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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】加工システム、及び金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20240617BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20240617BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B23Q15/12 Z
G05B19/404 K
B23Q17/09 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021543755
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032920
(87)【国際公開番号】W WO2021045013
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2019163220
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】前田 一勇
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193018(JP,A)
【文献】特開2010-186374(JP,A)
【文献】特開2016-193469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/12
G05B 19/404
B23Q 17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材からなる被削物を加工する工具と、
前記被削物又は前記工具を回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部と、を備え、
前記制御部は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記測定部は電流センサを含み、
前記電気量は前記モータの負荷電流であり、
前記第一電気量と前記第二電気量とは、前記負荷電流の微分値であり、
前記第二電気量は、予め定めた加工開始時の直後の前記負荷電流の微分値である、
加工システム。
【請求項2】
金属部材からなる被削物を加工する工具と、
前記被削物又は前記工具を回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部と、を備え、
前記制御部は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記測定部は電流センサを含み、
前記電気量は前記モータの負荷電流であり、
前記第一電気量と前記第二電気量とは、前記負荷電流の積分値であり、
前記第二電気量は、予め定めた加工開始時から予め定めた加工完了時までの前記負荷電流の積分値である、
加工システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記差分が閾値以下である場合、前記モータの回転数をゼロとする請求項1または請求項に記載の加工システム。
【請求項4】
工具又は金属部材からなる被削物を回転させるモータの電気量を測定部で取得しながら、前記工具を用いて前記被削物を加工する工程を備え、
前記加工する工程は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記測定部は電流センサを含み、
前記電気量は前記モータの負荷電流であり、
前記第一電気量と前記第二電気量とは、前記負荷電流の微分値であり、
前記第二電気量は、予め定めた加工開始時の直後の前記負荷電流の微分値である、
金属部材の製造方法。
【請求項5】
工具又は金属部材からなる被削物を回転させるモータの電気量を測定部で取得しながら、前記工具を用いて前記被削物を加工する工程を備え、
前記加工する工程は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量であり、
前記測定部は電流センサを含み、
前記電気量は前記モータの負荷電流であり、
前記第一電気量と前記第二電気量とは、前記負荷電流の積分値であり、
前記第二電気量は、予め定めた加工開始時から予め定めた加工完了時までの前記負荷電流の積分値である、
金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工システム、及び金属部材の製造方法に関する。
本出願は、2019年9月6日付の日本国出願の特願2019-163220に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、焼結部品に対し、ドリルで穴あけ加工を施すことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-336078号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る加工システムは、
金属部材からなる被削物を加工する工具と、
前記被削物又は前記工具を回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部と、を備え、
前記制御部は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量である。
【0005】
本開示に係る金属部材の製造方法は、
工具又は金属部材からなる被削物を回転させるモータの電気量を測定部で取得しながら、前記工具を用いて前記被削物を加工する工程を備え、
前記加工する工程は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る加工システムを示す説明図である。
図2図2は、実施形態に係る加工システムの制御手順を示すフローチャートである。
図3図3は、実施形態に係る加工システムに備わる測定部が取得したモータの負荷電流の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
工具は、被削物を加工する過程で欠損することがある。工具に欠損が生じると、次の被削物を加工する際、被削物に対して非接触となる工具の領域が多くなる。非接触となる工具の領域が過度に多くなると、被削物の加工自体が困難となる。被削物の加工が困難になれば、工具によって所定の加工が施されていない不良品が生産される。
【0008】
本開示は、不良品の生産を抑制できる加工システム、及び金属部材の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示に係る加工システムや本開示に係る金属部材の製造方法は、不良品の生産を抑制できる。
【0010】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の一態様に係る加工システムは、
金属部材からなる被削物を加工する工具と、
前記被削物又は前記工具を回転させるモータと、
前記モータを制御する制御部と、
前記モータの電気量を取得する測定部と、を備え、
前記制御部は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量である。
【0012】
以下の説明において、モータの回転中かつ被削物の加工前とは、実際に被削物を加工する際の切削条件と同じ切削条件でモータによって工具が回転した状態において、工具と被削物とが接触しない状態のことをいう。被削物がテーブルに保持されているか否かは問わない。以下、モータの回転中かつ被削物の加工前を、単にモータの空転中ということがある。
【0013】
上記加工システムは、工具によって所定の加工が施されていない不良品の生産を抑制できる。その理由は、上記加工システムによれば、後述するように上記差分によって工具の欠損を検出でき、工具が欠損したとき制御部がモータの回転数を変えることができるからである。欠損は、工具の刃部が欠けることに加えて、工具が折れる折損も含む。
【0014】
上記差分によって工具の欠損を検出できる理由は、次の通りである。工具に欠損が生じると、被削物に対して非接触となる工具の領域が多くなる。非接触となる工具の領域が過度に多くなると、加工自体が困難となる。この加工が困難な状態は、実質的に被削物と工具とが相対的に空転している状態とみなせる。即ち、第二電気量が第一電気量に近づき、上記差分が小さくなる。この第二電気量が第一電気量と同程度になり、上記差分が実質的に無くなることもある。その結果、上記差分が閾値超から閾値以下に変化する。そのため、上記差分を求めることで、上記差分が閾値以下を満たすか否かが把握でき、工具に欠損が生じているか否かが把握できる。閾値については後述する。
【0015】
(2)上記加工システムの一形態として、
前記第一電気量と前記第二電気量とは、前記モータの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つであることが挙げられる。
【0016】
上記加工システムは、工具の欠損を検出し易い。その理由は、モータの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つは、工具の欠損と相関関係にあるからである。
【0017】
工具に欠損が生じていると、加工自体が困難となるため、被削物の加工中における加工抵抗が小さくなる。加工抵抗が小さいと、モータの負荷トルクが小さくなるため、モータの負荷電流の大きさが小さくなる。即ち、工具に欠損が生じると、被削物の加工中におけるモータの負荷電流の大きさが小さくなる。具体的には、工具が折損して被削物に接触しない場合、加工深さがゼロ(0)である。加工深さがゼロであることで、被削物の加工中におけるモータの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、モータの空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値と実質的に同程度になる。一方、工具の刃部が欠けたものの被削物に接触する場合、加工深さが小さくなる。加工深さが小さいことで、被削物の加工中におけるモータの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、工具が被削物に接触しない場合ほどではないものの、相対的に小さくなる。即ち、被削物の加工中におけるモータの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、モータの空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値に近づく。よって、モータの負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つは、工具が被削物を加工しているか否か、即ち工具に欠損が生じているか否かを把握することに利用できる。
【0018】
(3)上記加工システムの一形態として、
前記制御部は、前記差分が閾値以下である場合、前記モータの回転数をゼロとすることが挙げられる。
【0019】
上記加工システムは、不良品が生産され続けることを防止できる。その理由は、上記差分が上記閾値以下の場合、即ち工具に欠損が生じた場合、制御部がモータの回転数をゼロとすることができるからである。モータの回転数がゼロになると、工具又は被削物の回転が停止する。
【0020】
(4)本開示の一態様に係る金属部材の製造方法は、
工具又は金属部材からなる被削物を回転させるモータの電気量を測定部で取得しながら、前記工具を用いて前記被削物を加工する工程を備え、
前記加工する工程は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、前記モータの回転数を変え、
前記第一電気量は、前記モータの回転中かつ前記被削物の加工前に前記測定部で取得された電気量であり、
前記第二電気量は、前記被削物の加工中に前記測定部で取得された電気量である。
【0021】
上記金属部材の製造方法は、不良品の生産を抑制できる。その理由は、上述の加工システムと同様、上記金属部材の製造方法によれば、上記差分によって工具の欠損を検出でき、工具が欠損したときモータの回転数を変えることができるからである。また、上記金属部材の製造方法は、金属部材の生産性を向上できる。その理由は、工具を一旦検知器に移動して工具の欠損の有無を確認する必要がないため、この確認作業を省略できるからである。
【0022】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。
【0023】
《実施形態》
〔加工システム〕
図1を参照して、実施形態に係る加工システム1を説明する。本形態の加工システム1は、工具2と、モータ3と、測定部4と、制御部5とを備える。工具2は、被削物10を加工する。モータ3は、被削物10又は工具2を回転させる。測定部4は、モータ3の電気量を取得する。制御部5は、モータ3を制御する。本形態の加工システム1の特徴の一つは、制御部5が、第一電気量と第二電気量との差分に基づいて、モータ3の回転数を変える点にある。第一電気量と第二電気量の詳細については後述する。以下の説明は、被削物10の概要、加工システム1の各構成の詳細、の順に行う。
【0024】
[被削物]
被削物10は、工具2によって加工される加工対象である。被削物10の材質、種類、及び形状は、特に限定されず、適宜選択できる。被削物10の材質は、代表的には、純鉄、鉄合金、又は非鉄金属が挙げられる。被削物10の種類は、例えば、圧粉成形体、焼結体、又は溶製材などが挙げられる。圧粉成形体は、原料粉末を加圧成形したものである。焼結体は、圧粉成形体を焼結したものである。溶製材は、原料溶湯を凝固させたものである。被削物10の形状は、例えば、単一の板状体や柱状体などのような単純形状であってもよいし、板状体や柱状体などを複数組み合わせたような複雑形状であってもよい。被削物10は、加工される際、テーブル200の上に保持される。
【0025】
[工具]
工具2は、被削物10を加工する。工具2の種類は、加工の種類に応じて適宜選択できる。加工の種類としては、転削加工や旋削加工が挙げられる。転削加工の場合、工具2の種類は回転工具が挙げられる。旋削加工の場合、工具2の種類は旋削工具が挙げられる。回転工具としては、例えば、ドリル、リーマ、タップ、エンドミルなどが挙げられる。旋削工具としては、例えば、バイトが挙げられる。本形態では、工具2の種類はドリルとしている。
【0026】
本形態のように転削加工の場合、工具2は、駆動機構30によって、工具2の軸方向に移動して被削物10に対して近づくように前進したり、遠ざけるように後退したりする。工具2がエンドミルの場合、工具2は、駆動機構30によって、前進と後退とに加えて、工具2の回転軸に対して直交する方向へ水平移動したりする。本形態とは異なり旋削加工の場合、工具2は、駆動機構30によって、被削物10の回転軸に対して平行移動する。駆動機構30は、動力源と、動力源の動力を工具2に伝達する伝達機構とを有する。動力源は、工具2が加工に必要な動作を行うための動力を付与する部材である。動力源は、例えば、モータが挙げられる。伝達機構は、公知の伝達機構が利用できる。駆動機構30としては、例えば、XYZテーブルが利用できる。XYZテーブルは、三次元座標上の任意の位置に工具2を移動させられる。Z方向が、工具2の昇降方向である。XY方向が、工具2の昇降方向に直交する方向である。駆動機構30の種類としては、例えば、モータ、シリンダ、ソレノイド、ボールねじなどが挙げられる。本形態では、工具2は、ボールねじ及びモータによって、前進及び後退する。図1の工具2の長手方向に沿う矢印は、工具2の前進方向及び後退方向を示す。
【0027】
[モータ]
モータ3は、被削物10又は工具2を回転させる。モータ3は、本形態のように転削加工の場合、工具2を自転させる。モータ3は、旋削加工の場合、被削物10を自転させる。図1の工具2の周方向に沿う矢印は、工具2の回転方向を示す。工具2は、図1に示す回転方向と逆方向にも回転可能である。
【0028】
[測定部]
測定部4は、モータ3の電気量を取得する。測定部4で取得されるモータ3の電気量としては、第一電気量と第二電気量とが挙げられる。
【0029】
第一電気量は、モータ3の空転中に測定部4で取得されたモータ3の電気量である。モータ3の空転中とは、実際に被削物10を加工する際の切削条件と同じ切削条件でモータ3によって工具2が回転された状態において、工具2と被削物10とが接触しない状態のことをいう。被削物10がテーブル200に保持されているか否かは問わない。切削条件には、切削速度、切込み、送り、切削時間が挙げられる。第二電気量は、被削物10の加工中に測定部4で取得されたモータ3の電気量である。
【0030】
測定部4で取得されたモータ3の電気量には、例えば、電流センサで取得した値そのものの場合と、電流センサで取得した値に相関する値の場合と、電流センサで取得した値に所定の演算をして得られる値の場合とが含まれる。即ち、第一電気量及び第二電気量は、モータ3を駆動させる電気量そのもの、その電気量に相関する物理量、或いはその電気量から演算された演算値が含まれる。第一電気量及び第二電気量としては、例えば、モータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つが好ましい。その理由は、モータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値のそれぞれと工具2の欠損とが相関関係にあるため、工具2の欠損が検出され易いからである。欠損は、工具2の刃部が欠けることに加えて、工具2が折れる折損も含む。モータ3の負荷電流の大きさは、例えば、電流センサで取得された値そのものである。モータ3の負荷電流の微分値及び積分値は、例えば、電流センサで取得されたモータ3の負荷電流値を演算することで求められる。この演算は、後述する制御部5が行える。
【0031】
工具2に欠損が生じていると、被削物10に対して非接触となる工具2の領域が多くなることで、加工自体が困難となる。加工が困難になると、工具2の加工抵抗が小さくなる。工具2の加工抵抗が小さいと、モータ3の負荷トルクが小さくなるため、被削物10の加工中におけるモータ3の負荷電流の大きさが小さくなる。即ち、工具2に欠損が生じると、モータ3の負荷電流の大きさが小さくなる。
【0032】
具体的には、工具2が折損して被削物10に接触しない場合、加工深さがゼロ(0)である。加工深さがゼロであることで、被削物10の加工中におけるモータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、モータ3の空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値と実質的に同程度になる。一方、工具2の刃部が欠けたものの被削物10に接触する場合、加工深さが小さくなる。加工深さが小さいことで、被削物10の加工中におけるモータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、工具2が被削物10に接触しない場合ほどではないものの、小さくなる。即ち、被削物10の加工中におけるモータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値が、モータ3の空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値に近づく。よって、モータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つは、工具2が被削物10を適切に加工しているか否か、即ち工具2に欠損が生じているか否かを把握することに利用できる。
【0033】
[制御部]
制御部5は、モータ3を制御する。制御部5は、モータ3の回転数を変える。モータ3の回転数は、被削物10の加工に先立って、加工条件に応じた回転数に設定される。モータ3の回転数の変更は、代表的には、後述する差分に基づいて行われる。制御部5は、代表的には、コンピュータにより構成される。コンピュータは、プロセッサ、メモリなどを備える。メモリには、後述する制御手順をプロセッサに実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを読み出して実行する。プログラムは、演算部51の演算結果が閾値以下を満たすか否かを判定する処理、判定に基づいてモータ3の回転数を変える処理、に関するプログラムコードを含む。制御部5は、演算部51と記憶部53とを有する。
【0034】
(演算部)
演算部51は、第一電気量と第二電気量との差分を演算する。上述したように第一電気量及び第二電気量がモータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つである場合、演算する上記差分は、負荷電流の大きさ同士の差分、微分値同士の差分、積分値同士の差分の少なくとも一つが挙げられる。上記差分は、記憶部53に記憶される。
【0035】
第一電気量がモータ3の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つの場合、第一電気量は実質的に一定の値をとる。第一電気量は、予め求めておいて、記憶部53に記憶させておくとよい。
【0036】
なお、第一電気量は、被削物10ごとにモータ3の空転中に求めてもよい。被削物10ごとにモータ3の空転中に第一電気量を求める場合、第一電気量は、例えば、工具2が最も被削物10から後退した初期位置において、実際に被削物10を加工する際の切削条件と同じ切削条件でモータ3によって工具2が回転しているときに測定部4で取得したモータ3の電気量とすることが挙げられる。
【0037】
第二電気量は、モータ3の負荷電流の大きさとする場合、工具2による被削物10の加工開始から加工完了までに求めた電流値の平均値とする。また、第二電気量は、モータ3の負荷電流の微分値とする場合、工具2による被削物10の加工開始直後におけるモータ3の負荷電流の微分値とする。加工開始直後とは、加工開始から最大の電流値に達するまでの間である。更に、第二電気量は、モータ3の負荷電流の積分値とする場合、工具2による被削物10の加工開始から加工完了までに求めた負荷電流の積分値とする。
【0038】
加工開始時と加工完了時とは、例えば、予め、欠損の生じていない工具2を用いて複数の被削物を加工して求めておき、記憶部53に記憶しておくとよい。予め加工する複数の被削物の材質、形状、及びサイズと本加工用の被削物10の材質、形状、及びサイズとは、同一とする。予め加工する複数の被削物の加工条件と本加工用の被削物10の加工条件とは、同一とする。加工開始時と加工完了時とは、モータ3の負荷電流により把握できる。予め加工する複数の被削物の数は、2個から10個程度でよい。
【0039】
記憶させる加工開始時は、複数の被削物を加工したときの最も遅い加工開始時とすることが挙げられる。記憶させる加工完了時は、複数の被削物10を加工したときの最も早い加工完了時とすることが挙げられる。その理由は、被削物10の加工開始から加工完了までに求めた負荷電流の平均値及び積分値と被削物10の加工開始直後における負荷電流の微分値とに、モータ3の空転中の負荷電流値が含まれ難くなるからである。そのため、被削物10の加工開始から加工完了までに求めた負荷電流の平均値及び積分値と被削物10の加工開始直後における負荷電流の微分値とは、被削物10が実際に加工されているときの負荷電流の平均値及び積分値と微分値とに相当する。記憶させた加工開始時は、被削物10を加工した際、加工開始時が遅くなるたびに更新してもよい。同様に、記憶させた加工完了時は、被削物10を加工した際、加工完了時が早くなるたびに更新してもよい。
【0040】
制御部5は、上記差分が閾値以下の場合、モータ3の回転数をゼロとする。モータ3の回転数がゼロになると、工具2の回転が停止する。上記閾値は、例えば、加工システム1の安全率や工具2による適切な加工が可能か否かに基づいた値が挙げられる。上記閾値は、予め記憶部53に記憶させておく。モータ3の回転数を変えるタイミングは、工具2の位置に依らない。例えば、モータ3の回転数がゼロになった後、駆動機構30によって工具2を初期位置に移動させておいてもよいし、駆動機構30によって工具2を初期位置に移動させた後、モータ3の回転数をゼロとしてもよい。上記差分が上記閾値以下の場合、工具2に欠損が生じている。そのため、制御部5がモータ3の回転数をゼロにすることで、工具2の回転が停止されるため、工具2によって所定の加工が施されていない不良品が生産され続けることが防止される。
【0041】
制御部5は、上記差分が上記閾値超の場合、モータ3の回転数を変えない。その場合、次の被削物10は、その直前の被削物10と同じモータ3の回転数で回転した工具2によって加工される。
【0042】
[制御手順]
図2を参照して、制御部5による制御手順を説明する。モータ3によって工具2が回転すると、図2に示すステップS1として、測定部4がモータ3の負荷電流を取得する。
【0043】
図2に示すステップS2として、演算部51は、上述の差分を演算する。
【0044】
図2に示すステップS3として、制御部5は、上記差分が閾値以下を満たすか否かを判定する。ここでは、閾値は、説明の便宜上、正常な工具2を用いた場合において、被削物10の加工中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つと、モータ3の空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の少なくとも一つとの差の中間値に設定する。この中間値は、負荷電流の大きさ同士の差の中間値、微分値同士の差の中間値、及び積分値同士の差の中間値の少なくとも一つとする。
【0045】
ステップS3が閾値以下を満たす場合、ステップS4として、制御部5は、モータ3の回転数をゼロとする。モータ3の回転数がゼロになると、工具2の回転が停止する。そして、制御が終了する。ステップS3が閾値以下を満たす場合とは、詳しくは後述するように、被削物10との接触が不可となる欠損が生じた工具を用いた場合や、欠損が生じたものの、被削物10に接触可能な工具を用いた場合などが挙げられる。
【0046】
ステップS3の判定が否の場合、制御部5は、モータ3の回転数を変えない。即ち、次の被削物10は、その直前の被削物10と同じモータ3の回転数にて加工が行われ、ステップS3において、閾値以下と判定されるまで、次の被削物10の加工と、ステップS1からステップS3と、が繰り返される。ステップS3の判定が否の場合とは、詳しくは後述するように、欠損が生じていない正常な工具を用いた場合が挙げられる。
【0047】
図3を参照しつつ、被削物10との接触が不可となる欠損が生じた工具、欠損が生じたものの、被削物10に接触可能な工具、及び欠損が生じていない正常な工具、の各々が用いられた場合の制御部5の制御手順を説明する。図3は、上記各工具を用いて被削物10を加工したとき、測定部4が取得したモータ3の負荷電流の推移を示す。図3の横軸は、時間を示す。図3の縦軸は、負荷電流値を示す。図3の破線は、被削物10との接触が不可となる欠損が生じた工具を用いたときの負荷電流の推移である。図3の二点鎖線は、欠損が生じたものの、被削物10に接触可能な工具を用いたときの負荷電流の推移である。図3の実線は、欠損が生じていない正常な工具2を用いて被削物10を加工したときの負荷電流の推移である。図3の負荷電流の波形は、説明の便宜上、簡略化して示されたものであり、必ずしも実際の波形に対応しているわけではない。
【0048】
(接触不可な工具を用いた場合)
図3の破線で示すように、被削物10の加工中における負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の各々は、モータ3の空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の各々と実質的に同様になる。その理由は、接触不可な工具は、被削物10に到達できず、被削物10に対して加工自体が困難となるため、加工深さがゼロとなるからである。演算部51は、上述の差分を演算する。演算された差分は実質的にゼロに近づく。そのため、上述の閾値と上記差分とを比較すると、上記差分は上記閾値以下を満たす。制御部5は、その比較の結果に基づき、モータ3の回転数をゼロとする。モータ3の回転数がゼロになると、工具の回転が停止する。
【0049】
(欠損したものの接触可能な工具を用いた場合)
図3の二点鎖線で示すように、被削物10の加工開始時は、正常な工具2を用いた場合に比べて遅れる。その理由は、欠損したものの接触可能な工具は、被削物10に到達するものの、正常な工具2に比べて被削物10に到着するまでの時間がかかるからである。そして、被削物10の加工中における負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値はいずれも、正常な工具2を用いた場合に比べて小さくなる。その理由は、欠損したものの接触可能な工具は、正常な工具2に比べて、被削物10に対する加工深さが小さくなるため、被削物10の加工中における工具2の加工抵抗は小さくなるからである。演算部51は、上述の差分を演算する。演算された差分は小さくなる。そのため、上述の閾値と上記差分とを比較すると、上記差分は上記閾値以下を満たす。制御部5は、その比較の結果に基づき、モータ3の回転数をゼロとする。
【0050】
(正常な工具を用いた場合)
図3の実線で示すように、被削物10の加工中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の各々は、モータ3の空転中の負荷電流の大きさ、微分値、及び積分値の各々よりも大きくなる。その理由は、正常な工具2は、被削物10との接触領域が多くなるため、加工抵抗が大きくなるからである。演算部51は、上述の差分を演算する。演算された差分は大きくなる。そのため、上述の閾値と上記差分とを比較すると、上記差分は上記閾値以下を満たさない。即ち、上記差分は上記閾値超を満たす。制御部5は、その比較の結果に基づき、モータ3の回転数を変えない。
【0051】
〔作用効果〕
本形態の加工システム1は、工具2の欠損を検出できるため、工具2によって所定の加工が施されていない不良品の生産を抑制できる。
【0052】
〔金属部材の製造方法〕
本形態の金属部材の製造方法は、工具を用いて金属部材からなる被削物を加工する工程を備える。この加工は、粗加工や仕上げ加工のいずれでもよい。以下、加工する工程を詳細に説明する。
【0053】
[加工する工程]
加工する工程は、工具又は被削物を回転させるモータの電気量を測定部で取得しながら行う。加工する工程は、第一電気量と第二電気量との差分に基づいてモータの回転数を変える。第一電気量は、上述した通り、モータの空転中に測定部で測定されたモータの電気量である。第二電気量は、上述した通り、被削物の加工中に測定部で測定されたモータの電気量である。
【0054】
上記差分が閾値以下の場合、モータの回転数をゼロとする。モータの回転が停止したら、欠損した工具が新しい工具に交換される。新しい工具に交換されたら、上記差分が上記閾値以下となるまで、次の被削物の加工が繰り返し行われる。一方、上記差分が上記閾値超の場合、モータの回転数は変えない。その場合、次の被削物は、その直前の被削物と同じ回転数の工具によって加工される。そして、上記差分が上記閾値以下となるまで、次の被削物の加工が繰り返し行われる。
【0055】
〔作用効果〕
本形態の金属部材の製造方法は、工具の欠損を検出できるため、工具によって所定の加工が施されていない不良品の生産を抑制できる。また、本形態の金属部材の製造方法は、金属部材の生産性を向上できる。その理由は、工具を一旦検知器に移動して工具の欠損の有無を確認する必要がないため、この確認作業を省略できるからである。
【0056】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
1 加工システム
2 工具
3 モータ
30 駆動機構
4 測定部
5 制御部
51 演算部
53 記憶部
10 被削物
200 テーブル
図1
図2
図3