(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】歯科ブロック材及び歯科ブロック
(51)【国際特許分類】
A61K 6/891 20200101AFI20240614BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20240614BHJP
A61K 6/816 20200101ALI20240614BHJP
A61K 6/813 20200101ALI20240614BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20240614BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20240614BHJP
A61C 13/087 20060101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K6/891
A61K6/71
A61K6/816
A61K6/813
A61K6/15
A61C5/70
A61C13/087
(21)【出願番号】P 2023220732
(22)【出願日】2023-12-27
【審査請求日】2024-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108982
【氏名又は名称】ポリプラ・エボニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明石 達樹
(72)【発明者】
【氏名】磯野 弘明
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-144783(JP,A)
【文献】特開2022-119683(JP,A)
【文献】国際公開第2015/170649(WO,A1)
【文献】特開2019-170876(JP,A)
【文献】特開2018-95694(JP,A)
【文献】特表2023-502962(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070495(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/092398(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
A61C 5/00-5/90
13/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルエーテルケトン及び無機フィラーを含有する歯科ブロック材であって、
前記歯科ブロック材における前記無機フィラーの含有割合が、10質量%以上30質量%未満であり、
前記歯科ブロック材の温度380℃、せん断速度1216(sec
-1)における溶融粘度が、450~690Pa・secである、歯科ブロック材。
【請求項2】
前記無機フィラーが、無機粒子である、請求項1に記載の歯科ブロック材。
【請求項3】
前記無機フィラーが、酸化チタン、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、及び黄色酸化鉄からなる群から選択される一以上である、請求項1又は2に記載の歯科ブロック材。
【請求項4】
前記歯科ブロック材における前記ポリエーテルエーテルケトンの含有割合が、70~80質量%である、請求項1又は2に記載の歯科ブロック材。
【請求項5】
前記ポリエーテルエーテルケトンの温度380℃、せん断速度1216(sec
-1)における溶融粘度が、370~530Pa・secである、請求項1又は2に記載の歯科ブロック材。
【請求項6】
ブロック部及びピン部を備える歯科ブロックであって、
前記ブロック部及び前記ピン部が、請求項1又は2に記載の歯科ブロック材を含む、歯科ブロック。
【請求項7】
前記歯科ブロックをノッチ加工してノッチ部を有する試験片を得たとき、前記試験片の前記ノッチ部における、前記ノッチ加工の方向に対する線粗さが0.030以下である、請求項6に記載の歯科ブロック。
【請求項8】
前記歯科ブロックの引張強度試験において、破断点歪みが7.0以上である、請求項6に記載の歯科ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯科ブロック材及び歯科ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科ブロック材としては、金属の台座に熱硬化性樹脂を用いる歯科ブロック材が使用され、この歯科ブロック材を用いる歯科ブロックをCAD/CAM加工していた。CAD/CAM加工とは、コンピューターを利用して構造物の設計を行うシステムであるCAD(Computer Aided Design)と、CADで得られた形状データから加工を行うためのデータとするシステムであるCAM(Computer Aided Manufacturing)とを用いて行う加工である。しかし、熱硬化性樹脂を用いる歯科ブロック材はCAD/CAM加工が難しいという課題があった。また、当該歯科ブロック材を用いる歯科ブロックから得られるCAD/CAM加工物は、硬い一方でもろくて削れやすいという課題もあった。
【0003】
このような課題に対して、特許文献1には、ビッカース硬さ、並びに曲げ強さ及び曲げ弾性率が所定の範囲の熱可塑性樹脂からなる歯科用ブロック材が開示されている。
特許文献2には、温度370度、せん断速度1220(1/s)における溶融粘度が210~350Pa・secであるポリアリールエーテルケトン樹脂100体積部と、無機粒子20~60体積部と、を含むことを特徴とする樹脂複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-119683号公報
【文献】国際公開第2015/170649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2においては、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックという観点では何ら検討が行われていなかった。快削性とは、歯科ブロックを加工する際に、切りくずが細かく切れて飛ぶ性質をいう。歯科ブロックが快削性を有することによって、歯科ブロック成形品のような、歯科ブロックの加工物の表面を滑らかにすることができる。
また、歯科ブロックが高い靭性を有していると、歯科ブロックの加工物を患者の歯に装着した場合に当該加工物が破損しにくく、長期にわたって当該加工物を使用することができる。
【0006】
本開示は、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる、歯科ブロック材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の内容に関する。
[1]ポリエーテルエーテルケトン及び無機フィラーを含有する歯科ブロック材であって、
前記歯科ブロック材における前記無機フィラーの含有割合が、10質量%以上30質量%未満であり、
前記歯科ブロック材の温度380℃、せん断速度1216(sec-1)における溶融粘度が、450~690Pa・secである、歯科ブロック材。
[2]前記無機フィラーが、無機粒子である、[1]に記載の歯科ブロック材。
[3]前記無機フィラーが、酸化チタン、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、及び黄色酸化鉄からなる群から選択される一以上である、[1]又は[2]に記載の歯科ブロック材。
[4]前記歯科ブロック材における前記ポリエーテルエーテルケトンの含有割合が、70~80質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科ブロック材。
[5]前記ポリエーテルエーテルケトンの温度380℃、せん断速度1216(sec-1)における溶融粘度が、370~530Pa・secである、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科ブロック材。
[6]ブロック部及びピン部を備える歯科ブロックであって、
前記ブロック部及び前記ピン部が、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科ブロック材を含む、歯科ブロック。
[7]前記歯科ブロックをノッチ加工してノッチ部を有する試験片を得たとき、前記試験片の前記ノッチ部における、前記ノッチ加工の方向に対する線粗さが0.030以下である、[6]に記載の歯科ブロック。
[8]前記歯科ブロックの引張強度試験において、破断点歪みが7.0以上である、[6]又は[7]に記載の歯科ブロック。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる、歯科ブロック材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一態様である、歯科ブロックの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を具体的な実施形態に基づき説明する。なお、本明細書において、数値範囲の下限値及び上限値を分けて記載する場合、当該数値範囲は、それらのうち任意の下限値と任意の上限値とを組み合わせたものとすることができる。本開示において、「A~B」を用いて表される数値範囲は、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
【0011】
本明細書において、歯科ブロックは、CAD/CAM加工に用いるための、樹脂を含むブロックのことを指す。歯科ブロックをCAD/CAM加工することにより、歯科ブロック成形品(クラウンともいう)と呼ばれる歯科補綴物を製造できる。この歯科ブロック成形品は、例えば、虫歯を患う患者において、虫歯部分を削った後に歯の修復すべき箇所にこの歯科ブロック成形品を補綴することで虫歯の治療を行うなどして使用でき、主に歯の治療用途に使用できる。
本明細書において歯科ブロック材とは、歯科ブロックの製造において使用する材料のことを指す。また、歯科ブロック材は、歯科ブロック材組成物と呼ぶこともできる。
【0012】
本開示の歯科ブロック材は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及び無機フィラーを含有する。歯科ブロック材における無機フィラーの含有割合(以下、単に無機フィラーの含有割合ともいう。)は、10質量%以上30質量%未満である。そして歯科ブロック材の温度380℃、せん断速度1216(sec-1)における溶融粘度は450~690Pa・secである。無機フィラーの含有割合及び歯科ブロック材の溶融粘度が上記範囲であると、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる、歯科ブロック材となる。
【0013】
歯科ブロック材の溶融粘度及び無機フィラーの含有割合が上記範囲であることによって、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる歯科ブロック材とな
る理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように推察している。
無機フィラーの含有割合が10質量%未満であると、樹脂ブロックが柔らかくなり、歯科ブロックの切削性が低下する。無機フィラーの含有割合が30質量%以上であると、歯科ブロックが脆くなり、靭性が不十分となる。そして歯科ブロック材の溶融粘度が450Pa・sec未満であると、歯科ブロックの圧縮強度が低くなり、靭性が不十分となる。また、歯科ブロック材の溶融粘度が690Pa・secを超えると、流動性が低下し、歯科ブロックの製造性が低下する。
したがって、無機フィラーの含有割合及び歯科ブロック材の溶融粘度が上記範囲であることによって、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる歯科ブロック材となると考えられる。
【0014】
上記の通り、歯科ブロック材の温度380℃、せん断速度1216(sec-1)における溶融粘度は、450~690Pa・secである。また、500~670Pa・secであることが好ましく、550~620Pa・secであることがより好ましい。上記範囲であることにより、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる、歯科ブロック材となりやすい。ここで、溶融粘度の測定温度が380℃であると、安定した溶融粘度測定が行いやすい。
歯科ブロック材の溶融粘度は、用いるPEEKの溶融粘度を変更することや、歯科ブロック材における無機フィラーの含有割合を変更することによって調整することができる。また、歯科ブロック材の溶融粘度の測定方法は、後述する。
【0015】
ポリエーテルエーテルケトンの温度380℃、せん断速度1216(sec-1)における溶融粘度は、370~530Pa・secであることが好ましい。また、375~500Pa・secであることがより好ましく、380~480Pa・secであることがさらに好ましい。上記範囲であることにより、歯科ブロック材の溶融粘度が上記範囲となりやすい。ここで、溶融粘度の測定温度が380℃であると、安定した溶融粘度測定が行いやすい。
PEEKの溶融粘度は、ポリエーテルエーテルケトンの分子量を変更することによって調整することができる。また、溶融粘度が上記範囲であるPEEKとしては、例えばVESTAKEEP(登録商標)L4000G(EVONIK社製)が挙げられる。また、PEEKの溶融粘度の測定方法は、後述する。
【0016】
歯科ブロック材におけるポリエーテルエーテルケトンの含有割合は、特に限定されないが、70~90質量%であることが好ましく、75~85質量%であることがより好ましく、75~80質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
上記の通り、歯科ブロック材における無機フィラーの含有割合は、10質量%以上30質量%未満である。また、15~25質量%であることが好ましく、20~25質量%であることがより好ましい。上記範囲であることにより、快削性がより向上した歯科ブロックを提供できる、歯科ブロック材となりやすい。歯科ブロック材が無機フィラーを複数種含む場合、上記無機フィラーの含有割合は、複数種の無機フィラーの合計の含有割合である。
歯科ブロック材における無機フィラーの含有割合は、歯科ブロック材を製造する際の無機フィラーの添加量を変更することによって、調整することができる。無機フィラーの含有割合は、熱重量(TG)測定によって測定することができる。
【0018】
無機フィラーは特に限定されないが、シリカ、アルミナ、アルミノシリケートガラス、シリカファイバー、酸化プラセオジム、酸化エルビウム、酸化マンガン、酸化チタン、チタン酸バリウム及び黄色酸化鉄のような無機酸化物であることが好ましい。また、硫酸カルシウムや、硫酸バリウムなどの硫酸塩であることも好ましい。
中でも、歯科ブロックの色が好適になる点で、酸化チタン、チタン酸バリウム、硫酸バリウム及び黄色酸化鉄からなる群から選択される一以上がより好ましい。
【0019】
無機フィラーは上記以外の無機物を含んでいてもよい。上記以外の無機物としては、例えば塩化プラセオジム(III)などのプラセオジム塩;塩化エルビウム、硝酸エルビウム、フッ化エルビウム、及びシュウ酸エルビウムなどのエルビウム塩;酸化アルミニウム中にマンガンが固溶したマンガンピンクなどが挙げられる。
また、無機フィラーは無機粒子であることが好ましい。無機フィラーが無機粒子であると、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる歯科ブロック材となりやすい。
無機フィラーのアスペクト比は、特に限定されないが、5以下であることが好ましい。下限は特に限定されず、1以上5以下が挙げられる。上記範囲であると、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる歯科ブロック材となりやすい。
【0020】
歯科ブロック材は、公知の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0021】
歯科ブロック材の製造方法は特に限定されないが、歯科ブロック材は、例えば上記のポリエーテルエーテルケトン及び無機フィラーを加熱しながら容器内で混合することにより製造することができる。すなわち、歯科ブロック材の製造方法は、ポリエーテルエーテルケトン及び無機フィラーを加熱混合する工程を有することが好ましい。
その他、公知の方法を採用して歯科ブロック材を製造することができる。
【0022】
本開示の一の態様に係る歯科ブロックについて、図を用いて説明する。
歯科ブロック80は、ブロック部81及びピン部82を備える(
図1)。歯科ブロックは本開示の歯科ブロック材の成形品であることが好ましい。すなわち、ブロック部81及びピン部82が、本開示の歯科ブロック材を含むことが好ましい。
【0023】
ブロック部81は、CAD/CAM加工することにより、ブロック部の成形品となる部位である。ブロック部81の形状は特に限定されず、例えば、直方体、立方体、円柱、又は球などの形状とすることができる。例えば、ブロック部の形状が直方体である場合、
図1中の高さXは10mm~20mmであることが好ましく、縦の長さYは10mm~20mmであることが好ましく、横の長さZは15~65mmであることが好ましい。
ブロック部の成形品の使用方法は特に限定されないが、例えば、患者の口腔内において、虫歯を削って支台歯を作製し、当該支台歯の上から被せるなどによって使用することができる。その他、ブロック部の成形品を歯の詰め物又はブリッジとして使用することもできる。
【0024】
ピン部82は、歯科ブロックをCAD/CAM加工機に取り付ける際に用いる部位である。歯科ブロック80がピン部82を備えることにより、歯科ブロックをCAD/CAM加工機に固定でき、歯科ブロックを加工する際に位置を調節することができる。ピン部の形状は特に限定されず、円柱状など公知の形状を採用することができる。
【0025】
歯科ブロックは、生産性の観点から、本開示の歯科ブロック材を用いた、ブロック部及びピン部の一体成形品であることが好ましい。
【0026】
歯科ブロックの引張強度試験において、破断点歪みが7.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、10.0以上であることがさらに好ましい。上記範囲であると、歯科ブロックの靭性が好適となりやすい。7.0未満であると、靭性が低くなりやすい。破断点歪みの上限は特に限定されないが、例えば好ましくは7.0~1
7.0、8.0~16.0、10.0~15.0とすることができる。破断点歪みが17.0を超えると、切削加工する際の精度が低下する場合がある。
破断点歪みは、無機フィラーの含有割合によって調整することができる。具体的には、無機フィラーの含有割合が大きくなると、破断点歪みが小さくなりやすい。そして、無機フィラーの含有割合が小さくなると、破断点歪みが大きくなりやすい。歯科ブロックの破断点歪みの測定方法は後述する。
【0027】
歯科ブロックをノッチ加工してノッチ部を有する試験片を得たとき、試験片のノッチ部における、ノッチ加工の方向に対する線粗さ(Rz)が0.030以下であることが好ましい。
ノッチ加工には、東洋精機製NOTCHING TOOL Aを用いる。そして、歯科ブロックをノッチ加工してJIS K 7111-1/1eAにあたる試験片を得る。このとき、歯科ブロックのノッチ加工は、ノッチ加工用の切削刃(NOTCHING TOOL Aの標準付属品である、型番7505269)を歯科ブロックの長さ方向に直角かつ厚さ方向に平行になるように歯科ブロックにあて、切削刃を歯科ブロックの長さ方向に動かし、歯科ブロックをV字状に切削し、ノッチ部を形成することによって行われる。すなわち、ノッチ部は試験片の長さ方向に延在し、かつノッチの形状は、試験片の長さ方向からみたときにV字状となる。試験片を厚さ方向からみたとき、試験片の長さ方向に延在する最奥部(試験片を長さ方向からみたときの谷底部分)が、ノッチ部の先端といえる。
【0028】
そして、ノッチ部における、ノッチ加工の方向に対する線粗さを測定する。線粗さは、表面粗さの規定であって、JIS B 0601-2001で定義される。すなわち、ノッチ部における、ノッチ加工の方向に対する線粗さが大きいことは、ノッチ部の表面が粗いことを示す。すなわち、ノッチ加工が行いづらいことを示しており、快削性が低くなりやすいことを示す。逆に、線粗さが小さいほど快削性に優れやすくなるといえる。具体的な測定方法は後述する。
線粗さは0.025以下であることがより好ましく、0.020以下であることがさらに好ましく、0.014以下であることが特に好ましい。上記範囲であると、歯科ブロックの快削性が好適となる。0.030を超えると、快削性が低下する場合がある。線粗さの下限は特に限定されないが、例えば好ましくは、0.000~0.030、0.000~0.025、0.005~0.020、0.005~0.014が挙げられる。線粗さの値は、無機フィラーの含有割合によって調整することができる。具体的には、無機フィラーの含有割合が大きくなると、線粗さの値が小さくなりやすい。そして、無機フィラーの含有割合が小さくなると、線粗さの値が大きくなりやすい。
線粗さの測定方法は後述する。
【0029】
歯科ブロックの製造方法は特に限定されないが、歯科ブロックは、例えば本開示の歯科ブロック材を射出成形や押出成形などの公知の成形方法を用いて成形することによって、製造することができる。すなわち、歯科ブロックの製造方法は、本開示の歯科ブロック材を成形する工程を有することが好ましい。
【0030】
以下、歯科ブロック材及び歯科ブロックの物性の測定方法を説明する。
【0031】
<歯科ブロック材及びポリエーテルエーテルケトンの溶融粘度の測定方法>
JIS K7199に基づき、東洋精機製キャピラリーレオメーターを用いて測定する。測定試料について、測定温度は380℃、見かけのせん断速度1216(sec-1)のときの、見かけの粘度を測定し、溶融粘度とする。測定試料としては、歯科ブロック材又はポリエーテルエーテルケトンを用いる。
【0032】
<歯科ブロックの破断点歪みの測定方法>
歯科ブロックの靭性は、歯科ブロックの引張強度を測定することで評価することができる。歯科ブロックの引張強度は、以下の手順で測定する。
JIS K7161に基づき、島津製作所製オートグラフAG-X Plusを用いて測定する。試験速度は50mm/minとする。測定試料について、歯科ブロックの原料である歯科ブロック材からJIS K7139に記載のダンベル形引張試験片である多目的試験片(タイプA1)を試験片厚み4mmの試料として得る。この測定試料によって得られる測定結果を、歯科ブロックの引張強度とする。
【0033】
<線粗さの測定方法>
線粗さの測定は、以下の手順で行う。
1.歯科ブロックの原料である歯科ブロック材から、JIS K 7139に記載のダンベル形引張試験片である多目的試験片(タイプA1)を測定試料として得る。
2.ダンベル試験片を東洋精機製 NOTCHING TOOL Aを用いてノッチ加工して、JIS K 7111-1/1eAにあたる、ノッチ部を有する試験片を作製する。
3.キーエンス製 ワンショット3D形状測定機 VR-3000を用いてノッチ部を含めた凹凸像を取得する。
4.取得した凹凸像から、ノッチ部における、ノッチ加工の方向に対する線粗さを求める。具体的には、凹凸像を試験片の厚さ方向からみたときに、ノッチ部の先端に沿い、試験片の長さ方向に延在する直線を設ける。そして、凹凸像を試験片の厚さ方向からみたときに、ノッチ部の先端に沿う直線を中心として両側に5本ずつの直線を0.06mm間隔で設け、合計11本の直線を設ける。その後、各直線上におけるノッチ部の線粗さを測定する。このとき、ノッチ部のノッチ加工の方向における両端部から、それぞれ0.5mmの範囲を線粗さの測定対象から除き、残りの部分を測定対象とする。得らえた線粗さの算術平均値を、ノッチ部における、ノッチ加工の方向に対する線粗さとする。
【0034】
また、快削性の評価基準は、以下の通りとする。
A:線粗さの値が、0.014以下である。
B:線粗さの値が、0.014を超え、0.030以下である。
C:線粗さの値が、0.030を超え、0.050以下である。
D:線粗さの値が、0.050を超える。
【0035】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を参照して本開示を具体的に説明する。ただし、本開示は以下の実施例の態様に制限されない。
【0037】
[実施例1]
ベース樹脂としてポリエーテルエーテルケトン(VESTAKEEP(登録商標)L4000G、EVONIK社製)100質量部を、平均粒径d50=10μmとなるように粉砕し、PEEK粉砕物を得た。続いて、PEEK粉砕物に、無機フィラーとして酸化チタン10質量部を二軸混練によって混合して、歯科ブロック材とした。
得られた歯科ブロック材を熱溶解することにより射出成形し、ブロック部の形状が直方体であり、ピン部の形状が円柱状である歯科ブロックを得た。加工時間は表1に記載の通りとした。上述の各測定を歯科ブロックに対して行った。得られた物性を表1に示す。
【0038】
[実施例2~6]
無機フィラーの種類及び含有割合を表1の記載のものとした以外は実施例1と同様にして、歯科ブロック材及び歯科ブロックを得た。得られた歯科ブロックの物性を表1に示す。
【0039】
[比較例1~3]
ベース樹脂の種類と、無機フィラーの種類及び含有割合とを表1の記載のものとした以外は実施例1と同様にして、歯科ブロック材及び歯科ブロックを得た。得られた歯科ブロックの物性を表1に示す。表中、2000Gは、VESTAKEEP(登録商標)2000G、EVONIK社製を示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示によれば、快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる、歯科ブロック材を提供できる。すなわち、本開示の歯科ブロック材は、歯科ブロックの製造に用いることができる。
【要約】
【課題】快削性と、靭性とを両立した歯科ブロックを提供することができる、歯科ブロック材の提供。
【解決手段】ポリエーテルエーテルケトン及び無機フィラーを含有する歯科ブロック材であって、前記歯科ブロック材における前記無機フィラーの含有割合が、10質量%以上30質量%未満であり、前記歯科ブロック材の温度380℃、せん断速度1216(sec
-1)における溶融粘度が、450~690Pa・secである、歯科ブロック材。
【選択図】
図1