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特許7504367抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/44 20060101AFI20240617BHJP
   A61K 31/685 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240617BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240617BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240617BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
A61K38/44
A61K31/685
A61K45/00
A61K47/64
A61P25/02
A61P29/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023522667
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2022020473
(87)【国際公開番号】W WO2022244757
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2021083610
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303010452
【氏名又は名称】株式会社LTTバイオファーマ
(73)【特許権者】
【識別番号】502054196
【氏名又は名称】学校法人武蔵野大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喬 志偉
(72)【発明者】
【氏名】本田 愛美
(72)【発明者】
【氏名】秋元 匠太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 友樹
(72)【発明者】
【氏名】梶 紀子
(72)【発明者】
【氏名】福田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】水島 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 健一郎
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/040980(WO,A1)
【文献】DRUG AND CHEMICAL TOXICOLOGY,2018年,Vol. 41, No. 4,pp. 476-485
【文献】Life Sciences,2015年,Vol. 130,pp. 81-87
【文献】Inflammation and Regeneration,2006年,Vol. 26, No.2,pp. 113-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/44
A61K 31/685
A61K 45/00
A61K 47/64
A61P 25/02
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチン化スーパーオキシドディスムターゼを含む、抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物であって、
前記抗癌剤の投与に伴う障害が、末梢神経障害、ニューロパチー、神経障害性疼痛、アロディニア、痛覚過敏又は痛覚鈍麻、温冷感障害、骨髄抑制及びこれらの1種以上の組み合わせから選ばれる障害である、医薬組成物。
【請求項2】
前記末梢神経障害が、神経線維の密度の減少、神経突起の減少若しくは退縮、又は脊髄後根神経節(DRG)ニューロンの損傷により生じる、請求項記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記末梢神経障害が、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗癌剤の投与に伴う障害が骨髄抑制である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗癌剤が、白金製剤、代謝拮抗剤、タキサン系製剤、ビンカアルカロイド系製剤、及びプロテアソーム阻害剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗癌剤が、白金製剤又はタキサン系製剤である、請求項記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗癌剤が、オキサリプラチン、カルボプラチン又はシスプラチンである、請求項又は記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗癌剤が、FOLFOX療法、又はXELOX療法(CapeOX療法)で投与される、請求項のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗癌剤が、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、腎癌、陰茎癌、各骨軟部腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、後腹膜腫瘍、骨転移、精巣癌、胆のう癌、胆道癌、胆管癌、副腎癌、経芽腫,肝芽腫、肝原発悪性腫瘍、髄芽腫、胃癌、膵臓癌、尿路上皮癌、性腺外腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、マントル細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与される、請求項1~のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗癌剤が、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、腎癌、陰茎癌、各骨軟部腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、後腹膜腫瘍、骨転移、精巣癌、胆のう癌、胆道癌、胆管癌、副腎癌、経芽腫,肝芽腫、肝原発悪性腫瘍、髄芽腫、胃癌、膵臓癌、尿路上皮癌、性腺外腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、マントル細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌に既往歴がありかつ当該癌を切除した患者に投与される、請求項1~のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項11】
抗癌剤と組み合わせて投与されるものである、請求項1~10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが凍結乾燥されている、請求項1~11のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが、銅および/または亜鉛が配位した、111位システインのメルカプト基がヒドロキシエチルチオ化されたヒト由来のスーパーオキシドディスムターゼサブユニットのアミノ基の1個以上が下記一般式(I)
【化1】
[式中、Rは炭素数8~30のアルキル基であり、nは2~10の整数である。]
で表されるレシチン残基で直接又はリンカーを介して修飾されたレシチン化スーパーオキシドディスムターゼを含み、
該レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが、該スーパーオキシドディスムターゼ分子サブユニットのそれぞれに独立してアミノ基のm個[mは1~4の整数であり、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットにおけるmの平均値は1.5~2.4である。]が前記レシチン残基で置換されたレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットから構成されるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(A)を主成分とし、
該レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(A)を構成するレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットが、
m=1であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a1)25~40モル%と、
m=2であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a2)35~50モル%と、
m=3であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a3)10~20モル%と、
m=4であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a4)5~15モル%とからなることを特徴とするレシチン化スーパーオキシドディスムターゼを含む、請求項1~12のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが、以下の結合割合でPCがSODに結合している、請求項1~13のいずれか1項記載の医薬組成物:
(1)結合部位がK3、N末端及びT2におけるPCの結合割合が、左記アミノ酸残基の合計として、1~10%であり;
(2)結合部位がK9におけるPCの結合割合が、10~30%であり;
(3)結合部位がK23におけるPCの結合割合が、50~75%であり;
(4)結合部位がK36におけるPCの結合割合が、30~55%であり;
(5)結合部位がK70又はK75におけるPCの結合割合が、左記アミノ酸残基の合計として、10~80%であり;
(6)結合部位がK122又はK128におけるPCの結合割合が、左記アミノ酸残基の合計として、10~45%であり;
(7)結合部位がK136におけるPCの結合割合が、10~60%であり;
前記(1)~(7)の合計として、PC-SODには、PCが平均結合数として、1~8個結合している。
【請求項15】
前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼのスーパーオキシドディスムターゼが配列番号1記載のアミノ酸配列を有する、請求項1~14のいずれか1項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの抗癌剤の開発により、癌の薬物療法による効果は飛躍的に進展している。しかし、抗癌剤の投与による副作用も明確になってきた。特に、抗癌剤投与に伴う神経障害や、聴覚の障害、肝臓又は腎臓などの臓器障害、骨髄抑制などの種々の障害が発生することは古くから知られており、その出現や憎悪によって患者のQOLは著しく低下し、日常生活に支障をきたす。
【0003】
これらの障害のうち、神経障害に対する治療又は緩和薬としては、血液グルコース調節剤(特許文献1)、運動神経栄養因子ペプチドアナログ(特許文献2)、グルタミン酸脱水素酵素遺伝子(特許文献3)、CYP2J2アンタゴニスト(特許文献4)、CXCR2アンタゴニスト(特許文献5)、選択的有機カチオントランスポーター(特許文献6)、ニュープラスチン(特許文献7)、GLP-1アナログ誘導体(特許文献8)、カルマンガホジピル(特許文献9)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2003-532691号公報
【文献】特表2006-516287号公報
【文献】特表2008-518599号公報
【文献】特表2017-524696号公報
【文献】特表2017-527542号公報
【文献】特表2018-521133号公報
【文献】特許第3738008号公報
【文献】特許第6231386号公報
【文献】特許第6131271号公報
【文献】特開2006-169128号公報
【文献】特開2008-75706号公報
【文献】特開2010-215527号公報
【文献】特開2017-73255号公報
【文献】特開2001-64199号公報
【文献】特開平6-199895号公報
【文献】WO2006-040980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、いずれの治療又は緩和薬も未だ十分な効果があることが確認されるに至っておらず、あるいは副作用などの問題で開発が中止されており新たな治療又は予防薬の開発が希求されている。
従って、本発明の課題は、抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(PC-SOD)に着目し、種々の観点からその薬理作用を検討してきたところ、抗癌剤投与に起因する神経障害、例えば化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)、神経障害性疼痛、アロディニア、温冷感障害などに対して有効であること、並びに抗癌剤投与に起因する肝障害、薬剤性難聴、腎障害及び骨髄抑制に対しても有効であるとともに安全性も高いことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[29]を提供するものである。
[1]レシチン化スーパーオキシドディスムターゼを含む、抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物。
[2]前記抗癌剤の投与に伴う障害が、神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎障害、骨髄抑制及びこれらの1種以上の組み合わせから選ばれる障害である、[1]記載の医薬組成物。
[3]前記神経障害が、末梢神経障害、ニューロパチー、神経障害性疼痛、アロディニア、痛覚過敏若しくは痛覚鈍麻、又は温冷感障害である、[2]記載の医薬組成物。
[4]前記神経障害が、神経線維の密度の減少、神経突起の減少若しくは退縮、又は脊髄後根神経節(DRG)ニューロンの損傷により生じる神経障害である、[2]記載の医薬組成物。
[5]前記抗癌剤の投与に伴う障害が、化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)である、[1]記載の医薬組成物。
[6]前記抗癌剤の投与に伴う障害が肝障害であり、前記抗癌剤が白金製剤である、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[7]前記抗癌剤の投与に伴う障害が薬剤性難聴であり、前記抗癌剤が白金製剤である、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[8]前記抗癌剤の投与に伴う障害が腎障害であり、前記抗癌剤が白金製剤である、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[9]前記腎障害がシスプラチン腎症であり、前記抗癌剤がシスプラチンである、[8]記載の医薬組成物。
[10]前記腎障害が、乏尿を伴う腎障害である、[8]又は[9]記載の医薬組成物。
[11]前記腎障害が、急性腎障害から慢性腎障害への移行期にある、[8]~[10]のいずれかに記載の医薬組成物。
[12]前記抗癌剤の投与に伴う障害が骨髄抑制であり、前記抗癌剤が白金製剤又は代謝拮抗剤である、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[13]前記抗癌剤が、白金製剤、代謝拮抗剤、タキサン系製剤、ビンカアルカロイド系製剤、及びプロテアソーム阻害剤からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[14]前記抗癌剤が、白金製剤である、[13]記載の医薬組成物。
[15]前記抗癌剤が、オキサリプラチン又はシスプラチンである、[13]又は[14]記載の医薬組成物。
[16]前記抗癌剤が、FOLFOX療法、又はXELOX療法(CapeOX療法)で投与される、[1]~[15]のいずれかに記載の医薬組成物。
[17]前記抗癌剤が、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、腎癌、陰茎癌、各骨軟部腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、後腹膜腫瘍、骨転移、精巣癌、胆のう癌、胆道癌、胆管癌、副腎癌、経芽腫,肝芽腫、肝原発悪性腫瘍、髄芽腫、胃癌、膵臓癌、尿路上皮癌、性腺外腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、マントル細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与される、[1]~[16]のいずれかに記載の医薬組成物。
[18]前記抗癌剤が、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、腎癌、陰茎癌、各骨軟部腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、後腹膜腫瘍、骨転移、精巣癌、胆のう癌、胆道癌、胆管癌、副腎癌、経芽腫,肝芽腫、肝原発悪性腫瘍、髄芽腫、胃癌、膵臓癌、尿路上皮癌、性腺外腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、マントル細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌に既往歴がありかつ当該癌を切除した患者に投与される、[1]~[16]のいずれかに記載の医薬組成物。
[19]抗癌剤と組み合わせて投与されるものである、[1]~[18]のいずれかに記載の医薬組成物。
[20]前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが凍結乾燥されている、[1]~[19]のいずれかに記載の医薬組成物。
[21]前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが、銅および/または亜鉛が配位した、111位システインのメルカプト基がヒドロキシエチルチオ化されたヒト由来のスーパーオキシドディスムターゼサブユニットのアミノ基の1個以上が下記一般式(I)
【0008】
【化1】
【0009】
[式中、Rは炭素数8~30のアルキル基であり、nは2~10の整数である。]
で表されるレシチン残基で直接又はリンカーを介して修飾されたレシチン化スーパーオキシドディスムターゼを含み、
該レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが、該スーパーオキシドディスムターゼ分子サブユニットのそれぞれに独立してアミノ基のm個[mは1~4の整数であり、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットにおけるmの平均値は1.5~2.4である。]が前記レシチン残基で置換されたレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットから構成されるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(A)を主成分とし、
該レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(A)を構成するレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットが、
m=1であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a1)25~40モル%と、
m=2であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a2)35~50モル%と、
m=3であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a3)10~20モル%と、
m=4であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a4)5~15モル%とからなることを特徴とするレシチン化スーパーオキシドディスムターゼを含む、[1]~[20]のいずれかに記載の医薬組成物。
[22]前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが、以下の結合割合でPCがSODに結合している、[1]~[21]のいずれかに記載の医薬組成物:
(1)結合部位がK3、N末端及びT2におけるPCの結合割合が、左記アミノ酸残基の合計として、1~10%であり;
(2)結合部位がK9におけるPCの結合割合が、10~30%であり;
(3)結合部位がK23におけるPCの結合割合が、50~75%であり;
(4)結合部位がK36におけるPCの結合割合が、30~55%であり;
(5)結合部位がK70又はK75におけるPCの結合割合が、左記アミノ酸残基の合計として、10~80%であり;
(6)結合部位がK122又はK128におけるPCの結合割合が、左記アミノ酸残基の合計として、10~45%であり;
(7)結合部位がK136におけるPCの結合割合が、10~60%であり;
前記(1)~(7)の合計として、PC-SODには、PCが平均結合数として、1~8個結合している。
[23]前記レシチン化スーパーオキシドディスムターゼのスーパーオキシドディスムターゼが配列番号1記載のアミノ酸配列を有する、[1]~[22]のいずれかに記載の医薬組成物。
[24]抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物製造のための、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼの使用。
[25]前記抗癌剤の投与に伴う障害が、神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎障害、骨髄抑制及びこれらの1種以上の組み合わせから選ばれる障害である、[24]記載の使用。
[26]抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ。
[27]前記抗癌剤の投与に伴う障害が、神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎障害、骨髄抑制及びこれらの1種以上の組み合わせから選ばれる障害である、[26]記載のレシチン化スーパーオキシドディスムターゼ。
[28]レシチン化スーパーオキシドディスムターゼを投与することを特徴とする、抗癌剤の投与に伴う障害の治療又は予防方法。
[29]前記抗癌剤の投与に伴う障害が、神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎障害、骨髄抑制及びこれらの1種以上の組み合わせから選ばれる障害である、[28]記載の治療又は予防方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に用いられるPC-SODは、抗癌剤の投与に伴う種々の障害、すなわち神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎障害、骨髄抑制及びこれらの1種以上の組み合わせ、特に好ましくはCIPNなどの予防又は治療に有用であり、安全性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】オキサリプラチン(OXA)投与誘発異痛症モデルラットに対するPC-SOD(OXA+PC-SOD)の予防的投与の濃度依存的結果を示す。
図2】オキサリプラチン(OXA)に起因した冷感的異痛症に対するPC-SOD(OXA+PC-SOD)の予防的効果を示す。
図3】オキサリプラチン(OXA)による表皮内神経線維密度の減少に対するPC-SOD(OXA+PC-SOD)投与結果を示す。
図4】オキサリプラチン(OXA)による脊髄後根神経節(DRG)ニューロンの病理損傷に対するPC-SOD(OXA+PC-SOD)の投与の結果を示す。
図5】オキサリプラチン(OXA)による肝臓の病理損傷に対するPC-SOD(OXA+PC-SOD)の投与の結果を示す。
図6】オキサリプラチン(OXA)による大腸がん細胞の増殖抑制効果に対するPC-SOD(PC-SOD)投与の影響を示す。
図7-1】白金製剤(シスプラチン(+NGF+CP)又はオキサリプラチン(+NGF+OXA))の添加による神経突起の退縮に対するPC-SOD(PC-SOD)投与の作用を示す。
図7-2】白金製剤(カルボプラチン)の添加による神経突起の退縮に対するPC-SOD(PC-SOD)投与の作用を示す。
図7-3】パクリタキセル(+NGF+PTX)の添加による神経突起の退縮に対するPC-SOD(PC-SOD)投与の作用を示す。
図8】オキサリプラチン(+NGF+OXA)の添加による神経突起の退縮に対するPC-SOD(PC-SOD)投与の作用とマンガホジピル(Mangafojipir)投与の作用を示す。
図9】オキサリプラチン存在下及び非存在下におけるPC-SOD(PC-SOD)とマンガホジピル(Mangafojipir)の神経細胞毒性を示す。
図10-1】シスプラチン(CIS)による腎障害に対するPC-SOD(PC-SOD)の効果を示す(腎臓の写真)。
図10-2】シスプラチン(CIS)による腎障害に対するPC-SOD(PC-SOD)の効果を示す(腎臓重量の変化)。
図11-1】シスプラチン(CIS)による腎障害(腎臓の病理損傷)に対するPC-SOD(PC-SOD)の効果を示す。
図11-2】シスプラチン(CIS)による腎障害(腎線維化)に対するPC-SOD(PC-SOD)の効果(Picrosiriu Red染色)を示す。
図11-3】シスプラチン(CIS)による腎障害(腎線維化)に対するPC-SOD(PC-SOD)の効果(α-SMA染色)を示す。
図12-1】抗癌剤(ゲムシタビン、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)によるRAW細胞毒性を示す。
図12-2】抗癌剤(ゲムシタビン、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)によるRAW細胞毒性に対するPC-SODの効果を示す。
図13-1】抗癌剤(ゲムシタビン、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)によるRAW細胞の活性酸素産生作用を示す。
図13-2】抗癌剤(ゲムシタビン、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)によるRAW細胞の活性酸素産生に対するPC-SODの効果を示す。
図14】シスプラチン(CIS)による骨髄抑制(末梢血の血球の変化)に対するPC-SOD(PC-SOD)の効果を示す。
図15】PC-SODの酵素消化及びLC/MS分析により得られたPC-SODのPC化部位及びPC化割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防するための医薬組成物の有効成分は、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(PC-SOD)である。
本明細書において、用語「レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ」と「PC-SOD」とは同義であり、可換的に使用することができる。
本明細書において、用語「スーパーオキシドディスムターゼ」と「SOD」とは同義であり、可換的に使用することができる。
本明細書において、用語「ホスファチジルコリン」と「PC」と「レシチン」とは同義であり、可換的に使用することができ、集合体に対しても、個々の分子に対しても使用することができる。
本明細書において、用語「PC-SOD」は、PC-SOD分子の集合体を意味する。ここで、「PC-SOD」を構成する個々のPC-SOD分子に結合するPCの数及び結合部位は、PC-SOD分子間で同じであってよく、又は異なっていてもよい。従って、「PC-SOD」に結合するPCの個数は、平均結合数で表すことができる。また、「PC-SOD」において、PCの結合部位は、SOD中のアミノ酸残基で特定することができ、PCの結合割合はPCがSOD中のアミノ酸残基に結合する割合で表すことができる。
本明細書において、用語「PC-SODサブユニット」は、PC-SOD分子サブユニットの集合体を意味する。
本明細書において、用語「SOD」は、SOD分子の集合体を意味する。
本明細書において、用語「SODサブユニット」は、SOD分子サブユニットの集合体を意味する。
【0013】
本明細書において、用語「PC-SOD分子」は、PC-SOD分子サブユニットが二量体化した分子を意味し、用語「PC-SOD分子サブユニット」は、PC-SOD分子を構成する二量体のうちの単量体を意味する。ここで、それぞれのPC-SOD分子の二量体を構成するPC-SOD分子サブユニットに結合するPCの数及び結合部位は、当該二量体を構成するPC-SOD分子サブユニット間で同じであってよく、又は異なっていてもよい。
本明細書において、用語「SOD分子」は、SOD分子サブユニットが二量体化した分子を意味し、用語「SOD分子サブユニット」は、SOD分子を構成する二量体のうちの単量体を意味する。
【0014】
PC-SODは、SODをレシチンで修飾した物質であり、これまで熱傷(特許文献10)、間質性肺炎(特許文献11)、慢性閉塞性肺疾患症候群(特許文献12)、急性呼吸促迫症候群(特許文献13)などに有効であることは本出願人が報告しているが、抗癌剤の投与に伴う障害に対する作用は全く知られていない。
【0015】
PC-SODは、SODをレシチンで修飾した物質であり、好ましくはSODの1以上のアミノ酸残基、好ましくはアミノ基を含むアミノ酸残基又はN末端アミノ酸残基、より好ましくはリジン残基をホスファチジルコリン(PC)で直接又はリンカーを介して修飾した物質である。
【0016】
PC-SODにおけるSODとしては、ヒトSOD(配列番号1)が好ましく、特に活性中心に銅及び亜鉛を含むヒトSOD(ヒトCu/ZnSOD)が特に好ましい。このSODは、ヒト組織から製造される天然のヒトCu/ZnSOD、遺伝子工学的手法により製造されるヒトCu/ZnSOD、天然のヒトCu/ZnSODと実質上同一のアミノ酸配列を有する組換えヒトCu/ZnSOD、これらのヒトCu/ZnSODのアミノ酸配列中の一部のアミノ酸を化学的に修飾もしくは改変したSOD等があり、いずれのヒトCu/ZnSODであってもよい。好ましくは、PC-SODにおけるSODは、ヒトSOD1であり、より好ましくは、111位システインのメルカプト基が保護されたヒトSOD1であり、更に好ましくは111位システインのメルカプト基がヒドロキシエチルチオ化されたヒトSOD1である。
【0017】
また、PC-SODにおいて、PCは、SODを構成するアミノ酸残基のうち1個以上の遊離のアミノ基又はヒドロキシ基(好ましくはアミノ基)に直接又はリンカーを介して結合している。PCが結合しているアミノ酸残基としては、SOD分子のN末端のAla、並びにLys、Gln、Asn、Arg、Ser、Thr、及びTyrが挙げられ、好ましくはN末端のAla、Lys、及びThrであり、より好ましくはN末端のAla、及びLys、更に好ましくはLysである。
【0018】
PCは、SOD分子サブユニットのそれぞれに独立して、1~12個結合しているのが好ましく、より好ましくは1~8個結合しており、さらに好ましくは1~4個結合しており、よりさらに好ましくは2~3個結合しており、さらに好ましくは2個結合している。
従って、PC-SOD分子には、PCが、2~24個結合しているのが好ましく、より好ましくは2~16個結合しており、さらに好ましくは2~8個結合しており、よりさらに好ましくは4~6個結合しており、さらに好ましくは4個結合している。
PC-SODの場合、PCの結合数は、集合体としてのSODに結合するPCの平均結合数で表すことができる。従って、PC-SODにおいては、PCがSODに対して平均結合数として、2~24個、好ましくは2~16個、より好ましくは2~8個、更に好ましくは4~6個、最も好ましくは4個結合している。
【0019】
PCは、SODを構成するアミノ酸残基に直接結合していてもよいが、リンカーを介して結合しているのが好ましい。
リンカーとしては、ジカルボン酸が好ましく、特に-C(=O)(CH2)nC(=O)-が好ましい(ここで、nは2以上の整数であり、2~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、3が特に好ましい。)。なお、このリンカーは、PCのグリセリル基のヒドロキシ基と、アミノ酸残基のアミノ基又はヒドロキシ基(好ましくはアミノ基)とを連結する。
【0020】
また、PCの脂肪酸残基の炭素数は、8~31であるのが好ましく、10~28がより好ましく、14~22がさらに好ましく、特に好ましくは16(パルミチン酸由来)である。
【0021】
PC-SODは、例えば特許文献14、15及び16に記載の方法、好ましくは特許文献16に記載の方法によって製造することができる。
【0022】
特に好ましいPC-SODの例としては、銅および/または亜鉛が配位した、111位システインのメルカプト基がヒドロキシエチルチオ化されたヒト由来のスーパーオキシドディスムターゼサブユニットのアミノ基の1個以上が下記一般式(I)
【0023】
【化2】
【0024】
[式中、Rは炭素数8~30のアルキル基であり、nは2~10の整数である。]
で表されるレシチン残基で直接又はリンカーを介して修飾されたレシチン化スーパーオキシドディスムターゼを含み、
該レシチン化スーパーオキシドディスムターゼが、該スーパーオキシドディスムターゼ分子サブユニットのそれぞれに独立してアミノ基のm個[mは1~4の整数であり、レシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットにおけるmの平均値は1.5~2.4である。]が前記レシチン残基で置換されたレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットから構成されるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(A)を主成分とし、
該レシチン化スーパーオキシドディスムターゼ(A)を構成するレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニットが、
m=1であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a1)25~40モル%と、
m=2であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a2)35~50モル%と、
m=3であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a3)10~20モル%と、
m=4であるレシチン化スーパーオキシドディスムターゼサブユニット(a4)5~15モル%とからなることを特徴とするレシチン化スーパーオキシドディスムターゼである。
【0025】
本発明のPC-SODにおいて、SODに結合するPCの結合部位及びその結合割合は、好ましくは以下の通りである。なお、一文字表記のアミノ酸の後の数字は、SOD分子におけるN末端からの残基数を表す。
(1)結合部位がK3又はN末端又はT2である場合、PCの結合割合は、左記アミノ酸残基の合計として、1~10%が好ましく、2~8%がより好ましく、5%が更に好ましい。
(2)結合部位がK9である場合、PCの結合割合は、10~30%が好ましく、15~26%がより好ましく、23%が更に好ましい。
(3)結合部位がK23である場合、PCの結合割合は、50~75%が好ましく、55~70%がより好ましく、63%が更に好ましい。
(4)結合部位がK36である場合、PCの結合割合は、30~55%が好ましく、35~50%がより好ましく、43%が更に好ましい。
(5)結合部位がK70又はK75である場合、PCの結合割合は、左記アミノ酸残基の合計として、10~80%が好ましく、30~65%がより好ましく、53%が更に好ましい。
(6)結合部位がK122又はK128である場合、PCの結合割合は、左記アミノ酸残基の合計として、10~45%が好ましく、20~35%がより好ましく、27%が更に好ましい。
(7)結合部位がK136である場合、PCの結合割合は、10~60%が好ましく、20~45%がより好ましく、33%が更に好ましい。
好ましくは、上記(1)~(7)の合計として、PC-SODには、PCが平均結合数として、1~8個、好ましくは2~6個、より好ましくは3~5個、最も好ましくは4個結合している。
【0026】
前記PC-SODは、後記実施例に記載のように、抗癌剤の投与に伴う障害を治療又は予防する効果を有する。ここで、抗癌剤の投与に伴う障害としては、神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎障害、骨髄抑制及びこれらの1種以上の任意の組み合わせが挙げられる。
抗癌剤、特に白金製剤を投与された患者は、神経障害を発症することが多いため、本発明が、抗癌剤の投与に伴う障害として神経障害に有効であることは、抗癌剤を投与された患者のQOLの向上に有益であることを示唆する。
抗癌剤を投与された患者は、抗癌剤に起因する肝障害を発症することが多いため、本発明が、肝障害に有効であることは、抗癌剤を投与された患者のQOLの向上に有益であることを示唆する。
また、抗癌剤、特に白金製剤を投与された患者は、薬剤性難聴を発症することが多いため、本発明が、抗癌剤の投与に伴う障害として薬剤性難聴に有効であることは、抗癌剤を投与された患者のQOLの向上に有益であることを示唆する。
更に、抗癌剤、特に白金製剤、より好ましくはシスプラチンを投与された患者は、腎障害を発症することが多いため、本発明が、抗癌剤の投与に伴う障害として腎障害に有効であることは、抗癌剤を投与された患者のQOLの向上に有益であることを示唆する。
更に、抗癌剤、特に白金製剤又は代謝拮抗剤、より好ましくはシスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ゲムシタビンなどを投与された患者は、骨髄抑制を発症することが多いため、本発明が、抗癌剤の投与に伴う障害として骨髄抑制に有効であることは、抗癌剤を投与された患者のQOLの向上に有益であることを示唆する。
【0027】
本発明の医薬組成物は、抗癌剤の投与に伴う神経障害の中でも、末梢神経障害、ニューロパチー、神経障害性疼痛、アロディニア 、痛覚過敏若しくは痛覚鈍麻、又は温冷感障害に有用であり、特にCIPNに有用である。ここで、アロディニアは異痛症と同義である。
【0028】
前記神経障害性疼痛又はアロディニアの具体的な症状としては、四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、及び運動機能障害からなる群より選択される1種以上が挙げられる。
また、前記温冷感障害には、冷感過敏、冷感鈍麻、温感過敏、及び温感鈍麻からなる群より選択される1種以上が含まれる。
【0029】
これらの症状は、抗癌剤投与に伴って生じる障害であり、特に化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)として認識されている障害であり、癌患者のQOLを低下させる障害である。従って、本発明の医薬組成物がこれらの症状を治療又は予防できることは癌化学療法を行う上で極めて重要である。
【0030】
本発明の医薬組成物は、抗癌剤投与によって生じる表皮内神経線維の密度の減少に対して予防効果を示し、また抗癌剤投与に起因する脊髄後根神経節(DRG)ニューロンの病理損傷に対する予防効果を示す。さらに、抗癌剤投与によって生じる神経突起障害を保護する作用を有する。
従って、本発明の医薬組成物は、神経線維の密度の減少により生じる神経障害、神経突起の減少又は退縮により生じる神経障害、脊髄後根神経節(DRG)ニューロンの損傷により生じる神経障害に対して治療又は予防効果を有する。
【0031】
また、本発明の医薬組成物は、抗癌剤投与に伴う肝障害を治療又は予防効果を有する。
本発明の医薬組成物は、抗癌剤投与、特に白金製剤投与、より好ましくはオキサリプラチン、カルボプラチン、又はシスプラチンの投与に伴う薬剤性難聴を治療又は予防効果を有する。
本発明の医薬組成物は、抗癌剤投与、特に白金製剤投与、より好ましくはシスプラチンの投与に伴う腎障害を治療又は予防効果を有する。抗癌剤投与に伴う腎障害は、乏尿を伴う腎障害、又はシスプラチン腎症であることが好ましい。抗癌剤投与に伴う腎障害は、急性腎障害から慢性腎障害への移行期にあることが好ましい。
本発明の医薬組成物は、抗癌剤投与、特に白金製剤投与、代謝拮抗剤投与、より好ましくは、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ゲムシタビンなどの投与に伴う骨髄抑制を治療又は予防効果を有する。
さらに、本発明の医薬組成物は、抗癌剤による抗腫瘍効果に影響せず、特許文献9記載のカルマンガホジピルに比べて細胞毒性が低く、かつ神経保護作用が高いという特徴も有する。
【0032】
前記のように、本発明の医薬組成物は、抗癌剤の投与に伴う障害に対して治療又は予防効果を有するが、当該抗癌剤としては、化学療法剤であるのが好ましく、さらには、白金製剤、代謝拮抗剤、タキサン系製剤、ビンカアルカロイド系製剤、及びプロテアソーム阻害剤からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、特に白金製剤であるのが好ましい。
白金製剤の具体例としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、及びオキサリプラチンが挙げられる。
タキサン系製剤の具体例としては、例えば、パクリタキセル又はドセタキセルが挙げられる。
ビンカアルカロイド系製剤の具体例としては、例えば、ビンクリスチン又はビノレルビンが挙げられる。
プロテアソーム阻害剤の具体例としては、例えば、ボルテゾミブ、又はカルフィルゾミブが挙げられる。
代謝拮抗剤の具体例としては、ゲムシタビン、シタラビン、カルモフール、テガフール、5-フルオロウラシル、メトトレキサート、カペシタビンが挙げられる。
また、具体的な抗癌剤としては、ドキソルビシン、エピルビシン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、カペシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ボルテゾミブ、及びサリドマイドからなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましく、特にオキサリプラチンであるのが好ましい。
【0033】
本発明における抗癌剤の投与に伴う障害と抗癌剤との好ましい組み合わせは、例えば以下である。
(1)抗癌剤の投与に伴う障害が神経障害である場合、抗癌剤は白金製剤又はタキサン系製剤が好ましく、更に抗癌剤はオキサリプラチン、シスプラチン又はパクリタキセルがより好ましい。特に、抗癌剤の投与に伴う障害がCIPNである場合、抗癌剤は白金製剤であることが好ましく、更にオキサリプラチンであることがより好ましい。
(2)抗癌剤の投与に伴う障害が肝障害である場合、抗癌剤は白金製剤であることが好ましく、特にオキサリプラチンが好ましい。
(3)抗癌剤の投与に伴う障害が薬剤性難聴である場合、抗癌剤は白金製剤であることが好ましく、特にシスプラチンが好ましい。
(4)抗癌剤の投与に伴う障害が腎障害である場合、抗癌剤は白金製剤であることが好ましく、特に抗癌剤の投与に伴う障害がシスプラチン腎症である場合、抗癌剤はシスプラチンであることが好ましい。
(5)抗癌剤の投与に伴う障害が骨髄抑制である場合、抗癌剤は白金製剤又は代謝拮抗剤であることが好ましく、特にシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ゲムシタビンであることが好ましい。
【0034】
また、本発明の医薬組成物は、癌化学療法、例えばFOLFOX療法、又はXELOX療法(CapeOX療法)で投与されるのが好ましく、mFOLFOX療法で投与されるのがより好ましい。
FOLFOXは、フォリン酸、フルオロウラシル、及びオキサリプラチンを併用する癌化学療法である。FOLFOXには、各薬剤の投与量の違いなどによりFOLFOX1~FOLFOX7、及びmFOLFOX6を含む改変方法のバリエーションが存在するが、FOLFOX4、FOLFOX6、又はmFOLFOX6が好ましく、特に日本においてはmFOLFOX6が好ましい。
XELOX療法(CapeOX療法)は、ゼローダ及びオキサリプラチン(カペシタビン及びオキサリプラチン)を併用する癌化学療法である。
【0035】
本発明の医薬組成物は、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、腎癌、陰茎癌、各骨軟部腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、後腹膜腫瘍、骨転移、精巣癌、胆のう癌、胆道癌、胆管癌、副腎癌、経芽腫,肝芽腫、肝原発悪性腫瘍、髄芽腫、胃癌、膵臓癌、尿路上皮癌、性腺外腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、マントル細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与されるのが好ましく、胃癌、膵臓癌、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与されるのがより好ましく、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌を患った癌患者に投与されるのがさらに好ましい。
【0036】
また、本発明において、抗癌剤は、癌を切除した患者における術後補助化学療法又は再発防止として、患者に投与されることもできる。すなわち、抗癌剤は、卵巣癌、非小細胞肺癌、乳癌、子宮体癌、頭頸部癌、食道癌、白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、多発性骨髄腫、悪性星細胞腫、神経膠腫、絨毛性疾患、胚細胞腫瘍、肺癌、睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂腫瘍、尿道腫瘍、前立腺癌、子宮頸癌、神経芽細胞腫、小細胞肺癌、骨肉腫、悪性胸膜中皮腫、悪性骨腫瘍、腎癌、陰茎癌、各骨軟部腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、後腹膜腫瘍、骨転移、精巣癌、胆のう癌、胆道癌、胆管癌、副腎癌、経芽腫,肝芽腫、肝原発悪性腫瘍、髄芽腫、胃癌、膵臓癌、尿路上皮癌、性腺外腫瘍、ランゲルハンス細胞組織球症、マントル細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上に既往歴がありかつ当該癌を切除した患者に投与されるのが好ましく、胃癌、膵臓癌、小腸癌、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌に既往歴がありかつ当該癌を切除した患者に投与されるのがより好ましく、結腸癌、直腸癌、及び大腸癌からなる群より選択される1種以上の癌に既往歴がありかつ当該癌を切除した患者に投与されるのがさらに好ましい。
【0037】
本発明の医薬組成物は、抗癌剤投与に伴う神経障害だけでなく、肝障害、薬剤性難聴、及び/又は腎障害にも治療又は予防効果を有するので、神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎障害及び骨髄抑制の1種以上が任意の組み合わせで併発している患者に投与することもできる。
【0038】
本発明の医薬組成物は、抗癌剤投与に伴って生じる神経障害、肝障害、薬剤性難聴、腎臓障害、骨髄抑制又はこれらの1種以上の組み合わせを治療又は予防する効果を有するため、抗癌剤と組み合わせて投与するのが好ましい。
【0039】
本発明の医薬組成物は、PC-SODを含有していればよいが、これに薬学的に許容される担体を配合して種々の投与形態の医薬組成物とするのが好ましい。
このような医薬組成物の投与形態としては、注射、好ましくは静脈内注射若しくは局所注射、又は点滴が好ましい。
注射剤とする場合には、水、溶解補助剤、又はキシリトール水溶液(好ましくは5w/w%、10w/w%、又は20w/w%、より好ましくは5w/w%)などが用いられる。注射剤としては、静脈内投与剤、局所注射剤、皮下注射剤、筋肉内投与剤が好ましい。
本発明の医薬組成物の製剤形態としては、凍結乾燥製剤、粉末充填剤の形態が挙げられるが、凍結乾燥製剤が好ましい。凍結乾燥製剤とするには、シュクロースなどの安定化剤を配合するのが好ましい。PC-SOD及びシュクロースを含む水溶液を当該技術分野において公知の方法で凍結乾燥することで製剤化できる。PC-SOD:シュクロースの重量比は、1:1~1:5が好ましく、1:1~1:2がより好ましい。また、PC-SODが40mgである場合、シュクロースは40mg~200mgが好ましく、40mg~80mgがより好ましく、67mgが更に好ましい。
【0040】
本発明の医薬組成物中におけるPC-SODの含有量は、特に限定されるものではないが、通常は、組成物全量に対して1~100質量%、好ましくは10~80質量%、より好ましくは25~50質量%である。
【0041】
本発明の医薬組成物の投与量は、抗癌剤を投与する患者の症状及び年齢などによって異なるが、前記PC-SODとして、成人に対して1日あたり20~160mgが好ましく、20~80mgがより好ましく、40~80mgが更に好ましい。また、この投与量は1週間に1~4回、2週間に1~4回、又は3週間に1~4回に分けて投与することもでき、この投与サイクルはそれぞれ1~20回繰り返すことができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は、FOLFOX又はXELOXの投与レジメンに従って投与できる。好ましくは、FOLFOXに従う場合、本発明の医薬組成物は、2週間に1回投与を12回のサイクルで行う。また、好ましくは、XELOXに従う場合、本発明の医薬組成物は、3週間に1回投与を8回のサイクルで行う。
【0042】
本発明の好ましい別の実施態様は、抗癌剤の投与に伴う障害を予防又は治療するための、PC-SODである。
本発明の好ましい別の実施態様は、抗癌剤の投与に伴う障害の予防又は治療用医薬組成物を製造するための、PC-SODの使用である。
本発明の好ましい別の実施態様は、PC-SODを投与することを特徴とする、抗癌剤の投与に伴う障害を予防又は治療する方法である。
【実施例
【0043】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例に用いたPC-SODは、特許文献16記載の方法に従って製造した。
【0044】
[試験例1]オキサリプラチンによるラット異痛症(アロディニア)に対する作用
「概要」
抗癌剤に起因する異痛症に対するPC-SODの効果を確認するため、抗癌剤のオキサリプラチンをラットに投与した場合に生じる機械的刺激による異痛症に対するPC-SODの作用を調べた。PC-SODを被験薬としてラットに尾静脈投与し、以下の試験を行った。
【0045】
「方法」
(1)オキサリプラチン投与誘発異痛症モデルラットの作製:
6-8週齢のSD系雄性ラット(200-400g)を用い、ラットにオキサリプラチン(以下、OXAと略すことがある)を4mg/kg、腹腔内に投与した。投与は週2回、4週、計8回実施した(day1、2、7、8、13、14、19、20)。対照群にはOXAの溶媒、すなわち、5%グルコース溶液を同様に投与した。OXAは、エルプラット注射用100mg(株式会社ヤクルト本社)を用いた。
(2)被験薬の投与予防効果を評価する実験:
実験動物を対照群、OXA投与群、OXA及びPC-SOD 0.1、0.3あるいは1mg/kgの投与群(OXA+PC-SOD 投与群)の5群構成とした(各群n=8)。予防実験ではOXA+PC-SOD投与群には、OXA投与5分~15分後から、PC-SODを尾静脈に投与した。投与は週2回、4週、計8回実施した(day1、2、7、8、13、14、19、20)。対照群及びOXA投与群にはPC-SODの溶媒を同様に投与した。
(3)フォンフライ試験(von Frey test)
上記のラットについて、ラットの後肢足にフォンフライ式フィラメントで圧刺激を与え、無拘束の状態で痛覚テストが行う。圧刺激の強さは50gで設定する。
(4)統計処理
データは平均±標準誤差(Mean±SEM)で示した。成績の統計学的処理は、2群間の比較にはStudent's t検定、3群以上の群間の比較にはAnova one way検定(post-hoc Tukey's test)を用いて行い、危険率5%以下を有意差有りとした。(図中の* 、* * 、* * * :p<0.05、p<0.01、p<0.001)
【0046】
「結果と解釈」
上記試験結果のうち、PC-SODの予防的投与の濃度依存的結果を図1に示す。OXA投与群では、対照群に比べて痛覚閾値(Threshold)が有意に低下した。それに対し、OXA+PC-SOD(0.1、0.3、1mg/kg)投与群では、PC-SODがOXAによる痛覚閾値の低下を濃度依存的に抑制することを示した。さらに、1mg/kgのPC-SOD群において、OXA投与群で認められた閾値の低下を有意に抑制した。
以上の結果から、PC-SODは、OXAによる機械的異痛症に対して、予防効果を有することが確認された。
【0047】
[試験例2]低温刺激試験
「概要」
以下に示す方法で低温刺激による異痛症を観察することにより、本発明の抗癌剤に起因する末梢性神経障害性疼痛に対する効果を確認することができる。
【0048】
「方法」
(1)OXA投与誘発異痛症モデルラッ卜の作製
実験動物として5週齢のSD系雄性ラッ卜(200g-400g)を用い、ラッ卜にOXAを10mg/kg、腹腔内に投与した。投与は計2回実施する(day1、2)。対照群にはOXAの溶媒すなわち、5%グルコース溶液を同様に投与した。
(2)被験薬の投与
実験動物を対照群、OXA投与群、OXA及びPC-SOD1mg/kgの投与群(OXA+PC-SOD 投与群)の3群に群構成する(各群n=8)。OXA+PC-SOD投与群には、予防的投与としてOXA+PC-SOD投与群には、OXA投与15分後から、PC-SODを尾静脈に投与した。投与は計2回実施する(day1、2)。対照群及びOXA投与群にはPC-SODの溶媒を同様に投与する。
(3)アセトンテスト(acetone test)
底が金網になっている容器にラッ卜を入れて30分馴化させた後、有機溶媒用スプレー(NO.3530、株式会社フルプラ製)を用いて後足にアセトン0.1mLを嘖霧し、アセトンの気化時の冷却作用を利用して冷刺激を与える。嘖霧開始から40秒間ラッ卜の回避反応を観察し、スコアリング法で評価した。スコアリング法は具体的に4段階(スコア0、1、2、3)を分けて評価した。スコア0とは、動物は安静状態と同じで、無反応である。スコア1とは、動物の後足が動くなど素早く反応するが、反復した反応または反応時間が長くなるなどが含まれない。スコア2とは、動物の後足は足が動くなど素早く反応し、かつ反復した反応または反応時間が長くなるなどが含まれる。スコア3とは、スコア2かつ動物が後足を舐める動作が現れることである。
(4)統計処理
データは平均±標準誤差(Mean±SEM)で示した。成績の統計学的処理は、2群間の比較にはStudent's t検定、3群以上の群間の比較にはAnova one way(post-hoc Tukey's test)検定を用いて行い、危険率5%以下を有意差有りとした。(図中の* 、* * 、* * * :p<0.05、p<0.01、p<0.001)
【0049】
「結果と解釈」
OXAに起因した冷感的異痛症に対するPC-SODの予防的投与の結果を図2に示す。OXA投与群では、対照群に比べて冷感刺激によるスコアが有意に増加した。それに対し、1mg/kgのPC-SOD群において、OXA投与群で認められたスコアの増加を有意に抑制した。
以上の結果から、OXAによる冷感的異痛症に対して、PC-SODは予防効果を有することが確認された。
【0050】
[試験例3]表皮内神経線維の密度変化の評価
「概要」
以下に示す方法でオキサリプラチンによる表皮内神経線維の密度変化を観察することにより、本発明の抗癌剤に起因する末梢神経の病理損傷に対する効果を確認することができる。
【0051】
「方法」
(1)表皮内神経密度の評価法。
4%パラホルムアルデヒド固定液で固定したラット表皮組織を24間後にPBSにて洗浄し、凍結ブロックを作成した。作成したブロックはクライオスタット(CM3050S;Leica社製)で厚さ50μmの凍結切片を作製し、透過処理として0.2%Triton-X 溶液を添加し10分反応させた。神経線維は抗PGP9.5抗体(Ultraclone Ltd.)にて4℃で一夜反応させた後、PBStで洗浄し、二次蛍光抗体(Alexa Fluor 488 goat anti-rabbit;IgG Invitrogen)を反応させた。室温で1時間反応させた後、洗浄、リンス, VECTASHIELD with DAPI H-1200(Vector社)滴下、封入を行い、BZ-X800蛍光顕微鏡(キーエンス社製)で倍率:200倍で各サンプル2~3枚の画像を保存した(Scare bar=100μm)
【0052】
「結果と解釈」
OXAによる表皮内神経線維密度の減少に対するPC-SODの投与の結果を図3に示す。OXA投与群では、対照群に比べて表皮内神経線維密度を減少した(矢印)。それに対し、OXA+PC-SOD(1mg/kg)投与群では、OXAによる表皮内神経線維密度の減少に対する抑制効果を示した。
以上の結果から、PC-SODは、OXAによる末梢神経障害の病理損傷に対して、予防効果を有することが確認された。
【0053】
[試験例4]DRGの病理損傷の評価
「概要」
以下に示す方法でオキサリプラチンによるDRGの形態変化を観察することにより、本発明の抗癌剤に起因するDRGニューロンの病理損傷に対する効果を確認することができる。
【0054】
「方法」
採取したL5のDRGニューロン組織を10%中性緩衝ホルマリン液にて保存し、固定後、PBS洗浄、70%エタノール置換処置を施し、パラフィンブロックの作成、薄切、HE染色を行った。サンプルブロックの薄切サンプルの厚みは2~3μmで薄切された。作成された病理サンプルスライドはオールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800;キーエンス社製)の光学顕微鏡機能で各サンプルを1~3枚、倍率:200、400倍で撮影を行った。評価法としてDRGニューロンの障害の指標としてDRGニューロンの核小体の多核化、及び核小体の形態異常の評価を行った(Scare bar=50μm)。
【0055】
「結果と解釈」
OXAによるDRGの病理損傷に対するPC-SODの投与の結果を図4に示す。OXA投与群では、対照群に比べて病理損傷の現象が観察された(矢印、DRGニューロンの核小体の多核化と形態異常)。それに対し、OXA+PC-SOD(1mg/kg)投与群では、OXAによるDRGの病理損傷に対する抑制効果を示した。
以上の結果から、PC-SODは、OXAによるDRGニューロンにおける病理損傷に対して、予防効果を有することが確認された。
【0056】
[試験例5]オキサリプラチンによる肝障害の病理評価
「概要」
以下に示す方法でオキサリプラチンによる肝障害の病理像を観察することにより、本発明の抗癌剤に起因する肝障害に対する効果、またMangafodipirとの差別化を確認することができる。
【0057】
「方法」
採取した肝臓を10%中性緩衝ホルマリン液にて組織を固定しHistos5(Milestone)と包埋センター(EG1160;Leica)を用いてパラフィンブロックを作成した。サンプルブロックはミクロトーム(MR2245;Leica)を用いて厚さ3μmで薄切しスライドを作成した。作成したスライドはHE染色法を用いて染色、封入を行い、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800;キーエンス社)の光学顕微鏡機能で倍率:200、400倍で観察を行った。観察・評価は切片全体の観察を行い、無作為に代表的な組織像をランダムに2~4枚取り込み、炎症、壊死等の組織構造の変異の観察・評価した(Scare bar=200μm)。
【0058】
「結果と解釈」
OXAによる肝臓の病理損傷に対するPC-SODの投与の結果、Mangafodipirとの差別化の結果を図5に示す。OXA投与群では、対照群に比べて肝臓病理的な損傷が確認された(矢印、肝細胞のネクローシス)。それに対し、OXA+PC-SOD(1mg/kg)投与群では、OXAによる肝細胞のネクローシスの抑制効果を示した。
一方、Mangafodipirの投与群において、OXAによる肝細胞のネクローシスの抑制効果を示さなかった。
なお、Mangafodipirは、CIPNを対象疾患として医薬開発が進められているカルマンガホジピルの類似体であり、試薬として入手可能であったため、本実施例の比較対照として用いた。
以上の結果から、PC-SODは、OXAによる肝障害に対して予防効果を有することが分かった。また、Mangafodipirと比べ、OXAの重大な副作用の一つである肝障害に対するPC-SODが副作用軽減の予防効果を有することが確認できた。
【0059】
[試験例6]PC-SODのオキサリプラチンの抗腫瘍効果の影響
「概要」
以下に示す方法でオキサリプラチンによるがん細胞の増殖変化を観察することにより、本発明の抗癌剤の抗腫瘍効果に対する影響を確認することができる。
【0060】
「方法」
(1)細胞の培養
大腸がん細胞(colo320, HCT116)は、10%ウシ胎児血清、100単位/mLぺニシリン-ス卜レプトマイシン(Gibco BRL社製)を含むRPM1640培地(Thermo Fisher Scientific社)を用い、37℃、5%C02インキュベータ一で培養する。
(2)薬物の処置及び細胞増殖の測定
細胞を96ウェルプレー卜に10,000細胞/ウェルで播種し、24時間後に被験液の処置を行う。OXAのみの被験液においては、OXAを100μMから3倍希釈(10段階)して、96ウェルプレートに添加する。OXA+PC-SODの被験液は、OXAは同じ濃度でPC-SOD(50μg/mL)を添加する(各群n=3)。培養72時間後、各ウェルの溶液の1/10量のCCK-8溶液を加え、吸光度(490nm)を測定する(Tecan、テカンジャパン)。データは平均±標準誤差(Mean±SEM)で示した。なお、実験条件は適宜変更することができる。
【0061】
「結果と解釈」
OXAによる大腸がん細胞の増殖抑制が確認された。OXA単独投与群と比べ、OXA+PC-SOD群が同程度で細胞増殖を抑制したことにより、本発明のオキサリプラチンの抗腫瘍効果に対する影響を与えないことが確認できた(図6)。
【0062】
[試験例7]抗癌剤による神経突起障害におけるPC-SODの神経保護効果
「概要」
ラット副腎褐色細胞腫由来PC12細胞は神経成長因子(NGF)により神経突起を持つ神経様細胞へと分化することが知られており、神経細胞モデルとして広く用いられている。PC-SODの神経突起保護作用を評価するため、NGFにより分化させたPC12細胞を用いて各種抗癌剤による神経突起障害におけるPC-SODの効果を解析した。
【0063】
[試験例7-1]白金製剤(オキサリプラチン又はシスプラチン)による神経突起障害におけるPC-SODの神経保護効果
「方法」
PC12細胞をコラーゲンコートした24ウェルプレートに5000cells/wellとなるように播種した。24時間後に分化培地(100ng/ml NGF及び0.5% FBSを含むRPMI-1640)へ培地交換し、さらに96時間培養した。神経突起が伸長した後、オキサリプラチン(終濃度20μM)単独、シスプラチン(結果図にCPと略す、終濃度33μM)単独、及びオキサリプラチンあるいはシスプラチンとPC-SOD(終濃度10、50、100μg/ml)を含む分化培地の組み合わせで24時間培養した。顕微鏡(Keyence BZ-X800)で細胞の画像を取得し、神経突起の長さを画像解析ソフトImageJ(NIH)を用いて計測した。各群Triplicate、1ウェルあたり30個の細胞を解析した。グラフは各群の平均を示し、Tukey's testにより多重比較を行なった(*:p<0.05)。
【0064】
「結果」
オキサリプラチンの添加により神経突起が退縮したが、PC-SODの同時添加によりPC-SOD濃度依存的に神経突起退縮が顕著に抑制され、オキサリプラチン無添加と同レベルまで抑制された。シスプラチンによる神経突起退縮に対しては、シスプラチン単独と比較して神経突起退縮を有意に抑制した。これらの結果からPC-SODがオキサリプラチン及びシスプラチンによる神経突起損傷から神経突起を保護することが示された。また、PC-SODによる神経突起退縮の抑制作用は、シスプラチンによって引き起こされる神経突起退縮に対してよりも、オキサリプラチンによって引き起こされる神経突起退縮に対してより強く作用することが示された(図7-1)。
【0065】
[試験例7-2]カルボプラチンによる神経突起障害におけるPC-SODの神経保護効果
「方法」
PC12細胞をコラーゲンコートした24ウェルプレートに5000cells/wellとなるように播種した。24時間後に分化培地(100ng/ml NGFおよび0.5% FBSを含むRPMI-1640)へ培地交換し、さらに96時間培養した。神経突起が伸長した後、カルボプラチン(終濃度50μM)単独、またはカルボプラチンとPC-SOD(終濃度10、20、50、100μg/mL)を含む分化培地の組み合わせで24時間培養した。顕微鏡(Keyence BZ-X800)で細胞の画像を取得し、神経突起の長さを画像解析ソフトImageJ(NIH)を用いて計測した。各群Triplicate、1ウェルあたり30個の細胞を解析した。グラフは各群の平均を示し、Tukey’s testにより多重比較を行なった(*:p<0.05)。
【0066】
「結果と解釈」
カルボプラチンの添加により神経突起が退縮したが、PC-SODの同時添加によりPC-SODの濃度依存的に神経突起退縮が抑制された。PC-SODがカルボプラチンによる神経突起損傷に対して神経突起を保護することが示唆された(図7-2)。
【0067】
[試験例7-3]パクリタキセルによる神経突起障害におけるPC-SODの神経保護効果
「方法」
PC12細胞をコラーゲンコートした24ウェルプレートに5000cells/wellとなるように播種した。24時間後に分化培地(100ng/ml NGF及び0.5%FBSを含むRPMI-1640)へ培地交換し、さらに96時間培養した。神経突起が伸長した後、パクリタキセル(結果図にPTXと略す、終濃度0.1μM)単独、又はパクリタキセルとPC-SOD(終濃度10、50、100μg/ml)を含む分化培地の組み合わせで24時間培養した。顕微鏡(Keyence BZ-X800)で細胞の画像を取得し、神経突起の長さを、画像解析ソフトImageJ(NIH)を用いて計測した。各群Triplicate、1ウェルあたり30個の細胞を解析した。グラフは各群の平均を示し、Tukey's testにより多重比較を行なった(*:p<0.05)。
【0068】
「結果」
パクリタキセルの添加により神経突起が退縮したが、PC-SODの同時添加によりPC-SODの濃度依存的に神経突起退縮が抑制された。PC-SODがパクリタキセルによる神経突起損傷に対しても神経突起を保護することが示された(図7-3)。
【0069】
[試験例8]オキサリプラチンによる神経突起障害におけるPC-SODとMangafodipirの神経保護効果の比較
「概要」
PC12細胞を用いてオキサリプラチンによる神経突起障害におけるPC-SODの神経保護効果とSOD様活性を有するMangafodipirの効果を比較した。
【0070】
「方法」
PC12細胞をコラーゲンコートした24ウェルプレートに5000cells/wellとなるように播種した。24時間後に分化培地(100ng/mL NGF及び0.5%FBSを含むRPMI-1640)へ培地交換し、さらに96時間培養した。神経突起が伸長した後、オキサリプラチン(終濃度20μM)単独、又はオキサリプラチンとPC-SOD(終濃度50μg/mL)あるいはMangafodipir(終濃度1、5、10、20、50μg/mL)を含む分化培地で24時間培養した。顕微鏡(Keyence BZ-X800)で細胞の画像を取得し、神経突起の長さを画像解析ソフトImageJ (NIH)を用いて計測した。各群Triplicate、1ウェルあたり30個の細胞を解析した。グラフは各群の平均を示し、Tukey's testにより多重比較を行なった(*:p<0.05)。
【0071】
「結果と解釈」
オキサリプラチンの添加による神経突起の退縮は、50μg/mlのPC-SODの同時添加によりほぼ完全に抑制された。一方でMangafodipirの同時添加においては、5μg/mLの濃度で弱い抑制傾向が見られたが、高濃度の添加においてもそれ以上の退縮抑制効果は確認されなかった。この結果から、Mangafodipirに比較してPC-SODがより強い神経保護効果を持つことが示された(図8)。
【0072】
[試験例9]PC-SODとMangafodipirの細胞毒性濃度の比較
「概要」
NGFにより分化させたPC12細胞を用いて、オキサリプラチン存在/非存在下でのPC-SOD及びMangafodipirにより細胞毒性が生じる濃度を検討した。
【0073】
「方法」
PC12細胞をコラーゲンコートした96ウェルプレートに10000cells/wellとなるように播種し、24時間後に分化培地(100ng/mL NGF及び0.5% FBSを含む RPMI-1640)へ 培地交換しさらに72時間培養した。オキサリプラチン (終濃度20μM)存在/非存在下で、PC-SOD (終濃度10、50、100、200、500μg/mL)あるいはMangafodipir(終濃度1、5、10、20、50μg/mL)を添加し24時間培養した。細胞の生存率はニュートラルレッドアッセイにより解析した (*:p< 0.05)。各群Triplicateで行い、グラフは各群の平均を示す。Tukey's testにより多重比較を行なった(*:p<0.05)。
【0074】
「結果と解釈」
オキサリプラチン存在下/非存在下ともに、PC-SODの添加は神経保護効果を示す濃度において細胞の生存率に影響を与えず、薬効を示す濃度と細胞毒性が生じる濃度に差があることが示された。一方Mangafodipirの添加は濃度依存的に細胞生存率を低下させ、弱い神経保護効果が見られた濃度よりも低濃度においても細胞毒性が生じていることが明らかとなった。これらの結果からMangafodipirと比較してPC-SODはより細胞毒性が低く安全性が高い可能性が示された(図9)。
【0075】
[試験例10]シスプラチンによる腎障害の評価
「概要」
以下に示す方法でシスプラチンの投与による腎臓の形態及び重量の変化を測定することにより、本発明の抗癌剤に起因する腎障害に対する効果を確認することができる。
【0076】
「方法」
6-8週齢のSD系雄性ラット(200-400g)を用い、ラットにシスプラチン(以下、CISと略すことがある)を3mg/kg、腹腔内に投与した。投与は週2回、4週、計8回実施した(day1、2、7、8、13、14、19、20)。対照群にはCISの溶媒、すなわち、生理食塩水を同様に投与した。CISは、シスプラチン注50mg(日医工)を用いた。実験動物を対照群、CIS投与群、CIS及びPC-SOD1mg/kgの投与群(CIS+PC-SOD 投与群)の3群構成とした(各群n=6)。
予防実験ではCIS+PC-SOD投与群には、CIS投与5分~15分後から、PC-SODを尾静脈に投与した。投与は週2回、4週、計8回実施した(day1、2、7、8、13、14、19、20)。対照群及びCIS投与群にはPC-SODの溶媒を同様に投与した。ラットの腎臓の重量は測定し、腎臓重量の変化は体重で補正を行った。また、腎臓の大きさ及び形態の変化を確認するため、腎臓の写真を撮影した(Scale bar=10mm)。
病理解析については、採取された腎臓を矢状面に割をいれ、10%ホルマリンで固定した後、Histos5(Milestone)と包埋センター(EG1160;Leica)を用いてパラフィンブロックを作成した。サンプルブロックはミクロトーム(MR2245;Leica)を用いて厚さ3μmで薄切しスライドを作成した。作成したスライドは病態評価ではPeriodic acid Schiff(PAS)染色法を行い、線維化の評価ではPicrosiriu Red染色、線維化マーカーであるα-SMAを免疫染色法にて染色し、顕微鏡(BZ-X800;キーエンス社)の光学顕微鏡機能で倍率:40、100倍で観察を行った。観察・評価は切片全体の観察を行い、障害が惹起されている皮質側の組織像をランダムに4~9枚取り込み、病態変化では炎症、尿細管壊死や、尿細管中の蛋白凝集、空胞化、壊死を評価し、線維化の評価では皮質側の線維素、または抗体陽性部を観察、評価を行った。Scare bar=500μm(図11-1)、Scare bar=200μm(図11-2、図11-3)。
【0077】
「結果と解釈」
CISによる腎障害に対するPC-SODの効果は、腎臓重量の変化を指標として評価した。結果は図10-1及び図10-2に示す。各群の腎臓の写真を図10-1で示す。CIS投与群では、対照群に比べて腎臓重量の増加及び腫大が確認された。それに対し、CIS+PC-SOD(1mg/kg)投与群では、CISによる腎臓重量の増加及び腎臓の腫大を抑制する効果が確認された(図10-2)。
CISによる腎臓の病理損傷に対するPC-SODの投与の結果を図11-1に示す。CIS投与群では、対照群に比べ空胞化、尿細管でのタンパク凝集、炎症細胞の凝集等の病理損傷の現象が確認された(矢印、空胞化、尿細管でのタンパク凝集、炎症細胞の浸潤等)。それに対しCIS+PC-SOD(1mg/kg))を投与された群では、CISによる腎臓への病理損傷に対し抑制効果を示した。次に、CISによる腎線維化に対するPC-SODの投与の結果を図11-2、図11-3に示す。Picrosiriu Red染色およびα-SMA染色の結果において、CIS投与群では、対照群に比べの尿細管間質部における線維素の高発現が確認された(矢印は線維化、線維素陽性部を示す)。それに対しCIS+PC-SOD(1mg/kg)を投与された群では、CISによる腎臓の線維化陽性部の検出が減少していることが確認された。
以上の結果から、PC-SODは、CISによる腎臓の腫大、線維化に対して抑制効果を有することが分かり、CISの重大な副作用の一つである腎障害に対するPC-SODが副作用軽減の予防効果を有することが確認できた。
特に、抗癌剤投与に伴う腎臓の腫大は、乏尿による水分滞留に密接に関わると考えられることから、PC-SODは、抗癌剤の投与に伴う腎障害のなかでも特に、乏尿を伴う腎障害に有効であることが示唆された。
また、本試験において、シスプラチンは、週2回で4週にわたり投与されている。よって、本試験系においては、シスプラチン腎症が発症していると考えられる。一般的に、急性腎障害は、数時間~数日の間に起こる腎障害、及び慢性腎障害(慢性腎臓病)は、「腎臓の障害」もしくは「腎機能低下」が3ヶ月以上持続している状態をいうことから、PC-SODが腎臓の腫大および線維化を抑制する効果は、急性腎障害から慢性腎障害への移行期、好ましくは急性シスプラチン腎症から慢性シスプラチン腎症への移行期において作用している可能性が示唆された。
【0078】
[試験例11]抗癌剤によるRAW細胞毒性に対するPC-SODの効果
「概要」
抗癌剤はRAW細胞に対して毒性を示す。これに対して、PC-SODが抑制作用を示すか否かを試験した。
【0079】
「方法」
RAW細胞を96ウェルプレートに20000cells/well(10%非働化FBSを含むD-MEM 高グルコース培地)となるように播種した。24時間後にゲムシタビン単独、オキサリプラチン単独、シスプラチン単独、及びカルボプラチン単独、あるいはゲムシタビンとPC-SOD、オキサリプラチンとPC-SOD、シスプラチンとPC-SOD、カルボプラチンンとPC-SODを添加した。24時間後にCellTiter-GloTM 2.0 Cell Viability Assay(プロメガ)、及びプレートリーダー(Tecan,Infinite M Plex)を用いて化学発光を測定することにより生存細胞数を算出した。各群4ウェル分の細胞を解析した。グラフは各群の平均を示し、Dunnett’ s testにより多重比較を行なった(*:p<0.05、 **:p<0.01vs control、#:p<0.05、 ##:p<0.01vs 抗癌剤単独)。
【0080】
「結果と評価」
ゲムシタビン単独、オキサリプラチン単独、シスプラチン単独、及びカルボプラチン単独の処置により、抗癌剤の濃度依存的な生存細胞数低下が観察された(図12-1)。一方、PC-SODの同時添加によりPC-SOD濃度依存的に抗癌剤依存の生存細胞数低下が有意に抑制された。これらの結果からPC-SODが抗癌剤による細胞毒性から血球細胞を保護することが示された(図12-2)。
【0081】
[試験例12]抗癌剤によるRAW細胞の活性酸素産生に対するPC-SODの効果
「概要」
抗癌剤はRAW細胞の活性酸素産生を促進する。これに対し、PC-SODが活性酸素産生抑制作用を示すか否かを試験した。
【0082】
「方法」
RAW細胞を蛍光用96ウェルプレートに20000cells/well(10%非働化FBSを含むD-MEM 高グルコース培地)となるように播種した。24時間後にゲムシタビン単独、オキサリプラチン単独、シスプラチン単独、及びカルボプラチン単独、あるいはゲムシタビンとPC-SOD、オキサリプラチンとPC-SOD、シスプラチンとPC-SOD、カルボプラチンンとPC-SODを添加した。16時間後にMitoSOXTM Red Mitochondrial Superoxide Indicator(InvitrogenTM)が溶解したHBSS溶液を30分間処置後、1%非働化FBSを含むD-MEM 高グルコース培地に交換した。プレートリーダー(Tecan, Infinite M Plex)を用いて蛍光(Ex 510nm,Em 580nm)を測定することによりミトコンドリアにおける活性酸素産生を算出した。各群4ウェル分の細胞を解析した。グラフは各群の平均を示し、Dunnett' s testにより多重比較を行なった(*:p<0.05、**:p<0.01vs control、#:p<0.05、##:p<0.01vs 抗癌剤単独)。
【0083】
「結果と評価」
ゲムシタビン単独、オキサリプラチン単独、シスプラチン単独、及びカルボプラチン単独の処置により、抗癌剤の濃度依存的な活性酸素産生が観察された(図13-1)。一方、PC-SODの同時添加によりPC-SOD濃度依存的に抗癌剤依存の活性酸素産生が有意に抑制された(図13-2)。これらの結果からPC-SODが抗癌剤によるミトコンドリアでの活性酸素産生を抑制することが示された。また生存細胞数解析の結果と合わせて考察すると、PC-SODが抗酸化作用を介して抗癌剤による細胞毒性から血球細胞を保護することが示された(図13)。
【0084】
[試験例13]シスプラチンによる骨髄抑制の評価
「概要」
以下に示す方法でシスプラチンの投与による末梢血の血球の変化を分析することにより、本発明の抗癌剤に起因する骨髄抑制に対する効果を確認することができる。
【0085】
「方法」
6-8週齢のSD系雄性ラット(200-400g)を用い、ラットにシスプラチン(以下、CISと略すことがある)を3mg/kg、腹腔内に投与した。投与は週2回、4週、計8回実施した(day1、2、7、8、13、14、19、20)。対照群にはCISの溶媒、すなわち、生理食塩水を同様に投与した。CISは、シスプラチン注50mg(日医工)を用いた。実験動物を対照群、CIS投与群、CIS及びPC-SOD1mg/kgの投与群(CIS+PC-SOD 投与群)の3群構成とした(各群n=6)。予防実験ではCIS+PC-SOD投与群には、CIS投与5分~15分後から、PC-SODを尾静脈に投与した。投与は週2回、4週、計8回実施した(day1、2、7、8、13、14、19、20)。対照群及びCIS投与群にはPC-SODの溶媒を同様に投与した。末梢血は3日目にラットの尾静脈から採集し、自動血球計測定器(MEK-6458日本光電)によって末梢血分析を実施した。
【0086】
「結果と解釈」
CIS投与により白血球(WBC)、血小板(PLT)の低下が認めされたが、PC-SODの同時投与群において、白血球、血小板の低下が抑制された。
以上の結果から、PC-SODがCISによる骨髄抑制を保護することが示唆された(図14)。
【0087】
[試験例14]PC-SODのPC化部位の同定
PC-SODは、典型的には、特許文献14、15又は特許文献16に記載の方法、より好ましくは特許文献16に記載の方法に従って製造される。これらの文献から理解できるように、PC-SODを製造する際、溶媒存在下でPCをSODに結合させることから、PCが結合するSODのアミノ酸残基は、全てのSOD分子について同じ個所を厳密に指定することが実質的にできない。よって、本発明のPC-SODは、PCが様々な個数及び結合部位でSOD分子に結合しているPC-SOD分子から構成されるヘテロな集合体である。
従って、「PC-SOD」の構造、特にPC-SODにおけるPCの結合部位及びその結合個数は、PCが結合可能なSODのアミノ酸残基と、その結合割合をある程度の範囲で規定することが、最大限明確なPC-SODの構造の記載であるといえる。
【0088】
上記観点から、PC-SODの構造については、PCが実際に結合しているSODのアミノ酸残基、及びそれらの結合割合を分析することが最良の手段であると考えられた。
従って、PC-SODのPC化部位の同定を目的として、PC-SODの酵素消化及びLC/MS分析を行った。得られたPC-SODのPC化部位及びPC化割合を図15に示す。なお、一文字表記のアミノ酸の後の数字は、SOD分子におけるN末端からの残基数を表す。
上記2回行った分析の結果の平均値を以下の表に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
この結果、PCは、選択性又は指向性をもって優先的に結合するSOD分子内のアミノ酸残基が存在すること、及びPCが結合しないSOD分子内のアミノ酸残基が存在することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】
図14
図15
【配列表】
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