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特許7504365細菌の検出方法および細菌の検出用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】細菌の検出方法および細菌の検出用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20240617BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240617BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20240617BHJP
【FI】
C12Q1/37
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/689 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021208564
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2023093129
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2024-01-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515281156
【氏名又は名称】日本テクノサービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521560296
【氏名又は名称】杉田 直
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中野 聡子
(72)【発明者】
【氏名】清水 則夫
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】望月 學
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇
(72)【発明者】
【氏名】外丸 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-122186(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0349937(US,A1)
【文献】特開平05-049477(JP,A)
【文献】大石 正夫ほか,細菌性眼内炎,日本臨床,1994年,vol. 52, no. 2,p. 211-217
【文献】鈴木 崇,角膜炎,別冊 日本臨床 新領域別症候群シリーズ No.25 感染症症候群(第2版),2013年,vol. 25,p. 579-583
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌を含み得る生体試料と、プロテイナーゼKを含むPCR緩衝液とを混合した検体混合液について、前記プロテイナーゼKの反応を進行させる分解工程と、
前記検体混合液に含まれる前記プロテイナーゼKを失活させる失活工程と、
前記失活工程後の前記検体混合液の少なくとも一部をPCR反応組成物に添加してPCR産物を増幅し、当該PCR産物を検出する検出工程と、を含み、
前記生体試料は、眼球または眼球付属物の少なくとも一部を含む眼科検体であり、
前記PCR反応組成物としては、バンコマイシン耐性遺伝子を検出するためのPCRプライマー対およびメチシリン耐性遺伝子を検出するためのPCRプライマー対を含む単一の前記PCR反応組成物を少なくとも含み、
前記バンコマイシン耐性遺伝子を検出するためのプライマー対は、配列番号25に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号26に示す塩基配列を有するプライマーと、から構成され、
前記メチシリン耐性遺伝子を検出するためのプライマー対は、配列番号27に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号28に示す塩基配列を有するプライマーと、から構成される、細菌の検出方法。
【請求項2】
前記PCR反応組成物は、眼科性細菌感染症の起炎病原体の少なくとも1種を検出するためのPCRプライマー対を含む、請求項に記載の細菌の検出方法。
【請求項3】
前記起炎病原体は、エンテロコッカス属、クレブシエラ属、ノカルディア属、レンサ球菌属、スタフィロコッカス属、緑膿菌および大腸菌からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の細菌の検出方法。
【請求項4】
前記PCR反応組成物は、DNAジャイレース遺伝子およびトポイソメラーゼIV遺伝子の少なくとも何れかにおける、キノロン耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するためのPCRプライマー対を含み、
前記キノロン耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するためのPCRプライマー対は、配列番号29に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号30に示す塩基配列を有するプライマーと、から構成される、請求項1からの何れか1項に記載の細菌の検出方法。
【請求項5】
プロテイナーゼKを含むPCR緩衝液と、PCR反応組成物とを備え、
前記PCR反応組成物としては、バンコマイシン耐性遺伝子を検出するためのPCRプライマー対およびメチシリン耐性遺伝子を検出するためのPCRプライマー対を含む単一の前記PCR反応組成物を少なくとも含み、
前記バンコマイシン耐性遺伝子を検出するためのプライマー対は、配列番号25に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号26に示す塩基配列を有するプライマーと、から構成され、
前記メチシリン耐性遺伝子を検出するためのプライマー対は、配列番号27に示す塩基配列を有するプライマーと、配列番号28に示す塩基配列を有するプライマーと、から構成される、細菌の検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の検出方法および細菌の検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
病原体を検出するため、多様な技術が提案されている。その中で、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用するPCR法は、検出感度および検出精度に優れていることから、広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、DNAポリメラーゼおよびPCRプライマー対を同一のチューブに備えるキットが開示されている。また、特許文献1には、界面活性剤を含むPCR緩衝液により、ウイルスを溶解する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-198809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術は通常、病原体が血液または体液等、液体中に存在する場合に適用できる。一方、病原体が角膜等の組織片中に存在する場合、PCR法を行うにはまず組織片から病原体の核酸を分離する必要がある。しかしながら、特許文献1の技術は、組織片からの病原体の核酸分離が困難であり、適用可能な生体試料の種類が限られる。
【0006】
また、特許文献1の技術は主にウイルスを対象としており、細菌を対象とした場合に、核酸抽出のため細菌壁を効率的に溶解できるかは不明である。
【0007】
本発明の一態様は、多様な生体試料から、細菌の核酸を効率よく抽出してPCRにより検出する方法等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る細菌の検出方法は、細菌を含み得る生体試料と、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液とを混合した検体混合液について、前記タンパク質分解酵素の反応を進行させる分解工程と、前記検体混合液に含まれる前記タンパク質分解酵素を失活させる失活工程と、前記失活工程後の前記検体混合液の少なくとも一部をPCR反応組成物に添加してPCR産物を増幅し、当該PCR産物を検出する検出工程と、を含む。
【0009】
本発明の一態様に係る細菌の検出方法は、前記生体試料は、眼球または眼球付属物の少なくとも一部を含む眼科検体であってもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る細菌の検出方法は、前記PCR反応組成物は、眼科性細菌感染症の起炎病原体の少なくとも1種を検出するためのPCRプライマー対を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る細菌の検出方法は、前記起炎病原体は、エンテロコッカス属、クレブシエラ属、ノカルディア属、レンサ球菌属、スタフィロコッカス属、緑膿菌および大腸菌からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る細菌の検出方法は、前記PCR反応組成物は、メチシリン耐性遺伝子、バンコマイシン耐性遺伝子およびキノロン耐性遺伝子の少なくとも何れかを検出するためのPCRプライマー対を含んでいてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る細菌の検出方法は、前記PCR反応組成物は、DNAジャイレース遺伝子およびトポイソメラーゼIV遺伝子の少なくとも何れかにおける、キノロン耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するためのPCRプライマー対を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る細菌の検出方法は、前記PCR反応組成物は、メチシリン耐性遺伝子、バンコマイシン耐性遺伝子およびキノロン耐性遺伝子の少なくとも何れかを検出するためのPCRプライマー対と、前記キノロン耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するためのPCRプライマー対と、を含んでいてもよい。
【0015】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る細菌の検出用キットは、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液と、PCR反応組成物とを備え、前記PCR反応組成物は、細菌感染症の起炎病原体の少なくとも1種を検出するためのPCRプライマー対を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、多様な生体試料から、細菌の核酸を効率よく抽出してPCRにより検出する方法等を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔本発明の概要〕
細菌の核酸を増幅および検出する技術には、様々な方法が用いられている。例えば、PCRを利用するPCR法の他、転写-逆転写協奏反応(TRC)法、転写媒介性増幅(TMA)法、拡散配列ベース増幅(NASBA)法、ループ媒介性等温増幅(LAMP)法、スマート増幅プロセス(SMAP)法、等温キメラプライマー開始核酸増幅(ICAN)法等が知られている。
【0018】
なかでもPCR法は、多くの利点があることから、広く研究および臨床に応用されている方法である。PCR法の利点として、例えば、特定のDNA断片を選択的に増幅できること、極めて微量な検体からも実施が可能なこと、増幅に要する時間が比較的短いこと、および、プロセスが単純で、例えば全自動の卓上用装置で増幅できること、等が挙げられる。
【0019】
PCR法は、例えば、眼科性細菌感染症の診断でも活用されている。得られる検体量に制限がある眼科検体から、眼科性細菌感染症の原因となる細菌を検出するためには、微量な検体から迅速に核酸を検出可能なPCR法が好適に利用されている。
【0020】
PCR法では、検体の前処理が求められる。被験者から採取した生体試料には通常、酵素反応を阻害する物質が多量に存在している。この酵素反応を阻害する物質はPCRを阻害するため、事前に酵素反応を阻害する物質を除く必要がある。このように、PCR法により細菌の検出を行うためには、生体試料中の酵素反応を阻害する物質を取り除いたり、生体試料中の核酸を精製したりする前処理が必要であった。
【0021】
このような前処理を行う煩雑さを低減させ、生体試料の前処理なしでもPCR法により病原体の検出を可能とする技術として、例えば、Ampdirect(登録商標)技術が知られている(Ann Clin Biochem 37, 674-680, 2000)。このような技術を用いれば、細菌を含む生体試料から抽出した核酸をそのままPCRに用いることができる。
【0022】
核酸の抽出には、前記の特許文献1のような界面活性剤を含むPCR緩衝液を用いる方法がある。しかしながら、このような方法は、血液等の液体状の検体を想定しており、組織片等から細菌の核酸を抽出するのは困難である。組織片から細菌の核酸を分離する方法として、組織片の主成分はタンパク質であることからタンパク質分解酵素を含む緩衝液に組織片を添加し、組織片のタンパク質を消化する方法が知られている。しかしながら、タンパク質分解酵素はDNAポリメラーゼも消化してしまうため、タンパク質分解酵素とDNAポリメラーゼとを共存させることはできない。
【0023】
したがって、タンパク質分解酵素とDNAポリメラーゼとは別々の反応容器に入れておく必要があり、DNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液に直接組織片を添加し、PCR法による細菌の核酸の分析を行うことは困難である。
【0024】
また、タンパク質分解酵素を含む緩衝液とDNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液とは、通常組成が異なる。そのため、タンパク質分解酵素による反応後の試料添加により、DNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液の組成に変化が生じ、後のPCRが上手く進行しない場合がある。そのため従来は、DNAポリメラーゼを含むPCR緩衝液への、タンパク質分解酵素による反応後の試料の添加量は限られていた。PCR緩衝液中の細菌の核酸量を増やすためには、例えば、検体の量を増やす必要があった。
【0025】
本発明の一実施形態に係る細菌の検出方法(以下、「本発明の一検出方法」と称する場合がある)は、生体試料が液体状であるか固体状であるかを問わず、細菌を含み得る生体試料から効率的に核酸を抽出できる。以下、本発明の一検出方法について説明する。
【0026】
〔本発明の一検出方法〕
本発明の一検出方法は、分解工程と、失活工程と、検出工程とを含む。
【0027】
(分解工程)
分解工程は、細菌を含み得る生体試料と、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液とを混合した検体混合液について、タンパク質分解酵素の反応を進行させる工程である。
【0028】
細菌とは、特に限定されないが、例えば、細菌感染症の起炎病原体となる細菌が挙げられる。細菌の感染対象は、ヒトであってもよく、ヒト以外の哺乳動物であってもよく、哺乳動物以外の動物であってもよい。このような細菌として、例えば、眼科性細菌感染症の起炎病原体が挙げられる。眼科性細菌感染症の起炎病原体としては、例えば、エンテロコッカス属、クレブシエラ属、ノカルディア属、レンサ球菌属、スタフィロコッカス属、緑膿菌および大腸菌が挙げられる。
【0029】
エンテロコッカス属の細菌としては、例えば、エンテロコッカスフェカリス、エンテロコッカスアガラクティエが挙げられる。クレブシエラ属の細菌としては、例えば、肺炎桿菌が挙げられる。レンサ球菌属の細菌としては、例えば、A群溶血性レンサ菌、B群溶血性レンサ球菌および肺炎レンサ球菌が挙げられる。スタフィロコッカス属の細菌としては、例えば、黄色ブドウ球菌または黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌が挙げられる。黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌としては、例えば、スタフィロコッカスエピデルミディス等の表皮ブドウ球菌が挙げられる。
【0030】
細菌を含み得る生体試料とは、細菌感染が疑われる等の、細菌感染有無の検出対象となる生体から得られる試料であり、特に限定されない。生体とは、ヒトであってもよく、ヒト以外の哺乳動物であってもよく、哺乳動物以外の動物であってもよい。これらの生体から得られる生体試料としては、例えば、眼球または眼球付属物の少なくとも一部を含む眼科検体が挙げられる。
【0031】
眼球の一部としては、例えば、角膜、硝子体、水晶体、強膜、ぶどう膜および毛様小体等の一部が挙げられる。また、眼球の一部として、眼球内に存在する房水も含まれていてよい。眼球付属物としては、例えば、眼球付属器と、眼球または眼球付属器から分泌される涙液等の分泌物と、が挙げられる。眼球付属器の一部としては、例えば、結膜、涙器、眼筋および眼瞼等の一部が挙げられる。
【0032】
このような眼科検体は、多量の採取が困難であるため、PCRに供することができる生体試料の量が制限されやすい。本発明の一検出方法は、微量の生体試料から細菌由来の核酸を検出可能である。したがって、本発明の一検出方法は、採取可能量が微量となりやすい眼科検体等の生体試料に、特に好適に使用できる。なお、生体試料としては、眼科検体以外であってもよく、例えば、血液または皮膚等であってもよい。
【0033】
このような生体試料と、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液(以下、「前処理溶液」と称する場合がある)とを混合する。前処理溶液は、DNAポリメラーゼを含まない。例えば、生体試料が付着した綿棒等を前処理溶液へ浸すことにより、細菌を含み得る生体試料を前処理溶液に添加してよい。生体試料が添加された前処理溶液を、検体混合液と称する。
【0034】
PCR緩衝液の組成は、特に限定されず、従来公知のPCR緩衝液を用いることができる。PCR緩衝液は、例えば、KCl、MgClおよびdNTPミックス(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPの混合物)を含むトリス緩衝液であってよい。
【0035】
PCR緩衝液に含まれるタンパク質分解酵素は特に限定されないが、例えば、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼおよびアスパラギンペプチドリアーゼが挙げられる。なかでも、タンパク質分解活性および入手容易性等の観点から、セリンプロテアーゼの一種であるプロテイナーゼKであることが好ましい。
【0036】
前処理溶液への生体試料の添加量は、生体試料が角結膜擦過物等の固体状である場合、0.5mg~5mgであり、より好ましくは0.5mg~3mgであり、さらに好ましくは0.75mg~2mgである。また、生体試料が房水等の液体状である場合、12μL~20μLであることが好ましいが、12μL未満であってもよい。
【0037】
得られた検体混合液について、タンパク質分解酵素の反応を進行させる。タンパク質分解酵素によりタンパク質を効率的に分解する観点から、当該反応では検体混合液を37℃以上60℃以下の温度で加熱することが好ましい。この場合、加熱時間は、検体混合液中のタンパク質のほぼ全てが分解するまで行えばよく、例えば、30分以上60分以下であってよい。
【0038】
(失活工程)
失活工程は、タンパク質分解酵素による反応後、検体混合液に含まれるタンパク質分解酵素を失活させる工程である。タンパク質分解酵素を失活させる方法は特に限定されないが、例えば、検体混合液を加熱する、タンパク質分解酵素の阻害剤を検体混合液に添加する、タンパク質分解酵素を自己消化させる等の方法が挙げられる。なかでも、加熱による失活が、簡便かつ確実にタンパク質分解酵素を失活させる観点から好ましい。
【0039】
加熱によりタンパク質分解酵素を失活させる場合、例えば、検体混合液を90℃以上100℃以下の温度で加熱することが好ましい。この場合、加熱時間は、タンパク質分解酵素がほぼ完全に失活するまで行えばよく、例えば、5分以上10分以下であってよい。
【0040】
(検出工程)
検出工程は、失活工程後の検体混合液の少なくとも一部を、PCR反応組成物に添加してPCR産物を増幅し、当該PCR産物を検出する工程である。
【0041】
PCR反応組成物は、DNAポリメラーゼと、少なくとも1種のPCRプライマー対とを含んでいてよい。このようなPCR反応組成物に検体混合液を添加してPCRを行うことにより、検体混合液中にPCRプライマー対に対応する標的核酸が含まれていれば、PCR産物が増幅される。
【0042】
DNAポリメラーゼは、耐熱性DNAポリメラーゼであれば特に限定されないが、例えば、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体であってよい。DNAポリメラーゼによる非特異的な核酸の増幅を避ける観点からは、ホットスタートDNAポリメラーゼを用いてもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼとしては、例えば、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼ、酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0043】
PCRプライマー対は、特に限定されないが、例えば、細菌を検出するもの、細菌が保有する薬剤耐性遺伝子を検出するもの、細菌の遺伝子であって薬剤耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するもの等が挙げられる。
【0044】
細菌を検出するためのPCRプライマー対は、細菌の種類によって適宜設計されてよい。このようなPCRプライマー対として、例えば、眼科性細菌感染症の起炎病原体の少なくとも1種を検出するためのPCRプライマー対が挙げられる。この場合、PCRプライマー対は、上述した各種細菌にそれぞれ特有の配列を有する核酸を増幅できるように設計されたものであってよい。このような設計は、例えば、公知の配列データベース(GenBank等)から得られる塩基配列情報に基づいて実施できる。
【0045】
細菌が保有する薬剤耐性遺伝子を検出するためのPCRプライマー対は、保有する細菌および薬剤耐性遺伝子の種類によって適宜設計されてよい。ここでいう薬剤耐性遺伝子とは、本来は細菌が保有していない遺伝子であり、例えば、プラスミド性等の伝播可能な薬剤耐性遺伝子を示す。すなわち、本明細書での「薬剤耐性遺伝子」は、後述の「細菌の遺伝子であって薬剤耐性を示す遺伝子変異」とは異なるものであってよい。
【0046】
細菌が保有する薬剤耐性遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、メチシリン耐性遺伝子(mecA等)、バンコマイシン耐性遺伝子(vanA、vanB、vanC等)およびキノロン耐性遺伝子(qnr等)が挙げられる。すなわち、細菌が保有する薬剤耐性遺伝子を検出するためのPCRプライマー対は、メチシリン耐性遺伝子、バンコマイシン耐性遺伝子およびキノロン耐性遺伝子の少なくともいずれかを検出するためのものであってもよい。
【0047】
細菌の遺伝子であって薬剤耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するためのPCRプライマー対は、当該遺伝子変異の種類によって適宜設計されてよい。このような遺伝子変異としては、例えば、DNAジャイレース遺伝子およびトポイソメラーゼIV遺伝子の少なくとも何れかにおける、キノロン耐性を示す遺伝子変異が挙げられる。より具体的には、例えば、gyrA遺伝子、gyrB遺伝子、parC遺伝子、parE遺伝子等に生じることで、キノロン耐性を示す遺伝子変異が挙げられる。
【0048】
細菌の核酸を複数同時に検出する観点から、少なくとも1種のPCRプライマー対を含むPCR反応組成物を2種類以上用いてもよい。この場合、これら2種類以上のPCR反応組成物のそれぞれに、失活工程後の検体混合液の少なくとも一部を添加し、PCRを行うことで、細菌の核酸を複数同時に検出できる。複数同時に検出する核酸は、例えば、複数種類の細菌それぞれの核酸であってもよいし、細菌を検出するための核酸および当該細菌が有する薬剤耐性遺伝子を検出するための核酸であってもよい。
【0049】
また、PCRにはマルチプレックスPCR法を用いてもよい。マルチプレックスPCR法は、検体混合液の量を節約し、複数種類の核酸を同時に増幅する方法として知られている(Sugita S, et al. Br J Ophthalmol. 2008;92:928-932、Sugita S, et al. Ophthalmology. 2013;120:1761-1768)。マルチプレックスPCR法は、単一のPCR反応系において複数種類のPCRプライマー対を用いることにより、複数の核酸領域を同時に増幅する方法である。この方法では、検体混合液の量の節約ができることに加えて、細菌の核酸を複数同時に検出できるという利点がある。マルチプレックスPCR法を用いる場合、それぞれのPCRプライマー対による標的核酸の増幅が、単一のPCR反応系において良好に進行するように、各プライマーの配列および反応条件の至適化を行うことが好ましい。
【0050】
以上に示す通り、本発明の一検出方法において、「PCR反応組成物が2種類以上のPCRプライマー対を含む」という場合、次の(a)および(b)のいずれかまたは両方を含んでいてよい。(a)単一のPCR反応組成物に2種類以上のPCRプライマー対が含まれる場合、(b)1種類のPCRプライマー対を含むPCR反応組成物を複数用いて、本発明の一検出方法を行う場合。
【0051】
本発明の一検出方法により、細菌の核酸を複数同時に検出する場合、PCRプライマー対は、メチシリン耐性遺伝子、バンコマイシン耐性遺伝子およびキノロン耐性遺伝子の少なくとも何れかを検出するためのものと、キノロン耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するためのものと、の両方を含むものであってよい。このような構成によれば、複数の要因による細菌の薬剤耐性を、一度に検出することができる。また、キノロン耐性遺伝子を検出するPCRプライマー対と、キノロン耐性を示す遺伝子変異の有無を検出するPCRプライマー対との両方を含むことが好ましい。このような構成によれば、細菌のキノロン耐性について、伝播性のキノロン耐性遺伝子によるものと、細菌のDNAジャイレース等の遺伝子変異によるものとの、両方を網羅的に検出できる。
【0052】
PCR反応組成物は、溶液であってもよく、凍結乾燥等により調整された固体であってもよい。PCR反応組成物が固体であれば、失活工程後の検体混合液をPCR反応組成物と混合するだけでPCRを開始できるため、本発明の一検出方法が、簡便な操作により実施可能となる。また、この場合、PCR反応組成物の保管も容易となる。
【0053】
PCR反応組成物は、少なくとも1種の蛍光標識プローブを含むことが、検出精度の観点から好ましい。蛍光標識プローブは、PCR産物を蛍光検出するための、蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブである。PCR反応組成物が1種のPCRプライマー対を含む場合には、蛍光色素も1種でよい。一方、PCR反応組成物が、2種以上のPCRプライマー対を含む場合には、2種以上の異なる蛍光色素を、各PCR産物の検出に用いることが好ましい。
【0054】
このような蛍光色素としては、例えば、6-caroxyfluorescein(FAM)、6-carboxy-X-rhodamine(ROX)、Alexa Fluor(登録商標)系色素(例えば、ALEXA594)、Cyanine系色素(例えば、Cy5)および4,7,2',4',5',7'-hexachloro-6-carboxyfluorescein(HEX)が挙げられる。蛍光標識プローブの塩基配列は、検出対象となる核酸の塩基配列に基づいて適宜設計すればよい。
【0055】
PCR反応組成物と、失活工程後の検体混合物とを混合し、サーマルサイクリングを行うことでPCRが進行する。PCR条件(温度、時間およびサイクル数)の設定は、想定される細菌に由来する核酸の配列等により、適宜設定してよい。細菌由来の核酸が検体混合液に含まれていれば、PCR産物が増幅され得る。また、当該細菌が薬剤耐性菌であった場合、薬剤耐性遺伝子または薬剤耐性を示す遺伝子変異の有無に対応するPCR産物が増幅され得る。
【0056】
次に、増幅されたPCR産物を検出する。PCR産物を検出する方法は、例えば、アガロースゲルを用いた電気泳動法、熱融解曲線の解析による検出、蛍光検出等の方法が挙げられる。検出の迅速性の観点からは、リアルタイム測定と称されるPCR産物の検出方法が好ましい。
【0057】
PCR産物のリアルタイム測定は、リアルタイムPCRとも称される。リアルタイムPCRでは、一般的には、蛍光検出によりPCR産物を検出する。リアルタイムPCRにおける蛍光検出の方法としては、例えば、インターカレーター性蛍光色素または蛍光標識プローブを用いる方法が挙げられる。インターカレーター性蛍光色素は、例えば、SYBR(登録商標)Greenが挙げられる。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合する。二本鎖DNAへの結合により集積した蛍光色素に励起光を照射して蛍光強度を測定することで、PCR産物の生成量を測定できる。
【0058】
リアルタイム測定に用いる蛍光標識プローブとしては、例えば、加水分解プローブ、Molecular Beaconおよびサイクリングプローブ等が挙げられる。加水分解プローブとしては、5’末端が蛍光色素により修飾され、3’末端がクエンチャー物質により修飾されたオリゴヌクレオチドプローブであってよい。加水分解プローブに用いられる蛍光色素としては、特に限定されないが、例えば、上述した蛍光色素であってよい。クエンチャー物質としては、例えば、TAMRA(登録商標)、Black Hole Quencher(BHQ、登録商標)1、BHQ2、MGB-Eclipse(登録商標)およびDABCYL等が挙げられる。2種以上の異なるPCR産物を区別して検出するためには、それぞれ異なる蛍光色素で標識した2種以上の蛍光標識プローブ(例えば、加水分解プローブ)を用いてPCRを行うことが、検出精度の観点から好ましい。
【0059】
PCR産物のリアルタイム測定の場合、使用する蛍光色素に対応した蛍光フィルタを用いてPCR産物の増幅曲線をモニタすることで、PCRの進行状況をリアルタイムで確認できる。PCRサイクル数に応じて蛍光強度が増加すれば、PCR産物が増幅されていると判定してよい。
【0060】
本発明の一検出方法では、失活工程後の検体混合液の一部を、コントロール用PCR反応組成物に添加した条件を含めて、検出工程を実行することが好ましい。コントロール用PCR反応組成物は、例えば、上述のPCR反応組成物に加えて、陽性コントロール核酸および陽性コントロール核酸に対応するPCRプライマー対を有していてよい。陽性コントロール核酸は、PCRの反応が正常に行われたことを示す指標、および、生体試料由来の核酸がPCR反応組成物に正しく添加されたことを示す指標等として用いられる。
【0061】
PCRの反応が正常に行われたことを示す指標として用いる場合、陽性コントロール核酸は、生体試料に含まれていると考えられる核酸、または、人工的に合成した人工配列であってよい。
【0062】
陽性コントロール核酸として、生体試料に含まれていると考えられる核酸を用いる場合、発現量がぶれにくいハウスキーピング遺伝子とすることがより好ましい。ハウスキーピング遺伝子としては、例えば、TATA-binding protein(TBP)遺伝子、glyceraldehyde-3-phophate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子、β-アクチン遺伝子、β2-マイクログロブリン遺伝子、hypoxanthine phosphoribosyl transferase 1(HPRT1)遺伝子、18SrRNA遺伝子、5-aminolevulinate synthase(ALAS)遺伝子、β-グロビン(β-globin)遺伝子、Glucose-6-phophate dehydrogenase(G6PD)遺伝子、β-glucuronidase(GUSB)遺伝子、importin 8(IPO8)遺伝子、porphobilinogen deaminase(PBGD)遺伝子、phosphoglycerate kinase 1(PGK1)遺伝子、peptidylprolyl isomerase A(PPIA)遺伝子、ribosomal protein L13a(RPL13A)遺伝子、ribosomal protein large P0(RPLP0)遺伝子、succinate dehydrogenase subunit A(SDHA)遺伝子、transferrin receptor(TFRC)遺伝子、3-monooxygenase/tryptophan 5-monooxygenase activation protein, zeta(YWHAZ)遺伝子等が挙げられる。
【0063】
陽性コントロール核酸は、核酸コピー数の定量による細菌由来の核酸の定量(絶対定量または相対定量)にも有用である。細菌由来の核酸の定量結果は、例えば、生体試料中の細菌数の指標とすることができる。絶対定量を行う場合は、例えば、濃度既知の陽性コントロール核酸の測定結果に基づいて検量線を作成することにより、濃度未知の細菌由来の核酸を精度よく定量できる。この場合、陽性コントロール核酸は、生体試料には含まれない、人工的に合成された人工配列であることが好ましい。
【0064】
相対定量を行う場合は、例えば、PCR産物が一定量に達するまでに要するサイクル数を、陽性コントロール核酸と標的核酸との間で比較してよい。当該比較により、原理上1サイクルごとにPCR産物が2倍に増幅するPCRの特性に基づいて、陽性コントロール核酸に対する標的核酸の相対的な濃度差を算出できる。
【0065】
陽性コントロール核酸は、これらのうち1種であってもよく、2種以上であってもよい。2種以上の陽性コントロール核酸を用いる構成は、核酸の定量の信頼性を高める観点から好ましい。陽性コントロール核酸として、例えば、GAPDHおよびTBPを組み合わせて用いてよい。
【0066】
本発明の一検出方法によれば、微量の生体試料から、細菌の有無および/または当該細菌の薬剤耐性の有無を検査する場合に、煩雑な操作を必要とせず、細菌由来の核酸を抽出してPCRに用いることができる。したがって、効率的に細菌に関する検査を実施できる。このような構成によれば、細菌感染症等の検査の簡便化による普及促進を通じて、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成に貢献できる。
【0067】
〔検出用キット〕
本発明の一実施形態に係る細菌の検出用キット(以下、「本発明の一キット」と称する場合がある)は、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液と、PCR反応組成物とを備える。本発明の一キットが備えるPCR反応組成物は、眼科性細菌感染症の起炎病原体の少なくとも1種を検出するためのPCRプライマー対を含む。また、本発明の一キットは、上述のコントロール用PCR反応組成物をさらに含んでいることが好ましい。本発明の一キットが備える各構成については、上述の〔本発明の一検出方法〕の説明を援用可能である。
【0068】
本発明の一キットは、例えば、タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液を内包する検体採取容器と、PCR反応組成物を内包するPCR反応容器と、を備えていてもよい。また、PCR反応容器は、PCR反応組成物が備えるPCRプライマー対の種類ごとに、複数備えられていてもよい。この場合、本発明の一キットのユーザは、採取した生体試料を検体採取容器に添加すれば、そのまま検体採取容器内で分解工程および失活工程を実施できる。また、当該ユーザは、失活工程後の検体混合液の少なくとも一部を各PCR反応容器に添加すれば、そのまま各PCR反応容器内で検出工程を実施できる。
【0069】
検体採取容器およびPCR反応容器はいずれも、PCRに用いるサーマルサイクラーに適合する形状の容器であることが好ましい。このような容器として、例えば、複数のチューブが連結したチューブストリップまたは複数のウェルを備えるPCR用ウェルプレートが挙げられる。
【0070】
また、本発明の一キットは、タンパク質分解酵素の阻害剤等、上述した構成以外の試薬を含み得る。なお、本発明の一キットの説明において使用される用語「含む」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図され得る。また、本発明の一キットは、本発明の一検出方法を実施するための説明書を備えていてもよい。
【0071】
本発明の一キットによれば、微量の生体試料を採取し、本発明の一検出方法に従って細菌の有無および/または当該細菌の薬剤耐性の有無を検査する場合に、効率的に検査を実施できる。
【0072】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0073】
〔1.PCRプライマー対および蛍光標識プローブの検出性能評価〕
(1-1.PCR産物の増幅確認)
本発明の一検出方法に用いるPCRプライマー対および蛍光標識プローブを用いたPCR産物の増幅実験を行った。本実験に用いたPCRプライマー対を以下に示す:
GAPDH遺伝子検出用
(フォワード)5'-tgtgctcccactcctgatttc-3'(配列番号1)
(リバース)5'-cctagtcccagggctttgatt-3'(配列番号2)
TBP遺伝子検出用
(フォワード)5'-gcaccactccactgtatccc-3'(配列番号3)
(リバース)5'-cccagaactctccgaagctg-3'(配列番号4)
エンテロコッカス検出用
(フォワード)5'-agcctcggaattgagaatga-3'(配列番号5)
(リバース)5'-gaccttagctggtggtctgg-3'(配列番号6)
クレブシエラ検出用
(フォワード)5'-aaccaggcgtcgataat-3'(配列番号7)
(リバース)5'-gtttacggcgcaatcc-3'(配列番号8)
B群溶血性レンサ球菌検出用
(フォワード)5'-ctctagtggctggtgcattg-3'(配列番号9)
(リバース)5'-ccatttgctgggcttgatta-3'(配列番号10)
A群溶血性レンサ球菌検出用
(フォワード)5'-aggcggacatgcctttgtta-3'(配列番号11)
(リバース)5'-tgcctacaacagcactttgg-3'(配列番号12)
肺炎レンサ球菌検出用
(フォワード)5'-cacgcaatctagcagatgaagca-3'(配列番号13)
(リバース)5'-tcgtgcgttttaattccagct-3'(配列番号14)
緑膿菌検出用
(フォワード)5'-gccgaggtcatggaattc-3'(配列番号15)
(リバース)5'-atccgcgccatcatcttc-3'(配列番号16)
表皮ブドウ球菌検出用
(フォワード)5'-ccagaacgtgaYtctgacaaa-3'(配列番号17)
(リバース)5'-tcaccRactttgatttgacca-3'(配列番号18)
大腸菌検出用
(フォワード)5'-catgccgcgtgtatgaagaa-3'(配列番号19)
(リバース)5'-cgggtaacgtcaatgagcaaa-3'(配列番号20)
黄色ブドウ球菌検出用
(フォワード)5'-catcggaaacattgtgttctgtatg-3'(配列番号21)
(リバース)5'-tttggctggaaaatataactctcgta-3'(配列番号22)
ノカルディア検出用
(フォワード)5'-ccggaaacctgcagagatgt-3'(配列番号23)
(リバース)5'-tacgcgctggcaacataaga-3'(配列番号24)
vanA遺伝子検出用
(フォワード)5'-ggatagctactcccgccttt-3'(配列番号25)
(リバース)5'-cagcctgctcaattaagattttg-3'(配列番号26)
mecA遺伝子検出用
(フォワード)5'-cctctgctcaacaagttcca-3'(配列番号27)
(リバース)5'-aacgttgtaaccaccccaag-3'(配列番号28)
gyrA遺伝子変異検出用
(フォワード)5'-gaacaaggtatgacgcccgata-3'(配列番号29)
(リバース)5'-ggccattcttaccattgcttca-3'(配列番号30)。
【0074】
本実験に用いた蛍光標識プローブは、5’末端がROX標識、FAM標識またはAlexa Fluor(登録商標)594標識され、3’末端がBHQ標識されたものを使用した。蛍光標識プローブの塩基配列および5’末端標識を以下に示す:
GAPDH遺伝子検出用
5'-aaaagagctaggaaggacaggcaacttggc-3'(配列番号31)(FAM標識)
TBP遺伝子検出用
5'-acccccatcactcctgccacgc-3'(配列番号32)(ROX標識)
エンテロコッカス検出用
5'-cccatctcgggttaccgaattcaga-3'(配列番号33)(FAM標識)
クレブシエラ検出用
5'-acaggaaagacaagactatgcagacc-3'(配列番号34)(ROX標識)
B群溶血性レンサ球菌検出用
5'-catgctgatcaagtgacaactccaca-3'(配列番号35)(FAM標識)
A群溶血性レンサ球菌検出用
5'-tggtggcggcgcaggcggcttcaac-3'(配列番号36)(ROX標識)
肺炎レンサ球菌検出用
5'-ctccctgtatcaagcgttttcggc-3'(配列番号37)(FAM標識)
緑膿菌検出用
5'-cgacaaccgcaaggaagccga-3'(配列番号38)(ROX標識)
表皮ブドウ球菌検出用
5'-ccattcatgatgccagttgaggacg-3'(配列番号39)(FAM標識)
大腸菌検出用
5'-tattaactttactcccttcctccccgctgaa-3'(配列番号40)(ROX標識)
黄色ブドウ球菌検出用
5'-aagccgtcttgataatctttagtagtaccgaagctggt-3'(配列番号41)(FAM標識)
ノカルディア検出用
5'-agtcccgcaacgagcgcaaccctt-3'(配列番号42)(ROX標識)
vanA遺伝子検出用
5'-tcctgtttttgttaagccggcgc-3'(配列番号43)(FAM標識)
mecA遺伝子検出用
5'-aatcgatggtaaaggttggcaaaaaga-3'(配列番号44)(ROX標識)
gyrA遺伝子変異検出用
野生型(Cアリル)5'-ttgaagaatcacc-3'(配列番号45)(FAM標識)
変異型(Tアリル)5'-tgaaaaatcaccatga-3'(配列番号46)(ALEXA594標識)
変異型(Aアリル)5'-tgaataatcaccatga-3'(配列番号47)(ALEXA594標識)。
【0075】
これらのPCRプライマー対の標的核酸を含むPCR増幅領域およびその周辺配列が挿入された試験用プラスミドを検体とし、前処理溶液(タンパク質分解酵素を含むPCR緩衝液)にそれぞれ添加して、検体混合液とした。試験用プラスミドのコピー数について、反応ごとに10コピー、10コピーおよび10コピーの3条件を設定した。また、試験用プラスミドを含まない陰性コントロール(NC)の条件も設定した。添加前の前処理溶液の組成は、200μg/mLプロテイナーゼK、0.05%(w/v)非イオン性界面活性剤、1.5mM MgCl、35mM KClおよびdNTP Mix(それぞれ200μMのdATP、dGTP、dCTPおよびdTTP)とした。分解工程および加熱による失活工程を実施後の検体混合液を、PCR反応用固体組成物を含む8連チューブストリップの各チューブに20μLずつ分注した。ストリップチューブ内のPCR反応用固体組成物は、DNAポリメラーゼ、蛍光標識プローブおよびPCRプライマー対を含む。蛍光標識プローブおよびPCRプライマー対の種類は、チューブごとに異なる。
【0076】
失活工程後の検体混合液は、リアルタイムPCR装置を用いて、加水分解プローブ法によりPCR反応をモニタした。PCR条件として、95℃/10秒間の初期変性を行い、次いで95℃/5秒間-60℃/20秒間のPCRを45サイクル行った。PCR産物の増幅の有無は、Cq値(PCR産物の増幅曲線が閾値線と交差するサイクル数)に基づいて判断した。結果を以下表1に示す。
【0077】
なお、表1中のA~Hは、チューブ名を示す。また、各条件n=3で実験を行い、表1では、結果としてCq値の平均値および標準偏差を示している。また、PCR反応固体組成物は、陽性コントロール核酸としてGAPDHの試験用プラスミドを含む。そのため、本実験ではGAPDHのPCR産物のみ、NCでも増幅される。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、いずれのPCRプライマー対および蛍光標識プローブの組み合わせでも、標的核酸からPCR産物の増幅が確認された。なお、チューブFではNCでも増幅が見られた。しかしながら、これは3回の試行中の1回のみ見られた現象であり、環境からのコンタミネーションによる増幅が生じたと考えられる。なお、NC以外の条件ではいずれも、3回の試行中3回とも、再現性良くPCR産物の増幅が確認された。
【0080】
(1-2.標的核酸が混合した試料からの検出性能の確認)
次に、各標的核酸を含む試験用プラスミドが個別の状態、または全て混合された状態で存在する検体混合液を調製した。各標的核酸を含む試験用プラスミドのコピー数は、反応ごとに50コピーとした。その他の条件は前記(1-1.PCR産物の増幅確認)と同様にして、本発明の一検出方法を実施した。結果を以下表2に示す。表2では、結果としてCq値を示している。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、いずれのPCRプライマー対および蛍光標識プローブの組み合わせでも、各標的核酸を含む試験用プラスミドが混合した検体からPCR産物の増幅が確認できた。
【0083】
〔2.細菌由来の核酸の検出〕
眼科性感染症が疑われる患者から得られた生体試料を検体として、細菌由来の核酸の検出実験を行った。検体以外の条件は前記(1-1.PCR産物の増幅確認)と同様にして、本発明の一検出方法を実施した。ただし、本実験のチューブFでは、ノカルディア検出用のPCRプライマー対および蛍光標識プローブを含まないPCR反応固体組成物を用いた。結果を以下表3に示す。表3では、結果としてCq値を示している。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、患者から得られた前房水、硝子体または角膜擦過物のような眼科検体を生体試料として用いた場合でも、細菌由来の核酸を検出可能であることが示された。このように、本発明の一検出方法によれば、多量の採取が困難な眼科検体等の生体試料から、簡便に細菌の有無、薬剤耐性遺伝子の有無および薬剤耐性を示す遺伝子変異の有無を検出可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、例えば、細菌感染症の検査等に利用することができる。
【配列表】
0007504365000001.app