れるグラファイトフィルムとなる。ポリイミドフィルムのような特殊な樹脂フィルムは、非常に高価なものである。そのため、より安価な材料を用いて、グラファイトフィルムを提供する技術が嘱望されていた。一方で、本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムは、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛の複合体を原料とすることで、特殊な樹脂フィルムを使用した場合と比して、より低い価格で、グラファイトフィルムを提供することができる。この点からも、本願発明は極めて有用であると言える。
【0019】
(グラファイトフィルムの熱拡散率)
本グラファイトフィルムの熱拡散率は、3.5cm/s以上であり、5.0cm/s以上であることが好ましく、7.0cm/s以上であることが好ましく、8.0cm/s以上であることが好ましい。熱拡散率が3.5cm/s以上であるグラファイトフィルムは放熱性に優れるものであり、電子機器等の優れた放熱性を要求される分野において、放熱部品として好適に利用できる。また、本グラファイトフィルムの熱拡散率の上限は、特に限定されず、例えば、12.0cm/s以下であり得る。なお、グラファイトフィルムの熱拡散率は、後述する実施例に記載の方法により測定された値である。
【0020】
(グラファイトフィルムの加圧後の表面粗さ)
グラファイトフィルムを、電子機器の放熱材料に使用する場合、粘着テープや接着テープを貼り付けて使用されることが一般的である。しかしながら、従来のグラファイトフィルムには、以下のような粘着性、および接着性の課題が生じることを本発明者らは見出した。グラファイトフィルムにおいて、柔軟性や厚みを調整するために、圧縮処理または圧延処理を行うことが一般的である。しかしながら、圧縮処理または圧延処理を行うことにより、グラファイトフィルムの表面が平滑になることで、粘着テープや接着テープとの密着力が弱くなる。この結果、グラファイトフィルムの粘着テープや接着テープと粘着力および接着力が弱くなる。
【0021】
一方で、本グラファイトフィルムは、圧縮処理または圧延処理後であっても、換言すると、加圧後においても、適度な表面粗さを有する。そのため、加圧後においても優れた粘着力および接着力を有するものとなる。本グラファイトフィルムの加圧後の表面粗さは、粘着力および接着力の観点から、1.0μm以上であることが好ましく、1.4μm以上であることがより好ましく、1.8μm以上であることがさらに好ましく、2.0μm以上であることがよりさらに好ましい。また、本グラファイトフィルムの表面粗さの上限は、特に限定されず、例えば、5.0μm以下であり得る。なお、グラファイトフィルムの加圧後の表面粗さは、後述する実施例に記載の方法により測定された値である。
【0022】
また、圧縮処理または圧延処理後のグラファイトフィルムには、該グラファイトフィルム中のグラファイトが層状に再配列することで、厚み方向の凝集力が弱くなる。その結果、グラファイト層の層間強度が低くなり、グラファイト層が剥がれやすくなる場合があるとの課題が生じることも本発明者らは見出した。
【0023】
しかしながら、本グラファイトフィルムは、加圧後であっても適度な表面粗さを有するのと同様に、加圧後のグラファイトフィルムの内部も適度な粗さを有するものとなる。それゆえに、加圧後のグラファイトフィルム中のグラファイト層の配列も適度に乱れ、層間強度にも優れるものとなる。すなわち、適度な表面粗さ(例えば、1μm以上)を有する本グラファイトフィルムは、グラファイト層の層関強度にも優れるものとなる。
【0024】
(グラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率)
グラファイトフィルムを、電子機器の放熱材料に使用する場合、発熱部材と放熱器との間に挟んで、かしめて(圧着して)使用されることがある。しかしながら、従来のグラファイトフィルムには、以下のような寸法変化(厚み変化)に関する課題が生じることを本発明者らは見出した。グラファイトフィルムを、発熱部材と放熱器との間に挟んで、かしめて使用される場合、グラファイトフィルムは非常に高い圧力で締め付けられる。従来のグラファイトフィルムは、この締め付けにより、グラファイトフィルムの寸法(厚み)が大きく変化し、発熱部材と放熱器の間の密着性が低下し、放熱性能が低下するという課題があった。また、組み立てやメンテナンスにより、発熱部材、グラファイトフィルム、放熱器を解体することがある。この場合も、寸法(厚み)が大きく変化したグラファイトフィルムを再利用すると、放熱性能が低下する。
【0025】
一方で、本グラファイトフィルムは、発熱部材と放熱器との間に挟んで、かしめた後であっても、換言すると、加圧後においても、寸法(厚み)が変化しにくい。換言すると、寸法安定性に優れるものである。そのため、加圧後においても、優れた放熱性を有するものとなる。
【0026】
本グラファイトフィルムの寸法安定性は、加圧後の厚み保持率により評価することができる。本グラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率は、優れた寸法安定性を実現し、放熱性に優れるグラファイトフィルムを提供する観点から、70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、85%以上であることがよりさらに好ましい。また、本グラファイトフィルムの厚み保持率の上限は、特に限定されず、100%であってもよく、99%であってもよく、95%であってもよく、90%であってもよい。なお、グラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率は、後述する実施例に記載の方法により測定された値である。
【0027】
上述のように、本グラファイトフィルムは、熱拡散率に加え、粘着力および接着率、ならびに、寸法安定性にも優れるグラファイトフィルムである。したがって、本グラファイトフィルムは、以下のように表現することもできる:熱拡散率が3.5cm/s以上であり、加圧後の表面粗さが1μm以上であり、かつ、加圧後の厚み保持率が70%以上である、グラファイトフィルム。
【0028】
本グラファイトフィルムの厚みは、特に制限されないが、1μm~50mmであることが好ましい。本グラファイトフィルムの厚みが1μm以上であることで、熱を輸送することに優れる。また、本グラファイトフィルムの厚みが50mm以下であることで、良好な加圧後の厚み保持率を有し、かつ、厚み方向に熱を輸送することに優れる。
【0029】
本グラファイトフィルムの密度は、小さい体積でたくさんの熱を輸送するという観点から、1.5g/cm以上が好ましく、1.8g/cm以上であることがより好ましい。本グラファイトフィルムの密度の上限は特に限定されないが、例えば、2.26g/cm以下である得る。
【0030】
<セルロースナノファイバー>
本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーとしては、機械解繊セルロースナノファイバー(例えば、高圧ホモジナイザー法により得られたセルロースナノファイバー、グラインダー法により得られたセルロースナノファイバー等)、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー、亜リン酸エステル化セルロースナノファイバー、結晶性セルロース、セルロースナノクリスタル、カルボキシメチル化セルロースまたはカルボキシメチル化セルロースナトリウム塩等が挙げられる。これらは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのセルロースナノファイバーの中でも、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、機械解繊セルロースナノファイバー、および、結晶性セルロースが好ましく、特には、TEMPO酸化セルロースナノファイバーが好ましい。TEMPO酸化セルロースナノファイバーを含む複合体は、炭化および黒鉛化によりグラファイトの層構造が発達し易いためである。
【0031】
また、セルロースナノファイバーは、単独でフィルムにした時の50~150℃の範囲における面方向の線膨張係数が20ppm/K以下であることが好ましい。また、エーテル化度が0.5~1.5であることも好ましい。また、セルロースナノファイバーを単独でフィルムにした時の表面粗さ(乾燥後の表面粗さと称する場合がある)は、得られるグラファイトフィルムが良好な加圧後の厚み保持率を有する観点から、0.1μm~3.0μmであることが好ましく、0.2μm~2.5μmであることがより好ましく、0.5μm~2.0μmであることがさらに好ましい。
【0032】
さらに、セルロースナノファイバーが、下記構造式で表されるセルロースナノファイバーであると、熱拡散率が高いグラファイトフィルムを得る上で好ましい。
【0033】
【化1】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、-OH、-COOH、-HPO、-HPO、-NaPO、-CHOCHCOOHまたは-CHOCHCOONaのいずれかであり、nは1以上の整数である。また、R、RおよびRは前記構造式で表される繰り返し単位を結合してもよく、分岐構造をとってもよい。)
上記構造式で表されるセルロースナノファイバーは30~40本のセルロース分子が規則正しく束ねられた直鎖状かつ高結晶性を有しており、幅3~4nmのセルロースミクロフィブリル、セルロースミクロフィブリルが束になった幅20~30nmのミクロフィブリル束、およびこれらの集合体を指すことになる。
【0034】
本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーは、結晶化度が50%以上であると、熱拡散率が高いグラファイトフィルムを得る上で好ましく、結晶化度が55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることがよりさらに好ましい。また、特に結晶化度が70%以上であると好ましい。セルロースナノファイバーは、非晶質部分と結晶質部分とを有するため、結晶化度とは、セルロースナノファイバー全体における結晶質部分の割合である。本発明において結晶化度は、X線回折により測定される。
【0035】
本発明のセルロースナノファイバーの結晶化度は、以下の手順にて求める。測定には、試料水平型多目的X線回折装置(UltimaIII、株式会社リガク製)を用い、X線出力:(40kv、40mA)の条件で、5°≦2θ≦35°の範囲でX線回折パターンを測定する。結晶化度は、以下の式にて算出する:
結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100
上記式中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度である。
【0036】
また、セルロースナノファイバーは植物中では細胞壁を構成しており、各種の植物より単離することができる。セルロースナノファイバーを単離する方法としては、機械処理だけでセルロースナノファイバーを単離する機械解繊法と、化学処理や酵素処理等の前処理後に機械処理を行う前処理併用法の2つに大別される。製法により繊維径(分布)、繊維長(分布)が異なるが、概ね、幅は4~数百nm、長さはマイクロメートルオーダーの高アスペクト比を持つ親水性の高い繊維である。
【0037】
機械解繊法としては、高圧ホモジナイザー法、グラインダー法、対向衝突法、ビーズミル法、2軸押出機法などがある。機械解繊により比表面積が大きくなるとセルロースナノファイバーの水分散物の保水性が高くなり、濃度によりゲル状になる。
【0038】
一方、前処理と機械解繊を併用する方法としては、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル‐1‐オキシラジカル)酸化法、カチオン化法、酵素処理法などが知られている。TEMPO酸化法ではセルロースのグルコース単位のC6位のみが選択的に酸化され、負電荷を有するカルボキシル基が導入される。このため、水中で軽微な機械処理を行うだけで静電反発により幅4nmで高結晶性のTEMPO酸化セルロースナノファイバーが得られる。カチオン化法もTEMPO酸化法と同様に静電反発を利用している。
【0039】
本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーのIRスペクトルは、特に制限されないが、波数3000~3500cm-1の範囲にピークがあると、酸化黒鉛との相互作用が良好となるため好ましい。また、波数1030~1070cm-1の範囲に一番大きなピークがあり、かつ、一番の大きなピークより波数の小さい範囲、例えば、1070~1140cm-1の範囲、または、1140~1200cm-1の範囲に二つのピークがあると、得られるグラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率が良好となるため好ましい。なお、本明細書において、セルロースナノファイバーのIRスペクトルとは、セルロースナノファイバーを単独でフィルム(セルロースナノファイバーフィルム)にした時の、当該セルロースナノファイバーフィルムのIRスペクトルを意図し、より具体的には、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0040】
本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーのXRDスペクトルは、特に制限されないが、2θが、20~25°の間にピークがあり、かつ、2θが、10~20°の間にピークがあることが好ましい。上記の範囲ピークがあることは、セルロースナノファイバーが結晶性を有することを意味し、得られる加圧後の厚み保持率が良好となるため好ましい。なお、本明細書において、セルロースナノファイバーのXRDスペクトルとは、セルロースナノファイバーを単独でフィルム(セルロースナノファイバーフィルム)にした時の、当該セルロースナノファイバーフィルムのXRDスペクトルを意図し、より具体的には、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0041】
<酸化黒鉛>
本発明の一実施形態に係る酸化黒鉛(以下、「本酸化黒鉛」と称する場合がある)は、黒鉛が気相酸化、化学酸化または電解酸化されたもので、黒鉛表面の一部が酸素や、水酸基やカルボキシル基等の酸素含有官能基によって置換又は修飾された黒鉛である。
【0042】
黒鉛としては、各種黒鉛が使用可能であるが、層構造が発達した結晶性の高い黒鉛が酸化黒鉛の収率が高く、基本層の層数が少ない酸化黒鉛が得られやすいという理由から好ましい。このような黒鉛として、天然黒鉛(特に良質なもの)、キッシュ黒鉛(特に高温で作られたもの)、高配向性熱分解黒鉛が好ましく用いられる。又、これらの黒鉛の層間を予め広げた膨張黒鉛も好ましく用いられる。又、これらの黒鉛は粉体およびフィルム、シート等のいずれでもよい。
【0043】
黒鉛の平均粒子径は、使用用途に応じた酸化黒鉛粒子の平均粒子径に応じて適宜選択すればよい。ここで、黒鉛の平均粒子径を0.1μm以上500μm以下とすることが好ましく、1μm以上200μm以下とすることがさらに好ましい。黒鉛の平均粒子径が0.1μm以上であると、平均粒子径が0.1μm未満の場合に比べて、得られる酸化黒鉛粒子のアスペクト比が大きくなって形状異方性が大きくなるため好ましい。
【0044】
本酸化黒鉛粒子の形状は、特に限定されるものではなく、種々の形状であってもよい。例えば酸化黒鉛粒子の形状は球状であっても平板状であってもよい。
【0045】
本酸化黒鉛は、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.75~5.0のものであることが好ましい。前記質量比が0.75未満となると、黒鉛の構造を維持することが困難となる虞がある。また、前記質量比が5.0以上となると、酸化黒鉛中の酸素含有割合が少なく、熱拡散率の高いグラファイトフィルムを製造することが困難となる虞がある。すなわち、本酸化黒鉛は、酸素に対する炭素の質量比(C/O)が0.75~5.0であることが、好適な黒鉛の構造を維持することができるため、良好な加圧後の厚み保持率を実現でき、かつ、熱拡散率および加圧後の表面粗さに優れたグラファイトフィルムを提供できることから、好ましい。前記酸素に対する炭素の質量比は、好ましくは、4.0以下であり、より好ましくは、3.0以下であり、さらに好ましくは、2.0以下である。また、当該質量比の下限は0.6以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。酸化黒鉛の酸素に対する炭素の質量比(C/O)は、酸化黒鉛を乾燥した膜について、CHN元素分析装置(パーキンエルマー製PE2400II)を用いて測定することができる。
【0046】
前記酸化黒鉛の平均粒子径としては特に限定されないが、より優れた熱拡散率、加圧後の表面粗さ、および、加圧後の厚み保持率を有するグラファイトフィルムを得ることができることから、30nm~3mmが好ましく、50nm~1mmがより好ましく、100nm~500μmがさらに好ましく、0.3μm~250μmが特に好ましく、0.5μm~90μmが最も好ましい。酸化黒鉛の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製LA-920)によって算出することができる。
【0047】
前記酸化黒鉛としては、市販品を用いてもよく、適宜合成したものを用いてもよい。
【0048】
前記酸化黒鉛の合成方法としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛を酸化剤で酸化してから層間剥離する方法、又は、黒鉛を作用電極として電気分解を行ってから層間剥離する方法等が挙げられる。前記酸化剤で酸化する方法としては、Brodie法(硝酸、塩素酸カリウムを使用)、Staudenmaier法(硝酸、硫酸、塩素酸カリウムを使用)、Hummers-Offeman法(硫酸、硝酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを使用)等が挙げられる。前記電気分解を行う方法としては、硫酸、硝酸、過塩素酸などの酸性物質の水溶液等を電解質溶液として用いる方法が挙げられる。また、前記層間剥離を行う方法としては、機械的な外力を加える方法や、加熱処理を行う方法、超音波照射を行う方法等が挙げられる。
【0049】
<複合体>
本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムの原料となる複合体(以下、「本複合体」または「複合体」と称する場合がある)は、セルロースナノファイバー、および酸化黒鉛を含有する。前記複合体中のセルロースナノファイバーと酸化黒鉛の含有量に関しては、前記複合体100重量%に対し、セルロースナノファイバーの含有量は5~95重量%、酸化黒鉛の含有量は95~5重量%であることが好ましい。前記複合体中のセルロースナノファイバーと酸化黒鉛の含有量が上記の範囲であると、良好な品質、特に、加圧後の表面粗さおよび厚み保持率に優れるグラファイトフィルムが得られやすくなる。より好ましくは、セルロースナノファイバーの含有量は15~85重量%、酸化黒鉛の含有量は85~15重量%であり、さらに好ましくは、セルロースナノファイバーの含有量は25~75重量%、酸化黒鉛の含有量は75~25重量%である。
【0050】
本複合体の表面粗さは、得られるグラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率を高める観点から、0.3μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。また、本複合体の表面粗さの上限は、特に限定されず、例えば、2.5μm以下であり得る。なお、複合体(原料フィルム)の加圧後の表面粗さは、後述する実施例に記載の方法により測定された値である。
【0051】
前記複合体を得る具体的な手法は特に限定されないが、例えば、セルロースナノファイバー、及び、酸化黒鉛、ならびに、必要に応じて分散媒を混合して分散液を得た後、該分散液を薄膜状に基材に塗布又は流延した後、乾燥させ、形成されたフィルムを基材から剥離する方法が挙げられる。但し、酸化黒鉛として市販の酸化黒鉛分散液を使用する場合には、前記分散媒を別途添加する必要はない。
【0052】
前記分散媒としては特に限定されないが、例えば、水、DMF、DMAc、DMSO、NMP、ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、メタノール、エタノール、プロパノール、ピリジン、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。中でも、酸化黒鉛粒子同士の凝集を防止する観点から、比誘電率が15以上である水、メタノールが好ましい。特に水が好ましく、水の中でも特にイオン交換水を用いることがより好ましい。
【0053】
前記基材は、基板やフィルムであってもよいし、エンドレスベルト、ステレンスドラム等であってもよい。前記塗布の方法としては、スピンコートを用いる方法や、バーコートを用いる方法等が挙げられる。
【0054】
本複合体の形状は特に限定されないが、フィルム(フィルム状)であることが好ましい。セルロースナノファイバー及び酸化黒鉛を含有する複合体の形状が、フィルム状である場合、該フィルムの厚みは特に限定されないが、例えば、1μm~50mmであり、好ましくは2μm~1mmであり、より好ましくは3μm~300μmである。複合体の厚みが1μm以上であれば、良好な加圧後の表面粗さを有するグラファイトフィルムを得ることができる。また、複合体の厚みが50mm以下であれば、良好な加圧後の厚み保持率を有し、かつ厚み方向に熱を輸送することに優れるグラファイトフィルムを得ることができる。
【0055】
本複合体を加熱処理することにより、本グラファイトフィルムを提供することができる。したがって、本複合体は、グラファイトフィルム製造用複合体であるとも言える。すなわち、本発明の一実施形態において、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含むグラファイトフィルム製造用複合体を提供する。本複合体は、グラファイトフィルムの原料フィルムであるとも言える。
【0056】
セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含むグラファイトフィルム製造用複合体を原料として得られたグラファイトフィルムは、前記セルロースナノファイバーに由来する繊維状炭素と、酸化黒鉛等に由来する層状炭素と、を含むものとなる。すなわち、本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムは、繊維状炭素と、層状炭素と、を含む、グラファイトフィルムとなる。加圧後の厚み保持率に優れるグラファイトフィルムとなることから、本グラファイトフィルムは、繊維状炭素を含むことが好ましい。
【0057】
<グラファイトフィルムの製造方法>
本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムの製造方法においては、セルロースナノファイバー及び酸化黒鉛を含有する複合体を熱処理することにより、グラファイトフィルムを製造する。この熱処理によって、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛から酸素原子や水素原子等が放出されて、グラファイト化が進行する。本製造方法によれば、熱拡散率に優れ、かつ、粘着力および接着率、ならびに、寸法安定性に優れるグラファイトフィルムを製造することができる。
【0058】
本製造方法における熱処理のプロセスについて具体的に説明する。まず、原料となる複合体を、窒素ガス等の非酸化雰囲気下で予備加熱し、炭化する、炭化工程を行う。これにより、炭化フィルムを得ることができる。炭化工程は、通常80℃以上1500℃以下の温度(例えば、1000℃)まで、複合体を昇温することにより実施することができる。炭化工程において、複合体を昇温する時の速度は特に限定されないが、例えば、0.1℃/min~10℃/minであることが好ましい。炭化工程においては、一定以上温度(例えば1000℃以上)に維持した状態で、一定時間複合体を予備加熱することが好ましく、例えば、10℃/minの速度で1000℃まで昇温する場合には、1000℃の温度領域で30分程度保持することが望ましい。炭化工程は、減圧下で行ってもよいし、不活性ガスを流しながら行ってもよい。また、炭化工程は、複合体の破壊が起きない程度の荷重を複合体に加えながら実施してもよい。
【0059】
次いで、得られた炭素(炭化フィルム)を超高温炉内に配置し、グラファイト化することで、グラファイトフィルムを得る、グラファイト化工程を行う。グラファイト化工程では、炭素(炭化フィルム)においてグラファイト層の再配列が進行し、高結晶のグラファイトが形成される。なお、炭化工程とグラファイト化工程は、同一の炉内で連続して実施してもよいし、炭化工程後に炭素を冷却する工程を挟んで、別個に実施してもよい。
【0060】
グラファイト化工程時の加熱温度は、2400℃以上であることが好ましく、より好ましくは2700℃以上であり、さらに好ましくは2800℃以上である。グラファイト化工程は不活性ガス中で行うことが望ましい。不活性ガスとしては特に限定されないが、アルゴンが好ましく、少量のヘリウムを加えたアルゴンがより好ましい。グラファイト化工程において、炭化フィルムを昇温する時の速度は特に限定されないが、例えば、0.1℃/min~10℃/minが好ましい。グラファイト化工程は、減圧下で行ってもよいし、不活性ガスを流しながら行ってもよい。
【0061】
炭化工程および/またはグラファイト化工程は、プレス装置等を利用して、複合体(原料フィルム)および/または炭素(炭化フィルム)に荷重を加えつつ実施してもよい。原料フィルムおよび/または炭化フィルムに荷重を加えつつ炭化工程および/またはグラファイト化工程を実施すると、熱拡散率がより高く、外観がより良好なグラファイトフィルムを製造することができる。荷重としては、好ましくは、1kg/cm以上、より好ましくは、10kg/cm以上、さらに好ましくは、50kg/cm以上である。本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムの製造方法においては、炭化工程のみを荷重を加えつつ実施してもよく、グラファイト化工程のみを荷重を加えつつ実施してもよく、炭化工程およびグラファイト化工程の両方を、荷重を加えつつ実施してもよい。熱拡散率がさらに高く、外観がさらに良好なグラファイトフィルムを製造することができることから、炭化工程およびグラファイト化工程の両方を、荷重を加えつつ実施することが好ましい。
【0062】
以上の工程を実施することにより、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛との複合体を原料に用いて高温で熱処理することによって、熱拡散率の高いグラファイトフィルムを製造することができる。
【0063】
本発明の一実施形態は、以下のような構成であってもよい。
【0064】
〔1〕セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体を2400℃以上の温度で熱処理するグラファイトフィルムの製造方法。
【0065】
〔2〕前記複合体の厚さが1μm~50mmである、〔1〕に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0066】
〔3〕前記セルロースナノファイバーを単独でフィルムにした時の表面粗さが、0.1μm~3.0μmである、〔1〕または〔2〕に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0067】
〔4〕前記セルロースナノファイバーが、機械解繊セルロースナノファイバー、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー、亜リン酸エステル化セルロースナノファイバー、結晶性セルロース、カルボキシメチル化セルロースまたはカルボキシメチル化セルロースナトリウム塩から選ばれた少なくとも1つを含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0068】
〔5〕前記セルロースナノファイバーは、結晶化度が50%以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0069】
〔6〕前記セルロースナノファイバーが、下記構造式で表される構造を有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0070】
【化2】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、-OH、-COOH、-HPO、-HPO、-NaPO、-CHOCHCOOHまたは-CHOCHCOONaのいずれかであり、nは1以上の整数である。また、R、RおよびRは前記構造式で表される繰り返し単位を結合してもよく、分岐構造をとってもよい。)
〔7〕前記酸化黒鉛のC/O比が、0.75~5.0である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0071】
〔8〕前記酸化黒鉛の平均粒子径が30nm~3mmである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0072】
〔9〕前記複合体は、セルロースナノファイバーの割合が5~95重量%である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0073】
〔10〕セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含むグラファイトフィルム製造用複合体。
【0074】
〔11〕表面粗さが0.3μm以上である、〔10〕に記載のグラファイトフィルム製造用複合体。
【0075】
〔12〕熱拡散率が3.5cm/s以上であり、加圧後の表面粗さが1.0μm以上であり、かつ、加圧後の厚み保持率が70%以上である、グラファイトフィルム。
【0076】
〔13〕繊維状炭素と、層状炭素と、を含む、〔12〕に記載のグラファイトフィルム。
【実施例
【0077】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0078】
(複合体およびグラファイトフィルムの厚みの測定)
複合体およびグラファイトフィルムの角の4箇所および中央の1箇所の厚みを(株)ミツトヨ製マイクロメーター OMV-25MX (406-250-30)を用いて、室温25℃の恒温室にて、それぞれ測定した。得られた計5点の厚みの測定値の平均値を、複合体およびグラファイトフィルムの厚みとした。
【0079】
(グラファイトフィルムの熱拡散率の測定方法)
グラファイトフィルムの熱拡散率は、熱拡散率測定装置(ベテル(株)社製:サーモウェーブアナライザー・TA-3)を用いて、グラファイトフィルムを40×40mmの形状に切り取ったサンプルを、20℃の雰囲気下にて測定した。
【0080】
(グラファイトフィルムの加圧後の表面粗さ)
グラファイトフィルムの加圧後の表面粗さは、JIS B 0601に準拠して測定した。具体的には、表面粗さ測定機SJ-210(コードNo.178-2560-11)((株)ミツトヨ)を使用して、加圧後のグラファイトフィルム(縦(長さ)25mm×横(幅)5mmのサイズに切り取ったもの)について、加圧後のフィルムの両面の表面粗さを測定した。なお、上記の測定は、基準長(L)を4mmとして、フィルムの片面につき計3回行ない、その平均値をグラファイトフィルムの加圧後の片面の表面粗さとした。測定した加圧後の片面の表面粗さのうち、表面粗さが大きい方の片面の表面粗さを、グラファイトフィルムの加圧後の表面粗さとした。
【0081】
また、加圧後のグラファイトフィルムは、下記の方法で加圧前のグラファイトフィルムを加圧して得た。まず、グラファイトフィルム(縦2cm×横2cm)を、2枚のポリイミドフィルム(厚み75μm×縦10cm×横10cm)で挟み、さらに、2枚のSUS板(厚み5mm×縦10cm×横10cm)で挟み、計5層の積層体を得た。次に、この5層積層体を、圧縮成型機を用いて、積層体中のグラファイトフィルムに加わる圧力が、300kg/cmとなるよう1分間加圧し、加圧後のグラファイトフィルムを得た。
【0082】
(セルロースナノファイバー(フィルム)、および、原料フィルムの表面粗さ)
セルロースナノファイバー(フィルム)、および、原料フィルムの表面粗さは、JIS B 0601に準拠して測定した。具体的には、測定対象を、加圧後のグラファイトフィルムから、セルロースナノファイバー(フィルム)、または、原料フィルムに置き換えたこと以外は、上記(グラファイトフィルムの加圧後の表面粗さ)項に記載の方法と同様の方法により、セルロースナノファイバー(フィルム)、および、原料フィルムの表面粗さを測定した。ここで、セルロースナノファイバー(フィルム)とは、セルロースナノファイバーを含む水溶液を乾燥して得られる、フィルム状のセルロースナノファイバーを意図する。
【0083】
(グラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率)
グラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率は、下記式により算出した:
グラファイトフィルムの加圧後の厚み保持率=グラファイトフィルムの加圧後の厚み/グラファイトフィルムの加圧前の厚み。
【0084】
なお、加圧前・加圧後のグラファイトフィルムの厚みの測定方法は、上記(複合体およびグラファイトフィルムの厚みの測定)項に記載の通りであり、加圧後のグラファイトフィルムとしては、下記の方法で加圧前のグラファイトフィルムを加圧して得たものを使用した。まず、グラファイトフィルム(縦2cm×横2cm)を、2枚のポリイミドフィルム(厚み75μm×縦10cm×横10cm)で挟み、さらに、2枚のSUS板(厚み5mm×縦10cm×横10cm)で挟み、計5層の積層体を得た。次に、この5層積層体を、圧縮成型機を用いて、積層体中のグラファイトフィルムに加わる圧力が、300kg/cmとなるよう1分間加圧し、加圧後のグラファイトフィルムを得た。
【0085】
(複合体(原料フィルム)およびグラファイトフィルムのSEM観察)
複合体(原料フィルム)およびグラファイトフィルムのSEM(scanning electron microscope)観察は、超高分解能走査型電子顕微鏡観察(FE-SEM)で行った。装置としてULTRAplus(CarlZeiss製)を用い、加速電圧が5.0kVの条件で、二次電子検出器SE2によって、観察対象である複合体(原料フィルム)またはグラファイトフィルムの表面を観察した。
【0086】
(セルロースナノファイバー(フィルム)のIR)
セルロースナノファイバーのIRペクトルは、セルロースナノファイバーを含む水溶液を乾燥して得た、フィルム状のセルロースナノファイバー(セルロースナノファイバーフィルム)について、赤外分光装置(Spectrum ONE、パーキンエルマー製)を用いて、4000から650cm-1の範囲で測定した。
【0087】
(セルロースナノファイバー(フィルム)のXRD)
セルロースナノファイバーのXRDスペクトルは、セルロースナノファイバーを含む水溶液を乾燥して得た、フィルム状のセルロースナノファイバー(セルロースナノファイバーフィルム)について、X線回折装置(X’Pert Pro、Malvern Panalytical製)を用いて、CuKα(λ=1.541Å)を放射し、2θが5°から90°の範囲で測定した。
【0088】

(実施例1)
セルロースナノファイバーA(TEMPO酸化セルロースナノファイバー、結晶化度:71%、直径1nm~5nm、長さ100nm~1μm、乾燥後の表面粗さ0.15μm)と酸化黒鉛(平均粒子径:15μm、C/O比:1.2)の分散液(セルロースナノファイバーの割合75重量%)を、乾燥後の厚みが35μmになるように、塗布し、室温で乾燥して、厚み35μmのセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体(原料フィルム)を得た。
【0089】
得られた複合体を、窒素雰囲気中、室温~1000℃まで加熱後、1000℃で10分保持して炭化し、炭化フィルムを得た。ついで、得られた炭化フィルムを、黒鉛板に挟み、炭化フィルムと黒鉛板の積層体を得た。該積層体を、室温~2000℃の温度領域では真空中で、次いで、2000℃超の温度領域では、アルゴン中で、2900℃以上まで加熱後、2900℃以上で10分保持してグラファイト化し、グラファイトフィルムを得た。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、3.5cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0090】
【表1】
(実施例2)
酸化黒鉛とセルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの割合を50重量%にした以外は、実施例1と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.1cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
酸化黒鉛とセルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの割合を45重量%にした以外は、実施例1と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.2cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0092】
(実施例4)
酸化黒鉛とセルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの割合を40重量%にした以外は、実施例1と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、8.5cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0093】
(実施例5)
酸化黒鉛とセルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの割合を5重量%にした以外は、実施例1と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、7.8cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0094】
(実施例6)
複合体の乾燥後の厚みを5μmにした以外は、実施例3と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.3cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0095】
(実施例7)
複合体の乾燥後の厚みを200μmにした以外は、実施例3と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、6.2cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0096】
(実施例8)
酸化黒鉛にC/O比が2.5のものを用いた以外は、実施例3と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、8.9cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0097】
(実施例9)
酸化黒鉛に平均粒子径が5μmのものを使用した以外は、実施例3と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、8.5cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0098】
(実施例10)
酸化黒鉛に平均粒子径が80μmのものを使用した以外は、実施例3と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.2cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
ポリビニルアルコールと酸化黒鉛(平均粒子径:約20μm、C/O比:35)の分散液(ポリビニルアルコールの割合90重量%)を、乾燥後の厚みが35μmになるように、塗布し、室温で乾燥して得た厚み35μmのフィルムを前記複合体の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、0.1cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率を表1に示す。
【0100】
(実施例11)
セルロースナノファイバーA(TEMPO酸化セルロースナノファイバー、結晶化度:71%、直径1nm~5nm、長さ100nm~1μm、乾燥後の表面粗さ0.15μm)と酸化黒鉛(平均粒子径:15μm、C/O比:1.2)の分散液(セルロースナノファイバーの割合50重量%)を、乾燥後の厚みが35μmになるように、塗布し、室温で乾燥して、厚み35μmのセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体(原料フィルム)を得た。得られた複合体の表面粗さは0.27μmであった。
【0101】
得られた複合体を、50kg/cmの荷重で加圧した状態で、窒素雰囲気中、室温~1000℃まで加熱後、1000℃で10分保持して炭化し、炭化フィルムを得た。ついで、得られた炭化フィルムを、黒鉛板に挟み、炭化フィルムと黒鉛板の積層体を得た。該積層体を、50kg/cmの荷重で加圧した状態で、室温~2000℃の温度領域では真空中で、次いで、2000℃超の温度領域では、アルゴン中で、2900℃以上まで加熱後、2900℃以上で10分間保持してグラファイト化し、グラファイトフィルムを得た。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.2cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0102】
【表2】
(実施例12)
厚み25μmのセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体(原料フィルム)を得たこと以外は、実施例11と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.3cm/sであった。使用した複合体の組成、厚み、および、表面粗さ、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0103】
(実施例13)
厚み10μmのセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体(原料フィルム)を得たこと以外は、実施例11と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.4cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0104】
(実施例14)
酸化黒鉛として、平均粒子径が30μmのものを使用したこと以外は、実施例12と同様にグラファイトフィルムを作製した。原料フィルムの表面粗さは、0.30μmであった。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.4cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0105】
実施例14で使用した複合体(原料フィルム)および得られたグラファイトフィルムの表面を、SEMによって観察した。その結果を図1および図2に示す。図1は、実施例14で使用した複合体(原料フィルム)の表面のSEM観察結果を示す図であり、図1の上図が倍率1000倍、中図が倍率5000倍、下図が倍率10000倍での観察結果をそれぞれ示す。図2は実施例14で得たグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図であり、図2の上図が倍率1000倍、中図が倍率5000倍、下図が倍率10000倍での観察結果をそれぞれ示す。図2上図(円で囲われた部分)より明らかなように、実施例14で得たグラファイトフィルムは、繊維状炭素を含むものであった。
【0106】
(実施例15)
厚み10μmのセルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体(原料フィルム)を得たこと以外は、実施例14と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.5cm/sであった。使用した複合体の組成、厚み、および、表面粗さ、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0107】
(実施例16)
酸化黒鉛とセルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの割合を25重量%としたこと以外は、実施例14と同様にグラファイトフィルムを作製した。
得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.5cm/sであった。使用した複合体の組成、厚み、および、表面粗さ、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0108】
(実施例17)
セルロースナノファイバーAに変えて、セルロースナノファイバーB(機械解繊(高圧ホモジナイザイー法)セルロースナノファイバー、結晶化度:50%以上、直径10nm~50nm、長さ100nm~5μm、乾燥後の表面粗さ1.0μm)を使用したこと以外は、実施例14と同様にグラファイトフィルムを作製した。原料フィルムの表面粗さは、0.51μmであった。原料フィルムの、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、8.8cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0109】
実施例17で使用した複合体(原料フィルム)および得られたグラファイトフィルムの表面を、SEMによって観察した。その結果を図3および図4に示す。図3は、実施例17で使用した複合体(原料フィルム)の表面のSEM観察結果を示す図であり、図3の上図が倍率1000倍、中図が倍率5000倍、下図が倍率10000倍での観察結果をそれぞれ示す。図4は実施例17で得たグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図であり、図4の上図が倍率1000倍、中図が倍率5000倍、下図が倍率10000倍での観察結果をそれぞれ示す。図4上図(円で囲われた部分)より明らかなように、実施例17で得たグラファイトフィルムは、繊維状炭素を含むものであった。
【0110】
(実施例18)
酸化黒鉛とセルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの割合を25重量%としたこと以外は、実施例17と同様にグラファイトフィルムを作製した。
得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.1cm/sであった。使用した複合体の組成、厚み、および、表面粗さ、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0111】
(実施例19)
セルロースナノファイバーAに変えて、セルロースナノファイバーC(結晶性セルロースを原料とする機械解繊(グラインダー法)セルロースナノファイバー、結晶化度:50%以上、直径10nm~50nm、長さ100nm~25μm、乾燥後の表面粗さ1.3μm)を使用したこと以外は、実施例14と同様にグラファイトフィルムを作製した。
原料フィルムの表面粗さは、0.98μmであった。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、8.5cm/sであった。使用した複合体の組成および厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0112】
実施例19で使用した複合体(原料フィルム)および得られたグラファイトフィルムの表面を、SEMによって観察した。その結果を図5および図6に示す。図5は、実施例19で使用した複合体(原料フィルム)の表面のSEM観察結果を示す図であり、図5の上図が倍率1000倍、中図が倍率5000倍、下図が倍率10000倍での観察結果をそれぞれ示す。図6は実施例19で得たグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図であり、図6の上図が倍率1000倍、中図が倍率5000倍、下図が倍率10000倍での観察結果をそれぞれ示す。図6上図(円で囲われた部分)より明らかなように、実施例19で得たグラファイトフィルムは、繊維状炭素を含むものであった。さらに、実施例19で得たグラファイトフィルムの断面写真を図7に示す。図7(特に、円で囲われた部分)より明らかなように、実施例19で得たグラファイトフィルムには、繊維状の模様(繊維状炭素)が確認できる。
【0113】
(実施例20)
酸化黒鉛とセルロースナノファイバーの分散液におけるセルロースナノファイバーの割合を25重量%としたこと以外は、実施例19と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、8.8cm/sであった。使用した複合体の組成、厚み、および、表面粗さ、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0114】
(参考例1)
セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体に変えて、ポリイミドフィルム(アピカル200AV((株)カネカ製))を使用したこと以外は、実施例11と同様にグラファイトフィルムを作製した。得られたグラファイトフィルムの熱拡散率は、9.5cm/sであった。使用したポリイミドフィルムの厚み、ならびに、得られたグラファイトフィルムの熱拡散率、加圧後の表面粗さおよび加圧後の厚み保持率を表2に示す。
【0115】
参考例1で得られたグラファイトフィルムの表面を、SEMによって観察した。その結果を図8に示す。図8は実参考例1で得たグラファイトフィルムの表面のSEM観察結果を示す図であり、倍率1000倍での観察結果を示す。図8より明らかなように、参考例1で得たグラファイトフィルムは、グラファイトの折れ曲がりは確認されるが、繊維状炭素は確認されなかった。
【0116】
(セルロースナノファイバーのIRスペクトルおよびXRDスペクトル)
実施例で使用した各セルロースナノファイバー(セルロースナノファイバーA、セルロースナノファイバーBおよびセルロースナノファイバーC)および上質紙(TANOSEE:αエコペーパー タイプNH、以下単に紙と称する)について、IRスペクトルおよびXRDスペクトルを測定した。その結果を図9および図10に示す。図9は、実施例で使用したセルロースナノファイバーA、B、C、および紙のIRスペクトルを示す図である。また、10は、実施例で使用したセルロースナノファイバーA、B、C、および紙のXRDスペクトルを示す図である。図9よりセルロースナノファイバーAは、波数3000~3500cm-1付近に、紙と類似のピークがあることが分かる。また、セルロースナノファイバーA、B、C、および、紙は、波数1030~1070cm-1の範囲に一番大きなピークがあり、一番大きなピークより、波数の低い領域である1070~1140cm-1の範囲および1140~1200cm-1の範囲に二つのピークがあることが分かる。また、図10より、セルロースナノファイバーA、B、Cは、2θが、20~25°の間にピークがあり、2θが、10~20°の間にピークがあることが分かる。
【0117】
〔まとめ〕
実施例1~20と、比較例1との比較より、セルロースナノファイバーとの複合体とせず、酸化黒鉛のみを単独で加熱処理した比較例1は、得られるグラファイトフィルムは、熱拡散率が著しく不良であり、放熱部材としてはほとんど用をなさないことが分かる。一方で、セルロースナノファイバーと酸化黒鉛とを含む複合体を加熱処理した実施例1~19のグラファイトフィルムは、何れも優れた熱拡散率を有している。すなわち、本製造方法によれば、熱拡散率が高いグラファイトフィルムの製造を実現できることが示された。また、参考例1の結果より、本製造方法により作成された、実施例1~20のグラファイトフィルムは、原料として特殊な樹脂フィルムであるポリイミドフィルムを用いて作製された従来のグラファイトフィルムである参考例1と比して、同程度の熱拡散率を有するとともに、加圧後の表面粗さおよび加圧後の寸法安定性に大きく優れるものである。すなわち、本製造方法より得られるグラファイトフィルム(本グラファイトフィルム)は、従来の方法で得られたグラファイトフィルムと比して、粘着力および接着率、ならびに、寸法安定性にも優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の一実施形態に係るグラファイトフィルムは、コンピュータなどの各種電子機器あるいは、電気機器に搭載されている半導体素子や他の発熱部品の放熱部材として好適に利用することができる。
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