(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】2液型歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20240617BHJP
【FI】
A61K6/30
(21)【出願番号】P 2020151239
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】中西 健太
(72)【発明者】
【氏名】福留 啓志
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-215573(JP,A)
【文献】特開2022-001552(JP,A)
【文献】特表2012-505889(JP,A)
【文献】特表2008-505924(JP,A)
【文献】特開昭61-271203(JP,A)
【文献】特開2007-277114(JP,A)
【文献】特開2013-136628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0228762(US,A1)
【文献】特開2004-205210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/30
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに分包された第1剤及び第2剤からなり、これら両剤を混合することにより歯科用接着性組成物を調製するための前記2液型歯科用接着性組成物であって、
調製目的物である前記歯科用接着性組成物は、酸性基含有重合性単量体を含む酸成分、酸性基非含有重合性単量体、重合開始剤、有機溶媒、及び下記一般式〔I〕
【化1】
(式中、Xは、夫々独立に水素原子又は1価の置換基を表す。)
で示される色素を含有し、
前記酸性分が第1剤のみに含まれ、前記色素が第2剤のみに含まれ、歯科用接着性組成物を構成する前記酸性分及び前記色素以外の各成分が、第1剤及び/又は第2剤に含まれる、
ことを特徴とする前記2液型歯科用接着性組成物。
【請求項2】
前記有機溶媒が、有機溶媒の総質量を基準としてアセトンを50質量%以上含み、且つ前記色素が下記式
【化2】
で示されるラクモイドであることを特徴とする請求項1に記載の2液型歯科用接着性組成物。
【請求項3】
前記歯科用接着性組成物が、水を更に含み、前記酸性基非含有重合性単量体が第1剤のみに含まれ、前記水が第2剤のみに含まれる、請求項1又は2に記載の2液型歯科用接着性組成物。
【請求項4】
前記重合開始剤が、有機過酸化物、アリールボレート化合物、遷移金属化合物の組み合わせからなり、前記遷移金属化合物は第1剤のみに含まれ、前記アリールボレート化合物は第2剤のみに含まれ、前記有機過酸化物は第1剤及び/又は第2剤に含まれる、請求項1~3の何れか1項に記載の2液型歯科用接着性組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の2液型歯科用接着性組成物における前記第1剤と前記第2剤とを分包して保管すると共に使用時において分包された両剤を混合して前記歯科用接着性組成物を調製するためのキットであって、
一方端部と他方端部とを有する第一袋体からなり、その内部に前記第1剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第1剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第1剤を流出する第1剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第二袋体からなり、その内部に前記第2剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第2剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第2剤を流出する第2剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第三袋体からなり、その一方端寄りの内部に前記第一袋体の一方端部及び前記第二袋体の一方端部を固定して前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を内部に収納する外袋と、を含み、
該外袋は、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を収納する保持部収納スペースと、該保持部収納スペースより他方端側に位置する貯留スペースと、を有し、
該貯留スペースは、前記外袋の内部に固定された前記第1保持部及び前記第2剤保持部の内部に夫々保持されている前記第1剤及び前記第2剤に押圧力を加えることによって、前記第一袋体の他方端部及び前記第二袋体の一他方端部よりこれら剤を流出させたときに流出した剤の混合物からなる前記歯科用接着性組成物の全てを、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部と接触させること無く保持可能であり、
前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようにした、
ことを特徴とする前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用接着性組成物の構成成分が2つの剤に分けて保存され、使用時に両剤を混合して歯科用接着性組成物を調製する、2液型歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用接着性組成物とは、接着対象となる歯牙及び/又は歯科材料に対して物理的親和性を有する重合性単量体又は化学反応により結合する重合性単量体(以下これら重合性単量体を「接着性モノマー」ともいう。)を必須成分として含有し、更に必要に応じて接着性モノマー以外の重合性単量体、重合開始剤、水、(水溶性)有機溶媒等の任意成分を含み、重合開始剤を含む場合にはその重合開始剤によって、重合開始剤を含まない場合には外部から供給される重合開始剤によって、前記接着性モノマーを重合・硬化させて接着性を発現する組成物を意味する。例えば、小規模な窩洞を修復するための材料であるコンポジットレジンと歯質とを接着する場合に使用される“光重合型や化学重合型のボンディング材”や、大きな欠損を修復するためのセラミックス製或いは金属製の歯冠材料と歯質とを接着する場合に使用される“歯科用セメント”及び“前処理剤(プライマー)”などが歯科用接着性組成物に該当する。なお、後者の例において、前処理材(プライマー)は歯質及び/又は歯冠材料の接着面に施用され、歯質と歯冠材料との間に介在する歯科用セメントとの接着性を発現することにより、歯質と歯冠材料とを接着するものである。また、歯科用セメントは、それ自体が接着性を有さない場合もあるが、プライマー機能を兼ねてプライマー処理を省略できる歯科用セメントも存在し、また、プライマーを用いる場合でも(成分として含まれる多官能重合性単量体が接着性モノマーとして機能して)プライマー処理された歯冠材料と歯質とを接着することから歯科用接着性組成物の範疇とされることが多い。
【0003】
これら歯科用接着性組成物の中でもボンディング材及びプライマーは比較的粘度の低い液状であり、接着対象物に塗布することによって施用するという共通性を有する。
【0004】
このような歯科用接着性組成物においては、臨床において歯科用接着性組成物を施用した個所を目視で確認できるようにしたり、或いは歯科用接着性組成物が溶媒を含む場合には、エアブローによる溶媒除去状態を目視で確認できるようにしたりするために色素が配合されることがある。たとえば、特許文献1には、「溶媒(A)、酸性基を有する重合性単量体である酸性化合物(B)、および色素(C)を含み、当該溶媒(A)を蒸散させた場合に色調が変化する1液型歯科用組成物を用いたボンディング材」が記載されている。この1液型歯科用組成物を用いたボンディング材は、エアブローの進行に伴うpH変化を利用して色素を変色させてエアブローの終点を確認できるようにしたものであり、色素(C)としては、メチルオレンジ、メチルイエロー、メタクレゾールパープル、チモールブルー、クレゾールレッドなどが使用されている。
【0005】
一方、歯科用接着性組成物が化学重合開始剤を含む場合には、保管時に重合が起こらないようにするために分包して保管する必要がある。
【0006】
例えば、特許文献2には、「互いに分包された第1剤および第2剤を有し、(A)酸性基含有重合性単量体、(B)硫黄原子含有重合性単量体、(C)シランカップリング剤、(D)ボレート化合物、および、(E)水からなる5成分を少なくとも含み、前記第1剤には、前記5成分のうち、前記(A)酸性基含有重合性単量体および前記(B)硫黄原子含有重合性単量体のみが含まれ、前記第2剤には、前記5成分のうち、前記(C)シランカップリング剤、前記(D)ボレート化合物および前記(E)水のみが含まれることを特徴とする2液型歯科用接着性組成物」が開示されている。そして特許文献2によれば、上記2液型歯科用接着性組成物は、(同一組成物内に含まれるか又は外部から供給される)有機過酸化物及びその分解促進剤(例えば有機バナジウム化合物)と共存することにより、極めて高い接着性を有し、更に2つの液状組成物に分包することにより長期間安定に保存することが可能であるとされ、保存安定性や被膜厚みのコントロールのためには有機溶媒を添加した方が好ましいとされている。
【0007】
ところで、歯科用接着性組成物を2液型の剤とした場合には、使用時に各剤をそれぞれ秤量して混合する必要があるが、キット化することにより使用時の利便性を高めることが可能となる。このようなキットに関し、特許文献3には、「歯科用液体を収容し且つ押圧されると片端縁が開封されると共に開封された該片端縁を通して該歯科用液体が流出せしめられる少なくとも1個の袋体を含有した合成樹脂製包装体であって、両側縁及び下端縁は全体に渡って閉じられていて、横方向に隣接して位置する塗布具挿入部と袋体収納部とが規定されており、上端縁は該袋体収納部に対応する部位は少なくとも部分的に閉じられているが該塗布具挿入部に対応する部位は開放されており、該袋体は該片端縁を下方に向けて該袋収納部内に位置せしめられており、該包装体を介して該袋体を押圧することによって、該袋体の該片端縁が開封されて該袋体内から該歯科用液体が該片端縁を通して該袋体収納部の下部に流出せしめられ、該塗布具挿入部の下部に流動し、開放されている上端縁を通して塗布具を該塗布具挿入部内に挿入することによって、該塗布具の先端部に該歯科用液体を付着せしめることができる、ことを特徴とする合成樹脂製包装体」が記載されている。上記合成樹脂製包装体は、1回の使用に必要な量の2つの液剤を、夫々脆弱シール部を有する小さな袋体に小分けして収容し、塗布具を挿入可能な外袋の内部にこの2つの袋体を収容し、外部から押圧することにより両袋体の前記脆弱シール部を開封して内部の液剤を流出させて、流出した2つの液剤を前記外袋内で混合できるようにしたキットといえるものであり、秤量の手間を省き、また混和皿の準備などを不要とすることができる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5484759号公報
【文献】国際公開第2018/034212号パンフレット
【文献】国際公開第2016/104406号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に記載された前記合成樹脂製包装体のようなキットは、前記したような利点を有するものであるが、押圧の仕方などによって外袋内に配置された前記袋体の開封が上手く行かず、2つの液剤が所定の量比で混合されず、所期の接着性能が得られなくなることが危惧される。
【0010】
一方、特許文献2に開示されるような2液型歯科用接着性組成物のように、多くの2液型歯科用接着性組成物では一方の剤に酸性基含有重合性単量体が含まれるため、2剤の混合によりpHが変化する。そこで、本発明者等は、特許文献1に開示されているような、pHによって色調が変化する色素を2液型歯科用接着性組成物に適用すれば、混合の状態を色調変化で確認することが可能になり、上記問題の発生を防止することができると考えた。
【0011】
このような着想に基づき、本発明者らは、特許文献1で使用されている色素を、特許文献2に開示されるような2液型歯科用接着性組成物に適用してみたところ、有機溶媒を含む系においては、使用する有機溶媒によっては所期の色調変化が起こり難く、特に、有機溶媒としてアセトン用いた場合には色調変化により混合状態を確認することが実質的に不可能であることが明らかになった。
【0012】
そこで、本発明は、夫々が溶媒を含む液状の組成物からなる第1剤及び第2剤を混合することにより歯科用接着性組成物を調製するための2液型歯科用接着性組成物において、特許文献3に記載されているようなキットとしたときに、溶媒の種類によらず、その混合状態を色調変化で確認できるようにする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、互いに分包された第1剤及び第2剤からなり、これら両剤を混合することにより歯科用接着性組成物を調製するための前記2液型歯科用接着性組成物であって、
調製目的物である前記歯科用接着性組成物は、酸性基含有重合性単量体を含む酸成分、酸性基非含有重合性単量体、重合開始剤、有機溶媒、及び下記一般式〔I〕
【0014】
【0015】
(式中、Xは、夫々独立に水素原子又は1価の置換基を表す。)
で示される色素を含有し、
前記酸性分が第1剤のみに含まれ、前記色素が第2剤のみに含まれ、歯科用接着性組成物を構成する前記酸性分及び前記色素以外の各成分が、第1剤及び/又は第2剤に含まれる、ことを特徴とする前記2液型歯科用接着性組成物である。
【0016】
上記第一の形態の2液型歯科用接着性組成物(以下、「本発明の2液型歯科用接着性組成物」ともいう。)においては、前記有機溶媒が、有機溶媒の総質量を基準としてアセトンを50質量%以上含み、且つ前記色素が下記式
【0017】
【0018】
で示されるラクモイドであることが特に好ましい。
【0019】
また、前記歯科用接着性組成物が、水を更に含み、前記酸性基非含有重合性単量体が第1剤のみに含まれ、前記水が第2剤のみに含まれる、ことが好ましい。
【0020】
さらに、前記重合開始剤が、有機過酸化物、アリールボレート化合物、遷移金属化合物の組み合わせからなり、前記遷移金属化合物は第1剤のみに含まれ、前記アリールボレート化合物は第2剤のみに含まれ、前記有機過酸化物は第1剤及び/又は第2剤に含まれる、ことが好ましい。
【0021】
本発明の第二の形態は、前記本発明の2液型歯科用接着性組成物における前記第1剤と前記第2剤とを分包して保管すると共に使用時において分包された両剤を混合して前記歯科用接着性組成物を調製するためのキットであって、
一方端部と他方端部とを有する第一袋体からなり、その内部に前記第1剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第1剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第1剤を流出する第1剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第二袋体からなり、その内部に前記第2剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第2剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第2剤を流出する第2剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第三袋体からなり、その一方端寄りの内部に前記第一袋体の一方端部及び前記第二袋体の一方端部を固定して前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を内部に収納する外袋と、を含み、
該外袋は、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を収納する保持部収納スペースと、該保持部収納スペースより他方端側に位置する貯留スペースと、を有し、
該貯留スペースは、前記外袋の内部に固定された前記第1保持部及び前記第2剤保持部の内部に夫々保持されている前記第1剤及び前記第2剤に押圧力を加えることによって、前記第一袋体の他方端部及び前記第二袋体の一他方端部よりこれら剤を流出させたときに流出した剤の混合物からなる前記歯科用接着性組成物の全てを、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部と接触させること無く保持可能であり、
前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようにした、ことを特徴とする前記キットである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の2液型歯科用接着性組成物は、2液型歯科用接着性組成物における各剤を前記のようにキット化して2液剤を混合する場合に、使用する溶媒の種類によらず混合状態を、混合液の色調によって判断できるという特徴を有する。したがって、2つの液剤が所定の量比で均一に混合された状態の色調(色相や明度及び彩度)を予め認識しておき、実際に得られた混合液の色調がこの色調と一致するか否かを確認することにより、開封不良等に伴う不完全な混合を回避することが可能となる。すなわち、前記キットにおける外袋を押圧したときに前記袋体の開封が上手く行かなかった場合でも、得られる混合液の色調を確認し、それが所期の色調と異なる場合には開封状態や袋体中の液剤の残存状態等を確認して、不完全な混合を是正することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において2液型歯科用接着性組成物とは、歯科用接着性組成物を調製するためのものであり、互いに分包された第1剤及び第2剤からなり、これら両剤を混合することにより、歯科用接着性組成物を調製できるようにしたものを意味する。
【0024】
1.本発明の2液型歯科用接着性組成物の概要について
本発明の2液型歯科用接着性組成物は、(接着性モノマーとして機能する)酸性基含有重合性単量体(以下、単に「酸モノマー」ともいう。」)を含む酸成分、酸性基非含有重合性単量体(以下、単に「非酸モノマー」ともいう。)重合開始剤、及び有機溶媒を含む歯科用接着性組成物(以下、「目的接着性組成物」ともいう。)を調製するためのものであり、特定の色素を配合すると共に、上記目的接着性組成物の各成分を分包するに際し、酸成分と上記色素が共存しないようにすることによって、第1剤と第2剤の混和によるpH変化にともない色調が変化するようにした点に大きな特徴を有する。
【0025】
すなわち、本発明の2液型歯科用接着性組成物では、
(1)色素として下記式〔I〕で示される色素を使用すること、
(2)前記酸成分が第1剤のみに含まれること、及び
(3)前記色素が第2剤のみに含まれること、
が必須である。
【0026】
【0027】
(式中、Xは、夫々独立に水素原子又は1価の置換基を表す。)
本発明における「酸成分」とは、これと接触した水が酸性を呈する成分を意味する。目的接着性組成物において、酸モノマー以外の酸成分を特に配合する必要はないが、必須性分以外のその他添加材として酸成分に該当するものを使用することもあり得る。前記条件(2)は、このような場合において、酸モノマー以外の酸成分も全て第1剤のみに配合されることを意味している。
【0028】
上記条件(1)~(3)を満足すれば、目的接着性組成物を構成する前記酸成分及び前記色素以外の各必須成分の分包方法に関する制約は特になく、具体的に使用する成分の種類に応じて、適宜第1剤と第2剤に分けて包装される。
【0029】
なお、接着性モノマーとして機能する酸モノマーは、一般的には、非酸モノマーと合わせて、重合性単量体(以下、単に「モノマー」ともいう。)成分として取り扱いことが多く、本発明においてもその点は同様であるが、「酸成分と上記色素とを保管中に共存させない」という観点から、便宜上、酸成分の一つとして取り扱っている。
【0030】
前記(1)~(3)に示す条件の中でも、条件(2)を満足することは、「第1剤及び第2剤をキット化して2液剤を混合する場合に、使用する溶媒の種類によらず混合状態を、混合液の色調によって判断できる」という本発明の効果を得る上で極めて重要である。前記したように、また、後述する比較例に示されるように、メチルオレンジ、メチルイエロー等のアゾ系色素やメタクレゾールパープル、チモールブルー、クレゾールレッド等のスルホフタレン系色素を用いた場合には、溶媒としてアセトンを使用すると混合時における色調変化が確認できない。これに対し、前記式〔I〕で示される色素を用いた場合には、溶媒としてアセトンを使用しても混合により色調変化を目視で確認することができる。このような違いが生じる理由は必ずしも明らかでは無く、また、本発明は理論に何ら拘束されるものではないが、アゾ系色素やスルホフタレン系色素ではpH変化に伴う反応、具体的には分子中に存在する塩基性のジメチルアミノ基や酸性のスルホ基とプロトンとの反応により分子構造が大きく変化して色調が変化するため、反応性に影響を及ぼす溶媒を用いた場合には、ある範囲のpH領域において色調変化が起こり難くなるのに対し、式〔I〕で示される色素は、下記式で表されることもあるように、pH変化によるアンモニアの配位状態の変化{-OH・NH3⇔(-O-)(+NH4)}により色調が変化するため、溶媒の影響を受け難いと考えられる。
【0031】
【0032】
本発明の2液型歯科用接着性組成物は、前記(1)~(3)の点を除けば、接着性モノマーとして酸モノマーを含み、且つ、非酸モノマー、重合開始剤及び有機溶媒を含有する従来の2液型歯科用接着性組成物(例えば、前記特許文献2に記載された2液型歯科用接着性組成物)と特に変わる点は無く、これら必須成分としては、これら従来の2液型歯科用接着性組成物で使用できるものが特に制限なく使用できる。また、水や、禁止剤などのその他添加剤を適宜含むことができる点、及びこれらを含む場合に使用される各物質等も従来の2液型歯科用接着性組成物と同様である。
【0033】
以下、これらの点を含めて、本発明の2液型歯科用接着性組成物について詳しく説明する。
【0034】
なお、本発明の2液型歯科用接着性組成物は、第1剤と第2剤とを混合して目的接着性組成物を得るためのものあることから、各成分の配合量に関する説明は、第1剤と第2剤とを混合して得られる歯科用接着性組成物(目的接着性組成物)中における、重合成単量(モノマー)の総質量を基準とする各成分の配合量を表すものとする。また、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0035】
2.本発明の2液型歯科用接着性組成物(或いは目的接着性組成物)の構成成分について
1-1.酸性基含有重合性単量体(酸モノマー)
酸性基含有重合性単量体(酸モノマー)は、1分子中に、少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基に加え、少なくとも1つの酸性基を含む重合性単量を意味する。酸モノマーは、主に、歯質(象牙質、エナメル質)、卑金属(鉄、ニッケル、クロム、コバルト、スズ、アルミニウム、銅、チタン等あるいはこれらを主成分として含む合金)、および、ジルコニウムなどの金属と酸素とを主成分として含む金属酸化物(ジルコニアセラミックス、アルミナ、チタニアなど)に対する接着性を向上させる。また、酸モノマーは、歯質の脱灰効果や、歯質に対する高い浸透性向上効果を有し、充填修復材の歯質に対する接着性を良好なものとする。
【0036】
本発明で使用される酸モノマーは、体従来の歯科用接着材に使用される酸モノマーと特に変わる点は無く、ラジカル重合性不飽和基として、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、スチリル基等を有し、酸性基としては、ホスホノ基{-P(=O)(OH)2}、カルボキシル基{-C(=O)OH}、リン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)2}、リン酸水素ジエステル基{(-O-)2P(=O)OH}、スルホ基(-SO3H)、及び酸無水物骨格{-C(=O)-O-C(=O)-}等を有するものが、特に制限なく使用される。これらの中でも、充填材料との接着性の観点から重合性不飽和基は、アクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基であることが好ましい。また、水に対する安定性が高く、歯面のスメア層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できる点から、カルボキシル基、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基から選択される少なくとも1種の基を有する重合性単量体が好ましく、リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基から選択される少なくとも1種の基を有する重合性単量体が最も好ましい。
【0037】
好適に使用できる酸モノマーを例示すれば、次のようなものを挙げることができる。すなわち、カルボキシル基を有するものとして、アクリル酸、メタクリル酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等を挙げることができる。また、スルホ基を有するものとして、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等を挙げることができる。さらに、リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基を有するものとして、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-ジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等を挙げることができる。
【0038】
これら酸性基含有重合性単量体は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
また、目的接着性組成物における酸モノマーの配合量は、モノマーの合計質量、すなわち、酸モノマー及び非酸モノマーの合計質量を100質量部としたときの酸モノマーの配合量が3質量部~40質量部であることが好ましい。
【0040】
2-2.酸性基非含有重合性単量体(非酸モノマー)
酸性基非含有重合性単量体(非酸モノマー)は、1分子中に、酸性基を含まず、かつ、ラジカル重合性不飽和基を1以上含む化合物であれば公知の化合物を特に制限無く用いることができる。ラジカル重合性不飽和基としては、酸モノマーと同様にアクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基であることが好ましい。
【0041】
非酸モノマーとして好適に使用できるものを例示すれば、次のようなものを挙げることができる。すなわち、単官能性重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2-シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、多官能性重合性単量体としては、2,2’-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2-ビス[(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を挙げることができる。
【0042】
非酸モノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。非酸モノマーの配合割合は、モノマーの合計質量から、酸モノマーの含有量を除いた残部となる、すなわち、モノマーの合計質量100質量部中における非酸モノマーの含有量は60質量部~97質量部であることが好ましい。
【0043】
2-3.重合開始剤
重合開始剤としては、従来の2液型歯科用接着性組成物で使用される、化学重合開始剤、光重合開始剤およびこれらの組み合わせが特に制限なく使用することができる。例えば、化学重合開始剤としては、酸化剤、還元剤及び遷移金属化合物の組み合わせが、光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤を制限無く用いることができるが、たとえば、カンファ―キノン等のα-ジケトン類及び4-ジメチルアミノ安息香酸エチル等の第三級アミン類の組み合わせ,アシルホスフィンオキサイド及び第三級アミン類の組み合わせ、チオキサントン類及び第三級アミン類の組み合わせ,α-アミノアセトフェノン類及び第三級アミン類の組み合わせ、等が使用できる。
【0044】
重合開始剤の配合量は、通常、モノマー100質量部に対して0.5~30質量部であり、1~20質量部であることが好ましい。
【0045】
重合開始剤としては、接着強さの観点から、酸化剤として機能する有機過酸化物、還元剤として機能するアリールボレート化合物及び遷移金属化合物の組み合わせからなる化学重合触媒を使用することが好ましい。
【0046】
有機過酸化物としては、接着強さと溶解性の観点からハイドロパーオキサイド及び/又はパーオキシエステルを使用することが好ましい。
【0047】
好適に使用できるハイドロパーオキサイド類としては、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。
【0048】
パーオキシエステル類としては、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート等を挙げることができる。
【0049】
これら有機過酸化物は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。有機過酸化物の配合割合は、モノマー100質量部に対して、0.1~10質量部、特に1~6質量部であることが好ましい。
【0050】
ボレート化合物としては、分子中にアリール基を有するアリールボレート化合物が好適に使用される。中でも、保管安定性の観点からは、テトラアリールボレート化合物を使用することが好ましく、テトラフェニルホウ素のナトリウム塩やテトラフェニルホウ素のトリエタノールアミン塩などのテトラアリールボレートの塩、特にアルカリ金属塩を使用することが好ましい。ボレート化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。ボレート化合物の配合割合は、のではないが、モノマー体100質量部に対して、0.1~15質量部とすることが好ましい。
【0051】
遷移金属化合物は、酸化剤とラジカル重合開始剤を形成し、接着性を向上させる役割を持つ。遷移金属化合物としては、接着強度の観点から+IV価のバナジウム化合物及び/又は+II価の銅化合物を使用することが好ましい。+VI価バナジウム化合物としては、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)等が好適に使用でき、+II銅化合物として塩化銅(II)、酢酸銅(II)等が、+II亜鉛化合物として塩化亜鉛(II)、酢酸亜鉛(II)等が好適に使用できる。
【0052】
これら遷移金属化合物は複数の種類のものを併用しても良い。遷移金属化合物の配合割合は、重合活性の観点からモノマー100質量部に対して、0.05~1質量部、特に0.13~0.70質量部であることが好ましい。
【0053】
上記化学重合色場合においてはチオ尿素化合物を併用することもできる。チオ尿素化合物は、酸化剤や遷移金属化合物とラジカル重合開始剤を形成し、接着性を向上させる役割を持つ。チオ尿素化合物としては、接着強度と保存安定性の観点から、ベンゾイルチオ尿素、アセチルチオ尿素、ピリジルチオ尿素等が好適に使用される。これらチオ尿素化合物は複数の種類のものを併用しても良い。チオ尿素化合物の配合割合は、重合活性の観点からモノマー100質量部に対して、0.1~3質量部、特に0.5~2質量部であることが好ましい。
【0054】
1-4.有機溶媒
有機溶媒としては、従来の2液型歯科用接着性組成物で使用される有機溶媒が特に限定されず使用でき、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のハイドロカーボン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が使用できる。
【0055】
これらの中でも、溶解性および保存安定性等の観点で、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。これら有機溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0056】
本発明の効果が顕著であるという理由から、有機溶媒の総質量を基準として50質量%以上含がアセトンであることが好ましく、この時の残部はアルコール類であることが特に好ましい。
【0057】
接着面に塗布された被膜厚さをコントロールする観点から、有機溶媒の配合量は、モノマー100質量部に対し、50~400質量部、特に100~250質量部であることが好ましい。
【0058】
なお、有機溶媒は、第1剤のみに添加してもよく、第2剤のみに添加してもよく、第1剤および第2剤の双方に添加してもよい。また、第1剤および第2剤のそれぞれに有機溶媒を添加する場合、第1剤に用いる有機溶媒と、第2剤に用いる有機溶媒とは同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
1-5.色素
本発明の2液型歯科用接着性組成物では、第1剤と第2剤を混合したときの混合状態を色調変化で確認できるようにするために、pHによって色調の変化する色素として、下記一般式〔I〕で示される化合物からなるもの配合する。なお、上記式中のXは、夫々独立に水素原子又は、ハロゲン元素、2,4-ジヒドロキシフェニル基等の1価の置換基を表す。
【0060】
【0061】
このような色素を用いることにより、使用する溶媒の種類に拘わらず、上記混合に伴うpH変化により色調が変化するので、混合状態を色調変化により確認することが可能となる。すなわち、前記したように、pHによって色調の変化する色素であっても、上記式〔I〕で示される化合物以外のアゾ系色素やスルホフタレン系色素を用いた場合には、溶媒としてアセトンを使用した場合には、pHが変化しても目視による色調変化が確認できなくなることがあるのに対し、上記式〔I〕で示される色素を用いた場合にはpH変化による色調変化を目視で確認することができる。
【0062】
上記式〔I〕で示される色素としては、各種ラクモイドを挙げることができるが、第1剤と第2剤とを混合したときの色調変化が大きいという観点から、色素としては下記式で示される化合物からなる色素を使用することが好ましい。
【0063】
【0064】
一般式〔I〕で示される色素の配合量は、混合時の視認性の良さから、モノマー100質量部に対して、0.0001~0.1質量部、特に0.001質量部~0.01質量部であることが好ましい。
【0065】
1-6.その他の成分
本発明の2液型歯科用接着性組成物(或いは、目的接着性組成物)には、必要に応じて、上記の成分以外の各種添加剤などの成分を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、水、フィラー、着色剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0066】
脱灰による歯質への接着性向上と言う理由から、目的接着性組成物は水を含むことが好ましい。水は溶媒として用いることができ、脱イオン水、蒸留水等が好適に使用される。水を配合する場合の配合量は、モノマー100質量に対して5~50質量部、特に10~40質量部であることが好ましい。
【0067】
フィラーは、歯科用接着性組成物を硬化して得られる接着層における機械的強度や操作性を向上させるために配合される。フィラーとしては、特に制限はなく、公知の無機フィラー、有機フィラー、無機-有機複合フィラーを用いることができる。
【0068】
重合禁止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。
【0069】
2.分包方法について
本発明の2液型歯科用接着性組成物では、目的接着性組成物を構成する前記各種成分が第1剤と第2剤とに分包されるが、第1剤と第2剤の混和によるpH変化にともない色調が変化するようにするためには、酸成分と前記色素とが共存しないように分包する必要がある。したがって、前記酸性分が第1剤のみに含まれ、前記色素が第2剤のみに含まれる必要がある。
【0070】
このとき、目的接着性組成物を構成する前記酸性分及び前記色素以外の各成分は、具体的に使用する成分の種類に応じて、適宜第1剤と第2剤に分けて包装される。たとえば、重合開始剤として、有機過酸化物、アリールボレート化合物、遷移金属化合物の組み合わせからなり、前記遷移金属化合物は第1剤のみに含まれ、前記アリールボレート化合物は第2剤のみに含まれ、前記有機過酸化物は第1剤及び/又は第2剤に含まれるようにする。また、有機溶媒は第1剤及び第2剤に配合することが好ましく、また、水を配合する場合には第2剤のみに配合することが好ましい。
【0071】
すなわち、目的接着性組成物が上記化学重合触媒及び水を含む場合、本発明の2液型歯科用接着性組成物における第1剤は、酸モノマー及び非酸モノマー、遷移金属化合物並びに有機溶媒を含んで、色素、アリールボレート化合物及び水を含まず、第2剤は、色素、アリールボレート化合物、有機溶媒及び水を含み、酸モノマー、非酸モノマー、遷移金属化合物及び酸性分を含まず、有機過酸化物は第1剤及び/又は第2剤に含まれることが好ましい。
【0072】
3.本発明のキットについて
本発明のキットは、2液型歯科用接着性組成物における前記第1剤と前記第2剤とを分包して保管すると共に使用時において分包された両剤を混合して前記目的接着性組成物を調製するためにキット化したものであり、
一方端部と他方端部とを有する第一袋体からなり、その内部に前記第1剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第1剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第1剤を流出する第1剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第二袋体からなり、その内部に前記第2剤を液密に収容して保持すると共に、内部に収容された前記第2剤が押圧されると前記他方端部が開封されて前記第2剤を流出する第2剤保持部と、
一方端部と他方端部とを有する第三袋体からなり、その一方端寄りの内部に前記第一袋体の一方端部及び前記第二袋体の一方端部を固定して前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を内部に収納する外袋と、を含み、
該外袋は、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部を収納する保持部収納スペースと、該保持部収納スペースより他方端側に位置する貯留スペースと、を有し、
該貯留スペースは、前記外袋の内部に固定された前記第1保持部及び前記第2剤保持部の内部に夫々保持されている前記第1剤及び前記第2剤に押圧力を加えることによって、前記第一袋体の他方端部及び前記第二袋体の一他方端部よりこれら剤を流出させたときに流出した剤の混合物からなる前記歯科用接着性組成物の全てを、前記第1剤保持部及び前記第2剤保持部と接触させること無く保持可能であり、
前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようにした、ことを特徴とする。
【0073】
上記本発明のキットの基本的構造は、前記特許文献3に記載されているようなキット、具体的には、夫々組成の異なる「歯科用液体」を収容した2つの「袋体」を「袋収納部」に収容した「合成樹脂製包装体」と大きく変わる点は無く、第1剤保持部及び第2剤保持部(上記「袋体」に相当する)が外袋(上記「合成樹脂製包装体」に相当する)内に収容された基本構造を有し、第1剤及び第2剤(上記「歯科用液体」に相当する)を押圧したときに、これらが第1剤保持部及び第2剤保持部(袋体)から流出して外袋(合成樹脂製包装体)の保持部収納スペース(上記「袋収納部」に相当する。)の下部に位置する貯留スペースに溜まると言う基本構造を有する。また、各部材を構成するや材料や各部材及びキットを製造する方法も基本的には同様である。
【0074】
但し、外袋の構造は、保持部収納スペース及び貯留スペースを有するものであれば特に限定されない。
【0075】
本発明のキットでは、第1剤及び第2剤を混合したときにおける各構成成分の配合割合が前記したような所期の配合割合となるように2つの袋体中に夫々小分けして収容されているので、使用時における秤量の手間を削減することができる。
【0076】
また、前記貯留スペースを構成する前記外袋の少なくとも一部は透明性を有し、前記貯留スペース内に存在する前記歯科用接着性組成物の色調を前記外袋の外部から確認できるようになっているので、混合時の色調により、正しく混合できたかどうかを容易に判断することができる。本発明のキットにおいては、混合前の各剤の色調を確認することができると言う理由から、前記第一袋体及び/又は前記第二袋体の少なくとも一部、並びに前記外袋の前記保持部収納スペース少なくとも一部は透明で、前記第1剤及び/又は前記第2剤の色調を前記外袋の外部から確認できるようしてあることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものでは無い。
【0078】
1.原材料
まず、実施例及び比較例で原材料として用いた各物質とその略号を以下に示す。
【0079】
1-1.重合性単量体(モノマー)
(1)酸性基含有重合性単量体(酸モノマー)
MDP:10-メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
SPM:モノ(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェートとビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェートの混合物。
【0080】
(2)酸性基非含有重合性単量体(非酸モノマー)
BisGMA:2.2’―ビス[4―(2―ヒドロキシ―3―メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2―ヒドロキシエチルメタクリレート
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2―カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート。
【0081】
1-2.重合開始剤
(1)化学重合触媒
・有機過酸化物
TMBH:1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
BPT:t-ブチルパーオキシ-3、5、5-トリメチルヘキサノエート
BPB:t-ブチルパーオキシベンゾエート
・アリールボレート化合物
PhB-Na:テトラフェニルホウ素のナトリウム塩
PhB-TEOA:テトラフェニルホウ素のトリエタノールアミン塩
・遷移金属化合物
BMOV:ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)
CuA:酢酸銅(II)一水和物
・チオ尿素化合物
BzTU:ベンゾイルチオ尿素
AcTU:アセチルチオ尿素
PyTU:ピリジルチオ尿素。
【0082】
(2)光重合触媒
CQ:カンファ―キノン
DMBE:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル。
【0083】
1-3.有機溶媒
アセトン
エタノール
IPA:イソプロパノール
【0084】
1-4.色素
(1)前記一般式〔I〕で示される色素
下記式で示される色素(TCI社製、製品コード:L0079:以下、単に「ラクモイド」という。)
【0085】
【0086】
(2)その他色素
・スルホフタレン系色素
チモールブルー
ブロモクレゾールグリーン
・アゾ系色素
メチルイエロー
メチルオレンジ。
【0087】
2.実施例及び比較例
実施例1
酸モノマーであるMDP:30質量部、非酸モノマーであるBis-GMA:42質量部及び3G:28質量部、化学重合開始剤の遷移金属化合物であるBMOV:0.2質量部、並びに有機溶媒であるアセトン:100質量部を混合して第1剤を調製すると共に、色素であるラクモイド:0.01質量部、化学重合開始剤の有機過酸化物であるTMBH:4質量部及びアリールボレート化合物であるPhB-Na:6質量部、有機溶媒であるアセトン:140質量部及びIPA:50質量部、並びに水:10質量部を混合して第2剤を調製して、本発明の2液型歯科用接着性組成物を得た。
【0088】
次いで、得られた2液型歯科用接着性組成物の第1剤と第2剤を混和皿上で混合して、混合時における色調変化を評価すると共に、混合により得られた歯科用接着性組成物(目的接着性組成物)の歯質への接着強度を評価した。なお、第一剤と第二剤と混合は、各成分の配合割合が上記した割合が維持されるようにして行った。すなわち、第1剤:200.2質量部に対して第二剤:210.01質量部を混合した。
【0089】
各評価方法及び評価結果を以下に示す。
【0090】
(1)混合時色調変化の評価
第1剤及び第2剤の色調を目視で確認すると共に2剤を混合した後の色調を目視で観察した。混合後の色調に関しては、下記の判断基準で評価したところ、◎であった。
・◎:混合後の色調変化が明瞭で目視で非常に明確に判断できる
・○: 〃 が明瞭で目視で明確に判断できる
・△: 〃 は不明瞭あるが目視での判断は可能である
・×: 〃 が不明瞭であり、目視で判断できない。
【0091】
(2)歯質への接着強度評価
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、エナメル質平面を削り出した研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に、歯科用接着性組成物を塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。
【0092】
直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように歯科用接着性組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣクイック、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した後、可視光線照射器(エリパー、3M社製)を用い、光照射10秒による光硬化を行った。その後、あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(ビスタイトII、トクヤマデンタル社製)で接着した。最後に、37℃の水中にて24時間浸漬することで接着強度測定用のサンプルを得た。なお、使用したコンポジットレジン(エステライトΣクイック)は、カンファーキノンおよびアミン化合物を含む光重合性の組成物である。
【0093】
作製したサンプルについて、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強度を測定した。4個のサンプルの測定値を平均し、測定結果としたところ、18.0MPaであった。なお、引張強度は10MPa以上であれば良好と判断される。
【0094】
実施例2~19
第1剤及び第2剤の組成を表1に示すように変更した他は実施例1と同様にして本発明の2液型歯科用接着性組成物を得、評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、表1及び表2中の「↑」は、「同上」を意味し、括弧:( )内の数字は質量部を意味する。
【0095】
【0096】
比較例1~8
第1剤及び第2剤の組成を表2に示すように変更した他は実施例1と同様にして2液型歯科用接着性組成物を得、評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
表3に示されるように、実施例1~19では、いずれの場合においても、第1剤と第2剤を混合したときの状態を目視で確認でき、接着試験結果も良好であった。一方、pHにより色調が変化することが知られている色素であっても、スルホフタレン系色素又はアゾ系色素を用いた場合には、比較例1~8の結果に示されるように、有機溶媒としてエタノールを用いた場合には、一部の色素で混合状態を目視で確認することができるものの、アセトンを用いた場合には、混合による色調変化を確認することはできなかった。