(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-14
(45)【発行日】2024-06-24
(54)【発明の名称】マーキングペン用油性インキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20240617BHJP
B43K 8/00 20060101ALN20240617BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/00
(21)【出願番号】P 2020188127
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】一松 公人
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-067185(JP,A)
【文献】特開平11-335612(JP,A)
【文献】特開2001-240788(JP,A)
【文献】特開昭60-013865(JP,A)
【文献】特開平04-059389(JP,A)
【文献】特開2001-335732(JP,A)
【文献】特開2013-129132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
B43K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性溶剤と、前記揮発性溶剤に可溶な樹脂と、着色剤と、二糖類脂肪酸エステルと、酸化ワックスを少なくとも含有するマーキングペン用油性インキ
であって、前記二糖類脂肪酸エステルに対する前記酸化ワックスの配合比率が0.7~3.5であり、前記酸化ワックスと前記二糖類脂肪酸エステルの配合量の合計が1.5~2.4重量%であることを特徴とするマーキングペン用油性インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン芯のドライアップ防止と、筆記線の乾燥性を両立させる事が可能なマーキングペン用油性インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の揮発性溶剤を主溶剤とするマーキングペンは、キャップをはずした状態でペン芯を長時間外部に露出させると、溶剤が揮発して着色剤・樹脂等が乾燥固化してしまい筆記不可能(いわゆるドライアップ)となっていた。また、特に揮発性の高い溶剤を使用するときは、短時間ペン芯を外部に露出させただけでもペン芯表面の溶剤が揮発してしまい、筆記開始直後はインキが出なかったり、筆記線がかすれる等の問題が生じていた。前記課題を解決すべく、ドライアップ防止剤として、酸化ワックスを配合した油性インキ(特許文献1)や、二糖類脂肪酸エステルを配合した油性インキ(特許文献2)等が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3914334号公報
【文献】特開2001-335732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記ドライアップ防止剤を単独で配合した従来のインキはペン芯のドライアップを効果的に防止できる一方、筆記線の乾燥性が悪くなる傾向がある。その為、筆記板に描いた筆記線の拭き取り性が悪化したり、筆記線に触れる事で手や指を汚す等の問題があった。また、ドライアップ防止剤の配合量を減らすと、筆記線の乾燥性は改善するが、ドライアップ防止効果が悪化する為、従来インキではペン芯のドライアップ防止と、筆記線の乾燥性を両立させる事は困難であった。
【0005】
本発明は、ペン芯のドライアップ防止と、筆記線の乾燥性を両立させる事が可能なマーキングペン用油性インキを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために完成された発明は、揮発性溶剤と、前記揮発性溶剤に可溶な樹脂と、着色剤と、二糖類脂肪酸エステルと、酸化ワックスを少なくとも含有するマーキングペン用油性インキであって、前記二糖類脂肪酸エステルに対する前記酸化ワックスの配合比率が0.7~3.5であり、前記酸化ワックスと前記二糖類脂肪酸エステルの配合量の合計が1.5~2.4重量%であることを特徴とするマーキングペン用油性インキである。
【発明の効果】
【0007】
上記の課題を解決するために完成された発明は、揮発性溶剤と、前記揮発性溶剤に可溶な樹脂と、着色剤と、二糖類脂肪酸エステルと、酸化ワックスを少なくとも含有するマーキングペン用油性インキであって、前記二糖類脂肪酸エステルに対する前記酸化ワックスの配合比率が0.7~3.5であり、前記酸化ワックスと前記二糖類脂肪酸エステルの配合量の合計が1.5~2.4重量%であることを特徴とするマーキングペン用油性インキである為、前記2種類のドライアップ防止剤の併用配合により、従来の単独配合と比較してドライアップ防止効果が飛躍的に向上する。その結果、従来通りのドライアップ防止効果を維持する為に必要なドライアップ防止剤の配合量を減らすことができ、ドライアップ防止と、筆記線の乾燥性を両立させる事が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明では主溶剤として揮発性溶剤を用いる。揮発性溶剤としては低級脂肪族アルコールが好ましい。低級脂肪族アルコールとは炭素数1~4の脂肪族アルコールであって、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールを指し、本発明ではこれらから選択される1又は2以上の脂肪族アルコールを用いることができる。低級脂肪族アルコールは安全性が比較的高いので好ましく、インキ全量に対して55~95重量%ほどを用いることができる。その中でも、n-プロパノールと、他の低級脂肪族アルコールであるメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールから選択される1又は2以上の溶剤との混合溶剤であって、n-プロパノールがインキ全量に対して5~60重量%となるように配合した低級脂肪族アルコールの混合溶剤は特に好ましく用いられる。本発明では他の有機溶剤を幾分配合することもでき、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコールや、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素や、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、4-メトキシ-4-メチルペンタノン等のケトンや、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等のエステルや、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテルなどを添加することができる。
【0009】
本発明に用いる前記揮発性溶剤に可溶な樹脂は、油溶性樹脂を用い、ロジン樹脂、エステル樹脂、セルロース樹脂、アルデヒド樹脂、フェノール樹脂等を用いることができるが、特に、シクロヘキサノン系アルデヒド樹脂、ケトンホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノール樹脂が好ましく用いられる。
樹脂はインキ全量に対して、0.1~40重量%を用いることができ、1~20重量%が特に好ましい。
【0010】
本発明に用いる着色剤は顔料・染料の両方用いる事ができる。
顔料としては、特に制限されることなく従来公知の有機顔料及び無機顔料を単独又は混合して使用することができる。例えば、アゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、パール顔料、酸化鉄・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。これらの顔料は通常、ニトロセルロース、エチルセルロース、テルペンフェノール、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ロジンエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどの公知の樹脂などに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。また、C.I.ベーシックイエロー40、C.I.ベーシックレッド1、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット11:1、C.I.ベーシックブルー3、C.I.アシドイエロー7、C.I.アシドレッド92、C.I.アシドブルー9等の蛍光染料を合成樹脂中で固溶体とした蛍光顔料等の有機顔料等も適宣選択して用いることができる。
染料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系など従来公知の染料を特に制限されることなく使用することができる。
上記染料及び顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~30重量%が好ましい。
【0011】
本発明ではドライアップ防止剤として酸化ワックスと、二糖類脂肪酸エステルを併用配合する。前記2種類のドライアップ防止剤の併用配合により、従来の単独配合と比較してドライアップ防止効果が飛躍的に向上する。その結果、従来通りのドライアップ防止効果を維持する為に必要なドライアップ防止剤の配合量を減らすことができる為、ドライアップ防止と、筆記線の乾燥性を両立させる事が可能となる。
酸化ワックスとして、酸化パラフィンワックス、酸化マイクロクリスタリンワックス、酸化ペトロラタムワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化サゾールワックス等を用いることができる。これらは、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムワックス、ポリエチレンワックス、サゾールワックス等の炭化水素ワックスを空気酸化して製造されるので、アルコール、酸、エステル、ケトンの混合物として存在しているものであって、例えば、ネオワックスE,E-20(以上ヤスハラケミカル社製)、ペトロライトC-7500,C-8500,C-9500,ペトロナウバC,カーディス36,314,319,320,370(以上東洋ペトロライト社製)、F-T合成ワックスB-120,C-20,C-60C-460,E-302,E-321,E-421R,H111EM,J324AM,J324ST,ポリエチレンワックスAX959,AX1539,AV1550,AV1551,AW1050,PE20(以上加藤洋行社製)、OX-1749,OX-0153,OX-261BN,NPS-9210,NPS-9125,OX-1949,OX-020T,NPS-8070,NPS-LS-70(以上日本精蝋社製)等を使用することができる。本発明では、前記酸化ワックスの中でも融点30℃以上100℃以下のものが好適に用いられる。融点が30℃より小さいものは、ペン先での皮膜形成力が弱く、十分にドライアップを防止することができないからであり、又、融点が100℃より大きいものは、溶剤に対する溶解力がほとんどなくなり、十分にドライアップを防止することができないからである。また、前記酸化ワックスの中でも35℃~75℃の融点のものが特に好ましく用いられる。また、前記酸化ワックスはインキ全量に対して0.01重量%~5.0重量%の範囲でドライアップ防止効果を発揮するが、0.8重量%~1.6重量%の範囲が特に好ましい結果を示す。
二糖類脂肪酸エステルとして、麦芽糖・ラクトース等のマルトース型二糖類又はトレハロース・ショ糖等のトレハロース型二糖類の水酸基の一部を酢酸・プロピオン酸・酪酸・カプロン酸・カプリル酸・カプリン酸・ラウリン酸・ミリスチン酸・パルミチン酸・ステアリン酸・ベヘン酸等の脂肪酸でエステル化して置換させた二糖類脂肪酸モノエステル・二糖類脂肪酸ジエステル・二糖類脂肪酸トリエステルをあげることができる。本発明において特に置換数1~3の二糖類脂肪酸エステルが好適に用いられる。置換数が4以上のものは本発明の溶剤に対する溶解度が低いため完全に溶解せず、インキが経時的に不安定で前記二糖類脂肪酸エステルが析出する欠点があるので好ましくない。但し、置換数が4~8の二糖類脂肪酸ポリエステルの本発明インキ中における存在を全く否定するものではなく、前記置換数1~3の二糖類脂肪酸エステルの不純物として本発明インキ中に若干量存在していても本発明効果を低下させるものではない。本発明では、前記二糖類脂肪酸モノエステル・二糖類脂肪酸ジエステル・二糖類脂肪酸トリエステルの中のいずれの二糖類脂肪酸エステルも使用することができ、また、任意に選択したものを混合して使用することもできる。また、前記二糖類脂肪酸エステルの中でHLB10未満のものはペン先表面での被膜形成力が比較的弱いので、本発明ではHLB10以上の二糖類脂肪酸エステルが特に好ましく用いられる。例えばDKエステル F-110、F-140、F-160(第一工業製薬株式会社製)等を使用する事ができる。また、前記二糖類脂肪酸エステルはインキ全量に対して0.01重量%~5.0重量%の範囲でドライアップ防止効果を発揮するが、0.4重量%~1.2重量%の範囲が特に好ましい結果を示す。
【0012】
また、上記物質からなるインキにシリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤を添加すると筆記線のにじみを防止することができ、更にレベリング性も向上することができる。レベリング性が向上することにより筆記線の乾燥性が向上する。
シリコーン系界面活性剤としては、オルガノポリシロキサン、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン、アルコール変性オルガノポリシロキサン、カルボキシル変性オルガノポリシロキサン等を使用することができ、例えば、ペインタッドA、ペインタッド29、ペインタッド52、ペインタッド54、ペインタッド57、DC Z-60328等(以上、ダウコーニング社製) 、BYK-300、BYK-302、BYK-307、BYK333、BYK-344等(以上、ビックケミー社製)をあげることができる。また、フッ素系界面活性剤としては、パーフロロアシッドアンモニウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンパーフルオロエーテル等を使用することができ、例えば、サーフロンS-211、サーフロンS-241(以上、AGCセイミケミカル社製)をあげることができる。
上記界面活性剤はインキ全量に対して0.01重量%~10重量%を用いることができ、0.05~2重量%が特に好ましい。
【0013】
また、本発明では、アミン類・リン酸エステル等の染料溶解助剤、ベンジルアルコール等の浸透剤など通常インキに用いられる添加剤を更に添加することができる。
【0014】
実施例及び比較例のマーキングペン用油性インキの配合を表1、表2に示す。
表中のショ糖脂肪酸エステルはDKエステル F-140(第一工業製薬株式会社製)、酸化ワックスはNPS-8070(日本精蝋株式会社製)である。
実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行った。
(1)耐ドライアップ性試験
実施例、比較例のインキを含浸させた中綿式マーキングペンのキャップを外してペン芯を外部に露出させた状態で横向きにし、室温20℃、湿度65%の環境下で24時間放置した。その後、PPフィルムに筆記し、筆記直後の筆記線を確認した。筆記可能の場合「○」、かすれ有り、或いは筆記不可能の場合「×」として評価した。
(2)筆記線の乾燥性試験
実施例、比較例のインキを含浸させた中綿式マーキングペンを用いて手書きで筆記した際の筆記線の終点を指で2回擦り、字ずれが生じなくなる時間を測定した。10秒以内を「○」、10秒より長い場合を「×」として評価した。
【0015】
表2の比較例1~4はドライアップ防止剤として酸化ワックスとショ糖脂肪酸エステルをそれぞれ単独で配合した従来のインキを示す。比較例1、2より、ドライアップ防止剤を配合する事でペン芯のドライアップを効果的に防止できる一方、筆記線の乾燥性が悪くなる傾向がある。一方で、比較例3、4より、ドライアップ防止剤の配合量を減らすと乾燥性は良くなるが、耐ドライアップ性は悪化し、乾燥性と耐ドライアップ性を両立する事は困難であった。
表1の実施例1~5はドライアップ防止剤として酸化ワックスと、ショ糖脂肪酸エステルを併用配合した本発明のインキを示す。特に、実施例1、2は比較例3、4のドライアップ防止剤の配合量と同じであるが、耐ドライアップ性が実施例1に比べて向上しており、酸化ワックスと、ショ糖脂肪酸エステルの併用配合による相乗効果が確認できる。また、ドライアップ防止剤の配合量を略一定量(2.0重量%近傍)にした際のドライアップ防止剤の配合比率(酸化ワックス/ショ糖脂肪酸エステル)は、実施例1~3より、0.7~3.5で耐ドライアップ性及び筆記線の乾燥性が良好であり、該範囲から外れる場合は比較例5、6より、耐ドライアップ性が低下する傾向が見られた。即ち、酸化ワックスの配合割合が高い方が耐ドライアップ性が良好となる傾向があり、これは酸化ワックスの方がショ糖脂肪酸エステルよりドライアップ防止効果が優れている事に起因していると考えられる。また、ドライアップ防止剤の配合比率を略一定量(2.0近傍)にした際のドライアップ防止剤の配合量は、実施例4、5より、1.5~2.4重量%の範囲で耐ドライアップ性及び筆記線の乾燥性が共に良好であり、配合量が1.5重量%未満の場合は比較例7より耐ドライアップ性が低下し、配合量が2.4重量%より大きい場合、比較例8より筆記線の乾燥性が低下し、耐ドライアップ性及び筆記線の乾燥性の両立ができない。
上記結果より、ドライアップ防止剤として酸化ワックスと、ショ糖脂肪酸エステルの併用配合により耐ドライアップ性と筆記線の乾燥性の両立が可能となる。また、その配合比率(酸化ワックス/ショ糖脂肪酸エステル)は0.7~3.5が好ましく、配合量は1.5~2.4重量%が好ましい。
【0016】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うマーキングペン用油性インキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。