IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社四国総合研究所の特許一覧 ▶ 東日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 中日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 西日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社高速道路総合技術研究所の特許一覧

<>
  • 特許-非破壊検査方法および非破壊検査装置 図1
  • 特許-非破壊検査方法および非破壊検査装置 図2
  • 特許-非破壊検査方法および非破壊検査装置 図3
  • 特許-非破壊検査方法および非破壊検査装置 図4
  • 特許-非破壊検査方法および非破壊検査装置 図5
  • 特許-非破壊検査方法および非破壊検査装置 図6
  • 特許-非破壊検査方法および非破壊検査装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】非破壊検査方法および非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20240617BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G01N27/83
E01D22/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020093736
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021189012
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-12-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第28回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム、愛知県産業労働センター、2019年11月7日、8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(72)【発明者】
【氏名】白石 浩造
(72)【発明者】
【氏名】山地 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 晃
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-008960(JP,A)
【文献】米国特許第06549005(US,B1)
【文献】韓国登録特許第10-2072189(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1843890(KR,B1)
【文献】特開昭49-125072(JP,A)
【文献】実開平01-154457(JP,U)
【文献】特開2005-003405(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154141(WO,A1)
【文献】特開2012-107919(JP,A)
【文献】特開2008-249682(JP,A)
【文献】特開2006-177747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00 - E01D 24/00
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象が埋設されたコンクリート構造物の外側から該検査対象を磁化させた後、前記コンクリート構造物の外側の磁束密度を測定することで、前記コンクリート構造物に埋設された直線状に延びる線条材料および/または軸状材料である検査対象の損傷を検出する非破壊検査方法であって、
前記コンクリート構造物がその上面を検査車両が走行できる構造物であり、
前記検査対象を磁化させる磁化部と磁束密度を測定する磁束測定部とが前記検査車両の走行方向の同じ位置に位置するように、前記磁化部および前記磁束測定部を前記検査車両に設置し、
前記磁化部において前記検査対象を磁化させる磁力を発生する電磁石の磁化方向が、前記コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と平行となるように配置した状態で、前記磁化部および前記磁束測定部が設置された前記検査車両をその走行方向が前記磁化部の電磁石の磁化方向および前記検査対象の軸方向の両方に交差するように前記コンクリート構造物の上面に沿って移動させながら、前記磁化部の電磁石に間欠的に電流を供給し、該磁化部の電磁石に対する電流の供給を停止した後、所定の時間が経過した後に前記磁束測定部によって磁束密度を測定する
ことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
検査対象が埋設されたコンクリート構造物の外側から該検査対象を磁化させた後、前記コンクリート構造物の外側の磁束密度を測定することで、前記コンクリート構造物に埋設された直線状に延びる線条材料および/または軸状材料である検査対象の損傷を検出する非破壊検査装置であって、
前記コンクリート構造物の上面を走行する検査車両と、
該検査車両に設置された、前記検査対象を磁化させる磁化部と、
該磁化部よりも前記検査車両の走行方向の後方または該磁化部と同じ位置に位置するように前記検査車両に設置された、磁束密度を測定する磁束測定部と
前記検査車両を前記コンクリート構造物の上面に沿って該コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と交差する方向に走行させている状態において、前記磁化部による着磁と、前記磁束測定部による磁束密度の測定と、を実施するように制御する制御部と、を備えており、
前記磁化部は、
該磁化部において前記検査対象を磁化させる磁力を発生する磁石の磁化方向を水平面内で変更する磁化方向調整部を備えており、
前記磁化部を昇降させる昇降機構を備えており、
前記制御部は、
前記着磁を実施する際に、前記磁石の磁化方向が前記検査車両の走行方向と交差しかつ前記コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と平行となった状態で行われるように前記磁化方向調整部の作動を制御する機能と、
前記磁化部と前記コンクリート構造物との間に、前記着磁を実施する場合と該着磁を実施しない場合においてそれぞれ所定の隙間が形成されるように前記昇降機構の作動を制御する機能と、を有している
ことを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項3】
検査対象が埋設されたコンクリート構造物の外側から該検査対象を磁化させた後、前記コンクリート構造物の外側の磁束密度を測定することで、前記コンクリート構造物に埋設された直線状に延びる線条材料および/または軸状材料である検査対象の損傷を検出する非破壊検査装置であって、
前記コンクリート構造物の上面を走行する、前記検査対象を磁化させる磁化部が設置された第一検査車両と、
前記コンクリート構造物の上面を走行する、磁束密度を測定する磁束測定部が設置された第二検査車両と、
前記第一検査車両を前記コンクリート構造物の上面に沿って該コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と交差する方向に走行させている状態における前記磁化部による着磁と、前記第二検査車両を前記コンクリート構造物の上面に沿って該コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と交差する方向に走行させている状態における前記磁束測定部による磁束密度の測定と、を実施するように制御する制御部と、を備えており、
前記磁化部は、
該磁化部において前記検査対象を磁化させる磁力を発生する磁石の磁化方向を水平面内で変更する磁化方向調整部を備えており、
前記磁化部を昇降させる昇降機構を備えており、
前記制御部は、
前記着磁を実施する際に、前記磁石の磁化方向が前記第一検査車両の走行方向と交差しかつ前記コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と平行となった状態で行われるように前記磁化方向調整部の作動を制御する機能と、
前記磁化部と前記コンクリート構造物との間に、前記着磁を実施する場合と該着磁を実施しない場合においてそれぞれ所定の隙間が形成されるように前記昇降機構の作動を制御する機能と、を有している
ことを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項4】
前記磁化部における磁石が電磁石であり、
該磁化部は、
前記制御部からの指令に基づいて、前記電磁石に対して電流を供給するタイミングを調整する電流制御部を備えており、
前記磁束測定部は、
前記制御部からの指令に基づいて、磁束密度を測定するタイミングを調整する測定制御部を備えており、
前記制御部は、
前記電磁石に対する電流の供給を停止した後、所定の時間が経過した後に磁束密度を測定するように前記測定制御部の作動を制御する
ことを特徴とする請求項2または3記載の非破壊検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非破壊検査方法および非破壊検査装置に関する。さらに詳しくは、高速道路などの高架橋の床版や、川や谷を跨ぐように設置される橋梁等のコンクリート構造物内に設けられている鉄筋や鋼棒、鋼線等の破断や腐食などの損傷を検出する非破壊検査方法および非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物内に設けられた鉄筋や鋼棒、鋼線等(以下鉄筋等という)の損傷部を検出する非破壊検査方法として漏洩磁束法がある。この漏洩磁束法では、永久磁石等の磁石をコンクリートの表面に沿って移動させることにより鉄筋等を磁化させ、その後、コンクリートの表面から漏れる磁束密度を測定する。そして磁束密度の測定結果に基づいて、鉄筋等の損傷の有無を検出する。この漏洩磁束法を利用した鉄筋等の損傷部を検出する技術が特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3734822号公報
【文献】特開2013-130452号公報
【文献】特開2015-042975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に開示されている技術を使用すれば、コンクリート構造物内に設けられた鉄筋等の損傷部を精度よく検出できるが、特許文献1~3の技術は、作業者が検査装置を手等で移動させて検査を行うものである。したがって、橋梁の床版等のように非常に広い範囲の検査を実施するには、非常に時間と労力がかかり、作業者の負担が甚大になる。また、作業者が検査装置を移動させて検査を実施する場合、検査の間は橋梁等の通行を制限しなければならず、橋梁等の利用者に対して多大な負担をかけることになる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、橋梁の床版等のように広範囲の検査を迅速かつ簡単に実施できる非破壊検査方法および非破壊検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<非破壊検査方法>
第1発明の非破壊検査方法は、検査対象が埋設されたコンクリート構造物の外側から該検査対象を磁化させた後、前記コンクリート構造物の外側の磁束密度を測定することで、前記コンクリート構造物に埋設された直線状に延びる線条材料および/または軸状材料である検査対象の損傷を検出する非破壊検査方法であって、前記コンクリート構造物がその上面を検査車両が走行できる構造物であり、前記検査対象を磁化させる磁化部と磁束密度を測定する磁束測定部とが前記検査車両の走行方向の同じ位置に位置するように、前記磁化部および前記磁束測定部を前記検査車両に設置し、前記磁化部において前記検査対象を磁化させる磁力を発生する電磁石の磁化方向が、前記コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と平行となるように配置した状態で、前記磁化部および前記磁束測定部が設置された前記検査車両をその走行方向が前記磁化部の電磁石の磁化方向および前記検査対象の軸方向の両方に交差するように前記コンクリート構造物の上面に沿って移動させながら、前記磁化部の電磁石に間欠的に電流を供給し、該磁化部の電磁石に対する電流の供給を停止した後、所定の時間が経過した後に前記磁束測定部によって磁束密度を測定することを特徴とする。
<非破壊検査装置>
第2発明の非破壊検査装置は、検査対象が埋設されたコンクリート構造物の外側から該検査対象を磁化させた後、前記コンクリート構造物の外側の磁束密度を測定することで、前記コンクリート構造物に埋設された直線状に延びる線条材料および/または軸状材料である検査対象の損傷を検出する非破壊検査装置であって、前記コンクリート構造物の上面を走行する検査車両と、該検査車両に設置された、前記検査対象を磁化させる磁化部と、該磁化部よりも前記検査車両の走行方向の後方または該磁化部と同じ位置に位置するように前記検査車両に設置された、磁束密度を測定する磁束測定部と前記検査車両を前記コンクリート構造物の上面に沿って該コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と交差する方向に走行させている状態において、前記磁化部による着磁と、前記磁束測定部による磁束密度の測定と、を実施するように制御する制御部と、を備えており、前記磁化部は、該磁化部において前記検査対象を磁化させる磁力を発生する磁石の磁化方向を水平面内で変更する磁化方向調整部を備えており、前記磁化部を昇降させる昇降機構を備えており、前記制御部は、前記着磁を実施する際に、前記磁石の磁化方向が前記検査車両の走行方向と交差しかつ前記コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と平行となった状態で行われるように前記磁化方向調整部の作動を制御する機能と、前記磁化部と前記コンクリート構造物との間に、前記着磁を実施する場合と該着磁を実施しない場合においてそれぞれ所定の隙間が形成されるように前記昇降機構の作動を制御する機能と、を有していることを特徴とする。
第3発明の非破壊検査装置は、検査対象が埋設されたコンクリート構造物の外側から該検査対象を磁化させた後、前記コンクリート構造物の外側の磁束密度を測定することで、前記コンクリート構造物に埋設された直線状に延びる線条材料および/または軸状材料である検査対象の損傷を検出する非破壊検査装置であって、前記コンクリート構造物の上面を走行する、前記検査対象を磁化させる磁化部が設置された第一検査車両と、前記コンクリート構造物の上面を走行する、磁束密度を測定する磁束測定部が設置された第二検査車両と、前記第一検査車両を前記コンクリート構造物の上面に沿って該コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と交差する方向に走行させている状態における前記磁化部による着磁と、前記第二検査車両を前記コンクリート構造物の上面に沿って該コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と交差する方向に走行させている状態における前記磁束測定部による磁束密度の測定と、を実施するように制御する制御部と、を備えており、前記磁化部は、該磁化部において前記検査対象を磁化させる磁力を発生する磁石の磁化方向を水平面内で変更する磁化方向調整部を備えており、前記磁化部を昇降させる昇降機構を備えており、前記制御部は、前記着磁を実施する際に、前記磁石の磁化方向が前記第一検査車両の走行方向と交差しかつ前記コンクリート構造物の線条材料および/または軸状材料の軸方向と平行となった状態で行われるように前記磁化方向調整部の作動を制御する機能と、前記磁化部と前記コンクリート構造物との間に、前記着磁を実施する場合と該着磁を実施しない場合においてそれぞれ所定の隙間が形成されるように前記昇降機構の作動を制御する機能と、を有していることを特徴とする。
第4発明の非破壊検査装置は、第2または第3発明において、前記磁化部における磁石が電磁石であり、該磁化部は、前記制御部からの指令に基づいて、前記電磁石に対して電流を供給するタイミングを調整する電流制御部を備えており、前記磁束測定部は、前記制御部からの指令に基づいて、磁束密度を測定するタイミングを調整する測定制御部を備えており、前記制御部は、前記電磁石に対する電流の供給を停止した後、所定の時間が経過した後に磁束密度を測定するように前記測定制御部の作動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、検査車両を走行させながら検査対象を磁化させて磁束密度を測定すれば、検査対象の損傷を把握できる。しかも、検査車両を走行させるので、広範囲の検査を簡単かつ迅速に検査できる。また、検査車両をその走行方向が磁石の磁化方向および検査対象の軸方向の両方に交差するように走行させるので、橋梁の橋軸方向と直交する方向に沿って配設されている線条材料や軸状材料であっても簡単かつ迅速に検査できる。さらに、コンクリート構造物に埋設されている線条材料および/または軸状材料の損傷等の検出を精度よく実施できる。
<非破壊検査装置>
第2発明によれば、検査車両を走行させながら検査対象を磁化させて磁束密度を測定すれば、検査対象の損傷を把握できる。しかも、検査車両を走行させれば、広範囲の検査対象を簡単かつ迅速に検査できる。また、検査車両をその走行方向が磁石の磁化方向および検査対象の軸方向の両方に交差するように走行させれば、橋梁の橋軸方向と直交する方向に沿って配設されている線条材料や軸状材料であっても簡単かつ迅速に検査できる。さらに、コンクリート構造物に埋設されている線条材料および/または軸状材料の損傷等の検出を精度よく実施できる。
第3発明によれば、第一検査車両を走行させながら検査対象を磁化し、第二検査車両を走行させながら磁束密度を測定すれば、検査対象の損傷を把握できる。しかも、第一および第二検査車両を走行させるので、広範囲の検査対象を簡単かつ迅速に検査できる。また、第一および第二検査車両をその走行方向が磁石の磁化方向および検査対象の軸方向の両方に交差するように走行させるので、橋梁の橋軸方向と直交する方向に沿って配設されている線条材料や軸状材料であっても損傷等を簡単、迅速かつ精度よく検査できる。さらに、磁化部を備えた検査車両と磁束測定部を備えた検査車両とを別々に設けることで、磁化させる走行位置と磁束測定する走行位置を変えることが可能となる。さらに、一旦磁化された検査対象は半永久的に磁化された状態が残るため、同じ場所を定期的に測定する場合、2度目以降の検査では第一検査車両による着磁が不要となる可能性がある。
第4発明によれば、コンクリート構造物に埋設されている線条材料および/または軸状材料の損傷等の検出を精度よく実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の非破壊検査装置1の概略説明図であって、(A)は側面図であり、(B)は(A)のB-B線断面図であり、(C)は(A)のC矢視図である。
図2】本実施形態の非破壊検査装置1における磁束測定部20の概略説明図であり、(A)は側面図であり、(B)は背面図である。
図3】PC床版Bの概略説明図であって、(A)は縦断面図であり、(B)は平面図である。
図4】実験結果を示した図である。
図5】実験結果を示した図である。
図6】実験結果を示した図である。
図7】実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態の非破壊検査方法は、漏洩磁束法を用いてコンクリート構造物の内部に埋設された鉄筋や鋼棒、鋼線等の破断や腐食などの損傷を検出する方法であって、広範囲に設置された鉄筋や鋼棒、鋼線等の検査に適した方法である。
【0010】
本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるコンクリート構造物は、乗用の車両(普通車やトラック、トレーラ等)が走行できる構造物の床版等であるが、とくに限定されない。例えば、高速道路などの高架橋の床版や、谷や川に架けられた橋などの橋梁の床版等を本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるコンクリート構造物として挙げることができる。かかるコンクリート構造物は非常に広い面積や設置長さを有するので、通常の非破壊検査方法に使用される装置、つまり、人が手等で移動させる装置では実質的に検査を実施することが困難である。しかし、本実施形態の非破壊検査方法を採用すれば、かかるコンクリート構造物であっても効果的に検査を実施することができる。
【0011】
なお、本実施形態の非破壊検査方法によって、ある程度の精度で検査が実施できれば、詳細な検査は、別途従来の検査方法、つまり、作業者が検査装置を移動させる検査方法で実施すればよい。
【0012】
以下では、コンクリート構造物が、高速道路などの高架橋の床版や、谷や川に架けられた橋などの橋梁の床版として設置されたプレストレスト・コンクリート床版(以下、PC床版)の場合を代表として説明する。
【0013】
<PC床版>
まず、本実施形態の非破壊検査方法を説明する前に、本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるPC床版Bについて説明する。
【0014】
図3に示すように、PC床版Bは、橋梁等において橋軸方向に分割した部材Cを接合させて一体化したものである。この部材Cは、その内部にPC鋼材Sが埋設されたコンクリート製の部材であり、PC鋼材Sによって圧縮応力を加えたコンクリート材である。PC鋼材Sとしては、例えば、PC鋼棒(直径10mm以上の高強度鋼)や、PC鋼線(直径8mm以下の高強度鋼製の線材)、およびPC鋼より線(PC鋼線をより合わせたもの)などを挙げることができる。
【0015】
上述したようなPC床版Bを形成し、その上面にアスファルトAを敷設することによって、橋梁等の走行路が形成される。
【0016】
なお、上述したPC鋼材Sにおいて、PC鋼棒が特許請求の範囲にいう軸状材料に相当し、上述したPC鋼線やPC鋼より線が特許請求の範囲にいう線条材料に相当する。
【0017】
<本実施形態の非破壊検査装置1>
まず、本実施形態の非破壊検査方法を説明する前に、本実施形態の非破壊検査方法に使用される非破壊検査装置1を説明する。
【0018】
図1に示すように、非破壊検査装置1は、橋梁等を走行できる検査車両2を備えている。この検査車両2は、橋梁等を走行できる車両であればよく、とくに限定されない。例えば、トラックなどの自走できる車両や、牽引車によって牽引されるトレーラなどを検査車両2として採用することができる。
【0019】
この検査車両2には、磁化部10と、磁束測定部20と、磁化部10および磁束測定部20の作動を制御する制御部30と、が搭載されている。
【0020】
<磁化部10>
磁化部10は、上述したPC鋼材Sに磁力を供給してPC鋼材Sを磁化させる機能を有するものである。
【0021】
この磁化部10は、電磁石11と、この電磁石11に対して電流を供給する電流供給部12と、を備えており、検査車両2の荷台2bに設置されている。電磁石11は、鉄芯などの磁化材料の周囲にコイルを巻き付けたものであり、このコイルが電流供給部12に電気的に接続されている。なお、電流供給部12は、一般的な発電機やバッテリ等の外部に電流を供給できる装置を備えており、制御部30からの指示に基づいて外部に対する電流の供給停止や供給する電流を調整できる機能を有している。このため、制御部30からの指示に基づいて、電流供給部12から電磁石11への電流の供給停止や供給する電流を制御すれば、電磁石11が磁力を発生するタイミングや磁力の大きさを制御することができる。
【0022】
この磁化部10は、電磁石11を保持する姿勢調整部15を備えている。この姿勢調整部15は、電磁石11をその磁化材料の軸方向CL(図1(B)、(C)参照)が水平になるように保持するものである。しかも、姿勢調整部15は、電磁石11の磁化材料の軸方向CLを水平に保持した状態で、電磁石11を、磁化材料の軸方向CLと直交する軸周り、つまり、鉛直軸周りに回転させることができる機能を有している。例えば、姿勢調整部15として、電磁石11を保持するケース15cと、このケース15cに一端が接続された回転軸15aと、この回転軸15aを回転させる駆動装置15bと、と備えた機構を採用することができる(図1(B)参照)。
【0023】
なお、姿勢調整部15は、上記機能(電磁石11を鉛直軸周りに回転させる機能)を有する機構であればよく、上述した構造に限られない。この姿勢調整部15が、特許請求の範囲にいう磁化方向調整部に相当する。
また、ここでいう、「電磁石11の磁化材料の軸方向が水平」とは、磁化部10を搭載した検査車両2が水平な路面に載せられた状態(または水平な路面を走行している状態)において、電磁石11の磁化材料の軸方向が水平になる状態を意味している。つまり、検査車両2が水平な路面に載せられた状態において、水平な路面と電磁石11の磁化材料の軸方向が平行またはほぼ平行となる場合を意味している。したがって、検査車両2が載せられた面が傾斜した面である場合には、電磁石11の磁化材料の軸方向は水平ではなく、傾斜した面と平行またはほぼ平行となるように、姿勢調整部15は電磁石11を保持することになる。
また、ここでいう、「鉛直軸」とは、磁化部10を搭載した検査車両2が水平な路面に載せられた状態(または水平な路面を走行している状態)において、水平な路面と直交する軸を意味している。一方、検査車両2が載せられた面が傾斜した面である場合には、「鉛直軸」とは、傾斜した面と直交またはほぼ直交する軸を意味することになる。
また、「磁化材料の軸方向」とは、磁化材料にコイルを巻き付けた状態において、コイルの中心軸と平行な方向を意味している(図1(B),(C)の線CL参照)。
【0024】
<磁束測定部20>
磁束測定部20は、橋梁等の走行路の磁束を測定する機能を有するものである。つまり、磁束測定部20は、磁化部10からの磁力によって磁化されたPC床版BのPC鋼材Sが形成する磁場の磁束密度を検出する機能を有するものである。
【0025】
図1(A)および図2に示すように、磁束測定部20は、検査車両2の後部に設けられた台車部2cに設置されている。この磁束測定部20は、磁束密度を測定する複数の磁気センサ21を備えている。磁束測定部20は、その複数の磁気センサ21が、磁化部10の電磁石11よりも検査車両2の走行方向の後方(図1(A)では右方向)に位置するように検査車両2に設置されている。複数の磁気センサ21は公知の磁気センサであり、検査車両2の走行方向に対して直交する方向かつ水平に並ぶように設けられている。ここでいう水平は、上述した「電磁石11の磁化材料の軸方向が水平」における「水平」と同じ意味である。このように複数の磁気センサ21を設けることによって、橋梁等において橋梁の軸方向(つまり検査車両2が走行する方向)に対して交差する方向における磁束密度の分布を測定することができる。
【0026】
磁束測定部20の複数の磁気センサ21は、測定制御部22(図示せず)に電気的に接続されている。測定制御部22は、各磁気センサ21の作動を制御する機能を有するものである。この測定制御部22は制御部30にも電気的に接続されており、この制御部30からの指示によって各磁気センサ21の作動を制御するようになっている。例えば、測定制御部22は、各磁気センサ21が磁束密度の測定を実施するタイミングを制御部30からの指示によって制御するようになっている。また、測定制御部22は、各磁気センサ21が測定した磁束密度の情報を制御部30に供給する機能も有している。
【0027】
<制御部30>
制御部30は、上述したように、磁化部10および磁束測定部20の作動を制御するものである。この制御部30は、磁化部10の電磁石11が発生する磁力(つまり電磁石11に供給する電流)や磁力を発生するタイミングを決定し、その情報を磁化部10の電流供給部12に供給する機能を有している。また、制御部30は、磁束測定部20が磁束密度を測定するタイミングを決定し、その情報を磁束測定部20の測定制御部22に供給する機能を有している。
【0028】
また、制御部30は、磁束測定部20の磁気センサ21の移動量を測定する検出器31を有している(図2参照)。この検出器31は、例えば、検査車両2の走行方向において磁束測定部20の磁気センサ21と同じ位置、または、検査車両2の走行方向において磁束測定部20の磁気センサ21と一定の距離だけ離れた位置に配置される。図2であれば、台車部2cの車輪Wの車軸aに検出器31が設けられている。この検出器31はエンコーダであり、車輪Wの回転量(回転角度)を検出することによって、回転角度と車輪Wの直径から検出器31の移動量、言い換えれば、磁気センサ21の移動量を検出できる。なお、検出器31は磁束測定部20の磁気センサ21の移動量を測定できればよく、種々のセンサを使用することができる。
【0029】
そして、制御部30には、磁束測定部20の磁気センサ21の位置および検出器31の位置に関する情報(センサ位置情報)が記憶されている。したがって、制御部30に測定開始位置を入力すれば、センサ位置情報と磁気センサ21の移動量を利用して、磁束測定部20の磁気センサ21が測定した磁束密度がどの位置で測定されたものであるかを特定することができる。
【0030】
そして、制御部30は、磁束測定部20の磁気センサ21が測定した磁束密度がどの位置で測定されたものであるかを特定するだけでなく、測定した領域における磁束密度の分布図(図4図7参照)を作成する機能も有している。
【0031】
なお、制御部30は、磁束測定部20の磁気センサ21が測定した磁束密度がどの位置で測定されたものであるかを特定する機能や、分布図を作成する機能は有していなくてもよい。磁束測定部20の磁気センサ21が測定した磁束密度の情報とその時間における検出器31の移動量とを関連付けて記憶する機能や、両者を関連付けた情報を作成して記憶しておく機能だけを制御部30は有していてもよい。この場合でも、制御部30が記憶している情報を利用すれば、他の機器において、磁束測定部20の磁気センサ21が測定した磁束密度がどの位置で測定されたものであるかを特定したり、測定した領域における磁束密度の分布図を作成したりすることができる。
【0032】
<本実施形態の非破壊検査方法>
上述した本実施形態の非破壊検査装置1によって、PC床版B上に舗装がなされた走行路を検査する場合を説明する。なお、以下では、PC鋼材Sが走行路の走行方向と直交するように配設されている場合を説明する。
【0033】
まず、検査を実施する走行路が設けられている橋梁などまで検査車両2を移動させる。例えば、検査車両2が自走する車両の場合であれば、自走して検査を実施する走行路まで移動する。
【0034】
検査車両2が走行路まで移動すると、姿勢調整部15によって、電磁石11の磁化材料の軸方向CLとPC鋼材Sの軸方向とが平行となるように、電磁石11の姿勢を調整する。
【0035】
電磁石11の姿勢が調整されると、制御部30によって電流供給部12に対して電磁石11に電流を供給するように指示が発信される。また、制御部30によって磁束測定部20に対して、複数の磁気センサ21が磁束密度の測定を開始するように指示が発信される。なお、制御部30には検査を実施する走行路に関する情報が供給されており、この情報に基づいて、制御部30は、電磁石11に供給する電流を決定し、電流に関する情報を電流供給部12に供給する。例えば、走行路の表面からPC床版BのPC鋼材Sまでの距離に基づいて、制御部30は電磁石11に供給する電流を決定する。
【0036】
上記測定準備が完了した後、検査車両2を走行路に沿って移動させれば、電磁石11が通過する位置のPC床版BのPC鋼材Sは、電磁石11の磁力によって磁化される。磁束測定部20は磁化部10の電磁石11よりも検査車両2の走行方向の後方に位置している。このため、PC鋼材Sが電磁石11の磁力によって磁化された後、そのPC鋼材Sの位置を磁束測定部20の複数の磁気センサ21が通過する。すると、磁化されたPC鋼材Sは磁場を形成しているので、複数の磁気センサ21は磁束密度を測定できる。
【0037】
そして、走行路を走行した後、制御部30によって、測定された磁束密度の情報と測定位置の情報に基づいて測定した領域における磁束密度の分布図を作成する。すると、走行路においてPC鋼材Sの損傷が生じている位置を把握することができる。つまり、作成された磁束密度の分布図を走行路におけるPC床版BのPC鋼材Sの位置と比較すれば、走行路においてPC鋼材Sの損傷が生じている位置を把握することができる。
【0038】
<パルス磁化による測定>
上記例では、磁化部10の電磁石11から常時磁力を発生させながら検査車両2を走行させて、磁束測定部20の磁化センサ21によって磁束密度を測定する方法を説明したが、磁化部10の電磁石11から間欠的に磁力を発生させてもよい。
【0039】
この場合、磁化部10の電磁石11から間欠的に磁力を発生させる一方、磁化部10の電磁石11から磁力を発生または停止させるタイミングに合わせて、磁束測定部20の磁化センサ21が間欠的に磁束密度を測定することが望ましい。つまり、磁化部10の電磁石11に対する電流の供給を停止してから、所定の時間経過後(例えば0.1~0.2m秒後)に磁束測定部20の磁化センサ21によって磁束密度の測定を間欠的に実施してもよい。
【0040】
また、パルス磁化による測定を実施する場合には、磁束測定部20(磁化センサ21)は必ずしも電磁石11よりも検査車両2の走行方向の後方に配置しなくてもよく、磁束測定部20(磁化センサ21)は電磁石11の直下に配置してもよい。つまり、パルス磁化を実施すれば、磁化部10の電磁石11に対する電流の供給を停止させることにより電磁石11からの磁化が停止する。すると、磁束測定部20(磁化センサ21)を電磁石11の直下に配置しても、磁束測定部20(磁化センサ21)は電磁石11の磁力の影響がない(または少ない)状態で磁束密度を測定できる。
【0041】
<姿勢調整部15について>
姿勢調整部15は、電磁石11と走行路の路面との距離を一定に保つようになっていてもよいが、走行路の状況に応じて、電磁石11と走行路の路面との距離を調整する機構を有していてもよい。つまり、姿勢調整部15に電磁石11を昇降する機構、例えば、シリンダ機構等の公知の昇降機構を設けて、電磁石11を昇降(走行路の路面に対して接近離間)させるようにしてもよい。電磁石11を昇降する構造とすれば、走行路の舗装状況等によって路面からPC床版Bまでの距離が異なる場合でも、その路面の状況に合わせて、適切にPC鋼材Sを着磁できるように電磁石11を配置できる。
【0042】
電磁石11を昇降させなくても、電磁石11に供給する電流を調整すれば、適切にPC鋼材Sを磁化できる。例えば、電磁石11から走行路の路面までの距離が離れていても、電磁石11に供給する電流を多くすれば、電磁石11から走行路の路面までの距離が近い場合と同様にPC鋼材Sを磁化できる。しかし、かかる方法を採用する場合には、電磁石11に供給する電流をある程度広い範囲で調整できる電流供給部12が必要になるので、電流供給部12の大型化や高性能化が必要になる。すると、電流供給部12の大型化や高性能化に伴って、装置が大型化したり高額化したりする。一方、姿勢調整部15によって電磁石11を昇降するようにすれば、電流供給部12に採用する機器の能力をそれほど高くしなくても、走行路面の状況に合わせて適切にPC鋼材Sを磁化できる。また、電流供給部12の大型化や高性能化に比べて、電磁石11を昇降する機構を追加する方が装置の大型化や高額化を防ぎやすくなる。
【0043】
また、電磁石11が昇降できば、検査車両2が検査を実施する場所以外を走行する際には、検査時よりも走行路面から電磁石11を離しておくことができる。すると、凹凸の大きい路面や障害物がある場所を検査車両2が走行しても電磁石11が路面などに接触する可能性を低くできるので、検査車両2を安全に検査する場所まで走行させることができる。
【0044】
<非破壊検査方法の他の例>
本実施形態の非破壊検査方法は、上述した非破壊検査装置1、つまり、一台の検査車両2に磁化部10および磁束測定部20を搭載した非破壊検査装置1を使用する場合を説明した。しかし、本実施形態の非破壊検査方法は、磁化部10と磁束測定部20とを別な車両に搭載して実施してもよい。
【0045】
この場合には、磁化部10を搭載した第一検査車両2A(図示せず)を橋梁等の上面に沿って走行させたのち、第一検査車両2Aを走行した領域を磁束測定部20を搭載した第二検査車両2B(図示せず)に走行させる。そして、第二検査車両2Bを走行させながら磁束測定部20によって磁束密度を測定すれば、一台の検査車両2に磁化部10および磁束測定部20を搭載した非破壊検査装置1と同様に、PC鋼材Sの破断や腐食などの損傷を検出することができる。
【0046】
この場合、第一検査車両2Aが走行してから第二検査車両2Bが同じ位置を通過するまでの時間間隔はとくに限定されない。例えば、パルス磁化を実施する場合に磁化部10の電磁石11に電流の供給を停止した後、磁束測定部20の磁気センサ21によって磁束密度を測定するまでの時間間隔と同程度が望ましい。すると、パルス磁化を実施しない場合でも、パルス磁化を実施した場合と同様の精度で測定をすることができる可能性がある。もちろん、第一検査車両2Aと第二検査車両2Bにそれぞれ磁化部10と磁束測定部20とを設けた場合でも、制御部30から無線通信などによって磁化部10と磁束測定部20の作動を制御して、一台の検査車両2に磁化部10と磁束測定部20の両方を搭載した場合と同様にパルス磁化を実施してもよい。
【0047】
また、第一検査車両2Aと第二検査車両2Bを設けた場合、つまり、磁化部10を備えた検査車両(第二検査車両2A)と磁束測定部20を備えた検査車両(第二検査車両2B)とを別々に設ければ、磁化させる走行位置と磁束測定する走行位置を変えることが可能となる。すると、道路法の車輛制限令に定められている車両の幅の制限(最大2.5m)を緩和できる、という利点が得られる。例えば、第二検査車両2Bを複数台使用して検査を実施することも可能になるので、車両の幅の制限よりも広い範囲でも、1回の検査で全範囲の実施することが可能になる。
【0048】
さらに、PC鋼材S等の検査対象は一旦磁化された場合、半永久的に磁化された状態が残る。このため、同じ場所を定期的に測定する場合、2度目以降の検査を行う際には、第一検査車両2Aによる着磁が不要となる可能性がある。つまり、第二検査車両2Aだけを走行させて既に磁化されているPC鋼材S等からの磁力を測定すればPC鋼材S等の損傷を検出することができる可能性がある。
【0049】
<磁化部10について>
上記例では、磁化部10の磁力を発生する器具として電磁石11を使用した場合を説明したが、床版内のPC鋼棒やPC鋼線、PC鋼より線等を磁化できる磁力を有するのであれば、磁力を発生する器具として永久磁石を使用してもよい。
【0050】
<他のPC床版Bを検査する場合>
上述した例では、PC床版BのPC鋼材Sが、橋梁の橋軸方向(図3のx方向)と直交する方向(図3のy方向)に沿って配設されている場合を説明した。しかし、橋梁の床版では、PC鋼材Sが橋梁の橋軸方向に沿って設置される場合もある。この場合でも、電磁石10は、その磁化材料を通過する磁力線の方向がPC鋼材Sの軸方向と平行となるように配設される。つまり、電磁石10は、その磁化材料を通過する磁力線の方向が橋梁の橋軸方向、言い換えれば、検査車両2の走行方向と平行となるように配設される。
【実施例
【0051】
本発明の非破壊検査方法を用いてコンクリート製の床版に埋設されたPC鋼材を検出できることを確認した。
【0052】
実験では、PC鋼材を埋設した走行試験路を作成し、この走行試験路上を本発明の非破壊検査装置(図1参照)に走行させてPC鋼材の状況を確認した。
PC鋼材は、走行試験路の走行方向と直交する方向に沿って配設した。PC鋼材には、PC鋼棒(B種1号SBPR930/1080 32mm)、PC鋼線(SWPR1AN 7mm)×12本、PC鋼より線(SWPR19L 19本より28.6mm)を使用した。
【0053】
PC鋼材の磁化には、大型電磁石(長さ2340mm、幅1330mm、磁極下300mmにおける最大水平磁束密度26mT)を使用した。
PC鋼材からの磁束密度は、磁気センサ(アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社製:MIセンサ)を使用して測定した。この磁気センサを車両の走行方向と直交する方向に沿って15個並べたユニットを、大型電磁石から約4500mm後方に配置し、走行試験路の幅方向の磁束密度の分布を測定した。
また、磁気センサの後方には位置測定用の車輪を設けて、この車輪の回転をエンコーダ(マイクロテック・ラボラトリー株式会社製:インクリメンタル式ロータリエンコーダ)によって測定し、磁気センサの位置の推定に利用した(図2参照)。
【0054】
以下に実験結果を示す。
なお、実験結果の図4図7は測定された磁束密度を一回微分した結果の分布を示している。また、図4(A)、(C)および図5~7の(A)は、走行試験路におけるPC鋼材の配置および破断の説明図である。
【0055】
まず、検査車両を走行させた状態で着磁と磁束密度の測定を行っても、PC鋼材の破断検出が可能であることを確認した。
実験では、大型電磁石からPC鋼材までの距離が300mm(走行路表面から100mm)、検査車両の走行速度が50km/h、大型電磁石に供給する電流10A、の条件で実施した。
図4に示すように、PC鋼材に破断が無い場合(図4(B))と、PC鋼材に破断が生じている場合(図4(D)、破断ギャップ2mm)では、測定される磁束密度の分布に差があることが確認できた。この結果から、検査車両を走行させた状態で着磁と磁束密度の測定を実施しても、PC鋼材の破断検出が可能であることが確認された。
【0056】
ついで、検査車両の走行速度がPC鋼材の破断検出に与える影響を確認した。
実験では、検査車両を5km/hで走行させた場合と、高速道路の最低走行速度である50km/hで走行させた場合において、PC鋼材の破断検出が可能であるか否かを確認した。
なお、大型電磁石からPC鋼材までの距離が300mm(走行路表面から100mm)、大型電磁石に供給する電流30A、の条件で実施した。
図5に示すように、5km/hで走行させた場合(図5(B))と50km/hで走行させた場合(図5(C))において、測定結果に大きな差はなく、検査車両の走行速度が50km/hであっても、PC鋼材の破断検出が可能であることが確認された。
【0057】
ついで、磁束密度がPC鋼材の破断検出に与える影響を確認した。
実験では、大型電磁石からPC鋼材までの距離を300mm(走行路表面から100mm)とした状態で、大型電磁石に供給する電流を5A、40Aとして、PC鋼材の破断検出結果に差が生じるかを確認した。
また、大型電磁石に供給する電流を10Aとした状態で大型電磁石からPC鋼材までの距離が300mm(走行路表面から100mm)、大型電磁石に供給する電流を17Aとした状態で500mm(走行路表面から100mm)として、PC鋼材の破断検出結果に差が生じるかを確認した。
図6に示すように、電流が5A(図6(B))よりは40A(図6(C))の方がPC鋼材の破断を検出しやすいが、5Aの場合でも十分にPC鋼材の破断を検出できることが確認された。
また、図7に示すように、大型電磁石からPC鋼材までの距離が300mm(図7(B))、500mm(図7(C))を比較しても、500mmよりは300mmの方がPC鋼材の破断を検出しやすいが、500mmの場合でも十分にPC鋼材の破断を検出できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の非破壊検査方法は、高速道路の床版や橋梁等のように広い領域におけるPC鋼等の損傷を検出する方法として適している。
【符号の説明】
【0059】
1 非破壊検査装置
2 検査車両
10 磁化部
11 電磁石
12 電流供給部
15 姿勢調整部
20 磁束測定部
21 磁気センサ
22 測定制御部
30 制御部
31 検出器
B PC床版
S PC鋼材

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7