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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-13
(45)【発行日】2024-06-21
(54)【発明の名称】多結晶SiC成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20240614BHJP
   C01B 32/977 20170101ALI20240614BHJP
【FI】
C23C16/42
C01B32/977
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023563999
(86)(22)【出願日】2023-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2023018125
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2022118431
(32)【優先日】2022-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】杉原 孝臣
(72)【発明者】
【氏名】牛嶋 裕次
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111495(JP,A)
【文献】特開2021-054667(JP,A)
【文献】特開2012-136375(JP,A)
【文献】特開2021-082765(JP,A)
【文献】特開2021-031332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C01B 32/977
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶SiC成形体であって、
当該多結晶SiC成形体は、第1の面と、第1の面の反対面である第2の面とを有する板状の形状を有しており、
当該多結晶SiC成形体の窒素含有量は、第1の面から第2の面にわたって200~1000ppm(質量百万分率)の範囲内であり、
抵抗率が0.050Ωcm以下であり、
ラマンスペクトルにおける波数950~970cm-1の範囲におけるピーク強度を「A 」とし、ラマンスペクトルにおける波数780~800cm-1の範囲におけるピーク強度を「B」とした場合に、第1の面側及び第2の面側の両面にわたるピーク強度比(A/B)の平均が0.040以下で、第1の面側のピーク強度比の平均と第2の面側のピーク強度比の平均の差が0.040以下であることを特徴とする
多結晶SiC成形体。
【請求項2】
窒素含有量が340~960ppm(質量百万分率)の範囲内である、
請求項1に記載の多結晶SiC成形体。
【請求項3】
CVD法によって多結晶SiC成形体を製造する方法であって、前記方法は、
反応室内に、原料ガス及びキャリアガスとともに、窒素ガスを導入し、
成膜開始から成膜終了までの窒素ガス濃度を一定速度で上昇させることを備え
前記多結晶SiC成形体は、
抵抗率が0.050Ωcm以下であり、
ラマンスペクトルにおける波数950~970cm -1 の範囲におけるピーク強度を「A 」とし、ラマンスペクトルにおける波数780~800cm -1 の範囲におけるピーク強度を「B」とした場合に、成長面側及び基材面側の両面にわたるピーク強度比(A/B)の平均が0.040以下で、成長面側のピーク強度比の平均と基材面側のピーク強度比の平均の差が0.040以下である、
製造方法。
【請求項4】
窒素含有量が200ppm(質量百万分率)以上である、
請求項3に記載の多結晶SiC成形体の製造方法。
【請求項5】
成膜開始から反応終了までの窒素原子含有化合物ガス流量の上昇率が、1.0%/hr以上、10.0%/hr以下である請求項3または4に記載の多結晶SiC成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD-SiCにより形成された多結晶SiC成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶SiC成形体は、耐熱性、耐蝕性及び強度等の種々の特性に優れており、様々な用途に使用されている。多結晶SiC成形体は、CVD法により基材の表面に多結晶SiCを析出させ、成膜した後、基材を除去して得られる。
例えば、特許文献1には、半導体製造装置用の部材やエッチング装置、CVD装置等の部材に用いられることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-31527号公報
【発明の概要】
【0004】
多結晶SiC成形体には、用途に応じて、様々な特性が要求される。
例えば、特許文献1に記載されるように、多結晶SiC成形体をプラズマエッチング用部材として使用する場合、静電気を逃がすためや、プラズマガスを均一に発生させるために、多結晶SiC成形体は低抵抗率で均一な抵抗率でなければならない。
本発明は、低抵抗率でかつ均一な抵抗率の半導体製造装置用部材を安定的に供給することを目的としている。従来、多結晶SiC成形体の厚み方向での抵抗率にばらつきが大きく、多結晶SiC成形体としては十分な性能が発揮できないことがあった。
具体的には、四端子法ないし四探針法で測定する方法では、mmから数十mmレベルでのマクロレベル領域での評価であったが、ミクロンレベルでの厚さ方向での抵抗分布を直接的に知ることは、現在も非常に困難である。
一方で、ラマンスペクトルではミクロンレベルの分布を評価することが可能であり、従来のCVD-SiCでは、抵抗率のばらつきが小さいといってもミクロンレベルでは十分に大きいことが判明した。厚さ方向の抵抗率のばらつきは、部材の消耗により部材表面の抵抗率が変動することから、装置の運転条件を調整する必要が生じるため、装置のスループット低下を引き起こす。こうした点から、低抵抗率でかつ厚み方向での均一な抵抗率の半導体製造装置用部材が望まれている。
そこで、本発明の課題は、低抵抗率であり、且つ、厚み方向の抵抗率のバラつきの小さい多結晶SiC成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の事項を含んでいる。
[1]抵抗率が0.050Ωcm以下であり、
ラマンスペクトルにおける波数950~970cm-1の範囲におけるピーク強度を「A」とし、ラマンスペクトルにおける波数780~800cm-1の範囲におけるピーク強度を「B」とした場合に、ピーク強度比(A/B)の平均値が0.040以下で、成長面側のピーク強度比の平均と基材面側のピーク強度比の差が0.040以下であることを特徴とする
多結晶SiC成形体。
[2]窒素含有量が200ppm(質量百万分率)以上である、[1]に記載の多結晶SiC成形体。
[3]CVD法によって多結晶SiC成形体を製造する方法であって、
反応室内に、原料ガス及びキャリアガスとともに、窒素ガスを導入し、
成膜開始から反応終了までの窒素ガス濃度を一定速度で上昇させることを備える、[1]または[2]記載の多結晶SiC成形体の製造方法。
[4]成膜開始から反応終了までの窒素原子含有化合物ガス流量の上昇率が、1.0%/hr以上、10.0%/hr以下である[3]に記載の多結晶SiC成形体の製造方法。
【0006】
本発明によれば、低抵抗率であり、且つ、厚さ方向の抵抗率のバラつきの小さい多結晶SiC成形体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、多結晶SiC基板の製造方法に使用される製造システムの一例を示す概略図である。
図2図2は、多結晶SiC膜4が成膜された円板形状の黒鉛基材2の径方向断面を示す概略断面図である。
図3図3は、円板外周の多結晶SiC膜4を取り除いた後に円板形状の黒鉛基材2の厚みを等分切断した、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基材2の径方向断面を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の本発明の詳細な説明は実施形態の例示のひとつであり、本発明は本実施形態に何ら限定して解釈されるものではない。
多結晶SiC成形体は、板状であってもよく、板状の多結晶SiC成形体は、容易に取り扱える程度の厚みを有しており、例えば300~5000μm程度の厚みを有している。
また、多結晶SiC成形体は、筒状であってもよく、筒状の多結晶SiC成形体は、容易に取り扱える程度の厚みを有しており、例えば300~5000μm程度の厚みを有している。
【0009】
多結晶SiC成形体は、0.050Ωcm以下の抵抗率を有している。このような抵抗率を有していることにより、半導体製造装置内の静電気を除去し易くなる。また、多結晶SiC成形体の抵抗率は、安定した半導体製造装置の運転を確保する観点から、好ましくは0.030Ωcm以下、更に好ましくは0.020Ωcm以下である。
抵抗率は、例えば、多結晶SiC成形体に所定の量で窒素を含有させることにより、調整することができる。窒素含有量を増やすことにより、抵抗率を下げることができる。
【0010】
多結晶SiC成形体の窒素含有量は、例えば200ppm(質量百万分率)以上であり、好ましくは200~1000ppm(質量百万分率)である。窒素含有量がこのような範囲にある場合、窒素含有量の変化に対する抵抗率の変化の度合いが小さくなる。従って、窒素含有量を制御することによって、所望する抵抗率を得やすくなる。また、窒素含有量が1000ppm(質量百万分率)以下であれば、窒素の導入により生じる結晶欠陥が特性に影響を及ぼすこともほとんどない。
尚、窒素の導入方法は特に限定されるものでは無い。例えば、後述するように、CVD法によって多結晶SiC膜を成膜する際に、窒素原子含有化合物ガスを用いることにより、成膜される多結晶SiC膜に窒素を導入することができる。
【0011】
多結晶SiC成形体は、所定の結晶構造を有している。具体的には、多結晶SiC成形体から得られるラマンスペクトルにおいて、ピーク強度「A」とピーク強度「B」との比(A/B)の平均値が、0.040以下である。
ここで、ピーク強度「A」とは、ラマンスペクトルにおける波数950~970cm-1の範囲におけるピークの強度(最大値)である。このピークは、多結晶SiC材料のLO(縦光学フォノン)ピークとして知られ、積層欠陥(N2含有量も同様)の増加とともに低下しながら、ブロードなバンドにシフトするため、キャリア濃度を評価することが可能といわれている。
また、ピーク強度「B」とは、ラマンスペクトルにおける波数780~800cm-1の範囲におけるピークの強度(最大値)である。当該ピークは、多結晶SiC材料のTO(横光学フォノン)ピークとして知られており、3C-SiCにおいては、最大強度で観察されるピークである。3C-SiCにおいては、ピーク強度及びA、Bのみが観察される。
ピーク強度比(A/B)の平均値が0.040以下であり、成長面側のピーク強度比の平均と基材面側のピーク強度比の平均値の差が0.040以下であるということは、多結晶SiCが低抵抗率であり(すなわち、ピーク強度比(A/B)が小さいほど抵抗は低い)、さらに抵抗率の厚さ方向のバラつきが十分に小さいことを意味している。ピーク強度比(A/B)の平均値が0.040以下であり、前記成長面側のピーク強度比の平均と前記基材面側のピーク強度比の平均の差が0.040以下であることにより、抵抗率の厚さ方向のバラつきの小さい、低抵抗率多結晶SiC成形体が提供される。
なお、低抵抗率でかつ抵抗率の厚さ方向のバラつきの小さい多結晶SiC成形体について、半導体製造装置用部材に使用された際により運転条件の安定を確保する観点から、ピーク強度比(A/B)の平均値が0.020以下であることがより好ましく、前記成長面側のピーク強度比の平均と前記基材面側のピーク強度比の平均の差が0.020以下であることがより好ましい。
【0012】
従来、抵抗率の測定方法は、JIS K7194に準拠し、多結晶SiC成形体から縦10mm×横10mm×厚さ0.3~1.0mmのテストピースを加工し、四探針法で測定した電気抵抗より求める。テストピースの大きさからもわかるようにこの様にして得られた抵抗率はmmサイズのバルク体の平均的な抵抗率を示している。サンプルを小さくすることで測定領域を狭めたとしても、抵抗値そのものは、多結晶SiC成形体に欠陥などがあったとしても平均値として測定されることになる。
一方、ラマンスペクトルによる測定の場合は、照射径が2μmと非常に狭いミクロなレンジを測定することが可能なることが判明した。
すなわち、従来の抵抗率が均一といわれているものであっても微視的には、不均一であり、その結果、半導体製造装置用部材として性能が出ない場合や不良が多いことは、とりわけ抵抗率の低いこと、かつ抵抗率の厚さ方向の分布が均一であることが要求される用途であることが、容易に想像できる。
【0013】
続いて、多結晶SiC成形体の製造方法について説明する。上記のような特性を有する多結晶SiC成形体は、以下に説明するようなCVD法を用いた特定の製造方法を採用することによって、製造することができる。
図1は、本実施形態に係る多結晶SiC成形体の製造方法に使用される製造システムの一例を示す概略図である。この製造システムには、CVD炉1と、混合器3とが設けられている。混合器3では、キャリアガスと、SiCの供給源となる原料ガスと、窒素原子含有化合物ガスとが混合され、混合ガスが生成される。混合ガスは、混合器3からCVD炉1に供給される。CVD炉1内には、黒鉛基材2が複数配置されている。この黒鉛基材2は、それぞれ、円板形状又は円筒形状である。CVD炉1に混合ガスが供給されると、CVD法によって各黒鉛基材2上に多結晶SiC膜4が成膜される。また、窒素原子含有化合物ガス由来の窒素が、多結晶SiC膜にドープされる。この多結晶SiC膜4を黒鉛基板2から分離、または多結晶SiC膜4から黒鉛基材2を除去し、研削や研磨をする事でこの多結晶SiC膜を多結晶SiC成形体とする。
なお、SiCの供給源となる原料ガスは、1成分系(Si及びCを含むガス)でも、2成分系(Siを含むガスとCを含むガス)を使用してもよい。
成膜される多結晶SiC膜の膜厚は、例えば500~6000μm、好ましくは450~5500μmである。
成膜時に使用されるキャリアガスとしては、特に限定されるものでは無いが、例えば、水素ガス等を用いることができる。
原料ガスとしては、Si及びCの供給源を含むガスであれば特に限定されるものでは無い。例えば、分子内にSi及びCを含有するガスや、分子内にSiを含有するガスと炭化水素ガスとの混合ガス、等を用いることができる。
原料ガスとしては、例えば、1成分系の場合は、メチルトリクロロシラン、トリクロロフェニルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、及びクロロトリメチルシラン等を挙げることができる。また2成分系の場合は、トリクロロシラン、及びモノシラン等のシラン含有ガスと、炭化水素ガスとの混合物等を挙げる事ができる。
【0014】
CVD法による具体的な成膜条件は、特に限定されるものでは無いが、例えば、次のような条件を採用することができる。
CVD炉におけるガス滞留時間は、例えば、10~200秒、好ましくは20~100秒である。
反応温度は、温度は、例えば1100~1900℃、好ましくは1400~1600℃である。
窒素原子含有化合物ガスの流量は、例えば、原料ガス流量とキャリアガス流量の合計流量に対して5~100vol%、好ましくは10~70vol%である。
なお、多結晶SiC成形体の抵抗率の厚さ方向のバラつきを抑制する観点から、成膜開始から成膜終了までの窒素原子含有化合物ガス流量の上昇率が、1.0~10.0%/hrが好ましく、安定して得るためには2.50~7.50%/hrが好ましく、より安定して効率よく得るためには4.0~6.0%/hrが好ましい。
これは、成膜初期は粒径が細かく粒界が多いのに対して、成膜終期には粒径が成長して相対的に粒界が少ないことに起因する。即ち、粒界には優先的に窒素が固溶するため、粒界が多い成膜初期は窒素固溶が多くなるのに対し、成膜終期では窒素固溶が少なくなる。そのため、成膜初期の面となる前記基材面側のラマンピーク強度比は低抵抗率の低い値となる一方、反対に成膜終期の面となる前記成長面側のラマンピーク強度比は高抵抗率の高い値となる。こうしたことから、多結晶SiC成形体の抵抗率が厚さ方向にばらつくこととなる。
成膜初期から成膜終期に向けて窒素原子含有化合物ガスの流量を増やすことで、窒素存在量を増やし窒素固溶を多くしている。その結果、成膜初期から終期にかけて窒素固溶を一定の範囲にすることが可能となり、厚さ方向の抵抗率のばらつきを低減することが可能となった。
また例えば、原料ガスが気体原料である場合は、原料ガス濃度は、原料ガス流量とキャリアガス流量とを制御することによって、調整することができる。また、原料ガスが液体原料由来のガスである場合には、原料ガス濃度は、原料タンク内の液体原料の温度を制御し、液体原料の蒸気圧を制御することによって、調整することができる。
【0015】
CVD法による多結晶SiC膜の成膜工程が終了すると、多結晶SiC膜4が成膜された各黒鉛基材2がCVD炉1から取り出され、その後、必要に応じて、多結晶SiC成形体のみを取り出すように加工される。
図2は、多結晶SiC膜4が成膜された、中心線O‐O’を持つ円板形状の黒鉛基材2の径方向断面を示す概略図である。ここで、黒鉛基材2は、その全面を覆うように多結晶SiC膜4が成膜されている。例えば、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基材2は、まず、外周加工される。詳細には、図2に示される破断線A‐A’に沿って、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基板2の外周部のみが切断され、取り除かれる。次いで、図2に示される、黒鉛基材2の厚さを等分する線、すなわち破断線B‐B’に沿って、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基材2が、厚み方向において2分割されるように切断される。その結果、図3に示されるように、黒鉛基材2と多結晶SiC膜4との積層体が得られる。更に次いで、その積層体から黒鉛基材2のみを、酸化又はショットブラスト法などによって除去する。その後、黒鉛基材2の除去によって露出した多結晶SiC膜4の露出面を、研削加工等によって研削する。上記に例示する加工方法によって、多結晶SiC成形体を得ることができる。
【0016】
以上説明したように、本実施形態によれば、CVD法によって多結晶SiC膜を成膜する際に、窒素原子含有化合物ガスを一定速度で上昇させることで、窒素含有量が多結晶SiC成形体の厚さ方向に所定の値で制御されているので、低抵抗率かつ厚さ方向の抵抗率のバラつきの小さい多結晶SiC成形体を得ることができる。
尚、本実施形態によれば、低抵抗率かつ厚さ方向の抵抗率のバラつきが小さい、多結晶SiC成形体が得られるので、半導体製造装置用部材用途に好適である。但し、本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、低抵抗率かつ厚さ方向に抵抗率のバラつきの小さい事が求められる用途であれば、他の用途であっても好適に適用できる。
例えば、本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、半導体製造時にプラズマエッチング装置用部材として、エッジリング、電極板及びヒーター等に使用できる。また、半導体製造時に半導体熱処理装置用部材としてダミーウェハに使用できる。
尚、エッジリング及び電極板として使用される場合、多結晶SiC成形体は、例えば、1000~5000μm程度の厚みを有している。また、ダミーウェハとして使用される場合、多結晶SiC成形体は、例えば300~1500μm程度の厚みを有している。
【実施例
【0017】
(実施例1)
CVD炉内に、直径160mm、厚さ5mmの黒鉛基板を設置した。CVD炉に、メチルトリクロロシラン(原料ガス)、水素(キャリアガス)、及び窒素ガスを導入し、1500℃にて10時間、黒鉛基板上に多結晶SiC膜を成膜した。
成膜条件を表1に示す。
ガス滞留時間は、成膜開始時は33.1(秒)で、成膜終了時は32.0(秒)であった。尚、ガス滞留時間は、下記式により算出した。
(式1):ガス滞留時間(秒)=(炉内容積/ガス流量)×((20+273)/(反応温度+273))×60
成膜後、黒鉛基板をCVD炉から取り出し、外周加工及び分割加工を行った。更に、黒鉛基材を除去し、直径150mm、厚さ0.6mmの多結晶SiC成形体を得た。更に、平面研削加工にて、直径150mm、厚さ0.5mmの多結晶SiC成形体を得た。
この際、黒鉛基材に接していた面を基材面側とし、反対面を成長面側とした。基材面側の平面と反対面の成長面側の平面を直径150mmが全面出るように最低限の研削を行い、厚さを0.5mmに調整した。これを、実施例1に係る多結晶SiC成形体として得た。
【0018】
(実施例2~7、比較例1~2)
実施例1と同様の方法を用いて、実施例2~7及び比較例1~2に係る多結晶SiC成形体を得た。但し、成膜条件を、表1に記載されるように変更した。尚、比較例1では、窒素ガス流量を一定(70L/min)とした。
【0019】
(抵抗率の測定)
各実施例及び比較例において得られた多結晶SiC成形体を、縦10mm×横10mm×厚さ0.3~1.0mmのテストピースに加工し、四探針法により、抵抗率を測定した。抵抗率の測定には、JIS K7194準拠の三菱ケミカルアナリテック社製、ロレスターGP MCT-T610を使用した。
【0020】
(ラマンスペクトルの測定)
得られた多結晶SiC成形体のラマンスペクトルを、(株)堀場製作所製 顕微ラマン分光装置 LabRAMHR800を用いて、以下条件にて測定した。
励起波長:532nm
照射径:φ2μm
露光時間:15秒
積算回数:2
グレーティング:1800gr/mm
得られたラマンスペクトルにおいて、波数が810~940cm-1の範囲におけるスペクトル強度の平均値を、バックグラウンドの補正値とし、波数950~970cm-1の範囲における最大スペクトル強度を「ピークA(補正前)」および波数780~800cm-1の範囲における最大スペクトル強度を「ピークB(補正前)」とする。各ピーク強度(補正前)よりバックグラウンドの補正値を差し引くことで、ピークAおよびピークBを求めた。そして、ピーク強度比(A/B)を算出した。ここで、ピークA(補正前)がバックグラウンドの補正値より小さい場合は、ピークAを0とする。ピーク強度比(A/B)の平均値は、基材面側を5点、成長面側を5点測定し、それぞれのピーク強度比を求め、その10点の算術平均を求めた。前記成長面側のピーク強度比(A/B)の平均と前記基材面側のピーク強度比の平均の差は、基材面側を5点、成長面側を5点測定し、それぞれのピーク強度比を求め、それぞれの算術平均の、大きい値から小さい値を引いて求めた。
【0021】
(窒素含有量の測定)
ATOMIKA社製SIMS―4000を用いて、多結晶SiC成形体中の窒素含有量を測定した。
【0022】
(結果の考察)
各種ガス流量、及び原料ガス濃度、反応時間、窒素ガス流量上昇率の設定を表1に、抵抗率、SiC中の窒素濃度、ラマンスペクトルのピーク強度比の平均値及び基材面側と成長面側の差並びに平均値を表2に示す。
実施例1~7は、比較例1及び2よりもラマンスペクトルのピーク強度比の平均値は小さく、基材面側と成長面側のピーク強度比の差が小さかった。実施例1~7のラマンスペクトルの平均値は0.040よりも小さく、基材面側と成長面側のピーク強度比の差は、0.040よりも小さかった。一方、比較例1及び2におけるラマンスペクトルのピーク強度比の平均値は0.050以上で、ラマンスペクトルの基材面側と成長面側のピーク強度比の差ピーク強度比の差は、0.080以上であった。すなわち、ラマンスペクトルの基材面側と成長面側のピーク強度比の差が0.040以下であることにより、多結晶SiC基板の厚さ方向の抵抗率のバラつきが小さいことが理解される。
【0023】
【表1】

【表2】
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、低抵抗率であり、且つ、厚み方向の抵抗率のバラつきの小さい多結晶SiC成形体及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 CVD炉
2 黒鉛基材
3 混合器
4 多結晶SiC膜
【要約】
本発明は、低抵抗率であり、その厚さ方向の抵抗率のバラつきの小さい、多結晶SiC成形体及びその製造方法を提供する。多結晶SiC成形体は、抵抗率が0.050Ωcm以下であり、ラマンスペクトルにおける波数950~970cm-1の範囲におけるピーク強度を「A」とし、ラマンスペクトルにおける波数780~800cm-1の範囲におけるピーク強度を「B」とした場合に、ピーク強度比(A/B)の平均値が0.040以下であり、成長面側のピーク強度比の平均と基材面側のピーク強度比の平均の差が0.040以下である。
図1
図2
図3