(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】導波音響波型ブリルアン散乱の正確な測定
(51)【国際特許分類】
H04B 10/07 20130101AFI20240614BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20240614BHJP
【FI】
H04B10/07
H04B10/61
(21)【出願番号】P 2022574505
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 US2021035545
(87)【国際公開番号】W WO2021247771
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-01-20
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ヤマン、 ファティ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス、 エディアルド
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 慎介
(72)【発明者】
【氏名】バトション、 フッサム
(72)【発明者】
【氏名】中村 康平
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴則
(72)【発明者】
【氏名】稲田 喜久
(72)【発明者】
【氏名】緒方 孝昭
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-019605(JP,A)
【文献】特開2015-230165(JP,A)
【文献】特開2019-161246(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0149878(US,A1)
【文献】Yuanxiu Fu et al.,Discriminative Measurement of Temperature and Strain Using Stimulated Brillouin Scattering and Guided Acoustic-Wave Brillouin Scattering,2018 Asia Communications and Photonics Conference (ACP),IEEE,2018年10月26日,pages 1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/07
H04B 10/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波音響波型ブリルアン散乱(GAWBS)の正確な測定を提供する装置であって、
局部発振器入力ポートと信号ポートとを有するコヒーレント光受信器と、
前記コヒーレント
光受信器のLOポートと光通信する偏波保持(PM)光ファイバの区間と、
前記コヒーレント
光受信器の信号ポートと光通信する被測定光ファイバ(FUT)の区間と、
前記PM光ファイバおよび前記FUTと光通信する連続波(CW)レーザと、
前記FUTと光通信する較正レーザ(laser-cal)と、を有し、
光が前記laser-calから出力され、光が前記CWレーザから出力され、
前記CWレーザから出力された前記光は2つのビームに分割され、一方のビームは前記PM光ファイバに向けられ、他方のビームは前記FUTに向けられ、
前記laser-calから出力された前記光は前記FUTに向けられた前記CWレーザのビームと結合され、
前記コヒーレント
光受信器は、そのLOポートで前記CWレーザからの光を受信し、その信号ポートで前記結合されたlaser-cal出力光およびCW光を受信し、
前記LOポートで受信した光と前記信号ポートで受信した結合光とは複数の光検出器によって検出され、その後、それから生じる光検出器出力信号がそれぞれのバンドパスフィルタによってフィルタリングされ、
前記フィルタリングされた出力信号は、アナログデジタル変換器(ADC)の作用によってデジタル化され、
GAWBS測定は、前記ADCのデジタル化された出力信号から決定される
ように構成されている、装置。
【請求項2】
前記コヒーレント
光受信器は、前記LOポートの光と前記信号ポートの光とを受信するハイブリッドを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ハイブリッドは、前記LOポートの光と前記信号ポートの光とを受信し、それぞれが2つの直交偏波(X,Y)で前記信号
ポートの光と前記LO
ポートの光とをオーバーラップし、各偏波について、同相と90度の逆位相の2つの直交位相(I,Q)でそれらをオーバーラップする、4つの別々の出力を生成するように構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記バンドパスフィルタは、GAWBS測定のダイナミックレンジを、GAWBSノイズが存在する範囲にシフトするように構成される、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記GAWBSノイズは、前記CWレーザからの出力光の中心周波数から約1GHz離れて広がる、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記レーザと前記コヒーレント
光受信器との間の前記FUTの光路内に配置された1つまたは複数のエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)をさらに備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記EDFAと前記コヒーレント
光受信器との間の前記FUTの前記光路内に配置された1つまたは複数のバンドパスフィルタをさらに備える、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記EDFAと前記コヒーレント
光受信器との間に配置された前記1つまたは複数のバンドパスフィルタは、自然放射増幅光(ASE)ノイズをフィルタ除去するように構成される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
GAWBSの両方の偏波成分を同時に測定するようにさらに構成される、請求項8に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、光通信システムに関する。より詳細には、長距離光通信で使用される場合に、光ファイバ内の音響波型ブリルアン散乱(GAWBS)によって生成されるノイズの正確な測定に関する。
【背景技術】
【0002】
知られているように、光ファイバを使用する光通信システムは、モデム通信のバックボーンとなっており、現代の数多くのサービスを実現する技術となっている。現代の光通信システムにとって特に重要なのは、海底(すなわち、海中(submarine))に配置された光ファイバ設備およびサポート部品である。
【0003】
当業者には理解され認識されるように、海底光システムおよび設備は、グローバルな大陸間通信トラフィックのバックボーンとして機能する。さらに理解されるように、海底光システムには、いくつかの特徴がある。すなわち、1)複数のコンテンツを互いに接続するため、非常に長い、2)依然として、設置、保守、交換、アップグレード、および/または修理に非常にコストがかかる。それらの重要性と注目される特性を考慮すると、既存の海底システムおよび設備の性能劣化は大きな懸念事項である。
【0004】
そのような海底システムおよび設備の劣化の原因の1つは、導波音響波型ブリルアン散乱(GAWBS)である。また、GAWBSは実験室環境では測定が困難であるが、数万キロメートルに及ぶ光ファイバ設備が配置された現場では、GAWBSが蓄積し、光信号の品質が著しく低下する。
【0005】
したがって、(特に長さの短い光ファイバでの実験室環境において)GAWBSの正確な測定を可能にするシステム、方法、および構造は、当技術分野への歓迎すべき追加要素であり、この光通信劣化の重要な原因をさらに理解することを可能にするであろう。
【発明の概要】
【0006】
当技術分野の進歩は、光ファイバ伝送システムおよび設備における導波音響波型ブリルアン散乱の正確な測定を提供するシステム、方法、および構造を対象とする本開示の態様によってなされる。
【0007】
従来技術とは大きく異なり、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、測定処理を有利に簡略化し、大きなキャリアを抑制することによって任意のダイナミックレンジの制限を回避するホモダイン受信器を採用する。重要なのは、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、二次レーザを利用することによって、キャリアと比較してノイズレベルの正確な推定を決定することである。この発明的な方法で、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、長さの短い光ファイバでさえも、GAWBSノイズの正確な測定を決定すると同時に、GAWBSノイズの両方の偏波成分の測定を提供する。
【0008】
したがって、本開示の態様によるシステム、方法、および構造を示し、説明するように、バンドパスフィルタを使用することによって大きなキャリアを有利に抑制し、測定のダイナミックレンジを劇的に改善する。さらに、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、ダイナミックレンジを犠牲にすることなく、キャリアと比較してノイズレベルの正確な較正を有利に可能にする二次レーザを採用する。最後に、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、そのような測定の最も重要な検査であるGAWBSの両方の偏波成分の同時測定を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示のより完全な理解は、添付の図面を参照することによって実現され得る。
【0010】
【
図1】従来技術によるRFスペクトルアナライザを使用する、簡略化された例示的なヘテロダイン測定方法の概略図を示す。
【0011】
【
図2】本開示の態様による例示的な測定装置の概略図を示す。
【0012】
【
図3】本開示の態様による、バンドパスフィルタ(BPF)の影響を示すバックツーバック測定の比較を示す電力スペクトル密度対周波数のプロットを示す。
【0013】
【
図4】本開示の態様による測定設定を示す電力スペクトル密度対周波数のプロットを示す。
【0014】
【
図5(A)】電力スペクトル密度対周波数のプロットであって、バックツーバック構成で測定されたレーザ位相ノイズのスペクトルと推定ノイズスペクトルを示す。
【
図5(B)】電力スペクトル密度対周波数のプロットであって、本開示の態様による、
図5(A)の20~100MHzの領域の拡大図を示す。
【0015】
【
図6(A)】電力スペクトル密度対周波数のプロットであって、バックツーバック構成で推定されたレーザ位相ノイズと比較した、被測定ファイバ(FUT)後のスペクトルを示す。
【
図6(B)】電力スペクトル密度対周波数のプロットであって、本開示の態様によるレーザ位相ノイズを除去した後のFUT後のスペクトルを示す。
【0016】
【
図7】
図6(B)と同じであるが、x軸が、本開示の態様による、GAWBSのレベルをキャリアのレベルに較正するために使用されるGAWBSウィンドウの端にあるLaser-calを示すように拡張された、電力スペクトル密度対周波数のプロットである。
【0017】
【
図8】電力スペクトル密度対のプロットであって、キャリアのスパン長に直交する偏波で測定されるGAWBSノイズがより長く、平坦であると予想される自然放射増幅光(ASE)からのノイズフロアが本開示の態様に従って推定され除去されることを示す。
【0018】
例示的な実施形態は、図面および詳細な説明によってより完全に説明される。しかしながら、本開示による実施形態は、様々な形態で実施することができ、図面および詳細な説明に記載された特定のまたは例示的な実施形態に限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者は、本明細書に明示的に記載または図示されていないが、本開示の原理を具現化し、その精神および範囲内に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されよう。
【0020】
さらに、本明細書に記載されているすべての実施例および条件付き用語は、本開示の原理および技術を促進するために発明者によって寄与された概念を読者が理解するのを助けるための教育目的のためだけのものであることを意図しており、そのような具体的に列挙された実施例および条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0021】
さらに、本開示の原理、態様、および実施形態を記載する本明細書のすべての記述、ならびにその具体例は、その構造的および機能的等価物の両方を包含することを意図している。さらに、そのような等価物は、現在知られている等価物と、将来開発される等価物、すなわち、構造に関係なく同じ機能を実行する開発された要素との両方を含むことが意図されている。
【0022】
したがって、たとえば、本明細書の任意のブロック図が、本開示の原理を実施する例示的な回路の概念図を表すことは、当業者には理解されるであろう。
【0023】
本明細書で特に明記しない限り、図面を構成する図は、縮尺通りに描かれていない。
【0024】
いくつかの追加の背景として、GAWBSの劣化に関して、GAWBSの測定は非常に少量であるため、比較的短い長さの光ファイバを使用する実験室環境で正確に測定することは困難であることをはじめに指摘する。当業者には理解および認識されるように、GAWBSは、一般に、光ファイバの円形の側面の間で音響波が前後に跳ね返ることによって引き起こされる。これらの音響波(それ自体はランダムな熱変動によって引き起こされる)は、ファイバの屈折率を変調する。その結果、ファイバに沿って導かれる光信号の位相および偏波は、屈折率の変調によって変調され、信号にノイズを効果的に発生する。
【0025】
当業者は、GAWBSによって発生したノイズが信号キャリアを中心とする離散的なサイドトーンとして現れ、1kmのファイバでは、サイドトーンは信号キャリアの約70dB(100万分の1)よりわずかに下にあることを認識するであろう。ただし、それらの電力は、光ファイバの距離に比例して増加し、例えば10000kmを越えると、他のシステムパラメータに応じて、受信信号の品質の尺度であるQ値を約0.3~1dB減少させることができる。
【0026】
ファイバの短いサンプルを用いて測定した場合には、GAWBSは非常に少量であるため、セットアップするのが簡単で、かつ、比較的短いファイバ長が必要な実験室構成に十分な精度を備えた測定技術を設計することが課題となる。幸いなことに、以下に示し、説明するように、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、従来技術の測定に関連するこの欠点を克服する。有利なことに、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、短い長さ(わずか数キロメートルという短さ、つまり、実験室環境で容易に達成可能な長さ)の光ファイバに対するGAWBSの測定を可能にする。長いファイバの必要性をなくすことに加えて、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、費用対効果が高く、高速で、比較的単純かつ正確な動作および構成でGAWBSノイズを測定することを可能にする。
【0027】
本開示の態様による本発明のシステム、方法、および構造の重要性を理解するために、例示的な海底光通信システムを検討することが有用である。理解され、認識されるように、海底ケーブルを介して送信されるデータは、光海底ケーブルのある地点(通常は終点)に位置するケーブルでケーブルに適用される。次いで、データは、光ケーブルの反対側の端点に同様に配置された海底/海中ケーブルを介して別のケーブル局に配信される。
【0028】
当業者は、典型的な海底ケーブルが2つの部分、すなわち、ケーブルスパンと、ケーブルの長さに沿った適切な地点に配置された複数の中継器(repeaters)を有することを理解し、認識するであろう。ケーブルスパンは、40kmから150kmまたはそれ以上であるが、通常は50~80kmの範囲である。
【0029】
ケーブルスパンは、いくつかの要素を含むことができるが、スパンの主な構成要素は光ファイバである。当技術分野で知られているように、光通信ファイバは、光を低減衰で導くことができる非常に細いガラス繊維である。光ファイバは非常に細く、通常、直径は約250ミクロンである。一般に、光ファイバは、純粋な石英ガラスでできており、円筒状の形状をしている。
【0030】
光は、クラッドによって囲まれたドープされた中心「コア」を通って導かれる。通常、コアの直径は約5~12マイクロメートルであり、クラッドの直径は約125マイクロメートルである。ガラスファイバは、それを保護するために、1つ以上のポリマーによってさらに被覆されており、その結果、全体の直径は約250マイクロメートルになる。
【0031】
一般に、特に海底光ファイバケーブルは、複数のファイバを含み、各ファイバは追加のデータ/トラフィックを伝送するように構成されている。このように構成すると、海底ケーブルなどの光ファイバケーブルのデータ伝送容量は、ケーブルを構成する個々の光ファイバの数に比例する。
【0032】
光ケーブルを構成する光ファイバは非常に細いため、原理的には、ファイバを増設することでケーブルの容量を大幅に増加させることができる。しかし、電力制限があるために、これは一般的には当てはまらない。最近の光ファイバは減衰が少ないが、それでも光電力はわずか1スパンで1%に低下する可能性がある。したがって、スパン後、光ファイバ(海底ケーブル)内で伝送される信号光は、すでに述べたように、海底ケーブルの長さに沿った様々な地点に位置する中継器内の増幅器によって増幅される。海底ケーブルの典型的な構成では、ケーブル内の各ファイバに専用の1台の増幅器が存在し得る。そのため、ケーブルシステムでサポートできるファイバの数に関する1つの制限は、中継器に物理的に配置できる増幅器の数と、中継器で利用可能な電力量である。
【0033】
GAWBSの測定には、2つのアプローチがある。第1のアプローチは、非常に長い伝送距離をエミュレートすることに依存しているため、GAWBSノイズを容易に測定可能なレベルまで累積する。このアプローチでは、スパン間に配置された中継器を有するいくつかの被測定ファイバスパンを含む再循環ループが構成される。再循環ループ内の光ファイバの総距離は、数百kmに及ぶこともある。
【0034】
はるかに長い距離の伝送経路をエミュレートするために、ループの一端で受信された信号は、ループの入力に戻され、所望の距離を通過した後に信号が回復するまで、同じループ内で信号を何度も再循環させる。
【0035】
当業者には理解および認識されるように、そのようなアプローチにはいくつかの欠点がある。第1に、それは過度に複雑である。このようなループを設定するには、増幅器の慎重な調整、スパン損失に対する増幅器の利得の適用、増幅器の利得形状の不完全性の蓄積の管理などが必要である。第2に、再循環ループアプローチは通常、複数のスパンを必要とし、単一のスパンのみを使用して長いループを確立すること、または、2つのスパンさえも使用して長いループを確立することは、ループが長距離のエミュレートに適さなくなる可能性がある。最後に、長距離送信では、GAWBSノイズを蓄積するだけでなく、ファイバからの他の障害も蓄積される。
【0036】
例えば、各スパン後に増幅器によって付加される自然放射増幅光(ASE)ノイズや、リンクに沿った信号の非線形相互作用によって発生する非線形ノイズなどである。ASEノイズも非線形ノイズも伝送距離に応じて直線的に増加するため、GAWBSで発生するノイズは距離が長くなるにつれて増加するが、他のノイズ源に対するその比率は、最初のスパンの後も同じままであることが、当業者には認識されるであろう。したがって、長距離エミュレータの後、ノイズ源を注意深く分析して分離し、GAWBSを分離する必要がある。
【0037】
GAWBSノイズを測定するための第2のアプローチは、単一のスパンまたは数スパンにわたって、より短い長さの光ファイバを使用する。このアプローチでは、短いスパンで非常に低い蓄積GAWBSを測定するために、高感度な装置を必要とする。このような測定の一例は、無線周波数(RF)を使用し、全体的な構成が
図1に概略的に示されている。
【0038】
この図を参照すると、動作中に、狭線幅レーザが最初に被測定ファイバ(FUT)に発射されることに留意されたい。出力は、第2の狭線幅レーザと結合され後、フォトダイオードに送られる。FUT後、例示的な構成は、信号を調整するための増幅器および/またはフィルタを含むことができる。
【0039】
重要な要件の1つは、2つのレーザ間のビート(beating)を検出するときに、両方のレーザの偏波をフォトダイオード(PD)で揃える必要があることである。通常、この調整には、ある種の偏波制御装置(PC)が使用される。
【0040】
明らかに、図に示すような構成では、単一スパンのファイバしか必要としないため、前述の手法と比較して測定がはるかに簡単になる。しかしながら、依然としていくつかの欠点がある。第1に、レーザ1の偏波状態をアクティブに制御する必要がある。これは、手動で行うと扱いにくくなり、また、何らかの装置を用いて自動的に行うと、より高価で複雑になる。第2に、GAWBSノイズは全ての偏波で発生するが、この図の構成では、局部発振器の偏波と一致する偏波でのみGAWBSノイズを測定する(
図1では、このデューティはレーザ2に割り当てられる)。したがって、両方の偏波でGAWBSを測定するためには、PCを慎重に調整して、2つの別個の測定で総GAWBSを測定する必要がある。第3に、狭線幅レーザであっても、GAWBSの測定に影響を及ぼすほど大きなレーザ位相ノイズが存在する。2つの別個のレーザを使用すると、そのようなノイズレベルが2倍になり、測定の感度が低下する。最後に、2つの別個のレーザを使用することは、それらの周波数がロックされないことを意味する。つまり、2つのレーザ間の周波数と位相のドリフトをデジタル的に推定して除去する必要があり、これにより、測定感度に影響を及ぼす可能性があるルートがもう一つ追加される。
【0041】
本開示の態様による本発明のシステム、方法、および構造では、連続波(CW)レーザの出力光は、2つの別個のビームに分割される。一方のビームは、局部発振器として機能し、もう一方のビームは、較正レーザ(Laser-cal)と呼ばれる第2のレーザと組み合わされ、FUT内に発射される。FUTの後、信号電力を増加させるために増幅器を使用することができ、ASEノイズを制限するために光バンドパスフィルタを使用することができる。
【0042】
図2は、本開示の態様による例示的な測定装置の概略図を示す。この図を参照すると、PCが信号パスに含まれていているが、必ずしも必要ではない。フィルタ信号が入力された後、コヒーレント受信器の信号ポートに送られる。当業者であれば、最近のコヒーレント受信器は光通信のユビキタスデバイスであり、コヒーレント受信器におけるハイブリッドが、局部発振器(LO)および信号を入力として受け取ることを知っている。これは、通常XとYとして示される2つの直交偏波で信号とLOをオーバーラップし、各偏波について、通常はIとQとして示される、同相と90度の逆位相として知られる2つの直交位相でそれらをオーバーラップする、4つの別々の経路を生成する。4つの直交位相におけるビートは、4つのバランス型フォトダイオードによって検出される。ビート信号は、RFバンドパスフィルタを通過し、フィルタリング後、4つのビート信号がADCによってサンプリングされる。なお、これら4つのビート信号には、LOに対する信号の位相、振幅、偏波の情報が全て含まれている。
【0043】
当業者には理解および認識されるように、本開示の態様によるシステム、方法、および構造は、コヒーレント受信器を使用するので、すべての偏波におけるすべての情報が常に維持される。したがって、本発明のシステム、方法、および構造は、両方の偏波で最も便利にGAWBSノイズを有利に測定することができ、信号処理を使用して信号偏波のドリフトを追跡および除去することができるので、レーザの偏波状態を管理する必要はない。偏波ドリフトは位相よりもはるかに遅く、
図1に示すヘテロダイン法に必要な位相追跡と比較してはるかに正確であることに留意されたい
【0044】
コヒーレント受信器の後に配置されたBPFは、本発明の測定構成の感度を向上させることに留意されたい。これにより、測定のダイナミックレンジをGAWBSノイズを示す範囲にシフトさせることができ、ASE-ASEビートからのノイズも除去できる。GAWBSノイズは、キャリアと呼ばれるCWレーザから1GHz程度離れたあところまで広がっていることに留意されたい。エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)の後に配置された光BPFはASEノイズを除去するが、実際には2GHz程度の狭いバンドパス帯域幅のASEフィルタを見つけることは困難である。通常、それらは50GHz程度の幅であることが多い。
【0045】
1つの代替的な構成では、ADCの帯域幅が十分に広い場合、帯域外のノイズをデジタル的にフィルタリングする。しかしながら、このような高帯域幅でノイズをサンプリングすると、不必要なノイズフロアが発生する。本発明の構成では、フォトダイオードの後、サンプリング前に、1GHzを超える信号をフィルタリングするRFフィルタを使用することによって、この問題を有利に解決する。このようにして、帯域外ASEがサンプリング後に1GHzに折り返されることを防止するとともに、ASE-ASEビートノイズからの過剰なノイズを高周波ノイズから除去することができる。
【0046】
理解できるように、BPFを使用する1つの利点は、実用的で安価な光BPFを使用できること、低サンプリングレートのADCを使用できると同時に、帯域外ASEノイズによる劣化を防ぐことである。一部の特殊なファイバでは、GAWBSノイズが1GHzを越えるか、1GHz未満になる可能性があることに留意されたい。BPFのより高い除去エッジは、FUTに従って必要に応じて増減できる。
【0047】
さらに、BPFを使用することには、DCに近い電力を除去するという別の利点があることに留意されたい。一例として、DCから15~20MHzまでのノイズを除去することを考える。GAWBSノイズは、ノイズの複数のピークとして現れる。クラッド径が約125マイクロメートルの一般的なファイバの最低周波数のピークは、20MHzより大きい。パラメータが大きく異なる光ファイバでは、より適切な閾値を選択することができる。
【0048】
DCを除去する理由の1つは、以下のように説明することができる。前述のように、キャリアレベルに対するGAWBSノイズピークの比は、通常60dBよりも大きい。これは、十分な精度を得るためには測定ノイズフロアをキャリアレベルより80dB近く下げる必要があることを意味するが、これを達成することは困難である。そのため、これは事実上、ダイナミックレンジの制限である。解決策として、キャリア電力を含むDC部分を除去することができる。
【0049】
図3は、FUTを除去し、キャリアとノイズフロアをバックツーバック構成で測定した例を示す。BPFがないと、ノイズフロアの高いDCから生じる大きなDC寄与が存在する。BPFでDCを抑制すると、ノイズフロアが低減されるが、DCキャリアが同じ測定内で測定できなくなる。
【0050】
それにもかかわらず、キャリアを取り除くと、別の問題が発生する。GAWBSノイズ電力は、キャリアとの相対的な関係でしか意味がない。キャリアを測定から除去した状態で、測定されたGAWBSノイズレベルをキャリアレベルにどのように関連付けることができるか。たとえ個別の測定でこれを較正できたとしても、測定にさらなる不確実性をもたらす可能性のある個別の測定間の不安定性またはドリフトを回避することができる自己較正方式を使用することがより好ましい。
【0051】
このさらなる改善を達成するために、較正レーザ(Laser-cal)を使用する。Laser-calは、FUTに入る前に元のレーザと組み合わされる別の狭帯域レーザである。Laser-calの出力レベルは、レーザより約30dB低くなるように調整される。一般に、その偏波はレーザと比較して完全に任意であり得るが、デジタル処理を簡略化するために、レーザに合わせて調整することができる。これは、2つのレーザを結合するためのPM構成要素を使用することによって簡単に実現できる。Laser-calの周波数は、GAWBSトーンが測定される帯域幅の外側であるが、BPFの通過帯域のちょうど内側になるように、レーザに対してシフトされる。
図4は、信号がスペクトル領域でどのように現れるかを示す。
【0052】
測定したい全てのGAWBSトーンを含むウィンドウとして、
図4に示すようなGAWBSウィンドウを定義する。伝送システムでは、重要なのは、信号が受ける総GAWBSノイズ電力である。
【0053】
通常、GAWBSトーンの最大値は約100~300MHzであり、それを超えると、トーンの電力は、キャリアから離れるにつれて減少する。最後のGAWBSトーンを、追加のトーンの寄与が無視できるトーンとして定義する。したがって、最初と最後のGAWBSトーンによってGAWBSウィンドウが決定される。
【0054】
Laser-calの周波数は、最後のGAWBSトーンを超えるように選択されるが、BPFの帯域通過ウィンドウ内に収まる。Laser-calの電力は、キャリアより30dB低いので、従来のような大きなダイナミックレンジを必要とせずに、Laser-calとGAWBSを同時に測定することができる。
【0055】
GAWBSトーンの電力レベルは、GAWBS電力をキャリア電力に関連付けるための較正点として使用することができるLaser-calと比較することができる。ヘテロダインアプローチと同様に、Laser-calはキャリアにロックされないことに留意されたい。つまり、周波数と位相は、測定時間ウィンドウ内にキャリアと比較してドリフトする。ただし、この場合、必要なのは、Laser-calの総電力であり、その瞬時周波数には関心がない。したがって、周波数ドリフトがGAWBSウィンドウと重なるほど大きくない限り、必要に応じて感度を向上させるために、測定ウィンドウをほぼ任意に長く保つことができる。これは、通信用の最も一般的に使用されるレーザの場合である。
【0056】
繰り返しになるが、本開示の態様によるこの構成では、測定はもはや測定装置のダイナミックレンジによって制限されず、一方、キャリアに対するGAWBS電力を直接較正することができる。GAWBSノイズの両方の偏波を同時に測定することができる。また、コヒーレント検出とRF BPFとによって達成される狭帯域フィルタリングによってASEノイズの影響を制限することができる。
【0057】
しかしながら、単に長距離伝送をエミュレートした第1のアプローチと比較して、本発明の解決策およびヘテロダインアプローチに関連するもう1つの態様があることに留意されたい。光通信に使用される一般的な狭帯域レーザは、線幅および位相ノイズが小さいが、残留レーザ位相ノイズがGAWBSウィンドウに広がり、特にキャリアに近い周波数のトーンを埋もれさせてしまうほど大きい。
図3では、レーザ位相ノイズが~300MHzに及ぶことが分かる。従来技術の第1のアプローチの場合、GAWBSは、残留レーザ位相ノイズを支配するのに十分な時間蓄積する。この小さな不便さにもかかわらず、従来技術の方法は、ASEや、本開示の態様によるシステム、方法、および構造が有利に克服する、距離とともに増大する非線形性などの他のノイズ源を考慮しなければならないことに、再び留意されたい。
【0058】
それにもかかわらず、本開示の態様によれば、残留レーザ線幅を正確に測定し、測定信号から除去することができるので、残留レーザ線幅を補正することはそれほど難しくないことに留意されたい。FUTを除去することで、バックツーバック状態でレーザノイズを測定することができる。レーザ位相ノイズは、FUT後も変化しないが、長い伝送距離の後に蓄積された非線形ノイズ、または長い伝送距離のエミュレータの場合、非線形ノイズは、ファイバ分散、損失、隣接信号(存在する場合)など、測定セットアップの多くのパラメータに依存する。
【0059】
図5は、バックツーバック構成、すなわち、FUTが除去された状態でのレーザスペクトルを示す。これはホモダイン測定であり、信号とLOが同じソースから生じるため、信号とLOアームとの間の遅延は、残留レーザノイズの正弦波フィルタリングとして現れる。このフィルタリングは、
図5(B)の拡大版ではっきりと確認できる。この測定結果から、
図5に示すように、レーザ位相ノイズのスペクトルを推定する。FUTを挿入した後、レーザ位相ノイズを減算することで、GAWBSノイズを分離することができる。
【0060】
FUTの後、信号はADCによって受信される。信号をサンプリングした後、電力スペクトル密度(PSD)を計算することができる。受信電力が機器のノイズフロアに匹敵する場合、ノイズフロアを測定してPSDから除去することもできる。また、測定セットアップには、周波数依存応答があり、その応答も測定して除去することができる。
【0061】
図6(A)は、長さ48kmのシングルモードファイバの後に得られたPSD後のPSDを示す。この実施例では、ADCノイズフロアが信号なしで測定され、信号PSDから減算されている。さらに、図に示されるこの例は、キャリアの偏波に合わせられた偏波を有する信号の場合である。GAWBSは、DCを中心に対称スペクトルを生成するので、正のスペクトルのみが示される。レーザ位相ノイズは、特に低周波数のPSDに大きく寄与することが明確に分かる。GAWBSノイズを正確に推定するためには、この寄与を正確に推定し、除去する必要がある。
【0062】
図6(B)は、レーザ位相ノイズが除去された後のPSDを示す。一例として、この図では、GAWBSウィンドウを選択するための基準は、最大GAWBSピークよりも20dB以上低い全てのGAWBSピークを含むようなものである。
【0063】
図7は、FUT後の測定結果を示しており、
図6(B)と同じであるが、
図7ではLaser-calも示されている。この実施例では、Laser-calの電力レベルがキャリアの電力レベルよりも29dB低くなっている。公称上、キャリアから900MHz離れており、GAWBS帯域幅のすぐ外側にあり、BPFの通過帯域の内側にある。
【0064】
Laser-calは、キャリアと同様の狭線幅レーザであるが、周波数/位相がキャリアにロックされていないので、広がっているように見えることに留意されたい。測定時間内では、Laser-calの位相と周波数がキャリアに対してドリフトする。しかし、その電力にのみ関心があるため、Laser-calの下で総電力を統合するだけである。したがって、キャリアまたはLaser-calのいずれかの周波数変動を除去するための信号処理を必要としない。なお、
図7では、キャリアに平行な偏波成分のみが示されていることに留意されたい。一般に、Laser-calは、キャリアと平行でなくてもよい。その場合、両方の偏波成分でLaser-calの全ての電力を追加する必要がある。
【0065】
一般に、レーザ位相ノイズはキャリアと平行に偏波される。したがって、残留位相ノイズがキャリアに直交する方向に偏波されたGAWBSノイズの測定を歪めることはないと予想される。ADCノイズフロアが除去された後の、キャリアに直交する偏波のPSDを
図8に示す。この図から分かるように、直交偏波は、レーザ位相ノイズの影響を受けない。しかしながら、直交偏波ノイズがある場合、またはキャリアの偏波が正確に取得されない場合でも、平行偏波の位相ノイズから直交偏波への漏れを同様に推定して除去することができる。この実施例では、GAWBSウィンドウは、最大GAWBSピークから25dB以内の全てのGAWBSピークを含むように選択される。
【0066】
再度
図2を精査することによって、本発明の測定がASEからの寄与も含む測定構成を示すことに留意されたい。ただし、スパン長があまり長くない場合(80km未満)、ASEの寄与は機器のノイズフロアを下回り、無視することができる。
【0067】
図に示される例示的な実施例は、長さ48kmのファイバからの測定であることに留意されたい。ただし、図に示される高い信号対雑音比から、本開示の態様によるシステム、方法、および構造を考慮するとき、GAWBSはわずか数キロメートルの短いファイバについて確実に測定できるという利点がある。このようなファイバの短いセクションについてGAWBSを測定することができるため、短い試作品のサンプルからGAWBSを推定することができ、新しいファイバとケーブルの開発コストを削減することができる。
【0068】
光通信システムの場合、重要なのは、GAWBSウィンドウでGAWBSによって生成される総電力である。GAWBSによってどれだけのシステム劣化が引き起こされるかを調べるために、両方の偏波でGAWBSウィンドウ内のすべてのノイズ電力を積分することが必要である。
【0069】
したがって、両方の偏波成分を測定することが重要であるが、実際にはそれらを分離することができる必要はない。また、キャリアに平行で直交する偏波成分を分離できることも重要ではない。ただし、キャリアに平行なGAWBSノイズとキャリアに直交するGAWBSノイズを分離することができることには1つの利点がある。
【0070】
前述のように、GAWBSノイズは、ファイバ内の音響モードによって生成される。GAWBSの生成を支配する音響モードには、2つのセットがある。R0mモードとして知られる一方のセットは、偏波がキャリアに平行なGAWBSノイズのみを生成する。この寄与は、偏波寄与(polarized contribution)として知られている。Tr2mとして知られるもう一方のセットは、キャリアに平行かつ直交するGAWBSノイズを生成する。この寄与は、非偏波寄与(unpolarized contribution)として知られている。
【0071】
しかしながら、Tr2mは、偏波寄与の2倍の直交偏波に寄与する。したがって、GAWBSノイズをキャリアに平行で直交する2つの寄与に分離することができれば、この関係を、本発明の測定における「健全性」チェックとして使用することができ、本発明はこれを単一のプロセスで行うことができる。
【0072】
本開示では、いくつかの具体例を用いて説明したが、当業者であれば、本教示がそのように限定されないことを認識するであろう。したがって、本開示は、本明細書に添付される特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。