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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】衝撃緩衝機構
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/62 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
B64G1/62
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020176633
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067818
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和 光輝
(72)【発明者】
【氏名】大槻 真嗣
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105127975(CN,A)
【文献】特開2010-112404(JP,A)
【文献】特開平10-220526(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111017269(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/00
F16F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃を受けて移動する移動部と、
前記移動部が移動したときに前記移動部に押されて一部が塑性変形し前記移動部の移動を止める衝撃吸収部材と、
前記移動部の移動量の少なくとも一部をキャンセルするように、前記衝撃吸収部材により移動を止められている前記移動部を移動させる移動機構部と、
前記移動部の前記移動量を計測する計測部と、
を備える衝撃緩衝機構であって、
前記移動部は、
棒形状であり、
前記衝撃緩衝機構は、さらに、
前記棒形状における前記移動部の一方の端部の側を内部で受けて、前記移動部の直線的な移動をガイドする中空体を備え、
前記衝撃吸収部材は、
前記中空体の内部に配置され、前記移動部の前記一方の端部に押されて前記一部が塑性変形し、
前記計測部は、
前記移動部の一方の端部が前記衝撃吸収部材へ向かう直線的な移動量を前記移動部の移動量として計測し、
前記移動機構部は、
前記中空体を、計測された直線的な前記移動量に基づいて、計測された直線的な前記移動量の移動方向と反対方向へ直線的に移動させる衝撃緩衝機構。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材は、
前記中空体の内部に固定されており、
前記移動機構部は、
前記中空体の内部に固定され、雌ねじが形成されたナットと、
少なくとも一部が前記中空体に収容され、前記移動部との間に前記衝撃吸収部材を挟むように配置された機構であって、前記ナットの前記雌ねじと組み合う雄ねじが形成されているねじ軸と、前記ねじ軸を回転させるアクチュエータとを有する機構である回転機構と、
を備え、
前記アクチュエータは、
計測された直線的な前記移動量に基づいて回転することで、計測された直線的な前記移動量の移動方向と反対方向へ、前記中空体を直線的に移動させる請求項1に記載の衝撃緩衝機構。
【請求項3】
前記計測部は、前記中空体と前記移動部との相対変位を計測する請求項1または請求項2に記載の衝撃緩衝機構。
【請求項4】
前記ねじ軸と前記ナットとは、
ボールねじ機構である請求項2に記載の衝撃緩衝機構。
【請求項5】
前記衝撃緩衝機構は、
計測された直線的な前記移動量に基づいて前記アクチュエータを回転させる回転制御部を備える請求項2に記載の衝撃緩衝機構。
【請求項6】
衝撃を受けて移動する移動部と、
前記移動部が移動したときに前記移動部に押されて一部が塑性変形し前記移動部の移動を止めるとともに、塑性変形量が維持される衝撃吸収部材と、
前記移動部の移動量の少なくとも一部をキャンセルするように、前記一部が塑性変形した前記衝撃吸収部材により移動を止められている前記移動部を移動させる移動機構部と、を備え
前記衝撃吸収部材は、
前記移動量の少なくとも一部をキャンセルするように前記移動機構部によって移動させられた前記移動部の再度の移動によって押された場合に、塑性変形した前記一部以外の残存部の一部が塑性変形して前記移動部の再度の移動を止め、
前記移動機構部は、
前記移動部の再度の移動の移動量の少なくとも一部をキャンセルするように、前記衝撃吸収部材により再度の移動を止められている前記移動部を移動させる衝撃緩衝機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衝撃緩衝機構に関する。本開示は、例えば、探査機の着陸脚に使用される着陸脚用ビームに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術には探査機の着陸脚に関する開示がある(例えば特許文献1)。しかし、従来では、探査機の着陸は1回の着陸を想定している。このため、複数回の着陸を想定し、複数回の着陸ごとの衝撃に対して毎回同じ緩衝特性を示すことのできる衝撃緩衝機構の開示はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-136686号公報(段落[0003]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、複数回の衝撃に対して毎回同じ緩衝特性を示すことのできる衝撃緩衝機構の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る衝撃緩衝機構は、
衝撃を受けて移動する移動部と、
前記移動部が移動したときに前記移動部に押されて一部が塑性変形し前記移動部の移動を止める衝撃吸収部材と、
前記移動部の移動量の少なくとも一部をキャンセルするように、前記衝撃吸収部材により移動を止められている前記移動部を移動させる移動機構部と、
を備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係る衝撃緩衝機構は、衝撃吸収部材と移動機構部とを備えているので、複数回の衝撃に対して毎回同じ緩衝特性を示すことのできる衝撃緩衝機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態1の図で、探査機10の外観を示す図。
図2】実施の形態1の図で、着陸脚20を示す図。
図3】実施の形態1の図で、着陸脚用ビーム30の断面図。
図4】実施の形態1の図で、着陸脚用ビーム30を、移動部100、中空体500、回転機構420に分解した図。
図5】実施の形態1の図で、着陸脚用ビーム30の状態1及び状態2を示す図。
図6】実施の形態1の図で、着陸脚用ビーム30の状態2及び状態3を示す図。
図7】実施の形態1の図で、移動機構部400が受動的な装置で実現される着陸脚用ビーム30Aの構成を示す図。
図8】実施の形態1の図で、着陸脚用ビーム30Aの状態(A)、状態(B)及び状態(C)を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について、図を用いて説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には、同一符号を付している。実施の形態の説明において、同一または相当する部分については、説明を適宜省略または簡略化する。
【0009】
実施の形態1.
図1から図6を参照して、実施の形態1の衝撃緩衝機構を説明する。以下の実施の形態1では衝撃緩衝機構の実現例として、探査機10の着陸脚用ビーム30を説明する。着陸脚用ビーム30は衝撃緩衝機構の一つの実現例であり、衝撃緩衝機構に限定されない。実施の形態1の衝撃緩衝機構は、着陸脚用ビーム30に限らず、飛行機、ドローン、ヘリコプタ、海底探査機、エレベータまたは車両のような、衝撃に対する緩衝機構が必要な機械群に使用することができる。
実施の形態1の特徴は、着陸脚用ビーム30が、複数回の着陸ごとの衝撃に対して毎回同じ緩衝特性を示すことができる点にある。この特徴は、衝撃吸収部材200と、移動機構部400とを組み合わせた構造によって、着陸脚用ビーム30を伸展させることに基づく。移動機構部400は伸展機構である。
【0010】
図1は、探査機10の外観の概要を示す。探査機10は天体に着陸して天体を探索する。探査機10は、複数組の着陸脚20を備えている。図1は4組の着陸脚20を備える構成を示しているが一つの例である。
図2は、着陸脚20を示す。各着陸脚20は、3本の着陸脚用ビーム30を備えている。各着陸脚用ビーム30の一方の端部は、探査機10の本体に接続しており、他方の端部は、一つのフットパッド31に接続している。図2において中央の着陸脚用ビーム30は主ビーム30Mと呼ばれ、両側の着陸脚用ビーム30は副ビーム30Sと呼ばれることがある。
【0011】
***構成の説明***
図3は、着陸脚用ビーム30の断面図を示す。図3においてYZ座標の図は、XY座標の図をX方向から見たものである。XY座標の断面図では、移動部100、衝撃吸収部材200、ナット410、ねじ軸421、アクチュエータ422及び取付部427は、断面にしていない。第1装着部310及び第2装着部320の内部構造は省略している。
図4は、着陸脚用ビーム30を、移動部100、中空体500、回転機構420に分解した図である。図3及び図4を参照して着陸脚用ビーム30の構成を説明する。
【0012】
着陸脚用ビーム30は、探査機10を支持する着陸脚20に使用される。着陸脚用ビーム30は、移動部100、衝撃吸収部材200、計測部300、移動機構部400を備えている。移動部100は着陸時に、衝撃を受けて移動する。衝撃吸収部材200は、移動部100が移動したときに移動部100に押されて一部が塑性変形し移動部100の移動を止める。計測部300は、移動部100の移動量を計測する。移動機構部400は、計測部300によって計測された移動部100の移動量△dをキャンセルするように、衝撃吸収部材200により移動を止められている移動部100を移動させる。
以下に具体的に説明する。
【0013】
移動部100は、棒形状である。移動部100は、円柱形状の円柱部101と、円柱部101の一方の端部に、衝撃吸収部材200を押しつぶす先端部104が形成されている。また、移動部100は、他方の端部に、フットパッド31に接続される取付部102が形成されている。取付部102にはフットパッド31に接続するための取付孔103が形成されている。円柱部101には、先端部104と取付孔103との間の位置に第1鍔部105が形成されており、第1鍔部105と先端部104との間の位置に第2鍔部106が形成されている。第1鍔部105及び第2鍔部106は、円柱部101が中空体500の内部を摺動する際のガイドの機能を持つ。図3に示すように、第1鍔部105及び第2鍔部106と、中空体500の内側の面500Sとの組み合わせが、移動部100をガイドするガイド機能を有する。このガイド機構の構造は一例であって、ガイド機能を形成できる構造であればどのような構造でもよい。
【0014】
衝撃吸収部材200は、例えばハニカムバンパーを用いることができる。衝撃吸収部材200は、中空体500の内部に配置され、移動部100の一方の端部である先端部104に押されて一部が塑性変形する。衝撃吸収部材200は、複数回の探査機10の着陸の着陸ごとに先端部104におされ、着陸ごとに-Y方向へ塑性変形する。
【0015】
中空体500は、中空円筒である。図3に示すように、中空体500は、棒形状における移動部100の一方の端部の側を内部で受けて、移動部100の直線的な移動をガイドする。中空体500は、第1支持部50、第2支持部502、第3支持部503、第4支持部504、第5支持部505を備えている。第1支持部501及び第2支持部502は、円柱部101を支持して、円柱部101の摺動をガイドする。第3支持部503及び第4支持部504は、移動機構部400の有するケース426を支持する。図3に示すように、第3支持部503及び第4支持部504と、ケース426との組み合わせが、回転機構420をガイドするガイド機能を有する。このガイド機構の構造は一例であって、ガイド機能を形成できる構造であればどのような構造でもよい。第5支持部505には、衝撃吸収部材200が固定されている。中空体500には、第3支持部503と第5支持部505の間に、ナット410が固定されている。
【0016】
移動機構部400は、ナット410と回転機構420とを備えている。ナット410は、中空体500の内部に固定され、雌ねじが形成されている。回転機構420は、少なくとも一部が中空体500に収容され、移動部100との間に衝撃吸収部材200を挟むように配置された機構であって、ナット410の雌ねじ411と組み合う雄ねじが形成されているねじ軸421と、ねじ軸421を回転させるアクチュエータ422とを有する機構である。アクチュエータ422は、計測部300によって計測された直線的な移動量△dに基づいて回転することで、計測された直線的な移動量△dの移動方向と反対方向へ、中空体500を直線的に移動させる。なお、ねじ軸421とナット410とは、ボールねじ機構である。なお、移動機構部400としてボールねじ機構を示しているが、ボールねじ機構は移動機構部400の一例である。移動機構部400は、例えばリニアモータのようなアクチュエータでもよい。
【0017】
具体的には以下のようである。ナット410は雌ねじが形成されている。回転機構420は、ねじ軸421、アクチュエータ422、ベアリング423、ベアリング424、アクチュエータ支持部材425、ケース426、取付部427を備えている。取付部427には、取付部427を探査機10に取り付けるための取付孔428が形成されている。ねじ軸421はベアリング423とベアリング424で支持される。ねじ軸421にはナット410に形成されている雌ねじと組み合う雄ねじが形成されている。アクチュエータ422はアクチュエータ支持部材425で支持されている。アクチュエータ422は、アクチュエータ軸422Aでねじ軸421と固定状態で接続している。アクチュエータ軸422Aの回転によって、アクチュエータ軸422Aに対してねじ軸421は滑ることなく回転する。ケース426は、ねじ軸421、アクチュエータ422、ベアリング423、ベアリング424、アクチュエータ支持部材425を収容している。ケース426は第4支持部504、第5支持部505に支持され中空体500に配置される。また、第4支持部504とケース426との間、及び第5支持部505とケース426との間には、Y軸方向に沿ってキー溝があり、ケース426と中空体500とがY軸周りに相対回転しない構成となっている。
【0018】
回転機構420では、アクチュエータ422がねじ軸421を回転すると、ねじ軸421に対してナット410がY軸方向で移動する。ナット410は中空体500に固定されているので、ナット410は中空体500と一体となってY軸方向で移動する。後述のように、中空体500に対して、移動部100及び衝撃吸収部材200も一体として、ねじ軸421の回転によりY軸方向へ移動する。より具体的には、着陸時は衝撃により先端部104が衝撃吸収部材200を押しつぶし、取付孔103の中心と取付孔428の中心との中心間距離は△dだけ減少する。アクチュエータ422は、△dの減少をキャンセルするため、ねじ軸421の回転により、移動部100、衝撃吸収部材200及び中空体500を一体として、+Y方向へ△dだけ移動する。
【0019】
計測部300について説明する。計測部300は、移動部100の一方の端部である先端部104が衝撃吸収部材200へ向かう直線的な移動量を移動部100の移動量として計測する。計測部300は、中空体500と移動部100との相対変位を計測する。図3に示すように、計測部300は、第1装着部310と、第2装着部320とを備えている。第1装着部310は、中空体500のY軸方向の端部に装着される。第2装着部320は、第2鍔部106に装着される。第2装着部320を第2鍔部106に装着するのは一例である。移動部100と中空体500との相対変位が検出できる箇所であれば、第2装着部320は移動部100のどこに装着されてもよい。第2装着部320が装着される第2鍔部106の部分は、スリット510によって露出している。第2装着部320には、第1装着部310が収容している引き出し線330の端部が接続している。
【0020】
引き出し線330は、第1装着部310に対して第2装着部320が離れるにしたがって第1装着部310から引きだされる。引き出し線330には張力が生じておりたるむことなく張っている。引き出し線330が引き出される長さが、中空体500に対する移動部100の移動距離である。回転制御部600は、計測部300によって計測された直線的な移動量△dに基づいてアクチュエータ422を回転させる。つまり回転制御部600は、計測部300から移動距離を取得し、移動距離に応じてアクチュエータ422を制御することで、移動距離をキャンセルするように中空体500を+Y軸方向へ移動する。なお、計測部300は引き出し線330によって移動部100と中空体500との相対変位を検出しているが、引き出し線330に限らず、相対変位が計測できるのであればどのような構成でもよい。例えばレーザー変位計を用いてもよい。
【0021】
図5は、着陸脚用ビーム30の状態1及び状態2を示す。
図6は、着陸脚用ビーム30の状態2及び状態3を示す。図5図6の状態2は同じ図である。
図5及び図6を参照して、着陸脚用ビーム30の動作を説明する。状態1は、探査機10が天体に着陸する直前の着陸脚用ビーム30の状態を示す。状態2は、探査機10が天体に着陸した直後の着陸脚用ビーム30の状態を示す。状態3は、状態2で生じた衝撃吸収部材200の圧縮量がキャンセルされた状態を示す。
【0022】
<状態1>
状態1ではフットパッド31に衝撃は生じていない。状態1では、先端部104と衝撃吸収部材200には隙間があり、衝撃吸収部材200は塑性変形していない。
(a)状態1では取付孔103の中心と、取付孔428の中心との中心間距離はL1である。
(b)また、取付孔428の中心と、中空体500の端部との距離はL2である。
(c)また、取付孔428の中心と、ねじ軸421の先端との距離はL3である。なお、距離L3は状態1、状態2及び状態3において同一である。
【0023】
<状態2>
探査機10が天体に着陸すると、フットパッド31には衝撃40が入力し、この衝撃は移動部100に伝わる。衝撃40によってフットパッド31が状態1から-Y方向へ移動量△dだけ移動する。このとき、移動部100も移動量△dだけ-Y方向へ移動する。移動量△dは、状態1における先端部104と衝撃吸収部材200との隙間よりも大きいため、先端部104が衝撃吸収部材200を押して、衝撃吸収部材200の先端部が移動量△dだけ塑性変形する。
(a)状態2では、取付孔103の中心と、取付孔428の中心との中心間距離は「L1-移動量△d」である。
(b)また、取付孔428の中心と、中空体500の端部との距離はL2であり状態1と同じである。
(c)また、取付孔428の中心と、ねじ軸421の先端との距離はL3であり状態1と同じである。
【0024】
<状態3>
移動機構部400は、中空体500を、計測部300によって計測された直線的な移動量△dに基づいて、計測された直線的な移動量△dの移動方向と反対方向へ直線的に移動させる。状態3は以下の(1)から(5)の工程により、移動部100が移動量△dだけ+Y方向へ移動した後の状態である。状態3は、着陸後、次回の着陸を行うまでの間に、伸展機構である移動機構部400により、計測部300で計測した移動量△dぶん、着陸脚用ビーム30を伸展する。
(1)計測部300が移動量△dを検知している。
(2)回転制御部600が、計測部300の検知した移動量△dに基づき、ねじ軸421に対するナット410の移動量が+Y方向に移動量△dとなるように、アクチュエータ422を回転する。
(3)アクチュエータ422の回転でねじ軸421が回転し、ナット410が+Y方向に移動量△dだけ移動する。
(4)ナット410、中空体500、衝撃吸収部材200、移動部100及びフットパッド31は、一体に、+Y方向に移動量△dだけ移動する。
(5)この結果、衝撃40によるーY方向への移動量△dがキャンセルされる。
(a)状態3では、取付孔103の中心と、取付孔428の中心との中心間距離は、
L1-移動量△d+移動量△d=L1
である。
(b)また、取付孔428の中心と、中空体500の端部との距離は、
L2+移動量△d
である。
(c)また、取付孔428の中心と、ねじ軸421の先端との距離はL3であり状態1、状態2と同じである。
【0025】
***実施の形態1の効果***
着陸脚用ビーム30によれば、探査機10の着陸時の着陸脚用ビーム30の長さは前回の着陸時と同じにでき、かつ、着陸脚用ビーム30の緩衝特性は前回の着陸時と同じにできる。したがって、複数回の着陸に対して、毎回同じ着陸脚のジオメトリで、毎回同じ緩衝特性を示す衝撃緩衝機構を提供できる。これにより、探査機10の着陸時の衝撃吸収特性を、着陸の回数によらず、同程度となるように管理することができる。
また着陸脚用ビーム30では、緩衝機構として、オイルダンパーのように緩衝特性が環境温度に大きく影響されることなく、シンプルで動作信頼性の高い、衝撃吸収部材を使用可能である。よって、実施の形態1は、幅広い環境温度に対応し、高い動作信頼性を確保しつつ、複数回の着陸に対して毎回同じ緩衝特性を示す衝撃緩衝機構を提供できる。
また、着陸脚用ビーム30を複数設置することで、探査機10の姿勢を復元することができる。すなわち、図1に示す4組の着陸脚20のそれぞれの着陸脚用ビーム30の長さを制御することで、探査機10の姿勢を制御することができる。
【0026】
なお、実施の形態1では、計測部300が移動部100の移動量を計測し、移動量だけ移動機構部400が着陸脚用ビーム30を伸ばしている。しかし、計測部300による計測を実施することなく、移動機構部400は、予め設定された設定値通りに着陸脚用ビーム30を伸ばしてもよい。例えば、回転制御部600が設定値を保有しており、着陸ごとに設定値に従ってアクチュエータ422を回転して着陸脚用ビーム30を伸ばす。
【0027】
なお、実施の形態1では、移動機構部400にアクチュエータ422を使用する構成を説明した。しかし、これは一例である。移動機構部400は受動的な装置で実現されてもよい。
受動的な装置は、例えば以下の構成である。
・動力はアクチュエータ422ではなく、ばねが使用される。
・動作の開始、停止は、複数のストッパが順次作動する。
・最初の動作開始時には1番目のストッパが解放され、2番目のストッパに当たるまで伸縮機構(着陸脚用ビーム30)が伸びる。次に2番目のストッパが解放されると、3番目のストッパに当たるまで伸縮機構が伸びる。これの繰り返しで、複数回の着陸に対応する。
図7及び図8を参照して、移動機構部400が受動的な装置で実現される着陸脚用ビーム30Aを説明する。
図7は、移動機構部400が受動的な装置で実現される着陸脚用ビーム30Aの構成を示す図である。図7の着陸脚用ビーム30Aは、図6の状態3に相当する。図7のXY座標は、図3,5,6のXY座標と同一である。以下ではY軸のプラス方向を+Y方向、Y軸のマイナス方向を-Y方向と記載する。
図8は、着陸脚用ビーム30Aの状態(A)、状態(B)及び状態(C)を模式的に示す図である。図7図8では計測部300は省略している。図7において、5つの白色の太い矢印は変位方向を示す。図8において、5つの黒い太い矢印は力の向きを示し、3つの白色の太い矢印は変位方向を示す。
【0028】
着陸脚用ビーム30Aが着陸脚用ビーム30と異なる構成は、以下である。
(1)着陸脚用ビーム30Aの移動機構部400は、アクチュエータ422を搭載しない。そのため、着陸脚用ビーム30Aの移動機構部400は、アクチュエータ422に関する各部品である、ねじ軸421、ベアリング423、ベアリング424及びアクチュエータ支持部材25の搭載は不要である。
(2)着陸脚用ビーム30Aは、第1ラチェット機構800及び第2ラチェット機構900を備えている。
(3)着陸脚用ビーム30Aは、ばね700を備えている。
(4)図8に示すように、着陸脚用ビーム30Aは、中空体500に対する移動部100のスライドを支持するスライド支持部1000と、移動機構部400に対する中空体500のスライドを支持するスライド支持部1001とを備えている。図8では、スライド支持部1000及びスライド支持部1001は斜線で示している。また図8では、スライド支持部1000と第1ラチェット機構800はY軸方向に対して線対称の位置に示しており、また第2ラチェット機構900とスライド支持部10001もY軸方向に対して線対称の位置に示している。
【0029】
<第1ラチェット機構800>
第1ラチェット機構800は、移動部100が、中空体500に対して、衝撃吸収部材200がつぶれる方向である-Y方向に移動でき、かつ、+Y方向に移動できないように、移動部100の中空体500に対する移動方向を制御する。第1ラチェット機構800の構成は以下のようである。図7に示すように、第1ラチェット機構800は、複数の歯801、歯止め802、支持ばね803、及び収容部804を備えている。複数の歯801は、移動部100の円柱部101の側面に形成されている。歯止め802は、支持ばね803で支持されている。歯止め802により、移動部100は中空体500に対して-Y方向へのみ移動可能である。支持ばね803では、一端が中空体500の内壁に接続しており、他端が歯止め802に接続して歯止め802を支持する。収容部804は歯止め802及び支持ばね803を収容する。収容部804は、歯止め802の+Y方向及び-Y方向の動きを拘束することで、歯801の中空体500に対する+Y方向への移動を阻止し、かつ、歯801の中空体500に対する-Y方向への移動を許す。
【0030】
<第2ラチェット機構900>
第2ラチェット機構900は、中空体500が、移動機構部400のケース426に対して、+Y方向に移動でき、かつ、-Y方向に移動できないように、中空体500のケース426に対する移動方向を制御する。第2ラチェット機構900の構成は以下のようである。図7に示すように、第2ラチェット機構900は、複数の歯901、歯止め902、支持ばね903、及び収容部904を備えている。複数の歯901は、ケース426の側面に形成されている。歯止め902は、支持ばね903で支持されている。歯止め902により、中空体500はケース426に対して+Y方向へのみ移動可能である。支持ばね903では、一端が中空体500の内壁に接続しており、他端が歯止め902に接続して歯止め902を支持する。収容部904は歯止め902及び支持ばね903を収容する。収容部904は、歯止め902の+Y方向及び-Y方向の動きを拘束することで、中空体500の複数の歯901に対する-Y方向への移動を阻止し、かつ、中空体500の複数の歯901に対する+Y方向への移動を許す。
【0031】
<ばね700>
ばね700の一方の端部は、ばね取付部701によって移動部100に接続され、ばね700の他方の端部は、ばね取付部702によって移動機構部400に接続されている。ばね700は、着陸脚用ビーム30Aへの衝撃の入力により圧縮され、着陸脚用ビーム30Aへの力の入力がなくなると、復元力で圧縮前の自由長に戻る。図7では自由長はL1である。ばね700は、スライド支持部1000及びスライド支持部1001の摩擦抵抗と、歯901と歯止め902との間の摩擦抵抗とに打ち勝って、「移動部100と衝撃吸収部材200と中空体500」とが一体になって伸展できる程度のばね定数を持つ。ばね700は、衝撃吸収部材200が圧縮でつぶれるときに復元力を持つが、この復元力は衝撃吸収部材200が圧縮でつぶれる現象を阻害しない程度である。
【0032】
<状態(A)>
状態(A)は、図7の状態、つまり、ばね700の長さが自由長L1のときに衝撃41が着陸脚用ビーム30Aに入力した直後を示す。移動部100が衝撃41を受けた際、衝撃吸収部材200はつぶれるが、ばね700の力を上回る力が移動部100にかかるかぎり、移動部100と移動機構部400との相対位置は、力のつり合い点にとどまる。衝撃41がフットパッド31に入力すると、移動部100は-Y方向へ移動しようとする。移動部100の先端は衝撃吸収部材200を押しつぶそうする。衝撃吸収部材200は第5支持部505に支持されている。第5支持部505は中空体500と一体であるので、第2ラチェット機構900により-Y方向には移動しない。よって衝撃吸収部材200は△d1だけつぶれることで衝撃41を吸収する。このときばね700の長さは「L1-△d1」である。ばね700には△d1の圧縮による復元力703が生じている
【0033】
<状態(B)>
状態(B)は、状態(A)から復元力703によってばね700の長さが自由長L1に戻った状態である。移動部100にかかる力が抜けた際、ばね700により、「移動部100、衝撃吸収部材200および中空体500」は一体となって、ケース426に対してばね700の復元長さ△d1だけ+Y方向へ伸展する。状態(B)に示す復元力703は力が抜けた直後を示している。これは以下のようである。移動部100にかかる力が抜けた際、ばね取付部701は+Y方向へ移動しようとする。この時、第1ラチェット機構800により、移動部100は中空体500に対して+Y方向には移動できない。また、第2ラチェット機構900により、中空体500は、ケース426に対して+Y方向のみに移動できる。よって、ばね700の復元力703によって、「移動部100、衝撃吸収部材200および中空体500」は一体となって、ケース426に対してばね700の復元長さ△d1まで+Y方向へ伸展する。
【0034】
<状態(C)>
状態(C)は状態(B)から衝撃42が着陸脚用ビーム30Aに入力し、ばね700が△d2圧縮した状態を示す。移動部100が衝撃42を受け、力が着陸脚用ビーム30に入力されている状態では、Y方向における中空体500の位置は、状態(B)の位置と同じである。これは第2ラチェット機構900により中空体500は-Y方向には移動できないからである。また第1ラチェット機構800及び第2ラチェット機構900により、衝撃吸収部材200は△d2だけつぶれることで衝撃42を吸収する。このときばね700の長さは「L1-△d2」であり、ばね700には△d2の圧縮による復元力704が生じている。
【0035】
移動部100にかかる力が抜けた際、ばね700は自由長L1に復元することで、「移動部100、衝撃吸収部材200および中空体500」は一体となって、ケース426に対してばね700の復元長さ△d2だけ伸展する。伸展方向(+Y方向)に移動した中空体500は縮まる方向(-Y方向)には第2ラチェット機構900で動かない。このため、着陸脚用ビーム30Aは、いつでも次の衝撃を衝撃吸収部材200に負荷することができる。
【0036】
着陸脚用ビーム30Aは、アクチュエータ422を搭載せず、第1ラチェット機構800、第2ラチェット機構900及びばね700を有する受動的な移動機構部400を備えている。よって、着陸脚用ビーム30Aは、電子的な制御を必要とせず、複数回の衝撃に対し、機械的な構造によって毎回同じ緩衝特性を示すことのできる衝撃緩衝機構を提供できる。着陸脚用ビーム30Aは機械的な構造に基づくため、電気系統の故障が発生した場合も、毎回の衝撃を同じ緩衝特性で吸収することができる。
【0037】
なお、図3の説明では、先端部104と衝撃吸収部材200とは離れている。しかし、先端部104と衝撃吸収部材200とは、着陸前の最初の状態から接続していてもよいし、着陸前の最初の状態では離れていてもよい。
【0038】
なお、図7図8では、第1ラチェット機構800、第2ラチェット機構900を説明したが、これらは一例である。逆移動を防止できる機構であれば、第1ラチェット機構800、第2ラチェット機構900に限らず、どのような機構を用いても構わない。
【0039】
図7では、ばね700の他方の端部は、移動機構部400に取り付けられたばね取付部702に接続されているが、これは一例である。ばね700の他方の端部は、移動機構部400に繋がる固定部であれば、どのような固定部に接続してもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 探査機、20 着陸脚、30,30A 着陸脚用ビーム、31 フットパッド、40,41,42 衝撃、100 移動部、101 円柱部、102 取付部、103 取付孔、104 先端部、105 第1鍔部、106 第2鍔部、200 衝撃吸収部材、300 計測部、310 第1装着部、320 第2装着部、330 引き出し線、400 移動機構部、410 ナット、420 回転機構、421 ねじ軸、422 アクチュエータ、423 ベアリング、424 ベアリング、425 アクチュエータ支持部材、426 ケース、427 取付部、428 取付孔、500 中空体、500S 面、510 スリット、501 第1支持部、502 第2支持部、503 第3支持部、504 第4支持部、505 第5支持部、600 回転制御部、700 ばね、701 ばね取付部、702 ばね取付部、703,704 復元力、800 第1ラチェット機構、801 歯、802 歯止め、803 支持ばね、804 収容部、900 第2ラチェット機構、901 歯、902 歯止め、903 支持ばね、904 収容部、1000,1001 スライド支持部。
図1
図2
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図5
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図7
図8