(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】移動終了仮想止め部材へ接近する際のドライバーの感覚を改善するための、ステアリングラックの移動方向に応じた抵抗トルクの差異化
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240614BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2023151937
(22)【出願日】2023-09-20
(62)【分割の表示】P 2020556800の分割
【原出願日】2019-04-10
【審査請求日】2023-09-20
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムレール パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ティエリ アルノー
(72)【発明者】
【氏名】バルト ディミトリ
(72)【発明者】
【氏名】ボドワン ニコラ
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521651(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104570(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/190036(WO,A1)
【文献】特開2006-001474(JP,A)
【文献】特開2018-047725(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104568(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0240201(US,A1)
【文献】特開2015-157614(JP,A)
【文献】特開2005-082119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的移動長(L0)に沿って移動するアクチュエータ部材(4)を備える車両のパワーステアリングシステム(1)のアシストモータ(M)を管理するための方法であって、
前記方法は、
前記アクチュエータ部材(4)の前記機能的移動長(L0)にわたって、移動終了仮想閾値(S
G,S
D)によって通常アシスト領域(ZAN)から分け隔てられた少なくとも1つの低減アシスト領域(ZAR
D,ZAR
G)を規定する工程と、
前記アクチュエータ部材(4)の前記機能的移動長(L0)上での瞬間的な位置および移動方向(D)を判定する工程と、
前記通常アシスト領域(ZAN)から前記低減アシスト領域(ZAR
D,ZAR
G)内へ移動するように前記アクチュエータ部材(4)が前記移動終了仮想閾値(S
G,S
D)を横切る場合に、入力抵抗設定値(C
resistant)を前記アシストモータ(M)に適用する工程と、を含み、
前記入力抵抗設定値(C
resistant)を適用する工程の後、前記アクチュエータ部材(4)が前記低減アシスト領域(ZAR
D、ZAR
G)内にあり、かつ前記アクチュエータ部材(4)の前記移動方向(D)が前記低減アシスト領域(ZAR
D,ZAR
G)から前記通常アシスト領域(ZAN)へ向かう方向である場合に、出力抵抗設定値(C
resistant)が適用され、
前記出力抵抗設定値(C
resistant
)は、
退出剛性係数(k
2
)および前記アクチュエータ部材(4)の移動量(X
rack
)に比例する退出弾性成分(C
E
)と、
退出粘性係数(b
2
)および前記アクチュエータ部材(4)の移動速度(
【数1】
)
に比例する退出粘性成分(C
V
)と、を含み、
前記入力抵抗設定値(C
resistant
)は、
進入剛性係数(k
1
)および前記アクチュエータ部材(4)の移動量(X
rack
)に比例する進入弾性成分(C
E
)と、
進入粘性係数(b
1
)および前記アクチュエータ部材(4)の移動速度(
【数2】
)に比例する進入粘性成分(C
V
)と、を含み、
前記進入粘性係数(b
1
)は、前記退出粘性係数(b
2
)よりも高い値を有することを特徴とする
管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の管理方法において、
前記出力抵抗設定値(C
resistant)は、
退出剛性係数(k
2)および前記アクチュエータ部材(4)の移動量(X
rack)に比例する退出弾性成分(C
E)と、
退出粘性係数(b
2)および前記アクチュエータ部材(4)の移動速度(
【数3】
)に比例する退出粘性成分(C
V)と、
退出慣性係数(m
2)および前記アクチュエータ部材(4)の移動加速度(
【数4】
)に比例する退出慣性成分(C
I)と、を含む管理方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の管理方法において、
前記退出剛性係数(k
2)および/または前記退出粘性係数(b
2)および/または前記退出慣性係数(m
2)は、前記アシストモータ(M)が設置された前記車両の変位速度、ドライバーによってステアリング部材(2)に加えられたトルク(E
D)、前記アクチュエータ部材(4)の瞬間的な位置、前記アクチュエータ部材(4)の移動量(X
rack)、前記アクチュエータ部材(4)の移動速度(
【数5】
)、および、前記アクチュエータ部材(4)の移動加速度(
【数6】
)のうちの少なくとも1つのパラメータに依存する管理方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の管理方法において、
前記入力抵抗設定値(C
resistant)は、
進入剛性係数(k
1)および前記アクチュエータ部材(4)の移動量(X
rack)に比例する進入弾性成分(C
E)と、
進入粘性係数(b
1)および前記アクチュエータ部材(4)の移動速度(
【数7】
)に比例する進入粘性成分(C
V)と、
進入慣性係数(m
1)および前記アクチュエータ部材(4)の移動加速度(
【数8】
)に比例する進入慣性成分(C
I)と、を含む管理方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の管理方法において、
前記進入剛性係数(k
1)および/または前記進入粘性係数(b
1)および/または前記進入慣性係数(m
1)は、前記アシストモータが設置された車両の変位速度、ドライバーによってステアリング部材に加えられたトルク、前記アクチュエータ部材の瞬間的な位置、前記アクチュエータ部材の移動量、前記アクチュエータ部材の移動速度、および、前記アクチュエータ部材の移動加速度のうちの少なくとも1つのパラメータに依存する管理方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の管理方法において、
前記少なくとも1つの移動終了仮想閾値は、前記アシストモータ(M)が設置された車両の変位速度、ドライバーによってステアリング部材(2)に加えられたトルク(E
D)、前記アクチュエータ部材の瞬間的な位置、前記アクチュエータ部材(4)の移動量(X
rack)、前記アクチュエータ部材(4)の移動速度(
【数9】
)、および、前記アクチュエータ部材(4)の移動加速度(
【数10】
)のうちの少なくとも1つのパラメータに依存する管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワーステアリングシステムの分野、より詳細には、車両のパワーステアリングシステムにおけるアシストモータの管理方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングシステムは、一般にステアリングホイールに対応するステアリング部材に力を加えることによって、ドライバーに車両の軌道を制御させることができる機能を有する。
【0003】
従来、ステアリングシステムは、ステアリングコラムに連結された上記ステアリング部材、ラックなどのアクチュエータ部材、およびタイロッドに連結された、車輪などの少なくとも1つの被操舵(steered)部材を含む複数の要素を備える。アクチュエータ部材は
、ステアリングコラム、タイロッドを介してステアリング部材を被操舵部材に連結することができる部品である。言い換えると、ラックは、ドライバーによってステアリング部材に加えられた力を、被操舵部材の操舵(steering)に変換する。
【0004】
車両のパワーステアリングシステムは、ステアリング計算器によって出力されたアシスト設定値(assist setpoint)によって操縦されるアシストモータを含む。アシストモー
タは、車両における少なくとも1つの被操舵部材を操舵するために、ドライバーによってステアリング部材に供給される力を低減する。ステアリング部材に加えられる力(すなわち、操舵力)に依存して、アシストモータは、被操舵部材を操舵するように、アシスト力(すなわち、モータ力)をラックに加える。
【0005】
アクチュエータ部材は、右側最大位置と左側最大位置との間に規定された最大変位量に対応する機能的移動長にわたって平行移動可能である。機能的移動長は、機械的止め部材(stop)によって物理的に制限され得るか、または本願出願人による特許文献1に記載されるように移動終了仮想設定値によって仮想的に制限され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
移動終了仮想閾値は、減速閾値を決定する。減速閾値は、機能的移動長に対して設定され、それを超えると、アクチュエータ部材を横切る方向の進行に対して抵抗するように意図された抵抗設定値となるようにアシスト設定値が変更される。したがって、通常のアシスト領域と、抵抗設定値がアシストモータに適用される、少なくとも1つの低減アシスト領域と、が機能的移動長にわたって決定される。
【0008】
ばね作用をシミュレートする弾性成分、および/またはダンパ作用をシミュレートする粘性成分、および/または可動質量作用をシミュレートする慣性成分を含む式によって得られる抵抗設定値を適用することが知られている。弾性成分、粘性成分および慣性成分は、それぞれ剛性係数、粘性係数および慣性係数に比例する。
【0009】
移動終了仮想閾値は、アシストモータを使用することで、機能的移動長に対して規定さ
れた停止閾値をアクチュエータ部材が超えることを防止するように、移動終了仮想閾値を横切る方向へのアクチュエータ部材の進行を減速および停止させることができる。
【0010】
そのような移動終了仮想閾値によって与えられる利点、特にアクチュエータ部材と機械的止め部材との間の機械的接触を回避することは、アクチュエータ部材が低減アシスト領域に進入する場合、および、当該領域から離れる場合に、製造者にとって、ステアリング部材レベルでのドライバーの感覚を改善しようとする動機となる。
【0011】
本発明の目的は、低減アシスト領域における入力抵抗設定値と、低減アシスト領域における出力抵抗設定値と、の間で抵抗設定値を異ならせることによって、低減アシスト領域におけるドライバーの感覚を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、機能的移動長に沿って移動するアクチュエータ部材を備える車両のパワーステアリングシステムのアシストモータを管理するための方法に係る。この方法は、
アクチュエータ部材の機能的移動長にわたって、移動終了仮想閾値によって通常アシスト領域から分け隔てられた少なくとも1つの低減アシスト領域を規定する工程と、
アクチュエータ部材の機能的移動長上での瞬間的な位置および移動方向を判定する工程と、
通常アシスト領域から低減アシスト領域内へ移動するようにアクチュエータ部材が移動終了仮想閾値を横切る場合に、入力抵抗設定値をアシストモータに適用する工程と、を含み、
入力抵抗設定値を適用する工程の後、アクチュエータ部材が低減アシスト領域内にあり、かつアクチュエータ部材の移動方向が低減アシスト領域から通常アシスト領域へ向かう方向である場合に、出力抵抗設定値が適用されることを特徴とするものである。
【0013】
パワーステアリングシステムは、ステアリングコラムに連結されたステアリング部材と、アクチュエータ部材と、タイロッドに連結された少なくとも1つの被操舵部材と備える。アクチュエータ部材は、ステアリングコラム、タイロッドを介してステアリング部材を被操舵部材に連結することを可能にする部品である。
【0014】
車両のパワーステアリングシステムは、車両の被操舵部材を操舵するためにドライバーによってステアリング部材に供給されるべき力を低減するための、アシストモータを含む。被操舵部材に加えられた力(すなわち、操舵力)に応じて、アシストモータは、被操舵部材を操舵するように、アシスト力をアクチュエータ部材に加える。
【0015】
パワーステアリングシステムにおいて、アクチュエータ部材は、機能的移動長に沿って平行移動する。従来、アクチュエータ部材は、ラックであり、機能的移動長は、ステアリングケーシングである。
【0016】
移動終了仮想閾値によって通常アシスト領域から分け隔てられた少なくとも1つの低減アシスト領域を規定する工程によって、アシストモータによって供給されるべきアシスト力の設定値が異なる、機能的移動長を少なくとも1つの第1の範囲および1つの第2の範囲に区切ることが可能になる。
【0017】
通常アシスト領域にわたり、アシスト力の設定値は、特に車両のデータおよびパワーステアリングシステムのデータに依存したアシスト則によって、当業者に公知の方法で、決定される。
【0018】
低減アシスト領域にわたり、アシスト力の設定値は、移動終了仮想閾値を横切る方向へ
のアクチュエータ部材の進行を減速および停止させるように決定される。
【0019】
好ましくは、通常アシスト領域は、機能的移動長の中央部に実質的に配置される。
【0020】
好ましくは、低減アシスト領域は、機能的移動長の一端部に実質的に配置される。
【0021】
一実施形態によると、機能的移動長は、機能的移動長の中心位置の両側にて対称となるように配置された2つの低減アシスト領域を含み、その中心位置は、被操舵部材が車両の伸長軸に沿って並ぶような位置に対応する。
【0022】
アクチュエータ部材の機能的移動長上の瞬間的な位置および移動方向を判定する工程は、アクチュエータ部材の平行移動の特性を決定する。
【0023】
より詳細には、瞬間的な位置は、例えばステアリング部材の絶対角度位置、ステアリングコラムの絶対角度位置、またはアシストモータのシャフトの絶対角度位置の任意の測定または判定による、アクチュエータ部材の機能的移動長に対する位置を表す任意のパラメータによって適当に規定され得る。
【0024】
さらに、機能的移動長の伸長軸に沿ったアクチュエータ部材の移動が行われている場合、移動方向は、機能的移動長の伸長軸に沿って、第1の方向または反対の方向を向く。
【0025】
低減アシスト領域にアクチュエータ部材が配置されている場合における、通常アシスト領域から低減アシスト領域へ向かう方向へのアクチュエータ部材の移動は、以下、進入移動と呼称されることになる。
【0026】
低減アシスト領域に配置されている場合における、低減アシスト領域から通常アシスト領域へ向かう方向へのアクチュエータ部材の移動は、以下、退出移動と呼称されることになる。
【0027】
入力抵抗設定値を適用する工程は、アクチュエータ部材が進入移動を行う場合に、アシストモータに入力抵抗設定値を適用することからなる。
【0028】
入力抵抗設定値は、アシストモータによって供給される力がアクチュエータ部材の移動に抵抗するように決定される。アシストモータは、アシスト力をアクチュエータ部材に直接的に加えるか、または間接的に加える。すなわち、モータ力は、例えばウォーム歯車およびウォームねじレジューサを介して、ステアリングコラムに加えられる。特に、入力抵抗設定値によって、アクチュエータ部材の移動を減速させることが可能になる。入力抵抗設定値の値は、低減アシスト領域内において移動終了仮想閾値から所定の距離だけ離間した停止閾値に、アクチュエータ部材がいかなる時点においても到達することがないように、決定される。
【0029】
停止閾値は、例えば機能的移動長の一端に位置する、仮想閾値であってもよいし、または実際の機械的止め部材であってもよい。このように、入力抵抗設定値は、アクチュエータ部材と機械的止め部材との間の機械的接触を維持する。
【0030】
好ましくは、入力抵抗設定値は、アクチュエータ部材の機械的止め部材との接触の、予測され得る挙動の正確で直感的な感覚をドライバーに与えるように決定される。
【0031】
簡単に言えば、ドライバーの操舵中に、最初に通常アシスト領域に配置されたアクチュエータ部材は、移動終了仮想閾値を横切り、次いで、停止閾値の方向への移動を完全に停
止するまで、減速して停止閾値に接近する。すなわち、アクチュエータ部材は、低減アシスト領域の方向に移動する場合、移動終了仮想閾値を横切り、次いで、停止閾値に決して接触しないようにその移動を停止する。
【0032】
出力抵抗設定値を適用する工程は、アクチュエータ部材が退出移動を行う場合に、アシストモータに出力抵抗設定値を適用することからなる。
【0033】
進入移動を行った後、アクチュエータ部材は、それまでの方向の反対方向に移動を再開する。すなわち、アクチュエータ部材は、退出移動を行う。
【0034】
出力抵抗設定値は、入力抵抗設定値とは異なる値を有する。出力抵抗設定値は、アシストモータによって供給される力が、機械的止め部材に接触した後に、アクチュエータ部材の予測され得る挙動の正確で直感的な感覚をドライバーに与えるように決定される。
【0035】
好ましくは、入力抵抗設定値および出力抵抗設定値は、圧縮/伸長可変ダンピングを有する機械的ダンパとの接触中に、アクチュエータ部材の予測され得る挙動の正確で直感的な感覚をドライバーが有するようにパラメータ化される。
【0036】
本発明の実装は、アシストモータを操縦する計算機のプログラミングを介して行われる。したがって、本発明を、例えばアドオンとして、既に流通している車両における、大半のパワーステアリングデバイスに適用することができる。
【0037】
本発明の一特徴部によると、出力抵抗設定値は、
退出剛性係数およびアクチュエータ部材の移動量に比例する退出弾性成分と、
退出粘性係数およびアクチュエータ部材の移動速度に比例する退出粘性成分と、
を含む。
【0038】
退出弾性成分によって、ばね作用をシミュレートすることが可能になる。退出弾性成分は、ばねの剛性に対応する所定の退出剛性係数と、低減アシスト領域におけるアクチュエータ部材の移動量と、に比例する。アクチュエータ部材の移動は、機能的移動長によって表される軸に沿った平行移動である。
【0039】
退出弾性成分によって、進入移動と退出移動との間のドライバーの感覚の連続性を確保することが可能になる。しかし、アクチュエータ部材に対してエネルギーを補償するので、強いはね返り作用を起こし得る。
【0040】
退出粘性成分によって、ダンパ作用をシミュレートすることが可能になる。退出粘性成分は、所定の退出粘性係数と、低減アシスト領域におけるアクチュエータ部材の移動速度と、に比例する。アクチュエータ部材の移動速度は、瞬間的な位置または同様に移動量の時間についての一階微分に対応する線形速度である。例えば、アクチュエータ部材の移動速度は、ステアリング部材の角速度またはアシストモータのシャフトの角速度の測定から判定され得る。
【0041】
退出粘性成分によって、退出弾性成分によるアクチュエータ部材のエネルギー補償を低減することが可能になる。すなわち、粘性成分によって、退出弾性成分によって引き起こされたはね返り作用が制限される。
【0042】
このように、出力抵抗設定値は、当業者に公知の、ばね-ダンパ型当接の後のアクチュエータ部材への作用をシミュレートする1次式によって得られる。この1次式は、粘性線形ダンパに平行に取り付けられたばねを備える停止仮想機構に接触した後のアクチュエー
タ部材の反作用に対応する。
【0043】
本発明の一特徴部によると、出力抵抗設定値は、
退出剛性係数およびアクチュエータ部材の移動の大きさに比例する退出弾性成分と、
退出粘性係数およびアクチュエータ部材の移動速度に比例する退出粘性成分と、
退出慣性係数およびアクチュエータ部材の移動加速度に比例する退出慣性成分と、
を含む。
【0044】
退出慣性成分によって、可動質量作用をシミュレートすることが可能になる。退出慣性成分は、所定の退出慣性係数と、低減アシスト領域におけるアクチュエータ部材の移動加速度と、に比例する。アクチュエータ部材の移動加速度は、瞬間的な位置または同様に移動の大きさの時間についての2階微分に対応する線形加速度である。例えば、アクチュエータ部材の移動加速度は、アクチュエータ部材の速度微分、または位置の連続する微分の計算から、または他に、ステアリング部材またはアシストモータのシャフトの角度加速度から判定され得る。
【0045】
退出慣性成分によって、機械的止め部材に接触後のアクチュエータ部材の慣性をシミュレートすることが可能になる。
【0046】
このように、出力抵抗設定値は、当業者に公知の、質量-ばね-ダンパ型当接の後のアクチュエータ部材への作用をシミュレートする2次式によって得られる。この2次式によって、機械的止め部材に接触した後のアクチュエータ部材への作用のより正確な知覚を得ることが可能になり、ドライバーにとってより自然でより直感的な、よりよい運転感覚が確保される。
【0047】
本発明の一特徴部によると、退出剛性係数および/または退出粘性係数および/または退出慣性係数は、アシストモータが設置された車両の変位速度、ドライバーによってステアリング部材に加えられたトルク、アクチュエータ部材の瞬間的な位置、アクチュエータ部材の移動量、アクチュエータ部材の移動速度、および、アクチュエータ部材の移動加速度のうちの少なくとも1つのパラメータに依存する。
【0048】
したがって、退出剛性係数および/または退出粘性係数および/または退出慣性係数は、車両の耐用寿命状況に応じて調整され得る。退出剛性係数および/または退出粘性係数および/または退出慣性係数は、異なるパラメータの関数として所定のチャートまたは曲線から決定される。
【0049】
本発明の一特徴部によると、入力抵抗設定値は、
進入剛性係数およびアクチュエータ部材の移動量に比例する進入弾性成分と、
進入粘性係数およびアクチュエータ部材の移動速度に比例する進入粘性成分と、
を含む。
【0050】
進入弾性成分によって、ばね作用をシミュレートすることが可能になる。進入弾性成分は、ばねの剛性に対応する所定の進入剛性係数と、低減アシスト領域におけるアクチュエータ部材の移動量と、に比例する。
【0051】
進入弾性成分によって、アクチュエータ部材の押し込みに対して増大する抵抗に対向する弾性バイアス負荷が生成される。その抵抗は、考慮される移動終了仮想閾値を超えるアクチュエータ部材の移動に比例する。
【0052】
進入粘性成分によって、ダンパ作用をシミュレートすることが可能になる。進入粘性成
分は、所定の進入粘性係数と、低減アシスト領域におけるアクチュエータ部材の移動速度と、に比例する。
【0053】
進入粘性成分によって、ドライバーが異常と感じるような操舵力の急激な増大を起こし得る過度に高い速度で停止閾値に到達することがないように、アクチュエータ部材の変位速度を適度に減速させることが可能になる。
【0054】
このように、入力抵抗設定値は、当業者に公知の、ばね-ダンパ-止め部材をシミュレートする1次式によって得られる。
【0055】
本発明の一特徴部によると、入力抵抗設定値は、
進入剛性係数およびアクチュエータ部材の移動の大きさに比例する進入弾性成分と、
進入粘性係数およびアクチュエータ部材の移動速度に比例する進入粘性成分と、
進入慣性係数およびアクチュエータ部材の移動加速度に比例する進入慣性成分と、
を含む。
【0056】
進入慣性成分によって、可動質量作用をシミュレートすることが可能になる。進入慣性成分は、所定の進入慣性係数と、および低減アシスト領域におけるアクチュエータ部材の移動加速度と、に比例する。
【0057】
進入慣性成分によって、機械的止め部材に接触するアクチュエータ部材の慣性をシミュレートすることが可能にある。
【0058】
このように、入力抵抗設定値は、当業者に公知の、質量-ばね-ダンパ止め部材をシミュレートする2次式によって得られる。この2次式によって、機械的止め部材に対する当接のより正確な知覚を得ることが可能になり、ドライバーにとってより自然でより直感的な、よりよい運転感覚が確保される。
【0059】
本発明の一特徴部によると、進入剛性係数および/または進入粘性係数および/または進入慣性係数は、アシストモータが設置された車両の変位速度、ドライバーによってステアリング部材に加えられたトルク、アクチュエータ部材の瞬間的な位置、アクチュエータ部材の移動量、アクチュエータ部材の移動速度、および、アクチュエータ部材の移動加速度のうちの少なくとも1つのパラメータに依存する。
【0060】
したがって、進入剛性係数および/または進入粘性係数および/または進入慣性係数は、耐用寿命状況に応じて調整され得る。進入剛性係数および/または進入粘性係数および/または進入慣性係数は、異なるパラメータの関数として所定のチャートまたは曲線から決定される。
【0061】
本発明の一特徴部によると、少なくとも1つの移動終了仮想閾値は、アシストモータが設置された車両の変位速度、ドライバーによってステアリング部材に加えられたトルク、アクチュエータ部材の瞬間的な位置、アクチュエータ部材の移動量、アクチュエータ部材の移動速度、および、アクチュエータ部材の移動加速度のうちの少なくとも1つのパラメータに依存する。
【0062】
したがって、車両の耐用寿命状況に応じて、移動終了仮想閾値を実装する方針、すなわち位置、および特に当該移動終了仮想閾値の作動条件を調整することができる。
【0063】
本発明の一特徴部によると、進入粘性係数は、退出粘性係数よりも高い値を有する。
【0064】
このように、進入粘性係数は、高い値を有するので、アクチュエータ部材の速度を低減することが可能になる。
【0065】
本発明の一特徴部によると、進入粘性係数は、進入剛性係数よりも早くに適用される。
【0066】
退出粘性係数は、退出移動に対して過度に抵抗しないように、低い値を有し、より詳細には、進入粘性係数の値よりも低い。
【0067】
本発明の一特徴部によると、退出粘性係数は、退出剛性係数が適用される時点で、適用される。
【0068】
本発明の一特徴部によると、退出粘性係数は、ゼロでない。
【0069】
本発明は、本発明に係る実施形態に関する以下の記載によって、より良く理解される。本発明に係る実施形態は、非限定の例として提供され、添付の模式図を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】
図1は、本発明に係る抵抗トルクの計算の実装について例示するブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る機能的移動長上での移動終了仮想閾値および停止閾値の位置決めを例示する模式図である。
【
図3】
図3は、車両のパワーステアリングシステムを例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
図3に例示するように、本発明に係るパワーステアリングシステム1は、ステアリングコラム3に連結されたステアリング部材2(すなわち、ステアリングホイール2)と、アクチュエータ部材4(すなわち、ラック4)と、それぞれタイロッド6に連結された2つの被操舵部材5(すなわち、2つの車輪5)と、を備える。ラック4は、ステアリングコラム3、タイロッド6を介して、ステアリングホイール2を車輪5に連結することを可能にする部品である。
【0072】
車両のパワーステアリングシステム1は、アシストモータMを含む。アシストモータMは、車両の車輪5を操舵するためにドライバーによってステアリングホイール2に供給されるべき力(すなわち、操舵力ED)を低減するために、ラックに適用されるべきアシスト力EAを決定する設定値Csetpointを受け取る。供給された操舵力EDに応じて、アシストモータMは、車輪5を操舵するように、アシスト力EAをラック4に加える。
【0073】
本発明の目的は、
図2に例示するように、機能的移動長L0(すなわち、ステアリングケーシングL0)に沿って平行移動するラック4を備えるパワーステアリングシステム1のアシストモータMを管理するための方法である。
【0074】
上記方法は、アクチュエータ部材4の機能的移動長L0にわたって、移動終了仮想閾値SG,SDによって通常アシスト領域ZANから分け隔てられた少なくとも1つの低減アシスト領域ZARD,ZARGを規定する工程を包含する。
【0075】
したがって、機能的移動長L0は、右側端部PDおよび左側端部PGを備えているとともに、通常アシスト領域ZANと、2つの低減アシスト領域ZARD,ZARGと、に仮想的に区分される。
【0076】
右側端部PDまたは左側端部PGは、単なる機械的な構造物による機能上は、それ以上右または左にラック4を操舵できないラック4の位置に対応する。
【0077】
機能的移動長L0の中央部に実質的に配置される通常アシスト領域ZANにわたって、アシストモータMの設定値Csetpointは、特に車両のデータおよびパワーステアリングシステム1のデータに依存するアシスト則によって決定されるアシストトルクCassistに等しい。
【0078】
機能的移動長L0の各端部PD、PGに配置され、かつ機能的移動長L0の中心位置P0の両側で対称となる低減アシスト領域ZARD,ZARGにわたって、アシストモータMの設定値Csetpointは、移動終了仮想閾値SG,SDを横切る方向においてラック4の進行を減速および停止させるために決定された抵抗トルクCresistantを減じたアシストトルクCassistに等しい。
【0079】
中心位置P0は、車輪5のステアリング角度がゼロ(すなわち、車輪が直線となるか、または車両の前後長軸方向に配列する)であるラック4の位置である。
【0080】
より詳細には、左側低減アシスト領域ZARGは、機能的移動長L0の左側端部PGに位置し、左側の移動終了仮想停止閾値SGによって通常アシスト領域ZANから分け隔てられている。
【0081】
右側低減アシスト領域ZARDは、機能的移動長L0の右側端部PDに位置し、右側の移動終了仮想停止閾値SDによって通常アシスト領域ZANから分け隔てられている。
【0082】
移動終了仮想閾値SD、SGは、車両の変位速度、操舵力ED、ラック4の移動量Xrack、ラック4の移動速度
【0083】
【0084】
【0085】
また、上記方法は、機能的移動長L0上のアクチュエータ部材4の瞬間的な位置および移動方向Dを判定する工程を包含する。
【0086】
機能的移動長L0の伸長軸に沿ったラック4の移動が行われている場合に、移動方向Dは、機能的移動長L0の伸長軸に沿って、第1の方向または反対の方向を向く。次に、右側方向を参照する。右側方向は、左側低減アシスト領域ZARGから通常アシスト領域ZANへ向かうことを可能にする移動方向、または通常アシスト領域ZANから右側低減アシスト領域ZARDへ向かうことを可能にする移動方向に対応する。また、左側方向を参照する。左側方向は、右側低減アシスト領域ZARDから通常アシスト領域ZANへ向かうことを可能にする移動方向、または通常アシスト領域ZANから左側低減アシスト領域
ZARGへ向かうことを可能にする移動方向に対応する。
【0087】
したがって、左側低減アシスト領域ZARG内にラックが配置されている場合における、ラック4の左への移動、および、右側低減アシスト領域ZARD内にラックが位置している場合における、ラック4の右への移動は、以下、進入移動と呼称されることになる。
【0088】
最後に、左側低減アシスト領域ZARG内にラックが配置されている場合における、ラック4の右への移動、および、右側低減アシスト領域ZARD内にラックが位置している場合に、ラック4の左への移動は、以下、退出移動と呼称されることになる。
【0089】
右側低減アシスト領域ZARDおよび左側低減アシスト領域ZARGは、対称的に振る舞うため、以下の説明においては、右側低減アシスト領域ZARDのみを参照することにする。
【0090】
本発明に係る方法は、通常アシスト領域ZANから低減アシスト領域ZARD,ZARG内に移動するようにアクチュエータ部材4が移動終了仮想閾値SG,SDを横切る場合に、入力抵抗設定値CresistantをアシストモータMに適用する工程を包含する。
【0091】
入力抵抗設定値Cresistantは、アシストモータMによって供給されるアシスト力EAがラック4の移動に抵抗するように決定される。特に、入力抵抗設定値Cresistantは、右側端部PDに対応する右側停止閾値、または、左側端部PGに対応する左側停止閾値に、いかなる時点においてもラック4が到達することがないように、ラック4の移動を減速させることを可能にする。
【0092】
図3に例示するように、ラックが低減アシスト領域ZAR
D,ZAR
G内にある場合、アシストモータMの設定値C
setpointは、抵抗設定値C
resistantを減じたアシストトルクC
assistに等しい。
【0093】
図1に例示するように、入力抵抗設定値C
resistantは、
進入剛性係数k
1およびラック4の移動量X
rackに比例する進入弾性成分C
E、
進入粘性係数b
1およびラック4の移動速度
【0094】
【数3】
に比例する進入粘性成分C
V、ならびに、
進入慣性係数m
1およびラック4の移動加速度
【0095】
【数4】
に比例する進入慣性成分C
I
の合計である。
【0096】
このように、入力抵抗設定値Cresistantは、当業者に公知の、質量-ばね-ダンパ止め部材をシミュレートする2次式によって得られる。この2次式によって、機械的止め部材との当接をより正確に知覚することが可能になるので、ドライバーにとってよ
り自然でより直感的な、よりよい運転感覚が確保される。
【0097】
進入剛性係数k1、進入粘性係数b1、および進入慣性係数m1は、車両の変位速度、操舵力ED、ラック4の移動量Xrack、ラック4の移動速度
【0098】
【0099】
【数6】
に依存する。進入剛性係数k
1、進入粘性係数b
1および進入慣性係数m
1は、異なるパラメータの関数として、所定のチャートから決定される。
【0100】
上記方法は、アクチュエータ部材4が低減アシスト領域ZARD,ZARG内にあり、かつアクチュエータ部材4の移動方向Dが、低減アシスト領域ZARD,ZARGから通常アシスト領域ZANへ向かう方向である場合に、出力抵抗設定値Cresistantを適用する工程を包含する。
【0101】
出力抵抗設定値Cresistantを適用する工程は、ラック4が退出移動を行う場合に、出力抵抗設定値CresistantをアシストモータMに適用する工程からなる。
【0102】
出力抵抗設定値Cresistantは、入力抵抗設定値Cresistantと異なる値を有する。
【0103】
図1に示すように、出力抵抗設定値は、
退出剛性係数k
2およびラック4の移動量X
rackに比例する退出弾性成分C
E、
退出粘性係数b
2およびラック4の移動速度
【0104】
【数7】
に比例する退出粘性成分C
V、ならびに、
退出慣性係数m
2およびラック4の移動加速度
【0105】
【数8】
に比例する退出慣性成分C
I
の合計である。
【0106】
このように、出力抵抗設定値Cresistantは、当業者に公知の、質量-ばね-ダンパ型の当接に続くラックへの作用をシミュレートする2次式によって得られる。この
2次式によって、機械的止め部材に接触した後のアクチュエータ部材への作用をより正確に知覚することが可能になるので、ドライバーにとってより自然でより直感的な、よりよい運転感覚が確保される。
【0107】
退出剛性係数k2、退出粘性係数b2および退出慣性係数m2は、車両の変位速度、操舵力ED、ラック4の移動量Xrack、ラック4の移動速度
【0108】
【0109】
【0110】
退出剛性係数k2、退出粘性係数b2および退出慣性係数m2は、異なるパラメータの関数として、所定のチャートから決定される。
【0111】
通常アシスト領域ZAN内にラック4が配置されている場合、アシストモータMは、アシストトルクCassistに等しい設定値Csetpointを受け取る。次いで、ドライバーによって右へ操舵する際、すなわち、ドライバーが操舵力EDを右へ加える際、ラック4は、右方への移動を実行し、その後、右側の移動終了仮想閾値SDを横切る。そうすると、ラック4は、右側低減アシスト領域ZARD内にあり、進入移動を行う。次いで、アシストモータMは、入力抵抗設定値Cresistantを減じたアシストモータCassistに等しい設定値Csetpointを受け取る。このように、ラック4は、右側停止閾値PDの方向への移動を完全に停止するまで、減速しながら右側停止閾値PDへ近づく。すなわち、ラックが右方への移動を実行する場合、ラックは、右側の移動終了仮想閾値SDを横切り、次いで右側停止閾値PDに接触しないように移動を停止する。
【0112】
入力抵抗設定値Cresistantは、右側停止閾値PDに配置される機械的止め部材に接触した場合に予測され得る挙動の正確かつ直感的な感覚を、ドライバーに与えるように決定される。
【0113】
ラック4は、退出移動を行うように、左への移動を再開する。次いで、アシストモータMは、出力抵抗設定値Cresistantを減じたアシストトルクCassistに等しい設定値Csetpointを受け取る。
【0114】
出力抵抗設定値Cresistantは、ラックが機械的止め部材に接触した後に予測され得るラックの挙動の正確かつ直感的な感覚を、ドライバーが有するように決定される。
【0115】
進入粘性係数b1は、退出粘性係数b2よりも厳密に高い。
【0116】
このように、高い値を有する進入粘性係数b1によって、ラック4が過度に高い速度で停止閾値に到達することを回避するためにラックの速度を低減させることが可能になり、低い値を有する退出粘性係数b2によって、ラックが退出移動中に過度に制動されること
を回避することが可能になる。
【0117】
さらに、進入粘性係数b1は、進入剛性係数k1よりも早くに適用される。
【0118】
さらに、退出粘性係数b2は、退出剛性係数k2が適用される時点で、適用される。
【0119】
移動終了仮想閾値SG,SDによってのみ、ラック4を人為的に移動し難くし、かつ/または同様に、ステアリングホイール2を人為的に回転し難くすることによって、運転を損なわずに、衝撃から操舵を効果的に保護できる。
【0120】
当然ながら、本発明は、本明細書に記載の実施形態や添付の図面に示された実施形態に限定されない。特に種々の要素の構成に関して、あるいは技術的均等物による置き換えによって、本発明の範囲から逸脱することなく、変更することが可能である。