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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】薬液注入コントローラ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/175 20060101AFI20240617BHJP
   A61M 5/152 20060101ALI20240617BHJP
   A61M 5/168 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A61M5/175
A61M5/152
A61M5/168 506
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020566504
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2020001543
(87)【国際公開番号】W WO2020149406
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019006387
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 慎吾
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077449(JP,A)
【文献】特開平10-295812(JP,A)
【文献】特表2013-536033(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0207361(US,A1)
【文献】特表2014-502525(JP,A)
【文献】特開平10-258121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/175
A61M 5/152
A61M 5/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するダイヤフラム部からなるサブリザーバーを収容するハウジングにおいて該サブリザーバーを押圧変形させて急速の薬液投与を実行する押圧操作部材が往復移動可能に組み付けられており、該押圧操作部材の押圧操作面と、該サブリザーバーと、該サブリザーバーに対する薬液の流入側及び流出側の流路が何れも該押圧操作部材側とは逆側に配設された流路配設スペースとが、該押圧操作部材の移動方向で直列的に並んで設けられていると共に、
該流路配設スペースには、前記流出側の流路を連通/遮断する急速投与弁と、前記流入側の流路上に設けられた制限流路と、該流入側の流路上で該制限流路をバイパスするプライミング流路と、該プライミング流路を遮断する閉止弁とが配されている薬液注入コントローラ。
【請求項2】
前記押圧操作部材の移動方向において、前記ハウジングの中央よりも該押圧操作部材側に前記サブリザーバーが配置されている請求項1に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項3】
前記押圧操作部材の押圧操作に際して前記サブリザーバーを圧迫するプランジャが設けられていると共に、該プランジャを該サブリザーバーに向けて付勢するコイルスプリングが設けられており、
該押圧操作部材に向けて開口する凹所が該プランジャに形成されていると共に、該押圧操作部材には該凹所に向けて突出する突起が設けられており、
該プランジャの該凹所と該押圧操作部材の該突起とによって該コイルスプリングの両端部分が位置決めされている請求項1又は2に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項4】
前記流出側の流路が前記急速投与弁によって前記押圧操作部材の移動方向に対して直交する方向に押圧されて遮断されるようにした請求項1~3の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項5】
前記プライミング流路が前記閉止弁によって前記押圧操作部材の移動方向に対して直交する方向に押圧されて遮断されるようにした請求項1~4の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項6】
前記プライミング流路が前記サブリザーバーから前記押圧操作部材の移動方向に直線的に延びている請求項1~5の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項7】
前記ハウジングが長手形状であり、該ハウジングの外周面が使用者の手による把持面とされていると共に、
前記押圧操作部材が該ハウジングの長手方向一方の側に設けられて、該押圧操作部材が該ハウジングの長手方向に往復移動可能とされており、
該押圧操作部材の先端面において使用者が親指で押圧操作する指先押圧面として前記押圧操作面が構成されている請求項1~6の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項8】
前記押圧操作部材の移動方向と直交する方向における前記ハウジングの断面形状が扁平な中空断面形状とされている請求項1~7の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項9】
前記閉止弁が、前記プライミング流路を押しつぶすように閉止する傾斜当接辺を備えた板状の弁体を有している請求項1~8の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項10】
前記流入側の流路と前記流出側の流路とを接続して前記サブリザーバーを経ずに持続的に薬液投与する流量制御部が設けられている請求項1~9の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項11】
前記制限流路、前記プライミング流路及び前記閉止弁よりも前記押圧操作部材から遠い位置に前記流量制御部が設けられている請求項10に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項12】
前記押圧操作部材の移動方向に直交する方向での前記ハウジングの断面形状が扁平な中空断面形状とされており、
前記流入側の流路と前記流出側の流路を接続するように設けられて前記流量制御部を有する接続流路の延出方向と、該流出側の流路に対する前記急速投与弁の移動方向と、前記プライミング流路に対する前記閉止弁の移動方向との少なくとも1つが、該ハウジングの断面における長軸方向とされている請求項10又は11に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項13】
前記流入側の流路と前記流出側の流路には外部流路接続用のポートがそれぞれ設けられており、それら両ポートを接続するように前記流量制御部を有する接続流路が設けられている請求項10~12の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項14】
前記接続流路が前記ハウジング内において、該ハウジングの周方向に向かって湾曲して配設されている請求項13に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項15】
前記流量制御部の移動を規制する規制部が設けられている請求項10~14の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【請求項16】
前記流量制御部が前記ハウジングに収容状態で設けられている請求項10~15の何れか1項に記載の薬液注入コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液の持続投与を行うための薬液投与装置において自己操作による薬液の急速注入を行うための薬液注入コントローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、メインリザーバーからメインラインを通じて持続的な薬液投与を行う薬液投与装置が知られている。薬液投与装置は、例えば鎮痛剤や麻酔剤などを少量ずつ持続的に体内へ投与する際に用いられており、メインリザーバーと患者への薬液投入側であるコネクタとをつなぐメインラインに、薬液の流量を制限する流量制御部が設けられる。
【0003】
ところで、薬液投与装置は、自己操作によって薬液の急速投与を行うための薬液注入コントローラを備える場合がある。薬液注入コントローラは、薬液を貯留するサブリザーバーを備えており、例えば、患者がプッシュボタンを押し込むなどの自己操作をすることにより、メインラインから分岐したサブラインを通じて、薬液注入コントローラのサブリザーバーに貯留された薬液が患者の体内へ急速投与されるようになっている。なお、サブラインは、サブリザーバーに対する薬液の流入側および流出側の流路を含むラインである。
【0004】
薬液注入コントローラは、短い間隔で薬液の急速投与が実行されることによる薬液の過剰投与を防ぐために、サブリザーバーへ薬液を供給する流路上に流量を制限する制限流路等の高い機能性が求められる一方、高機能であるほどにサイズが大型化してしまうという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、コンパクトでありつつ、サブリザーバーに対する薬液の流入側および流出側の流路を含むサブラインのプライミングを速やかに完了し得る、新規な構造の薬液注入コントローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様は、薬液注入コントローラであって、可撓性を有するダイヤフラム部からなるサブリザーバーを収容するハウジングにおいて該サブリザーバーを押圧変形させて急速の薬液投与を実行する押圧操作部材が往復移動可能に組み付けられており、該押圧操作部材の押圧操作面と、該サブリザーバーと、該サブリザーバーに対する薬液の流入側及び流出側の流路が何れも該押圧操作部材側とは逆側に配設された流路配設スペースとが、該押圧操作部材の移動方向で直列的に並んで設けられていると共に、該流路配設スペースには、前記流出側の流路を連通/遮断する急速投与弁と、前記流入側の流路上に設けられた制限流路と、該流入側の流路上で該制限流路をバイパスするプライミング流路と、該プライミング流路を遮断する閉止弁とが配されているものである。
【0008】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、サブリザーバーに対して押圧操作部材の移動方向に流路配設スペースが設けられ、流路配設スペースに制限流路をバイパスするプライミング流路が設けられていると共に、プライミング流路を遮断する閉止弁が設けられている。そして、プライミング流路の連通状態でプライミング液を注入することにより、サブリザーバーや、サブリザーバーに対する薬液の流入側および流出側の流路を含むサブラインに対して、プライミング液がプライミング流路を通じて速やかに充填される。それ故、サブラインのプライミングに必要な時間の短縮が図られる。
【0009】
また、サブラインのプライミング完了後にプライミング流路を閉止弁によって遮断することで、サブリザーバーに対する薬液の再充填に要する時間が制限流路によって設定される。それ故、急速の薬液投与が連続的に実行されるのを防止して、薬液の過剰投与を防ぐことができる。
【0010】
さらに、押圧操作部材の押圧操作面と、サブリザーバーと、サブリザーバーに対する薬液の流入側及び流出側の流路配設スペースとが、押圧操作部材の往復移動方向で直列的に並んで設けられている。それ故、薬液注入コントローラは、押圧操作部材の往復移動方向に対して直交する方向において、コンパクトな構造とすることができる。従って、例えば、使用者がハウジングを片手で把持しながら押圧操作面を親指で押し込んで使用する場合に、使用者がハウジングを掴み易く、押圧操作面の押込み操作が容易になると共に、薬液注入コントローラを使用者のポケットなどに収容する際に嵩張り難くなる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記押圧操作部材の移動方向において、前記ハウジングの中央よりも該押圧操作部材側に前記サブリザーバーが配置されているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、サブリザーバーと直列に並んで設けられる流入側及び流出側の流路配設スペースを、ハウジングを大型化することなく大きく確保することができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記押圧操作部材の押圧操作に際して前記サブリザーバーを圧迫するプランジャが設けられていると共に、該プランジャを該サブリザーバーに向けて付勢するコイルスプリングが設けられており、該押圧操作部材に向けて開口する凹所が該プランジャに形成されていると共に、該押圧操作部材には該凹所に向けて突出する突起が設けられており、該プランジャの該凹所と該押圧操作部材の該突起とによって該コイルスプリングの両端部分が位置決めされているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、プランジャの凹所と押圧操作部材の突起とを設ける簡単な構造によって、コイルスプリングをプランジャと押圧操作部材の間で延びる配設状態に保持することができる。
【0015】
また、例えば、押圧操作によって押込位置まで移動した押圧操作部材の突起が、プランジャの凹所に差し入れられるようにしても良い。これによれば、コンパクトな薬液注入コントローラにおいて、押圧操作部材の押圧操作のストロークを十分に確保することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1~第3の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記流出側の流路が前記急速投与弁によって前記押圧操作部材の移動方向に対して直交する方向に押圧されて遮断されるようにしたものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、急速投与弁を流出側の流路の側方に配することで、押圧操作部材の移動方向においてハウジングの寸法を小さくすることができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1~第4の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記プライミング流路が前記閉止弁によって前記押圧操作部材の移動方向に対して直交する方向に押圧されて遮断されるようにしたものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、閉止弁をプライミング流路の側方に配することで、押圧操作部材の移動方向においてハウジングの寸法を小さくすることができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1~第5の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記プライミング流路が前記サブリザーバーから前記押圧操作部材の移動方向に直線的に延びているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、プライミングを短時間で完了するために流路径が比較的に大きくなるプライミング流路を直線的な形状とすることにより、プライミング流路を曲げるための加工や部品点数の増加が不要となって、プライミング流路の製造が容易になり得る。
【0022】
プライミング流路が押圧操作部材の移動方向に延びていることによって、押圧操作部材の移動方向と直交する方向において、薬液注入コントローラの小型化も図られる。
【0023】
本発明の第7の態様は、第1~第6の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記ハウジングが長手形状であり、該ハウジングの外周面が使用者の手による把持面とされていると共に、前記押圧操作部材が該ハウジングの長手方向一方の側に設けられて、該押圧操作部材が該ハウジングの長手方向に往復移動可能とされており、該押圧操作部材の先端面において使用者が親指で押圧操作する指先押圧面として前記押圧操作面が構成されているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、使用者は、片手で把持面を握りながら押圧操作部材を親指で押圧操作することで、押圧操作面に十分な力を加えることが可能であり、急速の薬液投与を自己操作によって確実に実行することができる。
【0025】
しかも、押圧操作部材の押圧操作面と、サブリザーバーと、サブリザーバーに対する薬液の流入側及び流出側の流路配設スペースとが、ハウジングの長手方向で直列的に並んで設けられている。それ故、長手方向と直交する方向においてハウジングのコンパクト化が図られて、把持面を細くすることができる。
【0026】
本発明の第8の態様は、第1~第7の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記押圧操作部材の移動方向と直交する方向における前記ハウジングの断面形状が扁平な中空断面形状とされているものである。
【0027】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、ハウジングの断面における長軸方向では、ハウジング内のスペースを大きく確保することができる。ハウジングの断面における短軸方向では、ハウジングの小型化が図られることから、例えば、使用者が薬液注入コントローラをポケットに入れて持ち運ぶ際に、より嵩張り難くなる。また、扁平な断面形状のハウジングは、把持し易い。
【0028】
本発明の第9の態様は、第1~第8の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記閉止弁が、前記プライミング流路を押しつぶすように閉止する傾斜当接辺を備えた板状の弁体を有しているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、閉止弁のプライミング流路に対する当接部分が、閉止弁のプライミング流路への接近方向に対して傾斜した傾斜当接辺とされている。それ故、閉止弁におけるプライミング流路への当接部分がプライミング流路への接近方向に対して直交している場合に比して、閉止弁を押し戻す方向に作用するプライミング流路の反発力が低減される。その結果、比較的に小さな操作力によって、閉止弁を閉状態に切り替えてプライミング流路を遮断することができる。
【0030】
本発明の第10の態様は、第1~第9の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記流入側の流路と前記流出側の流路とを接続して前記サブリザーバーを経ずに持続的に薬液投与する流量制御部が設けられているものである。
【0031】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、流量制御部が薬液注入コントローラに設けられていることによって、薬液注入コントローラを含んで構成される薬液投与装置において、メインリザーバーから薬液注入コントローラまでの外部ラインと、薬液注入コントローラから患者側となる薬液投与ポートまでの外部ラインとを、何れも簡単な構成とすることができる。
【0032】
しかも、薬液注入コントローラを外部ラインに接続することによって、薬液投与装置に流量制御部を容易に設けることができる。
【0033】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記制限流路、前記プライミング流路及び前記閉止弁よりも前記押圧操作部材から遠い位置に前記流量制御部が設けられているものである。
【0034】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、閉止弁や押圧操作部材などの作動部材と、持続的な薬液の投与ラインを構成する流量制御部との干渉が生じ難くなる。
【0035】
本発明の第12の態様は、第10又は第11の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記押圧操作部材の移動方向に直交する方向での前記ハウジングの断面形状が扁平な中空断面形状とされており、前記流入側の流路と前記流出側の流路を接続するように設けられて前記流量制御部を有する接続流路の延出方向と、該流出側の流路に対する前記急速投与弁の移動方向と、前記プライミング流路に対する前記閉止弁の移動方向との少なくとも1つが、該ハウジングの断面における長軸方向とされているものである。
【0036】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、接続流路の延出方向と、急速投与弁の移動方向と、閉止弁の移動方向とが、ハウジングにおける断面の長軸方向とされていることから、ハウジング内において接続流路の配設スペースや弁のストロークに必要なスペースを大きく確保することができる。特に、接続流路の延出方向をハウジング断面の長軸方向とすれば、接続流路の配設スペースを大きく確保できることから、接続流路の長さや流路断面積の設定自由度を大きく得ることができる。
【0037】
本発明の第13の態様は、第10~第12の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記流入側の流路と前記流出側の流路には外部流路接続用のポートがそれぞれ設けられており、それら両ポートを接続するように前記流量制御部を有する接続流路が設けられているものである。
【0038】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、接続流路がハウジングに近い位置に配される或いはハウジング内に収容されることとなって、接続流路が外部流路におけるハウジングから離れた位置に設けられる場合よりも、接続流路の取り回し性が向上し得る。
【0039】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記接続流路が前記ハウジング内において、該ハウジングの周方向に向かって湾曲して配設されているものである。
【0040】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、接続流路をハウジング内にスペース効率良く収容することができる。また、接続流路が湾曲して配されることで、接続流路の折れ(キンク)が生じ難い。
【0041】
本発明の第15の態様は、第10~第14の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記流量制御部の移動を規制する規制部が設けられているものである。
【0042】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、流量制御部の移動が規制部によってある程度規制されることで、流量制御部のハウジングへの組付け時や、流量制御部に対する衝撃力の作用時などにおいて、流量制御部の折れ曲がり(キンク)などが防止される。
【0043】
本発明の第16の態様は、第10~第15の何れか1つの態様に記載された薬液注入コントローラにおいて、前記流量制御部が前記ハウジングに収容状態で設けられているものである。
【0044】
本態様に従う構造とされた薬液注入コントローラによれば、流量制御部がハウジングに収容されることで、流量制御部の取り回しが容易になると共に、流量制御部がハウジングによって保護される。流量制御部は、例えば、小径のチューブで構成することも可能である。その場合に、チューブ状の流量制御部を任意の長さで湾曲や巻回した状態で、よりコンパクトにハウジングへ収容することもできる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、コンパクトでありつつ、サブラインのプライミングを速やかに完了し得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の第1の実施形態としての薬液注入コントローラを備える薬液投与装置を示す図。
図2図1に示す薬液投与装置の構成を概略的に示す図。
図3図1に示す薬液投与装置を構成する薬液注入コントローラの斜視図。
図4図3に示す薬液注入コントローラの平面図。
図5図3に示す薬液注入コントローラの正面図。
図6図3に示す薬液注入コントローラにおいて、ハウジングの上半部分を取り除いた状態の斜視図。
図7図3に示す薬液注入コントローラにおいて、ハウジングの下半部分を取り除いた状態の斜視図。
図8図5のVIII-VIII断面図。
図9図4のIX-IX断面図。
図10図4のX-X断面図。
図11図4のXI-XI断面図。
図12図4のXII-XII断面に相当する図。
図13図4のXIII-XIII断面図。
図14図4のXIV-XIV断面に相当する図であって、スイッチ部材が押し込まれた後の状態を示す図。
図15図4のXV-XV断面に相当する図であって、プッシュボタンが押し込まれた直後の状態を示す図。
図16図4のXVI-XVI断面に相当する図であって、プッシュボタンが押し込まれた直後の状態を示す図。
図17図4のXVII-XVII断面に相当する図であって、プッシュボタンが押し込まれた直後の状態を示す図。
図18図5のXVIII-XVIII断面に相当する図であって、急速の薬液投与が完了した状態を示す図。
図19】本発明の第2の実施形態としての薬液注入コントローラを示す斜視図であって、ハウジングの下半部分を取り除いた状態を示す図。
図20図19に示す薬液注入コントローラの断面図であって、スイッチ部材が押し込まれた状態で、且つプッシュボタンが押し込まれていない状態を示す図。
図21図20に示す薬液注入コントローラの別の断面図。
図22図19に示す薬液注入コントローラの断面図であって、スイッチ部材が押し込まれた状態で、且つプッシュボタンが押し込まれた状態を示す図。
図23図22に示す薬液注入コントローラの別の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0048】
図1,2には、本発明の第1の実施形態としての薬液注入コントローラ10を備えた薬液投与装置12が示されている。薬液投与装置12は、薬液容器14と薬液投与ポート16が薬液投与ライン18によって接続された構造を有している。
【0049】
薬液容器14は、硬質のハウジング20内にメインリザーバー22が収容された構造を有している。メインリザーバー22は、例えばゴムや樹脂エラストマーなどの弾性体で形成されたバルーンとされており、薬液注入部24に接続される図示しないシリンジなどから薬液を注入することで、薬液を弾性に基づく加圧状態で貯留することができる。そして、メインリザーバー22に貯留された薬液は、メインリザーバー22の弾性に基づいて、メインリザーバー22から外部に押し出されるようになっている。
【0050】
もっとも、薬液容器の具体的な構造は、特に限定されるものではない。例えば、硬質の容器本体と、容器本体内を直線的に移動可能なピストンと、ピストンを移動方向で付勢するコイルスプリングなどの付勢手段とを含んで構成されて、容器本体とピストンとの間に薬液を貯留するメインリザーバーが構成されると共に、ピストンが付勢手段の付勢力によって移動することで、メインリザーバーの容積が徐々に小さくなって、薬液がメインリザーバーから押し出されるようになっていてもよい。
【0051】
また、薬液容器14のメインリザーバー22には、薬液投与ライン18が接続されており、薬液容器14のメインリザーバー22に貯留された薬液が、薬液投与ライン18に送り出されるようになっている。薬液投与ライン18は、上流側の外部ライン26と下流側の外部ライン28とを含んで構成されている。上流側の外部ライン26の中間部分には、薬液中の異物を濾過するフィルタ30が設けられている。なお、フィルタ30は、異物除去用のフィルタと空気を薬液流路外に排出する通気フィルタとの両方を備えていてもよい。
【0052】
さらに、下流側の外部ライン28は、下流側の端部が薬液投与ポート16に接続されている。この薬液投与ポート16は、患者の血管などに経皮的に留置された図示しない留置針などに接続可能なコネクタ構造とされている。さらに、本実施形態では、薬液投与ポート16に通気性のフィルタを備えたキャップ32が取り付けられており、薬液投与ポート16において薬液の外部への流出が防止されていると共に、空気の外部への排出が可能とされている。
【0053】
また、上流側の外部ライン26と下流側の外部ライン28は、図3~13に示すような薬液注入コントローラ10に接続されている。薬液注入コントローラ10は、自己操作によって急速の薬液投与を行うためのものであって、図6~12に示すように、ハウジング34内にサブリザーバー36が収容状態で組み込まれた構造を有している。以下の薬液注入コントローラ10の説明において、原則として、上下方向とは図5中の上下方向を、前後方向とは軸方向である図4中の左右方向を、左右方向とは図4中の上下方向を、それぞれ言う。
【0054】
より具体的には、ハウジング34は、硬質の合成樹脂などで形成されて、全体として前後方向を長手とされた中空形状、より具体的には略有底筒状とされている。ハウジング34は、図13,14に示すように、後端部分を除く広い範囲に亘って扁平な中空断面形状を有しており、本実施形態では中空の略長円形断面を有している。これにより、ハウジング34は、断面における長手方向である長軸方向が上下方向とされていると共に、短軸方向が左右方向とされている。尤も、ここで言う扁平な断面形状とは、長円形断面のみに限定されるものではなく、例えば、扁平な多角形断面などであってもよい。即ち、ハウジング34の断面形状が扁平であるとは、一方向に押しつぶされたような方向性のある断面形状とされていることをいう。典型的には、断面における内接円又は外接円が楕円や長円又はそれに類する形状とされることから、扁平断面において直交する2方向での幅寸法が相互に異なり、幅寸法の大きい方向(長手方向)を長軸方向という。具体的には、例えば、2組の対辺の長さが相互に異なる長方形断面の場合には、長方形の長辺方向が長手方向乃至は長軸方向となる。
【0055】
ハウジング34の前側(図8中の左側)の壁部には、2つの挿通孔40,42が長手方向に貫通して形成されている。好適には、ハウジング34は、使用者が片手で掴むことができる外径寸法とされており、外周面が使用者の手によって把持される把持面43を備えている。本実施形態のハウジング34は、上半部分44と下半部分46とを上下方向で組み合わせて構成されている。なお、薬液注入コントローラ10の内部構造を見易くするために、図6においてハウジング34の上半部分44の図示が省略されていると共に、図7においてハウジング34の下半部分46の図示が省略されている。
【0056】
また、ハウジング34には、サブリザーバー36が収容されている。サブリザーバー36は、図8~11に示すように、カップ状とされたダイヤフラム部48の開口がベース部材50で覆蓋されることにより構成されている。
【0057】
ダイヤフラム部48は、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成されて可撓性を有しており、外力の作用しない静置状態において略カップ状とされていると共に、開口部分には外周へ突出するフランジ状の挟持部52が全周に亘って一体形成されている。
【0058】
ベース部材50は、硬質の合成樹脂などで形成されて、略円板形状とされていると共に、筒状の薬液流入部54と薬液流出部56とが貫通状態で形成されている。更に、ベース部材50には複数の係止突起58が後方(図8の右方)へ向けて突出しており、それら係止突起58によってベース部材50がガイド部材60に連結されるようになっている。
【0059】
ガイド部材60は、略円筒形状とされていると共に、前端部において外周へ向けて突出するフランジ状の係止部62が設けられている。そして、係止部62に対してベース部材50の係止突起58が引っ掛けられることで、ベース部材50とガイド部材60が軸方向に連結されている。さらに、ガイド部材60の係止部62には、周方向の2箇所にそれぞれ係合フック64が設けられている。係合フック64は、係止部62から後方へ延び出す板状の延出部と、当該延出部の先端から外周へ向けて突出する爪部とを、一体で備えている。
【0060】
このガイド部材60の内周側に、ダイヤフラム部48が配設されている。ダイヤフラム部48は、ガイド部材60の内周に配されると共に、挟持部52がベース部材50とガイド部材60の軸方向(前後方向)間で挟まれて支持されることにより、それらベース部材50およびガイド部材60に組み付けられている。かかる組付け状態において、ダイヤフラム部48の開口がベース部材50によって液密に塞がれて、サブリザーバー36が構成されている。さらに、サブリザーバー36の内部空間に対して、ベース部材50を貫通する薬液流入部54と薬液流出部56の内腔が連通されている。
【0061】
そして、ベース部材50とガイド部材60がハウジング34によって支持されることで、サブリザーバー36がハウジング34に対して位置決めされていると共に、ダイヤフラム部48が底部をハウジング34に対して前後方向に移動させるような変形を許容されている。サブリザーバー36は、ハウジング34の前後方向において中央よりも後側に配置されている。
【0062】
また、ダイヤフラム部48の底部には、プランジャ70が重ね合わされている。プランジャ70は、略有底円筒形状のプランジャ本体72と、プランジャ本体72の外周を囲むように設けられる筒状の案内筒部74とが、後端部において一体的につながった構造を有している。プランジャ本体72は、後方に向けて開口する凹所75が形成されている。凹所75は、後述するコイルスプリング90の外形に対応する円形断面で直線的に延びている。案内筒部74は、周上の2箇所においてそれぞれ部分的に薄肉とされているとともに外周へ拡開しており、当該薄肉部分によってフック解除部76,76が構成されている。フック解除部76,76は、周方向において、ガイド部材60の係合フック64,64と対応する位置に設けられている。
【0063】
また、プランジャ70は、押圧操作部材としてのプッシュボタン78に内挿されている。プッシュボタン78は、前方へ向けて開口する略有底円筒形状とされており、開口部分がハウジング34の後端部分に対して軸方向後側から差し入れられて、ハウジング34の長手方向(前後方向)に往復移動可能に組み付けられている。プッシュボタン78の底部側は、ハウジング34の後端開口から軸方向後方へ突出している。ハウジング34から露出したプッシュボタン78の後面は、指先押圧面としての押圧操作面79とされており、使用者がハウジング34の把持面43を握りながら親指で押圧操作可能とされている。さらに、プッシュボタン78の底部の内周部分には、突起としてのスプリング支持部80が一体形成されている。スプリング支持部80は、後述するコイルスプリング90の内形に対応する外形を備えた小径筒状とされており、プッシュボタン78の底壁部の中央部分から前方へ向けて突出している。また、スプリング支持部80の外径寸法は、凹所75の内法寸法よりも小さくされている。更にまた、プッシュボタン78の周壁部には、周方向の2箇所において軸方向に延びるフック係合孔82がそれぞれ形成されている。そして、プランジャ70のフック解除部76の先端部が、フック係合孔82に差し入れられて、フック係合孔82の内周面に係止されている。
【0064】
さらに、図7に示すように、プッシュボタン78には、主動片84が一体形成されている。主動片84は、プッシュボタン78の開口端部から前方へ向けて突出して、ガイド部材60の外周まで延び出している。更にまた、主動片84の突出先端部分は、並列的に配された2つの摺接部86,86とされており、それら摺接部86,86の突出先端面が先端側に向けて上下方向に傾斜する傾斜面88とされている。なお、本実施形態の傾斜面88は、摺接部86の上部に設けられて、突出先端に向けて下傾する形状とされていることから、摺接部86が先細形状とされている。2つの摺接部86,86は、互いに同じ形状であってもよいし、互いに異なる形状とされていてもよい。
【0065】
また、図8,9にも示すように、プランジャ70とプッシュボタン78の軸方向間には、コイルスプリング90が配設されている。コイルスプリング90は、前端部がプランジャ本体72の凹所75の内周へ差し入れられていると共に、後端部がプッシュボタン78の底壁部に突出するスプリング支持部80に外挿されて、軸直角方向で位置決めされている。これにより、コイルスプリング90は、プランジャ本体72とプッシュボタン78の前後方向間に延びる所定の配設状態に安定して保持されている。
【0066】
一方、ベース部材50は、上流側コネクタとしての流入側チューブ92が接続されている。流入側チューブ92は、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成された軟質の部材とされている。流入側チューブ92は、図6~8,10に示すように、前端部分に外部流路接続用のポートである流入側ポート93が設けられて、流入側ポート93がハウジング34の挿通孔40に嵌め入れられている。そして、上流側の外部ライン26が流入側チューブ92の流入側ポート93に嵌め込まれると共に、流入側チューブ92の後端部がベース部材50の薬液流入部54に嵌め込まれている。これにより、上流側の外部ライン26とサブリザーバー36が、流入側チューブ92によって連通状態で接続されている。
【0067】
さらに、流入側チューブ92には、図7,8に示すように、制限流路としてのオリフィスチューブ94が接続されている。オリフィスチューブ94は、ハウジング34内において流入側チューブ92の中間部分に対して並列的に設けられており、サブリザーバー36よりも上流側において、流入側チューブ92の流路方向で離れた2箇所をつなぐバイパス流路を構成している。なお、流入側チューブ92におけるオリフィスチューブ94の接続部分の間が、オリフィスチューブ94と並列に延びるプライミング流路95とされている。本実施形態のプライミング流路95は、サブリザーバー36から前方へ延び出す流入側チューブ92に設けられて、前後方向に直線的に延びている。
【0068】
また、ベース部材50は、下流側コネクタとしての流出側チューブ96が接続されている。流出側チューブ96は、全体として前後方向に延びている。流出側チューブ96は、図6~8,11に示すように、ベース部材50の薬液流出部56に接続される接続チューブ98と、接続チューブ98に対して直列的に接続された外部流路接続用のポートである流出側ポート100とを備えている。
【0069】
接続チューブ98は、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成された軟質の部材であって、軸方向へ直線的に延びており、ベース部材50の薬液流出部56に外挿状態で嵌め付けられている。なお、ベース部材50には、薬液流出部56の周囲を囲むように筒状のシール保持部102が設けられており、薬液流出部56に外嵌された接続チューブ98とシール保持部102の間に環状のシール部材104が嵌め込まれることで、接続チューブ98が薬液流出部56に押し付けられてシール性の向上が図られている。
【0070】
流出側ポート100は、軸方向へ直線的に延びており、接続チューブ98の前端部に嵌め入れられて、接続チューブ98と直列的に接続されている。また、流出側ポート100は、中間部分に軸直角方向へ広がる板状の接続片106が設けられている。そして、流出側チューブ96と並列に設けられる流入側チューブ92が、接続片106の凹部108に嵌め込まれて位置決めされている。更にまた、接続片106には、流出側ポート100の後端部の周囲を囲むように筒状のシール保持部110が設けられている。そして、流出側ポート100に外嵌された接続チューブ98とシール保持部110の間に環状のシール部材112が嵌め込まれることで、接続チューブ98が流出側ポート100に押し付けられてシール性の向上が図られている。さらに、接続片106には、流入側チューブ92と流出側チューブ96の間で前方へ向けて突出する規制部としての掛止突起114が一体形成されている。
【0071】
接続チューブ98と流出側ポート100によって構成された流出側チューブ96は、流出側ポート100の前端部がハウジング34の挿通孔42に挿通されている。そして、流出側ポート100の前端部に下流側の外部ライン28が嵌め込まれる。さらに、流出側チューブ96は、接続チューブ98の後端部が、ベース部材50の薬液流出部56に外挿状態で嵌め付けられている。
【0072】
要するに、サブリザーバー36の前方には、流路配設スペース115が設けられている。本実施形態では、サブリザーバー36がハウジング34の前後方向中央よりも後側に配置されていることから、流路配設スペース115が広く確保されている。そして、サブリザーバー36に対する薬液の流入側の流路である流入側チューブ92と、サブリザーバー36に対する薬液の流出側の流路である流出側チューブ96とが、流路配設スペース115に配設されている。また、オリフィスチューブ94と、オリフィスチューブ94をバイパスするプライミング流路95も、流路配設スペース115に配設されている。プライミング流路95を含む流入側チューブ92と流出側チューブ96は、ハウジング34の左右方向に並んで設けられており、それぞれプッシュボタン78の移動方向に概ね沿うように配設されている。
【0073】
流路配設スペース115と、サブリザーバー36と、プッシュボタン78の押圧操作面79は、プッシュボタン78の往復移動方向であるハウジング34の長手方向(図8中の左右方向)で直列的に並んで設けられている。なお、流入側チューブ92と流出側チューブ96は、略軸方向に延びている。また、プッシュボタン78の押圧操作面79は、略軸直角方向に広がっている。
【0074】
また、流出側チューブ96の中間部分の上方には、図6,11に示すように、急速投与弁116が配設されている。急速投与弁116は、ハウジング34の下半部分46に設けられた筒状の弁ガイド部118に差し入れられて、ハウジング34に対して上下方向の相対変位を許容された状態で組み付けられている。より具体的には、図11~13に示すように、急速投与弁116は、略円板形状の弁本体120に対して、上側へ向けて突出する筒状のスプリングガイド部122が一体形成されている。また、弁ガイド部118に差し入れられる一対の従動片124,124が、弁本体120から下側へ突出して一体形成されている。
【0075】
弁本体120は、前後中央部分において下方へ突出する平板状のクランプ突起126が、前後方向に対して略直交して広がるように設けられており、クランプ突起126の先端部分が先端に向けて徐々に薄肉とされている。更に、弁本体120には、周方向の一部において外周へ突出するスイッチ係合突起128が設けられている(図6参照)。
【0076】
スプリングガイド部122は、弁付勢手段としてのコイルスプリング130が差し入れられており、スプリングガイド部122に差し入れられたコイルスプリング130が、弁本体120とハウジング34の上半部分44との上下方向間で圧縮されている。これにより、急速投与弁116には、コイルスプリング130による下向きの付勢力が作用している。
【0077】
従動片124は、図7,12に示すように、上下方向に延びる板状とされて、下面が後方に向けて上傾する傾斜面132とされている。従動片124は、一対が左右方向に所定の距離を隔てて配されていると共に、それら一対の従動片124,124の基端部間にクランプ突起126が設けられている。そして、流出側チューブ96の一部が一対の従動片124,124の間を前後に延びており、クランプ突起126を備えた弁本体120が流出側チューブ96の上側に位置している。
【0078】
また、急速投与弁116の弁本体120は、図9に示すように、スイッチ係合突起128がスイッチ部材134に一体で設けられた係合受部144(後述)に上下方向で係合されることによって、コイルスプリング130の付勢力に抗して、流出側チューブ96の上方に保持されている。急速投与弁116は、流出側チューブ96とともに流路配設スペース115に配設されている。急速投与弁116は、流出側チューブ96の側方(上方)に配されており、後述するようにプッシュボタン78の往復移動方向に対して直交する上下方向に移動する。それ故、薬液注入コントローラ10の前後方向及び左右方向での小型化が図られている。ハウジング34における急速投与弁116の収容部分は、前後方向に対して直交する断面が、上下方向の幅寸法が左右方向の幅寸法よりも大きくされた扁平形状であることから、上下方向に移動する急速投与弁116の移動ストロークを十分に確保することも可能になる。
【0079】
スイッチ部材134は、図3~5に示すように、全体として略矩形箱状とされており、ハウジング34の上半部分44に設けられたスイッチ挿通孔138に挿通されて、ハウジング34に対して前後方向および左右方向で位置決めされていると共に、上下方向でハウジング34に対して相対変位可能とされている。
【0080】
さらに、スイッチ部材134は、閉止弁140を備えている。閉止弁140は、ハウジング34の流路配設スペース115に配設されている。閉止弁140は、下方へ向けて突出する板状の弁体141を備えている。弁体141は、プライミング流路95の長さ方向である前後方向に対して略直交して広がっている。この弁体141は、前後方向においてオリフィスチューブ94の両端部の間に配置されている。換言すれば、オリフィスチューブ94は、後述するサブライン160において弁体141の配置された部分よりも上流側と下流側とをつなぐように設けられている。
【0081】
また、弁体141は、スイッチ部材134が押し込まれる前の初期状態において、流入側チューブ92の上方に配置されており、流入側チューブ92の内腔が閉止弁140の弁体141で押し潰されることなく連通状態とされている。閉止弁140は、流入側チューブ92の側方(上方)に配されており、後述するようにプッシュボタン78の往復移動方向に対して直交する上下方向で下方に移動する。それ故、薬液注入コントローラ10の前後方向及び左右方向での小型化が図られている。ハウジング34における閉止弁140の収容部分は、前後方向に対して直交する断面が、上下方向の幅寸法が左右方向の幅寸法よりも大きくされた扁平形状であることから、上下方向に移動する閉止弁140の移動ストロークを十分に確保することも可能になる。
【0082】
また、弁体141の下面を構成する傾斜当接辺142が、流入側チューブ92の上側に対向配置されており、傾斜当接辺142が図13中の右方から左方へ向けて下傾する傾斜面とされている。傾斜当接辺142は、弁体141の移動方向となる図13中の上下方向に対して、10~80°の範囲内で傾斜角を設定されることが望ましい。さらに、閉止弁140には、急速投与弁116のスイッチ係合突起128と上下方向で係合する係合受部144が、左右方向で突出して設けられている。
【0083】
なお、ハウジング34の下半部分46は、閉止弁140と上下方向で向き合う部分において上向きに突出するチューブ支持部145が設けられている。このチューブ支持部145は、流入側チューブ92の一部に下方から当接して支持する。また、チューブ支持部145において、閉止弁140と対応する前後方向の中間部分には、上方へ向けて開口する凹所146が形成されている。
【0084】
また、流入側チューブ92の流入側ポート93と流出側チューブ96の流出側ポート100は、図7に示すように、流量制御部としての流量制御チューブ148によって接続されている。流量制御チューブ148は、ゴムや樹脂エラストマーなどで形成された柔軟なチューブであって、流入側チューブ92および流出側チューブ96よりも小径とされている。流量制御チューブ148は、前端部が流入側ポート93に設けられた筒状の接続部150に差し入れられて、流入側ポート93に連通されていると共に、後端部が流出側ポート100に設けられた筒状の接続部152に差し入れられて、流出側ポート100に連通されている。これにより、流入側ポート93と流出側ポート100を接続する接続流路が、流量制御チューブ148によって構成されている。本実施形態では、流量制御チューブ148によって構成される接続流路が、全体に亘って略一定の流路径を有しており、接続流路の全体が流量制御部とされているが、例えば、接続流路が部分的に小径とされることで、流量制御部が接続流路に対して部分的に設けられていてもよい。
【0085】
なお、接続部150,152は、流出側チューブ96の接続片106よりも前方に設けられており、流量制御チューブ148の両端部が、流入側チューブ92の前部を構成する流入側ポート93と、流出側チューブ96の前部を構成する流出側ポート100との各一方に接続されている。また、接続部150,152は、流入側ポート93と流出側ポート100から下方へ分岐しており、ハウジング34の断面における長軸方向である下方へ向けて延び出している。これにより、接続部150,152と流量制御チューブ148は、ハウジング34内でスペースを広く確保できる断面の長軸方向に延びるように配されており、ハウジング34にスペース効率よく収容される。
【0086】
また、流量制御チューブ148は、オリフィスチューブ94、プライミング流路95及び閉止弁140よりもプッシュボタン78から遠い位置に設けられている。換言すれば、流量制御チューブ148は、オリフィスチューブ94、プライミング流路95及び閉止弁140に対して、ハウジング34の前後方向でプッシュボタン78とは反対側に離れて配置されている。これによれば、流量制御チューブ148が閉止弁140やプッシュボタン78といったハウジング34に対して移動する作動部材から離れた位置に配されて、流量制御チューブ148と作動部材の干渉が生じ難くなる。それ故、柔軟且つ小径の流量制御チューブ148が作動部材との接触によって損傷するのを回避できる。
【0087】
本実施形態では、流量制御チューブ148の上流側端部は、接続部150の基端部分にまで差し込まれており、流入側ポート93と接続部150の分岐点154に接続されている。さらに、流量制御チューブ148の下流側端部は、接続部152の基端部分にまで差し込まれており、流出側ポート100と接続部152の合流点156に対して接続されている。なお、流量制御チューブ148が分岐点154と合流点156に接続される際に、流量制御チューブ148の両端開口は、分岐点154と合流点156に直接的に連通されるように設けられていることが望ましいが、分岐点154と合流点156に近接する位置に配置されて、分岐点154と合流点156に対して接続部150,152を介して間接的に連通されていてもよい。流量制御チューブ148の両端開口が分岐点154と合流点156に近接して接続される場合には、後述するプライミング後に接続部150,152の内腔に残留する空気が問題にならない位置まで、流量制御チューブ148の両端が接続部150,152の基端側へ差し込まれることが望ましい。より具体的には、例えば、接続部150,152の内腔において、接続部150,152の基端から流量制御チューブ148の端部までの領域の容積が、3ml以下、好適には1ml以下となるように、流量制御チューブ148の両端部が分岐点154と合流点156に近接して配置される。
【0088】
さらに、流量制御チューブ148は、全体として略U字状とされており、接続部150,152から下方へ延び出して、接続片106から突出する掛止突起114の下方を回り込むように巻き掛けられて延びている。これにより、流量制御チューブ148は、全体がハウジング34に収容状態で組み込まれており、少なくとも中間部分がハウジング34の周方向に向かって湾曲している。このように、流量制御チューブ148がハウジング34の周方向に向かって湾曲して配されることにより、流量制御チューブ148をハウジング34に効率的に収容することができると共に、流量制御チューブ148の折れが問題になり難い。なお、流量制御チューブ148の長さは、要求されるメインライン158(後述)の単位時間当たりの流量に応じて設定される。流量制御チューブ148の長さが長い場合には、流量制御チューブ148を掛止突起114に巻き付けて保持することもできる。
【0089】
このような構造とされた薬液注入コントローラ10は、流入側ポート93に上流側の外部ライン26が接続されると共に、流出側ポート100に下流側の外部ライン28が接続されることによって、薬液投与装置12を構成する。
【0090】
また、薬液注入コントローラ10において、流入側ポート93と流出側ポート100が流量制御チューブ148によって連通されていることにより、メインリザーバー22と薬液投与ポート16をつなぐ薬液投与装置12のメインライン158が構成されている。すなわち、薬液投与装置12のメインライン158は、メインリザーバー22に接続される上流側の外部ライン26と、上流側の外部ライン26に接続される流入側ポート93と、流入側ポート93に接続される流量制御チューブ148と、流量制御チューブ148が接続される流出側ポート100と、流出側ポート100に接続される下流側の外部ライン28とによって構成されている。メインライン158は、流入側ポート93と流出側ポート100が流量制御チューブ148によって連通されていることにより、サブリザーバー36を経路上に含まずに構成されている。したがって、メインリザーバー22に貯留された薬液は、サブリザーバー36を経ずに、メインライン158を通じて薬液投与ポート16から持続的に投与可能とされている。なお、本実施形態のメインライン158は、常時連通状態とされているが、例えば、外部ライン26,28を適宜にクランプすれば、メインライン158を一時的に遮断することもできる。
【0091】
一方、流入側チューブ92における接続部150よりも下流部分と、流入側チューブ92に接続されたオリフィスチューブ94と、流出側チューブ96における接続部152よりも上流部分とによって、薬液投与装置12のサブライン160が構成されている。このサブライン160は、流入側チューブ92と接続部150の分岐点154においてメインライン158から分岐すると共に、サブリザーバー36を経て、流出側チューブ96と接続部152の合流点156においてメインライン158へ合流するように設けられている。本実施形態では、サブライン160の全体がハウジング34に収容状態で組み込まれていると共に、メインライン158とサブライン160の分岐点154および合流点156が、ハウジング34に収容状態で組み込まれている。
【0092】
なお、メインリザーバー22と薬液投与ポート16をつなぐ薬液投与ライン18は、メインライン158とサブライン160とを含んで構成されている。また、上流側の外部ライン26が、メインリザーバー22と薬液注入コントローラ10をつないで設けられると共に、下流側の外部ライン28が、薬液注入コントローラ10と薬液投与ポート16をつないで設けられる。
【0093】
このような構造とされた薬液注入コントローラ10を備える薬液投与装置12は、使用前に、メインライン158とサブライン160を薬液(プライミング液)で満たすプライミングが実施される。すなわち、スイッチ部材134およびプッシュボタン78が押し込まれていない薬液注入コントローラ10の初期状態において、メインリザーバー22から薬液投与ライン18へ薬液を送入することにより、上流側の外部ライン26と、流入側チューブ92と、サブリザーバー36と、流出側チューブ96と、下流側の外部ライン28とが、薬液で満たされて、薬液によって下流側へ押し出された空気が、薬液投与ポート16のキャップ32を通じて外部へ排出される。以上により、本実施形態では、上流側の外部ライン26に設けられたフィルタ30によっても、空気が外部へ排出される。これにより、メインライン158とサブライン160のプライミングが、細径とされて薬液が流れにくいオリフィスチューブ94および流量制御チューブ148を除く全体において完了する。
【0094】
プライミング時には、閉止弁140が開放状態とされており、流入側チューブ92のプライミング流路95が連通状態とされていることから、プライミング流路95を通じて薬液が流動することで、メインライン158とサブライン160のプライミングが速やかに完了する。
【0095】
なお、オリフィスチューブ94および流量制御チューブ148は、内腔の容積が極めて小さく、内部に残留する空気が実質的に問題にならないほど少ないことから、プライミングによる空気の排出は不要とされ得る。本実施形態では、流量制御チューブ148の上流側端部が、接続部150の基端部分まで差し入れられて、メインライン158とサブライン160の分岐点154に接続されていると共に、流量制御チューブ148の下流側端部が、接続部152の基端部分まで差し入れられて、メインライン158とサブライン160の合流点156に接続されている。これにより、分岐点154から流量制御チューブ148の上流側端部の間および流量制御チューブ148の下流側端部から合流点156の間に空気が残留するのを防いで、プライミング完了後に薬液投与ライン18内に残留する空気が問題にならない程に僅かとされる。
【0096】
プライミングが完了した後、スイッチ部材134を下向きに押し込むことにより、図14に示すように、スイッチ部材134と一体の閉止弁140の弁体141が下方へ移動して、弁体141の傾斜当接辺142が、流入側チューブ92のプライミング流路95に対して、プライミング流路95の流路直交方向で押し付けられる。これにより、流入側チューブ92が閉止弁140の弁体141を押し当てられた中間部分(プライミング流路95)で押し潰されて、流入側チューブ92が閉止弁140によって押圧されたプライミング流路95において遮断される。さらに、流入側チューブ92は、プライミング流路95における閉止弁140で遮断された部分よりも上流側と下流側が、オリフィスチューブ94によって連通されている。従って、サブライン160は、流入側チューブ92のプライミング流路95が閉止弁140によって遮断された状態において、オリフィスチューブ94によって分岐点154からサブリザーバー36までが連通状態に保持されると共に、薬液の単位時間当たりの流量がオリフィスチューブ94によって制限されている。
【0097】
本実施形態の閉止弁140は、流入側チューブ92に当接する部分が傾斜形状の傾斜当接辺142とされていることから、閉止弁140が流入側チューブ92に押し付けられて流入側チューブ92が押し潰される際に、流入側チューブ92の弾性に基づく反発力が、上下方向だけでなく左右方向にも分散して作用する。その結果、反発力が上下方向だけに作用する場合よりも、上下方向の反発力が小さくなって、閉止弁140を押し下げるためにスイッチ部材134に及ぼす下向きの力を小さくすることができる。
【0098】
しかも、本実施形態では、閉止弁140の開状態において、傾斜当接辺142が流入側チューブ92の外周面に当接していると共に、傾斜当接辺142の下端が流入側チューブ92への当接部位よりも下側に位置している。それ故、閉止弁140が傾斜当接辺142において流入側チューブ92に押し付けられることで発揮される効果を、より安定して得ることができる。
【0099】
さらに、閉止弁140によって押し潰された後の流入側チューブ92は、閉止弁140の側面とハウジング34との間で左右方向に圧縮されていることから、流入側チューブ92の弾性に基づく反発力が、閉止弁140に対して上向きに作用し難い。それ故、閉止弁140が閉状態に安定して保持されて、流入側チューブ92ひいてはサブライン160の遮断状態が安定して維持される。
【0100】
さらに、スイッチ部材134が下方へ移動することによって、スイッチ部材134の係合受部144と急速投与弁116のスイッチ係合突起128との係合が解除されて、急速投与弁116の下方への移動が許容される。これにより、急速投与弁116がコイルスプリング130の付勢力によって下方へ移動して、急速投与弁116のクランプ突起126が、流出側チューブ96の接続チューブ98に対して、流出側チューブ96の流路直交方向で押し付けられる。その結果、流出側チューブ96が急速投与弁116によって部分的に押し潰されて、急速投与弁116によって押圧された流出側チューブ96の内腔が閉塞されることから、サブリザーバー36からの薬液の流出が流出側チューブ96の遮断によって防止される。
【0101】
なお、図13に示すように、下方へ押し込まれたスイッチ部材134は、下方へ突出する係止片161が、ハウジング34のチューブ支持部145に係止されることにより、押し込まれた状態に保持されて、上方へ戻らないようになっている。
【0102】
一方、スイッチ部材134が押し下げられた状態において、メインライン158は、連通状態に保持されている。そして、メインライン158に接続された薬液投与ポート16からキャップ32を取り外すと共に、薬液投与ポート16を患者の血管に留置された留置針などに接続する。これにより、メインリザーバー22からメインライン158へ送り込まれる薬液が、サブライン160を経ずに薬液投与ポート16まで送られて、図示しない留置針などを通じて患者の体内へ少量ずつ持続的に投与される。
【0103】
メインライン158を通じて患者の体内へ投与される薬液の単位時間当たりの量は、メインライン158の流量が流量制御チューブ148によって制限されることによって、調節されている。すなわち、流量制御チューブ148の長さを長くすることで単位時間当たりの投与量を少なく設定することができると共に、流量制御チューブ148の長さを短くすることで単位時間当たりの投与量を多く設定することができる。
【0104】
次に、患者が薬液の投与量を一時的に増やす急速投与を行う場合には、患者は、薬液注入コントローラ10のプッシュボタン78を押し込む自己操作を実行する。プッシュボタン78が患者によって押し込まれると、図15,16に示すように、プッシュボタン78とプランジャ70の間で、コイルスプリング90が圧縮される。これにより、プランジャ70には、圧縮されたコイルスプリング90の弾性に基づいて前向きの付勢力が及ぼされる。なお、プッシュボタン78が押し込まれて前進することにより、ガイド部材60の係合フック64がプッシュボタン78のフック係合孔82の内周面に対して軸方向で係合されることから、プッシュボタン78は、コイルスプリング90の付勢力に抗して押し込まれた位置に保持される。それ故、プランジャ70に対してコイルスプリング90の付勢力が効率的に及ぼされる。
【0105】
また、プッシュボタン78が押し込まれて前進することにより、プッシュボタン78に一体形成された主動片84の傾斜面88が、急速投与弁116に一体形成された従動片124の傾斜面132に押し付けられる。そして、それら傾斜面88,132によって、プッシュボタン78に及ぼされた前向きの力が、上向きの力に変換されて急速投与弁116に及ぼされる。その結果、急速投与弁116がコイルスプリング130の付勢力に抗して上側へ移動して、図16,17に示すように、急速投与弁116による流出側チューブ96の遮断が解除される。なお、主動片84の動きが従動片124の動きに方向転換されて伝達されれば良く、主動片84と従動片124の両方に傾斜面88,132を設けることは必須ではない。
【0106】
さらに、流出側チューブ96が連通された状態で、プランジャ70がコイルスプリング90の付勢力によってサブリザーバー36のダイヤフラム部48に押し付けられて、図18に示すように、ダイヤフラム部48の底部が前方へ押し込まれる。その結果、プランジャ70によって圧迫されたサブリザーバー36の内圧が高まって、サブリザーバー36内に貯留された薬液が流出側チューブ96を介してメインライン158へ注入される。これにより、薬液投与ポート16から患者の体内へ投与される薬液の量が、一時的に多くなる。なお、流入側チューブ92が閉止弁140で遮断状態に保持されており、オリフィスチューブ94の内腔が極めて小径とされていることから、サブリザーバー36の内圧上昇時に、サブリザーバー36内の薬液は、流入側チューブ92へ逆流することなく、流出側チューブ96へ送り出される。
【0107】
薬液注入コントローラ10は、プッシュボタン78が一度押し込まれると、プッシュボタン78が押し込まれた位置に保持されるようになっている。それ故、一度の押圧操作によって、サブリザーバー36に貯留された薬液の略全量が投与される。したがって、薬液注入コントローラ10を使用する患者は、プッシュボタン78を押し続けることなく、十分な量の薬液をワンプッシュで急速投与することができる。なお、押圧操作によって押し込まれたプッシュボタン78は、スプリング支持部80がプランジャ70の凹所75に差し入れられる。それ故、薬液注入コントローラ10を前後方向で大型化することなく、プッシュボタン78の押圧操作のストロークを十分に確保することができる。
【0108】
また次に、薬液の急速投与が完了すると、図18に示すように、前方へ移動したプランジャ70のフック解除部76がガイド部材60の係合フック64に当接して、係合フック64を左右内側へ撓ませる。これにより、プッシュボタン78のフック係合孔82の内周面に対する係合フック64の係合が解除されて、ハウジング34に対するプッシュボタン78の後方への移動が許容される。また、プッシュボタン78の後方への移動が許容されて、プッシュボタン78がコイルスプリング90の弾性に基づいて後方へ移動することにより、プランジャ70に作用するコイルスプリング90の付勢力が解除される。
【0109】
さらに、プッシュボタン78が後方へ移動すると、プッシュボタン78に一体形成された主動片84と、急速投与弁116に一体形成された従動片124との当接が解除される。これにより、急速投与弁116のクランプ突起126がコイルスプリング130の付勢力によって流出側チューブ96に押し付けられて、流出側チューブ96が急速投与弁116によって遮断状態に切り換えられる。
【0110】
更にまた、メインリザーバー22から上流側の外部ライン26へ送り出される薬液の一部は、流入側チューブ92およびオリフィスチューブ94を通じてサブリザーバー36へ充填される。これにより、急速投与によって減少したサブリザーバー36内の薬液が、徐々に増える。なお、急速投与時にサブリザーバー36のダイヤフラム部48を押圧したプランジャ70は、コイルスプリング90の付勢力が解除されていることから、ダイヤフラム部48の変形を著しく妨げることはなく、ダイヤフラム部48の変形を伴うサブリザーバー36への薬液の充填が許容される。
【0111】
また、サブリザーバー36内の薬液の量が増えるに従って、プランジャ70がダイヤフラム部48に押されて後方へ移動する。そして、サブリザーバー36内に急速投与前と略同量の薬液が充填されることにより、プランジャ70が初期位置まで移動せしめられる。さらに、プランジャ70の後方への移動に伴って、プッシュボタン78がコイルスプリング90の付勢力によって後方へ移動せしめられて、プッシュボタン78がプランジャ70と同様に初期位置まで移動せしめられる。
【0112】
サブリザーバー36に薬液を供給する流路の一部が、オリフィスチューブ94で構成されていることから、薬液の急速投与後に、サブリザーバー36に溜まる薬液の量が制限されており、サブリザーバー36の薬液が投与可能な量まで充填されるまでに所定の時間が必要とされている。これにより、薬液の急速投与が短時間で繰り返し実行されないようになっており、薬液の過剰投与が防止されている。なお、再び薬液の急速投与が可能になるまでの充填時間は、オリフィスチューブ94の流量によって設定することができる。すなわち、オリフィスチューブ94を流れる薬液の流量が小さい場合には、サブリザーバー36に薬液が溜まるまでに時間がかかることから、急速投与の時間間隔が長くなる。また、オリフィスチューブ94の内径と長さによって、オリフィスチューブ94の流量を調節することが可能であり、一般的に、内径を小さくするほど流量が少なくなると共に、長さを長くするほど流量が少なくなる。
【0113】
さらに、本実施形態では、図4に示すように、ハウジング34の周壁が軸方向に延びるスリット162を備えており、プランジャ70に設けられた突起状の目印164がスリット162に差し入れられていることで、プランジャ70のハウジング34に対する軸方向での相対位置が外部から把握できるようになっている。要するに、目印164がスリット162の後端付近まで移動した状態がサブリザーバー36に薬液が充填された状態を示す。
【0114】
このような本実施形態に従う構造の薬液注入コントローラ10は、メインライン158を構成する上流側の外部ライン26を流入側ポート93に接続すると共に、下流側の外部ライン28を流出側ポート100に接続することで、薬液投与装置12に容易に設けられる。
【0115】
また、メインライン158を構成する流量制御部としての流量制御チューブ148が、薬液注入コントローラ10に設けられており、薬液注入コントローラ10がメインライン158の一部とサブライン160の全体とを備える構造とされている。それ故、薬液注入コントローラ10を採用することによって、サブライン160と流量制御チューブ148とを、薬液投与装置12に容易に設けることができる。
【0116】
さらに、流量制御チューブ148が薬液注入コントローラ10に設けられていることから、それらが上流側の外部ライン26の途中に設けられている場合に比して、上流側の外部ライン26の構成を簡単にすることができる。特に本実施形態では、薬液注入コントローラ10が硬質のハウジング34を備えており、流量制御チューブ148がハウジングに収容状態で組み込まれている。それ故、流量制御チューブ148が外部に露出して設けられている場合に比して、上流側の外部ライン26の取り扱いが容易になると共に、流量制御チューブ148がハウジング34によって保護される。
【0117】
更にまた、流量制御部が小径の流量制御チューブ148で構成されていることにより、メインライン158の流量を調節する流量制御部が、簡単な構造によって実現されている。しかも、流量制御チューブ148を巻き掛けて保持することが可能とされた掛止突起114が設けられていることにより、例えば、流量制御チューブ148が長い場合に、流量制御チューブ148を掛止突起114に巻き掛けることで、流量制御チューブ148を安定して保持して、他部材への干渉などを防ぐことができる。
【0118】
また、本実施形態では、メインライン158とサブライン160の分岐点154と合流点156が薬液注入コントローラ10に設けられていることから、分岐点154と合流点156が外部ライン26,28の途中に設けられている場合に比して、外部ライン26,28の構成を簡単にすることができる。特に本実施形態では、分岐点154と合流点156がハウジング34に収容状態で組み込まれていることから、分岐点154と合流点156が外部に露出して設けられている場合に比して、外部ライン26,28の取り扱いが容易になると共に、分岐点154と合流点156に対して、外部から意図しない力が加わるのを防ぐこともできる。
【0119】
また、プライミング流路95が前後方向で直線的に延びていると共に、プライミング流路95と並列に設けられるオリフィスチューブ94がプライミング流路95の下方に設けられている。これにより、オリフィスチューブ94に比して直径が大きくなるプライミング流路95を簡単な構造で設けることができると共に、大径のプライミング流路95が側方に延び出すことによるハウジング34の大径化を防ぐこともできる。更に、小径のオリフィスチューブ94は、プライミング流路95に対して側方(下方)に配されていても、ハウジング34の大型化が問題になり難い。しかも、オリフィスチューブ94は、小径且つ柔軟であることによって、湾曲した経路を延びるように配置することも容易である。
【0120】
図19には、本発明の第2の実施形態としての薬液注入コントローラ170が、ハウジング34の下半部分(46)を取り外された状態で示されている。以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0121】
薬液注入コントローラ170は、図20,21にも示すように、ハウジング34の後方(図20中、右方)へ突出する押圧操作部材としてのプッシュボタン172を備えている。このプッシュボタン172は、図19,21に示すように、第1の実施形態のプッシュボタン78に比して主動片84を備えておらず、略有底円筒形状とされている。
【0122】
また、ハウジング34内の下部には、図19,21に示すように、主動部材174が配設されている。主動部材174は、並列的に配された2つの摺接部86,86が基端部(後方の端部)において相互に連結された構造を有している。摺接部86,86の先端面(前方の端面)は、先端側に向けて下傾する傾斜面88をそれぞれ有している。また、主動部材174は、後方へ突出する当接突部176を備えている。さらに、主動部材174は、前方へ延び出す弾性片178を備えている。弾性片178は、板状とされており、厚さ方向で湾曲して前方へ行くに従って上傾していると共に、厚さ方向に弾性変形可能とされている。
【0123】
主動部材174は、ハウジング34の下壁内面に沿って前後方向に往復移動可能とされている。そして、主動部材174は、図20,21に示すプッシュボタン172が押し込まれていない注入待機状態において、摺接部86,86が急速投与弁116に一体形成された従動片124に対して後方へ離れていると共に、当接突部176がプッシュボタン172から前方へ離れている。
【0124】
また、上記注入待機状態において、弾性片178がハウジング34の弁ガイド部118に当接しており、主動部材174の前方への変位が弾性片178によって制限されている。さらに、本実施形態では、ハウジング34の下壁内面に段差180が形成されており、主動部材174の後方への変位が段差180への当接によって制限される。
【0125】
使用者によってプッシュボタン172が押し込まれると、図22に示すように、前方へ移動したプッシュボタン172の前端部が主動部材174の当接突部176に当接して、主動部材174がプッシュボタン172によって前方へ押し込まれる。押し込まれた主動部材174は、弾性片178の弾性力に抗して前方へ移動して、摺接部86,86の傾斜面88,88が従動片124,124の傾斜面132,132に押し付けられる。これにより、従動片124,124が上方へ押し上げられて、従動片124,124と一体形成された急速投与弁116が上方へ押し上げられる。その結果、図23に示すように、急速投与弁116によって押し潰されて遮断されていた接続チューブ98が、急速投与弁116の変位によって連通状態に切り換えられて、サブリザーバー36に貯留された薬液が接続チューブ98を通じて急速投与される。
【0126】
急速の薬液投与が完了した後、プッシュボタン172がコイルスプリング90の付勢力によって後方へ移動するに従って、主動部材174は、弾性片178の弾性に基づいて後方へ移動する。これにより、急速投与弁116がコイルスプリング130の付勢力によって下方へ移動して、急速投与弁116が接続チューブ98を再度遮断する。後方へ移動する主動部材174は、ハウジング34の段差180に当接してもよいし、段差180から前方に離れた位置で止まってもよい。また、コイルスプリング130の付勢力による急速投与弁116の移動を利用して、主動部材174が後方へ押されて移動するようにすれば、弾性片178を設けなくても良い。
【0127】
本実施形態のように、摺接部86,86を備える主動部材174が、プッシュボタン172とは別体とされることにより、プッシュボタン172と主動部材174を各別にハウジング34へ取り付けることができる。それ故、ハウジング34に対するプッシュボタン172と主動部材174の組付け作業が容易になる。また、プッシュボタン172と主動部材174が注入待機状態で相互に離れていることから、第1の実施形態のようなプッシュボタン78と主動片84が一体的につながった構造に比して、部品の寸法誤差が大きく許容されて、プッシュボタン172および主動部材174の組付け不良が生じ難い。
【0128】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、流量制御部は、前記実施形態に示す流量制御チューブ148のような小径のチューブ状に限定されるものではなく、例えば、板部材を重ね合わせた構造とされて、それら板部材の重ね合わせ間に形成される細い流路によって薬液の流量が調節される構造などであってもよい。なお、前記実施形態においてオリフィスチューブ94で構成されている制限流路についても、流量制御部と同様に別構造を採用することができる。
【0129】
前記実施形態では、流量制御チューブ148がハウジング34に収容状態で組み込まれた構造を例示したが、例えば、流入側ポート93と流出側ポート100をハウジング34よりも前方まで延び出させて、それら流入側ポート93と流出側ポート100をつなぐ流量制御チューブ148を、ハウジング34の前方外側に設けることもできる。この場合には、メインライン158とサブライン160の分岐点154および合流点156が、ハウジング34の外側に位置することから、メインライン158の全体がハウジング34の外側に設けられると共に、サブライン160の一部がハウジング34の外側に設けられる。このように、流量制御部としての流量制御チューブ148は、ハウジング34内の流路配設スペース115を外れて配設され得る。要するに、薬液注入コントローラ10に設けられているとは、必ずしも薬液注入コントローラ10のハウジング34に収容状態で組み込まれている場合だけを意味するものではない。
【0130】
さらに、流量制御部がハウジング34の外部に設けられている場合に、メインライン158とサブライン160の合流点156は、ハウジング34の内側に設けることもできる。この場合には、薬液注入コントローラに対して、メインライン158の流入側の外部流路と、サブライン160の流入側の外部流路と、メインライン158の流出側の外部流路とが、接続される。
【0131】
また、前記実施形態では、流量制御チューブ148の両端が、接続部150,152の基端まで差し入れられて、メインライン158とサブライン160の分岐点154と合流点156に接続された構造を例示したが、例えば、流量制御チューブ148は、接続部150,152の基端まで達しないように開口部分に差し入れられて、分岐点154と合流点156を接続部150,152を介して間接的につなぐように設けることもできる。
【0132】
前記実施形態では、上流側の外部ライン26が流入側チューブ92の流入側ポート93に差し込まれて接続されると共に、下流側の外部ライン28が流出側チューブ96の流出側ポート100に差し込まれて接続されるようになっており、それら外部ライン26,28と流入側チューブ92および流出側チューブ96が独立した部材とされている。しかしながら、上流側の外部ライン26と流入側チューブ92を連続する一体のチューブで構成することも可能であるし、下流側の外部ライン28と流出側チューブ96を連続する一体のチューブで構成することも可能である。このことからも分かるように、流入側ポート93と流出側ポート100は、必ずしも独立したラインが差し込まれる構造に限定されるものではなく、メインライン158において薬液注入コントローラ10に設けられた部分の両端部を言う。
【0133】
また、前記実施形態では、流入側チューブ92と流出側チューブ96が、ハウジング34の断面における長軸方向と直交する左右方向に並んで配置されていたが、流入側チューブ92と流出側チューブ96は、例えば、ハウジング34の断面における長軸方向(上下方向)に並んで配置されていても良い。なお、流入側ポート93と流出側ポート100もハウジング34の断面における長軸方向に並んで配置され得ることは、言うまでもない。また、外部ライン26,28がハウジング34において押圧操作面79と反対側に位置する前側の壁部から前方へ延び出していることで、ハウジング34内における流路の複雑化が防止されている。尤も、キンク防止のための部材を内部に追加する等して、ハウジング34における押圧操作面79側(後側)から外部ライン26,28が延びるようにもできる。
【符号の説明】
【0134】
10,170:薬液注入コントローラ、12:薬液投与装置、16:薬液投与ポート、22:メインリザーバー、34:ハウジング、36:サブリザーバー、43:把持面、70:プランジャ、75:凹所、78,172:プッシュボタン(押圧操作部材)、79:押圧操作面(指先押圧面)、80:スプリング支持部(突起)、90:コイルスプリング、92:流入側チューブ(流入側の流路)、93:流入側ポート(外部流路接続用のポート)、94:オリフィスチューブ(制限流路)、95:プライミング流路、96:流出側チューブ(流出側の流路)、100:流出側ポート(外部流路接続用のポート)、114:掛止突起(規制部)、115:流路配設スペース、116:急速投与弁、140:閉止弁、141:弁体、142:傾斜当接辺、148:流量制御チューブ(流量制御部、接続流路)、158:メインライン、160:サブライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23