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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】気泡の微細化方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/093 20060101AFI20240617BHJP
   B01F 23/20 20220101ALI20240617BHJP
   B01F 35/00 20220101ALI20240617BHJP
   B28B 1/087 20060101ALI20240617BHJP
   B28B 13/02 20060101ALI20240617BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20240617BHJP
   E04G 21/08 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B28B1/093
B01F23/20
B01F35/00
B28B1/087
B28B13/02
C04B38/00 302Z
E04G21/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017213160
(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公開番号】P2018144470
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-10-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2017035531
(32)【優先日】2017-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017046935
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510202167
【氏名又は名称】Next Innovation合同会社
(72)【発明者】
【氏名】道脇 裕
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】増山 淳子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-309709(JP,A)
【文献】特開2005-103923(JP,A)
【文献】特開平6-190808(JP,A)
【文献】特開2002-308659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B1/08-1/10
C04B38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動体中の気泡を微細化する気泡の微細化方法であって、
流動体の全体に対してほぼ均等に作用させる加速度を、反力を取りながら与えることで、該流動体に変動的な慣性力を与えるものであり
上記変動的な慣性力を与える工程が前工程と後工程を有し、
上記流動体の物理的及び/又は化学的属性及び/又は気泡の物理的及び/又は化学的属性に応じて、後工程では前工程よりも上記変動的な慣性力の変動幅が小さく、単位時間当たりの変動数が大きくなる条件で、上記流動体に作用させる少なくとも2Gを超える変動的な加速度とこれに伴う上記変動的な慣性力を制御することを特徴とする気泡の微細化方法。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れかに記載の気泡の微細化方法を用いた、流動体加工製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動体中の気泡を微細化する気泡の微細化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流動体を用いて製品等を製造する場合に、品質や外観上の観点から流動体中に含まれる気泡の処理が必要となる場合があった。例えば、流動体を固化させる際に、流動体中に気泡が存在すると、固化体の内部や表面に空洞や窪みが生じ、その解消のための処理には手間やコストがかかっていた。
【0003】
このような問題に関して、例えば、特許文献1には、電動機を連結又は内蔵する振動体と、鋤板と、この振動体と鋤板を連結する連結部とを有するコンクリートの気泡低減振動機が開示され、この気泡低減振動機を未硬化のコンクリートの型枠近傍に挿入し、振動させることでコンクリートの気泡を低減する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような振動機では、コンクリートの粘性やセメントペーストと細骨材や粗骨材といった性状や形状或いは大小、比重が様々な混合形態による振動の散乱や乱反射による減衰等から振動が全体に行き渡らず、局所的にしか振動を与えることができないという問題があった。また、振動機を型枠近傍に挿入する作業には、労力や費用が過大に生じる。更に、そもそもとして、与えている振動条件では、被振体の消泡条件に合っておらず消泡することが出来ないという問題が有った。
【0005】
また、特許文献2には、コンクリート成型品型枠を載置する型枠載置テーブルを形鋼等の枠組みによって構成し、同じく形鋼等の枠組みによって基台を構成し、この基台上に型枠載置テーブルをゴム等の緩衝部材を介在させて取り付け、型枠載置テーブルにコンクリート成型品型枠を載置固定する型枠固定装置を設け、この型枠固定装置から離れた型枠載置テーブルの部位に振動モータを装着してあるセメントコンクリート製品の成型用テーブルバイブレータが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されているテーブルバイブレータは、消泡条件に適合しない単なる固定化された所定の振動しか与えることしかできず、コンクリート表面及び/又はコンクリート内部の気泡、所謂エントラップトエアを微細化させたり、消失させたり出来るものではなく、外観上消失できるまで微細化することはできないという問題があった。即ち、与えている振動条件では、被振体の消泡条件に合っておらず消泡することが出来ないという問題が有った。
【0007】
また、特許文献3には、各種塗工機や印刷機で使用される、塗工材料やインキ等に含まれる気泡を除去するために用いられる脱泡装置であって、脱泡処理槽と該脱泡処理槽に接続された超音波振動子を備えた脱泡装置が記載されている。
【0008】
しかしながら、音波、特に超音波を用いて消泡する技術にあっては、流動体が粘性流動体或いは比重や硬さ大きさや形状の異なる複数の物体を含有して成る混成流動体であって体積が十分に大きい場合、音波を入力している付近では予め設定した条件の波動を印加できるものの、音波入力源から離れるとこれに伴って音波が著しく減衰し、減衰波が設定条件から外れてしまい、不均一で、全体に満遍なく行き渡らず、結果として許容程度まで消泡し切れないという問題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-16868号公報
【文献】特開平5-318422号公報
【文献】特開2010-167386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものであり、流動体の表面及び内部の気泡を微細化することができ、美観が良く、高品質の製品を低コストで効率良く製造することができる気泡の微細化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、流動体中の気泡を微細化する気泡の微細化方法であって、流動体に変動的な慣性力を与え、流動体の物理的及び/又は化学的属性、例えば、種類や材質や組成、配合比率、構成物体の単体質量、固有振動数、粘性、比重、密度等及び/又は気泡の物理的及び/又は化学的属性、例えば、大きさ(容積、表面積、直径や概形寸法)や界面張力、崩壊抵抗力(後述を参照のこと。)等に応じて、変動的な慣性力の変動幅、単位時間当たりの変動数、繰り返し変動させる時間又は変動回数、加速度から選択される一つ以上の条件により変動的な慣性力を制御することを特徴とする。流動体はシャーベット状、ゼリー状、ペースト状、ゲル状、スラリー状、粘性流体、複数の物体が混合されて成るものやこれらの複合形態或いは反応により固化するものでもよい。また、流動体は、粉体乃至顆粒状の形態の固体を含有していても良い。また、流動体は反応により固化するものとすることができ、固化反応の開始直後及び/又は完全固化前に変動的な慣性力を与えることができる。変動的な慣性力は、流動体の全体に対して同時に一様に与えても良いし、例えば、流動体を保持する型枠全体に変動的な慣性力を加えることで、流動体に変動的な慣性力を与えても良い。また、変動的な慣性力は、流動体の原料混合時、流動体の運搬時、流動体の型枠への注入時の何れかにおいて加えることができ、例えば、流動体の型枠への注入時に、流動体を型枠内に導入しながら変動的な慣性力を与えることもできる。変動的な慣性力は、鉛直方向及び/又は水平方向に与えることができ、流動体の粘性、比重、気泡の大きさから選択される一つ以上の条件に応じて変動的な慣性力を制御することもでき、或いは、繰り返し変動させる時間又は変動回数の経過に応じて変動幅と変動数を同時に制御することにより変動的な慣性力を制御することもできる。
【0012】
粘性流体の場合、粘性抵抗が高いため、特許文献1に記載の発明のように、局所的に振動を加えても流動体全体に振動が伝搬しないが、本発明の一態様では、変動的な慣性力(例えば、揺動)を外部からの強制力として流動体に対してほぼ均一に与えることができる。この場合、流動体に対する外部からの強制力は、流動体の体積を成す全体に対してほぼ一様に慣性力を与えるものとして作用するのであり、流動体は振動の媒質ではないので、流動体の内部において外部からの強制力が局所的に減衰するというようなメカニズムは殆ど生じない。例えば、流動体を保持する型枠全体を揺動させることで、流動体を揺動させる。或いは、流動体の原料混合時、流動体の運搬時、流動体の型枠への注入時の何れかにおいて変動的な慣性力(揺動)を与えても良い。型枠全体を揺動させることが困難な場合、流動体の型枠への注入時に、流動体を型枠内に導入しながら変動的な慣性力(揺動)を与えても良い。揺動は、鉛直方向及び/又は水平方向、或いはこれらの合成方向として与えることもできる。
【0013】
また、本発明の一態様では、流動体の種類及び/又は気泡の大きさに応じて、変動的な慣性力の変動幅(振幅)、単位時間当たりの変動数(振動数)、繰り返し変動させる時間(振動時間)又は変動回数から選択される一つ以上の条件により変動的な慣性力(振動)を制御することで、被振体に応じて気泡の除去に効率的な慣性力を与えることができる。これらの、振幅、振動数、振動時間を被振体である流動体の粘性や比重、気泡サイズ、流動体と気泡の界面に働く張力等の性状に応じて設定することが好ましい。
【0014】
尚、加振直前においては、その状態で存在する最大級のサイズの気泡に合わせて振動条件を設定し加振することが好ましく、この条件による加振によって当該最大級気泡は、崩壊して概ね、例えば、1/2、1/3、1/4(必ずしも、自然数の逆数的な比率で分裂する訳ではない。)等々のサイズの気泡に分裂するので、所定時間経過後、振動条件を次なる対象気泡にシフトさせながらより大きな気泡からより小さな気泡へと崩壊させて行くのが好ましい。最終的には、許容サイズの気泡のみが存在するか又は肉眼で見えなくなる程度まで、或いは完全消失するまで変動的慣性力を付与することが好ましい。
【0015】
本発明の一態様は、例えば、プレキャスト製品、特にプレキャストコンクリート製品、具体的には、トンネルセグメント、ボックスカルバート、側溝、蓋、電柱、下水道管、インターロッキングブロック等の製造に用いることができる。本発明の一態様に係る気泡の微細化方法は、様々な流動体の加工製品の製造方法に適用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流動体の表面及び内部の気泡を微細化若しくは消泡することができ、美観が良く、均質で高品質の製品を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法が適用される、流動体を用いた加工成型体の製造工程の一例を示す工程図である。
図2】本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、変動的な慣性力を与える方向を説明するための概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、気泡微細化の第一のメカニズムを模式的に表した概略図である。
図4】本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、気泡微細化の第二のメカニズムを模式的に表した概略図である。
図5】本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、気泡微細化の第三のメカニズムを模式的に表した概略図である。
図6】本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、流動体の注入工程で変動的な慣性力を加える方法の一例を示した概略断面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、流動体の注入工程で変動的な慣性力を加える方法の他の例を示した概略図である。
図8】実施例において条件を変えたときのコンクリートの気泡の状態を表した図である。
図9】実施例において条件を変えたときのコンクリートの気泡の状態を表した図である。
図10】実施例において条件を変えたときのコンクリートの気泡の状態を表した図である。
図11】実施例において条件を変えたときのコンクリートの気泡の状態を表した図である。
図12】実施例において条件を変えたときのコンクリートの気泡の状態を表した図である。
図13】実施例の他の態様において条件を変えたときのコンクリートの気泡の状態を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した気泡の微細化方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更可能である。
【0019】
本発明の一実施形態は、流動体中の気泡を微細化する気泡の微細化方法であって、流動体に対して変動的な慣性力を与え、流動体の物理的及び/又は化学的属性及び/又は微細化対象とする気泡の微細化前の物理的及び/又は化学的属性に応じて、少なくとも変動的な慣性力の変動幅、単位時間当たりの変動数、変動させる回数若しくは時間或いは変動時の加速度から選択される一つ以上の条件により変動的な慣性力を制御することを特徴とする。流動体全体に変動的な慣性力を与えることにより、流動体内部及び表面に存在する気泡を外観上、及び品質上問題ない大きさにまで微細化及び/又は消泡することができる。被振体である流動体に対して与える、変動的な慣性力としては、特に限定されるものではないが、流動体を不規則に或いはランダムに変位させ、変位の際の正の加速や負の加速(減速)、或いは、向きを変更する過程等において発生させ、流動体に作用させることが出来る。
【0020】
また、本発明の一実施形態における、流動体に対して変動的な慣性力を与える方法としては、流動体に対して規則的及び/又は変動的な慣性力を与えることでも実現することが可能であり、流動体の種類及び/又は微細化対象とする気泡の微細化前の大きさに応じて、規則的及び/又は変動的な慣性力の変動幅、単位時間当たりの反復数及び/又は変動数、繰り返し反復及び/又は変動させる時間又は変動回数等から選択される一つ以上の条件により反復的及び/又は変動的な慣性力を制御することを特徴とする。対象とする流動体全体に反復的及び/又は変動的な慣性力を与えることにより、流動体内部及び表面に存在する気泡を外観上、及び品質上問題ない大きさにまで微細化することができる。
【0021】
本発明の一実施形態では、流動体自体に慣性力を付与すること、特に繰り返し慣性力を付与することが重要なのであり、例えば、特許文献3に記載されているような音源装置によって(超)音波を入射(照射)することが有効な訳ではない。音波の場合は、流動体を振動させる際、流動体自体が波動を伝搬する媒体となっているため、流動体を構成する物体の比重や粘性等の性状により、波動が減衰し、媒体が振動しなくなるので、結果として流動体も振動しないというメカニズムが生じてしまう。また、流動体を構成するのが複数の物体である場合、それらの大きさの差や比重差、質量差等から音波の諸条件によって振動する物体としない物体とが出てしまい、流動体全体に亘って均等な作用を与えられず、流動体全体に亘って気泡を崩壊させる作用を印加できないという問題が有る。特に、被振体である流動体が、複数の多様な形状や質量、比重の固形物を含有する場合、それぞれの表面や境界面において、入力音波が散乱され、及び/又は粘性抵抗等によって減衰してしまい、流動体の体積全体に波動が行き渡らないという問題が有る。
【0022】
これに対して、本発明の一実施形態では、流動体の体積を成す全体に対してほぼ一様に慣性を作用させて、流動体を構成する物体全てに慣性力を与え、流動体の物理的及び/又は化学的属性及び/又は微細化対象とする気泡の物理的及び/又は化学的属性に応じて、変動的な慣性力の変動幅、単位時間当たりの変動数、繰り返し変動させる時間又は変動回数、加速度から選択される一つ以上の条件により変動的な慣性力を制御することにより、気泡を小細化するのに適した慣性力を気泡周辺に加え、気泡自体に生じる慣性力との差から流動体の表面及び内部の気泡を微細化することができ、これにより、美観が良く、高品質の製品を効率良く製造することができる。勿論、被揺動体である流動体に印加する慣性力としては、必ずしも往復的なものでなければならないというものではなく、規則的な慣性力の他、不規則的なものであっても規則性と不規則性の中間的なものであってもよい。
【0023】
変動的な慣性力を与える手段は、特に限定されないが、例えば、回転方向を繰り返し交番させる回転系における遠心力によって変動する慣性力を得るように構成されるものであってもよく、或いは、揺動や振動によることができる。以下、本発明の一実施形態として振動により変動的な慣性力を与える場合について説明する。この場合、変動的な慣性力の変動幅は振幅に、単位時間当たりの変動数は振動数に、繰り返し変動させる時間は振動時間にそれぞれ相当する。
【0024】
尚、本発明において流動体とは、内部に気泡が保持される程度の粘性を有する、液体、粉体や粒体若しくは粉粒体等を有する流動性を示す固体、又は液体と固体の混合物を言う。流動体は、例えば、シャーベット状、ゼリー状、ペースト状、ゲル状、スラリー状、粘性流体、複数の物体が混合されて成るものやこれらの混合物等である。複数の物体が混合されて成るものにおいては、複数の物体は、それぞれ性状、形状、大小、比重、硬度、存在比等が多様な形態で混合されて成るものであってもよく、或いは均整の取れたものであっても良い。また、ペースト状を成す流動体としては、液体と気体との混合系が粉体乃至顆粒状或いは顆粒状より大きな固形物等の形態の固体によって囲繞された形態を成す所謂ペンデュラー状、及び/又は、内部に気泡が存在して成る液体を粉体乃至顆粒状等の形態の固体が囲繞した形態を成す所謂フェニキュラー状、及び/又は、気泡を含有しない液体が粉体乃至顆粒状等の形態の固体に囲繞された形態を成す所謂キャピラリー状の要素体を含有して成る混成状態のもの、不規則状態のものであってもよい。本発明の一実施形態では、気泡が内部に保持されてしまうような高粘性の流動体や混合物として成る流動体が好適である。
【0025】
本発明の一実施形態は、流動体が自身における反応により固化するものに対して適用することができる。気泡が含まれている状態で流動体を固化すると、固化体内部の気泡がそのまま空洞や窪みとして残存してしまうため、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法を適用することにより、流動体中の気泡を外観上、及び品質上問題ない大きさにまで微細化することにより、固化された場合であっても、固化体内部に大きな空洞として残存したり、表面に窪みが生じることを解消することができる。尚、ここで品質とは、気泡の微細化後或いは消泡後の流動体若しくは固化体の性状を規定する強度や剛性、弾性、質量分布、稠密性、均質性等のうち、要求される特性であって、特に、要求される特性が要求水準を満たすように、気泡の微細化或いは消泡がなされることが好ましい。
【0026】
流動体を固化させる場合、固化反応の開始直後に振動を与えることが好ましい。流動体の固化がある程度進んでしまうと、気泡が空洞として固定化されてしまい、その解消が困難となる。また、過剰に振動を与え過ぎた場合、例えば、流動体が比重の異なる複数の成分から構成されている場合には、各成分が分離する恐れがあるため好ましくない。
【0027】
本発明の一実施形態では、振動は流動体の全体に対してほぼ均一に行き渡るように与えることが好ましい。均一に振動を与える方法としては、例えば、流動体を保持する型枠全体を振動させる方法が挙げられる。上述したような、特許文献1に記載の振動機では、局所的にしか振動を与えることができず、また、流動体が粘性体のような場合には、全体にまで振動を与えたり、揺動させることができず、十分に気泡を消失させることができないため、振動や揺動は対象とする流動体全体に対して均一に与えることが好ましい。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法が適用される、流動体を用いた加工成型体の製造工程の一例を示す工程図である。流動体を用いて加工成型体等を製造する場合、例えば、原料を混合して流動体を作製し(混合工程S1)、当該流動体を成型場所まで運搬し(運搬工程S2)、型枠へ流動体を注入し(注入工程S3)、型枠内において成型する(成型工程S4)といった工程を経る。発生及び/又は混入した気泡を消失させるためには、最終的な成型工程S4において、型枠に変動的な慣性力(例えば、振動)を加えることができるが、製造する加工成形体の体積及び/又は質量が大きい場合や、成型工程S4を行う製造現場において変動的な慣性力を与える設備を用意するのが困難な場合には、混合工程S1~注入工程S3の何れかにおいて揺動させるなどして変動的な慣性力を加えても良い。具体的な方法については後述する。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、変動的な慣性力を与える方向を説明するための概略図である。本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法においては、変動的な慣性力は、流動体11に対しての鉛直方向、即ち図2のz軸方向に対して与えることが好ましい。鉛直方向に対しては、重力がかかっているため、重力と同方向に対して変動的な慣性力を与えることにより、より効率的に気泡12を微細化して消失させることができる他、気泡を鉛直方向上方に移動させて外部に追いやることも可能である。また、数トン~数十トン規模の大量の流動体11に対して変動的な慣性力を与える場合にも、鉛直方向に対して変動的な慣性力を与える構成の方が、水平方向に対して変動的な慣性力を与える構成に比べて、地面を利用して反力を取ることが可能となって型枠13の制御がより容易となる。但し、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法に関しては、水平方向の変動的な慣性力の付与を除外するものではなく、図2のx軸方向又はy軸方向、或いはx軸とy軸を組み合わせた方向への慣性力を与えるものであってもよい。更には、鉛直方向の慣性力に加えて、上記水平方向への慣性力を与えるものであってもよい。更に、鉛直方向及び/又は水平方向の変動的慣性力の印加に加えて、被加振体を鉛直面内回転、又は、水平面内回転をさせてもよい。この場合、流動体を構成する複数の成分や物体の分離を低減することができる。また、流動体に対する慣性力の印加方法としては、一軸方向に沿った加速の変動によるもののみ成らず、流動体全体を規則的又は不規則的に回転方向を変動させながら回転させることで変動する遠心力を作用させるように構成してもよい。
【0030】
尚、水平方向に対して、変動的な慣性力を加える場合、生じる反力を相殺するために、流動体及びこの流動体を保持して共に運動する、加振装置の振動部と同質量のカウンターウェイトを配設することができる。或いは、カウンターウェイトの代わりに同質量の流動体及びこの流動体を保持して共に運動する、加振装置の振動部を用意し、一方の流動体の運動方向とは反対方向の運動が他方の流動体に加わるようにして、相互に反力を取るように構成しても良い。
【0031】
本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、気泡が微細化されるメカニズムを図3~5を用いて以下に説明する。尚、図3~5中、変動的慣性力方向は、図2のz軸と一致し、また、上下方向も図2の上下方向と一致している。また、本説明では、一例として流動体を単調的且つ往復的な運動によって変動的な慣性力を印加させたものとして説明しているが、運動は単調的且つ往復的な運動に限らない。
【0032】
図3は、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、気泡微細化の第一のメカニズムを模式的に表した概略図である。流動体中の気泡20は、流動体と気泡との界面に作用する張力Fs(以下、「界面張力」と称する)等が加わって形成されている。従って、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、気泡及び気泡を取り巻く流動体に変動的な慣性力を加えることにより、変動的な慣性力の向きが変わるときに、気泡を取り巻く流動体を構成する要素体の質量に比例して作用する慣性力Fi(特に、界面周辺に存在する流動体を構成する要素体に作用する慣性力をここでは界面慣性力と称すことがある。)によって気泡に圧力を与える。詳細に説明すると、単調的且つ往復的な運動に合わせた流動体の上下運動は、上方向への加速移動、上方向への減速移動、下方向への移動方向変更、下方向への加速移動、下方向への減速移動、上方向への移動方向変更を繰り返し行うことになるが、このような加速と減速を繰り返す移動の中で気泡20に慣性力Fiが加えられる(図3(A))。この際、慣性力Fiの大きさが界面張力Fs若しくは後述の崩壊抵抗力よりも大きくなるような変動的慣性力を加えることにより、気泡20を変形させることができ(図3(B))、最終的には、流動体中に存在する或る一つの気泡20を複数の気泡20A、20Bに分断させ、小細化させることができる(図3(C))。この小細化を繰り返すことによって、流動体中の気泡が外観上及び品質上問題ない大きさにまで微細化されることで、流動体中の気泡を肉眼で見えない状態として消失させることができる。
【0033】
このように、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、変動的な慣性力の印加により、気泡と流動体との質量差からもたらされる慣性力差によって気泡を崩壊させ、更に二次の気泡分裂、三次の気泡分裂、・・・のように高次の気泡分裂へと分裂を促進し、これに伴って、気泡を微細化させて行き、所望レベルのサイズまで到達させることで消失効果を得る。このとき、気泡の総体積は、高次気泡分裂化の前後でそれほど変化せず、気泡は流動体中に微細化して残存していても良い。従って、所定レベル以下に高次気泡分裂化を進行させた結果生じる微細気泡は、例えば、直径約25~250μm程度のエントレインドエア化させることが可能である。
【0034】
図4は、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、気泡微細化の第二のメカニズムを模式的に表した概略図である。気泡微細化の第二のメカニズムは、流動体が粉体乃至顆粒状等の形態の固体を含有する場合に、主に機能する。例えば、コンクリートの製造のようにセメントペースト、細骨材及び粗骨材等を含む場合である。便宜的に、コンクリートに対する気泡の微細化方法を例に説明するが、勿論、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、これに限定されるわけではない。
【0035】
変動的慣性力の印加により、流動体30は、印加する単調的且つ往復的な運動のピークとピークの中間位置において、具体的には、流動体30が上方向の移動から下方向への移動へと移動方向を変えて下方向への加速を開始して流動体30の自由落下の速度と一致した時に、瞬間的に無重力に近い状態となる。このとき、流動体30を構成する大径の粗骨材31a及び小径の粗骨材31b(粗骨材31)と、粗骨材31間に存在する細骨材32と、これら粗骨材31と細骨材32の間に介在するセメントペースト33との間に作用していた重力による摩擦力がほぼゼロになる(図4(A))。次の瞬間、変動的慣性力のピーク(流動体30の運動方向が下方向から上方向に移動方向を変更する位置)に達すると、これら粗骨材31、細骨材32、セメントペースト33は、互いが接触した分布としての再配置が成される。この過程で、互いの間に作用する摩擦力は、徐々に最大値に向かって変動するため、途中経過では緩い摩擦力、即ち、固相的ではなく、液相的な流動状態で、より位置エネルギー状態の低い安定状態に向かって流下する(図4(B))。この流下は、気泡34周辺では流動体30から気泡34内へのセメントペースト33や細骨材32を中心とした流れ込みとして生じることになり、流れ込まれる気泡34は埋まる方向にシフトし、流れ込まれる流動体30側では気泡34内に在った気体との入れ替わりが生じることになる。このような流動体/気体交換流動は、一つの気泡34に対して一カ所で起これば、元々の気泡は崩壊すると共に、気体はより上方へと変位することになり、結果として気泡34が上方に移動したようになる。また、一つの気泡34に対する流動体/気体交換流動が複数カ所で生じると、元々一つの気泡34は、より小さな複数の気泡に分裂したように、各々上方に変位する。このように連鎖的に流動崩壊を繰り返すことで、気泡は微細化されるか、又は、最上部まで到達して、流動体30を抜け切るかする。
【0036】
図5は、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、気泡微細化の第三のメカニズムを模式的に表した概略図である。上述した流動体40中の気泡微細化の第一のメカニズム及び第二のメカニズムでは消失されない気泡41が存在し得る。しかしながら、このような気泡41は、粗骨材を含まないモルタルの場合には殆ど存在しない。従って、気泡41生成の主因は、粗骨材42の存在によって生成されると考えられる。つまり、気泡41は粗骨材42に近接されて存在し得、幾つかの粗骨材42に囲まれた空隙が存在して、それら粗骨材42に空気がトラップされることで構成されると考えられる。このような構成の気泡42は、密度が比較的近い粗骨材42同士が寄り集まって且つそれら粗骨材42と密度の近いモルタル(細骨材43とセメントペースト44)をバインダー材として集合体を成している。このことから気泡41は、第一のメカニズム及び第二のメカニズムでは崩壊しない、或いは著しく崩壊し難いものと考えられる。このような構成の気泡41が消失するメカニズムとしては、気泡41を構成する粗骨材42に対して、固有振動数の共振振動を印加することが有効である。
【0037】
現実的には、第一メカニズム、第二メカニズム、第三メカニズムを複合した形態として気泡は微細化して行くと考えられるが、ここで、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法における、変動的慣性力を付与する条件の設定について更に詳しく説明する。以下では、主に上記第一のメカニズムを念頭に説明するが、第二、第三のメカニズムにも適用可能な部分については適宜置き換えて理解しても良い。上述したように、気泡を微細化するためには、気泡に働く気泡の状態を維持しようとする力(以下、「気泡の崩壊抵抗力」と称する)よりも、大きな力、即ち慣性力を振動や衝撃、遠心力(ただし、定常的な遠心力のような慣性力を印加しても気泡を崩壊させることが出来ないことが少なくない。そこで、角速度を加速度的に変化させるなどして非定常状態とすることが好ましい。)等により気泡に与える必要がある。
【0038】
気泡の崩壊抵抗力は、流動体の粘性、比重、構成要素の質量、気泡のサイズ、気泡の界面張力、気泡の内圧、骨材様の固体を含んだ固液混合の流動体の場合にあっては固体間の係合によってトラップされる気体の存在性と固体による気体の囲繞度合い等をパラメータとするものである。従って、対象とする流動体の種類及び/又は気泡のサイズ、形状、形態等により、適宜設定又は推測することが可能である。本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、気泡の崩壊抵抗力を超える力が気泡に加わるように変動的慣性力を制御する。
【0039】
与える変動的慣性力の波形については特に限定されないが、一例として、単振動が現実的且つ効率的である。この場合、例えば、時刻tにおける図2のz軸上の振動の波の変位をf(t)とすると、
【数1】
で表すことが出来る。ここで、Aは振幅、ωは振動数に対応した角振動数、tは振動時間である。従って、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法においては、振幅、振動数(或いは波長)、振動時間から選択される一つ以上の条件により振動を制御することができる。重力存在下で気泡が崩壊せずに存在していることを考慮すると、少なくとも1G(重力加速度)を超える加速度、望ましくは数G程度以上の加速度が気泡に加わるように振動を与えることが好ましい。
【0040】
尚、流動体に対して振動を加えて変動的な慣性力を付与する際の時刻tにおける加速度をG(t)とし、地球上の重力加速度をG≒9.8[m/秒/秒]とするとき、これを基準とした加速度G(t)[G]は、特に限定されるものではないが、
【数2】
の関係を満たすように設定することが効果的且つ効率的で好ましい。また、時刻tにおける振幅をA(t)[mm]、角振動数をω(t)=2πν[rad/秒](ここで、ν[Hz]は振動数である。)とすると、加速度G(t)[G]は、
【数3】
と表される。これより、振動数ν(t)は、
【数4】
と表される。振動数ν(t)を決定する際、例えば、G(t)=5/2・G[G]と設定すると、振動数ν(t)は、
【数5】
と得られる。ここで、時刻t=0のときの振幅をA>0、適宜設定される任意の比例定数を-A<0としたとき、仮に、振幅A(t)を、時間経過と共に減少するものとして、
【数6】
で与えられるものとすると、(数6)式より、振動数ν(t)は、
【数7】
であるから、角振動数ω[rad/秒]は、
【数8】
で与えられる。従って、振動数ν又は角振動数ωは、(数7)式又は(数8)式より、時間tの増大に伴って増大することが解る。このように、加速度G(t)を時間に依存しない定数として設定しても時間の経過に伴って振幅を小さくして行く場合には、振動数や角振動数は時間の経過に伴って増大するように設定することが要請されるといえる。従って、加速度G(t)を時間経過に伴って増大するように設定しようとする場合、振動数νや角振動数ωとしては、時間経過に伴って(数7)式や(数8)式に示されるよりも著しく増大することが解る。
【0041】
振幅は、特に限定されるものではないが、例えば、気泡の直径の10分の1程度以上であって、好ましくは気泡の直径と略同等程度以下の幅とすることができる。振幅がこの範囲より小さ過ぎたり又は大き過ぎたりすると、流動体に加わる慣性力が不十分となって気泡を崩壊させる力が弱くなり、気泡を微小化する力が十分に加わらなくなったり、或いは、過剰な加振エネルギーを加えることになり、エネルギー的にも非効率であって、流動体の構成要素を分離させてしまう可能性が生じるなど不合理となる。尚、流動体が、比重の異なる複数の材料の混合体である場合、過剰な振動を加えると、成分が分離する恐れがある。振動を加えることによって、気泡は次第に分裂し、微小化して行くため、時間の経過に沿って振幅を次第に小さくして行ってもよい。
【0042】
ところで、被振体である流動体全体の系に対する慣性力が一定であれば、系内の至る所に作用する単位面積当たりの力、即ち面圧は概ね一定とみなせる。従って、大径の気泡は、表面積が大きく、気泡全表面として受ける力は比較的大きくなる一方、小径の気泡では、表面積が小さく、気泡全表面積として受ける力は比較的小さくなる。つまり、小径気泡は、大径気泡に比して崩壊し難くなる。よって、流動体に慣性力を作用させて気泡が細分化して行く過程で、慣性力のもととなる加速度を上昇させ、結果として慣性力を増大させて行くことが好ましいといえる。この際、振幅をターゲットとする気泡サイズに合わせて、漸次低下させるとすれば、その分、振動数を増大させることで加速度を増加させることが出来る。
【0043】
また、本発明の一態様では、振動数(周波数)により振動を制御することができる。周波数は特に限定されないが、例えば、数十Hz程度の振動を与えてもよい。周波数が大き過ぎると、流動体が比重の異なる複数の成分から構成されている場合に、各成分が分離する恐れがあるため好ましくない。また、上述したように、振動を与えると気泡は次第に小さくなって行くため、(数2)式乃至(数8)式に示した通り、それに合わせて振動数を次第に大きくして行くように設定してもよい。
【0044】
また、本発明の一態様では、振動時間又は振動回数により振動を制御することができる。振動時間も特に限定されるものではないが、例えば、数十秒から数分の範囲とすることができる。流動体が固化する場合には、固化反応が終了するまでの間に気泡の微細化が完了するように振動条件を設定する必要がある。勿論、揺動させている間は、固化が進行しない流動体も存在するので、この場合は適宜の時間で加振すればよい。また、一定時間を超えて振動させても条件によっては、消泡せず残存し続ける気泡が有り得て、その場合、投入するエネルギーのロスに繋がることになるため、所要の時間程度で停止することが好ましい。
【0045】
更に、本発明の一態様では、上述した以外の条件を更に設定して振動を制御してもよい。例えば、流動体を加熱或いは冷却することにより、内部の気泡の界面張力や気泡内圧を変化させ、微小化し易いように振動を制御することもできる。或いは、振動時に加圧又は減圧しても良い。また、振動時において、流動体に対してインパルス及び/又はインパクトを印加することで衝撃を加えてもよい。流動体に対して衝撃を加えた場合には、流動体中の気泡は、撃力的な圧力を受けるため、より崩壊し易くなる。インパルスについては、流動体に加える振動を、矩形波や鋸波のような波形の振動とすることで発生させることが可能である。この他、衝撃波を印加するようにしてもよい。インパクトについては、流動体と共に振動する物が、被振状態の流動体と相対変位する物との間において衝突を起こすようにシステムを構成することでも実現可能である。
【0046】
このように、流動体の種類及び/又は気泡の大きさに応じて、振幅、振動数、振動時間から選択される一つ以上の条件により振動を制御する。気泡が振動により分裂して一定以上、サイズが小さな気泡となった場合、それまでの振幅、振動数では小さくなった気泡を更に微小化することはできないことがある。従って、振動時間の経過に応じて振幅と振動数を同時に制御し、小さなサイズの気泡に対しても、気泡の崩壊抵抗力を十分に超えるような加速度Gが加わるようにしても良い。
【0047】
更に、本発明の一態様では、サイズの異なる複数の気泡を効率的に微小化する為、或いは所望の合成波形を得る為に、複数の振動波を合成した振動を加えてもよい。即ち、複数の異なる直径d,d,・・・,dnを有する気泡のそれぞれに対して、最適な振幅A,A,・・・,An及び振動数ω,ω,・・・,ωnの組み合わせを用いて、合成波f(t)を、
【数9】
と設定してもよい。このような合成波により振動を与えることにより、様々なサイズの気泡に対して、同時的に短時間で気泡を効率的に微細化することが出来る。また、その極限(すなわち、(数9)式においてn→∞)に近づけたものであってもよい。
【0048】
以上の説明の通り、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法においては、被振体である流動体に対して、慣性力F(t)を所定条件の振動として与えることが可能であり、振動条件としては振動数ν(t)(又は角振動数ω(t))、振幅A(t)、振動時間t等が考えられ、また振動数ν(t)(又は角振動数ω(t))及び振幅A(t)として有効な視点として、これら振動数ν(又は角振動数ω)と振幅Aから計算され地球の重力加速度1Gを超えるものとして設定されることが好ましい加速度G(t)があり、この加速度G(t)こそが変動的な慣性力F(t)、例えば、向きが上下反転する慣性力F(t)を規定することが可能である。この慣性力F(t)と慣性力F(t)を与える時間tとの関係としてみると、被振体である流動体に対して、慣性力F(t)を加えるべき時間tは、必要且つ十分な所定時間τを超える必要がある。勿論、所定時間τを著しく超えることは、反ってエネルギーロスになるので、所定時間τを超えた辺りで停止することが好ましい。ここで、振動系における時間tの本質的意味合いは、振動が、振動数ν(t)で時間t=0からt=τまでの間継続した場合、何回の振動が生じたか、即ち、流動体に対して慣性力が作用する、振動の上端と下端に何度到達したかを与えるパラメータになっているということであり、従って流動体に対しては、一回の振動当たりに、上端と下端で慣性力が合わせて二回作用するので、或るサイズの気泡Bを対象とした振幅Aに対する振動数νのときの加速度をG(G(t)>1[G])とし、且つ、対象とする気泡Bが分断されて細分化されるに足る必要十分な時間をτとするとき、
【数10】
と考えることも可能である。ただしここで、Nは無次元の目安値であり、各サイズの気泡Bに対して、1[G]を超える加速度による慣性力を十分な回数印加しているかをその総和から勘案するための指標である。
【0049】
以上述べてきた通りに被振体である流動体に繰り返し慣性力を印加することで、流動体中の殆どの気泡は細分化され、このような細分化が繰り返されることで気泡の微細化が実現される。所要域まで微細化がなされることで、流動体中の気泡は、美観上或いは品質上問題無い必要十分なレベルまで微細化され、或いは消泡される。しかしながら、以上の手段を以てしても微細化されない気泡が有り得る。このような微細化されずに残存し得る気泡の類は、特に、被振体である流動体が、ペースト状の流動体中に細骨材や粗骨材を含んで成る場合において希に見受けられるものである。この種の気泡(以下、残存性気泡と称す。)の構成と崩壊法について以下に述べる。
【0050】
上述したように残存性気泡は、特に、粗骨材のような比較的大きな複数の固形物に囲繞され、それら粗骨材間にペーストが介在することで形成されることが少なくない(第三のメカニズム)。この場合、残存性気泡を取り巻く粗骨材は、1[G]を十分に超える慣性力を与えても各粗骨材間の相対位置が崩れず、残存性気泡を生じる。そこで、このような状態下に在る残存性気泡を崩壊させて細分化させるためには、それら残存性気泡を取り巻く粗骨材をそれぞれ揺動させて変位させたり、相対位置関係を変えさせるなどして、粗骨材が成す構造(以下、気泡捕捉構造と称す。)を破壊する必要がある。
【0051】
そこで、残存性気泡を取り巻く粗骨材ηの質量をmηとすると、粗骨材ηの固有振動数νηは、
【数11】
と表され、この固有振動数νηに相当する振動Vを被振体である流動体に対して入力することで、流動体中に存在する質量がmηと近い粗骨材が、外部からの強制振動Vと共振を生じ、他の質量のペーストや細骨材、又は粗骨材等と異なって激しく揺動することになり、中でも残存性気泡を取り巻く粗骨材が成す気泡捕捉構造の一部である粗骨材ηを大きく揺動させることで、残存性気泡の界面付近に存在する要素体である粗骨材の質量に比例した界面慣性力を作用させ、気泡捕捉構造を崩壊させることが出来、結果として、この気泡捕捉構造によって形成されていた残存性気泡も崩壊させることが可能である。
【0052】
ここで、(数11)式におけるkは、流動体を構成するペーストや細骨材、粗骨材等による気泡捕捉構造における相互の関係性による粘弾性等に由来するものであり、流動体の系内でほぼ一様であると仮定すると、これは予め実験等によって判明させ得、その値を既知のものとすれば、固有振動数νηは、流動体中の各要素体ηの各々の質量mηの平方根の逆数に比例するものとして事前の計測等により知り得、粗骨材のような物の場合には、固有振動数νηは比較的小さな値となり、細骨材のような物の場合には比較的大きな値となる。従って、大きな気泡から細分化を進めることが効率的であることから、流動体に印加する固有振動数νηとしては、流動体中に存在する要素体のうち、より大きな粗骨材からをターゲットとして対応する値を設定して、漸次、ターゲットとなる粗骨材をより軽い物に推移させて、強制振動Vとして入力する振動数を遷移させて行くことが好ましい。この際、入力させる強制振動Vは必ずしも流動体に慣性力を与えている振動の方向に沿っていなければならないというものではなく、この方向に平行であっても直交していても、或いは、傾斜していてもよい。尚、ここでの骨材は、具材や部材、強化材、廃材等と読み換えてもよいことはいうまでもない。
【0053】
本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、プレキャスト製品、例えば、プレキャストコンクリートの製造において用いることができる。従来、コンクリートの製造時においては、成型時のエントラップトエア等の混入により固化した際にコンクリートの表面又は内部に窪み又は空洞となって残ってしまい、特にコンクリート表面の窪みは、製品の外観上好ましくないため、例えば、コンクリート表面に手作業で化粧処理等を施しており、手間や費用が著しくかかっていた。
【0054】
本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、例えば、流動体(生コンクリート)全体に変動的慣性力を与えることで、流動体中の気泡を微細化して消失させることができるため、コンクリート表面の気泡も微細化して外観上問題ない状態にまですることができる。また、適切な振幅や振動数、振動時間を設定することで、短時間で効率的に気泡を消失させることができる。更に、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、気泡を球形と仮定した際の気泡直径が0.025mm~0.25mm程度であるとされるエントレンドエアに対しては悪影響を及ぼすことなく、1mm以上の目立つサイズの気泡を微細化して消失させることが可能である。本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、例えば、トンネルのライニングに用いる所謂セメントトンネルのプレキャストコンクリート製品のような数トン~数十トン規模の製造においても適用することが可能である。
【0055】
ここで、コンクリートの加工成型体を製造する場合を例に、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法の適用について述べる。まず、混合工程S1において、セメント、細骨材、粗骨材、水等を、所定の割合で、ミキサ等の装置を用いて混合することで流動体(生コンクリート)を作製する。例えば、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、混合時にミキサ等の装置に上述したような変動的な慣性力(振動)を与えることで気泡の微細化を行っても良い。
【0056】
次に、原料を混合することで成る流動体(生コンクリート)は、運搬工程S2において、ミキサー車(トラックミキサ)等により運搬される。例えば、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、ミキサー車のミキシングドラムにおいて、撹拌以外の変動的な慣性力(振動)が流動体(生コンクリート)に加わるような構成を加えても良い。
【0057】
なお、ミキサー車等のミキシングドラムの攪拌による変動的な慣性力では、ミキシングドラム内に流動体の他、空気等の気体が共在しており、空気が絡むような攪拌であるため、反って空気等の気体を流動体内に取り込んでしまうため、好ましくない。そこで、本発明における変動的な慣性力を流動体に印加する際には、流動体に空気が入り込まないように変動的な慣性力を印加することが肝要である。例えば、流動体が空気と共在している場合には、円直面内回転のような空気を絡みやすい変動的な慣性力ではなく、水平面内回転として空気が流動体に取り込まれないようにすることが望ましく、或いは、円直面内回転による変動的な慣性力を与える場合には空気等の気体が共在せず流動体のみが層内を満たすように構成することで、流動体に気体を取り込ませないように変動的な慣性力を印加することが好ましい。
【0058】
運搬された流動体(生コンクリート)は、注入工程S3において、コンクリートポンプ車等を用いて型枠へと注入される。例えば、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、コンクリートポンプ車から型枠までの配管やコンベア上において、上述したような変動的な慣性力(振動)を与えることで気泡の微細化を行っても良い。また、気泡の微細化を行った後の流動体を型枠に注入する際には、例えば、注入口を型枠の底面又は側面付近に設けるか、或いは、型枠内に既に注入した流動体の内部に注入口を入れて注入を続けるようにすることで、微細化後の流動体にエントラップトエアが生じないようにしても良い。
【0059】
ここで、注入工程S3における、本発明の効果的な実施形態について説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、流動体の注入工程S3で変動的な慣性力を加える方法の一例を示した概略断面図である。尚、図6は概念的な説明をするための図であり、各構成の大きさ、形状、構成間の縮尺は図6の内容に限定されるものではない。
【0060】
注入工程S3においては、調製された流動体51は例えば型枠53内に注入される。プレキャストコンクリートの製造の場合には、バケット52から金型53内に生コンクリート51が投入される。従来は、所定の高さから投入するため、型枠53内に流動体(生コンクリート)51が落下した際にエントラップトエアが生じていた。
【0061】
そこで、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、流動体51の型枠53への注入時に、例えば、変動的な慣性力を付与する手段54を用いて流動体51を型枠53内に導入しながら変動的な慣性力Fを与えるようにすることができる。即ち、変動的な慣性力を付与する手段54は、バケット52の投入口55から金型53内部の底面56付近まで流動体(生コンクリート)51を導入し、流動体51が変動的な慣性力を付与する手段54から排出されるまでの間に、流動体51に変動的な慣性力Fを付与する。変動的な慣性力を付与する手段54は上述した条件に基づいて、流動体51に含まれる気泡に対して最も適した変動的な慣性力が付与されるように設計されることが好ましい。また、変動的な慣性力を付与する手段54は、流動体51の型枠53内への充填の度合に応じて適宜変動させても良い。これにより、流動体の表面及び内部の気泡を微細化することができ、且つ、エントラップトエアの混入も防止することができるため、結果として、美観が良く、高品質の製品を効率良く製造することができる。また、このような本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、特に、プレキャストコンクリートの製造のように、型枠の容量や重量が大きく、型枠自体に変動的な慣性力を付与することが困難な場合に好適に適用することができる。
【0062】
勿論、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、プレキャストコンクリートの製造のみに限定されるものではなく、例えば、現場打ちの場合であっても上述したような変動的な慣性力を付与する手段を介して流動体(生コンクリート)を導入することにより、気泡が微細化され、美観が良く、高品質のコンクリート製品を製造することができる。また、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、後述するような型枠を用いて成型する製品等に対しても適用可能である。流動体の種類や性状によっては、例えば、流動体を型枠に導入する際に、脱気したり、流動体を圧送するようにしても良い。
【0063】
図7は、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法において、流動体の注入工程で変動的な慣性力を加える方法の他の例を示した概略図である。本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、流動体61が貯留部62から送液機構64により導入管65を通じて型枠63に流し込まれる際に、導入管65に変動的な慣性力Fを与えるようにすることができる。例えば、貯留部62はミキサー車であり、送液機構64はポンプ車であり、導入管65は圧送管である。送液機構64は必ずしも必要ではなく、場合によっては高低差等に基づく重力の作用によって流動体61を送るものであっても良い。変動的な慣性力Fは外部からの手段によって導入管65内の流動体61に付与されても良いし、導入管65自体が作動することにより内部の流動体61に変動的な慣性力Fが付与されても良い。内部の流動体61に変動的な慣性力Fを付与できるものであれば、導入管65の素材は特に限定されず、可撓性のあるチューブ状の物でも、鋼管状又はプラスチック管状の物でも良い。また、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、図7に示すようなコンクリートの床打ちに限定されず、壁打ちや天井打ちにも適用可能である。
【0064】
成型工程S4では、流動体(生コンクリート)を型枠で成型する。本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法では、変動的な慣性力(振動)を型枠に与えることで気泡の微細化を行うことができるのは上述した通りである。尚、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、上記何れかの工程で実施すれば良いが、複数の工程で実施しても良い。
【0065】
ここまでコンクリートの加工成型体を製造する場合について述べたが、勿論、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、コンクリートの製造以外にも適用することができる。本発明は、流動体の種類、配合割合、製造量等によって何ら限定されるものではなく、流動体はその種類に応じて用いる装置、器具に対して適宜変動的な慣性力(振動)を与えることができるような構成を加えれば良い。
【0066】
上述したコンクリートは、セメントに水や充填剤(充填材)や通常の骨材等を加えて硬化させ得るコンクリートの他にも、ローマンコンクート、繊維補強コンクリートやポリマーコンクリート等のコンクリートをも含む。また、細骨材のみを使用したモルタルや、骨材を使用しないセメントペーストをも含む。骨材としては、コンクリートに通常用いられる物や従来公知の物であればどのようなものでもよく、砂、砂利、砕石、破砕ガラス、がれき、人工材等や廃棄物等を用いることが可能である。更にセメントも、特に限定されるものではなく、例えば、ポルトランドセメント、ローマンセメント、レジンセメント等を使用することができる。
【0067】
本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、所謂コンクリート二次製品に対して好適に利用可能である。例えば、杭、管、平板、擁壁、床版、床板、壁高欄、コンクリートブロック、ボックスカルバート、アーチカルバート、カルバート、ヒューム管(鉄筋コンクリートを用いた管)、フリューム、ケーブルトラフ、共同溝、カーテンウォール(幕壁、帳壁)、外壁、コンクリート橋、橋げた、トンネルセグメント(シールドトンネル)、配水管、排水管、貯蔵槽、水槽、排水桝、街渠桝、放射性廃棄物の容器、核シェルター、電柱、舗装(道路)、側溝、側溝蓋、マンホール、組立マンホール、マンホール蓋、ボックスマンホール、境界ブロック、縁石、車止めブロック、根固ブロック、インターロッキングブロック、植生ブロック、防護柵、矢板、防音材、消波ブロック、護岸ブロック、マクラギ、オブジェ(像)に適用可能である。また、上述の例の他にも様々な製品、例えば、型枠を用いて成型する製品(プレキャスト製品)等に対して好適に適用可能である。例えば、人造石や人工大理石、タイル、陶器、磁器、側溝部材、蓋、便器、墓石、鳥居、銅像、仏像、石膏像や石膏製品、ガラス製品、鉄系やアルミニウム系、銅系等の各種金属の鋳物等やダイキャスト製品等、流動体を固化成型して製造するもの等あらゆるものに適用可能である。本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法を適用して気泡を除去することで、外観を良くするだけでなく、空洞の発生による強度の低下を防止し、品質の高い製品を提供することができる。
【0068】
更に、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、例えば、エポキシ樹脂のような二液混合系の樹脂、シリコーン、ゴム、口紅やマスカラ等の化粧品、石鹸、色鉛筆、ペンキ等の塗料、シーリング剤、潤滑剤、導電剤といった化学製品にも適用可能である。即ち、必ずしも固化するもののみに限られず、気泡が内部に保持される程度の粘性を有するものに対しても適用可能である。
【0069】
更に、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、工業製品だけではなく、食品の製造工程に対して適用することも可能である。例えば、豆乳ににがりを添加して豆腐を製造する場合のように、材料を混合して固化させるものなど、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法を適用することが可能であり、固化した際に混入した気泡による窪みや空洞が無く、表面がきめ細かく外観上優れた豆腐等の食品を提供することができる。豆腐の他にも、かまぼこ等の練り物、こんにゃく、飴、はちみつ等の食品の製造にも適用可能である。本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法を適用して気泡を除去することで、外観を良くするだけでなく、体積と質量の分布の均等化の向上を図ることが出来、また気泡の混入による酸化劣化を防止するなど、品質の高い製品を提供することができる。
【0070】
このように、本発明の一実施形態に係る気泡の微細化方法は、上述したような様々な流動体加工製品の製造において適用可能である。
【実施例
【0071】
以下、本発明について、実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
流動体として生コンクリートを選択した場合の供試体の製作手順と加振手順及び記録撮影まとめ手順を以下に説明する。勿論、先に述べた通り、本発明は、実施例における流動体の種類、配合割合、製造量等によって何ら限定されるものではなく、流動体はその種類等に応じてISO、JIS等の規格、作業手順書、プロトコル、レシピ等に従って適宜作製すればよい。また、加振手順及び記録手順についてもあくまで一例である。
【0073】
[手順1]
セメント、細骨材、粗骨材、水を、表1に示す重量比でよく混練し、生コンクリートとした。
【表1】
[手順2]
直径100mm、高さ100mmの円筒状のコンクリート供試体成形型枠を、専用の型枠ホルダに入れた。
[手順3]
型枠の中に、事前によく混練した生コンクリートを所要重量の約2kgだけ注入した。
[手順4]
注入した生コンクリートを突き棒によってよく均すというのが従来の手順であるが、突き棒でかき混ぜて均すという工程を適用すると、混ぜ方によって気泡が残ったり、残らなかったりする上、残った気泡の大きさの相違に対しても影響を及ぼして定量化を困難にすると共に、気泡の微小化を計測する上で、かき混ぜによって元々の気泡が消泡化され過ぎる場合、気泡の微細化効果や消泡効果を測るという目的を果たせなくなるので、突き棒によるかき混ぜ工程は非実施とした。そこで、手順4としては、型枠内に注入された流動体である生コンクリートに対して、発泡スチロール片を、型枠と専用の型枠ホルダとの間に挟み込んで、専用の型枠ホルダの外側面を木槌を用いて叩くことで間接的に微小な衝撃振動を加え型枠内に生コンクリートが概ね行き渡るようにした。
[手順5]
この未硬化状態で供試体とした。振動等を印加する際には、加振機の振動ステージ上に供試体を型枠ごと配設して振動ステージに対して固定した。
[手順6]
この状態で、予め設定された振動条件に沿って供試体に対して鉛直方向の単振動を印加した。
[手順7]
加振後は、速やかに振動ステージから流動体を型枠ごと取り外して、非振動系にて必要十分な養生期間だけ静置した。
[手順8]
脱型の際には、モールドを台の上に置いて、型枠のハーフカットに沿って、型枠を割きつつ、供試体を型枠から脱型した。
[手順9]
脱型された供試体は、回転ステージの中心上に配置され、水平面内において回転ステージを所定の回転角度毎に回転させながら都度、供試体の周面を正面からの定点から写真撮影し、全周相当分以上に亘って写真を撮って記録した。
[手順10]
各試験体毎に全周分撮影された画像の内、最も大きな気泡がより多く残存している位相からの周面画像を各振動条件毎に表に整理した。
【0074】
時間一定とし、振動数10、20、30Hzの各振動数条件に対して、全振幅を1.0~5.0mmまで0.5mm刻みで加振した。その結果を図8にまとめた。図8から解る通り、1[G]以下或いは1[G]に近い加振条件では、気泡は殆ど微細化されず、元のまま残存する。また、所定以上の加速度を印加している場合には、元々存在していた筈の大きなサイズの気泡が無く、他方、細分化された比較的小さな気泡が残存している。尚、ここでの振幅は、全振幅(peak to peak)を意味し、所謂通常の意味の振幅の二倍に相当する。
【0075】
次に、図8において比較的綺麗に気泡が微細化された条件である振動数20Hzと30Hzにおける全振幅3.5mmの振動条件に対して、それぞれ加振時間を30秒から60秒まで30秒間隔で、60秒から300秒までを60秒刻みで加振した。その結果を図9にまとめた。図9から解る通り、20Hzのものでは、30秒時点で残存しているサイズの気泡は、その後の60秒から300秒までほぼ均等に残存していることが解る。つまり、或る一定の振幅、一定の加速度で、これに対応した一定の振動数の振動を印加し続けても元々存在していたより大きな(加振前にターゲットとされた比較的大きな)サイズの気泡は一様に消泡しているものの、より小さな或るサイズ以下の気泡は残存し得ることが解る。
【0076】
次いで、図8において比較的綺麗に気泡が微細化された条件である振動数30Hzにおける全振幅3.5mmの振動条件を30秒間加振した前行程のものに対して、更に続けて全振幅を0.4mmに低下させつつ、振動数は30Hzから262Hzまで適宜の値での設定とした後工程でも30秒間加振した。その結果を図10にまとめた。図10から解る通り、部分的に幾分か微細化若しくは消泡化されているようにも見受けられるものの実際には、前工程において残存していたサイズの気泡が後工程の後にも残存していると考えられる。つまり、加振する際の振幅が、気泡サイズに比して過小な場合には、著しく大きな振動数若しくは加速度の振動を印加しても微細化されたり、消泡されたりしないということが解る。
【0077】
更に、図8において比較的綺麗に気泡が微細化された条件である振動数20Hzにおける全振幅3.5mm、即ち加速度2.8[G]の振動条件であって、図9において十分な加振時間、即ち180秒間に亘って加振した振動条件を前行程としたものに対して、更に続けて加速度が2.8[G]で一定となる振動条件で、全振幅を1.8mmから1.0mmまで0.2mm刻みで低下させて後工程として追加120秒間加振した。その結果を図11にまとめた。図11から解る通り、前工程と後工程とでは加速度は何れも1[G]よりも適度に大きな2.8[G]と設定され、後工程の振幅としては前行程の半分程度に設定され、その結果として、前工程で残存していたであろう無加振状態に存在していた最大サイズの気泡より細分化されはしたが、細分化された気泡として残存していたサイズの気泡が、後工程の後には、ほぼ一様に更なる細分化が進行し、微細化されたことが解る。他方、他と工程を経た何れの供試体にも共通して、更なる微細な気泡が残存していることが解る。つまり、振幅が1.0mm~1.8mmの間程度の振動条件では反応しない程、小さなサイズの気泡が残存しているといえる。これらの微細な気泡を更に微細化するためには、更に振幅が小さく、加速度は一定以上となる振動を印加すればよい。
【0078】
尚、図11において、後工程における振幅1.8mmの供試体における比較的大きなサイズの気泡は、当該前工程と後工程の後にも残存している気泡であって残存性気泡であり、このような微細化されずに残存し得る気泡の類は、特に、被振体である流動体が、ペースト状の流動体中に細骨材や粗骨材を含んで成る場合において希に見受けられるものである。この種の残存性気泡を崩壊させるには、残存性気泡を囲繞する骨材、特に粗骨材が形成する気泡捕捉構造の破壊が効果的であり、そのためには、気泡捕捉構造の要素たる粗骨材の固有振動数の振動を印加して、共振させることが好ましい。
【0079】
次いで、図8において比較的綺麗に気泡が微細化された条件である振動数30Hzにおける全振幅3.5mm、即ち加速度6.3[G]の振動条件を180秒間加振した前行程のものに対して、更に続けて全振幅を前行程における振幅の半分程度である1.8mmに低下させつつ、加速度を6.3[G]を保持する条件として振動数は42Hzと設定した後工程にて120秒間加振した。その結果を図12にまとめた。図12から解る通り、前工程と後工程とでは加速度は何れも1[G]よりも十分に大きな6.3[G]と設定され、後工程の振幅としては前行程の半分程度に設定され、その結果として、前工程で残存していたであろう無加振状態に存在していた最大サイズの気泡より細分化されはしたが、細分化された気泡として残存していたサイズの気泡が、後工程の後には、ほぼ一様に更なる細分化が進行し、微細化されたことが解る。勿論、つぶさに表面を観れば、十分に微細化が進行した結果として残された微細化気泡が見て取れる。この残存している微細化気泡のサイズは0.7mm未満であり、コンクリート製品としては十分に許容されるものである。また、図11図12の結果からも判る通り、適正な振動条件であるということを前提として、加振時間の経過に伴って振動条件、即ち、振幅をターゲット気泡サイズに合わせて縮小して行きつつ、加速度を一定以上に保持するように振動数を遷移させて行くことが効果的であると言える。
【0080】
また、別の実施例として、セメントと細骨材と水のみから成り、粗骨材を含まない流動体を直方体状の型枠に注入し、その直後に全振幅2.0mm、振動数30Hzの鉛直方向の振動を型枠毎入力して加振した結果を図13にまとめた。本実施例においては、流動体中に粗骨材が無いことから所定時間以上加振し続けると、殆ど見えない程度にまで気泡が微細化されて消泡化されることが解る。
【符号の説明】
【0081】
11 流動体、12 気泡、13 型枠、20(20A,20B) 気泡、30 流動体、31 粗骨材、32 細骨材、33 セメントペースト、34 気泡、40 流動体、41 気泡、42 粗骨材、43 細骨材、44 セメントペースト、51 流動体(生コンクリート)、52 バケット、53 型枠(金型)、54 変動的な慣性力を付与する手段、55 投入口、56 底面、61 流動体、62 貯留部、63 型枠、64 送液機構、65 導入管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13