(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】次亜塩素酸水噴霧システム
(51)【国際特許分類】
A61L 2/18 20060101AFI20240617BHJP
A01N 59/08 20060101ALI20240617BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20240617BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240617BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20240617BHJP
B05B 17/04 20060101ALI20240617BHJP
A61L 101/06 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
A61L2/18
A01N59/08 A
A01N25/00 102
A01P1/00
A61L9/14
B05B17/04
A61L101:06
(21)【出願番号】P 2020077806
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516351717
【氏名又は名称】ヘルスサポートサンリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 良庸
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】塩山 忠雄
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-000238(JP,A)
【文献】国際公開第2016/189757(WO,A1)
【文献】特表2020-526577(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0000086(US,A1)
【文献】特開2005-013714(JP,A)
【文献】特表平06-510271(JP,A)
【文献】特開2011-173858(JP,A)
【文献】特開2016-010528(JP,A)
【文献】特開2009-034593(JP,A)
【文献】特開2014-028235(JP,A)
【文献】特開平08-071136(JP,A)
【文献】特開平11-241381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/18
A01N 59/08
A01N 25/00
A01P 1/00
A61L 9/14
B05B 17/04
A61L 101/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムであって、
前記水溶液を収容する収容部、
前記水溶液の微粒子を生成する微粒子生成手段、および
前記微粒子を噴霧する噴霧手段
を備え、
前記水溶液中の塩素の総和の40mol%以上が、次亜塩素酸の塩素であ
り、
前記水溶液が、塩化ナトリウム水溶液を被電解質として、2隔膜3室型電解槽により電気分解し、得られた強酸性次亜塩素酸水を再電解して得られるものである
、システム。
【請求項2】
前記収容部が、
前記再電解により得られる次亜塩素酸を含む水溶液を収容する第1収容部と、
アルカリ性の水溶液または生理食塩液を収容する第2収容部と、
前記第1収容部に収容された水溶液と前記第2収容部に収容された水溶液とを混合する混合部と
から構成される請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記収容部が
2隔膜3室型電解槽を含む請求項1または2記載のシステム。
【請求項4】
前記次亜塩素酸を主成分とする水溶液におけるアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンの総和が1mEq/L以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記水溶液中の次亜塩素酸の濃度が50mg/L以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記微粒子の平均粒子径が200μm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記微粒子の平均粒子径が5μm以下である請求項6記載のシステム。
【請求項8】
前記水溶液中の塩素の総和の70mol%以上が次亜塩素酸の塩素である請求項1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
粒子径を制御する制御部をさらに備える請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
所定の位置に対象物をかざした際の噴霧量および/または粒子径を制御する制御部を備える請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性に優れた次亜塩素酸を主成分とする水溶液を用いた次亜塩素酸を主成分とする水溶液の噴霧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩素系ハロゲン薬の一つとして次亜塩素酸ナトリウムが、ごく低濃度において細菌に対して即効的な殺菌力を発揮し、またHIVやHBVなどのウイルスに対する効果の面でも最も信頼のおける消毒薬として、生活上の消毒・除菌などの公衆衛生、食品、医療などの様々な分野において広く使用されている。特に最も身近な例として、ノロウイルスやSLV(サポウイルス)などカリシウイルス科のウイルスやロタウイルスなどのエンベロープをもたないウイルスは、アルコール消毒による除菌が期待できず、塩素酸系による消毒・除菌が第一選択になっている。具体的には、次亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液がスプレーなどの形態で、家庭や医療現場における、衣類、食器、ガラス容器、プラスチック容器等の様々な物品や環境の消毒・殺菌/除菌に使用されている。また、次亜塩素酸ナトリウムは非常に低濃度において水溶液や水溶液をしみこませたウェットティッシュなどの形態で手指消毒用に使用することも可能であるが、次亜塩素酸ナトリウム塩を水に溶解した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、強アルカリ性であり、その希釈液もまたアルカリ性を示しているため、手指消毒に使用すると、手荒れの原因となる(特許文献1)。
【0003】
また、特許文献2には、空間の除菌・脱臭を目的とした、塩化ナトリウムなどを用いる電気分解により製造した次亜塩素酸水を用いた空間殺菌装置が開示されている。次亜塩素酸は、次亜塩素酸ナトリウムと比較して80倍以上に強力な殺菌・抗ウイルス効果を有し、非エンベロープウイルスや真菌をも含む、より広い抗菌スペクトルを有するとされており(非特許文献1)、このような次亜塩素酸水は、アルカリ性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液とは異なり酸性から微酸性を示す。特許文献2では、次亜塩素酸水を、陽極室、陰極室、陽極室と陰極室との間に設けられ電解液を含む中間室をそれぞれ隔膜により隔てた2隔膜3室型の電解槽を用いて製造している。酸性条件では、塩素イオン量が増え、塩素ガスや塩化水素ガスが発生しやすく、次亜塩素酸が分解してしまい、短期間のうちに表示濃度を下回るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-229833号公報
【文献】特開2019-69163号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“<表2>酸性電解水(次亜塩素酸水)の殺菌活性”、一般財団法人機能水研究振興財団、2015年、[online]、[2020年4月23日検索]、インターネット<URL:http://www.fwf.or.jp/kinousui.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の方法では、用いる次亜塩素酸水中の次亜塩素酸濃度を高くしようとするとpHが低下し、総塩素イオン量の高い水溶液となり、保存中に次亜塩素酸が分解しその濃度が低下するという問題がある。
【0007】
したがって、本発明は、より保存安定性に優れた次亜塩素酸を主成分とする水溶液を用いた噴霧システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記課題を検討した結果、次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムにおいて、収容部に収容する次亜塩素酸を主成分とする水溶液を、水溶液中の塩素の総和の40mol%以上が次亜塩素酸の塩素であるものとすることにより、収容部での次亜塩素酸の分解を抑制することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムであって、
前記水溶液を収容する収容部、
前記水溶液の微粒子を生成する微粒子生成手段、および
前記微粒子を噴霧する噴霧手段
を備え、
前記水溶液中の塩素の総和の40mol%以上、好ましくは50mol%以上、より好ましくは60mol%以上が、次亜塩素酸の塩素であるシステム、
[2]前記収容部が、
電解により得られる次亜塩素酸を含む水溶液を収容する第1収容部と、
アルカリ性の水溶液または生理食塩液を収容する第2収容部と、
前記第1収容部に収容された水溶液と前記第2収容部に収容された水溶液とを混合する混合部と
から構成される上記[1]記載のシステム、
[3]前記収容部が電解槽を含む上記[1]または[2]記載のシステム、
[4]前記次亜塩素酸を主成分とする水溶液におけるアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンの総和が1mEq/L以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載のシステム、
[5]前記水溶液中の次亜塩素酸の濃度が50mg/L以下、好ましくは10~30mg/L、より好ましくは10~15mg/Lである上記[1]~[4]のいずれかに記載のシステム、
[6]前記微粒子の平均粒子径が200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは50μm以下である上記[1]~[5]のいずれかに記載のシステム、
[7]前記微粒子の平均粒子径が30μm以下、より好ましくは5μm以下である上記[6]記載のシステム、
[8]前記水溶液中の塩素の総和の70mol%以上、好ましくは80mol%以上、より好ましくは90mol%以上が次亜塩素酸の塩素である上記[1]~[7]のいずれかに記載のシステム、
[9]粒子径を制御する制御部をさらに備える上記[1]~[8]のいずれかに記載のシステム、
[10]所定の位置に対象物をかざした際の噴霧量および/または粒子径を制御する制御部を備える上記[1]~[9]のいずれかに記載のシステム
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムにおいて、収容部に収容する次亜塩素酸を主成分とする水溶液を、水溶液中の塩素の総和の40mol%以上が次亜塩素酸の塩素であるものとすることにより、収容部での次亜塩素酸の分解を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1にかかる次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムを説明する模式図である。
【
図2】実施の形態2にかかる次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムを構成する収容部を説明する模式図である。
【
図3】実施の形態3にかかる次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムを構成する収容部を説明する模式図である。
【
図4】実施の形態1にかかる次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するシステムを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を
図1~4を用いて実施の形態1~4にもとづき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施の形態に限定されることを意図するものではない。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1による噴霧システム1は、
図1に示すように、次亜塩素酸を主成分とする水溶液を収容する収容部2、収容部に収容した次亜塩素酸を主成分とする水溶液の微粒子を生成する微粒子生成手段3、微粒子生成手段において得られた微粒子を噴霧する噴霧手段4を備える。なお、微粒子生成手段が噴霧手段を兼ねても良い。
【0014】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液を収容する収容部2としては、プラスチック製のタンク等を使用することができ、アルカリ性の水溶液や生理食塩液(または生理食塩水)、水などの混合液と併用する形態(実施の形態2)および電解槽を装備する形態(実施の形態3)については後述する。
【0015】
微粒子生成手段3としては、液体を微粒子とする公知の方法を特に限定することなく採用することができ、超音波振動子を用いる方法、1流体(または2流体もしくは3流体)ノズルを用いた加圧気化式、スクリーン気化式、などの方法を用いることができる。
【0016】
生成させる微粒子の平均粒子径は、殺菌効果および滞留性の観点からは、200μm以下とすることが好ましく、また、微粒子の平均粒子径は、150μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0017】
一方、殺菌効果よりも、空間の清浄度維持などの用途においては、微粒子の平均粒子径は30μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
【0018】
噴霧手段4としては、微粒子生成手段3により生成された微粒子を装置外に送り出すことのできるものであれば特に限定されるものではないが、加圧、もしくはファンなどの送り出し機構もしくはイオナイザーなどにより送風口から噴霧される。また、超音波振動子などの気化と同時に噴霧拡散することもできる。
【0019】
(次亜塩素酸を主成分とする水溶液)
次亜塩素酸を主成分とする水溶液は、水溶液中の塩素の総和の40mol%以上が次亜塩素酸の塩素であることを特徴とする。これは、水溶液中の次亜塩素酸の量を、水溶液中、塩素原子を含む成分のmol当量の総和を100mol%として次亜塩素酸に由来する塩素のモル量の割合により示すものである。これにより、水溶液中にHClを含む場合であっても、HClの量は水溶液中の塩素の総和の60mol%を超えることはなく、水溶液のpHをなるべく中性に近づけることができ、保存安定性に優れた次亜塩素酸を主成分とする水溶液を得ることができると考えられる。また、そのような水溶液は、金属腐食や樹脂の劣化への懸念も低いものとなる。
【0020】
本明細書中において、濃度の単位として用いる「ppm」(mg/kg)は、特に断りのない限り、mg/Lを置き換えたものとして使用される。
【0021】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液においては、水溶液中の塩素の総和の40mol%以上が次亜塩素酸の塩素、すなわち次亜塩素酸由来の塩素であり、50mol%以上が好ましく、60mol%以上がより好ましく、70mol%以上がさらに好ましく、80mol%以上が特に好ましく、90mol%以上が最も好ましい。水溶液中の塩素の総量が多いと塩素ガスが発生しやすくなる。例えば、水溶液が電解水の場合においては、次亜塩素酸由来の塩素の水溶液中の塩素の総和に対する割合が、40mol%未満であると、塩化水素の割合が増加し、塩化水素による刺激や腐食などの被害が大きくなる傾向がある。
【0022】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液において、「次亜塩素酸を主成分とする」とは、溶媒としての水以外の代表的な成分として次亜塩素酸を含むことを意味し、次亜塩素酸が構成成分の大半を占めるというような意味や次亜塩素酸が水以外の成分中、最も多い成分であるというような意味を示すものではない。このため、その消毒・殺菌機能や本発明の効果である保存安定性に悪影響を与えない範囲であれば、主な成分として水と次亜塩素酸以外に他の成分、特に塩素を含む成分やpHを調節する成分などが含まれていてもよく、例えば、HClを含むことができる。これに対し、従来の次亜塩素酸水では、未分解の塩化ナトリウムや、pHの成分である塩化水素の含有量が多く、次亜塩素酸の割合は、実施の形態1に係る溶液に比べて低いものである。
【0023】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液を調製する際に使用する水は、予定していない成分、例えば水道水中に含まれる、金属イオン、有機物などの混入を抑えるため、純水、精製水、イオン交換水などを使用することが好ましい。
【0024】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液においては、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンをできるだけ含まないことが好ましく、具体的には、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンの総和は、1mEq/L未満が好ましく、0.8mEq/L以下がより好ましく、0.5mEq/L以下がさらに好ましい。アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンの総和を1mEq/L未満とすることにより、塩素ガスの発生を抑制し、安定性が高くなる傾向がある。言い換えれば、塩素の対イオンとなる、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンを極力含有させないことにより、塩化水素ガスの発生、次亜塩素酸の分解(失活)を抑制することができる。このような水溶液は、室内に散布した場合に、塩化水素および、塩分濃度が低い事から、腐食特に電子基板などへの影響を低く抑えることが可能となる。
【0025】
必要な場合にpHの調整のために含有させるアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンは、特に限定されるものではなく、それぞれ塩の形態で加えることができる。そのようなアルカリ金属イオンの塩としては、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の塩が挙げられ、アルカリ土類金属イオンの塩としては、マグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)の塩が挙げられる。一方、ルビジウム(Rb)やオスミウム(Os)の塩は、発がん性が指摘されているため、用いないことが好ましい。
【0026】
水溶液中の次亜塩素酸の濃度が50mg/L以下である。
【0027】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液は電解水であることが好ましく、具体的には塩酸または塩化ナトリウムを原料とした電気分解をおこなうことにより得られる次亜塩素酸を主成分とする電解水であることが好ましい。
【0028】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液のpHは2.7以上が好ましく、3.2以上がより好ましく、3.5以上がさらに好ましく、5.8以上が特に好ましい。次亜塩素酸を主成分とする水溶液のpHを2.7以上とすることにより、腐食性が低減し、様々な用途に使用することができる傾向がある。特に、加湿器や空気清浄機などに次亜塩素酸を主成分とする水溶液を使用する場合には、装置に使用する部品の腐食や劣化が懸念されるため、pHは3.2以上が好ましい。pHを3.2以上とすることにより、塩素ガス(塩化水素ガス)の発生をより抑制することができる。また、次亜塩素酸を主成分とする水溶液のpHを5.8以上かつ6.5以下とすることが好ましく、これにより粘膜等への刺激が少なくなると同時に飲用水基準に適合するものとなる。
【0029】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液は、その低すぎないpHと、強力な殺菌・抗ウイルス力という特性により、様々環境、例えば、病院、福祉施設、病院、保育園、幼稚園学校、学習塾などにおいて、手指洗浄(手洗い除菌)などの皮膚の洗浄・除菌、室内空間の除菌などに好適に用いられる。特に、塩を含まず、pHが低すぎない態様においては、腐食に対する懸念が少ないため、加湿機能や空気清浄機能と組み合わせて用いることもできる。
【0030】
次亜塩素酸を主成分とする水溶液は、具体的には後述の製造例において詳述するが、種々の方法により調製することができる。例えば、まず、上述した2隔膜3室型の電解槽において、電解液として塩化ナトリウム水溶液を用いて電気分解を行い、陽極室で得られた酸性の次亜塩素酸水を得る。この際、塩化ナトリウムと水による電気分解では、通常、陽極に塩素、陰極にナトリウムが泳動し、泳動した塩素が、水と反応して塩化水素(HCl)と次亜塩素酸(HClO)を生成し、酸素ガスが発生する。陰極では、ナトリウムが水と反応し、水酸化ナトリウムを生成し、水素ガスが発生する。塩化ナトリウムと水との反応は、次式のように、化学量論的に次亜塩素酸と塩化水素の生成割合は1:1以上にはならないため、次亜塩素酸の生成割合が塩化水素を上回ることはない。
2NaCl+H2O → 2NaOH+HCl+HClO
次に、得られた酸性の次亜塩素酸水を再度電気分解し、塩化水素を次亜塩素酸へと変換し、塩酸に対する次亜塩素酸の割合を増加させることができる。この塩酸に対する次亜塩素酸の割合を増加させる処理を行うことにより、同時にpHを中性側へと傾けることができる。所望の塩酸に対する次亜塩素酸の割合や、所望のpHを得るために、この処理(次亜塩素酸水の電気分解)を、必要な回数、繰り返し行うことができる。
【0031】
また、
図1に示す収容部2には、次亜塩素酸を主成分とする水溶液として、上述したような電解により得られる次亜塩素酸を含む水溶液と、アルカリ性の水溶液および/または生理食塩水とを混合した混合液を用いてもよい。そのような混合液は、収容部2に収容する前、好ましくは直前に混合して調製することが好ましい。
【0032】
(実施の形態2)
実施の形態2では、収容部2が
図2に示すように、電解により得られる次亜塩素酸を含む水溶液を収容する第1収容部21と、アルカリ性の水溶液または生理食塩液を収容する第2収容部22と、前記第1収容部に収容された水溶液と前記第2収容部に収容された水溶液とを混合して中和もしくは混合する混合部23とから構成されている。
【0033】
本発明の実施の形態2によれば、本発明の実施の形態1にかかる次亜塩素酸を主成分とする水溶液として、電解により得られる次亜塩素酸を含む水溶液をアルカリ性の水溶液と混合中和してpHを5.0~7.0としたものを用いる。次亜塩素酸の解離定数は7.5であるため、pHを7.0以下とすることで、水溶液中の非解離型の次亜塩素酸の割合が50%を超え(pHを6.5以下とすることにより、水溶液中の非解離型の次亜塩素酸の割合が90%以上となる)、より高い殺菌性能を示すことができる。また、pHを5.8以上とすることで、飲用水の基準に適合するものとなる。実施の形態2においては、pHを5.8~6.5とすることがより好ましい。ここで、アルカリ性の水溶液としては、種々のpH調節剤を使用することができ、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウムまたはクエン酸マグネシウムの水溶液などがあげられ、なかでも水酸化ナトリウム水溶液が特に好ましく使用される。また、別の態様として、アルカリ性の水溶液は、電解により得られるアルカリ性水を用いることもできる。
【0034】
実施の形態2により噴霧される水溶液は、そのpHが中性~弱酸性の5~7であることから、皮膚のpHに近いものとなり、酸による刺激やアルカリによるかゆみが発生することが激減する。また、アルカリ側に傾けないことにより、トリハロメタン族の生成も抑制することができる。室内に散布した場合に、塩化水素および、塩分濃度が低い事から、腐食特に電子基板などへの影響を低く抑える事が可能となる。したがって、実施の形態2のシステムは、より様々な用途に好適に使用することができ、例えば、特に、手指洗浄(手洗い除菌)などの皮膚の洗浄・除菌、空間の除菌、器具等の除菌などに好適に用いられる。
【0035】
(実施の形態3)
実施の形態3では、収容部2が
図3に示すように、電解水を生成する電解槽24と、混合部23とから構成されている。電解層24には、陽極側に生成される次亜塩素酸を含む酸性水を混合部に送る管路24aと、陰極側に生成されるアルカリ性水を混合部に送る管路24bが設けられている。管路24aから流入する次亜塩素酸を含む酸性水は、管路24bから流入するアルカリ性水と混合部において混合され、pH5~7の次亜塩素酸を主成分とする水溶液として微粒子生成部に送られる。実施の形態3では、電気分解により得られる酸性水とアルカリ性水を合わせて使用することで、アルカリ性水を廃棄することなく、また外部からアルカリ性の水溶液を加えることなく、噴霧する水溶液のpHを調節することができる。
【0036】
(実施の形態4)
実施の形態4では、
図4に示すように、
図1に示す構成に制御部5がさらに備えられている。具体的には、実施の形態4では、制御部5は、微粒子の平均粒子径および噴霧量を設定値に制御することができる。また別の態様では、制御部はセンサーを備え、生体であるか否かの判別や、人のジェスチャーなどの情報を感知し、得られた情報をもとに信号が発信され、収容部2より送り出される次亜塩素酸を主成分とする水溶液の量および/または微粒子生成手段3より生成される微粒子の平均粒子径および量および/または微粒子生成手段3より送り出される微粒子の量および/または噴霧手段により噴霧される噴霧量を最適な状態に変化されることができる。
【0037】
実施の形態4の一例として、センサーは所定の位置にかざされた対象物、例えば手指を感知し、手指の除菌に適した粒子径および噴霧量で次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧するようにシステムの運転を制御することができる。これにより、本システム1台で、常時は室内空間の除菌を連続して行い、手指等の対象物をかざした場合には、その対象物を標的に次亜塩素酸を主成分とする水溶液を噴霧し対象物の消毒・除菌を行うという2役をこなすことができる。実施の形態4においては、主要な噴出口の他に、手指の除菌・消毒がしやすい位置に噴出口をさらに設けることもできる。
【0038】
本明細書において、上記実施の形態1~4にそれぞれ記載した事項は、矛盾しない限りにおいて、互いに別の実施の形態にも適用されるものとする。また、本発明のシステムは、診療所、病院、福祉施設、保育園、幼稚園、学校、学習塾、高齢者住宅、一般家庭など様々な室内空間を除菌するために用いることができる。
【0039】
つぎに、本発明のシステムにおいて噴霧する次亜塩素酸を主成分とする水溶液の一例を製造する製造例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0040】
製造例1
塩化ナトリウム水溶液を被電解質として、2隔膜3室型電解槽により電気分解し、陽極側から強酸性次亜塩素酸水を得た。得られた強酸性次亜塩素酸水を再電解し、塩化水素を次亜塩素酸へと変換し、塩酸に対する次亜塩素酸の割合を高めた次亜塩素酸を主成分とする水溶液を得た。得られた次亜塩素酸を主成分とする水溶液の次亜塩素酸の濃度は、吸光光度計(AQ-102、柴田化学(株)製)を用いて測定し、塩素の総和は、次亜塩素酸濃度、およびpHから換算した。なお、pHは、マルチ水質メーター(MM-60、東亜ディーケーケー(株)製)により測定した。
【0041】
比較例1
再電解処理を行わなかった以外は、製造例1と同様にして次亜塩素酸を主成分とする水溶液を得た。得られた次亜塩素酸を主成分とする水溶液の次亜塩素酸の濃度および塩素の総和やその他の物性は、製造例1と同様にして得た。結果を表1に示す。
【0042】
比較例2
塩酸を被電解質として、無隔膜電解槽により電気分解し、水で希釈して、次亜塩素酸を主成分とする水溶液を得た。得られた次亜塩素酸を主成分とする水溶液の次亜塩素酸の濃度および塩素の総和やその他の物性は、製造例1と同様にして得た。結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
表1より、製造例1では、比較例1および2よりもpHが上昇し、塩酸に対する次亜塩素酸の割合が上昇し、相対的に水溶液中の塩素イオン濃度が減少していることから保存安定性に優れた次亜塩素酸を主成分とする水溶液が得られていることがわかる。製造例1、比較例1および比較例2の次亜塩素酸の塩素の量は、それぞれ水溶液中の塩素の総和に対して約47mol%、約18mol%および約36mol%であった。
【0045】
製造例2、比較例3および4
製造例1、比較例1および2で得られた次亜塩素酸を主成分とする水溶液1Lに、水酸化ナトリウムを加え、pHを6.5に調整した。得られた水溶液の各物性を表2に示す。
【0046】
【0047】
表2より、製造例2では、pHを6.5としても、ナトリウムイオン濃度は0.70mEq/Lと低い範囲に抑えられており、比較例3および4と比較して安定性のよい、金属等に対する腐食作用を抑えた次亜塩素酸を主成分とする水溶液を得ることができた。
【0048】
製造例3
塩化ナトリウム水溶液を用い、製造例1と同様にして次亜塩素酸を主成分とする水溶液を得た。得られた次亜塩素酸を主成分とする水溶液の次亜塩素酸の濃度および塩素の総和やその他の物性は、製造例1と同様にして測定した。結果を表3に示す。
【0049】
製造例4
再電解を繰り返した以外は、製造例1と同様にして次亜塩素酸を主成分とする水溶液を得た。得られた次亜塩素酸を主成分とする水溶液の次亜塩素酸の濃度および塩素の総和やその他の物性は、製造例1と同様にして測定した。結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
表3より、製造例3では、塩酸に対する次亜塩素酸の割合がさらに上昇し、製造例4では塩酸に対する次亜塩素酸の割合がよりさらに上昇し、相対的に水溶液中の塩素イオン濃度が減少していることから保存安定性に優れた次亜塩素酸を主成分とする水溶液が得られていることがわかる。製造例3および4の次亜塩素酸の塩素の量は、それぞれ水溶液中の塩素の総和に対して約59mol%および約75mol%であった。
【符号の説明】
【0052】
1 噴霧システム
2 収容部
21 第1収容部
22 第2収容部
23 混合部
24 電解槽
24a 酸性水を混合部に送る管路
24b アルカリ性水を混合部に送る管路
3 微粒子生成手段
4 噴霧手段
5 制御部