(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ナノシート単層膜からなる薄膜を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/04 20060101AFI20240617BHJP
C01G 55/00 20060101ALI20240617BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20240617BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20240617BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240617BHJP
【FI】
C01G23/04 C
C01G55/00
C01G33/00 A
C01B32/198
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020155092
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】長田 実
(72)【発明者】
【氏名】施 越
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 高義
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-226662(JP,A)
【文献】国際公開第2019/155946(WO,A1)
【文献】特開2013-253009(JP,A)
【文献】特開2010-248586(JP,A)
【文献】特表2017-504554(JP,A)
【文献】特開2004-250321(JP,A)
【文献】国際公開第2013/031782(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0140331(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
C01B 32/00-32/991
B82Y 5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノシート単層膜からなる薄膜を製造する方法であって、
無機層状物質が単層剥離されたナノシートが水および炭素数が5以下の低級アルコールを含有する分散媒に分散されたコロイド水溶液を調製することと、
前記コロイド水溶液を基板上に滴下すること、
前記滴下されたコロイド水溶液
を、前記基板の前記コロイド水溶液を滴下した側から吸引することと
を包含する方法。
【請求項2】
前記低級アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールからなる群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分散媒中の前記低級アルコールの含有量は、0.5体積%以上15体積%以下の範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分散媒中の前記低級アルコールの含有量は、1体積%以上10体積%以下の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、0.01g/L以上1g/L以下の範囲である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、0.01g/L以上0.5g/L以下の範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記吸引することは、前記滴下されたコロイド水溶液を15秒以上1分以下の範囲で吸引する、請求
項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記滴下することにおいて、前記コロイド水溶液の前記基板に対する滴下量は、0.1μL/mm
2以上5μL/mm
2以下の範囲である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記滴下することにおいて、前記基板に対する滴下量は、0.3μL/mm
2以上2.5μL/mm
2以下の範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記無機層状物質は、層状チタン酸化物、層状ペロブスカイト酸化物、層状マンガン酸化物、層状コバルト酸化物、層状タングステン酸化物、層状ニオブ酸化物、層状タンタル酸化物、層状チタン・ニオブ酸化物、層状チタン・タンタル酸化物、層状モリブデン酸化物、層状ルテニウム酸化物、および、酸化グラファイトからなる群から選択される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記基板を加熱することをさらに包含する、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記基板を加熱することは、50℃以上150℃以下の温度範囲で加熱する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記滴下することと、前記吸引することとを繰り返すことをさらに包含する、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記繰り返すことは、
前記吸引することによって得られた前記基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を加熱することと、
前記基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を純水で洗浄することと
をさらに包含する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記薄膜を加熱することは、前記基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を150℃以上250℃以下の温度範囲で加熱する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記吸引することによって得られた前記基板のナノシート単層膜からなる薄膜に紫外光を照射することをさらに包含する、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノシート単層膜からなる薄膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機層状物質の単層剥離により得られるナノシートは、原子数個分の厚みに対して横サイズ数百nm~数十μmという高い二次元異方性を持つ物質であることが知られている。代表的な出発物質として、層状酸化物が知られており、その剥離により得られる酸化物ナノシートは、化学組成、構造を反映し、優れた電子・イオン伝導性、半導体性、絶縁性、高誘電性、強誘電性、強磁性、蛍光特性、光触媒性等の特性を示すことが報告されている。
【0003】
これらの特性を十分に発揮させるためには、ナノシートを基板上で隙間なく配列させて稠密単層膜を形成し、さらにこれを反復した多層膜、超格子の構築が必要とされる。
【0004】
このような技術として、例えば、交互吸着法と超音波処理とを組み合わせた方法がある(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、正の電荷を持つポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)イオンでプリコートされた基板を、負の電荷を持つナノシートコロイド分散液に20分間浸漬させ、静電引力によってナノシートを基板に吸着させ、次いで、超音波処理して重なり部分を除去することにより、良好に配列したナノシート単層膜が得られる。さらに、この単層膜作製の操作を繰り返すことで、多層膜、超格子の構築が可能となる。
【0005】
別の技術として、Langmuir-Blodgett(LB)法が知られている(例えば、非特許文献2を参照)。非特許文献2によれば、ナノシートコロイド分散液をトラフに展開後、表面圧を印加し、気液界面にナノシートを吸着させ、それを基板に転写することによって、良好に配列したナノシート単層膜が得られる。さらに、この単層膜作製の操作を繰り返すことで、多層膜、超格子の構築が可能となる。
【0006】
さらに、別の技術として、スピンコート法が知られている(例えば、非特許文献3および特許文献1を参照)。非特許文献3および特許文献1によれば、ナノシートが有機溶媒に分散された有機溶媒ゾルを、基板上に少量滴下し、スピンコートするという簡便な手順により、約1分間という極めて短時間でナノシート稠密配列単層膜が得られる。さらに、この単層膜作製の操作を繰り返すことで、多層膜、超格子の構築が可能となる。
【0007】
しかしながら、非特許文献1および2の技術は、製膜時間が長い(例えば、非特許文献1では2時間、非特許文献2では1時間)、製膜操作が煩雑である、あるいは、製膜できる基板の面積が小さい等の課題があった。他方、非特許文献3および特許文献1のスピンコート法は、非常に簡便な操作で、非特許文献1および2の製膜時間の約10分の1に相当する約1分間という極めて短時間で、大面積の製膜が可能となり、非特許文献1および2の技術に比べ、生産性が改善されている。非特許文献3および特許文献1の技術は、溶液の前処理を要したり、スピンコートの制御を要したりするため、従来の技術の問題点を一掃する新しい製膜技術の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】T.Tanakaら,Adv.Mater.,16,872(2004)
【文献】K.Akatsukaら,ACS Nano,3,1097(2009)
【文献】K.Matsubaら,Sci. Adv.,3,e1700414(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、以上のとおりの背景から、ナノシート単層膜からなる薄膜の新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、無機層状物質が単層剥離されたナノシートが分散されたコロイド水溶液を基板に滴下した後、それを吸引して薄膜製造を行えば、従来のナノシートを利用した薄膜製造方法の問題点を解決できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のことを特徴としている。
【0012】
本発明によるナノシート単層膜からなる薄膜を製造する方法は、無機層状物質が単層剥離されたナノシートが水および炭素数が5以下の低級アルコールを含有する分散媒に分散されたコロイド水溶液を調製することと、前記コロイド水溶液を基板上に滴下すること、前記滴下されたコロイド水溶液を前記基板から吸引することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記低級アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記分散媒中の前記低級アルコールの含有量は、0.5体積%以上15体積%以下の範囲であってもよい。
前記分散媒中の前記低級アルコールの含有量は、1体積%以上10体積%以下の範囲であってもよい。
前記コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、0.01g/L以上1g/L以下の範囲であってもよい。
前記コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、0.01g/L以上0.5g/L以下の範囲であってもよい。
前記コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、0.02g/L以上0.2g/L以下の範囲であってもよい。
前記滴下することにおいて、前記コロイド水溶液の前記基板に対する滴下量は、0.1μL/mm2以上5μL/mm2以下の範囲であってもよい。
前記滴下することにおいて、前記コロイド水溶液の前記基板に対する滴下量は、0.3μL/mm2以上2.5μL/mm2以下の範囲であってもよい。
前記無機層状物質は、層状チタン酸化物、層状ペロブスカイト酸化物、層状マンガン酸化物、層状コバルト酸化物、層状タングステン酸化物、層状ニオブ酸化物、層状タンタル酸化物、層状チタン・ニオブ酸化物、層状チタン・タンタル酸化物、層状モリブデン酸化物、層状ルテニウム酸化物、および、酸化グラファイトからなる群から選択されてもよい。
前記基板を加熱することをさらに包含してもよい。
前記基板を加熱することは、50℃以上150℃以下の温度範囲で加熱してもよい。
前記滴下することと、前記吸引することとを繰り返すことをさらに包含してもよい。
前記繰り返すことは、前記吸引することによって得られた前記基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を加熱することと、前記基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を純水で洗浄することとをさらに包含してもよい。
前記薄膜を加熱することは、前記基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を150℃以上250℃以下の温度範囲で加熱してもよい。
前記吸引することによって得られた前記基板のナノシート単層膜からなる薄膜に紫外光を照射することをさらに包含してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるナノシート単層膜からなる薄膜を製造する方法は、無機層状物質から単層剥離されたナノシートが、水および炭素数が5以下の低級アルコールを含有する分散媒に分散されたコロイド水溶液を調製し、これを基板に滴下し、吸引することを包含する。本発明の方法を用いることにより、ナノシート単層膜からなる薄膜を簡便な操作で短時間に得ることができる。また、コロイド水溶液の分散媒として低級アルコールを含有するため、コロイド水溶液の表面張力が低下し、滴下したころコロイド水溶液が基板に容易に広がることができる。また、コロイド水溶液中でナノシートの対流が促進し得るので、ナノシートが稠密に配列した高品質なナノシート単層膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明によるナノシート単層膜を製造する工程を示すフローチャート
【
図2】本発明によるナノシート単層膜を製造する様子を示すプロシージャ
【
図3】本発明によるナノシート多層膜を製造する工程を示すフローチャート
【
図4】例1の滴下用コロイド水溶液の観察結果を示す図
【
図12】例4の薄膜の種々の場所のAFM像を示す図
【
図17】例1の薄膜のUV-vis吸収スペクトルを示す図
【
図19】例25の薄膜のUV-vis吸収スペクトルを示す図
【
図20】例25の薄膜のUV-vis吸収スペクトルを示す図
【
図21】例25の薄膜の吸光度の層数依存性を示す図
【
図22】例25の薄膜の吸光度の層数依存性を示す図
【
図24】例27の薄膜の断面のHRTEM像を示す図
【
図25】例25の薄膜の屈折率および消光係数の波長依存性を示す図
【
図26】例27の薄膜の比誘電率および誘電損失の周波数依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のナノシート単層膜からなる薄膜を製造する方法を詳述する。なお、本明細書において、用語「ナノシート単層膜」とは、無機層状物質が単層剥離されたナノシートが重なることなく稠密に配列して形成する単層膜を意図する。用語「ナノシート単層膜からなる薄膜」とは、ナノシート単層膜そのものを意図する場合、または、そのナノシート単層膜が多層化した多層膜(ナノシート多層膜とも呼ぶ)を意図する場合に使用される。用語「ナノシート単層膜からなる超格子」とは、異なる種類のナノシート単層膜を2種以上で組み合わせて積層した薄膜を意図することに留意されたい。
【0016】
また、本明細書において、原子間力顕微鏡の画像解析ソフト(SII Nano Technology社製Nano Navi、バーション5.02)において算出された被覆率(全膜面積中のナノシートの重なりの割合、および、全膜面積中のナノシート間の隙間)が、0%以上10%以下の範囲の重なりであり、かつ、0%以上10%以下の範囲の隙間であれば、ナノシート単層膜であると判定できる。
【0017】
本発明のナノシート単層膜からなる薄膜としてナノシート単層膜を製造する場合について説明する。
図1は、本発明によるナノシート単層膜を製造する工程を示すフローチャートである。
図2は、本発明によるナノシート単層膜を製造する様子を示すプロシージャである。
【0018】
工程S110:無機層状物質が単層剥離されたナノシート210(
図2)が、水および炭素数が5以下の低級アルコールを含有する分散媒220(
図2)に分散されたコロイド水溶液230(
図2)を調製する。
工程S120:工程S110で調製されたコロイド水溶液230を基板240(
図2)上に滴下する。基板240に滴下されたコロイド水溶液230は、基板240の端部まで広がった後、表面張力により液滴が安定した状態となる。
工程S130:工程S120で滴下されたコロイド水溶液を基板240から吸引する。
図2では、吸引装置としてピペット250が示される。
【0019】
本願発明者らによれば、上述の工程によって簡便にナノシート単層膜260を製造できることを見出した。特に、ナノシートの分散媒として水に加えて低級アルコールを用いるため、コロイド水溶液の表面張力が低下し、任意の基板に対して、滴下したコロイド水溶液を基板上に効率的に拡げることができる。また、低級アルコールによって、コロイド水溶液中でナノシートの対流が促進されるので、単に吸引によってナノシートが稠密に配列し得るという効果を奏する。
【0020】
各工程を詳細に説明する。
工程S110において、無機層状物質は、ナノシートに単層剥離可能な任意の物質であるが、好ましくは、無機層状物質は、層状チタン酸化物、層状ペロブスカイト酸化物、層状マンガン酸化物、層状コバルト酸化物、層状タングステン酸化物、層状ニオブ酸化物、層状タンタル酸化物、層状チタン・ニオブ酸化物、層状チタン・タンタル酸化物、層状モリブデン酸化物、層状ルテニウム酸化物、および、酸化グラファイトなる群から選択される。これらの物質は、いずれも、電子・イオン伝導性、半導体性、絶縁性、高誘電性、強誘電性、強磁性、蛍光特性、光触媒性等の優れた性質を示す、または、期待されており、これらから単層剥離されたナノシートも同様に上記性質を有し得、実用化に有利である。
【0021】
層状チタン酸化物は、単層剥離により酸化チタンナノシートを生成する任意の層状チタン酸化物である。ここで単層剥離された酸化チタンナノシートは、例えば、一般式(Ti,M)O2-d(Mは金属元素または空孔であり、0≦d≦1)で表される。このような酸化チタンナノシートを生成する層状チタン酸化物は、例えば、Na2Ti3O7、K2Ti4O9、Cs2Ti5O11、Ax(Ti,M)2O4(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素であり、Mは1~3価の金属元素である)等がある。
【0022】
層状ペロブスカイト酸化物は、単層剥離によりペロブスカイトナノシートを生成する任意の層状ペロブスカイト酸化物である。ここで単層剥離されたペロブスカイトナノシートは、例えば、一般式An-1MnO3n+1(A=Ca、Sr、Ba、Na、K、希土類元素、M=Nb、Ta、Ti、2≦n≦7)で表される。このようなペロブスカイトナノシートを生成する層状ペロブスカイト酸化物は、A’[An-1MnO3n+1]に代表されるDion-Jacobson型(A’:アルカリ金属)、A’2[An-1MnO3n+1]に代表されるRuddlesden-Popper型、および、(Bi2O2)[An-1MnO3n+1]に代表されるAurivillius型が知られている。本化合物系は多様な化学組成をとるが、代表的な層状ペロブスカイト酸化物として、KLaNb2O7、KCa2Nb3O10、KSr2Nb3O10、CsCa2Nb3O10、KCa2NaNb4O13、KCa2Na2Nb5O16、KCa2Na3Nb6O19、Li2Eu2/3Ta2O7、K2La2Ti3O10、(K1.5Eu0.5)Ta3O10等がある。
【0023】
層状マンガン酸化物は、単層剥離により酸化マンガンナノシートを生成する任意の層状マンガン酸化物である。ここで単層剥離された酸化マンガンナノシートは、例えば、一般式MnO2、Mn1-yMyO2(Mは金属元素であり、例えば、Fe、Co、0<y<1)で表される。このような酸化マンガンナノシートを生成する層状マンガン酸化物は、一般式AxMnO2、AxMn1-yMyO2(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素であり、0<x≦1)で表される。
【0024】
層状コバルト酸化物は、単層剥離により酸化コバルトナノシートを生成する任意の層状コバルト酸化物である。ここで単層剥離された酸化コバルトナノシートは、例えば、一般式CoO2で表される。このような酸化コバルトナノシートを生成する層状コバルト酸化物は、一般式AxCoO2(Aは、少なくとも1種のアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素または遷移金属元素であり、0<x≦1)で表される。
【0025】
層状タングステン酸化物は、単層剥離によりタングステン酸ナノシートを生成する任意の層状タングステン酸化物である。層状タングステン酸化物は、Rb4W11O35、Cs6+zW11O36(0≦z≦0.31)、Cs8.5W15O48等がある。
【0026】
層状ニオブ酸化物は、単層剥離により酸化ニオブナノシートを生成する任意の層状ニオブ酸化物である。ここで、例示的な酸化ニオブナノシートは、Nb3O8、Nb6O17等である。このような酸化ニオブナノシートを生成する層状ニオブ酸化物は、KNb3O8、K4Nb6O17等がある。
【0027】
層状タンタル酸化物は、単層剥離により酸化タンタルナノシートを生成する任意の層状タンタル酸化物である。ここで、例示的な酸化タンタルナノシートは、TaO3等である。このような酸化タンタルナノシートを生成する層状タンタル酸化物は、RbTaO3等がある。
【0028】
層状チタン・ニオブ酸化物は、単層剥離によりチタン・ニオブ酸ナノシートを生成する任意の層状チタン・ニオブ酸化物である。ここで、例示的なチタン・ニオブ酸ナノシートは、TiNbO5、Ti5NbO14、Ti2NbO7等である。このようなチタン・ニオブ酸ナノシートを生成する層状チタン・ニオブ酸化物は、A[TiNbO5]、A3[Ti5NbO14]、A[Ti2NbO7](Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)等がある。
【0029】
層状チタン・タンタル酸化物は、単層剥離によりチタン・タンタル酸ナノシートを生成する任意の層状チタン・タンタル酸化物である。ここで、例示的なチタン・タンタル酸ナノシートは、TiTaO5、Ti5TaO14、Ti2TaO7等である。このようなチタン・タンタル酸ナノシートを生成する層状チタン・タンタル酸化物は、A[TiTaO5]、A3[Ti5TaO14]、A[Ti2TaO7](Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)等がある。
【0030】
層状モリブデン酸化物は、単層剥離によりモリブデン酸ナノシートを生成する任意の層状モリブデン酸化物である。ここで、例示的なモリブデン酸ナノシートは、MoO2で表される。このようなモリブデン酸ナノシートを生成する層状モリブデン酸化物は、一般式AMoO2(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素であり、Mは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)で表される。
【0031】
層状ルテニウム酸化物は、単層剥離により酸化ルテニウムナノシートを生成する任意の層状ルテニウム酸化物である。ここで、例示的な酸化ルテニウムナノシートは、RuO2ならびにRuO2.1で表される。このような酸化ルテニウムナノシートを生成する層状ルテニウム酸化物は、一般式ARuO2(Aは少なくとも1種のアルカリ金属元素である)で表される。
【0032】
層状チタン酸化物、層状ペロブスカイト酸化物、層状マンガン酸化物、層状コバルト酸化物、層状タングステン酸化物、層状ニオブ酸化物、層状タンタル酸化物、層状チタン・ニオブ酸化物、層状チタン・タンタル酸化物、層状モリブデン酸化物、層状ルテニウム酸化物等の単層剥離のための処理は、ソフト化学処理と呼ばれ、酸処理とコロイド化処理を組み合わせた処理である。
【0033】
例えば、上述の無機層状物質の粉末に塩酸などの酸水溶液を接触させ、生成物をろ過、洗浄後、乾燥させると、処理前に層間に存在していたアルカリ金属イオンがすべて水素イオンまたはオキソニウムイオンに置き換わり、水素イオン交換体が得られる。次に、得られた水素イオン交換体をテトラブチルアンモニウムイオン(TBA+)、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、n-プロピルアミン、n-エチルアミンおよびエタノールアミンアミンなどの塩基性物質を含有する水溶液中に入れ撹拌すると、コロイド化する。このようにして、層状構造を構成していた層が1枚1枚にまで剥離され、ナノシートが得られる。
【0034】
酸化グラファイトは、黒鉛を化学的に酸化することにより得られる。黒鉛を硫酸、過硫酸カリウム、過マンガン酸カリウムなどの強酸で酸化後、単層剥離により、酸化グラフェン(GOと称する)ナノシートが合成できる。酸化グラフェンは、水酸基、カルボン酸、エポキシ基、カルボニル基等の酸素官能基を表面に含み、水溶性であるため、コロイド水溶液として得られ、本発明の薄膜製造に好適である。
【0035】
なお、上述した無機層状物質の一般式は例示であって、層状構造を維持する限り、添加元素等の異種金属元素が固溶されていてもよく、必ずしも上述の元素のみ、ならびに、上述の組成のみから構成されるものではない。
【0036】
工程S110において、低級アルコールは、炭素数が5以下であれば水との親和性もよく特に制限はないが、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、および、ブタノールからなる群から少なくとも1種選択される。これらは、入手が容易であり、取り扱いが簡便である。プロパノールは、1-プロパノール、2-プロパノールのいずれであってもよい。ブタノールは、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノールのいずれであってもよい。中でも、エタノールは、コロイド水溶液の表面張力の低減、滴下したコロイド水溶液中の分散媒の蒸発速度の増大、分散媒中のナノシートの対流の促進の観点から、特に好適である。
【0037】
工程S110において、分散媒中の低級アルコールの含有量は、好ましくは、0.5質量%以上15体積%以下の範囲である。この範囲であれば、ナノシート単層膜の製造を促進する。分散媒中の低級アルコールの含有量は、より好ましくは、1体積%以上10体積%以下であり、なお好ましくは、1体積%以上5体積%以下である。これにより、少ないアルコール添加によっても、表面張力の低下やナノシートの対流を促進し、稠密なナノシート単層膜が得られ得る。
【0038】
工程S110において、コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、好ましくは、0.01g/L以上1g/L以下の範囲である。これにより、稠密なナノシート単層膜を高効率で得られる。コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、より好ましくは、0.01g/L以上0.5g/L以下の範囲である。これにより、稠密なナノシート単層膜をより高効率で得られる。コロイド水溶液中のナノシートの濃度は、なお好ましくは、0.02g/L以上0.2g/L以下の範囲である。これにより、稠密なナノシート単層膜をなお一層高効率で得られる。
【0039】
工程S120において、コロイド水溶液を滴下する基板は、特に制限はないが、例示的には、Au、Pt等の金属基板、Si、GaAs等の半導体基板、石英、ガラス等の透明基板、サファイア、MgO、ITO、SrTiO3、SrTiO3:Nb(Nb添加されたSrTiO3)、SrRuO3等の酸化物単結晶基板、プラスチック等の有機基板等任意の基板を採用できる。
【0040】
基板の表面は、洗浄処理により親水化処理されていることが好ましい。洗浄処理は、アセトンで表面を拭き、有機物が除去された基板を、メタノールと塩酸との混合溶液(体積比で1:1で混合)に15分~45分浸漬させ、超純水で洗浄後、濃塩酸に15分~45分浸漬、再度、超純水で洗浄すればよい。また、洗浄処理は、オゾン雰囲気下で、15分~30分間、紫外線照射を行うことでも代用できる。
【0041】
工程S120において、コロイド水溶液の滴下は、ノズルを備えた溶液の滴下可能な手段であれば特に制限はないが、例示的には、液量計量が可能なマイクロピペット等のピペット、スポイト、インクジェットプリンター等の滴下器具を採用できる。
【0042】
工程S120において、コロイド水溶液の基板に対する滴下量は、基板を覆う程度に滴下すれば制限はないが、好ましくは、0.1μL/mm2以上5μL/mm2以下の範囲である。この範囲であれば、ナノシート単層膜を効率的に製造できる。滴下量は、より好ましくは、0.3μL/mm2以上2.5μL/mm2以下の範囲である。この範囲であれば、少ないコロイド水溶液にてナノシート単層膜を効率的に製造できる。滴下量は、なお好ましくは、1μL/mm2以上2.5μL/mm2以下の範囲である。この範囲であれば、少ないコロイド水溶液にて基板を選ぶことなくナノシート単層膜を効率的に製造できる。
【0043】
工程S130において、滴下されたコロイド水溶液の吸引は、ノズルを備えた溶液の吸引可能な手段であれば特に制限はないが、例示的には、液量計量が可能なマイクロピペット等のピペット、スポイト、吸引ノズルを採用できる。
【0044】
工程S130において、滴下されたコロイド水溶液の吸引は、自然に揮発する分を除いて、実質的に滴下量と同量を吸引すればよいが、工程S130は、工程S120に連続して行われるため、自然に揮発する量を無視してもよい。吸引に要する時間は、選択した無機層状物質の種類、コロイド水溶液濃度、基板の種類にもよるが、例示的には、15秒以上1分以下の範囲である。このため、製造プロセス全体の時間も短く、効率的である。
【0045】
工程S130において、吸引後、一定時間保持してもよい。これにより、残留する分散媒を乾燥・除去できる。このような保持時間は、例示的には、3秒以上10秒以下である。
【0046】
本発明のナノシート単層膜は、室温(10℃以上35℃以下の温度範囲)、大気下で行うことが可能であるが、基板を加熱してもよい。これにより、滴下したコロイド水溶液中の分散媒の蒸発速度、ナノシートの対流の精密に制御できる。基板の加熱は、工程S110に先立って行ってもよいし、あるいは、工程S110後に行ってもよい。
【0047】
基板を加熱する場合の加熱温度は、好ましくは、50℃以上150℃以下の温度範囲である。これにより、短時間でナノシート単層膜を得ることができる。より好ましくは、加熱温度は、90℃以上130℃以下の温度範囲である。これにより、ナノシート単層膜を歩留まりよく得られる。加熱には、ホットプレートなど通常の加熱装置を使用できる。
【0048】
以上説明してきたように、本発明の方法によれば、水とアルコールとを含有する分散媒を用いたコロイド水溶液を基板に滴下した後、吸引するという簡便な操作で、ナノシート単層膜を極めて短時間で製造することができる。
【0049】
上述の工程を繰り返して、薄膜としてナノシート多層膜あるいはナノシート単層膜からなる超格子を製造できる。
図3は、本発明によるナノシート多層膜を製造する工程を示すフローチャートである。
【0050】
図1で例示したナノシート単層膜を製造する工程に続いて、コロイド水溶液を基板に滴下する工程と、滴下したコロイド水溶液を基板から吸引する工程とを繰り返し行えばよい(
図3の工程310)。これにより、ナノシート単層膜が多層化したナノシート多層膜を得ることができる。
【0051】
工程S310は、好ましくは、工程S130によって得られた基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を加熱する工程と、基板上のナノシート単層膜からなる薄膜を純水で洗浄する工程とをさらに包含する。
【0052】
加熱する工程によって、不要な有機物(例えば、ナノシートの剥離に用いるTBA+、TMA+等)が除去される。加熱温度は、有機物が除去される温度であれば特に制限はないが、好ましくは、150℃以上250℃以下の温度範囲である。加熱時間は、特に制限はなく、少なくとも5分以上であればよい。これにより、ナノシート単層膜からなる薄膜に残留する有機物が除去され、ナノシート単層膜とナノシート単層膜とが密着した強固な多層膜が得られる。
【0053】
加熱後の洗浄する工程により、表面がコロイド水溶液になじみやすくなり、次の積層の工程が容易になる。
【0054】
前記工程を1セットとして、複数回(n)繰り返すことにより、ナノシート単層膜がn層積層した多層膜の製造が可能となる。
【0055】
また、前記工程を1セットとして、異なる種類のナノシート単層膜を2種以上で組み合わせて積層することで、超格子の製造が可能となる。
【0056】
得られたナノシート多層膜または超格子に紫外光(波長200nm以上400nm以下の範囲の光)を照射してもよい。これにより、ナノシート単層膜間の有機物が除去される。選択した層状無機物質によっては、ナノシート単層膜が紫外光照射により光触媒効果を誘起し得る。これにより、ナノシート単層膜間にある有機物(例えば、ナノシートの剥離に用いるTBA+、TMA+等)が分解され、除去される。その結果、ナノシート多層膜、超格子を、有機物を含まない無機薄膜化できる。紫外光の照射と有機物除去のための加熱とを組み合わせてもよい。
【0057】
紫外光の照射条件は、ナノシート多層膜、超格子の層数に応じて、適宜改変されるが、例えば、ナノシート多層膜が10層であれば、1mW/cm2の紫外光を約72時間以上照射すれば、十分に有機物を除去できる。
【0058】
このようなナノシート多層膜は、有機物が除去されているので、安定である。また、ナノシート多層膜は、酸化物ナノシートの有する優れた電子・イオン伝導性、半導体性、絶縁性、高誘電性、強誘電性、強磁性、蛍光特性、光触媒性等の特性を安定、有効に働かせるために有利である。
【0059】
以上説明してきたように、本発明によれば、単に
図1の工程を繰り返すだけで、ナノシート単層膜を多層化することができるので、操作が簡便であり、短時間に薄膜、厚膜を製造することができる。
【0060】
本発明による方法によって得られた薄膜は、酸化物ナノシートの有する優れた電子・イオン伝導性、半導体性、絶縁性、高誘電性、強誘電性、強磁性、蛍光特性、光触媒性等の特性を具備した薄膜の提供が可能となる。このような薄膜を本発明の製造方法により、簡便、少量の溶液で、かつ高品質に製造できるので、薄膜製造にかかるコストを大幅に削減できる。
【0061】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例】
【0062】
[製造に使用したナノシートの調製]
1.酸化チタンナノシート(Ti0.87O2)の調製
層状チタン酸化物(K0.8Ti1.73Li0.27O4)を出発原料に、酸化チタンナノシート(Ti0.87O2)を調製した。
【0063】
層状チタン酸化物(K0.8Ti1.73Li0.27O4)は、固相合成法により合成した。TiO2(Rare Metallic社製、純度99.99%)、K2CO3(Rare Metallic社製、純度99.99%)およびLi2CO3(Rare Metallic社製、純度99.99%)の原料粉末を、化学量論比TiO2:K2CO3:Li2CO3=1:0.23:0.078に基づいて秤量し、アルミナ乳鉢を用いて60分間粉砕・混合した。なお、焼成の際に、アルカリ金属炭酸塩であるK2CO3およびLi2CO3の一部が蒸発するため、モル比で5%過剰に加えた。粉砕・混合した原料粉末を白金るつぼに入れ、900℃、1時間電気炉で仮焼成した。その後、仮焼成した原料粉末をアルミナ乳鉢で再度30分間粉砕・混合した。次いで、粉砕・混合した原料粉末を白金るつぼに入れ、1000℃で20時間焼成し、層状チタン酸化物K0.8Ti1.73Li0.27O4を得た。
【0064】
得られた層状チタン酸化物(0.2g)と塩酸水溶液(200mL)とをビーカ中撹拌、72時間酸処理を行ない、水素イオン交換体(H1.07Ti1.73O4・H2O)を得た。次いで、水素イオン交換体を、テトラブチルアンモニウムカチオン(TBA+)/プロトン(H+)の比が1になるように濃度を調整した水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液に、4g/Lの割合で混合し、室温にて2週間反応させて、組成式Ti0.87O2で表される、厚さ約1nm、横サイズ5μm~10μmのナノシートが分散した乳白色のコロイド水溶液を作製した。酸化チタンナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)の濃度は0.36質量%であった。
【0065】
2.ペロブスカイトナノシート(Ca2Nb3O10)の調製
層状ペロブスカイト酸化物(KCa2Nb3O10)を出発原料に、ペロブスカイトナノシート(Ca2Nb3O10)を調製した。
【0066】
層状ペロブスカイト酸化物(KCa2Nb3O10)は、固相合成法により合成した。K2CO3(Rare Metallic社製、純度99.99%)、CaCO3(Rare Metallic社製、純度99.99%)およびNb2O5(Rare Metallic社製、純度99.99%)の原料粉末を、化学量論比K2CO3:CaCO3:Nb2O5=1:4:3に基づいて秤量し、アルミナ乳鉢を用いて60分間粉砕・混合した。なお、焼成の際に、アルカリ金属炭酸塩であるK2CO3の一部が蒸発するため、モル比で10%過剰に加えた。粉砕・混合した原料粉末を白金るつぼに入れ、900℃、1時間電気炉で仮焼成後、1200℃で12時間焼成し、層状ペロブスカイト酸化物KCa2Nb3O10を得た。
【0067】
得られた層状ペロブスカイト酸化物(5g)と硝酸水溶液(200mL)とをビーカ中撹拌し、72時間酸処理を行ない、水素イオン交換体(HCa2Nb3O10・1.5H2O)を得た。次いで、水素イオン交換体(0.4g)を、TBA+/H+の比が2になるように濃度を調整した水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液(100mL)に混合し、室温にて2週間反応させて、組成式Ca2Nb3O10で表される、厚さ約1.5nm、横サイズ2μm~5μmのナノシートが分散した乳白色のコロイド水溶液を作製した。ペロブスカイトナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)の濃度は0.4質量%であった。
【0068】
3.酸化ルテニウムナノシート(RuO2.1)の調製
層状ルテニウム酸化物(K0.2RuO2.1)を出発原料に、酸化ルテニウムナノシート(RuO2.1)を調製した。
【0069】
層状ルテニウム酸化物(K0.2RuO2.1)は、固相合成法により合成した。K2CO3(Rare Metallic社製、純度99.99%)およびRuO2(Rare Metallic社製、純度99.99%)の原料粉末を、化学量論比K2CO3:RuO2=0.625:1に基づいて秤量し、アルミナ乳鉢を用いて60分間粉砕・混合した。粉砕・混合した原料粉末を白金るつぼに入れ、Ar雰囲気下、900℃で12時間焼成し、層状ルテニウム酸化物K0.2RuO2.1を得た。
【0070】
得られた層状ルテニウム酸化物(5g)と塩酸水溶液(200mL)とをビーカ中で撹拌、72時間酸処理を行ない、水素イオン交換体(H0.2RuO2.1・0.9H2O)を得た。次いで、水素イオン交換体(0.4g)を、TBA+/H+の比が5になるように濃度を調整した水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液(100mL)に混合し、室温にて2週間反応させて、組成式RuO2.1で表される、厚さ約1nm、横サイズ1μm~5μmのナノシートが分散した褐色のコロイド水溶液を作製した。酸化ルテニウムナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)の濃度は0.4質量%であった。
【0071】
4.酸化グラフェンナノシート(GO)の調製
黒鉛(グラファイト)を出発原料に、酸化グラフェンナノシート(GO)を調製した。
【0072】
グラファイト粉末(和光純薬製)を、アルミナ乳鉢を用いて60分間粉砕し、微細粉末状に処理した。硝酸ナトリウム(0.75g)および過マンガン酸カリウム(4.5g)を濃硫酸(100mL)に溶解させた溶液を用意し、黒鉛粉末(1g)を加え、室温で7日間攪拌した。反応液を冷却して5%硫酸(100mL)をゆっくりと加え、さらに30%過酸化水素水(3mL)を加え、室温で2時間攪拌した。これにより、酸化グラファイトを含む溶液を準備した。
【0073】
酸化グラファイトを含む溶液に、3%硫酸と0.5%過酸化水素水の混合溶液を加え、沈殿を再分散させてから遠心分離(7000rpm、60分)し、上澄みを廃棄。この再分散/遠心分離操作を15回繰り返した。次いで、超純水を加え、再分散、遠心分離(7000rpm、30分)、上澄み廃棄の操作を15回繰り返した。その後、上澄みを回収し、超純水を加えて攪拌し、酸化グラフェンナノシートが分散した黒色のコロイド水溶液を得た。酸化グラフェンナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)の濃度は0.2質量%であった。
【0074】
[例1~例9]
例1~例9では、酸化チタンナノシートを含有するコロイド水溶液の原液を用いて、各種濃度の薄膜用コロイド水溶液を調製し、各種基板上に薄膜として酸化チタンナノシート単層膜を製造した。
【0075】
上述の酸化チタン(Ti
0.87O
2)ナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)を、表1に示す量秤量し、超純水(日本ミリポア社製超純水装置Milli-Q Element)5mLで希釈し、次いで、種々の添加量のエタノールを添加し、滴下用コロイド水溶液(コーティング液)を調製した(
図1の工程S110)。表1には、各コーティング液の分散媒中のエタノールの含有量(体積%)、ならびに、コーティング液中のナノシートの濃度(g/L)も併せて示す。
【0076】
図4は、例1の滴下用コロイド水溶液の観察結果を示す図である。
【0077】
図4によれば、コロイド水溶液は、薄い乳白色を示しており、Ti
0.87O
2ナノシートが均一に分散していることが分かった。
【0078】
表2に示すように、基板には、石英ガラス基板(30mmφ)、シリコン(Si)ウェハ(30mmφ)、90nmの自然酸化膜付きSi基板(1インチ角)、Pt基板(30mmφ)、SrTiO3:Nb基板(15mm角)、PET基板(50mm角)を利用した。
【0079】
石英ガラス基板、Siウェハ、自然酸化膜付きSi基板の表面をそれぞれアセトンで拭き、有機物等を除去した。次いで、メタノールと濃塩酸との混合溶液(体積比1:1で混合した)に各基板を30分間浸漬させ、超純水で洗浄した。その後、各基板を濃塩酸に30分間浸漬させ、超純水で洗浄した。これにより親水化基板を得た。Pt基板、SrTiO3:Nb基板、PET基板については、オゾン雰囲気下で、15分紫外線照射し、洗浄処理を行った。
【0080】
次いで、洗浄後の基板を表2の温度に加熱したホットプレート上に配置し、3分間保持した。その後、コーティング液を表2に示す量だけ基板に滴下(
図1の工程S120)した。次いで、滴下したコーティング液の実質全量を、マイクロピペットを用いて吸引した(
図1の工程S130)。なお、例5の薄膜は、吸引後3秒間保持した。
【0081】
【0082】
【0083】
例1~例9の薄膜について、共焦点レーザー顕微鏡(CFLM、オリンパス社製、OLS4000)により表面観察を行った。観察結果を
図5~
図10に示す。
【0084】
例1~例9の薄膜について、原子間力顕微鏡(AFM、SII Nano Technology社製、E-Sweep走査型プローブ顕微鏡システム)により表面観察を行った。プローブは、シリコンカンチレバー(バネ定数k=20N/m)を使用し、タッピングモードで観察した。観察結果を
図11~
図13に示す。
【0085】
例1~例3および例9の薄膜について、分光光度計(Hitachi社製、U-4100)を用いUV-Vis吸収スペクトルを測定した。入射光が石英ガラス基板に垂直に入射するように、試料を設置した。測定結果を
図17に示す。
【0086】
[例10~例15]
例10~例15では、酸化ルテニウムナノシートを含有するコロイド水溶液の原液を用いて、各種濃度の薄膜用コロイド水溶液を調製し、各種基板上に薄膜としてルテニウム酸化物ナノシート単層膜を製造した。
【0087】
上述の酸化ルテニウム(RuO
2.1)ナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)を、表3に示す量秤量し、超純水(日本ミリポア社製超純水装置Milli-Q Element)5mLで希釈し、次いで、種々の添加量のエタノールを添加し、滴下用コロイド水溶液(コーティング液)を調製した(
図1の工程S110)。表3には、各コーティング液の分散媒中のエタノールの含有量(体積%)、ならびに、コーティング液中のナノシートの濃度(g/L)も併せて示す。
【0088】
例1~例9と同様に、各種基板を洗浄した。洗浄後の基板を表4の温度に加熱したホットプレート上に配置し、3分間保持した。その後、コーティング液を表4に示す量だけ基板に滴下(
図1の工程S120)した。次いで、滴下したコーティング液の実質全量を、マイクロピペットを用いて吸引した(
図1の工程S130)。なお、例12の薄膜は、吸引後3秒間保持した。
【0089】
【0090】
【0091】
例10~例15の薄膜について、例1~例9と同様に、共焦点レーザー顕微鏡および原子間力顕微鏡による観察を行い、例10の薄膜について分光光度計を用いUV-vis吸収スペクトルを測定した。結果を
図14に示す。
【0092】
[例16~例21]
例16~例21では、ペロブスカイトナノシートを含有するコロイド水溶液の原液を用いて、各種濃度の薄膜用コロイド水溶液を調製し、各種基板上に薄膜としてペロブスカイトナノシート単層膜を製造した。
【0093】
上述のペロブスカイトナノシート(Ca
2Nb
3O
10)ナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)を、表5に示す量秤量し、超純水(日本ミリポア社製超純水装置Milli-Q Element)5mLで希釈し、次いで、種々の添加量のエタノールを添加し、滴下用コロイド水溶液(コーティング液)を調製した(
図1の工程S110)。表5には、各コーティング液の分散媒中のエタノールの含有量(体積%)、ならびに、コーティング液中のナノシートの濃度(g/L)も併せて示す。
【0094】
例1~例9と同様に、各種基板を洗浄した。洗浄後の基板を表6の温度に加熱したホットプレート上に配置し、3分間保持した。その後、コーティング液を表6に示す量だけ基板に滴下(
図1の工程S120)した。次いで、滴下したコーティング液の実質全量を、マイクロピペットを用いて吸引した(
図1の工程S130)。
【0095】
【0096】
【0097】
例16~例21の薄膜について、例1~例9と同様に、共焦点レーザー顕微鏡および原子間力顕微鏡による観察を行い、例17の薄膜について分光光度計を用いUV-vis吸収スペクトルを測定した。結果を
図15に示す。
【0098】
[例22~例24]
例22~例24では、酸化グラフェンナノシートを含有するコロイド水溶液の原液を用いて、各種濃度の薄膜用コロイド水溶液を調製し、各種基板上に薄膜として酸化グラフェンナノシート単層膜を製造した。
【0099】
上述の酸化グラフェン(GO)ナノシートを含有するコロイド水溶液(原液)を、表7に示す量秤量し、超純水(日本ミリポア社製超純水装置Milli-Q Element)5mLで希釈し、次いで、種々の添加量のエタノールおよび水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)水溶液を添加し、滴下用コロイド水溶液(コーティング液)を調製した(
図1の工程S110)。表7には、各コーティング液の分散媒中のエタノールの含有量(体積%)、ならびに、コーティング液中のナノシートの濃度(g/L)も併せて示す。
【0100】
例1~例9と同様に、各種基板を洗浄した。洗浄後の基板を表8の温度に加熱したホットプレート上に配置し、3分間保持した。その後、コーティング液を表8に示す量だけ基板に滴下(
図1の工程S120)した。次いで、滴下したコーティング液の実質全量を、マイクロピペットを用いて吸引した(
図1の工程S130)。
【0101】
【0102】
【0103】
例22~例24の薄膜について、例1~例9と同様に、共焦点レーザー顕微鏡および原子間力顕微鏡による観察を行い、例23の薄膜について分光光度計を用いUV-vis吸収スペクトルを測定した。結果を
図16に示す。
【0104】
以上の例1~例24の薄膜の結果をまとめて説明する。
図5は、例4の薄膜のCFLM像を示す図である。
図6は、例1の薄膜のCFLM像を示す図である。
図7は、例5の薄膜のCFLM像を示す図である。
図8は、例6の薄膜のCFLM像を示す図である。
図9は、例7の薄膜のCFLM像を示す図である。
図10は、例8の薄膜のCFLM像を示す図である。
【0105】
図5によれば、例4の薄膜には、Siウェハに由来する黒色の領域が観察されず、Siウェハ全体がTi
0.87O
2ナノシートで被覆されていることが分かった。
図6~
図10によれば、基板の種類に関わらず、基板全体がTi
0.87O
2ナノシートで被覆されていた。図示しないが、例10~例24の薄膜のCFLM像も同様の様態であった。
【0106】
図11は、例4の薄膜のAFM像を示す図である。
図12は、例4の薄膜の種々の場所のAFM像を示す図である。
図13は、例9の薄膜のAFM像を示す図である。
図14は、例11の薄膜のAFM像を示す図である。
図15は、例17の薄膜のAFM像を示す図である。
図16は、例23の薄膜のAFM像を示す図である。
【0107】
図11によれば、例4の薄膜は、Ti
0.87O
2ナノシートからなり、Siウェハ全体を被覆していた。例4の薄膜は、ナノシート同士が重なることなく、隙間なく稠密に配列したナノシート単層膜であることが確認された。画像解析(SII Nano Technology社製Nan o Nav i、バーション5.02)を行い、被覆率を算出したところ、重なり0%、隙間3%であり、ナノシートが稠密に配列していることが明らかとなった。図示しないが、例1~例3および例5~例8の薄膜も、同様の様態を示し、いずれも重なり0%以上10%以下であり、隙間は0%以上10%以下の範囲であった。
【0108】
図12は、Siウェハの中心1から端部3に向けて、例4の薄膜の被覆率の位置依存性を評価した結果を示す。中央付近1、端部3、その中間2、いずれの点においても、ナノシート同士の重なり、および、隙間なく稠密に配列したナノシート単層膜が得られたことが確認された。
【0109】
図14によれば、例11の薄膜は、RuO
2.1ナノシートからなり、Siウェハ全体を被覆していた。例11の薄膜は、ナノシート同士が重なることなく、隙間なく稠密に配列したナノシート単層膜であることが確認された。画像解析を行い、被覆率を算出したところ、重なり3%、隙間5%であり、ナノシートが稠密に配列していることが明らかとなった。図示しないが、例10および例12~例15の薄膜も、同様の様態を示し、いずれも重なり0%以上10%以下であり、隙間は0%以上10%以下の範囲であった。
【0110】
図15によれば、例17の薄膜は、Ca
2Nb
3O
10ナノシートからなり、Siウェハ全体を被覆していた。例17の薄膜は、ナノシート同士が重なることなく、隙間なく稠密に配列したナノシート単層膜であることが確認された。画像解析を行い、被覆率を算出したところ、重なり2%、隙間8%であり、ナノシートが稠密に配列していることが明らかとなった。図示しないが、例16および例18~例21の薄膜も、同様の様態を示し、いずれも重なり0%以105%以下であり、隙間は0%以上10%以下の範囲であった。
【0111】
図16によれば、例23の薄膜は、酸化グラフェンナノシートからなり、Siウェハ全体を被覆していた。例23の薄膜は、ナノシート同士が重なることなく、隙間なく稠密に配列したナノシート単層膜であることが確認された。画像解析を行い、被覆率を算出したところ、重なり1%、隙間8%であり、ナノシートが稠密に配列していることが明らかとなった。図示しないが、例22および例24の薄膜も、同様の様態を示し、いずれも重なり0%以上10%以下であり、隙間は0%以上10%以下の範囲であった。
【0112】
一方、
図13によれば、低級アルコールを分散媒に用いなかった例9の薄膜は、目視にて、ナノシート同士が重なっていたり、隙間が多かったり、稠密に配列していなかった。被覆率を算出したところ、重なりおよび隙間ともに10%を超えていた。
【0113】
図17は、例1の薄膜のUV-vis吸収スペクトルを示す図である。
【0114】
図17によれば、例1の薄膜の吸収スペクトルには、波長265nmにTi
0.87O
2ナノシートに由来する吸収帯が観測された。また、波長265nmにおける吸光度は、石英ガラス基板の位置に依存することなく、いずれの場所においても、ほぼ0.065であった。この値は、Ti
0.87O
2ナノシート単層膜に相当する吸光度の範囲内であり、このことからも、例1の薄膜はTi
0.87O
2ナノシート単層膜であることが示された。例2および例3の薄膜も、同様の吸光度を示し、ナノシート単層膜であった。
【0115】
なお、図示しないが、例10の薄膜の吸収スペクトルには、波長380nmにRuO2.1ナノシートに由来する吸収帯が観測され、その吸光度は約0.071であった。例16の薄膜の吸収スペクトルには、波長260nmにCa2Nb3O10ナノシートに由来する吸収帯が観測され、その吸光度は約0.068であった。例22の薄膜の吸収スペクトルには、波長235nmにGOナノシートに由来する吸収帯が観測され、その吸光度は約0.011であった。
【0116】
以上の結果から、
図1に示す、分散媒に炭素数5以下の低級アルコールを用いたナノシートが分散したコロイド水溶液を基板上に滴下し、吸引する本発明の方法によって、ナノシート単層膜が得られることが示された。また、本発明の方法は、任意の基板および層状無機化合物が単層剥離した任意のナノシートに対して有効であることが示された。本発明の方法を採用すれば、極めて短時間で均一なナノシート単層膜を大面積の基板全体にわたって得られることが示された。
【0117】
[例25~例28]
例25では、酸化チタンナノシートまたは酸化ルテニウムナノシートを含有するコロイド水溶液の原液を用いて、薄膜用コロイド水溶液を調製し、各種基板上に薄膜としてナノシート多層膜を製造した。
【0118】
上述の酸化チタン(Ti
0.87O
2)ナノシートまたは酸化ルテニウムナノシート(RuO
2.1)を含有するコロイド水溶液(原液)を、表9に示す量秤量し、超純水(日本ミリポア社製超純水装置Milli-Q Element)5mLで希釈し、次いで、種々の添加量のエタノールを添加し、滴下用コロイド水溶液(コーティング液)を調製した(
図1の工程S110)。
【0119】
表10に示すように、基板には、石英ガラス基板(30mmφ)、シリコン(Si)ウェハ(30mmφ)、SrTiO3:Nb基板(15mm角)、PET基板(50mm角)を利用した。基板の前処理は例1~例8と同様であった。
【0120】
次いで、洗浄後の基板を表10の温度に加熱したホットプレート上に配置し、3分間保持した。その後、コーティング液を表10に示す量だけ基板に滴下(
図1の工程S120)した。次いで、滴下したコーティング液の実質全量を、マイクロピペットを用いて吸引した(
図1の工程S130)。表10に示すように、滴下および吸引の工程を繰り返し、合計n回(nは最大100回であり、nはナノシートが稠密に配列した層数に相当する)実施した(
図3の工程S310)。n=1の場合は、例えば、滴下および吸引の工程を1回だけ行った例1の酸化チタンナノシート単層膜に相当する。
【0121】
詳細には、n≦2の場合には、各吸引後に薄膜を200℃で15分間加熱した。これにより、ナノシート単層膜中に残留するTBA+を除去した。次いで、加熱後の薄膜を純水で洗浄した。これにより、コーティング液をなじみやすくした。
【0122】
所定の回数を繰り返し、薄膜として、例25の薄膜として石英ガラス基板上にTi0.87O2ナノシートからなる多層膜(最大100層(n=1~100)のナノシート多層膜)、例26の薄膜としてSiウェハ上にTi0.87O2ナノシートからなる多層膜(最大10層(n=1~10)のナノシート多層膜)、例27の薄膜としてSrTiO3:Nb基板にTi0.87O2ナノシートからなる多層膜(最大50層(n=1~50)のナノシート多層膜)、例28の薄膜としてPET基板上にRuO2.1ナノシートからなる多層膜(最大5層(n=1~5)のナノシート多層膜)を製造した。得られたナノシート多層膜に、紫外光(波長:200~300nm、強度:1mW/cm2)を72時間の間、照射し、ナノシート単層膜間にある有機物を除去した。
【0123】
【0124】
【0125】
例28の薄膜の様子を観察した。結果を
図18に示す。例25の薄膜について、例1と同様に、UV-vis吸収スペクトルを測定し、吸光度を求めた。結果を
図19~
図22に示す。例25~例28の薄膜についてCuKα線による粉末X線回折(XRD)を行った。XRD測定には、Rigaku社製Rint-2000を用いた。結果を
図23に示す。例25~例28の薄膜の断面を、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)によって観察した。HRTEM観察には、株式会社日立ハイテク製H-9000を用いた。結果を
図24に示す。
【0126】
次に、例25~例28の薄膜の光学特性、誘電特性および伝導特性を評価した。例25の薄膜について、エピプソメータにより、屈折率および消光係数の評価を行った。エピプソ測定には、J.A.Woollam社製、M-2000を用いた。測定結果を
図25に示す。例27の薄膜について誘電特性を測定した。薄膜上に上部電極として金(100μmφ)を蒸着し、SrTiO
3:Nb基板と上部電極とにそれぞれプローブを当て、誘電特性を測定した。結果を
図26および
図27に示す。例28の薄膜について、4端子法により伝導特性の評価を行った。測定結果を
図28に示す。
【0127】
以上の結果をまとめて示す。
図18は、例28の薄膜の様子を示す図である。
【0128】
図18(A)は、例28の薄膜(n=1に相当)の様子を示し、
図18(B)は、例28の薄膜(n=2)の様子を示す。
図18によれば、ナノシート単層膜もナノシート多層膜も、可視光に透明かつ高い透過率を有しており、また曲げた状態でも安定であった。これにより、本発明の方法によって得られた薄膜は、ナノシート単層膜であっても、多層膜であっても、基板全体に対して均一な膜が得られることが分かった。また、フレキシブル基板を選択することにより、フレキシビリティのある薄膜を提供できることが示された。
【0129】
図19は、例25の薄膜のUV-vis吸収スペクトルを示す図である。
図20は、例25の薄膜のUV-vis吸収スペクトルを示す図である。
図21は、例25の薄膜の吸光度の層数依存性を示す図である。
図22は、例25の薄膜の吸光度の層数依存性を示す図である。
【0130】
図19および
図21は、n=1~10の例25の薄膜(n=1は例1の薄膜に同じ)の結果に関し、
図20および
図22は、n=10、20、30、40、50、60、70、80、90、100の例25の薄膜の結果に関する。
図19中の「L」は層(レイヤ)を表し、例えば、「1L」は、n=1であるナノシート単層膜1層であり、「2L」は、n=2である2層のナノシート単層膜からなるナノシート多層膜を表す。他の図面においても同様の意味である。
【0131】
図19~
図22によれば、層数nの増大に伴い、波長265nmにおける吸光度が線形に増大することが分かった。特に、
図19および
図21に着目すると、本発明の方法によれば、一層ずつ確実に多層化したナノシート単層膜が得られることが示された。また、
図20および
図22に着目すると、本発明の方法によれば、従来の成膜技術で困難であった100nmレベルの厚膜の製造も可能となることが分かった。
【0132】
図23は、例25の薄膜のXRDパターンを示す図である。
【0133】
図23には、例25の薄膜(n=1~10)のXRDパターンが示され、いずれのXRDパターンにも、Ti
0.87O
2ナノシート由来の基本回折系列が観測され、層数nの増大に伴い、回折ピークの強度が増大することが分かった。このことは、ナノシート単層膜が一定間隔で規則正しく積み重なっていることを示しており、秩序だった積層構造を持つナノシート多層膜が、本発明の方法により、形成されることが確認された。
【0134】
図24は、例27の薄膜の断面のHRTEM像を示す図である。
【0135】
図24には、例27の薄膜(n=10の場合)の断面のHRTEM像が示される。
図24によれば、基板上にナノシートが原子レベルで平行に累積した積層構造が確認されており、単層ナノシートの緻密性、平滑性を維持してレイヤーバイレイヤーで積層した高品位多層膜が実現しているものといえる。さらに注目すべきが、基板とナノシートとの界面に、既往の薄膜プロセスにおいてしばしば問題となる熱アニールによる界面劣化や組成ズレに付随する界面反応層(デッドレイヤー)が形成していない点である。これは、本発明の製造方法が界面劣化の影響のない低温での溶液プロセスを利用していることによる画期的な効果といえる。
【0136】
図25は、例25の薄膜の屈折率および消光係数の波長依存性を示す図である。
【0137】
図25には例25の薄膜(n=10の場合)の屈折率および消光係数の波長依存性が示される。
図25によれば、ナノシート10層からなるナノシート多層膜は、膜厚10nmの極薄膜ながら、測定波長域全体にわたって2.5以上の高い屈折率を有し、実質0の優れた消光係数を示した。このことから、本発明の方法によって得られた薄膜が、光学フィルターの応用に好適であることが確認された。図示しないが、n=50の薄膜においても、同様に高い屈折率および0に近い消光係数を示した。
【0138】
図26は、例27の薄膜の比誘電率および誘電損失の周波数依存性を示す図である。
図27は、例27の薄膜のリーク電流特性を示す図である。
【0139】
図26および
図27には、例27の薄膜(n=10、20、50)の誘電特性およびリーク電流特性が示される。
図26によれば、本発明の方法によって得られたナノシート多層膜(例えば、10層または20層)は、115~125の高い比誘電率と3%以下の良好な誘電損失特性を示し、その比誘電率は、二元系単純酸化物で最高とされるルチル型TiO
2の比誘電率(20~60)よりも大きな値を有することが分かった。さらに、本発明のナノシート多層膜は、比誘電率の周波数依存性、膜厚依存性がほぼ無く、良好な誘電特性を有することが分かった。
【0140】
図27によれば、本発明の方法によって得られたナノシート多層膜は、わずか10層にも関わらず、印加電界1MV/cmで10
-7A/cm
2以下の良好なリーク電流特性とともに、優れた耐電圧特性3.8MV/cmを示した。さらに20層、50層と層数を増加することにより、絶縁特性、耐電圧特性の向上も可能であることが確認された。
【0141】
このことから、本発明の方法によって得られたナノシート多層膜は、高誘電率を有し、誘電体材料として機能することが示された。
【0142】
図28は、例28の薄膜のシート抵抗を示す図である。
【0143】
図28には、例28の薄膜(n=1、2、4)のシート抵抗とともに、酸化スズドープ酸化インジウム透明導電膜(ITO、40nm~300nm)およびグラフェン(0.35nm~1.5nm)のシート抵抗も併せて示す。ITOおよびグラフェンのシート抵抗値は、F.Bonaccorsoら,Nat.Photon.,4,611,2010のFigure 2bに基づく。
【0144】
図28によれば、ナノシートからなる単層膜、多層膜は、膜厚10nm以下の極薄膜ながら、300~900Ω/□の低いシート抵抗を示し、透明電極として利用されているITO、および、二次元物質の中で最も高い伝導度を有するグラフェンに匹敵する高い伝導度を有することが確認された。
【0145】
図18に示すように、フレキシブル基板上にナノシート単層膜、ナノシート多層膜を形成すれば、フレキシブルな透明電極材料を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の製造方法によれば、ナノシート単層膜からなる薄膜を、簡便、短時間、少量の溶液で、大面積でかつ高品質に製造できるので、薄膜製造にかかるコストを大幅に削減でき、工業的な成膜法として有効である。また、本発明の製造方法によって得られた薄膜は、酸化物ナノシートの有する優れた電子・イオン伝導性、半導体性、絶縁性、高誘電性、強誘電性、強磁性、蛍光特性、光触媒性等の特性を具備した薄膜の提供が可能となり、各種機能材料、デバイスの重要部材としての応用が期待される。
【符号の説明】
【0147】
210 ナノシート
220 分散媒
230 コロイド水溶液
240 基板
250 ピペット
260 ナノシート単層膜