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  • 特許-折損バットを用いた靴べらの加工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】折損バットを用いた靴べらの加工方法
(51)【国際特許分類】
   B27C 5/06 20060101AFI20240617BHJP
   A47G 25/82 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B27C5/06
A47G25/82
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021211820
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096225
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】516272250
【氏名又は名称】株式会社スタイズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪内 研二
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-055324(JP,A)
【文献】実開昭63-084301(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27C 5/06
A47G 25/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械により折損バットから靴べらを製造する方法であって、
前記折損バットの円筒状のヘッド部の側面を切削して四角柱状とし、前記ヘッド部をクランプ可能に成形する第1工程と、
第1工程で四角柱状に成形したヘッド部をクランプした状態で、前記折損バットのグリップ部またはテーパー部からヘッド部にかけて漸次薄肉となるように前記折損バットを切断する第2工程と、
第1工程で四角柱状に成形したヘッド部をクランプした状態で、フライス加工により、第2工程で切断した切断面をへら状に切削する第3工程と
第1工程で四角柱状に成形したヘッド部を切り落とす第4工程と、
やすりがけによる仕上げ切削を行う第5工程とを含むことを特徴とする靴べらの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械により折損バットから靴べらを製造する際の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
野球用の木製バットは、練習や試合での使用で頻繁に折損する。その数はプロ野球の場合で1試合あたり20本を上回ることもある。木製バットの折損が破断にまで至ることはまれであって、多くは表面や芯にひびが入る程度の損傷であるが、折損したバットは使用を継続することができなくなる。
【0003】
特許文献1記載の発明では、折れた野球用バットに、樹脂を含浸したフィラメントや布帛を巻回して補強し、再度野球用バットとして使用する方法が提案されている。しかし、この方法では、握りの部分以外に何らかの物質を付着させることを禁止した野球規定に抵触し、少なくとも試合では使用できないおそれがある。また、安全面においても不安が残る。このように、一般的にはひびの入ったバットは野球用として再使用することができず、そのほとんどは燃やされて廃棄されてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-128424号公報
【0005】
そこで、折損バットを廃棄せず、箸や靴べらなど、バット以外の商品に加工してリサイクルする試みもなされている。折損バットをリサイクルすることは、野球チームが負担するバットの廃棄費用を削減することに加え、SDGsの重要課題である高度循環型社会の実現にも寄与する。また、バットの形状を生かした靴べらへのリサイクルは、持ちやすいという靴べらとしての使用感に優れるだけでなく、グリップエンドに刻印された球団名や背番号などの情報がそのまま残ることから野球ファンへの訴求効果が期待できる。しかし、これらのリサイクル加工は職人の手作業によるものがほとんどであり、量産が困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決し、工作機械により折損バットから靴べらを製造する生産性に優れた加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、工作機械により折損バットから靴べらを製造する方法であって、前記折損バットの円筒状のヘッド部の側面を切削して四角柱状とし、前記ヘッド部をクランプ可能に成形する第1工程と、第1工程で四角柱状に成形したヘッド部をクランプした状態で、前記折損バットのグリップ部またはテーパー部からヘッド部にかけて漸次薄肉となるように前記折損バットを切断する第2工程と、第1工程で四角柱状に成形したヘッド部をクランプした状態で、フライス加工により、第2工程で切断した切断面をへら状に切削する第3工程と、第1工程で四角柱状に成形したヘッド部を切り落とす第4工程と、やすりがけによる仕上げ切削を行う第5工程とを含むことを特徴とする靴べらの製造方法とする。
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本発明では、折損バットを靴べらに作り変える生産性に優れた加工方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製造方法により製造された靴べらの平面図である。
図2】折損バットの側面図である。
図3】本発明の靴べらの製造工程を示すフローチャートである。
図4】本発明の靴べらの形成過程を示す説明図である。
図5】第1工程及び第3工程に用いられるフライス加工機の平面図である。
図6】第1工程及び第3工程に用いられるフライス加工機の正面図である。
図7】第1工程及び第3工程に用いられるフライス加工機の右側面図である。
図8】第2工程に用いられる切断機の平面図である。
図9】第2工程に用いられる切断機の右側面図である。
図10】第3工程におけるへら状切削加工の態様を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に発明を実施するための形態を示す。本発明により製造される靴べら10は、図1に示されるように、靴に差し込むことができるへら部11と、へら部11と反対側の端部において持ち手となる把持部12とを備えている。
【0012】
靴べら10は、折損バット20を原材料とし、バットの形状を生かすように加工して製造する。本発明で用いる折損バット20は、野球またはソフトボールなどで打者がボールを打つために使用する木製のバットであって、使用中にひびが入るなどして破損したものである。
【0013】
図2に示されるように、折損バット20は、先端から基端に向かって順に、ヘッド部21と、ボールを打つ打球部22と、打球部22から基端に行くにしたがって外径が漸次小径となるテーパー状に形成されたテーパー部23と、打者が把持するためのグリップ部24と、グリップ部24の端部に形成されたグリップエンド25とを備えている。本発明では、折損バット20の打球部22がへら状に切削され、靴べら10のへら部11を形成する。へら部11の基端側の端部は、打球部22を超えてテーパー部23に位置していてもよい。また、折損バット20のグリップ部24はそのまま靴べら10の把持部12となる。このため、本発明によって製造された靴べら10は、バットを持つ要領で把持部12を持って使用することができる。
【0014】
なお、野球のバットの破損の仕方は様々であるが、一般的に、テーパー部23やグリップ部24にボールが当たって折れたりひびが入ったりすることが多い。このとき、バットが真っ二つに破断することはまれであり、ほとんどの場合、バットの長手方向に延びるようにひびが入る。例えば、図2に示す例の折損バット20は、テーパー部23から打球部22にかけて長手方向に延びるひび26が入っている。本発明によって製造される靴べら10は、ひびの入った部分を切削したり、接着剤や樹脂等で固めたりすることにより、ひびの入り具合に依存せず様々な折損バット20を原料とすることができる。また、折れて破断してしまった折損バット20であっても、グリップエンド25の底面から27インチ以上の長さが残存していれば靴べら10に加工することが可能である。
【0015】
(靴べら10の製造方法)
次に、靴べら10の製造方法Mについて説明する。図3に示されるフローチャートのとおり、本発明の靴べら10の製造方法Mは、第1工程S1~第5工程S5を含む。また、後述するように、製造方法Mにおいては、図4に示される形成過程を経て折損バット20から靴べら10が製造される。
【0016】
(第1工程S1)
まず、第1工程S1では、円筒状のヘッド部21の側面を切削して四角柱状とし、ヘッド部21を強固にクランプできる形状に成形する。これは、第2工程及び第3工程において、切断や切削によって受ける衝撃で折損バット20がぶれないように強固にクランプするための工程である。
【0017】
第1工程S1で用いる工作機械の例を説明する。実施形態では、図5~7に示されるフライス加工機30を用いる。フライス加工機30は、基台となるベース31と、ベース31の上面に立設されたフレーム32とを備える。ベース31の上面には、後述するY軸レール311に沿って移動可能な移動体33が設けられている。移動体33は、その上面に後述するX軸レール331を備え、X軸レール331に沿って移動可能なワーク支持用のテーブル34が配置されている。
【0018】
フレーム32の前面には、サドル35が設けられている。サドル35の前面には、スピンドルモータ36と、スピンドルモータ36の主軸361に取り付けられて折損バット20を加工する切削工具CTとが配置されている。本実施形態における切削工具CTはボールエンドミルであるが、他の工具であってもよい。
【0019】
本実施形態のフライス加工機30は、切削工具CTとワークである折損バット20との相対位置を3軸方向に変更することができる。本実施形態においては、図6における上下方向をZ軸とし、図5における左右方向をX軸とし、X軸及びZ軸に対して垂直な方向をY軸とする。フライス加工機30では、切削工具CTがZ軸方向に、ワークである折損バット20がX軸方向及びY軸方向に移動可能となっている。
【0020】
フライス加工機30における切削工具CTと折損バット20との相対移動を可能とする移動装置について具体的に述べる。切削工具CTのZ軸方向の移動装置は、図7に示されるように、サドル35に設けられた一対のZ軸レール351と、Z軸レール351に沿って往復移動が可能なモータベース352とを備えている。モータベース352はスピンドルモータ36を支持している。モータベース352には、サーボモータとボールねじを有するロボシリンダ353が接続されており、ロボシリンダ353のロッド354の進退によってモータベース352のZ軸方向の移動が可能である。これらの構成により、スピンドルモータ36に接続された切削工具CTがZ軸方向に移動可能となっている。
【0021】
ワークである折損バット20のX軸方向及びY軸方向の移動装置について具体的に述べる。ワークのY軸方向の移動装置は、図5及び図6に示されるように、ベース31の上面に設けられた一対のY軸レール311と、Y軸レール311に沿って往復移動が可能な移動体33と、移動体33を移動させるロボシリンダ312とを備えている。また、ワークのX軸方向の移動装置は、移動体33の上面に設けられた一対のX軸レール331と、X軸レール331に沿って往復移動が可能なテーブル34と、テーブル34を移動させるロボシリンダ332とを備えている。テーブル34は、ワークを固定するクランプ341を備え、ワークである折損バット20を支持する。これらの構成により、テーブル34上に固定された折損バット20がX軸方向及びY軸方向に移動可能となっている。
【0022】
第1工程S1では、切削工具CTによって折損バット20のヘッド部21の側面を切削し、図4(b)に示されるように、強固にクランプしやすい四角柱状とする。
【0023】
(第2工程S2)
第2工程S2では、へら部11を切削成形する前工程として、へら部11の基端側端部となる位置からヘッド部21にかけて漸次薄肉となるように、折損バット20の厚さを削ぐ切断加工を行う。
【0024】
第2工程S2で用いる工作機械の例を説明する。実施形態では、図8及び図9に示される切断機40を用いる。切断機40は丸鋸盤であって、基台となるベース41と、丸鋸刃421が取付可能な切断部42と、ワークである折損バット20のヘッド部21を支持するヘッド側バイス43とを備える。実施形態の切断機40は、ワークである折損バット20が固定され、切断部42が移動することにより切断加工を行うものである。
【0025】
切断部42は、図8に示されるように、ベース41に設けられた一対のレール411に沿ってベース41に対して移動可能に取り付けられており、折損バット20を切断可能な丸鋸刃421と、丸鋸刃421が取り付けられる駆動軸422と、駆動軸422の駆動源である図示しないモーターとを備えている。レール411は、ワークとして固定された折損バット20の長手方向の中心軸に対して斜めになるように配置されている。これにより、丸鋸刃421の切断軌道T1が前記中心軸に対して斜めになるため、折損バット20の厚さを斜めに削ぐように切断することができる。
【0026】
また、実施形態の切断部42は、丸鋸刃421の位置を前後方向に移動させることが可能な手動ユニット423を備えている。手動ユニット423のハンドルを回転させて、折損バット20に対する丸鋸刃421の前後方向の位置を調節することができ、ひび26の入り方に合わせて折損バット20から切り取る部分の厚さや位置を微調整することが可能である。
【0027】
実施形態のヘッド側バイス43は、図8に示されるように、一対のレール431と、レール431に沿って往復移動が可能であって、角柱状に切削されたヘッド部21を上下方向からクランプして固定することができるクランプシリンダ43とを備えている。
【0028】
実施形態のクランプシリンダ43は、図9に示されるように、固定ジョー43と、固定ジョー43と協働してヘッド部21をクランプする可動ジョー43と、可動ジョー43の基端側に設けられ、ロッドの進退によりクランプ/アンクランプ状態を切替可能なシリンダ43とを有する。クランプシリンダ43は、図8に示されるように、切断部42に対して後ろ側から折損バット20を挟持するように配置されている。これにより、ヘッド側バイス43と丸鋸刃421の切断軌道T1とが干渉することを防ぐことができる。
【0029】
また、実施形態の切断機40には、折損バット20のグリップ部を挟持するグリップ側バイス44が設けられている。このように、折損バット20を少なくとも2個以上のバイスで支持することにより、切断の衝撃による折損バット20のブレを抑制することができる。なお、折損バット20を保持するバイスは2個に限らず、必要に応じてその数を増やすこともできる。
【0030】
第2工程S2における切断加工の具体的な手順は以下のとおりである。まず、切断部42を、図8に示す方向においてレール411の左側端部のスタート位置に配置する。次に、ヘッド側バイス43及びグリップ側バイス44を用いて、折損バット20を切断機40に固定する。このとき、クランプシリンダ432の左右方向の位置を微調整することにより、折損バット20に対して丸鋸刃421が入り始める位置(切断開始位置)を適切に調整することができる。この切断開始位置は、折損バット20のグリップ部24またはテーパー部23とすることが好ましい。左右位置を調整した後、リニアガイドクランパー436により、クランプシリンダ432をレール431に対して強固に固定する。同様に、手動ユニット423を操作して、切断する部分が意図するとおりの厚さとなるように丸鋸刃421の前後方向の位置を微調整する。
【0031】
上記した位置合わせの後、丸鋸刃421を回転させた状態で右側へ送り、折損バット20をグリップ部24またはテーパー部23からヘッド部21にかけて漸次薄肉となるように切断する。このとき、図4(c)に示されるように、ヘッド部21を切り落とさず、次工程でクランプできるように残しておくことが好ましい。
【0032】
このように、靴べら10のへら部11を半円状に切削する前工程として、折損バット20の厚さを削いでおくことにより、折損バット20にかかる負担を軽減して破損を抑制することができる。
【0033】
(第3工程S3)
次に、第3工程S3では、S2の切断加工によって形成された切断面27に対してフライス加工機30を用いて切削加工を行い、へら部11を形成する。まず、折損バット20を2か所のクランプ341に支持させ、ヘッド部21を図示しないクランプによって固定し、テーブル34にセットする。固定用に残したヘッド部21をクランプすることにより、切削の衝撃によるブレを抑制することができる。
【0034】
このように固定された折損バット20に対し、Z軸方向に移動可能な切削工具CTと、X軸及びY軸方向に移動可能なテーブル34とが協働し、図10に示される切削軌道T2に沿って切断面27がへら状に切削される。このとき、切削工具CTに対して折損バット20を回転させるのではなく、折損バット20をテーブル34に固定したままX軸方向及びY軸方向に移動させることにより切削軌道T2が形成されることが好ましい。切削された折損バット20は、図4(d)に示されるように、断面半円状となる薄いへら部11が形成された状態となる。
【0035】
(第4工程S4)
第4工程S4では、S3においてクランプ用に残しておいたヘッド部21を切り落とす図4(e)参照)。ヘッド部21の切断は実施形態の切削工具CTであるボールエンドミルを用いて行っても良いし、刃先を別の切削工具CTに交換して行ってもよい。
【0036】
第5工程S5では、S3で切削形成されたへら部11のバリや、S4におけるヘッド部21の切断面を削るなどの仕上げを行う。S5は紙やすりなどを用いて人手によって行い、図に示す形態の靴べら10を完成させる。
【0037】
本発明の製造方法Mによれば、手作業で行うのは主にS5の仕上げ工程であって、S1~S4は工作機械によって自動的に作業することが可能となる。よって、精度よく量産することが可能で生産性に優れた靴べらの製造方法を提供することができる。
【0038】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、製造方法Mは、氏名や日付などの文字情報や球団のロゴ等の画像情報を印字する印字工程を含むものであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 靴べら
11 へら部
12 把持部
20 折損バット
21 ヘッド部
22 打球部
23 テーパー部
24 グリップ部
25 グリップエンド
26 ひび
27 切断面
30 フライス加工機
31 ベース
32 フレーム
33 移動体
34 テーブル
35 サドル
36 スピンドルモータ
CT 切削工具
40 切断機
41 ベース
42 切断部
43 ヘッド側バイス
44 グリップ側バイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10