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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】検査システムおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/00 20060101AFI20240614BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20240614BHJP
   G01N 25/72 20060101ALI20240614BHJP
   G01B 11/06 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B05C11/00
G01J5/48 A
G01J5/48 C
G01N25/72 Z
G01B11/06 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023029288
(22)【出願日】2023-02-28
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 建也
(72)【発明者】
【氏名】石田 義則
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 航大
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-172488(JP,A)
【文献】特開2016-083589(JP,A)
【文献】特開2022-122749(JP,A)
【文献】特表2022-532089(JP,A)
【文献】特開2019-093331(JP,A)
【文献】特開2017-114497(JP,A)
【文献】特開2014-092371(JP,A)
【文献】特開2001-153803(JP,A)
【文献】特開2021-143992(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0123093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 7/00-21/00
B05D 1/00-7/26
G01J 5/48
G01N 25/72
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布物が塗布された検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する熱画像撮影装置と、
前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像を記憶している記憶装置と、
記検査対象物の位置を特定する位置特定手段と
記位置特定手段によって特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記検査対象物と前記熱画像撮影装置との相対位置を調節する位置調節手段と
前記位置調節手段により位置調節された後に、前記熱画像撮影装置によって撮影された前記検査対象物の前記反対面の熱画像を前記基準画像と比較することによって前記検査対象物の塗布状態を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする検査システム。
【請求項2】
塗布物が塗布された検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する熱画像撮影装置と、
前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像を記憶している記憶装置と、
記検査対象物の位置を特定する位置特定手段と、
前記位置特定手段によって特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記熱画像撮影装置により撮影された前記熱画像における前記検査対象物の位置を調節する位置調節手段と、
前記位置調節手段により位置調節された熱画像を前記基準画像と比較することによって、前記検査対象物の塗布状態を判定する判定手段と、備えることを特徴とする検査システム。
【請求項3】
前記熱画像撮影装置を移動可能に支持する支持装置をさらに備え、
前記位置調節手段は、前記支持装置によって前記熱画像撮影装置を移動させる請求項1に記載の検査システム。
【請求項4】
前記検査対象物の可視光画像を撮影する可視光撮影装置をさらに備え、
前記位置特定手段は、前記可視光撮影装置が撮影した可視光画像に基づいて前記検査対象物の位置を特定する請求項1又は2に記載の検査システム。
【請求項5】
前記位置特定手段は、前記検査対象物に前記塗布物を塗布するとき特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記検査対象物の位置を特定する請求項1又は2に記載の検査システム。
【請求項6】
塗布物が塗布された検査対象物の位置を特定する位置特定工程
記位置特定工程において特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記検査対象物と熱画像撮影装置との相対位置を調節する位置調節工程
前記位置調節工程により位置調節された後に、前記熱画像撮影装置によって前記検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する撮影工程
前記撮影工程により撮影された前記検査対象物の前記反対面の熱画像を、前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像と比較することによって、前記検査対象物の塗布状態を判定する判定工程、を有する検査方法。
【請求項7】
塗布物が塗布された検査対象物の位置を特定する位置特定工程
画像撮影装置によって前記検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する撮影工程
前記位置特定工程によって特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記撮影工程により撮影された前記熱画像における前記検査対象物の位置を調節する位置調節工程
前記位置調節工程により位置調節された熱画像を前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像と比較することによって、前記検査対象物の塗布状態を判定する判定工程、を有する検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布物が塗布された検査対象物を検査する検査システムおよび検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体等の物品には、何らかの機能を付与する目的で種々の塗布物が塗布される場合がある。車体の例であれば、錆を防ぐために塗布される防錆ワックスや、防音性および防振性を付与するために塗布される発泡ウレタン材などが、塗布物として例示される。
【0003】
物品に塗布物が塗布される場合、その塗布状態の良否が製品の良否に直結する。そのため、塗布物の塗布状態を検査する方法が、種々検討されている。たとえば特開2014-92371号公報(特許文献1)には、塗布物が塗布される塗布領域を撮像する赤外線サーモグラフを備える塗布検査システムが開示されている。特許文献1の発明では、塗布領域の温度分布を即時に表示することによって、塗布作業者が直接かつ適時に検査結果を確認できるようにしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-92371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、赤外線サーモグラフと検査対象物との位置関係が固定的であるため、塗布物が塗布される位置によっては、当該位置の状態を理解しやすい熱画像が得られにくい場合があった。また、検査対象の物品の位置および形状が多岐にわたる場合、その全てについて検査に適した熱画像を得ることが難しく、適正な検査結果が得られにくい場合があった。
【0006】
そこで、検査対象物の位置および形状にかかわらず、適正な検査結果が得られやすい検査システムおよび検査方法の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第一の検査システムは、塗布物が塗布された検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する熱画像撮影装置と、前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像を記憶している記憶装置と、記検査対象物の位置を特定する位置特定手段と、前記位置特定手段によって特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記検査対象物と前記熱画像撮影装置との相対位置を調節する位置調節手段と前記位置調節手段により位置調節された後に、前記熱画像撮影装置によって撮影された前記検査対象物の前記反対面の熱画像を前記基準画像と比較することによって前記検査対象物の塗布状態を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする
本発明に係る第二の検査システムは、塗布物が塗布された検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する熱画像撮影装置と、前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像を記憶している記憶装置と、前記検査対象物の位置を特定する位置特定手段と、前記位置特定手段によって特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記熱画像撮影装置により撮影された前記熱画像における前記検査対象物の位置を調節する位置調節手段と、前記位置調節手段により位置調節された熱画像を前記基準画像と比較することによって、前記検査対象物の塗布状態を判定する判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る第一の検査方法は、塗塗布物が塗布された検査対象物の位置を特定する位置特定工程と、前記位置特定工程において特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記検査対象物と熱画像撮影装置との相対位置を調節する位置調節工程前記位置調節工程により位置調節された後に、前記熱画像撮影装置によって前記検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する撮影工程前記撮影工程により撮影された前記検査対象物の前記反対面の熱画像を、前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像と比較することによって、前記検査対象物の塗布状態を判定する判定工程、を有することを特徴とする。
本発明に係る第二の検査方法は、塗布物が塗布された検査対象物の位置を特定する位置特定工程と、熱画像撮影装置によって前記検査対象物における前記塗布物が塗布された面の反対面の熱画像を撮影する撮影工程と、前記位置特定工程によって特定された前記検査対象物の位置に基づいて、前記撮影工程により撮影された前記熱画像における前記検査対象物の位置を調節する位置調節工程と、前記位置調節工程により位置調節された熱画像を前記塗布物が正常に塗布された前記検査対象物の熱画像である基準画像と比較することによって、前記検査対象物の塗布状態を判定する判定工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、検査対象物と熱画像撮影装置との相対位置関係を調節するか、または、熱画像上における検査対象物の位置を調節するかした上で熱画像を撮影し、当該熱画像に基づいて塗布物の塗布状態を判定するので、検査対象物の位置および形状にかかわらず、適正な検査結果が得られやすい。
【0010】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る検査システムの概要を示す図である。
図2】実施形態に係る検査システムの構成要素を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る検査方法の手順を示すフロー図である。
図4】変形例に係る検査システムの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る検査システムおよび検査方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る検査システムを、防錆ワックス(塗布物の一例である。)が塗布された車体B(検査対象物の一例である。)を検査する検査システム1に適用した例について説明する。
【0013】
車体Bは、たとえばドアパネルやフードなどに袋状の部分(袋状部分)を有する。袋状部分に対して視覚的にアクセスすることが難しいことから、袋状部分に対する防錆ワックスの塗布状態を目視または可視光画像によって確認することは手間を要する。そのため従来は、袋状部分における防錆ワックスの塗布状態の確認が不十分な場合があった。本実施形態に係る検査システム1および検査方法は、袋状部分に対しても有効な検査方法を提供するものである。
【0014】
なお、以下では、前工程のブース(不図示)において防錆ワックスが塗布された車体Bが、検査システム1が設置されている検査ブースに搬入されて検査を受ける構成を例として説明する。また、防錆ワックスは、前工程において室温以上に加熱された後に車体Bに塗布される。これは、加熱によって防錆ワックスの粘度を低下させて塗布しやすくするためである。
【0015】
〔検査システムの構成〕
検査システム1は、熱画像撮影ユニット2と、三次元計測ユニット3と、支持装置4と、制御装置5(演算装置の一例である。)と、を備える(図1図2)。
【0016】
熱画像撮影ユニット2は、車体Bの熱画像を撮影可能な熱画像撮影装置21とコンピュータ22とを有する。熱画像撮影装置21およびコンピュータ22は、いずれもハードウェアとしては公知のものを使用できる。コンピュータ22は演算装置22aおよび記憶装置22bを有する。演算装置22aは、熱画像撮影ユニット2の制御に係る演算処理を実現する。記憶装置22bは当該制御に必要なデータを記憶しており、特に、防錆ワックスが正常に塗布された車体Bの熱画像を基準画像として記憶している。当該基準画像は、従来の方法による人為的な検査によって防錆ワックスが正常に塗布されていると判断された車体Bを、熱画像撮影ユニット2を用いて撮影したものである。
【0017】
三次元計測ユニット3は、車体Bを三次元的に計測可能な計測装置31とコンピュータ32とを有する。計測装置31およびコンピュータ32は、いずれもハードウェアとしては公知のものを使用できる。コンピュータ32は演算装置32aおよび記憶装置32bを有する。演算装置32aは、三次元計測ユニット3の制御に係る演算処理を実現する。記憶装置32bは当該制御に必要なデータを記憶しており、特に、車体Bの構造に基づくマスタデータを記憶している。
【0018】
支持装置4は、熱画像撮影装置21を支持する第一ロボット41と、計測装置31を支持する第二ロボット42と、を有する。第一ロボット41および第二ロボット42としては、公知の産業用ロボットを使用できる。なお、第一ロボット41および第二ロボット42のそれぞれは、各ロボットの動作を制御するコントローラ(不図示。制御装置の一例である。)を有する。
【0019】
制御装置5は、熱画像撮影ユニット2、三次元計測ユニット3、および支持装置4を統括的に制御する装置であり、たとえばPLC(プログラマブルロジックコントローラ)などとして実装される。具体的には、第一ロボット41および第二ロボット42の動作開始司令、熱画像撮影ユニット2による撮影のトリガ制御、三次元計測ユニット3による計測のトリガ制御、などを行う。したがって制御装置5は、熱画像撮影ユニット2、三次元計測ユニット3、および支持装置4と通信可能である。
【0020】
〔演算装置の機能および検査方法〕
次に、検査システム1の諸機能について説明する。なお以下は、検査システム1を用いて車体Bを検査する方法の手順に従って、検査システム1上で動作するプログラムの諸機能を説明するものである。すなわち以下の説明は、本発明に係る検査方法の実施形態の説明でもある(図3)。
【0021】
検査システム1は、車体Bの位置を特定する位置特定機能、車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置を調節する位置調節機能、車体Bの熱画像を撮影する撮影機能、および、車体Bにおける防錆ワックスの塗布状態を判定する判定機能、を実現可能である。
【0022】
(1)位置特定機能(位置特定工程#10)
位置特定機能は、車体Bの位置を特定する機能である。位置特定機能に係る演算処理は、三次元計測ユニット3の演算装置32aによって実現される。位置特定機能では、三次元計測ユニット3(計測装置31)が撮影した車体Bの可視光画像に基づいて、車体Bの位置を特定する。なお、撮影された可視光画像と比較するデータとして、車体Bの構造に基づくマスタデータを使用する。前述の通り、マスタデータは三次元計測ユニット3の記憶装置32bに記憶されている。
【0023】
まず、計測装置31を用いて車体Bを撮影する。このとき、第二ロボット42のコントローラは、車体Bの少なくとも位置の特定に必要な部分が可視光画像に含まれるように計測装置31が移動されるように第二ロボット42の各軸を制御する。このときの第二ロボット42の制御量は、可視光画像に関連付けられる。なお、車体Bの撮影に先立って、車体Bを大まかに位置合わせしておくことが好ましい。たとえば、車体Bが運搬装置によって検査ブースに搬入される場合、当該運搬装置の停止位置が毎回同じであれば、車体Bが毎回概ね同じ位置に搬入されることになる。この場合は、位置特定機能による車体Bの位置の特定が、車体Bの大まかな位置が一定であることを前提とした微調整という位置づけになり、車体Bの位置を精密に特定しやすい。
【0024】
次に、マスタデータに基づいて、車体B上に存在する特徴点を特定する。特徴点とは、車体Bに設けられた孔や車体Bの縁部など、車体Bにおいて特徴的であり可視光画像上において比較的特定しやすい部位を指す。特定される特徴点の数は任意であるが、複数であることが好ましい。
【0025】
最後に、撮影された可視光画像において特徴点の位置を特定するとともに、可視光画像に映っている車体Bの各部をマスタデータ上の車体Bの各部の座標と対応付ける。この対応付けを行うことで、車体Bの各部について、三次元計測ユニット3に対する相対位置を特定することができる。なお、車体Bが配置されるべき位置についてあらかじめ基準位置を定めておき、特定された位置の基準位置に対する乖離度として車体Bの位置を特定してもよい。
【0026】
(2)位置調節機能(位置調節機能工程#20)
位置調節機能は、位置特定機能によって特定された車体Bの位置に基づいて、車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置を調節する機能である。位置調節機能は、第一ロボット41のコントローラによって実現される。第一ロボット41のコントローラは、第一ロボット41の各軸を制御して、熱画像撮影装置21によって撮影される熱画像中における車体Bの位置が基準画像中における車体Bの位置と同じになるように熱画像撮影装置21を移動させる。換言すれば、基準画像を撮影したときの車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置が再現されるように、すなわち、撮影される熱画像において基準画像の画角が再現されるように、第一ロボット41が制御される。このときの第一ロボット41の制御量は、三次元計測ユニット3(演算装置32a)から制御装置5を介して第一ロボット41に送られる補正量に基づいて決定される。
【0027】
(3)撮影機能(撮影工程#30)
撮影機能は、位置調節機能によって車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置が調節された後に、熱画像撮影装置21を用いて車体Bの熱画像を撮影する機能である。撮影機能は、熱画像撮影ユニット2の演算装置23によって実現される。前述の通り、基準画像を撮影したときの車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置が、位置調節機能によって再現されているので、得られる熱画像中における車体Bの位置が、基準画像中における車体Bの位置と同じになる。そのため、基準画像と直接に比較できる熱画像を撮影することができる。
【0028】
前述の通り防錆ワックスは室温より高い温度に加熱されて塗布されているので、車体Bのうち防錆ワックスが塗布された箇所は温度が上昇する。そのため、車体Bのうち防錆ワックスが塗布された箇所は、熱画像において周囲より高い温度の部位として検出される。これを利用すれば、防錆ワックスが塗布されているべき場所の温度が想定される温度より低い場合は、防錆ワックスが塗布されていないか、または塗布が不十分であるとの推定が成り立つ。後述の判定機能では、以上の原理によって防錆ワックスの塗布状態を判定する。
【0029】
ここで、防錆ワックスの塗布による温度の上昇は、防錆ワックスが塗布された面のみにとどまらず、その反対側の面にも及ぶ。これは、防錆ワックスが有していた熱が塗布面からその反対側の面に伝わるためである。この現象に注目すれば、袋状部分を直接に検査対象とせずとも、当該袋状部分の反対側の面を検査対象とすれば、袋状部分に対する防錆ワックスの塗布状態を判定できる。すなわち、袋状部分が車体Bの裏側に位置する場合、当該袋状部分を直接撮影する替わりに、当該袋状部分の反対側にあたる車体Bの表側の面を撮影すればよい。
【0030】
以上を踏まえて、撮影機能では、検査対象の袋状部分の反対側の面にあたる車体Bの表側の面が熱画像に含まれるように、撮影が行われる。さらに言えば、位置調節機能において、袋状部分の反対側の面を含む熱画像を撮影できるように、車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置が調節される。また、基準画像を撮影する際も、同様の制御が行われる。
【0031】
(4)判定機能(判定工程#40)
判定機能は、基準画像と、撮影機能によって撮影された熱画像(以下、撮影画像と称する。)と、に基づいて、車体Bにおける防錆ワックスの塗布状態を判定する機能である。判定機能は、熱画像撮影ユニット2の演算装置22aによって実現される。前述の通り、防錆ワックスの塗布により車体Bの温度が上昇する現象を利用して、防錆ワックスが塗布されるべき箇所に対して塗布が正常に行われた否かを判定する。前述の通り、基準画像は熱画像撮影ユニット2の記憶装置22bに記憶されている。
【0032】
具体的には、基準画像と撮影画像とを比較する。比較の方法は限定されないが、たとえば、基準画像と撮影画像との各画素の温度を比較して、両者の間に差異がある画素の数を計数し、計数された数が所定のしきい値を超える場合に異常であると判定する方法や、基準画像および撮影画像のそれぞれについて高温部(防錆ワックスが塗布された部分)と低温部(防錆ワックスが塗布されていない部分)との温度差を算出し、当該温度差の比較に基づいて良否を判断する方法、などが例示される。また、各画像における最高温度、最低温度、平均温度等を比較してもよい。
【0033】
加えて、基準画像および撮影画像のそれぞれを取得したときの環境の違いを考慮した判定を行ってもよい。たとえば、防錆ワックスの塗布が完了してから検査が行われるまで(撮影画像が撮影されるまで)の所要時間、防錆ワックスが塗布される前の車体Bの温度、車体Bの比熱および板厚、防錆ワックスの温度、比熱、および塗布量、ならびに、塗装ブースおよび検査ブースの室温、壁面温度、床面温度、および天井面温度、などが考慮されうる。なお、これらの要素を考慮する場合は、当該要素に係る情報が演算装置22aに入力される必要がある。たとえば、検査ブースに温度計が設置されており、当該温度計の測定値が検査ブースの室温として演算装置22aに入力される、といった構成が採用されうる。
【0034】
なお、一点の熱画像に車体Bの検査対象部位を全て含めることができない場合は、車体B一点につき複数点の熱画像を撮影して検査を行ってもよい。この場合は、位置特定機能、位置調節機能、撮影機能、および判定機能を、全ての熱画像を撮影しうる回数で実現すれば良い。なお、各機能が実現される回数は同一である必要はない。たとえば、位置特定機能の実現は、通常、一回行えば十分である。
【0035】
判定の結果は、車体Bの品質を向上する観点で適宜利用されうる。たとえば、防錆ワックスの塗装が不十分である箇所が特定された場合は、当該箇所に対する再塗装を行えば、正常な品質の車体Bを製造できる。また、防錆ワックスの塗装が不十分である現象が複数回検出される場合は、工程中のいずれかの箇所に不具合がある可能性を考慮して設備の点検を行うなどの対策を取りうる。
【0036】
〔変形例〕
(支持装置の変形例)
上記の実施形態では、熱画像撮影装置21を支持する第一ロボット41と計測装置31を支持する第二ロボット42とが別体である構成を例として説明した。変形例として、熱画像撮影装置21と計測装置31とを単一のロボット43により支持する構成としてもよい(図4)。
【0037】
(位置調節機能の変形例)
上記の実施形態では、位置特定機能によって特定された車体Bの位置に基づいて、車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置を調節し(位置調節機能)、その後に車体Bの熱画像を撮影する(撮影機能)構成を例として説明した。変形例として、車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置を物理的に調節することに替えて、熱画像撮影装置21が撮影した熱画像をソフトウェア的に処理して、当該熱画像における車体Bの位置を調節してもよい。この場合は、位置調節機能が、位置特定機能および撮影機能より後に実現され、位置特定機能と撮影機能との先後は問わない。
【0038】
たとえば、位置特定機能によって特定された車体Bの位置が、基準画像における車体Bの位置に対してある方向に10mmずれている場合は、熱画像撮影装置21が撮影した熱画像における車体Bを当該方向に10mmずらす処理を行った上で、処理後の熱画像を判定機能に供する。
【0039】
また、車体Bと熱画像撮影装置21との相対位置の調節(物理的調節)と、熱画像上における車体Bの位置の調節(ソフトウェア的調節)と、の双方を行ってもよい。すなわち位置調節機能とは、位置特定機能によって特定された検査対象物の位置に基づいて、撮影機能による撮影の前における検査対象物と熱画像撮影装置との相対位置の調節、および、撮影機能によって撮影された熱画像における検査対象物の位置の調節、の少なくとも一つを行う機能である。
【0040】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る検査システムおよび検査方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0041】
上記の実施形態では、検査システム1が三次元計測ユニット3を備え、位置特定機能において計測装置31の三次元計測に基づいて車体Bの位置を特定する構成を例として説明した。しかし、本発明において検査対象物の位置を特定する手段は限定されない。本発明は、位置特定機能に用いられる構成要素として、たとえば可視光画像等を用いてもよい。また、上記の実施形態と同様に三次元計測を行う場合であっても、上記の実施形態のようにロボットを用いて計測装置を移動できるようにした構成は必須ではない。
【0042】
上記の実施形態では、前工程のブース(不図示)において防錆ワックスが塗布された車体Bが、検査システム1が設置されている検査ブースに搬入されて検査を受ける構成を例として説明した。しかし本発明は、塗布物の塗布と同じ場所で検査を行う場合にも適用可能である。この場合において、塗布を行う際に検査対象物(塗布の時点では塗布対象物である。)の位置が特定されていて、塗布後に検査対象物を移動させることなくそのまま検査に移る場合は、塗布工程において特定されている検査対象物の位置に基づいて検査対象物の位置を特定してもよい。
【0043】
上記の実施形態では、熱画像撮影装置21を支持する第一ロボット41によって熱画像撮影装置21を三次元的に移動させることができる構成を例として説明した。しかし本発明では、位置調整機能において検査対象物と熱画像撮影装置との相対位置を調節できる限り、具体的な装置構成は限定されない。たとえば、上記の実施形態における第一ロボット41に替えて、スライダーを設け、当該スライダー上を移動可能な態様で熱画像撮影装置を設置する構成としてもよい。また、熱画像撮影装置を移動させることに替えて、または加えて、検査対象物を移動させることによって検査対象物と熱画像撮影装置との相対位置を調節してもよい。
【0044】
上記の実施形態では、撮影機能において、防錆ワックスが塗布された袋状部分の反対側の面にあたる車体Bの表側の面を撮影する構成を例として説明した。しかし本発明において、塗布物が塗布された面を直接撮影してもよい。
【0045】
上記の実施形態では、防錆ワックスの塗布状態を検査する構成を例として説明した。しかし本発明は、上記の実施形態と同様に、発泡剤、接着剤、塗料、断熱材、封止材などの塗布物の塗布状態の検査にも適用できる。
【0046】
上記の実施形態では、位置特定機能、位置調節機能、撮影機能、および判定機能に係る各演算処理が、熱画像撮影ユニット2の演算装置22a、三次元計測ユニット3の演算装置32a、および第一ロボット41のコントローラによって分担されている構成を例として説明した。しかし本発明に係る検査システムにおいて、位置特定機能、位置調節機能、撮影機能、および判定機能を実現する演算装置は単数でも複数でもよい。
【0047】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1 :検査システム
21 :熱画像撮影装置
22a :演算装置
22b :記憶装置
32a :演算装置
5 :制御装置
【要約】
【課題】検査対象物の位置および形状にかかわらず、適正な検査結果が得られやすい検査システムおよび検査方法を実現する。
【解決手段】塗布物が塗布された検査対象物の熱画像を撮影可能な熱画像撮影装置21と、塗布物が正常に塗布された検査対象物の熱画像である基準画像を記憶している記憶装置22bと、演算装置22a、32aと、を備え、演算装置22a、32aが、検査対象物の位置を特定する位置特定機能、検査対象物の熱画像を撮影する撮影機能、検査対象物と熱画像撮影装置21との相対位置の調節、および、撮影された熱画像における検査対象物の位置の調節、の少なくとも一つを行う位置調節機能、および、基準画像と、撮影機能によって撮影された熱画像と、に基づいて、検査対象物における塗布物の塗布状態を判定する判定機能、を実現可能である。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4