(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】コロナウイルス抗ウイルス剤としてのテラメプロコールおよびノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)誘導体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/09 20060101AFI20240614BHJP
A61K 31/085 20060101ALI20240614BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/52 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240614BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240614BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240614BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240614BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240614BHJP
【FI】
A61K31/09
A61K31/085
A61P31/14
A61K9/14
A61K9/48
A61K9/52
A61K9/10
A61K9/08
A61K47/40
A61K47/36
A61K47/14
A61K47/18
A61K47/20
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2023543286
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 US2022012297
(87)【国際公開番号】W WO2022159326
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-11-06
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523271402
【氏名又は名称】エリモス・ファーマシューティカルズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Erimos Pharmaceuticals, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】クー,ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】グレン,ステファン ディ
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】Molecules,2020年,Vol. 25, No. 4666
【文献】Journal of Food Biochemistry,2020年,Vol. 44, No. 11,e13481
【文献】Research Square,2020年04月14日,<URL:http://www.researchsquare.com/article/rs-22687/v1>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)誘導体および医薬的に許容し得る担体を含む、コロナウイルス感染症の治療又は予防のための医薬組成物であって、NDGA誘導体は、テラメプロコール、3’-O-メチル NDGA、テトラアセチル NDGA、マルトース-トリ-O-メチル NDGA、テトラ-O-グリシル NDGA、ビス-環状サルフェート NDGA;ビス-環状カーボネート NDGA;メチレンジオキシフェニル NDGA;テトラアセテート NDGAからなる群より選択される、該医薬組成物。
【請求項2】
コロナウイルスが、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、中東呼吸器症候群関連のコロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
NDGA誘導体がウイルスRNA複製を阻害する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
NDGA誘導体が、大きさが1~100ナノメートルの範囲にある、固形コロイドナノ粒子に形成される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
NDGA誘導体を、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、中鎖トリグリセリド、モノオレイン酸グリセリル、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、ポリソルベート20、ナリンジン、マクロゴール-15-ヒドロキシステアレート、およびその組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、溶液または懸濁液に可溶化させる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
0.1~50μMのNDGA誘導体が、静脈内投与用に製剤化される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
0.1~100μMのNDGA誘導体が、経口投与用に製剤化される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
テラメプロコール(TMP)および医薬的に許容し得る担体を含む、コロナウイルス感染症の治療又は予防のための医薬組成物。
【請求項9】
コロナウイルスが、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、中東呼吸器症候群関連のコロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
TMPがウイルスRNA複製を阻害する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
TMPが、大きさが1~100ナノメートルの範囲にある、固形コロイドナノ粒子に形成される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
TMPを、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、中鎖トリグリセリド、モノオレイン酸グリセリル、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、ポリソルベート20、ナリンジン、マクロゴール-15-ヒドロキシステアレート、およびその組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、溶液または懸濁液に可溶化させる、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項13】
0.1~50μMのTMPが、静脈内投与用に製剤化される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項14】
TMPが、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンを含む水溶液中にて可溶化される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
1~10mg/mLのTMPが、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンを20~50%で含む水溶液中にて可溶化される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
6mg/mLのTMPが、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンを30%で含む水溶液中にて可溶化される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項17】
0.1~100μMのTMPが、経口投与用に製剤化される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項18】
TMPが、中鎖トリグリセリドと、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコールとを含む懸濁液中にて可溶化される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
100~500mg/mLのTMPが、中鎖トリグリセリドと、50~100mg/mLのコハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコールとを含む懸濁液中にて可溶化される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
300mg/mLのTMPが、中鎖トリグリセリドと、85~90mg/mLのコハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコールとを含む懸濁液中にて可溶化される、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項21】
経口用製剤が遅延放出型ソフトゼラチンカプセルである、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
経口用製剤が持続放出型ソフトゼラチンカプセルである、請求項20に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2021年1月19日付け出願の米国仮特許出願番号63/139,296の優先権およびその利益を主張するものであり、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、コロナウイルス抗ウイルス剤に、より具体的には、テラメプロコール(TMP)などのノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)誘導体のコロナウイルスRNAのインビトロでの複製阻害能に関する。
【背景技術】
【0003】
コロナウイルス病2019(COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)での感染によって引き起こされる、伝染性疾患である。COVID-19は、呼吸器経路を介してヒトからヒトへと広がり、上気道(副鼻腔、鼻、喉)および下気道(気管および肺)の両方に影響を及ぼす。最初は、肺がCOVID-19により最も影響を受ける器官である。というのも、該ウイルスはアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という酵素を介して宿主細胞にアクセスし、それは肺のII型肺胞細胞に最も多量に存在するからである。ある患者では、ウイルス感染が他の器官および組織に広がる。ウイルスは、「スパイク」(ペプロマー)と称される特定の表面糖タンパク質を用いてACE2と結合し、宿主細胞に侵入する。各組織におけるACE2の密度は、その組織での疾患の重篤度と相関している。肺胞疾患が進行するにつれて、呼吸不全を発症するかもしれず、死に至る可能性がある。SARS-CoV-2は気道のACE2発現性上皮細胞に対して指向性を有するが、重度のCOVID-19の患者は全身性炎症亢進の徴候がある。高濃度のIL-2、IL-7、IL-6、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターフェロン-γ誘導性タンパク質10(IP-10)、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、マクロファージ炎症性タンパク質1-α(MIP-1α)、および腫瘍壊死因子-α(TNF-α)の臨床検査室での知見は、サイトカイン放出症候群(CRS)であることを示し、根本的に免疫病理であることを示唆する。HCoV-NL63(NL63)は、2004年に細気管支炎の7カ月齢の子供で発見されたコロナウイルスのもう一つ別の種である。SARS-CoV-2と同様に、NL63は、ACE2と結合することでその宿主細胞に侵入する、エンベロープ型のプラス鎖、一本鎖RNAウイルスである。
【0004】
SARS-CoV-2に対して免疫性を付与するのに数種のワクチンが製造されたが、これらのワクチンの保護期間は不明であり、おそらくは一般的な集団の中で変化し;かくして、COVID-19に罹患している患者は治療を必要するであろう。現在、レムデシビル(商品名:ベクラリー(VEKLURY)(登録商標)、Gilead Sciences社、County Cork、Ireland)が、COVID-19を治療するのに米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている、唯一の薬物である。レムデシビルは2020年10月に米国にて医薬用に承認された。2020年11月に、FDAは、COVID-19が疑われるか、確認された、特定の入院患者に投与され得る薬物(商品名:バリシチニブ(BARICITINIB)(登録商標)、Eli Lily and Company、Indianapolis, IN, USA)に緊急使用の許可を付与したが、それはレムデシビルと併用する場合だけであった。COVID-19、およびNL-63および他のコロナウイルスによって引き起こされる病気を治療するのに使用され得る、他の薬物に対する要求が今なお残っている。
【発明の概要】
【0005】
1の態様において、本発明は、コロナウイルスに感染した患者に、またはコロナウイルス感染の危険性のある患者に、ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)誘導体を投与することを含む、方法を提供することで、当該分野における要求を克服する。
【0006】
もう一つ別の態様において、本発明は、コロナウイルスに感染した患者に、またはコロナウイルス感染の危険性のある患者に、テラメプロコール(TMP)を投与することを含む、方法を提供することで、当該分野における要求を克服する。
【0007】
さらなる態様において、NDGA誘導体の投与はウイルスRNA複製を阻害する。
【0008】
もう一つ別の態様において、TMPの投与はウイルスRNA複製を阻害する。
【0009】
1の実施態様において、コロナウイルスは、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、中東呼吸器症候群関連のコロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)からなる群より選択される。
【0010】
もう一つ別の実施態様において、NDGA誘導体は、テラメプロコール、3’-O-メチル NDGA、テトラアセチル NDGA、マルトース-トリ-O-メチル NDGA、テトラ-O-グリシル NDGA、ビス-環状サルフェート NDGA;ビス-環状カーボネート NDGA;メチレンジオキシフェニル NDGA;テトラアセテート NDGAからなる群より選択される。
【0011】
さらなる実施態様において、NDGA誘導体は、式(1):
【化1】
で示されるNDGA構造の1または複数の2、3、4、5、6、2’、3’、4’、5’
、および6’位に、構成基(Z)を付加することによって製造され、
ここで、Zは、独立して、メチル、エチル、アセチル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ヘキサノイル、プロピオニル、ピペリジン-1-イル、アセトニド、フルオロ、モルホリノ、ヒドロキシル、メトキシル、ヒドロキシ-メトキシル、ジメチル、ジヒドロキシル、ジメトキシル、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、トリメトキシル基、塩素、臭素、ニトライト、アミノ、およびアセトアミドからなる群より独立して選択されるか;(CH
2)
xHal(ここで、xは1~10の整数であり、Halはハロゲン原子である);(CH
2CH
2O)
y(ここで、yは1~10の整数である);あるいはカルバメート基である。
【0012】
もう一つ別の実施態様において、NDGA誘導体は、大きさが1~100ナノメートルの範囲にある、固形コロイドナノ粒子で形成される。
【0013】
さらなる態様において、TMPは、大きさが1~100ナノメートルの範囲にある、固形コロイドナノ粒子で形成される。
【0014】
もう一つ別の実施態様において、NDGA誘導体を、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、中鎖トリグリセリド、モノオレイン酸グリセリル、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、ポリソルベート20、ナリンジン、マクロゴール-15-ヒドロキシステアレート、およびその組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、溶液または懸濁液に可溶化させる。
【0015】
さらなる実施態様において、TMPを、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン、中鎖トリグリセリド、モノオレイン酸グリセリル、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、ポリソルベート20、ナリンジン、マクロゴール-15-ヒドロキシステアレート、およびその組み合わせからなる群より選択される化合物を含む、溶液または懸濁液に可溶化させる。
【0016】
もう一つ別の実施態様において、NDGA誘導体は静脈内または経口投与用に製剤化される。
【0017】
さらなる実施態様において、静脈内投与用の製剤は0.1~50μMのNDGA誘導体を含む。
【0018】
もう一つ別の実施態様において、経口投与用の製剤は0.1~100μMのNDGA誘導体を含む。
【0019】
さらなる実施態様において、TMPは静脈内投与用の溶液として製剤化される。
【0020】
もう一つ別の実施態様において、静脈内投与用の溶液は0.1~50μMのTMPを含む。
【0021】
さらなる実施態様において、静脈内投与用の溶液は(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンを含む水溶液に可溶化させたTMPを含む。
【0022】
もう一つ別の実施態様において、静脈内投与用の溶液は、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンを20~50%で含む水溶液に1~10mg/mLのTMPを可溶化させる。
【0023】
さらなる実施態様において、静脈内投与用の溶液は、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリンを30%で含む水溶液に6mg/mLのTMPを可溶化させる。
【0024】
もう一つ別の実施態様において、TMPを経口投与用に製剤化させる。
【0025】
さらなる実施態様において、経口投与用の製剤は0.1~100μMのTMPを含む。
【0026】
もう一つ別の実施態様において、経口投与用の溶液は、中鎖トリグリセリドおよびコハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコールを含む懸濁液に、TMPを可溶化させて含む。
【0027】
さらなる実施態様において、経口投与用の溶液は、中鎖トリグリセリドおよび50~100mg/mLのコハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコールを含む懸濁液に、100~500mg/mLのTMPを可溶化させて含む。
【0028】
もう一つ別の実施態様において、経口投与用の溶液は、中鎖トリグリセリドおよび85~90mg/mLのコハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコールを含む懸濁液に、300mg/mLのTMPを可溶化させて含む。
【0029】
さらなる実施態様において、経口製剤は、遅延放出型ソフトゼラチンカプセルである。
【0030】
もう一つ別の実施態様において、経口製剤は、徐放型ソフトゼラチンカプセルである。
【0031】
本発明のさらなる態様および/または実施態様が、以下に記載する発明の詳細な説明において、限定することなく、提供されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】抗ウイルス処理なし(陰性対照)で、0.2μM、1μM、および5μMのテラメプロコール(TMP)で処理(抗ウイルス実験)して、およびメシル酸カモスタット(CM)で処理(陽性対照)した、培養したアカゲザルの腎臓上皮(LLC-MK2)細胞を、HCoV-NL63感染に付し、その48時間後に測定したHCoV-NL63 RNAのコピー数を示す棒グラフである。
【0033】
【
図2】抗ウイルス処理なし(陰性対照)で、5μM、20μM、および80μMのTMPで処理(抗ウイルス実験)して、およびCMで処理(陽性対照)した、培養したLLC-MK2細胞を、HCoV-NL63感染に付し、その5日後に行われた細胞毒性アッセイの結果を示す棒グラフである。感染および/または処理に応答する細胞の細胞毒性は、細胞上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を介して測定された。
【0034】
【
図3】抗ウイルス処理なし(陰性対照)で、0.2μM、1μM、および5μMのTMPで処理(抗ウイルス実験)して、およびCMで処理(陽性対照)した、培養したLLC-MK2細胞を、HCoV-NL63感染に付し、その5日後に行われた細胞毒性アッセイの結果を示す棒グラフである。感染および/または処理に応答する細胞の細胞毒性は、細胞上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を介して測定された。
【0035】
【
図4A-4C】抗ウイルス処理なし(陰性対照)で、1μM、5μM、および20μMのTMPで処理(抗ウイルス実験)して、およびCMで処理(陽性対照)した、培養したアフリカミドリザルの腎臓上皮(Vero E6)細胞を、SARS-CoV-2感染に付し、その48時間後に測定されたSARS-CoV-2コロナウイルス RNAのコピー数を示す3種の別々の実験に関する棒グラフである。
【0036】
【
図5】処理なし(陰性対照)で、0.2μM、1.0μM、5μM、20μM、および80μMのTMPで処理して、およびCMで処理(陽性対照)した、SARS-CoV-2に感染させた細胞を細胞溶解に付すことで測定される、Vero E6細胞の最大毒性パーセントを示す棒グラフである。
【0037】
【
図6】抗ウイルス処理なし(陰性対照)で、5μM、20μM、および40μMのTMPで処理(抗ウイルス実験)して、およびCMで処理(陽性対照)した、培養したヒト非小細胞肺がん(Calu-3)細胞をSARS-CoV-2感染に付し、その48時間後に測定されたSARS-CoV-2コロナウイルス RNAのコピー数および関連する細胞の細胞毒性を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
下記にて、今のところ、特許請求の範囲に記載の発明の好ましい態様および/または実施態様であると考えられる発明について説明する。機能、目的または構造でのいかなる改変または修飾も添付した特許請求の範囲によってカバーされるものとする。本明細書および添付した特許請求の範囲にて使用されるように、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈にて明らかにそうでない場合を除き、複数の対象を含む。本明細書および添付した特許請求の範囲にて使用される「含む」、「含んだ」、および/または「含んでいる」なる語は、明示的に記載される構成要素、要素、特徴および/または工程の存在を特定して記載するが、1または複数の他の構成要素、要素、特徴および/または工程の存在または追加を排除するものではない。
【0039】
本明細書にて使用される場合、「患者」なる語は、コロナウイルスに感染しているか、または感染の危険性のある、いずれの生物もいうものとする。かかる患者はヒト患者および/または動物患者を含み得る。
【0040】
ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)は、米国ではチャパラル(chaparral)またはグリースウッド(greasewood)として、メキシコではゴベルナドラ(gobernadora)またはヘジオンジラ(hediondilla)として知られる、クレオソートブッシュ(creosote bush)、ラレア・トリデンタタ(Larrea tridentata)の主たる代謝産物である。NDGAは、分子量が302.37で、式(1):
【化2】
で示される化学構造を有する、4個のフェノール性ヒドロキシル基の天然ポリフェノールを担持するO-ジヒドロキシ(カテコール)である。ラリア・トリデンタタ(L. tridentata)にはまた、(NDGAに見られる4個のヒドロキシル基ではなく)1個のメトキシ側鎖と、3個のヒドロキシル側鎖とを有する天然のNDGA誘導体である、3’-O-メチル NDGAも含まれる。テラメプロコール(TMP)としても知られる、テトラ-O-メチル NDGAは、合成テトラメチル化誘導体のNDGAであって、分子量が470.51で、式(2):
【化3】
で示される化学構造を有する、転写阻害剤である。TMPは、DNA合成の間に、遺伝子プロモータ領域内にある特定のSp1 DNA結合ドメインについて転写因子Sp1と競合する。理論に拘束されるつもりはないが、ウイルスに感染した細胞において、TMPはSp1結合部位を遮断し、Sp1が制御するウイルスプロモータ活性および遺伝子発現を抑制し、それがウイルス転写およびウイルスに感染した細胞の複製を阻害すると考えられる。
【0041】
他の合成および半合成NDGA誘導体には、3、4、3’および4’位に4個のアセチル基(COCH3)を有する、テトラアセチル NDGA;NDGAの水溶性誘導体である、マルトース-トリ-O-メチル NDGA;NDGAのもう一つ別の水溶性誘導体である、テトラ-O-グリシル NDGA;ビス-環状サルフェート NDGA;ビス-環状カーボネート NDGA;メチレンジオキシフェニル NDGA;およびテトラアセテート NDGAが含まれる。さらなるNDGA誘導体は、式(1)のNDGA構造での1または複数の2、3、4、5、6、2’、3’、4’、5’および6’位にR基を付加することによって製造されてもよい。式(1)の1または複数の位置に付加してNDGA誘導体を形成し得るR基の例には、限定されないが、メチル、エチル、アセチル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ヘキサノイル、プロピオニル、ピペリジン-1-イル、アセトニド、フルオロ、モルホリノ、ヒドロキシル、メトキシ、ヒドロキシ-メトキシル、ジメチル、ジヒドロキシル、ジメトキシル、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、トリメトキシル基、塩素、臭素、ニトライト、アミノ、およびアセトアミドが含まれる。さらなるNDGA誘導体は、1または複数の次の:(CH2)xHal(ここで、xは1~10の整数であり、Halはハロゲン原子(例えば、Cl、F、Br、I)である);(CH2CH2O)y(ここで、yは1~10の整数である);およびカルバメート基で示されるR基を有してもよい。異なるR基を式(1)のNDGAに付加することによって、他のNDGA誘導体が製造され得ることを理解すべきである。かかる誘導体を生成する技術は当業者に公知であろう。
【0042】
本発明は、コロナウイルスのインビトロ複製を阻害する、NDGA誘導体と関連付けられる。NDGA誘導体での処理の対象となり得るコロナウイルスの例には、限定されないが、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、ヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、中東呼吸器症候群関連のコロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が含まれ、その中で後者がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を引き起こす。以下の討論では、NDGA誘導体の例示として、TMPに言及するが、TMPの効果は、3’-O-メチル NDGA、テトラ-O-メチル NDGA、およびDNA合成の間に、遺伝子プロモータ領域にあるSp1 DNA結合ドメインについて転写因子Sp1と競合する任意の他のNDGA誘導体などの他の天然または合成NDGA誘導体でも得られ得ることを理解すべきである。
【0043】
図1(実施例1)を参照して、LLC-MK2細胞(アカゲザル腎臓上皮細胞)をNL63に感染させ、0.2μM、1μM、および5μMのTMPで処理し、48時間後にNL63ウイルスRNAの存在について試験した。処理していないNL63感染のLLC-MK2細胞を陰性対照として用い、メシル酸カモスタット(CM)で処理したNL63感染のLLC-MK2細胞を陽性対照として用いた。当業者によって知られているように、CMは細胞内にてウイルス受容体に干渉することによって感染を防止する抗ウイルス剤である。本発明の文脈の中で、TMPの抗ウイルス活性は、TMPが細胞内にてSARS-CoV-2の複製に干渉する点でCMのそれとは異なる。かくして、TMPは、SARS-CoV-2に感染した患者の治療にCMとは異なる作用機序を提供する薬剤である。
図1に示されるように、NL63感染したLLC-MK2細胞をTMPで処理すると、1μM TMPで頭打ちとなる線形応答を示した。感染した細胞を0.2μMのTMPで処理すると、48時間後にウイルス活性の部分的な減少がもたらされ、その一方で1μMおよび5μMの両方のTMPでの処理によって48時間後にはウイルス活性がほとんどなくなり、TMPでの処理に起因する細胞毒性は識別できなかった。
図1に示されるように、NL63感染の陰性対照細胞(非処理)は、2,931,946+390,851個(平均+標準偏差)のコピー数のウイルスRNAを含有し、一方でNL63感染の細胞を0.2μM TMPで処理すると、ウイルスRNAコピー数は50,882+2,296個(平均+標準偏差;P=0.004 vs 陰性対照(T検定))に減少した。
【0044】
図2(実施例2)を参照して、NL63感染のLLC-MK2細胞に対するTMPの曝露時間を測定し、TMPへの長期曝露が細胞の細胞毒性をもたらし得るかどうかを決定した。宿主細胞に対する細胞毒性は、細胞溶解を引き起こす、ウイルス感染によって、または試験化合物の宿主細胞に対する毒性によって引き起こされ得る。細胞毒性は、細胞ハウスキーピング酵素である乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出、および最終反応における着色した基質のその変更によって測定される。死滅または溶解の細胞はLDHを細胞外環境に放出し;かくして、細胞の死滅によって放出されるLDHが多いほど、LDHの読取り値は高くなる。
図2に示されるように、LLC-MK2細胞を処理なし(陰性対照)でNL63に曝露すると、5日後にサンプル中の細胞の80%近くが溶解し、その一方でCMで処理したNL63に感染のLLC-MK2細胞(陽性対照)は5日後に細胞毒性を示さなかった。NL63に感染したLLC-MK2細胞を5μM TMPで処理した場合、細胞サンプルは5日後には10%の細胞溶解を示したに過ぎなかった。より多用量の20μM TMPで処理すると、5日後に20~30%の細胞溶解をもたらした。処理量を80μM TMPまで増やすと、細胞がプレートから分離し、結果として細胞がプレート上に残っていた場合よりも低いLDH値をもたらした。
【0045】
図3(実施例2)を参照して、NL63に感染したLLC-MK2細胞におけるTMP濃度を0.2μM TMPに下げると、サンプル中の細胞の1~2%が溶解するに過ぎず、これは陽性CM対照の結果に匹敵するものであった。TMPの濃度を上げると、サンプルの細胞毒性も約8%の細胞溶解まで上昇した。5μMのTMPで処理すると、20%近くの細胞溶解の細胞毒性結果をもたらし、それは
図2の5μM TMP処理で示された結果よりも2倍高かった。
図2および3の結果は、治療関連の細胞毒性を回避するために、インビトロでのTMPの用量が注意して調整されなければならないことを示す。
【0046】
図4A(実施例3)を参照して、Vero E6細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞)をSARS-CoV-2に感染させ、0.2μM、1μM、および5μMのTMPで処理し、48時間後にSARS-CoV-2 RNAの存在について試験した。感染しておらず、未処理のVero E6細胞を陰性対照として用い、CM処理の感染細胞を陽性対照として用いた。ここで、TMP処理は線形用量応答を示し、TMP処理の増加はウイルス複製の減少をもたらした。特に、20μM TMP処理は、48時間後にはウイルス複製がほとんどゼロを示し、それはCM陽性対照で測定されたウイルス複製に匹敵するものであった。
図4Bおよび4Cは、
図4Aに示されるのと同じTMP処理レジメンの2つの補足的な試験を示すが、線形応答の代わりに、
図4Bおよび4Cでは非線形応答を示し、SARS-CoV-2に感染したVero 6細胞を1μM TMPを用いて処理すると、ウイルス活性の増加を示し、その一方で5μMのTMPで処理すると、ウイルス複製はゼロであった。20μM TMPを用いて処理すると、CM処理の陽性対照に匹敵し得るウイルス複製の減少を示し、そのTMP処理よりもたらされる識別可能な細胞毒性はなかった。
図4A~4Cは、TMP処理したSARS-CoV-2感染の細胞に関してバラツキを示すが、結果はインビトロでのSARS-CoV-2感染のVero E6に対する最適なTMP処理範囲として5μMを示す。
【0047】
図5(実施例3)を参照して、Vero E6をSARS-CoV-2ウイルスで感染させ、0.2μM、1.0μM、5.0μM、20μM、および80μMのTMPで処理し、48時間後にモノクローナル抗体を用いて細胞の細胞毒性について試験した。処理することなく、感染させたVero E6細胞を陰性対照として用い、CMで処理し、感染させたVero E6細胞を陽性対照として用いた。ここで、モノクローナル抗体で同定したプラークの形成を介して細胞を細胞毒性について試験した。予想されるように、陰性対照は最も高い数のプラーク(89%)を生成し、80μM TMP処理もまた、高い割合の細胞溶解を示した。20μM TMPでの細胞の細胞毒性は、80μM処理と比べて減少し、その一方で0.2μM、1.0μM、および5μMのTMP処理は陽性対照に匹敵するもので、細胞毒性作用をほとんど示さなかった。
【0048】
図6(実施例4)を参照して、Vero-E6細胞についてのTMP処理プロトコルを、SARS-CoV-2で感染させたCalu-3細胞(ヒト非小細胞肺がん細胞)で繰り返した。処理することなく、感染させたCalu-3細胞を陰性対照として用い、CMで処理し、感染させたCalu-3細胞を陽性対照として用いた。モノクローナル抗体を用いて細胞の細胞毒性を同定した。この細胞株では、5μMのTMPは、陰性対照と比べた場合に、SARS-CoV-2のコピー数の平均にて25%の減少を示したのに対して、20μMおよび40μM TMP処理、ならびにCM陽性対照は、ほとんどゼロのウイルス複製を示す。細胞の細胞毒性に関しては、感染したCalu-3細胞を5μMおよび20μM TMPで処理しても、細胞毒性は結果として検出できず、40μM TMPで細胞毒性がわずかに増加しただけであった。
【0049】
図1-6の結果は、異なるコロナウイルスに感染した細胞株はすべて、TMP処理に対して積極的に応答するが、異なる細胞株は、処理による細胞毒性を回避しながら、最も積極的な抗ウイルス効果を示すのに、異なるTMP用量を必要とする可能性のあることを示す。TMPは核のSP1部位に結合すると考えられているため、SARS-CoV-2 RNAのTMP阻害は、可能性として、TMPがSP1制御遺伝子に結合した結果である。
【0050】
NDGA誘導体は親水性または疎水性であってもよい。疎水性NDGA誘導体の溶解度は、NDGA誘導体の粒径を、結晶性微粒子から1~100ナノメートルの範囲にある大きさの固形コロイド状ナノ粒子に減少させることによっても増加させることができる。より大きな結晶性粒子からナノ粒子を形成するのは、粉砕を介するそのより大きな粒子のトップ-ダウン機構のブレイクダウンによるか、または化学蒸着を介する小さなナノ粒子のボトム-アップ組み立てによって達成され得る。ナノ粒子に縮小されたNDGA誘導体は、生物学的利用能および生体内分布制御が改善され、吸収および効能を向上させ、薬物毒性を減少させた。親水性NDGA誘導体もまた、ナノ粒子のコロイド状分散に固有の生物学的利用能の改善より利益を受け得る。
【0051】
IVまたは経口用医薬を形成するために、NDGA誘導体は、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)、中鎖トリグリセリド(MCT)、モノオレイン酸グリセリル、コハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール(TPGS)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール400(平均分子量が400のPEG)、ポリソルベート20(ツィーン(TWEEN)(登録商標)20で市販されている、Croda Americas LLC, Wilmington, DE, USA)、ナリンギン(フラバノン-7-O-グリコシド)、マクロゴール-15-ヒドロキシステアレート(コリホール(KOLLIPHOR)(登録商標)HS15[以前はソルトール(Solutol)HS15]として市販されている、BASF SE, Ludwingshafen am Rhein, Germany)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物で可溶化されてもよい。MCTは、炭素数が6~12の中鎖脂肪酸(MCFA)の脂肪族テールを有する、2または3の脂肪酸とのトリグリセリドである。MCFAの例には、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)およびラウリン酸(C12)が含まれる。1の市販のMCTがミグリオール(MIGLYOL)(登録商標)812N(Cremer Oleo GmbH, Hamburg, Germany)である。溶解度を最大とし、希釈の際のNDGA誘導体の沈殿を防止するために、アルコール、界面活性剤およびpH調整剤をその可溶化したNDGA誘導体に添加してもよい。
【0052】
1の実施態様において、IV用製剤は、本明細書に記載されるように、無傷の化合物として、または固形ナノ粒子コロイドとして可溶化されたNDGA誘導体を含む。患者に静脈内投与されるであろうNDGA誘導体の量は0.1~50μMの範囲であろう。NDGA誘導体がTMPである場合、そのIV用製剤は、20~50%(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン(HPBCD)を含む水溶液中にTMPを1~10mg/mLで有してもよい。限定されないが、一例として、IV製剤は、30%HPBCDを含む水溶液中にTMPを6mg/mLで有してもよい。
【0053】
もう一つ別の実施態様において、経口用製剤は、本明細書に記載されるように、無傷の化合物として、または固形ナノ粒子コロイドとしてNDGA誘導体を含む。患者に経口投与されるであろうNDGA誘導体の量は0.1~100μMの範囲であろう。NDGA誘導体がTMPである場合には、その経口用製剤は、中鎖トリグリセリド(MCT)とコハク酸D-α-トコフェリルポリエチレングリコール(TPGS)とを含む懸濁液中に100~500mg/mLのTMPを有するであろう。TPGSの懸濁液中の量は50~100mg/mLの範囲であってもよい。限定されないが、一例として、経口用製剤は、MCTおよび85~90mg/mLのTPGSを含む懸濁液中に300mg/mLのTMPをを有してもよい。
【0054】
本明細書に記載のNDGA誘導体の経口用剤形は、即時放出(投与後に薬物が即時に放出される)または修飾放出(薬物の放出が投与後の一定期間、または長期間にわたる放出、あるいは体内の特定の標的に対する放出)のために、錠剤、カプセル、またはソフトゲルカプセル(ソフトゲル)として製剤化され得る。修飾放出の例として、限定されないが、遅延放出(薬物が最初の投与後のある時点でのみ放出される)および持続放出(薬物の放出を長期化させて投与の頻度を減らす)が挙げられる。持続性剤形には、徐放性剤形(薬物が特定の期間にわたって特定の濃度で送達される)および放出制御剤形(薬物の放出が、放出のタイミングではなく、薬物の血漿中の一定濃度に基づく)が含まれる。剤形が放出制御カプセルである場合、その剤形の放出制御特性を生成するのに使用されるポリマーは、カプセル殻内に入れられる顆粒中に組み込まれ、その中の後者は、典型的には、ゼラチンまたはヒドロキシメチルセルロース(HPMC)より製造される。修飾放出剤形の放出特性は、適切なポリマーが錠剤、ソフトゲル、またはカプセルの顆粒をコーティングするのに使用される、リザバーシステムを介して、あるいは薬物をポリマーに溶解または分散させるマトリックスシステムを介して達成されてもよい。遅延放出剤形の場合、経口用製剤は、一般に、薬物が胃の低pH環境よりもむしろ、小腸の高pH環境下で放出されるように、pH感受性ポリマーで腸溶コーティングされる。持続放出型剤形の場合、経口用製剤は活性剤を適切なポリマーを含むマトリックス中に組み込むことによって製造されてもよい。持続放出型剤形に使用されるポリマーの例には、限定されないが、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、ポリメタクリレート、酢酸コハク酸ヒプロメロース、およびその組み合わせが含まれる。
【0055】
1の実施態様において、NDGA誘導体は経口用製剤をpH感受性ポリマーで腸溶コーティングに付すことで遅延放出型経口用製剤に処方される。もう一つ別の実施態様において、NDGA誘導体はエチルセルロース、または他の適切なポリマーを経口用製剤に組み込むことによって持続放出型製剤に処方される。限定されないが、例示としての実施態様において、NDGA誘導体は遅延放出または持続放出型ソフトゲルに処方されるTMPである。
【0056】
本発明の様々な態様および/または実施態様の記載は、説明を目的として提示されるが、網羅的であること、または開示される実施態様に限定されることを意図するものではない。記載される実施態様の範囲および精神から逸脱することなく、多くの修飾および変形をすることは当業者に明らかであろう。本明細書にて使用される専門用語は、態様および/または実施態様の原理、市場で見いだされる技術を越える実用的応用または技術的改善を最もうまく説明するのに、あるいは当業者が本明細書にて開示される態様および/または実施態様を理解できるように選択された。
【0057】
実験
以下の実施例は、本明細書に記載の本発明の態様および実施態様の製造および使用の仕方を完全に開示して当業者に提供するのに記載される。量、温度等などの変数に関して正確性を確保するための努力がなされているが、実験誤差および偏差は考慮されるべきである。特記されない限り、部は重量部であり、温度は摂氏度、圧力は大気圧または大気圧付近である。特記されない限り、構成成分はすべて市場より購入した。
【0058】
以下の実施例において、ORIG3N(登録商標)2019年新型コロナウイルス(COVID-19)試験(以下、「Orig3n試験」という)(Orig3n,Inc.,Boston,MA,USA)を用いてウイルスRNAを測定した。試験に使用されるプライマーおよびプローブを含む、Orig3n RT-PCR試験に関する指示は、https://www.fda.gov/media/
136873/downloadにて利用され得る。その中で開示されるように、Orig3n試験は、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)遺伝子にある2個の領域を検出するための2個のプライマーとプローブのセット(N1およびN2)、SARS様コロナウイルスを普遍的に検出するための1個のプライマーとプローブのセット(N3)、および臨床サンプルにあるヒトRNasePを検出するための1個のプライマーとプローブのセットを使用する、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)試験である。
【0059】
RNAの400μLのサンプルからの抽出は、MAG-BIND(登録商標)ウイルスDNA/RNA96(Omega Bio-Tek, Inc., Norcross, GA, USA)を用いて行われた。RNAサンプルをQUANTSTUDIO(登録商標)リアルタイムPCRソフトウェアバージョン1.3を装着したQUANTSTUDIO(登録商標)7Flex(QS7)(Life Technologies Corp., Carlsbad, CA, USA)装置を用いて増幅かつ伸長させた。増幅プロセスの間に、プローブは順プライマーと逆プライマーとの間に位置する特定の標的配列にアリールする。PCRサイクルの伸長期の間に、Taqポリメラーゼの5’-ヌクレアーゼ活性が結合したプローブを分解し、レポーター色素(FAM)をクエンチャー色素(BHQ-1)から分離させ、蛍光シグナルを発生させる。各PCRサイクルで蛍光強度をモニター観察する。
【0060】
実施例1
TMPで処理したNL63に感染したLLC-MK2細胞のインビトロ分析
LLC-MK2サル上皮細胞を、NL63コロナウイルスの宿主細胞として、ATCCの推奨培地条件を用いて96ウェルの細胞培養プレートにおいて培養した。NL-63ウイルスを増殖培地(培地199+2.0%ウシ胎児血清)を用いて約500プラーク形成単位/mLにまで希釈した。細胞をウイルスに37℃で1時間感染させ、平衡塩類溶液で1回洗浄し、10%FBSを含有する新たな培地を添加した。該細胞を細胞障害効果(CPE)とプラーク(細胞死によって引き起こされる細胞単層の透明な領域)の形成について5日間にわたって観察した。死細胞は廃棄し、生細胞をTMPで試験するのに用いた。
【0061】
TMPのストック溶液は、TMPを100%DMSOに70℃に加温しながら3時間にわたって50mMで溶解させることで製造された。TMPを以下の濃度:0.2μM、1μM、および5μMにてNL63感染のLLC-MK2細胞に添加した。未処理の感染LLC-MK2細胞およびメシル酸カモスタット(CM)で処理した感染したLLC-MK2細胞を、各々、陰性および陽性対照として用いた。TMPで処理した48時間後に、400μLの上清を各プレートウェルから集め、ORIG3N RT PCR試験によって抽出したDNAからウイルスRNA(細胞RNAは集めなかった)およびウイルスコピー数を測定して決定した。
図1は細胞上清から測定されたNL63コロナウイルス RNAのコピー数の平均±SD(標準偏差)を示す。
【0062】
実施例2
TMP処理したNL63感染のLLC-MK2細胞での処理の細胞毒性分析
LLC-MK2細胞に、実施例1にて提供されるようにNL63を接種した。細胞を細胞毒性について乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を介して試験し、その中で後者をLDHアッセイマルチプレートリーダーを用いて測定して定量した。細胞毒性アッセイは3回行い、
図2および3にて示されるように、各処理群および対照での値をアッセイ全体を通して平均化した。
【0063】
実施例3
TMP処理したSARS-CoV-2感染のVERO E6細胞のインビトロ分析
VeroE6アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞を、96ウェル細胞培養プレートにおいてSARS-CoV-2コロナウイルスの宿主細胞として培養した。10%ウシ胎児血清(FBS)、L-グルタミンおよびNa-ピルビン酸リン酸緩衝セイラインを補足したイーグル最小必須培地(EMEM)において500~1500単位のSARS-CoV-2ウイルスを、Ogandoら、Journal of General Virology(2020)
(biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.20.049924v1で利用可能)にて記載されるように、Vero E6細胞培養ウェルに導入した。細胞を、48時間にわたって、細胞毒性作用とプラーク(すなわち、細胞死によって引き起こされる細胞単層での透明な領域)の形成について観察した。プラークは、マウスモノクローナル抗体J2でのプラークアッセイを用いて同定された(Ogandoら、上掲)。ウイルスRNAもまた、培地の上清より単離され、処理後のウイルスのコピー数を推定するために、RT PCRによってウイルスのコピー数を測定した。
【0064】
TMPのストック溶液は、TMPを100%DMSOに70℃に加温しながら3時間にわたって50mMで溶解させることで製造された。TMPを以下の濃度:0.2μM、1μM、5μM、20μMおよび80μMにてSARS-CoV-2感染のVero E6細胞に添加した。未処理の感染Vero E6細胞およびCMで処理した感染Vero E6を、各々、陰性および陽性対照として用いた。TMPで処理した48時間後に、400μLの上清を各プレートウェルから集め、1μM、5μM、および20μM TMP処理したウェルについて、ならびに陰性および陽性対照についてORIG3N RT PCR試験によって、抽出したDNAからウイルスRNA(細胞RNAは集めなかった)およびウイルスコピー数を測定した。別個に、細胞溶解を5つのすべてのTMP処理したウェルに、ならびに陰性および陽性対照について測定した。アッセイをさらに2回繰り返した。
図4A-4Cは、Vero E6細胞の3回のアッセイについて細胞上清から測定したSARS-CoV-2 RNAのコピー数の平均±SDを示す。
図5にて細胞溶解を測定した結果を示す。
【0065】
実施例4
TMP処理したARS-CoV-2感染のCalu-3細胞のインビトロ分析
Calu-3ヒト非小細胞肺がん細胞を、96ウェル細胞培養プレートにおいてSARS-CoV-2コロナウイルスの宿主細胞として培養した。10%ウシ胎児血清(FBS)、L-グルタミンおよびNa-ピルビン酸リン酸緩衝セイラインを補足したイーグル最小必須培地(EMEM)において500~1500単位のSARS-CoV-2ウイルスを、Ogandoら、上掲にて記載されるように、Vero E6細胞培養ウェルに導入した。細胞を、48時間にわたって、細胞毒性作用とプラーク(すなわち、細胞死によって引き起こされる細胞単層での透明な領域)の形成について観察した。プラークは、マウスモノクローナル抗体J2でのプラークアッセイを用いて同定された(Ogandoら、上掲)。ウイルスRNAもまた、培地の上清より単離され、処理後のウイルスのコピー数を推定するために、RT PCRによってウイルスのコピー数を測定した。
【0066】
TMPのストック溶液は、TMPを100%DMSOに70℃に加温しながら3時間にわたって50mMで溶解させることで製造された。TMPを以下の濃度:5μM、20μM、および40μMにてSARS-CoV-2感染のVero E6細胞に添加した。未処理の感染Vero E6細胞およびCMで処理した感染Vero E6を、各々、陰性および陽性対照として用いた。TMPで処理した48時間後に、400μLの上清を各プレートウェルから集め、ORIG3N RT PCR試験によって、抽出したDNAからウイルスRNA(細胞RNAは集めなかった)およびウイルスコピー数を測定した。アッセイをさらに2回繰り返した。
図6は、Calu-3細胞について細胞培養から測定したSARS-CoV-2 RNAのコピー数の平均±SD、ならびにプラーク数によって測定されるようなTMP処理についての細胞毒性の結果を示す。